IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-人工皮革 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065002
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】人工皮革
(51)【国際特許分類】
   D06N 3/14 20060101AFI20240507BHJP
   C08G 18/65 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
D06N3/14 101
C08G18/65 005
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023141987
(22)【出願日】2023-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2022172987
(32)【優先日】2022-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】阪上 このみ
(72)【発明者】
【氏名】篠▲崎▼ 篤史
【テーマコード(参考)】
4F055
4J034
【Fターム(参考)】
4F055AA01
4F055BA02
4F055EA04
4F055EA11
4F055EA12
4F055EA24
4F055FA15
4F055GA02
4F055HA03
4F055HA11
4F055HA22
4J034BA08
4J034CA15
4J034CB03
4J034CB07
4J034CC12
4J034CC61
4J034CC65
4J034DG06
4J034DG08
4J034HA07
4J034HA11
4J034HC12
4J034HC64
4J034HC67
4J034HC71
4J034MA22
4J034QA05
4J034QB15
4J034QC03
4J034RA03
(57)【要約】
【課題】 柔軟な風合いや高級感のある外観品位と、優れた形態安定性や強度、耐摩耗性とを両立した人工皮革を提供すること。
【解決手段】 平均単繊維直径が0.1μm以上10.0μm以下であり、熱可塑性樹脂からなる極細繊維を含む繊維構造物と、ポリウレタン樹脂とを含有する人工皮革であって、前記ポリウレタン樹脂がウレア結合を有し、前記ポリウレタン樹脂の重量平均分子量が350000以上600000以下である、人工皮革。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均単繊維直径が0.1μm以上10.0μm以下であり、熱可塑性樹脂からなる極細繊維を含む繊維構造物と、ポリウレタン樹脂とを含有する人工皮革であって、
前記ポリウレタン樹脂がウレア結合を有し、
前記ポリウレタン樹脂の重量平均分子量が350000以上600000以下である、
人工皮革。
【請求項2】
前記ポリウレタン樹脂の含有量が10質量%以上60質量%以下である、請求項1に記載の人工皮革。
【請求項3】
単位目付あたりの、直交する2方向の30%円形モジュラスの合計値が、1.20(N/2.54cm)/(g/m)以上1.70(N/2.54cm)/(g/m)以下である、請求項1または2に記載の人工皮革。
【請求項4】
染料によって着色されてなる、請求項1または2に記載の人工皮革。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工皮革に関する。
【背景技術】
【0002】
主として極細繊維を含む繊維構造物と、高分子弾性体とを含有する人工皮革は、天然皮革に比べて耐久性が高く、品質も均一にできることから、車両内装材、インテリア、靴、衣料など、様々な分野で使用されている。この人工皮革が車両のシートや家具などに使用される際には、良好な風合いと高級感を感じさせる外観品位に加えて、形態安定性や強度、摩擦に対する耐久性(耐摩耗性)もその特性として求められる。
【0003】
この人工皮革における外観品位と耐久性との両立を図る技術として、これまでにいくつかの提案がなされている。例えば、特許文献1では、極細繊維とポリウレタンからなる立毛調皮革様シート状物において、前記のポリウレタンがポリカーボネートジオールを特定量含むポリマージオールを用いてなり、前記のシート状物中に該ポリウレタンが特定量含有されてなることを特徴とする立毛調皮革様シート状物が提案されている。
【0004】
また、特許文献2では、極細繊維が絡合してなる不織布とポリウレタンを主成分とした弾性樹脂バインダーからなるシート状物において、前記のポリウレタンが特定の構造であるポリカーボネート骨格を有するポリカーボネート系ポリウレタンであり、そのポリウレタンのゲル化点が特定の範囲であるシート状物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-30579号公報
【特許文献2】国際公開2005/095706号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1で提案された技術は、一定の外観品位と耐光性などの耐久性を有する人工皮革を得ることができるものである。しかしながら、単純に人工皮革中のポリウレタンの含有量やそのポリウレタン中のポリカーボネートジオールの含有量のみを調整しても、外観品位と耐久性の両立は難しい。例えば、ポリウレタン中のポリカーボネートジオールの含有量が過剰である場合には風合いが硬いものとなる傾向にあり、逆に過少である場合には耐久性が十分ではないものとなる傾向にある。
【0007】
一方、特許文献2で提案された技術は、ポリカーボネートジオールを用いたポリウレタンのゲル化点を調整することで、ある程度柔軟な風合いと耐久性とを両立させた人工皮革を得ることができるものである。しかしながら、ポリカーボネートジオール以外のジオール成分を用いたポリウレタンについては特段の言及がなく、依然として、どのようなポリウレタンであったとしても、良好な風合いと高級感を感じさせる外観品位とを兼ね備え、さらに、形態安定性や強度、耐摩耗性を有する人工皮革を提供できる技術が求められている。
【0008】
そこで本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、柔軟な風合いや高級感のある外観品位と、優れた形態安定性や強度、耐摩耗性とを両立した人工皮革を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成すべく本発明者らが検討を重ねた結果、人工皮革を構成するポリウレタン樹脂を特定の結合を有するものとし、かつ、前記のポリウレタン樹脂の重量平均分子量を特定の範囲とすることで、良好な風合いと高級感を感じさせる外観品位とを兼ね備え、さらに、形態安定性や強度、耐摩耗性を有する人工皮革が得られることを見出した。
【0010】
本発明は、これら知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
【0011】
[1] 平均単繊維直径が0.1μm以上10.0μm以下であり、熱可塑性樹脂からなる極細繊維を含む繊維構造物と、ポリウレタン樹脂とを含有する人工皮革であって、前記ポリウレタン樹脂がウレア結合を有し、前記ポリウレタン樹脂の重量平均分子量が350000以上600000以下である、人工皮革。
【0012】
[2] 前記ポリウレタン樹脂の含有量が10質量%以上60質量%以下である、前記[1]に記載の人工皮革。
【0013】
[3] 単位目付あたりの、直交する2方向の30%円形モジュラスの合計値が、1.20(N/2.54cm)/(g/m)以上1.70(N/2.54cm)/(g/m)以下である、前記[1]または[2]に記載の人工皮革。
【0014】
[4] 染料によって着色されてなる、前記[1]~[3]のいずれかに記載の人工皮革。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、良好な風合いと高級感を感じさせる外観品位とを兼ね備え、さらに、形態安定性や強度、耐摩耗性を有する人工皮革が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、人工皮革に係る立毛長の測定、算出方法について例示・説明する、人工皮革の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の人工皮革は、平均単繊維直径が0.1μm以上10.0μm以下であり、熱可塑性樹脂からなる極細繊維を含む繊維構造物と、ポリウレタン樹脂とを含有する人工皮革であって、前記ポリウレタン樹脂がウレア結合を有し、前記ポリウレタン樹脂の重量平均分子量が350000以上600000以下である。以下に、これらの構成要素について詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する範囲に何ら限定されるものではなく、そして、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0018】
[繊維構造物]
まず、本発明の人工皮革に係る繊維構造物は、平均単繊維直径が0.1μm以上10.0μm以下であり、熱可塑性樹脂からなる極細繊維を含む。
【0019】
この熱可塑性樹脂としては、「ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートおよびポリエステルエラストマー等」のポリエステル系樹脂、「ポリアミド6、ポリアミド66およびポリアミドエラストマー等」のポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポレオレフィン系樹脂およびアクリルニトリル系樹脂など、繊維形態を形成することができる樹脂ならば使用可能であるが、耐久性、特には機械的強度、耐熱性等の観点から、ポリエステル系樹脂が好ましく使用される。なお、この発明において、「ポリエステル系樹脂」とは、繰り返し単位に占める当該ポリエステル単位のモル分率が80モル%~100モル%である樹脂のことを指す。特記がない限り、「・・・系樹脂」との記載があるものは同様である。
【0020】
前記のポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレ-ト、およびポリエチレン-1,2-ビス(2-クロロフェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボキシレート等が挙げられる。中でも最も汎用的に用いられているポリエチレンテレフタレート、または主としてエチレンテレフタレート単位を含むポリエステル共重合体が好適に使用される。
【0021】
また、前記のポリエステル系樹脂として、単一のポリエステルを用いても、異なる2種以上のポリエステルを用いてもよいが、異なる2種以上のポリエステルを用いる場合には、2種以上の成分の相溶性の観点から、用いるポリエステルの固有粘度(IV値)の差は0.50以下であることが好ましく、0.30以下であることがより好ましい。
【0022】
本発明において、固有粘度は以下の方法により算出されるものとする。
(1)オルソクロロフェノール10mL中に試料ポリマーを0.8g溶かす。
(2)25℃の温度においてオストワルド粘度計を用いて相対粘度ηを下式により算出し、小数点以下第三位で四捨五入する
η=η/η=(t×d)/(t×d
固有粘度(IV値)=0.0242η+0.2634
(ここで、ηはポリマー溶液の粘度、ηはオルソクロロフェノールの粘度、tは溶液の落下時間(秒)、dは溶液の密度(g/cm)、tはオルソクロロフェノールの落下時間(秒)、dはオルソクロロフェノールの密度(g/cm)を、それぞれ表す。)。
【0023】
また、本発明に係る極細繊維は、その平均単繊維直径が、0.1μm以上10.0μm以下である。極細繊維の平均単繊維直径の範囲について、この下限が0.1μm以上、好ましくは0.5μm以上であることにより、染色後の発色性や耐光および摩擦堅牢性、紡糸時の安定性に優れた効果を奏する。一方、前記の範囲について、この上限が10.0μm以下、好ましくは8.0μm以下、より好ましくは6.0μm以下であることにより、緻密でタッチの柔らかい表面品位に優れた人工皮革が得られる。
【0024】
本発明において、極細繊維の平均単繊維直径とは、人工皮革断面の走査型電子顕微鏡(SEM、例えば、株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510型」など)写真を撮影し、円形または円形に近い楕円形の極細繊維をランダムに10本選び、単繊維直径を測定して10本の算術平均値を計算して、小数点以下第二位で四捨五入することにより算出されるものとする。
【0025】
なお、本発明に係る極細繊維の断面形状としては、加工操業性の観点から、丸断面にすることが好ましいが、楕円、扁平および三角などの多角形、扇形および十字型、中空型、Y型、T型、およびU型などの異形断面の断面形状を採用することもできる。この場合、極細繊維の平均単繊維直径は、まず単繊維の断面積を測定し、当該断面を円形と見立てた場合の直径を算出することによって単繊維の直径を求めることとする。
【0026】
本発明において、特に人工皮革を濃色に発色させる場合などには、極細繊維を構成する熱可塑性樹脂に、粒子径の平均が0.05μm以上0.20μm以下の黒色顔料または有彩色微粒子酸化物顔料を含むことが好ましい。
【0027】
ここでいう粒子径とは、黒色顔料または有彩色微粒子酸化物顔料が極細繊維中に存在している状態での粒子径のことであり、一般に二次粒子径とよばれるもののことをいう。また、「有彩色」とは、CIELAB1976L色空間において、彩度Cが10以上の色のことを言い、「有彩色微粒子酸化物顔料」とは、微粒子酸化物顔料のうち、有彩色を呈するものを指し、酸化亜鉛や酸化チタン等の白色の酸化物顔料は含まないものとする。
【0028】
粒子径の平均の範囲について、その下限が好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.07μm以上であることにより、黒色顔料または有彩色微粒子酸化物顔料が極細繊維の内部に把持されるため極細繊維からの脱落が抑制される。一方、粒子径の平均の範囲について、その上限が好ましくは0.20μm以下、より好ましくは0.18μm以下、さらに好ましくは0.16μm以下であることにより、紡糸時の安定性と糸強度に優れたものとなる。
【0029】
なお、本発明において、上記の粒子径は、以下の方法によって測定、算出される値のことを指す。
(1) 極細繊維の長手方向に垂直な面の断面方向に厚さ5μm~10μmの超薄切片を作製する。
(2) 透過型電子顕微鏡(TEM)にて超薄切片中の繊維断面を10000倍で観察する。
(3) 画像解析ソフトを使用して、観察像の2.3μm×2.3μmの視野の中に含まれる黒色顔料(a1)または有彩色微粒子酸化物顔料(a2)の粒子径の円相当径を20点測定する。2.3μm×2.3μmの視野の中に含まれる黒色顔料(a1)または有彩色微粒子酸化物顔料(a2)の粒子が20点未満しか存在しない場合には、存在する黒色顔料(a1)または有彩色微粒子酸化物顔料(a2)の粒子径の円相当径をすべて測定する。
(4) 測定した20点の粒子径について、算術平均値(μm)を算出し、小数点以下第3位を四捨五入する。
【0030】
極細繊維を形成する熱可塑性樹脂に含まれる黒色顔料または有彩色微粒子酸化物顔料の含有量は、極細繊維の質量に対して0.5質量%以上2.0質量%以下であることが好ましい。顔料の含有量の範囲について、その下限が好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは0.7質量%以上、さらに好ましくは0.9質量%以上であることにより、濃色の発色性に優れるものとなる。一方、顔料の含有量の範囲について、その上限が好ましくは2.0質量%以下、より好ましくは1.8質量%以下、さらに好ましくは1.6質量%以下であることにより、強度や伸度などの物理特性の高い人工皮革とすることができる。
【0031】
本発明に係る黒色顔料としては、カーボンブラックや黒鉛などの炭素系黒色顔料や四酸化三鉄、銅・クロムの複合酸化物などの酸化物系黒色顔料を用いることができる。細かい粒子径のものが得られやすく、また、ポリマーへの分散性に優れる観点から、黒色顔料がカーボンブラックであることが好ましい。
【0032】
また、本発明に係る有彩色微粒子酸化物顔料としては、目標とする色彩に近い公知の顔料を使用することができ、例えば、オキシ水酸化鉄(例:大日精化株式会社製“TM イエロー 8170”)、酸化鉄(例:大日精化株式会社製“TM レッド 8270”)、アルミン酸コバルト(例:大日精化株式会社製“TM ブルー 3490E”)等が挙げられる。
【0033】
また、極細繊維を構成する熱可塑性樹脂には、必要に応じ、本発明の目的を阻害しない範囲で、酸化チタン粒子等の無機粒子、潤滑剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、導電剤、蓄熱剤および抗菌剤等を添加することができる。
【0034】
本発明で用いられる繊維構造物としては、前記の極細繊維で構成されてなる、織物や編物、不織布、これらを構成要素として含む繊維絡合体等が挙げられ、用途や目的毎に要求されるコストおよび特性に応じて適宜使い分けることができる。中でも、織物や編物を繊維構造物として用いた場合には、厚みや品位の均一性に優れた人工皮革とすることができる。また、不織布や不織布を構成要素として含む繊維絡合体を繊維構造物として用いた場合には、表面を起毛した際に、充実感のある風合いや微細な立毛による品位に優れた人工皮革を得ることができる。
【0035】
なお、本発明において、「不織布を構成要素として含む繊維絡合体」であるとは、繊維絡合体が不織布である態様、後述するような、繊維絡合体が不織布と織物とが絡合一体化されてなる態様、さらには、繊維絡合体が不織布と織物以外の基材と絡合一体化されてなる態様等のことを示す。「織物(あるいは編物)を構成要素として含む繊維絡合体」も同様である。
【0036】
不織布の形態としては、主としてフィラメントから構成される長繊維不織布と、主として100mm以下の繊維から構成される短繊維不織布がある。不織布の形態として長繊維不織布とする場合においては、強度に優れる人工皮革を得られるため、好ましい。一方、短繊維不織布とする場合においては、長繊維不織布の場合に比べて人工皮革の厚さ方向に配向する繊維を多くすることができ、起毛させた際の人工皮革の表面に高い緻密感を有させることができる。
【0037】
短繊維不織布を用いる場合の極細繊維の繊維長は、好ましくは25mm以上90mm以下である。繊維長の範囲について、その上限が好ましくは90mm以下、より好ましくは80mm以下、さらに好ましくは70mm以下であることにより、良好な品位と風合いとなる。他方、繊維長の範囲について、その下限が好ましくは25mm以上、より好ましくは35mm以上、さらに好ましくは40mm以上であることにより、耐摩耗性に優れた人工皮革とすることができる。
【0038】
本発明に係る人工皮革を構成する繊維構造物の目付は、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.2 単位面積当たりの質量(ISO法)」で測定され、50g/m以上400g/m以下の範囲であることが好ましい。前記の繊維構造物の目付の範囲について、その下限が好ましくは50g/m以上、より好ましくは80g/m以上であることで、充実感のある、風合いの優れた人工皮革とすることができる。一方、前記の繊維構造物の目付の範囲について、その上限が好ましくは400g/m以下、より好ましくは300g/m以下であることで成型性に優れた、柔軟な人工皮革とすることができる。
【0039】
本発明の人工皮革は、繊維構造物として、極細繊維で構成されてなる不織布と、織物とが絡合一体化されてなる繊維絡合体とすることも好ましい。具体的には、この不織布の内部もしくは片側の表面に織物が積層されてなるものである。このようにすることで、人工皮革の強度や形態安定性が優れたものとなる。
【0040】
この場合において、織物を構成する繊維の種類としては、フィラメントヤーン、紡績糸、フィラメントヤーンと紡績糸の混合複合糸などを用いることが好ましく、耐久性、特には機械的強度等の観点から、ポリエステル系樹脂やポリアミド系樹脂からなるマルチフィラメントを用いることがより好ましい。
【0041】
また、前記の織物を構成する繊維には、機械的強度等の観点から、黒色顔料または有彩色微粒子酸化物顔料を含有しないことが好ましい。
【0042】
前記の織物を構成する繊維の平均単繊維直径は、1μm以上50μm以下とすることが好ましい。この繊維の平均単繊維直径の範囲について、その上限が好ましくは50μm以下、より好ましくは15μm以下、さらに好ましくは13μm以下であることにより、柔軟性に優れた人工皮革が得られるだけでなく、人工皮革の表面に織物の繊維が露出した場合でも、染色後に顔料を含有する極細繊維との色相差が小さくなるため、表面の色相の均一性を損なうことがない。一方、前記の織物を構成する繊維の平均単繊維直径の範囲について、その下限が1μm以上、より好ましくは8μm以上、さらに好ましくは9μm以上であることにより、人工皮革としての製品の形態安定性が向上する。
【0043】
本発明において織物を構成する繊維の平均単繊維直径は、人工皮革断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影し、織物を構成する繊維をランダムに10本選び、その繊維の単繊維直径を測定して10本の算術平均値を計算して、小数点以下第二位で四捨五入することにより算出されるものとする。
【0044】
前記の織物を構成する繊維がマルチフィラメントである場合、そのマルチフィラメントの総繊度は、30dtex以上170dtex以下であることが好ましい。
【0045】
織物を構成する糸条の総繊度の範囲について、その上限が170dtex以下であることにより、柔軟性に優れた人工皮革が得られる。一方、前記の織物を構成する糸条の総繊度の範囲について、その下限が30dtex以上であることにより、人工皮革としての製品の形態安定性が向上するだけでなく、不織布と織物をニードルパンチ等で絡合一体化させる際に、織物を構成する繊維が人工皮革の表面に露出しにくくなるため好ましい。このとき、経糸と緯糸のマルチフィラメントの総繊度は同じ総繊度とすることが好ましい。
【0046】
なお、上記の織物を構成する糸条の総繊度は、JIS L1013:2010「化学繊維フィラメント糸試験方法」の「8.3 繊度」の「8.3.1 正量繊度 b) B法(簡便法)」で測定、算出される値のことを指す。
【0047】
さらに、前記の織物を構成する糸条の撚数は、1000T/m以上4000T/m以下であることが好ましい。前記の織物を構成する糸条の撚数の範囲について、その上限が好ましくは4000T/m以下、より好ましくは3500T/m以下、さらに好ましくは3000T/m以下であることにより、柔軟性に優れた人工皮革が得られる。一方、前記の織物を構成する糸条の撚数の範囲について、その下限が好ましくは1000T/m以上、より好ましくは1500T/m以上、さらに好ましくは2000T/m以上であることにより、不織布と織物とをニードルパンチ等で絡合一体化させる際に、織物を構成する繊維の損傷を防ぐことができ、人工皮革の機械的強度が優れたものとなるため好ましい。
【0048】
[ポリウレタン樹脂]
次に、本発明の人工皮革は、柔軟性とクッション性の観点から、ポリウレタン樹脂を含有する。そして、そのポリウレタン樹脂がウレア結合を有する。この「ポリウレタン樹脂がウレア結合を有する」とは、人工皮革から、N,N-ジメチルホルムアミドを用いてポリウレタン樹脂を抽出し、N,N-ジメチルホルムアミドを乾燥により除去した後に、ポリウレタン樹脂の重ジメチルスルホキシド溶液のプロトン核磁気共鳴分光法(以下、NMRと記載することがある。)、カーボン核磁気共鳴分光法を行い、ウレア結合に帰属されるピークが存在することを指す。
【0049】
具体的なポリウレタン樹脂としては、ポリマージオールと有機ジイソシアネートと鎖伸長剤との反応により得られるポリウレタンが好ましいものとして挙げられる。以下に、それぞれ詳細を説明する。なお、本発明に係るポリウレタン樹脂としては、有機ジイソシアネートとして後述するジフェニルメタンジイソシアネートなどを用いることで、後述するように有機溶剤に溶解して繊維構造物に含浸させて得られるポリウレタン樹脂(有機溶剤系ポリウレタン樹脂)や有機ジイソシアネートとして後述する4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどを用いることで、後述するように水に分散させて繊維構造物に含浸させて得られるポリウレタン樹脂(水分散型ポリウレタン樹脂)のいずれも採用することができる。
【0050】
(1)ポリマージオール
上記のポリマージオールとしては、例えば、ポリカーボネート系ジオール、ポリエステル系ジオール、ポリエーテル系ジオール、シリコーン系ジオールを採用することができ、これらを組み合わせた共重合体を用いることもできる。中でも、耐加水分解性や耐摩耗性の観点からはポリカーボネート系ジオールを用いることが好ましく、耐加水分解性や柔軟性の観点からはポリエーテル系ジオールを用いることが好ましい態様である。
【0051】
上記のポリカーボネート系ジオールは、アルキレングリコールと炭酸エステルのエステル交換反応、あるいは、ホスゲンまたはクロロギ酸エステルとアルキレングリコールとの反応などによって製造することができる。これらのアルキレングリコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオールなどの直鎖アルキレングリコールや、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオールおよび2-メチル-1,8-オクタンジオールなどの分岐アルキレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオールなどの脂環族ジオール、ビスフェノールAなどの芳香族ジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、およびペンタエリスリトールなどが挙げられる。本発明では、それぞれ単独のアルキレングリコールから得られるポリカーボネート系ジオールでも、2種類以上のアルキレングリコールから得られる共重合ポリカーボネート系ジオールのいずれも採用することができる。
【0052】
また、ポリエステル系ジオールとしては、各種低分子量ポリオールと多塩基酸とを縮合させて得られるポリエステルジオールを挙げることができる。
【0053】
この低分子量ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,8-オクタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、シクロヘキサン-1,4-ジオール、およびシクロヘキサン-1,4-ジメタノールから選ばれる一種または二種以上を使用することができる。また、ビスフェノールAに各種アルキレンオキサイドを付加させた付加物も低分子量ポリオールとして使用可能である。
【0054】
また、多塩基酸としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、およびヘキサヒドロイソフタル酸から選ばれる一種または二種以上が挙げられる。
【0055】
本発明で用いられるポリエーテル系ジオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、および、それらを組み合わせた共重合ジオールを挙げることができる。
【0056】
そして、ポリマージオールの数平均分子量は、ポリウレタン樹脂の分子量が一定の場合、500以上4000以下の範囲であることが好ましい。数平均分子量の範囲について、その下限が好ましくは500以上、より好ましくは1500以上であることにより、人工皮革をより柔軟なものとすることができる。また、数平均分子量の範囲について、その上限が好ましくは4000以下、より好ましくは3000以下であることにより、より強度の高いポリウレタン樹脂とすることができる。
【0057】
(2) 有機ジイソシアネート
本発明で用いられる有機ジイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボランジイソシアネート等の脂肪族系ジイソシアネートや、ジフェニルメタンジイソシアネート、およびトリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、およびキシリレンジイソシアネート等の芳香族系ジイソシアネートが挙げられ、またこれらを組み合わせて用いることもできる。
【0058】
(3) 鎖伸長剤
本発明においては、アミン系の鎖伸長剤を用いることで、ウレア結合を有するポリウレタン樹脂を得ることができる。アミン系の鎖伸長剤としては、エチレンジアミンやメチレンビスアニリン等が好適に用いられる。また、ポリイソシアネートと水を反応させて得られるポリアミンを鎖伸長剤として用いることもできる。
【0059】
(4) その他の添加剤など
本発明に係るポリウレタン樹脂には、耐水性、耐摩耗性および耐加水分解性等を向上させる目的で、架橋剤を併用することができる。架橋剤は、ポリウレタン樹脂に対し、第3成分として添加する外部架橋剤でもよく、また、ポリウレタン樹脂の分子構造内に予め架橋構造となる反応点を導入する内部架橋剤も用いることができる。ポリウレタン樹脂の分子構造内により均一に架橋点を形成することができ、柔軟性の減少を軽減できるという観点から、内部架橋剤を用いることが好ましい。
【0060】
架橋剤としては、イソシアネート基、オキサゾリン基、カルボジイミド基、エポキシ基、メラミン樹脂、およびシラノール基などを有する化合物を用いることができる。
【0061】
また、ポリウレタン樹脂には、必要に応じてカーボンブラック等の顔料、染料酸化防止剤、酸化防止剤、耐光剤、帯電防止剤、分散剤、柔軟剤、凝固調整剤、難燃剤、抗菌剤および防臭剤等を添加することができる。特に人工皮革を濃色に発色させる場合などには、使用するポリウレタン樹脂が黒色顔料を含む態様がより好ましい。
【0062】
また、本発明において、前記のポリウレタン樹脂の重量平均分子量は、350000以上600000以下である。重量平均分子量の範囲について、その下限が350000以上、好ましくは400000以上であることにより、形態安定性や強度、耐摩耗性に優れた人工皮革とすることができる。また、重量平均分子量の範囲について、その上限が600000以下、好ましくは550000以下であることにより、人工皮革の柔軟性や成形性を保持することができる。
【0063】
なお、前記の重量平均分子量は、以下の方法によって測定、算出される値とする。
(1)得られた人工皮革から、濃度0.01Mに調整した塩化リチウムのN,N-ジメチルホルムアミド(以下、DMFと記載することがある。)溶液を用いてポリウレタン樹脂を抽出し、ポリウレタン樹脂濃度を1質量%となるようにN,N-ジメチルホルムアミドの量を調整し、ポリウレタン樹脂溶液を調製する。
(2)前記のポリウレタン樹脂溶液を、検出器としてRI検出器を用い、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC、例えば、東ソー株式会社製「HLC-8020」など)により、以下の条件で測定する。
・溶離液:0.01Mに調整した塩化リチウムのDMF溶液
・流速:1.0mL/分
・カラム温度:40℃
・注入量:0.05mL
・標準試料:ポリスチレン
なお、カラムについて、同一のものが入手できない場合には、これと同等の性能を有するカラムで測定するものとする。
【0064】
また、前記のポリウレタン樹脂の重量平均分子量は、使用するポリマージオールの重量平均分子量や、ポリウレタン樹脂における鎖伸長剤の混合比率、染色液のpHによって調整することができる。
【0065】
一般に、人工皮革におけるポリウレタン樹脂の含有量は、使用するポリウレタン樹脂、あるいは、その構成成分であるポリマージオール、有機ジイソシアネート、鎖伸長剤などの種類、ポリウレタン樹脂の製造方法および風合や物性を考慮して、適宜調整することができるが、本発明においては、人工皮革中のポリウレタン樹脂の含有量は、人工皮革の質量に対して10質量%以上60質量%以下とすることが好ましい。前記のポリウレタン樹脂の含有量の範囲について、その下限が好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは18質量%以上であることで、繊維間のポリウレタン樹脂による結合を強めることができ、人工皮革の耐磨耗性を向上させることができる。一方、前記のポリウレタン樹脂の含有量の範囲について、その上限が好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下であることで、人工皮革をより柔軟性の高いものとすることができる。
【0066】
なお、本発明において、人工皮革中のポリウレタン樹脂の含有量(質量%)は、N,N-ジメチルホルムアミドに人工皮革を浸漬してポリウレタン樹脂を抽出除去し、抽出前の人工皮革の質量に対する、抽出前の人工皮革と抽出後の残渣の質量差の百分率から算出されるものとする。ポリウレタン樹脂がN,N-ジメチルホルムアミドに溶解しない場合、フェノールとテトラクロロエタンとの混合液に人工皮革を浸漬し、極細繊維を溶解させてろ過し、残渣のポリウレタン樹脂を採取・秤量することで測定・算出されるものとする。
【0067】
[人工皮革]
本発明の人工皮革は、前記の繊維構造物と、ポリウレタン樹脂とを含有する人工皮革である。そして、本発明の人工皮革においては、表面に立毛を有することが好ましい。立毛は人工皮革の一方の表面のみに有していてもよく、両面に有することも許容される。表面に立毛を有する場合の立毛形態は、意匠効果の観点から指でなぞったときに立毛の方向が変わることで跡が残る、いわゆるフィンガーマークが発する程度の立毛長と方向柔軟性を備えていることが好ましい。
【0068】
より具体的には、表面の立毛長は200μm以上500μm以下であることが好ましく、250μm以上450μm以下であることがより好ましい。立毛長の範囲について、その下限が好ましくは200μm以上であることで、表面の立毛がポリウレタン樹脂を被覆し、人工皮革の表面へのポリウレタン樹脂の露出を抑制することで、均一な発色性を有する人工皮革を得ることができる。また、人工皮革を構成する不織布に織物が絡合一体化されている場合には、表面の立毛長を上記の範囲内とすることで人工皮革の表面付近にある織物の繊維を十分覆うことができるため好ましい。一方、立毛長の範囲について、その上限が好ましくは500μm以下であることで、意匠効果と耐摩耗性に優れる人工皮革を得ることができる。
【0069】
本発明において、人工皮革の立毛長は以下の方法により測定、算出されるものとする。
(1) 立毛を有する表面について、リントブラシ等を用いてその立毛を逆立てる。
(2) 立毛が逆立てられた状態で、人工皮革の断面を走査型電子顕微鏡(SEM:例えば、株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510型」など)を用い倍率120倍で2枚撮影する。
(3) 図1に例示するように、断面のうち、厚さ方向に配向する繊維のみからなる層を立毛部とし、厚さ方向に配向する繊維と人工皮革の面方向に配向する繊維との交点から、立毛の先端までの長さを立毛長(μm)として、それを10点測定する。
(4)全ての断面について(3)を繰り返し、前記の立毛長(μm)の算術平均値を算出し、小数点以下第1位で四捨五入する。
【0070】
本発明の人工皮革は、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.1 厚さ(ISO法)」の「6.1.1 A法」で測定される厚みが、0.2mm以上1.2mm以下の範囲であることが好ましい。人工皮革の厚みの範囲について、その下限が好ましくは0.2mm以上、より好ましくは0.3mm以上、さらに好ましくは0.4mm以上であることで、製造時の加工性に優れるだけでなく、充実感のある、風合いに優れたものとなる。一方、人工皮革の厚みの範囲について、その上限が好ましくは1.2mm以下、より好ましくは1.1mm以下、さらに好ましくは1.0mm以下であることで、成型性に優れた、柔軟な人工皮革とすることができる。
【0071】
本発明の人工皮革は、JIS L0849:2013「摩擦に対する染色堅ろう度試験方法」の「9.1 摩擦試験機I型(クロックメータ)法」で測定される摩擦堅牢度およびJIS L0843:2006「キセノンアーク灯光に対する染色堅ろう度試験方法」の「7.2 露光方法 a) 第1露光法」で測定される耐光堅牢度がそれぞれ4級以上であることが好ましい。摩擦堅牢度および耐光堅牢度が4級以上であることで、実使用時に色落ちや衣服等への汚染を防ぐことができる。
【0072】
また、本発明の人工皮革はJIS L1096:2010「織物及び編物の生地試験方法」の「8.19 摩耗強さ及び摩擦変色性」の「8.19.5 E法(マーチンデール法)」で測定される耐摩耗試験において、押圧荷重を12.0kPaとし、15000回の回数を摩耗した後の人工皮革の質量減量率(摩耗試験前試験布重量に対する摩耗試験前後の試験布の重量差の百分率)が1.5%以下であることが好ましく、1.3%以下であることがより好ましく、1.1%以下であることがさらに好ましい。質量減量率が1.5%以下であることで、実使用時の毛羽落ちによる汚染を防ぐことができる。
【0073】
なお、前記の質量減少率は、ポリウレタン樹脂の重量平均分子量や、極細繊維の繊維長、立毛長、見掛け密度によって調整することができる。
【0074】
また、本発明の人工皮革は、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.3.1 引張強さ及び伸び率(ISO法)」で測定される引張強さを人工皮革の目付で除した値、つまり単位目付あたりの引張強さが、任意の測定方向について、0.12(N/cm)/(g/m)以上0.50(N/cm)/(g/m)以下であることが好ましい。
【0075】
単位目付あたりの引張強さの範囲について、その下限が好ましくは0.12(N/cm)/(g/m)以上、より好ましくは0.14(N/cm)/(g/m)以上であると、人工皮革の形態安定性や耐久性に優れるため、好ましい。また、目付あたりの引張強さの範囲について、その上限が好ましくは0.50(N/cm)/(g/m)以下、より好ましくは0.45(N/cm)/(g/m)以下であると成型性に優れた人工皮革となる。
【0076】
なお、前記の目付当たりの引張強さは、ポリウレタン樹脂の重量平均分子量や、見掛け密度、そして、挿入する織物の密度や、織物を構成する糸条の総繊度、撚数によって調整することができる。
【0077】
また、本発明の人工皮革は、単位目付あたりの、直交する2方向の30%円形モジュラスの合計値が、1.20(N/2.54cm)/(g/m)以上1.70(N/2.54cm)/(g/m)以下であることが好ましい。ここで、1.00(N/2.54cm)/(g/m)は、0.39(N/cm)/(g/m)に相当し、上記範囲は、0.47(N/cm)/(g/m)以上0.67(N/cm)/(g/m)以下と表すことができる。この「単位目付あたりの、直交する2方向の30%円形モジュラスの合計値」は、形態安定性に関わるパラメータであり、単位目付あたりの、直交する2方向の30%円形モジュラスの合計値の範囲について、その下限が1.20(N/2.54cm)/(g/m)以上、より好ましくは1.25(N/2.54cm)/(g/m)以上であることで、形態安定性の優れた人工皮革とすることができるだけでなく、伸張時のす抜けによる表面品位の低下を抑制できる。また、目付あたりの、直交する2方向の30%円形モジュラスの合計値の範囲について、その上限が好ましくは1.70(N/2.54cm)/(g/m)以下、より好ましくは1.65(N/2.54cm)/(g/m)以下であることで、成型時に伸張された際に屈曲部等への追従性が高く、シワやタルミの発生を防ぐことができる。
【0078】
なお、上記の目付あたりの、直交する2方向の30%円形モジュラスの合計値は、以下の方法で測定、算出される値のことを指す。
(1) 人工皮革から300mmφの円形試験片を切り出す。
(2) 試験片の中央部に、200mm間の標点を1片につき1方向記す。
(3) インストロン型引張試験機(例えば、インストロン社製「型式:3343」など)で、つかみ間隔を200mmとし、引張速度を200mm/分として、30%伸長時のモジュラス(N/2.54cm)を測定する。
(4) (1)~(3)の測定を、人工皮革上において任意に引いた基準線に対して0度、90度の角度をなす各々の方向でのサンプリングを行い、3点以上の試料について測定される値の算術平均値(N/2.54cm)を各々の方向で求める。
(5) 人工皮革の目付を測定、算出する。なお、本発明において人工皮革の目付は、人工皮革から250mm×250mmの試験片を人工皮革からランダムに5枚採取し、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.2 単位面積当たりの質量(ISO法)」に準じて測定し、算出した値を小数点以下第1位で四捨五入した値のことを指す。ここで、250mm×250mmの試験片を採取できない場合には、採取できる最大の正方形で試験片を採取し、その試験片の質量、寸法を測定して、単位面積当たりの質量(g/m)を算出して得られる値とする。
(6) (4)の各々の方向で算出された算術平均値(N/2.54cm)の和を、(5)で算出された人工皮革の目付(g/m)で除した値(N/2.54cm)/(g/m)について、小数点以下第3位を四捨五入する。
【0079】
また、前記の目付あたりの、直交する2方向の30%円形モジュラスの合計値は、ポリウレタン樹脂の重量平均分子量や、見掛け密度、そして、織物を挿入する場合には、その織物の密度、織物を構成する糸条の伸び特性によって調整することができる。
【0080】
さらに、本発明の人工皮革は、その使用目的に応じて染料によって着色されていなくてもよく、染料の含有有無は限定されない。ただし、用途や目的の意匠に合わせて任意の色相を付与するために、本発明の人工皮革は、染料によって着色されてなることがより好ましい。なお、染料の含有有無は、人工皮革をメタノールに浸漬し、絞ることを複数回実施してメタノール抽出液を得、メタノールを蒸発除去した際に、固形物の残留がある場合に、染料の含有がある、と判断できる。
【0081】
本発明で用いられる染料は、前記の極細繊維など、繊維構造物に含まれる繊維の種類にあわせて選択すればよく、特に限定されないが、例えば、極細繊維の熱可塑性樹脂がポリエステル系樹脂であれば分散染料を用いることができ、ポリアミド系樹脂であれば酸性染料や含金染料を用いることができ、さらに、それらの組み合わせを用いることができる。
【0082】
もちろん、染料によって着色されてなるものであってもなくても、さらにその他の方法、例えば、後述するようなプリント加工などによって着色されてなるものであってもよい。
【0083】
[人工皮革の製造方法]
本発明の人工皮革の製造方法は、平均単繊維直径が0.1μm以上10.0μm以下の極細繊維を含む繊維構造物と、重量平均分子量が50000以上350000以下であるポリウレタン樹脂とを含有するシート状物を、pH4.5以上5.5以下である染色浴にて染色する工程を含むことが好ましい。以下に、この詳細について説明する。
【0084】
(A) シート状物の形成
まず、平均単繊維直径が0.1μm以上10.0μm以下の極細繊維を含む繊維構造物と、ポリウレタン樹脂とを含有するシート状物を形成する。このシート状物は、以下の工程によって形成することが好ましい。
工程(1): 熱可塑性樹脂からなる島部を形成し、易溶解性ポリマーが海部を形成する海島型複合構造を有する極細繊維発現型繊維を製造する工程
工程(2): 極細繊維発現型繊維を主構成成分とする繊維構造物を製造する工程
工程(3): 極細繊維発現型繊維を主構成成分とする繊維構造物から、平均単繊維直径が0.1μm以上10.0μm以下の極細繊維を形成する工程
工程(4): 極細繊維、または、極細繊維発現型繊維を主構成成分とする繊維構造物にポリウレタン樹脂を付与する工程
以下に、各工程の詳細について説明する。
【0085】
<極細繊維発現型繊維を製造する工程>
本工程においては、熱可塑性樹脂からなる島部を形成し、易溶解性ポリマーが海部を形成する海島型複合構造を有する極細繊維発現型繊維を製造する。
【0086】
極細繊維発現型繊維としては、溶剤溶解性の異なる熱可塑性樹脂を海部(易溶解性ポリマー)と島部(難溶解性ポリマー)とし、前記の海部を、溶剤などを用いて溶解除去することによって島部を極細繊維とする海島型複合繊維を用いる。海島型複合繊維を用いることによって、海部を除去する際に島部間、すなわち繊維束内部の極細繊維間に適度な空隙を付与することができるため、人工皮革の風合いや外観品位の観点から好ましい。
【0087】
海島型複合構造を有する極細繊維発生型繊維を紡糸する方法としては、海島型複合用口金を用い、海部と島部を相互配列して紡糸する高分子相互配列体を用いる方式が、均一な単繊維繊度の極細繊維が得られるという観点から好ましい。
【0088】
海島型複合繊維の海部としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナトリウムスルホイソフタル酸やポリエチレングリコールなどを共重合した共重合ポリエステル、およびポリ乳酸などを用いることができるが、製糸性や易溶出性等の観点から、ポリスチレンや共重合ポリエステルが好ましく用いられる。
【0089】
本発明の人工皮革の製造方法において、海島型複合繊維を用いる場合には、その島部の強度が、2.5cN/dtex以上である海島型複合繊維を用いることが好ましい。島部の強度の範囲について、その下限が好ましくは2.5cN/dtex以上、より好ましくは2.8cN/dtex以上、さらに好ましくは3.0cN/dtex以上であることによって、人工皮革の耐摩耗性が向上するとともに繊維の脱落に伴う摩擦堅牢度の低下を抑制することができる。
【0090】
本発明において、海島型複合繊維の島部の強度は以下の方法により算出されるものとする。
(1) 長さ20cmの海島型複合繊維を10本束ねる。
(2) (1)の試料から海部を溶解除去したのちに、風乾する。
(3) JIS L1013:2010「化学繊維フィラメント糸試験方法」の「8.5 引張強さ及び伸び率」の「8.5.1 標準時試験」にて、つかみ長さ5cm、引張速度5cm/分、荷重2Nの条件にて10回試験する(N=10)。
(4)(3)で得られた試験結果の算術平均値(cN/dtex)を小数点以下第二位で四捨五入して得られる値を、海島型複合繊維の島部の強度とする。
【0091】
<繊維構造物を製造する工程>
本工程では、極細繊維発現型繊維を主構成成分とする繊維構造物を製造する。より好ましくは、紡出された極細繊維発現型繊維を開繊したのちにクロスラッパー等により繊維ウェブとし、絡合させることにより、繊維構造物である不織布を得る。繊維ウェブを絡合させ不織布を得る方法としては、ニードルパンチ処理やウォータージェットパンチ処理等を用いることができる。
【0092】
不織布の形態としては、前述のように短繊維不織布でも長繊維不織布でも用いることができるが、短繊維不織布であると、人工皮革の厚さ方向を向く繊維が長繊維不織布に比べて多くなり、起毛した際の人工皮革の表面に高い緻密感を得ることができる。
【0093】
不織布として短繊維不織布とする場合には、得られた極細繊維発現型繊維に、好ましくは捲縮加工を施し、所定長にカット加工して原綿を得たのちに、開繊、積層、絡合させることで短繊維不織布を得る。捲縮加工やカット加工は、公知の方法を用いることができる。
【0094】
さらに、繊維構造物が織物を含む場合には、前記で得られた不織布と織物を積層し、そして絡合一体化させる。不織布と織物の絡合一体化には、不織布の片面もしくは両面に織物を積層するか、あるいは複数枚の不織布ウェブの間に織物を挟んだ後に、ニードルパンチ処理やウォータージェットパンチ処理等によって不織布と織物の繊維同士を絡ませることができる。
【0095】
ニードルパンチ処理あるいはウォータージェットパンチ処理後の極細繊維発現型繊維からなる不織布の見掛け密度は、0.15g/cm以上0.45g/cm以下であることが好ましい。見掛け密度の範囲について、その下限が好ましくは0.15g/cm以上であることにより、人工皮革が十分な形態安定性や寸法安定性、耐摩耗性が得られる。一方、見掛け密度の範囲について、その上限が好ましくは0.45g/cm以下であることにより、ポリウレタン樹脂を付与するための十分な空間を維持することができる。
【0096】
前記の不織布には、繊維の緻密感向上のために、熱水やスチームによる熱収縮処理を施すことも好ましい態様である。なお、本発明において、「熱水」とは、90℃~100℃に加熱された水のことを指す。
【0097】
次に、前記の不織布に水溶性樹脂の水溶液を含浸し、乾燥することにより水溶性樹脂を付与することもできる。不織布に水溶性樹脂を付与することにより、繊維が固定されて寸法安定性が向上される。
【0098】
<極細繊維を形成する工程>
本工程では、得られた繊維構造物を溶剤で処理して、平均単繊維直径が0.1μm以上10.0μm以下の極細繊維を発現させる。
【0099】
極細繊維の発現処理は、溶剤中に海島型複合繊維からなる不織布を浸漬させて、海島型複合繊維の海部を溶解除去することにより行うことができる。
【0100】
極細繊維発現型繊維が海島型複合繊維の場合、海部を溶解除去する溶剤としては、海部がポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリスチレンの場合には、トルエンやトリクロロエチレンなどの有機溶剤を用いることができる。また、海部が共重合ポリエステルやポリ乳酸の場合には、水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液を用いることができる。また、海部が水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系樹脂の場合には、熱水を用いることができる。
【0101】
<ポリウレタン樹脂を付与する工程>
本工程では、極細繊維または極細繊維発現型繊維を主構成成分とする繊維構造物にポリウレタン樹脂の溶液を含浸し固化して、ポリウレタン樹脂を付与する。ポリウレタン樹脂を繊維構造物に固定する方法としては、ポリウレタン樹脂の溶液を繊維構造物に含浸させた後、湿式凝固または乾式凝固する方法があり、使用するポリウレタン樹脂の種類により適宜これらの方法を選択することができる。
【0102】
ポリウレタン樹脂を付与させる際に用いられる溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミドやジメチルスルホキシド等が好ましく用いられる。また、ポリウレタン樹脂を水中にエマルジョンとして分散させた水分散型ポリウレタン液を用いてもよい。
【0103】
前記の繊維構造物に付与するポリウレタン樹脂としては、重量平均分子量が50000以上400000以下であることが好ましい。重量平均分子量の範囲について、その下限が好ましくは50000以上、より好ましくは100000以上、さらに好ましくは150000以上であることにより、人工皮革の強度を保持し、また複合繊維の脱落を防ぐことができる。また、重量平均分子量の範囲について、その上限が好ましくは400000以下、より好ましくは350000以下、さらに好ましくは300000以下であることにより、ポリウレタン液の粘度増大を抑えて繊維構造物への均一な付与が可能となる。
【0104】
なお、繊維構造物へのポリウレタン樹脂の付与は、極細繊維発生型繊維から極細繊維を発生させる前に付与してもよいし、極細繊維発生型繊維から極細繊維を発生させる後に付与してもよい。
【0105】
<シート状物を半裁し、研磨する工程>
前記工程を終えて得られる、ポリウレタン樹脂が付与されてなるシート状物(ポリウレタン樹脂付与シート)は、製造効率の観点から、厚み方向に半裁して2枚のシート状物とすることも好ましい態様である。
【0106】
さらに、前記のポリウレタン樹脂が付与されてなるシート状物あるいは半裁されたシート状物の表面に、起毛処理を施すことができる。起毛処理は、サンドペーパーやロールサンダーなどを用いて、研削する方法などにより施すことができる。起毛処理はこのシート状物の片側表面のみに施しても、両面に施すこともできる。
【0107】
起毛処理を施す場合には、起毛処理の前にシリコーンエマルジョンなどの滑剤をシート状物の表面へ付与することができる。また、起毛処理の前に帯電防止剤を付与することで、研削によってシート状物から発生した研削粉がサンドペーパー上に堆積しにくくなる。
【0108】
(B)染色
本発明の人工皮革の製造方法では、ここまでの工程で得られた前記のシート状物を、pH4.5以上5.5以下である染色液中にて染色することが好ましい。シート状物を着色する必要がない場合は、染色浴において染料を加えなくてもよい。染色液のpHを前記範囲とすることにより、人工皮革の繊維構造物やポリウレタン樹脂の染色による劣化を抑制できるだけでなく、染色によりポリウレタン樹脂の重量平均分子量を増加させ、得られる人工皮革の形態安定性や強度、耐摩耗性を向上させることができる。
【0109】
染色液のpHは、pH緩衝液によって制御することができる。pH緩衝液としては、例えば、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リンゴ酸緩衝液、フタル酸緩衝液、炭酸緩衝液、リン酸緩衝液などが挙げられる。中でも、酸性領域での緩衝能力の高さから、酢酸緩衝液やリンゴ酸緩衝液が好適に用いられる。
【0110】
この染色する方法としては、例えば、ジッガー染色機や液流染色機を用いた液流染色処理、連続染色機を用いたサーモゾル染色処理等の浸染処理、あるいはローラー捺染、スクリーン捺染、インクジェット方式捺染、昇華捺染および真空昇華捺染等による立毛面への捺染処理などが挙げられる。中でも、柔軟な風合いが得られること、品質や品位面から、液流染色機を用いた液流染色処理を行うことが好ましい。
【0111】
(C) 後加工
また、上記の方法によって得られた人工皮革には、必要に応じてその表面に意匠性を施すこともできる。例えば、パーフォレーション等の穴開け加工、エンボス加工、レーザー加工、ピンソニック加工、およびプリント加工等の後加工処理を施すことができる。もちろん、これらの後加工処理は、染色を行う前のシート状物に対して行うことも好ましい態様である。
【0112】
以上に例示された製造方法によって得られる本発明の人工皮革は、良好な風合いと高級感を感じさせる外観品位とを兼ね備え、さらに、形態安定性や強度、耐摩耗性を有することから、例えば、車両用シートや家具に好適に用いることができる。
【実施例0113】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0114】
[測定方法および評価用加工方法]
各物性の測定において、特段の記載がないものは、前記の方法に基づいて測定を行ったものである。
【0115】
(1)極細繊維の平均単繊維直径(μm):
走査型電子顕微鏡(SEM)として、株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510型」を用い、上記の方法に従って平均単繊維直径を算出した。
【0116】
(2)ウレア結合の有無:
人工皮革から、N,N-ジメチルホルムアミドを用いてポリウレタン樹脂を抽出し、N,N-ジメチルホルムアミドを乾燥により除去した後、ウレタン樹脂濃度が0.1g/1mLとなるように重ジメチルスルホキシドに溶解して、日本電子株式会社製「JNM-ECZ400S」を用いてH-NMRスペクトルを評価した。得られたスペクトルについて、8.0~8.6ppmに現れるピークをウレア結合に帰属し、ウレア結合の有無を判定した。
【0117】
(3)ポリウレタン樹脂の重量平均分子量:
得られたポリウレタン樹脂付与シート、あるいは、人工皮革から、N,N-ジメチルホルムアミド(以下、DMFと記載することがある。)を用いてポリウレタン樹脂を抽出し、ポリウレタン樹脂濃度を1質量%となるように調整し、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)により、次の条件で測定してポリウレタン樹脂の重量平均分子量を求めた。
・機器:GPC測定機HLC-8020(東ソー株式会社製)
・カラム:TSKgelGMH-XL(東ソー株式会社製)。
【0118】
(4)染色液のpH:
液流染色機に水、シート状物、染料、均染剤、pH緩衝液を投入して混合した後、染色昇温前の溶液について、アズワン株式会社製のpH計「AS600」を用いて測定した。
【0119】
(5)ポリウレタン樹脂の含有量(質量%):
N,N-ジメチルホルムアミドに人工皮革を浸漬してポリウレタン樹脂を抽出除去し、上記の方法に従って算出した。
【0120】
(6)目付あたりの、直交する2方向の30%円形モジュラスの合計値((N/cm)/(g/m)、(N/2.54cm)/(g/m)、表1、2では「目付当たりのモジュラスの合計値」と表記した):
引張試験機としてインストロン社製「型式:3343」を用い、上記の方法に従って、測定・算出した。
【0121】
(7)目付当たりの引張強さ(N/cm)/(g/m):
引張試験機としてインストロン社製「型式:3343」を用い、上記の方法に従って、測定・算出した。
【0122】
(8)質量減少率(%):
マーチンデール摩耗試験機として、James H.Heal&Co.製「Model 406」を用い、標準摩擦布として同社の「ABRASTIVE CLOTH SM25」を用い、上記の方法に従って、測定・算出した。
【0123】
(9)立毛長(μm):
走査型電子顕微鏡として、株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510型」を用い、上記の方法に従って測定・算出した。
【0124】
(10)人工皮革の風合い:
健康な成人男性と成人女性各10名ずつ、計20名による官能評価を実施した。人工皮革を300mm角に切断し、手のひらで握ったときの触感により、下記のように評価し、最も多かった評価を人工皮革の風合いとした。なお、評価が同数となった場合は、より高い評価をその人工皮革の風合いとすることとした。本発明において良好なレベルは、「3級または4級」である。
・4級:柔軟で良好な風合いである
・3級:わずかに柔軟で良好な風合いである
・2級:わずかに強硬で不良な風合いである
・1級:強硬で不良な風合いである。
【0125】
(11)人工皮革の外観品位(均一性):
健康な成人男性と成人女性各10名ずつ、計20名による目視評価を実施した。300mm角以上の大きさの人工皮革について、下記のように5段階評価し、最も多かった評価を外観品位とした。本発明において良好なレベルは、「3級~5級」である。
・5級:人工皮革の表面全体が均一な立毛で覆われており、色調が均一である。
・4級:5級と3級の間の評価である。
・3級:立毛状態にばらつきは見られるが、地の露出はなく色調は概ね均一である。
・2級:3級と1級の間の評価である。
・1級:立毛にばらつきがあり、部分的に地が露出しており色調が不均一である。
【0126】
[使用した樹脂等]
・PET: 固有粘度(IV値)が0.72のポリエチレンテレフタレート
・ポリマージオールA: ポリテトラメチレングリコール
・有機ジイソシアネートB: ジフェニルメタンジイソシアネート
・鎖伸長剤C: メチレンビスアリニン
・鎖伸長剤D: エチレングリコール。
【0127】
[実施例1]
(A)シート状物の形成
<極細繊維発現型繊維を製造する工程>
海成分としてポリスチレンを用い、島成分として前記のPETを用いて、海成分が20質量%、島成分が80質量%の複合比率で、島数が16島/1フィラメント、平均単繊維直径が20μmの海島型複合繊維を得た。
【0128】
<繊維構造物を製造する工程>
得られた海島型複合繊維を、繊維長51mmにカットしてステープルとし、カードおよびクロスラッパーを通して繊維ウェブを形成した。この繊維ウェブにニードルパンチ処理を行うことで絡合させ、目付が450g/mで、厚みが2.0mm、見掛け密度が0.23g/cmの不織布を得た。この不織布を繊維構造物とした。
【0129】
<極細繊維を形成する工程>
得られた繊維構造物を、トリクロロエチレンに浸漬してマングルで絞ることを5回繰り返すことにより、海島型複合繊維の海成分を除去した極細繊維からなるシートを得た。この極細繊維の平均単繊維直径は4.4μmであった。
【0130】
<ポリウレタン樹脂を付与する工程>
上記のようにして得られた極細繊維からなるシートを、ウレア結合を有する有機溶剤系ポリウレタン樹脂(ポリマージオールA、有機ジイソシアネートB、鎖伸長剤C)を主成分とする、固形分の濃度が12質量%となるように調整した、ポリウレタン樹脂のDMF溶液に浸漬し、次いでDMF濃度30質量%の水溶液中でポリウレタン樹脂を凝固させた。その後、110℃の温度の熱風で10分間乾燥することによりポリウレタン樹脂の乾式凝固を行い、厚みが1.5mmで、ポリウレタン樹脂の重量平均分子量が200000であるポリウレタン樹脂付与シートを得た。
【0131】
<半裁、起毛する工程>
上記のようにして得られたポリウレタン樹脂付与シートを厚さ方向に半裁し、厚みが0.75mmの半裁シートを得た。半裁されて形成された面(半裁面)をサンドペーパー番手180番のエンドレスサンドペーパーで研削することにより、厚みが0.45mm、立毛長が390μmの立毛を有するシート状物を得た。
【0132】
(B)染色
上記のようにして得られた立毛を有するシート状物を、液流染色機を用いて、pH4.8の染色液(pH緩衝液:酢酸緩衝液)にて、120℃の温度条件下で黒色の分散染料を用いて染色し還元洗浄を行った後、乾燥機で乾燥を行い、人工皮革を得た。
【0133】
得られた人工皮革のポリウレタン樹脂の重量平均分子量は530000であった。結果を表1に示す。
【0134】
[実施例2]
染色工程において、染色液のpHを、酢酸緩衝液中の酢酸と酢酸ナトリウムの構成比率を調整することにより5.0とした以外は、実施例1と同様にして人工皮革を得た。得られた人工皮革のポリウレタン樹脂の重量平均分子量は500000であった。結果を表1に示す。
【0135】
[実施例3]
染色工程において、染色液のpHを、酢酸緩衝液中の酢酸と酢酸ナトリウムの構成比率を調整することにより5.2とした以外は、実施例1と同様にして人工皮革を得た。得られた人工皮革のポリウレタン樹脂の重量平均分子量は490000であった。結果を表1に示す。
【0136】
[実施例4]
染色工程において、染料を加えずに、かつ、染色液のpHを4.6とした以外は、実施例1と同様にして人工皮革を得た。得られた人工皮革のポリウレタン樹脂の重量平均分子量は540000であった。結果を表1に示す。
【0137】
【表1】
【0138】
[比較例1]
染色工程において、染色液のpHを、酢酸緩衝液中の酢酸と酢酸ナトリウムの構成比率を調整することにより3.0とした以外は、実施例1と同様にして人工皮革を得た。得られた人工皮革のポリウレタン樹脂の重量平均分子量は240000であった。結果を表2に示す。
【0139】
[比較例2]
染色工程において、染色液のpHを、酢酸緩衝液中の酢酸と酢酸ナトリウムの構成比率を調整することにより5.7とした以外は、実施例1と同様にして人工皮革を得た。得られた人工皮革のポリウレタン樹脂の重量平均分子量は230000であった。結果を表2に示す。
【0140】
[比較例3]
染色工程において、染色液のpHを、酢酸緩衝液中の酢酸と酢酸ナトリウムの構成比率を調整することにより6.5とした以外は、実施例1と同様にして人工皮革を得た。得られた人工皮革のポリウレタン樹脂の重量平均分子量は120000であった。結果を表2に示す。
【0141】
[比較例4]
ポリウレタン樹脂を付与する工程において、ウレア結合を有しない有機溶剤系ポリウレタン樹脂(ポリマージオールA、有機ジイソシアネートB、鎖伸長剤D)を主成分とするポリウレタンのDMF溶液を用いた以外は、実施例2と同様にして人工皮革を得た。得られた人工皮革のポリウレタン樹脂の重量平均分子量は200000であった。結果を表2に示す。
【0142】
[比較例5]
ポリウレタン樹脂を付与する工程において、ポリウレタン樹脂の重量平均分子量を500000とした以外は、実施例2と同様に製造したが、繊維構造物にポリウレタンの溶液を含浸させる際、ポリウレタン溶液の粘度が高く、繊維構造物内部へポリウレタンが浸透せず、加工性不良であった。結果を表2に示す。
【0143】
【表2】
【0144】
実施例1~4で得られた人工皮革は、いずれも柔軟な風合いと均一な外観を有し、引張強力や円形モジュラス、摩耗減量率も良好であった。
【0145】
一方、比較例1~4の人工皮革は、柔軟な風合いと外観品位には優れていたものの、ポリウレタン樹脂の重量平均分子量が小さく、目付あたりの直交する30%円形モジュラスに劣るものであった。
【符号の説明】
【0146】
1:人工皮革
2:立毛部
3:立毛部とそれ以外の部分との境界線(厚さ方向に配向する繊維と人工皮革の面方向に配向する繊維との交点を結んだ線)
4:厚さ方向に配向する繊維と人工皮革の面方向に配向する繊維との交点から立毛の先端までの距離を示す矢印
図1