(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064856
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】安定化剤濃度のΔSP(m)の最大値が0.5未満であるジルコニア被切削体
(51)【国際特許分類】
C04B 35/486 20060101AFI20240507BHJP
A61C 13/083 20060101ALI20240507BHJP
A61C 5/70 20170101ALI20240507BHJP
【FI】
C04B35/486
A61C13/083
A61C5/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173775
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(74)【代理人】
【識別番号】100173657
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬沼 宗一郎
(72)【発明者】
【氏名】野中 和理
(72)【発明者】
【氏名】高橋 周平
【テーマコード(参考)】
4C159
【Fターム(参考)】
4C159GG02
4C159GG11
4C159GG15
4C159RR11
4C159SS01
4C159TT02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】特殊な装置を必要とせず、天然歯に類似の透光性グラデーションと色調グラデーションをジルコニア完全焼結体に付与させることができる歯科切削加工用ジルコニア被切削体を提供する。
【解決手段】向かい合う2つの面と、その2つの面の間の側面とを有する歯科切削加工用ジルコニア被切削体であって、側面は、長方形形状を有しており、向かい合う2つの面のうち一方の面から他方の面へ向かって歯科切削加工用ジルコニア被切削体の安定化剤濃度(mоl%)の最大値と最小値差が0.3以上であり、かつ、直線距離が0.5mm間隔となるように設定した点間の安定化剤濃度(mоl%)の差の最大値が0.5未満である部分を有する歯科切削加工用ジルコニア被切削体である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
向かい合う2つの面と、その2つの面の間の側面とを有する歯科切削加工用ジルコニア被切削体であって、
側面は、前記歯科切削加工用ジルコニア被切削体の側面視において、長方形形状を有しており、向かい合う2つの面のうち一方の面を面A、他方の面を面Bとし、面Aから面Bへ向かって側面と平行な方向に1.0mmから1.5mmの位置にある面Aに平行な面を面Cとし、
面Cから面Bまでの領域において、面Cから面Bへ向かって側面と平行な方向における直線距離が0.5mm間隔となるように設定した点を、面Cから順番に点P(1)、点P(2)、・・・点P(n)とし、それぞれの点の安定化剤濃度(mоl%)をSP(1)、SP(2)、・・・SP(n)(n≧((面Cと面B間との最短距離(mm))-2)/0.5)としたとき、
歯科切削加工用ジルコニア被切削体が、安定化剤濃度(mоl%)の最大値SPmaxと最小値SPminの差SPmax-SPminが0.3以上であり、かつ、下記式で定義されるΔSP(m)の最大値ΔSPmaxが0.5未満である部分を有する歯科切削加工用ジルコニア被切削体。
ΔSP(m)=|SP(m)-SP(m+1)|(ただし、m=1,2,・・・n-1)
【請求項2】
前記ΔSPmaxが0.3未満である請求項1に記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体。
【請求項3】
前記ΔSPmaxが0.10未満である請求項1に記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体。
【請求項4】
下記式を満たす連続した3点が3か所未満である請求項1に記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体。
ΔΔSP(m)=|ΔSP(m)-ΔSP(m+1)|>0.1(m=1,2,・・・n-1)
【請求項5】
前記安定化剤濃度の最大値SPmaxが6.0mоl%以上である請求項1に記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体。
【請求項6】
面Cから面Bまでの領域において、厚さ2.0mmの試験体を切り出し、1550℃で1時間焼結した焼結体の厚さ1.0mmにおけるコントラスト比を測定したとき、前記領域の中で最も低いコントラスト比が0.70以下である請求項1に記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体。
【請求項7】
着色されている請求項1に記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体。
【請求項8】
積層構造を有さない請求項1に記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体。
【請求項9】
細孔内に、安定化剤化合物及び/又は着色剤化合物が担持されている請求項1に記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体。
【請求項10】
面C上の点P(1)が、面Cと側面との交点に位置する請求項1~9のいずれかに記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体。
【請求項11】
面C上の点P(1)が、面C上において面Bに最も近接した位置にある請求項1~9のいずれかに記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体。
【請求項12】
面Cの全体が、SPmax-SPminが0.3以上であり、かつ、下記式で定義されるΔSP(m)の最大値ΔSPmaxが0.5未満である請求項1~9のいずれかに記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体。
ΔSP(m)=|SP(m)-SP(m+1)|(ただし、m=1,2,・・・n-1)
【請求項13】
歯科切削加工用ジルコニア被切削体に透光性のグラデーション及び色調のグラデーションを付与する方法であって、少なくとも二種類の含浸液を歯科切削加工用ジルコニア被切削体に含浸する工程を含む製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科切削加工用ジルコニア被切削体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、歯科用CAD/CAMシステムを用いた切削加工により補綴装置を作製する技術が急速に普及してきている。これにより、ジルコニア、アルミナ、二ケイ酸リチウム等のセラミックス材料や、アクリルレジン、ハイブリッドレジン等のレジン材料で製造された被切削体を加工することで、容易に補綴装置を作製することが可能となってきている。
【0003】
特に、ジルコニアは、高い強度を有していることから様々な症例で臨床応用されている。一方、完全焼結したジルコニア(以下、ジルコニア完全焼結体)は、硬度が非常に高いため、歯科用CAD/CAMシステムを用いて切削加工することができない。そのため、歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、完全焼結させず低い焼成温度で仮焼し、切削加工可能な硬度に調整したものが用いられている。
【0004】
一般的な歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、ジルコニア粉末をプレス成形等により成形した後、800~1200℃で仮焼して製造されている。
【0005】
ジルコニア完全焼結体の特性は、使用するジルコニア粉末の特性に影響を受ける。
【0006】
特許文献1には、安定化剤と着色剤の含有量が異なる複数の層を有する歯科切削加工用ジルコニア被切削体が開示されている。当該ジルコニア被切削体から作製されたジルコニア完全焼結体は、透光性と色調のグラデーションを有する。しかしながら、当該焼結体は各層間の境界が視認できるなど、天然歯に類似の透光性グラデーションと色調グラデーションを有しておらず、前歯部など高い審美性が求められる症例への適用は困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、特殊な装置を必要とせず、天然歯に類似の透光性グラデーションと色調グラデーションをジルコニア完全焼結体に付与させることができる歯科切削加工用ジルコニア被切削体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、特殊な装置を必要とせず、天然歯に類似の透光性グラデーション、色調グラデーション及び強度グラデーションをジルコニア完全焼結体に付与させることができる歯科切削加工用ジルコニア被切削体について検討した。その結果、歯科切削加工用ジルコニア被切削体中の各部位における安定化剤濃度が特定の関係を満たすことが、天然歯に類似の透光性グラデーションと色調グラデーションをジルコニア完全焼結体に付与させるために特に重要であることを見出した。以下に本発明の詳細を記載する。
【0010】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、向かい合う2つの面と、その2つの面の間の側面とを有する歯科切削加工用ジルコニア被切削体であって、
側面は、前記歯科切削加工用ジルコニア被切削体の側面視において、長方形形状を有しており、向かい合う2つの面のうち一方の面を面A、他方の面を面Bとし、面Aから面Bへ向かって側面と平行な方向に1.0mmから1.5mmの位置にある面Aに平行な面を面Cとし、
面Cから面Bまでの領域において、面Cから面Bへ向かって側面と平行な方向における直線距離が0.5mm間隔となるように設定した点を、面Cから順番に点P(1)、点P(2)、・・・点P(n)とし、それぞれの点の安定化剤濃度(mоl%)をSP(1)、SP(2)、・・・SP(n)(n≧((面Cと面B間との最短距離(mm))-2)/0.5)としたとき、
歯科切削加工用ジルコニア被切削体が、安定化剤濃度(mоl%)の最大値SPmaxと最小値SPminの差SPmax-SPminが0.3以上であり、かつ、下記式で定義されるΔSP(m)の最大値ΔSPmaxが0.5未満である部分を有する歯科切削加工用ジルコニア被切削体である。
ΔSP(m)=|SP(m)-SP(m+1)|(ただし、m=1,2,・・・n-1)
【0011】
本発明においては、ΔSPmaxが0.3未満であることができる。
【0012】
本発明においては、ΔSPmaxが0.10未満であることができる。
【0013】
本発明においては、下記式を満たす連続した3点が3か所未満であることができる。
ΔΔSP(m)=|ΔSP(m)-ΔSP(m+1)|>0.1(m=1,2,・・・n-1)
【0014】
本発明においては、安定化剤濃度の最大値SPmaxが6.0mоl%以上であることができる。
【0015】
本発明においては、面Cから面Bまでの領域において、厚さ2.0mmの試験体を切り出し、1550℃で1時間焼結した焼結体の厚さ1.0mmにおけるコントラスト比を測定したとき、前記領域の中で最も低いコントラスト比が0.70以下であることができる。
【0016】
本発明においては、着色されていることができる。
【0017】
本発明においては、積層構造を有さないことができる。
【0018】
本発明においては、細孔内に、安定化剤化合物及び/又は着色剤化合物が担持されていることができる。
【0019】
本発明においては、面C上の点P(1)が、面Cと側面との交点に位置することができる。
【0020】
本発明においては、面C上の点P(1)が、面C上において面Bに最も近接した位置にあることができる。
【0021】
本発明においては、面Cの全体が、SPmax-SPminが0.3以上であり、かつ、下記式で定義されるΔSP(m)の最大値ΔSPmaxが0.5未満であることができる。
ΔSP(m)=|SP(m)-SP(m+1)|(ただし、m=1,2,・・・n-1)
【0022】
本発明はまた、歯科切削加工用ジルコニア被切削体に透光性のグラデーション及び色調のグラデーションを付与する方法であって、少なくとも二種類の含浸液を歯科切削加工用ジルコニア被切削体に含浸する工程を含む製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、天然歯に類似の透光性グラデーションと色調グラデーションをジルコニア焼結体に付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の構成要件について具体的に説明する。本発明は、歯科切削加工用ジルコニア被切削体であって、各部位における安定化剤濃度が特定の関係を満たすことを特徴としている。具体的には、本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、向かい合う2つの面と、その2つの面の間の側面とを有する歯科切削加工用ジルコニア被切削体であって、
側面は、前記歯科切削加工用ジルコニア被切削体の側面視において、長方形形状を有しており、向かい合う2つの面のうち一方の面を面A、他方の面を面Bとし、面Aから面Bへ向かって側面と平行な方向に1.0mmから1.5mmの位置にある面Aに平行な面を面Cとし、
面Cから面Bまでの領域において、面Cから面Bへ向かって側面と平行な方向における直線距離が0.5mm間隔となるように設定した点を、面Cから順番に点P(1)、点P(2)、・・・点P(n)とし、それぞれの点の安定化剤濃度(mоl%)をSP(1)、SP(2)、・・・SP(n)(n≧((面Cと面B間との最短距離(mm))-2)/0.5)としたとき、
歯科切削加工用ジルコニア被切削体が、安定化剤濃度(mоl%)の最大値SPmaxと最小値SPminの差SPmax-SPminが0.3以上であり、かつ、下記式で定義されるΔSP(m)の最大値ΔSPmaxが0.5未満である部分を有する歯科切削加工用ジルコニア被切削体である。
ΔSP(m)=|SP(m)-SP(m+1)|(ただし、m=1,2,・・・n-1)
【0025】
本発明において歯科切削加工用ジルコニア被切削体の側面視とは、歯科切削加工用ジルコニア被切削体の側面に正対した状態における歯科切削加工用ジルコニア被切削体を意味するものである。本発明において面Cは仮想面とすることができる。
【0026】
本発明においては、安定化剤濃度(mоl%)の最大値SPmaxと最小値SPminの差SPmax-SPminは、0.5以上とすることができ、0.6以上とすることができ、0.7以上とすることができ、0.8以上とすることができる。SPmax-SPminが0.5以上の場合には、天然歯に類似の透光性グラデーションを得ることができる。SPmax-SPminが0.3未満であると、天然歯に類似のグラデーションが得られない。
【0027】
ΔSP(m)の最大値ΔSPmaxは、0.4未満とすることができ、0.3未満とすることができ、0.1未満とすることができる。ΔSPmaxが0.5以上であると、透光性の変化が急激になり、2点の間に境界が視認できるなど自然な色調グラデーションが得られない。ΔSPmaxが0.3未満の場合には、透光性の変化が緩やかになり、より自然な色調グラデーションを得ることができ、0.1未満の場合には、透光性の変化がさらに緩やかになり、実質的に2点間の境界が存在しない自然なグラデーションを得ることができる。
【0028】
本発明においては、下記式を満たす連続した3点が3か所未満であるものとすることができる。下記式を満たす連続した3点が3か所以上あると自然なグラデーションが得られない傾向にある。
ΔΔSP(m)=|ΔSP(m)-ΔSP(m+1)|>0.1(m=1,2,・・・n-1)
【0029】
本発明においては、安定化剤濃度の最大値SPmaxが6.0mоl%以上であるものとすることができる。また本発明においては、安定化剤濃度の最大値SPmaxが7.0mоl%以下であるものとすることができる。安定化剤濃度の最大値SPmaxが6.0mоl%未満であると、天然歯に類似の透光性が得られない傾向にある。安定化剤濃度の最大値SPmaxが7.0mоl%を超える場合も、透光性が低下し、天然歯に類似の透光性が得られない傾向にある。
【0030】
本発明においては、面Cから面Bまでの領域において、厚さ2.0mmの試験体を切り出し、1550℃で1時間焼結した焼結体の厚さ1.0mmにおけるコントラスト比を測定したとき、前記領域の中で最も低いコントラスト比が0.70以下であるものとすることができ、0.65以下であるものとすることができる。コントラスト比が0.70を超えると、天然歯に類似の透光性が得られない場合がある。
【0031】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体は着色されていないものとすることができる。歯科切削加工用ジルコニア被切削体が着色されていないことにより、ディスクを製造する際に複数の粉末を混合する必要が無くなる。
【0032】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体は積層構造を有さないものとすることができる。歯科切削加工用ジルコニア被切削体が積層構造を有さないことにより、層界面のない自然なグラデーションが得られる。
【0033】
向かい合う2つの面を構成する面A及び面B並びに面Aに平行な面である面Cはそれぞれ平面でもよく、平面以外の面、例えば曲面であってもよく、凹凸を備える面であってもよい。
【0034】
本発明では、面Cから面Bまでの領域において、面Cに垂直な直線距離が0.5mm間隔となるように設定した点を、面Cから順番に点P(1)、点P(2)、・・・点P(n)と定める。そして、それぞれの点の安定化剤濃度(mоl%)をSP(1)、SP(2)、・・・SP(n)と定める。ここで、nは、n≧((面Cと面B間との最短距離(mm))-2)/0.5を満たす整数である。
【0035】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、面C上の点P(1)の位置は任意に定めることができる。本発明においては、安定化剤濃度(mоl%)の最大値SPmaxと最小値SPminの差SPmax-SPminが0.3以上であり、かつ、ΔSP(m)の最大値ΔSPmaxが0.5未満である部分を有していればよく、最大値SPmaxと最小値SPminの差SPmax-SPminが0.3未満である、及び/又は、ΔSP(m)の最大値ΔSPmaxが0.5以上である部分を有していてもよい。
【0036】
面C上の点P(1)は、例えば面Cと側面との交点に位置することができる。面C上の点P(1)は、例えば面C上において面Bに最も近接した位置にあることができる。
【0037】
本発明においては、面Cの全体が、SPmax-SPminが0.3以上であり、かつ、下記式で定義されるΔSP(m)の最大値ΔSPmaxが0.5未満であることができる。
【0038】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体に含まれる安定化剤に特に制限はないが、入手が容易であること、優れた特性が得られることからイットリアとすることができる。その他の安定化剤として、着色剤としての効果も有する酸化エルビウム、酸化ネオジム、酸化プラセオジム、酸化テルビウムなどを用いることができる。
【0039】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、固溶していない安定化剤化合物及び/又は着色剤化合物を含んでいてもよい。具体的には、本発明に用いられる安定化剤化合物及び/又は着色剤化合物は、酸化物、ハロゲン化合物、硝酸塩、硫酸塩、有機酸塩のいずれかからなる水溶性化合物であることが好ましい。水溶性の安定化剤化合物及び/又は着色剤化合物の具体例としては、塩化イットリウム、硝酸イットリウム、酢酸イットリウム、カルボン酸イットリウム、硫酸イットリウム、炭酸イットリウム、塩化エルビウム、硝酸エルビウム、酢酸エルビウム、カルボン酸エルビウム、硫酸エルビウム、炭酸エルビウム、塩化ネオジム、硝酸ネオジム、酢酸ネオジム、カルボン酸ネオジム、硫酸ネオジム、炭酸ネオジム、塩化プラセオジム、硝酸プラセオジム、酢酸プラセオジム、カルボン酸プラセオジム、硫酸プラセオジム、炭酸プラセオジム、塩化テルビウム、硝酸テルビウム、酢酸テルビウム、カルボン酸テルビウム、硫酸テルビウム、炭酸テルビウム、塩化鉄、硝酸鉄、酢酸鉄、塩化ニッケル、硝酸ニッケル、酢酸ニッケルなどが挙げられる。
【0040】
水溶性の安定化剤化合物及び着色剤化合物の中で、分解温度が低くかつ、焼成炉の汚染が少ない観点から、有機酸塩が特に好ましい。具体的には、酢酸イットリウム、炭酸イットリウム等が挙げられる。有機酸塩の分解温度は、ハロゲン化合物、硝酸塩、硫酸塩等の無機塩と比較して、低い温度で分解する。分解温度が高い場合、焼結過程において気孔を残存させてしまうため、ジルコニア完全焼結体に十分な透光性や強度を付与させることが困難となる。
【0041】
本発明においては、細孔内に、安定化剤化合物及び/又は着色剤化合物が担持されていることができる。安定化剤化合物及び/又は着色剤化合物を細孔内に担持することにより、透光性を向上させたり、所望の色調を付与することができる。
【0042】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、安定化剤及び着色剤以外の添加物を含んでいてもよい。添加物の具体的な例としては、アルミニウム、ガリウム、ランタン、ニオブ、タンタル等の化合物が挙げられる。これらの添加物の添加により、焼結挙動をコントロールしたり、透光性を低下させたり、破壊靭性を向上させたりすることができる。これらの添加剤は、ジルコニア中に固溶していてもよいし、固溶していなくてもよい。
【0043】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造に用いられるジルコニア粉末は、公知のジルコニア粉末をなんら制限なく用いることができる。具体的には、本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造に用いられるジルコニア粉末は、加水分解法により作製されたものが好ましい。より詳しくは、ジルコニウム塩とイットリウム化合物を混合溶解した溶液を加熱することにより、加水分解反応を行い、生成したゾルを乾燥、焼成してジルコニア粉末を作製し、粉砕及び造粒する方法である。また、この粉砕工程の前にアルミニウム化合物を混合することで、アルミナを含有したジルコニア粉末が作製される。
【0044】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造に用いられるジルコニア粉末の一次粒子径は、1~500nmとすることができる。一次粒子径が1nm未満の場合、ジルコニア焼結体の透光性は向上するものの十分な強度を付与することが困難となる傾向にある。一方、一次粒子径が500nmより大きい場合、ジルコニア焼結体に十分な強度を付与することが困難となる傾向にある。
【0045】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、着色剤を含むことができる。具体的には、黄色を付与するための酸化鉄や、赤色を付与するためのエルビウム等が挙げられる。また、これらの着色剤に加えて、色調調整のためにコバルト、マンガン、クロムなどの元素を含有した着色剤を併用しても何ら問題はない。本発明が着色剤を含むことで容易に歯牙色に着色することができる。
【0046】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体を1550℃において焼結させたジルコニア焼結体の相対密度は、理論密度の98%以上とすることができる。相対密度は、測定密度/理論密度により求められる。相対密度が98%未満であれば強度や透光性が低下する傾向にある。
【0047】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体の結晶相は、正方晶及び/又は立方晶であることができる。結晶相が、単斜晶である場合、ジルコニア完全焼結後に十分な透光性を付与することができない場合がある。
【0048】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の製造方法であれば何ら問題なく使用できる。具体的には、ジルコニア粉末をプレス成形によって成形したものが好ましい。さらに、着色剤濃度や安定化剤濃度などの組成の異なるジルコニア粉末を多段階的にプレス成形し、多層成形することもできる。なお本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、積層構造を有さないものとすることができる。
【0049】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、プレス成形後に、冷間静水等方圧加圧法(CIP処理)により等方加圧を施したものとすることができる。
【0050】
本発明におけるCIP処理の最大負荷圧力は、50MPa以上とすることができる。最大負荷圧力が50MPa未満の場合、ジルコニア焼結体に十分な透光性と強度を付与できないことがある。
【0051】
本発明におけるCIP処理の最大負荷圧力時の保持時間は、特に制限はないが、通常0~150秒とすることができ、0~60秒間とすることができる。
【0052】
CIP処理における加圧開始から減圧終了までの一連の工程にかかる時間に特に制限はないが、通常30秒~10分とすることができ、3分~7分とすることができる。時間が短すぎると成型体が破壊されることがあり、長すぎると生産効率が悪くなるため好ましくない。
【0053】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体の仮焼成温度は、800~1200℃が好ましい。仮焼成温度が800℃未満の場合、ビッカース硬度及び/又は曲げ強さが低くなりすぎるため、切削加工時にチッピングや破折が生じやすい傾向にある。一方、仮焼成温度が1200℃以上の場合、ビッカース硬度及び/又は曲げ強さが強くなりすぎるため、切削機のミリングバーの消耗が激しくなり、ランニングコストが高くなる傾向にある。
【0054】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造工程には、金属イオンを含む含浸液を浸透させる工程を含むことができる。具体的には、ジルコニア仮焼成体に含浸液を少なくとも1種類浸透させ、乾燥、脱脂等の工程により金属化合物をジルコニア細孔内に担持させる。この金属化合物は金属イオンの種類により、安定化剤、着色剤、焼結挙動調整剤などとして機能する。これにより、歯科切削加工用ジルコニア被切削体の所望の部位に所望の透光性、色調、機械特性等を付与できる。含浸液は2種類以上を使用することができる。この場合、含浸液間でのイオン拡散により、ジルコニア被切削体に滑らかな透光性のグラデーション、色調のグラデーション及び/又は機械特性のグラデーションを付与できる。また、イオン拡散のために、金属イオンを含まない含浸液を使用してもよい。
【0055】
前記金属イオンの内、安定化剤として機能するものの例として、イットリウムイオン、エルビウムイオン、イッテルビウムイオン、マグネシウムイオン、プラセオジムイオン、ネオジムイオンなどが挙げられる。
【0056】
前記金属イオンの内、着色剤として機能するものの例として、鉄イオン、ニッケルイオン、コバルトイオンなどが挙げられる。
【0057】
前記金属イオンの内、焼結挙動調整剤として機能するものの例として、アルミニウムイオン、ガリウムイオン、ランタンイオンなどが挙げられる。
【0058】
含浸液に含まれる金属イオンの少なくとも一つは希土類金属イオンとすることができる。具体的な希土類金属イオンは、イットリウムイオンである。希土類金属イオンを含むことにより、ジルコニア焼結体の透光性を向上させたり、ジルコニア焼結体を着色したりすることが可能となる。金属イオンは希土類金属イオンのみとすることができる。
【0059】
含浸液に含まれる金属イオンの少なくとも一つは遷移金属イオンとすることができる。具体的な遷移金属イオンは、鉄イオンである。遷移金属イオンを含むことにより、ジルコニア焼結体を着色することが可能となる。金属イオンは遷移金属イオンのみとすることができる。
【0060】
含浸液に含まれる金属イオンの少なくとも一つはアルミニウムイオン、ガリウムイオン及びインジウムイオンのいずれかとすることができる。アルミニウムイオン、ガリウムイオン及びインジウムイオンのいずれかを含むことにより、ジルコニア焼結体の焼結性を向上させたり、透光性を向上させたりすることが可能となる。金属イオンはアルミニウムイオン、ガリウムイオン及び/又はインジウムイオンのみとすることができる。金属イオンは希土類金属イオン、遷移金属イオン、アルミニウムイオン、ガリウムイオン及び/又はインジウムイオンのみとすることができる。
【0061】
前記含浸液の金属イオン濃度に特に制限はないが、例えばイットリウムイオンの場合、2.0mass%~10.0mass%程度とすることができる。2.0mass%未満の場合、担持されるイットリウム量が少なく、十分な特性が得られないことがある。10.0mass%より多い場合、担持されるイットリウム量が多く、物性に悪影響を及ぼすことがある。最適な金属担持量は、金属の種類や所望の特性により異なるため、含浸液の金属イオン濃度は、所望する金属担持量や、金属イオン源の溶媒への溶解度から決定することが好ましい。
【0062】
含浸液に用いる溶媒に特に制限はないが、入手、取り扱いが容易である点から水を用いることが好ましい。
【0063】
含浸液には、pHを制御する目的で酸若しくは塩基、pH調整剤を添加してもよい。用いる酸や塩基、pH調整剤に特に制限はないが、歯科切削加工用ジルコニア被切削体に残留物を残さない点から、酢酸、クエン酸等の有機酸やアンモニア水などを用いることができる。
【0064】
含浸液には、沈殿剤を含んでもよい。沈殿剤は、含浸液の浸透後に熱処理等の操作を行うことにより金属化合物を沈殿させるものであり、具体的には尿素、ヘキサメチレンテトラミンなどが挙げられる。入手、取り扱いが容易であることから尿素とすることができる。これにより、金属化合物の偏析を抑制することができる。
【0065】
含浸液には、種々の添加剤を含んでもよい。添加剤の例としては、含浸液の粘度を調整するグリコール類、ポリマー等や、金属イオンの安定性を高めるキレート剤が挙げられる。前者は具体的にはエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等であり、後者は具体的にはクエン酸、エチレンジアミン四酢酸アンモニウム等である。
【0066】
含浸液をジルコニア仮焼成体に浸透させる方法としては、含浸液が歯科切削加工用ジルコニア被切削体の細孔内に侵入できるものであれば、特に制限なく用いることができる。簡便で好ましい方法は、含浸液の中に、歯科切削加工用ジルコニア被切削体の全体及び/又は一部を浸漬させる方法である。この場合、毛細管現象により含浸液を内部に浸透させることができる。浸漬させる時間は、3分以上であり、10分から10時間が好ましい。
【0067】
含浸液は、歯科切削加工用ジルコニア被切削体の全体に浸透させてもよいし、任意の部分のみに浸透させてもよい。任意の部分のみに含浸させる方法に特に制限はなく、例としては含浸液の重量や体積の制御や含浸時間の制御が挙げられる。
【0068】
一つの歯科切削加工用ジルコニア被切削体に対して、複数の含浸液を使用してもよい。具体的な例としては、一端から一種類目の含浸液を浸透させた後、同一端若しくは他端から二種類目の含浸液を含浸させるなどである。
【0069】
含浸液を含浸させる際の雰囲気に特に制限はなく、大気、不活性ガスなどを常圧、減圧、加圧条件で用いることができる。特別な設備を必要としないことから、常圧大気中で行うことが好ましい。
【0070】
浸透工程の後、乾燥工程を有することができる。乾燥工程は金属化合物を析出させた歯科切削加工用ジルコニア被切削体を乾燥させる工程である。乾燥温度は50~200℃であり、時間は15分から20時間とすることができる。乾燥後において、十分に溶媒を気化させることができる。場合によってはこの乾燥工程に続いて熱処理工程を進めることもできる。乾燥工程は熱処理工程に含めることもできる。
【0071】
このようにして得られた金属化合物を析出し担持させた歯科切削加工用ジルコニア被切削体には、溶媒や未反応物、副生成物などが残留しているため熱処理を行うことができる。熱処理方法に特に制限はないが、特別な設備を必要としないことから常圧大気中での熱処理とすることができる。熱処理温度に特に制限はないが、500℃~1200℃とすることができる。熱処理により、不純物の除去、有機物の除去、臭いの除去をすることができる。
【0072】
このような製造方法により、本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体が得られる。得られた歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、必要に応じて所望の大きさに切断、切削、表面研磨が施される。
【0073】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体を完全焼結させる方法としては、特に限定はないが、簡便で好ましい方法は、常圧で焼成することである。焼成温度は、特に限定はないが、1450~1600℃とすることができ、1500~1600℃とすることができる。焼成温度での係留時間は、特に限定はないが、1分間~12時間とすることができ、2~4時間とすることができる。昇温速度は、特に限定はないが、1~400℃/minとすることができ3~100℃/hとすることができる。
【0074】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体を用いて切削加工する補綴装置の種類は特に制限はなく、インレー、オンレー、べニア、クラウン、ブリッジ等のいずれの補綴装置でも何等問題はない。そのため、補綴装置を切削加工により作製する歯科切削加工用ジルコニア被切削体の形状も特に制限はなく、インレー、オンレー、べニア、クラウン等に対応したブロック形状やブリッジに対応したディスク形状など、いずれの形状の歯科切削加工用ジルコニア被切削体でも用いることができる。
【実施例0075】
以下、実施例により本発明をより詳細に、かつ具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0076】
(ジルコニア仮焼成体1の作製)
5.5mol%の固溶したイットリウムを含むジルコニア粉末486gを金型(φ100mm)に充填し、プレス成型(面圧:50MPa)を行い、成形体を得た。得られた成形体をCIP処理(最大負荷圧力:200MPa、保持時間:1分間)した後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、直径98.5mm×厚さ18mmのジルコニア仮焼成体を得た。
【0077】
(ジルコニア仮焼成体2の作製)
4.0mol%の固溶したイットリウム含むジルコニア粉末を用いた以外はジルコニア仮焼成体1と同様にしてジルコニア仮焼成体を得た。
【0078】
(ジルコニア仮焼成体3の作製)
3.0mol%の固溶したイットリウム含むジルコニア粉末を用いた以外はジルコニア仮焼成体1と同様にしてジルコニア仮焼成体を得た。
【0079】
(ジルコニア仮焼成体4の作製)
金型(φ100mm)に、4.0mol%の固溶したイットリウム含むジルコニア粉末170gを充填し、上面をすりきって平坦にならした。次に、4.4mol%の固溶したイットリウム含むジルコニア粉末73gを充填し、上面をすりきって平坦にならした。次に、4.8mol%の固溶したイットリウム含むジルコニア粉末50gを充填し、上面をすりきって平坦にならした。次に、5.1mol%の固溶したイットリウム含むジルコニア粉末50gを充填し、上面をすりきって平坦にならした。次に、5.5mol%の固溶したイットリウム含むジルコニア粉末143gを充填し、上面をすりきって平坦にならした。次いでプレス成形(面圧:50MPa)を行い、成形体を得た。さらに、成形体をCIP処理(最大負荷圧力:200MPa、開放後負荷圧力:0MPa、保持時間:1分間)した。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、ジルコニア仮焼結体を作製した。
【0080】
(ジルコニア仮焼成体5の作製)
金型(φ100mm)に、3.0mol%の固溶したイットリウム含むジルコニア粉末170gを充填し、上面をすりきって平坦にならした。次に、3.6mol%の固溶したイットリウム含むジルコニア粉末73gを充填し、上面をすりきって平坦にならした。次に、4.3mol%の固溶したイットリウム含むジルコニア粉末50gを充填し、上面をすりきって平坦にならした。次に、4.9mol%の固溶したイットリウム含むジルコニア粉末50gを充填し、上面をすりきって平坦にならした。次に、5.5mol%の固溶したイットリウム含むジルコニア粉末143gを充填し、上面をすりきって平坦にならした。次いでプレス成形(面圧:50MPa)を行い、成形体を得た。さらに、成形体をCIP処理(最大負荷圧力:200MPa、開放後負荷圧力:0MPa、保持時間:1分間)した。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、ジルコニア仮焼結体を作製した。
【0081】
(ジルコニア仮焼成体6の作製)
金型(φ100mm)に、4.6mol%の固溶したイットリウム含むジルコニア粉末170gを充填し、上面をすりきって平坦にならした。次に、4.8mol%の固溶したイットリウム含むジルコニア粉末73gを充填し、上面をすりきって平坦にならした。次に、5.1mol%の固溶したイットリウム含むジルコニア粉末50gを充填し、上面をすりきって平坦にならした。次に、5.3mol%の固溶したイットリウム含むジルコニア粉末50gを充填し、上面をすりきって平坦にならした。次に、5.5mol%の固溶したイットリウム含むジルコニア粉末143gを充填し、上面をすりきって平坦にならした。次いでプレス成形(面圧:50MPa)を行い、成形体を得た。さらに、成形体をCIP処理(最大負荷圧力:200MPa、開放後負荷圧力:0MPa、保持時間:1分間)した。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、ジルコニア仮焼結体を作製した。
【0082】
(ジルコニア仮焼成体7の作製)
金型(φ100mm)に、3.0mol%の固溶したイットリウム含むジルコニア粉末170gを充填し、上面をすりきって平坦にならした。次に、3.3mol%の固溶したイットリウム含むジルコニア粉末32gを充填し、上面をすりきって平坦にならした。次に、3.6mol%の固溶したイットリウム含むジルコニア粉末32gを充填し、上面をすりきって平坦にならした。次に、3.9mol%の固溶したイットリウム含むジルコニア粉末32gを充填し、上面をすりきって平坦にならした。次に、4.2mol%の固溶したイットリウム含むジルコニア粉末32gを充填し、上面をすりきって平坦にならした。次に、4.5mol%の固溶したイットリウム含むジルコニア粉末32gを充填し、上面をすりきって平坦にならした。次に、4.8mol%の固溶したイットリウム含むジルコニア粉末32gを充填し、上面をすりきって平坦にならした。次に、5.1mol%の固溶したイットリウム含むジルコニア粉末32gを充填し、上面をすりきって平坦にならした。次に、5.4mol%の固溶したイットリウム含むジルコニア粉末32gを充填し、上面をすりきって平坦にならした。次に、5.7mol%の固溶したイットリウム含むジルコニア粉末32gを充填し、上面をすりきって平坦にならした。次に、6.0mol%の固溶したイットリウム含むジルコニア粉末32gを充填し、上面をすりきって平坦にならした。次いでプレス成形(面圧:50MPa)を行い、成形体を得た。さらに、成形体をCIP処理(最大負荷圧力:200MPa、開放後負荷圧力:0MPa、保持時間:1分間)した。その後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、ジルコニア仮焼結体を作製した。
【0083】
(含浸液の作製)
表1に含浸液の組成を示す。表1の組成に従い、イオン交換水に金属塩及び及び添加剤を加え、1時間攪拌することで100gの溶液1~10を作製し、含浸液とした。
【0084】
【0085】
(ジルコニア仮焼成体への含浸液の含浸)
水平な作業台の上にジルコニア仮焼成体を置き、ジルコニア仮焼成体の天面上に含浸液が保持できるように治具を取り付けた。ジルコニア仮焼成体の天面に含浸液(I)(溶液(I))を表2に記載の規定量注ぎ、その全量がジルコニア仮焼成体に吸収されるまで静置した。次いで含浸液(II)(溶液(II))を表2に記載の規定量注ぎ、その全量がジルコニア仮焼成体に吸収されるまで静置した。次いで含浸液(III)(溶液(III))を表2に記載の規定量注ぎ、その全量がジルコニア仮焼成体に吸収されるまで静置した。以上の操作を全ての含浸液について行った。実施例11及び比較例1については、含浸液の含浸を行っていない。
【0086】
(含浸後の熱処理)
含浸液(溶液)に尿素を含む場合は、含浸液の含浸後に熱処理を行った。含浸後のジルコニア仮焼成体を樹脂製の袋に入れ、脱気した。樹脂製の袋に入れ、脱気されたジルコニア仮焼成体を乾燥機内に設置し、95℃で15時間熱処理して金属化合物を析出させた。熱処理後、ジルコニア仮焼成体を樹脂製の袋から取り出し、乾燥(120℃、1時間)させて金属化合物を担持したジルコニア仮焼成体を得た。
【0087】
(残留有機物の除去)
含浸後及び/又は熱処理後のジルコニア仮焼成体を電気炉で熱処理(500℃、30分間)して、金属化合物が細孔内に担持された歯科切削加工用ジルコニア被切削体を得た。仮焼成体5についても、電気炉で熱処理(500℃、30分間)を行った。
【0088】
(含浸繰り返し)
実施例2,4及び比較例2は前記含浸工程から残留有機物の除去を複数回繰り返した。
【0089】
(試験片の作製)
歯科用切削加工機(ローランド社製、DWX51D)を用いて、含浸時に含浸液を注いだ面を面B、反対側の面を面Aとし、面Aから面Bに向かって1.0mmの位置の面Aと平行な面を面Cとした。面Cが試験体の上面になるように、直径12mm×厚さ2.0mmの試験体を作製した。同様にして、面Cから面Bに向かって0.5mm、1.0mm、1.5mm、4.0mm、4.5mm、5.0mm、5.5mm、8.0mm、8.5mm、9.0mm、9.5mm、12.0mm、12.5mm、13.0mm、13.5mm及び14.0mmの面が試験体の上面になるように直径12mm×厚さ2.0mmの試験体を作製した。なお、比較例1については含浸を行っておらず、面Aと面Bの区別が無いため、任意の面を面Aとし、同様に試験体を作製した。
【0090】
(安定化剤量の評価)
蛍光X線分析装置(リガク社製)を用いて、各試験体に含まれる酸化物換算の安定化剤(安定化剤酸化物:例Y2O3)のモル分率を測定した。本実施例及び比較例の範囲においては、イットリウム、プラセオジム、ネオジムが安定化剤として検出され、これらの安定化剤濃度を足して、各試験体の安定化剤濃度とした。測定は試験体の上下面について行い、それぞれの測定値をジルコニア仮焼成体における面Cからの各距離での安定化剤濃度とした。例えば面Cから面Bに向かって1.0mmにある面を上面とする試験体の場合、その上下面での安定化剤濃度は、面Cから面Bに向かって1.0mm及び3.0mmの位置における安定化剤濃度とみなせる。このようにして得られた安定化剤濃度は、面Cから順番に点P(1)、点P(2)、・・・点P(33)とし、そのうちの最大値をSPmax、最小値をSPminとした。また、点P(1)と点P(2)の差をΔSP(1)とし、全ての点Pについて同様にΔSP(2)、ΔSP(3)、・・・ΔSP(32)とし、その中の最大値をΔSPmaxとした。さらに、ΔSP(1)とΔSP(2)の差の絶対値をΔΔSP(1)とし、全てのΔSPについて同様にΔΔSP(2)、ΔΔSP(3)、・・・ΔΔSP(31)とした。
【0091】
(透光性の評価)
安定化剤濃度評価後の各試験体を、焼成炉にて完全焼結(焼成温度:1550℃、保持時間:1時間)させた。その後、平面研削盤にて各試験体の厚さ(1.0mm)を調整した。透光性の評価は、コントラスト比の測定により行った。コントラスト比は、分光測色計(コニカミノルタ社製)を用いて測定した。各試験体の下に白板を置いて測色した時のY値をYwとし、試験体の下に黒板を置いて測色した時のY値をYbとした。コントラスト比は、以下の式により算出した。
コントラスト比が、0に近づくほど、その材料は透明であり、コントラスト比が1に近づくほどその材料は不透明である。
コントラスト比=(Yb/Yw) (式)
【0092】
(外観評価)
歯科切削加工用ジルコニア被切削体から、面Aに垂直な板状試験体(18mm×18mm×2.0mm)を切り出した。その試験体を焼成炉にて完全焼結(焼成温度:1550℃、保持時間:1時間)させた。その後、平面研削盤にて試験体の厚さ(0.5mm)を調整した。得られた試験体の外観を目視で評価した。評価は5人の技工士が行い、最も多い評価結果を表2に示す。
AA:自然なグラデーションと天然歯に類似の透光性を有し、高い審美性が要求される症例にも十分使用できる。
A:自然なグラデーション及び/又は天然歯に類似の透光性を有し、高い審美性が要求される症例にもある程度使用できる。
B:ある程度自然なグラデーション及び/又は天然歯に類似の透光性を有し、高い審美性が要求される症例にも使用できる場合がある。
C:自然なグラデーションが得られない及び/又は天然歯に類似の透光性を有さず、高い審美性が要求される症例には使用できない。
【0093】
実施例及び比較例で作製した歯科切削加工用ジルコニア被切削体の特性試験結果を表2に示す。
【0094】
【0095】
実施例1~12はSPmax-SPminが0.3以上であり、かつ、ΔSP(m)の最大値ΔSPmaxが0.5未満であることから、自然なグラデーションと天然歯に類似の透光性を示し、高い審美性が求められる症例に適用可能であることを確認した。
【0096】
比較例1及び2はΔSPmaxが0.5以上であることから、透光性が変化する境界が視認できるなど自然なグラデーションが得られず、高い審美性が求められる症例に適用できないことを確認した。
【0097】
比較例3はSPmax-SPminが0.3未満であることから、透光性のグラデーションが確認できず、高い審美性が求められる症例に適用できないことを確認した。
本発明は、特殊な装置を必要とせず、天然歯に類似の透光性グラデーションと色調グラデーションをジルコニア完全焼結体に付与させることができる歯科切削加工用ジルコニア被切削体にかかる発明であり、歯科分野において、利用可能な技術である。