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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064973
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】光波長変換構造
(51)【国際特許分類】
   F21V 9/30 20180101AFI20240507BHJP
   F21Y 115/30 20160101ALN20240507BHJP
【FI】
F21V9/30
F21Y115:30
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097180
(22)【出願日】2023-06-13
(31)【優先権主張番号】63/381,292
(32)【優先日】2022-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】202310054454.6
(32)【優先日】2023-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】596039187
【氏名又は名称】台達電子工業股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】DELTA ELECTRONICS,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】郭 柏村
(72)【発明者】
【氏名】周 彦伊
(57)【要約】
【課題】光波長変換構造を提供する。
【解決手段】光波長変換構造は、基板、反射層、酸化物スタック層、及び波長変換層を含む。反射層は、基板に設けられる。酸化物スタック層は、反射層に設けられる。酸化物スタック層は、約300~1000のガスバリア指数を有し、且つガスバリア指数が
【数1】
と定義され、ただし、Lが厚さであり、dが密度であり、nが層数である。波長変換層は、酸化物スタック層に設けられる。

【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板に設けられる反射層と、
前記反射層に設けられ、約300~1000のガスバリア指数を有し、且つ前記ガスバリア指数が
【数1】
と定義され、ただし、Lが厚さであり、dが密度であり、nが層数である酸化物スタック層と、
前記酸化物スタック層に設けられる波長変換層と、
を含む光波長変換構造。
【請求項2】
前記基板は上面を有し、前記反射層は前記上面に設けられ、且つ前記上面は、平均表面粗さが50ナノメートル未満である請求項1に記載の光波長変換構造。
【請求項3】
前記反射層は、純銀反射層であるか、又は前記反射層は、少なくとも50wt%の銀を含む請求項1に記載の光波長変換構造。
【請求項4】
前記酸化物スタック層は、前記反射層を完全に覆う請求項1に記載の光波長変換構造。
【請求項5】
前記酸化物スタック層は、前記反射層をコンフォーマルに覆い、前記酸化物スタック層の一部は、前記基板に延伸して接触するか、又は前記酸化物スタック層は、前記反射層の複数の側壁を覆う請求項1に記載の光波長変換構造。
【請求項6】
前記波長変換層の前記基板に対する正投影面積は、前記反射層の前記基板に対する正投影面積と実質的に重なるか、又は前記波長変換層の前記基板に対する正投影面積は、前記反射層の前記基板に対する正投影面積より実質的に大きい請求項1に記載の光波長変換構造。
【請求項7】
前記反射層の厚さと前記酸化物スタック層の厚さとの和は、第1の厚さであり、前記波長変換層は、前記基板に対するセクションの正投影が前記反射層の前記基板に対する正投影と重なるセクションを有し、前記セクションは、前記第1の厚さの10倍より大きく、且つ前記第1の厚さの500倍より小さい第2の厚さを有する請求項1に記載の光波長変換構造。
【請求項8】
前記波長変換層は、前記酸化物スタック層を完全に覆うか、又は前記波長変換層の一部は、前記基板に延伸して接触する請求項1に記載の光波長変換構造。
【請求項9】
前記波長変換層は、波長変換パッチであり、前記波長変換パッチは、パッチ本体及び前記パッチ本体内に分布する複数の蛍光体粉末を含み、前記波長変換パッチは、前記酸化物スタック層にコンフォーマルに貼り付けられる請求項1に記載の光波長変換構造。
【請求項10】
前記波長変換層の前記基板に対する正投影面積は、実質的に前記反射層の前記基板に対する正投影面積以上であり、且つ前記酸化物スタック層の前記基板に対する正投影面積は、実質的に前記反射層の前記基板に対する正投影面積以上である請求項1又は6に記載の光波長変換構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光波長変換構造に関し、特に信頼性が高く、且つ反射率の安定性を維持する光波長変換構造に関する。
【背景技術】
【0002】
光波長変換構造は、主に一種以上の光波長を変換して特定の可視光波長を光源として生成するための光学エネルギー変換構造であり、通常、スポットライト、ヘッドライト、ディスプレイ光源、又はプロジェクタ現像等の特殊照明に適用される。
【0003】
一般的には、従来の光波長変換構造は、主に蛍光体輪に適用され、レーザ光源に合わせてレーザ光を異なる波長の色光に変換し、且つモータで蛍光体輪を駆動して各色光源を時系列差分で投射させることを目的とする。高出力動作で、蛍光体輪の光波長変換効率がプロジェクタの光電変換及びルーメン出力を大幅に向上させることができるため、近年、新世代の投影技術の重要な光源となっている。
【0004】
高ルーメンプロジェクターの需要に応じて、蛍光体粉末と組み合わせたレーザの高い光出力は、従来の透過型の光波長変換構造の基板を過熱させる場合が多く、それによって蛍光体粉末の波長変換効率が低下し、さらに全体の発光に影響を与えるため、現在の市場では、従来の反射型の光波長変換構造が主流である。
【0005】
しかしながら、従来の反射型の光波長変換構造における基板上の反射層の材料活性が高く、長時間のレーザ動作や高温での使用により、この高活性材料は、外部汚染源(例えば、硫黄、酸素等の元素)と反応して化合物を形成しやすく、ひいてはそれ自体が移動して凝集離脱し、一定の期間使用した後に元の反射層の品質が劣化する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これに鑑み、どのように光波長変換構造における反射層の信頼性を向上させ、その反射率の安定性を維持するかは、現在の重要な研究開発課題の1つとなっている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、基板と、基板に設けられる反射層と、反射層に設けられ、約300~1000のガスバリア指数を有し、且つガスバリア指数が
【数1】
と定義され、ただし、Lが厚さであり、dが密度であり、nが層数である酸化物スタック層と、酸化物スタック層に設けられる波長変換層と、を含む光波長変換構造を提供する。
【0008】
本発明の幾つかの実施例によれば、基板は上面を有し、反射層は上面に設けられ、且つ前記上面は、平均表面粗さが50ナノメートル未満である。
【0009】
本発明の幾つかの実施例によれば、反射層は、少なくとも50wt%の銀を含む。
【0010】
本発明の幾つかの実施例によれば、反射層は、純銀反射層である。
【0011】
本発明の幾つかの実施例によれば、酸化物スタック層は、分布ブラッグ反射層である。
【0012】
本発明の幾つかの実施例によれば、基板は、アルミニウム基板である。
【0013】
本発明の幾つかの実施例によれば、酸化物スタック層は、反射層を完全に覆う。
【0014】
本発明の幾つかの実施例によれば、酸化物スタック層は、反射層をコンフォーマルに覆う。
【0015】
本発明の幾つかの実施例によれば、酸化物スタック層の一部は、延伸して基板に接触する。
【0016】
本発明の幾つかの実施例によれば、酸化物スタック層は、反射層の複数の側壁を覆う。
【0017】
本発明の幾つかの実施例によれば、波長変換層の基板に対する正投影面積は、反射層の基板に対する正投影面積と実質的に重なる。
【0018】
本発明の幾つかの実施例によれば、波長変換層の基板に対する正投影面積は、反射層の基板に対する正投影面積より実質的に大きい。
【0019】
本発明の幾つかの実施例によれば、反射層の厚さと酸化物スタック層の厚さの和は、第1の厚さであり、波長変換層は、基板に対する正投影が反射層の基板に対する正投影と重なるセクションを有し、前記セクションは、第1の厚さの10倍より大きく、且つ第1の厚さの500倍より小さい第2の厚さを有する。
【0020】
本発明の幾つかの実施例によれば、波長変換層は、酸化物スタック層を完全に覆う。
【0021】
本発明の幾つかの実施例によれば、波長変換層の一部は、延伸して基板に接触する。
【0022】
本発明の幾つかの実施例によれば、波長変換層は、波長変換パッチであり、波長変換パッチは、パッチ本体及び前記パッチ本体内に分布する複数の蛍光体粉末を含む。
【0023】
本発明の幾つかの実施例によれば、波長変換パッチは、酸化物スタック層にコンフォーマルに貼り付けられる。
【0024】
本発明の幾つかの実施例によれば、波長変換層の基板に対する正投影面積は、反射層の基板に対する正投影面積と実質的に等しく、且つ酸化物スタック層の基板に対する正投影面積は、反射層の基板に対する正投影面積と実質的に等しい。
【0025】
本発明の幾つかの実施例によれば、波長変換層の基板に対する正投影面積は、反射層の基板に対する正投影面積と実質的に等しく、且つ酸化物スタック層の基板に対する正投影面積は、反射層の基板に対する正投影面積より実質的に大きい。
【0026】
本発明の幾つかの実施例によれば、波長変換層の基板に対する正投影面積は、酸化物スタック層の基板に対する正投影面積より実質的に大きく、且つ酸化物スタック層の基板に対する正投影面積は、反射層の基板に対する正投影面積より実質的に大きい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
本発明は、添付図面と共に読む場合に、以下の詳細な説明から十分に理解される。注意すべきなのは、業界の標準仕様では、様々な特性が比例して描画されず、説明のみを目的としていることである。実際に、明らかに説明するために、特性のサイズを任意に増減してよい。
図1】本発明の一実施例による光波長変換構造の断面概略図を示す。
図2】本発明の一実施例による光波長変換構造の断面概略図を示す。
図3】本発明の一実施例による光波長変換構造の断面概略図を示す。
図4】本発明の一実施例による光波長変換構造の断面概略図を示す。
図5】本発明の一実施例による光波長変換構造の断面概略図を示す。
図6A】本発明の実施例1のX線反射法の分析結果を示す図である。
図6B】本発明の実施例2のX線反射法の分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下の発明内容は、本発明の異なる特性を実施するための様々な実施例又は例を提供する。以下、本発明の内容を簡略化するために、構成要素及び配列の具体例を説明する。勿論、これらは、例に過ぎず、制限的なものではない。例えば、以下の説明において、第1の特性が第2の特性の上方又は上に形成されることは、第1の特性と第2の特性が直接接触する実施例を含んでよく、第1の特性と第2の特性が直接接触しない実施例を含んでもよい。
【0029】
なお、本発明は、様々な例では、符号及び/又は文字を繰り返すことができる。この重複は、簡略化を目的とし、議論される様々な実施例及び/又は配置の間の関係を示すものではない。更に、本発明において、以下の特性が他の特性に接続及び/又は結合されることは、特性が直接接触する実施例を含んでよく、特性が直接接触しないように、他の特性が挿入されて形成された特性の実施例を含んでもよい。更に、説明の便宜上、本明細書では、空間相対用語(「の下」、「下方」、「下部」、「上方」、「上部」及び類似のもの)を使用して、図中に示す1つの部品又は特性と別の部品(又は複数の部品)又は特性(又は複数の特性)との関係を説明することができる。空間相対用語は、部品の使用又は動作における様々向きを含むことを意図する。
【0030】
前述のように、従来の反射型の光波長変換構造における基板上の反射層は通常、物理的反射コーティング及び化学的散乱粒子コーティング(例えば、ナノ二酸化チタンコーティング)の二種類の製品設計に分けられる。レーザ出力が大幅に向上するため、一部の高輝度レーザプロジェクタの蛍光体輪は、ナノ二酸化チタンコーティングの高い熱抵抗に制限されるため、物理的反射コーティングを主とした蛍光体輪として設計される。現在、物理的反射コーティングは、補強型金属反射膜の全方向性反射器(Omni-Directional Reflector;ODR)構造を採用する場合が多く、そのうちの最適な反射率及び高熱伝導性を備える金属銀が、反射コーティングとして最も広く採用されている。しかしながら、銀原子の活性が高いため、外部の水分や酸素と反応したり硫化したりしやすく、信頼性が低下する。例えば、青色光レーザで蛍光層を励起して一定の時間操作した後、基板表面にコーディングされた銀は、酸化反応が発生し、銀の酸化と凝集により、表面に黒化現象が発生し、且つ反射率が低下し、更に蛍光体輪の輝度が大幅に減衰し、ひいては銀層が脱落するという問題が発生する。
【0031】
したがって、本発明は、銀原子の変異を防止できるだけでなく、蛍光体輪の反射率の安定性も維持することができる光波長変換構造の設計を提供する。図1は、本発明の一実施例による光波長変換構造10の断面概略図を示す。図1に示すように、光波長変換構造10は、基板110、反射層120、酸化物スタック層130、及び波長変換層140を含む。
【0032】
平面視方向から見ると、基板110は、円形基板である。幾つかの実施例において、基板110は、対向する両面を有し、それぞれ上面112及びそれに対向する下面114である。注意すべきなのは、基板110の上面112の平均表面粗さが反射層120の反射効率に影響を与えないように、50nm未満でなければならないことであり、これから詳しく説明する。複数の実施例において、基板110は、ガラス基板、ホウケイ酸ガラス基板、シリコン基板、石英基板、アルミナ基板、サファイア基板、フッ化カルシウム基板、炭化ケイ素基板、グラフェン熱伝導基板、窒化ホウ素基板、又は少なくとも1つの金属材料を含む基板であってよく、また、前記金属材料は、アルミニウム、マグネシウム、銅、銀、又はニッケルであるが、これらに限定されない。一実施例において、基板110は、アルミニウム基板である。基板110がアルミニウム基板である実施例において、アルミニウム基板の熱伝導効果が高く、熱を効率的に放出することができる。
【0033】
引き続き図1を参照し、反射層120は、基板110に設けられる。幾つかの実施例において、反射層120は、基板110の上面112に設けられる。反射層120は、基板110の上面112を覆い、基板110の上面112の平均表面粗さが50ナノメートルより大きい場合、基板110の上面112に形成された反射層120も上面112の起伏に伴って起伏し、光が反射層120の粗面にぶつかって拡散現象が発生し、反射効率に影響を与える。幾つかの実施例において、反射層120は、例えば60wt%、70wt%、80wt%、90wt%、又は100wt%等、少なくとも50wt%の銀を含む。換言すれば、反射層120は、銀の活性を制限するための他の金属(例えば白金)又は非金属(例えばシリコン)を更に含んでよい。一実施例において、反射層120は、純銀反射層であり、即ち、反射層120は、100wt%の銀を含む。平面視方向から見ると、反射層120は、円形のパターンとなる。
【0034】
幾つかの実施例において、光波長変換構造10は、基板110と反射層120との間に設けられる粘着層(図示せず)を更に含む。この粘着層は、基板110と反射層120との間の結合力を高めるために用いられる。
【0035】
引き続き図1を参照し、酸化物スタック層130は、反射層120に設けられる。具体的には、酸化物スタック層130は、約300~1000のガスバリア指数(Gass Barrier Index;GBI)を有し、且つ前述のガスバリア指数が
【数2】
と定義され、ただし、Lが厚さであり、dが密度であり、nが層数であり、以下、詳しく説明する。例えば、酸化物スタック層130のGBIは、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、又は950であってよい。より詳しくは、酸化物スタック層130は主に、外部ガスが拡散によって反射層120に浸透し、銀と化学反応し、銀元素が酸化して質的変化することを防止するために用いられる。
【0036】
幾つかの実施例において、酸化物スタック層130は、複数層の酸化物誘電体膜を積層することによって形成される。幾つかの実施例において、酸化物スタック層130は、分布ブラッグ反射層(Diamed Bragg Reflector;DBR)である。具体的には、分布ブラッグ反射層は、異なる屈折率を有する少なくとも二種類の同質又は異質材料の薄膜を互いに積層することによって構成されてよい。幾つかの実施例において、酸化物スタック層130の層数は、実際の需要に応じて選択してよい。例えば、酸化物スタック層130は、二組又はそれ以上の分布ブラッグ反射層を含む。
【0037】
幾つかの実施例において、酸化物スタック層130は、主に金属酸化物で構成される。酸素が、酸化物スタック層130に吸着され、且つ酸素原子に分解されると、金属酸化物内部の溶存酸素濃度勾配を変化させ、且つ継続的に深く浸透するため、ガス透過モデルを用いて酸化物スタック層130の保護能力を説明してよい。本発明は、以下の式(1)に示すように、フィックの拡散(Fickian Diffusion)のシーベルト(Sievert)モデルに基づいて、ガスの吸着溶解透過理論を説明する。腐食性ガスは、まず薄膜表面に(解離)吸着され、そして溶解透過率(F)で各薄膜層(L)の間に位置され、そのガス原子透過率は、濃度勾配及び溶解率(S)と拡散係数(D)との積で表してよい。
【数3】
ただしFは溶解透過率であり、Dは拡散係数であり、Sは溶解率であり、Cはガス濃度であり、且つLは層数である。ガスの透過は、実際には質量伝導の一種であり、定常状態になると、各層の酸化物誘電体膜の透過率Fは同じである。ガス透過率と各層間の濃度勾配に関連する透過係数は、ガス伝導係数
【数4】
であり、したがって、各層の誘電体層のガス伝導係数の逆数は、「ガス抵抗」と同様であり、酸化物スタック層130全体のガス抵抗は、各層の誘電体酸化層のガス抵抗の総和で、式(2)で表される。
【数5】
酸化物スタック層130全体の保護力は、酸化物スタック層130の厚さによって厚いほど高く、各層の拡散率(D)と溶解率(S)によって高いほど低い。
【0038】
理解できるように、拡散率(D)は、アレニウス(Arrhenius)モデル
【数6】
に基づくものであり、このモデルは、温度変化と拡散率との関係を説明する。一般的には、腐食性ガス環境の濃度が高くないため、ヘンリーの法則(Henry’s Law)に基づいて、式(2)における溶解率(S)を低濃度のヘンリー溶解定数(K)で置き換えてよい。したがって、式(2)を式(3)に書き換えてよい。
【数7】
ただし、K’は、腐食性ガス原子の溶解平衡定数である。同じ単位面積で、誘電体層材料の、分子量又は密度が大きい材質は、少ないガス吸着サイト(adsorption site)がある。腐食性ガス原子の溶解平衡定数(K’)は、誘電体層材料の分子量(MW)又は密度(d)のm乗に反比例し、ただし、mは、ガス解離指数である。例えば、二原子ガス分子のガス解離指数は、0.5であり、且つ単原子ガス分子のガス解離指数は1である。式(3)を、酸化物スタック層の分子量又は密度に関連する関係式の式(4)に書き換えてよい。
【数8】
大気中には、二原子ガス(例えば、酸素ガス)が最も多く含まれ、誘電体層を最も容易に浸透し、且つ反射層を腐食する。したがって、mに0.5を代入すると、本発明で定義されるガスバリア指数(GBI)が得られる。即ち、
【数9】
である。
【0039】
引き続き図1を参照し、幾つかの実施例において、酸化物スタック層130は、反射層120を覆うが、反射層120の複数の側壁を覆わない。平面視方向から見ると、酸化物スタック層130は、円形のパターンとなる。幾つかの実施例において、酸化物スタック層130の基板110に対する正投影面積は、反射層120の基板110に対する正投影面積と実質的に等しい。
【0040】
引き続き図1を参照し、波長変換層140は、酸化物スタック層130に設けられる。図1に示すように、波長変換層140は、コロイド144及びコロイド144内に分散された複数の蛍光体粉末142を含む。幾つかの実施例において、コロイド144は、有機材料又は無機材料を含んでよい。例えば、有機材料は、シリカゲル、エポキシ樹脂等を含み、無機材料は、アルミナ又は窒化アルミニウム等を含むが、これらに限定されない。幾つかの実施例において、蛍光体粉末142は、アルミン酸塩(例えばYAG)、ケイ酸塩、窒化物、又は量子ドットを含んでよいが、これらに限定されない。
【0041】
平面視方向から見ると、波長変換層140は、円形のパターンとなる。幾つかの実施例において、波長変換層140の基板110に対する正投影面積は、反射層120の基板110に対する正投影面積と実質的に重なる。幾つかの実施例において、波長変換層140の基板110に対する正投影面積は、反射層120の基板110に対する正投影面積に実質的に等しい。幾つかの実施例において、反射層120の厚さと酸化物スタック層130の厚さとの和は、第1の厚さH1であり、波長変換層140において、基板110に対する正投影が反射層120の基板110に対する正投影と重なるセクション140A1を有し、セクション140A1は、第1の厚さH1の10倍より大きく、且つ第1の厚さH1の500倍より小さい第2の厚さ140H1を有する。波長変換層140の厚さが、反射層120と酸化物スタック層130の厚さの和よりはるかに大きいため、外気の大部分はまず波長変換層140に遮断され、これによって反射層120の質的変化から保護する効果を達成する。
【0042】
図2は、本発明の一実施例による光波長変換構造20の断面概略図を示す。上記各実施形態との相違点を容易に比較し、説明を簡略化するために、以下の各実施例において同じ符号で同じ部品を表記し、且つ主に各実施形態の相違点について説明し、重複部分について説明を省略する。
【0043】
光波長変換構造20と光波長変換構造10との相違点は、反射層220が基板110の一部のみを覆い、酸化物スタック層230が反射層220を完全に覆い、且つ酸化物スタック層230の一部が延伸して基板110に接触することである。より詳しくは、酸化物スタック層230は、反射層220をコンフォーマルに覆う。酸化物スタック層230は、反射層220の上面だけでなく、その複数の側面も覆う。反射層220の複数の側面が酸化物スタック層230に覆われるため、外部ガスの反射層220に対する腐食確率は更に低くなる。
【0044】
幾つかの実施例において、波長変換層140の基板110に対する正投影面積は、反射層220の基板110に対する正投影面積より実質的に大きく、且つ酸化物スタック層230の基板110に対する正投影面積は、反射層220の基板110に対する正投影面積より実質的に大きい。幾つかの実施例において、反射層220の厚さと酸化物スタック層230の厚さとの和は、第1の厚さH2であり、波長変換層140は、基板110に対する正投影が反射層220の基板110に対する正投影と重なるセクション140A2を有し、セクション140A2は、第1の厚さH2の10倍より大きく、且つ第1の厚さH2の500倍より小さい第2の厚さ140H2を有する。
【0045】
図3は、本発明の一実施例による光波長変換構造30の断面概略図を示す。上記各実施形態との相違点を容易に比較し、説明を簡略化するために、以下の各実施例において同じ符号で同じ部品を表記し、且つ主に各実施形態の相違点について説明し、重複部分について説明を省略する。
【0046】
光波長変換構造30と光波長変換構造20との相違点は、波長変換層340が波長変換パッチであることである。具体的には、波長変換パッチは、パッチ本体146及びパッチ本体146内に分布する複数の蛍光体粉末142を含む。幾つかの実施例において、パッチ本体146は、有機材料又は無機材料を含んでよい。例えば、有機材料は、シリカゲル、エポキシ樹脂等を含み、無機材料は、アルミナ又は窒化アルミニウム等を含むが、これらに限定されない。幾つかの実施例において、波長変換パッチは、酸化物スタック層230に貼り付けられる。例えば、シリカゲル350で波長変換パッチを酸化物スタック層230に貼り付けてよい。理解できるように、シリカゲル350は、酸化物スタック層230の表面の段差を埋めることができる。幾つかの実施例において、反射層220の厚さと酸化物スタック層230の厚さとの和は、第1の厚さH3であり、波長変換層340は、基板110に対する正投影が反射層220の基板110に対する正投影と重なるセクション340A3を有し、セクション340A3は、第1の厚さH3の10倍より大きく、且つ第1の厚さH3の500倍より小さい第2の厚さ340H3を有する。
【0047】
図4は、本発明の一実施例による光波長変換構造40の断面概略図を示す。上記各実施形態との相違点を容易に比較し、説明を簡略化するために、以下の各実施例において同じ符号で同じ部品を表記し、且つ主に各実施形態の相違点について説明し、重複部分について説明を省略する。
【0048】
光波長変換構造40と光波長変換構造20との相違点は、酸化物スタック層430が反射層220を完全に覆い、且つ基板110の一部を覆い、波長変換層140が酸化物スタック層430を完全に覆い、且つ基板110に延伸して接触することである。幾つかの実施例において、波長変換層140の基板110に対する正投影面積は、酸化物スタック層430の基板110に対する正投影面積より実質的に大きく、且つ酸化物スタック層430の基板110に対する正投影面積は、反射層220の基板110に対する正投影面積より実質的に大きい。幾つかの実施例において、反射層220の厚さと酸化物スタック層430の厚さとの和は、第1の厚さH4であり、波長変換層140は、基板110に対する正投影が反射層220の基板110に対する正投影と重なるセクション140A4を有し、セクション140A4は、第1の厚さH4の10倍より大きく、且つ第1の厚さH4の500倍より小さい第2の厚さ140H4を有する。
【0049】
図5は、本発明の一実施例による光波長変換構造50の断面概略図を示す。上記各実施形態との相違点を容易に比較し、説明を簡略化するために、以下の各実施例において同じ符号で同じ部品を表記し、且つ主に各実施形態の相違点について説明し、重複部分について説明を省略する。
【0050】
光波長変換構造50と光波長変換構造40との相違点は、波長変換層340が波長変換パッチであることである。例えば、シリカゲル350で波長変換パッチを酸化物スタック層430に貼り付けてよい。理解できるように、シリカゲル350は、酸化物スタック層430の表面の段差を埋めることができる。波長変換パッチに関する詳細な内容については前述したとおりである。幾つかの実施例において、反射層220の厚さと酸化物スタック層430の厚さとの和は、第1の厚さH5であり、波長変換層340は、基板110に対する正投影が反射層220の基板110に対する正投影と重なるセクション340A5を有し、セクション340A5は、第1の厚さH5の10倍より大きく、且つ第1の厚さH5の500倍より小さい第2の厚さ340H5を有する。
【0051】
以下の実施例は、本発明の特定の態様を詳しく説明し、且つ本発明の属する技術分野における当業者が本発明を実施するためのものである。しかしながら、以下の実施例は、本発明を限定するためのものではない。以下、複数の比較例と実施例を挙げて本発明の効果を検証する。
【0052】
本発明は、比較例1、実施例1、及び実施例2の光波長変換構造を用いて、酸化物スタック層のGBI範囲の反射層に対する保護についての検証を行う。比較例1、実施例1、及び実施例2では、いずれも図1に示す構造でテストを行う。比較例1、実施例1、及び実施例2の相違点について、三者はそれぞれ、異なる酸化物スタック層を有し、それぞれの酸化物スタック層の材料及び層数は、以下の表1に示され、ここで酸化物スタック層における各層は、ガス浸透の順序にしたがって上から下へ配列される。
【表1】
【0053】
実験例1:エロージョン試験
【0054】
本実験例において、JIS C60068-2-60:1999、JIS H8502:1999(18倍厳しい)、及びJIS H8502:1999(1000倍厳しい)試験基準に基づいて、比較例1、実施例1、及び実施例2に金属コーディングのエロージョン試験を行い、その結果は以下の表2に示される。
【表2】
【0055】
表2から分かるように、比較例1(GBIが182.06である)の試験結果はいずれも失敗であり、JIS C60068-2-60:1999の条件で試験した結果、その反射率が10%以上減少し、JIS H8502:1999の条件で試験した結果、その反射層が離脱して使用不可能になった。実施例1(GBIが472.78である)では、JIS C60068-2-60:1999の条件で試験した結果、その反射率が1%未満減少し、JIS H8502:1999(18倍厳しい)の条件で試験した結果、その反射率が3%減少した。しかしながら、実施例1では、JIS H8502:1999(1000倍厳しい)の条件で試験した結果、同様に反射層が離脱して使用不可能になったという状況が発生した。実施例1の酸化物スタック層の一部の材料を密度/分子量が大きい材料に置き換えたら、実施例2(GBIが739.37である)のように、全てのエロージョン試験を行った結果は、いずれも成功であり、その反射率がいずれも1%未満減少した。この結果は、酸化物スタック層のGBIが実際に反射層の耐食性と一定の相関関係を持つことを示す。具体的には、酸化物スタック層のGBIが高いほど、反射層に対する耐食性効果が高い。
【0056】
実験例2:酸化物スタック層の密度分析
【0057】
図6Aは、本発明の実施例1のX線反射法の分析結果を示す図である。図6Bは、本発明の実施例2のX線反射法の分析結果を示す図である。本実験例では、X線反射率法(X-Ray Reflectometry;XRR)を用いて酸化物スタック層全体の緻密度を分析する。具体的には、XRRは、X線光源表面の反射量の測定であり、大きい角度の掃引角度(入射角が大きいか又は2θが小さい時)で照射する時、X線は大気中に全反射し、入射角が小さくなるにつれて、X線が材料表面に垂直入射し始めると、全反射量が減少し始め、2θの反射信号も減少し始め、ここで前述の2θの反射信号の大きさは、表面膜層の緻密度を意味し、緻密であればあるほど、保護性の高い表面特性を有する。X線光子に対して反射が高いほど、2θは高くなる。図6A及び図6Bから分かるように、実施例2では、確かに2θ反射角値(約0.65)が高く、それは誘電体層が多い実施例1の2θ反射角値(約0.45)より高い。また、実施例2の曲線の下面積が実施例1の曲線の下面積より大きいという事実から、実施例1に比べて、実施例2の酸化物スタック層が緻密であり、ガス透過に抵抗する能力も高いことが分かる。
【0058】
実験例3:光波長変換構造の高温及び経年劣化試験
【0059】
本実験例において、実施例2の光波長変換構造を常圧高温で酸素に富む高温環境に暴露して高温試験を行った結果、実施例2では、高温300℃の環境で2500時間焼成した後、その反射率の変化はわずか約6.5%であった。また、実施例2の光波長変換構造をレーザプロジェクタの経年劣化試験に適用した結果、実施例2の輝度減衰傾向は、非銀コーディングの光波長変換構造の輝度減衰傾向と一致した。しかしながら、経年劣化試験を5000時間~8000時間行った後、実施例2の輝度減衰率は、非銀コーディングの光波長変換構造の輝度減衰率より明らかに小さい。これにより、GBIが高い酸化物スタック層を有する光波長変換構造は、レーザプロジェクタに適用される場合に安定で信頼性があることが示された。
【0060】
上記は、当業者が本発明の各態様をより良く理解できるように、幾つかの実施例又は例の特性を概説した。当業者は、本明細書で紹介される実施例を実施する同一の目的及び/又は同一の利点を達成するように、他のプロセス及び構造を設計又は修正する基礎として、本発明を容易に使用できることは理解すべきである。当業者であれば、このような等価構造は本発明の精神及び範囲から逸脱するものではなく、また、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、本明細書で様々な変化、置換、及び変更を行うことができることも認識すべきである。
【符号の説明】
【0061】
10 光波長変換構造
110 基板
112 上面
114 下面
120 反射層
130 酸化物スタック層
140 波長変換層
140A1 セクション
140A2 セクション
140A5 セクション
140H1 厚さ
140H2 厚さ
140H4 厚さ
142 蛍光体粉末
144 コロイド
146 パッチ本体
20 光波長変換構造
220 反射層
230 酸化物スタック層
30 光波長変換構造
340 波長変換層
340A3 セクション
340A5 セクション
340H3 厚さ
340H5 厚さ
350 シリカゲル
40 光波長変換構造
430 酸化物スタック層
50 光波長変換構造
H1 厚さ
H2 厚さ
H3 厚さ
H4 厚さ
H5 厚さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
【手続補正書】
【提出日】2024-01-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板に設けられる反射層と、
前記反射層に設けられ、300~1000のガスバリア指数を有し、且つ前記ガスバリア指数が
【数1】
と定義され、ただし、Lが厚さであり、dが密度であり、nが層数である酸化物スタック層と、
前記酸化物スタック層に設けられる波長変換層と、
を含む光波長変換構造。
【請求項2】
前記基板は上面を有し、前記反射層は前記上面に設けられ、且つ前記上面は、平均表面粗さが50ナノメートル未満である請求項1に記載の光波長変換構造。
【請求項3】
前記反射層は、純銀反射層であるか、又は前記反射層は、少なくとも50wt%の銀を含む請求項1に記載の光波長変換構造。
【請求項4】
前記酸化物スタック層は、前記反射層を完全に覆う請求項1に記載の光波長変換構造。
【請求項5】
前記酸化物スタック層は、前記反射層をコンフォーマルに覆い、前記酸化物スタック層の一部は、前記基板に延伸して接触するか、又は前記酸化物スタック層は、前記反射層の複数の側壁を覆う請求項1に記載の光波長変換構造。
【請求項6】
前記波長変換層の前記基板に対する正投影面積は、前記反射層の前記基板に対する正投影面積と実質的に重なるか、又は前記波長変換層の前記基板に対する正投影面積は、前記反射層の前記基板に対する正投影面積より実質的に大きい請求項1に記載の光波長変換構造。
【請求項7】
前記反射層の厚さと前記酸化物スタック層の厚さとの和は、第1の厚さであり、前記波長変換層は、前記基板に対するセクションの正投影が前記反射層の前記基板に対する正投影と重なるセクションを有し、前記セクションは、前記第1の厚さの10倍より大きく、且つ前記第1の厚さの500倍より小さい第2の厚さを有する請求項1に記載の光波長変換構造。
【請求項8】
前記波長変換層は、前記酸化物スタック層を完全に覆うか、又は前記波長変換層の一部は、前記基板に延伸して接触する請求項1に記載の光波長変換構造。
【請求項9】
前記波長変換層は、波長変換パッチであり、前記波長変換パッチは、パッチ本体及び前記パッチ本体内に分布する複数の蛍光体粉末を含み、前記波長変換パッチは、前記酸化物スタック層にコンフォーマルに貼り付けられる請求項1に記載の光波長変換構造。
【請求項10】
前記波長変換層の前記基板に対する正投影面積は、実質的に前記反射層の前記基板に対する正投影面積以上であり、且つ前記酸化物スタック層の前記基板に対する正投影面積は、実質的に前記反射層の前記基板に対する正投影面積以上である請求項1又は6に記載の光波長変換構造。