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特開2024-65101ダイヤフラムおよびダイヤフラムバルブ
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  • 特開-ダイヤフラムおよびダイヤフラムバルブ 図1
  • 特開-ダイヤフラムおよびダイヤフラムバルブ 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065101
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】ダイヤフラムおよびダイヤフラムバルブ
(51)【国際特許分類】
   F16J 3/02 20060101AFI20240507BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20240507BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20240507BHJP
   F16K 7/12 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
F16J3/02 A
C08J7/00 305
C08J5/00 CEW
F16J3/02 D
F16K7/12 A
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023184981
(22)【出願日】2023-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2022173263
(32)【優先日】2022-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今村 均
(72)【発明者】
【氏名】濱田 博之
(72)【発明者】
【氏名】向井 恵吏
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 学
【テーマコード(参考)】
3J045
4F071
4F073
【Fターム(参考)】
3J045AA05
3J045AA06
3J045BA03
3J045CA08
3J045DA10
3J045EA10
4F071AA26X
4F071AA27
4F071AA84
4F071AA88
4F071AF20Y
4F071AF22
4F071AG14
4F071AH17
4F071BA01
4F071BB03
4F071BB06
4F071BC03
4F071BC07
4F071BC16
4F073AA07
4F073BA16
4F073BB02
4F073CA42
(57)【要約】
【課題】耐屈曲性に優れる材料により形成されており、表面が平滑であって、耐摩耗性に優れるダイヤフラムを提供すること。
【解決手段】テトラフルオロエチレン単位およびフルオロアルキルビニルエーテル単位を含有する共重合体を含有するダイヤフラムであって、前記共重合体のメルトフローレートが、10.0g/10分以下であり、前記ダイヤフラムの表面粗度Raが、0.20μm以下であり、第1の弾性率を有する第1の表面と、第2の弾性率を有する第2の表面と、を備えており、第1の弾性率が、第2の弾性率よりも、10%以上高いダイヤフラムを提供する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロエチレン単位およびフルオロアルキルビニルエーテル単位を含有する共重合体を含有するダイヤフラムであって、
前記共重合体のメルトフローレートが、10.0g/10分以下であり、
前記ダイヤフラムの表面粗度Raが、0.20μm以下であり、
第1の弾性率を有する第1の表面と、第2の弾性率を有する第2の表面と、を備えており、第1の弾性率が、第2の弾性率よりも、10%以上高い
ダイヤフラム。
【請求項2】
第1の表面および第2の表面が、いずれも、前記共重合体により形成されている請求項1に記載のダイヤフラム。
【請求項3】
第2の弾性率が、400~450MPaである請求項1または2に記載のダイヤフラム。
【請求項4】
第1の表面が、第1の融点を有しており、第2の表面が、第2の融点を有しており、第1の融点が、第2の融点よりも2℃以上高い請求項1または2に記載のダイヤフラム。
【請求項5】
第1の表面が、第1の結晶化温度を有しており、第2の表面が、第2の結晶化温度を有しており、第1の結晶化温度が、第2の結晶化温度よりも2℃以上低い請求項1または2に記載のダイヤフラム。
【請求項6】
第1の表面が、接液面であり、
第2の表面が、非接液面である
請求項1または2に記載のダイヤフラム。
【請求項7】
薄膜部を備えており、
第1の表面が、前記薄膜部の一方の面であり、
第2の表面が、前記薄膜部の他方の面である
請求項1または2に記載のダイヤフラム。
【請求項8】
前記薄膜部の厚さが、50~1000μmである請求項7に記載のダイヤフラム。
【請求項9】
円柱状の弁体を備えており、
前記弁体が、ダイヤフラムバルブの駆動部に連結される連結部と、前記ダイヤフラムバルブの弁座と当接する当接面とを備えており、
第1の表面が、前記連結部の表面であり、
第2の表面が、前記当接面である
請求項1または2に記載のダイヤフラム。
【請求項10】
第1の表面が、前記共重合体により形成されており、前記共重合体に対して、前記共重合体の融点以下の温度で、加速電圧が300kV以下の電子線を照射することにより形成される請求項1または2に記載のダイヤフラム。
【請求項11】
前記共重合体のフルオロアルキルビニルエーテル単位の含有量が、5.0~13.0質量%である請求項1または2に記載のダイヤフラム。
【請求項12】
前記共重合体の融点が、260~315℃である請求項1または2に記載のダイヤフラム。
【請求項13】
前記共重合体の官能基数が、炭素原子10個あたり、0~800個である請求項1または2に記載のダイヤフラム。
【請求項14】
請求項1または2に記載のダイヤフラムを備えるダイヤフラムバルブ。
【請求項15】
駆動部と、弁座が設けられたバルブボディと、ダイヤフラムと、を備えており、
前記ダイヤフラムが、
前記駆動部に連結される連結部、および、前記弁座と当接する当接面を備える円柱状の弁体と、
前記弁体の外周面に設けられた薄膜部と、
を備える請求項14に記載のダイヤフラムバルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ダイヤフラムおよびダイヤフラムバルブに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、変性ポリテトラフルオロエチレンを含有する成形品であって、前記変性ポリテトラフルオロエチレンが、テトラフルオロエチレン単位およびテトラフルオロエチレンと共重合可能な変性モノマーに基づく変性モノマー単位を含み、前記変性ポリテトラフルオロエチレンの前記変性モノマー単位の含有量が、前記テトラフルオロエチレン単位および前記変性モノマー単位の合計に対して0.001~1質量%であり、前記成形品の厚みが、100μm以上であり、加速電圧が30~300kVの放射線を照射することにより得られる成形品が記載されている。
【0003】
特許文献2には、重合体に放射線を、上記共重合体の融点以下の温度で照射することにより得られる改質含フッ素共重合体であって、上記共重合体は、テトラフルオロエチレン単位とパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)単位とからなる共重合体、及び、テトラフルオロエチレン単位とヘキサフルオロプロピレン単位とからなる共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の共重合体であり、かつ、官能基を合計で炭素原子10個あたり10~10000個有することを特徴とする改質含フッ素共重合体が記載されている。
【0004】
特許文献3には、テトラフルオロエチレン単位及びパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)単位のみからなる共重合体に、上記共重合体の融点以下、かつ、200℃以上の照射温度で、放射線を照射することにより得られたことを特徴とする改質含フッ素共重合体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-62685号公報
【特許文献2】特開2015-147924号公報
【特許文献3】特開2014-28951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示では、耐屈曲性に優れる材料により形成されており、表面が平滑であって、耐摩耗性に優れるダイヤフラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示によれば、テトラフルオロエチレン単位およびフルオロアルキルビニルエーテル単位を含有する共重合体を含有するダイヤフラムであって、前記共重合体のメルトフローレートが、10.0g/10分以下であり、前記ダイヤフラムの表面粗度Raが、0.20μm以下であり、第1の弾性率を有する第1の表面と、第2の弾性率を有する第2の表面と、を備えており、第1の弾性率が、第2の弾性率よりも、10%以上高いダイヤフラムが提供される。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、耐屈曲性に優れる材料により形成されており、表面が平滑であって、耐摩耗性に優れるダイヤフラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ダイヤフラムおよびダイヤフラムバルブの一実施形態を示す断面図である。
図2】摩耗試験の方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本開示は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
特許文献1に記載されているように、従来、ダイヤフラムを形成する材料として、変性ポリテトラフルオロエチレンが知られている。特許文献1では、変性ポリテトラフルオロエチレンを含有する成形品であって、厚みを100μm以上とし、加速電圧が30~300kVの放射線を照射した成形品が提案されている。
【0012】
しかしながら、変性ポリテトラフルオロエチレンは、非溶融加工性を有していることから、変性ポリテトラフルオロエチレンのブロックを作製し、それを所望の形状に切削加工することによって、ダイヤフラムを製造することが一般的である。切削加工によりダイヤフラムを製造した場合、得られるダイヤフラムの表面には切削痕が残るため、表面粗度が幾分高くなる。ダイヤフラムの表面粗度が高いと、汚染物がダイヤフラムに付着しやすくなったり、表面に存在する凸部が脱離しやすくなったりする。結果として、表面粗度が高いダイヤフラムからは、パーティクルが発生する問題が生じることがある。
【0013】
そこで、本発明者らは、変性ポリテトラフルオロエチレンに代えて、テトラフルオロエチレン単位およびフルオロアルキルビニルエーテル単位を含有する共重合体(PFA)を用いることを試みた。PFAは、溶融加工性を有していることから、小さく複雑な形状を有するダイヤフラムであっても、溶融成形により所望の形状に容易に成形できる。したがって、得られるダイヤフラムの表面に切削痕が残らず、表面粗度が低いダイヤフラムを製造できる。
【0014】
一方で、PFAは、変性ポリテトラフルオロエチレンと比べて、耐屈曲性に優れるダイヤフラムが得られにくいことが判明した。この問題を解決するための手段を鋭意検討した結果、十分に低いメルトフローレートを有するPFAを用いると、屈曲を繰り返しても破損することのないダイヤフラムが得られることが見出された。
【0015】
さらに、ダイヤフラムをPFAにより形成した場合、ダイヤフラムの耐摩耗性が十分でないことも判明した。ダイヤフラムが摩耗すると、ダイヤフラムからパーティクルが発生する問題が生じることがある。特に、ダイヤフラムは、往復運動を繰り返すことから、ダイヤフラムの摩耗は、継続的なパーティクルの発生につながるおそれがあり、たとえば、摩耗するダイヤフラムを半導体チップの製造ラインにおいて用いた場合などには、半導体チップ製造の歩留まりを低下させるおそれがある。この問題を解決するための手段を鋭意検討した結果、ダイヤフラムに対して特定の条件で電子線を照射し、PFAを含有するダイヤフラムの表面が有する通常の弾性率よりも、一定以上の割合で高い弾性率を有する表面をダイヤフラムに形成することによって、ダイヤフラムの耐屈曲性を損なうことなく、ダイヤフラムの耐摩耗性を向上させられることが見出された。
【0016】
次に、本開示のダイヤフラムについて詳述する。
【0017】
(共重合体(A))
本開示のダイヤフラムは、テトラフルオロエチレン(TFE)単位およびフルオロアルキルビニルエーテル(FAVE)単位を含有する共重合体を含有する。本開示において、ダイヤフラムを形成する共重合体を、「共重合体(A)」ということがある。
【0018】
共重合体(A)は、溶融加工性を有するフッ素樹脂であることが好ましい。本開示において、溶融加工性とは、押出機および射出成形機などの従来の加工機器を用いて、ポリマーを溶融して加工することが可能であることを意味する。従って、溶融加工性のフッ素樹脂は、後述する測定方法により測定されるメルトフローレートが0.01~500g/10分であることが通常である。
【0019】
共重合体(A)のメルトフローレートは、10.0g/10分以下であり、好ましくは7.0g/10分以下であり、よりに好ましくは5.0g/10分以下であり、さらに好ましくは4.0g/10分以下であり、好ましくは0.01g/10分以上であり、より好ましくは0.1g/10分以上であり、さらに好ましくは1.0g/10分以上である。このように、本開示のダイヤフラムを形成する共重合体(A)は、低いメルトフローレートを有しており、したがって、耐屈曲性に優れる成形体を与えることができる材料である。本開示のダイヤフラムは、共重合体(A)を含有することから、耐屈曲性に優れており、頻繁に往復運動を繰り返しても、破損しにくい。
【0020】
共重合体のメルトフローレート(MFR)は、ASTM D1238に準拠して、直径2.1mmで長さが8mmのダイにて、荷重5kg、372℃で測定する。
【0021】
共重合体(A)が含有するFAVEとしては、一般式(1):
CF=CFO(CFCFYO)-(CFCFCFO)-Rf (1)
(式中、YはFまたはCFを表し、Rfは炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。pは0~5の整数を表し、qは0~5の整数を表す。)で表される単量体、および、一般式(2):
CFX=CXOCFOR (2)
(式中、Xは、同一または異なり、H、FまたはCFを表し、Rは、直鎖または分岐した、H、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1種の原子を1~2個含んでいてもよい炭素数が1~6のフルオロアルキル基、若しくは、H、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1種の原子を1~2個含んでいてもよい炭素数が5または6の環状フルオロアルキル基を表す。)で表される単量体からなる群より選択される少なくとも1種を挙げることができる。
【0022】
なかでも、FAVEとしては、一般式(1)で表される単量体が好ましく、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)およびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、PEVEおよびPPVEからなる群より選択される少なくとも1種がさらに好ましい。
【0023】
共重合体(A)のFAVE単位の含有量は、ダイヤフラムの耐屈曲性を一層向上させることができることから、全単量体単位に対して、好ましくは5.0~13.0質量%であり、より好ましくは6.0質量%以上であり、さらに好ましくは7.0質量%以上であり、特に好ましくは8.0質量%以上であり、より好ましくは12.0質量%以下であり、さらに好ましくは11.0質量%以下である。
【0024】
共重合体(A)のTFE単位の含有量は、ダイヤフラムの耐屈曲性を一層向上させることができることから、全単量体単位に対して、好ましくは87.0~95.0質量%であり、より好ましくは88.0質量%以上であり、さらに好ましくは89.0質量%以上であり、より好ましくは94.0質量%以下であり、さらに好ましくは93.0質量%以下であり、特に好ましくは92.0質量%以下である。
【0025】
共重合体(A)は、TFEおよびFAVEと共重合可能な単量体に由来する単量体単位を含有してもよい。
【0026】
TFEおよびFAVEと共重合可能な単量体としては、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、CZ=CZ(CF(式中、Z、ZおよびZは、同一または異なって、HまたはFを表し、Zは、H、FまたはClを表し、nは2~10の整数を表す。)で表されるビニル単量体、および、CF=CF-OCH-Rf(式中、Rfは炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体等が挙げられる。なかでも、HFPが好ましい。
【0027】
TFEおよびFAVEと共重合可能な単量体に由来する単量体単位の含有量は、好ましくは0~8.0質量%であり、より好ましくは3.0質量%以下であり、さらに好ましくは1.0質量%以下である。
【0028】
共重合体(A)としては、TFE単位およびFAVE単位のみからなる共重合体、および、TFE/HFP/FAVE共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、TFE単位およびFAVE単位のみからなる共重合体がより好ましい。
【0029】
本開示において、共重合体中の各単量体単位の含有量は、19F-NMR法により測定する。
【0030】
共重合体(A)の融点は、好ましくは260~315℃であり、より好ましくは270℃以上であり、より好ましくは310℃以下である。
【0031】
本開示において、共重合体の融点は、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて10℃/分の速度で昇温(セカンドラン)したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度である。
【0032】
共重合体(A)の官能基数は、炭素原子10個あたり、0~800個であってよい。共重合体(A)の官能基数は、炭素原子10個あたり、好ましくは10個以上であり、より好ましくは100個以上であり、さらに好ましくは200個以上であり、好ましくは800個以下であり、より好ましくは500個以下である。共重合体(A)の官能基数が上記範囲内にあると、電子線照射によって、ダイヤフラムの耐摩耗性が一層向上しやすい。共重合体(A)の官能基数が上記範囲内にあると、電子線照射によって、照射面の弾性率が増加しやすく、融点が上昇しやすく、結晶化温度が低下しやすい。また、低温で電子線を照射した場合でも、ダイヤフラムの耐摩耗性が一層向上しやすいことから、電子線照射処理を容易にすることができるとともに、ダイヤフラムの熱による変形も容易に抑制することができる。
【0033】
共重合体(A)の官能基数は、炭素原子10個あたり、10個未満であってもよく、6個以下であってもよい。官能基をほとんど有しない共重合体(A)または官能基を全く有しない共重合体(A)は、多数の官能基を有する共重合体(A)に比べて、電子線照射による効果が得られにくいが、電子線の照射温度を比較的高くすることによって、ダイヤフラムの耐摩耗性を向上させることができる。
【0034】
また、官能基をほとんど有しない共重合体(A)または官能基を全く有しない共重合体(A)に対して、電子線を照射すると、共重合体(A)のメルトフローレートが低いことから、ダイヤフラムの耐屈曲性が損なわれることがある。しかし、共重合体の融点以下の温度で、加速電圧が300kV以下の電子線を照射することによって、優れた耐屈曲性を維持したまま、耐摩耗性を一層向上させることができることが、本発明者らの検討によって明らかになった。また、共重合体の融点以下の温度で、加速電圧が300kV以下の電子線を照射することによって、照射面の弾性率を増加させることができる。また、共重合体の融点以下の温度で、加速電圧が300kV以下の電子線を照射することによって、照射面の融点を上昇させ、結晶化温度を低下させることができる。
【0035】
上記官能基は、共重合体の主鎖末端または側鎖末端に存在する官能基、および、主鎖中または側鎖中に存在する官能基である。上記官能基としては、-CF=CF、-CFH、-COF、-COOH、-COOCH、-CONHおよび-CHOHからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0036】
上記官能基の種類の同定および官能基数の測定には、赤外分光分析法を用いることができる。
【0037】
官能基数については、具体的には、以下の方法で測定する。まず、共重合体を330~340℃にて30分間溶融し、圧縮成形して、厚さ0.20~0.25mmのフィルムを作製する。このフィルムをフーリエ変換赤外分光分析により分析して、上記TFE/FAVE共重合体の赤外吸収スペクトルを得、完全にフッ素化されて官能基が存在しないベーススペクトルとの差スペクトルを得る。この差スペクトルに現れる特定の官能基の吸収ピークから、下記式(A)に従って、共重合体における炭素原子1×10個あたりの官能基数Nを算出する。
N=I×K/t (A)
I:吸光度
K:補正係数
t:フィルムの厚さ(mm)
【0038】
参考までに、本開示における官能基について、吸収周波数、モル吸光係数および補正係数を表1に示す。また、モル吸光係数は低分子モデル化合物のFT-IR測定データから決定したものである。
【0039】
【表1】
【0040】
-CHCFH、-CHCOF、-CHCOOH、-CHCOOCH、-CHCONHの吸収周波数は、それぞれ表中に示す、-CFH、-COF、-COOH freeと-COOH bonded、-COOCH、-CONHの吸収周波数から数十カイザー(cm-1)低くなる。
従って、たとえば、-COFの官能基数とは、-CFCOFに起因する吸収周波数1883cm-1の吸収ピークから求めた官能基数と、-CHCOFに起因する吸収周波数1840cm-1の吸収ピークから求めた官能基数との合計である。
【0041】
上記官能基数は、-CF=CF、-CFH、-COF、-COOH、-COOCH、-CONHおよび-CHOHの合計数であってよい。
【0042】
上記官能基は、たとえば、共重合体を製造する際に用いた連鎖移動剤や重合開始剤によって、共重合体に導入される。たとえば、連鎖移動剤としてアルコールを使用する、あるいは重合開始剤として-CHOHの構造を有する過酸化物を使用した場合、共重合体の主鎖末端に-CHOHが導入される。また、官能基を有する単量体を重合することによって、上記官能基が共重合体の側鎖末端に導入される。
【0043】
このような官能基を有する共重合体を、フッ素化処理することによって、官能基をほとんど有しない共重合体または官能基を全く有しない共重合体を得ることができる。すなわち、共重合体(A)は、フッ素化処理されたものであってよい。共重合体(A)は、-CF末端基を有してもよい。
【0044】
共重合体(A)のMIT値は、ダイヤフラムの耐屈曲性を一層向上させることができることから、好ましくは200万回以上であり、より好ましくは500万回以上であり、さらに好ましくは1000万回以上である。
【0045】
共重合体(A)のMIT値は、共重合体(A)のMFRおよびFAVE単位の含有量を調節することにより、調整することができる。
【0046】
共重合体(A)のMIT値は、共重合体(A)を圧縮成形して、幅12.7mm、長さ90mm、厚さ0.20~0.23mmの試験片を作製し、荷重1.25kg、左右の折り曲げ角度各135度、折り曲げ回数175回/分の条件下で試験片を屈曲させ、試験片が切断するまでの回数(MIT値)を測定することにより、特定することができる。
【0047】
共重合体(A)として、特開2014-5337号公報に記載の溶融成形性テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体のようなフレックスライフ値が高い共重合体を用いてもよい。本開示のダイヤフラムは、共重合体(A)以外のポリマー、充填剤などを含有してもよいが、実質的に共重合体(A)のみを含有するものであってよい。ダイヤフラム中の共重合体(A)の含有量は、ダイヤフラムの質量に対して、好ましくは99.0質量%以上であり、より好ましくは99.5質量%以上であり、さらに好ましくは99.9質量%以上である。
【0048】
(表面粗度)
本開示のダイヤフラムの表面粗度Raは、0.20μm以下である。ダイヤフラムの表面粗度Raは、ダイヤフラムからのパーティクルの発生を一層抑制することができることから、好ましくは0.15μm以下であり、より好ましくは0.10μm以下であり、さらに好ましくは0.06μm以下であり、特に好ましくは0.05μm以下であり、好ましくは0.01μm以上である。
【0049】
一方、ポリテトラフルオロエチレンのブロックを作製し、それを所望の形状に切削加工することによって、ダイヤフラムを製造する従来技術を用いた場合、得られるダイヤフラムの表面粗度Raは、おおよそ、0.30~0.90μmである。
【0050】
表面粗度は、JIS B0601-1994に準拠して測定することができる。
【0051】
(電子線の照射条件)
一実施形態において、本開示のダイヤフラムは、弾性率の異なる2以上の表面を備えている。本開示のダイヤフラムの一実施形態においては、第1の弾性率を有する第1の表面と、第2の弾性率を有する第2の表面と、を備えており、第1の弾性率が、第2の弾性率よりも、10%以上高い。このように、他の表面よりも高い弾性率を有する第1の表面は、電子線未照射のダイヤフラムの表面に対して、共重合体(A)の融点以下の温度で、加速電圧が300kV以下の電子線を照射することにより、形成することができる。
【0052】
一実施形態において、本開示のダイヤフラムは、共重合体(A)の融点以下の温度で、加速電圧が300kV以下の電子線を照射することにより得られる。一実施形態において、ダイヤフラムは、共重合体(A)をダイヤフラムの形状に成形し、得られた成形体に対して、共重合体(A)の融点以下の温度で、加速電圧が300kV以下の電子線を照射することにより、得られる。すなわち、本開示は、テトラフルオロエチレン単位およびフルオロアルキルビニルエーテル単位を含有する共重合体を含有するダイヤフラムであって、前記共重合体のメルトフローレートが、10.0g/10分以下であり、前記ダイヤフラムの表面粗度Raが、0.20μm以下であり、前記ダイヤフラムが、前記共重合体の融点以下の温度で、加速電圧が300kV以下の電子線を照射することにより得られるダイヤフラムにも関している。
【0053】
PFAに電子線を照射させる技術は、特許文献2および特許文献3に記載の発明においても利用されている。しかしながら、十分に低いメルトフローレートを有するPFAを用いてダイヤフラムを形成する場合、PFAが有する官能基数によっては、電子線の照射によりダイヤフラムの耐屈曲性が低下してしまい、耐摩耗性および耐屈曲性を両立させることが困難であることが、本発明者らの検討によって明らかになった。したがって、低いメルトフローレートを有するPFAを用いてダイヤフラムを形成する場合には、従来の電子線の照射条件とは異なる条件で、電子線を照射する必要がある。
【0054】
電子線の加速電圧は、300kV以下である。電子線の加速電圧は、照射面の弾性率が増加しやすく、融点が上昇しやすく、結晶化温度が低下しやすく、また、優れた耐屈曲性を維持したまま、耐摩耗性を一層向上させることができることから、好ましくは200kV以下であり、より好ましくは150kV以下であり、さらに好ましくは100kV以下であり、尚さらに好ましくは80kV以下であり、特に好ましくは70kV以下であり、好ましくは30kV以上であり、より好ましくは50kV以上である。
【0055】
電子線の照射線量は、照射面の弾性率が増加しやすく、融点が上昇しやすく、結晶化温度が低下しやすく、また、優れた耐屈曲性を維持したまま、耐摩耗性を一層向上させることができるとともに、ダイヤフラムの表面の平滑性を損なうことがないことから、好ましくは20~150kGyであり、より好ましくは30kGy以上であり、さらに好ましくは40kGy以上であり、より好ましくは120kGy以下であり、さらに好ましくは100kGy以下である。
【0056】
電子線の照射温度は、共重合体(A)の融点以下である。電子線の照射温度は、照射面の弾性率が増加しやすく、融点が上昇しやすく、結晶化温度が低下しやすく、また、優れた耐屈曲性を維持したまま、耐摩耗性を一層向上させることができるとともに、ダイヤフラムの表面の平滑性を損なうことがないことから、好ましくは、共重合体(A)の融点以下、かつ、300℃以下であり、より好ましくは、共重合体(A)の融点以下、かつ、290℃以下であり、さらに好ましくは、共重合体(A)の融点以下、かつ、280℃以下であり、特に好ましくは、共重合体(A)の融点以下、かつ、270℃未満である。また、電子線の照射温度は、照射面の弾性率が増加しやすく、融点が上昇しやすく、結晶化温度が低下しやすく、また、優れた耐屈曲性を維持したまま、耐摩耗性を一層向上させることができるとともに、ダイヤフラムの表面の平滑性を損なうことがないことから、好ましくは150℃以上であり、より好ましくは200℃以上であり、さらに好ましくは220℃以上である。
【0057】
共重合体(A)は、比較的大きな側鎖を有するFAVE単位を一定の含有量で含有しており、この大きな側鎖は、低温であっても大きく分子運動することから、低温での電子線照射によっても、電子線照射による改質効果が得られる。したがって、共重合体(A)を含有するダイヤフラムは、ポリテトラフルオロエチレンに対して電子線を照射する際の温度よりも低温で電子線を照射することによって製造することができる点で、ポリテトラフルオロエチレンを含有するダイヤフラムよりも製造が容易である。
【0058】
電子線の照射温度が共重合体(A)の融点に近いと、電子線を照射する際にダイヤフラムが変形してしまうおそれがある。ダイヤフラムの変形を抑制する観点からは、電子線の照射温度を共重合体(A)の融点より十分に低い温度とすることが好ましいが、電子線を照射することによる耐摩耗性の向上効果が得られにくくなる傾向がある。また、照射面の弾性率が増加しにくく、融点が上昇しにくく、結晶化温度が低下しにくい傾向がある。比較的多くの官能基を有する共重合体(A)を用いると、電子線の照射温度が低くても、照射面の弾性率が増加しやすく、融点が上昇しやすく、結晶化温度が低下しやすく、また、耐摩耗性の向上効果が得られやすいことから、比較的多くの官能基を有する共重合体(A)を用いて、比較的低温で電子線を照射して、ダイヤフラムの変形を十分に抑制してもよい。
【0059】
照射温度の調整は、特に限定されず、公知の方法で行うことができる。具体的には、ダイヤフラムを所定の温度に維持した加熱炉内で保持する方法や、成形体をホットプレート上に載せて、ホットプレートに内蔵した加熱ヒータに通電することによって、あるいは、ハロゲンランプなどの外部の加熱手段によって、成形体を加熱する等の方法が挙げられる。
【0060】
電子線を照射する方法としては、特に限定されず、従来公知の電子線照射装置を用いて行う方法等が挙げられる。電子線の照射は、複数のダイヤフラムに対して行うことができる。また、電子線照射の際にダイヤフラムが汚染されることを防ぐために、電子線照射を妨げない程度の小さい厚みを有するフィルムにより、ダイヤフラムを覆ってから、電子線を照射してもよい。
【0061】
電子線の照射環境としては、特に制限されないが、酸素濃度が1000ppm以下であることが好ましく、酸素不存在下であることがより好ましく、真空中、または、窒素、ヘリウム若しくはアルゴン等の不活性ガス雰囲気中であることが更に好ましい。
【0062】
上記した照射条件で電子線を照射することにより、好適にはダイヤフラムの一定の深さの領域のみが改質される。電子線を照射されたダイヤフラムにおいて、改質される領域の表面からの深さは、電子線の照射方向のダイヤフラムの厚みに対して、好ましくは30%以下であり、より好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは10%以下であり、特に好ましくは5%以下であり、下限は特に限定されないが、1%以上であってよい。また、電子線を照射されたダイヤフラムにおいて、改質される領域の表面からの深さは、好ましくは0.1~400μmであり、より好ましくは300μm以下であり、さらに好ましくは200μm未満であり、尚さらに好ましくは100μm未満であり、特に好ましくは50μm未満である。改質される領域の表面からの深さを上記の範囲内に調整することによって、ダイヤフラムの優れた耐屈曲性を維持したまま、耐摩耗性を一層向上させることができる。また、改質される領域の表面からの深さを上記の範囲内に調整することによって、弾性率、融点または結晶化温度の異なる2以上の表面を備えるダイヤフラムを作製できる、
【0063】
(ダイヤフラムの構成)
一実施形態において、本開示のダイヤフラムは、弾性率の異なる2以上の表面を備えることができる。一実施形態においては、第1の弾性率を有する第1の表面と、第2の弾性率を有する第2の表面と、を備えており、第1の弾性率が、第2の弾性率よりも、10%以上高い。
【0064】
図1は、本開示のダイヤフラムおよびダイヤフラムバルブの一実施形態の断面概略図である。図1に示すように、一実施形態において、ダイヤフラムバルブは、駆動部(ピストンロッド15)と、弁座(16)が設けられたバルブボディ(13)と、ダイヤフラム(11)と、を備えており、
前記ダイヤフラム(11)が、
駆動部(ピストンロッド15)に連結される連結部、および、弁座(16)と当接する当接面を備える円柱状の弁体(11a)と、
弁体11aの外周面に設けられた薄膜部(11b)と、
を備えている。
【0065】
図1に示すダイヤフラム11は、一体的に構成されているが、複数の部材を組み合わせて構成されていてもよい。一実施形態において、ダイヤフラム11がPFAにより一体的に構成されており、したがって、第1の表面および第2の表面が、いずれも、PFAにより形成されている。
【0066】
図1に示すダイヤフラム11は、円柱状の弁体11aを備えている。弁体11aは、ダイヤフラムバルブの駆動部に連結される連結部と、ダイヤフラムバルブの弁座16と当接する当接面とを備えている。
【0067】
一実施形態において、連結部の表面に第1の表面が形成され、当接面に第2の表面が形成される。第1の表面の弾性率(第1の弾性率)を、第2の表面の弾性率(第2の弾性率)よりも、10%以上高いものとすることによって、当接面の耐摩耗性を向上させることができ、同時に、耐摩耗性を要求されない表面およびダイヤフラムの内部については、柔軟性を損なわない構成とすることができる。このようなダイヤフラムは、当接面を含む弁体11aの底面に対して、電子線を特定の条件で照射することにより、作製することができる。
【0068】
図1に示すダイヤフラム11においては、弁体の外周面に設けられた薄膜部11bが、流体の流路と、駆動部が駆動するための空間(非接液部)とを隔てている。流体が液体である場合には、薄膜部11bの一方の面が接液面を形成し、薄膜部11bの他方の面が非接液面を形成する。同時に、弁体11aの底面も接液面を形成する。
【0069】
一実施形態において、薄膜部の一方の面に第1の表面が形成され、薄膜部の他方の面に第2の表面が形成される。第1の表面の弾性率(第1の弾性率)を、第2の表面の弾性率(第2の弾性率)よりも、10%以上高いものとすることによって、薄膜部の柔軟性を維持したまま、柔軟性が要求されず、耐摩耗性が要求される表面についてのみ、耐摩耗性を向上させる構成とすることができる。
【0070】
一実施形態において、薄膜部の接液面に第1の表面が形成され、薄膜部の非接液面に第2の表面が形成される。第1の表面の弾性率(第1の弾性率)を、第2の表面の弾性率(第2の弾性率)よりも、10%以上高いものとすることによって、薄膜部の柔軟性を維持したまま、柔軟性が要求されず、耐摩耗性が要求される表面(たとえば、当接面)について、耐摩耗性を向上させる構成とすることができる。このようなダイヤフラムは、当接面を含む接液面に対して、電子線を特定の条件で照射することにより、作製することができる。
【0071】
一実施形態において、薄膜部の接液面および当接面を含む弁体の底面に第1の表面が形成され、薄膜部の非接液面に第2の表面が形成される。第1の表面の弾性率(第1の弾性率)を、第2の表面の弾性率(第2の弾性率)よりも、10%以上高いものとすることによって、薄膜部の柔軟性を維持したまま、柔軟性が要求されず、耐摩耗性が要求される底面(当接面)について、耐摩耗性を向上させる構成とすることができる。
【0072】
一実施形態において、接液面および弁体11aの底面(当接面を含む弁体11aの底面)に第1の表面が形成され、非接液面に第2の表面が形成される。第1の表面の弾性率(第1の弾性率)を、第2の表面の弾性率(第2の弾性率)よりも、10%以上高いものとすることによって、ダイヤフラムの耐屈曲性と耐摩耗性とを、高いレベルで両立することができる。このようなダイヤフラムは、接液面および当接面を含む弁体11aの底面に対して、電子線を特定の条件で照射することにより、作製することができる。
【0073】
第2の表面がPFAにより形成されている場合、第2の弾性率は、PFAが示す通常の弾性率と同じである。第2の弾性率は、400~450MPaであってよく、410MPa以上であってよく、440MPa以下であってよく、435MPa以下であってよい。
【0074】
第1の弾性率は、第2の弾性率よりも10%以上高く、好ましくは13%以上高く、より好ましくは16%以上高い。第1の弾性率は、435MPa超であってよく、440MPa超であってよく、450MPa超であってよく、600MPa以下であってよい。
【0075】
ダイヤフラムの表面の弾性率は、表面の押し込み硬さであり、ナノインデンテーションテスターを用いて測定できる。
【0076】
ダイヤフラムの薄膜部の厚さは、好ましくは50~1000μmであり、より好ましくは100μm以上であり、さらに好ましくは200μm以上であり、より好ましくは800μm以下であり、さらに好ましくは600μm以下である。
【0077】
一実施形態においては、第1の表面の融点は、第2の表面よりも高い。一実施形態において、第1の表面が、第1の融点を有しており、第2の表面が、第2の融点を有しており、第1の融点が、第2の融点よりも2℃以上高い。第1の表面の融点を、第2の表面よりも高いものとすることによって、ダイヤフラムの耐屈曲性と耐摩耗性とを、高いレベルで両立することができる。第1の融点と、第2の結晶化温度との差は、+2~+6℃であってよい。
【0078】
このように、他の表面よりも高い融点を有する第1の表面は、電子線未照射のダイヤフラムの表面に対して、電子線を特定の条件で照射することにより、作製することができる。
【0079】
第2の表面の融点は、好ましくは260~315℃であり、より好ましくは270℃以上であり、より好ましくは310℃以下である。
【0080】
一実施形態においては、第1の表面の結晶化温度は、第2の結晶化温度よりも低い。一実施形態において、第1の表面が、第1の結晶化温度を有しており、第2の表面が、第2の結晶化温度を有しており、第1の結晶化温度が、第2の結晶化温度よりも2℃以上低い。第1の表面の結晶化温度を、第2の結晶化温度よりも低いものとすることによって、ダイヤフラムの耐屈曲性と耐摩耗性とを、高いレベルで両立することができる。第1の結晶化温度と、第2の結晶化温度との差は、-2~-6℃であってよい。
【0081】
このように、他の表面よりも低い結晶化温度を有する第1の表面は、電子線未照射のダイヤフラムの表面に対して、電子線を特定の条件で照射することにより、作製することができる。
【0082】
第2の表面の結晶化温度は、好ましくは230~285℃であり、より好ましくは240℃以上であり、より好ましくは280℃以下である。
【0083】
ダイヤフラムの表面の融点および結晶化温度は、次の方法により測定することができる。ダイヤフラムから、第1の表面を含む厚さ100μmの薄膜状の試料、および、第2の表面を含む厚さ100μmの薄膜状の試料を作製する。各試料を載せたスライドグラスを、ホットステージに取りつけ、室温から250℃まで20℃/分の速度で昇温し、続いて250℃から360℃まで5℃/分の速度で昇温し、試料が融解する温度を測定する。次に、360℃で10分間保持したのち10℃/分の速度で200℃まで降温し、試料が結晶化する温度を測定する。試料の融解および結晶化は、光学顕微鏡を用いて、試料を観察することにより確認する。
【0084】
本開示のダイヤフラムの厚みは、均一であってもよいし、不均一であってもよいが、不均一であることが通常である。本開示のダイヤフラムの最も薄い部分の厚みは、50~1000μmであることが好ましい。
【0085】
ダイヤフラムに対する電子線の照射は、耐摩耗性が要求されるダイヤフラムの一部に対して行えば十分である。しかしながら、ダイヤフラムの直径は、10~50mm程度であることが多く、ダイヤフラムの一部に対して電子線を照射することは困難であることが多い。ダイヤフラムの全体に対して電子線を照射せざるを得ない場合、ダイヤフラムの薄い部分にも電子線が照射される。上記したとおり、十分に低いメルトフローレートを有するPFAを用いてダイヤフラムを形成する場合、PFAが有する官能基数によっては、電子線の照射によりダイヤフラムの耐屈曲性が低下してしまい、耐摩耗性および耐屈曲性を両立させることが困難であることが、本発明者らの検討によって明らかになった。
【0086】
薄い部分を有するダイヤフラムに対して、上記した条件で電子線を照射することによって、薄い部分においても、表面のみに電子線が照射される。したがって、薄い部分の厚み方向の全体に電子線が照射されることがないことから、低いメルトフローレートを有する共重合体(A)が本来有する優れた耐屈曲性を維持したまま、ダイヤフラムの表面のみが改質され、電子線を照射していないダイヤフラムに比べて、耐摩耗性が向上する。ダイヤフラムの最も薄い部分は、最も頻繁に屈曲する部位であることが多い。上記した条件で電子線を照射することによって、ダイヤフラムの最も薄い部分の耐屈曲性が損なわれず、なおかつ、他の部材との接触面の耐摩耗性を向上させることができることから、本開示のダイヤフラムを用いることによって、半導体チップ製造の歩留まりが大きく向上することが期待できる。
【0087】
ダイヤフラムの最も薄い部分の厚みは、より好ましくは100μm以上であり、さらに好ましくは200μm以上であり、より好ましくは800μm以下であり、さらに好ましくは600μm以下である。
【0088】
共重合体(A)をダイヤフラムの形状に成形する方法としては、射出成形法、圧縮成形法、トランスファー成形法などが挙げられ、なかでも、射出成形法またはトランスファー成形法が好ましい。これらの成形法によりダイヤフラムの形状に成形する場合、ダイヤフラムの表面粗度が、金型の表面粗度を反映したものとなることから、ダイヤフラムの表面粗度を容易に上記の範囲内に調整することができる。
【0089】
また、共重合体(A)のブロックを作製し、得られたブロックを切削加工した後、表面を加熱して平坦化することにより、ダイヤフラムの形状に成形してもよい。共重合体(A)は、溶融加工性を有している。したがって、非溶融加工性を有するポリテトラフルオロエチレンを含有するダイヤフラムの切削痕とは異なって、共重合体(A)を含有するダイヤフラムの切削痕は、ダイヤフラムの表面を加熱することにより、容易に除去することができる。
【0090】
本開示のダイヤフラムは、ダイヤフラムバルブのダイヤフラムとして好適に利用することができる。本開示のダイヤフラムは、半導体工場で使用される腐食性の高い薬品等と接触しても劣化しにくく、弁座と繰り返し当接しても、パーティクルを発生させにくいことに加えて、耐屈曲性にも優れていることから、長期間に渡って使用することができる。
【0091】
(ダイヤフラムバルブ)
本開示のダイヤフラムバルブは、上記したダイヤフラムを備えている。一実施形態において、ダイヤフラムバルブは、弁座と上記したダイヤフラムとを備えている。本開示のダイヤフラムバルブは、半導体工場で使用される腐食性の高い薬品等と接触しても劣化しにくく、開閉を繰り返してもパーティクルを発生させにくいことに加えて、ダイヤフラムの寿命が長く、長期間に渡って使用することができる。ダイヤフラムバルブは、バルブ本体に設けられた弁座と、弁座に当接または離間する上記したダイヤフラムとを備えることが好ましい。
【0092】
図1は、本開示のダイヤフラムおよびダイヤフラムバルブの一実施形態の断面概略図である。図1に示すダイヤフラムバルブ10は、閉弁状態にある。図1に示すように、ボディー(バルブ本体)13には、シリンダ14が接続されている。また、ダイヤフラムバルブ10は、ダイヤフラム11を備えており、ダイヤフラム11は、周縁部がボディー13とシリンダ14との間に挟み込まれることにより固定されている。また、ダイヤフラム11には、ピストンロッド15が接続されており、ピストンロッド15が上下動することにより、ダイヤフラム11も上下動する。
【0093】
ボディー13には、弁座16が設けられており、弁座16にダイヤフラム11が当接することにより、流れ込む流体が遮蔽され、弁座16からダイヤフラム11が離間することにより、流体が供給される。このように、ダイヤフラムバルブ10は、ダイヤフラム11が弁座16に対し当接離間することによって流体の流量の制御を行う。そして、ダイヤフラム11が上述した構成を備えるダイヤフラムであることから、当接および離間を繰り返しても、パーティクルが発生しにくい。
【0094】
弁座16が一体形成されているボディー13は、金属、樹脂等により構成することができる。上記樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等が挙げられる。
【0095】
ダイヤフラムバルブの一実施形態においては、上記したダイヤフラムと接触する接触面を備えている。接触面としては、弁座16に当接または離間する上記したダイヤフラム11の当接面と接触する弁座16の表面が挙げられる。
【0096】
(共重合体(B))
ダイヤフラムバルブの一実施形態においては、上記したダイヤフラムと接触する接触面を備えており、接触面が、テトラフルオロエチレン単位およびフルオロアルキルビニルエーテル単位を含有する共重合体により形成される。本開示において、ダイヤフラムと接触する接触面を形成する共重合体、すなわち、ダイヤフラムの共重合体(A)と接触する接触面を形成する共重合体を、「共重合体(B)」ということがある。
【0097】
共重合体(B)は、溶融加工性を有するフッ素樹脂であることが好ましい。
【0098】
共重合体(B)のメルトフローレートは、接触面の機械的強度を一層向上させることができることから、好ましくは0.1~100g/10分であり、より好ましくは1.0g/10分以上であり、さらに好ましくは8.0g/10分以上であり、より好ましくは50g/10分以下であり、さらに好ましくは15g/10分以下である。
【0099】
共重合体(B)が含有するFAVEとしては、一般式(1):
CF=CFO(CFCFYO)-(CFCFCFO)-Rf (1)
(式中、YはFまたはCFを表し、Rfは炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。pは0~5の整数を表し、qは0~5の整数を表す。)で表される単量体、および、一般式(2):
CFX=CXOCFOR (2)
(式中、Xは、同一または異なり、H、FまたはCFを表し、Rは、直鎖または分岐した、H、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1種の原子を1~2個含んでいてもよい炭素数が1~6のフルオロアルキル基、若しくは、H、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1種の原子を1~2個含んでいてもよい炭素数が5または6の環状フルオロアルキル基を表す。)で表される単量体からなる群より選択される少なくとも1種を挙げることができる。
【0100】
なかでも、FAVEとしては、一般式(1)で表される単量体が好ましく、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)およびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、PEVEおよびPPVEからなる群より選択される少なくとも1種がさらに好ましい。
【0101】
共重合体(B)のFAVE単位の含有量は、接触面の機械的強度を一層向上させることができることから、全単量体単位に対して、好ましくは3.0~12.0質量%であり、より好ましくは4.0質量%以上であり、さらに好ましくは5.0質量%以上であり、より好ましくは8.0質量%以下であり、さらに好ましくは7.0質量%以下である。
【0102】
共重合体(B)のTFE単位の含有量は、接触面の機械的強度を一層向上させることができることから、全単量体単位に対して、好ましくは88.0~97.0質量%であり、より好ましくは92.0質量%以上であり、さらに好ましくは93.0質量%以上であり、より好ましくは96.0質量%以下であり、さらに好ましくは95.0質量%以下である。
【0103】
共重合体(B)は、TFEおよびFAVEと共重合可能な単量体に由来する単量体単位を含有してもよい。
【0104】
TFEおよびFAVEと共重合可能な単量体としては、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、CZ=CZ(CF(式中、Z、ZおよびZは、同一または異なって、HまたはFを表し、Zは、H、FまたはClを表し、nは2~10の整数を表す。)で表されるビニル単量体、および、CF=CF-OCH-Rf(式中、Rfは炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体等が挙げられる。なかでも、HFPが好ましい。
【0105】
TFEおよびFAVEと共重合可能な単量体に由来する単量体単位の含有量は、好ましくは0~9.0質量%であり、より好ましくは2.0質量%以下であり、さらに好ましくは1.0質量%以下である。
【0106】
共重合体(B)としては、TFE単位およびFAVE単位のみからなる共重合体、および、TFE/HFP/FAVE共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、TFE単位およびFAVE単位のみからなる共重合体がより好ましい。
【0107】
共重合体(B)の融点は、好ましくは255~315℃であり、より好ましくは290℃以上であり、さらに好ましくは295℃以上であり、より好ましくは310℃以下であり、さらに好ましくは308℃以下である。
【0108】
共重合体(B)の官能基数は、炭素原子10個あたり、0~800個であってよい。共重合体(B)の官能基数は、炭素原子10個あたり、好ましくは10個以上であり、より好ましくは100個以上であり、さらに好ましくは200個以上であり、好ましくは800個以下であり、より好ましくは500個以下である。共重合体(B)の官能基数が上記範囲内にあると、電子線照射によって、接触面の耐摩耗性が一層向上しやすい。また、低温で電子線を照射した場合でも、接触面の耐摩耗性が一層向上しやすいことから、電子線照射処理を容易にすることができるとともに、バルブ本体の熱による変形も容易に抑制することができる。
【0109】
また、共重合体(B)の官能基数は、炭素原子10個あたり、10個未満であってもよく、6個以下であってもよい。官能基をほとんど有しない共重合体(B)または官能基を全く有しない共重合体(B)は、多数の官能基を有する共重合体(B)に比べて、電子線照射による効果が得られにくいが、電子線の照射温度を比較的高くすることによって、接触面の耐摩耗性を向上させることができる。
【0110】
共重合体(B)が有する官能基は、共重合体(A)が有する官能基として上述したものと同様である。共重合体(B)が有する官能基数は、共重合体(A)が有する官能基数と同じ方法で測定できる。
【0111】
したがって、共重合体(B)が有する官能基数は、-CF=CF、-CFH、-COF、-COOH、-COOCH、-CONHおよび-CHOHの合計数であってよい。また、共重合体(B)は、フッ素化処理されたものであってよい。共重合体(B)は、-CF末端基を有してもよい。
【0112】
共重合体(B)のMIT値は、接触面の機械的強度を一層向上させることができることから、好ましくは2万回以上であり、より好ましくは5万回以上であり、さらに好ましくは10万回以上である。
【0113】
共重合体(B)のMIT値は、共重合体(B)のMFRおよびFAVE単位の含有量を調節することにより、調整することができる。
【0114】
共重合体(B)のMIT値は、共重合体(B)を圧縮成形して、幅12.7mm、長さ90mm、厚さ0.20~0.23mmの試験片を作製し、荷重1.25kg、左右の折り曲げ角度各135度、折り曲げ回数175回/分の条件下で試験片を屈曲させ、試験片が切断するまでの回数(MIT値)を測定することにより、特定することができる。
【0115】
共重合体(B)として、特開2014-5337号公報に記載の溶融成形性テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体のようなフレックスライフ値が高い共重合体を用いてもよい。
【0116】
また、共重合体(B)として、共重合体(A)を用いてもよい。
【0117】
(表面粗度)
ダイヤフラムバルブにおけるダイヤフラムとの接触面の表面粗度Raは、接触面からのパーティクルの発生を一層抑制することができることから、好ましくは0.20μm以下であり、より好ましくは0.15μm以下であり、さらに好ましくは0.10μm以下であり、尚さらに好ましくは0.06μm以下であり、特に好ましくは0.05μm以下であり、好ましくは0.01μm以上である。
【0118】
(接触面に対する電子線の照射条件)
ダイヤフラムバルブにおけるダイヤフラムとの接触面は、電子線を照射することにより得られるものであってもよい。一実施形態において、ダイヤフラムバルブにおけるダイヤフラムとの接触面が、共重合体(B)の融点以下の温度で、加速電圧が300kV以下の電子線を照射することにより得られる。一実施形態において、接触面は、共重合体(B)をバルブ本体の形状に成形し、得られた成形体に対して、共重合体(B)の融点以下の温度で、加速電圧が300kV以下の電子線を照射することにより、得られる。ダイヤフラムバルブにおける接触面に対して電子線を照射することによって、上記したダイヤフラムに加えて、ダイヤフラムと接触する接触面の耐摩耗性も向上し、ダイヤフラムバルブから発生するパーティクルを一層抑制することができる。
【0119】
接触面に対する電子線の加速電圧は、300kV以下である。電子線の加速電圧は、接触面の耐摩耗性を一層向上させることができることから、好ましくは200kV以下であり、より好ましくは150kV以下であり、さらに好ましくは100kV以下であり、尚さらに好ましくは80kV以下であり、特に好ましくは70kV以下であり、好ましくは30kV以上であり、より好ましくは50kV以上である。
【0120】
電子線の照射線量は、接触面の耐摩耗性を一層向上させることができるとともに、接触面の平滑性を損なうことがないことから、好ましくは20~150kGyであり、より好ましくは30kGy以上であり、さらに好ましくは40kGy以上であり、より好ましくは120kGy以下であり、さらに好ましくは100kGy以下である。
【0121】
電子線の照射温度は、共重合体(B)の融点以下である。接触面の耐摩耗性を一層向上させることができるとともに、接触面の平滑性を損なうことがないことから、好ましくは、共重合体(B)の融点以下、かつ、300℃以下であり、より好ましくは、共重合体(B)の融点以下、かつ、290℃以下であり、さらに好ましくは、共重合体(B)の融点以下、かつ、280℃以下であり、特に好ましくは、共重合体(B)の融点以下、かつ、270℃未満である。また、電子線の照射温度は、接触面の耐摩耗性を一層向上させることができるとともに、接触面の平滑性を損なうことがないことから、好ましくは150℃以上であり、より好ましくは200℃以上であり、さらに好ましくは220℃以上である。
【0122】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【0123】
<1> 本開示の第1の観点によれば、
テトラフルオロエチレン単位およびフルオロアルキルビニルエーテル単位を含有する共重合体を含有するダイヤフラムであって、
前記共重合体のメルトフローレートが、10.0g/10分以下であり、
前記ダイヤフラムの表面粗度Raが、0.20μm以下であり、
第1の弾性率を有する第1の表面と、第2の弾性率を有する第2の表面と、を備えており、第1の弾性率が、第2の弾性率よりも、10%以上高い
ダイヤフラムが提供される。
<2> 本開示の第2の観点によれば、
第1の表面および第2の表面が、いずれも、前記共重合体により形成されている第1の観点によるダイヤフラムが提供される。
<3> 本開示の第3の観点によれば、
第2の弾性率が、400~450MPaである第1または第2の観点によるダイヤフラムが提供される。
<4> 本開示の第4の観点によれば、
第1の表面が、第1の融点を有しており、第2の表面が、第2の融点を有しており、第1の融点が、第2の融点よりも2℃以上高い第1~第3のいずれかの観点によるダイヤフラムが提供される。
<5> 本開示の第5の観点によれば、
第1の表面が、第1の結晶化温度を有しており、第2の表面が、第2の結晶化温度を有しており、第1の結晶化温度が、第2の結晶化温度よりも2℃以上低い第1~第4のいずれかの観点によるダイヤフラムが提供される。
<6> 本開示の第6の観点によれば、
第1の表面が、接液面であり、
第2の表面が、非接液面である
第1~第5のいずれかの観点によるダイヤフラムが提供される。
<7> 本開示の第7の観点によれば、
薄膜部を備えており、
第1の表面が、前記薄膜部の一方の面であり、
第2の表面が、前記薄膜部の他方の面である
第1~第6のいずれかの観点によるダイヤフラムが提供される。
<8> 本開示の第8の観点によれば、
前記薄膜部の厚さが、50~1000μmである第7の観点によるダイヤフラムが提供される。
<9> 本開示の第9の観点によれば、
円柱状の弁体を備えており、
前記弁体が、ダイヤフラムバルブの駆動部に連結される連結部と、前記ダイヤフラムバルブの弁座と当接する当接面とを備えており、
第1の表面が、前記連結部の表面であり、
第2の表面が、前記当接面である
第1~第8のいずれかの観点によるダイヤフラムが提供される。
<10> 本開示の第10の観点によれば、
第1の表面が、前記共重合体により形成されており、前記共重合体に対して、前記共重合体の融点以下の温度で、加速電圧が300kV以下の電子線を照射することにより形成される第1~第9のいずれかの観点によるダイヤフラムが提供される。
<11> 本開示の第11の観点によれば、
前記共重合体のフルオロアルキルビニルエーテル単位の含有量が、5.0~13.0質量%である第1~第10のいずれかの観点によるダイヤフラムが提供される。
<12> 本開示の第12の観点によれば、
前記共重合体の融点が、260~315℃である第1~第11のいずれかの観点によるダイヤフラムが提供される。
<13> 本開示の第13の観点によれば、
前記共重合体の官能基数が、炭素原子10個あたり、0~800個である第1~第12のいずれかの観点によるダイヤフラム。
<14> 本開示の第14の観点によれば、
第1~第13のいずれかの観点によるダイヤフラムを備えるダイヤフラムバルブが提供される。
<15> 本開示の第15の観点によれば、
駆動部と、弁座が設けられたバルブボディと、ダイヤフラムと、を備えており、
前記ダイヤフラムが、
前記駆動部に連結される連結部、および、前記弁座と当接する当接面を備える円柱状の弁体と、
前記弁体の外周面に設けられた薄膜部と、
を備える請第14の観点によるダイヤフラムバルブが提供される。
【実施例0124】
つぎに本開示の実施形態について実験例をあげて説明するが、本開示はかかる実験例のみに限定されるものではない。
【0125】
実験例の各数値は以下の方法により測定した。
【0126】
(メルトフローレート(MFR))
ASTM D1238に従って、メルトインデクサー(安田精機製作所社製)を用いて、372℃、5kg荷重下で、内径2.1mm、長さ8mmのノズルから10分間あたりに流出する共重合体の質量(g/10分)を求めた。
【0127】
(共重合体の組成)
19F-NMR法により測定した。
【0128】
(共重合体の融点(2nd run))
示差走査熱量計〔DSC〕を用いて10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度として求めた。
【0129】
(官能基数)
共重合体を330~340℃にて30分間溶融し、圧縮成形して、厚さ0.20~0.25mmのフィルムを作製した。このフィルムをフーリエ変換赤外分光分析装置〔FT-IR(商品名:1760X型、パーキンエルマー社製)により40回スキャンし、分析して赤外吸収スペクトルを得、完全にフッ素化されて官能基が存在しないベーススペクトルとの差スペクトルを得た。この差スペクトルに現れる特定の官能基の吸収ピークから、下記式(A)に従って、共重合体における炭素原子10個あたりの官能基数Nを算出した。
【0130】
N=I×K/t (A)
I:吸光度
K:補正係数
t:フィルムの厚さ(mm)
【0131】
参考までに、本開示における官能基について、吸収周波数、モル吸光係数および補正係数を表2に示す。また、モル吸光係数は低分子モデル化合物のFT-IR測定データから決定したものである。
【0132】
【表2】
【0133】
(表面粗度Ra)
比較例および実験例で作製した電子線照射前のシート(試験片)の表面粗度Raを表面粗度測定機(Mitutoyo社製SURFTESTSV-600)を使用し、JIS B0601-1994に準拠して、測定点数5点の測定を3回繰り返し、得られた測定値の平均値を算出することにより、求めた。
【0134】
(MIT値)
比較例および実験例で用いた共重合体のMIT値を、ASTM D2176に準じて測定した。具体的には、共重合体を圧縮成形して、幅12.7mm、長さ90mm、厚さ0.20~0.23mmの試験片を作製し、試験片をMIT試験機(型番12176、(安田精機製作所社製))に装着し、荷重1.25kg、左右の折り曲げ角度各135度、折り曲げ回数175回/分の条件下で試験片を屈曲させ、試験片が切断するまでの回数(MIT値)を測定した。
【0135】
(摩耗試験)
比較例および実験例で作製したシート(試験片)および染色摩擦堅ろう度試験機(安田精機製作所社製)を使用し、図2に示すように、シート(試験片)21上に、摩擦子22の先端に固定したPFA(ダイキン工業社製ネオフロンPFA AP-230)のシート23を設置し、両者をお互いに往復摩擦した。荷重は500g、回数は2000回(30回/分)とした。摩擦されたシート(試験片)の表面を目視で観察し、以下の基準で評価した。
2:シート(試験片)の表面に傷がほとんど見られなかった。
1:シート(試験片)の表面に多少の傷が見られた。
0:シート(試験片)の表面に多くの傷が見られた。
【0136】
(試験片表面の弾性率)
エリオニクス社製の超微小硬さ試験機「ENT-2100」を用いて、原子間力顕微鏡(AFM)を用いたナノインデンテーション(微小押し込み)法で微小表面の弾性率(試験荷重1000μN)を測定した。測定温度は25℃とした。
弾性率の増加率(%)=[(第1の表面の弾性率)-(第2の表面の弾性率)]/(第2の表面の弾性率)×100
【0137】
(試験片表面の融点および結晶化温度)
シート(試験片)から、第1の表面を含む厚さ100μmの薄膜状の試料、および、第2の表面を含む厚さ100μmの薄膜状の試料を作製した。各試料を載せたスライドグラスを、ホットステージ(メトラー製FP82HT型ホットステージ)に取りつけ、室温から250℃まで20℃/分の速度で昇温し、続いて250℃から360℃まで5℃/分の速度で昇温し、試料が融解する温度を測定した。次に、360℃で10分間保持したのち10℃/分の速度で200℃まで降温し、試料が結晶化する温度を測定した。試料の融解および結晶化は、光学顕微鏡(オリンパス光学製BH-5型顕微鏡)を用いて、試料を観察することにより確認した。
融点の差(℃)=(第1の表面の融点)-(第2の表面の融点)
結晶化温度の差(℃)=(第1の表面の結晶化温度)-(第2の表面の結晶化温度)
【0138】
比較例1
表3に記載の共重合体を、350℃にて30分加熱溶融した後、ヒートプレスし、水冷することによって、表3に記載の厚さを有するシート(試験片)を作製した。得られたシート(試験片)の表面粗度を測定した。また、得られたシート(試験片)を用いて、上記した摩耗試験を行った。また、試験片の両面(第1の表面および第2の表面)の弾性率、融点、結晶化温度を測定した。結果を表3に示す。
【0139】
比較例2
表3に記載の共重合体を、350℃にて30分加熱溶融した後、ヒートプレスし、水冷することによって、表3に記載の厚さを有するシート(試験片)を作製した。得られたシート(試験片)を、電子線照射装置(NHVコーポレーション社製電子線照射装置EPS-3000)の電子線照射容器に収容し、その後窒素ガスを加えて容器内を窒素雰囲気にした。容器内の温度を260℃まで上昇させ、温度を安定させた後、電子線加速電圧が3000kV、照射線量の強度が20kGy/5minの条件で、試験片の片面に100kGyの電子線を照射した。電子線を照射して得られたシート(試験片)を用いて、上記した摩耗試験を行った。結果を表3に示す。
【0140】
実験例1~9
共重合体の種類および、電子線照射装置として浜松ホトニクス製の低エネルギー電子線照射源 EB-ENGINE L12978を使用して、電子線の照射条件を表3に記載のとおりに変更した以外は、比較例2と同様にして、片面に電子線を照射して得られたシート(試験片)を得た。電子線を照射して得られたシート(試験片)を用いて、上記した摩耗試験を行った。また、試験片の電子線照射面(第1の表面)および試験片の電子線非照射面(第2の表面)の弾性率、融点、結晶化温度を測定した。結果を表3に示す。
【0141】
【表3】
【符号の説明】
【0142】
10 ダイヤフラムバルブ
11 ダイヤフラム
11a 弁体
11b 薄膜部
13 ボディー
14 シリンダ
15 ピストンロッド
16 弁座
21 シート(試験片)
22 摩擦子
23 PFAシート
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2024-03-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロエチレン単位およびフルオロアルキルビニルエーテル単位を含有する共重合体を含有するダイヤフラムであって、
前記共重合体のメルトフローレートが、10.0g/10分以下であり、
前記ダイヤフラムの表面粗度Raが、0.20μm以下であり、
第1の弾性率を有する第1の表面と、第2の弾性率を有する第2の表面と、を備えており、
第1の表面が、接液面であり、
第2の表面が、非接液面であり、
第1の弾性率が、第2の弾性率よりも、10%以上高い
ダイヤフラム。
【請求項2】
テトラフルオロエチレン単位およびフルオロアルキルビニルエーテル単位を含有する共重合体を含有するダイヤフラムであって、
前記共重合体のメルトフローレートが、10.0g/10分以下であり、
前記ダイヤフラムの表面粗度Raが、0.20μm以下であり、
前記ダイヤフラムは、円柱状の弁体を備えており、
前記弁体が、ダイヤフラムバルブの駆動部に連結される連結部と、前記ダイヤフラムバルブの弁座と当接する当接面とを備えており、
前記当接面に第1の弾性率を有する第1の表面と、前記連結部の表面に第2の弾性率を有する第2の表面と、を備えており、第1の弾性率が、第2の弾性率よりも、10%以上高い
ダイヤフラム。
【請求項3】
第1の表面および第2の表面が、いずれも、前記共重合体により形成されている請求項1または2に記載のダイヤフラム。
【請求項4】
第2の弾性率が、400~450MPaである請求項1または2に記載のダイヤフラム。
【請求項5】
第1の表面が、第1の融点を有しており、第2の表面が、第2の融点を有しており、第1の融点が、第2の融点よりも2℃以上高い請求項1または2に記載のダイヤフラム。
【請求項6】
第1の表面が、第1の結晶化温度を有しており、第2の表面が、第2の結晶化温度を有しており、第1の結晶化温度が、第2の結晶化温度よりも2℃以上低い請求項1または2に記載のダイヤフラム。
【請求項7】
薄膜部を備えており、
第1の表面が、前記薄膜部の接液面であり、
第2の表面が、前記薄膜部の非接液面である
請求項1に記載のダイヤフラム。
【請求項8】
前記薄膜部の厚さが、50~1000μmである請求項7に記載のダイヤフラム。
【請求項9】
第1の表面が、前記共重合体により形成されており、前記共重合体に対して、前記共重合体の融点以下の温度で、加速電圧が300kV以下の電子線を照射することにより形成される請求項1または2に記載のダイヤフラム。
【請求項10】
前記共重合体のフルオロアルキルビニルエーテル単位の含有量が、5.0~13.0質量%である請求項1または2に記載のダイヤフラム。
【請求項11】
前記共重合体の融点が、260~315℃である請求項1または2に記載のダイヤフラム。
【請求項12】
前記共重合体の官能基数が、炭素原子10個あたり、0~800個である請求項1または2に記載のダイヤフラム。
【請求項13】
請求項1または2に記載のダイヤフラムを備えるダイヤフラムバルブ。
【請求項14】
請求項1に記載のダイヤフラムを備えるダイヤフラムバルブであって、
前記ダイヤフラムバルブは、駆動部と、弁座が設けられたバルブボディと、前記ダイヤフラムと、を備えており、
前記ダイヤフラムが、
前記駆動部に連結される連結部、および、前記弁座と当接する当接面を備える円柱状の弁体と、
前記弁体の外周面に設けられた薄膜部と、
を備えるダイヤフラムバルブ。
【請求項15】
請求項2に記載のダイヤフラムを備えるダイヤフラムバルブであって、
前記ダイヤフラムバルブは、駆動部と、弁座が設けられたバルブボディと、前記ダイヤフラムと、を備えており、
前記ダイヤフラムが、前記弁体の外周面に設けられた薄膜部をさらに備えるダイヤフラムバルブ。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0067
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0067】
一実施形態において、当接面に第1の表面が形成され、連結部の表面に第2の表面が形成される。第1の表面の弾性率(第1の弾性率)を、第2の表面の弾性率(第2の弾性率)よりも、10%以上高いものとすることによって、当接面の耐摩耗性を向上させることができ、同時に、耐摩耗性を要求されない表面およびダイヤフラムの内部については、柔軟性を損なわない構成とすることができる。このようなダイヤフラムは、当接面を含む弁体11aの底面に対して、電子線を特定の条件で照射することにより、作製することができる。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0123
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0123】
<1> 本開示の第1の観点によれば、
テトラフルオロエチレン単位およびフルオロアルキルビニルエーテル単位を含有する共重合体を含有するダイヤフラムであって、
前記共重合体のメルトフローレートが、10.0g/10分以下であり、
前記ダイヤフラムの表面粗度Raが、0.20μm以下であり、
第1の弾性率を有する第1の表面と、第2の弾性率を有する第2の表面と、を備えており、第1の弾性率が、第2の弾性率よりも、10%以上高い
ダイヤフラムが提供される。
<2> 本開示の第2の観点によれば、
第1の表面および第2の表面が、いずれも、前記共重合体により形成されている第1の観点によるダイヤフラムが提供される。
<3> 本開示の第3の観点によれば、
第2の弾性率が、400~450MPaである第1または第2の観点によるダイヤフラムが提供される。
<4> 本開示の第4の観点によれば、
第1の表面が、第1の融点を有しており、第2の表面が、第2の融点を有しており、第1の融点が、第2の融点よりも2℃以上高い第1~第3のいずれかの観点によるダイヤフラムが提供される。
<5> 本開示の第5の観点によれば、
第1の表面が、第1の結晶化温度を有しており、第2の表面が、第2の結晶化温度を有しており、第1の結晶化温度が、第2の結晶化温度よりも2℃以上低い第1~第4のいずれかの観点によるダイヤフラムが提供される。
<6> 本開示の第6の観点によれば、
第1の表面が、接液面であり、
第2の表面が、非接液面である
第1~第5のいずれかの観点によるダイヤフラムが提供される。
<7> 本開示の第7の観点によれば、
薄膜部を備えており、
第1の表面が、前記薄膜部の一方の面であり、
第2の表面が、前記薄膜部の他方の面である
第1~第6のいずれかの観点によるダイヤフラムが提供される。
<8> 本開示の第8の観点によれば、
前記薄膜部の厚さが、50~1000μmである第7の観点によるダイヤフラムが提供される。
<9> 本開示の第9の観点によれば、
円柱状の弁体を備えており、
前記弁体が、ダイヤフラムバルブの駆動部に連結される連結部と、前記ダイヤフラムバルブの弁座と当接する当接面とを備えており、
第1の表面が、前記当接面であり、
第2の表面が、前記連結部の表面である
第1~第8のいずれかの観点によるダイヤフラムが提供される。
<10> 本開示の第10の観点によれば、
第1の表面が、前記共重合体により形成されており、前記共重合体に対して、前記共重合体の融点以下の温度で、加速電圧が300kV以下の電子線を照射することにより形成される第1~第9のいずれかの観点によるダイヤフラムが提供される。
<11> 本開示の第11の観点によれば、
前記共重合体のフルオロアルキルビニルエーテル単位の含有量が、5.0~13.0質量%である第1~第10のいずれかの観点によるダイヤフラムが提供される。
<12> 本開示の第12の観点によれば、
前記共重合体の融点が、260~315℃である第1~第11のいずれかの観点によるダイヤフラムが提供される。
<13> 本開示の第13の観点によれば、
前記共重合体の官能基数が、炭素原子10個あたり、0~800個である第1~第12のいずれかの観点によるダイヤフラム。
<14> 本開示の第14の観点によれば、
第1~第13のいずれかの観点によるダイヤフラムを備えるダイヤフラムバルブが提供される。
<15> 本開示の第15の観点によれば、
駆動部と、弁座が設けられたバルブボディと、ダイヤフラムと、を備えており、
前記ダイヤフラムが、
前記駆動部に連結される連結部、および、前記弁座と当接する当接面を備える円柱状の弁体と、
前記弁体の外周面に設けられた薄膜部と、
を備える請第14の観点によるダイヤフラムバルブが提供される。