(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064853
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】二次電池負極用組成物、負極合材層、二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20240507BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240507BHJP
H01M 4/04 20060101ALI20240507BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240507BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20240507BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240507BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/13
H01M4/04 A
H01M4/62 Z
H01M10/0566
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173772
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000188951
【氏名又は名称】松本油脂製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉原 裕理
(72)【発明者】
【氏名】水野 悠
(72)【発明者】
【氏名】房 楠
(72)【発明者】
【氏名】山内 智大
(72)【発明者】
【氏名】備前 亮介
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ12
5H029AK03
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM07
5H029CJ08
5H029DJ08
5H029EJ07
5H029EJ12
5H029HJ01
5H029HJ05
5H029HJ14
5H050AA15
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA03
5H050DA09
5H050EA15
5H050EA23
5H050EA24
5H050FA17
5H050GA10
5H050HA01
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】安全性に優れるリチウムイオン二次電池とすることができる二次電池負極用組成物を提供する。
【解決手段】本開示の二次電池負極用組成物は、熱膨張性マイクロカプセル(A)と、ポリマー粒子(B)とを含む。熱膨張性マイクロカプセル(A)の膨張開始温度は、100℃以上である。熱膨張性マイクロカプセル(A)は、内部に不燃性ガス発生材料を含有する。ポリマー粒子(B)の軟化点は、70℃~150℃である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨張開始温度が100℃以上であり、内部に不燃性ガス発生材料を含有する熱膨張性マイクロカプセル(A)と、
軟化点が70℃~150℃のポリマー粒子(B)と
を含有する、二次電池負極用組成物。
【請求項2】
前記不燃性ガス発生材料は、フッ素元素含有化合物を含む、請求項1に記載の二次電池負極用組成物。
【請求項3】
前記フッ素元素含有化合物は、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル、フルオロケトン、パーフルオロエーテル、パーフルオロカーボン、ハイドロフルオロオレフィン、ハイドロクロロフルオロオレフィン、フッ化カルボニル、及びフッ化水素からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項2に記載の二次電池負極用組成物。
【請求項4】
前記膨張開始温度が、100℃~180℃である、請求項1に記載の二次電池負極用組成物。
【請求項5】
前記熱膨張性マイクロカプセル(A)と前記ポリマー粒子(B)との質量配合比(A/B)が、0.1~5.0である、請求項1に記載の二次電池負極用組成物。
【請求項6】
バインダ(C)を更に含有する、請求項1に記載の二次電池負極用組成物。
【請求項7】
前記熱膨張性マイクロカプセル(A)の最大体積膨張温度が、前記軟化点よりも高い、請求項1に記載の二次電池負極用組成物。
【請求項8】
前記熱膨張性マイクロカプセル(A)の熱膨張前の平均粒子径が、0.3μm~20μmであり、
前記ポリマー粒子(B)の平均粒子径が、0.1μm~5μmである、請求項1に記載の二次電池負極用組成物。
【請求項9】
請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の二次電池負極用組成物を含む負極合材層。
【請求項10】
請求項9に記載の負極合材層を含む、二次電池用負極。
【請求項11】
活物質(D)を更に含有する前記負極合材層と、集電体とを備える、請求項10に記載の二次電池用負極。
【請求項12】
前記二次電池負極用組成物の含有量が、前記活物質(D)100質量部に対し、0.5質量部~10質量部である、請求項11に記載の二次電池用負極。
【請求項13】
前記二次電池負極用組成物が、導電助剤(E)を更に含有し、
前記導電助剤(E)の含有量は、前記活物質(D)100質量部に対し、0.1質量部~10質量部である、請求項11に記載の二次電池用負極。
【請求項14】
請求項10に記載の二次電池用負極と、正極と、セパレータと、非水電解液とを備える、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、二次電池負極用組成物、負極合材層、二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池は、電子機器、電気自動車、又は電気貯蔵用の電源として広く使用されている。リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高いという利点がある反面、リチウム金属及びリチウムイオンを使用することから安全性に対する十分な対策が必要である。
【0003】
特許文献1は、リチウムイオン二次電池の安全性を向上させることができる電極合材層が得られる二次電池用バインダ組成物を開示している。特許文献1に開示の組成物は、感熱ガス膨張性粒子(以下、「マイクロカプセル」という。)と、結着性樹脂とを含み、当該組成物により形成されるキャストフィルムの体積変化が特定の範囲内である。マイクロカプセルは、所定の温度以上となるとガスにより膨張する。マイクロカプセルは、シェル材及びコア材を含むコアシェル構造である。コア材として、沸点が10℃~150℃の炭化水素が用いられる。
特許文献1に開示の組成物は、電極に用いられる。電極は、集電体と、集電体上に形成された電極合材層とからなる。電極合材層は、特許文献1の組成物と、電極活物質とを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示の組成物を用いた電極を備えるリチウムイオン二次電池に異常発熱(例えば、120℃~250℃)が発生すると、マイクロカプセルが破裂して、コア材の炭化水素に起因する炭化水素ガスが漏出されるおそれがある。炭化水素ガスは、一般に可燃性ガスである。つまり、リチウムイオン二次電池に異常発熱が発生すると、漏出した炭化水素ガス等が燃焼し、リチウムイオン二次電池が発火するおそれがある。そのため、従来よりも安全性に優れるリチウムイオン二次電池とすることができる組成物が求められている。
【0006】
本開示は、上記事情に鑑み、安全性に優れるリチウムイオン二次電池とすることができる二次電池負極用組成物、負極合材層、及び二次電池用負極、並びに安全性に優れるリチウムイオン二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1> 膨張開始温度が100℃以上であり、内部に不燃性ガス発生材料を含有する熱膨張性マイクロカプセル(A)と、
軟化点が70℃~150℃のポリマー粒子(B)と
を含有する、二次電池負極用組成物。
<2> 前記不燃性ガス発生材料は、フッ素元素含有化合物を含む、前記<1>に記載の二次電池負極用組成物。
<3> 前記フッ素元素含有化合物は、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル、フルオロケトン、パーフルオロエーテル、パーフルオロカーボン、ハイドロフルオロオレフィン、ハイドロクロロフルオロオレフィン、フッ化カルボニル、及びフッ化水素からなる群から選択される少なくとも1種を含む、前記<2>に記載の二次電池負極用組成物。
<4> 前記膨張開始温度が、100℃~180℃である、前記<1>~<3>のいずれか1つに記載の二次電池負極用組成物。
<5> 前記熱膨張性マイクロカプセル(A)と前記ポリマー粒子(B)との質量配合比(A/B)が、0.1~5.0である、前記<1>~<4>のいずれか1つに記載の二次電池負極用組成物。
<6> バインダ(C)を更に含有する、前記<1>~<5>のいずれか1つに記載の二次電池負極用組成物。
<7> 前記熱膨張性マイクロカプセル(A)の最大体積膨張温度が、前記軟化点よりも高い、前記<1>~<6>のいずれか1つに記載の二次電池負極用組成物。
<8> 前記熱膨張性マイクロカプセル(A)の熱膨張前の平均粒子径が、0.3μm~20μmであり、
前記ポリマー粒子(B)の平均粒子径が、0.1μm~5μmである、前記<1>~<7>のいずれか1つに記載の二次電池負極用組成物。
<9> 前記<1>~<8>のいずれか1つに記載の二次電池負極用組成物を含む負極合材層。
<10> 前記<9>に記載の負極合材層を含む、二次電池用負極。
<11> 活物質(D)を更に含有する前記負極合材層と、集電体とを備える、前記<10>に記載の二次電池用負極。
<12> 前記二次電池負極用組成物の含有量が、前記活物質(D)100質量部に対し、0.5質量部~10質量部である、前記<11>に記載の二次電池用負極。
<13> 前記二次電池負極用組成物が、導電助剤(E)を更に含有し、
前記導電助剤(E)の含有量は、前記活物質(D)100質量部に対し、0.1質量部~10質量部である、前記<11>又は<12>に記載の二次電池用負極。
<14> 前記<10>~<13>のいずれか1つに記載の二次電池用負極と、正極と、セパレータと、非水電解液とを備える、リチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、安全性に優れるリチウムイオン二次電池とすることができる二次電池負極用組成物、負極合材層、及び二次電池用負極、並びに安全性に優れるリチウムイオン二次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示のリチウムイオン二次電池の一例であるラミネート型電池を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0011】
以下、図面を参照して、組成物、負極、及びリチウムイオン二次電池の実施形態について説明する。図中、同一又は相当部分については同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0012】
(1)二次電池負極用組成物
本開示の二次電池負極用組成物(以下、単に「組成物」ともいう。)は、膨張開始温度が100℃以上であり、内部に不燃性ガス発生材料を含有する熱膨張性マイクロカプセル(A)と、軟化点が70℃~150℃のポリマー粒子(B)(以下、単に「ポリマー粒子(B)」ともいう。)とを含む。
【0013】
「熱膨張性マイクロカプセル」とは、熱可塑性樹脂を含む外殻と、外殻に内包された不燃性ガス発生材料とを備えるものを示す。詳しくは、熱膨張性マイクロカプセル(A)は、リチウムイオン二次電池の異常発熱による熱暴走が開始される直前の温度(例えば、70℃~180℃)に曝されると、急激に軟化発泡して体積膨張を起こす。
「膨張開始温度」とは、熱膨張性マイクロカプセル(A)に内包される不燃性ガス発生材料の少なくとも一部がガス化し始め、熱膨張性マイクロカプセル(A)が体積膨張を始める温度を示す。
「不燃性ガス発生材料」とは、不燃性ガスの原料であり、常温(例えば、23℃)において液体又は固体の状態であり、かつ比較的高温(例えば、110℃)において気体に状態変化する物質を示す。「不燃性ガス」とは、炭化水素ガスのような引火点がある可燃性ガスでないガスを示す。
「軟化点」とは、JIS K 2207(環球法)で測定された値を示す。
「二次電池負極用」とは、リチウムイオン二次電池の負極に含まれる負極合材層の材料に用いられることを示す。
【0014】
本開示の組成物は、上記の構成を有するため、安全性に優れるリチウムイオン二次電池を提供することができる。
この効果は、以下の理由によると推測されるが、これに限定されない。
本開示の組成物は、リチウムイオン二次電池の負極合材層に添加されて用いられる。本開示の組成物を用いたリチウムイオン二次電池において内部短絡が発生した場合、ポリマー粒子(B)は溶融して、剛直な負極合材層内の構造を緩める。更に、熱膨張性マイクロカプセル(A)は熱により膨張して、負極合材層内部のモルフォロジー変化を引き起こす。これにより、内部短絡の発生に起因してリチウムイオン二次電池の正極及び負極が異常発熱した際、リチウムイオン二次電池の発熱速度は、抑制され得る。
その後、さらに膨張し続けた熱膨張性マイクロカプセル(A)が破裂した場合、熱膨張性マイクロカプセル(A)から不燃性ガスが主として漏出される。換言すると、従来(例えば、特許文献1)とは異なり、可燃性ガスは熱膨張性マイクロカプセル(A)から放出されにくい。これにより、リチウムイオン二次電池に異常発熱が発生した場合に、リチウムイオン二次電池の内部の雰囲気中において、不燃性ガスの供給により酸素が希釈される。そのため、リチウムイオン二次電池に内部短絡が発生し異常発熱が発生しても、リチウムイオン二次電池は、従来よりも発火しにくい。これらの結果、本開示の組成物は、安全性に優れるリチウムイオン二次電池とすることができると推測される。
【0015】
組成物の形態は、特に限定されず、固形状であってもよいし、液状であってもよい。液状は、懸濁液(すなわち、スラリー液)を含む。懸濁液の溶媒は、例えば、水である。ポリマー粒子(B)の安定性の観点から、組成物の形態は、水系溶媒を用いた液状であることが好ましい。
【0016】
(1.1)組成物の用途
本開示の組成物は、リチウムイオン二次電池の負極の添加材等に用いられる。
【0017】
(1.2)熱膨張性マイクロカプセル
本開示の組成物は、熱膨張性マイクロカプセル(A)を含有する。
【0018】
熱膨張性マイクロカプセル(A)は、熱可塑性樹脂を含む外殻と、外殻に内包された不燃性ガス発生材料とを備える。
【0019】
本開示の組成物を用いたリチウムイオン二次電池では、熱膨張性マイクロカプセル(A)は、リチウムイオン二次電池の異常発熱による熱暴走が開始される直前の温度(例えば、70℃~180℃)に曝されると、急激に軟化発泡して体積膨張を起こす。これにより、負極合材層の抵抗は増大し、リチウムイオン二次電池の発熱は抑制されると考えられる。
その詳細なメカニズムは必ずしも明らかではないが、以下のように推測される。
通常作動時の負極合材層において、活物質同士には、活物質又は導電助剤等によって、導電パスが形成されている。例えば、内部短絡等に起因してリチウムイオン二次電池の温度が120℃~135℃になると、セパレーター(例えば、ポリエチレン製)が溶融し、リチウムイオンの通過を遮断する。さらに、ポリマー粒子(B)が溶融して、剛直な負極合材層内の構造を緩め、熱膨張性マイクロカプセル(A)が熱により膨張し、負極合材層内部のモルフォロジー変化を引き起こす。この作用によって、負極合材層の抵抗が増大し、内部短絡等に起因する短絡電流が著しく減少して、リチウムイオン二次電池全体の発熱が抑制されると推測される。
【0020】
熱膨張性マイクロカプセル(A)の膨張開始温度(Ts)は、100℃以上であり、100℃~180℃であることが好ましい。膨張開始温度(Ts)が100℃~180℃の範囲内であれば、電池内部で発生する発熱の連鎖を止めることができる。
膨張開始温度(Ts)は、電極の製造条件の観点から、より好ましくは105℃~160℃、更に好ましくは110℃~150℃である。
【0021】
熱膨張性マイクロカプセル(A)の最大体積膨張温度(Tmax)は、特に限定されず、ポリマー粒子(B)の軟化点よりも高いことが好ましい。これにより、負極合材層内でより効率的に電気抵抗を上昇させることができる。
最大体積膨張温度(Tmax)は、電極の製造条件の観点から、好ましくは100℃~180℃、より好ましくは110℃~180℃、更に好ましくは120℃~170℃である。
【0022】
「最大体積膨張温度」とは、熱膨張性マイクロカプセル(A)に内包される不燃性ガス発生材料がガス化して、熱膨張性マイクロカプセル(A)が体積膨張する際に、熱膨張性マイクロカプセル(A)の膨張体積が最大となる温度を示す。
【0023】
熱膨張性マイクロカプセル(A)の膨張開始温度(Ts)及び最大体積膨張温度(Tmax)は、例えば、動的粘弾性測定装置(例えば、TA Instruments社製の「DMA Q800」)を用いて測定される。詳しくは、熱膨張性マイクロカプセル(A)をアルミカップに入れ、得られる試料(すなわち、熱膨張性マイクロカプセル(A))に上から加圧子により0.01Nの力を加えた状態で20℃から300℃まで10℃/分の昇温速度で加熱し、加圧子の垂直方向における変位量(D)を測定し、正方向への変位開始温度を膨張開始温度(Ts)とし、最大変位量(Dmax)を示したときの温度を最大体積膨張温度(Tmax)とする。
【0024】
熱膨張性マイクロカプセル(A)の熱膨張前の平均粒子径(以下、単に「平均粒子径」という。)は、特に限定されず、0.3μm~20μmであることが好ましい。熱膨張性マイクロカプセル(A)の平均粒子径が上記範囲内であれば、負極合材層の内部に熱膨張性マイクロカプセル(A)を導入してもリチウムイオン二次電池内部の抵抗となることなく電池性能を担保できる。
熱膨張性マイクロカプセル(A)の平均粒子径は、電池性能の観点から、より好ましくは0.3μm~15μmである。
平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、日機装株式会社製のマイクロトラック 9320-HRA)を用いて測定される。詳しくは、平均粒子径は、体積基準測定によるD50値である。
【0025】
「熱膨張性マイクロカプセル(A)の熱膨張前の平均粒子径」とは、膨張開始温度(Ts)未満(例えば、25℃)の雰囲気下における、破裂の履歴がない熱膨張性マイクロカプセル(A)の平均粒子径を示す。
【0026】
(1.2.1)不燃性ガス発生材料
不燃性ガス発生材料は、加熱されることによって気化し、不燃性ガスを発生させるものであれば特に限定されない。
【0027】
不燃性ガスは、可燃性ガスでないガスであればよく、引火点を有しない。不燃性ガスとしては、例えば、ハロゲン元素含有化合物、ハロゲン元素含有化合物の分解物等が挙げられる。ハロゲン元素含有化合物は、フッ素元素含有化合物、塩素元素含有化合物、臭素元素含有化合物等が挙げられる。
中でも、不燃性ガスは、フッ素元素含有化合物を含むことが好ましく、フッ素元素含有化合物であることが好ましい。不燃性ガスがフッ素元素含有化合物を含むことで、リチウムイオン二次電池が熱暴走した際に、燃焼が激化することを防ぐことができる。
【0028】
不燃性ガス発生材料は、不燃性ガスを発生させる材料であれば特に限定されず、ハロゲン元素含有化合物(例えば、フッ素元素含有化合物、塩素元素含有化合物、臭素元素含有化合物等)等が挙げられる。
不燃性ガス発生材料は、フッ素元素含有化合物を含むことが好ましく、フッ素元素含有化合物であることがより好ましい。
【0029】
フッ素元素含有化合物は、特に限定されず、例えば、ハイドロフルオロカーボン(例えば、CH2FCF3、CH3CHF2、CHF2CF3等)、ハイドロフルオロエーテル(例えば、CH3OCH2CF2CHF2、CH3OCH2CF2CF3、CH3OCF2CHFCF3、CH3OCF2CF2CF3、CHF2OCH2CF2CF3、CH3OCH(CF3)2、CH3OCF(CF3)2、CF3CH2OCF2CH2F、CF3CH2OCF2CHF2等)、フルオロケトン(例えば、CF3CF2COCF(CF3)CF3等)、パーフルオロエーテル(例えば、CF3OCF3、CF3OCF2CF3等)、パーフルオロカーボン、ハイドロフルオロオレフィン(例えばCF3CHCHCF3等)、ハイドロクロロフルオロオレフィン(例えば、CF3CHCHCl等)、フッ化カルボニル(COF2)、フッ化水素(HF)等が挙げられる。
【0030】
「ハイドロフルオロカーボン」とは、炭素原子、水素原子、及びフッ素原子からなる化合物を示す。ハイドロフルオロカーボンは、例えば、アルカンの水素原子の一部がフッ素原子で置換された化合物を示す。
「ハイドロフルオロエーテル」とは、炭素原子、水素原子、フッ素原子、及び酸素原子からなり、エーテル(-O-)を有する化合物を示す。ハイドロフルオロエーテルは、例えば、ジアルキルエーテルの水素原子の一部がフッ素原子に置換された化合物である。
「フルオロケトン」とは、炭素原子、水素原子、フッ素原子、及び酸素原子からなり、ケトン(-C(=O)-)を有する化合物を示す。フルオロケトンは、例えば、ジアルキルケトンの水素原子の一部がフッ素原子に置換された化合物である。
「パーフルオロエーテル」とは、炭素原子、フッ素原子、及び酸素原子からなり、エーテル(-O-)を有する化合物を示す。パーフルオロエーテルは、例えば、アルキルエーテルの水素原子の全部がフッ素原子に置換された化合物である。
「パーフルオロカーボン」とは、炭素原子、及びフッ素原子からなる化合物を示す。パーフルオロカーボンは、例えば、アルカンの水素原子の全部がフッ素原子で置換された化合物を示す。
「ハイドロフルオロオレフィン」とは、炭素原子、水素原子、及びフッ素原子からなり、炭素-炭素の二重結合(-C=C-)を有する化合物を示す。ハイドロフルオロオレフィンは、例えば、アルケンの水素原子の一部がフッ素原子に置換された化合物を示す。
「ハイドロクロロフルオロオレフィン」とは、炭素原子、水素原子、塩素原子及びフッ素原子からなり、炭素-炭素の二重結合(-C=C-)を有する化合物を示す。ハイドロクロロフルオロオレフィンは、例えば、アルケンの水素原子の一部が塩素原子とフッ素原子に置換された化合物を示す。
【0031】
中でも、フッ素元素含有化合物は、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル、フルオロケトン、パーフルオロエーテル、パーフルオロカーボン、ハイドロフルオロオレフィン、ハイドロクロロフルオロオレフィン、フッ化カルボニル、及びフッ化水素からなる群から選択される少なくとも1種(以下、「フッ素系ガス源」ともいう。)を含むことが好ましく、ハイドロフルオロエーテルを含むことが好ましい。また、ハイドロフルオロエーテルとしては、CH3OCH2CF2CHF2、CH3OCH2CF2CF3、CH3OCF2CHFCF3、CH3OCF2CF2CF3、CHF2OCH2CF2CF3、CH3OCH(CF3)2、CH3OCF(CF3)2、CF3CH2OCF2CH2F、及びCF3CH2OCF2CHF2の少なくとも1種を含むことがより好ましい。フッ素系ガス源が加熱されることによって気化する不燃性ガスは、フッ素元素含有化合物を含む。フッ素元素含有化合物は、フッ素系ガス源自体であってもよいし、フッ素系ガス源の反応物又は分解物であってもよい。フッ素元素含有化合物は、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0032】
不燃性ガス発生材料の沸点は、特に限定されず、好ましくは25℃~150℃、より好ましくは25℃~100℃、更に好ましくは25℃~80℃、特に好ましくは30℃~70℃である。これにより、本開示の組成物が用いられたリチウムイオン二次電池では、熱膨張性マイクロカプセル(A)は、リチウムイオン二次電池の異常発熱による熱暴走が開始される直前の温度(例えば、70℃~180℃)に曝されると、急激に軟化発泡して体積膨張を起こしやすい。その結果、負極合材層の抵抗は増大し、リチウムイオン二次電池の発熱はより抑制され得る。
沸点が25℃~150℃である不燃性ガス発生材料としては、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル、パーフルオロエーテル、パーフルオロカーボン、ハイドロフルオロオレフィン、ハイドロクロロフルオロオレフィン、フッ化水素等が挙げられる。
【0033】
熱膨張性マイクロカプセル(A)全体の質量に対する不燃性ガス発生材料(A1)の質量の割合(以下、割合「(A1/A)」ともいう。)は、特に限定されず、好ましくは2質量%~60質量%、より好ましくは5質量%~55質量%、更に好ましくは10質量%~50質量%である。
割合(A1/A)が上記範囲内であれば、熱膨張性マイクロカプセル(A)の膨張倍率が高く、熱膨張性マイクロカプセル(A)の粒子径に対する外殻の厚みが十分で熱膨張性マイクロカプセル(A)が破壊されにくい。
【0034】
(1.2.2)外殻
外殻に含まれる熱可塑性樹脂は、特に限定されず、例えば、塩化ビニリデン共重合体、(メタ)アクリル酸系共重合体等の不飽和カルボン酸系共重合体、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体等の不飽和カルボン酸エステル系共重合体、(メタ)アクリロニトリル系共重合体等のニトリル系共重合体、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリロニトリル系共重合体等の不飽和カルボン酸-ニトリル系共重合体等が挙げられる。
【0035】
熱可塑性樹脂の原料となる重合性モノマーとしては、例えば、塩化ビニリデン;塩化ビニル;酢酸ビニル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α-クロルアクリロニトリル、フマロニトリル等のニトリル系モノマー;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸及びこれらの金属塩等の不飽和カルボン酸(塩)系モノマー;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル系モノマー;アクリルアミド、メタアクリルアミド、置換アクリルアミド、置換メタクリルアミド等のアミド系モノマー;N-フェニルマレイミド、N-(2-クロロフェニル)マレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のイミド系モノマー;スチレン、α-メチルスチレン、クロロスチレン等のビニル芳香族系モノマー;イソプレン;ブタジエン等が挙げられる。これらの重合性モノマーは、1種又は2種以上を併用してもよい。重合性モノマーは、必要に応じて、重合性二重結合を2個以上有するモノマー(架橋剤)を併用してもよい。
【0036】
(1.2.3)熱膨張性マイクロカプセルの製造方法
熱膨張性マイクロカプセル(A)の製造方法は、特に限定されず、公知の方法であってもよく、例えば、上記重合性モノマーと重合開始剤と上記不燃性ガス発生材料とを含む油性混合物を、分散剤等を含む水性分散媒中に分散して懸濁重合する方法等が挙げられる。熱膨張性マイクロカプセル(A)の製造方法は、特許6944619号、特許6735936号、特許6587782号、特許6619541号、特許6283456号等に記載の製造方法を参照してもよい。
【0037】
(1.3)ポリマー粒子
本開示の組成物は、軟化点が70℃~150℃のポリマー粒子(B)を含む。本開示の組成物がポリマー粒子(B)を含むことで、本開示の組成物を用いたリチウムイオン二次電池はより熱暴走しにくく、リチウムイオン二次電池の安全性は向上する。
【0038】
(1.3.1)材料
ポリマー粒子(B)の材料としては、例えば、軟化点が70℃~150℃の熱可塑性樹脂であれば特に制限されない。ポリマー粒子(B)の材料としては、例えば、オレフィン系樹脂、熱可塑性エラストマー、ポリアセタール、熱可塑性変性セルロース、ポリスルホン等が挙げられる。ポリマー粒子(B)は、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0039】
「オレフィン系樹脂」とは、オレフィンから導かれる構造単位を含む樹脂を示す。詳しくは、「オレフィン系樹脂」とは、オレフィンの単独重合体、2種以上のオレフィンの共重合体、又は、オレフィンと他のモノマーとの共重合体を示す。
【0040】
具体的に、オレフィン系樹脂の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリビニルクロライド、ポリビニリデンクロライド、ポリビニルフルオライド、ポリビニリデンフルオライド、ポリアミド、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキサイド及びポリメチル(メタ)アクリレートが挙げられる。中でも、オレフィン系樹脂の材質は、好ましくは、ポリエチレン、ポリプロピレンであり、より好ましくはポリエチレンである。
【0041】
中でも、ポリマー粒子(B)の材料は、オレフィン系樹脂を含むことが好ましく、水分散性オレフィン系樹脂を含むことがより好ましい。ポリマー粒子(B)の材料が水分散性オレフィン系樹脂を含むことにより、本開示の組成物が負極合材層の原料に用いられる場合、リチウムイオン二次電池はより熱暴走しにくく、リチウムイオン二次電池の安全性は向上する。
【0042】
「水分散性オレフィン系樹脂」とは、界面活性剤及び有機溶剤のいずれをも添加しなくとも、水に分散可能なオレフィン系樹脂の微粒子を示す。
【0043】
水分散性オレフィン系樹脂の材質としては、ポリエチレン、ポリエチレン系エラストマー、ポリオレフィンのアイオノマー、EVA等が挙げられる。
【0044】
(1.3.2)平均粒子径
ポリマー粒子(B)の平均粒子径は、特に制限されず、負極合材層を均一に集電体上に塗布できること及び電池特性をより向上できる観点から、好ましくは0.1μm~5μm、より好ましくは0.2μm~4.5μm、更に好ましくは0.5μm~4μmである。
ポリマー粒子(B)の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、Sympatec社製の「HEROS&RODOS」)を用いて測定される。
【0045】
熱膨張性マイクロカプセル(A)の熱膨張前の平均粒子径は、0.3μm~20μmであり、かつポリマー粒子(B)の平均粒子径が、0.1μm~5μmであることが好ましい。これにより、均一な膜厚の負極合材層が形成されやすくなるとともに、負極合材層の内部に熱膨張性マイクロカプセル(A)を導入してもリチウムイオン二次電池内部の抵抗となることなく電池性能を担保できる。
【0046】
(1.3.3)軟化点
ポリマー粒子(B)の軟化点は、70℃~150℃である。
ポリマー粒子(B)の軟化点は、内部短絡の発生に起因してリチウムイオン二次電池の正極及び負極が異常発熱した際、リチウムイオン二次電池の発熱速度をより抑制する観点から、好ましくは70℃~120℃、より好ましくは90℃~120℃である。
ポリマー粒子(B)の軟化点は、リチウムイオン二次電池の取り扱い性と安全性向上の観点から、好ましくは90℃~140℃、より好ましくは110℃~135℃である。
ポリマー粒子(B)の軟化点は、リチウムイオン二次電池の急激な温度上昇時に、より低い温度領域でポリマー粒子(B)が溶融することにより、シャットダウン機能をより効果的に発揮させること(以下、「シャットダウン機能の効果的発揮」という。)の観点から、好ましくは140℃以下、更に好ましくは135℃以下である。シャットダウン機能は、リチウムイオン二次電池の電池反応の進行を阻止することを含む。
ポリマー粒子(B)の軟化点は、負極の製造過程で行われる乾燥処理の実行前後において、ポリマー粒子(B)の形状を保持させること(以下、「負極乾燥工程の際のオレフィン系樹脂(B)の形状保持」という。)の観点から、好ましくは70℃以上、より好ましく90℃以上、更に好ましくは110℃以上、特に好ましくは120℃以上である。
【0047】
ポリマー粒子(B)は、市販品であってもよい。ポリマー粒子(B)の材質が水分散性オレフィン系樹脂である場合の市販品としては、三井化学株式会社製のケミパール(登録商標)シリーズ(ポリオレフィン水性ディスパージョン)が挙げられる。低分子量ポリエチレンを微粒状水性ディスパージョン化したものとしては、W300、W400、W410、W700、W4005、W401、W500、WF640、W900、W950及びWH201等が挙げられる。
【0048】
(1.3.4)含有量
ポリマー粒子(B)の含有量は、特に限定されず、熱膨張性マイクロカプセル(A)の含有量等に応じて適宜調整される。
熱膨張性マイクロカプセル(A)とポリマー粒子(B)との質量配合比(A/B)は、特に限定されず、リチウムイオン二次電池の内部抵抗の観点から、好ましくは0.1~5.0、より好ましくは0.2~3.0である。
【0049】
「質量配合比(A/B)」とは、ポリマー粒子(B)の含有量に対する熱膨張性マイクロカプセル(A)の含有量の比を示す。
本開示において、「含有量」と「添加量」(配合量)とは、実質的に同一とみなす。
【0050】
(1.3.5)ポリマー粒子と熱膨張性マイクロカプセルとの関係
本開示の組成物は、熱膨張性マイクロカプセル(A)の最大体積膨張温度が、ポリマー粒子(B)の軟化点よりも高いことが好ましい。これにより、リチウムイオン二次電池に異常発熱が発生すると、まずポリマー粒子(B)が溶融して、負極合材層が軟化し始める。その後、熱膨張性マイクロカプセル(A)が膨らんで、負極合材層は崩壊する。熱膨張性マイクロカプセル(A)が膨張した際に、負極合材層の構造変化がより積極的に発現し、負極合材層の抵抗を効率的に増大させることができる。その結果、リチウムイオン二次電池の発熱は、より抑制され得る。
【0051】
熱膨張性マイクロカプセル(A)の最大体積膨張温度が、ポリマー粒子(B)の軟化点よりも高くなるように調整する方法としては、ポリマー粒子(B)の材料等に応じて、熱膨張性マイクロカプセル(A)の外殻の材料を選択する方法等が挙げられる。
【0052】
熱膨張性マイクロカプセル(A)は、不燃性ガス発生材料を内包する外殻を有し、熱膨張性マイクロカプセル(A)の外殻は、ポリマー粒子(B)の軟化点よりも高い温度で軟化する樹脂を含むことが好ましい。これにより、リチウムイオン二次電池に異常発熱が発生すると、まずポリマー粒子(B)が溶融して、負極合材層が崩壊し始める。その後、熱膨張性マイクロカプセル(A)が膨らんで、負極合材層は崩壊する。熱膨張性マイクロカプセル(A)が膨張した際に、負極合材層の構造変化がより積極的に発現し、負極合材層の抵抗を効率的に増大させることができる。その結果、リチウムイオン二次電池の発熱は、より抑制され得る。
【0053】
熱膨張性マイクロカプセル(A)の外殻が、ポリマー粒子(B)の軟化点よりも高い温度で軟化する樹脂を含むように調整する方法としては、ポリマー粒子(B)の材料等に応じて、熱膨張性マイクロカプセル(A)の外殻の材料を選択する方法等が挙げられる。
【0054】
(1.4)バインダ
本開示の組成物は、バインダ(C)を更に含んでもよいし、含まなくてもよい。
【0055】
本開示の組成物がバインダ(C)を含むことにより、本開示の組成物を用いたリチウムイオン二次電池において、バインダ(C)は、負極合材層の物性(例えば、電解液浸透性・剥離強度)を向上させるとともに、リチウムイオン二次電池の電池性能を向上させることができる。
【0056】
バインダ(C)は、水溶性バインダ、及び非水溶性バインダを含む。バインダ(C)は、1種であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0057】
「水溶性バインダ」とは、20℃において、水100gに対して5g以上溶解可能なバインダを示す。
「非水溶性バインダ」とは、20℃において、水100gに対する溶解量が5g未満であるバインダを示す。
【0058】
水溶性バインダとしては、セルロース類、セルロース類のアルカリ塩、合成樹脂(例えば、ポリビニルアルコール類、ポリエチレンオキサイド、アクリル酸ポリマー等)、デンプン、デキストリン、カゼイン等が挙げられる。セルロース類としては、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が挙げられる。アルカリ塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩又はアンモニウム塩等が挙げられる。
非水溶性バインダとしては、ゴム類、合成樹脂等が挙げられる。ゴム類としては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンゴム等が挙げられる。合成樹脂としては、例えば、酢酸ビニル共重合体、アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス)等が挙げられる。
なかでも、バインダ(C)は、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンゴム、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、及びジアセチルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。なかでも、バインダ(C)は、接着性の観点から、スチレンブタジエンゴム及びカルボキシメチルセルロースを含むことが好ましい。
【0059】
バインダ(C)の含有量は、特に限定されず、熱膨張性マイクロカプセル(A)の含有量等に応じて適宜調整される。
熱膨張性マイクロカプセル(A)とバインダ(C)との質量配合比(A/C)は、特に限定されず、好ましくは0.1~2.0、より好ましくは0.5~1.5である。
【0060】
バインダ(C)の平均粒子径は、特に制限されず、電池性能(内部抵抗)の観点から、好ましくは0.1μm~3μm、より好ましくは0.1μm~1μm、更に好ましくは0.1μm~0.3μmである。
【0061】
(1.4.1)バインダとポリマー粒子との関係
バインダ(C)の平均粒子径が、0.1μm~0.3μmであり、かつポリマー粒子(B)の平均粒子径が、0.1μm~5μmであることが好ましい。これにより、負極合材層の抵抗を上げることなく、電池特性を確保することができる。加えて、負極合材層と集電体との界面抵抗を上昇させることなく、負極の寿命特性を維持することができる。更に、組成物の加工性はより優れる。
【0062】
(1.5)導電助剤
本開示の組成物は、導電助剤(E)を含んでもよいし、含まなくてもよい。
【0063】
「導電助剤」とは、リチウムイオン二次電池において、活物質として機能せず、活物質同士の電気伝導、及び活物質と集電体との電気伝導を向上させる材料を示す。「活物質」とは、正極及び負極で、電池反応を行う材料を示す。従って、導電助剤の中でも、電池を充放電した際に合材層において活物質として機能しうるものは、導電助剤ではなく活物質に分類する。「電池反応」とは、正極と負極との間で行われるリチウムイオンの挿入反応及び脱離反応を示す。
【0064】
導電助剤(E)の材質としては、公知の導電助剤を用いてもよく、導電性を有する炭素材料を含むことが好ましい。導電性を有する炭素材料としては、グラファイト、カーボンブラック、導電性炭素繊維、フラーレンなどが挙げられる。導電性炭素繊維としては、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンファイバーなどが挙げられる。グラファイトとしては、例えば、人造黒鉛、天然黒鉛などが挙げられる。天然黒鉛としては、例えば、燐片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛などが挙げられる。導電助剤は、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。導電助剤(E)は、市販品であってもよい。導電助剤(E)の市販品としては、TIMCAL社製の「Super-P」等が挙げられる。
【0065】
導電助剤(E)の平均粒子径は、好ましくは5μm以下、より好ましくは1μm~4μmである。その1次粒子径は好ましくは0.5μm以下、より好ましくは0.1μm~0.4μmである。
導電助剤(E)のBET比表面積は、好ましくは30m2/g~100m2/g、より好ましくは40m2/g~80m2/gである。
【0066】
(1.6)非固形分
本開示の組成物は、非固形分を含んでもよいし、含まなくてもよい。
例えば、負極合材層が負極合材スラリーから形成される場合、負極合材層には、その負極合材スラリー由来の各種配合成分が含まれることがある。非固形分としては、負極合材スラリー由来の各種配合成分(例えば、増粘剤、界面活性剤、分散剤、濡れ剤、消泡剤等)、水等が挙げられる。
【0067】
(2)負極合材層
本開示の負極合材層は、本開示の組成物を含む。これにより、本開示の負極合材層を用いたリチウムイオン二次電池の安全性は優れる。
【0068】
負極合材層は、活物質(D)(以下、「負極活物質(D)」ともいう。)を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。
【0069】
(2.1)負極活物質
負極活物質(D)は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な物質であれば特に制限はない。負極活物質(D)は、例えば、金属リチウム、リチウム含有合金、リチウムとの合金化が可能な金属もしくは合金、リチウムイオンのドープ及び脱ドープが可能な酸化物、リチウムイオンのドープ及び脱ドープが可能な遷移金属窒素化物、並びにリチウムイオンのドープ及び脱ドープが可能な炭素材料からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらの中でも、負極活物質(D)は、リチウムイオンをドープ及び脱ドープすることが可能な炭素材料(以下、「炭素材料」という。)が好ましい。
【0070】
炭素材料としては、カーボンブラック、活性炭、黒鉛材料、非晶質炭素材料などが挙げられる。これらの炭素材料は、1種類で使用してもよく、2種類以上混合して使用してもよい。炭素材料の形態は、特に限定されず、例えば、繊維状、球状、フレーク状などが挙げられる。炭素材料の大きさは、特に限定されず、好ましくは5μm~50μm、より好ましくは20μm~30μmである。
非晶質炭素材料として、例えば、ハードカーボン、コークス、1500℃以下に焼成したメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズピッチカーボンファイバー(MCF)などが挙げられる。
黒鉛材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。人造黒鉛としては、黒鉛化MCMB、黒鉛化MCFなどが挙げられる。黒鉛材料は、ホウ素を含有してもよい。黒鉛材料は、金属又は非晶質炭素で被覆されていてもよい。黒鉛材料を被覆する金属の材質としては、金、白金、銀、銅、スズなどが挙げられる。黒鉛材料は、非晶質炭素と黒鉛との混合物であってもよい。
【0071】
(2.2)その他の成分
負極合材層は、上記各成分に加えて、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、増粘剤、界面活性剤、分散剤、濡れ剤、消泡剤などが挙げられる。
【0072】
(2.3)含有量
本開示の負極合材層が、負極活物質(D)を含む場合、本開示の組成物の含有量は、特に限定されず、負極活物質(D)100質量部に対して、0.5質量部~10質量部であることが好ましい。これにより、電池性能に影響を与えることなく、安全性を向上させることができる。
組成物の含有量は、上記安全性と電池性能との両立の観点から、負極活物質(D)100質量部に対して、より好ましくは0.5質量部~6.5質量部、さらに好ましくは0.5質量部~5質量部である。
【0073】
熱膨張性マイクロカプセル(A)の含有量は、特に限定されず、負極合材層の全量に対して、好ましくは0.1質量%~5.0質量%、より好ましくは0.3質量%~3.0質量%、更に好ましくは0.5質量%~2.5質量%、特に好ましくは1.0質量%~2.5質量%、一層好ましくは1.3質量%~2.5質量%、より一層好ましくは1.4質量%~2.0質量%である。熱膨張性マイクロカプセル(A)の含有量が上記範囲内であれば、リチウムイオン二次電池の発熱時に、積極的に負極合材層の負極内部抵抗を上昇させることができ、リチウムイオン二次電池を安全化することができる。
【0074】
ポリマー粒子(B)の含有量は、特に限定されず、負極合材層の全量に対して、好ましくは0.1質量%~5.0質量%、より好ましくは0.3質量%~2.0質量%、更に好ましくは0.3質量%~1.0質量%、特に好ましくは0.3質量%~0.7質量%である。ポリマー粒子(B)の含有量が上記範囲内であれば、リチウムイオン二次電池の発熱時に、積極的に負極合材層の負極内部抵抗を上昇させることができ、リチウムイオン二次電池を安全化することができる。
【0075】
本開示の組成物がバインダ(C)を含有する場合(すなわち、組成物がバインダ(C)を含有する場合)、バインダ(C)の含有量は、特に限定されず、負極合材層の全量に対して、好ましくは0.1質量%~5質量%、より好ましくは1質量%~5質量%、更に好ましくは1質量%~3質量%である。バインダ(C)の含有量が上記範囲内であれば、リチウムイオン二次電池の充放電過程で、活物質が脱離しにくく、電池容量の低下は抑制される。
【0076】
負極合材層が負極活物質(D)を含有する場合(すなわち、組成物が負極活物質(D)を含有する場合)、負極活物質(D)の含有量は、特に限定されず、負極合材層の全量に対し、好ましくは10質量%~99.9質量%、より好ましくは30質量%~98質量%、更に好ましくは50質量%~98質量%、特に好ましくは70質量%~97質量%である。負極活物質(D)の含有量が上記範囲内であれば、電池性能は向上する。
【0077】
負極合材層が導電助剤(E)を含有する場合(すなわち、組成物が導電助剤(E)を含有する場合)、導電助剤(E)の含有量は、下記の範囲であることが好ましい。
導電助剤(E)の含有量は、特に限定されず、負極活物質(D)100質量部に対し、0.1質量部~10質量部であることが好ましい。これにより、電池性能が向上する。
導電助剤(E)の含有量は、リチウムイオン二次電池の内部抵抗の観点から、負極活物質(D)100質量部に対し、より好ましくは0.1質量部~5質量部、更に好ましくは0.1質量部~3質量部である。
【0078】
熱膨張性マイクロカプセル(A)の含有量とポリマー粒子(B)の含有量との合計量は、負極活物質(D)含有量100質量部に対し、0.1質量部~10質量部であることが好ましい。これにより、リチウムイオン二次電池の発熱時に、積極的に負極合材層の負極内部抵抗を上昇させることができ、リチウムイオン二次電池を安全化することができる。
熱膨張性マイクロカプセル(A)の含有量とポリマー粒子(B)の含有量との合計量は、電池性能と安全性との両立の観点から、負極活物質(D)含有量100質量部に対し、より好ましくは0.1質量部~5質量部である。
【0079】
(3)二次電池用負極
本開示の二次電池用負極(以下、「負極」ともいう。)は、本開示の負極合材層を含む。これにより、本開示の負極を用いたリチウムイオン二次電池の安全性は優れる。
【0080】
本開示の負極は、負極活物質(D)を更に含有する負極合材層と、集電体(以下、「負極集電体」ともいう。)とを備えることが好ましい。詳しくは、本開示の負極において、負極合材層は、負極活物質(D)を更に含み、かつ、負極合材層は、集電体の少なくとも一方の面に積層されていることが好ましい。
【0081】
「集電体」とは、リチウムイオン二次電池において、活物質から発生した電子を集め、かつ活物質に電子を供給するためのシート状物を示す。
【0082】
(3.1)負極合材層
本開示の負極において、負極合材層は、負極活物質(D)を含むことの他は、上述した負極合材層と同様である。
【0083】
本開示の負極において、組成物の含有量は、特に限定されず、負極活物質(D)100質量部に対して、0.5質量部~10質量部であることが好ましい。これにより、電池性能に影響を与えることなく、安全性を向上させることができる。
組成物の含有量は、上記安全性と電池性能との両立の観点から、負極活物質(D)100質量部に対して、より好ましくは0.5質量部~6.5質量部、さらに好ましくは0.5質量部~5質量部である。
【0084】
本開示の負極において、負極合材層が導電助剤(E)を含有する場合(すなわち、組成物が導電助剤(E)を含有する場合)、導電助剤(E)の含有量は、下記の範囲であることが好ましい。
導電助剤(E)の含有量は、特に限定されず、負極活物質(D)100質量部に対し、0.1質量部~10質量部であることが好ましい。これにより、電池性能が向上する。
導電助剤(E)の含有量は、リチウムイオン二次電池の内部抵抗の観点から、負極活物質(D)100質量部に対し、より好ましくは0.1質量部~5質量部、更に好ましくは0.1質量部~3質量部である。
【0085】
(3.2)負極集電体
負極集電体の材質としては、例えば、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼材(SUS)、ニッケルメッキ鋼材などが挙げられる。
【0086】
(4)リチウムイオン二次電池
本開示のリチウムイオン二次電池は、本開示の負極と、正極と、セパレータと、非水電解液とを備える。これにより、本開示のリチウムイオン二次電池の安全性は優れる。
【0087】
(4.1)正極
正極は、活物質(以下、「正極活物質」ともいう。)を少なくとも1種含むことが好ましい。正極活物質は、リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能である。
【0088】
正極は、集電体(以下、「正極集電体」ともいう。)と、正極合材層とを備える。正極合材層は、正極集電体の表面の少なくとも一部に設けられる。
【0089】
「正極合材層」とは、正極に用いられる合材層を示す。
【0090】
正極集電体の材質としては、例えば、金属又は合金が挙げられる。詳しくは、正極集電体の材質として、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼材(SUS)、銅などが挙げられる。中でも、導電性の高さとコストとのバランスの観点から、正極集電体の材質は、アルミニウムであることが好ましい。
【0091】
正極合材層は、正極活物質及びバインダを含有する。
【0092】
正極活物質としては、リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能な物質であれば特に限定されず、リチウムイオン二次電池の用途などに応じて、適宜調整され得る。
【0093】
正極活物質としては、例えば、第1酸化物、第2酸化物などが挙げられる。
第1酸化物は、リチウム(Li)とニッケル(Ni)とを構成金属元素とする。
第2酸化物は、Liと、Niと、Li及びNi以外の金属元素の少なくとも1種と、を構成金属元素として含む。Li及びNi以外の金属元素としては、例えば、遷移金属元素、典型金属元素などが挙げられる。第2酸化物は、Li及びNi以外の金属元素として、好ましくは、原子数換算で、Niと同程度、又は、Niよりも少ない割合で含むことが好ましい。Li及びNi以外の金属元素は、例えば、Co、Mn、Al、Cr、Fe、V、Mg、Ca、Na、Ti、Zr、Nb、Mo、W、Cu、Zn、Ga、In、Sn、La及びCeからなる群から選択される少なくとも1種であり得る。これらの正極活物質は、単独で用いても複数を混合して用いてもよい。
【0094】
正極活物質は、下記式(C1)で表されるリチウム含有複合酸化物(以下、「NCM」ともいう。)を含むことが好ましい。リチウム含有複合酸化物(C1)は、単位体積当たりのエネルギー密度が高く、熱安定性にも優れるという利点を有する。
【0095】
LiNiaCobMncO2 … 式(C1)
【0096】
式(C1)中、a、b及びcは、それぞれ独立に、0超1未満であり、a、b及びcの合計は、0.99~1.00である。
【0097】
NCMの具体例としては、LiNi0.33Co0.33Mn0.33O2(NCM333)、LiNi0.5Co0.3Mn0.2O2(NCM532)、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2(NCM523)、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2(NCM622)、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2(NCM811)などが挙げられる。
【0098】
正極活物質は、下記式(C2)で表されるリチウム含有複合酸化物(以下、「NCA」ともいう。)を含んでもよい。
【0099】
LitNi1-x-yCoxAlyO2 … 式(C2)
【0100】
式(C2)中、tは、0.95~1.15であり、xは、0~0.3であり、yは、0.1~0.2であり、x及びyの合計は、0.5未満である。
【0101】
NCAの具体例としては、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2などが挙げられる。
【0102】
正極合材層中の正極活物質の含有量は、正極合材層の全量に対し、好ましくは10質量%~99.9質量%、より好ましくは30質量%~99質量%、更に好ましくは50質量%~99質量%、特に好ましくは70質量%~99質量%である。
【0103】
バインダとしては、例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレート、ニトロセルロース、フッ素樹脂、ゴム粒子などが挙げられる。
フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体などが挙げられる。
ゴム粒子としては、スチレン-ブタジエンゴム粒子、アクリロニトリルゴム粒子などが挙げられる。
これらの中でも、正極合材層の耐酸化性を向上させる観点から、バインダは、フッ素樹脂が好ましい。バインダは1種を単独で使用でき、必要に応じて2種以上を組み合わせて使用できる。
【0104】
正極合材層中におけるバインダの含有量は、正極合材層の物性(例えば、電解液浸透性、剥離強度、など)と電池性能との両立の観点から、正極合材層の全量に対し、好ましくは0.1質量%~4質量%である。バインダの含有量が0.1質量%以上であると、正極集電体に対する正極合材層の接着性、及び、正極活物質同士の結着性がより向上する。バインダの含有量が4質量%以下であると、正極合材層中における正極活物質の量をより多くすることができるので、容量がより向上する。
【0105】
正極合材層は、導電助剤を含むことが好ましい。
導電助剤の材質としては、公知の導電助剤であってもよく、本開示の組成物に含まれる導電助剤(D)として例示したものと同様である。
【0106】
正極合材層は、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、増粘剤、界面活性剤、分散剤、濡れ剤、消泡剤などが挙げられる。
【0107】
(4.2)セパレータ
セパレータとしては、例えば、多孔質の樹脂平板が挙げられる。多孔質の樹脂平板の材質としては、樹脂、この樹脂を含む不織布などが挙げられる。樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミドなどの熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0108】
なかでも、セパレータは、単層又は多層構造の多孔性樹脂シートであることが好ましい。多孔性樹脂シートの材質は、一種又は二種以上のポリオレフィン樹脂を主体とする。セパレータの厚みは、好ましくは5μm~30μmである。セパレータは、好ましくは、正極と負極との間に配置される。
【0109】
前記セパレータが、熱可塑性樹脂からなり、
前記熱可塑性樹脂の軟化点が、前記ポリマー粒子(B)の前記軟化点より高く、かつ前記熱膨張性マイクロカプセル(A)の体積膨張開始温度よりも低いことが好ましい。
これによりセパレータの温度が熱可塑性樹脂の軟化点に達すると、セパレータに含まれる熱可塑性樹脂が融解して、セパレータの細孔が目詰まりする。その結果、電池反応の進行は遮断され、リチウムイオン二次電池の発熱は、より抑制され得る。
【0110】
(4.3)非水電解液
非水電解液は、電解質、及び非水溶媒を含有する。
【0111】
(4.3.1)電解質
電解質は、フッ素を含むリチウム塩(以下、「含フッ素リチウム塩」ともいう。)、及びフッ素を含まないリチウム塩の少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0112】
含フッ素リチウム塩としては、例えば、無機酸陰イオン塩、有機酸陰イオン塩などが挙げられる。
無機酸陰イオン塩としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF6)、六フッ化タンタル酸リチウム(LiTaF6)、などが挙げられる。
有機酸陰イオン塩としては、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)などが挙げられる。中でも、含フッ素リチウム塩としては、LiPF6が特に好ましい。
フッ素を含まないリチウム塩としては、過塩素酸リチウム(LiClO4)、四塩化アルミニウム酸リチウム(LiAlCl4)、リチウムデカクロロデカホウ素酸(Li2B10Cl10)などが挙げられる。
【0113】
電解質が含フッ素リチウム塩を含む場合、含フッ素リチウム塩の含有量は、電解質の全量に対して、好ましくは50質量%~100質量%、より好ましくは60質量%~100質量%、更に好ましくは80質量%~100質量%である。
【0114】
含フッ素リチウム塩が六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を含む場合、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)の含有量は、電解質の全量に対して、好ましくは50質量%~100質量%、より好ましくは60質量%~100質量%、更に好ましくは80質量%~100質量%である。
【0115】
非水電解液が電解質を含む場合、非水電解液における電解質の濃度は、好ましくは0.1mol/L~3mol/L、より好ましくは0.5mol/L~2mol/Lである。
【0116】
非水電解液が六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を含む場合、非水電解液における六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)の濃度は、好ましくは0.1mol/L~3mol/L、より好ましくは0.5mol/L~2mol/Lである。
【0117】
(4.3.2)非水溶媒
非水電解液は、一般的に、非水溶媒を含有する。
【0118】
非水溶媒としては、例えば、環状カーボネート類、含フッ素環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、含フッ素鎖状カーボネート類、脂肪族カルボン酸エステル類、含フッ素脂肪族カルボン酸エステル類、γ-ラクトン類、含フッ素γ-ラクトン類、環状エーテル類、含フッ素環状エーテル類、鎖状エーテル類、含フッ素鎖状エーテル類、ニトリル類、アミド類、ラクタム類、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、燐酸トリメチル、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホキシド燐酸、などが挙げられる。非水溶媒は、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0119】
環状カーボネート類としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)などが挙げられる。
含フッ素環状カーボネート類としては、例えば、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、トリフルオロプロピレンカーボネート、などが挙げられる。
鎖状カーボネート類としては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、などが挙げられる。
含フッ素鎖状カーボネート類としては、例えば、メチル2,2,2-トリフルオロエチルカーボネート、などが挙げられる。
脂肪族カルボン酸エステル類としては、例えば、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酪酸メチル、ギ酸エチル、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、酪酸エチル、イソ酪酸エチル、トリメチル酪酸エチル、などが挙げられる。
含フッ素脂肪族カルボン酸エステル類としては、例えば、ジフルオロ酢酸メチル、3,3,3-トリフルオロプロピオン酸メチル、ジフルオロ酢酸エチル、酢酸2,2,2-トリフルオロエチル、などが挙げられる。
γ-ラクトン類としては、例えば、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、などが挙げられる。
環状エーテル類としては、例えば、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、などが挙げられる。
鎖状エーテル類としては、例えば、1,2-エトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、などが挙げられる。
含フッ素鎖状エーテル類としては、例えば、HCF2CF2CH2OCF2CF2H、CF3CF2CH2OCF2CF2H、HCF2CF2CH2OCF2CFHCF3、CF3CF2CH2OCF2CFHCF3、C6F13OCH3、C6F13OC2H5、C8F17OCH3、C8F17OC2H5、CF3CFHCF2CH(CH3)OCF2CFHCF3、HCF2CF2OCH(C2H5)2、HCF2CF2OC4H9、HCF2CF2OCH2CH(C2H5)2、HCF2CF2OCH2CH(CH3)2、などが挙げられる。
ニトリル類としては、例えば、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3-メトキシプロピオニトリル、などが挙げられる。
アミド類としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、などが挙げられる。
ラクタム類としては、例えば、N-メチルピロリジノン、N-メチルオキサゾリジノン、N,N'-ジメチルイミダゾリジノン、などが挙げられる。
【0120】
非水溶媒は、環状カーボネート類、含フッ素環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、及び含フッ素鎖状カーボネート類からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。この場合、環状カーボネート類、含フッ素環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、及び含フッ素鎖状カーボネート類の合計の割合は、非水溶媒の全量に対して、好ましくは50質量%~100質量%、より好ましくは60質量%~100質量%、更に好ましくは80質量%~100質量%である。
【0121】
非水溶媒は、環状カーボネート類及び鎖状カーボネート類からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。この場合、非水溶媒中に占める、環状カーボネート類及び鎖状カーボネート類の合計の割合は、非水溶媒の全量に対して、好ましくは50質量%~100質量%、より好ましくは60質量%~100質量%、更に好ましくは80質量%~100質量%である。
【0122】
非水溶媒の含有量は、非水電解液の全量に対して、好ましくは60質量%~99質量%、好ましくは70質量%~97質量%、更に好ましくは90質量%~97質量%である。
【0123】
非水溶媒の固有粘度は、電解質の解離性及びイオンの移動度をより向上させる観点から、25℃において、好ましくは10.0mPa・s以下である。
【0124】
(4.3.3)電解液添加剤
非水溶媒は、電解液添加剤を含有してもよい。これにより、リチウムイオン二次電池の充放電サイクルにおいて、本来の電池反応ではない副反応は進行しにくくすることができる。電池反応は、正極及び負極にリチウムイオンが出入り(インターカレート)する反応を示す。副反応は、負極による非水電解液の還元分解反応、正極による非水電解液の酸化分解反応、正極活物質中の金属元素の溶出等を含む。
電解液添加剤としては、特に制限はなく、公知のものを任意に用いることができ、例えば、特開2019-153443号公報に記載の添加剤を用いることができる。
【0125】
(4.4)ケース
リチウムイオン二次電池は、一般的に、ケースを備える。ケースは、正極、負極、セパレータ、及び非水電解液を収容している。
【0126】
ケースの形状などは、特に限定はなく、リチウムイオン二次電池の用途などに応じて、適宜選択される。ケースとしては、ラミネートフィルムを含むケース、電池缶と電池缶蓋とからなるケースなどが挙げられる。
【0127】
(5)リチウムイオン二次電池の一例
図1を参照して、本開示の実施形態に係るリチウムイオン二次電池の一例について具体的に説明する。
図1は、本開示の実施形態に係るリチウムイオン二次電池1の断面図である。
【0128】
リチウムイオン二次電池1は、積層型である。
図1に示すように、リチウムイオン二次電池1は、電池素子10と、正極リード21と、負極リード22と、ケース30とを備える。電池素子10は、ケース30の内部に封入されている。ケース30は、ラミネートフィルムで形成されている。電池素子10には、正極リード21及び負極リード22の各々が取り付けられている。正極リード21及び負極リード22の各々は、ケース30の内部から外部に向かって、反対方向に導出されている。
【0129】
電池素子10は、
図1に示すように、正極11と、セパレータ13と、負極12と、が積層されてなる。正極11は、正極集電体11Aの両方の主面上に正極合材層11Bが形成されてなる。負極12は、負極集電体12Aの両方の主面上に負極合材層12Bが形成されてなる。正極11の正極集電体11Aの片方の主面上に形成された正極合材層11Bと、正極11に隣接する負極12の負極集電体12Aの片方の主面上に形成された負極合材層12Bとは、セパレータ13を介して対向している。
【0130】
リチウムイオン二次電池1のケース30の内部には、非水電解液が注入されている。非水電解液は、正極合材層11B、セパレータ13、及び負極合材層12Bに浸透している。リチウムイオン二次電池1では、隣接する正極合材層11B、セパレータ13及び負極合材層12Bによって、1つの単電池層14が形成されている。なお、正極11は、正極集電体11Aの片方の主面上に正極合材層11Bが形成されてなり、負極12は、負極集電体12Aの片方の主面上に負極合材層12Bが形成されてなってもよい。
【0131】
なお、本実施形態では、リチウムイオン二次電池1は、積層型であるが、本開示はこれに限定されず、リチウムイオン二次電池1は、例えば、捲回型であってもよい。捲回型は、正極、セパレータ、負極、及びセパレータをこの順の配置で重ねて層状に巻いてなる。捲回型は、円筒型、又は角形を含む。
【0132】
本実施形態では、
図1に示すように、正極リード21及び負極リード22の各々がケース30の内部から外部に向けて突出する方向は、ケース30に対して反対方向であるが、本開示はこれに限定されない。例えば、正極リード及び負極リードの各々がケース30の内部から外部に向けて突出する方法は、ケース30に対して同一方向であってもよい。
【実施例0133】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、本開示の発明がこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0134】
[1]組成物の作製
[1.1]準備
実施例及び比較例に用いた製品は以下のとおりである。各製品の物性は、カタログ値である。
<熱膨張性マイクロカプセル(X)>
・「FN-100SSD」:松本油脂製薬株式会社製の「FN-100SSD」(熱膨張性マイクロカプセル、内包:液状の低沸点炭化水素)
<ポリマー粒子(B)>
・W4005:三井化学株式会社製の「ケミパール(登録商標) W405」(低分子量ポリエチレンの水分散体、固形分濃度:40質量%、平均粒子径(マイクロトラック法):0.6μm、軟化点(環球法):110℃)
・W900:三井化学株式会社製の「ケミパール(登録商標) W900」(低分子量ポリエチレンの水分散体、固形分濃度:40質量%、平均粒子径(マイクロトラック法):0.6μm、軟化点(環球法):132℃)
・W950:三井化学株式会社製の「ケミパール(登録商標) W405」(低分子量ポリエチレンの水分散体、固形分濃度:40質量%、平均粒子径(マイクロトラック法):0.6μm、軟化点(環球法):113℃)
<バインダ(C)>
・SBR:スチレンブタジエンゴム粒子の分散体(溶媒:乳化溶媒、固形分:40質量%)
・CMC:ダイセルミライズ株式会社製の「2200」(カルボキシメチルセルロールナトリウム、固形分濃度:100質量%)
<負極活物質(D)>
・天然黒鉛:天然黒鉛(市販品)
<導電助剤(E)>
・Super-P:TIMCAL社製の「Super-P」(主成分:導電性カーボンブラック、固形分濃度:100質量%、BET比表面積:62m2/g)
【0135】
[1.2]熱膨張性マイクロカプセル(A)の製造
熱膨張性マイクロカプセル(A)としての熱膨張性マイクロカプセル(A1)(以下、「MC(A1)」ともいう。)を下記のようにして製造した。
イオン交換水 600gに、塩化ナトリウム 150g、シリカ有効成分20質量%であるコロイダルシリカ分散液 70g、及びエチレンジアミン四酢酸・4Na塩 0.5gを加えた後、得られた混合物のpHを2.8~3.2に調整し、水性分散媒を調製した。
これとは別に、アクリロニトリル 200g、メタクリロニトリル 70g、メタクリル酸メチル 5g、エチレングリコールジメタクリレート 1.2g、ハイドロフルオロエーテル(CH3OCF2CF2CF3) 150g、及びアゾビスイソブチロニトリル 2.0gを混合して油性混合物を調製した。
水性分散媒と油性混合物を混合し、得られた混合液をホモミキサー(特殊機化工業社製、TKホモミキサー)により分散して、懸濁液を調製した。この懸濁液を容量1.5リットルの加圧反応器に移して窒素置換をしてから反応初期圧0.5MPaにし、80rpmで攪拌しつつ重合温度60℃で20時間重合した。重合後に得られた重合液を濾過、乾燥して、MC(A1)を得た。日機装株式会社製のマイクロトラック粒度分布計(型式9320-HRA)を使用し測定した平均粒子径(体積基準測定によるD50値)は、9μmであった。
【0136】
[1.2.1]熱膨張性マイクロカプセル(A1)の膨張開始温度(Ts)
測定装置として、DMA(DMA Q800型 TA instruments社製)を使用した。MC(A1)を0.5mgを直径6.0mm(内径5.65mm)、深さ4.8mmのアルミカップに入れ、微小球層の上部にアルミ蓋(直径5.6mm、厚み0.1mm)をのせて試料を準備した。その試料に上から加圧子により0.01Nの力を加えた状態でサンプル高さを測定した。加圧子により0.01Nの力を加えた状態で20℃から300℃まで10℃/minの昇温速度で加熱し、加圧子の垂直方向における変位量を測定した。正方向への変位開始温度をMC(A1)の膨張開始温度(Ts)とし、最大変位量を示した温度を最大体積膨張温度(Tm)とした。MC(A1)の膨張開始温度(Ts)は122℃、最大体積膨張温度は(Tm)は155℃であった。
【0137】
[1.3]実施例1
[1.3.1]二次電池負極用組成物の調製
組成物の調製には、5Lのプラネタリーディスパを用いた。
「CMC」(C)の含有量が「CMC水溶液」(C)の全量に対して1.0質量%となるように、「CMC」(C)を純水に溶解して、「CMC水溶液」(C)を得た。
「熱膨張性マイクロカプセル」(A1) 50質量部と、「ポリマー粒子(B)」水分散溶媒(固形分率40質量%) 125質量部とを300ml容器に入れ、プラネタリーディスパを用いて30分間混合した。これにより、二次電池負極用組成物(A1,B)を調製した。
二次電池負極用組成物(A1,B) 35質量部と、「CMC水溶液」(C) 400質量部とを5分間混合し、二次電池負極用組成物(A1,B,C)を得た。
得られた二次電池用負極用組成物(A1,B,C)に「負極活物質(天然黒鉛)」(D) 960質量部と、「Super-P」(E) 10質量部とを加え、30分間混合した後、更に、「CMC水溶液」(C) 133質量部を加えて30分間混練した。
その後、「SBR」(C) 20質量部を加えて 真空脱泡30分間を行った。
こうして、固形分濃度45%の組成物(負極合材スラリー)を調製した。
【0138】
[1.4]実施例2~実施例8、比較例1~比較例3
熱膨張性マイクロカプセル(A)、ポリマー粒子(B)、バインダ(C)、活物質(D)、及び導電助剤(E)の各々の種類及び添加量を表1に示すように変更したことの他は、実施例1と同様にして、固形分濃度45%の組成物(負極合材スラリー)を調製した。
【0139】
[2]負極の作製
実施例1~実施例8、比較例1~比較例3の組成物(負極合材スラリー)を用いて、下記に示すようにして、負極を作製した。
【0140】
[2.1]塗工・乾燥
負極合材スラリー塗工には、ダイコーターを用いた。
負極集電体として、銅箔(厚み:10μm)を準備した。
負極合材層(乾燥後の塗布膜)の質量が11.0mg/cm2になるように、負極合材スラリーを負極集電体の一方の主面に塗布して乾燥した。次いで、負極集電体の他方の主面(未塗工面)に、同様にして、負極合材層(乾燥後の塗布膜)の質量が11.0mg/cm2になるように、負極合材スラリーを塗布し乾燥した。
こうして得た両面塗工した負極ロール(塗工量は両面合計で22.0mg/cm2)を、真空乾燥オーブンで120℃、12時間乾燥した。
【0141】
[2.2]プレス
負極ロールのプレスには、小型プレス機を用いた。上下ロールのギャップ(隙間)を調整し、負極ロールをプレス密度が1.5±0.05g/cm3になるように、小型プレス機にてプレスした。
【0142】
[2.3]スリット
負極合材層の面積(表面:58mm×372mm、裏面:58mm×431mm)と、タブ溶接余白のための面積とが得られるように、負極ロールをスリットし、負極を得た。
【0143】
[3]リチウムイオン二次電池の作製
実施例1~実施例8、比較例1~比較例3の組成物(負極合材スラリー)を用いた負極を用いて、下記に示すようにして、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0144】
[3.1]正極作製
[3.1.1]正極合材スラリーの調製
正極合材スラリーの調製には、5Lのプラネタリーディスパを用いた。
正極活物質としての「NCM622」(ユミコア社製、組成式:LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2) 1520質量部と、導電助剤としての「Super-P」(TIMCAL社製、導電性カーボン) 30質量部と、導電助剤としての「KS-6」(TIMREX社製、鱗片状黒鉛) 30質量部とを10分間混合して、正極用混合物を得た。
正極用混合物に、「NMP」 50質量部を加え、20分間混合して、第1正極用混合液を得た。
第1正極用混合液に、「PVDF溶液」 350質量部を加えて、30分間混練した後、更に「PVDF溶液」 260質量部を加えて15分間混練し、更に「PVDF溶液」 220質量部加えて15分混練して、第2正極用混合液を得た。「PVDF溶液」は、「PVDF」の含有量が「PVDF溶液」の総量に対して8質量%となるように、「NMP」に「PVDF」を添加して調製されている。
粘度調整のために、第2正極用混合液に「NMP」 80質量部を加えて30分間混合した後、真空脱泡30分間を行った。
こうして固形分濃度65質量%の正極合材スラリーを調製した。
【0145】
[3.1.2]塗工・乾燥
正極合材スラリーの塗工には、ダイコーターを用いた。
正極集電体として、アルミニウム箔(厚み:20μm、幅:200mm)を準備した。
正極合材層(乾燥後の塗布膜)の質量が19.0mg/cm2になるように、正極合材スラリーを正極集電体の一方の主面上に塗布し乾燥した。次いで、正極合材層(乾燥後の塗布膜)の質量が19.0mg/cm2になるように、正極合材スラリーを正極集電体の他方の主面上に同様に塗布し乾燥した。
こうして得た両面塗工した正極ロール(塗工量は両面合計で38.0mg/cm2)を、真空乾燥オーブンで130℃、12時間乾燥した。
【0146】
[3.1.3]プレス
正極ロールのプレスには、35トンプレス機を用いた。上下ロールのギャップ(隙間)を調整し、上記正極をプレス密度が2.9±0.05g/cm3になるように、35トンプレス機にてプレスした。
【0147】
[3.1.4]スリット
正極合材層の面積(表面:56mm×334mm、裏面:56mm×408mm)と、タブ溶接余白のための面積とが得られるように、正極ロールをスリットし、アルミニウム箔上にアンダーコート層が積層された正極を得た。
【0148】
[3.2]捲回型電池(設計容量:1Ah)の作製
[3.2.1]捲回
セパレータには、空隙率45体積%、厚み25μmのポリエチレン製の多孔質膜(60.5mm×450mm)を用いた。
上記で得られた、負極と、セパレータと、正極と、セパレータとを重ねて捲回した後、プレス成型した。次いで、正極の余白部分にアルミニウム製タブを超音波接合機で接合し、負極の余白部分にニッケル製タブを超音波接合機で接合した。これをラミネートフィルムで挟み込み、3辺を加熱シールした。これにより、開口部を有するケース(以下、「第1ケース」という。)を得た。
【0149】
[3.2.2]非水電解液の注液
エチレンカーボネート(EC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、ジメチルカーボネート(DMC)とを、EC:EMC:DMC=3:3:4の体積比で混合して、混合溶媒を得た。当該混合溶媒に、LiPF6を1.0mol/Lの濃度となるように溶解させて非水電解質を調製した。
非水電解液の注液前に、上記第1ケースを真空乾燥機にて、70℃×12hの条件で減圧乾燥した。電解液4.7±0.1gを第1ケース内に注液した後、真空引きしながら第1ケースの開口部を加熱シールした。これにより、リチウムイオン二次電池前駆体を得た。
【0150】
[3.2.3]活性化処理
リチウムイオン二次電池前駆体を室温(25℃)で24時間保持した。次いで、リチウムイオン二次電池前駆体を0.05Cで4h定電流充電(0.05C-CC)した後12h休止した。その後、0.1Cで4.2Vまで定電流定電圧充電(0.1C-CCCV)し、30分間休止した後、2.8Vまで0.1Cで定電流放電(0.1C-CC)した。更に、充放電サイクル(0.1C-CCCVで4.2Vの充電と、0.1C-CCで2.8Vの放電)を5回繰り返した。その後、4.2V(SOC:100%)の満充電にした状態で、リチウムイオン二次電池前駆体を25℃、5日間保存した。
こうして捲回型電池(リチウムイオン二次電池)(設計容量:1Ah)を得た。
【0151】
[4]安全性能評価
捲回型電池を用いて、下記の釘刺し試験及び発熱測定測定試験を行った。
【0152】
[4.1]釘刺し試験
捲回型電池(設計容量1Ah)を用いて釘刺し試験を行った。
直径6mmの釘を、プレス速度20mm/秒で捲回型電池の一方の主面の中央部に刺し込み、ケースの内部において正極と負極とを短絡させた。次いで、捲回型電池に発火が認められたか否かを目視で観察した。同一仕様で作製した捲回型電池を用いて、釘刺し試験を計5回行った。5回の釘刺し試験のうち、捲回型電池に、熱暴走による発煙及び発火の少なくとも一方が認められた回数(以下、「発煙・発火回数」という。)を表1に示す。
許容できる発煙・発火回数は、2回以下である。
なお、表1中、釘刺し試験の項目において、「3/5」とは、5回の釘刺し試験のうち、捲回型電池に熱暴走による発煙及び発火の少なくとも一方が認められた回数が3回であったことを示す。
【0153】
[4.2]発熱速度測定試験
直径6mmの釘を、プレス速度0.5mm/秒で捲回型電池の一方の主面の中央部に差し込み、ケースの内部において正極と負極とを短絡させた。この際、捲回型電池のケースの表面に装着した熱電対によって、捲回型電池の表面温度を経時的に測定した。
捲回型電池の電圧が降下した時点から5秒を経過した時点までの捲回型電池の表面温度の上昇温度に基づき、下記式(A)により、発熱速度を算出した。発熱速度の許容可能な範囲は、90℃/秒以下である。
式(A):発熱速度(℃/秒)=捲回型電池の電圧が降下した時点から5秒経過した時点までに上昇した捲回型電池の表面温度(℃)/5(秒)
【0154】
【0155】
表1中、「Ts(℃)」とは、熱膨張性マイクロカプセル(A)の膨張開始温度を示す。
【0156】
比較例1~比較例3の組成物は、ポリマー粒子(B)を含むが、熱膨張性マイクロカプセル(A)を含まなかった。そのため、比較例1~比較例3のリチウムイオンの二次電池の釘刺し試験の発煙・発火回数は3回以上であり、許容できる発煙・発火回数を超えていた。この結果から、比較例1~比較例3の組成物は、安全性に優れるリチウムイオン二次電池とすることができないことがわかった。
更に、比較例1~比較例3のリチウムイオン二次電池の発煙・発火は、激しいことを確認した。これは、熱膨張性マイクロカプセル(X)から発生する炭化水素ガスが、燃焼を激化させたと推測される。
【0157】
実施例1~実施例8の組成物は、熱膨張性マイクロカプセル(A)と、ポリマー粒子(B)とを含む。そのため、実施例1~実施例8のリチウムイオンの二次電池の釘刺し試験の発煙・発火回数は2回以下であり、許容できる発煙・発火回数以下であった。この結果から、実施例1~実施例8の組成物は、安全性に優れるリチウムイオン二次電池とすることができることがわかった。
更に、実施例1~実施例8のリチウムイオン二次電池の発煙・発火は、比較例1~比較例3よりも激しくないことを確認した。これは、熱膨張性マイクロカプセル(A)から不燃性ガスが発生し、不燃性ガスの供給により酸素が希釈されるためと推測される。