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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064959
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】蛍光検出の補正方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/686 20180101AFI20240507BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079380
(22)【出願日】2023-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2022172352
(32)【優先日】2022-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390037327
【氏名又は名称】積水メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】海老沼 宏幸
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QQ03
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR58
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明は、蛍光を吸収(消光)する物質等、蛍光シグナルを低下させる成分を含む検体中の標的核酸をリアルタイムPCRにより定量する方法において、標的核酸を正確に定量する方法の提供を課題とする。
【解決手段】試料中の標的核酸をリアルタイムPCRにより定量する方法であって、以下の工程を含むことを特徴とする前記方法を提供する。
(1)試料とプライマーを混合する工程
(2)試料中の標的核酸をPCRにより増幅する工程
(3)標的核酸の増幅産物を蛍光を利用して測定する工程
(4)(3)の工程で測定された各増幅サイクルの蛍光シグナルをベースラインの蛍光シグナルを用いて補正する工程
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の標的核酸をリアルタイムPCRにより定量する方法であって、以下の工程を含む
ことを特徴とする前記方法;
(1)試料及び標準品のそれぞれとプライマーを混合する工程
(2)試料及び標準品中の標的核酸をそれぞれPCRにより増幅する工程
(3)標的核酸の増幅産物を蛍光を利用して測定する工程
(4)(3)の工程で測定された試料及び標準品の各増幅サイクルの蛍光シグナルを、各々のベースラインの蛍光シグナルで除算した値を、それぞれ試料及び標準品の各増幅サイクルの補正された蛍光シグナルとして用いて試料中の標的核酸を定量する工程
ここで、前記標準品は、標的核酸の配列を含む人工核酸を含み、蛍光シグナルを低下させる成分を含まないものであり、
各増幅サイクルの蛍光シグナルの値は、1~20サイクル中の3点以上の蛍光シグナルの近似曲線により補正された値である。
【請求項2】
試料が、生物試料である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
生物試料が、血液、血清、血漿、尿、唾液又は髄液である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
生物試料が、蛍光シグナルを低下させる成分を含むものである請求項2に記載の方法。
【請求項5】
蛍光シグナルを低下させる成分が、ヘモグロビンである請求項4に記載の方法。
【請求項6】
生物試料が、乾燥ろ紙血である請求項2に記載の方法。
【請求項7】
標的核酸を抽出する工程を含まない請求項1に記載の方法。
【請求項8】
ベースラインの蛍光シグナルが、1~20サイクル中の1点又は2点以上の平均値である請求項1に記載の方法。
【請求項9】
各増幅サイクルの蛍光シグナル及びベースラインの蛍光シグナルが、生データであるか又は暫定対ベースライン相対値である請求項1に記載の方法。
【請求項10】
除算するベースラインの蛍光シグナルが、ベースライン生データの蛍光シグナルを増減させる処理により得られる蛍光シグナルであって、
前記増減させる処理が、標準品の増幅反応に伴う蛍光シグナルの増加分/標準品のベースライン蛍光シグナルの比と、試料の増幅反応に伴う蛍光シグナルの増加分/試料のベースライン蛍光シグナルの比を近似させるためのものである請求項9に記載の方法。
【請求項11】
試料の測定における、前記(3)の標的核酸の増幅産物を蛍光を利用して測定する工程が、生物試料に由来する蛍光シグナルを低下させる成分の共存下で行われるものである請求項2~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法を行うための装置であって、標的核酸を増幅する手段と、増幅された標的核酸の蛍光シグナルを検出する手段と、蛍光シグナルをベースラインの蛍光シグナルを用いて補正する補正手段とを含む前記装置。
【請求項13】
請求項1に記載の方法を行うためのキットであって、少なくとも蛍光シグナルを低下させる成分を含まない標準品と検出対象遺伝子に対して特異的なプライマーとを含むキット。
【請求項14】
請求項1に記載の方法により得られた標的核酸の定量値を、閾値と比較する工程を含む、当該標的核酸を原因とする疾患有無を判定する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光物質の発する蛍光シグナルを低下させる成分を含む試料中の標的核酸を、リアルタイムPCRにより定量する方法において、リアルタイムPCRにおける標的核酸の増幅産物を蛍光を利用して測定する工程と、増幅曲線の蛍光シグナルを低下させる成分の影響を補正する工程を組み合わせることで、標的核酸を正確に定量する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
リアルタイムPCR法とは、PCR工程に付して増幅させた標的核酸の増幅量を、標的核酸の増幅に伴い増加するインターカレーターや蛍光標識プローブ等に由来する蛍光をリアルタイムでモニターして測定する方法である。当該方法において、段階希釈した既知量(初期量)のDNAをスタンダードとしてリアルタイムPCRを行い、これをもとに、核酸の増幅が指数関数的に起こる領域で一定の増幅産物量になるサイクル数(Thresholdcycle;Ct値)を横軸(X軸)、初期量を縦軸(Y軸)にして検量線を作成し、同じ条件で測定した試料のCt値から、試料中の標的核酸の初期量(初期濃度)を算出することができる。これらは定量的リアルタイムPCR法とも呼ばれている。
【0003】
当該定量的リアルタイムPCR法は、様々な場面で使用されているが、試料中の標的核酸は、各種試料より抽出・精製された後に、リアルタイムPCRに付されることが一般的である。各種試料からの核酸抽出・精製は、市販のキットによって実施可能であるが、測定試料が多数の場合には、核酸の抽出・精製操作が煩雑で時間が掛かる上に、試料が少量の場合には、標的核酸の抽出・精製効率(回収率)が低くなることがあるので慎重な操作等が必要となる。従って、試料中の標的核酸を抽出・精製せずに直接、リアルタイムPCR法に付して測定に要する時間を短縮できる方法や、標的核酸の回収率を低下させない方法が望まれている。
【0004】
多数の試料を測定する必要がある試験の1つとして、近年注目されている新生児スクリーニング検査の拡大項目としての遺伝子検査が挙げられる。具体的には、原発性免疫不全症の指標として環状DNA断片であるTREC(T-cellreceptor excision circles)及びKREC(Kappa-deleting reconbination excision circles)の測定、さらに、脊髄性筋委縮症に対する治療薬の開発を受けて、その原因遺伝子であるSMN1(Survival Motor Neuron1)のホモ欠失の測定が、新生児スクリーニング検査の拡大項目として普及が進んでいる。これらの検査は、基本的に出生数と同じ検査数となり、さらに生後1ヶ月の健康診断時に検査結果が報告されるので、迅速で簡便な測定方法が要求される。新生児は採血に困難が伴うため、検査用の試料として、血液をスポット状に含ませた直径1cm足らずの乾燥ろ紙血が適用されることが特徴であるが、検査の際には、当該乾燥ろ紙血から直径1.0mm~3.2mmのパンチ片を取り出し、PCR工程における測定阻害成分を除去する為に、そこから標的核酸を抽出・精製した後、リアルタイムPCR法に付されている。
【0005】
試料として血液などの生物試料を使用するが、標的核酸の抽出・精製などの前処理を行わない場合、又は、抽出・精製が十分でない場合には、試料中に含まれる成分によってPCR反応が阻害されることがある。当該PCR反応を阻害する成分(物質)として、胆汁、カルシウムイオン、鉄イオン、キレート剤、ヘパリン、ラクトフェリンやヘモグロビンなどが報告されている(非特許文献1)。
【0006】
試料中の標的核酸以外の成分の共存下で行うリアルタイムPCR法における測定反応の阻害に関しては、2つの機序が想定される。1つは、試料中の標的核酸以外の成分がポリメラーゼ等に作用してPCR工程(標的核酸の増幅工程)を阻害する機序であり、もう一つは、PCRによる増幅自体は行われ標的核酸は増幅しているが、試料中の標的核酸以外の成分により、蛍光物質が発する蛍光が吸収され(消光する)ことにより蛍光シグナル(測定される蛍光強度)が低下し、見かけ上PCR工程が阻害される機序である。
【0007】
特許文献1には、PCR工程を阻害する場合において、検体中の夾雑物によるPCR反応阻害物質の影響を低減する試薬が記載されている。当該試薬は商業利用もされている(株式会社島津製作所:Ampdirect(登録商標))。この試薬を使用すると、ろ紙血切片から直接PCR反応を行うことが可能であることが、その増幅産物を電気泳動で検出することにより確認されている。
【0008】
特許文献2には、試料(検体)尿を塗布したろ紙を洗浄液で洗浄後に、PCR工程に付すことにより試料由来の夾雑物質の影響を低減した上で、標的DNAの抽出・精製を省略するリアルタイムPCR法が記載されている。しかしながら、当該方法は「全血以外の体液検体(特に尿)に適用する」ものであることが記載されている。
【0009】
特許文献3には、大便溶出試料中のゲノムDNAをリアルタイムPCRで測定する際、特定のイオン性液体の存在下で増幅反応を行うことにより、共存する試料由来の核酸増幅阻害剤による影響を低減させ、標的核酸の増幅効率を改善する方法が記載されている。当該特許文献3では、核酸増幅阻害剤について、「核酸増幅を阻害するか、または増幅された核酸の検出を阻害する(例えば、標的の増幅が起きたにもかかわらず増幅信号が表われないか、信号の強度が減少する)作用のある物質をいう。」と記載しているものの、実施例は、核酸増幅効率の改善に係るもののみであり、標的核酸の増幅に問題はないものの、測定される蛍光信号が低下する場合についての記載はない。
【0010】
以上のように、リアルタイムPCR工程において増幅産物の量に比例して発生する蛍光が夾雑物によって吸収(消光)される場合においての効果的な解決方法は報告されていない。
【0011】
本発明者らは、新生児スクリーニング検査での遺伝子検出におけるリアルタイムPCR法の有用性に注目し、血液成分の共存によるPCR阻害に対して、測定系の至適化を通じた解決策を提示している。即ち、サンプルとして用いる乾燥ろ紙血パンチ片の大きさ又は当該パンチ片に含まれる全血の量、PCR反応試薬の量、PCR反応時にPCR反応チューブにキャップを装着すること等についての詳細な検討により、従来のような煩雑なサンプルの前処理(標的核酸の抽出等)をすることなく、乾燥ろ紙血中の標的核酸をリアルタイムPCRにより光学的に検出及び定量可能な方法を見出し報告した(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004-283165号公報
【特許文献2】特開2008-099622号公報
【特許文献3】特開2014-027934号公報
【特許文献4】特開2021-040576号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Journal of Clinical Microbiology、39(2)、485-493(2001)
【非特許文献2】Thermo Fisher Scientificのwebサイト: https://www.thermofisher.com/blog/learning-at-the-bench/qPCR-basic37/、2022年10月19日アクセス。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、蛍光を吸収(消光)する物質等、蛍光シグナルを低下させる成分を含む検体中の標的核酸をリアルタイムPCRにより定量する方法において、標的核酸を正確に定量する方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、特許文献4に記載の方法について、さらに検討を重ねたところ、当該方法であっても、適用するサーマルサイクラー装置(本明細書において、リアルタイムPCR法による測定(標的核酸の増幅と蛍光の測定)を実施できる装置の総称として使用することがある)によっては十分な成績が得られない場合があることを確認し、使用するサーマルサイクラー装置の特性に依存しないリアルタイムPCRプロセスの阻害を軽減させる方法を発明するに至った。すなわち、リアルタイムPCRを実施するサーマルサイクラー装置による補正がなされていない生データを、対ベースライン相対値(本発明のシグナル)に変換して増幅曲線を得ることにより標的核酸を正確に定量する方法を提供する。
【0016】
より具体的には本発明は、以下の態様を含む。
<1>
試料中の標的核酸をリアルタイムPCRにより定量する方法であって、以下の工程を含む
ことを特徴とする前記方法;
(1)試料及び標準品のそれぞれとプライマーを混合する工程
(2)試料及び標準品中の標的核酸をそれぞれPCRにより増幅する工程
(3)標的核酸の増幅産物を蛍光を利用して測定する工程
(4)(3)の工程で測定された試料及び標準品の各増幅サイクルの蛍光シグナルを、各々のベースラインの蛍光シグナルで除算した値を、それぞれ試料及び標準品の各増幅サイクルの補正された蛍光シグナルとして用いて試料中の標的核酸を定量する工程
ここで、前記標準品は、標的核酸の配列を含む人工核酸を含み、蛍光シグナルを低下させる成分を含まないものであり、
各増幅サイクルの蛍光シグナルの値は、1~20サイクル中の3点以上の蛍光シグナルの近似曲線により補正された値である。
<2>
試料が、生物試料である、<1>に記載の方法。
<3>
生物試料が、血液、血清、血漿、尿、唾液又は髄液である<2>に記載の方法。
<4>
生物試料が、蛍光シグナルを低下させる成分を含むものである<2>に記載の方法。
<5>
蛍光シグナルを低下させる成分が、ヘモグロビンである<4>に記載の方法。
<6>
生物試料が、乾燥ろ紙血である<2>に記載の方法。
<7>
標的核酸を抽出する工程を含まない<1>に記載の方法。
<8>
ベースラインの蛍光シグナルが、1~20サイクル中の1点又は2点以上の平均値である<1>に記載の方法。
<9>
各増幅サイクルの蛍光シグナル及びベースラインの蛍光シグナルが、生データであるか又は暫定対ベースライン相対値である<1>に記載の方法。
<10>
除算するベースラインの蛍光シグナルが、ベースライン生データの蛍光シグナルを増減させる処理により得られる蛍光シグナルであって、
前記増減させる処理が、標準品の増幅反応に伴う蛍光シグナルの増加分/標準品のベースライン蛍光シグナルの比と、試料の増幅反応に伴う蛍光シグナルの増加分/試料のベースライン蛍光シグナルの比を近似させるためのものである<9>に記載の方法。
<11>
試料の測定における、前記(3)の標的核酸の増幅産物を蛍光を利用して測定する工程が、生物試料に由来する蛍光シグナルを低下させる成分の共存下で行われるものである<2>~<10>のいずれかに記載の方法。
<12>
<1>に記載の方法を行うための装置であって、標的核酸を増幅する手段と、増幅された標的核酸の蛍光シグナルを検出する手段と、蛍光シグナルをベースラインの蛍光シグナルを用いて補正する補正手段とを含む前記装置。
<13>
<1>に記載の方法を行うためのキットであって、少なくとも蛍光シグナルを低下させる成分を含まない標準品と検出対象遺伝子に対して特異的なプライマーとを含むキット。
<14>
<1>に記載の方法により得られた標的核酸の定量値を、閾値と比較する工程を含む、当該標的核酸を原因とする疾患有無を判定する方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、生物試料由来の蛍光シグナルを低下させる成分による蛍光シグナルの低下を補正して、当該蛍光シグナルを低下させる成分が存在しない場合に得られる蛍光シグナルに近似させ、増幅曲線を得ることにより正確、実用的な定量を可能にする方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】生体試料由来成分共存下・非共存下でのSTDの測定結果を、装置補正シグナルで図示した増幅曲線である。
図2】生体試料由来成分共存下・非共存下でのSTDの測定結果を、生データで図示した増幅曲線である。
図3】生体試料由来成分共存下・非共存下でのSTDの測定結果を、本発明のシグナルで図示した増幅曲線である。
図4】STD及び新生児ろ紙血片の測定結果を、生データで図示した増幅曲線である。
図5】STD及び新生児ろ紙血片の測定結果を、装置補正シグナルで図示した増幅曲線である。
図6】STD及び新生児ろ紙血片の測定結果を、本発明のシグナルで図示した増幅曲線である。
図7】STD及び新生児ろ紙血片からの抽出物の測定結果を、生データで図示した増幅曲線である。
図8】STD及び新生児ろ紙血片からの抽出物の測定結果を、装置補正シグナルで図示した増幅曲線である。
図9】STD及び新生児ろ紙血片からの抽出物の測定結果を、本発明のシグナルで図示した増幅曲線である。
図10】蛍光検出感度の異なる装置における、STD及び新生児ろ紙血片の測定結果を、生データで図示した増幅曲線である。
図11】蛍光検出感度の異なる装置における、STD及び新生児ろ紙血片の測定結果を、装置補正シグナルで図示した増幅曲線である。
図12】蛍光検出感度の異なる装置における、STD及び新生児ろ紙血片の測定結果を、本発明のシグナルで図示した増幅曲線である。
図13】蛍光検出感度の異なる装置における、STD及び新生児ろ紙血片の測定結果を、STDは生データ、新生児ろ紙血片は加工生データで図示した増幅曲線である。
図14】蛍光検出感度の異なる装置における、STD及び新生児ろ紙血片の測定結果を、STDは装置補正シグナル、新生児ろ紙血片は装置補正シグナルから2,000減算したシグナルで図示した増幅曲線である。
図15】蛍光検出感度の異なる装置における、STD及び新生児ろ紙血片の測定結果を、STDは本発明のシグナル、新生児ろ紙血片は本発明のシグナル2で図示した増幅曲線である。
図16】STD及び新生児ろ紙血片の測定結果を、暫定の本発明のシグナルで図示した増幅曲線である。なお、Y軸は、暫定対ベースライン相対値(傾き分補正前の対ベースライン相対値)である。
図17図16における10から20サイクルの暫定の本発明のシグナルとサイクル数との一次回帰式(近似曲線)を求め、当該一次回帰式を用いて、すべてのサイクルの暫定の本発明のシグナルを近似補正した結果を図示した増幅曲線である。なお、Y軸は、対ベースライン相対値(傾き分補正後の対ベースライン相対値)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書における各用語は、特に断らない限り本発明の属する技術分野において通常使
用される意味(例えば、非特許文献2等を参照)で使用している。
【0020】
本発明は、試料中の標的核酸をリアルタイムPCRにより定量する方法であって、以下
の工程を含むことを特徴とする。
(1)試料とプライマーを混合する工程
(2)試料中の標的核酸をPCRにより増幅する工程
(3)標的核酸の増幅産物を蛍光を利用して測定する工程
(4)(3)の工程で測定された試料及び標準品の各増幅サイクルの蛍光シグナルを、各々のベースラインの蛍光シグナルで除算した値を、それぞれ試料及び標準品の各増幅サイクルの補正された蛍光シグナルとして用いて試料中の標的核酸を定量する工程
ここで、前記標準品は、標的核酸の配列を含む人工核酸を含み、蛍光シグナルを低下させる成分を含まないものであり、
各増幅サイクルの蛍光シグナルの値は、1~20サイクル中の3点以上の蛍光シグナルの近似曲線により補正された値である。
【0021】
本発明における、「リアルタイムPCR(Real-time polymerase chain reaction)(リアルタイムPCR法ということがある)」自体は、当業者に周知である。(1)試料とプライマーを混合する工程、(2)試料中の標的核酸をPCRにより増幅する工程、(3)標的核酸の増幅産物を蛍光を利用して測定する工程のいずれの工程も、当業者に周知の材料(ポリメラーゼ、プライマー、プローブ、蛍光色素、必要があれば逆転写酵素等)、サーマルサイクラー装置、条件、操作、方法等によって実施することができる。そして(2)及び(3)の工程は、同じ反応槽内で同時に行われる。
【0022】
本発明において、「標的核酸」の語は、試料中での存在を確認したい核酸を指し、リアルタイムPCRによる増幅、測定の対象となる核酸を意味する。当該標的核酸の試料中での存在形態は、遺伝子の状態であっても、遺伝子断片の状態であっても、又、DNAであってもRNAであってもよい。
【0023】
本発明において「定量する」の語は、試料中の初期標的核酸量を定量する場合やCt値を算出する場合等、各測定により所望の値を得ることを意味する。
【0024】
本発明は、試料が生物試料である場合を含み、当該生物試料は、血液(全血又は血球画分を意味する)、血清、血漿、尿、唾液又は髄液であることができる。また、当該生物試料は、蛍光シグナルを低下させる成分を含むものであることができ、乾燥ろ紙血を好適に使用することができる。乾燥ろ紙血とは、ろ紙(直径1cm程度)に全血を染み込ませたもので、リアルタイムPCR測定に供する際には、穴あけパンチ工具によりパンチ穴形状の紙片(パンチ片)として取り出される。前記パンチ片の大きさは、含まれる血液の量を適切な範囲とする必要があることから、直径1.2~2.0mmが望ましく、1.5mm~1.8mmがよりいっそう望ましい。また、パンチ片に含まれる全血量としては、PCR全反応溶液量に対して0.95v/v%~6.6v/v%が望ましく、1.4v/v%~5.2v/v%がよりいっそう望ましい。
本発明に用いられる乾燥ろ紙血としては、例えば、新生児マス・スクリーニングなど新生児のかかとから採血したろ紙血、同時にオプショナルスクリーニングとして採血されたろ紙血などが用いられるがこれらに限定されない。
【0025】
本発明において、「蛍光シグナルを低下させる成分」とは、生物試料中に含まれる成分であって、蛍光物質の発する蛍光を消光し、それが存在しない場合に得られる蛍光シグナルを低下させる成分を意味する。具体的には、赤血球由来のヘモグロビンを挙げることができるがこれに限定されない。本発明の方法では、測定に使用する蛍光物質の種類(蛍光波長、蛍光量子収率)やサーマルサイクラー装置の特性(ダイナミックレンジ等)に拘わらず、当該成分の影響を低減してより正確、実用的な定量を行うことができる。なお、本明細書において、「蛍光シグナルを低下させる成分」、又は「蛍光シグナルを低下させる成分」を含む可能性のある画分を「夾雑物」ということがある。
【0026】
本発明は、一つの観点から、標的核酸を抽出する工程を含まない方法であるとすることができる。標的核酸を試料から抽出する工程を含まない場合、(2)試料中の標的核酸をPCRにより増幅する工程及び(3)標的核酸の増幅産物を蛍光を利用して測定する工程は、「蛍光シグナルを低下させる成分」の共存する環境で行うことになる可能性が高まるが、本発明は、そのような環境での測定に好適に使用できる。本発明の方法は、試料が生物試料である場合、特に、血液、さらに全血である場合に、好適に使用できる。さらにまた、血液が乾燥ろ紙血である場合、乾燥ろ紙血からの標的核酸抽出工程を経ずに、ろ紙片を直接PCR溶液に投入して混合した場合にも好適に使用できる。なお、仮に標的核酸を抽出する工程が実施されていたとしても、抽出が不十分で「蛍光シグナルを低下させる成分」が、リアルタイムPCRの蛍光測定に影響を与える程度、残存している場合には、本発明の方法が影響の軽減に有効であることは言うまでもない。本明細書において「標的核酸の抽出」という場合、リアルタイムPCRに付す前に、試料中よりPCR反応(工程)を阻害する可能性のある夾雑物を除去、減少させる、いわゆる「前処理」を総称する意味で使用することがある。従って、「抽出」、「精製」、「単離」、「分離」等の概念、操作を含む語として理解されるべきであり、いずれか一つの単語が意味する態様に限定して解釈されるものではない。これは、前記例示した「抽出」等の単語を単独又は組み合わせて使用した場合も同様である。
【0027】
本発明の(4)工程、即ち(3)の工程で測定された各増幅サイクルの蛍光シグナルをベースラインの蛍光シグナルを用いて補正する工程は、ベースラインの蛍光シグナルを用いる補正を、各増幅サイクルの蛍光シグナルをベースラインの蛍光シグナルで除算することによって行うことができる。この時、ベースラインの蛍光シグナルは、1~20サイクル中の1点又は2点以上の平均値であることができ、ベースラインの蛍光シグナルのバラツキ等を考慮すると2点以上の平均値であることが好ましい。又、各増幅サイクルの蛍光シグナル及びベースラインの蛍光シグナルは、生データであることできる。さらに、除算するベースラインの蛍光シグナルは、ベースライン生データの蛍光シグナルを増減させることにより得られる蛍光シグナルであり、又、ベースライン生データの蛍光シグナルを増減させる処理は、標準品の増幅曲線と近似させるためのものであってよい。
【0028】
前記「ベースライン」とは、蛍光シグナルに実質的な変動がないPCRの反応初期サイクル(例えば、図1における15サイクル~20サイクル)におけるシグナルレベルをいう。当該ベースラインのシグナルは、標的核酸の増幅反応と連動しない、蛍光物質が発するバックグラウンド蛍光又はサーマルサイクラー装置における光学的なノイズ等より成る。このベースラインは、各測定毎に取得された蛍光シグナル(生データ)に基づき、サーマルサイクラー装置が具備する機能により自動的に、又は手動により解析し設定することができる。なお、市販されているサーマルサイクラー装置には、ベースライン補正機能を具備している旨を表明している装置が存在するが、当該市販装置におけるベースライン補正は、Ct値算出のための増幅曲線におけるベースラインの平坦化、立ち上がり点の見極め等を目的とするものであり、本発明が課題とする蛍光シグナルを低下させる成分存在下での、蛍光シグナル低下の影響を軽減することを意図したものではない。
【0029】
ベースラインの蛍光シグナルである前記15~20サイクルの蛍光シグナルは、蛍光シグナルに実質的な変動がない場合であっても、当該15~20サイクルを含む1~20サイクルの増幅曲線の形状(例えば、傾き)の影響を受ける場合がある。即ち、1~20サイクルの全部又は一部の蛍光シグナルが何らかの傾向をもって下降、上昇する等が観察される場合であり、これらは、ベースラインのドリフトなどと称される現象として知られている。本明細書において、そのような場合を総称して「ベースラインに傾きがある場合」ということがあり、文意を明瞭にするため明示している場合がある。
【0030】
ベースラインに傾きがある場合、ベースライン及び21サイクル以降の蛍光シグナルが、当該傾き分(正の蛍光シグナルの場合も負の蛍光シグナルの場合もある)を含んだ状態で検出されるため、本発明の(4)工程で算出される補正された蛍光シグナルも、前記傾き分を含んだ値となり、本発明の(4)工程の効果を十分に享受できなくなる場合がある。
【0031】
ベースラインに傾きがある場合、1~20サイクルの増幅曲線の形状及び1~20サイクル中でベースラインに採用しようとするサイクル間の増幅曲線の形状を考慮し、1~20サイクル中の3点以上の蛍光シグナルについて、線形近似(y=ax+b、a及びbは定数)、指数近似(y=cebx、c及びbは定数、eは自然対数の底)、対数近似(y=clnx+b、c及びbは定数、lnは自然対数関数)、多項式近似(y=b+cx+c+・・・、C1、C2、・・・及びbは定数)、累乗近似(y=cx、c及びbは定数)等の近似方法を適宜に選択して近似曲線を求め、当該近似曲線より算出される21サイクル以降の蛍光シグナルにおけるベースラインの傾き分の蛍光シグナルを差し引く(傾きが正の場合は、結果的に傾き分の減算、傾きが負の場合は、結果的に傾き分の加算)ことで、21サイクル以降の蛍光シグナルにおけるベースラインの傾き分の蛍光シグナルを補正することができる。なお、ベースラインの蛍光シグナル自体も、ベースラインの傾き分の蛍光シグナルの補正がされたものとすることができることは言うまでもない。本明細書において、前記ベースラインに傾きがある場合の蛍光シグナルの補正方法を「傾き補正方法」ということがある。
【0032】
前記した近似方法は、前記の例示に限定されるものではない。これらのうち、線形近似(一次回帰式ということがある)を好適に使用することができる。また、各近似方法においても、それ自体公知の選択(例えば最小二乗法の選択など)を適宜に行うことができる。これらの演算は、例えば、MICROSOFT EXCEL(登録商標)等、市販の表計算ソフトを用いて行うことができる。なお、本明細書において、各近似方法で使用する式を「近似曲線」と総称することがある。
【0033】
前記、1~20サイクル中の3点以上の蛍光シグナルの点数については、使用する近似曲線の特性や近似曲線のフィッテイングの観点から一定の点数を定めることができる。線形近似を使用する際の好適な例として、16点(5~20サイクル)、11点(10~20サイクル)、6点(15~20 サイクル)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、近似曲線は、1~20サイクルの生データの蛍光シグナルを用いて求めてもよいし、又は、ベースラインの生データの蛍光シグナルで各増幅サイクルの生データの蛍光シグナルを除算して算出した対ベースライン相対値を暫定の対ベースライン相対値として用いて求めてもよく、特に限定されない。本明細書において、ベースラインに傾きがある場合の21サイクル以降の蛍光シグナルにおけるベースラインの傾き分の蛍光シグナルを補正するための近似曲線を求めるために使用する対ベースライン相対値を「暫定の対ベースライン相対値」又は「傾き分補正前の対ベースライン相対値」ということがある。
【0034】
本発明は、一つの観点から。蛍光を利用して測定する工程が、生物試料に由来する蛍光シグナルを低下させる成分の共存下で行われるものであるリアルタイムPCR法を含む。この場合の実施の仕方等は、前述した内容を踏襲することができる。
【0035】
また、本発明は、一つの観点から、標的核酸の配列を含む人工核酸を含み、蛍光シグナルを低下させる成分を含まない標準品を用いるリアルタイムPCR法を含む。当該標的核酸の配列を含む人工核酸を含み、蛍光シグナルを低下させる成分を含まない標準品を用いることにより、蛍光シグナルを低下させる成分が存在しない場合に測定される蛍光シグナル及び増幅曲線を把握することができる。本態様は、「定量する」ことを目的とする本発明の方法にとって、重要である。
【0036】
本発明は、リアルタイムPCRプロセスで増幅産物と比例して発生する蛍光が夾雑物によって吸収され、ロスすることによってもたらされる阻害作用に対して、阻害作用自体をブロックしようとする従来のアプローチとは異なる。本発明の方法は、リアルタイムPCR装置が取得する生データを、対ベースライン相対値(本発明のシグナル)に変換して増幅曲線を得る「(4)(3)の工程で測定された各増幅サイクルの蛍光シグナルをベースラインの蛍光シグナルを用いて補正する工程」をリアルタイムPCR法に組み入れることで、蛍光シグナルを低下させる成分の存在下であっても、標的核酸を正確、実用的に定量する方法である。
【0037】
本発明の重要な点は、サンプル中の夾雑物によるPCRプロセスにおいて、先ず生成する増幅産物の量が影響を受けていない(変化していない)こと、更にPCR試薬自体が有している蛍光値が示すベースラインが、サンプル中の夾雑物の存在によって、低下することに注目したことにあり、対ベースライン相対値への変換が合理的と判断できたことによる。即ち、サンプル中の夾雑物による蛍光強度の低下は、ベースライン及び最終増幅到達点においても起きているが、増幅産物の産生量には阻害が無いことから、夾雑物が存在しない場合との相対な比較を可能とする為に、対ベースライン相対値変換が有効になる。特に、夾雑物非存在下で標準品による検量線を利用した標的換算の定量の場合には、同じ尺度での比較が可能となるので、より正確、実用的な濃度算出が可能となるので、有効である。
【0038】
リアルタイムPCR法における蛍光シグナルを低下させる成分の共存が実用的な問題となる場合について典型的な例を説明をする。前述した、TREC及びKRECは、健常新生児ではその存在が検出され、原発性免疫不全症「陰性」と判定される一方、原発性免疫不全症の新生児では検出されないか、又は非常に微量に検出されることで、原発性免疫不全症「陽性疑い」と判定される。又、SMN1も健常新生児では検出され脊髄性筋委縮症「陰性」と判定される一方、脊髄性筋委縮症の新生児では検出されず、脊髄性筋委縮症「陽性」と判定される。生物試料中の蛍光シグナルを低下させる成分が、リアルタイムPCR法による測定の際に、混在(共存)すると、本来得られるべき蛍光シグナルを得ることが妨げられ、増幅が遅延しCt値が大きくなることで、陰性と判定されるべき健常新生児が陽性又は陽性疑いと判定されるリスク(偽陽性)が生じる。従来、増幅すべき標的核酸として、標的核酸を抽出する工程を行うことが一般的であったため、本発明の対象とする課題が顕在化していなかったと考えられる。なお、前記判定は、試料中の標的核酸の初期量、又は試料中の標的核酸のCt値は閾値を超えるか否かをもって実施される場合がある。
【0039】
本発明において、サーマルサイクラー装置により測定され、当該装置による補正がなされていない蛍光シグナルを「生データ」、当該生データがサーマルサイクラー装置によって補正等されたデータを「装置補正シグナル」、当該生データを基礎として本発明の方法により算出される蛍光シグナルを「本発明のシグナル」ということがある。
【0040】
本発明の(4)工程、即ち(3)の工程で測定された各増幅サイクルの蛍光シグナルをベースラインの蛍光シグナルを用いて補正する工程、又はシグナルの算出方法(蛍光検出の補正方法)は、STDの増幅反応に伴う蛍光シグナルの増加分/STD測定のベースライン蛍光シグナルと、検体の増幅反応に伴う蛍光シグナルの増加分/検体測定のベースライン蛍光シグナルと等しくなることが好適であるため、これを考慮して所望の補正値が得られるよう設定することができる。例えば、図4の場合、STDの増幅反応に伴う蛍光シグナルの増加分/STD測定のベースライン蛍光シグナル(700,000程度/400,000程度)=1.75(1を差し引く前)であり、検体では、150,000程度/100,000程度=1.5(1を差し引く前)となるため、本発明のシグナルでのSTD、検体の増幅曲線の近似度合いを高くすることができる(図6)。
【0041】
一方、特性の異なるサーマルサイクラー装置で測定した図10の場合、STDの増幅反応に伴う蛍光シグナルの増加分/STD測定のベースライン蛍光シグナル(16,000程度/10,000程度)=1.6(1を差し引く前)となるが、検体では4,000程度/3,500程度=1.1(1を差し引く前となるため、STDと検体の増幅曲線は、近似しない(図12)。このような場合には、除算するベースラインの蛍光シグナルをベースライン生データの蛍光シグナルを増減させることにより本発明の方法を適用することができる。
【0042】
本発明のシグナル2算出の際の生データベースラインの蛍光シグナルの増減は、以下を参照して、適宜に行うことができる。例えば、図10における検体の生データのベースライン蛍光シグナルは4,000程度であり、増幅分が500~1,000程度(見かけ上の蛍光シグナルは、4,500~5,000程度)である。この場合において、ベースラインから2,000を差し引いたベースライン(加工生データのベースライン)は2,000程度で、増幅分は2,500~3,000程度となる。増幅分を、(加工生データのベースラインで)除算するとその値(本発明のシグナル2)は1.3~1.5となり、ここから図の見やすさを考慮して1を引いたデータで増幅曲線を図示すると図15になる。
仮に生データより3,000を差し引いた場合には、加工生データのベースラインは、1000程度で、増幅分は1,500~2,000となり、本発明のシグナル2は、1.5~2.0となるが、STDにおける加工生データによる最終的な蛍光シグナルの最大が0.6程度(図15)であるため、検体の本発明のシグナル2は、STDの本発明のシグナル2を超えてしまい、濃度較正への適用が困難になる。また、生データより1,000を差し引いた場合には、検体の増幅曲線は、さらに小さくなるので、STDの蛍光検出レンジとの関係で好適な数値を適宜に設定し、上記演算を行えばよい。
【0043】
なお、本明細書において、図示した場合の見やすさを考慮し、本発明のシグナル又は本発明のシグナル2から一定の数値(実施例では“1”)を差し引いた後の数値も、本発明のシグナル又は本発明のシグナル2と呼ぶことがあるが、この一定の数値を差し引くことは、図示した場合の見やすさを考慮したい等の要請がある場合に、任意に行われる事項であって、本発明における必須の事項ではない。前記、一定の数値の差し引きにより本発明が奏する効果が変わることはないことを確認的に記載した。
【0044】
上記では、ベースラインの各サイクルの蛍光シグナル自体にばらつきはあるものの、全体としては平たん(フラット)で傾きのない形状である場合を対象としたが、ベースラインに傾きがある場合には、本発明の精度をより向上させる目的で、21サイクル以降の蛍光シグナルにおけるベースラインの傾き分の蛍光シグナルを補正する方法を組み合わせて、本発明の(4)工程を実施することができる。
【0045】
以下、ベースラインに傾きがある場合の蛍光シグナルの補正方法(本発明の傾きの補正方法)のうち、蛍光シグナルの生データから対ベースライン相対値(本発明のシグナル)を暫定算出(当該算出された傾き分補正前の対ベースライン相対値を暫定対ベースライン相対値ということがある)した後、当該暫定対ベースライン相対値についてベースラインの傾き分の蛍光シグナルを補正して、傾き分補正後の対ベースライン相対値を算出する方法について説明する。
【0046】
先ず、図16は、試料及び標準品、各々6点(15~20サイクル)の生データの平均値をベースラインの蛍光シグナルとし、当該平均値により試料及び標準品の各増幅サイクル(1~45サイクル)の蛍光シグナル(生データ)を除算した結果を図示したものである。試料によっては、1サイクルから25サイクルに向かってサイクル数の増加に伴う暫定ベースライン相対値が低下する負の傾きを有する形状となっていることがわかる。
【0047】
本発明の傾き補正方法では、試料及び標準品の各々における15~20サイクルを含む10~20サイクルについて、図16で算出した暫定対ベースライン相対値の一次回帰式を求めた後、当該一次回帰式より算出される各サイクルの暫定対ベースライン相対値中のベースラインの傾き分を差し引くことにより傾き分補正後の対ベースライン相対値を算出し補正を実施することができる。図17では、増幅曲線の全領域(1~45サイクル)について、本発明の傾き補正方法により、ベースラインの傾き分を差し引いた後の対ベースライン相対値(傾き分補正後の対ベースライン相対値)が示されている。ここで、前記一次回帰式は、各サイクルをx、蛍光シグナルをyとする、y=ax+b(aは傾き、bは切片)で表されるものである。
【0048】
上記では、対ベースライン相対値を利用した傾き補正方法を例示したが、生データでベースラインの傾きを補正した後、相対シグナル処理を行うことも可能である。すなわち、生データで、対ベースライン相対値のいずれでも、ベースラインの傾きの補正を行うことができる。
【0049】
本発明の方法は、サーマルサイクラー装置が測定する蛍光シグナルを用いて、プロセッサ、例えばスタンドアロンコンピュータ、ネットワークに接続されたコンピュータ、又はデータ収集装置、例えばリアルタイムPCR装置内のプロセッサにおいて実施することができる。上記の場合において、本発明の方法を実行するソフトウエアをサーマルサイクラー装置や装置外のコンピュータに予め搭載してもよいし、外部メディアを介して測定時又はデータアウトプット時にサーマルサイクラー装置又は装置外のコンピュータでソフトウエアを実行するようにしてもよい。
【0050】
本発明は、一つの観点から、本発明の方法を行うための装置であって、標的核酸を増幅
する手段と、増幅された標的核酸の蛍光シグナルを検出する手段と、蛍光シグナルをベー
スラインの蛍光シグナルを用いて補正する補正手段とを含む装置を含む。
【0051】
本発明は、一つの観点から、本発明の方法を行うためのキットであって、少なくとも蛍光シグナルを低下させる成分を含まない標準品と検出対象遺伝子に対して特異的なプライマーとを含むキットを含む。当該キットは、蛍光シグナルを低下させる成分が共存する環境下での試料中の標的核酸の定量を行う本発明の方法の実施に有用である。
【0052】
本発明は、一つの観点から、本発明の方法により得られた標的核酸の定量値を、閾値と比較する工程を含む、当該標的核酸を原因とする疾患有無を判定する方法を含む。前記閾値は、定量された核酸量やCt値で設定することができる。
【0053】
本発明の方法は、本明細書の記載に基づき、より実用的に改変等可能であることは言うまでもなく、それらの各態様が、本発明に包含されることも当然である。
【実施例0054】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、各実施例におけるリアルタイムPCRによる増幅対象である標的核酸の増幅曲線を図示する場合には、図の見やすさを考慮して1~14サイクル部分の記載を省略し、15~45サイクル部分のみを図示している。
【0055】
〔実施例1〕乾燥ろ紙血パンチ片(ブランクパンチ片)のPCR増幅反応への影響の確認(1)
RNaseP(RibonucleaseP)をモデル標的遺伝子として、リアルタイムPCR法における血液成分共存の影響を確認した(以下、RNaseP遺伝子、RNaseP遺伝子に由来する核酸を単にRNasePということがある)。
【0056】
(a)試験材料
(a-1)RNaseP増幅用プライマー
RNaseP増幅用のプライマーとして、下記のプライマーを株式会社日本遺伝子研究所(日本、宮城県)に合成依頼したものを用いた。
【0057】
RNaseP用フォワードプライマー
5’-GCGGAGGGAAGCTCATCA-3’(配列番号1)
RNaseP用リバースプライマー
5’-GTCTGACCTCGCGCGGA-3’(配列番号2)
【0058】
(a-2)RNaseP検出プローブ
RNasePのPCRによる増幅を確認するためのプローブとして、蛍光/クエンチャー組み合わせ標識を施した下記の検出プローブを、プライムテック株式会社(日本、東京都)に合成依頼したものを用いた。
【0059】
RNaseP用検出プローブ
5’-(FAM)-CCACGAGCTGAGTGCGTCCTG-(BHQ1)-3’(塩基配列部分は配列番号3)
(BHQは登録商標である。)
【0060】
(a-3)プラスミド
PCR増幅産物を定量する為、下記に示すRNasePの遺伝子部分配列をベクターに組み込んだプラスミドを、ユーロフィンジェノミクス株式会社(日本、東京都)に合成依頼したものを検量線用の標準品として用いた。
【0061】
RNaseP部分配列(配列番号4)
ATAGGGCGGAGGGAAGCTCATCAGTGGGGCCACGAGCTGAGTGCGTCCTGTCACTCCACTCCCATGTCCCTTGGGAAGGTCTGAGACTAGGGCCAGAGGCGGCCCTAACAGGGCTCTCCCTGAGCTTCGGGGAGGTGAGTTCCCAGAGAACGGGGCTCCGCGCGAGGTCAGACTGGGCAGGAGATGCCGTGGACCCCGCCCTTCGGGGAGGGGCCCGGCGGATGCCTCCTTTGCCGGAGCTTGGAACAGACTCACGGCCAGCGAAGTGAGTTCAATGGCTGAGGTGAGGTACCCCGCAGGGGACCTCATAACCCAATTCAGACTACTCTCCTCCGCCCATT
【0062】
(b)PCR試薬
Ampdirect Plus酵素セット(株式会社島津製作所:日本、京都府)に付属のPCRバッファー及びBIOTAQ HSDNAポリメラーゼを使用して、以下の組成のPCR試薬を調製した。
0.125μM (終濃度)RNaseP用フォワードプライマー
0.125μM (終濃度)RNaseP用リバースプライマー
0.135μM (終濃度)RNaseP用検出プローブ
0.03U/μL BIOTAQ HSDNAポリメラーゼ
【0063】
(c)検量線用標準品含有PCR試薬
上記PCR試薬に、さらにRNaseP部分配列を組み込んだプラスミドを添加して、以下の検量線用標準品含有PCR試薬の希釈系列(STD1~4)を調製した。
STD1(RNaseP 100,000copies/assay)、
STD2(RNaseP 10,000copies/assay)、
STD3(RNaseP 1,000copies/assay)、
STD4(RNaseP 200copies/assay)
【0064】
(d)ブランク乾燥ろ紙血
ヒト赤血球分画(Tennessee Blood Services Corp.:アメリカ合衆国、テネシー州)と1%BSAヌクレアーゼフリー水溶液を、3:2の容量比率で混合し、採血用ろ紙(株式会社アドバンテック:日本、東京都)に40μL染み込ませ、そのまま乾燥し、ブランク乾燥ろ紙血を作製した。なお、赤血球分画には、RNaseP遺伝子は含まれていない。
【0065】
(e)PCR反応の条件
(i)95℃:15分
(ii)95℃:15秒、63℃:80秒(45サイクル)
(iii)37℃:5分
【0066】
(f)リアルタイムPCR測定
(f-1)測定方法
以下の手順で測定した。
(i)ブランク乾燥ろ紙血から、パンチャーを用いて直径1.5mmの円形のパンチ片を採取し、ブランクパンチ片を調製した。
(ii)PCR反応用のチューブに上記ブランクパンチ片を投入した。対照は、ブランクパンチ片未投入とした。
(iii)上記(ii)の各チューブに、各検量線用標準品含有PCR試薬を40μL加えた後、キャップ(前記チューブとセットになっているもの)をして密閉し、ブランクパンチ片投入試料(STD+DBS)、未投入試料(STD)を調製した。
(iv)サーマルサイクラー装置としてAppliedBiosystems7500リアルタイムPCRシステム(Thermo Fisher ScientificInc.:アメリカ合衆国、マサチューセッツ州)を用いて、RNasePのリアルタイムPCR測定を行った。
(v)各ブランクパンチ片投入試料(STD+DBS)及び未投入試料(STD)をそれぞれ2回測定し、増幅曲線をサーマルサイクラー装置に表示させた。
【0067】
(f-2)増幅曲線の解析
得られた増幅曲線を図1に示した(X軸は反応サイクル数、Y軸は蛍光シグナル)。ブランクパンチ片を投入していないSTD1~4(図1中の点線、STD1のように表記。以下同様。)においては、RNaseP部分配列を組み込んだプラスミドの濃度(含有する初期コピー数)依存的な蛍光シグナル増加の開始(立ち上がり)が良好な増幅曲線が得られた。一方、ブランクパンチ片を投入したSTD1~4(図1中の実線、STD1+DBSのように表記。以下同様。)の場合、前記プラスミドの濃度依存的な増幅曲線の立ち上がりが確認できるものの、最終的な蛍光シグナル(45サイクル終了時点の蛍光シグナル)が、ブランクパンチ片を投入していないSTD1~4の1/2程度に低下することが確認された(各点線曲線の矢印部分と各実線曲線の矢印部分を比較)。なお、この増幅曲線は、使用したサーマルサイクラー装置によるベースライン補正後(装置補正シグナル)の増幅曲線として図示している。ここで、該増幅曲線に対し、Thresholdlineを20,000に設定した場合、ブランクパンチ片を投入した各STD+DBSのCt値は、ブランクパンチ片を投入していない対応するSTDのCt値よりも、それぞれ大きくなること(Thresholdlineを超えるサイクル数が増えること)が確認された(図1中の各Ct値)。また、Thresholdlineの値をさらに大きく設定した場合には、増幅曲線の傾きが小さい(寝ている)ため、ブランクパンチ片を投入したSTD+DBSのCt値とブランクパンチ片を投入していないSTDのCt値との差はさらに大きくなることが図1より読み取れた。このように、血液成分が共存するとリアルタイムPCRにおける増幅反応に影響を与えることが確認された。
【0068】
〔実施例2〕乾燥ろ紙血パンチ片(ブランクパンチ片)のPCR増幅反応への影響の確認
(2)
血液成分が共存した場合のPCR増幅反応に影響を与える機序を確認した。
【0069】
(a)RNaseP増幅産物を含む試料
実施例1のPCR反応で得られた45サイクル終了時点での増幅産物を含むPCR反応液(図1の矢印)を、各チューブから回収し、TE Buffer(Thermo Fisher ScientificInc.:アメリカ合衆国、マサチューセッツ州)で107倍希釈して、RNaseP増幅産物を含む試料を調製した。107倍希釈していることから、本試料には血液由来成分はほぼ含まれていないと考えてよい。
【0070】
(b)リアルタイムPCR測定
PCR試薬、検量線用標準品含有PCR試薬、及びPCRの反応条件は、実施例1と同一で行った。
【0071】
(b-1)測定条件
以下の手順で測定した。
(i)検量線用として、PCR反応用のチューブに、各検量線用標準品含有PCR試薬を40μL加えた後、キャップ(前記チューブとセットになっているもの)をして密閉した。
(ii)PCR反応後の増幅産物の定量測定用として、PCR反応用のチューブに、PCR試薬を36μL加え、さらに上記増幅産物107倍希釈液4μLを加えた後、キャップ(前記チューブとセットになっているもの)をして密閉した。
(iii)サーマルサイクラー装置としてLightCycler96システム(Roche Diagnostics:アメリカ合衆国、インディアナ州)を用いて、RNasePのリアルタイムPCR測定を行った。
(iv)検量線用(各STD)の増幅曲線からCt値を算出し検量線を作成した。その検量線から、RNaseP増幅産物を含む試料中の核酸含量を算出した。
【0072】
(b-2)RNaseP増幅産物を含む試料の解析
各STDにブランクパンチ片を投入し45サイクルの増幅を行った後の反応液(107希釈後)中のRNaseP増幅産物のコピー数は、各STDにブランクパンチ片を投入せずに45サイクルの増幅を行った後の反応液中のRNaseP増幅産物のコピー数とほぼ同じであることが確認された(表1)。この結果より、図1で示したブランクパンチ片を投入したことによるPCR増幅曲線の形状変化(立ち上がりが遅くなる、増幅曲線の傾きが小さくなる、最終的な蛍光シグナルが低くなる)は、PCRによるRNasePの増幅効率が低下したことに起因するのではなく、ブランクパンチ片(ブランク乾燥ろ紙血)に由来するヘモグロビンなどの血液成分が共存することによる蛍光シグナルの低下(消光による測定される蛍光シグナルのロス)に起因していることを示すものと考えられた。
【0073】
【表1】
【0074】
〔実施例3〕乾燥ろ紙血パンチ片(ブランクパンチ片)の蛍光シグナルへの影響の確認
(a)蛍光シグナルとして生データをプロットした増幅曲線の作図
実施例1の図1の増幅曲線は、サーマルサイクラー装置が具備する演算機能により、ベースライン補正がなされたデータ(装置補正シグナル)をプロットしたものであるが、当該、装置による補正がなされていない蛍光シグナル(生データ)をプロットし、生データによる増幅曲線を作図した。
【0075】
(b)生データによる増幅曲線の解析
増幅曲線の生データをプロットした結果を、図2に示した(X軸は、反応サイクル数、Y軸は、生データでの蛍光シグナル)。各STD(各点線)の蛍光シグナルのベースライン(PCR試薬のバックグラウンド蛍光)に対して、乾燥ろ紙血パンチ片(ブランクパンチ片)を投入した場合(各実線)には、指数関数的な核酸増幅期の蛍光シグナルだけでなく、ベースラインの蛍光シグナルも低下していることが確認された(下向き矢印部分)。
この現象は、蛍光標識プローブを含有するPCR試薬が持つバックグラウンドの蛍光シグナルの一部が、ブランクパンチ片に含まれる血液成分により消光されたことで起きると推測される。この結果より、サーマルサイクラー装置による単純なベースライン補正(装置補正シグナル)では、ブランクパンチ片に由来する血液成分が共存する場合における、蛍光シグナルの低下の影響を補正できないことが確認された。
【0076】
〔実施例4〕乾燥ろ紙血パンチ片(ブランクパンチ片)の蛍光シグナルへの影響の補正方法の検討
(a)本発明の方法による蛍光シグナルの補正(対ベースライン相対値補正(本発明のシグナル))
生データをプロットした図2に示すベースラインの中で、比較的変化の少ない15から20サイクルの蛍光シグナルの平均値(平均蛍光シグナル値)を、各測定の増幅曲線毎に算出し、当該平均蛍光シグナル値により、各測定における増幅曲線の蛍光シグナル(21サイクル~45サイクルの生データ)をそれぞれ除算した。各除算の結果得られた数値から、見やすいように1を差し引いて、対ベースライン相対値(本発明のシグナル)とし、X軸を反応サイクル数、Y軸を対ベースライン相対値(本発明のシグナル)として増幅曲線を図示した(図3)。本発明のシグナルを用いた場合、実施例1の図1と比較して、STDにブランクパンチ片を投入したことによる最終的な蛍光シグナル(45サイクル終了時点の蛍光シグナル)の低下が軽減されると共に、Thresholdlineを0.1に設定すれば、血液成分が共存する場合のCt値の増大(サイクルの遅れ)も改善が見られた。
【0077】
〔実施例5〕新生児乾燥ろ紙血検体中のRNaseP遺伝子の定量
(a)新生児乾燥ろ紙血パンチ片を試料として直接投入した場合のRNaseP遺伝子の定量
新生児乾燥ろ紙血検体(一般社団法人「希少疾患の医療と研究を推進する会」から提供
を受けた。)(N=10:SampleNo.1~10)それぞれより、直径1.5mmのパンチ片を採取し、新生児乾燥ろ紙血パンチ片を得、そのまま測定に用いた。したがって、ろ紙血より核酸を抽出・精製する工程は行っていない。
【0078】
(b)リアルタイムPCR測定
PCR試薬、検量線用標準品含有PCR試薬、PCRの反応条件は、実施例1と同一で行った。
【0079】
(b-1)測定条件
以下の手順で測定した。
(i)検量線用として、PCR反応用のチューブに、各検量線用標準品含有PCR試薬を40μL加えた後、キャップ(前記チューブとセットになっているもの)をして密閉した。
(ii)新生児乾燥ろ紙血検体中のRNaseP遺伝子定量測定用として、PCR反応用のチューブに、新生児乾燥ろ紙血パンチ片を投入し、そこにPCR試薬を40μL加えた後、キャップ(前記チューブとセットになっているもの)をして密閉した。
(iii)サーマルサイクラー装置(AppliedBiosystems7500リアルタイムPCRシステム)を用いて、RNasePのリアルタイムPCR測定を行った。
(iv)検量線用(各STD)の増幅曲線からCt値を算出し、検量線を作成した。その検量線を用い、各検体中のRNaseP増幅に係るCt値を算出した。
【0080】
(b-2)新生児乾燥ろ紙血検体の増幅産物の解析
検量線用(各STD)及び新生児乾燥ろ紙血検体(Sample)の増幅曲線の蛍光シグナルの生データをプロットした結果を、図4に示す(X軸は反応サイクル数、Y軸は生データの蛍光シグナル)。実施例3の図2と同様に、血液成分を含む新生児乾燥ろ紙血パンチ片を投入した場合、ベースラインの蛍光シグナル(下向き矢印部分)及び指数関数的な核酸増幅期の蛍光シグナルが大きく低下していることが確認された。
【0081】
(b-3)新生児乾燥ろ紙血検体の増幅産物の解析(装置によるベースライン補正(装置補正シグナル))
サーマルサイクラー装置によるベースライン補正後(装置補正シグナル)の増幅曲線を図5に示した(X軸は反応サイクル数、Y軸は装置補正シグナル)。その結果、実施例1の図1と同様に、血液成分を含む新生児乾燥ろ紙血パンチ片を投入したことによる最終的な蛍光シグナル(45サイクル終了時点の蛍光シグナル)の低下が認められた。
【0082】
(b-4)本発明の方法による蛍光シグナルの補正(対ベースライン相対値補正(本発明のシグナル))
生データをプロットした図4に示すベースラインの中で、比較的変化の少ない15から20サイクルの蛍光シグナルの平均値(平均蛍光シグナル値)を、各測定の増幅曲線毎に算出し、当該平均蛍光シグナル値により、各測定における増幅曲線の蛍光シグナル(21サイクル~45サイクルの生データ)をそれぞれ除算した。各除算の結果得られた数値から、見やすいように1を差し引いて、対ベースライン相対値(本発明のシグナル)とし、X軸を反応サイクル数、Y軸を対ベースライン相対値(本発明のシグナル)として増幅曲線を図示した(図6)。本発明のシグナルを用いた場合、実施例4の図3と同様に、血液成分を含む新生児乾燥ろ紙血パンチ片を投入したことによる最終的な蛍光シグナル(45サイクル終了時点の蛍光シグナル)の低下が軽減された。
【0083】
(b-5)新生児乾燥ろ紙血検体中のRNaseP遺伝子の定量
上記、図5及び図6で設定したThresholdline(20,000及び0.1)でのCt値及びそれぞれの検量線から算出された、検体中のRNaseP遺伝子の測定値(copies/μL Whole Blood [W.B.])を、表2に示した。装置補正シグナル(図5)を用いた場合と比較し、検量線用(各STD)のCt値は、対ベースライン相対値(本発明のシグナル)補正では大きくなり、検体のCt値は、逆に小さくなった。その結果、検量線から算出されたRNasePの遺伝子濃度は、装置補正でシグナルを用いた場合には、文献(Clin.Chem.,56:9,1466-1474(2010))で見るオーダ(104)より一桁~二桁、低いコピー数で算出されたが、対ベースライン相対値(本発明のシグナル)補正では、前記文献で見るオーダ(10)であるか、当該オーダーに近似するコピー数で算出された。
【0084】
【表2】
【0085】
〔比較例1〕新生児乾燥ろ紙血検体から抽出したDNA中のRNaseP遺伝子の定量
(a)新生児乾燥ろ紙血由来パンチ片からのDNAの抽出
各新生児乾燥ろ紙血検体(一般社団法人「希少疾患の医療と研究を推進する会」から提供を受けた。)(N=10;Sample No.11~20)より、それぞれ直径1.5mmのパンチ片を4枚を採取し、QIAampDNA Mini Kit (Qiagen:ドイツ、ヒルデン市)の取扱方法に基づいて、当該4枚からまとめてDNAを抽出した。
【0086】
(b)リアルタイムPCR測定
PCR試薬、検量線用標準品含有PCR試薬、PCRの反応条件は、実施例1と同一で行った。
【0087】
(b-1)測定条件
以下の手順で測定した。
(i)検量線用として、PCR反応用のチューブに、各検量線用標準品含有PCR試薬を40μL加えた後、キャップ(前記チューブとセットになっているもの)をして密閉した。
(ii)新生児乾燥ろ紙血検体から抽出したDNA中のRNaseP遺伝子定量測定用として、PCR反応用のチューブに、PCR試薬を36μL加えた後、DNA抽出液4μLを加え、キャップ(前記チューブとセットになっているもの)をして密閉した。
(iii)サーマルサイクラー装置(AppliedBiosystems7500リアルタイムPCRシステム)を用いて、RNasePのリアルタイムPCR測定を行った。
(iv)検量線用(各STD)の増幅曲線からCt値を算出し、検量線を作成した。その検量線を用い、各検体より抽出されたRNaseP遺伝子のコピー数(濃度)を算出した。
【0088】
(b-2)新生児乾燥ろ紙血検体からのDNA抽出液中のRNaseP遺伝子由来増幅産
物の解析
STD及び新生児乾燥ろ紙血検体からのDNA抽出液の増幅曲線の生データをプロットした結果を、図7に示した。実施例5の図4とは異なり、検体(血液成分)由来のベースラインの低下は認めなかった。さらに、サーマルサイクラー装置によるベースライン補正後(装置補正シグナル)の増幅曲線を図8に示した。図7の増幅曲線と図8の増幅曲線の挙動はほとんど変化しなかった。さらに、実施例5の図6のように、対ベースライン相対値補正(本発明のシグナル)を試みた結果を図9に示したが、やはり増幅曲線の挙動は、大きな変化は認めなかった。
なお、図7、8、9のX軸は反応サイクル数であり、図7のY軸は蛍光シグナルの生データ、図8のY軸は装置補正シグナル、図9のY軸は、対ベースライン相対値(本発明のシグナル)を表す。
【0089】
(b-3)新生児乾燥ろ紙血検体からのDNA抽出液中のRNaseP遺伝子の定量
上記、図8及び図9で設定したThresholdline(20,000及び0.1)でのCt値及びそれぞれの検量線から算出された、検体中のRNaseP遺伝子の測定値(copies/μL Whole Blood [W.B.])を、表3に示した。装置補正シグナルの場合(図8)と比較し、STDのCt値は、対ベースライン相対値補正(本発明のシグナル)(図9)では大きくなったが、表2とは異なり、検体のCt値も、大きくなった。この結果、検量線から算出された検体中のRNasePの遺伝子濃度(コピー数)は、装置補正シグナルの場合と対ベースライン相対値補正(本発明のシグナル)の間で、オーダーの開きはほぼ認められなかった。
【0090】
【表3】
【0091】
以上の結果より、血液成分が共存する条件において、リアルタイムPCRを行い、検体中の特定遺伝子の濃度を算出する方法において、血液成分を含まない場合におけるSTDでの検量線換算では、装置によるベースライン補正(装置補正シグナル)だけでは、測定値は低値化する傾向にある。その改善の為、対ベースライン相対値補正(本発明のシグナル)が有効であることが確認されたが、その補正では、生データにおける血液成分によるベースライン蛍光シグナルの低下を伴うことが重要であることを確認できた。即ち、比較例1に示す通り、血液成分を含まない、抽出されたDNA検体をサンプルとして用いた場合、生データのベースライン蛍光シグナルへの影響は無く、通常のリアルタイムPCR(装置補正シグナル)によって正確な定量が可能であり、対ベースライン相対値補正(本発明のシグナル)を用いるまでもない。従って、本発明のシグナルを用いる本発明の試料中の標的核酸をリアルタイムPCRにより定量する方法、及び蛍光検出の補正方法は、血液成分を含むDNA検体をサンプルとした場合に、従来の装置補正シグナルでは不能である正確な定量を可能にでき、特に有効であることが確認された。
【0092】
〔実施例6〕新生児乾燥ろ紙血検体中のRNaseP遺伝子定量(サーマルサイクラー装置による違い)
市販されているサーマルサイクラー装置は、測定原理や装置の構成で共通する点が多いものの、蛍光検出感度やダイナミックレンジは装置によって異なる。そこで、蛍光シグナルの検出幅が実施例5の装置よりも狭い装置における本発明の測定方法及び蛍光検出の補正方法の適用可能性を確認した。
(a)新生児乾燥ろ紙血由来パンチ片を試料として直接投入した場合のRNaseP遺伝子の定量
実施例5と同様に、新生児乾燥ろ紙血検体(一般社団法人「希少疾患の医療と研究を推進する会」から提供を受けた。)(N=10:SampleNo.1~10)より、直径1.5mmのパンチ片を採取し、そのまま測定に用いた。したがって、ろ紙血より核酸を抽出・精製する工程は行っていない。
(b)リアルタイムPCR測定
PCR試薬、検量線用標準品含有PCR試薬、PCRの反応条件は、実施例1と同一で行った。
(b-1)測定条件
サーマルサイクラー装置を、CFX Opus96(Bio-Rad:アメリカ合衆国、カルフォルニア州)とした以外は、実施例5と同一で行った。
(b-2)新生児乾燥ろ紙血検体の増幅産物の解析
検量線用(各STD)及び新生児乾燥ろ紙血検体の増幅曲線の蛍光シグナルの生データをプロットした結果を、図10に示した(X軸は反応サイクル数、Y軸は生データの蛍光シグナル)。実施例5の図4と同様に、血液成分を含む新生児乾燥ろ紙血パンチ片を投入した場合、ベースラインの蛍光シグナル(下向き矢印部分)及び指数関数的な核酸増幅期の蛍光シグナルが大きく低下していることが確認された。
【0093】
(b-3)新生児乾燥ろ紙血検体の増幅産物の解析(装置によるベースライン補正(装置補正シグナル))
装置によるベースライン補正後(装置補正シグナル)の増幅曲線を図11に示した(X軸は反応サイクル数、Y軸は装置補正シグナル)。その結果、実施例5の図5と同様に、血液成分を含む新生児乾燥ろ紙血検体パンチ片投入したことによる最終な蛍光シグナル(45サイクル終了時点の蛍光シグナル)の低下が認められた。
【0094】
(b-4)本発明の方法による蛍光シグナルの補正(対ベースライン相対値補正(本発明のシグナル))
生データをプロットした図10に示すベースラインの中で、比較的変化の少ない15から20サイクルの蛍光シグナルの平均値(平均蛍光シグナル値)を、各測定の増幅曲線毎に算出し、当該平均蛍光シグナル値により、各測定における増幅曲線の蛍光シグナル(21~45サイクルの生データ)をそれぞれを除算した。各除算の結果得られた数値から、見やすいように1を差し引いて、対ベースライン相対値(本発明のシグナル)としX軸を反応サイクル数、Y軸を対ベースライン相対値(本発明のシグナル)として増幅曲線を図示した(図12)。本発明のシグナルを用いた場合、血液成分を含む新生児乾燥ろ紙血検体由来パンチ片を投入したことによる最終的な蛍光シグナル(45サイクル終了時点の蛍光シグナル)の低下が図11の場合と比較して、僅かに軽減されたが、十分ではなかった。
【0095】
(b-5)新生児乾燥ろ紙血検体の増幅産物の解析(検体増幅曲線ベースライン調整)
上記、図10に示す検体の増幅曲線の生データの各サイクルの蛍光シグナルより、予め2,000の蛍光シグナルを差し引いた蛍光シグナル(加工生データ)による増幅曲線を図13に示した。図10と比較して、血液成分を含む新生児乾燥ろ紙血由来を添加した場合の増幅曲線が、全体的に低下するのが確認された。一方、サーマルサイクラー装置によるベースライン補正(装置補正シグナル)を図14に示すが、一律に一定の蛍光シグナルを減算するだけなので計算上図11と同じ増幅曲線となる。
【0096】
(b-6)新生児乾燥ろ紙血検体の増幅産物の解析(対ベースライン相対値補正2(本発明のシグナル2))
上記、図10に示す検体の増幅曲線の生データの各サイクルの蛍光シグナルから、予め2,000の蛍光シグナル差し引き加工生データを得た後、図10に示すベースラインの中で、比較的変化の少ない15から20サイクルの加工生データ蛍光シグナルの平均値(平均蛍光シグナル値2)を、各測定の増幅曲線毎に算出し、当該平均蛍光シグナル値2により、各測定における増幅曲線の蛍光シグナル(21~45サイクルの加工生データ)をそれぞれ除算した。各除算の結果得られた数値からから、見やすいように1を差し引いて、対ベースライン相対値2(本発明のシグナル2)としてX軸を反応サイクル数、Y軸を対ベースライン相対値2(本発明のシグナル2)として増幅曲線を図示した(図15)。その結果、血液成分を含む新生児乾燥ろ紙血検体由来パンチ片を投入したことによる増幅曲線の立ち上がりの傾きが、改善することが確認された。この改善効果は、計算上標準品の増幅曲線の蛍光シグナルに、適当な数字を加えることによっても得られると考えられる。さらに、検体及び標準品の両方を補正することを組み合わせることで、より効果が期待できる。
【0097】
[実施例5及び実施例6を通じた考察]
実施例5の結果を踏まえると、本発明の実施にあたり、PCR試薬由来のブランク蛍光シグナルとリアルタイムPCRによって増加する蛍光シグナルの幅のバランスに応じて、以下のような蛍光検出の補正をすることができる。
(1)生データベースライン蛍光シグナルが高い場合、本発明のシグナルを算出する除算の分母が大きくなるので、得られる対ベースライン相対値(本発明のシグナル)の値は小さくなる。当該場合においては、本発明の蛍光検出の補正方法は、血液成分を含む検体の対ベースライン相対値への近似となる。
(2)血液成分を含む検体によるPCR試薬由来のブランク蛍光値の低下が大きい(消光の度合いが高い)場合には、対ベースライン相対値(本発明のシグナル)の値は大きくなる。当該場合においては、本発明の蛍光検出の補正方法は、血液成分を含まない標準液の対ベースライン相対値への近似となる。
血液成分を含む検体中の特定の遺伝子を定量する場合は、対ベースライン相対値を求め、その増幅曲線からCt値を算出することで、血液成分の影響を軽減した定量の実現が可能となる。
【0098】
また、実施例6の結果より、用いるサーマルサイクラー装置の特性の違いにより、上記(1)、(2)のみではその効果が十分に得られない場合には、生データでのベースライン蛍光シグナルを適宜に増減させた後に、各増幅曲線の蛍光シグナルを除算することにより本発明の方法を好適に適用することができる。
【0099】
〔実施例7〕新生児乾燥ろ紙血検体中のRNaseP遺伝子の定量におけるベースラインの蛍光シグナルの算出方法の他の例
【0100】
(a)新生児乾燥ろ紙血パンチ片を試料として直接投入した場合のRNaseP遺伝子の定量
新生児乾燥ろ紙血検体(一般社団法人「希少疾患の医療と研究を推進する会」から提供を受けた。)(N=10:Sample No.1~10)それぞれより、直径1.5mmのパンチ片を採取し、新生児乾燥ろ紙血パンチ片を得、そのまま測定に用いた。したがって、ろ紙血より核酸を抽出・精製する工程は行っていない。
【0101】
(b)リアルタイムPCR測定
PCR試薬、検量線用標準品含有PCR試薬、PCRの反応条件は、実施例1と同一で行った。
【0102】
(b-1)測定条件
実施例5と同一の手順で測定した。
【0103】
(b-2)新生児乾燥ろ紙血検体の増幅曲線の確認
検量線用(各STD)及び新生児乾燥ろ紙血検体(Sample)の増幅曲線の蛍光シグナルの生データをプロット(X軸は反応サイクル数、Y軸は生データの蛍光シグナル)した場合のベースライン中、15から20サイクルの蛍光シグナルの平均値(平均蛍光シグナル値)を、各測定の増幅曲線毎に算出し、当該平均蛍光シグナル値を用いて各測定における増幅曲線の蛍光シグナル(1~45サイクルの生データ)をそれぞれ除算した。各除算の結果得られた数値を暫定対ベースライン相対値(傾き分補正前の対ベースライン相対値)とし、実施例5のように1を差し引かず、かつ1サイクル目から、X軸を反応サイクル数、Y軸を暫定対ベースライン相対値(傾き分補正前の対ベースライン相対値)として増幅曲線を図示した(図16)。
【0104】
その結果、検体によっては、1から15サイクルにおける暫定対ベースライン相対値が、1サイクルから25サイクルに向け、負の傾きをもって変化することが認められ、当該傾きにより25サイクル付近の増幅曲線の立ち上がりが、暫定対ベースライン相対値1よりも沈み込んだ形となり、この分のCt値への影響が残る場合があることが確認された。
【0105】
(b-3)ベースラインの蛍光シグナルの算出方法の他の例の適用
各STD及び検体毎に、図16における10~20サイクルの暫定対ベースライン相対値(y)とサイクル数(x)との近似曲線(一次回帰式y=ax+b、aは傾き、bは切片)を求め、当該一次回帰式から算出された傾きと切片を用いて得られた各サイクル毎のベースライン変動分のシグナルを、各サイクル毎の暫定対ベースライン相対値(傾き分補正前の対ベースライン相対値)より差し引いてすべてのサイクルの暫定対ベースライン相対値を近似補正した結果(傾き分補正後の対ベースライン相対値)を、図17に示す。
【0106】
10から20サイクル間の暫定対ベースライン相対値が近似補正された結果、傾きのない平坦な増幅曲線になると共に、25サイクル付近の沈み込みが改善され、かつ、各検体間の増幅曲線の収束(図17中の矢印)が確認された。測定対象と内部標準遺伝子がともにRNaseP遺伝子であり、検体間で当初のRNaseP遺伝子量の差は少ないと考えられることから、上記の収束は、合理的な結果といえる。
【0107】
ベースラインの蛍光シグナルを算出するための1~20サイクルの生データにドリフト(傾き)が観察される場合のベースラインの蛍光シグナルの算出方法(各サイクルにおけるベースラインの傾き分の補正方法)として本実施例の方法が有効であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明によれば、生物試料由来の蛍光シグナルを低下させる成分による蛍光シグナルの
低下を補正して、当該蛍光シグナルを低下させる成分が存在しない場合に得られる蛍光シ
グナルに近似させ、増幅曲線を得ることにより正確、実用的な定量を可能にする方法を提
供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【配列表】
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