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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064965
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】繊維強化セメント板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B28B 1/52 20060101AFI20240507BHJP
   B28B 7/16 20060101ALI20240507BHJP
   B28B 3/02 20060101ALI20240507BHJP
   B28B 3/20 20060101ALI20240507BHJP
   C04B 14/38 20060101ALI20240507BHJP
   C04B 16/06 20060101ALI20240507BHJP
   C04B 20/00 20060101ALI20240507BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
B28B1/52
B28B7/16 Z
B28B3/02 J
B28B3/20 D
B28B3/20 K
B28B3/20 Z
C04B14/38
C04B16/06
C04B20/00 A
C04B28/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082480
(22)【出願日】2023-05-18
(31)【優先権主張番号】P 2022172030
(32)【優先日】2022-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 掲載日 2023年2月14日 掲載アドレス https://www.nozawa-kobe.co.jp/ https://www.nozawa-kobe.co.jp/product/flexiblesheet.html https://www.nozawa-kobe.co.jp/pdf/release20230214_1.pdf 公開者 株式会社ノザワ 会見日 2023年2月14日 会見場所 (A)神戸経済記者クラブ (B)国土交通省建設専門紙記者会 公開者 (A)福田 菊光、高田 治久 (B)後藤 勇悟 掲載日 (A)2023年3月14日 (B)2023年4月 5日 刊行物 (A)神戸新聞NEXT 2023.3.14電子版 掲載アドレス https://www.kobe-np.co.jp (B)神戸新聞 2023年4月5日付朝刊、第8面 公開者 株式会社神戸新聞社 発売日 (A)2023年4月28日 (B)2023年5月1日 刊行物 (A)商店建築2023年5月号 (B)新建築2023年5月号 公開者 株式会社ノザワ
(71)【出願人】
【識別番号】000135335
【氏名又は名称】株式会社ノザワ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島村 哲也
(72)【発明者】
【氏名】紀国 友喜
【テーマコード(参考)】
4G052
4G053
4G054
4G112
【Fターム(参考)】
4G052GA02
4G052GA11
4G052GA23
4G052GB01
4G052GB15
4G052GC04
4G053AA01
4G053EA03
4G053EA26
4G053EA36
4G053EB05
4G053EB16
4G054AA01
4G054AB03
4G054AC04
4G054BA02
4G054BD00
4G054DA02
4G112PA15
4G112PA24
4G112PE02
(57)【要約】
【課題】 繊維強化セメント板の表面に良好な意匠性および良好な質感が得られるように、表面にエンボス模様に由来する平面状の模様を形成することができる製造方法を提供する。
【解決手段】 セメントと無機質材料と補強繊維とを含む原料を混合して繊維強化セメント板を形成し、繊維強化セメント板が未硬化の状態で表面にエンボス模様を付与した後、エンボス模様の凹部の最深部以下まで研削して表面を平面状に仕上げる。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと無機質材料と補強繊維とを含む原料を混合して繊維強化セメント板を形成し、前記繊維強化セメント板が未硬化の状態で表面にエンボス模様を付与した後、前記エンボス模様の凹部の最深部以下まで研削して表面を平面状に仕上げる、繊維強化セメント板の製造方法。
【請求項2】
前記繊維強化セメント板の製造は、抄造、押し出し成形のいずれかである、請求項1に記載の繊維強化セメント板の製造方法。
【請求項3】
前記繊維強化セメント板の製造は、流し込み成形であり、前記エンボス模様の付与を、前記流し込み成形に用いる型枠で行う、請求項1に記載の繊維強化セメント板の製造方法。
【請求項4】
前記抄造において、前記エンボス模様の付与を、メーキングロールに取り付けたエンボス型で抄造後のメーキングロール積層時に行う、請求項2に記載の繊維強化セメント板の製造方法。
【請求項5】
前記押し出し成形において、前記エンボス模様の付与を、前記押し出し成形時に行う、請求項2に記載の繊維強化セメント板の製造方法。
【請求項6】
前記繊維強化セメント板を形成後、前記エンボス模様の付与を、前記繊維強化セメント板の表面にエンボス型板を用いてプレスすることによる型付け、またはエンボスローラーもしくはエンボスベルトを用いて押圧することによる型付けで付与する、請求項2に記載の繊維強化セメント板の製造方法。
【請求項7】
前記エンボス模様の付与を、前記繊維強化セメント板とエンボス型板とを交互に複数積層し、複数積層した前記繊維強化セメント板と前記エンボス型板との全体をプレスすることで付与する、請求項2に記載の繊維強化セメント板の製造方法。
【請求項8】
前記プレスによる前記エンボス模様の付与を、プレス圧が50乃至200kg/cmで行う、請求項6または7に記載の繊維強化セメント板の製造方法。
【請求項9】
前記繊維強化セメント板の原料に顔料が含まれている、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の繊維強化セメント板の製造方法。
【請求項10】
前記抄造において、前記原料のスラリーに顔料が含まれている、請求項2に記載の繊維強化セメント板の製造方法。
【請求項11】
前記抄造において、前記原料のスラリーを複数回抄き上げる複数のスラリー槽の一部に顔料が含まれるスラリーが貯留されている、請求項2に記載の繊維強化セメント板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、セメント系ボードなどの繊維強化セメント板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スレート板などの繊維強化セメント板の付加価値を高めるために、表面に塗装したり化粧シートを貼り付けて表面化粧をする場合がある。繊維強化セメント板の表面化粧においては、表面にポリエステル樹脂やジアクリルフタレート(DPA)樹脂を加工したり、アクリルウレタン塗料等の塗料を塗装したりする場合がある。また、繊維強化セメント板の表面に、突き板シート、オレフィンシート、ウレタンコート紙等の化粧シートをエチレン酢酸ビニル系等の接着剤で貼り付けたりする場合もある。しかし、繊維強化セメント板は、単体では不燃性能を保有しているものの、表面に塗装を行ったり化粧シートを貼り付けたりした場合には、不燃性能を損なうおそれがある。
【0003】
また、繊維セメント板等の無機質素材の建築材料においては、セメントの素材感を生かした仕上げも好まれる傾向にあり、表面に塗装を行わない仕上げも行われている。この場合、繊維セメント板等の表面に直接凹凸のエンボス模様を形成して、表面に凹凸の質感を出すことも行われている。しかし、エンボス模様を施した板材のエンボス模様はそれほど深くなく、素地のままで用いる場合には表面色が濃淡のほとんどないグレーであることから、エンボス模様による良好な意匠性および良好な質感を得ることは難しい。
【0004】
なお、この種の先行文献として、セメントと繊維材とを主材とする未硬化の基材層の上に化粧粒子入りの着色セメント層を形成し、プレス成形後に表面を研削するものがある(例えば、特許文献1参照)。この文献では、表面を研削することで、着色セメント層内に埋没していた化粧粒子の一部を露出させている。
【0005】
また、他の先行文献として、セメントと繊維材とを主材とする未硬化の基材層の上に着色セメント層を形成し、プレス成形で表面に凹凸模様を形成した後、凸部を研磨するものがある(例えば、特許文献2参照)。この文献では、凸部を研磨することで、着色セメント層を露出させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10-034634号公報
【特許文献2】特開平10-034635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1の場合、研削によって露出させる化粧粒子の量にばらつきが生じ、良好な意匠性および良好な質感を得ることが難しい場合がある。しかも、化粧粒子を用いることから、工程が複雑となり多くのコストが必要となる。
【0008】
また、上記特許文献2の場合、研磨して凸部に露出させた着色セメント層の色合いが一様となり、良好な意匠性および良好な質感を得ることが難しい場合がある。
【0009】
そこで、本出願は、繊維強化セメント板の表面に良好な意匠性および良好な質感が得られるように、表面にエンボス模様に由来する平面状の模様を形成することができる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本出願の一態様に係る繊維強化セメント板の製造方法は、セメントと無機質材料と補強繊維とを含む原料を混合して繊維強化セメント板を形成し、前記繊維強化セメント板が未硬化の状態で表面にエンボス模様を付与した後、前記エンボス模様の凹部の最深部以下まで研削して表面を平面状に仕上げる。この明細書および特許請求の範囲の書類中における「エンボス模様」は、凹凸状の模様をいう。
【0011】
この構成により、未硬化の繊維強化セメント板の表面にエンボス模様を施すことで繊維強化セメント板の内部に充填状態の異なる部分を生じさせることができる。その後、表面に施したエンボス模様を凹部の最深部以下まで研削して表面を平面状に仕上げることで、無機質素材の風合いを生かしながら平滑な表面にエンボス模様に由来する模様(濃淡のある色合い変化)を形成した繊維強化セメント板を得ることができる。この明細書および特許請求の範囲の書類中における「エンボス模様に由来する模様」は、表面に付与したエンボス模様による繊維強化セメント板内における充填状態の違いなどによってエンボス模様を研削後に生じる色合い変化の模様をいう。「充填状態の違い」は、密充填、水分量などの違いを含む。エンボス模様に由来する模様は、立体感のある平面状の模様を含む。立体感のある平面状の模様とは、表面が平滑でありながらエンボス模様に由来する立体的な視覚効果を得るような模様をいう。よって、表面が仕上げられた繊維強化セメント板は、素地のままでも良好な意匠性および良好な質感の表面を得ることができる。
【0012】
また、前記繊維強化セメント板の製造は、抄造、押し出し成形のいずれかでもよい。
【0013】
このように構成すれば、抄造、押し出し成形のいずれかで繊維強化セメント板を形成することで、それぞれの製造方法に応じたエンボス模様の付与ができ、同じエンボス模様を付与しても異なる色合い変化の模様を形成することができる。
【0014】
また、前記繊維強化セメント板の製造は、流し込み成形とし、エンボス模様の付与を、流し込み成形に用いる型枠で行うようにしてもよい。
【0015】
このように構成すれば、流し込み成形で繊維強化セメント板を形成することで、同じエンボス模様を付与しても異なる色合い変化の模様を形成することができる。さらに、流し込み成形によって繊維強化セメント板を形成する場合、成形に用いる型枠によってエンボス模様を付与することができる。よって、エンボス模様を付与するための工程が必要なく、研削工程までの工程を効率化することができる。
【0016】
また、前記抄造において、前記エンボス模様の付与を、メーキングロールに取り付けたエンボス型で抄造後のメーキングロール積層時に行うようにしてもよい。
【0017】
このように構成すれば、抄造によって繊維強化セメント板を形成する場合、メーキングロール積層時にメーキングロールに取り付けたエンボス型でエンボス模様を付与することができる。よって、エンボス模様を付与するための工程が必要なく、研削工程までの工程を効率化することができる。
【0018】
また、前記押し出し成形において、前記エンボス模様の付与を、前記押し出し成形時に行うようにしてもよい。
【0019】
このように構成すれば、押し出し成形によって繊維強化セメント板を形成する場合、エンボス模様の付与を押し出し成形時に同時に行うことができる。よって、エンボス模様を付与するための工程が必要なく、研削工程までの工程を効率化することができる。
【0020】
また、前記繊維強化セメント板を形成後、前記エンボス模様の付与を、前記繊維強化セメント板の表面にエンボス型板を用いてプレスすることによる型付け、またはエンボスローラーもしくはエンボスベルトを用いて押圧することによる型付けで付与するようにしてもよい。
【0021】
このように構成すれば、繊維強化セメント板を、抄造、押し出し成形のいずれかで形成後、繊維強化セメント板の表面にエンボス型板を用いてプレスして、またはエンボスローラーもしくはエンボスベルトを用いて押圧することによる型付けでエンボス模様を付与することで、装置(抄造装置、押出成形機)そのものではなく、エンボス模様を付与する構成を交換すれば様々なエンボス模様を付与することが容易にできる。
【0022】
また、前記エンボス模様の付与を、前記繊維強化セメント板とエンボス型板とを交互に複数積層し、複数積層した前記繊維強化セメント板と前記エンボス型板との全体をプレスすることで付与するようにしてもよい。
【0023】
このように構成すれば、エンボス模様の付与を、複数の繊維強化セメント板に対して一度のプレスによってできるため、生産性の向上を図ることができる。
【0024】
また、前記プレスによる前記エンボス模様の付与を、プレス圧が50乃至200kg/cmで行うようにしてもよい。
【0025】
このように構成すれば、プレスによってエンボス模様を付与するプレス圧を50乃至200kg/cmの範囲で行うことで、繊維強化セメント板が未硬化の状態で内部の密充填、水分量などを変化させて、それに応じた濃淡模様を形成することができる。
【0026】
また、前記繊維強化セメント板の原料に顔料が含まれていてもよい。
【0027】
このように構成すれば、繊維強化セメント板の表面色を、無機質系原料由来の色だけでなく顔料の色に応じた色合いに変化させることができる。
【0028】
また、前記抄造において、前記原料のスラリーに顔料が含まれていてもよい。
【0029】
このように構成すれば、抄造による繊維強化セメント板の製造時に、顔料が含まれるスラリーを抄き上げることで、繊維強化セメント板の表面色を、無機質系原料由来の色だけでなく顔料の色に応じた色合いにすることができる。
【0030】
また、前記抄造において、前記原料のスラリーを複数回抄き上げる複数のスラリー槽の一部に顔料が含まれるスラリーが貯留されていてもよい。
【0031】
このように構成すれば、抄造による繊維強化セメント板の製造時に、複数のスラリー槽から無機質系原料のスラリーと顔料が含まれるスラリーとを層状に抄き上げるので、繊維強化セメント板の表面色を、無機質系原料由来の色と顔料の色が融合した色合いに変化させることができる。
【発明の効果】
【0032】
本出願によれば、繊維強化セメント板の表面にエンボス模様に由来する平面状の模様を形成することができ、表面が良好な意匠性および良好な質感の繊維強化セメント板を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1図1は、本出願の第1実施形態に係る繊維強化セメント板の製造方法に用いる製造設備の概略構成を示す模式図である。
図2図2は、図1に示す製造設備で形成した繊維強化セメント板の表面仕上げ方法を示す図面であり、(A)は研削工程前の断面図、(B)は研削工程後の断面図である。
図3図3は、図2に示す表面仕上げ方法で仕上げる第1実施例の繊維強化セメント板の表面を示す写真であり、(A)は研削工程前の表面の写真であり、(B)は研削工程後の表面の写真である。
図4図4は、図2に示す表面仕上げ方法で仕上げる第2実施例の繊維強化セメント板の表面を示す写真であり、(A)は研削工程前の表面の写真であり、(B)は研削工程後の表面の写真である。
図5図5は、図2に示す表面仕上げ方法で仕上げる第3実施例の繊維強化セメント板の表面を示す写真であり、(A)は研削工程前の表面の写真であり、(B)は研削工程後の表面の写真である。
図6図6は、図2に示す表面仕上げ方法で仕上げる第4実施例の繊維強化セメント板の表面を示す写真であり、(A)は研削工程前の表面の写真であり、(B)は研削工程後の表面の写真である。
図7図7は、本出願の第2実施形態に係る繊維強化セメント板の製造方法に用いる製造設備の概略構成を示す模式図である。
図8図8は、図7に示す製造設備で抄造した繊維強化セメント板の生板の一例を模式的に示す断面図である。
図9図9は、図8に示す繊維強化セメント板の表面仕上げ方法を示す図面であり、(A)は研削工程前の断面図、(B)は研削工程後の断面図である。
図10図10は、図9に示す表面仕上げ方法で仕上げた第5実施例の繊維強化セメント板の表面を示す写真であり、(A)は研削工程後の表面を斜めから見た写真であり、(B)は研削工程後の表面を正面から見た写真である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本出願に係る繊維強化セメント板80、180の製造方法の実施形態について、図面に基づいて説明する。以下の実施形態では、繊維強化セメント板80、180の製造方法として抄造を例に説明する。繊維強化セメント板80の場合の製造方法は、抄造の他、押し出し成形、型枠への流し込み成形など、繊維強化セメント板80の表面にエンボス模様を付与できる方法であればよく、限定されるものではない。
【0035】
<第1実施形態に係る製造設備の構成>
図1は、第1実施形態に係る繊維強化セメント板80の製造方法に用いる製造設備1の概略構成を示す模式図である。図1に基づいて、抄造により板状の繊維強化セメント板80を製造する工程を説明する。この実施形態の製造設備1は、抄造装置10を有する。抄造装置10は、抄造用フェルト11をスラリー槽12に送り、スラリー槽12に溜められたセメントスラリー14を、シリンダ13を介して抄造用フェルト11に抄き上げる。抄造用フェルト11は、複数のスラリー槽12において複数回の抄き上げが行われ、表面に所定厚のセメントスラリー層が形成された後、メーキングロール15に巻き取られる。この実施形態の抄造装置10は、抄造用フェルト11の送り方法、スラリー槽12の数、各部の構成など一例である。
【0036】
メーキングロール15は、抄造用フェルト11で抄き上げられたセメントスラリー層を複数回巻き取り、所定の厚みとなるまで巻き取る。所定の厚みとなったセメントスラリー層は、メーキングロール15に設けられた切断装置によって切断されて平板状に展開され、積層構造の生板70となる。この明細書および特許請求の範囲の書類中における「生板」は、メーキングロールに巻き取られて所定の厚みに積層後に切断され、ボード状に展開された未硬化の状態の板材をいう。生板70は、下流方向へ送られる。抄造装置10の下流方向には、プレス装置20、切断装置30、養生装置40、研削装置50が備えられている。製造設備1の構成は一例であり、この実施形態に限定されるものではない。
【0037】
抄造の場合は、メーキングロール15の外周にエンボス型を取り付け、抄造された生板70をメーキングロール15へ積層する段階で繊維強化セメント板80の表面へエンボス模様の付与を同時に行ってもよい。エンボス模様の付与は、プレス工程でも可能である。
【0038】
そして、本出願に係る繊維強化セメント板80の製造方法は、上記セメントスラリー14として、セメント、骨材などの無機質材料と補強繊維、混和材、顔料などを原料とし、表面にエンボス模様を付与した繊維強化セメント板80の表面を研削して仕上げる。すなわち、繊維強化セメント板80は、表面にエンボス模様を付与した後、表面に付与したエンボス模様を凹部の最深部以下まで研削して表面を平面状に仕上げる。これにより、繊維強化セメント板80の表面にエンボス模様の凹凸はなくなるが、表面に無機質系原料由来の色(グレー系)の濃淡の違いによるエンボス模様由来の模様が形成される。よって、繊維強化セメント板80は、無機質素材の風合いを生かしながらエンボス模様に由来する色合いの変化による模様を形成した平板状に仕上げることができる。
【0039】
<繊維強化セメント板の製造例>
繊維強化セメント板80の製造は、図1に示す抄造装置10による抄造の他、押し出し成形、流し込み成形により行うことができる。抄造の場合は、上記したようにメーキングロール積層時にエンボス模様を付与するようにできる。押し出し成形の場合は、押し出し時に同時にエンボス模様を付与することができる。例えば、生板の押し出し時にエンボスロールでエンボス模様を同時に付与することができる。流し込み成形の場合は、表面にエンボス模様が形成された型枠に繊維強化セメント板80の原料を流し込み、表面にエンボス模様が付与された繊維強化セメント板80を得るようにできる。流し込み成形の場合、成形に用いる型枠によって繊維強化セメント板80の表面にエンボス模様を付与することができるので、エンボス模様を付与するための工程が必要なく、研削工程までの工程を効率化することができる。
【0040】
抄造、押し出し成形の場合のエンボス模様の付与方法は、エンボス模様の付いていない生板を製造後、生板70の表面にエンボスローラー、エンボスベルト、エンボス型板を用いて行ってもよい。
【0041】
抄造、押し出し成形、流し込み成形のいずれの場合もエンボス模様の形状(付与する模様)は、特に限定はなく、凹凸状の様々な形状のものを用いることができる。エンボス模様は、例えば、直線模様、ランダム模様、グリッド模様、などを含む。繊維強化セメント板80の製造方法は、表面にエンボス模様を付与(型付け)できる方法であれば他の方法でもよく、製造設備1の構成について限定されるものではなない。以下、抄造を例に、原料と各工程について説明する。
【0042】
<原料>
繊維強化セメント板80は、セメントと骨材等の無機質原料と補強繊維と、混和材などを配合した原料を用いることができる。原料は、抄造、押し出し成形、流し込み成形などにより繊維強化セメント板80を製造することができる原料であれば配合は限定されない。原料の例としては、セメント、けい酸質原料、石灰質原料、カルシウムシリケイト等の無機質系原料と、有機繊維(パルプ、合成繊維)、無機繊維(珪灰石、ガラス繊維等)を用いることができる。これらの配合割合は、セメントを20~85重量%、無機質系原料の骨材を0~40重量%、補強繊維を5~10重量%、その他原料(無機繊維、混和材など)を0~30重量%の範囲で配合することが好ましい。セメントの量が20重量%より少ないと色合いが薄くなるとともに強度が低下し、85重量%より大きいと色合いが濃くなるが弾性率が大きくなり、割れや欠けが生じやすくなる。ここでいう色合いは、濃淡模様とは異なり、均一な色(例えばセメント色であるグレー)による繊維強化セメント板80の表面色の濃さの違いを表すものである。補強繊維は、5重量%より少ないと濃淡模様が出にくくなるとともに耐衝撃性などの性能に悪影響が生じ、10重量%より多いと不燃性能に悪影響が生じる。また、パルプと合成繊維の両方を配合する場合は、補強繊維の配合量に対し、パルプの割合が80%以上とすることが好ましい。補強繊維に対するパルプの割合を80%以上とすることで、パルプに含まれる水分量に差異が生じ、濃淡模様が生じやすくなる。なお、その他の原料は必要に応じて配合すればよい。
【0043】
セメント、けい酸質原料、石灰質原料、カルシウムシリケイトの無機質系原料の配合割合を物性に影響しない範囲で調整することにより、無機質系原料由来の色である主にグレーを基調とした濃淡を調整することができる。また、原料配合がセメント系の場合、セメントの配合率を多くした配合や、繊維の配合率を多くした配合とすることで、研削後の模様感を強調することができる。
【0044】
<プレス工程>
プレス装置20は、抄造で製造された生板70にエンボス型板を積層後、所定のプレス圧でプレスし、エンボス模様を形成するとともに層間密着と密充填を変化させる。繊維強化セメント板80は、抄造で製造する場合にはプレス圧により層間密着と密充填を変化さて濃淡模様を変化させることが、他の製造方法に比べて調整しやすい。抄造の場合、抄造時の積層厚の誤差によるバラツキによりプレス工程において繊維強化セメント板80内の層間密着性、含水率の違いが生じて無機質素材の硬化時に生成物のバラツキが出て、これにより内部に色の濃淡が異なる部分が生じやすくなる。特に、抄造の場合は抄造用フェルト11で抄きあげたセメントスラリー層をメーキングロールで複数回巻き取り、積層して成形することから、成形された生板70の密着度合いや密充填を調整しやすく、プレス工程において濃淡模様の調整が容易となる。プレス圧は、低くすると密着度合いと密充填が小さくなって濃淡模様は濃くなり、高くすると密充填が大きくなって濃淡模様は薄くなる。プレス圧の範囲としては、50乃至200kg/cmが好ましい。プレス圧は、この範囲より低い場合は、プレスによる模様そのものが付与しにくくなり模様が出現しにくくなり、高い場合は、全体の密充填が進み濃淡が出にくくなる。なお、生板70の密充填が違う状態は、繊維強化セメント板80の諸物性に影響を及ぼすものではない。
【0045】
<一次養生工程>
一次養生工程では、養生装置40により繊維強化セメント板80にハンドリング強度を付与するための常圧蒸気養生が行われる。一次養生工程では、繊維強化セメント板80に調整などは行われない。
【0046】
<切断工程>
切断工程では、ハンドリング強度が付与された繊維強化セメント板80が切断装置30によって規格寸法に切断される。切断工程は、ハンドリング強度が付与された繊維強化セメント板80を所定サイズの繊維強化セメント板80に切断するのみであり、調整などは行われない。
【0047】
<二次養生工程>
二次養生工程では、養生装置40において繊維強化セメント板80が自然養生またはオートクレーブ養生で所定の養生が行われる。養生は、繊維強化セメント板80に用いられている原料や配合により自然養生またはオートクレーブ養生が選択される。例えば、原料に耐熱性のない繊維(ビニロン)が用いられている場合は自然養生とする。原料に、セメント、珪砂が配合され、オートクレーブにより反応させる場合にはオートクレーブ養生とする。オートクレーブ養生の場合は、配合する原料によっても異なるが、温度を110℃乃至181℃の間で調整するのが望ましい。温度が110℃より低い場合、繊維強化セメント板80としての強度などの物性が低下する。温度が181℃より高い場合、過養生となり、養生が無駄になる。
【0048】
<研削工程>
研削工程では、繊維強化セメント板80の表面のエンボス模様が研削装置50により研削され、繊維強化セメント板80の表面が平面状に仕上げられる(図2(B)の状態)。エンボス模様が研削された繊維強化セメント板80の表面は、エンボス模様に由来する模様が形成される。エンボス模様の研削後に模様が形成されるのは、エンボス型の凹凸によりエンボス模様が形成される際に圧縮度、原料の充填度合い、層間密着性、含水率の違いが生じる。そして、無機質原料の硬化時に生成物のバラツキが出て、これにより内部に色の濃淡が異なる部分が生じ、表面を研削することでこの濃淡の異なる部分が模様として出現することによる。研削は、研削に用いるサンドペーパーの目の粗さの違い、研削する深さにより調整する。研削に使用するサンドペーパーの目の粗さは、#30乃至#120を用いる。#30より粗いと表面の平滑性が低下し、#120より細かいと濃淡が出にくく研削にも時間を要し、生産性が低下する。研削は、エンボス模様の凹凸の凹部の最深部以下まで研削する。研削する深さは模様によっても異なるが、繊維強化セメント板80の厚みとして必要な基材厚さを残すように、予め繊維強化セメント板80の基材厚さと模様厚さとを設定しておくのが望ましい。例えば、図2に示すように、繊維強化セメント板80の基材厚さT1が3mm必要であれば、エンボス模様90の最深部M1までの深さを引いた厚みが少なくとも3mm以上残るようにエンボス模様付けを行うことが好ましい。研削工程では例えばベルトサンダーを用いることができる。
【0049】
<繊維強化セメント板の表面仕上げ方法>
図2は、図1に示す製造設備1で製造した繊維強化セメント板80の表面仕上げ方法を示す図面であり、(A)は研削工程前の断面図、(B)は研削工程後の断面図である。この実施形態では、図1に示す製造設備1の抄造装置10によって繊維強化セメント板80の表面にエンボス模様90が付与されている。図2(A)に示すように、この実施形態において繊維強化セメント板80の表面に付与されたエンボス模様90は、一様な模様ではなく深さの異なる凹凸状の模様となっている。エンボス模様90は、繊維強化セメント板80の基材厚さT1を残すことができる深さの最深部M1で付与されている。
【0050】
図2(B)に示すように、繊維強化セメント板80は、研削工程において表面のエンボス模様90が最深部M1(模様深さ)以下まで研削される。これにより、繊維強化セメント板80は、表面にエンボス模様90の凹凸がなくなり、所定の基材厚さT1となった平面状の繊維強化セメント板80となる。
【0051】
繊維強化セメント板80は、エンボス模様90の最深部M1以下まで研削したとしても、エンボス模様90を付与するときに内部に生じた密充填の違いや、板材形成時における残水分量の差などから、表面にエンボス模様90に由来する模様を形成することができる。図2(B)は、密充填の違いを濃さの違いで模式的に示している。図示する繊維強化セメント板80の断面では、密充填の違いのみを模式的に示しているが、繊維強化セメント板80の製造時における残水分量の変化等によっても繊維強化セメント板80の内部状態に変化が生じ、この変化によっても研削後の表面模様に変化を生じさせることができる。
【0052】
<実施例について>
図3乃至図6は、図2に示す表面仕上げ方法で仕上げる第1実施例乃至第4実施例で製造した繊維強化セメント板81乃至84の表面を示す写真である。第1実施例乃至第4実施例は、原料に顔料を含まない配合であり、エンボス模様91乃至94が異なる例である。繊維強化セメント板81乃至84は、上記した繊維強化セメント板80に含まれ、エンボス模様91乃至94は、上記したエンボス模様90に含まれる。以下、各実施例の繊維強化セメント板80について、エンボス模様91乃至94に由来する模様について評価する。
【実施例0053】
図3は、図2に示す表面仕上げ方法で仕上げた第1実施例の繊維強化セメント板81の表面を示す写真であり、(A)は研削工程前の表面の写真であり、(B)は研削工程後の表面の写真である。図3(A)に示すように、この実施形態の繊維強化セメント板81は、表面に細かい凹凸状のエンボス模様91が付与されている。図3(B)に示すように、この繊維強化セメント板81は、表面をエンボス模様91の最深部M1以下まで研削して表面が平面状に仕上げられる。仕上げられた繊維強化セメント板81は、エンボス模様91に由来する模様が形成された表面となる。この繊維強化セメント板81は、表面は平面状でエンボス模様91に由来する立体感のある平面状の濃淡模様となっており、良好な意匠性および良好な質感を得ることができる。
【実施例0054】
図4は、図2に示す表面仕上げ方法で仕上げた第2実施例の繊維強化セメント板82の表面を示す写真であり、(A)は研削工程前の表面の写真であり、(B)は研削工程後の表面の写真である。図4(A)に示すように、この実施形態の繊維強化セメント板82は、表面に所定幅で筋柄の凹凸状となったエンボス模様92が付与されている。図4(B)に示すように、この繊維強化セメント板82は、表面をエンボス模様92の最深部M1以下まで研削して表面が平面状に仕上げられる。仕上げられた繊維強化セメント板82は、エンボス模様92に由来する模様が形成された表面となる。この繊維強化セメント板82は、表面は平面状でエンボス模様92に由来する立体感のある平面状の濃淡模様となっており、良好な意匠性および良好な質感を得ることができる。
【実施例0055】
図5は、図2に示す表面仕上げ方法で仕上げた第3実施例の繊維強化セメント板83の表面を示す写真であり、(A)は研削工程前の表面の写真であり、(B)は研削工程後の表面の写真である。図5(A)に示すように、この実施形態の繊維強化セメント板83は、表面にタイル柄の凹凸状となったエンボス模様93が付与されている。図5(B)に示すように、この繊維強化セメント板83は、表面をエンボス模様93の最深部M1以下まで研削して表面が平面状に仕上げられる。仕上げられた繊維強化セメント板83は、エンボス模様93に由来する模様が形成された表面となる。この繊維強化セメント板83は、表面は平面状でエンボス模様93に由来する立体感のある平面状の濃淡模様となっており、凹凸状のエンボス模様とは異なる意匠性および質感を得ることができる。
【実施例0056】
図6は、図2に示す表面仕上げ方法で仕上げた第4実施例の繊維強化セメント板84の表面を示す写真であり、(A)は研削工程前の表面の写真であり、(B)は研削工程後の表面の写真である。図6(A)に示すように、この実施形態の繊維強化セメント板84は、表面に細かい筋状のエンボス模様94が付与されている。図6(B)に示すように、この繊維強化セメント板84は、表面をエンボス模様94の最深部M1以下まで研削して表面が平面状に仕上げられる。仕上げられた繊維強化セメント板84は、エンボス模様に由来する模様が形成された表面となる。この繊維強化セメント板84は、表面は平面状でエンボス模様94に由来する立体感のある平面状の濃淡模様となっており、凹凸状のエンボス模様とは異なる意匠性および質感を得ることができる。
【0057】
<その他の実施形態>
原料に顔料を添加することにより、繊維強化セメント板80の色合いを変化させることが可能である。顔料は、必要に応じて配合することにより、繊維強化セメント板80の表面色を無機質系原料由来のグレー系色だけでなく、顔料の色に応じた色合いに変化させることができる。顔料は、原料に添加することにより、色合いをセメント色(グレー)とは異なる発色とすることが可能となり、その顔料の違いによりエンボス模様に由来する模様の色合いを変化させることができる。顔料としては、酸化鉄、ベンガラ、亜鉛華、群青、緑青、二酸化チタン、カーボンブラックを用いることができる。顔料は、セメント量に対して10%以下の添加量であることが望ましい。顔料が10%を超えると、強度など物性が低下するおそれがある。
【0058】
<第2実施形態に係る製造設備の構成>
図7は、第2実施形態に係る繊維強化セメント板180の製造方法に用いる製造設備101の概略構成を示す模式図である。図8は、図7に示す製造設備101で抄造した繊維強化セメント板の生板170の一例を模式的に示す断面図である。なお、第1実施形態の製造設備1と同一の構成には、製造設備1における符号に「100」を加えた符号を付して説明は省略する。この実施形態の製造設備101は、抄造工程における1つのスラリー槽116に顔料を含んだセメントスラリー117が貯留されている。製造設備101と製造設備1とは、その他の構成は同一である。
【0059】
図7に示す製造設備101に基づいて、抄造により板状の繊維強化セメント板180を製造する工程を説明する。この実施形態の製造設備101は、抄造装置110を有する。抄造装置110は、抄造用フェルト111を複数のスラリー槽112、116に送り、複数のスラリー槽112、116に溜められたセメントスラリー114、117を、シリンダ113、118を介して抄造用フェルト111に抄き上げる。この実施形態では、中央のスラリー槽116には顔料を含んだセメントスラリー117が溜められており、抄造用フェルト111には前後のシリンダ113で抄き上げられるセメントスラリー114の間にシリンダ118でセメントスラリー117が抄き上げられる。顔料を含んだセメントスラリー117は、セメントスラリー114に酸化鉄を含ませて得ることができる。抄造用フェルト111は、複数のスラリー槽112、116、112によって複数回の抄き上げが行われ、表面に所定厚のセメントスラリー層が形成された後、メーキングロール115に巻き取られる。この実施形態の抄造装置110は、抄造用フェルト111の送り方法、スラリー槽112、116の数、各部の構成など一例である。
【0060】
メーキングロール115は、抄造用フェルト111で抄き上げられたセメントスラリー層を複数回巻き取り、所定の厚みとなるまで巻き取る。所定の厚みに積層されたセメントスラリー層は、メーキングロール115に設けられた切断装置によって切断されて平板状に展開され、積層構造のボード状となった生板170となる。生板70は、ボード状に展開された未硬化の状態の板材をいう。生板70は、抄造装置110から下流方向へ送られる。抄造装置110の下流方向には、プレス装置120、切断装置130、養生装置140および研削装置150が備えられている。プレス装置120、切断装置130、養生装置140および研削装置150は、上述した第1実施形態と同一であるため、これらの装置に関する説明は省略する。製造設備101の構成は一例であり、この実施形態に限定されるものではない。
【0061】
図8に示すように、この実施形態における生板170は、2つのスラリー槽112で抄き上げられる無機質系原料のセメントスラリー114の間にスラリー槽116で抄き上げられる顔料を含んだセメントスラリー117が層状となっている。図8に示す生板170は、3つのスラリー槽112、116、112において2回の抄き上げで積層された生板170の一部を示している。
【0062】
図7に示す製造設備101では、1つのスラリー槽116に顔料を含むセメントスラリー117を貯留して抄き上げる例を説明したが、全てのスラリー槽112、116のセメントスラリー114、117に顔料を含ませてもよい。顔料を含むセメントスラリー117を貯留するスラリー槽116は、複数のスラリー槽の一部でも複数でもよい。
【0063】
顔料を全てのスラリー槽のセメントスラリーに含ませた場合には、抄造される繊維強化セメント板180は全体が同じ顔料の色合いで積層され、得られる繊維強化セメント板180は、エンボスに由来する表面模様が単一色の濃淡模様となる。これに対し、必ず一つは顔料を入れないスラリー槽112を残して、任意のスラリー槽116に顔料を含んだセメントスラリー117を貯留することで、得られる繊維強化セメント板180は、エンボスに由来する表面模様がセメント色(グレー)と顔料の色の2色での濃淡模様となって変化に富むものとすることが可能であり、表面の意匠性や質感をより向上させることができる。顔料を含むセメントスラリー117は、異なる色合いのセメントスラリーを異なるスラリー槽に溜めて抄き上げるようにしてもよい。このようにすれば、繊維強化セメント板180の表面模様を3色以上の色合いの濃淡模様とすることができる。
【0064】
抄造の場合は、メーキングロール115の外周にエンボス型を取り付け、抄造された生板170をメーキングロール115へ積層する段階で繊維強化セメント板180の表面へエンボス模様の付与を同時に行ってもよい。エンボス模様の付与は、プレス工程でも可能である。
【0065】
この実施形態に係る繊維強化セメント板180の製造方法は、上記セメントスラリー114、117として、セメント、骨材などの無機質材料と補強繊維、混和材、顔料などを原料とし、表面にエンボス模様を付与した繊維強化セメント板180を得た後、以下のように表面を研削して仕上げる。
【0066】
<繊維強化セメント板の表面仕上げ方法>
図9は、図8に示す繊維強化セメント板180の表面仕上げ方法を示す図面であり、(A)は研削工程前の断面図、(B)は研削工程後の断面図である。これらの図は、無機質系原料のセメントスラリー114と顔料が含まれたセメントスラリー117とが層状に重なった状態と、エンボス模様190が付与された状態とを模式的に示している。この実施形態では、図7に示す製造設備101の抄造装置110によって繊維強化セメント板180の表面にエンボス模様190が付与されている。図9(A)に示すように、この実施形態において繊維強化セメント板180の表面に付与されたエンボス模様190は、所定幅で筋柄の凹凸状となった模様となっており、上記した第2実施例と同じ模様の例である。エンボス模様190は、繊維強化セメント板180の基材厚さT2を残すことができる深さの最深部M2で付与されている。
【0067】
図9(B)に示すように、繊維強化セメント板180は、研削工程において表面のエンボス模様190が最深部M2(模様深さ)以下まで研削される。これにより、繊維強化セメント板180は、表面にエンボス模様190の凹凸がなくなり、所定の基材厚さT2となった平面状の繊維強化セメント板180となる。繊維強化セメント板180は、表面にエンボス模様の凹凸はなくなるが、表面に無機質系原料由来の色(グレー系)と、顔料が含まれるスラリーの色とが融合した色合いで変化したエンボス模様由来の模様が形成される。よって、繊維強化セメント板180は、無機質系のスラリーの色と、顔料が含まれるスラリーの色とを融合しながらエンボス模様に由来する色合いの変化による独創的な表面模様を形成した平板状に仕上げることができる。
【0068】
しかも、この表面模様は、無機質系原料のセメントスラリー114と顔料が含まれたセメントスラリー117との厚み変化によっても変化する。すなわち、図9(B)に示す断面では、無機質系原料のセメントスラリー114と顔料が含まれたセメントスラリー117とによってほぼ均一な層状になっている状態を図示しているが、密充填の違いや製造時における残水分量の変化等によっても繊維強化セメント板180の内部状態に変化が生じ、この変化によってエンボス模様190の付与時に各層に多少の厚み変化を生じる。
【0069】
そして、繊維強化セメント板180は、セメントスラリー114と顔料を含むセメントスラリー117とが厚さ100~300μmの薄い層状となっているため、エンボス模様190の付与時にエンボス模様190が顔料を含んだセメントスラリー117に達することがある。このため、エンボス模様190の凹部の最深部M2以下まで研削した場合、顔料を含んだセメントスラリー117まで研削する場合がある。繊維強化セメント板180は、エンボス模様190の最深部M2以下まで研削することで、エンボス模様190を付与するときに内部に生じた密充填の違いや、板材形成時における残水分量の変化等に加え、層状の厚み変化が研削後の表面模様に変化を生じさせる。
【0070】
<実施例について>
図10は、図9に示す表面仕上げ方法で仕上げた第5実施例の繊維強化セメント板180の表面を示す写真であり、(A)は研削工程後の表面を斜めから見た写真であり、(B)は研削工程後の表面を正面から見た写真である。以下、第5実施例の繊維強化セメント板180について、エンボス模様190に由来する模様について評価する。
【実施例0071】
図10(A)に示すように、この実施形態の繊維強化セメント板180は、表面に付与された凹凸状のエンボス模様190が最深部M2以下まで研削され、表面が平面状に仕上げられている。仕上げられた繊維強化セメント板180は、エンボス模様190に由来する立体感のある平面状の模様に加えて、無機質系原料由来の色と顔料の色が融合した色合いで変化した濃淡模様が形成された表面となる。よって、この繊維強化セメント板180は、良好な意匠性および良好な質感の表面を得ることができる。
【0072】
しかも、無機質系原料由来の色と顔料の色が融合した色合いは、1台のシリンダ13、113で抄造する厚みが100~300μmであるため、無機質系原料の層から顔料を含む層が透けて見えることで、無機質系原料由来の色の単色ではない色合いとして見える。その上、繊維強化セメント板180は、表面の研削により、顔料の色が濃く出る部分と、セメント層を通して着色層の顔料の色が薄く出る部分とが、抄造時の積層厚のばらつきなどでも生じるため、セメントスラリー114の単色に比べてよりはっきりとした濃淡模様の表面にできる。
【0073】
また、図10(B)に示すように、顔料を含むセメントスラリー117による模様は、見る角度や光の強弱などによって異なった色合いに見えることもあり、良好な意匠性および良好な質感を得ることができる。
【0074】
<まとめ>
以上のように、本出願に係る繊維強化セメント板80の製造方法によれば、繊維強化セメント板80の表面を、単調なグレーでなく、エンボス模様90に由来する濃淡による意図的な模様が生じた仕上げとすることができる。よって、繊維強化セメント板80は、塗装などせずにそのまま仕上げ材として用いる場合など、素地のままでも良好な意匠性および良好な質感を持たせることが可能となる。
【0075】
また、繊維強化セメント板80の表面がセメントの素材感を生かした仕上げとなり、コンクリート打放し風でありながら、素材色(グレーの濃淡)または顔料による模様を付加した内装仕上げなどを実現することが可能となる。
【0076】
また、顔料を含むセメントスラリー117を抄造して繊維強化セメント板180を製造すれば、素材色(グレーの濃淡)と顔料とによる濃淡模様を付加した繊維強化セメント板180を製造することができ、良好な意匠性および良好な質感を持たせた内装仕上げ材などを実現することが可能となる。
【符号の説明】
【0077】
1 製造設備
10 抄造装置
11 抄造用フェルト
12 スラリー槽
13 シリンダ
14 セメントスラリー
15 メーキングロール
20 プレス装置
30 切断装置
40 養生装置
50 研削装置
70 生板
80 繊維強化セメント板
81 繊維強化セメント板
82 繊維強化セメント板
83 繊維強化セメント板
84 繊維強化セメント板
90 エンボス模様
91 エンボス模様
92 エンボス模様
93 エンボス模様
94 エンボス模様
101 製造設備
110 抄造装置
114 セメントスラリー
117 セメントスラリー
180 繊維強化セメント板
190 エンボス模様
T1 基材厚さ
T2 基材厚さ
M1 最深部
M2 最深部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10