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特開2024-65062ナスの栽培方法、ナスの栽培装置及び育苗用培地
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065062
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】ナスの栽培方法、ナスの栽培装置及び育苗用培地
(51)【国際特許分類】
   A01G 22/05 20180101AFI20240507BHJP
   A01G 24/44 20180101ALI20240507BHJP
【FI】
A01G22/05 Z
A01G24/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023183594
(22)【出願日】2023-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2022173823
(32)【優先日】2022-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390010814
【氏名又は名称】株式会社誠和
(74)【代理人】
【識別番号】100101742
【弁理士】
【氏名又は名称】麦島 隆
(72)【発明者】
【氏名】陣在 ゆかり
(72)【発明者】
【氏名】堤 淑貴
(72)【発明者】
【氏名】堀井 貴博
【テーマコード(参考)】
2B022
【Fターム(参考)】
2B022AA01
2B022AA03
2B022AB15
2B022BA06
2B022BA14
2B022BA16
2B022BA22
2B022BB02
(57)【要約】
【課題】 ナスのつるおろし栽培における茎折れリスクを抑制する。
【解決手段】 苗20を略水平姿勢で定植し、分岐後、主枝21,22とする複数の枝を略水平に生長させ、主枝21,22を所定の長さまで略水平に生長させた後、上方に誘引する。このため、定植直後から苗を上方に生長させる従来のつるおろし栽培方法と比較し、主枝21,22の生長点の地面からの高さが低くなり、作業を行いやすくなる。また、本発明では、分岐部付近において主枝が略水平姿勢となっているため、つるおろしを行った際に茎折れを生じさせるような力があまり加わらず、茎折れリスクを低減できる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
略水平姿勢で定植用培地に定植された苗から分岐した複数の主枝を所定の長さまで略水平方向に生長させ、
その後、上方に誘引し、
所定の高さまで生長させた後、前記主枝を所定の長さつるおろしし、
前記つるおろしを繰り返す
ナスの栽培方法。
【請求項2】
前記定植用培地の長手方向に沿って所定間隔で、前記苗が前記定植用培地の長手方向に沿って略水平姿勢となるように定植し、
前記主枝を、前記定植用培地の長手方向に略直交する方向に生長させる
請求項1記載のナスの栽培方法。
【請求項3】
前記定植用培地の長手方向に沿って所定間隔で、前記苗が前記定植用培地の長手方向に略直交する方向に沿って略水平姿勢となるように、かつ、前記定植用培地の長手方向に隣接する前記苗同士が、互いに反対側に伸びるように定植する
請求項1記載のナスの栽培方法。
【請求項4】
前記定植用培地に定植後、前記定植用培地の上面と、略水平姿勢の前記苗における前記定植用培地に対峙する株元付近の側面との間に、株元側面支持部材を配置する
請求項1記載のナスの栽培方法。
【請求項5】
前記苗として、本葉上又は子葉上で摘心されたものを用いる
請求項1記載のナスの栽培方法。
【請求項6】
前記苗は、育苗用培地に植えられて育苗されたものであり、
前記育苗用培地として、前記苗の植え付け面を上面とした場合に、側面に凹凸面を有するものを用い、
前記定植用培地への定植時には、前記凹凸面を前記定植用培地の上面となる接する面となるように配置する
請求項1記載のナスの栽培方法。
【請求項7】
定植用培地の両側に設けられる水平誘引用支持部材と、
前記各水平誘引用支持部材の上方に設けられる上方誘引用支持部材と
前記上方誘引用支持部材に係合されるフック部材を一端に有し、前記上方誘引用支持部材と前記水平誘引用支持部材との間に設けられ、略水平姿勢で定植されたナスの苗から分岐し、略水平に生長した主枝に係合され、前記主枝を誘引する誘引部材と
を有するナスの栽培装置。
【請求項8】
前記誘引部材が線材から構成され、前記フック部材に一体となった巻き付け部に巻き付けられ、前記主枝を誘引する際に下方に垂れ下げられる
請求項7記載のナスの栽培装置。
【請求項9】
前記フック部材は、前記上方誘引用支持部材の長手方向の所定の位置で位置保持可能である
請求項7記載のナスの栽培装置。
【請求項10】
前記定植用培地に略水平姿勢で定植された前記ナスの苗において、前記定植用培地に対峙する株元付近の側面を支持し、前記苗の下垂を抑制する株元側面支持部材を有する
請求項7記載のナスの栽培装置。
【請求項11】
前記株元側面支持部材が培地材から形成されている
請求項7記載のナスの栽培装置。
【請求項12】
請求項1記載のナスの栽培方法に用いられ、
育苗時において上面となる面に、育苗用の苗が植え付けられる植え付け面が形成され、
前記植え付け面を上面とした場合の側面が凹凸面になっており、
定植時に、前記凹凸面が定植用培地の上面に接するように配置され、前記苗の前記定植用培地上での姿勢が略水平姿勢となる
育苗用培地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナスの栽培方法、ナスの栽培装置及び当該ナスの栽培に適する育苗用培地に関する。
【背景技術】
【0002】
ナスは一般的に主枝と一番花直下の側枝及び、それらから発生する強勢の複数本の側枝を伸長させていくが、その栽培方法として次のようなものが知られている。特許文献1は、畝の長手方向に沿って所定間隔で苗を定植し、上向きに生長させ、一番花が咲いた後、選択した複数本の主枝をV字状やU字状に広げ、畝の側方に立設した誘引用の支柱に支持させ、各主枝を上方に生長させていく。主枝の高さが所定以上になると、作業を行いにくくなることから、特許文献1では、地上から約170cmで摘心し、分岐する側枝に着果する果実を所定の期間繰り返し収穫している。特許文献2も基本的には同様の栽培方法であるが、主枝の高さが70~140cmの範囲にすると共に、左右方向での主枝の広がり幅が50~140cmの範囲となるように整枝することで、側枝を早期に生長させ、作業者が無理な姿勢をとることなくより容易に作業をすることができるようにしている。
【0003】
ナスの栽培は、特許文献1,2に示されているように、複数本の主枝をV字状やU字状に誘引して上方に生長させていくが、作業上の便宜からある程度の高さで主枝を摘心し、側枝に着果する果実を一つ収穫し、収穫後その側枝を切り戻し、その側枝近傍に生じる別の腋芽を生長させて新たな側枝とし、この側枝に着果する果実を収穫することを繰り返す栽培方法が一般的である。
【0004】
しかしながら、このような主枝の摘心や側枝の切り戻しを繰り返すことは作業が煩雑で定型化が困難であり、また、生長点が摘心されてしまうことから、伸長量や茎径などの生育情報を知ることができず、植物の状態評価の把握が困難である。
【0005】
この点に鑑み、非特許文献1では、トマト栽培で一般的なつるおろし栽培をナスの栽培に適用することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-236371号公報
【特許文献2】特開2014-87268号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】グリーンレポートNo.632(2022年2月号)、営農アシスト、”「ゆめファーム全農こうち」におけるなすのつるおろし栽培” URL: https://www.zennoh.or.jp/eigi/pdf_shisetsuengei/Gr632.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1では、ナスのつるおろし栽培により、摘心を行うことがなくなり、生長点を維持でき生育調査を継続できると共に、良好な受光態勢を確保しやすく、収量増加も期待できる。その一方、つるおろしを行うことで高所での作業が不要となり、収穫時等の作業姿勢も無理な体勢を強いられない。また、側枝は計画果実数を収穫した時点で主枝まで切り戻すため、作業工程が簡素化され、定型化しやすく、熟練の作業者でなくても作業を行いやすい。
【0009】
しかしながら、ナスの茎は、トマトの茎と比較して硬く折れやすい。そのため、ナスの茎は基本的にはつるおろしには不向きである。非特許文献1では、栽培初期から進行方向への癖付けを行うことで茎折れリスクを低減することが提案されているが、茎折れリスクはより低いことが望ましい。また、収量増加を図ることは常に望まれている。
【0010】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、つるおろしによる茎折れリスクをより低減できると共に、さらなる収量増加を図ることができるナスの栽培方法、ナスの栽培装置及び当該ナスの栽培に適する育苗用培地を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した課題を解決するため、本発明のナスの栽培方法は、
略水平姿勢で定植用培地に定植された苗から分岐した複数の主枝を所定の長さまで略水平方向に生長させ、
その後、上方に誘引し、
所定の高さまで生長させた後、前記主枝を所定の長さつるおろしし、
前記つるおろしを繰り返す
ことを特徴とする。
【0012】
前記定植用培地の長手方向に沿って所定間隔で、前記苗が前記定植用培地の長手方向に沿って略水平姿勢となるように定植し、前記主枝を、前記定植用培地の長手方向に略直交する方向に生長させることが好ましい。
また、前記定植用培地の長手方向に沿って所定間隔で、前記苗が前記定植用培地の長手方向に略直交する方向に沿って略水平姿勢となるように、かつ、前記定植用培地の長手方向に隣接する前記苗同士が、互いに反対側に伸びるように定植することも好ましい。
前記定植用培地に定植後、前記定植用培地の上面と、略水平姿勢の前記苗における前記定植用培地に対峙する株元付近の側面との間に、株元側面支持部材を配置することが好ましい。
前記苗として、本葉上又は子葉上で摘心されたものを用いることがより好ましい。
前記苗は、育苗用培地に植えられて育苗されたものであり、前記育苗用培地として、前記苗の植え付け面を上面とした場合に、側面に凹凸面を有するものを用い、前記定植用培地への定植時には、前記凹凸面を前記定植用培地の上面となる接する面となるように配置する構成とすることも好ましい。
【0013】
また、本発明のナスの栽培装置は、
定植用培地の両側に設けられる水平誘引用支持部材と、
前記各水平誘引用支持部材の上方に設けられる上方誘引用支持部材と
前記上方誘引用支持部材に係合されるフック部材を一端に有し、前記上方誘引用支持部材と前記水平誘引用支持部材との間に設けられ、略水平姿勢で定植されたナスの苗から分岐し、略水平に生長した主枝に係合され、前記主枝を誘引する誘引部材と
を有することを特徴とする。
【0014】
前記誘引部材が線材から構成され、前記フック部材に一体となった巻き付け部に巻き付けられ、前記主枝を誘引する際に下方に垂れ下げられることが好ましい。
前記フック部材は、前記上方誘引用支持部材の長手方向の所定の位置で位置保持可能であることが好ましい。
前記定植用培地に略水平姿勢で定植された前記ナスの苗において、前記定植用培地に対峙する株元付近の側面を支持し、前記苗の下垂を抑制する株元側面支持部材を有する構成とすることが好ましい。
前記株元側面支持部材が培地材から形成されていることが好ましい。
【0015】
また、本発明は、
前記ナスの栽培方法に用いられ、
育苗時において上面となる面に、育苗用の苗が植え付けられる植え付け面が形成され、
前記植え付け面を上面とした場合の側面が凹凸面になっており、
定植時に、前記凹凸面が定植用培地の上面に接するように配置され、前記苗の前記定植用培地上での姿勢が略水平姿勢となる
育苗用培地を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、苗を略水平姿勢で定植し、分岐後、主枝とする複数の枝を略水平に生長させ、その後、上方に誘引する。このため、定植直後から苗を上方に生長させる従来のつるおろし栽培方法と比較し、主枝の生長点の地面からの高さは、本発明の方が低くなり、作業を行いやすくなる。また、生長点の地面からの高さを同じ高さまで生長させたとした場合、従来のつるおろし栽培方法よりも、本発明の方が主枝の長さが長くなるため収量の増加を図ることができる。また、定植直後から苗を上方に生長させる場合、つるおろしを行う度に、主枝の分岐部付近をより水平にしようとする力が作用し、その力が茎折れリスクにつながるが、本発明では、分岐部付近において主枝がもともと略水平姿勢となっているため、つるおろしを行った際に茎折れを生じさせるような力があまり加わらず、茎折れリスクを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の一の実施形態に係るナスの栽培装置の概略構成を示した斜視図である。
図2図2は、苗を定植用培地に定植する工程を説明するための平面図である。
図3図3は、主枝を略水平方向に生長させ、水平誘引用支持部材に連結した状態を示す平面図である。
図4図4は、つるおろしを行う工程を説明するための図である。
図5図5(a)は、フック部材の構成を説明するための図であり、図5(b)は、その部分拡大図である。
図6図6は、果実の着果の様子を示した図である。
図7図7は、株元側面支持部材を配置した状態を示した図である。
図8図8は、苗を定植用培地の各側部に向けて略水平姿勢で定植した態様を説明するための平面図である。
図9図9は、本発明の他の実施形態におけるつるおろし工程を説明するための図である。
図10図10(a)は、凹凸面を有する育苗用培地の従来例を示した斜視図であり、図10(b)は、本発明の実施形態に係る凹凸面を有する育苗用培地を示した斜視図であり、図10(c)は、図10(b)の育苗用培地を定植用培地に定植した状態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に示した本発明の実施形態に基づき、さらに詳細に説明する。図1は、本発明の一の実施形態に係るナスの栽培装置10の全体構成を概略的に示した図である。このナスの栽培装置10は、水平誘引用支持部材11、上方誘引用支持部材12及び誘引部材13を有している。
【0019】
水平誘引用支持部材11は、所定の長さを有する略長方形で、ロックウール、ヤシガラ、ピートモス、ハイドロボール、園芸用スポンジ(発泡フェノール樹脂)等から形成される定植用培地(苗床(本実施形態では後述の育苗用培地30)で育てた苗を本式に植え付ける培地であり、いわゆる本圃に相当)100の両側に、該定植用培地100の長手方向に沿って張られたワイヤ、紐等の線材やパイプ等の棒部材等から構成される。定植用培地100の両側とは、本実施形態では、定植用培地100の両側部付近か、それよりも外方の範囲であるが、図1に示したように、定植用培地100の両側部より内方であっても、育苗用培地30の両側部の外方となる範囲でもよい。これは定植用培地100の幅及び育苗用培地30の幅との関係から適宜に定められ、特に限定されない。
【0020】
上方誘引用支持部材12も、ワイヤ、紐等の線材やパイプ等の棒部材等から構成され、各水平誘引用支持部材11の上方に、定植用培地100の長手方向に沿って張られる。水平誘引用支持部材11の上方とは、直上はもとより、それよりも平面視でやや内方又はやや外方も含む。
【0021】
誘引部材13は、ワイヤ、テープ、紐等の線材やパイプ等の棒部材等から構成されるが、本実施形態では、線材を用いている。誘引部材13には、フック部材14が接続される。フック部材14は、具体的には、図5(a),(b)に示したように、本実施形態では、金属製線材を折り曲げ加工して形成されており、略コ字状に屈曲された巻き付け部14aと、この巻き付け部14aの上部に屈曲形成された上部V字状係合部14bを有している。略コ字状の巻き付け部14aのうち、対向する短辺間に紐等の線材からなる誘引部材13が巻き付けられている。誘引部材13は、この巻き付け部14aから必要な長さ巻き戻されて下方に垂れ下げられる。なお、巻き付け部14aに巻き付けられた誘引部材13が自然に巻き戻されることがないように、巻き付け部14aの下部に、略V字状に屈曲形成した誘引部材引っかけ部14cを設けている。誘引部材13を下方に垂れ下げる際に、この誘引部材引っかけ部14cに絡ませた後に垂れ下げることで、巻き付け部14aにおける誘引部材13の緩みを抑制する。フック部材14は、上部V字状係合部14bを上方誘引用支持部材12に係合させて配置される。上部V字状係合部14bは上方誘引用支持部材12に係合しているだけであるため、上方誘引用支持部材12の長手方向に沿ってその係合位置をずらして移動させることができる。但し、後述のように、主枝21,22が元の形状に戻ろうとする力によって逆方向に位置ずれすることを防ぎ、所定の位置で留まることができるように、上方誘引用支持部材12との間で所定の摩擦力を発生するゴムや合成樹脂等からなる被覆部材14dを上部V字状係合部14bに被せることが好ましい。この点の詳細についてはさらに後述する。なお、上方誘引用支持部材12は、地上約1.8m~4mの範囲に設置されており、フック部材14の係合作業時には必要に応じ高所作業台車を使用する。
【0022】
次に、本実施形態の栽培装置10を用いたナスの栽培方法について説明する。まず、ナスの苗20を定植用培地100に定植する(図2参照)。ナスの苗20は、通常、台木20aを用いた接ぎ木苗であって(図7参照)、ロックウール、ヤシガラ、園芸用スポンジ(発泡フェノール樹脂)等から形成される育苗用培地30に根付いた状態で提供されるため、定植作業は、定植用培地100上に、苗20が根付いた育苗用培地30を載置する作業となる。本栽培方式では育苗時に本葉上又は子葉上で摘心し、2本仕立てにした苗が望ましい。本実施形態では穂木の本葉3葉上で摘心し、本葉2葉と3葉の基部から発生した腋芽を主枝21,22として伸長させている。苗を摘心せずに定植用培地に定植する従来の方法では、苗が生長して最初に分岐する高さ(分岐高さ)は、育苗用培地30の上面(地際)から40~50cm程度の高さとなる。しかしながら、本葉上又は子葉上で苗を摘心することにより、育苗用培地30の地際を基準とした分岐高さを3~10cm程度とすることができ、主枝21,22の高さを抑制するのに適する。また、本実施形態では、図2に示したように、育苗用培地30が定植用培地100の長手方向一方側となり、苗20が定植用培地100の長手方向他方側となるように、苗20を略水平姿勢で所定間隔毎に載置する。好ましくは、苗20が北側となるように配置する。これにより、苗20は太陽光側に立ち上がろうとするため、上向きになる。
【0023】
そして、主枝21,22のうち、一方の主枝21を一方の水平誘引用支持部材11方向に曲げ、他方の主枝22を他方の水平誘引用支持部材11方向に曲げる。すなわち、主枝21,22を互いに反対方向に曲げる。主枝21,22は、互いに反対方向に曲げるが、略水平姿勢で曲げるため、主枝21,22から伸びている葉(特に葉柄の部分)がその下方に位置する定植用培地100の上面に接して支えられる。よって、従来の上方に生長させて主枝を空中で曲げる場合と比較して、主枝21,22を曲げた際の茎折れの発生が抑制される。
【0024】
主枝21,22を曲げた際に、既に各水平誘引用支持部材11に到達する長さであれば、図3に示したように、誘引クリップや誘引リングなどの連結部材15を用いて、主枝21,22を各水平誘引用支持部材11に連結する。主枝21,22が、各水平誘引用支持部材11に到達しない長さであれば、各水平誘引用支持部材11と主枝21,22との間に、水平方向誘引用の誘引部材(図示せず)を必要に応じて介在させて、略水平方向に生長させ、各水平誘引用支持部材11に到達する長さに至ったならば、連結部材15を用いて連結する。
【0025】
主枝21,22をこのように各水平誘引用支持部材11に連結した後は、図4に示したように、誘引部材13に誘引させ、適宜部位を連結部材15で連結しながら上方に生長させる。ナスの主枝21,22は、上記のようにトマト等と比較して硬いため、各水平誘引用支持部材11に連結した位置から直上に誘引することは困難で、斜め上方に誘引していくことになるが、この場合、一方の主枝21は、定植用培地100の長手方向に沿った一方端寄りに傾斜するように伸ばし、他方の主枝22は、定植用培地100の長手方向に沿った他方端寄りに傾斜するように伸ばすことがより好ましい。これにより、図3に示したように、主枝21,22を上方に伸ばした際の生育位置が平面視で互い違いとなり、主枝21,22の下方部まで良好な採光を確保できる。
【0026】
主枝21,22からは順次腋芽が出るが、不要なものは芽かきし、必要な腋芽を側枝として生長させていく。主枝21,22は、各水平誘引用支持部材11付近まで略水平に伸びた後、上方に伸びていくため、各水平誘引用支持部材11付近の主枝21,22に着果した果実Fは、下方に垂れ下がった状態となる。このため、主枝21,22やその他の部位に接触する可能性は小さく、果実Fに傷等が生じることが抑制される(図6参照)。
【0027】
上方に伸びていく主枝21,22から伸びる各側枝においては、複数の果実Fが着果する(図6参照)。側枝には、果実Fを予め定めた個数着果させて収穫する。その後、側枝は、主枝21,22との境界まで切り戻す。一方、主枝21,22が所定の長さに到達したならば、図4に示したようにつるおろしを行う。主枝21,22の生長点の地面からの高さが例えば約150cmに至ったならば、フック部材14の巻き付け部14aに巻き付けられている誘引部材13を巻き戻して緩め、例えば主枝21,22の長さで例えば約30cmつるおろしを行う。誘引部材13の上方に位置するフック部材14は、上方誘引用支持部材12に沿ってつるおろしした長さ分程度ずらす。ナスの茎(主枝21,22)は上記のように硬いため、つるおろし後、フック部材14の位置をずらしても、そのままでは、主枝21,22がつるおろし前の状態に復帰しようとし、フック部材14も上方誘引用支持部材12に沿ってつるおろし前の位置に戻ってしまう場合がある。これでは、主枝21,22の位置が安定せず、隣接する苗から生長した茎同士が近づき、採光性の点で懸念が生じる場合もある。そこで、フック部材14は、このような硬い主枝21,22による元の位置に戻そうとする力に対抗して、上方誘引用支持部材12においてずらした位置で留まることのできる位置保持可能な構成であることが好ましい。そこで、本実施形態では、上記のように、フック部材14の上方誘引用支持部材12に係合する上部V字状係合部14bを被覆部材14dにより被覆し、上方誘引用支持部材12との間で所定の摩擦力を作用させ、それにより、ずらした位置で保持される構成としている。このほか、例えば、上部V字状係合部14bの部位にばね部材(図示せず)を設け、そのばね力によって拡縮可能な構成とし、移動させる際にはばね力に抗して拡径し、移動後は、ばね力によって上方誘引用支持部材12の所定の位置で留まるような構成とすることもできる。
【0028】
このようにしてつるおろしを行ったならば、最初の連結部材15の位置から各水平誘引用支持部材11に沿って所定の距離、例えば約30cm離れた部位を新たな連結部材15により各水平誘引用支持部材11に連結する。これにより、各水平誘引用支持部材11に沿って略水平姿勢となる主枝21,22の範囲21A,22Aが約30cm増加する。主枝21,22は、定植直後から略水平姿勢で生長しているため、つるおろしにより新たに略水平姿勢となる範囲が増加しても、主枝21,22が最初に分岐した部位付近に、両者を裂く方向への力が増加することはほとんどない。定植直後から上方に生長させ、複数本の主枝を生長させ、摘心せずにそのまま上方に伸長させてつるおろしを行う場合、主枝を略垂直姿勢から略水平姿勢に変化させているため、つるおろしを行う度に、主枝を下方に下げようとして分岐部付近から主枝を裂くような力が増加するが、本実施形態ではそのような力がかかることが抑制され、茎折れの発生リスクが低減される。
【0029】
本実施形態によれば、苗20を略水平姿勢で定植し、主枝21,22の確定後、主枝21,22を所定の長さまで略水平姿勢で生育し、その後、上方に向かって生長させ、所定の高さになったならば、摘心することなく、つるおろしを行う。主枝21,22が所定の長さに至るまでは略水平姿勢であるため、その後に上方に向かって生育させた場合に、同じ伸長量であれば、定植時から上方へ生長させる非特許文献1に開示のつるおろし栽培法と比較し、生長点の高さをより低く維持することができ、主枝21,22や側枝への手入れ、整枝あるいは芽かきなどを作業者の手の届く範囲で行うことができる。また、つるおろしを行って、つるおろした範囲の主枝21,22を略水平にした際も、主枝21,22の株元寄りの範囲が略水平であるため、主枝21,22の曲げ方向への力が抑制され、茎折れの発生も抑制される。また、略水平方向に生長させた後に上方に生長させているため、非特許文献1に開示のつるおろし栽培と比較し、地面から生長点までの高さが同じである場合、主枝21,22の全長は略水平方向に生長している分長い。そのため、果実Fの着果量もその分増加し、収量を上げることができる。
【0030】
ここで、苗20が略水平姿勢となるように育苗用培地30を定植用培地100上に載置すると、苗20の株元付近が略水平方向に伸びずに、下垂しつつ伸長する場合がある。また、苗20と台木20aとの接合が不十分な場合があり、定植直後に、苗20が略水平姿勢の場合、苗20と台木との接ぎ木部で折れてしまう場合がある。そこで、苗20を略水平姿勢で定植した直後において、定植用培地100の上面と該上面に対峙する苗20の株元付近の側面との間に、株元付近の側面を下方から支持する株元側面支持部材40を配設することが好ましい。株元側面支持部材40は、図7に示したように、苗20の株元付近の側面と定植用培地100の上面との間の距離とほぼ同じかそれをやや上回る高さを備え、育苗用培地30に一面が接した状態で、育苗用培地30の地際から数cm~十数cm程度の厚さを備えた略直方体状に形成されている。但し、苗20の株元付近の側面を支持して下垂を抑制できる限り、その形状は限定されるものではない。また、株元側面支持部材40を構成する材料としては、ロックウール、ヤシガラ、園芸用スポンジ(発泡フェノール樹脂)等を用いることができる。
【0031】
株元側面支持部材40を配置することにより、定植直後から苗20の下側の面が支持されて下方への垂下が抑制されると共に、株元付近からの不定根の発生が促され、株元側面支持部材40に活着し、苗20の略水平姿勢での生長が安定する。
【0032】
なお、上記実施形態では、定植時において、図2に示したように、定植用培地100の長手方向に沿って、育苗用培地30が長手方向一方側となり、苗20が長手方向他方側となるように、定植用培地100上に配置している。これにより、定植用培地100の長手方向両側部において、上記のように、主枝21,22を略水平姿勢で生長させ、さらに、互いに逆方向の斜め上方に誘引することができ、効率のよい栽培が可能であるが、例えば、図8に示したように、定植用培地100上に、苗20が定植用培地100のいずれかの側部方向に伸長するように配置することも可能である。好ましくは、図8に示したように、所定間隔で育苗用培地30を定植用培地100の長手方向に沿って配置すると共に、隣接する育苗用培地30における各苗20が、一方の側部方向、他方の側部方向と、隣接するもの同士が互いに反対方向に伸長するようにすなわち互い違いの向きで配置する。
【0033】
そして、一方の側部方向に伸びた苗20が分岐したならば、主枝21,22を選択してして略水平に所定の長さまで伸長させ、その後、誘引線13により上方に誘引する。他方の側部方向に伸びた苗20も同様に生長させる。これにより、上記実施形態と同様に、主枝21,22を所定の長さまで略水平姿勢で生長させた後、上方に生長させることができ、同様の作用、効果が得られる。
【0034】
但し、この場合、苗20から最初の側枝が発生する時点で、定植用培地100の側部より外方に伸長している場合があり、この場合には、主枝21,22を略水平方向に生長させるために、定植用培地100の側部の外方にそれを支持する部材を設けるか、定植用培地100の幅をより広くするといったさらなる工夫が必要になることから、上記実施形態のような定植方法がより好ましい。
【0035】
また、上記実施形態のつるおろし作業は、図4に示したように、誘引部材13をフック部材14から巻き戻してつるおろし、次に、フック部材14を上方誘引用支持部材12に沿ってずらし、さらに、水平誘引用支持部材11に連結させている連結部材15よりも、水平誘引用支持部材11に沿って所定距離、上記の例では約30cm離れた位置で新たな連結部材15により主枝21,22の略水平姿勢になった部位を連結している。すなわち、主枝1本に対し、一つのフック部材14及び一つの誘引部材13によりつるおろしを行っているが、これに限らず、例えば、図9に示した方法を採ることができる。
【0036】
図9に示した実施形態では、上方誘引用支持部材12に係合されるフック部部材14を予め所定間隔毎に固定配置する。誘引部材13もフック部材14毎に取り付けておく。図9の左側に示した主枝21,22のように、所定の長さに到達してつるおろしを行う際には、左側に示したフック部材14Aに支持された誘引部材13Aに連結していた連結部材15Aを全て取り外す。次いで、図9の右側に配置されたフック部材14Bに支持された誘引部材13Bに連結部材15Bを用いて止める。これにより、上記実施形態と同様、水平誘引用支持部材11において、図9の左側から右側へと略水平姿勢の範囲21A,21Bが増加し、主枝21,22の生長点の位置が下がることになる。
【0037】
図4に示した実施形態では、上方誘引用支持部材12に係合させているフック部材14を移動させる必要があるため、その作業に限ってではあるが、比較的高い位置に対する作業が含まれる。一方、図9に示した実施形態では、フック部材14A,14Bは固定させたままでよいため、そのような高い位置に対する作業が不要である。但し、連結部材15Aを図の左側の誘引部材13Aから全て取り外し、新たな連結部材15Bを用いて図の右側の誘引部材13Bで止め直す手間は必要となる。
【0038】
また、上記のように、ナスの苗20は育苗用培地30に根付いた状態で提供されるため、この育苗用培地30を定植用培地100上に載置することが定植作業となる。そのため、定植用培地100上に載置した際の通気性、排水性を確保すべく、例えば、ロックウール等を用いた成型培地からなる育苗用培地30の場合、定植用培地100との接触面となる底面に、凸部及び凹部の組合せからなる凹凸面が形成されている。従来法の場合には、育苗用培地30において上方に向かって生長している苗20を、そのまま上方に向けた姿勢で定植用培地100上に載置するため、凹凸面が底面に形成されていれば、定植時には、凹凸面は自ずと定植用培地100との接触面となる。すなわち、図10(a)に示したように、育苗用培地30における苗20の植え付け面310Aに対して、凹凸面310Bが180度反対側の面に形成されている。
【0039】
これに対し、本発明では、上記のように、育苗時に上方に向かって伸びていた苗20を横向きで、すなわち、略水平姿勢で定植する。従って、従来法のように、育苗時において凹凸面310Bを底面とした場合には、定植用培地100に苗20を略水平姿勢で定植すると、当該凹凸面310Bは、定植用培地100の上面に接触する面とはならず、約90度ずれた側面に位置することになり、定植用培地100との接触面において通気性、排水性を高めるための隙間が形成されない。
【0040】
これらのことより、育苗用培地30としては、図10(b)に示したように、苗20を植え付けるための溝等が形成された植え付け面320Aに対して凹凸面320Bが反対面ではなく側面に形成された構成とすることが好ましい。
【0041】
育苗時においては、図10(b)に示したように、苗20が上方に伸びるように、すなわち、植え付け面320Aが上面となる姿勢で栽培を行う。定植時においては、図10(c)に示したように、定植用培地100の上面に、凹凸面320Bが接するように配置する。これにより、苗20は自ずと略水平姿勢で定植されることになり、定植用培地100と凹凸面320Bとの間に所定の隙間が形成され、通気性、排水性が確保される。その結果、定植用培地100への発根が促進される。
【符号の説明】
【0042】
10 ナスの栽培装置
11 水平誘引用支持部材
12 上方誘引用支持部材
13,13A,13B 誘引部材
14,14A,14B フック部材
14a 巻き付け部
14b 上部V字状係合部
14c 引っかけ部
14d 被覆部材
15,15A,15B 連結部材
20 苗
20a 台木
21,22 主枝
30 育苗用培地
310A,320A 植え付け面
310B,320B 凹凸面
40 株元側面支持部材
100 定植用培地
図1
図2
図3
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図8
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図10