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特開2024-65010キャピラリ電気泳動によるヘモグロビンA2を含む試料の分析方法
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  • 特開-キャピラリ電気泳動によるヘモグロビンA2を含む試料の分析方法 図1
  • 特開-キャピラリ電気泳動によるヘモグロビンA2を含む試料の分析方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065010
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】キャピラリ電気泳動によるヘモグロビンA2を含む試料の分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/447 20060101AFI20240507BHJP
   G01N 33/72 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
G01N27/447 315K
G01N33/72 A
G01N27/447 301B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023159205
(22)【出願日】2023-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2022173452
(32)【優先日】2022-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000141897
【氏名又は名称】アークレイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大沼 直嗣
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045DA49
2G045FA34
(57)【要約】
【課題】優れた精密性及び正確性で、総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積等の割合を算出することができる、キャピラリ電気泳動によるヘモグロビンA2を含む試料の分析方法の提供。
【解決手段】カチオン性ポリマーを含むアルカリ性水溶液を用いた、キャピラリ電気泳動によるヘモグロビンA2を含む試料の分析方法であって、以下の工程を含む分析方法。1)キャピラリ電気泳動により試料のエレクトロフェログラムを得る工程、2)Xピークの検出時間Txを特定する工程、3)HbA2ピークの検出時間Ta2を特定する工程、4)Yピークの検出時間Tyを特定する工程、5)Tx、Ta2、及びTyの相対関係から、補正係数を算出する工程、6)エレクトロフェログラムにおいて、総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積又はYピーク面積の割合を算出する工程、7)補正係数によって、HbA2ピーク面積の割合又はYピーク面積の割合を補正する工程。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン性ポリマーを含むアルカリ性水溶液を用いた、キャピラリ電気泳動によるヘモグロビンA2を含む試料の分析方法であって、以下の工程1)~7)を含む分析方法。
1)キャピラリ電気泳動により前記試料のエレクトロフェログラムを得る工程、
2)HbA2ピークよりも早い時間に検出されるXピークの検出時間Txを特定する工程、
3)HbA2ピークの検出時間Ta2を特定する工程、
4)HbA2ピークよりも遅い時間に検出されるYピークの検出時間Tyを特定する工程、
5)Xピークの検出時間Tx、HbA2ピークの検出時間Ta2、及びYピークの検出時間Tyの相対関係から、補正係数を算出する工程、
6)エレクトロフェログラムにおいて、総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合又はYピーク面積の割合を算出する工程、
7)前記補正係数によって、前記HbA2ピーク面積の割合又は前記Yピーク面積の割合を補正する工程。
【請求項2】
前記補正係数が、(Ty-Tx)/(Ta2-Tx)又は(Ta2-Tx)/(Ty-Tx)で求められる、請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
前記HbA2ピーク面積又は前記Yピーク面積の割合の補正が、前記補正係数、及び前記補正係数とは異なる予め定められた係数に基づいて行われる、請求項1又は請求項2に記載の分析方法。
【請求項4】
前記予め定められた係数が、前記補正係数の値に応じて変動する、請求項3に記載の分析方法。
【請求項5】
前記HbA2ピーク面積又は前記Yピーク面積の割合の補正が、前記補正係数、及び前記補正係数とは異なる予め定められた係数に基づいて行われ、
前記補正係数の値が1から離れるほど、前記予め定められた係数が小さくなる、請求項2に記載の分析方法。
【請求項6】
キャピラリ電気泳動がキャピラリ流路を備える装置を用いて行われ、
前記キャピラリ流路の内壁が、第4級アンモニウム塩基を含むカチオン性ポリマーで被覆されている、請求項1又は請求項2に記載の分析方法。
【請求項7】
前記キャピラリ流路に前記試料が連続的に供給される、請求項6に記載の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、キャピラリ電気泳動によるヘモグロビンA2を含む試料の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査の現場においてヘモグロビン(以下、「Hb」とも記す。)の分析が日常的に行われている。分析対象となるHb種は検査の目的に応じて異なる。糖尿病の診断や病状把握のための分析対象としてはHbA1cが良く知られている。異常Hb症の診断のための分析対象としては、HbS(鎌状赤血球Hb)、HbC、HbD及びHbEなどに代表される変異Hbが使用されている。また、βサラセミアの診断のための分析対象としては、HbA2及びHbF(胎児Hb)が広く用いられている。
【0003】
Hbの分析は、イオン交換クロマトグラフィー法等の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法、キャピラリ電気泳動(CE)法などにより行われる。
特許文献1には、擬似固定相としてカチオン性ポリマーを含有する溶液を用いた、陰イオン交換動電クロマトグラフィーによる、HbA2の分析方法が記載されている。
特許文献2及び特許文献3には、擬似固定相としてアニオン性ポリマーを含有する溶液を用いた、陽イオン交換動電クロマトグラフィーによる、界面到達時点を利用したHbA1c等の成分を同定する方法の分析方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-136135号公報
【特許文献2】特許第6846324号公報
【特許文献3】特許第6871129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
βサラセミア等の診断においては、キャピラリ電気泳動によりエレクトロフェログラムを取得し、このエレクトロフェログラムから算出される総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合が使用されることがある。
しかしながら、近年、算出される上記HbA2ピーク面積の割合はばらつきが生じることがあり、より優れた精密性が求められている。また、エレクトロフェログラムから算出される上記HbA2ピーク面積の割合は、対照法により測定される値と乖離してしまう場合があり、優れた正確性も求められている。
【0006】
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、優れた精密性及び正確性で、総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積等の割合を算出することができる、キャピラリ電気泳動によるヘモグロビンA2を含む試料の分析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の実施形態に係るキャピラリ電気泳動によるヘモグロビンA2を含む試料の分析方法は、カチオン性ポリマーを含むアルカリ性水溶液を用い、以下の工程1)~7)を含む分析方法。
1)キャピラリ電気泳動により前記試料のエレクトロフェログラムを得る工程、
2)HbA2ピークよりも早い時間に検出されるXピークの検出時間Txを特定する工程、
3)HbA2ピークの検出時間Ta2を特定する工程、
4)HbA2ピークよりも遅い時間に検出されるYピークの検出時間Tyを特定する工程、
5)Xピークの検出時間Tx、HbA2ピークの検出時間Ta2、及びYピークの検出時間Tyの相対関係から、補正係数を算出する工程、
6)エレクトロフェログラムにおいて、総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合又はYピーク面積の割合を算出する工程、
7)前記補正係数によって、前記HbA2ピーク面積の割合又は前記Yピーク面積の割合を補正する工程。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一実施形態によれば、優れた精密性及び正確性で、総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積等の割合を算出することができる、キャピラリ電気泳動によるヘモグロビンA2を含む試料の分析方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1Aは、キャピラリ電気泳動チップの一実施形態を示す上面図である。図1Bは、図1Aに示す電気泳動チップの断面図である。
図2図2は、エレクトロフェログラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一例である実施形態について説明する。これらの説明および実施例は、実施形態を例示するものであり、発明の範囲を制限するものではない。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0011】
各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。
組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
本開示において、「工程」という語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において実施形態を図面を参照して説明する場合、当該実施形態の構成は図面に示された構成に限定されない。また、各図における部材の大きさは概念的なものであり、部材間の大きさの相対的な関係はこれに限定されない。
【0012】
[分析方法]
本開示の実施形態に係る分析方法は(以下、「特定分析方法」とも記す。)は、カチオン性ポリマーを含むアルカリ性水溶液を用いた、キャピラリ電気泳動によるヘモグロビンA2を含む試料の分析方法であって、以下の工程を含む。
1)キャピラリ電気泳動により前記試料のエレクトロフェログラムを得る工程(以下、「第1工程」とも記す。)、
2)HbA2ピークよりも早い時間に検出されるXピークの検出時間Txを特定する工程(以下、「第2工程」とも記す。)、
3)HbA2ピークの検出時間Ta2を特定する工程(以下、「第3工程」とも記す。)、
4)HbA2ピークよりも遅い時間に検出されるYピークの検出時間Tyを特定する工程(以下、「第4工程」とも記す。)、
5)Xピークの検出時間Tx、HbA2ピークの検出時間Ta2、及びYピークの検出時間Tyの相対関係から、補正係数を算出する工程(以下、「第5工程」とも記す。)、
6)エレクトロフェログラムにおいて、総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合又はYピーク面積の割合を算出する工程(以下、「第6工程」とも記す。)、
7)前記補正係数によって、前記HbA2ピーク面積の割合又は前記Yピーク面積の割合を補正する工程(以下、「第7工程」とも記す。)。
【0013】
特定分析方法によれば、優れた精密性及び正確性で、総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積等の割合を算出することができる。上記効果が奏される理由は明らかではないが以下のように推測される。
特定分析方法においては、算出された総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合又はYピーク面積の割合を、Xピークの検出時間Tx、HbA2ピークの検出時間Ta2、並びにYピークの検出時間Tyの相対関係から算出された補正係数により補正する。これにより、算出された総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合又はYピーク面積の割合の精密性及び正確性が改善されると推測される。
なお、エレクトロフェログラムから算出される上記HbA2ピーク面積の割合は、対照法により測定される値と乖離してしまう理由としては、HbA2ピークに続くピークによっては、その面積により増大又は減少される場合があるためと推測される。
【0014】
好ましい実施形態においては、第1工程の後に、第2工程~第4工程を実施する。第2工程~第4工程の順序は特に限定されるものではない。
好ましい実施形態においては、第2工程~第4工程の後に、第5工程~第6工程を実施する。第5工程~第6工程の順序は特に限定されるものではない。
好ましい実施形態においては、第5工程~第6工程の後に、第7工程を実施する。
【0015】
(第1工程)
第1工程においては、キャピラリ電気泳動により試料のエレクトロフェログラムを得る。
エレクトロフェログラムは、アルカリ性溶液中において、キャピラリ電気泳動により試料中のHbを分離し、分離されたHbを検出し、吸光度スペクトルを入手し、吸光度スペクトルの波形を時間について微分することにより得ることができる。
【0016】
-分離-
Hbの分離は、アルカリ性溶液中において、キャピラリ電気泳動により行う。
試料は、HbA2を含有する。試料は、HbE、HbA、HbF、HbC、HbD、HbG、HbS等を含有してもよい。
【0017】
アルカリ性溶液中におけるキャピラリ電気泳動による試料中のHbの分離は、キャピラリ流路を備える装置を使用することにより行うことができる。
具体的には、アルカリ性溶液が充填されたキャピラリ流路に試料を導入し、試料の導入後、キャピラリ流路の全体又は一部に電圧を印加することにより行うことができる。上記電圧の印加により、試料中のHbを電気泳動させることができ、分離することができる。
キャピラリ流路への電圧の印加は、キャピラリ流路の試料導入側に負電極を接触させ、アルカリ性溶液供給側に正電極を接触させることにより行うことができる。
【0018】
キャピラリ流路の断面形状は、特に限定されるものではなく、円形状であってもよく、矩形状であってもよく、その他の形状であってもよい。
矩形状の場合、キャピラリ流路の流路高さ及び流路幅は、それぞれ、1μm~1000μmであることが好ましく、10μm~200μmであることがより好ましく、25μm~100μmであることが更に好ましい。円形状の場合、キャピラリ流路の内径は、10μm以上又は25μm以上が好ましく、100μm以下又は75μm以下が好ましい。
キャピラリ流路の流路長は、10mm~150mmであることが好ましく、20mm~60mmであることがより好ましい。
【0019】
キャピラリ流路の材質としては、ガラス、溶融シリカ、プラスチック等が挙げられる。プラスチックとしては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等が挙げられる。
【0020】
分離工程においては、上記したキャピラリ流路がマイクロチップ化されたキャピラリ電気泳動チップを使用してもよい。
キャピラリ電気泳動チップは、試料保持槽、泳動液保持槽及びキャピラリ流路を有することができ、試料保持槽と泳動液保持槽とはキャピラリ流路により連通する。
キャピラリ電気泳動チップのサイズは、特に限定されるものではなく、適宜調整することが好ましい。キャピラリ電気泳動チップのサイズは、例えば、長さ10mm~200mm、幅1mm~60mm、厚み0.3mm~5mmとすることができる。
【0021】
試料保持槽及び泳動液保持槽の容積は、キャピラリ流路の内径及び長さに応じて適宜決定されるが、それぞれ、1mm~1000mmであることが好ましく、5mm~100mmであることがより好ましい。
試料保持槽に充填する試料の量は、特に限定されるものではなく、1μL~30μLとすることができる。
泳動液保持槽に充填するアルカリ性溶液の量は、特に限定されるものではなく、1μL~30μLとすることができる。
【0022】
キャピラリ流路の両端に印加する電圧は、500V~10000Vであることが好ましく、500V~5000Vであることがより好ましい。
【0023】
キャピラリ流路内において、負電極側から正電極側に向かう液流を生じさせてもよい。液流としては、電気浸透流等が挙げられる。
【0024】
キャピラリ流路は、その内壁がカチオン性物質又はアニオン性物質で被覆されていることが好ましい。
カチオン性物質によりキャピラリ流路の内壁を被覆することによって、キャピラリ流路の内壁をプラスに帯電させることができる。その結果、キャピラリ流路内に負電極側から正電極側に向かう電気浸透流を容易に生じさせることができる。
アニオン性物質によりキャピラリ流路の内壁を被覆した場合、キャピラリ流路の内壁はマイナスに帯電するが、アルカリ性溶液に含有されるカチオン性ポリマーがマイナスに帯電したキャピラリ流路の内壁に結合する。これにより、キャピラリ流路の内壁はプラスに帯電され、上記と同様にキャピラリ流路内に負電極側から正電極側に向かう電気浸透流を容易に生じさせることができる。
【0025】
カチオン性物質は、特に限定されるものではなく、カチオン性官能基を有するシランカップリング剤等を使用することができる。分離精度を向上する観点から、カチオン性物質は、第4級アンモニウム塩基を有するポリマーであることが好ましく、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドがより好ましい。
【0026】
アニオン性物質は、特に限定されるものではなく、アニオン性基を有する多糖類、アニオン性官能基を有するシランカップリング剤等を使用することができる。
アニオン性基を有する多糖類としては、硫酸化多糖類、カルボン酸化多糖類、スルホン酸化多糖類、リン酸化多糖類等が挙げられる。
硫酸化多糖類としては、コンドロイチン硫酸、へパリン、へパラン、フコイダン、これらの塩等が挙げられる。カルボン酸化多糖類としては、アルギン酸、ヒアルロン酸、これらの塩等が挙げられる。
【0027】
図1A及び図1Bに、キャピラリ電気泳動チップの一実施形態を示す。図1Aは、キャピラリ電気泳動チップの一実施形態を示す上面図であり、図1Bは、図1Aに示す電気泳動チップの断面図である。
図1A及びBに示すキャピラリ電気泳動チップは、キャピラリ流路1、試料保持槽2及び泳動液保持槽3を備え、試料保持槽2及び泳動液保持槽3は、キャピラリ流路1により連通している。キャピラリ流路1には検出部4が形成されている。
試料保持槽2及び泳動液保持槽3は、キャピラリ流路1の両端に電圧を印加するための電極をそれぞれ備えていてもよい(図示せず)。具体的には、試料保持槽2(試料導入側)が負電極を備え、泳動液保持槽3(アルカリ性溶液供給側)が正電極を備えることができる。
【0028】
検出部4の位置、すなわち、分離に要する長さ(試料保持槽2から検出部4までの距離、図1Aにおけるx)は、キャピラリ流路1の長さ等により適宜決定できる。キャピラリ流路1の長さ(図1Aにおけるx+y)が10mm~150mmである場合、試料保持槽2から検出部4までの距離(x)は、5mm~140mmであることが好ましく、10mm~100mmであることがより好ましく、15mm~50mmであることが更に好ましい。
【0029】
--アルカリ性溶液--
本開示において、「アルカリ性」とは、pH7.0超であることを意味する。アルカリ性溶液のpHは、Hbの等電点よりも高いことが好ましく、7.5~12.0であることが好ましく、8.5~11.0であることがより好ましく、9.5~10.5であることが更に好ましい。
なお、本開示において、アルカリ性溶液のpHは、25℃におけるアルカリ性溶液のpHであり、電極を浸漬してから30分経過後にpHメータを用いて測定する。pHメータとしては、堀場製作所社製のF-72又はこれと同程度の装置を使用することができる。
【0030】
---カチオン性ポリマー---
アルカリ性溶液は、カチオン性ポリマーを含有する。アルカリ性溶液は、カチオン性ポリマーを2種以上含有してもよい。
本開示において、「カチオン性ポリマー」とは、カチオン性基を有するポリマーを意味する。
本開示において、「カチオン性基」とは、カチオン基及びイオン化されてカチオン基となる基を包含する。
カチオン性基としては、第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基、第4級アンモニウム塩基、イミノ基等が挙げられる。
【0031】
カチオン性ポリマーは、水溶性であることが好ましい。なお、本開示において、「水溶性」とは、対象物質が25℃の水に対して1質量%以上溶解することを意味する。
【0032】
第1級~第3級アミノ基又は第1級~第3級アミノ基にイオン化されうるカチオン性基を有するカチオン性ポリマーとしては、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリヒスチジン、ポリオルニチン、ポリジアリルアミン、ポリメチルジアリルアミン、ポリエチレンイミン、ジアリルアミン-アクリルアミド重合物、ジメチルアミン-アンモニア-エピクロルヒドリン重合物、アリルアミン-ジアリルアミン重合物等が挙げられる。上記したカチオン性ポリマーは塩の状態であってもよく、塩酸塩等が挙げられる。
イミノ基又はイミノ基にイオン化されうるカチオン性基を有するカチオン性ポリマーとしては、ポリエチレンイミン等が挙げられる。
第4級アンモニウム塩基又は第4級アンモニウム塩基にイオン化されうるカチオン性基を有するカチオン性ポリマーとしては、ポリクオタニウム、ジメチルアミン-アンモニア-エピクロルヒドリン重合物、ジメチルアミン-エピクロルヒドリン重合物等が挙げられる。
本開示において「ポリクオタニウム」とは、第4級アンモニウム基を有するモノマーに由来する構成単位を含むカチオン性ポリマーをいう。ポリクオタニウムは、INCI(InternationalNomenclatureforCosmeticIngredients)directoryで確認できる。ポリクオタニウムとしては、一又は複数の実施形態において、ポリクオタニウム-6(poly(diallyldimethylammoniumchloride)、ポリクオタニウム-7(copolymerofacrylamideanddiallyldimethylammoniumchloride)、ポリクオタニウム-4(Diallyldimethylammoniumchloride-hydroxyethylcellulosecopolymer)、ポリクオタニウム-22(copolymerofacrylicacidanddiallyldimethylammoniumchloride)等のポリジアリルジメチルアンモニウム塩、及びポ
リクオタニウム-2(poly[bis(2-chloroethyl)ether-alt-1,3-bis[3-(dimethylamino)propyl]urea])等が挙げられる。
また、カチオン性ポリマーとしては、上記アンモニウム塩以外にも、一又は複数の実施形態において、ホスホニウム塩、オキソニウム塩、スルホニウム塩、フルオロニウム塩、クロロニウム塩等のオニウム塩のカチオンポリマーも利用できる。
ヒドラジド基又はヒドラジド基にイオン化されうるカチオン性基を有するカチオン性ポリマーとしては、アミノポリアクリルアミド等が挙げられる。
【0033】
分離時間を短縮する観点からは、カチオン性ポリマーの重量平均分子量は、10,000~500,000であることが好ましい。
本開示において、カチオン性ポリマーの重量平均分子量はカタログ値を参照する。重量平均分子量のカタログ値がない場合、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により測定されるポリエチレングリコール換算の重量平均分子量とする。
【0034】
分離時間を短縮する観点からは、アルカリ性溶液の総質量に対するカチオン性ポリマーの含有率は、0.5質量%~10質量%であることが好ましく、0.75質量%~5.0質量%であることがより好ましく、1.0質量%~3.0質量%であることが更に好ましい。
【0035】
カチオン性ポリマーは、従来公知の方法により合成したものを使用してもよく、市販されるものを使用してもよい。
【0036】
---水---
アルカリ性溶液は、水を含有してもよい。水としては、蒸留水、イオン交換水、純水、超純水等が挙げられる。
アルカリ性溶液の総質量に対する水の含有率は、特に限定されるものではなく、10質量%~99.9質量%とすることができる。
【0037】
---添加剤---
アルカリ性溶液は、非界面活性剤型の両イオン性物質、pH緩衝物質、微生物の繁殖等を抑制するための保存剤などの添加剤を含有してもよい。保存剤としては、例えば、アジ化ナトリウム、エチルパラベン、プロクリン等が挙げられる。
【0038】
-試料-
試料はHbA2を含有する。試料は、HbE、HbA、HbF、HbC、HbD、HbG、HbS等を含有してもよく、これらは、HbA2ピークよりも遅い時間に検出されるYピークを形成する。Yピークについては後述する。
【0039】
試料の総質量に対するHbの含有量の和は、特に限定されるものではなく、0.001質量%~100質量%とすることができる。
試料の形態は特に限定されるものではなく、試料原料を調製したものであってもよく、試料原料そのものであってもよい。
試料原料としては、Hbを含む原料、生体試料等が挙げられる。
生体試料としては、血液、赤血球成分等を含む血液由来物等が挙げられる。
血液は、生体から採取された血液が挙げられ、ヒト以外の哺乳類の血液、ヒトの血液等が挙げられる。
赤血球成分を含む血液由来物としては、血液から分離又は調製されたものであり、且つ赤血球成分を含むものが挙げられる。例えば、血漿が除かれた血球画分、血球濃縮物、血液又は血球の凍結乾燥物、全血を溶血処理した溶血試料、遠心分離血液、自然沈降血液、洗浄血球等が挙げられる。
【0040】
分離精度を向上する観点から、試料は、カチオン性ポリマーを含有するアルカリ性溶液を含有することが好ましい。
上記アルカリ性溶液を含有する試料は、上記アルカリ性溶液を用いて試料原料を希釈することにより得ることができる。希釈率は、質量基準で、1.2倍~100倍であることが好ましく、2倍~60倍であることがより好ましく、3倍~50倍であることが更に好ましい。希釈に使用する材料は特に限定されるものではなく、pH調整剤(例えば、塩酸等)、界面活性剤(例えば、エマルゲンLS-110(花王製)等)、防腐剤(例えば、アジ化ナトリウム等)、イオン強度調整剤(例えば、塩化ナトリウム等)、屈折率調整剤(例えば、スクロース等の糖類)などが挙げられる。
また、上記アルカリ性溶液は、キャピラリ流路に充填されるアルカリ性溶液と同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0041】
-検出工程-
Hbの検出は、分離されたHbに対し波長415~420nmの光を照射し、縦軸を吸光度、横軸を時間とする吸光度スペクトルを得ることにより行われる。
Hbの分離にキャピラリ電気泳動チップを使用する場合、波長415~420nmの光は、検出部に照射することが好ましい。
吸光度スペクトルは、アークレイ社製のザラボ001又はこれと同程度の装置を使用することにより得ることができる。
【0042】
上記した吸光度スペクトルの波形を時間について微分することによりエレクトロフェログラム(微分波形)を得ることができる。
【0043】
図1A及び図1Bを参照し、上記した分離及び検出の一実施形態を説明する。なお、分離及び検出は以下に説明する方法に限定されない。
【0044】
まず、キャピラリ電気泳動チップの泳動液保持槽3に、カチオン性ポリマーを含有するアルカリ性溶液を泳動液として充填し、毛細管現象によりアルカリ性溶液をキャピラリ流路1に充填する。
【0045】
次いで、アルカリ性溶液が充填されたキャピラリ電気泳動チップの試料保持槽2に試料を供給する。この供給は連続的に行われることが好ましい。
【0046】
試料保持槽2に供給する試料は、試料原料である全血を上記アルカリ性溶液により希釈することにより調製できる。
【0047】
試料保持槽2に負電極、泳動液保持槽3に正電極を接触させ(図示せず。)、キャピラリ流路1の両端、すなわち、試料保持槽2及び泳動液保持槽3との間に電圧を印加する。これにより、試料保持槽2からキャピラリ流路1に試料が導入され、Hbを含む試料が試料保持槽2から泳動液保持槽3に向かって移動するとともに、Hbの分離が行われる。
【0048】
そして、検出部4において、波長415~420nmの光を照射し、吸光度測定装置により、吸光度を測定することにより、Hbの検出を行う。
【0049】
(第2工程)
第2工程においては、HbA2ピークよりも早い時間に検出されるXピークの検出時間Txを特定する。一実施形態において、Xピークは、電気浸透流(EOF、electro-osmotic flow)に起因する。
また、一実施形態において、Xピークは、試料と泳動液との界面に起因する界面検出のシグナルであって、より詳細には、当該界面がキャピラリ流路1の検出部4の位置へ到達した時間(界面到達時間)に検出されるピークである。
Xピークは、試料に由来するピークのうち、HbA2ピークよりも早い時間に検出されるピークであってもよい。
また、Xピークは、試料以外に試料保持槽に追加されるマーカーに由来するピークであってもよい。マーカーは、415~420nmの波長域で光を吸収し、HbA2ピークよりも早い時間に検出されるような電荷を有するものであればよく、無機化合物であってもよく、有機化合物であってもよい。
Xピークの検出時間Txは、エレクトロフェログラムから特定することができる。
より具体的には、エレクトロフェログラムにおいて、最初に吸光度変化量が0.1mAbs/secを超えたピークをXピークとし、特開2020-30116号公報に記載の方法により、ピークのトップ及びボトムを決定する。以降のピークについても同様の方法によりピークのトップ及びボトムの決定を行う。
【0050】
(第3工程)
第3工程においては、HbA2ピークの検出時間を特定する。HbA2ピークの検出時間Ta2は、エレクトロフェログラムから特定することができる。
Xピークを起点として、最初に検出される面積比率(当該ピーク面積/総ピーク面積)が1%以上の大きさのピークをHbA2ピークとする。
【0051】
(第4工程)
第4工程においては、HbA2ピークよりも遅い時間に検出されるYピークの検出時間Tyを特定する。Yピークの検出時間Tyは、エレクトロフェログラムから特定することができる。
Xピークを起点として、2番目に検出される面積比率(当該ピーク面積/総ピーク面積)が10%以上の大きさのピークをYピークとする。
【0052】
(第5工程)
第5工程においては、Xピークの検出時間Tx、HbA2ピークの検出時間Ta2、並びにYピークの検出時間Tyの相対関係から、補正係数を算出する。
補正係数は、Tx、Ta2、Tyの3つの検出時間の相対的な関係を表す値であればよい。
補正係数は、HbA2ピークの検出時間Ta2及び電気浸透流(EOF、electro-osmotic flow)シグナルピーク(界面検出のシグナル)であるXピークの検出時間Txの差と、Yピークの検出時間Ty及びTxの差と、の比であることが好ましい。
具体的には、補正係数は、(Ty-Tx)/(Ta2-Tx)又は(Ta2-Tx)/(Ty-Tx)で表されることが好ましい。
なお、補正係数は、(Tx-Ta2)/(Ty-Ta2)、(Ty-Ta2)/(Tx-Ta2)、(Tx-Ty)/(Ta2-Ty)、(Ta2-Ty)/(Tx-Ty)等であってもよい。
なお、補正係数は上記例示に限定されるものではない。
補正係数の算出方法がいずれであっても、後述の第7工程で使用される補正係数、補正式、又は補正係数とは異なる予め定められた係数を調整すれば、HbA2ピーク面積の割合又はYピーク面積の割合を同じように補正することができる。
【0053】
(第6工程)
第6工程においては、エレクトロフェログラムにおいて、総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合又はYピーク面積の割合を算出する。
【0054】
(第7工程)
第7工程においては、補正係数によって、HbA2ピーク面積の割合又はYピーク面積の割合を補正する。
一実施形態において、上記補正は、補正係数、及び補正係数とは異なる予め定められた係数に基づいて行われる。
補正係数が(Ty-Tx)/(Ta2-Tx)又は(Ta2-Tx)/(Ty-Tx)で求められる場合、上記係数は、補正係数の値が1から離れるほど、小さくなる。
【0055】
一実施形態において、補正係数が、1.010以上、1.047未満の場合、下記式に、HbA2ピーク面積又はYピーク面積の割合、及び補正係数を代入し、補正値を求める。下記式において、予め定められた係数は、-90及び95.2である。
補正値(%)=HbA2ピーク面積又はYピーク面積の割合/(-90×補正係数+95.2)
【0056】
一実施形態において、補正係数が、1.047以上、1.207未満の場合、下記式に、HbA2ピーク面積又はYピーク面積の割合、及び補正係数を代入し、補正値を求める。下記式において、予め定められた係数は、-3.5及び5.43である。
補正値(%)=HbA2ピーク面積又はYピーク面積の割合/(-3.5×補正係数+5.43)
【0057】
一実施形態において、補正係数が、1.207以上、1.450未満の場合、下記式に、HbA2ピーク面積又はYピーク面積の割合、及び補正係数を代入し、補正値を求める。下記式において、予め定められた係数は、-2.5及び4.26である。
補正値(%)=HbA2ピーク面積又はYピーク面積の割合/(-2.5×補正係数+4.26)
【0058】
図2にエレクトロフェログラムを示す。
図2において、Xピークの検出時間をTx、HbA2ピークの検出時間をTa2、Yピークの検出時間をTyで示す。
【0059】
本分析方法は、異常Hb症、β-サラセミアの予防、診断及び治療等の用途に利用することができる。
【0060】
本開示は、以下の実施形態に関しうる。
<1> カチオン性ポリマーを含むアルカリ性水溶液を用いた、キャピラリ電気泳動によるヘモグロビンA2を含む試料の分析方法であって、以下の工程1)~7)を含む分析方法。
1)キャピラリ電気泳動により前記試料のエレクトロフェログラムを得る工程、
2)HbA2ピークよりも早い時間に検出されるXピークの検出時間Txを特定する工程、
3)HbA2ピークの検出時間Ta2を特定する工程、
4)HbA2ピークよりも遅い時間に検出されるYピークの検出時間Tyを特定する工程、
5)Xピークの検出時間Tx、HbA2ピークの検出時間Ta2、及びYピークの検出時間Tyの相対関係から、補正係数を算出する工程、
6)エレクトロフェログラムにおいて、総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合又はYピーク面積の割合を算出する工程、
7)前記補正係数によって、前記HbA2ピーク面積の割合又は前記Yピーク面積の割合を補正する工程。
<2> 前記補正係数が、(Ty-Tx)/(Ta2-Tx)又は(Ta2-Tx)/(Ty-Tx)で求められる、前記<1>に記載の分析方法。
<3> 前記HbA2ピーク面積又は前記Yピーク面積の割合の補正が、前記補正係数、及び前記補正係数とは異なる予め定められた係数に基づいて行われる、前記<1>又は<2>に記載の分析方法。
<4> 前記予め定められた係数が、前記補正係数の値に応じて変動する、前記<3>に記載の分析方法。
<5> 前記HbA2ピーク面積又は前記Yピーク面積の割合の補正が、前記補正係数、及び前記補正係数とは異なる予め定められた係数に基づいて行われ、前記補正係数の値が1から離れるほど、前記予め定められた係数が小さくなる、前記<2>に記載の分析方法。
<6> キャピラリ電気泳動がキャピラリ流路を備える装置を用いて行われ、
前記キャピラリ流路の内壁が、第4級アンモニウム塩基を含むカチオン性ポリマーで被覆されている、前記<1>~<5>のいずれか1つに記載の分析方法。
<7> 前記キャピラリ流路に前記試料が連続的に供給される、前記<6>に記載の分析方法。
【実施例0061】
以下に実施例について説明するが、本開示はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の説明において、特に断りのない限り、「部」及び「%」はすべて質量基準である。
【0062】
<分離デバイスと測定機器>
分離デバイスとしては、図1に示す構造のキャピラリ流路1を有する樹脂製のチップ(流路幅40μm、流路高さ40μm、流路長:30mm、試料保持槽2から検出部4までの距離(x)20mm)を用いた。試料保持槽2及び泳動液保持槽3の容量は10μLとした。キャピラリ流路の内壁は、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドで被覆した。
測定装置は、自社製の電気泳動装置を用いた。
【0063】
<<実施例1>>
下記の各物質を混合して、pHが9.8となるまで、水酸化ナトリウム及び水を加え、アルカリ性溶液(キャピラリ電気泳動用溶液)1を調製した。
(アルカリ性溶液1の組成)
・ジメチルアミン-アンモニア-エピクロルヒドリン重縮合物(カチオン性ポリマー、センカ製、ユニセンスKHE 1000L、重量平均分子量100,000~500,000) 1.5質量%
・アジ化ナトリウム 0.02質量%
・水酸化ナトリウム
・水
【0064】
健常者全血を、下記組成のアルカリ性溶液(pH8.8)により希釈する(希釈率41倍(質量基準))ことにより試料Aを得た。なお、塩酸及び水は、溶液のpHが8.8となるまで加えた。
(アルカリ性溶液の組成)
・ポリエチレンイミン(富士フイルム和光純薬製、重量平均分子量70,000) 1質量%
・エマルゲンLS-110(花王製) 0.4質量%
・アジ化ナトリウム 0.02質量%
・スクロース 7.87質量%
・塩化ナトリウム 0.26質量%
・塩酸
・水
【0065】
泳動液保持槽3にアルカリ性溶液1を9μL供給し、毛細管現象によりキャピラリ流路1内にアルカリ性溶液1を充填した。
【0066】
試料保持槽2に試料Aを9μL供給した。
次いで、試料保持槽2に負電極、泳動液保持槽3に正電極を接触させ、75μAの定電流制御にて電圧を印加して電気泳動を開始した。
【0067】
電気泳動が行われている間、検出部4に415nmの光を照射し、その吸光度を測定し、吸光度スペクトルを得た。吸光度スペクトルの波形を時間について微分することによりエレクトロフェログラムを得た。なお、電気泳動は90秒間行った。得られたエレクトロフェログラムを図2に示す。
なお、光の照射、吸光度の測定及びエレクトロフェログラムの取得には、アークレイ社製のザラボ001を使用した。
【0068】
エレクトロフェログラムから、Xピーク、HbA2ピーク、Yピークを特定し、各ピークの検出時間(Tx、Ta2、Ty)を特定した。
ここで、Xピーク=電気浸透流(EOF、electro-osmotic flow)シグナルピーク(界面検出のシグナル)、Yピーク=HbAピークである。
【0069】
補正係数Ryを下記式に基づいて、求めた。
Ry=(Ty-Tx)/(Ta2-Tx)
【0070】
エレクトロフェログラムにおいて、総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合A(%)を求めた。
補正係数Ryが、1.207以上、1.450未満に該当したため、総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Aを、下記式に基づいて、補正し、補正値A(%)を算出した。
補正値=総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合/(-2.5×Ry+4.26)
【0071】
総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合A(%)及び補正値Aの測定を160回行い、補正値Aの平均値(平均補正値A)及び標準偏差を表1に示す。
【0072】
<<実施例2>>
βサラセミア患者全血を、上記組成のアルカリ性溶液(pH8.8)により希釈する(希釈率41倍(質量基準))ことにより試料Bを得た。なお、塩酸及び水は、溶液のpHが8.8となるまで加えた。
【0073】
試料Aを試料Bに変更した以外は、実施例1と同様にして、平均補正値B(%)等を求めた。平均補正値B及び標準偏差を表1に示す。
【0074】
<<比較例1>>
実施例1において求めた総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Aの平均値(160回平均)、及び標準偏差を比較例1として、表1に示す。
【0075】
<<比較例2>>
実施例2において求めた総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Bの平均値(160回平均)、及び標準偏差を比較例2として、表1に示す。
【0076】
<<精密性評価>>
実施例1及び実施例2においては、標準偏差を、平均補正値A又は平均補正値Bにより除した後、100倍することにより、精密性(%)を求めた。結果を表1に示す。
比較例1及び比較例2においては、標準偏差を、総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合A又は割合Bの平均値(160回平均)により除した後、100倍することにより、精密性(%)を求めた。結果を表1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
<<実施例3>>
変異HbEキャリア全血を上記組成のアルカリ性溶液(pH8.8)により希釈する(希釈率41倍(質量基準))ことにより試料Cを得た。なお、塩酸及び水は、溶液のpHが8.8となるまで加えた。
【0079】
実施例1と同様の測定を1回行い、エレクトロフェログラムから、Xピーク、HbA2ピーク、Yピークを特定し、各ピークの検出時間(Tx、Ta2、Ty)を特定した。
ここで、Xピーク=電気浸透流(EOF、electro-osmotic flow)シグナルピーク(界面検出のシグナル)、Yピーク=HbEピークである。
【0080】
補正係数Ryを下記式に基づいて、求めた。
Ry=(Ty-Tx)/(Ta2-Tx)
【0081】
エレクトロフェログラムにおいて、総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合C(%)を求めた。
総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Cを、Ryにより下記式に基づいて、補正し、補正値C(%)を算出した。結果を表2に示す。
補正値=総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合/(-90×Ry+95.2)
【0082】
<<比較例3>>
実施例3において求めた総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合C(%)を比較例3として、表2に示す。
【0083】
<<正確性評価>>
対照法(Capillarys 2、Sebia社)により、試料Cについて、総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Z1(%)を求めた。
実施例3で求めた補正値C、及び総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Z1を下記式に代入し、誤差割合を算出した。結果を表2に示す。
誤差割合(%)=[|補正値C-総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Z1|/総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Z1]×100
【0084】
実施例3で求めた総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合C(%)、及び総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Z1を下記式に代入し、誤差割合を算出した。結果を表2に示す。
誤差割合(%)=[|総ピーク面積に対するHbEピーク面積の割合C(%)-総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Z1|/総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Z1]×100
【0085】
【表2】
【0086】
<<実施例4>>
変異HbCキャリア全血を上記組成のアルカリ性溶液(pH8.8)により希釈する(希釈率41倍(質量基準))ことにより試料Dを得た。なお、塩酸及び水は、溶液のpHが8.8となるまで加えた。
【0087】
実施例1と同様の測定を1回行い、エレクトロフェログラムから、Xピーク、HbA2ピーク、Yピークを特定し、各ピークの検出時間(Tx、Ta2、Ty)を特定した。
ここで、Xピーク=電気浸透流(EOF、electro-osmotic flow)シグナルピーク(界面検出のシグナル)、Yピーク=HbCピークである。
【0088】
補正係数Ryを下記式に基づいて、求めた。
Ry=(Ty-Tx)/(Ta2-Tx)
【0089】
エレクトロフェログラムにおいて、総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合D(%)を求めた。
総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Dを、Ryにより下記式に基づいて、補正し、補正値D(%)を算出した。結果を表3に示す。
補正値=総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合/(-3.5×Ry+5.43)
【0090】
<<比較例4>>
実施例4において求めた総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合D(%)を比較例4として、表3に示す。
【0091】
<<正確性評価>>
対照法(Capillarys 2、Sebia社)により、試料Dについて、総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Z2(%)を求めた。
実施例4で求めた補正値D、及び総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Z2を下記式に代入し、誤差割合を算出した。結果を表3に示す。
誤差割合(%)=[|補正値D-総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Z2|/総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Z2]×100
【0092】
実施例4で求めた総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合D(%)、及び総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Z2を下記式に代入し、誤差割合を算出した。結果を表3に示す。
誤差割合(%)=[|総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合D(%)-総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Z2|/総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Z2]×100
【0093】
【表3】
【0094】
<<実施例5>>
変異HbDキャリア全血を上記組成のアルカリ性溶液(pH8.8)により希釈する(希釈率41倍(質量基準))ことにより試料Eを得た。なお、塩酸及び水は、溶液のpHが8.8となるまで加えた。
【0095】
実施例1と同様の測定を1回行い、エレクトロフェログラムから、Xピーク、HbA2ピーク、Yピークを特定し、各ピークの検出時間(Tx、Ta2、Ty)を特定した。
ここで、Xピーク=電気浸透流(EOF、electro-osmotic flow)シグナルピーク(界面検出のシグナル)、Yピーク=HbDピークである。
【0096】
補正係数Ryを下記式に基づいて、求めた。
Ry=(Ty-Tx)/(Ta2-Tx)
【0097】
エレクトロフェログラムにおいて、総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合E(%)を求めた。
総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Eを、Ryにより下記式に基づいて、補正し、補正値E(%)を算出した。結果を表4に示す。
補正値=総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合/(-3.5×Ry+5.43)
【0098】
<<比較例5>>
実施例5において求めた総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合E(%)を比較例5として、表4に示す。
【0099】
<<正確性評価>>
対照法(Capillarys 2、Sebia社)により、試料Eのエレクトロフェログラムにおいて、総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Z3(%)を求めた。
実施例5で求めた補正値E、及び総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Z3を下記式に代入し、誤差割合を算出した。結果を表4に示す。
誤差割合(%)=[|補正値E-総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Z3|/総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Z3]×100
【0100】
実施例5で求めた総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合E(%)、及び総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Z3を下記式に代入し、誤差割合を算出した。結果を表4に示す。
誤差割合(%)=[|総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合E(%)-総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Z3|/総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Z3]×100
【0101】
【表4】
【0102】
<<実施例6>>
変異HbSキャリア全血を上記組成のアルカリ性溶液(pH8.8)により希釈する(希釈率41倍(質量基準))ことにより試料Fを得た。なお、塩酸及び水は、溶液のpHが8.8となるまで加えた。
【0103】
実施例1と同様の測定を1回行い、エレクトロフェログラムから、Xピーク、HbA2ピーク、Yピークを特定し、各ピークの検出時間(Tx、Ta2、Ty)を特定した。
ここで、Xピーク=電気浸透流(EOF、electro-osmotic flow)シグナルピーク(界面検出のシグナル)、Yピーク=HbSピークである。
【0104】
補正係数Ryを下記式に基づいて、求めた。
Ry=(Ty-Tx)/(Ta2-Tx)
【0105】
エレクトロフェログラムにおいて、総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合F(%)を求めた。
総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Fを、Ryにより下記式に基づいて、補正し、補正値F(%)を算出した。結果を表5に示す。
補正値=総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合/(-3.5×Ry+5.43)
【0106】
<<比較例6>>
実施例6において求めた総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合F(%)を比較例6として、表5に示す。
【0107】
<<正確性評価>>
対照法(Capillarys 2、Sebia社)により、試料Fのエレクトロフェログラムにおいて、総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Z4(%)を求めた。
実施例6で求めた補正値F、及び総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Z4を下記式に代入し、誤差割合を算出した。結果を表5に示す。
誤差割合(%)=[|補正値F-総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Z4|/総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Z4]×100
【0108】
実施例6で求めた総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合F(%)、及び総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Z4を下記式に代入し、誤差割合を算出した。結果を表5に示す。
誤差割合(%)=[|総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合F(%)-総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Z4|/総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Z4]×100
【0109】
【表5】
【0110】
<<実施例7>>
実施例1とは別の健常者全血を上記組成のアルカリ性溶液(pH8.8)により希釈する(希釈率41倍(質量基準))ことにより試料Gを得た。なお、塩酸及び水は、溶液のpHが8.8となるまで加えた。
【0111】
実施例1と同様の測定を1回行い、エレクトロフェログラムから、Xピーク、HbA2ピーク、Yピークを特定し、各ピークの検出時間(Tx、Ta2、Ty)を特定した。
ここで、Xピーク=電気浸透流(EOF、electro-osmotic flow)シグナルピーク(界面検出のシグナル)、Yピーク=HbAピークである。
【0112】
補正係数Ryを下記式に基づいて、求めた。
Ry=(Ty-Tx)/(Ta2-Tx)
【0113】
エレクトロフェログラムにおいて、総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合G(%)を求めた。
総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Gを、Ryにより下記式に基づいて、補正し、補正値G(%)を算出した。結果を表6に示す。
補正値=総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合/(-2.5×Ry+4.26)
【0114】
<<比較例7>>
実施例7において求めた総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合G(%)を比較例7として、表6に示す。
【0115】
<<正確性評価>>
対照法(Capillarys 2、Sebia社)により、試料Gのエレクトロフェログラムにおいて、総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Z5(%)を求めた。
実施例7で求めた補正値G、及び総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Z5を下記式に代入し、誤差割合を算出した。結果を表6に示す。
誤差割合(%)=[|補正値G-総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Z5|/総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Z5]×100
【0116】
実施例7で求めた総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合G(%)、及び総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Z5を下記式に代入し、誤差割合を算出した。結果を表6に示す。
誤差割合(%)=[|総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合G(%)-総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Z5|/総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Z5]×100
【0117】
【表6】
【0118】
<<実施例8>>
βサラセミア患者全血を上記組成のアルカリ性溶液(pH8.8)により希釈する(希釈率41倍(質量基準))ことにより試料Hを得た。なお、塩酸及び水は、溶液のpHが8.8となるまで加えた。
【0119】
実施例1と同様の測定を1回行い、エレクトロフェログラムから、Xピーク、HbA2ピーク、Yピークを特定し、各ピークの検出時間(Tx、Ta2、Ty)を特定した。
ここで、Xピーク=電気浸透流(EOF、electro-osmotic flow)シグナルピーク(界面検出のシグナル)、Yピーク=HbAピークである。
【0120】
補正係数Ryを下記式に基づいて、求めた。
Ry=(Ty-Tx)/(Ta2-Tx)
【0121】
エレクトロフェログラムにおいて、総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合H(%)を求めた。
総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Hを、Ryにより下記式に基づいて、補正し、補正値H(%)を算出した。結果を表7に示す。
補正値=総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合/(-2.5×Ry+4.26)
【0122】
<<比較例8>>
実施例8において求めた総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合H(%)を比較例8として、表7に示す。
【0123】
<<正確性評価>>
対照法(Capillarys 2、Sebia社)により、試料Hのエレクトロフェログラムにおいて、総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Z6(%)を求めた。
実施例8で求めた補正値H、及び総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Z6を下記式に代入し、誤差割合を算出した。結果を表7に示す。
誤差割合(%)=[|補正値H-総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Z6|/総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Z6]×100
【0124】
実施例8で求めた総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合H(%)、及び総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Z6を下記式に代入し、誤差割合を算出した。結果を表7に示す。
誤差割合(%)=[|総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合H(%)-総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Z6|/総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積の割合Z6]×100
【0125】
【表7】
【0126】
上記実施例及び比較例から、本分析方法によれば、優れた精密性及び正確性で、総ピーク面積に対するHbA2ピーク面積等の割合を算出することができることがわかる。
【符号の説明】
【0127】
1:キャピラリ流路、2:試料保持槽、3:泳動液保持槽、4:検出部、Tx:Xピークの検出時間、Ta2:HbA2ピークの検出時間、Ty:Yピークの検出時間
図1
図2