IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 奥園 憲二の特許一覧

特開2024-64913ハイドロキシアパタイト粒子含有材料、ハイドロキシアパタイト内包リポソーム及びリポソーム含有組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064913
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】ハイドロキシアパタイト粒子含有材料、ハイドロキシアパタイト内包リポソーム及びリポソーム含有組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/04 20060101AFI20240507BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20240507BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20240507BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20240507BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20240507BHJP
   A61K 8/14 20060101ALI20240507BHJP
   A61K 8/24 20060101ALI20240507BHJP
   A61K 8/365 20060101ALI20240507BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240507BHJP
   A61Q 7/02 20060101ALI20240507BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240507BHJP
   A61K 8/36 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
A61K47/04
A61K9/127
A61K9/14
A61K47/24
A61K47/12
A61K8/14
A61K8/24
A61K8/365
A61Q19/00
A61Q7/02
A61P17/00
A61K8/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022176393
(22)【出願日】2022-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2022173801
(32)【優先日】2022-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】523391973
【氏名又は名称】奥園 憲二
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】小粥 康充
(72)【発明者】
【氏名】石橋 成泰
【テーマコード(参考)】
4C076
4C083
【Fターム(参考)】
4C076AA19
4C076BB31
4C076DD27
4C076DD43
4C076DD63
4C076FF43
4C083AB281
4C083AB282
4C083AC172
4C083AC231
4C083AC301
4C083AC302
4C083AD571
4C083AD572
4C083BB21
4C083BB23
4C083BB51
4C083BB53
4C083CC02
4C083CC31
4C083CC37
4C083DD41
4C083DD45
4C083EE12
4C083EE22
(57)【要約】
【課題】 ハイドロキシアパタイト粒子の活性をより有効に活用することが可能な、ハイドロキシアパタイト粒子を含む新規複合材料を提供する。
【解決手段】本発明のある態様は、ハイドロキシアパタイト粒子、リン脂質、分散剤を含有することを特徴とするハイドロキシアパタイト粒子含有材料である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイドロキシアパタイト粒子、リン脂質、分散剤を含有することを特徴とするハイドロキシアパタイト粒子含有材料。
【請求項2】
前記分散剤が、酢酸、クエン酸、クエン酸一ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、及び、クエン酸三ナトリウムからなる群より選択される1種以上であることを特徴とする請求項1記載のハイドロキシアパタイト粒子含有材料。
【請求項3】
前記ハイドロキシアパタイト粒子がリポソームに内包されていることを特徴とする請求項1記載のハイドロキシアパタイト粒子含有材料。
【請求項4】
前記リン脂質が前記ハイドロキシアパタイト粒子に吸着されていることを特徴とする請求項1記載のハイドロキシアパタイト粒子含有材料。
【請求項5】
前記リン脂質がレシチンであること特徴とする、請求項1記載のハイドロキシアパタイト粒子含有材料。
【請求項6】
FT-IRスペクトルにおいて、1200cm-1~1500cm-1の範囲に2つ以上のピークを有することを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載のハイドロキシアパタイト粒子含有材料。
【請求項7】
FT-IRスペクトルにおいて、1700cm-1~1750cm-1の範囲の最大吸収強度が、1030cm-1~1100cm-1の範囲の最大吸収強度の10%以下であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載のハイドロキシアパタイト粒子含有材料。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載のハイドロキシアパタイト粒子含有材料を含む組成物。
【請求項9】
医薬品組成物である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
化粧品組成物である、請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
少なくともハイドロキシアパタイト粒子を含有し、
FT-IRスペクトルにおいて、1200cm-1~1500cm-1の範囲に2つ以上のピークを有することを特徴とする、ハイドロキシアパタイト粒子含有材料。
【請求項12】
前記ハイドロキシアパタイト粒子含有材料が、リポソームと、前記リポソームに内包された前記ハイドロキシアパタイト粒子とを含むハイドロキシアパタイト内包リポソームである、請求項11記載のハイドロキシアパタイト粒子含有材料。
【請求項13】
少なくともハイドロキシアパタイト粒子を含有し、
ハイドロキシアパタイト粒子を内包し、
FT-IRスペクトルにおいて、1700cm-1~1750cm-1の範囲の最大吸収強度が、1030cm-1~1100cm-1の範囲の最大吸収強度の10%以下であることを特徴とする、ハイドロキシアパタイト粒子含有材料。
【請求項14】
前記ハイドロキシアパタイト粒子含有材料が、リポソームと、前記リポソームに内包された前記ハイドロキシアパタイト粒子とを含むハイドロキシアパタイト内包リポソームである、請求項13記載のハイドロキシアパタイト粒子含有材料。
【請求項15】
請求項12又は14に記載のハイドロキシアパタイト粒子含有材料を含む、リポソーム含有組成物。
【請求項16】
医薬品組成物である、請求項15に記載のリポソーム含有組成物。
【請求項17】
化粧品組成物である、請求項15に記載のリポソーム含有組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイドロキシアパタイト粒子含有材料、ハイドロキシアパタイト内包リポソーム及びリポソーム含有組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイドロキシアパタイト粒子は、生体親和性や生理活性等を有することが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1においては、100nm以下の非晶質ハイドロキシアパタイトは、皮膚内の表皮角化細胞に働きかけて、細胞の新陳代謝を促し、外界からの刺激による皮膚細胞の損傷を回復させ、若々しい肌の状態を維持する優れた化粧効果を奏する化粧料や、頭髪毛乳頭に作用して、細胞を活性化させ脱毛予防や育毛作用を促す優れた頭髪化粧品として適することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-302454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術に係るハイドロキシアパタイト粒子を含む組成物において、ハイドロキシアパタイト粒子の活性が十分に発揮されない場合があることが知見された。
【0006】
そこで、本発明は、ハイドロキシアパタイト粒子の活性をより有効に活用することが可能な、ハイドロキシアパタイト粒子を含む新規複合材料の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様(1)は、
ハイドロキシアパタイト粒子、リン脂質、分散剤を含有することを特徴とするハイドロキシアパタイト粒子含有材料である。
本発明の態様(2)は、
前記分散剤が、酢酸、クエン酸、クエン酸一ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、及び、クエン酸三ナトリウムからなる群より選択される1種以上である、態様(1)のハイドロキシアパタイト粒子含有材料である。
本発明の態様(3)は、
前記ハイドロキシアパタイト粒子がリポソームに内包されていることを特徴とする態様(1)のハイドロキシアパタイト粒子含有材料である。
本発明の態様(4)は、
前記リン脂質が前記ハイドロキシアパタイト粒子に吸着されていることを特徴とする態様(1)のハイドロキシアパタイト粒子含有材料である。
本発明の態様(5)は、
前記リン脂質がレシチンであること特徴とする、態様(1)のハイドロキシアパタイト粒子含有材料である。
本発明の態様(6)は、
FT-IRスペクトルにおいて、1200cm-1~1500cm-1の範囲に2つ以上のピークを有することを特徴とする、態様(1)~(5)のいずれかのハイドロキシアパタイト粒子含有材料である。
本発明の態様(7)は、
FT-IRスペクトルにおいて、1700cm-1~1750cm-1の範囲の最大吸収強度が、1030cm-1~1100cm-1の範囲の最大吸収強度の10%以下であることを特徴とする、態様(1)~(5)のいずれかのハイドロキシアパタイト粒子含有材料である。
本発明の態様(8)は、
態様(1)~(5)のいずれかのハイドロキシアパタイト粒子含有材料を含む組成物である。
本発明の態様(9)は、
医薬品組成物である、態様(8)の組成物である。
本発明の態様(10)は、
化粧品組成物である、態様(8)の組成物である。
本発明の態様(11)は、
少なくともハイドロキシアパタイト粒子を含有し、
FT-IRスペクトルにおいて、1200cm-1~1500cm-1の範囲に2つ以上のピークを有することを特徴とする、ハイドロキシアパタイト粒子含有材料である。
本発明の態様(12)は、
前記ハイドロキシアパタイト粒子含有材料が、リポソームと、前記リポソームに内包された前記ハイドロキシアパタイト粒子とを含むハイドロキシアパタイト内包リポソームである、態様(11)のハイドロキシアパタイト粒子含有材料である。
本発明の態様(13)は、
少なくともハイドロキシアパタイト粒子を含有し、
ハイドロキシアパタイト粒子を内包し、
FT-IRスペクトルにおいて、1700cm-1~1750cm-1の範囲の最大吸収強度が、1030cm-1~1100cm-1の範囲の最大吸収強度の10%以下であることを特徴とする、ハイドロキシアパタイト粒子含有材料である。
本発明の態様(14)は、
前記ハイドロキシアパタイト粒子含有材料が、リポソームと、前記リポソームに内包された前記ハイドロキシアパタイト粒子とを含むハイドロキシアパタイト内包リポソームである、態様(13)のハイドロキシアパタイト粒子含有材料である。
本発明の態様(15)は、
態様(12)又は(14)のハイドロキシアパタイト粒子含有材料を含む、リポソーム含有組成物である。
本発明の態様(16)は、
医薬品組成物である、態様(15)のリポソーム含有組成物である。
本発明の態様(17)は、
化粧品組成物である、態様(15)のリポソーム含有組成物である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ハイドロキシアパタイト粒子の活性をより有効に活用することが可能な、ハイドロキシアパタイト粒子を含む新規複合材料を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施例に係るハイドロキシアパタイト粒子内包リポソームのTEM画像である。
図2-1】高結晶性のハイドロキシアパタイト粒子単体のFT-IR測定のチャートである。
図2-2】高結晶性のハイドロキシアパタイト粒子を含む、ハイドロキシアパタイト粒子内包リポソームのFT-IR測定のチャートである。
図2-3】低結晶性のハイドロキシアパタイト粒子を含む、ハイドロキシアパタイト粒子内包リポソームのFT-IR測定のチャートである。
図3-1】高結晶性のハイドロキシアパタイト粒子単体のTG-DTA測定のチャートである。
図3-2】高結晶性のハイドロキシアパタイト粒子を含む、ハイドロキシアパタイト粒子内包リポソームのTG-DTA測定のチャートである。
図3-3】低結晶性のハイドロキシアパタイト粒子を含む、ハイドロキシアパタイト粒子内包リポソームのTG-DTA測定のチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、複数の上限値と複数の下限値とが別々に記載されている場合、これらの上限値と下限値を自由に組み合わせて設定可能な全ての数値範囲が本明細書に記載されているものと解するべきである。
【0011】
本明細書において分類された各成分は、特に断らない限り、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0012】
<<<<第1の形態>>>>
本開示に係るハイドロキシアパタイト粒子含有材料は、少なくともハイドロキシアパタイト粒子を含む。別の表現によれば、本開示に係るハイドロキシアパタイト粒子含有材料は、ハイドロキシアパタイト粒子と、ハイドロキシアパタイト粒子以外の成分(第2成分)とが複合化された、ハイドロキシアパタイト粒子複合材料である。ハイドロキシアパタイト粒子との複合の形態としては、例えば、(形態A)第2成分によって形成された、一つ又は複数のハイドロキシアパタイト粒子を覆う外郭を有し、全体として一つの材料(例えば、粒子状の材料)を形成している形態や、(形態B)ハイドロキシアパタイト粒子とハイドロキシアパタイト粒子との間に第2成分が介在してハイドロキシアパタイト粒子同士が結合或いは凝集して、全体として一つの材料(例えば、粒子状の材料)を形成している形態等が考えられる。
形態Aの具体例としては、ハイドロキシアパタイト粒子が、リン脂質によって形成されたリポソームに内包されている構造が挙げられる。
形態Bの具体例としては、リン脂質がハイドロキシアパタイト粒子に吸着されている構造が挙げられる。
【0013】
ハイドロキシアパタイト粒子含有材料(ハイドロキシアパタイト粒子複合材料)を構成する第2成分(ハイドロキシアパタイト粒子と複合化される成分)としては、ハイドロキシアパタイト粒子と相互作用し得る成分であり、例えば、リン脂質、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、カルボン酸、スルホン酸、多価アルコール、ポリエーテル、エステル等が挙げられる。
【0014】
以下、ハイドロキシアパタイト粒子含有材料として、ハイドロキシアパタイト粒子とリン脂質により形成されたリポソームとが複合化された、リポソーム複合材料について主に説明するが、本開示はこれに限定されるものではない。リポソーム以外の材料と、リン脂質以外の第2成分とが複合化されたハイドロキシアパタイト粒子含有材料についても、ハイドロキシアパタイト粒子と第2成分とが相互作用して後述するFT-IRスペクトル、TG-DTA、ゼータ電位等が所定の性質を満たすことで、ハイドロキシアパタイト粒子の活性を有効に活用することが可能と考えられる。
【0015】
本開示における内水相とは、リポソームに内包される水相を意味する。
【0016】
本開示における外水相とは、リポソーム分散する水溶液を意味する。例えば注射剤の場合においては、バイアル瓶又はプレフィルドシリンジ包装されて保管されたリポソームの分散液におけるリポソームの外側を占める溶液が外水相となる。また、添付された分散用液又はその他溶解液により投与時に分散した液についても同様に、リポソームの分散液におけるリポソームの外側を占める溶液が外水相となる。
【0017】
以下の説明において、膜構造としてのリポソームと、リポソーム及びリポソームに内包された内水相とを備えるリポソーム複合材料と、を区別せずに、単に「リポソーム」と表現する場合がある。
【0018】
以下、本開示に係るリポソームの、構造、成分、物性/性質、製造方法、用途等について説明する。
【0019】
<<<構造>>>
本開示に係るリポソームは、ハイドロキシアパタイト粒子を内包する。より具体的には、リン脂質二重構造によって形成された膜がカプセル構造を成し、ハイドロキシアパタイト粒子が当該カプセル構造に内包されているものと考えられる。
【0020】
本開示に係るリポソームは、別の表現によれば、ハイドロキシアパタイト粒子と、前記ハイドロキシアパタイト粒子を内包する、リン脂質からなる膜小胞と、を備える、ハイドロキシアパタイト粒子内包リポソームである。
【0021】
本開示に係るリポソームは、シングルラメラであっても多層ラメラであってもよいが、多層ラメラであることが好ましい。
【0022】
<<粒径>>
リポソームの粒径PSは、10nm以上、20nm以上、30nm以上、又は、70nm以上であることが好ましく、また、1000nm以下、500nm以下、300nm以下、200nm以下、又は、150nm以下であることが好ましい。この場合、リポソームの粒径PSの標準偏差は、20nm以下、15nm以下、又は、10nm以下であることが好ましい。下限値は特に限定されないが、例えば、0nm以上、1nm以上、2nm以上、3nm以上、4nm以上、又は、5nm以上である。
【0023】
ハイドロキシアパタイト粒子の粒径PSに対するリポソームの粒径PSの比(PS/PS)は、1.0超10.0以下であることが好ましく、1.0超3.0以下であることがより好ましい。
【0024】
リポソームの粒径PSをこのような範囲とすることで、ハイドロキシアパタイト粒子が本来有する物理的特性を維持することができる。
【0025】
リポソームの粒径PSは、動的光散乱粒度分布計によって測定された平均粒径とする。
【0026】
<<<成分>>>
<<リン脂質>>
リポソームを構成するリン脂質は、公知のものを使用することができる。より具体的には、リン脂質としては、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール等が例示される。リン脂質は、これらの水素添加物等であってもよい。リン脂質は、天然由来のものであっても合成されたものであってもよい。
【0027】
リン脂質は、ホスファチジルコリンであることが好ましい。ホスファチジルコリンで形成されたリポソームと、ハイドロキシアパタイト粒子とを組み合わせて使用することで、ハイドロキシアパタイト粒子の活性(例えば、コラーゲン産生促進効果等)が高まると考えられる。
【0028】
<<ハイドロキシアパタイト粒子>>
ハイドロキシアパタイト粒子の粒径PSは、10nm以上、15nm以上、又は、20nm以上とすることが好ましく、1000nm以下、700nm以下、500nm以下、300nm以下、100nm以下、又は、70nm以下であることが好ましい。具体的には、ハイドロキシアパタイト粒子の粒径PSは、10~1000nmであることが好ましく、20~700nmであることがより好ましい。この場合、ハイドロキシアパタイト粒子の粒径PSの標準偏差は、20nm以下、15nm以下、又は、10nm以下であることが好ましい。下限値は特に限定されないが、例えば、0nm以上、1nm以上、2nm以上、3nm以上、4nm以上、又は、5nm以上である。
【0029】
ハイドロキシアパタイト粒子の形状は、特に限定されないが、球状であることが好ましい。ここで、「球状」とは、対象物(粒子)のアスペクト比が、1.35以下(より好適には1.25以下、更に好適には、1.2以下)であることを示す。
【0030】
ハイドロキシアパタイト粒子の粒径PS及びアスペクト比は、例えば、以下の方法によって測定される。
対象物(粒子)を撮影したSEM画像において、粒子上にその両端が粒子の外周上に位置する2本の線分を引く。このとき、2本の線分のうち一方の線分は、その長さが最大となるものとする。更に、2本の線分のうち他方の線分は、当該一方の線分の中点で、互いに直交するように引かれた線分である。このようにして引かれた2本の線分のうち、短い方の線分の長さを短径、長い方の線分の長さを長径とする。
長径と短径との平均値を粒径とする。
長径と短径との比(長径/短径)をアスペクト比とする。
但し、輪郭がぼやけて見える粒子、別の粒子に接近し過ぎていて境界が曖昧な粒子、粒子の一部がその他の粒子の影に隠れている粒子等を測定対象から除外する。
ハイドロキシアパタイト粒子100~150個について、粒径の平均値及びアスペクト比の平均値を求め、ハイドロキシアパタイト粒子の粒径PS及びアスペクト比とする。
【0031】
ハイドロキシアパタイト粒子は、熱処理されたものであることが好ましい。より具体的には、ハイドロキシアパタイト粒子は、X線回折法(XRD)により測定された、d=2.814での半値幅(2θ)が、0.2~0.9を満たすことが好ましく、0.5~0.8を満たすことがより好ましい。
ハイドロキシアパタイト粒子含有材料の生体への吸収速度を高めるという観点では、ハイドロキシアパタイト粒子のd=2.814での半値幅が、0.5以上1.2以下であることが好ましく、0.6以上1.1以下であることがより好ましく、0.7以上1.0以下であることが特に好ましい。特に、このように、d=2.814での半値幅が0.7以上のハイドロキシアパタイト粒子を、非結晶性(或いは低結晶)のハイドロキシアパタイト粒子と称する場合がある。
ハイドロキシアパタイト粒子含有材料の安定性を高めるという観点では、ハイドロキシアパタイト粒子のd=2.814での半値幅が、0.1以上0.8以下であることが好ましく、0.2以上0.8以下であることがより好ましく、0.2以上0.7未満であることが特に好ましい。特に、このように、d=2.814での半値幅が0.7未満のハイドロキシアパタイト粒子を、結晶性(或いは高結晶)のハイドロキシアパタイト粒子と称する場合がある。
【0032】
なお、半値幅の調整においては、熱処理温度及び熱処理時間を適宜調整すればよく、上記半値幅としたい場合には、例えば、熱処理温度(最高到達温度)を30~800℃とし、当該温度範囲の保持時間を0超~1h等とすればよい。
より詳細には、熱処理温度は、低温処理の形態であってもよいし、高温処理の形態であってもよい。
低温処理の形態としては、例えば、30℃以上、35℃以上、40℃以上、又は、50℃以上とし、また、100℃以下、90℃以下、又は、80℃以下とする形態が挙げられる。
高温処理の形態としては、例えば、100℃超、150℃以上、200℃以上、又は、250℃以上とし、また、800℃以下、750℃以下、又は、700℃以下とする形態が挙げられる。
【0033】
ハイドロキシアパタイト粒子は、炭酸カルシウムを含有しないことが好ましい。
ハイドロキシアパタイト粒子が「炭酸カルシウムを含有しない」とは、炭酸カルシウムを実質的に含有しないことであり、より具体的には、以下の(1)~(3)の基準を全て満たすことである。
(1)X線回折の測定結果より炭酸カルシウムが、炭酸カルシウム(式量:100.09)/ハイドロキシアパタイト(式量:1004.62)=0.1/99.9(式量換算比)以下である。
(2)熱重量示差熱分析(TG-DTA)測定において、650℃~800℃に明確な吸熱を伴う2%以上の重量減が観察されない。
(3)FT-IR測定において得られるスペクトルをクベルカムンク(KM)式で計算した吸光度を示したチャートにおいて、波数が860cm-1~890cm-1の間に現れるピークを分離し、炭酸カルシウムに帰属される877cm-1付近のピークが観察されない。なお、ピーク分離は、例えば、fityk 0.9.4というソフトを用いて、Function Type:Gaussian、Fitting Method:Levenberg-Marquardtという条件で処理することによって行う。
【0034】
また、ハイドロキシアパタイト粒子が「炭酸カルシウムを含有しない」とする場合、以下の(4)の基準を更に満たすことが好ましい。
(4)医薬部外品原料規格2006(ヒドロキシアパタイト)に準じて試験した際、気泡発生量が0.25mL以下である。
【0035】
このようなハイドロキシアパタイト粒子を使用することで、ハイドロキシアパタイト粒子由来の特性が発揮され易くなる。特に、リポソーム複合材料とした場合、リポソームの粒径を均一化させたり、リポソーム内のハイドロキシアパタイト粒子の安定性等を高めることができ、本開示の効果をより高めることができる。
【0036】
このようなハイドロキシアパタイト粒子は、例えば、特開2020-005995号公報、特開2018-035085号公報、特開2018-033640号公報、特開2018-033639号公報、特開2018-033638号公報、特開2018-002580号公報、特開2016-222537号公報等に開示された方法に従って製造することができる。
【0037】
<<その他の成分>>
リポソームは、通常、液体媒体を含む。より具体的には、リポソームは、通常、各成分の溶液或いは分散液である内水相を含有する。なお、内水相を構成する液体媒体については後述する。
【0038】
また、本開示に係るリポソームは、ハイドロキシアパタイト粒子、液体媒体以外の成分(その他の成分)を含有していてもよい。
【0039】
本開示に係るリポソームは、その用途等に応じて、薬物や添加剤等の適宜の成分を含んでいてもよい。本開示に係るリポソームの含有する成分としては、例えば、ビタミン類、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸、アスタキサンチン、コエンザイムQ10、α-リポ酸、セラミド、アルブチン、ヒアルロン酸、リノール酸、トラネキサム酸、コウジ酸、酵素、ペプチド、コラーゲン、エラスチン、糖類、アルコール、油剤、酸化防止剤、防腐剤、顔料、パール化剤、増粘剤、界面活性剤、安定化剤、キレート剤、着色料、香料、緩衝剤、pH調整剤、副腎皮質ホルモン、抗炎症薬、免疫抑制剤、抗がん剤、抗菌薬、抗ウイルス薬、血管新生抑制剤、サイトカイン、抗サイトカイン抗体、分子標的薬、ステロイド剤、抗ヒスタミン、局所麻酔剤、抗炎症剤、抗菌剤、鎮痒剤、皮膚保護剤、血行促進剤等が挙げられる。これらの成分は、誘導体、類似体、加水分解物の形態、塩の形態等であってもよい。またこれらの成分は、合成物であっても、天然物抽出物であってもよい。
【0040】
また、後述するように、本開示に係るリポソームの好ましい製造方法は、水相中に分散剤を含む状態にて、乳化によるリポソーム粒子の形成を行う工程を含む。従って、本開示に係るリポソームは、当該製造工程に由来する分散剤を含有(内包)する場合がある。
【0041】
なお、リポソームは、膜中(親油性領域)或いは多層ラメラにおける膜間(親水性領域)に各成分を含有していてもよい。
【0042】
<<<物性/性質>>>
<<FT-IRスペクトル>>
以下、本開示に係るリポソームの、FT-IRスペクトルにおける好ましい特徴について説明する。
【0043】
内包されるハイドロキシアパタイト粒子表面とリン脂質との相互作用形成という観点から、本開示に係るリポソームは、1200cm-1~1500cm-1の範囲に2つ以上のピークを有することが好ましい。
【0044】
同様に、内包されるハイドロキシアパタイト粒子表面とリン脂質との相互作用形成という観点から、本開示に係るリポソームは、1700cm-1~1750cm-1の範囲の最大吸収強度が、1030cm-1~1100cm-1の範囲の最大吸収強度の10%以下であることが好ましい。
【0045】
本開示に係るリポソームが、FT-IRスペクトルにおいてこのような特徴を有することで、ハイドロキシアパタイト粒子とリン脂質とが強固に固定され、リポソーム構造の安定化が奏されているものと考えられる。
【0046】
本開示に係るリポソームは、1030cm-1~1100cm-1の範囲にピークを有することが好ましい。
【0047】
また、この場合、本開示に係るリポソームの1030cm-1~1100cm-1の範囲のピークの位置は、リン脂質単独で測定した場合に現れる1030cm-1~1100cm-1の範囲のピークの位置や、ハイドロキシアパタイト粒子単独で測定した場合に現れる1030cm-1~1100cm-1の範囲のピークの位置よりも、低波数側にシフトしていることが好ましい。
【0048】
本開示に係るリポソームは、1000cm-1~1150cm-1の範囲に2つのピークを有することが好ましい。
【0049】
本開示に係るリポソームは、1200cm-1~1300cm-1の範囲にピークを有することが好ましい。
【0050】
本開示に係るリポソームは、1350cm-1~1410cm-1の範囲にピークを有しないことが好ましい。
【0051】
本開示に係るリポソームは、1450cm-1~1500cm-1の範囲にピークを有することが好ましい。
【0052】
本開示に係るリポソームは、1700cm-1~1900cm-1の範囲にピークを有することが好ましい。
【0053】
本開示に係るリポソームは、2800cm-1~3000cm-1の範囲にピークを有することが好ましい。
【0054】
本開示に係るリポソームは、2850cm-1~2950cm-1の範囲に2つのピークを有することが好ましい。
【0055】
本開示に係るリポソームは、1200cm-1~1220cm-1の範囲にピークを有することがより好ましい。
【0056】
本開示に係るリポソームは、1220cm-1~1240cm-1の範囲にピークを有しないことがより好ましい。
【0057】
本開示に係るリポソームは、1550cm-1~1610cm-1の範囲にピークを有することがより好ましい。
【0058】
本開示に係るリポソームは、1700cm-1~1750cm-1の範囲にピークを有しないことがより好ましい。
【0059】
このようなスペクトルを有するリポソームは、後述する方法に従って得ることができる。
【0060】
FT-IRスペクトルの測定は、以下の方法に従って実施する。
【0061】
<測定方法>
パーキンエルマー製FT-IR Spectrum100を用いて全反射測定法にて650cm-1~4000cm-1の範囲を積算回数8回で測定した。
【0062】
本測定において、ピークの有無は、800cm-1と4000cm-1の2点を結ぶ線分をベースライト為し、ベースラインより下に凸の有無によって判断される。
【0063】
<<TG-DTA>>
以下、本開示に係るリポソームの、TG-DTA(熱重量示差熱分析)測定における好ましい特徴について説明する。
【0064】
本開示に係るリポソームは、25~150℃の範囲に明確な吸熱を伴う40%以上の重量減が観察されることが好ましい。
【0065】
また、本開示に係るリポソームは、150~250℃の範囲に明確な吸熱を伴わない2.0%以上(好ましくは5.0%以上、より好ましくは8.0%以上)の重量減が観察されることが好ましい。
【0066】
本開示に係るリポソームが、TG-DTA測定においてこのような特徴を有することで、構造安定性(例えば、内水相保持)が向上するものと考えられる。
【0067】
このような熱的性質を有するリポソームは、後述する方法に従って得ることができる。
【0068】
TG-DTA測定は、以下の方法に従って実施する。
【0069】
<測定方法>
熱重量示差熱分析装置(TG-DTA)(セイコーインスツルメント社製、EXSTAR6000)にて、窒素気流下、10℃/min.の条件で25℃~1000℃の温度帯を測定した。
【0070】
<<ゼータ電位>>
ゼータ電位は、-40mV~-1mVであることが好ましく、-30mV~-5mVであることがより好ましい。
【0071】
ゼータ電位をこのような範囲とすることで、リポソーム分散液等にした際に、リポソームの分散安定性に優れる。
【0072】
このようなゼータ電位を有するリポソームは、後述する方法に従って得ることができる。
【0073】
リポソームのゼータ電位は、以下の方法に従って測定する。
【0074】
<測定方法>
ゼータ電位測定システム(大塚電子社製、ELSZ-2000Z)にて、0.1mM、1mMの塩化ナトリウム水溶液中25℃で測定した。
【0075】
ここで、本開示に係るリポソームは、他の成分と組み合わせる等して、組成物として用いることができる。別の表現によれば、本開示に係る技術は、リポソームを含むリポソーム含有組成物とすることができる。換言すれば、本開示に係るリポソーム含有組成物は、リポソームと、外水相とを含む。なお、外水相を構成する液体媒体については後述する。
【0076】
リポソーム含有組成物のその他の成分は、用途に応じて適宜選択すればよく、何ら限定されない。
【0077】
なお、リポソーム含有組成物を医薬品組成物とする場合、好ましい他の成分としては、例えば、アルコール類、糖類、タンパク質類、アミノ酸類、水溶性ビタミン類、脂溶性ビタミン類、脂質、ムコ多糖類、界面活性剤等が挙げられる。
【0078】
また、リポソーム含有組成物を化粧品組成物とする場合、好ましい他の成分としては、例えば、収斂剤、殺菌・抗菌剤、美白剤、紫外線吸収剤、保湿剤、細胞賦活剤、消炎・抗アレルギー剤、抗酸化・活性酸素消去剤、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、香料等が挙げられる。
【0079】
また、リポソーム含有組成物は、本開示に係るリポソームの含有し得る成分として例示されたもの等と同様のものを含んでいてもよい。
【0080】
<<<リポソームの製造方法>>>
本開示に係るリポソームの製造方法の具体例について説明する。
【0081】
本開示に係るリポソームは、例えば、以下で示される工程を実施することで製造することができる。
(a)油相の調製
(b)水相の調製
(c)乳化によるリポソーム粒子形成
【0082】
本開示に係るリポソームの製造方法においては、エクストルーダーによる整粒、無菌ろ過等が実施されてもよい。
【0083】
本開示に係るリポソームの製造方法においては、透析によるリポソーム外水相液の置換、透析による外水相成分の除去等が実施されてもよい。この場合、本開示に係るリポソームの製造方法における外水相と、リポソーム含有組成物における外水相とは異なるものであってもよい。
【0084】
更に、本開示に係るリポソームが薬物等のその他の成分を含む場合、リモートローディングによるリポソーム粒子への各成分の内包化等を実施してもよい。
【0085】
<<(a)油相の調製>>
(a)油相の調製においては、リポソームを構成するリン脂質等と有機溶媒とを混合し、混合物を加温して上記成分を溶解することにより油相を製造することができる。
油相において使用する有機溶媒は特に限定されないが、例えば、揮発性有機溶媒を用いることができる。
【0086】
揮発性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール及びt-ブタノール等のアルコール類、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素、ジクロロメタン、クロロホルム等の含ハロゲン炭化水素が挙げられる。これらのなかでも、含ハロゲン炭化水素であることがさらに好ましい。
【0087】
リポソームを構成する各成分の濃度は、特に限定されず、適宜調整することが可能である。
【0088】
<<(b)水相の調製>>
水相としては、水(蒸留水、注射用水等)、生理食塩水、各種緩衝液、又は、糖類(スクロースなど)の水溶液及びこれらの混合物(水性溶媒)を使用することができる。
【0089】
緩衝液としては、有機系、無機系に限定されることはないが、体液に近い水素イオン濃度付近に緩衝作用を有する緩衝液が好適に用いられ、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液及びグッドバッファー等が挙げられる。
【0090】
水相に、リポソームに内包させるハイドロキシアパタイト粒子を予め分散させる。
【0091】
また、水相は、分散剤を含むことが好ましい。分散剤は、特に限定されないが、分子量(或いはGPCによって測定される数平均分子量)が、10000以下、5000以下、2000以下、1000以下、又は、500以下であることが好ましい。
【0092】
分散剤の具体例としては、酢酸、クエン酸、ポリアクリル酸等が挙げられる。これらは、クエン酸一ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム等の塩の形態で添加されていてもよい。即ち、水相は、分散剤として、酢酸、クエン酸、クエン酸一ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、及び、クエン酸三ナトリウムからなる群より選択される1種以上を含むことが好ましい。
【0093】
水相が分散剤を含むことで、ハイドロキシアパタイト粒子が適切に分散し、乳化工程におけるリポソームの形成が最適化される(リン脂質等に作用する)等の結果、本開示に係るリポソームを得やすいものと考えられる。
【0094】
分散剤の添加量としては、例えば、水相全体に対して、0.1~50質量%等とすればよい。
【0095】
また、水相のpHは、3以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましい。pHは、一般的なpH測定器を用いて測定することができる。
【0096】
リポソームの内水相は、リポソームを製造する際に、リポソームが分散する水溶液であってもよいし、新たに添加される、水、生理食塩水、各種緩衝液又は糖類の水溶液及びこれらの混合物であってもよい。外水相又は内水相として用いる水は、不純物(埃、化学物質等)を含まないことが好ましい。
【0097】
生理食塩水とは、人体と等張になるように調整された無機塩溶液を意味し、更に緩衝機能を持っていてもよい。生理食塩水としては、塩化ナトリウムを0.9w/v%(質量/体積パーセント)含有する食塩水、PBS及びトリス緩衝生理食塩水等が挙げられる。
【0098】
<<(c)乳化によるリポソーム粒子形成>>
乳化工程では、油相と水相とを混合して脂質を含む水溶液を攪拌して乳化することができる。脂質が有機溶媒に溶解している油相及び水相を混合し撹拌し、乳化することで、油相及び水相がO/W型(水中油型)に乳化した乳化液が調製される。混合後、油相由来の有機溶媒の一部又は全部を蒸発によって除去することにより、リポソームが形成される。或いは、油相中の有機溶媒の一部又は全部が撹拌・乳化の過程で蒸発して、リポソームが形成される。
【0099】
撹拌する方法としては、例えば、粒子微細化のために、超音波又は機械的せん断力が用いられる。また、粒子径の均一化のためには、一定の孔径のフィルターを通すエクストルーダー処理又はマイクロフルイダイザー処理を行うことができる。エクストルーダー等を用いれば、副次的に形成された多胞リポソームをばらして単胞リポソームにすることができる。
【0100】
乳化工程は、乳化する工程であれば限定されることはないが、好ましくは高せん断をかけ、有機溶媒を含む乳化工程で微粒子化する工程である。高せん断は、乳化機の撹拌羽根の周速で定義され、5~32m/sが好ましく、特に20~30m/sが好ましい。必要に応じて、乳化工程で用いた有機溶媒を蒸発させる(脱溶媒する)ことでリポソームを形成することができる。
【0101】
リポソームを製造する際の乳化工程の液温は、適宜調整することが可能であるが、油相と水相との混合時の液温を使用する脂質の相転移温度以上とすることが好ましく、例えば、相転移温度が35~40℃の脂質を使用する場合、35℃~70℃とすることが好ましい。
【0102】
乳化工程は、高圧環境に暴露されることが好ましい。より詳細には、乳化工程は、高圧乳化法が用いられることが好ましい。例えば、乳化工程において、油相及び水相を混合し撹拌し乳化液を得る際に圧力をかけることが好ましい。圧力の条件としては、例えば、0.2MPa以上、0.5MPa以上、1.0MPa以上、2.0MPa以上、5.0MPa以上、10MPa以上、又は、15MPa以上であることが好ましく、250MPa以下、200MPa以下、150MPa以下、100MPa以下、50MPa以下、又は、40MPa以下であることが好ましい。
【0103】
乳化工程においては、リポソームを含む水溶液から有機溶媒と水を蒸発させてもよい。ここで言う蒸発とは、油相由来の有機溶媒と水相由来の水の一部又は全部を蒸発工程として強制的に除去してもよいし、油相由来の有機溶媒と水相由来の水の一部又は全部が撹拌・乳化の過程で自然に蒸発するものでもよい。
【0104】
蒸発の方法は、特に限定されないが、例えば、有機溶媒と水を加熱することにより蒸発させる工程、乳化後に静置又は緩やかな撹拌を継続する工程、及び、真空脱気を行う工程の少なくとも一つを行えばよい。
【0105】
<<<用途>>>
本開示によれば、ハイドロキシアパタイト粒子を内包する新規なリポソーム(別の表現によれば、リポソーム複合材料、或いは、ハイドロキシアパタイト粒子内包リポソーム)が提供される。このようなリポソームによれば、ハイドロキシアパタイト粒子の凝集及び沈殿が防止され、且つ、リポソームの経時安定性が高いと考えられる。そのため、細胞への親和性や浸透力が向上する、ハイドロキシアパタイトの有する生理活性が十分に発揮される等の優れた機能が奏されるものと考えられる。
【0106】
また、本開示に係るリポソームは、細胞膜と類似した構造を形成可能であり、その結果、細胞親和性を更に高めて線維芽細胞への作用等を強めることができる。そのため、本開示に係るリポソームを用いることで、上記効果とあわせて、ハイドロキシアパタイト粒子を単独で使用した場合と比較して、大幅なコラーゲン産生促進効果等を得ることができる。
【0107】
本開示に係るリポソーム或いはリポソーム含有組成物は、ハイドロキシアパタイト粒子が適用される種々の用途に用いることができる。本開示に係るリポソーム或いはリポソーム含有組成物は、例えば、医薬品用(医薬品組成物)や化粧品用(化粧品組成物)として好ましく用いられる。
【0108】
また、本開示に係るリポソーム或いはリポソーム含有組成物は、リポソーム由来の薬物徐放性を有することから、ドラックデリバリーシステムに好ましく用いられる。
【0109】
医薬品或いは医薬品組成物の具体的な用途としては、注入剤(ダーマルフィラー等)、抗がん剤、鎮痛剤、免疫抑制剤等が挙げられる。
【0110】
化粧品或いは化粧品組成物の具体的な用途としては、豊胸促進剤、基礎化粧品或いは化粧品(洗顔料、化粧水、美容液、軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、入浴剤等)、育毛剤、歯磨剤等が挙げられる。
【0111】
<<<<第2の形態>>>>
第2の形態は、ハイドロキシアパタイト粒子、リン脂質、分散剤を含有するハイドロキシアパタイト粒子含有材料である。即ち、第2の形態に係るハイドロキシアパタイト粒子含有材料は、ハイドロキシアパタイト粒子を含有し、ハイドロキシアパタイト粒子以外の成分(第2成分)として、リン脂質、及び、分散剤が複合化された材料である。
【0112】
ハイドロキシアパタイト粒子と第2成分とを複合化させる形態は、第1の形態と同様のものを例示できる。
より詳細には、ハイドロキシアパタイト粒子との複合の形態としては、例えば、(形態A)第2成分によって形成された、一つ又は複数のハイドロキシアパタイト粒子を覆う外郭を有し、全体として一つの材料(例えば、粒子状の材料)を形成している形態や、(形態B)ハイドロキシアパタイト粒子とハイドロキシアパタイト粒子との間に第2成分が介在してハイドロキシアパタイト粒子同士が結合或いは凝集して、全体として一つの材料(例えば、粒子状の材料)を形成している形態等が考えられる。
形態Aの具体例としては、ハイドロキシアパタイト粒子が、リン脂質によって形成されたリポソームに内包されている構造が挙げられる。
形態Bの具体例としては、リン脂質がハイドロキシアパタイト粒子に吸着されている構造が挙げられる。
【0113】
例えば、第2の形態に係るハイドロキシアパタイト粒子含有材料がハイドロキシアパタイト内包リポソームである場合、リン脂質によってリポソームが形成され、分散剤は内水相或いは多層ラメラにおける膜間に存在する形態が考えられる。
【0114】
第2の形態に係るハイドロキシアパタイト粒子含有材料を構成する、ハイドロキシアパタイト粒子、第2成分(リン脂質、分散剤及びその他の成分)等については、前述のとおりである。
【0115】
第2の形態に係るハイドロキシアパタイト粒子含有材料は、第1の形態に係るハイドロキシアパタイト粒子含有材料を、別の観点で規定した材料である。第2の形態に係るハイドロキシアパタイト粒子含有材料は、第1の形態に係るハイドロキシアパタイト粒子含有材料について説明された事項(好適な構造、成分、物性/性質、製造方法、用途等)を全て組み込むことができる。
【0116】
例えば、分散剤が、酢酸、クエン酸、クエン酸一ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、及び、クエン酸三ナトリウムからなる群より選択される1種以上であることが好ましい。
また、リン脂質がレシチンであることが好ましい。
ハイドロキシアパタイト粒子が非結晶であることが好ましい。
第2形態に係るハイドロキシアパタイト粒子含有材料は、FT-IRスペクトルにおいて、1030cm-1~1100cm-1の範囲にピークを有し、且つ、1220cm-1~1240cm-1の範囲にピークを有しないことが好ましい。
第2形態に係るハイドロキシアパタイト粒子含有材料は、FT-IRスペクトルにおいて、1700cm-1~1750cm-1の範囲の最大吸収強度が、1030cm-1~1100cm-1の範囲の最大吸収強度の10%以下であることが好ましい。
第2形態に係るハイドロキシアパタイト粒子含有材料は、ハイドロキシアパタイト粒子含有材料を含む組成物(例えば、医薬品組成物や化粧品組成物等)の形態であってもよい。
【0117】
ハイドロキシアパタイト粒子含有材料をこのような構成とすることで、ハイドロキシアパタイト粒子の活性をより有効に活用することができると考えられる。
【実施例0118】
以下、実施例によって本開示に係るハイドロキシアパタイト粒子含有材料(特に、ハイドロキシアパタイト内包リポソーム)について詳細に説明するが、本開示はこれには何ら限定されない。
【0119】
<<<<第1のハイドロキシアパタイト内包リポソーム>>>>
<<<製造方法>>>
<<第1のハイドロキシアパタイト粒子(高結晶)>>
以下のようにして、第1のハイドロキシアパタイト粒子(高結晶性ハイドロキシアパタイト粒子)を得た。
脱イオン水が入った反応容器内に、撹拌しながら、硝酸カルシウム四水和物、リン酸水素二アンモニウム水溶液及びアンモニア水を添加し{カルシウム:リン酸(モル比)=5:3}、ハイドロキシアパタイトの一次粒子を得た。その後、反応容器内の上澄みを廃水容器に移した後、脱イオン水を加え、攪拌器で撹拌し、上澄みを廃棄容器に移す、という作業を2回繰り返した。その後、当該沈殿物の入った反応容器ごと、-10℃~-25℃にて一夜冷凍した。その後、室温で解凍し、解凍後の沈殿をろ取した。その後、焼成皿に約400gの沈殿を入れ、焼成炉に入れ、1時間強かけて600℃までにし、600℃を1時間保った後、1時間以上かけて冷却することで焼成を実施した。その後、焼成体へ脱イオン水を加え、30分間以上超音波照射した。そして、ポッドミルへ移し、粉砕球を入れて1時間粉砕した。粉砕終了後、手付きビーカーへ移し、目開き150μm篩を用い、未粉砕焼成体を除去した。尚、この後、脱イオン水洗浄を6回繰り返した。その後、60℃~80℃で乾燥し、第1のハイドロキシアパタイト粒子を得た。
得られたハイドロキシアパタイト粒子の、d=2.814での半値幅は、0.65であった。
得られたハイドロキシアパタイト粒子は、平均粒径及び標準偏差を算出(SEMにて9点の画像を取得し、画像1点中、12個の粒子の粒径を計測、合計108個の粒子の粒径を確認し、平均値及び標準偏差を算出)したところ、平均粒径は34nmで、標準偏差は4nmであった。
【0120】
<<ハイドロキシアパタイト粒子内包リポソーム>>
以下のようにして、高圧乳化法にて、第1のハイドロキシアパタイト粒子内包リポソームを得た。
第1のハイドロキシアパタイト粒子を10重量%となるよう水中に懸濁させ、ハイドロキシアパタイト粒子分散液を得た。分別レシチン(辻製油社製、SLP-PC70)を280g、クエン酸2ナトリウム(富士フイルム和光純薬社製、38g)、10重量%ハイドロキシアパタイト粒子分散液(2000g)、精製水(1550g)、ハイソルブEPH(18g)を混合し、70℃にて攪拌溶解した。高圧乳化装置(スギノマシン製、スターバーストミニ)にて200MPaの圧力にて高圧乳化を行い、リポソームを含む乳化分散液を得た。
【0121】
得られた第1のハイドロキシアパタイト粒子内包リポソームのTEM画像を図1に示す。
【0122】
得られた第1のハイドロキシアパタイト粒子内包リポソームは、数平均粒径が37nmであり、標準偏差が10nmであった。
【0123】
<<<<第2のハイドロキシアパタイト内包リポソーム>>>>
<<<製造方法>>>
<<第2のハイドロキシアパタイト粒子(低結晶)>>
以下のようにして、第2のハイドロキシアパタイト粒子(低結晶性ハイドロキシアパタイト粒子)を得た。
脱イオン水が入った反応容器内に、撹拌しながら、硝酸カルシウム四水和物、リン酸水素二アンモニウム水溶液及びアンモニア水を添加し{カルシウム:リン酸(モル比)=5:3}、30℃で加温しながら18時間撹拌することでハイドロキシアパタイトの一次粒子を得た。その後、反応容器内の上澄みを廃水容器に移した後、脱イオン水を加え、攪拌器で撹拌し、上澄みを廃棄容器に移す、という作業を2回繰り返すことで、ハイドロキシアパタイト粒子分散液を得た。
得られたハイドロキシアパタイト粒子分散液を35℃以下の条件で乾燥させた粉体の、d=2.814での半値幅は、0.84であった。
得られたハイドロキシアパタイト粒子は、平均粒径及び標準偏差を算出(SEMにて9点の画像を取得し、画像1点中、12個の粒子の粒径を計測、合計108個の粒子の粒径を確認し、平均値及び標準偏差を算出)したところ、平均粒径は29nmで、標準偏差は8nmであった。
【0124】
<<ハイドロキシアパタイト粒子内包リポソーム>>
以下のようにして、高圧乳化法にて、第2のハイドロキシアパタイト粒子内包リポソームを得た。
第2のハイドロキシアパタイト粒子を10重量%となるよう水中に懸濁させ、ハイドロキシアパタイト粒子分散液を得た。分別レシチン(辻製油製、SLP-PC70)を280g、クエン酸2ナトリウム(富士フイルム和光純薬製、38g)、10重量%ハイドロキシアパタイト粒子分散液(2000g)、精製水(1550g)、ハイソルブEPH(18g)を混合し、70℃にて攪拌溶解した。高圧乳化装置(スギノマシン製、スターバーストミニ)にて200MPaの圧力にて高圧乳化を行い、リポソームを含む乳化分散液を得た。
【0125】
得られた第2のハイドロキシアパタイト粒子内包リポソームは、数平均粒径が35nmであり、標準偏差が8nmであった。
【0126】
<<<物性/性質>>>
次に、ハイドロキシアパタイト粒子単体(第1のハイドロキシアパタイト粒子)、及び、ハイドロキシアパタイト粒子内包リポソーム(第1のハイドロキシアパタイト粒子内包リポソーム、第2のハイドロキシアパタイト粒子内包リポソーム)について、FT-IR測定、TG―DTA測定の測定を行った。
また、第1のハイドロキシアパタイト粒子内包リポソームについて、ゼータ電位測定を行った。
第1のハイドロキシアパタイト粒子(高結晶性ハイドロキシアパタイト粒子)、第1のハイドロキシアパタイト粒子内包リポソーム、第2のハイドロキシアパタイト粒子内包リポソームのFT-IR測定結果を、各々、図2-1、図2-2、図2-3に示す。
第1のハイドロキシアパタイト粒子(高結晶性ハイドロキシアパタイト粒子)、第1のハイドロキシアパタイト粒子内包リポソーム、第2のハイドロキシアパタイト粒子内包リポソームのTG-DTA測定結果を、各々、図3-1、図3-2、図3-3に示す。TG-DTA測定結果にて、第1のハイドロキシアパタイト粒子について150~250℃の範囲に明確な吸熱を伴わない1.7%の重量減が確認され、第1のハイドロキシアパタイト粒子内包リポソームについて150~250℃の範囲に明確な吸熱を伴わない12.7%の重量減が確認され、第2のハイドロキシアパタイト粒子内包リポソームについて150~250℃の範囲に明確な吸熱を伴わない10.7%の重量減が確認された。
ゼータ電位測定結果を表1に示す。表1における各数値の単位は、[mV]である。
【0127】
【表1】
【0128】
図2図3、表1に示すように、ハイドロキシアパタイト粒子内包リポソームは、ハイドロキシアパタイト粒子単体とは異なる、特徴的な性質を有するものであった。
【0129】
<<<評価>>>
次に、ハイドロキシアパタイト粒子単体(第1のハイドロキシアパタイト粒子)とハイドロキシアパタイト粒子内包リポソーム(第1のハイドロキシアパタイト粒子内包リポソーム、第2のハイドロキシアパタイト粒子内包リポソーム)との対比評価として、コラーゲン産生評価の試験を実施した。
【0130】
<<評価方法>>
正常ヒト線維芽細胞を試料含有10%FBS含有DMEM培地10mLに加え、遠心分離(200×g、5分)を行った後、培地10mLで懸濁し、24時間培養後、培地中のコラーゲン量をELISAにて定量した。当該実験はそれぞれの条件において3回反復して行なった(n=3)。尚、用いた試料は、VCエチル(陽性対照)、製造したハイドロキシアパタイト粒子とハイドロキシアパタイト粒子内包リポソームである。培地中のハイドロキシアパタイト粒子やハイドロキシアパタイト粒子内包リポソームの濃度(質量%)を変更して評価を行った。結果を表2に示した。
【0131】
<<評価結果>>
各濃度でハイドロキシアパタイト粒子とハイドロキシアパタイト粒子内包リポソームを比較した場合、0.01%では、I型コラーゲン量に有意な差は見られなかったが(p>0.05(t test))、0.05%ではハイドロキシアパタイト粒子内包リポソーム添加時の方がハイドロキシアパタイト粒子よりも一型コラーゲン量が多い傾向が見られ(p<0.1(t test))、0.1%ではハイドロキシアパタイト粒子内包リポソーム添加時の方がハイドロキシアパタイト粒子添加時よりも有意にI型コラーゲン量の増加が見られた(p<0.05(t test))。なお、「p(t test)」とは、「t test」により得られたp値{一般的に0.05以下であれば、差がある値であることを示し、逆に、0.05より大きな値である場合、差がほとんどないことを示す。}を示している。
【0132】
【表2】

図1
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図3-1】
図3-2】
図3-3】