(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065080
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】動的データ独立取得を実施するためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20240507BHJP
H01J 49/00 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
G01N27/62 X
G01N27/62 E
G01N27/62 C
H01J49/00 310
H01J49/00 360
H01J49/00 400
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023184343
(22)【出願日】2023-10-27
(31)【優先権主張番号】17/976260
(32)【優先日】2022-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】503363806
【氏名又は名称】サーモ フィニガン エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】Thermo Finnigan LLC
(71)【出願人】
【識別番号】513260225
【氏名又は名称】ユニヴァーシティ オブ ワシントン
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ エム.レメス
(72)【発明者】
【氏名】ピン エフ.イップ
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル ジェイ.マコス
(72)【発明者】
【氏名】リリアン ハイル
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041AA06
2G041CA01
2G041EA04
2G041EA06
2G041EA12
2G041FA12
2G041GA09
2G041HA01
2G041KA01
2G041LA06
(57)【要約】
【課題】 動的データ独立取得を実施するためのシステム及び方法を提供する。
【解決手段】 動的DIAを実施するためのシステムは、複数の取得サイクルをスケジューリングする取得スケジュールに基づいて、分析物が分離システムから溶出するにつれて、試料中に含まれる分析物に由来する生成イオンのMS2スペクトルを取得するように質量分析計に指示する。取得スケジュールは、複数の取得サイクルに含まれる各取得サイクルについて、分析物の予想溶出時間に基づいて、動的前駆体m/z範囲を指定する。生成イオンは、各取得サイクル中に、動的前駆体m/z範囲全体にわたって連続的に位置付けられた単離窓を使用して単離された前駆体イオンから生成される。システムは、分析物が溶出するときに、分析物の溶出時間における溶出時間シフトを検出し、検出された溶出時間シフトに基づいて、取得スケジュールを調整する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
命令を記憶する非一時的コンピュータ可読媒体であって、前記命令は、実行されると、質量分析のためのコンピューティングデバイスの少なくとも1つのプロセッサに、
複数の取得サイクルをスケジューリングする取得スケジュールに基づいて、試料中に含まれる分析物が分離システムから溶出するにつれて、前記分析物に由来する生成イオンのMS2スペクトルを取得するように質量分析計に指示することであって、
前記取得スケジュールが、前記複数の取得サイクルに含まれる各取得サイクルについて、前記分析物の予想溶出時間に基づいて動的前駆体m/z範囲を指定し、
前記生成イオンが、各取得サイクル中に、前記動的前駆体m/z範囲全体にわたって連続的に位置付けられた単離窓を使用して単離された前駆体イオンから生成される、指示することと、
前記分析物が前記分離システムから溶出するにつれて、前記分析物の前記溶出時間における溶出時間シフトを検出することと、
検出された前記溶出時間シフトに基づいて、前記取得スケジュールを調整することと、を行うように指示する、コンピュータ可読媒体。
【請求項2】
前記溶出時間シフトを検出することが、
前記取得スケジュールに基づいて、前記MS2スペクトルの取得中に、アラインメントスペクトルのセットを取得するように前記質量分析計に指示することと、
現在の溶出時間を取り囲む、前記分析物の予想溶出プロファイルを表す基準スペクトルのセットに対する前記アラインメントスペクトルのセットの類似性を決定することと、
前記アラインメントスペクトルのセットの決定された前記類似性に基づいて、前記溶出時間シフトを検出することと、を含む、請求項1に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項3】
前記基準スペクトルのセットに対する前記アラインメントスペクトルのセットの前記類似性を前記決定することが、前記アラインメントスペクトルのセットを前記基準スペクトルのセットと相互相関させることを含む、請求項2に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項4】
前記アラインメントスペクトル及び前記基準スペクトルが、MS1スペクトルを含む、請求項2に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項5】
前記アラインメントスペクトル及び前記基準スペクトルが、MS2スペクトルを含む、請求項2に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項6】
前記取得スケジュールが、前記アラインメントスペクトルのセットの取得のための1つ以上のアラインメントサイクルを含む、請求項2に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項7】
前記溶出時間シフトを前記検出することが、
前記分析物の予想溶出プロファイルを表す基準スペクトルのセットに対する前記MS2スペクトルのセットの類似性を決定することと、
前記MS2スペクトルのセットの決定された前記類似性に基づいて、前記溶出時間シフトを検出することと、を含む、請求項1に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項8】
溶出時間の関数としての、前記取得スケジュール内の前記動的前駆体m/z範囲の位置が、前記MS2スペクトルにおいて表された前記分析物の量を最適化するように構成されている、請求項1に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項9】
前記命令が、実行されると、前記少なくとも1つのプロセッサに、前記試料に関連付けられたクロマトグラムライブラリ、及び定量化可能な遷移の最小数に基づいて、前記単離窓の単離幅を決定するように更に指示する、請求項1に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項10】
前記命令が、実行されると、前記少なくとも1つのプロセッサに、調整された前記取得スケジュールに基づいて前記生成イオンのMS2スペクトルを取得するように前記質量分析計に指示するように更に指示する、請求項1に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項11】
前記命令が、実行されると、前記少なくとも1つのプロセッサに、前記試料に関連付けられた分析物密度行列に基づいて、前記取得スケジュールを生成するように更に指示し、前記分析物密度行列が、前記分析物の予想量を、前記分析物のm/z及び予想溶出時間の関数として表す、請求項1~10のいずれか一項に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項12】
前記命令が、実行されると、前記少なくとも1つのプロセッサに、前記取得スケジュールを生成する前に、前記試料のDIA MS2特徴付け分析に基づいて、前記分析物密度行列を生成するように更に指示し、前記特徴付け分析が、関心対象の特徴付けm/z範囲をカバーする、請求項11に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項13】
前記特徴付け分析が、前記命令を実行して、
関心対象の特徴付けm/z範囲のサブセット内に単離窓を連続的に位置付けることによって、前記分離システムへの前記試料の注入のセットに含まれる各注入について、前記分析物に由来するイオンのMS2特徴付けスペクトルを経時的に取得するように前記質量分析計に指示し、
前記MS2特徴付けスペクトル及びスペクトルライブラリに基づいて、前記試料に関連付けられたクロマトグラムライブラリを生成し、かつ
前記試料に関連付けられた前記クロマトグラムライブラリに基づいて、前記分析物密度行列を生成する、請求項12に記載のコンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(政府支援の記述)
本発明は、国立衛生研究所によって授与された助成金第P41GM103533号及び同第U19AG065156号の下で政府の支援を受けて行われた。米国政府は、本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0002】
質量分析計は、分子から生成されるイオンの質量電荷比(m/z)に基づいて、分子を検出、同定、及び/又は定量化するために使用することができる高感度計器である。質量分析計は、一般に、試料中に含まれる分子からイオンを生成するためのイオン源、イオンのm/zに基づいてそのイオンを分離するための質量分析器、及び分離されたイオンを検出するためのイオン検出器を含む。質量分析計は、イオン検出器からのデータを使用して、検出されたイオンの各々の相対存在度を、m/zの関数として示す質量スペクトルを構築する、コンピュータベースのソフトウェアプラットフォームを含むか、又はそのソフトウェアプラットフォームに接続され得る。質量スペクトルは、単純な混合物及び複雑な混合物中の分子を検出及び定量化するために使用することができる。液体クロマトグラフ(liquid chromatograph、LC)、ガスクロマトグラフ(gas
chromatograph、GC)、又はキャピラリ電気泳動(capillary electrophoresis、CE)システムなどの分離システムは、複合システム(例えば、LC-MS、GC-MS、又はCE-MSシステム)において質量分析計に結合されて、試料中の成分を、その成分が質量分析計に導入される前に、分離することができる。
【0003】
質量分析の1つの応用は、複雑な生体試料中のペプチド、タンパク質、及び関連分子の同定、定量化、及び構造解明である。多くの場合、タンデム質量分析(MS/MSもしくはMS2)又は多段質量分析(MSn、ここで、nは、2以上である)と呼ばれる、かかるいくつかの実験では、特定のイオンが、制御された様式で断片化されて、生成イオンを生み出す。次いで、質量分析(MS/MS、MS2、又はMSn分析と呼ばれる)が、生成イオンについて実施されて、生成イオンの質量スペクトルを生成する。生成イオンの質量スペクトルは、同定を確認し、量を決定し、かつ/又は関心対象の分析物に関する構造的な詳細を導出するために使用することができる情報を提供する。
【0004】
タンデム質量分析及びMSn質量分析を使用して質量スペクトルを取得するために、様々な技法を使用することができる。一般的に使用される1つの技法は、データ依存取得(data-dependent acquisition、DDA)であり、これは、1つの質量分析において取得されたデータを使用して、所定の基準に基づいて質量単離及び断片化のための1つ以上のイオン種、又は狭いm/z範囲を選択する。例えば、質量分析計は、広い前駆体m/z範囲にわたって前駆体イオンの完全MS調査スキャンを実施することができ、次いで、後続のMS/MS又はMSn分析のために、結果として得られたスペクトルから1つ以上の前駆体イオン種を選択することができる。前駆体イオン種の選択基準には、強度、電荷状態、m/z、包含/除外リスト、又は同位体パターンが含まれ得る。DDA技法の主な欠点は、その結果の本質的にランダムな性質である。同じ試料の技術的な繰り返し、又は他の試料に対する比較分析が実施される場合、いくつかの分析物は、ある実験では測定され得るが、他の実験では測定されない場合がある。このことは、再現可能な分析を実施しようとする試みを挫折させ、「欠測値問題」として知られている。
【0005】
DDAと対照的に、データ独立取得(data independent acquisition、DIA)は、広い前駆体m/z範囲(例えば、500~900m/z)内の全ての前駆体イオン種が、固定したm/z幅(例えば、20m/z)の単離窓を逐次的に前進させることを介して単離及び断片化され、生成イオンを生成する技法である。次いで、MS2又はMSn分析が、体系的かつ偏りのない様式で、生成イオンに対して実施される。全前駆体m/z範囲にわたるスペクトルのセットの取得は、1回のサイクルを構成し、これを繰り返して、生成イオンのMS2又はMSn質量スペクトルを生成する。サイクル時間、又は1回のサイクルでスペクトルを取得するために必要な時間は、典型的には、少なくとも特定のサイクル数がクロマトグラフィのピーク幅毎に実行されるように設定され、その結果、そのピークの面積は、適切に積分され得る。DIA技法では、1つ以上の前駆体イオン種の単離及び断片化は、DDAにおけるような、調査質量分析で取得されたデータには依存せず、DDAとは異なる試料にわたって結果を比較するためには、はるかに適切である。
【0006】
DDA及びDIAと対照的に、標的質量分析は、分析物の固定されたリストの分析を実施する。標的質量分析は、選択反応監視(selected reaction monitoring、SRM)、多重反応監視(multiple
reaction monitoring、MRM)、及び並発反応監視(parallel reaction
monitoring、PRM)などの多くの形態で販売されている。一般に、質量分析計への試料の導入は、分離システムを使用して実施され、処理能力を増大させるために、オペレータは、関心対象の各分析物の特徴的な溶出時間付近の狭い期間中にのみ、各化合物の分析をスケジューリングする。標的質量分析は、計器が関心対象の分析物のより小さいグループの分析に特化して、その分析物の各々が、狭い又は更にはカスタマイズされた前駆体単離窓を有する場合に生成することができる高いデータ品質であるために、有利である。標的質量分析は、検出限界が低くて、かつダイナミックレンジが高い結果を生成する。ただし、標的質量分析の処理能力は、DIAのような技法よりも制限され、その場合、単離窓は、通常、複数の前駆体イオンを意図的に多重化するために十分広くなるように、意図的に作成される。
【0007】
DIA技法は、それが、より古いDDA技法の全体的な性質を、標的質量分析技法の再現可能でかつ定量化可能な性質と組み合わせるために、良い評価がされている。しかしながら、計器速度及び感度の制限に起因して、単離幅、前駆体m/z範囲、及びサイクル時間の間に緊張が存在する。一般に、より広い単離幅は、より広い前駆体m/z範囲に可能にし、したがって、非常に多くの前駆体イオン種の分析を可能にするが、より低い品質のデータを生成することになり、その理由は、広い単離窓は、隣接する分析物の同時単離及び同時断片化を引き起こし得、同定不可能又は低いスコアリングスペクトルをもたらす可能性があるからである。これに対して、より小さい単離幅は、より狭い前駆体m/z範囲によって分析することができるより少ない前駆体イオン種を犠牲にして、より高い感度で、かつより良好な品質データを生成する。例えば、非常に極端に狭い単離幅において、データは、感度及び選択性に関して最高の品質を有するが、前駆体イオン種は、最小範囲で分析される。逆に、極端に広い単離幅においては、より広い範囲の前駆体イオン種が分析され得るが、定量化のダイナミックレンジが損なわれる可能性があり、スペクトルが多くの異なる分析物によって生成される混合信号を有する可能性があるため、結果として得られたデータの品質は、妥協すべきものである。したがって、スペクトルを解釈することは困難である。
【発明の概要】
【0008】
以下の説明は、本明細書で説明される方法及びシステムの1つ以上の態様の簡略化された概要を提示して、かかる態様の基本的な理解を提供する。本概要は、全ての企図された態様の広範な概観ではなく、全ての態様の主要又は重要な要素を特定することも、任意又は全ての態様の範囲を線引きすることも意図されていない。その唯一の目的は、以下で提示されるより詳細な説明に対する前置きとして、簡略化された形態で本明細書に記載される方法及びシステムの1つ以上の態様のいくつかの概念を提示することである。
【0009】
いくつかの例示的な実施形態では、動的データ独立取得(DIA)を実施するためのシステムは、命令を記憶するメモリと、プロセッサとを備え、プロセッサは、メモリに通信可能に結合されており、命令を実行して、複数の取得サイクルをスケジューリングする取得スケジュールに基づいて、試料中に含まれる分析物が分離システムから溶出するにつれて、分析物に由来する生成イオンのMS2スペクトルを取得するように質量分析計に指示することであって、取得スケジュールは、複数の取得サイクルに含まれる各取得サイクルについて、分析物の予想溶出時間に基づいて動的前駆体m/z範囲を指定し、生成イオンは、各取得サイクル中に、動的前駆体m/z範囲全体にわたって連続的に位置付けられた単離窓を使用して単離された前駆体イオンから生成される、指示することと、分析物が分離システムから溶出するにつれて、分析物の溶出時間における溶出時間シフトを検出することと、検出された溶出時間シフトに基づいて、取得スケジュールを調整することと、を行うように構成されている。
【0010】
いくつかの例示的な実施形態では、非一時的コンピュータ可読媒体は、命令を記憶し、命令は、実行されると、質量分析のためのコンピューティングデバイスの少なくとも1つのプロセッサに、複数の取得サイクルをスケジューリングする取得スケジュールに基づいて、試料中に含まれる分析物が分離システムから溶出するにつれて、分析物に由来する生成イオンのMS2スペクトルを取得するように質量分析計に指示することであって、取得スケジュールは、複数の取得サイクルに含まれる各取得サイクルについて、分析物の予想溶出時間に基づいて動的前駆体m/z範囲を指定し、生成イオンは、各取得サイクル中に、動的前駆体m/z範囲全体にわたって連続的に位置付けられた単離窓を使用して単離された前駆体イオンから生成される、指示することと、分析物が分離システムから溶出するにつれて、分析物の溶出時間における溶出時間シフトを検出することと、検出された溶出時間シフトに基づいて取得スケジュールを調整することと、分析物が分離システムから溶出するにつれて、分析物の溶出時間における溶出時間シフトを検出することと、検出された溶出時間シフトに基づいて、取得スケジュールを調整することと、を行うように指示する。
【0011】
いくつかの例示的な実施形態では、動的データ独立取得(DIA)を実施する方法は、複数の取得サイクルをスケジューリングする取得スケジュールに基づいて、試料中に含まれる分析物が分離システムから溶出するにつれて、分析物に由来する生成イオンのMS2スペクトルを取得するように質量分析計に指示することであって、取得スケジュールは、複数の取得サイクルに含まれる各取得サイクルについて、分析物の予想溶出時間に基づいて動的前駆体m/z範囲を指定し、生成イオンは、各取得サイクル中に、動的前駆体m/z範囲全体にわたって連続的に位置付けられた単離窓を使用して単離された前駆体イオンから生成される、指示することと、分析物が分離システムから溶出するにつれて、分析物の溶出時間における溶出時間シフトを検出することと、検出された溶出時間シフトに基づいて、取得スケジュールを調整することと、を含む。
【0012】
いくつかの例示的な実施形態では、動的データ独立取得(DIA)を実施するための方法は、試料に関連付けられた分析物密度行列を取得することであって、その分析物密度行列は、試料に含まれる分析物の予想量を、分離システムからの分析物のm/z及び予想溶出時間の関数として表す、取得することと、分析物密度行列に基づいて、DIA MS2スペクトルの取得のための複数の取得サイクルをスケジューリングし、かつ、複数の取得サイクルに含まれる各取得サイクルについて、分離システムからの分析物の予想溶出時間に基づく動的前駆体m/z範囲を指定する、取得スケジュールを生成することと、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
添付の図面は、様々な実施形態を例解し、本明細書の一部である。例解された実施形態は単なる例であり、本開示の範囲を制限するものではない。図面全体を通して、同一又は類似の参照番号は、同一又は類似の要素を指示する。
【
図1】例示的なLC-MSシステムの機能図を示す。
【
図2】
図1のLC-MSシステムに含まれ得る質量分析計の例示的な実施態様の機能図を示す。
【
図3】動的DIA実験を実施するために使用することができる例示的な質量分析制御システムの機能図を示す。
【
図4】動的DIA実験を実施する例示的な方法を示す。
【
図5】例示的な分析物密度行列のグラフィカルな表現を示す。
【
図6】試料を特徴付けるための気相分留法を使用して、
図5の分析物密度行列を生成するための例示的なスキームの機能図を示す。
【
図7】
図5の分析物密度行列に関連する静的前駆体m/z範囲及び動的取得スケジュールを示す。
【
図8A】
図5の分析物密度行列で表された分析物について可能な最大単離幅の分布を例示するチャートを示す。
【
図8B】所与の単離幅を使用して定量化され得る分析物の数、スケジューリングされたMS2取得を用いて分析され得る分析物の数、及び定量化可能であり、かつスケジューリングされたMS2取得を用いて分析され得る分析物の数を示すチャートを示す。
【
図9】
図7の取得スケジュールに基づく動的DIAによって、MS2スペクトルを取得するための例示的スキームを示す。
【
図10】動的DIA実験中に取得されたアラインメントスペクトルを使用して、溶出時間シフトを検出する例示的な方法を示す。
【
図11】動的DIA実験中にアラインメントスペクトルを取得するための例示的なスキームを示す。
【
図12】アラインメントスペクトルのセットを、基準スペクトルのセットと相互相関させることによって、溶出時間シフトを検出するための例示的な技法を示す。
【
図13】例示的コンピューティングデバイスを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
動的データ独立取得(DIA)を実施するシステム、装置、及び方法が、本明細書で説明される。例えば、動的データ独立取得を実施するためのシステムは、複数の取得サイクルをスケジューリングする取得スケジュールに基づいて、試料中に含まれる分析物が分離システムから溶出するにつれて、分析物に由来する生成イオンのMS2スペクトルを取得するように質量分析計に指示するように構成される。取得スケジュールは、複数の取得サイクルに含まれる各取得サイクルについて、分析物の予想溶出時間に基づいて動的前駆体m/z範囲を指定する。生成イオンは、各取得サイクル中に、動的前駆体m/z範囲全体にわたって連続的に位置付けられた単離窓を使用して単離された前駆体イオンから生成される。システムは、分析物が分離システムから溶出するにつれて、分析物の溶出時間における溶出時間シフトを検出し、かつ検出された溶出時間シフトに基づいて取得スケジュールを調整するように更に構成される。
【0015】
動的(DIA)を実施するために説明されるシステム、装置、及び方法は、分析物溶出時間がシフトするにもかかわらず、分析物有効範囲の高い率を経時的に維持する。動的DIAの場合、任意の時点で使用される動的前駆体m/z範囲は、最高密度前駆体m/z領域の分析を可能にする。動的DIAはまた、より高品質のデータを生み出すより狭い単離幅も可能にするが、分析の分析物有効範囲に対してわずかな費用である場合がある。しかしながら、動的前駆体m/z範囲が最高密度前駆体m/z領域をカバーすることを考慮すると、分析物有効範囲損失は、比較的小さい。代替として、又はより狭い単離幅を使用することと併せて、動的DIAは、取得が、より長い時間の間、イオンを蓄積することを可能にし、これは、より少ない存在度の分析物の特徴付けを可能にし、分析の品質を向上させることができる。
【0016】
ここで、図面を参照して、様々な実施形態をより詳細に説明する。本明細書で説明されるシステム及び方法は、上述の利点のうちの1つ以上、並びに/若しくは本明細書で明らかにされる様々な追加の及び/又は代替の利点を提供し得る。
【0017】
いくつかの実施態様では、イオン集団調整を実施するための方法及びシステムは、LC-MSシステムなどの複合分離-質量分析システムと併せて使用することができる。したがって、ここでは、LC-MSシステムについて説明される。説明されるLC-MSシステムは、例示的なものであり、かつ非限定的なものである。本明細書で説明される方法及びシステムは、本明細書で説明されるLC-MSシステム、及び/若しくは、高性能液体クロマトグラフィ-質量分析(high-performance liquid chromatography-mass spectrometry、HPLC-MS)システム、ガスクロマトグラフィ-質量分析(gas chromatography-mass spectrometry、GC-MS)システム、又はキャピラリ電気泳動-質量分析(capillary electrophoresis-mass spectrometry、CE-MS)システムを含む任意の他の適切な分離-質量分析システム、の一部として又はそれと併せて動作することができる。本明細書で説明される方法及びシステムはまた、分析物が(カラム内の分離なしに)移動相に注入され、かつ時間依存強度変動(例えば、ガウシアンのようなピーク)を伴って質量分析計に入るフロー注入質量分析システム(flow-injection mass spectrometry system、FI-MS)などの任意の他の連続フロー試料源と併せて動作することもできる。
【0018】
図1は、例示的なLC-MSシステム100の機能図を示している。このLC-MSシステム100は、液体クロマトグラフ102、質量分析計104、及びコントローラ106を含む。液体クロマトグラフ102は、液体クロマトグラフ102に注入される試料108中の成分(例えば、分析物)を経時的に分離するように構成される。試料108は、例えば、LC-MSシステム100による検出及び分析のための、化学成分(例えば、分子、イオンなど)及び/又は生物学的成分(例えば、代謝物質、タンパク質、ペプチド、脂質など)を含み得る。液体クロマトグラフ102は、特定の実施態様に適合し得るような任意の液体クロマトグラフによって実装することができる。液体クロマトグラフ102では、試料108は、移動相(例えば、溶媒)中に注入され得、その移動相は、固定相(例えば、吸着充填材料)を収容するカラム110を通って試料108を運ぶ。移動相がカラム110を通過するにつれて、試料108中の成分は、例えば、それらのサイズ、固定相に対するそれらの親和性、それらの極性、及び/又はそれらの疎水性に基づいて、異なる時間でカラム110から溶出する。
【0019】
検出器(例えば、質量分析計104のイオン検出器コンポーネント、イオン電子コンバータ、及び電子増倍管など)は、カラム110からの溶出液112中の各々分離された成分によって変調された信号の相対強度を測定することができる。検出器によって生成されたデータは、x軸上に保持時間をプロットし、かつy軸上に相対強度を表す信号をプロットするクロマトグラムとして表すことができる。成分の保持時間は、一般に、移動相への試料108の注入と、クロマトグラフの分離後の相対強度ピーク最大値との間の期間として測定される。いくつかの例では、相対強度は、分離された成分の相対存在度と相関し得るか、又はそれを表し得る。液体クロマトグラフ102によって生成されたデータは、コントローラ106に出力することができる。
【0020】
場合によっては、特に複雑な混合物の分析では、試料108中の複数の異なる成分が、ほぼ同じ時間でカラム110から同時溶出し、したがって、同じ又は同様の保持時間を有する場合がある。その結果、試料108中の個々の成分の相対強度の決定は、個々の成分に帰することができる信号の更なる分離を必要とする。この目的のために、液体クロマトグラフ102は、成分のうちの1つ以上の同定及び/又は定量化のために、溶出液112に含まれる成分を質量分析計104に向かわせる。
【0021】
質量分析計104は、液体クロマトグラフ102から受け取られた成分からイオンを生成し、イオンのm/zに基づいて、生成されたイオンを選別又は分離するように構成される。質量分析計104内の検出器は、イオンによって生成された信号の強度を測定する。本明細書で使用される場合、「強度」又は「信号強度」とは、検出器の応答を指し、絶対存在度、相対存在度、イオン数、強度、相対強度、イオン電流、又はイオン検出の任意の他の適切な尺度を表し得る。検出器によって生成されたデータは、観察された信号の強度を、検出されたイオンのm/zの関数としてプロットする、質量スペクトルによって表すことができる。質量分析計104によって取得されたデータは、コントローラ106に出力することができる。
【0022】
質量分析計104は、タンデム質量分析を実施するように構成されたタンデム質量分析計(MS/MS又はMS2と表される)、又は多段質量分析を実施するように構成された多段質量分析計(MSnとも表される)によって実装されてもよい。
【0023】
コントローラ106は、LC-MSシステム100(例えば、液体クロマトグラフ102及び質量分析計104)と通信可能に結合され得、その動作を制御するように構成され得る。コントローラ106は、LC-MSシステム100の様々な構成要素(例えば、液体クロマトグラフ102又は質量分析計104)の動作を制御し、かつ/又はそれらの構成要素とインターフェース接続するように構成された任意の適切なハードウェア(例えば、プロセッサ、回路など)及び/又はソフトウェアを含むことができる。
【0024】
図2は、質量分析計104の例示的な実施態様の機能図を示している。図に示すように、質量分析計104は、空間タンデム型であり(例えば、複数の質量分析器を有する)、MS/MSを実施するための2つの段階を有する。ただし、質量分析計104は、この構成に限定されるものではなく、任意の他の適切な構成を有してもよい。例えば、質量分析計104は、時間タンデム型であってもよい。追加的に又は代替的に、質量分析計104は、多段質量分析計であってもよく、多段タンデム質量分析(例えば、MS/MS/MS)を実施するための任意の適切な数の段階(例えば、3つ以上)を有してもよい。本明細書で使用される場合、タンデム質量分析とは、MS/MS並びにMSn質量分析を指し、ここで、nは、3以上である。
【0025】
図に示すように、質量分析計104は、イオン源202、第1の質量分析器204-1、衝突セル204-2、第2の質量分析器204-3、及びコントローラ206を含む。質量分析計104は、特定の実施態様に適合し得るようには示されていない任意の追加又は代替の構成要素(例えば、イオン光学、フィルタ、イオン貯蔵、自動試料採取装置、検出器など)を更に含むことができる。
【0026】
イオン源202は、構成要素からイオンの流れ208を生成し、そのイオンを第1の質量分析器204-1に送達するように構成される。イオン源202は、任意の適切なイオン化技法を使用することができ、そのイオン化技法には、電子イオン化、化学イオン化、マトリックスアシストレーザ脱離/イオン化、電気スプレーイオン化、大気圧化学イオン化、大気圧光イオン化、誘導結合プラズマなどが含まれるが、これらに限定されない。イオン源202は、試料108中に含まれる成分からイオンを生成し、そのイオンを第1の質量分析器204-1に送達するための様々な構成要素を含むことができる。
【0027】
第1の質量分析器204-1は、イオン流208を受け取り、選択されたm/z範囲の前駆体イオンを単離し、前駆体イオンのビーム210を衝突セル204-2に送達するように構成される。衝突セル204-2は、前駆体イオンのビーム210を受け取り、制御された解離プロセスを介して生成イオン(例えば、断片化イオン)を生成するように構成される。衝突セル204-2は、生成イオンのビーム212を第2の質量分析器204-3に指向するように更に構成される。第2の質量分析器204-3は、生成イオンのフィルタリング及び/又は質量分析の実施を行うように構成される。
【0028】
質量分析器204-1及び204-3は、イオンの各々のm/zに従ってイオンを単離又は分離するように構成される。質量分析器204-1及び204-3は、四重極質量フィルタ、イオントラップ(例えば、3次元四重極イオントラップ、円筒形イオントラップ、線形四重極イオントラップ、トロイダルイオントラップなど)、飛行時間(time-of-flight、TOF)質量分析器、静電トラップ質量分析器(例えば、Orbitrap質量分析器、Kingdonトラップなどの軌道静電トラップ)、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(Fourier transform ion cyclotron resonance、FT-ICR)質量分析器などのような任意の適切な質量分析器によって実装されてもよい。質量分析器204-1及び204-3は、同じタイプの質量分析器によって実装される必要はない。
【0029】
衝突セル204-2は、任意の適切な衝突セルによって実装することができる。本明細書で使用される場合、「衝突セル」は、制御された解離プロセスを介して生成イオンを生成するように構成された任意の構造又はデバイスを包含することができるが、衝突活性化解離のために使用されるデバイスに限定されない。例えば、衝突セル204-2は、衝突誘起解離、電子移動解離、電子捕捉解離、光誘起解離、表面誘起解離、イオン/分子反応などを使用して、前駆体イオンを断片化するように構成されてもよい。
【0030】
イオン検出器(図示せず)は、様々な異なるm/zの各々においてイオンを検出し、それに応じてイオン強度を表す電気信号を生成するように構成される。この電気信号は、試料の質量スペクトルを構築することなどの処理のために、コントローラ206に送信される。例えば、質量分析器204-3は、分離されたイオンの放出ビームをイオン検出器に放出することができ、そのイオン検出器は、放出ビーム内のイオンを検出し、コントローラ206が使用して試料の質量スペクトルを構築することができるデータを生成又は提供するように構成される。イオン検出器は、電子増倍管、ファラデーカップなどを含むがこれらに限定されない、任意の適切な検出デバイスによって実装することができる。
【0031】
コントローラ206は、質量分析計104に通信可能に結合され得、かつその質量分析計の動作を制御するように構成され得る。例えば、コントローラ206は、イオン源202、並びに/又は質量分析器204-1及び204-3に含まれる様々なハードウェア構成要素の動作を制御するように構成され得る。例示すると、コントローラ206は、イオン源202及び/又は質量分析器204の蓄積時間を制御し、振動電圧電源及び/又はDC電源を制御してRF電圧及び/又はDC電圧を質量分析器204に供給し、RF電圧及びDC電圧の値を調整して分析のための有効なm/z(質量許容窓を含む)を選択し、イオン検出器の感度を調整する(例えば、検出器利得を調整することによって)ように構成することができる。
【0032】
コントローラ206はまた、質量分析計104のユーザと、コントローラ206との間の対話を可能にするように構成されたユーザインターフェースを含むこともでき、かつ/又は提供することもできる。ユーザは、触覚、視覚、聴覚、及び/又は他の感覚タイプの通信によって、ユーザインターフェースを介して、コントローラ206と対話することができる。例えば、ユーザインターフェースは、情報(例えば、質量スペクトル、通知など)をユーザに表示するためのディスプレイデバイス(例えば、液晶ディスプレイ(liquid crystal display、LCD)表示スクリーン、タッチスクリーンなど)を含むことができる。ユーザインターフェースはまた、ユーザが入力をコントローラ206に提供することを可能にする入力デバイス(例えば、キーボード、マウス、タッチスクリーンデバイスなど)を含むこともできる。他の例では、ディスプレイデバイス及び/又は入力デバイスは、コントローラ206とは別個であり得るが、そのコントローラに通信可能に結合されてもよい。例えば、ディスプレイデバイス及び入力デバイスは、有線接続(例えば、1つ以上のケーブルによる)及び/又は無線接続を経由してコントローラ206に通信可能に接続されたコンピュータ(例えば、デスクトップコンピュータ、ラップトップコンピュータなど)に含まれてもよい。
【0033】
コントローラ206は、特定の実施態様に役立つことができるように、任意の適切なハードウェア(例えば、プロセッサ、回路など)及び/又はソフトウェアを含むことができる。
図2は、コントローラ206が質量分析計104内に含まれることを示しているが、コントローラ206は、別の方法として、有線接続(例えば、ケーブル)及び/又はネットワーク(例えば、ローカルエリアネットワーク、無線ネットワーク(例えば、Wi-Fi)、ワイドエリアネットワーク、インターネット、セルラーデータネットワークなど)を経由して質量分析計104に通信可能に結合されたコンピューティングデバイスなどによって、質量分析計104とは完全に又は部分的に別個に実装することができる。いくつかの例では、コントローラ206は、コントローラ106によって完全に又は部分的に実装することができる。
【0034】
LC-MSシステム100は、動的DIA実験を実施して、質量分析制御システムと併せて試料を分析するために、使用することができる。質量分析制御システムは、DIA実験を実施することに関連付けられた1つ以上の動作を制御及び/又は実施することができる。
図3は、例示的な動的DIAシステム300(「システム300」)の機能図を示している。システム300は、LC-MSシステム100によって(例えば、コントローラ106及び/又はコントローラ206によって)、全体的に又は部分的に実装され得る。あるいは、システム300は、LC-MSシステム100とは別個に実装され得る(例えば、リモートコンピューティングシステム又はサーバは、コントローラ106及び/又はコントローラ206とは別個であるが、それらに通信可能に結合される)。
【0035】
システム300は、互いに選択可能にかつ通信可能に結合されたメモリ302及びプロセッサ304を含むことができるが、これらに限定されない。メモリ302及びプロセッサ304は、各々、ハードウェア及び/又はソフトウェア構成要素(例えば、プロセッサ、メモリ、通信インターフェース、プロセッサによる実行のためにメモリに記憶された命令など)を含むことができるか、又はそれらによって実装され得る。いくつかの例では、メモリ302及びプロセッサ304は、特定の実施態様に役立ち得るように、複数のデバイス間、かつ/又は複数の場所間に分散することができる。
【0036】
メモリ302は、本明細書で説明される動作のいずれかを実施するために、プロセッサ304によって使用される実行可能データを維持(例えば、記憶)することができる。例えば、メモリ302は、プロセッサ304によって実行されて、本明細書で説明される動作のいずれかを実施することができる命令306を記憶することができる。命令306は、任意の適切なアプリケーション、ソフトウェア、コード、及び/又は他の実行可能なデータインスタンスによって実装され得る。
【0037】
メモリ302はまた、プロセッサ304によって取得され、受信され、生成され、管理され、使用され、かつ/又は送信された任意のデータを維持することもできる。例えば、メモリ302は、LC-MSデータ(例えば、取得されたクロマトグラムデータ及び/又は質量スペクトルデータ)、分析物密度行列、及び/又は基準スペクトルのセットを維持することができ、それらについては、以下で詳細に説明される。
【0038】
プロセッサ304は、本明細書で説明される様々な処理動作を実施する(例えば、実施するために、メモリ302に記憶された命令306を実行する)ように構成され得る。本明細書で説明される動作及び例は、プロセッサ304によって実施され得る多くの異なるタイプの動作のうちの単なる例示的なものであることが認識されるであろう。本明細書の説明では、システム300によって実施される動作への任意の言及も、システム300のプロセッサ304によって実施されるものと理解され得る。更に、本明細書の説明では、システム300によって実施される任意の動作は、システム300が、動作を実施するように別のシステム又はデバイスに指示又は命令することを含むと理解され得る。
【0039】
図4は、動的DIA実験を実施する例示的な方法400を示している。
図4は、一実施形態による例示的な動作を示しているが、他の実施形態は、
図4に示された動作のいずれかを省略、追加、再順序付け、及び/又は修正を行うことができる。
図4に示された動作のうちの1つ以上は、LC-MSシステム100及び/若しくはシステム300、それらの中に含まれる任意の構成要素、並びに/又はそれらの任意の実施態様(例えば、質量分析計104、質量分析計104の1つ以上の構成要素、及び/又は、質量分析計104とは別個であるが、それに通信可能に結合されるリモートコンピューティングシステム)によって実施され得る。
【0040】
動作402において、システム300は、試料(例えば、試料108)に関連付けられた分析物密度行列に基づいて、試料に含まれる分析物が分離システム(例えば、液体クロマトグラフ102)から溶出するときに、その分析物に由来するイオンのMS2スペクトルをDIAによって取得するための取得スケジュールを生成する。分析物密度行列は、定量化可能な分析物の予想量を、分析物に由来する前駆体イオンのm/z、及び分析物の溶出時間の関数として表す。クロマトグラフの分離アプリケーションの場合、溶出時間は、保持時間を指し、その保持時間は、一般に、移動相への試料の注入と、クロマトグラフの分離後の相対強度ピーク最大値との間の期間として測定される。分析物は保持されないが、代わりに連続的に移動するキャピラリ電気泳動アプリケーションの場合、溶出時間は、移動時間を指す。移動時間は、一般に、分析物がキャピラリの先頭から検出ポイントまで移動するのにかかる期間として測定される。
【0041】
図5は、ほぼ20,000個の定量化可能なペプチドを有する生体試料についての例示的な分析物密度行列500のグラフィカルな表現を示している。分析物密度行列500において、x軸は、溶出時間(分単位)を示し、y軸は、ペプチドの前駆体イオンのm/zを示し、z軸は、前駆体イオンの量を示す。このように、分析物密度行列500は、ペプチドが分離システムから溶出するにつれて、溶出時間にわたるm/zの異なる値におけるペプチドの量を表している。より明るい色は、ペプチドのより高い密度を表し、より暗い色は、ペプチドのより低い密度を表している。図からわかるように、溶出するペプチドの密度は、ペプチドのm/z及び溶出時間の関数として変化する。
【0042】
再び
図4を参照すると、分析物密度行列は、動的DIA実験を実施する前に(例えば、動的DIA MS2取得のための、分離システムへの試料の注入の前に、かつ/又は方法400を開始する前に)生成される。分析物密度行列は、任意の適切な方法で生成することができる。
【0043】
いくつかの例では、分析物密度行列は、特徴付け分析によって実験的に生成される。
図6は、試料を特徴付けるための気相分留法を使用して、分析物密度行列500を生成するための例示的なスキーム600の機能図を示している。図に示すように、試料602(例えば、試料108)の複数回の注入は、複合分離-質量分析システム(例えば、LC-MSシステム100)によって分析される。システム300は、分析物が分離システムから溶出するにつれて、関心対象の特徴付けm/z範囲の狭いサブセット全体にわたって連続的に位置付けられた狭い単離窓を使用して生成イオンを分析することによって、各注入についてのMS2特徴付けスペクトル604を取得するように、質量分析計に指示する。
図6に示すように、試料602は、6つの異なる時間に注入され、各注入は、400~1000m/zにわたって、関心対象の特徴付けm/z範囲の100m/zに及ぶ。いくつかの例では、単離窓の単離幅は、0m/zよりも大きいが、約4m/z以下である。他の例では、単離窓の単離幅は、0m/zよりも大きいが、約2m/z以下である。また更なる例では、単離幅は、0m/zよりも大きいが、約1m/z以下である。関心対象の特徴付けm/z範囲の狭いサブセット、及び狭い単離幅を使用することによって、試料は、高感度及び高精度で分析することができる。関心対象の特徴付けm/z範囲、関心対象の特徴付けm/z範囲のサブセット、及び注入の回数は、
図6に示すようなものである必要はないが、特定の実施態様に適合し得るように修正することができる。
【0044】
システム300は、MS2特徴付けスペクトル604をスペクトルライブラリ606と比較して、スペクトルマッチを識別し、クロマトグラムライブラリ608を構築する。クロマトグラムライブラリ608は、溶出時間、前駆体m/z、ペプチド断片化パターン、及び、試料602中の各分析物を同定する既知の干渉を記録する。このようにして、溶出するペプチドの量を決定することができる。システム300は、クロマトグラムライブラリ608を使用して、分析物密度行列500を生成することができる。MS2特徴付けスペクトル604において検出された分析物は、高品質分析を可能にする特徴付けのために、遷移の数、時間相関、実験的関連性(例えば、関心対象の標的分析物)、及び/又は総面積に基づいて、フィルタリングされ得る。例えば、定量化可能なペプチドは、0.9以上の時間相関、及び1000よりも大きい総面積を有する少なくとも4つの遷移を有するペプチドを含み得る。ただし、他のパラメータ及び/又はパラメータ値を選択して、定量化可能であるペプチドの集団を決定することができる。
【0045】
あるいは、スキーム600のように、分析物密度行列を実験的に生成するために、分析物密度行列は、予測MS2特徴付けスペクトル及び溶出時間を生成する深層学習モデル(例えば、The ProteomeTools Projectによって開発されたProsit)を使用することなどによって、インシリコで生成することができる。予測MS2特徴付けスペクトルは、スペクトルライブラリと比較されて、スペクトルマッチを識別し、クロマトグラムライブラリを構築し、そのクロマトグラムライブラリは、上述したように、分析物密度行列を生成するために使用され得る。
【0046】
上述のように、システム300は、分析物密度行列を使用して、動的DIA実験のための取得スケジュールを生成する。取得スケジュールは、MS2スペクトルの取得のための複数の取得サイクルをスケジューリングし、各取得サイクルについて、試料中に含まれる分析物の予想溶出時間に基づいて、関心対象の特徴付けm/z範囲内の動的前駆体m/z範囲を指定する。いくつかの例では、以下に説明されるように、取得スケジュールはまた、取得スケジュールの溶出時間調整を実施して分析物の溶出時間ドリフトを考慮するために使用することができるアラインメントスペクトルの取得もスケジューリングする。
【0047】
関心対象の特徴付けm/z範囲は、分析物密度行列によってカバーされる広い前駆体m/z範囲であり、試料の特徴付け分析において分析される前駆体m/z範囲である。分析物密度行列500において、関心対象の特徴付けm/z範囲は、600m/zにわたり、400m/z~1000m/zに及ぶ。動的前駆体m/z範囲は、関心対象の特徴付けm/z範囲内のより狭いm/z範囲である。動的前駆体m/z範囲内のm/zを有するイオンは、第1の質量分析器(例えば、質量分析器204-1)によって単離され、生成イオンへの断片化のための衝突セル(例えば、衝突セル204-2)に送達される。生成イオンは、第2の質量分析器(例えば、質量分析器204-3)に送達及び分析されて、MS2質量スペクトルを生成する。
【0048】
DIAを実施する従来の方法は、静的前駆体m/z範囲を使用する。例えば、
図7は、破線702-1及び702-2によって分析物密度行列500上にそれぞれ示された下限及び上限を有する静的前駆体m/z範囲を伴う分析物密度行列500を示している。図に示すように、静的前駆体m/z範囲は、DIA実験の全過程にわたって、450m/zから750m/zまでの300m/zに及ぶ。ただし、分析物密度行列500に示されているように、最も高いペプチド密度を有する分析物密度行列500の領域は、経時的に変化している。例えば、20分の溶出時間で、ペプチドの最高密度は、約400m/z~700m/zで生じている。60分の溶出時間で、ペプチドの最高密度は、約400m/z~900m/zで生じている。80分の溶出時間で、ペプチドの最高密度は、約600m/z~1000m/zで生じている。結果として、静的前駆体m/z範囲は、検出不可能なイオンをほとんど又は全く伴わない分析物密度行列500の有意な領域(例えば、静的前駆体m/z範囲内の上部左隅及び下部右隅)を分析し、一方、高いペプチド密度を伴う有意なm/z領域(例えば、60分後の分析物密度行列500の頂部)は、分析から除外される。その結果、比較的小さいパーセンテージ(例えば、60%)の定量化可能なペプチドが分析され得る。
【0049】
実験の過程にわたって分析されるペプチドの数を最適化するために、システム300は、MS2スペクトルの取得のための複数の取得サイクルをスケジューリングし、各取得サイクルについて、分析物の予想溶出時間に基づいて動的前駆体m/z範囲を指定する取得スケジュールを生成する。本明細書で使用される場合、動的前駆体m/z範囲は、溶出時間の関数として変化する上限及び下限を有する。したがって、取得スケジュールは、動的前駆体m/z範囲の上限及び下限、並びに分析物密度行列のm/z領域に沿った動的前駆体m/z範囲の位置を指定する。
【0050】
図7は、分析物密度行列500に基づいて生成することができる、動的DIAについての例示的な取得スケジュールのグラフィカルな表現を示している。図に示すように、分析物密度行列500上の実線704-1及び704-2は、それぞれ、動的前駆体m/z範囲の下限及び上限を示している。動的前駆体m/z範囲は、m/z領域に沿って経時的に中央に置かれて、DIA MS2によって分析されるペプチドの数を最適化する。
【0051】
本明細書で使用される場合、「最適化する」及びその変形は、可能な解のセットの中から、改善された又は最適な解を探し求めることを意味するが、最適化プロセスが最良の解を見出す前に終了するとき、事前定義された基準を満たす複数の解が存在するとき、ある解が最小基準を満たすとき、又は選択された最適化技法が最善の解に収束することができないときなどには、最良の解は、必ずしも取得することができない。同様に、本明細書で使用される場合、「最適」パラメータ(例えば、パラメータの「最大」又は「最小」の値)は、最適化プロセスを実施した結果として得られた解を意味し、したがって、必ずしもパラメータの絶対極値(例えば、絶対的な最大又は最小の値)ではない可能性があるが、依然としてパラメータを調整して、改善をもたらす。
【0052】
取得サイクルにおいて分析することができる動的前駆体m/z範囲のスパンは、一般に、単離幅、計器速度、及びサイクル時間に依存する。計器速度は、その計器が単離幅にわたって1回の取得を実施することができる速度である。取得サイクルのサイクル時間は、計器が動的前駆体m/z範囲全体にわたって質量スペクトルのセットを取得するのにかかる時間の量である。例えば、2m/zの単離幅、75Hzの計器速度、及び2秒のサイクル時間の場合、システム300は、m/z領域に沿って300m/zの前駆体m/z範囲をカバーする取得サイクル毎に150回の取得を分散させて、任意の所与の時間で溶出することが予想される分析物の前駆体イオンを最も良く捕捉することができる。
【0053】
いくつかの例では、システム300は、分析物密度行列を生成するために使用されるクロマトグラムライブラリ(例えば、クロマトグラムライブラリ608)などのクロマトグラムライブラリに基づいて、取得サイクルのための単離幅を決定する。クロマトグラムライブラリは、分析物についての定量化可能な遷移の最小数(例えば、4、5など)を維持しながら、任意の分析物について可能な最大単離幅の分布を示すことができる。
【0054】
図8Aは、分析物密度行列500で表される分析物についての最大可能単離幅の分布を例示する、チャート800Aを示している。この文脈では、最大可能単離幅は、前駆体の遷移が最小許容品質で分析され得る最大幅を指す。最大可能単離幅を決定する実証的な例は、国際公開第2022/106948(A1)号に記載されており、それは、参照により、その全体が本明細書に組み込まれる。
図8Aの例では、チャート800Aは、1m/zの単離幅で生成されたクロマトグラムライブラリ608に基づく。チャート800Aに示されているように、分析物密度行列500によって表される20,000個の定量化可能なペプチドのうち、33%が1m/zの最大単離幅を有し、11%が2m/zの最大単離幅を有し、12%が3m/zの最大単離幅を有し、11%が4m/zの最大単離幅を有し、33%が5m/zの最大単離幅を有する。システム300は、取得スケジュールを生成するときに、この単離幅情報を使用して、定量化可能であり、かつ選択された単離幅を使用してスケジューリングされたDIAによってスケジューリング可能である分析物の総数を決定することができる。例えば、
図8Bは、チャート800Bを示しており、このチャートは、所与の単離幅(例えば、所与の単離幅で最小数の遷移を維持する)を使用して定量化することができる分析物の数、スケジューリングされたMS2取得で分析することができる分析物の数、及び、定量化可能であり、かつスケジューリングされたMS2取得で分析することができる分析物の数を示している。
図8Bは、品質及び有効範囲の競合する要件を例示している。
図8Bの例では、3m/zの単離幅は、スケジューリングされたMS2取得で分析することができるペプチドの最適数を提供する。したがって、システム300は、単離幅を3m/zに設定する。取得スケジュールは、取得サイクルの単離幅を指定する。
【0055】
いくつかの例では、単離窓の単離幅は、0m/zよりも大きいが、約4m/z以下である。他の例では、単離窓の単離幅は、0m/zよりも大きいが、約2m/z以下である。また更なる例では、単離幅は、0m/zよりも大きいが、約1m/z以下である。いくつかの例では、取得サイクルのために使用される単離幅は、経時的に変化する。例えば、取得スケジュールは、動的DIA実験において後で生じる取得サイクルに対してより大きい(又はより小さい)単離幅を使用することができる。これらの時間変動単離幅は、
図8A及び
図8Bを参照して上述した方法と同じ方法で、各単離幅決定のために分析物を時間ビンに分離することによって決定することができる。
【0056】
いくつかの例では、取得サイクル時間は、分析物が溶出しているときに、分析物の溶出ピークの幅に基づいて決定される。したがって、システム300は、試料の特徴付け分析から生成されたクロマトグラムライブラリに記録された溶出ピークの幅に基づいて、取得サイクル時間を設定することができる。
【0057】
いくつかの例では、動的前駆体m/z範囲のスパンは、一定のままである(例えば、任意の時点で同じである)。例えば、
図7に示すように、動的前駆体m/z範囲のスパンは、経時的に一定(例えば、300m/z)のままである。他の例では、動的前駆体m/z範囲のスパンもまた、上述したように、システム300が動的DIA実験の過程にわたって時間変動単離幅を使用するときなど、経時的に変化する。
【0058】
図7に示すように、前駆体m/z範囲は、下限から上限まで連続している。他の例では、前駆体m/z範囲は、1つ以上の時点で非連続的である。すなわち、前駆体m/z範囲は、各々が異なる上限及び下限を有する複数の非連続的スパンを有し得る。
【0059】
動的前駆体m/z範囲を用いると、従来のDIA法を用いた場合よりも、より多くの分析物が、DIAによって分析され得る。
図7の例では、動的前駆体m/z範囲を有する取得スケジュールは、結果として、定量化可能なペプチドの70%以上が分析されることをもたらし得る。
【0060】
図4に戻ると、動作404において、システム300は、試料中に含まれる分析物が溶出するにつれて、取得スケジュールに基づいて、分析物に由来する生成イオンのMS2スペクトルを取得するように質量分析計に指示する。
図9は、取得スケジュールに基づいて、動的DIAによってMS2スペクトルを取得するための例示的スキーム900を示している。スキーム900に示されているように、複数の取得サイクル902(例えば、取得サイクル902-1、902-2、902-M、及び902-N)が、MS2スペクトルの取得のためにスケジューリングされる。スケジューリングされた取得サイクル902-1は、固定単離幅の小さい単離窓904内にm/zを有する前駆体イオンを単離し、単離された前駆体イオンを生成イオンに断片化し、そして生成イオンのMS2分析を実施してMS2スペクトルを取得することによって実施される。単離窓904は、取得サイクル902-1中の時間にわたって、動的前駆体m/z範囲906全体にわたって連続的に位置付けられて、動的m/z範囲906全体をカバーし、それによって、分析物の同定及び定量化のために使用され得るMS2質量スペクトルのセットを取得する。第1の動的前駆体m/z範囲906は、400m/z~900m/zの範囲にわたる。動的前駆体m/z範囲906をカバーするMSスペクトルのセットを取得するのにかかる時間は、矢印908によって表されるサイクル時間である。
図9の例では、単離窓904は、20m/zの固定単離幅を有し、動的前駆体m/z範囲906は、300m/zに及ぶ。したがって、スケジューリングされたMS2取得サイクルは、15個の取得を含む。
【0061】
図9が、単なる例示的なものであり、なぜならば、単離窓904の単離幅、サイクル時間、動的前駆体m/z範囲906のスパン、及び/又は、単離窓904の連続的な位置付けの順序が、特定の実施態様に適合することができるように異なってもよいからであることが理解されるであろう。いくつかの例では、単離幅は、取得サイクル902-1内に固定されず、m/zに基づいて変化する。例えば、単離幅は、動的前駆体m/z範囲906(例えば、400~500m/z及び900~1000m/z)の縁端領域において、動的前駆体m/z範囲906の中央領域よりも大きく(又は小さく)てもよい。
図9の例では、単離窓904は、逐次的な方法で(例えば、最低のm/zから最高のm/zまで)、動的前駆体m/z範囲906内に連続的に位置付けられている。ただし、単離窓904は、動的前駆体m/z範囲906全体にわたって、任意の他の順序若しくはパターンで(例えば、最高m/zから最低m/zへ、又はm/z領域に沿って非逐次的に、例えば、互い違い若しくは交互に)、又はランダムに、連続的に位置付けられてもよい。
【0062】
取得サイクル902-1が完了した後、別の取得サイクル902-2が、同じ方法で実施され、プロセスは、分析物が分離システムから溶出するにつれて、連続的に繰り返される。上記で説明されているように、システム300は、各取得サイクルの動的前駆体m/z範囲を、分析物の予想溶出時間の関数として指定する取得スケジュールに基づいて、MS2スペクトルを取得するように、質量分析計に指示する。
図9の例では、取得スケジュールは、第M番目の取得サイクル902-Mの動的前駆体m/z範囲が440m/z~940m/zの範囲にわたり、第N番目の取得サイクル902-Nの動的前駆体m/z範囲が600m/z~900m/zの範囲にわたることを指定する。したがって、第M番目の取得サイクル902-Mは、440m/zにおいて開始し、第N番目の取得サイクル902-Nは、600m/zにおいて開始する。動的前駆体m/z範囲を用いて動的DIAを実施することによって、MS2によって分析され得る分析物の数と、データ品質との間のバランスを最適化することができる。より多くの分析物が、動的前駆体m/zを使用して分析することができるため、単離幅をより狭く作成して、感度及びデータ品質を改善することができる。
【0063】
分析物溶出時間は、クロマトグラフのカラムが経年変化するにつれて、折々に変化及びシフトし得る。この溶出時間シフト(クロマトグラフの分野では保持時間シフト、又は溶出時間ドリフトとも呼ばれる)は、動的DIA分析の再現性に伴う問題を引き起こす場合があり、その理由は、溶出時間がシフトするにつれて、動的前駆体m/z範囲の「縁端部」上における分析物が、いくつかの再現時において欠損する場合があるためである。したがって、スケジューリングされた取得は、意図された分析物有効範囲とは十分には重なり合わない。
【0064】
図4に戻ると、溶出時間シフトの問題に対処するために、システム300は、動作406及び408を実施して、溶出時間シフトを監視し、検出されたときに、取得スケジュールの溶出時間調整を実施する。動作406において、システム300は、動的DIA実験中に(例えば、取得スケジュールに基づく、MSスペクトルの取得中に)、分析物の溶出における溶出時間シフトを検出する。動作408において、システム300は、動的DIA実験中に、溶出時間シフトに基づいて取得スケジュールを調整する。
【0065】
システム300は、任意の適切な方法で、溶出時間シフトを検出することができる(動作406)。いくつかの例では、システム300は、試料中にスパイクされた内部標準(例えば、安定同位元素標識ペプチド類似体)又は溶出時間マーカー(例えば、標識された溶出時間標準)を監視すること、既知の高存在種を監視すること、クロマトグラフのアラインメントのための機械学習手法、並びに/又は、データ依存取得及び/若しくは標的取得において使用される方法を含む任意の他の方法によって、溶出時間シフトを検出する。
【0066】
他の例では、システム300は、動的DIA実験中に現在の時間又はその近くで取得された現在の質量スペクトルを、動的DIA実験の前に取得された基準スペクトルと比較することによって、溶出時間シフトを検出する。現在の質量スペクトルは、動的DIA実験中に実施された1つ以上のアラインメントサイクルにおいて取得されたアラインメントスペクトルであってもよく、又は、現在の質量スペクトルは、動的DIA実験のスケジューリングされた取得サイクルにおいて取得されたMS2スペクトルであってもよい。基準スペクトルは、試料の基準実行を実施することなどによって、動的DIA実験の前に取得され、試料の予想溶出プロファイルを表す。現在の質量スペクトル及び基準スペクトルは、未加工の質量スペクトルデータであってもよく、又は、ビニング、ノイズ除去、圧縮、変換(例えば、ウェーブレット変換の実施)、特徴抽出、固定時間グリッドへの投影などによって、比較を容易にするように処理された質量スペクトルデータであってもよい。その比較に基づいて、システム300は、基準スペクトルによって示されるように、動的DIA実験の現在の時間が動的DIA実験の予想時間に対してどこにあるかを決定する。
【0067】
図10は、動的DIA実験中に取得されたアラインメントスペクトルを使用して、溶出時間シフトを検出する例示的な方法1000を示している。
図10は、一実施形態による例示的な動作を示しており、他の実施形態は、
図10に示された動作のいずれかを省略、追加、再順序付け、及び/又は修正を行うことができる。
【0068】
動作1002において、システム300は、取得スケジュールに基づくMS2スペクトルの取得中に(例えば、2つのスケジューリングされた取得サイクルの間に)、アラインメントスペクトルのセットを取得するように、質量分析計に指示する。アラインメントスペクトルのセットは、各アラインメントサイクル中にアラインメント前駆体m/z範囲全体にわたって連続的に位置付けられた単離窓を使用して前駆体イオンを単離することによって、DIA MS2による1つ以上(例えば、2、3、5など)のアラインメントサイクルにおいて取得されるアラインメントスペクトルを含む。いくつかの例では、アラインメント前駆体m/z範囲は、動的前駆体m/z範囲よりも広い。いくつかの例では、アラインメント前駆体m/z範囲は、分析物密度行列の関心対象の特徴付けm/z範囲か、又は基準実行中に使用される関心対象の前駆体m/z範囲である。単離窓は、アラインメント前駆体m/z範囲が分析され得るように、比較的広い単離幅を有することができる。いくつかの例では、単離窓は、約10m/z以上の単離幅を有する。更なる例では、単離窓は、約15m/z以上の単離幅を有する。また更なる例では、単離窓は、約20m/z以上の単離幅を有する。いくつかの例では、1つのアラインメントサイクルは、約10~約20個の個々のDIA MS2取得を含む。
【0069】
上述したように、システム300は、動作402において生成された取得スケジュールにおいて、1つ以上のアラインメントサイクルをスケジューリングすることができる。例えば、システム300は、アラインメントサイクルをスケジューリングして、定期的な時間間隔で(例えば、10秒毎に1回、1分毎に1回、第N番目のDIA MS2取得サイクル毎に1回など)生じさせることができる。他の例では、システム300は、アラインメントサイクルをスケジューリングして、分析物の予想溶出時間に基づく時間に(例えば、比較的低い分析物密度又は低い分析物信号などの時間に)生じさせることができる。
【0070】
図11は、動的DIA実験中にアラインメントスペクトルを取得するための例示的なスキーム1100を示している。
図11は、
図11においてシステム300がスケジューリングされた取得サイクル902-2の後にアラインメントサイクル1102を実施することを除いて、
図9と同様である。アラインメントサイクル1102は、400m/z~1000m/zの範囲に及ぶアラインメント前駆体m/z範囲にわたって単離窓1104を前進させることによって実施される。
【0071】
図10に戻ると、動作1004において、システム300は、基準スペクトルのセットに対する、アラインメントスペクトルのセットの類似性を決定する。基準スペクトルは、試料中に含まれる分析物の予想溶出プロファイル(例えば、溶出時間)を表す。基準スペクトルは、任意の適切な方法で取得することができる。いくつかの例では、基準スペクトルは、動的DIA実験を実施する前に基準実行を実施することによって取得される。この基準実行において、基準スペクトルのセットは、各基準サイクル中にアラインメント前駆体m/z範囲全体にわたって連続的に位置付けられた単離窓を使用して前駆体イオンを単離することによって、DIA MS2による基準サイクルにおいて取得される。基準サイクルの単離窓は、比較的広い単離幅(例えば、10m/z、20m/zなど)を有することができる。他の例では、基準スペクトルは、分析物密度行列を生成するために使用される特徴付け分析(例えば、スキーム600)などの、試料の特徴付け分析に定期的な基準サイクルを挿入することによって取得される。
【0072】
アラインメントスペクトルと比較される基準スペクトルのセットは、動的DIA実験の現在の時間に対してある閾値期間内に取得された基準スペクトルを含む。例えば、基準スペクトルのセットは、現在の実験時間の±N分以内に取得された基準スペクトルを含むことができ、ここで、Nは、例えば、3分、5分、8分、10分などであってもよい。
【0073】
アラインメントスペクトルのセットの類似性は、任意の適切な方法で決定することができる。いくつかの例では、その類似性は、アラインメントスペクトルのセットを基準スペクトルのセットと相互相関させることによって決定される。以下の刊行物に記載された相互相関方法を含む、任意の適切な相互相関方法又はアルゴリズムを使用することができ、それは、参照により本明細書に組み込まれる。Remes,P.M.;Yip,P.;MacCoss,M.J.Highly Multiplex Targeted Proteomics Enabled by Real-Time Chromatographic Alignment.Anal.Chem.2020,92(17),pp.11809-11817。いくつかの例では、システム300は、相互相関又は類似性アルゴリズムに基づいて、アラインメントスペクトルのセットと、基準スペクトルのセットとの間の類似性の程度を示す類似性スコアを決定する。
【0074】
動作1006において、システム300は、基準スペクトルのセットとの、アラインメントスペクトルのセットの決定された類似性に基づいて、分析物の溶出時間シフトを検出する。システム300は、例えば、相互相関又は類似性スコアが溶出時間シフト基準を満たすときに、任意の適切な方法で溶出時間シフトを検出することができる。
【0075】
図12は、アラインメントスペクトルのセットを、基準スペクトルのセットと相互相関させることによって、溶出時間シフトを検出するための例示的な技法1200を示している。システム300は、上述したように、以前に取得又は生成された基準スペクトルのセット1202を取得する。32分の現在の実験的溶出時間において、システム300は、アラインメントスペクトルのセット1204に含まれる各アラインメントスペクトルを、現在の実験的溶出時間(例えば、±5分)付近の基準スペクトルの領域における基準スペクトルのセット1202と別々に相互相関させる。システム300は、各アラインメントスペクトルの相互相関を平均化して、全体的な相関を取得し、その全体的な相関は、経時的に特徴付けられて相関プロファイル1206を得ることができる。溶出時間シフトは、もしあれば、相関プロファイル1206のピークの存在によって検出することができる。
図12に示すように、システム300は、相関プロファイル1206のピーク1208に基づいて、溶出時間シフトを検出する。図に示すように、システム300は、32分の現在の溶出時間が基準スペクトルのセットにおけるほぼ30.4分の予想溶出時間に対応すると決定することができる。
【0076】
図11の例では、システム300は、動的DIA実験中に(例えば、スケジューリングされた取得中に)リアルタイムで取得されたMS2アラインメントスペクトルのセットを、MS2基準スペクトルのセットと比較することによって、溶出時間シフトを検出する。代替的な例では、MS1基準スペクトル及びMS1アラインメントスペクトルは、MS2基準スペクトル及びMS2アラインメントスペクトルの代わりに使用することができる。これらの例では、システム300は、動的DIA実験中にリアルタイムで取得されたMS1アラインメントスペクトルを、基準実行中に取得されたMS1基準スペクトルと比較すること(例えば、相互相関させること)によって、溶出時間シフトを検出する。ただし、MS1基準スペクトルとのMS1アラインメントスペクトルの相関の信号対雑音比は、一般に、複数のMS2スペクトルのセットの場合よりも低い。
【0077】
溶出時間シフトを検出する別の例では、追加のアラインメントサイクルは、動的DIA実験中にスケジューリング又は実行されない。代わりに、取得サイクルによって取得されたMS2スペクトルは、溶出時間シフトを検出して、溶出時間アラインメントを実施するために必要な情報を提供する。これらの例では、システム300は、スケジューリングされたMS2分析の前に基準実行において取得されたMS2基準スペクトルのセットに対する、動的DIA実験中にリアルタイムで取得されたMS2スペクトルのセットの類似性を決定する。システム300は、アラインメントスペクトルについて上述した任意の方法(例えば、相互相関による)を含む任意の適切な方法で、MS2スペクトルの類似性を決定することができる。アラインメントスペクトルの代わりにMS2スペクトルを使用することは、分析に関していくらかの追加の複雑さをもたらし、その理由は、著しい溶出時間シフトが存在する場合、MS2スペクトルのセットは、基準スペクトルのセットに時間的に対応することができないためである。ただし、この問題は、時間的に共通であるMS2スペクトル及び基準スペクトルのセットのみを比較することによって克服可能である。これは、例えば、溶出時間アラインメントプロセスを比較的頻繁に実施することによって、かつ/又はスペクトルピークのマッチングによって行うことができる。
【0078】
再び
図4に戻ると、動作408において、システム300は、検出された溶出時間シフトに基づいて取得スケジュールを調整し、それによって、取得スケジュールの溶出時間整合を実施する。システム300は、溶出時間シフトの量及び方向を決定し、分析物密度行列、並びに溶出時間シフトの量及び方向に基づいて、1つ以上の後続の取得サイクルについての動的前駆体m/z範囲を調整することによって、取得スケジュールを調整することができる。例えば、再び
図11を参照すると、
図12に示すように、アラインメントサイクル1102を実施して溶出時間シフトを検出した後、システム300は、取得サイクル902-M及び取得サイクル902-Nの動的前駆体m/z範囲906の上限及び下限を、それぞれ、440m/z及び460m/zから、それぞれ、420m/z及び440m/zに調整することができる。このようにして、動的前駆体m/z範囲906は、m/z領域に沿って位置付けられて、分析される分析物の数を最適化することができる。
【0079】
取得スケジュールを調整した後、システム300は、調整された取得スケジュールに基づいて、分析物に由来する生成イオンのMS2スペクトルを取得するように、質量分析計に指示することができる。方法400は、溶出時間シフトを監視して取得スケジュールの溶出時間調整を実施するために、必要に応じて繰り返すことができる。
【0080】
本明細書で説明された例及び実施形態に対して様々な修正が行われ得る。例えば、取得スケジュールは、特定の既知の試料、又は予め特徴付けられた試料について、(方法400を実施する前に)生成又は予め決定されてもよい。したがって、方法400における動作402は省略することができる。他の例では、取得スケジュールは、標的分析物のリストに基づいて、追加的に又は代替的に生成され得る。
【0081】
特定の実施形態では、本明細書で説明されたシステム、構成要素、及び/又はプロセスのうちの1つ以上は、1つ以上の適切に構成されたコンピューティングデバイスによって実装及び/又は実施することができる。この目的のために、上述したシステム及び/又は構成要素のうちの1つ以上は、本明細書で説明されたプロセスのうちの1つ以上を実施するように構成された少なくとも1つの非一時的コンピュータ可読媒体上に具現化された任意のコンピュータハードウェア及び/又はコンピュータ実装された命令(例えば、ソフトウェア)を含み得るか、あるいはそれらによって実装され得る。特に、システム構成要素は、1つの物理的コンピューティングデバイス上に実装されてもよく、又は2つ以上の物理的コンピューティングデバイス上に実装されてもよい。したがって、システム構成要素は、任意の数のコンピューティングデバイスを含んでもよく、いくつかのコンピュータオペレーティングシステムのいずれかを採用してもよい。
【0082】
特定の実施形態では、本明細書で説明されたプロセスのうちの1つ以上は、非一時的コンピュータ可読媒体において具現化され、かつ1つ以上のコンピューティングデバイスによって実行可能な命令として、少なくとも部分的に実装され得る。一般に、プロセッサ(例えば、マイクロプロセッサ)は、非一時的コンピュータ可読媒体(例えば、メモリなど)から命令を受信し、かつそれらの命令を実行し、それによって、本明細書で説明されたプロセスのうちの1つ以上を含む、1つ以上のプロセスを実施する。かかる命令は、様々な既知のコンピュータ可読媒体のいずれかを使用して、記憶及び/又は送信され得る。
【0083】
コンピュータ可読媒体(プロセッサ可読媒体とも呼ばれる)は、コンピュータによって(例えば、コンピュータのプロセッサによって)読み出すことができるデータ(例えば、命令)を提供する際に関与する任意の非一時的媒体を含む。かかる媒体は、不揮発性媒体及び/又は揮発性媒体を含む多くの形態をとり得るが、それらに限定されない。不揮発性媒体は、例えば、光ディスク又は磁気ディスク、及び他の永続メモリを含むことができる。揮発性媒体は、例えば、ダイナミックランダムアクセスメモリ(「dynamic random access memory、DRAM」)を含むことができ、これは、典型的には、主メモリを構成する。コンピュータ可読媒体の一般的な形態には、例えば、ディスク、ハードディスク、磁気テープ、任意の他の磁気媒体、コンパクトディスク読み取り専用メモリ(「compact disc read-only memory、CD-ROM」)、デジタルビデオディスク(「digital video disc、DVD」)、任意の他の光媒体、ランダムアクセスメモリ(「random access memory、RAM」)、プログラマブル読み取り専用メモリ(「programmable read-only memory、PROM」)、電気的消去書き込み可能読み取り専用メモリ(「erasable programmable read-only memory、EPROM」)、FLASH-EEPROM、任意の他のメモリチップ若しくはカートリッジ、又は、コンピュータが読み取ることができる任意の他の有形媒体が含まれる。
【0084】
図13は、本明細書で説明されたプロセスのうちの1つ以上を実施するように具体的に構成され得る例示的なコンピューティングデバイス1300を示している。
図13に示すように、コンピューティングデバイス1300は、通信インフラストラクチャ1310を介して互いに通信可能に接続される通信インターフェース1302、プロセッサ1304、記憶デバイス1306、及び入力/出力(「input/output、I/O」)モジュール1308を含むことができる。例示的なコンピューティングデバイス1300が
図13に示されているが、
図13に例示された構成要素は、限定的であることを意図されていない。他の実施形態では、追加又は代替の構成要素が使用され得る。ここで、
図13に示されたコンピューティングデバイス1300の構成要素について、更に詳細に説明されるであろう。
【0085】
通信インターフェース1302は、1つ以上のコンピューティングデバイスと通信するように構成され得る。通信インターフェース1302の例としては、有線ネットワークインターフェース(ネットワークインターフェースカードなど)、無線ネットワークインターフェース(無線ネットワークインターフェースカードなど)、モデム、オーディオ/ビデオ接続、及び任意の他の適切なインターフェースが挙げられるが、これらに限定されない。
【0086】
プロセッサ1304は、一般に、データを処理すること、並びに/又は本明細書で説明された命令、プロセス、及び/若しくは動作のうちの1つ以上を解釈すること、実行すること、及び/若しくはその実行を指示することが可能な、任意のタイプ又は形態の処理ユニットを表す。プロセッサ1304は、記憶デバイス1306に記憶されたコンピュータ実行可能命令1312(例えば、アプリケーション、ソフトウェア、コード、及び/又は他の実行可能データインスタンス)を実行することによって動作を実施することができる。
【0087】
記憶デバイス1306は、1つ以上のデータ記憶媒体、デバイス、又は構成を含むことができ、任意のタイプ、形態、及び組み合わせのデータ記憶媒体及び/又はデバイスを採用することができる。例えば、記憶デバイス1306は、本明細書で説明された不揮発性媒体及び/又は揮発性媒体の任意の組み合わせを含むことができるが、これらに限定されない。本明細書で説明されたデータを含む電子データは、記憶デバイス1306に一時的かつ/又は恒久的に記憶され得る。例えば、本明細書で説明された動作のいずれかを実施するように、プロセッサ1304に指示するように構成されたコンピュータ実行可能命令1312を表すデータは、記憶デバイス1306に記憶されてもよい。いくつかの例では、データは、記憶デバイス1306内に存在する1つ以上のデータベース内に配置されてもよい。
【0088】
I/Oモジュール1308は、ユーザ入力を受信し、ユーザ出力を提供するように構成された1つ以上のI/Oモジュールを含むことができる。1つ以上のI/Oモジュールを使用して、単一の仮想体験のための入力を受信することができる。I/Oモジュール1308は、入力及び出力の潜在能力の裏付けとなる任意のハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、又はこれらの組み合わせを含むことができる。例えば、I/Oモジュール1308は、以下に限定されない、キーボード若しくはキーパッド、タッチスクリーン構成要素(例えば、タッチスクリーンディスプレイ)、受信機(例えば、RF又は赤外線受信機)、運動センサ、及び/又は1つ以上の入力ボタンを含む、ユーザ入力を取り込むためのハードウェア及び/又はソフトウェアを含んでもよい。
【0089】
I/Oモジュール1308は、出力をユーザに提示するための1つ以上のデバイスを含むことができ、それらには、グラフィックスエンジン、ディスプレイ(例えば、ディスプレイスクリーン)、1つ以上の出力ドライバ(例えば、ディスプレイドライバ)、1つ以上のオーディオスピーカー、及び1つ以上のオーディオドライバが含まれ得るが、これらに限定されない。特定の実施形態では、I/Oモジュール1308は、グラフィカルなデータを、ユーザへの提示のためのディスプレイに提供するように構成される。グラフィカルなデータは、特定の実施態様に役立つことができるように、1つ以上のグラフィカルユーザインターフェース及び/又は任意の他のグラフィカルコンテンツを表すことができる。
【0090】
いくつかの例では、本明細書で説明されたシステム、コンピューティングデバイス、及び/又は他の構成要素のいずれかは、コンピューティングデバイス1300によって実装され得る。例えば、メモリ302は、記憶デバイス1306によって実装されてもよく、プロセッサ304は、プロセッサ1304によって実装されてもよい。
【0091】
一方、前述の説明において、様々な例示的な実施形態が添付の図面を参照して説明されてきたことが、当業者によって認識されるであろう。しかしながら、以下の特許請求の範囲に記載される本発明の範囲から逸脱することなく、様々な修正及び変更がそれに対して行われてもよく、追加の実施形態が実装されてもよいことは明らかであろう。例えば、本明細書に記載される一実施形態の特定の特徴は、本明細書に記載される別の実施形態の特徴と組み合わされてもよく、又はそれらの特徴と置換されてもよい。したがって、本明細書及び図面は、限定的な意味ではなく、例示的な意味で考慮されるべきである。
【外国語明細書】