(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065050
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】積層フィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20240507BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20240507BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20240507BHJP
G02B 1/14 20150101ALI20240507BHJP
【FI】
B32B27/36
B32B7/023
G02B5/30
G02B1/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023182943
(22)【出願日】2023-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2022172988
(32)【優先日】2022-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 麻由
(72)【発明者】
【氏名】石田 洋一
(72)【発明者】
【氏名】相崎 元希
(72)【発明者】
【氏名】加藤 岬
【テーマコード(参考)】
2H149
2K009
4F100
【Fターム(参考)】
2H149AA01
2H149AB11
2H149AB24
2H149CA02
2H149FA12X
2H149FB08
2H149FC03
2H149FD09
2H149FD25
2H149FD35
2H149FD47
2K009AA15
2K009CC24
2K009DD02
4F100AK41B
4F100AK41J
4F100AK42A
4F100AL01B
4F100AT00
4F100BA02A
4F100BA02B
4F100BA08
4F100BA15
4F100BA16A
4F100BA16B
4F100EJ942
4F100GB48
4F100JK17
4F100JN01
4F100YY00
(57)【要約】
【課題】本発明は、画面に適用したときの視認性に優れ、耐屈曲性に優れたフィルムを提供することを課題とする。
【解決手段】異なる複数の熱可塑性樹脂層が51層以上1001層以下積層された積層フィルムであって、前記積層フィルムの長手方向と幅方向のヤング率の平均値が4.0GPa以上5.5GPa以下であり、前記積層フィルムの厚みが10μm以上30μm未満であり、前記積層フィルムを透過する透過光のb*値が5以上50以下である、積層フィルムを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる複数の熱可塑性樹脂層が51層以上1001層以下積層された積層フィルムであって、前記積層フィルムの長手方向と幅方向のヤング率の平均値が4.0GPa以上5.5GPa以下であり、前記積層フィルムの厚みが10μm以上30μm未満であり、前記積層フィルムを透過する透過光のb*値が5以上50以下である、積層フィルム。
【請求項2】
前記積層フィルムを透過する透過光の波長440nmから470nmまでの帯域における平均透過率が55%以上85%以下である、請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
前記異なる複数の熱可塑性樹脂層の相対的に結晶性の高い熱可塑性樹脂層をA層、相対的に結晶性の低い熱可塑性樹脂層をB層としたときに、前記A層と前記B層が交互に積層され、前記積層フィルムの両面の最表層が前記A層であり、積層フィルムの厚みを100%としたときに、前記最表層に位置するA層の合計厚みが10%以上40%以下である、請求項1または2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
前記積層フィルムは下記の耐屈曲性試験後の回復角度が158度以上180度以下である、請求項1または2に記載の積層フィルム。
<耐屈曲性試験>積層フィルムの長さ方向中央に1mm幅の底面を設けて、積層フィルムの両側の面を前記底面に対して90度に折り曲げて、その後に0度に戻し平面に広げる。折り曲げ曲率半径は1.0mmとする。折り曲げて広げる動作を常温で20万回繰り返した後、積層フィルムを広げた状態で静置する。積層フィルムの長さ方向中央を頂点とする折れ曲がり角度を測定する。試験前の積層フィルム平面を180度とし、試験後の折れ曲がり角度を回復角度とする。
【請求項5】
前記積層フィルムの長手方向の厚みばらつきが1.5%以下である請求項1または2に記載の積層フィルム。
【請求項6】
前記A層が結晶性のポリエチレンテレフタレートを50質量%を超え100質量%以下の割合で含み、前記B層が非晶性の共重合ポリエステルを含む、請求項3に記載の積層フィルム。
【請求項7】
前記B層の非晶性の共重合ポリエステルにおいて、共重合成分がイソソルベート、スピログリコール、およびシクロヘキサンジメタノールから選択される少なくとも1つを含む、請求項6に記載の積層フィルム。
【請求項8】
前記B層が、前記非晶性の共重合ポリエステルを10質量%以上50質量%未満の割合で含む、請求項6に記載の積層フィルム。
【請求項9】
請求項1または2に記載の積層フィルムがコアに巻かれた積層フィルムのロール体であって、長さ方向の50mの厚みばらつきが1.5%以下である積層フィルムロール。
【請求項10】
請求項1または2に記載の積層フィルムを備える表示画面保護フィルム。
【請求項11】
請求項1または2に記載の積層フィルムの少なくとも一方の表面にハードコート層を有することを特徴とする、積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画面に適用したときの視認性と耐屈曲性に優れたフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
最近の研究により、可視光領域の中でも大きなエネルギーを有する青色波長光(ブルーライト)は、人間の眼に有害である可能性が示唆されている。一方、スマートフォンやタブレット式パソコンに使用されるLEDディスプレイが発する光には、ブルーライト波長域での強い発光を示すという特徴を持つ。このような背景から、LEDディスプレイから発せられるブルーライトを軽減する機能を有するブルーライトカットフィルムが求められている。ブルーライトカットフィルムは、LEDディスプレイ等の画面において、LED光源とは反対側に配置され、LED光源から発せられた光を透過させ、外部へ発せられるブルーライトを低減するのが一般的である。
【0003】
また近年では、スマートフォンやタブレット式パソコンの中でもディスプレイの一部が屈曲することができるフレキシブルなディスプレイが注目されている。かかる状況においてブルーライトカットフィルムの要求も高度化してきており、十分にブルーライトをカットしつつ、フレキシブルなディスプレイに対しても、繰り返しの折り曲げ使用に対して実用的に問題なく使用できるフィルムが求められている。
【0004】
特許文献1には干渉反射によりブルーライトをカットする機能を有するフィルムが開示されている。特許文献2には干渉反射により紫外線領域の光をカットする機能を有するフィルムが開示されている。また、ブルーライトカットフィルムではないが、特許文献3には繰り返しの折り曲げ耐性に優れるハードコート層を有するハードコートフィルムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-27746号公報
【特許文献2】国際公開第2016/080342号
【特許文献3】特開2022-115882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1や2が開示する有機材料を交互に数10層以上積層して干渉反射により紫外線領域やブルーライトをカットするフィルムでは、紫外線領域やブルーライトを選択的にカットすることができるものの、繰り返しの折り曲げ耐性には優れておらず、フィルムが屈曲したり割れたりするなどの不具合が発生することがあった。そのため、繰り返しの折り曲げ使用を想定したフレキシブルなディスプレイの画面保護フィルムには適していないといった課題がある。
【0007】
また、特許文献3が開示する繰り返しの折り曲げ耐性に優れるハードコートフィルムは、ハードコートの材料を改良することにより、繰り返し折りの曲げ使用時の耐久性を高める技術は開示しているものの、フィルムにハードコート層を付与するためにコストが増加したり、ディスプレイ等に使用した際にブルーライトを低減する機能が十分でなかったり、表示画面の視認性が悪化するという課題がある。
【0008】
本発明はかかる従来技術の欠点を改良し、表示装置の画面に適用したときの視認性に優れ、耐屈曲性に優れたフィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、下記の構成からなる。すなわち、
(1)異なる複数の熱可塑性樹脂層が51層以上1001層以下積層された積層フィルムであって、前記積層フィルムの長手方向と幅方向のヤング率の平均値が4.0GPa以上5.5GPa以下であり、前記積層フィルムの厚みが10μm以上30μm未満であり、前記積層フィルムを透過する透過光のb*値が5以上50以下である、積層フィルムである。
(2)前記積層フィルムを透過する透過光の波長440nmから470nmまでの帯域における平均透過率が55%以上85%以下である、(1)に記載の積層フィルムである。
(3)前記異なる複数の熱可塑性樹脂層の相対的に結晶性の高い熱可塑性樹脂層をA層、相対的に結晶性の低い熱可塑性樹脂層をB層としたときに、前記A層と前記B層が交互に積層され、前記積層フィルムの両面の最表層が前記A層であり、積層フィルムの厚みを100%としたときに、前記最表層に位置するA層の合計厚みが10%以上40%以下である、(1)または(2)に記載の積層フィルムである。
(4)前記積層フィルムは下記の耐屈曲性試験後の回復角度が158度以上180度以下である、(1)~(3)のいずれかに記載の積層フィルムである。
<耐屈曲性試験>積層フィルムの長さ方向中央に1mm幅の底面を設けて、積層フィルムの両側の面を前記底面に対して90度に折り曲げて、その後に0度に戻し平面に広げる。折り曲げ曲率半径は1.0mmとする。折り曲げて広げる動作を常温で20万回繰り返した後、積層フィルムを広げた状態で静置する。積層フィルムの長さ方向中央を頂点とする折れ曲がり角度を測定する。試験前の積層フィルム平面を180度とし、試験後の折れ曲がり角度を回復角度とする。
(5)前記積層フィルムの長手方向の厚みばらつきが1.5%以下である(1)~(4)のいずれかに記載の積層フィルムである。
(6)前記A層が結晶性のポリエチレンテレフタレートを50質量%を超え100質量%以下の割合で含み、前記B層が非晶性の共重合ポリエステルを含む、(3)~(5)のいずれかに記載の積層フィルムである。
(7)前記B層の非晶性の共重合ポリエステルにおいて、共重合成分がイソソルベート、スピログリコール、およびシクロヘキサンジメタノールから選択される少なくとも1つを含む、(6)に記載の積層フィルムである。
(8)前記B層が、前記非晶性の共重合ポリエステルを10質量%以上50質量%未満の割合で含む、(6)または(7)に記載の積層フィルムである。
(9)(1)~(8)のいずれかに記載の積層フィルムがコアにまかれた積層フィルムのロール体であって、長さ方向の50mの厚みのばらつきが1.5%以下である積層フィルムロールである。
(10)(1)~(8)のいずれかに記載の積層フィルムを備える表示画面保護フィルムである。
(11)(1)~(8)のいずれかに記載の積層フィルムの少なくとも一方の表面にハードコート層を有することを特徴とする積層体である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の積層フィルムは、ディスプレイ等に使用した際にLED光源から発せられるブルーライトを低減することができ、かつ繰り返し折り曲げて使用しても折りぐせや割れなどの不具合の発生が抑制される。すなわち、表示画面に適用したときの視認性に優れ、耐屈曲性に優れた積層フィルムを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の積層フィルムについて具体的に説明する。本発明の積層フィルムは、異なる複数の熱可塑性樹脂層の数が51層以上1001層以下積層された積層フィルムであって、長手方向と幅方向のヤング率の平均値が4.0GPa以上5.5GPa以下であり、フィルムの厚みが10μm以上30μm未満であり、透過光のb*値が5以上50以下である。ここで「フィルム」とは熱可塑性樹脂を主成分とするシート状の成形体をいい、主成分とは全構成成分中に50質量%を超えて100質量%以下含まれる成分をいう。
【0012】
本発明の積層フィルムは、少なくとも2つ以上の異なる光学的性質を有する熱可塑性樹脂層が交互に51層以上1001層以下に積層されてなる積層フィルムである。ここでいう「異なる光学的性質」とは、積層フィルムの面内で任意に選択される直交する2方向および該面に垂直な方向のいずれかにおいて、屈折率が0.01以上異なることをいう。また、ここでいう交互に積層されてなるとは、厚み方向に規則的な配列で積層されていることをいい、例えば各層がそれぞれ異なる光学的性質を有する2つの熱可塑性樹脂層(A層、B層)からなる場合、A(BA)n(nは繰り返し単位を表す自然数)の規則的な配列で積層されたものである。このように光学的性質の異なる熱可塑性樹脂層が交互に積層されることにより、各層の屈折率の差と層厚みとの関係より設計した波長の光を反射させることができる干渉反射を発現させることが可能となる。
【0013】
本発明の積層フィルムは、ディスプレイ等に適用したときの視認性の観点から、積層フィルムの透過光のb*値が5以上50以下であることが重要である。積層フィルムの透過光のb*値は、透過光で見た際の積層フィルム自体の黄色味の程度に大きく影響する。積層フィルムの透過光のb*値が50以下であることにより、透過光で見た際の積層フィルム自体の黄色味が抑えられる。そのため、LEDディスプレイの保護フィルムに用いた際のディスプレイの黄色味掛かりが軽減され、表示画面の視認性が向上する。すなわち、積層フィルムの透過光のb*値を50以下とすることにより、透過光で見た際の積層フィルムの黄色味を抑え、LEDディスプレイの保護フィルムとして用いた際にディスプレイ表示画面の視認性を高く保つことができる。上記観点から、積層フィルムを透過した透過光のb*値は低いほど良く、好ましくは40以下、より好ましくは30以下、さらに好ましくは20以下である。なお、b*値は公知の分光測色計により測定することができ、その詳細は後述する。
【0014】
積層フィルムの透過光のb*値が低いほど、透過光で見た際の積層フィルム自体の黄色味が抑えられ、LEDディスプレイの保護フィルムに用いた際に表示画面の視認性が良化するが、積層フィルムの透過光のb*値が過度に低くなると、積層フィルムで反射した反射光で見た際の積層フィルム自体の青色味も小さくなる。積層フィルムの透過光のb*値の平均値を5以上とすることにより、例えば積層フィルムをLEDディスプレイの保護フィルムに用いた際に、ディスプレイの電源が入っていない状態で青色を呈し、美しい外観を実現することができる。上記観点から、積層フィルムの透過光のb*値は好ましくは8以上、より好ましくは11以上、さらに好ましくは14以上である。
【0015】
積層フィルムの透過光のb*値を上記の範囲とする方法は、特に限定されるものではないが、例えば後述の積層フィルムの構成、及び製造方法を採用する方法が挙げられ、詳しくは後述する。
【0016】
本発明の積層フィルムの厚みは、繰り返しの折り曲げ使用時の耐屈曲性の観点から、10μm以上30μm未満であることが重要である。フレキシブルなディスプレイの画面保護フィルムとして用いた場合、繰り返して折り曲げたり、長時間折り曲げた状態で保持する使用状態となる。その際に積層フィルムの厚みが厚すぎると、折り曲げた部位で変形跡がついたり、クラックが発生したりして、表示画面の視認性が低下するおそれがある。そのため、耐屈曲性をさらに高めるという観点から厚みは28μm以下であることがより好ましく、26μm以下であることがさらに好ましく、24μm以下が特に好ましい。なお、積層フィルムの厚みは、公知のダイヤルゲージ式厚み計により測定することができ、その詳細は後述する。
【0017】
また、積層フィルムの厚みが薄くなるほど、繰り返して折り曲げたり、長時間折り曲げた状態で保持した場合に折り曲げた部位でクラックは発生しにくく、有利である一方で、フィルム自体が伸びたり、変形が発生したりして、表示画面の視認性が低下するおそれがある。また、積層フィルムの厚みが薄くなるほど、全体の厚みとしての積層の各層厚みや積層数を保持することが難しくなり、可視光領域における透明性を維持しつつ、前述の好ましいブルーライトカット性能や好ましい透過光のb*値を得ることが難しくなる。そのため、好ましいブルーライトカット性能、好まし透過光のb*値を維持しつつ、耐屈曲性をさらに高めるという観点から、厚みは13μm以上であることがより好ましく、16μm以上であることがさらに好ましく、19μm以上であることが特に好ましい。
【0018】
長手方向および積層フィルムの長さ方向の厚みのばらつきについては、厚みは積層フィルムの反射特性および透過特性に影響するため、厚みのばらつきが大きいとフィルムの色調にムラが発生する。よって、積層フィルムの厚みのばらつきを1.5%以下に小さくすることが好ましい。
【0019】
ここで、耐屈曲性を高める観点では積層フィルムの厚みは薄い方が好ましいが、積層フィルムにおいては層数の制限や各層の厚みが小さく制限される。このため、積層フィルムの剛性が低下し、応力を加えた時に変形しやすくなる。そこで、積層フィルムのヤング率を大きくすることで、積層フィルム自体の伸びや、元に戻らない変形が発生することを抑制することができる。また、積層フィルムの表面の剛性を高くすることでキズなどの耐性も向上する効果が得られる。すなわち、積層フィルムの厚みが小さいと表示画面の視認性が低下するおそれがあるが、積層フィルムのヤング率を大きくすることで視認性低下を抑制することができる。しかしながら、異なる複数の熱可塑性樹脂が51層以上1001層以下積層された積層フィルムにおいて、各層の屈折率の差を発現させるため、ヤング率は小さくなる傾向がある。そこで、長手方向と幅方向のヤング率の平均値が4.0GPa以上5.5GPa以下の積層フィルムを完成し、本発明をなすに至った。まず、積層フィルムの層数や各層の構成について述べる。
【0020】
<積層フィルムについて>
本発明の積層フィルムは、繰り返しの折り曲げ使用時の耐屈曲性を有し、高い透明性を維持しつつ、透過光のb*値を上述の好ましい範囲に調整するという観点から、熱可塑性樹脂層の数が51層以上1001層以下積層されており、光学的性質の異なる熱可塑性樹脂層が交互に積層されることにより、各層の屈折率の差と層厚みとの関係より設計した波長の光を反射させることができる干渉反射を発現させることが可能となる。
【0021】
また、積層する層数が51層以上であることにより、ブルーライトカット領域において十分な帯域に渡り高い反射率を実現でき、十分なブルーライトカット性能、好ましい透過光のb*値を得ることができる。上記をさらに改良するという観点から101層以上が好ましく。201層以上がさらに好ましい。前述の干渉反射は、層数が増えるほどより広い波長帯域の光に対して十分な反射率を達成できるようになる。また、層数が増えるに従い製造装置の大型化に伴う製造コストの増加や、積層フィルムが厚くなることによるハンドリング性の悪化が生じ、特に積層フィルムが厚くなることは後加工工程での工程不良の原因ともなりうる。また、フレキシブルなディスプレイの画面保護フィルムとして用いて、繰り返し折り曲げたり使用した場合、折り曲げた部位でクラックが発生したりして、表示画面の視認性が低下するおそれがある。そのため、現実的には1001層程度が上限となり、601層以下が好ましく、501層以下がさらに好ましく、401層以下が特に好ましく、301層以下が最も好ましい。
【0022】
本発明の積層フィルムに用いる熱可塑性樹脂については、異なる複数の熱可塑性樹脂はそれぞれが熱可塑性樹脂であり、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4-メチルペンテン-1)、ポリアセタールなどの鎖状ポリオレフィン、ノルボルネン類の開環メタセシス重合、付加重合、他のオレフィン類との付加共重合体である脂環族ポリオレフィン、ポリ乳酸、ポリブチルサクシネートなどの生分解性ポリマー、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66などのポリアミド、アラミド、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、エチレン酢酸ビニルコポリマー、ポリアセタール、ポリグルコール酸、ポリスチレン、スチレン共重合ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレートなどのポリエステル、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアリレート、4フッ化エチレン樹脂、3フッ化エチレン樹脂、3フッ化塩化エチレン樹脂、4フッ化エチレン-6フッ化プロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデンなどが挙げられる。この中で、強度・耐熱性・透明性および汎用性の観点から、特にポリエステル樹脂を用いることがより好ましい。これらは、共重合体であっても、複数成分の混合物であってもよい。
【0023】
このポリエステル樹脂としては、芳香族ジカルボン酸または脂肪族ジカルボン酸とジオールを主たる構成成分とする単量体の重合により得られるポリエステル樹脂が好ましい。ここで、芳香族ジカルボン酸として、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸などを挙げることができる。脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ドデカンジオン酸、シクロヘキサンジカルボン酸とそれらのエステル誘導体などが挙げられる。中でも高い屈折率を発現するテレフタル酸と2,6-ナフタレンジカルボン酸が好ましい。これらの酸成分は1種のみ用いてもよく、2種以上併用してもよく、さらには、ヒドロキシ安息香酸等のオキシ酸などを一部共重合してもよい。
【0024】
また、ジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、2,2-ビス(4-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、イソソルベート、スピログリコールなどを挙げることができる。中でもエチレングリコールが好ましく用いられる。これらのジオール成分は1種のみ用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0025】
本発明の積層フィルムにおける熱可塑性樹脂としては、例えば、上記ポリエステル樹脂のうち、ポリエチレンテレフタレートおよびその重合体、ポリエチレンナフタレートおよびその共重合体、ポリブチレンテレフタレートおよびその共重合体、ポリブチレンナフタレートおよびその共重合体、さらにはポリヘキサメチレンテレフタレートおよびその共重合体、ポリヘキサメチレンナフタレートおよびその共重合体などを用いることが好ましい。
【0026】
本発明の積層フィルムに用いる異なる光学的性質を有する熱可塑性樹脂のうち、少なくとも隣接する2つの熱可塑性樹脂層の面内平均屈折率の差が0.03以上であることが好ましい。面内平均屈折率の差が0.03以上であることにより、十分な反射率が得られ、高いブルーライトカット性能を実現できる。少なくとも2つの熱可塑性樹脂層の面内平均屈折率の差を0.03以上とする方法としては、例えば、層中に占める結晶性の熱可塑性樹脂の量が異なる2種類の層を有する態様とする方法である。より具体的には、一方の層を結晶性の熱可塑性樹脂を主成分とする層とし、もう一方の層を非晶性の熱可塑性樹脂を主成分とする態様が挙げられる。また、別の態様としては、両方とも結晶性の熱可塑性樹脂を主成分とする層とし、各層における非晶性の熱可塑性樹脂量に差を持たせる態様が挙げられる。このような態様とした場合、フィルムの製造における延伸、熱処理工程において屈折率差を設けることが可能となる。
【0027】
上記の条件を満たすための樹脂の組合せの一例として、積層フィルムに用いる少なくとも一つの熱可塑性樹脂がポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンナフタレートを含んでなることが好ましい。当該熱可塑性樹脂は、単一成分で構成されていてもよいし、少量の他の繰り返し単位が共重合されていても、あるいは、少量の他のポリエステル樹脂がブレンドされたものであってもよい。なお、少なくとも一つの熱可塑性樹脂、特に非晶性の熱可塑性樹脂がイソソルベート、スピログリコール、シクロヘキサンジメタノールから選択される少なくとも1つを含んでなることがより好ましく、シクロヘキサンジメタノールを含んでなるポリエステルであることが特に好ましい。
【0028】
シクロヘキサンジメタノールを含んでなるポリエステルとは、シクロヘキサンジメタノールを共重合したポリエステルのことをいう。シクロヘキサンジメタノールを含んでなるポリエステルは、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートとのガラス転移温度差が小さいため、成形時に過度に延伸されにくく、かつ層間が剥離しにくいために好ましい。より好ましくは、少なくともひとつの熱可塑性樹脂がシクロヘキサンジメタノールの共重合量が15mol%以上60mol%以下であるエチレンテレフタレート重縮合体である。このようにすることにより、繰り返しの折り曲げ使用時の耐屈曲性を有しながら、層間での剥離も生じにくくなる。また、シクロヘキサンジメタノールの共重合量が15mol%以上60mol%以下であるエチレンテレフタレート重縮合体は、エチレンテレフタレート骨格を有するためにポリエチレンテレフタレートと非常に強く接着する。また、そのシクロヘキサンジメタノール基は幾何異性体としてシス体あるいはトランス体があり、また配座異性体としてイス型あるいはボート型があるので、ポリエチレンテレフタレートと共延伸しても配向結晶化しにくく、繰り返しの折り曲げ使用時の耐屈曲性を有しつつ、製膜時の破れも軽減できる。
【0029】
また、本発明の積層フィルムが、例えば熱可塑性樹脂を有する層(A層)と、A層とは異なる光学的性質を有する熱可塑性樹脂からなる層(B層)が交互に積層されてなる場合には、A層を構成する熱可塑性樹脂の少なくとも1種が結晶性ポリエステル(以下結晶性ポリエステルαと記載する)であり、B層が非晶性ポリエステル(以下非晶性ポリエステルβと記載する)と結晶性ポリエステルαを含むことが好ましい。ここでいう結晶性とは、後述の示差走査熱量測定(DSC)において、融解熱量が20J/g以上であることをいう。一方、非晶性とは、同様に融解熱量が5J/g以下であることをいう。本発明では融解熱量が20J/g以上を結晶性、融解熱量が5J/g以下を非晶性とするが、結晶性と非晶性の間には半結晶性が存在する。なお、ポリエステルを代表して説明するために、結晶性ポリエステルαと非晶性ポリエステルβを用いて説明しているが、熱可塑性樹脂であれば適用が可能である。
【0030】
B層において非晶性ポリエステルβと結晶性ポリエステルαを混合して用いる場合には、結晶性ポリエステルα中に非晶性ポリエステルβが微分散したアロイ状態、もしくは非晶性ポリエステルβ中に結晶性ポリエステルαが微分散したアロイ状態を形成する。ここでいうアロイ状態とは、混合した非晶性ポリエステルβと結晶性ポリエステルαとが完全に相溶していない状態をさし、例えば、フィルムの断面観察において、10nm以上の非晶性もしくは結晶性ポリエステルのドメインを確認できる場合、若しくはDSC測定において、非晶性ポリエステルβと結晶性ポリエステルαに由来するガラス転移や結晶化・融解ピークを観測できる状態を指す。このようにアロイ状態を形成することで、延伸工程で配向が生じにくくガラス転移温度以上で配向が緩和する非晶性ポリエステルβが熱処理温度によらず非晶性の状態を保持するため、A層に用いる結晶性ポリエステルαとの十分な屈折率差を付与でき、高い透明性を維持しつつ、透過光のb*値を上述の好ましい範囲に調整することができる。
【0031】
本発明の積層フィルムにおいて、透過光のb*値を好ましい範囲に制御する観点から、非晶性の熱可塑性樹脂を10質量%以上50質量%未満の割合で含有する層を有することが好ましい。このような態様の具体例としては、前述したA層とB層を有する構成において、B層の10質量%以上50質量%未満を非晶性ポリエステルβが占める態様が挙げられる。
【0032】
B層における非晶性ポリエステルβの割合が10質量%以上であることにより、A層の結晶性ポリエステルαと十分な屈折率差が確保され、透過光のb*値が過度に低くならず、反射光で見た際のフィルム自体の青色味の色付きを実現できる。一方、B層における非晶性ポリエステルβの割合が50質量%未満であることにより、A層の結晶性ポリエステルαとの屈折率差が過度に大きくならず、透過光のb*値の過剰な上昇も抑えられ、透過光で見た際の黄色味が軽減されるため優れた色調のフィルムが得られる。また、積層フィルムのヤング率の過度な低下も抑制され、耐屈曲性も維持することができる。
【0033】
透過光のb*値を好ましい範囲に制御する観点から、B層に非晶性ポリエステルβの量が20質量%以上49質量%以下であることがより好ましく、30質量%以上47質量%以下であることがさらに好ましく、35質量%以上45質量%以下であることが特に好ましい。
【0034】
本発明の積層フィルムは、繰り返しの折り曲げ使用時の耐屈曲性の観点から、長手方向と幅方向のヤング率の平均値が4.0GPa以上5.5GPa以下であることが重要である。フレキシブルなディスプレイの画面保護フィルムとして用いた場合、繰り返し折り曲げたり、長時間折り曲げた状態で保持する使用状態となるが、その際に積層フィルムのヤング率が5.5GPaを超えると、積層フィルムの剛直性が上がるため、折り曲げた部位で変形跡がついたり、クラックが発生したりして、表示画面の視認性が低下するおそれがある。そのため、耐屈曲性をさらに高めるという観点から、ヤング率は5.3GPa以下が好ましく、5.1GPa以下がさらに好ましく、4.9GPa以下が特に好ましく、4.7GPa以下が最も好ましい。また、積層フィルムのヤング率が4.0GPaを下回ると、積層フィルムの柔軟性が上がり、繰り返し折り曲げたり、長時間折り曲げた状態で保持した場合の変形跡やクラックは発生しにくく、有利である一方で、フィルム自体が伸びたり、変形が発生したりして、表示画面の視認性が低下するおそれがある。上記をさらに改良するという観点から、長手方向と幅方向のヤング率の平均値は4.1GPa以上が好ましく、4.2GPa以上がさらに好ましく、4.3GPa以上が特に好ましく、4.4GPa以上が最も好ましい。なお、ヤング率はASTM-D882に準拠した方法により測定することができ、その詳細は後述する。繰り返しの折り曲げ使用時の耐屈曲性の観点から、積層フィルムの厚みは10μm以上30μm未満であり、長手方向と幅方向のヤング率の平均値が4.0GPa以上5.5GPa以下の特性を有する積層フィルムは、耐屈曲性試験後の回復角度が158度以上180度以下と良好とすることができる。
【0035】
本発明の積層フィルムにおいて、耐屈曲性試験後の回復角度が180度に近いほど好ましく、より好ましくは耐屈曲性試験後の回復角度が165度以上180度以下であり、さらに好ましくは173度以上180度以下である。
【0036】
上述のように、各層の屈折率の差を発生させるため非晶性の熱可塑性樹脂が含まれると、一般に積層フィルムのヤング率は低下しやすい。本発明の積層フィルムは高いヤング率を有し、厚みが10μm以上30μm未満の積層フィルムであり、本発明の光学特性(ブルーライトカットや視認性)と耐屈曲を両立するには、層全体に占めるA層厚みの配分と最表層の層厚みにより達成される。
【0037】
本発明の積層フィルムが前述のA層とB層が交互に積層されてなる積層フィルムである場合は、干渉反射の原理に従い下記式1により反射波長が決定される。つまり、反射波長は、各層の屈折率、各層の厚みで調整することが可能である。
【0038】
2×(na・da+nb・db)=mλ ・・・ 式1
na:A層の面内平均屈折率
nb:B層の面内平均屈折率
da:A層の層厚み(nm)
db:B層の層厚み(nm)
λ:主反射波長(反射波長)
mはn次反射を表す。n=1,2,3,・・・(自然数)
m1=1次反射、m2=2次反射、m3=3次反射、・・・である。
【0039】
本発明の積層フィルムは、厚みを上述の好ましい範囲に調整し、繰り返しの折り曲げ使用時の耐屈曲性を有し、透過光のb*値を上述の好ましい範囲に調整するという観点から、相対的に結晶性の高い熱可塑性樹脂層をA層、相対的に結晶性の低い熱可塑性樹脂層をB層としたときに、前記A層と前記B層が交互に積層された構成を有し、両側の最外層が前記A層であり、最外層に位置する前記A層の合計厚みが積層フィルム全体の合計厚みの10%以上40%以下であることが好ましい。最外層は最も外側に位置する表層を示し、最表層と呼ぶ。
【0040】
前記A層の合計厚みが積層フィルム全体の合計厚みの10%以上であることにより、厚みが上述の好ましい範囲内において、透過光のb*値が維持しつつ、フィルムの剛直性を上げることができ、繰り返しの折り曲げ使用時の耐屈曲性を実現できる。上記観点から、前記A層の合計厚みが積層フィルム全体の合計厚みは13%以上がより好ましく、16%以上がさらに好ましく、19%以上が特に好ましく、22%以上が最も好ましい。一方、前記A層の合計厚みが積層フィルム全体の合計厚みの40%以下であることにより、厚みが上述の好ましい範囲内において、波長440nm以上470nm以下の平均透過率や透過光のb*値が過度に低くならないため、フィルムの剛直性が過度に上がり過ぎずに、繰り返しの折り曲げ使用時の耐屈曲性を実現できる。上記観点から、前記A層の合計厚みが積層フィルム全体の合計厚みは37%以下がより好ましく、34%以下がさらに好ましく、31%以下が特に好ましく、28%以下が最も好ましい。
【0041】
前記A層の合計厚みが積層フィルム全体の合計厚みの上記の範囲とする方法は、特に限定されるものではないが、例えば後述の積層フィルムの構成、及び製造方法を採用する方法が挙げられ、詳しくは後述する。
【0042】
次に、より好ましい態様を説明する。本発明の積層フィルムは、LEDディスプレイ等に適用したときの眼球保護と視認性の観点から、波長440nm以上470nm以下の平均透過率が55%以上85%以下であることが好ましい。波長440nm以上470nm以下の領域は、可視光の中でも強いエネルギーを持っている所謂ブルーライトの波長領域に相当し、眼球への有害性が示唆されている波長領域である。また、当該波長領域は、LEDディスプレイが発する光のうち特に強度が高い領域でもある。そのため、波長440nm以上470nm以下の領域の平均透過率を85%以下とすることで、例えばスマートフォンやパソコンやテレビのLEDディスプレイの保護フィルム用途において、ブルーライトを効率的にカットし、眼球への影響を軽減することができる。上記観点から、当該平均透過率は、好ましくは81%以下、より好ましくは77%以下、さらに好ましくは73%以下である。
【0043】
また、波長440nm以上470nm以下の平均透過率が低くなるほど、ブルーライトカット性能の高い積層フィルムが得られるようになる一方で、当該平均透過率が55%より低くなると透過光で見た際に積層フィルム自体が強く黄色味を呈し、優れた色調のフィルムが得られない。また、LEDディスプレイの保護フィルム用途に用いた際に、ディスプレイが黄色味掛かって表示画面の視認性を損なう。そのため、当該平均透過率は、好ましくは59%以上、より好ましくは63%以上、さらに好ましくは67%以上である。
【0044】
波長440nm以上470nm以下の平均透過率は、公知の分光光度計により、標準板を酸化アルミニウム、入射角度Φを0°として測定することができ、詳細は後述する。当該平均透過率を上記の範囲とする方法は、概ね透過光のb*値を達成する方法により得られ、特に限定されるものではないが、例えば積層フィルムの構成、及び製造方法を採用する方法が挙げられる。
【0045】
特に、B層における非晶性ポリエステルβの割合が10質量%以上であることにより、A層の結晶性ポリエステルαと十分な屈折率差が確保され、波長440nm以上470nm以下の平均透過率や透過光のb*値が過度に低くならず、反射光で見た際のフィルム自体の青色味の色付きを実現できる。一方、B層における非晶性ポリエステルβの割合が50質量%未満であることにより、A層の非晶性ポリエステルαとの屈折率差が過度に大きくならず、波長440nm以上470nm以下の平均透過率の上昇を適度に抑えることができる。優れた色調のフィルムが得られる。
【0046】
波長440nm以上470nm以下の平均透過率や透過光のb*値を好ましい範囲に制御する観点から、B層に非晶性ポリエステルβの量が20質量%以上49質量%以下であることがより好ましく、30質量%以上47質量%以下であることがさらに好ましく、35質量%以上45質量%以下であることが特に好ましい。
【0047】
本発明における積層フィルムは製品ロール長さ方向の色調ばらつきを抑制する観点から、製品ロール長さ方向50mあたりの厚みばらつきを1.5%以下とすることが好ましく、より好ましくは1.2%以下である。本発明において、積層フィルムロールとは任意の材質の筒状コアにフィルムが巻かれたロール体の状態をいい、製品として出荷されるものを製品ロールと呼ぶことがある。上記観点から厚みばらつきは小さいほど好ましく、下限に特に制限はない。厚みばらつきを1.5%以下とする方法としては、ドラフト比を調整し特定の範囲内とすることが挙げられる。ドラフト比は、高すぎるとドローレゾナンス現象により厚みばらつきが大きくなり、低すぎると口金スジの悪化や積層乱れ等が問題となることから、ドラフト比の範囲は5以上~22以下が好ましく、10以上~15以下がより好ましい。なお、フィルムの厚みが薄くなるほど、樹脂を溶融して成形する溶融製膜方法において、フィルム長手方向の厚みの変動、つまり厚みのばらつきが大きくなる。
【0048】
本発明の積層フィルムのドラフト比は、キャストドラム速度を吐出速度にて割った値をドラフト比とした。キャストドラムの速度とは、溶融した熱可塑性樹脂を冷却し製膜する工程において、単位時間あたりの回転ドラムの外周長さ[m]の移動量から求められ、キャストドラム速度[m/分]で表される。吐出速度とは熱可塑性樹脂の単位時間あたりの吐出長さに相当する距離[m]から求められ、吐出速度[m/分]で表される。ドラフト比は熱可塑性樹脂が回転ドラムに着地する際に速度差によって引き延ばされる度合いを表す。ここで、熱可塑樹脂を押出す口金の幅間隙を大きくするとドラフト比は大きくなる。フィルムの厚みが薄くなるほど、熱可塑性樹脂の吐出量が小さくなるもののドラフト比が小さくなりにくく、厚みむらと呼ばれるフィルム長手方向の厚みの変動が大きくなる。
【0049】
<積層フィルムの製造方法について>
本発明の多層積層フィルムの作製について、一例を挙げてその製造方法を具体的に説明するが、本発明の積層フィルムはこれに限定されるものではない。また、積層フィルムの積層構造の形成自体は、例えば特開2007-307893号公報の〔0053〕~〔0063〕段に記載を参考とすれば実現できるものである。
【0050】
加熱溶融された熱可塑性樹脂はギアポンプ等で押出量が均一化され、フィルター等を介して異物や変性した熱可塑性樹脂などを取り除かれる。これらの熱可塑性樹脂はダイにて目的の形状に成形された後、吐出される。そして、ダイから吐出された多層に積層されたシートは、キャスティングドラム等の冷却体上に押し出され、冷却固化され、キャスティングフィルムが得られる。この際、ワイヤー状、テープ状、針状あるいはナイフ状等の電極を用いて、静電気力によりキャスティングドラム等の冷却体に密着させ急冷固化させることが好ましい。また、スリット状、スポット状、面状の装置からエアーを吹き出してキャスティングドラム等の冷却体に密着させ急冷固化させたり、ニップロールにて冷却体に密着させ急冷固化させるなどの方法も好ましい。
【0051】
本発明の積層フィルムのドラフト比は、ダイから吐出される熱可塑樹脂を吐出させる際のダイ形状と吐出圧力、キャストドラム速度等を調整することでドラフト比を設定することが好ましい。
【0052】
また、複数の熱可塑性樹脂層(A層、B層)からなる多層積層フィルムを作製する場合には、複数の熱可塑性樹脂を2台以上の押出機を用いて異なる流路から送り出し、多層積層装置に送り込まれることが好ましい。多層積層装置としては、マルチマニホールドダイやフィードブロックやスタティックミキサー等を用いることができるが、特に、本発明の構成を効率よく得るためには、多数の微細スリットを有する部材を少なくとも別個に2個以上含むフィードブロックを用いることが好ましい。このようなフィードブロックを用いると、装置が極端に大型化することがないため、熱劣化による異物が少なく、積層数が極端に多い場合でも、高精度な積層が可能となる。また、幅方向の積層精度も従来技術に比較して格段に向上する。また、任意の層厚み構成を形成することも可能となる。この装置では、各層の厚みをスリットの形状(長さ、幅)で調整できるため、任意の層厚みを達成することが可能となったものである。
【0053】
このようにして所望の層構成に形成した溶融多層積層体をダイへと導き、上述と同様にキャスティングフィルムが得られる。
【0054】
このようにして得られたキャスティングフィルムは、必要に応じて二軸延伸することが好ましい。ここで、二軸延伸とは、長手方向および幅方向に延伸することをいう。延伸は、逐次に二方向に延伸してもよいし、同時に二方向に延伸してもよい。ここで長手方向とは、フィルムが走行する方向をいい、幅方向とはフィルム面内で長手方向と直交する方向をいう。
【0055】
ここでは逐次二軸延伸の場合について説明する。ここで、長手方向への延伸とは、フィルムに長手方向の分子配向を与えるための延伸をいい、通常は、ロールの周速差により施される。この延伸は1段階で行ってもよく、また、複数本のロール対を使用して多段階に行ってもよい。延伸倍率としては熱可塑性樹脂の種類により異なるが、通常、2.0~15.0倍が好ましく、2.0~7.0倍が特に好ましく用いられる。また、延伸温度としては60℃~160℃が好ましい。
【0056】
このようにして得られた一軸延伸されたフィルムに、必要に応じてコロナ処理やフレーム処理、プラズマ処理などの表面処理を施した後、易滑性、易接着性、帯電防止性などの機能をインラインコーティングにより付与してもよい。
【0057】
また、幅方向の延伸とは、フィルムに幅方向の配向を与えるための延伸をいい、通常は、テンターを用いて、フィルムの両端をフィルムの走行方向に対して垂直な方向にフィルムをクリップなどで把持しながら搬送して、幅方向に延伸する。延伸の倍率としては熱可塑性樹脂の種類により異なるが、通常、2.0~15.0倍が好ましく、2.0~7.0倍が特に好ましく用いられる。また、延伸温度としては60℃~180℃が好ましい。
【0058】
こうして二軸延伸されたフィルムは、寸法安定性、A層とB層の好適な屈折率差をつけ、波長440nm以上470nm以下の上述の好ましい平均透過率に制御すること、透過光のb*値の上述の好ましいb*値に制御する観点から、引き続きテンター内で熱処理を行うのが好ましい。熱処理温度は185℃以上とすることが、フィルムの寸法安定性を高め、十分な反射率を得る観点から好ましい。また、上限はフィルム自体が融解し始めて平面性が悪化する可能性から245℃が好ましい。
【0059】
寸法安定性、波長440nm以上470nm以下の前述の好ましい平均透過率に制御すること、透過光のb*値の前述の好ましいb*値に制御する観点から、例えばB層のシクロヘキサンジメタノールの共重合量にもよるが、熱処理温度は185℃以上245℃以下が好ましく、230℃以上245℃以下がより好ましく、234℃以上245℃以下がさらに好ましく、特には236℃以上245℃以下が好ましい。同様の観点から、熱処理時間は、3秒以上200秒以下であることが好ましく、5秒以上100秒以下であることがより好ましく、10秒以上30秒以下であることがさらに好ましい。また、この熱処理の際に、幅方向での主配向軸の分布を抑制するため、熱処理ゾーンに入る直前および/あるいは直後に瞬時に長手方向に弛緩処理することが好ましい。好ましい弛緩処理の程度は、弛緩処理前のフィルム幅に対する弛緩処理の割合が0%を超え5%以下である。
【0060】
<ハードコート層について>
本発明の積層体は、本発明の積層フィルムの少なくとも一方の表面にハードコート層を有する。ハードコート層を構成する材料は特に限定されるものではなく、可視光線を透過するものであればよいが、光線透過率が高いものが好ましい。用いられる材料としては、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、活性線硬化型樹脂などである。特に、耐擦傷性、生産性の観点から、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、活性線硬化型樹脂が好ましく用いることができる。ハードコート層の構成成分として用いられる活性線硬化型樹脂は、該活性線硬化型樹脂を構成するモノマー成分としては、例えば、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ビス(メタクロイルチオフェニル)スルフィド、2,4-ジブロモフェニル(メタ)アクリレート、2,3,5-トリブロモフェニル(メタ)アクリレート、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ-3-フェニルフェニル)プロパン、ビス(4- (メタ)アクリロイルオキシフェニル)スルホン、ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)スルホン、ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)スルホン、ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ-3-フェニルフェニル)スルホン、ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ-3,5-ジメチルフェニル)スルホン、ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシフェニル)スルフィド、ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)スルフィド、ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)スルフィド、ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ-3-フェニルフェニル)スルフィド、ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ-3,5-ジメチルフェニル)スルフィド、ジ((メタ)アクリロイルオキシエトキシ)フォスフェート、トリ((メタ)アクリロイルオキシエトキシ)フォスフェートなどの多官能(メタ)アクリル系化合物を用いることができ、これらは1種もしくは2種以上を用いることができる。
【実施例0061】
以下、本発明の積層フィルムについて、実施例を用いてより具体的に説明する。但し、本発明の積層フィルムは実施例に記載の態様に限定されない。
【0062】
[物性値の測定方法ならびに効果の評価方法]
特性値の測定方法ならびに効果の評価方法は次の通りである。
【0063】
(1)積層フィルムの層厚み、積層数、積層構造、積層比
フィルムの層構成は、ミクロトームを用いてフィルム幅方向中央部から厚み方向断面を切り出したサンプルを透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することにより求めた。具体的な手順は以下の通りである。先ず、透過型電子顕微鏡H-7100FA型((株)日立製作所製)を用い、加速電圧75kVの条件でフィルムの断面を10000~40000倍に拡大観察し、厚み方向断面写真を撮影した。得られた画像より、層構成(積層数、積層構造、両側の最外層の厚膜層)を確認し、さらに顕微鏡の測長機能により、積層フィルム全体の厚み、両側の最外層のA層(厚膜層)の厚み、両側の最外層のA層(厚膜層)以外の各層厚みを測定した。両側の最外層とは、積層フィルムの両面の最表層であり、A層は相対的に結晶性の高い熱可塑性樹脂層の層である。
【0064】
次いで、積層フィルム全体の厚みと両側の最外層のA層の厚み(厚膜層の厚み)の合計厚みから、積層フィルムにおける両側の最外層のA層の厚み(厚膜層の厚み)に占める割合を算出した。また、両側の最外層のA層(厚膜層)以外の各A層の合計厚みと各B層の合計厚みから、積層比(各A層の合計厚み/各B層の合計厚み)を算出した。尚、場合によっては、コントラストを高く得るために、公知のRuO4やOsO4などを使用した染色技術を用いた。
【0065】
(2)積層フィルムの厚み
フィルム幅方向中央部より幅方向50mm×長手方向50mmのサイズでサンプルを切り出し、さらに、該中央部からフィルム幅方向の両端部にむけて100mm間隔で同様にサンプルを切り出した。サンプルは15個とする。ダイヤルゲージ式厚み計(JIS B7503(2017)、PEACOCK製UPRIGHT DIAL GAUGE(0.001×2mm)、No.25、測定子5mmφ平型)を用いて、各サンプルの中心部の厚みを測定し、その平均値を積層フィルムの厚みとした。
【0066】
(3)面内平均屈折率
積層フィルムの作製に用いた各層の熱可塑性樹脂を実施例や比較例と同じ製造方法でシート状のサンプルとし、熱可塑性樹脂シートの面内平均屈折率をそれぞれ測定し、積層フィルムの2つの熱可塑性樹脂層の面内平均屈折率の差とした。屈折率の測定は、JIS K7142(2014)A法に従って、アッベ屈折率計(アタゴ製NAR-4T)を用いて測定した。プリズムの屈折率は1.740のものを用い、試料とプリズムの中間液にはヨウ化メチレン(屈折率1.742)を用いた。面内で角度を変えて5点測定し、その平均を面内平均屈折率とした。
【0067】
(4)熱可塑性樹脂の融解熱量
熱可塑性樹脂サンプルを5g採取し、示差走査熱量分析計(DSC) セイコー電子工業(株)製ロボットDSC-RDC220を用い、JIS-K-7122(1987年)に従って3回測定し、その平均値を算出した。より具体的には、25℃から290℃まで5℃/minで昇温してDSC曲線を描き、融点±20℃の範囲におけるベースラインからの積分値を融解熱量(J/g)とした。また、ここでの融点とは、DSC曲線のベースラインからの差異が最大となる点とした。融解熱量が20J/g以上の樹脂を結晶性樹脂、5J/g以下である樹脂を非晶性樹脂と判定した。
【0068】
(5)長手方向と幅方向のヤング率
フィルム幅方向中央部より幅方向10mm×長手方向200mm(チャック間距離100mm)のサイズでサンプルを5つ切り出し、長手方向のヤング率測定用のサンプルとした。その後ASTM-D882に準拠し、エー・&・ディ社製の“テンシロン”(登録商標)万能材料試験機(RTC-1210A)を用い、該サンプルを引張速度200mm/分で引っ張り、変形する直前の最大弾性(SSカーブの最大傾斜の接線の一次式)からヤング率を求めた。該5つのサンプルの平均値を長手方向のヤング率とした。また、フィルム幅方向中央部より長手方向10mm×幅方向200mm(チャック間距離100mm)のサイズでサンプルを5つ切り出し、幅方向のヤング率測定用のサンプルとし、同様の測定を行い、5つのサンプルの平均値を幅方向のヤング率とした。長手方向と幅方向のヤング率の平均値を積層フィルムのヤング率とした。
【0069】
(6)透過光のb*値
フィルム幅方向において、フィルム幅方向中央部から幅方向297mm×長手方向210mmのサイズでサンプルを切り出した。該サンプルから4つの各頂点部、中央1点の計5点から幅方向50mm×長手方向50mmのサイズでサンプルを5つ切り出した。分光測色計(コニカミノルタセンシング(株)製、CM-3600d)を用いて、該5サンプルの中心部の透過光のb*値を測定した。(測定モード:透過、光源:D65(角度:10度)、測定径:25.4mm)
該5サンプルのb*値の5つの値から平均値を算出し、積層フィルムの透過光のb*値とした。
【0070】
(7)波長440nmから470nmまでの帯域の平均透過率
フィルム幅方向中央部から幅方向297mm×長手方向210mmのサイズでサンプルを切り出した。該サンプルから4つの各頂点部、中央1点の計5点から幅方向50mm×長手方向50mmのサイズでサンプルを5つ切り出した。次いで、分光光度計((株)日立製作所製、U-4100 Spectrophotometer、付属の積分球の内壁は、硫酸バリウムであり、標準板は、酸化アルミニウム)を用いて、該5サンプルの中心部の入射角度Φ=0度における平均透過率を測定した。測定波長は、250~850nm、スリットは2nm(可視)/自動制御(赤外)、ゲインは2と設定し、走査速度600nm/分で測定した。次いで、該5サンプルの波長440nm以上470nm以下における平均透過率を算出した。平均透過率の算出方法は、前述の測定条件に基づき測定した波長1nm毎の透過率のデータを用いて、該帯域内の透過率を平均化して求めた。該5サンプルの平均透過率の平均値を積層フィルムの波長440nm以上470nm以下の範囲における平均透過率とした。
【0071】
(8)耐屈曲性の評価
<耐屈曲性試験>積層フィルムの長さ方向中央に1mm幅の底面を設けて、積層フィルムの両側の面を前記底面に対して90度に折り曲げて、その後に0度に戻し平面に広げた。折り曲げ曲率半径は1.0mmとした。折り曲げて広げる動作を常温で20万回繰り返した後、積層フィルムを広げた状態で静置した。積層フィルムの長さ方向中央を頂点とする折れ曲がり角度を測定した。試験前の積層フィルム平面を180度とし、試験後の折れ曲がり角度を回復角度とした。
【0072】
具体的には次の通り測定を行った。幅方向20mm×長手方向100mmのサイズでサンプルを5つ切り出し、耐屈曲性測定用のサンプルとし、温度25℃、相対湿度50%の状態に1時間以上静置させた。積層フィルムの長さ方向は長い辺の方向であり、ここでは長手方向100mmの方向を長さ方向という。その後、その5つのサンプルについて、U字伸縮試験機 DLDMLH-FS(ユアサシステム機器(株))を用いて、折り曲げ曲率半径1.0mmで折り曲げて広げる操作を繰り返した。フィルムの両側を底面に対して90度に折り曲げて広げる動作を常温で20万回繰り返した後の該5つのサンプルの回復角度の平均値を算出し、耐屈曲性を以下のランクで評価した。なお、回復角度は耐屈曲試験後のフィルムを水平の台に置き、分度器により測定し、算出した。
【0073】
フィルムの耐屈曲性は、水平状態である180度に近いものほどフィルムが変形しにくく、優れている。耐屈曲性試験後の回復角度が158度以上180度以下のフィルムがフレキシブルなディスプレイの画面保護フィルムとして、繰り返しの折り曲げ使用時に実用的に使用できるレベルである。つまり、以下の評価結果において、S、A、B、C、D、Eが合格と判断される。
S:177度以上180度以下
A:173度以上177度未満
B:169度以上173度未満
C:165度以上169度未満
D:161度以上165度未満
E:158度以上161度未満
F:155度以上158度未満
G:150度以上155度未満
H:145度以上150度未満
I:140度以上145度未満
J:135度以上140度未満
K:130度以上135度未満
L:130度未満 。
【0074】
(9)製品ロールの長さ方向の厚みばらつき
積層フィルムの長さ方向の厚みばらつきは、積層フィルムがコアに巻かれた積層フィルムのロール体を評価サンプルとした。ダイヤルゲージ式厚み計(JIS B7503(2017)、PEACOCK製UPRIGHT DIAL GAUGE(0.001×2mm)、No.25、測定子5mmφ平型)を用いて、製品ロールの幅方向中央部の位置で、フィルム長さ方向にむけて5m間隔で50m測定し、その値から計算した標準偏差を厚みばらつきとした。また、長さ50mの積層フィルムにおいて、透過光で見た際に積層フィルム自体が黄色味を帯びる色調ムラが発生しているかを目視で観察した。
【0075】
(実施例1)
熱可塑性樹脂として、熱可塑性樹脂A、熱可塑性樹脂Bを用いた。熱可塑性樹脂Aは固有粘度0.65、融点255℃のポリエチレンテレフタレート(以下、PETとも表す)であり、熱可塑性樹脂Bは固有粘度0.75で非晶性であるポリエチレンテレフタレートの共重合体(ジオール全成分に対して、シクロヘキサンジメタノール成分を30mol%共重合したPET(以下CHDM共重合PETとも表す)を用いた。なお、熱可塑性樹脂Aは結晶性ポリエステルα、熱可塑性樹脂Bは非晶性ポリエステルβに相当する。
【0076】
このようにして準備した熱可塑性樹脂Aは、A層として用いるべくベント付き二軸押出機にて280℃の溶融状態とした。また、B層に用いる熱可塑性樹脂は熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bを重量比率で60:40の配合比でブレンドした混合物とし、別のベント付き二軸押出機にて280℃の溶融状態とした。次いで、それぞれギアポンプおよびフィルターを介して、熱可塑性樹脂A、Bを両表層部分が熱可塑性樹脂Aとなるように267層のフィードブロックにて合流させ、口金に導いてシート状に成形した後、静電印加にて表面温度25℃に保たれたキャスティングドラム上で急冷固化してキャストフィルムを得た。なお、このときA層に用いる熱可塑性樹脂とB層に用いる熱可塑性樹脂の吐出量は、両側の最外層のA層の厚み(厚膜層の厚み)の全体厚みに占める割合が25%、両側の最外層のA層(厚膜層)以外の各A層の合計厚みと各B層の合計厚みから算出される積層比(各A層の合計厚み/各B層の合計厚み)が1.5となるように調整した。キャストドラム速度を吐出速度にて割ったドラフト比は17となるように、ダイ形状と吐出圧力、キャストドラム速度等を調整した。
【0077】
得られたキャストフィルムを75℃に設定したロール群で加熱した後、100mm長の延伸区間で、両面からラジエーションヒーターにより急速加熱しながら、縦方向(長手方向)に3.1倍に延伸し、その後一旦冷却した。延伸時のフィルム温度は85℃であった。さらに、この一軸延伸フィルムをテンターに導き、100℃の熱風で予熱後、115℃の温度で横方向(幅方向)に3.54倍に延伸した。幅方向に延伸したフィルムは、そのままテンター内で238℃の熱風にて熱処理を行い、続いて同温度にて幅方向に1.0%の弛緩処理を施し、その後室温まで徐冷して幅1600mmとなるようにして巻き取った。
【0078】
製造条件や得られたフィルムの評価結果を表1に示す。フィルムの厚みは21μm、透過光のb*値は16で視認性が優れ、かつ耐屈曲性の指標である回復角度は178度、評価Sランクと良好であった。
【0079】
(実施例2~11、比較例1~14)
B層に用いる樹脂、フィードブロックの積層数、フィルムの厚み、両側の最外層のA層の厚み(厚膜層の厚み)の積層フィルム全体厚みに占める割合、縦延伸倍率、横延伸倍率、熱処理温度を表1に記載のとおりとした以外は、実施例1と同様にフィルムを得た。製造条件や得られたフィルム評価結果を表1に示す。
【0080】
(実施例12、比較例15)
実施例1と比較例1の積層フィルムについては、以下の通り、膜厚3μmのハードコート層を付与して、ハードコート層を有する積層体として耐屈曲性の評価を行った。ハードコート層を構成する活性線硬化型樹脂には、日本合成化学工業(株)製 紫光UV-1700B、屈折率:1.50~1.51を用いた。ハードコート層は、積層フィルム表面上にバーコーターを用いて硬化後の膜厚が3μmとなるように均一に塗布した。次いで、ハードコート層の表面から9cmの高さにセットした120W/cmの照射強度を有する集光型高圧水銀灯(アイグラフィックス(株)製 H03-L31)で、積算照射強度が150mJ/cm2、300mJ/cm2となるように紫外線を照射し、硬化させハードコート層を有する積層フィルムを得た。なお、紫外線の積算照射強度測定には工業用UVチェッカー(日本電池(株)製UVR-N1)を用いた。
【0081】
膜厚3μmのハードコート層を有する積層フィルムの耐屈曲性の評価結果は、実施例1の積層フィルムを用いた実施例12では回復角度が177度であり、S評価と耐屈曲性が良好であった。一方、比較例1の積層フィルムを用いた比較例15は回復角度が150度であり、G評価であった。
【0082】
(実施例13、14、参考例1)
実施例1の積層フィルムを、表2に示すドラフト比15(実施例13)、17(実施例14)、24(参考例1)で製膜し、ロール形状に巻き上げ採取した。ドラフト比を変更した以外は、縦延伸倍は3.1倍、横延伸倍率は3.54倍、熱処理温度は238℃と同じとした。得られた製品ロールにおいて50mあたりの厚みばらつきを求めた。得られたフィルム評価結果を表2に示す。ドラフト比15(実施例13)、ドラフト比17(実施例14)、ドラフト比24(参考例1)の順で色調変化が大きくなった。ドラフト比24(参考例1)は色調変化が大きく、色調ムラが発生した。
【0083】
【0084】
本発明は、画面に適用したときの視認性に優れ、耐屈曲性に優れたフィルムに関するものである。さらに詳しくは、スマートフォンやタブレット式パソコンの中でもフレキシブルなディスプレイ画面においても視認性、繰り返し折り曲げ耐性に優れた画面保護用途に好適なフィルムである。