(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064927
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】イオン源カソード
(51)【国際特許分類】
H01J 37/08 20060101AFI20240507BHJP
【FI】
H01J37/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022211295
(22)【出願日】2022-12-28
(31)【優先権主張番号】17/976,068
(32)【優先日】2022-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】523001290
【氏名又は名称】イオン テクノロジー ソリューションズ、エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マヌエル エイ.イェレス
(72)【発明者】
【氏名】カルロス エフ.エム.ボルヘス
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム エイ.ナトーリ
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA25
5C101BB05
5C101DD03
5C101DD13
5C101DD16
5C101DD22
(57)【要約】
【課題】イオン・ビーム動作時の寿命性能を向上させ且つ組み付けに必要な部品点数がより少ないイオン源カソードを提供すること。
【解決手段】改良されたカソード・サブ・アセンブリは、タングステン製の中実円筒形カソードと、カソードに対して同心であるとともに、カソードの一端部を受ける内部径方向向きリブを有している円筒形ホルダーと、カソードに対して周方向に離間した位置関係でホルダーに螺合可能に取り付けられた円筒形反射体とを含む。ホルダーは、修理及び/又は交換のために容易に取り外し得るよう、支持プレートに螺合可能に取り付けられている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード(27)と、
前記カソード(27)に対して同心である円筒形ホルダー(28)であって、内部径方向向きリブ(28”)を有する円筒形ホルダー(28)と
を有する、イオン注入装置のためのカソード・アセンブリであって、
前記カソード(27)が円筒形中実構造であり、且つ前記リブ(28’)内にスライド可能に受け入れられる一端部を有していることを特徴とする、イオン注入装置のためのカソード・アセンブリ。
【請求項2】
前記カソード(27)の前記一端部は、前記カソードの残部に対して周方向に凹状であり、且つ前記ホルダー(28)の前記リブ(28’)内にスライド可能に受け入れられる3つの起立タブ(27’)を有していることを更に特徴とする、請求項1に記載のカソード・アセンブリ。
【請求項3】
前記カソード(27)に対して周方向に離間した関係で前記ホルダー(28)内に螺合可能に取り付けられた円筒形反射体(31)を有することを更に特徴とする、請求項1に記載のカソード・アセンブリ。
【請求項4】
電子流を生成するためのイオン源アセンブリであって、
支持プレート(29)と、
前記支持プレート(29)に取り付けられたカソード(27)を備えるカソード・アセンブリと、
前記支持プレート(29)を貫通するフィラメント(30)であって、前記カソード(27)上に熱電子を放出するために前記カソード(27)の一端部に面する平らな蛇行形状端部を有しているフィラメント(30)と
を有することを特徴とする、イオン源アセンブリ。
【請求項5】
前記カソード・アセンブリは、前記カソード(27)に対して同心であり且つ前記カソード(27)を保持する円筒形ホルダー(28)であって、前記支持プレート(29)に螺合可能に固定された円筒形ホルダー(28)を有することを更に特徴とする、請求項5に記載のイオン源アセンブリ。
【請求項6】
前記支持プレート(29)及び前記円筒形ホルダー(28)内に円筒形熱遮蔽体(31)を有し、前記熱遮蔽体(31)は、前記フィラメント(30)の前記平らな蛇行形状端部に離間した関係で面する平坦面を有し、それにより前記フィラメント(30)から放出された熱電子を前記カソード(27)に向けて反射することを更に特徴とする、請求項6に記載のイオン源アセンブリ。
【請求項7】
一対の対向壁を有するボックス様形状のアーク放電チャンバ(47)を有し、前記対向壁の一方は開口を有し、前記開口内には円筒形のグラファイト製ライナ(51)が配置され、前記ライナ(51)は、前記チャンバの前記壁と接触する一端部に周方向肩部を、また前記壁に対して周方向に離間した関係で円筒形表面を有し、それにより前記壁と前記円筒形表面との間に隙間を画成していること、及び
前記カソード・アセンブリは、前記カソード・アセンブリから前記チャンバ(47)内に電子を放出するために前記ライナ(51)の内部に配置されることを更に特徴とする、請求項5に記載のイオン源アセンブリ。
【請求項8】
前記チャンバ(47)上に配置されたカバー(48)であって、イオン・ビームを通過させるためのスリット(49)を有するカバー(48)を有し、前記カバーは、凹状中央領域と、前記凹状中央領域の各コーナー部分にある一対の隆起した電気接触点(52)とを有し、前記アーク放電チャンバ(47)は、その各コーナー部分に、前記カバー(48)の前記電気接触点を受けるための一対の隆起した電気接触点(53)を有することを更に特徴とする、請求項8に記載のイオン源アセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改良されたイオン源カソードを備えるイオン生成源を有するイオン注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン注入とは、半導体基板内へと不純物イオンをドーピングするために使用されるプロセスのことである。イオン・ビームは、イオン源チャンバから基板に向けて照射される。基板内への注入深さは、イオン注入エネルギーと、イオン源チャンバ内で生成されたイオンの質量と、に基づく。基板内における精密なドーピング・プロファイルは、デバイスが適正に動作するために重要である。所望のデバイス特性を得るために、1種類の又は複数種類のイオン種が、異なる注入量で、また異なるエネルギー・レベルで注入されてもよい。注入時には、又は他のワーク・ピース加工時には、加速されたイオンが、衝突面から材料をスパッタリングして表面を侵食することとなる。
【0003】
イオン・ビームを生成するために既存の注入装置で使用されているイオン源は、典型的にはアーク・イオン源と称されるものであって、ウェハ処理に適したイオン・ビームへと成形するための加熱フィラメント・カソードを含むことができる。米国特許第5,497,006号(Sferlazzo)は、ガス閉じ込めチャンバ内に配置されたカソードとアンチ・カソード(反射電極(repeller))とを有したイオン源を含む。このイオン源は、ガス閉じ込めチャンバを基部の支持部分によって保持するための中実アルミニウム製ブロックを更に含む。この米国特許第5,497,006号におけるカソードは、ガス閉じ込めチャンバ内へと部分的に延在する、管状導電体及び端部キャップである。フィラメントは、管状導電体の内部に支持されているとともに、電子を放出し、これらの電子が、電子衝撃によって端部キャップを加熱し、電離した電子をガス閉じ込めチャンバ内へと熱的に放出させる。
【0004】
米国特許第5,763,890号(Cloutier)も、また、イオン注入装置で使用するためのアーク・イオン源を開示している。このイオン源は、ガス電離領域を囲んでいる導電性チャンバ壁を有したガス閉じ込めチャンバを含む。ガス閉じ込めチャンバは、イオン・ビームがチャンバから導出されることを可能とする導出開口を含む。
【0005】
米国特許出願第2011/0156570号(Jerez)も、また、イオン注入装置で使用するためのカソード・アセンブリを開示している。このイオン源は、フィラメント固定アセンブリを有したガス閉じ込めチャンバを含む。そのフィラメント固定アセンブリは、別個のカソード・アセンブリのカソードがなす空洞の内部に、フィラメントの接続リード線を保持するための一対をなす分岐固定部材を有している。このフィラメント固定アセンブリは、絶縁体ブロック上に、自動調心関係で取り付けられている。カソード・アセンブリは、フィラメントを受けるための内部空洞が形成されたタングステン製カソードを有しているとともに、タングステン、モリブデン、及びグラファイトから形成された保持遮蔽体の内部に、ネジ山付きグラファイト製円筒カラーによって、固定されている。
【0006】
他のイオン源は、所望のイオンを生成するために、RF放電、マイクロ波放電、又は電子ビーム放電を駆動してもよい。これらのイオン源は、アーク・イオン源と比較して100分の1~10分の1のプラズマ密度を生成し、典型的には、イオン化ポテンシャルが小さなイオン源材料(電離しやすい種)と共に使用されるか、又は、イオン源チャンバが大きなイオン抽出領域を有している場合に使用される。
【0007】
米国特許第6,975,072号(Leung)に示されているものなどの低温イオン源は、ステンレス鋼、銅、又はアルミニウムなどの比較的低温の材料から形成されたイオン源材料を有することができる。アーク・イオン源などの高温イオン源では、イオン源のチャンバ壁が、数万℃の温度と大きな熱出力密度とを有したアーク・プラズマに曝されるため、従来技術による注入装置のイオン源構成要素は、モリブデン、タンタル、又はタングステンなどの高温材料から、すなわちいわゆる耐火性材料から、形成される必要がある。
【0008】
当該技術分野では公知であるように、フィラメントの接続リード線は、典型的には、第1フィラメント固定部材及び第2フィラメント固定部材によって拘束される。これらの固定部材は、典型的には、カム操作又はセット・ネジを利用して、固定部材の一体型ジョーを開くことで、フィラメント・リード線を受ける。次に、フィラメント・リード線は、固定を行っているジョーが発生させるスプリング力によって保持される。動作時には、フィラメントが極端な高温に到達するため、固定を行っているジョーは、経時的に緩むこととなり、恒久的な変形を受ける。そのため、フィラメントに対する電気的接続が損なわれ、イオン源の修理又は交換が必要となって、注入装置の停止期間が繰り返されたり長期化したりする。
【0009】
当該技術分野では公知であるように、カソード及びフィラメント固定部材は、電気的/熱的な絶縁体ブロックに対して取り付けられる。フィラメント/固定部材アセンブリは、典型的には、なべ小ネジを使用して、絶縁体ブロックに対して取り付けられる。このアセンブリは、カソードの空洞内の中央にフィラメントが位置するようにして、配置される。その後、なべ小ネジを締め付けることにより、アセンブリが所定位置に保持される。フィラメントの適正な位置は、作業者の熟練度、及び/又は、アセンブリ固定具を使用する必要性に依存する。アセンブリの組み付けが不適正であると、フィラメントとカソードとの間で電気的短絡が発生することとなり、イオン源を動作不能としてしまう。また、イオン源の寿命を最大限に延ばすことを確保するためには、フィラメントとカソードとの間の最小ギャップを満たす必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5,497,006号明細書
【特許文献2】米国特許第5,763,890号明細書
【特許文献3】米国特許出願第2011/0156570号明細書
【特許文献4】米国特許第6,975,072号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、イオン・ビーム動作時の寿命性能を向上させ且つ組み付けに必要な部品点数がより少ないイオン源カソードを提供することである。
【0012】
本発明の別の目的は、イオン注入装置の寿命を向上させるように、また、部品点数を低減させるように、更に、イオン注入装置の停止時間を短縮させるように、改良されたイオン源カソード構造を提供することである。
【0013】
本発明の別の目的は、熱損失を最小化することで且つカソード表面上を高温に維持することで、イオン注入装置のアーク・チャンバ内部の含有ガスを電離させるように、熱電子(熱電子群)の放出量を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
要約すれば、本発明は、イオン流を生成するに際して使用するための間接加熱式カソード型イオン源アセンブリを提供する。
【0015】
このアセンブリは、イオン・ビーム生成用のイオン源と共に使用するためのカソード・サブ・アセンブリと、カソード・サブ・アセンブリ内に同軸的に配置されたフィラメントと、を含む。
【0016】
イオン注入装置のためのカソード・アセンブリは、円筒形のカソードと、このカソードに対して同心の円筒形ホルダーと、カソードに対して周方向に離間した位置関係でホルダーに螺合可能に取り付けられた円筒形反射体と、を有している。加えて、ホルダーは、カソードの一端部をスライド可能に受ける内部径方向向きリブを有している。
【0017】
カソードは、中実構造であり、タングステンから形成されている。
【0018】
加えて、ホルダーの内部リブは、周方向に離間した3個のスロットを有しており、他方、カソードの一端部は、カソードの残部に対して周方向に凹状であり、ホルダーの内部リブのスロット内へとスライド可能に受け入れられる3個の起立タブを有しており、凹状周縁の残部は、ホルダーから径方向に離間している。それら3個のタブが、熱接触点として機能し、カソードを三点カソードとして特徴付ける。カソードとホルダーとの間の接触領域を制限することは、カソードからホルダーへの熱伝達(熱損失)を低減させるように機能し、これにより、カソードの表面温度を大きな値に維持して、電子放出を向上させることができる。
【0019】
代替的には、カソードの表面温度が高すぎて、カソードのバイアス電圧に対して何らかの不安定さをもたらす場合には、カソードの端部を平坦化してもよく、これにより、全周を接触面として構成してもよい。この構造は、カソードとホルダーとの間の接触領域を増大させ、カソードからホルダーへの熱伝達を増大させるように機能し、これにより、カソードの表面温度を下げることができる。
【0020】
円筒形反射体は、カソードからの熱損失を防止するように機能し、これにより、カソードの表面温度を向上させる。
【0021】
フィラメントは、平らな蛇行形状(flattened serpentine shape)の端部であるとともに、カソードの一端部に対して対向することによりカソード上に熱電子群を放出するための端部と、この平らな蛇行形状の端部から延在する一対の平行なリード線と、を有している。
【0022】
加えて、熱損失を低減するために、円筒形の熱遮蔽体が、フィラメントに対して同心に配置されている。熱遮蔽体は、フィラメントの平らな蛇行形状の端部に対して離間して対向した平坦面を有することで、フィラメントから放出された熱電子群を、カソードに向けて反射する。熱遮蔽体は、熱損失を最小化するとともにフィラメントの領域を高温に維持しこれによりカソードの表面温度を高めるための断熱ライナとして機能する管状部分を有している。
【0023】
カソード・サブ・アセンブリは、グラファイト製支持プレート上に取り付けられている。この目的のために、円筒形ホルダーは、支持プレートに対して螺合可能に取り付けられているとともに、支持プレートから突出している。このようにして、カソード・サブ・アセンブリは、イオン注入装置の修理又は交換のために、容易に取り外され得る。
【0024】
フィラメントのリード線は、また、支持プレートを貫通しているとともに、ホルダーの内部へと通過している。
【0025】
フィラメントの周囲に配置された熱遮蔽体も、また、支持プレート上に取り付けられており、ホルダーの内部へと通過している。
【0026】
カソード・サブ・アセンブリの三点接触特性は、また、カソード・ホルダーから支持プレートへの熱伝達を最小化することも意図している。
【0027】
カソードは、タングステンから構築されることが好ましく、熱電子放出を最大化するために、例えば2700℃(2,973.15K)などの非常に高い温度に到達するように設計されている。
【0028】
本発明は、また、イオン・ビームを生成するための、改良されたイオン源を提供する。このイオン源は、少なくとも一方が開口を有している一対の対向壁を有したボックス様様形状のアーク放電チャンバと、このチャンバ上に配置されたカバーであるとともに、イオン・ビームを通過させるためのスリットを有したカバーと、壁の開口に配置された円筒形のグラファイト製ライナと、このライナ内に配置されたカソード・アセンブリであるとともに、チャンバ内へと電子群を放出するカソード・アセンブリと、を有している。
【0029】
本発明によれば、グラファイト製ライナは、放電チャンバの壁と接触している一端部に周方向肩部を有しているとともに、壁に対して周方向に離間した位置関係で、円筒形表面を有しており、これにより、壁と円筒形表面との間に隙間を規定しており、カソード温度を維持する。このグラファイト製ライナは、アーク放電チャンバとカソードとの間の電気絶縁体として機能し、これにより、カソードからの熱損失を低減する。
【0030】
また、本発明によれば、カバーは、凹状中央領域と、この凹状中央領域の各コーナー部分に、上面上にグラファイト製熱遮蔽体を受けるための、一対の隆起した熱接触点と、を有している。アーク放電チャンバも、また、凹状であり、各コーナー部分に、上面上にグラファイト製熱遮蔽体を受けるための一対の隆起した熱接触点を有している。このようにして、熱遮蔽体は、カバーから及びアーク・チャンバから離間されており、これにより、カバーとチャンバとの間の相互接触領域を減少させる。
【0031】
アーク放電チャンバは、また、チャンバの各壁上に、グラファイト製熱遮蔽体をそれぞれ対応する壁に接触させるとともにそれぞれ対応する壁から離間させるための、一対の隆起した接触リブを有している。同様に、アーク放電チャンバの底面は、グラファイト製熱遮蔽体を底面から離間させるための起立接触点を有している。
【0032】
本発明の上記の目的及び他の目的は、更には本発明の利点は、図面と関連した以下の詳細な説明により、より明瞭となるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】従来的な構造のイオン注入装置のブロック図を示している。
【
図2】イオン注入装置における従来的なイオン源の概略を示している。
【
図3】本発明による間接加熱式カソード型イオン源の分解図を示している。
【
図7】本発明による、支持プレートへのカソード・サブ・アセンブリの取付構成に関する分解図を示している。
【
図8】三点接触を有した本発明のカソードを示している。
【
図9】平坦化された端部を有した本発明のカソードを示している。
【
図10】本発明によるカソード・サブ・アセンブリが装着されたイオン源チャンバの断面図を示している。
【
図12】本発明によるイオン源チャンバのためのカバーに関する斜視図を示している。
【
図13】
図11のカバーを受けるための、本発明によるアーク・チャンバ本体の斜視図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1を参照すると、従来的なイオン・ビーム注入装置1は、イオン・ビーム5を形成するイオン群(イオン)を生成するためのイオン源2を含み、イオン・ビーム5は、成形されて、ビーム経路を横断して、端部へと又は注入ステーションへと、選択的に偏向される。
【0035】
イオン源2は、抽出電源3によって給電されているとともに、内部へとイオン源材料が注入される内部領域を規定するプラズマ・チャンバを含む。イオン源材料は、電離可能なガスを含んでもよく、又は、蒸発したイオン源材料を含んでもよい。プラズマ・チャンバの内部で生成されたイオン群は、イオン・ビーム抽出アセンブリ4によってチャンバから抽出され、アセンブリ4は、イオン加速電界を形成するための多数の金属製電極を含む。
【0036】
ビーム抽出4の後には、ビーム5は、質量分析器6を通過する。質量分析器6は、質量分析スリット7を通しての最大の透過量が得られるよう、所望の質量電荷比を有したイオンのみが分析器6を通して移動し得るような特定の磁界を有して構成されている。所望の種からなるイオン群が、質量スリット7から、減速ステージ8を通過する。中性のイオン群9、軽いイオン群10、及び重いイオン群11は、質量分析器6の内部のグラファイト壁12上に沈着することとなる。
【0037】
典型的には、大電流用途では、イオン源チャンバとして、間接加熱式カソード(IHC:indirectly heated cathode)型イオン源が使用される。
【0038】
図2を参照すると、典型的な間接加熱式カソード(IHC)型イオン源13は、導電性(例えば、タングステン製)チャンバ壁によって規定されたアーク・チャンバ15を含む。チャンバ15は、内部でドーパント供給ガスに対してエネルギーを付与することにより関連イオンを生成する電離ゾーンを規定している。異なる供給ガスがイオン源チャンバ15に対して供給されることで、プラズマが生成され、これにより、特定のドーパント特性を有したイオン・ビームが形成される。例えば、比較的高いチャンバ温度で、ドーパント・ガスとして、H
2、BF
3、GeF
4、PH
3、及びAsH
3を導入すると、それが、小さな注入エネルギーを有したモノ原子、中程度の注入エネルギーを有したモノ原子、及び大きな注入エネルギーを有したモノ原子に分解される。これらのイオン群は、ビームを形成し、その後、イオン源フィルタを通過する。イオン源フィルタは、イオン源の近くに配置されることが好ましい。ビーム内のイオン群は、カラム内で、所望のエネルギー・レベルに加速/減速される。開口を有した質量分析器磁石を使用することにより、イオン・ビームから不要な成分が除去され、その結果、所望のエネルギーと質量特性とを有したイオン・ビームが、分析開口を通過する。
【0039】
IHC型イオン源13は、アーク・チャンバ15の一端部に位置したカソード/フィラメント・アセンブリ16を含み、その場合、フィラメント17は、アーク・チャンバ15の内部で、カソード18に対して近接して配置されている。フィラメント17を通して流れることでフィラメント17を加熱させるとともに更に電子群の熱放出を引き起こすのに充分な電流を生成する電圧が、フィラメント17に対して供給される。カソード18は、カソード18をフィラメント17よりも大きく正にバイアスすることで、それら熱電子群をフィラメント17からカソード18に向けて加速させてカソード18を加熱することにより、フィラメント17を介して間接的に加熱される。
【0040】
典型的には、反射電極19が、アーク・チャンバ15の反対側の端部に配置されており、カソード18と同じ電圧にバイアスされている。放出された電子群は、カソード18と反射電極19との間に閉じ込められることで、導管20を介してチャンバ内に導入されたドーパント供給ガスに衝突し、これにより、所望の特性を有したプラズマを生成する。
【0041】
ドーパント・ガスから形成されたイオン群は、例えば、電界を形成するために使用されるプラズマ電極23と抑制電極24とグランド電極25とを有した標準的な三電極構成によって、開口22を通して、ビーム21として、イオン源チャンバ15から、抽出される。抑制電極24は、グランド電極25から離間しているものとして図示されているが、これは、例示の目的のために過ぎず、それら両電極は、絶縁体を介して互いに物理的に接触している。プラズマ電極23は、イオン源チャンバ15と同じ大きさの電位にバイアスされてもよい。抑制電極24は、電源に対して接続されているとともに、電子群がイオン源チャンバ15内へと逆流することを防止するように、典型的には、適度な負の値にバイアスされている。グランド電極25は、抑制電極24よりも下流側に配置されており、グランド電位である。電極が生成する電界の強さは、所望のビーム電流に合わせて調整することができ、これにより、アーク・チャンバ15内で生成したイオン群から、特定のタイプのイオン・ビーム21を抽出することができる。
【0042】
図1を参照すると、イオン源ブッシング14が、イオン源2と、イオン注入装置の、真空容器などの他の構成要素と、の間に結合されてもよい。
【0043】
ブッシング14の2つの末端は、異なる電位に維持されている。イオン源2は、抽出電源3によって、ある事例では約80kVの大きな抽出電位で、他の事例では更に大きな電位で、通電されてもよい。イオン源ブッシング14の他方の末端は、グランド電位で構成要素に対して結合されてもよい。イオン源ブッシングの絶縁破壊を回避するよう、タングステン膜などの金属材料(導電性膜)をイオン源ブッシング14]上に捕捉するために、イオン源ブッシング14]は、アルミニウム製遮蔽体を有して構成されることが有利である。
【0044】
図3を参照すると、本発明による改良されたイオン源カソードは、カソード・アセンブリを含み、このカソード・アセンブリは、円筒形カソード27と、このカソード27に対して同心の円筒形ホルダー28と、カソード27に対して周方向に離間した位置関係でホルダー28に螺合可能に取り付けられた円筒形反射体26と、を有している。(
図6を参照されたい)
【0045】
図6を参照すると、カソード27は、中実構造のものであって、タングステンから形成されている。加えて、カソード27の一端部は、カソードの残部に対して周方向に凹状であり、ホルダー28は、カソード27の凹状端部をスライド可能に受ける内部径方向向きリブ28’を有している。
【0046】
ホルダー28は、カソード27の周囲における熱遮蔽体として機能する。
【0047】
図8を参照すると、カソード27は、凹状端部上に周方向に離間して設けられた3個の起立タブ27’であって、ホルダー28のスロット(図示せず)内にスライド可能に受け入れられる3個の起立タブ27’を有している。カソード27の凹状端部の残部は、ホルダー28から、径方向に離間している。それらタブ27’は、カソード27とホルダー28との間における熱的接触点を提供するものであり、これにより、カソード27を三点カソード27として特徴付ける。
【0048】
円筒形のネジ山付き反射体26は、三点接触型カソード27及び円筒形カソード・ホルダー且つ熱遮蔽体28と合体され、熱損失を防止することで、カソード27の表面上の表面温度を向上させる。
【0049】
図3及び
図6を参照すると、カソード・アセンブリは、ホルダー28の端部を支持プレート29の内向きネジ山付き開口内に螺合することにより、グラファイト製支持プレート29に対して取り付けられる。
【0050】
図示しているように、タングステン製フィラメント30は、支持プレート29を貫通しているとともに、平らな蛇行形状の端部を有し、この端部が、カソード27上に熱電子群を放出するためにカソード27の端部に対して対向している(
図6)。フィラメント30は、平らな蛇行形状の端部から延在する一対の平行なリード線34を有している。
【0051】
加えて、円筒形で管状の反射体31が、フィラメントの脚部を取り囲んでいるとともに、支持プレート29を貫通してホルダー28内へと侵入しており、これにより、熱遮蔽体として機能する。
【0052】
図3、
図4、及び
図5を参照すると、フィラメント30は、上記の米国特許出願第2011/0156570号に記載されているような従来的な態様で、平行リード線34を介して、フィラメント固定アセンブリ32のフィラメント支持脚内に取り付けられる。
【0053】
図3に示すように、反射体31を所定位置に保持するために、取付ネジ33が、フィラメント固定アセンブリ32を貫通して、管状反射体31の径方向向きタブ内に挿入されている。
【0054】
図5及び
図6を参照すると、反射体31は、カップ形状であり、フィラメント30の平らな蛇行形状の端部に対して離間して対向した平坦面35を有することで、電子反射電極として機能し、フィラメント30から放出された熱電子群を、カソード27に向けて反射する。具体的には、平坦面35は、タングステン製フィラメント30で発生した熱電子放出を、カソード27の裏面へと反射させ、これにより、カソード27の表面温度を高めることとなる。
【0055】
熱遮蔽体且つ反射電極(すなわち、反射体)31は、フィラメント電源の負バイアスに対して接続されている。三点接触型カソード27の表面放出部分は、フィラメント電源の正バイアスに対して接続されている。熱遮蔽体且つ反射体31は、フィラメント30と、熱遮蔽体且つ反射体31の平坦面35と、の間に隙間37を設けて配置される必要がある。
【0056】
図7は、カソード型イオン源アセンブリの詳細な分解図であって、カソード27からの熱損失を低減するための三点接触座を図示している。円筒形熱遮蔽体26は、カソードの側面からの損失を低減させることで表面温度を向上させるものであり、ホルダー28の内向きネジ山40に対して螺合される。円筒形熱遮蔽体28は、支持プレート29のオス型ネジ山によって、着脱可能に保持される。これにより、カソード27が摩耗した時には、そのカソード27を新品と交換することができる。
【0057】
次に、グラファイト製支持プレート29は、セラミック製絶縁体ブロック44上に取り付けられる。
【0058】
図8を参照すると、カソード27は、三点接触座27’を有した段差付き保持部材として特徴付けられ、これにより、カソード27からの熱損失を低減させて、カソード表面温度を上昇させる。
【0059】
図9を参照すると、カソード27は、端部に周方向熱接触面46を有した平坦化保持部材として特徴付けられてもよい。平坦化保持部材は、熱損失を部分的に減少させて、カソード保持部材の表面温度を低下させることができる。
【0060】
初期の試験結果から、カソード27が非常に高温であるため、カソード27から熱電子群及び赤外線放射が熱偏向部材26へと放出されると仮定された。三点機能を除去する(接触面を平坦化する)ことにより、カソード27からホルダー28を介して支持プレート29に到達する熱伝導を増大させることにより、カソード27を、熱電子放出閾値をなす温度未満に維持することができた。これにより、カソード27に対して、安定したバイアス電力を流すことができた。
【0061】
同様の参照符号が上記と同様の部分を示している
図10を参照すると、カソード・サブ・アセンブリは、ボックス様形状のアーク・チャンバ47に対して取り付けられており、チャンバ47上には、カバー48が配置されており、このカバー48には、イオン・ビームを通過させるためのスリット49(
図12を参照されたい)が設けられている。
【0062】
図示しているように、アーク・チャンバ47は、4つの壁、底部、及び頂部に、平坦なグラファイト製熱遮蔽体47’がライナされている。チャンバ47の頂部上の熱遮蔽体は、カバー48のスリット49と一致した開口を有している。
【0063】
同様の参照符号が上記と同様の部分を示している
図11を参照すると、アーク・チャンバ47は、一端部に壁50を備え、壁50は、円筒形のグラファイト製ライナ51を受けるための開口を有している。図示しているように、グラファイト製ライナ51は、壁50と接触している一端部に、周方向にテーパー形状をなす外側肩部を有しているとともに、壁50に対して周方向に離間した位置関係で、円筒形表面を有しており、これにより、壁50と円筒形表面との間に隙間を規定することで、カソード温度を維持している(ゲインは約50℃であった)。グラファイト製ライナ51は、カソード27からの熱損失を低減するように機能する。
【0064】
図示しているように、カソード・サブ・アセンブリ・アセンブリ26、27、28は、チャンバ47内に電子群を放出するために、ライナ51の内部に配置されている。
【0065】
図12を参照すると、カバー48は、スリット49を含んでいる凹状中央領域と、この凹状中央領域の各コーナー部分にある一対の隆起した熱接触点52と、を有している。凹状中央領域は、グラファイト製熱遮蔽体(図示せず)を熱接触点52上に受けるサイズとされており、これにより、熱遮蔽体をカバー48から離間させている。
【0066】
図13を参照すると、アーク放電チャンバ47は、各コーナー部分に、カバー48の熱接触点を受けるための一対の隆起した熱接触点53を有している。図示しているように、チャンバ47は、カバー48に配置された熱遮蔽体を、熱接触点53に接触させた状態で受けるために、凹状になっている。このようにして、熱遮蔽体は、チャンバ47から離間して配置される。
【0067】
カバー48が、カバー48とアーク放電チャンバ47との間に熱遮蔽体を挟んだ状態で、アーク放電チャンバ47上に配置されたとき、熱接触点52、53は、カバー48とチャンバ47の間に8個の接触点だけしか提供せず、これにより、熱損失を低減させる。
【0068】
アーク放電チャンバ47の内部温度を向上させるように、チャンバ47の壁からグラファイト製熱遮蔽体47’(
図10を参照されたい)を離間させるために、8個の鉛直方向接触線55がチャンバ壁に追加された。同様に、底部熱遮蔽体を離間させるために、4個の接触点56がチャンバ底部に追加された。これらの追加された接触点は、熱損失を減少させ、アーク放電チャンバ47の内部ガス温度を200℃上昇させた。
【0069】
上述したように、本発明は、イオン注入装置のための、イオン注入装置の寿命を向上させるような、また、部品点数を低減させるような、更に、イオン注入装置の停止時間を短縮させるような、イオン源カソードを提供する。更に、本発明は、イオン注入装置の熱損失を最小化することで且つカソード表面上を高温に維持することで、アーク・チャンバ内部の含有ガスを電離させるように、熱電子群の放出量を向上させる。
【外国語明細書】