(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065122
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】内燃機関のバルブタイミング制御装置
(51)【国際特許分類】
F01L 1/356 20060101AFI20240508BHJP
【FI】
F01L1/356 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021038110
(22)【出願日】2021-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100205682
【弁理士】
【氏名又は名称】高嶋 一彰
(72)【発明者】
【氏名】山中 淳史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 秀平
【テーマコード(参考)】
3G018
【Fターム(参考)】
3G018AB02
3G018BA09
3G018CA02
3G018CA13
3G018DA20
3G018DA68
3G018GA23
3G018GA32
(57)【要約】
【課題】外歯部と例えばタイミングチェーンの間を積極的に潤滑し得る内燃機関のバルブタイミング制御装置を提供する。
【解決手段】スプロケット1は、タイミングチェーン4が巻回される複数の外歯部1bを外周に有するスプロケット本体1aと、スプロケット本体に軸方向から当接して固定され、外周部にボルト挿入孔5eが軸方向に貫通形成された内歯車構成部材5と、スプロケット本体に内歯車構成部材のボルト挿入孔5eと軸方向から連続して設けられ、ボルト7の雄ねじ部7bが締結される雌ねじ孔1dと、スプロケット本体の外周に設けられた環状溝部20と、スプロケット本体の雌ねじ孔から軸方向に沿って延びて環状溝部の底面よりも径方向内側に設けられた第1油溜溝32と、を有している。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクシャフトからの回転力が伝達される駆動回転体と、
カムシャフトに結合されて、前記駆動回転体と相対回転可能な従動回転体と、
電動モータの回転速度を減速して前記駆動回転体と従動回転体の相対回転位相を変更可能な減速機と、
を備えた内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、
前記駆動回転体は、
前記クランクシャフトからの回転力を受ける外歯部を外周に有する本体と、
前記駆動回転体の回転軸の方向を軸方向としたとき、前記本体に軸方向から当接して固定され、外周部にボルト挿入孔が軸方向に貫通形成された固定部材と、
前記本体に前記固定部材のボルト挿入孔と軸方向から連続して設けられ、前記ボルト挿入孔に挿入されるボルトの雄ねじ部が締結される雌ねじ孔と、
前記本体の外周に前記外歯部と軸方向で隣接して設けられ、前記駆動回転体の回転軸に対して放射方向を径方向としたとき、前記径方向の内側に凹む環状溝部と、
前記本体の前記雌ねじ孔から軸方向に沿って延びて前記環状溝部の底面よりも径方向内側に設けられ、かつ前記外歯部の歯底よりも径方向内側に位置する径方向凹部と、
を有することを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、
前記径方向凹部は、前記環状溝部の底面に複数設けられていることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、
前記径方向凹部は、内面が半円弧状であることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【請求項4】
請求項2に記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、
前記径方向凹部は、前記雌ねじ孔を設ける際に、前記雌ねじ孔の一部として設けられていることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、
前記環状溝部の底面であって、前記径方向凹部の前記雌ねじ孔と軸方向で反対側の位置に、前記径方向凹部よりも浅溝状の第2径方向凹部が前記径方向凹部に対して段差状に設けられていることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【請求項6】
請求項2に記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、
前記本体は、前記外歯部から軸方向へ離れた位置に前記外歯部よりも外径の大きな大径部を有し、
前記雌ねじ孔は、前記大径部を軸方向に貫通して設けられ、
前記固定部材は、前記雌ねじ孔に締結される前記ボルトによって前記大径部に軸方向から固定され、
前記環状溝部及び前記径方向凹部は、前記外歯部と大径部との間に形成されていることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、
前記減速機は、前記固定部材の内周に設けられた内歯と、前記電動モータによって回転され、偏心カム軸を有する回転軸部材と、前記内歯と前記回転軸部材との間に設けられて、前記回転軸部材の回転によって前記内歯に噛み合って前記従動回転体に回転力を伝達する伝達部材と、を有することを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【請求項8】
クランクシャフトからの回転力が伝達される外歯部を外周に有する駆動回転体と、
カムシャフトに結合されて、前記駆動回転体と相対回転可能な従動回転体と、
電動モータの回転速度を減速して前記駆動回転体と従動回転体の相対回転位相を変更可能な減速機と、
を備えた内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、
前記駆動回転体の内周に設けられた滑り軸受面と、
前記従動回転体の外周に径方向外側に突出して設けられ、外周面が前記滑り軸受面に摺動可能なジャーナル部と、
前記駆動回転体から径方向内側に延びる環状の部位であって、前記従動回転体に軸方向から当接することによって前記従動回転体の軸方向の移動を規制する軸方向規制部と、
前記従動回転体の前記カムシャフト側の内側面に軸方向に凹んで設けられた円環状凹部と、
前記円環状凹部の外周側であって、前記軸方向規制部と軸方向から対向配置され、前記軸方向規制部よりも径方向内側で開口する環状溝と、
を有することを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【請求項9】
請求項8に記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、
前記軸方向規制部は、前記外歯部の径方向内側にあることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【請求項10】
請求項9に記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、
前記軸方向規制部は、径方向において前記外歯部の少なくとも一部とオーバーラップしていることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【請求項11】
請求項10に記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、
前記軸方向規制部の内周に設けられた第1ストッパ部と、
前記従動回転体に設けられて、前記第1ストッパ部材と周方向から当接することによって前記駆動回転体と従動回転体の相対回転位置を規制する第2ストッパ部と、
を有することを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のバルブタイミング制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の内燃機関のバルブタイミング制御装置としては、以下の特許文献1に記載されたものが知られている。
【0003】
このバルブタイミング制御装置は、潤滑油供給通路によって減速機の内部に潤滑油が供給されるようになっている。潤滑油供給通路は、機関のメインオイルギャラリーから分岐されてシリンダヘッド内からカムシャフトの内部軸方向に沿って形成された油通路と、従動部材の円盤状本体にカムシャフトの軸方向に沿って貫通形成されて、前記油通路に連通する油孔と、を有している。
【0004】
したがって、減速機は、潤滑油供給通路によりボールベアリングなどへの各軸受を効率良く潤滑されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の従来のバルブタイミング制御装置にあっては、減速機の各部に対する潤滑性は得られるものの、タイミングスプロケットの外周に有する外歯部と該外歯部に巻回されて、回転力をタイミングスプロケットに伝達するタイミングチェーンとの間の積極的な潤滑性については十分に考慮されていない。この結果、特に、機関始動時において、外歯部とタイミングチェーンと間の機械的な騒音などの発生を招くおそれがある。
【0007】
本発明は、前記従来の技術的課題に鑑みて案出されたもので、外歯部と例えばタイミングチェーンの間を積極的に潤滑し得る内燃機関のバルブタイミング制御装置を提供することを一つの目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
好ましい態様の一つとしては、とりわけ、駆動回転体は、前記クランクシャフトからの回転力を受ける外歯部を外周に有する本体と、前記駆動回転体の回転軸の方向を軸方向としたとき、前記本体に軸方向から当接して固定され、外周部にボルト挿入孔が軸方向に貫通形成された固定部材と、前記本体に前記固定部材のボルト挿入孔と軸方向から連続して設けられ、前記ボルト挿入孔に挿入されるボルトの雄ねじ部が締結される雌ねじ孔と、前記本体の外周に前記外歯部と軸方向で隣接して設けられ、前記駆動回転体の回転軸に対して放射方向を径方向としたとき、前記径方向の内側に凹む環状溝部と、前記本体の前記雌ねじ孔から軸方向に沿って延びて前記環状溝部の底面よりも径方向内側に設けられ、かつ前記外歯部の歯底よりも径方向内側に位置する径方向凹部と、を有している。
【発明の効果】
【0009】
本発明の好ましい態様によれば、外歯部を積極的に潤滑することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1実施形態におけるバルブタイミング制御装置の減速機側を縦断面して示す側面図である。
【
図2】本実施形態に供される主要な構成部材を示す分解斜視図である。
【
図7】本発明の第2実施形態を示す要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る内燃機関のバルブタイミング制御装置の実施形態を図面に基づいて詳述する。なお、本実施形態では、バルブタイミング制御装置を吸気側に適用したものを示しているが、排気側に適用することも可能である。
〔第1実施形態〕
図1は本実施形態におけるバルブタイミング制御装置の減速機側を縦断面して示す側面図、
図2は本実施形態に供される主要な構成部材を示す分解斜視図、
図3は
図1のA部拡大図、
図4は
図1のB-B線断面図、
図5は
図1のC-C線断面図、
図6は
図1のD矢視図である。
【0012】
バルブタイミング制御装置は、
図1及び
図2に示すように、駆動回転体であるタイミングスプロケット1(以下、スプロケット1という。)と、シリンダヘッド01上に軸受ブラケット02を介して回転自在に支持されたカムシャフト2と、スプロケット1とカムシャフト2との間に配置されて、機関運転状態に応じて両者1,2の相対回転位相を変更する位相変更機構3と、を備えている。
【0013】
スプロケット1は、
図1~
図3に示すように、全体が金属圧粉を焼結して得られる焼結金属材によって環状一体に形成されており、断面ほぼL字形状に形成された円環状のスプロケット本体1aと、スプロケット1の回転軸を軸方向とすると、スプロケット本体1aの軸方向のカムシャフト側の一端部外周に一体に設けられたスプロケット歯である複数の外歯部1bと、スプロケット本体1aの軸方向のカムシャフト2と反対側の他端部外周に一体に設けられた大径部1cと、を備えている。
【0014】
スプロケット本体1aは、中央に形成された大径孔の内周面に滑り軸受の一部を構成する軸受面10が設けられている。この軸受面10は、後述する従動回転体である従動部材9の外周に有するジャーナル部11との間でスプロケット1全体を相対回転可能に軸受けしている。
【0015】
各外歯部1bは、機関のクランクシャフトに有するドリブンギアに一端部が巻回されたタイミングチェーン4の他端部が巻回されている。これによって、各外歯部1bは、タイミングチェーン4を介してクランクシャフトから回転力が伝達されるようになっている。
【0016】
なお、本実施形態では、外歯部1bに回転力を伝達する手段として、タイミングチェーン4を用いたが、クランクシャフトのドリブンギアを直接、外歯部1bに噛み合わせて回転力を伝達させる構成としてもよい。
【0017】
大径部1cは、円環状に形成されて、各外歯部1bに対して軸方向に所定間隔をもって離間配置されて、各外歯部1bと大径部1cとの間に環状溝部20が形成されている。大径部1cは、外径dが各外歯部1bの外径d1よりも大きく形成され、周方向の等間隔位置に複数(本実施形態では7つ)の雌ねじ孔1dが形成されている。この各雌ねじ孔1dは、大径部1cの軸方向の一端面から他端面に渡って貫通形成されて、後述する各ボルト7の雄ねじ部7bが締結されるようになっている。
【0018】
環状溝部20は、各外歯部1bと大径部1cとの間にスプロケット本体1aの外周面全体に亘って形成されている。この環状溝部20は、
図4に示すように、底面20aの各雌ねじ孔1dと対応した位置に複数(本実施形態では7つ)の径方向凹部である第1油溜溝32が設けられている。
【0019】
この各第1油溜溝32は、大径部1cの各雌ねじ孔1dを雌ねじタップで成形加工する際に、そのまま雌ねじタップを環状溝部20の底面20a(底壁)まで進出させて各雌ねじ孔1dと一緒に成形されるようになっている。
【0020】
各第1油溜溝32は、
図4に示すように、内面32aがほぼ半円弧状に形成されている。つまり、各第1油溜溝32は、前記雌ねじタップを環状溝部20の底面20aの底壁を軸方向から切り込んで雌ねじ孔1dの内側と連続して形成される。このため、第1油溜溝32の内面32aは、各雌ねじ孔1dの内周面と同じ曲率の半円弧状に形成されている。また、各第1油溜溝32は、各外歯部1bの歯底HBよりも径方向内側に形成されている。
【0021】
また、スプロケット本体1aは、
図1及び
図3にも示すように、大径部1cの回転軸方向の一端側(前端側)の前端面に環状凹部6が形成されている。この環状凹部6は、スプロケット本体1aの前端面の径方向内側に形成され、平坦状の底面6aと、該底面6a外周縁から軸方向に形成された環状内周面6bと、を有している。
【0022】
底面6aは、その深さが大径部1cの軸方向幅の約半分の深さになっている。環状内周面6bには、後述する減速機13の一部を構成する固定部材である円環状の内歯車構成部材5が回転軸方向からインロー(嵌合)される。
【0023】
内歯車構成部材5は、環状凹部6に軸方向から嵌合された状態でスプロケット本体1aに各ボルト7によって結合されている。この内歯車構成部材5の具体的な構成については後述する。
【0024】
各ボルト7は、軸部7aの先端部外周に大径部1cの雌ねじ孔1dに螺着締結される雄ねじ部7bが形成されている。
【0025】
さらに、スプロケット本体1aは、外歯部1bの内周にストッパ機構の一部を構成する第1環状規制部8が一体に設けられている。
【0026】
第1環状規制部8は、
図1、
図2及び
図6に示すように、スプロケット1を焼結成形する際に一体に形成されて、焼結金属材によって所定肉厚の円環板状に形成されている。この第1環状規制部8は、スプロケット本体1aのカムシャフト2側の後端縁から径方向内側に延びた円環状に形成されている。
【0027】
第1環状規制部8は、内周面8aの周方向のほぼ180°位置に2つの第1ストッパ凸部8b、8cが対向して設けられている。この各第1ストッパ凸部8b、8cは、第1環状規制部8の中心軸に向かって突出していると共に、先端面がほぼ円弧形状に形成されている。また、各第1ストッパ凸部8b、8cは、後述する第2環状規制部19の一つ(一方)の第2ストッパ凸部19aが円周方向から当接する。これによって、スプロケット1に対する従動部材9の相対回転位置を規制するようになっている。
【0028】
また、第1環状規制部8は、軸方向のカムシャフト2側の外側面が外歯部1bの外側面(スプロケット本体1aの先端面)と同一面に形成されている。第1環状規制部8は、内歯車構成部材5側の環状内側面8dが軸受面10のカムシャフト2側の一端部を覆うように配置されている。
【0029】
カムシャフト2は、外周に図外の吸気弁を開作動させる一気筒当たり2つの駆動カムを有している。また、カムシャフト2は、
図1に示すように、回転軸方向の一端部2aに軸受ブラケット02を介して軸方向の位置決めを行うフランジ部2bが一体に設けられている。
【0030】
カムシャフト2は、一端部2aの先端面から内部軸心方向に沿って形成された挿入孔2cを有している。この挿入孔2cは、後述するカムボルト14の軸部14bが挿入されると共に、先端側の内周面の一部にカムボルト14の雄ねじ部14cが締結される雌ねじ部2dが形成されている。
【0031】
また、カムシャフト2の一端部2a内には、潤滑油を通流させる潤滑油供給機構の一部を構成する図外の油供給通路が形成されている。
【0032】
内歯車構成部材5の前端面には、フロントプレート15が設けられている。このフロントプレート15は、
図1~
図3に示すように、例えば鉄系金属板を円盤状にプレス成形で打ち抜き加工されたものであって、内歯車構成部材5の前端面にボルト固定される外周部位15aと、該外周部位15aよりも径方向内側であって、後述する保持器24と軸方向で重なる中央部位15bと、該中央部位15bよりも径方向内側であって、中央部位15bよりも軸方向へカムシャフト2側にオフセット変形した内周部位15cと、を有している。
【0033】
外周部位15aは、円周方向の等間隔位置に6つのボルト挿入孔15dが貫通形成されている。この各ボルト挿入孔15dは、スプロケット本体1aの各雌ねじ孔1dに対応して形成されて、前述した7本のボルト7の軸部7aが挿入される。
【0034】
中央部位15bは、
図3に示すように、外周部位15aと同一平面上に形成され、カムシャフト2側の内側面が保持器24の後述するケージ部24bの先端面と微小隙間Cを介して対向配置されている。
【0035】
内周部位15cは、カムシャフト2側へクランク凹状に折曲変形していると共に、中央に大径な貫通孔15eが形成されている。内周部位15cは、カムシャフト2側の内側面が後述するボールベアリング22の外輪22bの一端面に微小隙間C1を持って対向している。
【0036】
内歯車構成部材5は、
図1~
図3,
図5に示すように、スプロケット本体1aとは別体に設けられて、全体が鋼材などの比較的硬度の高い金属材によって環状一体に形成されている。内歯車構成部材5は、その径方向の幅長さWが環状凹部6の底面6aの径方向の幅長さよりも大きく形成されて、環状凹部6内に嵌合した際に内周部が軸受面10の内周面より内側に突出している。軸方向の幅長さW1は、環状凹部6の底面6aまでの深さよりも大きく形成されている。これによって、環状凹部6に嵌合した際に軸方向のカムシャフト2と反対側の端部が環状凹部6の環状内周面6bからカムシャフト2と反対方向に突出している。
【0037】
内歯車構成部材5は、これら径方向の幅長さWや軸方向の幅長さW1によって十分な剛性が確保されている。また、内歯車構成部材5の外径(後述する径方向嵌合面5cの外径)が、環状凹部6の環状内周面6bの内径とほぼ同じか僅かに大きく形成されている。
【0038】
内歯車構成部材5は、
図1~
図3に示すように、内周面の軸方向沿って形成された複数の内歯5aと、軸方向のカムシャフト2側の一側面であって、環状凹部6の底面6aに軸方向から当接する軸方向当接面5bと、この軸方向当接面5bよりも径方向外側で環状凹部6の環状の内周面6bに軸方向から嵌合する径方向嵌合面5cと、を有している。
【0039】
各内歯5aは、内周面の全体に波形状に形成されて、それぞれの円弧状の内面で後述する複数の噛み合い部であるローラ23を回転可能に噛み合い保持している。内歯5aには、例えば、この各内歯5aの切削加工後に高周波焼き入れなどの一般的な熱処理が施されている。この熱処理によって、各内歯5aは、機械的な性質がオーステナイトからマルテンサイトに変化して硬度が高くなっている。内歯5aは、軸方向の環状凹部6の底面6a側の部位は、ローラ23と噛み合わない、つまりローラ23の噛み合わずに保持に寄与しない非噛み合い部5dになっている。なお、この非噛み合い部5dには熱処理を施さないことも可能である。
【0040】
軸方向当接面5bは、平坦状の規制面として形成されて、内歯車構成部材5が環状凹部6に軸方向から嵌合した際に、環状凹部6の底面6a全体に密着状態に当接する。
【0041】
径方向嵌合面5cは、
図1~
図3に示すように、本実施形態では外周面全体が平坦な円環状に形成されて、内歯車構成部材5が環状凹部6に軸方向から嵌合した際に、環状凹部6の内周面6bに対して機械的な嵌め合いである中間嵌めによって軸方向から嵌合している。ただし、中間嵌めとしては、しまり嵌めに近い圧入嵌合であってもよい。また、この径方向嵌合面5cの環状凹部6の内周面6bへの嵌合(圧入嵌合も含む)によってスプロケット1と内歯車構成部材5との同軸性を確保している。
【0042】
内歯車構成部材5は、円周方向のスプロケット本体1aの雌ねじ孔1dと対応した位置に、各ボルト7の軸部7aが挿入される複数(本実施形態では7つ)のボルト挿入孔5eが軸方向に沿って貫通形成されている。したがって、径方向嵌合面5cが内周面6bに嵌合する位置が、ボルト挿入孔5eの形成位置よりも外側になっている。つまり、内歯車構成部材5が、スプロケット1に各ボルト7で締結固定された状態で、径方向嵌合面5cが内周面6bと嵌合する位置がボルト7よりも径方向外側になっている。
【0043】
従動部材9は、
図1~
図3に示すように、減速機13の保持器24とは別体に形成されている。従動部材9は、金属粉末を圧縮して焼結成形される焼結金属によって全体が肉厚な円盤状に形成されている。具体的には、従動部材9は、円板状本体9aと、該円板状本体9aの中央に貫通形成されたカムボルト挿入孔9bと、円板状本体9aのカムシャフト2側の後端面に形成され、第1環状規制部8と共にストッパ機構を構成する第2環状規制部19と、円板状本体9aの外周側に一体に設けられて、軸受面10に摺動可能に嵌合するジャーナル部11と、を有している。
【0044】
円板状本体9aは、
図1及び
図3に示すように、第2環状規制部19の内周側、つまり第2環状規制部19によって囲まれた内側に、カムシャフト2の一端部2aが軸方向から嵌合される円形状の嵌合溝9cが形成されている。また、嵌合溝9cの底面所定位置には、カムシャフト2に設けられた図外の位置決め用のピンが挿入される位置決め用のピン孔9dが貫通形成されている。
【0045】
また、円板状本体9aは、カムシャフト2側の外周縁に軸方向へ突出した環状突部9eが形成されている。この環状突部9eは、外周面がジャーナル部11の軸方向他端部を構成していると共に、内周面と第1環状規制部8との間に環状凹溝である円環状凹部9fが形成されている。円環状凹部9fは、円板状本体9aの嵌合溝9cの外周側の外面に形成されている。円環状凹部9fは、第1環状規制部8側が外部と連通する開口が形成されている。この円環状凹部9fの外周側には、環状溝である第2油溜溝9hが形成されている。この第2油溜溝9hは、円環状凹部9fの底面と環状突部9eの内周面及び第1環状規制部8の環状内側面8dとに囲まれて円環状に形成されている。
【0046】
また、円板状本体9aは、カムシャフト2と反対側の内端面にジャーナル部11の一端部(先端面11a側)で囲まれた円盤状溝9gが形成されている。
【0047】
カムボルト挿入孔9bは、内径がカムシャフト2の挿入孔2cの内径よりも小さく形成されて、カムボルト14の軸部14b(中間軸部14g)が僅かな隙間をもって挿入可能になっている。
【0048】
第2環状規制部19は、
図2及び
図6に示すように、外周縁の所定位置に、回転中心Pから径方向外側に向かって突出した一対の第2ストッパ凸部19a、19bが一体に設けられている。この各第2ストッパ凸部19a、19bは、回転中心Pを軸とした180°の対称位置に設けられて、第1環状規制部8の内周面8a内に配置されている。各第2ストッパ凸部19a、19bは、それぞれがほぼ矩形状に形成されていると共に、先端面が内周面8aに倣って円弧状に形成されている。また、各第2ストッパ凸部19a、19bは、それぞれの基部(根元部)の両側縁に応力集中を低減させる円弧状の切欠溝19c、19dがそれぞれ形成されている。
【0049】
従動部材9が、スプロケット1に対して
図6中、左回転方向へ最大に相対回転した際に、一方の第2ストッパ凸部19aの周方向の一側縁が、一方の第1ストッパ凸部8bの対向側縁に当接してそれ以上の相対回転を規制する。また、従動部材9が、右方向へ最大に相対回転した際に、一方の第2ストッパ凸部19aの周方向の他側縁が、他方の第1ストッパ凸部8cの対向側縁に当接してそれ以上の相対回転を規制するようになっている(
図6に示す状態)。
【0050】
なお、従動部材9が、
図2中左方向へ相対回転して一方の第2ストッパ凸部19aの一側縁が一方の第1ストッパ凸部8bの対向側縁に当接した際には、他方の第2ストッパ凸部19bは所定の隙間をもって他方の第1ストッパ凸部8cの対向側縁に当接しない。また、従動部材9が、
図6に示すように、図中右方向へ相対回転して一方の第2ストッパ凸部19aの他側縁が他方の第1ストッパ凸部8cの対向側縁に当接した際には、他方の第2ストッパ凸部19bは所定の隙間をもって一方の第1ストッパ凸部8bの対向側縁には当接しないようになっている。
【0051】
第2環状規制部19を含む従動部材9は、嵌合溝9cにカムシャフト2の一端部2aが軸方向から嵌合配置した状態で、カムボルト挿入孔9bに挿通されたカムボルト14によって保持器24と一緒にカムシャフト2の一端部2aに軸方向から締め付け固定されるようになっている。
【0052】
滑り軸受機構は、
図1~
図3に示すように、スプロケット本体1aの内周面に形成された円環状の滑り軸受面10と、従動部材9の外周に設けられ、滑り軸受面10の内周側に配置されたジャーナル部11と、から構成されている。
【0053】
滑り軸受面10は、カムシャフト2側の軸方向一端部が第1環状規制部8によって覆われて、内歯車構成部材5側の他端部が内歯車構成部材5の軸方向当接面5bに覆われている。また、滑り軸受面10は、第1環状規制部8側の一部に円環状溝10aが設けられている。この円環状溝10aは、第1環状規制部8とスプロケット本体1aの結合角部との干渉を回避するものである。
【0054】
ジャーナル部11は、一端部が円板状本体9aの外周部からフロントプレート15側へ突出している一方、他端部も第1環状規制部8側へ突出している。このジャーナル部11は、滑り軸受面10が各外歯部1bと軸方向でオーバーラップしていることから、同じく一部が各外歯部1bと軸方向でオーバーラップ配置されている。
【0055】
ジャーナル部11は、環状の外周面が滑り軸受面10全体に摺動可能になっている。これによって、ジャーナル部11が、滑り軸受面10を介してスプロケット1全体を軸受するプレーン軸受として機能している。
【0056】
ジャーナル部11は、軸方向の一端部の先端面11aが内歯車構成部材5の軸方向当接面5b対して微小隙間をもって対向配置されている。ジャーナル部11は、軸方向当接面5bによって、従動部材9全体がカムシャフト2と反対方向の軸方向への移動が規制されるようになっている。換言すれば、軸方向当接面5bが従動部材9の規制面として機能するようになっている。
【0057】
また、ジャーナル部11は、軸方向の第1環状規制部8側の他端部である環状突部9eの先端面が第1環状規制部8の環状内側面8dに摺動可能になっている。この第1環状規制部8の環状内側面8dが、スプロケット1の傾動時において他端部である環状突部9eの先端面に当接して他方のスラスト移動を規制するようになっている。
【0058】
カムボルト14は、
図1~
図3に示すように、ほぼ円柱状の頭部14aと、この頭部14aに一体に固定された軸部14bと、この軸部14bの外周面に形成されて、カムシャフト2の雌ねじ部2dに螺着する雄ねじ部14cと、を有している。
【0059】
頭部14aは、先端部に六角レンチなどの工具が挿入される六角形の工具穴14dが形成されている。また、頭部14aは、外周面全体に高周波焼き入れなどの熱処理が施されて、硬度が他の部位よりも高くなっている。この他の部位とは、例えば、軸部14bの後述する中間軸部14gが結合された頭部14aの軸方向の側面である座面14fである。
【0060】
また、頭部14aの高硬度の外周面には、ニードルベアリング25の各ニードルローラ25aが転動可能に支持されている。座面14fは、カムボルト14の雄ねじ部14cをカムシャフト2の雌ねじ部2dにねじ込んで締結した際に、保持器24の内周部に形成されたボルト孔24cの孔縁よりも外側の対向面に着座するようになっている。
【0061】
軸部14bは、頭部14aとの付け根部、つまり、頭部14aの軸方向の座面14f中央に、大径な中間軸部14gが一体に設けられている。この中間軸部14gは、外径が軸部14bの雄ねじ部14cの外径よりも大きく形成されていると共に、従動部材9のカムボルト挿入孔9bの内径よりも僅かに小さく形成されている。これによって、中間軸部14gは、従動部材9のカムボルト挿入孔9bの内周面に微小クリアランスをもって挿入嵌合して、従動部材9とカムシャフト2との同軸性を確保している。
【0062】
すなわち、中間軸部14gは、カムボルト14によって従動部材9をカムシャフト2に結合する際において、カムボルト挿入孔9bに挿入嵌合することによって従動部材9とカムシャフト2の同軸性を確保するようになっている。したがって、中間軸部14gのカムボルト挿入孔9bに対する挿入嵌合とは、従動部材9とカムシャフト2との同軸性を確保するために機械的な嵌め合いである中間嵌めに近い状態であることをいう。
【0063】
位相変更機構3は、
図1、
図2及び
図5に示すように、スプロケット1の前端側に配置された電動モータ12と、この電動モータ12からオルダム継手を介して伝達された回転速度を減速してカムシャフト2に伝達する減速機13と、から主として構成されている。
【0064】
電動モータ12は、いわゆるブラシレスの直流型モータであって、チェーンケースに固定される有底円筒状のモータハウジング16と、このモータハウジング16の内周面に設けられて、内部にコイルなどが収容された図外のモータステータと、コイルの内周側に配置されたモータ軸17と、該モータ軸17の外周に固定された図外の永久磁石と、モータハウジング16のスプロケット1と反対側の前端部に設けられた制御部18と、を有している。
【0065】
モータハウジング16は、ほぼカップ状に形成されて、前端部(底壁)のほぼ中央にモータ軸17が挿通する貫通孔が形成されている。一方、後端部の外周には、径方向外側に突出したフランジ部16aが一体に設けられている。このフランジ部16aは、円周方向の約120°位置には、3つのブラケット片16bが一体に設けられている。また、この3つのブラケット片16bには、図外のチェーンケースに結合するためのボルトが挿通されるボルト挿通孔16cがそれぞれ貫通形成されている。
【0066】
さらに、フランジ部16aの円周方向の各ブラケット片16bの間には、3つのボルト29が挿通する別異の3つのボルト挿通孔が形成されている。各ボルト29は、モータハウジング16に制御部18を結合するようになっている。
【0067】
なお、ブラケット片16bやボルト挿通孔16cなどはさらに増加することも可能である。
【0068】
モータステータは、主として合成樹脂材の樹脂部によって一体に形成されて、内部にコイルがモールド固定されている。
【0069】
モータ軸17は、金属材によって円柱状に形成されて、減速機13側の先端部17aの外面には接線方向に沿って形成された図外の二面幅部を有している。また、先端部17aの先端縁側には、二面幅部に対して直交する方向から切り欠かれた一対の嵌着溝が形成されている。この両嵌着溝には、後述する中間部材30のカムボルト14側への移動を規制する図外のストッパ部材が径方向から嵌着固定されている。
【0070】
また、モータ軸17は、先端部17aがカムボルト14の頭部14aに回転軸方向から僅かな隙間をもって近接配置されている。また、先端部17aは、ストッパ部材を含めた全体が工具穴14dの内部に軸方向から挿入可能になっている。
【0071】
ストッパ部材は、Cリング状に形成されて、自身の弾性力によって拡径方向及び縮径方向へ弾性変形可能になっている。
【0072】
制御部18は、合成樹脂材によってボックス状に形成されたハウジング18aを有している。このハウジング18aの内部には、電動モータ12へ給電するバスバーなどの通電回路や、モータ軸17の回転位置を検出する回転センサや、通電量を制御する回路基板などが収容配置されている。また、制御部18は、ハウジング18aに通電回路に電気的に接続される給電用コネクタ18bと図外の信号用コネクタが一体に設けられている。
【0073】
給電用コネクタ18bは、内部の端子が図外のコントロールユニットに雌端子を介して電源であるバッテリーに接続されている。一方、信号用コネクタは、内蔵された端子がコントロールユニットに雌端子を介して接続され、回転センサで検出された回転角信号をコントロールユニットに出力するようになっている。
【0074】
また、モータ軸17の先端部17aには、中間部材30が設けられている。この中間部材30は、減速機13に接続される継手であるオルダム継手の一部を構成するものであって、
図1及び
図2に示すように、モータ軸17の先端部17aに固定される筒状基部31を有している。この筒状基部31は、円形状の外面の両側、つまり円周方向の180°位置に二面幅状の一対の平面部31a、31bを有しており、これによって、外形がほぼ長円状に形成されている。
【0075】
また筒状基部31の中央位置には、モータ軸17の先端部17aが挿入される貫通孔が形成されている。
【0076】
この貫通孔は、円形状の内周面にモータ軸17の回転軸から径方向に沿った二面幅状の一対の対向面が形成されている。これによって、筒状基部31の外形と相似形の径方向に長い長円形状に形成されている。したがって、中間部材30は、長円状の貫通孔を介してモータ軸17の先端部17aに対して径方向へ移動可能になっている。
【0077】
一対の平面部31a、31bの長手方向のほぼ中央位置には、一対の突出部である2つの伝達キー33a、33bが一体に設けられている。各伝達キー33a、33bは、ほぼ矩形板状に形成されて、筒状基部31の2つの平面部31a、31bから径方向外側に向かって突出している。
【0078】
減速機13は、電動モータ12とは軸方向から分離独立して設けられ、各構成部材が従動部材9とフロントプレート15との間に収容配置されている。
【0079】
具体的に説明すれば、減速機13は、
図1~
図3及び
図5に示すように、スプロケット本体1aの内部に一部が配置された円筒状の回転軸部材21と、該回転軸部材21の外周に固定されたボールベアリング22と、該ボールベアリング22の外周に設けられ、内歯車構成部材5の各内歯5a内に転動自在に保持された複数のローラ23と、従動部材9の円盤状溝9g側に設けられ、複数のローラ23を転動方向に保持しつつ径方向の移動を許容する保持器24と、から主として構成されている。
【0080】
回転軸部材21は、
図1~
図3に示すように、カムボルト14の頭部14aの外周に設けられたニードルベアリング25の外周に配置された偏心カム軸21aと、該偏心カム軸21aの電動モータ12側に有する連結部である大径な筒状部21bと、を有している。
【0081】
偏心カム軸21aは、軸方向の長さがニードルベアリング25の軸方向の長さよりも僅かに長い円筒状に形成されている。また、偏心カム軸21aは、周方向全体の肉厚tが厚薄変化して軸心Xが電動モータ12のモータ軸17の軸心Yに対して僅かに偏心している(
図1参照)。
【0082】
筒状部21bは、均一な肉厚でほぼ真円状に形成されていると共に、偏心カム軸21aよりも僅かに肉厚に形成されている。この筒状部21bは、スプロケット本体1aの内部からフロントプレート15の貫通孔15eを介して電動モータ12方向へ突出している。この筒状部21bは、中間部材30と共にオルダム継手を構成している。
【0083】
つまり、筒状部21bは、内部に中間部材30の筒状基部31が軸方向から嵌合可能な二面幅状の嵌合孔21dが形成されている。嵌合孔21dの内周面の円周方向のほぼ180°のそれぞれの位置には、二面幅を構成する三日月状の一対の図外の凸部が設けられている。また、この一対の凸部の
図1中の上下のほぼ中央位置には、筒状基部31の2つの伝達キー33a、33bが回転軸方向から嵌合可能な一対のキー溝21c、21cが形成されている。この各キー溝21c、21cは、各伝達キー33a、33bと相似形の矩形状に形成されて、その深さが各伝達キー33a、33bの幅とほぼ同じ長さに設定されている。
【0084】
ニードルベアリング25は、カムボルト14の頭部14aの外周面14eを転動する複数のニードルローラ25aと、偏心カム軸21aの内周面に形成された段差面に固定されて、内周面にニードルローラ25aを転動可能に保持する複数の溝部を有する円筒状のシェル25bと、を有している。
【0085】
ボールベアリング22は、
図1~
図3及び
図5に示すように、ニードルベアリング25の径方向位置で全体がほぼオーバーラップする状態に配置されている。また、ボールベアリング22は、内輪22aと、外輪22b、該両輪22a、22bとの間に介装されたボール22cと、該ボール22cを保持するケージ22dと、から構成されている。
【0086】
内輪22aは、偏心カム軸21aの外周面に圧入固定されているのに対して、外輪22bは、軸方向で固定されることなくフリーな状態になっている。つまり、この外輪22bは、軸方向の電動モータ12側の一端面がフロントプレート15の内周部位15cの内側面に微小隙間C1を介して非接触状態になっている。また、外輪22bの軸方向の他端面も、これに対向する保持器24の後述する変形部24dの背面に微小隙間C2を介して非接触状態になっている。これによって、外輪22bは、軸方向の一端面が内周部位15cによって一方の軸方向の移動が規制され、軸方向の他端面が変形部24dによって他方の軸方向の過度な移動が規制されるようになっている。
【0087】
外輪22bは、外周面に各ローラ23の外周面が転動可能に当接している。また、外輪22bの外周面と保持器24の各ローラ23の外面との間の一部に、
図5に示すように、三日月状のクリアランスC3が形成されている。したがって、ボールベアリング22は、クリアランスC3を介して全体が偏心カム軸21aの偏心回転に伴って径方向へ偏心動可能になっている。
【0088】
保持器24は、金属板をプレス成形によってほぼ円盤状に形成されて、従動部材9の円盤状溝9g側の前端側に当接配置されている。つまり、この保持器24は、従動部材9の円板状本体9aの円盤状溝9gの底面に軸方向から当接する円盤状の基部24aと、該基部24aの外周に一体に設けられて、噛み合い部材である複数のローラ23を保持するケージ部24bと、を有している。保持器24は、全体のプレス成形後に例えば高周波焼き入れなどを行って従動部材9の硬度よりも高くなっている。
【0089】
基部24aは、中央にカムボルト14の軸部14bが挿通されるボルト孔24cが貫通形成され、外周側にはボールベアリング22方向へクランク凹状に折曲変形した円環状の変形部24dが形成されている。
【0090】
また、基部24aは、
図2に示すように、従動部材9側の一側面であって、ボルト孔24cの孔縁から変形部24d付近までの領域24gに摩擦係数を上昇させる塑性加工が施されている。この塑性加工としては、例えばローレット(ナーリング)加工が用いられている。この領域24gは、従動部材9の円板状本体9aの円盤状溝9gの底面の一部に当接するようになっている。
【0091】
そして、領域24gと円盤状溝9gの底面が、カムボルト14の締結力によって互いに軸方向から圧接して従動部材9と保持器24が軸方向から結合されている。
【0092】
ケージ部24bは、変形部24dの外周縁から電動モータ12側へ延出した円環状に形成されて、円周方向の等間隔位置に、各ローラ23を保持する複数の保持孔24hが径方向に沿って貫通形成されている。
【0093】
この複数の保持孔24hは、それぞれがケージ部24bの変形部24d側の基端縁から先端縁に向かって細長い長方形状孔に形成されて先端側が閉塞されている。保持孔24hの内部には、前記各ローラ23を転動可能に保持しており、その全体の数(ローラ23の数)が内歯車構成部材5の内歯5aの全体の歯数よりも少なくなっており、これによって、所定の減速比を得るようになっている。
【0094】
各ローラ23は、鉄系金属によって形成され、ボールベアリング22の偏心動に伴って径方向へ移動しつつ内歯車構成部材5の各内歯5aに嵌入(噛み合い)している。各ローラ23は、各保持孔24hの軸方向の両側縁によって周方向にガイドされつつ径方向へ揺動運動するようになっている。
【0095】
また、各ローラ23は、内歯車構成部材5の各内歯5aのうち、
図3に示すように、保持孔24hの軸方向長さの範囲で内歯車構成部材5の内歯5aのみに転動可能に配置されている。
【0096】
また、保持器24(ケージ部24b)は、
図1、
図3に示すように、外径が従動部材9のジャーナル部11の外径よりも小さく形成されている。保持器24を従動部材9に軸方向から組み付けた際に、ケージ部24bは、従動部材9側の外周縁がジャーナル部11の内周縁に軸方向から当接するようになっている。
【0097】
減速機13とオルダム継手は、潤滑油供給機構を介して内部に潤滑油が供給されるようになっている。すなわち、潤滑油供給機構は、カムシャフト2の一端部2a内に形成された図外の油供給通路と、従動部材9の内周部に貫通形成された油孔と、保持器24のボルト孔24cの孔縁から径方向に沿って形成された油溝24eと、油供給通路に潤滑油を供給するオイルポンプと、を有している。
【0098】
油供給通路から油孔や油溝24eを通って減速機13の内部に流入した潤滑油は、駆動中の遠心力によって、ボールベアリング22の内部や外周側の保持器24内などを通り、ここから、軸受面10とジャーナル部11との間に流入する。つまり、潤滑油は、ジャーナル部11の両端面や外周面と滑り軸受面10及び第1環状規制部8の環状内側面8dなどの間を通って潤滑に供される。
【0099】
オイルポンプは、トロコイドなどの一般的なポンプであって、吐出通路が主として内燃機関の内部を潤滑する潤滑油を供給する図外のメインオイルギャラリーに連通している。また、吸入通路が、オイルパンの内部に連通している。
【0100】
コントロールユニットは、図外のクランク角センサやエアーフローメータ、水温センサ、アクセル開度センサなど各種のセンサ類からの情報信号に基づいて現在の機関運転状態を検出し、これに基づいて機関制御を行っている。また、コントロールユニットは、前記各情報信号や回転位置検出機構に基づいて、電動モータ12のコイルに通電してモータ軸17の回転制御を行い、減速機13によってカムシャフト2のタイミングスプロケット1に対する相対回転位相を制御するようになっている。
〔本実施形態の作用効果〕
以下、本実施形態におけるバルブタイミング制御装置の作用について簡単に説明する。まず、機関のクランクシャフトの回転駆動に伴ってタイミングチェーンを介してタイミングスプロケット1が回転すると、この回転力が内歯車構成部材5に伝達される。この内歯車構成部材5の回転力が、各ローラ23から保持器24及び従動部材9を経由してカムシャフト2に伝達される。これによって、カムシャフト2の駆動カムが各吸気弁を開閉作動させる。
【0101】
機関始動後の所定の機関運転時には、コントロールユニットからの制御電流が電動モータ12のコイルに通電されてモータ軸17が正逆回転駆動される。このモータ軸17の回転力が、オルダム継手を介して回転軸部材21に伝達されて減速機13の作動によりカムシャフト2に対し減速された回転力が伝達される。
【0102】
これにより、カムシャフト2が、タイミングスプロケット1に対して正逆相対回転して相対回転位相が変換される。したがって、各吸気弁は、開閉タイミングを進角側あるいは遅角側に変換制御されるのである。
【0103】
このように、吸気弁の開閉タイミングが進角側あるいは遅角側へ連続的に変換されることによって、機関の燃費や出力などの機関性能の向上が図れる。
【0104】
そして、本実施形態では、機関駆動中にスプロケット1の外面に付着した潤滑油が、機関停止時に環状溝部20の底面20aを伝って重力方向上側の複数の第1油溜溝32に貯留される。すなわち、機関駆動中に装置の周辺に飛散した潤滑油は、環状溝部20の円環状の底面20aなどにも付着してそのまま各第1油溜溝32に入り込むが、駆動中は遠心力などで放射方向に飛散してしまう。しかし、機関停止時には、環状溝部20の底面20aに付着した潤滑油が、スプロケット1の重力方向の中央位置から上側に位置するいくつか複数の第1油溜溝32内に貯留される。
【0105】
このため、各第1油溜溝32に貯留された潤滑油は、機関始動時にスプロケット1の遠心力で放射方向へ飛散して環状溝部20から各外歯部1bの外面や歯先などに付着する。これにより、この各外歯部1bとタイミングチェーン4との間が効果的に潤滑される。この結果、機関始動時などにおいて、各外歯部1bとタイミングチェーン4と間の機械的な騒音などの発生を十分に抑制できる。
【0106】
また、各第1油溜溝32は、外歯部1bの歯底HBよりも径方向内側に有することから、ここに貯留された潤滑油が各外歯部1bの内側面全体を伝って該外歯部1bとタイミングチェーン4との間に速やかに供給されると共に、各第1油溜溝32による外歯部1bの剛性に影響を与えることがない。
【0107】
また、各第1油溜溝32は、本実施形態では7つ有し、その少なくとも3つ以上で溜めることができることからスプロケット1の重力方向上側のみであっても、潤滑油の十分な貯留量を確保できる。なお、各第1油溜溝32は、大径部1cの雌ねじ孔1dの数を7つ以上に増加させることにより同じ数だけ増やすことが可能である。
【0108】
各第1油溜溝32の内面32aが半円弧状に形成されていることから、貯留された潤滑油を、スプロケット1の遠心力に伴って各第1油溜溝32の内面32aに沿って外歯部1b方向へ円滑に流出させることが可能になる。
【0109】
さらに、各第1油溜溝32は、大径部1cの各雌ねじ孔1dの成形加工時に一緒に設けることができるので、別々に設ける場合に比較して各第1油溜溝32の成形作業が容易であり、この成形作業能率の向上が図れる。
【0110】
また、本実施形態では、環状溝部20と第1油溜溝32が、外歯部1bと大径部1cとの間に設けられていることから、潤滑油の貯留保持効果が高くなる。
【0111】
また、機関の停止時には、潤滑油が各第1油溜溝32の他に、スプロケット1の重力方向の上側の第2油溜溝9hにも溜められる。このため、機関始動時には、第2油溜溝9h内の潤滑油は、駆動回転体の遠心力によって第1環状規制部8の内周面8aを伝って第1環状規制部8の外側面から外歯部1bの外面方向に流動して該各外歯部1bとタイミングチェーン4の間を効果的に潤滑する。これによって、前記各第1油溜溝32から供給された潤滑油と相俟って、各外歯部1bとタイミングチェーン4の間の潤滑油の供給量が増加して潤滑効果が向上する。
【0112】
さらに、第2油溜溝9hには、機関停止時に貯留された潤滑油の他に、機関始動後に従動部材9の円環状凹部9fの底面に付着して遠心力によって外側に移動した潤滑油が捕集されて貯留される。したがって、この第2油溜溝9hに貯留された潤滑油は、前述と同じく第1環状規制部8の外側面を伝って各外歯部1b側に供給されると共に、環状突部9eの先端面と環状内側面8dとの間を通って滑り軸受面10とジャーナル部11との間に流入する。このため、滑り軸受面10とジャーナル部11との間も潤滑される。
【0113】
また、滑り軸受面10とジャーナル部11との間に供給された潤滑油は、ジャーナル部11の先端面11aと軸方向当接面5bとの間から雌ねじ孔1dに流入する。ここから、環状溝部20と各第1油溜溝32内に流入して外歯部1b側に供給される。このため、各外歯部1bとタイミングチェーン4との間の潤滑油の供給量が多くなって潤滑性能が向上する。
【0114】
さらに、第1環状規制部8は、径方向において外歯部1bの一部とオーバーラップしている。このため、遠心力によって第2油溜溝9hに貯留された潤滑油は、第1環状規制部8の外面を伝って各外歯部1b方向に流れ易くなり、外歯部1bとタイミングチェーン4との間の潤滑性能がさらに向上する。
【0115】
図3に示すように、内歯車構成部材5の内歯5aのうち、ローラ23と噛み合わない非噛み合い部5dを設けて、この非噛み合い部5dと径方向で対応する径方向嵌合面5cの一部を軸方向でオーバーラップさせて、
図3aに示す噛み合い領域とはオーバーラップさせないようにした。このため、内歯5aの軸方向端面側で製造上発生するダレなどを非噛み合い部5dとして形成していることから、この非噛み合い部5dを予め切削加工などによって除去する必要がなくなる。
【0116】
つまり、本実施形態では、内歯5aのうちローラ23と噛み合わない非噛み合い部5dを切削加工する必要がなくそのまま残存させておくことができるので、この分の加工作業が不要になり加工コストを低く抑えることが可能になる。
【0117】
また、内歯車構成部材5の環状凹部6に対する嵌合箇所が、ローラ23と内歯5aとの噛み合い箇所よりも径方向で離間した各ボルト7よりも径方向外側になっていることから、内歯5aの精度を確保するために、内歯車構成部材5を径方向で肉厚にする必要がない。したがって、装置の外径を十分小さくすることが可能になる。
【0118】
また、各外歯部1bの外径d1が、大径部1cの外径dよりも小さくしたことから、大径部1cの外周に各外歯部1bを設ける場合に比較して装置の外径を小さくすることが可能になる。
【0119】
しかも、内歯車構成部材5の軸方向当接面5bを介して径方向嵌合面5cを環状凹部6の内周面6bに軸方向から嵌合させることから、その嵌合分だけ装置の軸方向の長さも短くすることが可能になる。
【0120】
内歯車構成部材5の軸方向当接面5bは、従動部材9の自由な回転を確保しつつ内歯車構成部材5方向への移動を規制するストッパとして機能する。これによって、従動部材9は、回転駆動中においてスプロケット1から径方向への負荷が掛かって径方向へ倒れようとしても軸方向当接面5bのストッパ機能によって倒れが抑制されて、安定した姿勢が維持される。この結果、従動部材9のジャーナル部11とスプロケット1の軸受面10との間の大きなフリクションの発生を抑制できると共に、ジャーナル部11による安定した軸受機能を発揮させることができる。
【0121】
本実施形態では、スプロケット本体1aと第1環状規制部8を一体に形成すると共に、従動部材9と第2環状規制部19も一体に形成した。このため、それぞれを別体に形成した場合に比較して部品点数の大幅な削減が図れ、製造作業性や組付け作業性が向上する。特に、これらをそれぞれ焼結金属によって一体に成形したことから、製造作業がさらに向上する。
【0122】
また、第1環状規制部8や第2環状規制部19は、それぞれ対称位置に2つの第1ストッパ凸部8b、8c及び第2ストッパ凸部19a、19bを設けたことにより全体の重量バランスが良好になる。このため、スプロケット1や従動部材9は、常時円滑に回転作動することができる。
【0123】
従動部材9と保持器24の結合方法として、例えば複数のボルトを用いるとか溶接などで行うのではなく、1本のカムボルト14の締め付け力によって行うことから、この結合作業も容易になり、この点でもコストの低減化が図れる。
〔第2実施形態〕
図7は本発明の第2実施形態を示し、環状溝部20の底面20aであって、各第1油溜溝32の雌ねじ孔1dと軸方向で反対側の位置に、各第1油溜溝32よりも浅溝状の第2径方向凹部である第3油溜溝34が形成されている。
【0124】
この各第3油溜溝34は、各第1油溜溝32と軸方向から連続した状態に形成され、その底面33aが円弧状に形成されて第1油溜溝32の内面32aよりも高い段差状に形成されている。
【0125】
この第3油溜溝34は、その成形方法として、例えば、前述のように、雌ねじ孔1dを雌ねじタップで加工する前に、ドリルによって下孔として孔開け加工した残余部として成形したものである。
【0126】
したがって、この第2実施形態よれば、第1油溜溝32の他に第3油溜溝34を設けることによって、全体の潤滑油の貯留量をさらに増加させることが可能になる。この結果、機関始動時における外歯部1bとタイミングチェーン4との間の潤滑油の供給量が増加して、潤滑性が向上する。
【0127】
また、第3油溜溝34は、雌ねじ孔1dを成形する過程の下孔の孔開け加工時に成形できるので、この成形作業も容易である。
【0128】
本発明は、前記実施形態の構成に限定されるものではなく、例えば、各雌ねじ孔1dの数を7つ以上に増加形成して、第1油溜溝32や第3油溜溝34を7つ以上に増加させることも可能である。
【0129】
また、例えば、噛み合い部材としては、前記ローラ23以外に歯車などとすることも可能である。したがって、減速機としてローラ減速機以外の例えば、前記従来技術として掲げた特開2019-85910号に記載された遊星歯車減速機などに適用することも可能である。
【0130】
以上説明した実施形態に基づく内燃機関のバルブタイミング制御装置としては、例えば、以下に述べる態様のものが考えられる。
【0131】
すなわち、本発明における好ましい態様としては、クランクシャフトからの回転力が伝達される駆動回転体と、カムシャフトに結合されて、前記駆動回転体と相対回転可能な従動回転体と、電動モータの回転速度を減速して前記駆動回転体と従動回転体の相対回転位相を変更可能な減速機と、を備えた内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、
前記駆動回転体は、前記クランクシャフトからの回転力を受ける外歯部を外周に有する本体と、前記駆動回転体の回転軸の方向を軸方向としたとき、前記本体に軸方向から当接して固定され、外周部にボルト挿入孔が軸方向に貫通形成された固定部材と、前記本体に前記固定部材のボルト挿入孔と軸方向から連続して設けられ、前記ボルト挿入孔に挿入されるボルトの雄ねじ部が締結される雌ねじ孔と、前記本体の外周に前記外歯部と軸方向で隣接して設けられ、前記駆動回転体の回転軸に対して放射方向を径方向としたとき、前記径方向の内側に凹む環状溝部と、前記本体の前記雌ねじ孔から軸方向に沿って延びて前記環状溝部の底面よりも径方向内側に設けられ、かつ前記外歯部の歯底よりも径方向内側に位置する径方向凹部と、を有している。
【0132】
この発明の態様によれば、機関駆動時に駆動回転体の外周に付着した潤滑油は、機関停止時に前記環状溝部の内周面などを伝って重力方向上側に位置した径方向凹部に貯留される。このため、径方向凹部に貯留された潤滑油は、機関始動時に駆動回転体の遠心力で放射方向へ飛散して前記各外歯部及びこれらの周囲に付着する。これにより、該各外歯部と噛み合う、例えばタイミングチェーンなどの間を効果的に潤滑する。
【0133】
また、径方向凹部は、外歯部の歯底よりも径方向内側に有することから、ここに貯留された潤滑油が各外歯部の内側面全体を伝ってタイミングチェーンとの間に速やかに供給されると共に、外歯部の剛性に影響を与えることがない。
【0134】
さらに好ましくは、前記径方向凹部は、前記環状溝部の底面に複数設けられている。
【0135】
この発明の態様によれば、径方向凹部が複数有することによって、潤滑油の十分な貯留量を確保できる。
【0136】
さらに好ましくは、前記径方向凹部は、内面が半円弧状である。
【0137】
この発明の態様によれば、径方向凹部の内面が半円弧状に形成されていることから、貯留された潤滑油を、駆動回転体の遠心力に伴って径方向凹部の内面に沿って外歯部方向へ円滑に流出させることが可能になる。
【0138】
さらに好ましくは、前記径方向凹部は、前記雌ねじ孔を設ける際に、前記雌ねじ孔の一部として設けられている。
【0139】
この発明の態様によれば、径方向凹部が、雌ねじ孔の成形加工時に一緒に設けられるので、径方向凹部の成形作業が容易である。
【0140】
さらに好ましくは、前記環状溝部の底面であって、前記径方向凹部の前記雌ねじ孔と軸方向で反対側の位置に、前記径方向凹部よりも浅溝状の第2径方向凹部が前記径方向凹部に対して段差状に設けられている。
【0141】
この発明の態様によれば、径方向凹部の他に第2径方向凹部を設けることによって、潤滑油の貯留量をさらに増加させることが可能になる。
【0142】
さらに好ましくは、前記本体は、前記外歯部から軸方向へ離れた位置に前記外歯部よりも外径の大きな大径部を有し、前記雌ねじ孔は、前記大径部を軸方向に貫通して設けられ、前記固定部材は、前記雌ねじ孔に締結される前記ボルトによって前記大径部に軸方向から固定され、前記環状溝部及び前記径方向凹部は、前記外歯部と大径部との間に形成されている。
【0143】
この発明の態様によれば、前記環状溝部と径方向凹部が、前記外歯部と大径部との間に設けられていることから、潤滑油の貯留保持効果が高くなる。
【0144】
さらに好ましくは、前記減速機は、前記固定部材の内周に設けられた内歯と、前記電動モータによって回転され、偏心カム軸を有する回転軸部材と、前記内歯と前記回転軸部材との間に設けられて、前記回転軸部材の回転によって前記内歯に噛み合って前記従動回転体に回転力を伝達する伝達部材と、を有している。
【0145】
別の好ましい態様としては、クランクシャフトからの回転力が伝達される外歯部を外周に有する駆動回転体と、カムシャフトに結合されて、前記駆動回転体と相対回転可能な従動回転体と、電動モータの回転速度を減速して前記駆動回転体と従動回転体の相対回転位相を変更可能な減速機と、を備えた内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、
前記駆動回転体の内周に設けられた滑り軸受面と、前記従動回転体の外周に径方向外側に突出して設けられ、外周面が前記滑り軸受面に摺動可能なジャーナル部と、前記駆動回転体から径方向内側に延びる環状の部位であって、前記従動回転体に軸方向から当接することによって前記従動回転体の軸方向の移動を規制する軸方向規制部と、前記従動回転体の前記カムシャフト側の内側面に軸方向に凹んで設けられた円環状凹部と、前記円環状凹部の外周側であって、前記軸方向規制部と軸方向から対向配置され、前記軸方向規制部よりも径方向内側で開口する環状溝と、を有している。
【0146】
この発明の態様によれば、機関の停止時には、潤滑油が重力方向下側に位置する環状溝に溜められる。機関始動後には、環状溝内に貯留されている潤滑油は、その一部が駆動回転体の遠心力によって従動回転体のジャーナル部と軸方向規制部との間を通って滑り軸受面とジャーナル部を潤滑しつつ駆動回転体の外歯部側に供給される。
【0147】
一方、環状溝内の他の潤滑油は、該環状溝の前記軸方向規制部の内周側に有する開口から排出されて、軸方向規制部の外面を伝って外歯部側に供給される。このため、外歯部と該外歯部に例えば巻回されるタイミングチェーンとの間を効果的に潤滑することが可能になる。
【0148】
さらに好ましくは、前記軸方向規制部は、前記外歯部の径方向内側にある。
【0149】
この発明の態様によれば、環状溝に貯留された潤滑油は、機関始動時に遠心力によって開口から軸方向規制部の外面を通って外歯部方向へ流動することから外歯部周囲の潤滑性が向上する。
【0150】
さらに好ましくは、前記軸方向規制部は、径方向において前記外歯部の少なくとも一部とオーバーラップしている。
【0151】
この発明の態様によれば、外歯部と軸方向規制部が径方向でオーバーラップしていることから、軸方向規制部の外面を伝った潤滑油は、外歯部方向へ流れ易くなる。
【0152】
さらに好ましくは、前記軸方向規制部の内周に設けられた第1ストッパ部と、前記従動回転体に設けられて、前記第1ストッパ部材と周方向から当接することによって前記駆動回転体と従動回転体の相対回転位置を規制する第2ストッパ部と、を有している。
【符号の説明】
【0153】
1…タイミングスプロケット(駆動回転体)、1a…スプロケット本体、1b…外歯部、1c…大径部、1d…雌ねじ孔、2…カムシャフト、2a…一端部、3…位相変更機構、5…内歯車構成部材(固定部材)、5a…内歯、5b…軸方向当接面、5c…径方向嵌合面、5d…非噛み合い部、5e…ボルト挿入孔、6…環状凹部、6a…底面、6b…環状内周面、7…ボルト、7a…軸部、7b…雄ねじ部、9…従動部材(従動回転体)、9a…円盤状本体、9f…円環状凹部、9g…円盤状溝、9h…第2油溜溝(環状溝)、12…電動モータ、13…減速機、20…環状溝部、20a…底面、23…ローラ(噛み合い部材)、32…第1油溜溝(径方向凹部)、34…第3油溜溝(第2径方向凹部)。