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特開2024-64858ジルコニアのΔCtotalが5.0以下であるジルコニア被切削体およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064858
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】ジルコニアのΔCtotalが5.0以下であるジルコニア被切削体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/818 20200101AFI20240507BHJP
   A61K 6/15 20200101ALI20240507BHJP
   C04B 35/488 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
A61K6/818
A61K6/15
C04B35/488
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173777
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(74)【代理人】
【識別番号】100173657
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬沼 宗一郎
(72)【発明者】
【氏名】野中 和理
(72)【発明者】
【氏名】高橋 周平
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA02
4C089BA05
4C089CA05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】複数の含浸液をジルコニア仮焼体に含浸させて、完全焼結後に透光性のグラデーション、色調のグラデーション、及び強度のグラデーションのいずれか1以上を有する歯科切削加工用ジルコニア被切削体を製造する場合において、当該歯科切削加工用ジルコニア被切削体から作製される歯科補綴物の適合性の悪化を抑制する製造方法及び完全焼結後に透光性のグラデーション、色調のグラデーション、及び強度のグラデーションのいずれか1以上を有し、かつ、作製される歯科補綴物の適合性の悪化を抑制する歯科切削加工用ジルコニア被切削体を提供する。
【解決手段】製造方法において、少なくとも二種類の含浸液をジルコニア仮焼体に含浸する工程を含み、含浸液の少なくとも一つにジルコニウム成分を含み、各含浸液に含まれる金属イオン濃度(質量%)の合計をCtоtalとしたとき、各含浸液間において、Ctоtalの差ΔCtоtalを5.0以下とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
完全焼結後に透光性のグラデーション、色調のグラデーション、及び強度のグラデーションのいずれか1以上を有する歯科切削加工用ジルコニア被切削体を製造する方法であって、
少なくとも二種類の含浸液をジルコニア仮焼体に含浸する工程を含み、
含浸液の少なくとも一つにジルコニウム成分を含み、
各含浸液に含まれる金属イオン濃度(質量%)の合計をCtоtalとしたとき、
各含浸液間において、Ctоtalの差ΔCtоtalが5.0以下である製造方法。
【請求項2】
含浸液を含浸させたジルコニア仮焼体を乾燥させる工程を含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
含浸液を含浸させたジルコニア仮焼体を脱脂する工程を含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記含浸液の少なくとも一つが遷移金属イオンを含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記含浸液の少なくとも一つが希土類金属イオンを含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記含浸液の少なくとも一つがアルミニウムイオン、ガリウムイオン及びインジウムイオンのいずれか1以上を含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記含浸液に含まれるジルコニウム成分が、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ酢酸ジルコニウム及び硝酸ジルコニルのいずれか1以上である請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記含浸液の少なくとも一つが尿素を含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
前記含浸液の少なくとも一つがグリコールを含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項10】
前記含浸液の少なくとも一つがヒドロキシ酸を含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項11】
前記ヒドロキシ酸がクエン酸、リンゴ酸及び乳酸のいずれか1以上である請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
歯科切削加工用ジルコニア被切削体であって、向かい合う二つの面の間において、一端から面間距離の50%までの区間を区間A、他端から面間距離の50%までの区間を区間Bとしたとき、区間A中に安定化剤元素の化合物が細孔内に担持された領域Aを含み、区間B中にジルコニウム化合物が細孔内に担持された領域Bを含み、領域Aにおける金属イオンの濃度と領域Bにおける金属イオン濃度とが、及び/又は、領域Aにおける金属イオンの種類と領域Bにおける金属イオンの種類とが異なる歯科切削加工用ジルコニア被切削体。
【請求項13】
前記ジルコニウム化合物に含まれる安定化剤濃度が基材である歯科切削加工用ジルコニア被切削体の安定化剤濃度よりも低い請求項12に記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体。
【請求項14】
前記安定化剤元素が希土類金属である請求項12に記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体。
【請求項15】
前記希土類金属がイットリウムである請求項14に記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体。
【請求項16】
前記領域A及び前記領域Bの少なくとも一方の細孔内に着色元素の化合物が担持されている請求項12に記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体。
【請求項17】
前記着色元素が希土類金属である請求項16に記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体。
【請求項18】
前記着色元素が遷移金属である請求項16に記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体。
【請求項19】
前記領域A及び前記領域Bの少なくとも一方の細孔内にアルミニウム化合物、ガリウム化合物及びインジウム化合物のうちの少なくとも一つが担持されている請求項12に記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体。
【請求項20】
前記領域A及び前記領域Bの少なくとも一方の細孔内にニオブ化合物及びタンタル化合物のうちの少なくとも一つが担持されている請求項12に記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体。
【請求項21】
前記領域Aと前記領域Bの相対密度差が0.008未満である請求項12に記載の歯科切削加工用ジルコニア被切削体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科切削加工用ジルコニア被切削体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、歯科用CAD/CAMシステムを用いた切削加工により補綴装置を作製する技術が急速に普及してきている。これにより、ジルコニア、アルミナ、二ケイ酸リチウム等のセラミックス材料や、アクリルレジン、ハイブリッドレジン等のレジン材料で製造された被切削体を加工することで、容易に補綴装置を作製することが可能となってきている。
【0003】
特に、ジルコニアは、高い強度を有していることから様々な症例で臨床応用されている。一方、完全焼結したジルコニア(以下、ジルコニア完全焼結体)は、硬度が非常に高いため、歯科用CAD/CAMシステムを用いて切削加工することができない。そのため、歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、完全焼結させず低い焼成温度で仮焼し、切削加工可能な硬度に調整したものが用いられている。
【0004】
一般的な歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、ジルコニア粉末をプレス成形等により成形した後、800~1200℃で仮焼して製造されている。
【0005】
近年、色調や透光性を調整する目的で、歯科切削加工用ジルコニア被切削体に安定化剤や着色剤を含む溶液を塗布及び/又は含浸させる手法が広く用いられている。
【0006】
特許文献1には、安定化剤及び/又は着色剤を含む複数の溶液をジルコニア仮焼体に含浸させ、透光性及び/又は色調のグラデーションを得る方法が開示されている。この方法で作製されたジルコニア完全焼結体は、透光性と色調の自然なグラデーションを有する。しかしながらこの方法では、各溶液の金属イオン含有量が異なる場合、ジルコニア仮焼体の部位によって収縮率に差が生じ、焼結後の適合性が悪化する問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2018-15364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、複数の含浸液をジルコニア仮焼体に含浸させて、完全焼結後に透光性のグラデーション、色調のグラデーション、及び強度のグラデーションのいずれか1以上を有する歯科切削加工用ジルコニア被切削体を製造する場合において、当該歯科切削加工用ジルコニア被切削体から作製される歯科補綴物の適合性の悪化を抑制する製造方法及び完全焼結後に透光性のグラデーション、色調のグラデーション、及び強度のグラデーションのいずれか1以上を有し、かつ、作製される歯科補綴物の適合性の悪化を抑制する歯科切削加工用ジルコニア被切削体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、複数の含浸液をジルコニア仮焼体に含浸させて、完全焼結後に透光性のグラデーション、色調のグラデーション、及び強度のグラデーションのいずれか1以上を有する歯科切削加工用ジルコニア被切削体を製造する場合において、当該歯科切削加工用ジルコニア被切削体から作製される歯科補綴物の適合性の悪化を抑制する製造方法について検討した。その結果、少なくとも二種類の含浸液をジルコニア仮焼体に含浸させ、含浸液の少なくとも一つにジルコニウム成分を含み、各含浸液に含まれる金属イオン濃度(質量%)の合計をCtоtalとしたとき、各含浸液間において、Ctоtalの差ΔCtоtalが5.0以下であることが、ジルコニア完全焼結体の特性を悪化させずに、歯科補綴物の適合性の悪化を抑制するために特に重要であることを見出した。以下に本発明の詳細を記載する。
【0010】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法は、完全焼結後に透光性のグラデーション、色調のグラデーション、及び強度のグラデーションのいずれか1以上を有する歯科切削加工用ジルコニア被切削体を製造する方法であって、
少なくとも二種類の含浸液をジルコニア仮焼体に含浸する工程を含み、
含浸液の少なくとも一つにジルコニウム成分を含み、
各含浸液に含まれる金属イオン濃度(質量%)の合計をCtоtalとしたとき、
各含浸液間において、Ctоtalの差ΔCtоtalが5.0以下である。
【0011】
本発明においては、含浸液を含浸させたジルコニア仮焼体を乾燥させる工程を含むことができる。
【0012】
本発明においては、含浸液を含浸させたジルコニア仮焼体を脱脂する工程を含むことができる。
【0013】
本発明においては、含浸液の少なくとも一つが遷移金属イオンを含むことができる。
【0014】
本発明においては、含浸液の少なくとも一つが希土類金属イオンを含むことができる。
【0015】
本発明においては、含浸液の少なくとも一つがアルミニウムイオン、ガリウムイオン及びインジウムイオンのいずれか1以上を含むことができる。
【0016】
本発明においては、含浸液に含まれるジルコニウム成分が、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ酢酸ジルコニウム及び硝酸ジルコニルのいずれか1以上であることができる。
【0017】
本発明においては、含浸液の少なくとも一つが尿素を含むことができる。
【0018】
本発明においては、含浸液の少なくとも一つがグリコールを含むことができる。
【0019】
本発明においては、含浸液の少なくとも一つがヒドロキシ酸を含むことができる。
【0020】
本発明においては、ヒドロキシ酸がクエン酸、リンゴ酸及び乳酸のいずれか1以上であることができる。
【0021】
本発明はまた、歯科切削加工用ジルコニア被切削体であって、向かい合う二つの面の間において、一端から面間距離の50%までの区間を区間A、他端から面間距離の50%までの区間を区間Bとしたとき、区間A中に安定化剤元素の化合物が細孔内に担持された領域A含み、区間B中にジルコニウム化合物が細孔内に担持された領域Bを含み、領域Aにおける金属イオンの濃度と領域Bにおける金属イオン濃度とが、及び/又は、領域Aにおける金属イオンの種類と領域Bにおける金属イオンの種類とが異なる歯科切削加工用ジルコニア被切削体を提供する。
【0022】
本発明においては、ジルコニウム化合物に含まれる安定化剤濃度が基材である歯科切削加工用ジルコニア被切削体の安定化剤濃度よりも低いことができる。
【0023】
本発明においては、安定化剤元素が希土類金属であることができる。
【0024】
本発明においては、希土類金属がイットリウムであることができる。
【0025】
本発明においては、領域A及び領域Bの少なくとも一方の細孔内に着色元素の化合物が担持されていることができる。
【0026】
本発明においては、着色元素が希土類金属であることができる。
【0027】
本発明においては、着色元素が遷移金属であることができる。
【0028】
本発明においては、領域A及び領域Bの少なくとも一方の細孔内にアルミニウム化合物、ガリウム化合物のうちの少なくとも一つが担持されていることができる。
【0029】
本発明においては、領域A及び領域Bの少なくとも一方の細孔内にニオブ化合物、タンタル化合物のうちの少なくとも一つが担持されていることができる。
【0030】
本発明においては、領域Aと領域Bの相対密度差が0.008未満であることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、複数の含浸液をジルコニア仮焼体に含浸させて、完全焼結後に透光性のグラデーション、色調のグラデーション、及び強度のグラデーションのいずれか1以上を有する歯科切削加工用ジルコニア被切削体を製造する場合において、当該歯科切削加工用ジルコニア被切削体から作製される歯科補綴物の適合性の悪化を抑制する製造方法及び完全焼結後に透光性のグラデーション、色調のグラデーション、及び強度のグラデーションのいずれか1以上を有し、かつ、作製される歯科補綴物の適合性の悪化を抑制する歯科切削加工用ジルコニア被切削体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の構成要件について具体的に説明する。本発明は、完全焼結後に透光性のグラデーション、色調のグラデーション、及び強度のグラデーションのいずれか1以上を有する歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法であって、少なくとも二種類の含浸液をジルコニア仮焼体に含浸する工程を含み、含浸液の少なくとも一つにジルコニウム成分を含み、各含浸液に含まれる金属イオン濃度(質量%)の合計をCtоtalとしたとき、
各含浸液間において、Ctоtalの差ΔCtоtalが5.0以下であることを特徴としている。
【0033】
ΔCtоtalは4.0以下であると好ましく、2.0以下であるとより好ましい。ΔCtоtalが5.0を超えると、作製された歯科補綴物の適合性が悪化する傾向にある。ΔCtоtalが4.0以下であると焼結後にわずかな修正のみで補綴物を支台歯に適合させることができ、2.0以下の場合には、焼結後の修正をほとんどせずに補綴物を支台歯に適合させることができる。
【0034】
本発明における金属イオンは、溶媒に溶解できるものであれば特に制限なく用いることができる。例としては、ジルコニアの安定化剤となるイットリウムイオンや、着色成分として用いられるプラセオジムイオン、ネオジムイオン、テルビウムイオン、エルビウムイオン、鉄イオン、焼結性を制御する目的で使用されるアルミニウムイオン、ガリウムイオン、インジウムイオン、破壊靭性を向上する目的で使用されるニオブイオン、タンタルイオンなどが具体的に挙げられる。
【0035】
本発明における安定化剤は、ジルコニア結晶中に固溶し、ジルコニアの正方晶若しくは立方晶を安定化させる酸化物及び/又は酸化物中の金属イオンを指す。
【0036】
本発明における着色剤は、焼結後のジルコニアを着色させる酸化物及び/又は酸化物中の金属イオンを指す。
【0037】
安定化剤の中には、ジルコニアを着色させる酸化物又は金属イオンがある。例としてエルビウムイオンやネオジムイオンが挙げられる。これらは安定化剤であり、かつ着色剤である。
【0038】
含浸液に含まれる金属イオンの少なくとも一つは遷移金属イオンとすることができる。具体的な遷移金属イオンは、鉄イオンである。遷移金属イオンを含むことにより、ジルコニア焼結体を着色することが可能となる。金属イオンは遷移金属イオンのみとすることができる。
【0039】
含浸液に含まれる金属イオンの少なくとも一つは希土類金属イオンとすることができる。具体的な希土類金属イオンは、イットリウムイオンである。希土類金属イオンを含むことにより、ジルコニア焼結体の透光性を向上させたり、ジルコニア焼結体を着色したりすることが可能となる。金属イオンは希土類金属イオンのみとすることができる。
【0040】
含浸液に含まれる金属イオンの少なくとも一つはアルミニウムイオン、ガリウムイオン及びインジウムイオンのいずれか1以上とすることができる。アルミニウムイオン、ガリウムイオン及びインジウムイオンのいずれかを含むことにより、ジルコニア焼結体の焼結性を向上させたり、透光性を向上させたりすることが可能となる。金属イオンはアルミニウムイオン、ガリウムイオン及び/又はインジウムイオンのみとすることができる。金属イオンは希土類金属イオン、遷移金属イオン、アルミニウムイオン、ガリウムイオン及び/又はインジウムイオンのみとすることができる。
【0041】
本発明における金属イオン源は、分解温度が低くかつ、焼成炉の汚染が少ない観点から、金属イオン有機酸塩であることが好ましい。例としては酢酸塩、クエン酸塩などが挙げられる。有機酸塩の分解温度は、ハロゲン化合物、硝酸塩、硫酸塩等の無機塩と比較して、低い温度で分解する。分解温度が高い場合、焼結過程において気孔を残存させてしまうため、ジルコニア完全焼結体に十分な透光性や強度を付与させることが困難な場合がある。
【0042】
本発明における含浸液の金属イオン濃度に特に制限はない。金属イオン濃度は、所望する金属担持量や、金属イオン源の溶媒への溶解度から決定することが好ましい。
【0043】
本発明における含浸液に用いる溶媒に特に制限はないが、入手、取り扱いが容易である点から水を用いることが好ましい。
【0044】
本発明における含浸液には、pHを制御する目的で酸若しくは塩基、pH調整剤を添加してもよい。用いる酸や塩基、pH調整剤に特に制限はないが、歯科切削加工用ジルコニア被切削体に残留物を残さない点から、酢酸、クエン酸等の有機酸やアンモニア水などを用いることができる。
【0045】
含浸液に含まれるジルコニウム成分は、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ酢酸ジルコニウム及び硝酸ジルコニルのいずれか1以上とすることができる。このようなジルコニウム成分は、入手及び取り扱いが容易である。
【0046】
含浸液には、沈殿剤を含んでもよい。沈殿剤は、含浸液の浸透後に熱処理等の操作を行うことにより金属化合物を沈殿させるものであり、具体的には尿素、ヘキサメチレンテトラミンなどが挙げられる。入手、取り扱いが容易であることから尿素とすることができる。これにより、金属化合物の偏析を抑制することができる。
【0047】
本発明における含浸液中の沈殿剤量は、含浸液内の金属イオン全量を析出させられる量であることが好ましい。沈殿剤量が少なくなると、金属イオン全量を析出させるまでの時間が長くなり、沈殿剤量が多くなると金属イオン全量を析出させるまでの時間が短くなる傾向にあるが、いずれの場合においても、本発明の効果に影響はない。沈殿剤量が含浸液内の金属イオン全量を析出させられる量より少ない場合、金属イオンが全量析出せず、その後の乾燥工程で偏析することがあるため好ましくない。沈殿剤量が過剰である場合は本発明の効果には影響はないが、析出工程後に多量の沈殿剤が残留するため好ましくない。
【0048】
含浸液には、種々の添加剤を含んでもよい。添加剤の例としては、含浸液の粘度を調整するグリコール類、ポリマー等や、金属イオンの安定性を高めるキレート剤が挙げられる。前者は具体的にはエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等であり、後者は具体的にはクエン酸、エチレンジアミン四酢酸アンモニウム等である。
【0049】
含浸液に含まれるジルコニウム成分は、ヒドロキシ酸を含むことができる。ヒドロキシ酸は例えば、クエン酸、リンゴ酸及び乳酸とすることができる。このようなヒドロキシ酸を含むことにより、乾燥後の金属化合物の偏析を抑制することができる。
【0050】
含浸液をジルコニア仮焼体に浸透させる方法としては、ジルコニア仮焼体内における含浸液の位置及び量を制御できるものであれば、特に制限なく用いることができる。簡便で好ましい方法は、一端から一種類目の含浸液を規定量浸透させた後、同一端若しくは他端から二種類目の含浸液を規定量含浸させるなどである。
【0051】
含浸液を含浸させる際の雰囲気に特に制限はなく、大気、不活性ガスなどを常圧、減圧、加圧条件で用いることができる。特別な設備を必要としないことから、常圧大気中で行うことが好ましい。
【0052】
含浸液の金属イオン濃度に特に制限はないが、例えばイットリウムイオンの場合、2.0mass%~10.0mass%程度とすることができる。2.0mass%未満の場合、担持されるイットリウム量が少なく、十分な特性が得られないことがある。10.0mass%より多い場合、担持されるイットリウム量が多く、物性に悪影響を及ぼすことがある。最適な金属担持量は、金属の種類や所望の特性により異なるため、含浸液の金属イオン濃度は、所望する金属担持量や、金属イオン源の溶媒への溶解度から決定することが好ましい。
【0053】
含浸液をジルコニア仮焼成体に浸透させる方法としては、含浸液が歯科切削加工用ジルコニア被切削体の細孔内に侵入できるものであれば、特に制限なく用いることができる。簡便で好ましい方法は、含浸液の中に、歯科切削加工用ジルコニア被切削体の全体及び/又は一部を浸漬させる方法である。この場合、毛細管現象により含浸液を内部に浸透させることができる。浸漬させる時間は、3分以上であり、10分から10時間が好ましい。
【0054】
複数の含浸液を使用する具体的な例としては、一端から一種類目の含浸液を浸透させた後、同一端若しくは他端から二種類目の含浸液を含浸させるなどである。
【0055】
浸透工程の後、乾燥工程を有することができる。乾燥工程は金属化合物を析出させた多孔質ジルコニア成形体を乾燥させる工程である。乾燥温度は50~200℃であり、時間は15分から20時間とすることができる。乾燥後において、十分に溶媒を気化させることができる。場合によってはこの乾燥工程に続いて熱処理工程を進めることもできる。乾燥工程は熱処理工程に含めることもできる。
【0056】
浸透工程の後、脱脂工程を有することができる。脱脂工程は、含浸液に含まれる有機物などの不要な成分を除去する工程である。脱脂温度は200~600℃であり、時間は50時間から200時間とすることができる。脱脂により不要な成分を完全に除去させることができる。場合によってはこの脱脂工程に続いて熱処理工程を進めることもできる。脱脂工程は熱処理工程に含めることもできる。
【0057】
含浸液に沈殿剤を含む場合は、含浸後に、沈殿剤を分解させ金属イオンを含む化合物を析出させる析出工程を含むことが好ましい。
【0058】
沈殿剤を分解する方法に特に制限はない。例としては、加熱による加水分解や酵素による加水分解が挙げられ、簡便であることから加熱による加水分解が好ましい。
【0059】
加熱による加水分解の方法は、一定の温度を保持できるものであれば特に制限はない。例としては恒温器、乾燥機、ウォーターバス、オイルバスを用いる方法が挙げられる。
【0060】
加熱による加水分解時に、溶媒が蒸発することを防ぐため、ジルコニア仮焼体を密閉することが好ましい。その方法に特に制限はないが、例としては樹脂シートで覆い、場合により脱気する方法が挙げられる。
【0061】
加熱による加水分解の温度は、沈殿剤の分解温度以上であれば特に制限はないが、低すぎると金属化合物が全量析出するまでに長時間の加熱処理が必要となるため好ましくない。また、溶媒の沸点を超える温度であると、加熱処理中に溶媒が蒸発し、担持金属化合物が偏析するため好ましくない。
【0062】
加熱による加水分解に要する時間は、金属イオン濃度、沈殿剤濃度、加熱処理温度などにより異なるため、適宜調整する必要があるが、一般的には10分から数日間程度である。好ましくは10分から24時間である。
【0063】
このようにして得られた金属化合物を析出し担持させたジルコニア仮焼体には、溶媒や未反応物、副生成物などが残留しているため熱処理を行うことができる。熱処理方法に特に制限はないが、特別な設備を必要としないことから常圧大気中での熱処理とすることができる。熱処理温度に特に制限はないが、500℃~1200℃とすることができる。熱処理により、不純物の除去、有機物の除去、臭いの除去をすることができる。
【0064】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体を製造する方法により、例えば本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体を製造することができる。具体的には、本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、向かい合う二つの面の間において、一端から面間距離の50%までの区間を区間A、他端から面間距離の50%までの区間を区間Bとしたとき、区間A中に安定化剤元素の化合物が細孔内に担持された領域A含み、区間B中にジルコニウム化合物が細孔内に担持された領域Bを含む歯科切削加工用ジルコニア被切削体である。特に、領域Aにおける金属イオンの濃度と領域Bにおける金属イオン濃度とが、及び/又は、領域Aにおける金属イオンの種類と領域Bにおける金属イオンの種類とが異なる歯科切削加工用ジルコニア被切削体である。
【0065】
ジルコニウム化合物に含まれる安定化剤濃度が基材である歯科切削加工用ジルコニア被切削体の安定化剤濃度よりも低くすることができる。
【0066】
安定化剤元素に特に制限はないが、歯科切削加工用ジルコニア被切削体に多く使用されていることから希土類金属とすることができ、中でもイットリウムとすることができる。その他の安定化剤元素として、着色剤としての効果も有する酸化エルビウム、酸化ネオジム、酸化プラセオジム、酸化テルビウムなどを用いることができる。
【0067】
領域A及び領域Bの少なくとも一方の細孔内に着色元素の化合物が担持されていることが好ましい。着色元素に特に指定はないが、希土類金属及び/又は遷移金属とすることができ、歯科用ジルコニアに多く使用されていることから、鉄、ニッケル、コバルト、マンガン、エルビウム、プラセオジム、テルビウム、ネオジム、バナジウムなどが好ましい。
【0068】
領域A及び領域Bの少なくとも一方の細孔内にアルミニウム化合物、ガリウム化合物のうちの少なくとも一つが担持されていてもよい。これらの化合物が担持されていることで、歯科切削加工用ジルコニア被切削体の焼結挙動を変化させることができる。
【0069】
領域A及び領域Bの少なくとも一方の細孔内にニオブ化合物、タンタル化合物のうちの少なくとも一つが担持されていてもよい。これらの化合物が担持されていることで、ジルコニア完全焼結体の破壊靭性を向上させることができる。
【0070】
領域Aと領域Bの相対密度差が0.008未満であることが好ましく、0.005未満であることがより好ましく、0.003未満であると特に好ましい。相対密度差が0.008を超えると、作製された歯科補綴物の適合性が悪化する傾向にある。
【0071】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造に用いられるジルコニア粉末は、公知のジルコニア粉末をなんら制限なく用いることができる。具体的には、本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造に用いられるジルコニア粉末は、加水分解法により作製されたものが好ましい。より詳しくは、ジルコニウム塩とイットリウム化合物を混合溶解した溶液を加熱することにより、加水分解反応を行い、生成したゾルを乾燥、焼成してジルコニア粉末を作製し、粉砕及び造粒する方法である。また、この粉砕工程の前にアルミニウム化合物を混合することで、アルミナを含有したジルコニア粉末が作製される。
【0072】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造に用いられるジルコニア粉末の一次粒子径は、1~500nmとすることができる。一次粒子径が1nm未満の場合、ジルコニア焼結体の透光性は向上するものの十分な強度を付与することが困難となる傾向にある。一方、一次粒子径が500nmより大きい場合、ジルコニア焼結体に十分な強度を付与することが困難となる傾向にある。
【0073】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、着色剤を含むことができる。具体的には、黄色を付与するための酸化鉄や、赤色を付与するためのエルビウム等が挙げられる。また、これらの着色材に加えて、色調調整のためにコバルト、マンガン、クロムなどの元素を含有した着色材を併用しても何ら問題はない。本発明が着色材を含むことで容易に歯牙色に着色することができる。
【0074】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体を1550℃において焼結させたジルコニア焼結体の相対密度は、理論密度の98%以上とすることができる。相対密度は、測定密度/理論密度により求められる。相対密度が98%未満であれば強度や透光性が低下する傾向にある。
【0075】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体の結晶相は、正方晶及び/又は立方晶であることができる。結晶相が、単斜晶である場合、ジルコニア完全焼結後に十分な透光性を付与することができない場合がある。
【0076】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の製造方法であれば何ら問題なく使用できる。具体的には、ジルコニア粉末をプレス成形によって成形したものが好ましい。さらに、色調や組成の異なるジルコニア粉末を多段階的にプレス成形し、多層成形することもできる。
【0077】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、プレス成形後に、冷間静水等方圧加圧法(CIP処理)により等方加圧を施したものとすることができる。
【0078】
本発明におけるCIP処理の最大負荷圧力は、50MPa以上とすることができる。最大負荷圧力が50MPa未満の場合、ジルコニア焼結体に十分な透光性と強度を付与できないことがある。
【0079】
本発明におけるCIP処理の最大負荷圧力時の保持時間は、特に制限はないが、通常0~150秒とすることができ、0~60秒間とすることができる。
【0080】
CIP処理における加圧開始から減圧終了までの一連の工程にかかる時間に特に制限はないが、通常30秒~10分とすることができ、3分~7分とすることができる。時間が短すぎると成型体が破壊されることがあり、長すぎると生産効率が悪くなるため好ましくない。
【0081】
本発明における歯科切削加工用ジルコニア被切削体の仮焼成温度は、800~1200℃が好ましい。仮焼成温度が800℃未満の場合、ビッカース硬度及び/又は曲げ強さが低くなりすぎるため、切削加工時にチッピングや破折が生じやすい傾向にある。一方、仮焼成温度が1200℃以上の場合、ビッカース硬度及び/又は曲げ強さが強くなりすぎるため、切削機のミリングバーの消耗が激しくなり、ランニングコストが高くなる傾向にある。
【0082】
このような製造方法により、本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体が得られる。得られた歯科切削加工用ジルコニア被切削体は、必要に応じて所望の大きさに切断、切削、表面研磨が施される。
【0083】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体を完全焼結させる方法としては、特に限定はないが、簡便で好ましい方法は、常圧で焼成することである。焼成温度は、特に限定はないが、1450~1600℃とすることができ、1500~1600℃とすることができる。焼成温度での係留時間は、特に限定はないが、1分間~12時間とすることができ、2~4時間とすることができる。昇温速度は、特に限定はないが、1~400℃/minとすることができ3~100℃/hとすることができる。
【0084】
本発明の歯科切削加工用ジルコニア被切削体を用いて切削加工する補綴装置の種類は特に制限はなく、インレー、オンレー、べニア、クラウン、ブリッジ等のいずれの補綴装置でも何等問題はない。そのため、補綴装置を切削加工により作製する歯科切削加工用ジルコニア被切削体の形状も特に制限はなく、インレー、オンレー、べニア、クラウン等に対応したブロック形状やブリッジに対応したディスク形状など、いずれの形状の歯科切削加工用ジルコニア被切削体でも用いることができる。
【実施例0085】
以下、実施例により本発明をより詳細に、かつ具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0086】
(ジルコニア仮焼体の作製)
5.5mol%の固溶したイットリウムを含むジルコニア粉末486gを金型(φ100mm)に充填し、プレス成型(面圧:50MPa)を行い、成形体を得た。得られた成形体をCIP処理(最大負荷圧力:200MPa、保持時間:1分間)した後、電気炉で仮焼(1000℃、30分間)し、直径98.5mm×厚さ18mmのジルコニア仮焼体を得た。
【0087】
(含浸液の作製)
表1に含浸液の組成を示す。表1及び表2の組成に従い、イオン交換水に金属塩及び及び添加剤を加え、1時間攪拌することで100gの溶液を作製し、含浸液とした。

【0088】
【表1】

【0089】
【表2】
【0090】
(ジルコニア仮焼成体への含浸液の含浸)
水平な作業台の上にジルコニア仮焼成体を置き、ジルコニア仮焼成体の天面上に含浸液が保持できるように治具を取り付けた。ジルコニア仮焼成体の天面に含浸液(I)(溶液(I))を表3に記載の規定量注ぎ、その全量がジルコニア仮焼成体に吸収されるまで静置した。次いで含浸液(II)(溶液(II))を表3に記載の規定量注ぎ、その全量がジルコニア仮焼成体に吸収されるまで静置した。次いで含浸液(III)(溶液(III))を表3に記載の規定量注ぎ、その全量がジルコニア仮焼成体に吸収されるまで静置した。以上の操作を全ての含浸液について行った。
【0091】
(含浸後の熱処理)
含浸液(溶液)に尿素を含む場合は、含浸液の含浸後に熱処理を行った。含浸後のジルコニア仮焼成体を樹脂製の袋に入れ、脱気した。樹脂製の袋に入れ、脱気されたジルコニア仮焼成体を乾燥機内に設置し、95℃で15時間熱処理して金属化合物を析出させた。熱処理後、ジルコニア仮焼成体を樹脂製の袋から取り出し、乾燥(120℃、1時間)させて金属化合物を担持したジルコニア仮焼成体を得た。
【0092】
(残留有機物の除去)
含浸後及び/又は熱処理後のジルコニア仮焼成体を電気炉で熱処理(500℃、30分間)して、金属化合物が細孔内に担持された歯科切削加工用ジルコニア被切削体を得た。
【0093】
(相対密度の測定)
歯科用切削加工機(ローランド社製、DWX51D)を用いて、含浸時に含浸液を注いだ面を面B、反対側の面を面Aとし、面Aから面Bに向かって1.0mmの位置の面Aと平行な面を面C、面Bから面Aに向かって1.0mmの位置の面Bと平行な面を面Dとした。面Cから面Bに向かって、5mm×5mm×5mmの試験体を作製し、領域Aの試験体とした。同様にして、面Dから面Aに向かって、5mm×5mm×5mmの試験体を作製し、領域Bの試験体とした。各試験体の相対密度を下記式により算出した。

相対密度=(ρ/ρ0)
ρ0=100/[{(A1/ρA1)+(A2/ρA2)+・・・+(An/ρAn)}+{100-(A1+A2+・・・+An)}/ρ]

式中、ρは試験体の測定密度であり、ρ0は試験体の理論密度であり、Anはジルコニア及びイットリア以外の物質の含有量(wt%)であり、ρAnはジルコニア及びイットリア以外の物質の理論密度であり、ρはイットリア安定化ジルコニアの理論密度である。
【0094】
上記ρはイットリアの含有量及びジルコニアの結晶相によって異なるが、本明細書中では”Lattice and Density for Y2O3-Stabilized ZrO2.” J. Am. Ceram. Soc. 1986, 69(4), 325-332.に記載されている式を用いた。
【0095】
(担持元素の評価)
歯科用切削加工機(ローランド社製、DWX51D)を用いて、含浸時に含浸液を注いだ面を面B、反対側の面を面Aとし、面Aから面Bに向かって1.0mmの位置の面Aと平行な面を面C、面Bから面Aに向かって1.0mmの位置の面Bと平行な面を面Dとした。面Cから面Bに向かって、φ25mm×2.0mmの円盤状試験体を作製し、領域Aの試験体とした。同様にして、面Dから面Aに向かって、φ25mm×2.0mmの円盤状試験体を作製し、領域Bの試験体とした。蛍光X線分析装置(リガク社製)を用いて、各試験体の組成分析を行った。測定は各試験体の上下面で行い、それらの平均値を各試験体の各元素の含有割合とした。なお、すべての元素について含有割合(mass%)は酸化物換算で示している。同様の測定を、含浸液を使用していない仮焼体(未含浸の仮焼体)についても行った。得られた結果を用いた下記式を満たす元素を担持元素とした。

(各試験体における各元素の含有割合(mass%)×各試験体の重量(g)-未含浸の仮焼体の試験体における各元素の含有割合(mass%)×未含浸の仮焼体の試験体の重量(g))/(各試験体における各元素の含有割合(mass%)×各試験体の重量(g))>0.02
【0096】
試験体に含まれるジルコニア及びイットリア以外の物質の含有量(mass%)を測定する方法に特に制限はない。本明細書中では蛍光X線分析装置(リガク社製)により含有量を測定した。
【0097】
(収縮率の測定)
歯科用切削加工機(ローランド社製、DWX51D)を用いて、上記面Cから面Bに向かって15mm(x:面Cに平行な方向)×15mm(y:面Cに平行な方向)×2.0mm(z:面Cに垂直な方向)の試験体を作製し、エナメル部の試験体とした。同様に面Aから8.0mmの位置の面Aと平行な面を面Eとし、面Eから面Bに向かって15mm(x:面Eに平行な方向)×15mm(y:面Eに平行な方向)×2.0mm(z:面Eに垂直な方向)の試験体を作製し、中央部の試験体とした。同様に面Dから面Aに向かって15mm(x:面Dに平行な方向)×15mm(y:面Dに平行な方向)×2.0mm(z:面Dに垂直な方向)の試験体を作製し、サービカル部の試験体とした。各試験体の完全焼結前後の寸法をマイクロメーターを用いて測定し、下記式により各部位の収縮率を算出した。試験体の焼結にはオストロマット674i(DEKEMA社製)を用いた(焼成温度:1550℃、保持時間:1時間)。

収縮率x=完全焼結前のx(mm)/完全焼結後のx(mm)
収縮率y=完全焼結前のy(mm)/完全焼結後のy(mm)
収縮率z=完全焼結前のz(mm)/完全焼結後のz(mm)
収縮率の平均=(収縮率x+収縮率y+収縮率z)/3
【0098】
(適合性の評価)
歯科用切削加工機(ローランド社製、DWX51D)を用いて、作製した歯科切削加工用ジルコニア被切削体から上顎左側犬歯~上顎右側犬歯の6本ブリッジを削り出し、オストロマット674i(DEKEMA社製)により完全焼結して(焼成温度:1550℃、保持時間:1時間)ジルコニア6本ブリッジを作製した。作製した6本ブリッジを石膏模型に装着し、マージン部の空隙、カタつきの有無等を確認し、以下の基準に則って適合性を評価した。確認及び評価は5人の技工士が行い、最も多い評価結果を表3に示す。
AA:マージン部の空隙やカタつきが無く、追加の調整を全く若しくはほとんどしなくても使用できる。
A:マージン部の空隙やカタつきがほとんど無く、わずかな修正で使用できる。
B:マージン部の空隙やカタつきが見られるが、修正により使用できる。
C:マージン部の空隙やカタつきが大きく、使用できないか、大幅な修正を要する。
【0099】
(審美性の評価)
歯科用切削加工機(ローランド社製、DWX51D)を用いて、作製した歯科切削加工用ジルコニア被切削体から上顎左側犬歯~上顎右側犬歯の6本ブリッジを削り出し、オストロマット674i(DEKEMA社製)により完全焼結して(焼成温度:1550℃、保持時間:1時間)ジルコニア6本ブリッジを作製した。作製した6本ブリッジの外観を観察し、以下の基準に則って審美性を評価した。観察及び評価は5人の技工士が行い、最も多い評価結果を表3に示す。
〇:天然歯に類似の透光性、色調、及びそれらのグラデーションを有し、特に優れた審美性を示す。
×:透光性、色調、それらのグラデーションの一部若しくは全てが天然歯と乖離しており、優れた審美性を示さない。
【0100】
実施例及び比較例で作製した歯科切削加工用ジルコニア被切削体の評価結果を表3に示す。
【0101】
【表3】
【0102】
実施例1~2及び7~13は含浸液の少なくとも一つにジルコニウム成分を含み、ΔCtоtalが2.0以下であることから、エナメル部、中央部、サービカル部の収縮率の差が特に小さく、特に良好な適合性を示した。
【0103】
実施例3~4は含浸液の少なくとも一つにジルコニウム成分を含み、ΔCtоtalが4.0以下であることから、エナメル部、中央部、サービカル部の収縮率の差が小さく、良好な適合性を示した。
【0104】
実施例5~6は含浸液の少なくとも一つにジルコニウム成分を含み、ΔCtоtalが5.0以下であることから、エナメル部、中央部、サービカル部の収縮率の差が顕著でなく、補綴物を調整して使用可能な程度の適合性を示した。
【0105】
比較例1は含浸液にジルコニウム成分を含まず、かつΔCtоtalが5.0を超えることから、エナメル部、中央部、サービカル部の収縮率の差が大きく、石膏模型に適合させることが困難であった。
【0106】
比較例2は含浸液の少なくとも一つにジルコニウム成分を含むものの、ΔCtоtalが5.0を超えることから、エナメル部、中央部、サービカル部の収縮率の差が大きく、石膏模型に適合させることが困難であった。
【0107】
比較例3はいずれの含浸液にもジルコニウム成分を含まないことから、ΔCtоtalを5.0以下にするために各溶液のCtоtalが5.0以下となり、良好な透光性及び色調が得られなかった。
【0108】
本発明は、複数の含浸液をジルコニア仮焼体に含浸させて、完全焼結後に透光性のグラデーション、色調のグラデーション、及び強度のグラデーションのいずれか1以上を有する歯科切削加工用ジルコニア被切削体を製造する場合において、当該歯科切削加工用ジルコニア被切削体から作製される歯科補綴物の適合性の悪化を抑制する製造方法及びその方法により製造される歯科切削加工用ジルコニア被切削体にかかる発明であり、歯科分野において、利用可能な技術である。