(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065131
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】抗Her2抗体及びこれを含有する医薬組成物
(51)【国際特許分類】
C07K 16/32 20060101AFI20240508BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240508BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240508BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240508BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240508BHJP
A61K 38/05 20060101ALN20240508BHJP
【FI】
C07K16/32 ZNA
C12P21/08
A61P35/00
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61K47/68
A61K38/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021042891
(22)【出願日】2021-03-16
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構委託開発事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】502285457
【氏名又は名称】学校法人順天堂
(71)【出願人】
【識別番号】390004097
【氏名又は名称】株式会社医学生物学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】入村 達郎
(72)【発明者】
【氏名】藤平 陽彦
(72)【発明者】
【氏名】伝田 香里
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 光江
(72)【発明者】
【氏名】堀本 義哉
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 律子
(72)【発明者】
【氏名】野地 美樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 和宏
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 淳一
(72)【発明者】
【氏名】小野 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】西田 志陽
(72)【発明者】
【氏名】松浦 勝久
(72)【発明者】
【氏名】清水 達也
【テーマコード(参考)】
4B064
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG26
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE12
4B064DA01
4C076AA95
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4C076CC41
4C076EE59
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA42
4C084BA44
4C084DA27
4C084NA05
4C084NA13
4C084ZB261
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB12
4C085BB36
4C085CC05
4C085CC31
4C085DD62
4C085DD88
4C085EE01
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045CA41
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
【課題】心毒性のない乳癌治療用抗体医薬の提供。
【解決手段】乳癌細胞に発現するHer2に結合し、心筋細胞に発現するHer2に結合しない抗Her2抗体又はその機能的断片、及びこれを含有する医薬組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳癌細胞に発現するHer2に結合し、心筋細胞に発現するHer2に結合しない抗Her2抗体又はその機能的断片。
【請求項2】
乳癌細胞に発現するHer2と心筋細胞に発現するHer2が、糖鎖が相違するHer2である請求項1記載の抗Her2抗体又はその機能的断片。
【請求項3】
乳癌細胞に発現するHer2がO-結合型糖鎖を有するHer2である請求項1又は2記載の抗Her2抗体又はその機能的断片。
【請求項4】
乳癌細胞に発現するHer2が、フコース残基を含む糖鎖を有するHer2である請求項1~3のいずれか1項記載の抗Her2抗体又はその機能的断片。
【請求項5】
乳癌細胞に発現するHer2がAOL結合性Her2又はAAL結合性Her2である請求項1~4のいずれか1項記載の抗Her2抗体又はその機能的断片。
【請求項6】
(a)免疫グロブリンVH鎖のCDR1、CDR2及びCDR3が、それぞれ配列番号2、3及び4に示されるアミノ酸配列、又は配列番号2、3及び4に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、かつ、免疫グロブリンVL鎖のCDR1、CDR2及びCDR3が、それぞれ配列番号6、7及び8に示されるアミノ酸配列、又は配列番号6、7及び8に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドである請求項1~5のいずれか1項記載の抗Her2抗体又はその機能的断片。
【請求項7】
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列、又は配列番号1に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなる免疫グロブリンVH鎖、及び配列番号5に示されるアミノ酸配列、又は配列番号5に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなる免疫グロブリンVL鎖を有する請求項1~6のいずれか1項記載の抗Her2抗体又はその機能的断片。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項記載の抗Her2抗体又はその機能的断片が、細胞傷害活性を有する薬剤にコンジュゲートされている、抗体薬物コンジュゲート。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項記載の抗Her2抗体、その機能的断片及び請求項8記載の抗体薬物コンジュゲートから選ばれる成分を含有する医薬組成物。
【請求項10】
乳癌治療用医薬組成物である請求項9記載の医薬組成物。
【請求項11】
AOL非結合性Her2に結合せず、AOL結合性Her2に結合する抗体、又は、AOL非結合性Her2よりもAOL結合性Her2に対する反応性が高い抗体を選択する工程を含む、心毒性を有さない抗Her2抗体の製造方法。
【請求項12】
AOL非結合性Her2に結合せず、AOL結合性Her2に結合する抗体、又は、AOL非結合性Her2よりもAOL結合性Her2に対する反応性が高い抗体を選択する工程を含む、乳癌細胞に反応し、心筋細胞に結合しない抗Her2抗体の製造方法。
【請求項13】
1)乳癌細胞又はAOL結合性Her2を非ヒト動物に免疫する工程、
2)前記非ヒト動物の細胞から抗体遺伝子ライブラリーを作製する工程、
3)前記遺伝子ライブラリーから抗体ファージディスプレイライブラリーを作製する工程
4)前記抗体ファージディスプレイライブラリーを用い、乳癌細胞又はAOL結合性Her2に結合する抗体をスクリーニング・選択する工程
を含む、乳癌細胞に反応し、心筋細胞に結合しない抗Her2抗体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗Her2抗体及びこれを含有する医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
乳癌に対する分子標的抗体医薬として抗Her2抗体であるトラスツズマブ(trastuzumab)及びペルツズマブ(pertuzumab)が製造承認され、使用されている。
Her2は、上皮成長因子受容体(EGFR)に類似する細胞増殖のシグナル伝達に作用する受容体型チロシンキナーゼであり、乳癌や胃癌などにおいて、過剰発現している場合があり、癌細胞の増殖因子となっている。従って、抗Her2抗体は、Her2陽性乳癌の治療薬として使用されている。
【0003】
しかしながら、抗Her2抗体を含有する抗体医薬には、数%の患者において、心不全、心筋症、不整脈などの心障害が現れるという副作用が報告されている(非特許文献1、2)。これらの副作用は心毒性と言われ、トラスツズマブなどの抗Her2抗体が、正常な心筋細胞にも発現するHer2に結合することによる生じることが知られている。(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Cancers(BaseI)2020 Mar.12(3);636
【非特許文献2】J.Cardiol.Jpn Ed.2010;5:6-12
【非特許文献3】医学のあゆみ vol.250 No.3 207-213
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、心臓に対する副作用を低減した新たな抗Her2抗体及びこれを含有する医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者は、Her2が有する糖鎖の違いに着目して、乳癌細胞に存在するHer2と心筋細胞に存在するHer2とを区別できないかと考え検討した結果、乳癌細胞に存在する糖鎖の異なるHer2には結合するが、心筋細胞に存在する糖鎖の異なるHer2には結合せず、乳癌細胞の増殖を抑制する抗Her2抗体を見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の発明[1]~[15]を提供するものである。
[1]乳癌細胞に発現するHer2に結合し、心筋細胞に発現するHer2に結合しない抗Her2抗体又はその機能的断片。
[2]乳癌細胞に発現するHer2と心筋細胞に発現するHer2が、糖鎖が相違するHer2である[1]記載の抗Her2抗体又はその機能的断片。
[3]乳癌細胞に発現するHer2がO-結合型糖鎖を有するHer2である[1]又は[2]記載の抗Her2抗体又はその機能的断片。
[4]乳癌細胞に発現するHer2が、フコース残基を含む糖鎖を有するHer2である請求項[1]~[3]のいずれかに記載の抗Her2抗体又はその機能的断片。
[5]乳癌細胞に発現するHer2がAOL結合性Her2又はAAL結合性Her2である[1]~[4]のいずれかに記載の抗Her2抗体又はその機能的断片。
[6](a)免疫グロブリンVH鎖のCDR1、CDR2及びCDR3が、それぞれ配列番号2、3及び4に示されるアミノ酸配列、又は配列番号2、3及び4に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、かつ、免疫グロブリンVL鎖のCDR1、CDR2及びCDR3が、それぞれ配列番号6、7及び8に示されるアミノ酸配列、又は配列番号6、7及び8に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドである[1]~[5]のいずれかに記載の抗Her2抗体又はその機能的断片。
[7](b)配列番号1に示されるアミノ酸配列、又は配列番号1に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなる免疫グロブリンVH鎖、及び配列番号5に示されるアミノ酸配列、又は配列番号5に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなる免疫グロブリンVL鎖を有する[1]~[6]のいずれかに記載の抗Her2抗体又はその機能的断片。
[8][1]~[7]のいずれかに記載の抗Her2抗体又はその機能的断片が、細胞傷害活性を有する薬剤にコンジュゲートされている、抗体薬物コンジュゲート。
[9][1]~[7]のいずれかに記載の抗Her2抗体、その機能的断片及び[8]記載の抗体薬物コンジュゲートから選ばれる成分を含有する医薬組成物。
[10]乳癌治療用医薬組成物である[9]記載の医薬組成物。
[11]AOL非結合性Her2に結合せず、AOL結合性Her2に結合する抗体、又は、AOL非結合性Her2よりもAOL結合性Her2に対する反応性が高い抗体を選択する工程を含む、心毒性を有さない抗Her2抗体の製造方法。
[12]AOL非結合性Her2に結合せず、AOL結合性Her2に結合する抗体、又は、AOL非結合性Her2よりもAOL結合性Her2に対する反応性が高い抗体を選択する工程を含む、乳癌細胞に反応し、心筋細胞に結合しない抗Her2抗体の製造方法。
[13]1)乳癌細胞又はAOL結合性Her2を非ヒト動物に免疫する工程、
2)前記非ヒト動物の細胞から抗体遺伝子ライブラリーを作製する工程、
3)前記遺伝子ライブラリーから抗体ファージディスプレイライブラリーを作製する工程、
4)前記抗体ファージディスプレイライブラリーを用い、乳癌細胞又はAOL結合性Her2に結合する抗体をスクリーニング・選択する工程、
を含む、乳癌細胞に反応し、心筋細胞に結合しない抗Her2抗体の製造方法。
[14]乳癌治療用医薬組成物製造のための、[1]~[7]のいずれかに記載の抗Her2抗体、その機能的断片及び[8]記載の抗体薬物コンジュゲートから選ばれる成分の使用。
[15]乳癌を治療するための、[1]~[7]のいずれかに記載の抗Her2抗体、その機能的断片及び[8]記載の抗体薬物コンジュゲートから選ばれる成分。
[16][1]~[7]のいずれかに記載の抗Her2抗体、その機能的断片及び[8]記載の抗体薬物コンジュゲートから選ばれる成分を投与することを特徴とする乳癌の治療方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の抗Her2抗体を用いれば、心毒性を引き起こすことなく、安全に乳癌を治療することができる。抗Her2抗体による乳癌治療における心毒性の発生は、治療継続を中止する大きな原因であるから、心毒性の発生がなければ、抗Her2抗体の治療が継続できることになり、結果的に乳癌の治療効果が向上することになる。抗Her2抗体治療においては心機能を継続的にモニターする必要があるが、これを回避することによる経済的効果も著しい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】乳癌細胞に発現するHer2と心筋細胞に発現するHer2に付加する糖鎖プロファイルの違いを明らかにする方法を示す。免疫沈降法とレクチンアレイ解析を組み合わせて用いた。
【
図2】レクチンアレイ解析により、フコース残基に特異性を持つレクチンの結合が乳癌細胞由来のHer2で高く、乳癌細胞由来のHer2ではN-glycan有無で変化がないことを示す。この結果から、O-結合型糖鎖に対するものであることが示唆された。
【
図3】Her2高発現型乳癌細胞の膜画分から免疫沈降したHer2とiPS細胞由来心筋細胞の膜画分から免疫沈降したHer2を電気泳動で分画後AOL及びAALの結合性を比較した結果を示す。乳癌細胞由来Her2に比して、心筋細胞由来Her2に対してはこれらのレクチンの結合性が低いことがわかった。
【
図4】乳癌細胞に発現するHer2に特異的なモノクローナル抗体取得のプロトコールを示す。乳癌細胞由来Her2を免疫沈降法により精製し、さらにこれをAOL結合性と非結合性のHer2に分画しスクリーニングに用いたことを示す。
【
図5】Her2高発現乳癌細胞(HCC1419細胞)を免疫原として用いてマウスを免疫し、B細胞から抗体遺伝子を得て、ScFvとしてファージライブラリーを作製したことを示す。このライブラリーを左パネルに示す方法で精製したHer2にて3回パニングを行ったのち、HCC1419細胞に対して1回パニングを行った。さらに、得られたファージクローンからAOL非結合性Her2に結合するものを除いた。得られた複数のクローンをマウスIgGに組換えた。
【
図6】マウスIgGに組換えたファージライブラリー由来モノクローナル抗体のHer2への結合性の比較を示す。クローンDはAOL結合性Her2に高い結合性を示した。トラスツズマブはこの方法によっては結合性を検出できないことが判明した。
【
図7】マウスIgGに組み替えた抗Her2抗体クローンDとトラスツズマブのHer2陽性乳癌細胞への結合性比較を示す。
【
図8】マウスIgGに組み替えた抗Her2抗体クローンDとトラスツズマブのiPS細胞由来心筋細胞への結合性比較を示す。*iPS-CM,B7:由来となるiPS細胞は201B7であるが分化誘導方法が異なる心筋細胞、JB7:健常人の末梢血から樹立したiPS細胞から分化誘導した心筋細胞、NP3,NP5:trastuzumabによる治療を受けたが心毒性を示さなかった患者の末梢血から樹立したiPS細胞から分化誘導した心筋細胞、SP6,SP10:trastuzumabによる治療を受けて心毒性を示した患者の末梢血から樹立したiPS細胞から分化誘導した心筋細胞。
【
図9】Trastuzumab、抗Her2抗体(クローンD)、正常ヒトIgGによる抗体薬物コンジュゲート(ADC)によるヒト乳がん細胞殺傷活性の比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の抗Her2抗体は、乳癌細胞に発現するHer2に結合し、心筋細胞に発現するHer2に結合しない抗Her2抗体である。
ここで、乳癌細胞に発現するHer2に結合し、心筋細胞に発現するHer2に結合しないモノクローナル抗体は、乳癌細胞に発現するHer2はAOL(アスペルギルス・オリゼ由来のレクチン(Aspergillus oryzae Lectin))及びAALレクチン(ヒイロチャワンタケ由来のレクチン(Aleuria aurantia Lectin))が結合する糖鎖を持つが、心筋細胞由来のHer2は持たないことに基づき、スクリーニングによって得たものである。抗体の特性から見てこれが乳癌細胞に発現するHer2と心筋細胞に発現するHer2とを見分けるのは、糖鎖の違いを見分けている(乳癌に特異的な糖鎖の付加によるポリペプチドの構造変化又は付加された特異的糖鎖部分を認識する)からであると考えられる。
【0011】
本発明の抗Her2抗体が認識するHer2部分は、乳癌細胞に発現するHer2に存在し、心筋細胞に発現するHer2に存在しない糖鎖を含む、Her2ポリペプチドと糖鎖の複合体の部分、又は乳癌細胞に発現するHer2に存在し、心筋細胞に発現するHer2に存在しない糖鎖が、Her2ポリペプチドに付加し複合体になったことにより、構造が変化したHer2ポリペプチドの部分である。
当該糖鎖は、O-結合型糖鎖であり、フコース残基を有し、AOL又はAAL結合性を有するという特徴を備える。
当該糖鎖を含むHer2ポリペプチドの部分、又は糖鎖付加したことによるポリペプチド構造が変化した、Her2ポリペプチド部分に、特に限定されないが、トラスツズマブのようなドメインIVでもよいし、ペルツズマブのようなドメインIIでもよい。
【0012】
本発明の抗Her2抗体が、ドメインIVを認識する抗体である場合、ドメインIVのアミノ酸配列又はドメインIVにおける1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を認識する抗体であればよい。ここで、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列としては、1~4個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列が好ましく、1~3個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列がより好ましい。1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列とドメインIVのアミノ酸配列の同一性は、80%以上が好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。
ここで、ドメインIIを認識する抗体である場合も、同様である。
【0013】
本発明の抗Her2抗体の具体例としては、(a)免疫グロブリンVH鎖のCDR1、CDR2及びCDR3が、それぞれ配列番号2、3及び4に示されるアミノ酸配列、又は配列番号2、3及び4に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、かつ、免疫グロブリンVL鎖のCDR1、CDR2及びCDR3が、それぞれ配列番号6、7及び8に示されるアミノ酸配列、又は配列番号6、7及び8に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドである抗Her2抗体であるのが好ましい。
ここで、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列としては、1~4個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列が好ましく、1~3個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列がより好ましい。1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列と元のアミノ酸配列の同一性は、85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、95%以上がさらに好ましい。
【0014】
本発明の抗Her2抗体のさらに好ましい具体例としては、(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列、又は配列番号1に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなる免疫グロブリンVH鎖、及び配列番号5に示されるアミノ酸配列、又は配列番号5に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなる免疫グロブリンVL鎖を有する抗Her2抗体が挙げられる。
ここで、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列としては、1~4個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列が好ましく、1~3個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列がより好ましい。1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列と元のアミノ酸配列の同一性は、85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、95%以上がさらに好ましい。
【0015】
本発明の抗Her2抗体は、抗Her2抗体の中から、乳癌細胞に結合し、心筋細胞に結合しない抗体、又は心筋細胞よりも、乳癌細胞に対する反応性が高い抗体をスクリーニング・選択してもよいが、レクチンアレイ解析により乳癌細胞に結合し、心筋細胞に結合しないレクチンを同定し、そのレクチンを用い、乳癌細胞等の細胞から乳癌に特異的な糖鎖が付加されたHer2タンパク質を結合性に基づき、精製し、その乳癌特異的な糖鎖付加Her2タンパク質と選択的に結合し、心筋細胞等のHer2に結合しない抗体、又は心筋細胞等のHer2タンパク質よりも、乳癌に特異的な糖鎖が付加されたHer2タンパク質に対する反応性が高い抗体、より典型的にはAOL結合性Her2に結合し、非AOL結合性Her2に結合しない抗体又は非AOL結合性Her2よりもAOL結合性Her2に反応性が高い抗体をスクリーニング・選択してもよい。
ここで、AOL非結合性Her2よりもAOL結合性Her2に対する反応性が高い抗体とは、ELISA法で、AOL結合性Her2に対する反応性がAOL非結合性Her2に対する反応性が、通常、1.5倍以上高い、好ましくは2倍以上高い、さらに好ましくは、3倍以上高いものが挙げられる。
さらには、当該スクリーニング・選択した抗体を用い、乳癌細胞等の細胞から乳癌に特異的な糖鎖が付加されたHer2タンパク質を精製し、同様にして、新たな別の抗体を取得することもできる。これら特異的な糖鎖が付加されたHer2タンパク質を精製ためのレクチンもしくは抗体は単独で用いても良いが、複数組み合わせても良い。乳癌に特異的な糖鎖の付加がされているか判定するためのレクチン、又は、乳癌細胞に結合し、心筋細胞に結合するレクチンとして、具体的には、O-結合型糖鎖に結合するもの、フコース残基に結合するものが挙げられるが、好ましくはAOL及びAAL、特に好ましくはAOLである。
この選択過程における、それぞれの細胞又はHer2タンパク質に結合する、しない又はHer2タンパク質よりも、乳癌に特異的な糖鎖が付加Her2タンパク質に対する反応性が高いことの判定・選択はELISA法、フローサイトメトリー(FACS)、表面プラズモン共鳴(SPR)技術等定法の技術を用いて判定し、スクリーニング・選択する。
これらのスクリーニング・選択過程は、後述のようにファージプレイ法のパニングの工程において、行われてもよい。
なお、以上のようなスクリーニング・選択工程を含んだ、乳癌細胞に反応し、心筋細胞に結合しない抗Her2抗体の製造方法又は、心毒性を有さない抗Her2抗体の製造方法としてとらえることもできる。
【0016】
乳癌に特異的な糖鎖が付加されたHer2タンパク質は、Her2抗体やAOL及びAALなどのレクチンへの結合性(結合親和性を有する)を利用し精製することができる。具体的には、乳癌細胞、望ましくはHCC1419細胞を定法により界面活性剤等で処理し、Her2タンパク質を含んだ試料(膜画分由来の試料)を調整する。次に、Her2の糖鎖付加の違いを認識しない一般の市販Her2抗体を固相化担体(ビーズやカラム)に固定化し、乳癌細胞由来のHer2タンパク質が存在する試料を接触させ、免疫沈降やアフィニティーカラム等の要領で、Her2タンパク質を含んだ試料から非レクチン分画のHer2タンパク質試料(未分画Her2)を得る。さらに、非レクチン分画のHer2タンパク質を含む試料を、AOL又はAALなどのレクチンが固定化された固相化担体(ビーズやカラム)に接触させ、免疫沈降やアフィニティーカラム等の要領で、固相化したレクチンに結合性のあるHer2タンパク質を分離する。本発明において、このようなAOL固定化された固相化担体で精製、すなわち、AOLへの結合性を利用して精製されたHer2田ンパク質をAOL結合性Her2(同様にAALへの結合性を利用し、精製されたHer2タンパク質をAAL結合性Her2)と表記することもある。他方、前記非レクチン分画のHer2タンパク質を含んだ試料からAOLを結合させた固相化担体(ビーズやカラム)に捕捉されず、AOL結合性Her2として精製されなかった分画に含まれるHer2タンパク質をAOL非結合性Her2(同様にAALへの結合性を利用し、精製されなかったHer2タンパク質をAAL非結合性Her2)と表記することもある。
なお、これらの精製過程では必要に応じ、その他のクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析を用い、これらを適宜組み合わせ精製することができる。
また、心筋細胞由来のHer2タンパク質は、心筋細胞から同様にHer2タンパク質を含んだ膜画分の試料を用意し、Her2の糖鎖付加の違いを認識しない一般の市販Her2抗体を固相化担体(ビーズやカラム)に固定化し、免疫沈降やアフィニティーカラム等により、その他のクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析を用い、これらを適宜組み合わせ精製することができる。
【0017】
本発明における乳癌細胞は特に限定されないが、乳癌と判定された組織から得られる細胞又は、乳癌細胞株SK-BR-3、AU565、HCC1419、特に好ましくはHCC1419である。本発明における心筋細胞は、特に限定されないが、健常人の心筋組織由来の細胞、不死化心筋細胞、又はiPS由来心筋細胞である。iPS由来心筋細胞として、例えば、iPS-CM、B7:由来となるiPS細胞は201B7であるが分化誘導方法が異なる心筋細胞、JB7:健常人の末梢血から樹立したiPS細胞から分化誘導した心筋細胞、NP3、NP5:trastuzumabによる治療を受けたが心毒性を示さなかった患者の末梢血から樹立したiPS細胞から分化誘導した心筋細胞、SP6、SP10:trastuzumabによる治療を受けて心毒性を示した患者の末梢血から樹立したiPS細胞から分化誘導した心筋細胞を用いることができる。不死化ヒト心筋細胞としては、T0445-C-ACADEMIC(Applied Biological Materials社)を用いることができる。
【0018】
本発明の抗体は、前記(a)の各CDRの配列、又は(b)の免疫グロブリンVH領域及びVL領域の配列を有するものが好ましく、これらの領域以外の領域のアミノ酸配列は特に制限されない。従って、本発明の抗体は、ヒト抗体以外の哺乳動物抗体でもよく、ヒト化抗体でもよい。より具体的には、ヒト以外の哺乳動物(非ヒト動物)、例えば、マウスやラット抗体の重鎖、軽鎖の可変領域とヒト抗体の重鎖、軽鎖の定常領域からなるキメラ抗体であっても良く、この様な抗体はマウスやラット抗体の可変領域をコードするDNAをヒト抗体の定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得ることができる。ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称され、ヒト以外の哺乳動物、たとえばマウスやラット抗体のCDRをヒト抗体のCDRへ移植したものであり、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている。具体例として、マウスやラット抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(framework region;FR)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAを、ヒト抗体定常領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP239400、国際特許出願公開番号WO96/02576参照)。CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、CDRが良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体のCDRが適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のFRのアミノ酸を置換してもよい(Sato,K.et al.,Cancer Res,1993,53,851-856.)。
【0019】
また、ヒト抗体の取得方法も知られている。例えば、所望の抗原又は所望の抗原を発現する細胞、望ましくは、AOL結合性Her2又は乳癌細胞を非ヒト動物に直接腹腔内注射等により免疫し、非ヒト動物のハイブリドーマを作製し、非ヒト動物の抗体を得て、その抗体遺伝子からヒト化抗体を作製してもよいし、ヒトリンパ球をin vitroで所望の抗原又は所望の抗原、望ましくは、乳癌細胞又はAOL結合性Her2を発現する細胞で感作し、感作リンパ球をヒトミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、抗原への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1-59878参照)。また、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物を所望の抗原で免疫することで所望のヒト抗体を取得することができる(WO93/12227,WO92/03918,WO94/02602,WO94/25585,WO96/34096,WO96/33735参照)。さらに、ヒト抗体ライブラリー又は非ヒト動物の抗体ライブラリーを用いて、パニングによりヒト抗体又は非ヒト動物の抗体ライブラリーを取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体又は非ヒト動物の抗体(望ましくは、乳癌細胞又はAOL結合性Her2で免疫・感作した非ヒト動物の抗体遺伝子)の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、所望の抗原又は所望の抗原を発現する細胞、望ましくは、乳癌細胞又はAOL結合性Her2に結合するファージを選択することができる。また、このファージのパニングの過程において、所望の抗原又は所望の抗原を発現する細胞、望ましくは、乳癌細胞又はAOL結合性Her2に結合する抗体-ファージを結合・親和性に基づきスクリーニング・選択するのみでなく、パニングの洗浄液に心筋細胞または心筋細胞由来のHer2タンパク質又は非AOL結合性Her2を混合し、心筋細胞、心筋細胞等のHer2タンパク質又は非AOL結合性Her2に結合する抗体―ファージを積極的に吸収・除外(ネガティブセレクション)し、結果として、乳癌細胞又はAOL結合性Her2に結合する抗体であって、心筋細胞、心筋細胞等のHer2タンパク質又は非AOL結合性Her2に結合しない抗体を取得することが可能である。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を適当な発現ベクターを作製し、ヒト抗体又は非ヒト動物の抗体を取得することができる。これらの方法は既に周知であり、WO92/01047,WO92/20791,WO93/06213,WO93/11236,WO93/19172,WO95/01438,WO95/15388を参考にすることができる。さらに、非ヒト動物の抗体をヒト化することは、前記の通り、公知の方法で可能である。
【0020】
本発明の抗体を取得・製造するために、特に、好ましい抗体の取得・製造方法として、糖鎖付加構造のわずかな差を認識する抗体の取得が必要になると見込まれるため、抗原を発現する細胞を直接非ヒト動物に免疫する工程、当該非ヒト動物の細胞から多様性の大きい抗体遺伝子ライブラリーを作製する工程、当該抗体遺伝子ライブラリーから抗体ファージディスプレイライブラリーを作製する工程、当該抗体ファージディスプレイライブラリーを用い、乳癌細胞又はAOL結合性Her2に結合する抗体をスクリーニングする工程を経て、抗体を製造することが挙げられる。ファージディスプレイ法により、スクリーニング過程でのネガティブセレクションも可能であり、ハイブリドーマ法における細胞融合操作時のバイアスを抑制できる可能性もあり、さらには、抗体遺伝子を直接取得できるので、ヒト化や結合特性向上のため抗体改変など抗体エンジニアリング等に、より有益となる。
【0021】
抗体のクラスは特に限定されず、IgG、IgM、IgA、IgDあるいはIgE等のいずれのアイソタイプを有する抗体をも包含する。精製の容易性等を考慮すると好ましくはIgGである。
【0022】
機能的断片としては、抗体断片(フラグメント)等の低分子化抗体や抗体の修飾物が挙げられる。抗体断片の具体例としては、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、scFv、Diabodyなどを挙げることができる。
【0023】
本発明は、抗Her2抗体又はその機能的断片に薬物が結合した抗体薬物コンジュゲート(ADC)を提供する。
抗体薬物コンジュゲート(ADC)は、細胞傷害性又は細胞分裂停止性の効果、且つ/または細胞の破壊を引き起こす効果を有する薬物(放射性同位体、化学療法剤、および/又は毒素等)を、抗原発現腫瘍細胞に標的化することにより、抗体と細胞傷害性薬物両方の特性を組み合わせ(Teicher,B.A.(2009)Current Cancer Drug Targets 9:982-1004)、それにより、有効性を最大化し、標的外への毒性を最小化することで治療指数を増強する(Carter,P.J.and Senter P.D.(2008)The Cancer Jour.14(3):154-169;Chari,R.V.(2008)Acc.Chem.Res.41:98-107)。
【0024】
本発明の抗体薬物コンジュゲート(ADC)の薬物部分(D)は、抗がん活性を含むものを含む。いくつかの実施態様では、薬物部分に対し、コンジュゲート、即ち共有結合的に結合した抗体を含む。いくつかの実施態様では、抗体は、リンカーを通して薬物部分に共有結合的に結合する。本発明の抗体-薬物コンジュゲート(ADC)は、有効用量の薬物を腫瘍組織へと選択的に送達し、それにより、選択性の増大、即ち効力をもたらす用量の低減を達成すると同時に、治療指数(「治療濃度域」)を増大することができる。
【0025】
抗体薬物コンジュゲート(ADC)の薬物部分(D)は、細胞傷害性又は細胞分裂停止性の効果、且つ/または細胞の破壊を引き起こす効果を有する任意の化合物、部分又は基を含む。薬物部分は、放射性同位体、化学療法剤、および毒素、例えば細菌、真菌、植物または動物起源の小分子毒素または酵素的に活性な毒素が含まれる。
細胞傷害性及び細胞分裂停止性の効果、且つ/または細胞の破壊を引き起こす効果には、チューブリン結合、DNA結合又はインタカレーション、及びRNAポリメラーゼ、タンパク質合成、及び/又はトポイソメラーゼの阻害を含むがこれらに限定されない。例示的薬物部分には、限定されないが、メイタンシノイド、ドラスタチン、カリケアマイシン、ピロロベンゾジアゼピン(PBD)、ネモルビシン及びその誘導体、PNU-159682、アントラサイクリン、ズオカルマイシン、ビンカアルカロイド、タキサン、トリコテセン、CC1065、カンプトテシン、エリナフィド(elinafide)、及び細胞傷害活性を有するそれらの立体異性体、同配体、アナログ、及び誘導体が含まれる。
【0026】
さらに、細胞傷害活性(細胞殺傷活性ともいう)を有する薬物の例として限定はされないが、オーリスタチン(例えば、オーリスタチンe、オーリスタチンf、MMAEおよびMMAF)、オーロマイシン(auromycin)、メイタンシノイド、リシン、リシンA鎖、コンブレタスタチン、デュオカルマイシン、ドラスタチン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、タキソール、シスプラチン、cc1065、臭化エチジウム、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド(tenoposide)、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ジヒドロキシアントラシンジオン、アクチノマイシン、ジフテリア毒素、シュードモナス外毒素(PE)A、PE40、アブリン、アブリンA鎖、モデシンA鎖、αサルシン、ゲロニン、ミトゲリン(mitogellin)、レストリクトシン、フェノマイシン、エノマイシン、クリシン(curicin)、クロチン、カリケアマイシン、サボンソウ(Saponaria officinalis)阻害薬、およびグルココルチコイドおよび他の化学療法剤、並びに放射性同位元素、例えばAt211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212または213、P32およびLu177を含むLuの放射性同位体が挙げられる。抗体はまた、プロドラッグをその活性型に変換する能力を有する抗癌プロドラッグ活性酵素にコンジュゲートされてもよい。
【0027】
抗体に薬物及び/又はプロドラッグをコンジュゲートするためのリンカーおよび方法は、当業界で公知であり、例えば、Saito et al.,(2003)Adv. Drug Deliv.Rev.55:199-215;Trail et al.,(2003)Cancer Immunol.Immunother.52:328-337;Payne,(2003)Cancer CELL 3:207-212;Allen,(2002)Nat.Rev.Cancer 2:750-763;Pastan and Kreitman,(2002)Curr.Opin.Investig. Drugs 3:(1)089-1091;Senter and Springer,(2001)Adv.Drug Deliv.Rev.53:247-264 Denardo et al.,(1998)Clin Cancer Res.4(10):2483-90を参照の上、実施できる。
【0028】
本発明の抗Her2抗体又はその機能的断片は、乳癌細胞に発現するHer2に結合し、心筋細胞に発現するHer2に結合しない抗体であるから、これを含有する医薬組成物は、心筋細胞に作用せず、心毒性を引き起こすことがない乳癌治療用医薬組成物として有用である。また、前記抗体薬物コンジュゲートを含有する医薬組成物もまた乳癌治療用医薬組成物として有用である。
【0029】
本発明の医薬組成物は、前記の抗体、その機能的断片又は抗体薬物コンジュゲート(これらを「本発明抗体等」ともいう)を含有すればよいが、薬学的に許容しうる担体とともに、混合、溶解、乳化、カプセル封入、凍結乾燥等により、製剤化して製造することができる。
【0030】
経口投与用の好適な製剤は、本発明抗体等を、水、生理食塩水のような希釈剤に有効量溶解させた液剤、有効量を固体や顆粒として含んでいるカプセル剤、顆粒剤、散剤又は錠剤、適当な分散媒中に有効量を懸濁させた懸濁液剤、有効量を溶解させた溶液を適当な分散媒中に分散させ乳化させた乳剤等である。
【0031】
非経口投与用には、本発明抗体等を、薬学的に許容しうる溶媒、賦形剤、結合剤、安定化剤、分散剤等とともに、注射用溶液、懸濁液、乳剤、クリーム剤、軟膏剤、吸入剤、坐剤等の剤形に製剤化することができる。注射用の処方においては、本発明の抗体等を水性溶液、好ましくはハンクス溶液、リンゲル溶液、又は生理的食塩緩衝液等の生理学的に適合性の緩衝液中に溶解することができる。さらに、本発明の医薬は、油性又は水性のベヒクル中で、懸濁液、溶液、又は乳濁液等の形状をとることができる。あるいは、本発明抗体を粉体の形態で製造し、使用前に滅菌水等を用いて水溶液又は懸濁液を調製してもよい。吸入による投与用には、本発明抗体等を粉末化し、ラクトース又はデンプン等の適当な基剤とともに粉末混合物とすることができる。坐剤処方は、本発明抗体等をカカオバター等の慣用の坐剤基剤と混合することにより製造することができる。さらに、本発明の医薬は、ポリマーマトリクス等に封入して、持続放出用製剤として処方することができる。
【実施例0032】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されない。
【0033】
[実施例1]
(レクチンの同定)
3種類のHer2タイプの乳癌細胞株(SK-BR-3、AU565、HCC1419)、市販の不死化ヒト心筋細胞(Applied Biological Materials社、T0445-C-ACADEMIC)、iPS細胞(201B7株)から分化誘導した心筋細胞の疎水性画分をCelLytic MEM Protein Extraction Kit(Sigma,CE0050)により調整した。調整した疎水性画分500μgあたり125μLスラリー分のDynabeads MyOne Streptavidin T1(Veritas,DB65604;以下Dyna-SAと記載)を加え、4℃で1時間以上振とうし、その上清を回収した。並行して、125μLスラリーのDyna-SAにビオチン化Rabbit polyclonal anti-ErbB2 antibody(R&D,AF1129)を10μg加え、4℃で1時間以上振とうし、その後、500μLの1%(w/v)のTriton X-100を含むTBS(以下TBSTxと記載)で3回beadsを洗浄した。Rabbit polyclonal anti-ErbB2 antibodyのビオチン化は、Biotin Labeling Kit-NH2(Dojindo,LK03)を用い、製造業者のプロトコールに従って行った。Dyna-SAと振とうした後の疎水性画分とTBSTxで洗浄後のDynabeads-Anti-ErbB2抗体複合体を混合させ、4℃で一晩(約16時間)反応させた(免疫沈降)。免疫沈降後のDyna-SA-Anti-ErbB2抗体複合体を500μLのTBSTxで5回洗浄後、250μLの0.2%(w/v)のSDSを含むTBS(溶出バッファー)を加え、95℃で10分間インキュベートすることで、免疫沈降したHer2をDyna-SA-Anti-ErbB2抗体複合体から溶出させた。溶出後の溶出バッファーに125μLスラリー分のDyna-SAを加え、4℃で1時間以上振とうし、Her2溶出の際に溶出された可能性のあるビオチン化Rabbit polyclonal anti-ErbB2抗体を吸収させ、その上清を回収し、それをHer2溶液として用いた。各種細胞株より取得したHer2溶液に含まれるHer2のタンパク質量を調べるため、ウエスタンブロッティングによる解析を行い、検出されたHer2タンパク質のバンド強度を定量し、その結果からHer2のタンパク質量が同じになるような各Her2溶液の容量を算出した。算出した容量の各Her2溶液を用いて、レクチンアレイ解析を行った。N-結合型糖鎖の有無が、各Her2溶液中のHer2とレクチンアレイ上のレクチンとの反応に影響するかを調べるため、上記のレクチンアレイ解析と同量のHer2溶液に2unitのPNGase F(Roche,11365169001)を加え、37℃にて一晩(約16時間)反応させた後、レクチンアレイ解析を行った。レクチンアレイ解析の結果、UEA-I、AOL、AALというレクチンに対し、心筋細胞由来のHer2よりもHer2タイプの乳癌細胞由来のHer2の方が強く結合することが明らかとなった(
図2)。その傾向はPNGase F処理後により顕著になったことから(
図2)、上記の3レクチンはHer2上のO-結合型糖鎖を認識して結合していると推測される。また、特にAOLとAALに関しては、ウエスタンブロッティング及びレクチンブロッティングにより、生化学的な実験検証においても、心筋細胞由来のHer2よりもHer2タイプ乳癌細胞由来のHer2に強く結合することが明らかとなった(
図3)。
【0034】
[実施例2]
(scFv抗体ファージライブラリーの作製)
以降の実施例における各種遺伝子操作は、Molecular cloning third.ed.(Cold Spring Harbor Lab.Press,2001)、scFv、抗体ファージディスプレイライブラリーの作製はWO2008/007648に記載の方法に準じて行った。(以下、特にこだわりのない限り、WO2008/007648と同様の用語の意味で用いる。)
また、実験動物の使用については、株式会社医学生物学研究所動物実験委員会での審査・承認を得て、行った。
【0035】
Her2高発現型乳癌細胞HCC1419(ATCC:CRL-2326)はRPMI-1640(Gibco:11875135)に10% FBS(MBL:268-1)を添加した培地を用いて拡大培養した。その拡大培養した細胞を、遠心で回収し、25mM EDTAを含むリン酸緩衝化食塩水(PBS)で洗浄、2.5×106細胞となるように溶解懸濁した。この細胞溶液を、マウスの皮下に週1回間隔で4回免疫した。免疫したマウスよりリンパ節を回収し、scFv抗体ファージライブラリーを以下の手順で作製した。
免疫したマウスリンパ節より、RNAを抽出した後、逆転写反応によりcDNAを合成し、これをテンプレートとしてPCRを行ない、VH鎖をコードするcDNA(VH cDNA)およびVLCL鎖をコードするcDNA(VLCL cDNA)を調製した。
ペプチドリンカーとしては例えば柔軟性の高い(GGGGS)3などを用いることができる。例えば、上記抗体のH鎖可変領域及びL鎖可変領域をコードするDNAとペプチドリンカーをコードするDNAを用いて、アセンブリPCR(Gibson;et al.(2009).‘‘Enzymatic assembly of DNA molecules up to several hundred kilobases’’)によりランダムに連結し、scFv遺伝子(5’-[VH cDNA]-[リンカーDNA]-[VLCL cDNA])を調製する。scFv遺伝子をファージミドベクターに組み込み、scFv遺伝子ライブラリーを調製した。
scFv遺伝子ライブラリーを大腸菌に形質転換後、ヘルパーファージを重感染させることにより、様々なscFvを表面に提示したファージのライブラリー(scFv抗体ファージライブラリー)を作製した。
以上の手順により、免疫したマウス2匹のリンパ節から別々に2種類のscFv抗体ファージライブラリーを作製し、混合した。
【0036】
[実施例3]
(ファージディスプレイ法を用いたAOL結合性Her2抗体のスクリーニング・選択)
ファージディスプレイ法のパニング工程を
図4及び5に示す。特に、以下に記載がない限り、WO2007/042309及びWO2006/122797等に記載された方法に従って抗体選択を行った。
具体的には、まずAOL結合性Her2を調整するために、実施例2で作製したHer2溶液100μL、100μLスラリーのDyna-SA、10μgのビオチン化AOL(東京化成工業、A2659)を混合し、4℃一晩(約16時間)振とうした(レクチン沈降)。レクチン沈降後の上清をAOL非結合性Her2として回収し、Dyna-SA-AOL複合体は1mLのTBSTxで5回洗浄後、100μLの0.2%(w/v)のSDSを含むTBS(溶出バッファー)を加え、95℃で10分間インキュベートすることで、レクチン沈降したHer2をDyna-SA-AOL抗体複合体から溶出させた。溶出後の溶出バッファーに100μLスラリー分のDyna-SAを加え、4℃で1時間以上振とうし、Her2溶出の際に溶出された可能性のあるビオチン化AOLを吸収させ、その上清を回収し、それをAOL結合性Her2溶液として用いた。次に、そのAOL結合性Her2を抗原とし、例えば、磁性体ビーズ(Dynabeads M-270Amine 磁性体ビーズ、Invitrogen社製)100μLに室温にて1時間反応して固相化し、1mLのリン酸緩衝液(PBS)で5回洗浄する。以上のように作製したscFv抗体ファージライブラリーに、AOL結合性Her2を固相化した磁性体ビーズを加えて抗原にscFv抗体ファージを結合させた。
次に、scFv抗体ファージが結合したAOL結合性Her2固相化磁性体ビーズを回収し、数回PBSで洗浄を行った後、scFv抗体ファージをAOL結合性Her2固相化した磁性体ビーズから100mMトリエチルアミンpH11.5で溶出する。以上のようにして回収したscFv抗体ファージを大腸菌に感染させ、37℃で一晩培養した。
尚、ファージ感染大腸菌からのファージレスキュー操作は一般的な方法に従った(Molecular cloning third.Ed.Cold Spring Harbor Lab.Press,2001)。
以上、記載した選択ラウンドを3回繰り返した。
【0037】
加えて、目的外のAOL非結合性Her2に反応する非特異抗体ファージを除去する目的で、以下の選択ラウンドを1回行った。
AOL非結合性Her21μgを上記選択ラウンド後、回収ファージに加え4℃で1時間反応した。HCC1419細胞を5×106個を、PBS500μLを加え細胞浮遊液とする。その後、反応済みファージと細胞浮遊液を混合し、4℃で1時間反応したのち、250G 2分の遠心分離を行って細胞を回収する。回収した細胞をPBSで洗浄、遠心を2回行ったのち、ファージを細胞から溶出する。以上の選択ラウンドの後、回収したファージは、大腸菌に感染させ、37℃で一晩培養した。
【0038】
[実施例4]
(IgG抗体作製)
選択した大腸菌のコロニープレートを作製してクローニングを行った。
WO2008/007648に記載の方法に準じて、各クローンのscFv-cp3融合タンパクを作製してAOL結合性Her2およびAOL非結合性Her2に対する反応性をELISAにて評価した。
さらに、それぞれの大腸菌を培養し、プラスミドを回収(QIAprep Spin MiniPrep kit:QIAGEN社製)して塩基配列解析に使用した。
scFv-cp3融合タンパクを用いたELISA評価および塩基配列解析による重複遺伝子配列クローンを選別した結果、AOL結合性Her2特異度の高い抗体の候補として、4クローン(クローンB,C,D,F)をscFv-cp3融合型からIgG化することを決定した。
クローンB,C,D,FのそれぞれのVH及びVLCL断片として、scFv発現ベクターをテンプレートに、PCRによりそれぞれシグナル配列および制限酵素認識配列を付加しながら増幅した。
これらの遺伝子断片をそれぞれ2種類の制限酵素で処理し、予めマウスIgG1CH1,2,3遺伝子を組み込んだH鎖用ベクター(pXC18.4:Lonza社)及びL鎖用ベクター(pXC17.4:Lonza社)へ各断片を組み込んだ。
以上のH鎖ベクターとL鎖ベクターを2種類の制限酵素で消化し、H鎖ベクターとL鎖ベクターを連結し、IgG抗体発現ベクターを作製した。これをCHO細胞へ導入し、薬剤選択により安定発現細胞を得た。培養上清を回収し、Protein A(rProtein A Sepharose Fast Flow:Cytiva社)を用いたアフィニティーカラムで精製を行った。精製後のタンパク質はSDS-PAGEによって単一バンドであることを確認し、NanoDrop(ND-1000:Thermo Scientific社)を用いてタンパク濃度を決定した。以上で得られた精製IgG(クローンB,C,D,F)を以下の実験に用いた。
【0039】
[実施例5]
(IgG抗体の反応性の確認(ELISA法))
調製した精製IgGの活性をELISAで評価した。反応様式および結果を
図5に示す。
ELISA法の手順は、以下の方法をとることができる。抗原として、未分画Her2、AOL結合性Her2又はAOL非結合性Her2をそれぞれ磁性体ビーズ(Dynabeads M-270Amine 磁性体ビーズ、Invitrogen社製)100μLに室温にて1時間反応して固相化し、1mLのリン酸緩衝液(PBS)で5回洗浄する。
調製したIgG抗体を終濃度0.5μg/mLになるよう100μL/wellのPBSで希釈し、上記各々の抗原固相済み磁性体ビーズと室温にて1時間反応させたのち、各々の抗原固相済み磁性体ビーズを回収する。PBS100μL/wellでビーズを2回洗浄した後、続けてHRP標識抗マウス抗体(MBL:330)を100μL/wellのPBSで1,000倍希釈した検出抗体を各々の抗原固相済み磁性体ビーズと室温にて1時間反応する。各々の抗原固相済み磁性体ビーズを回収し、PBS100μL/wellで各々の抗原固相済み磁性体ビーズを2回洗浄し、基質溶液を100μL/well加える。基質溶液は以下のように作製することができる。即ち、12mLの0.1Mクエン酸-リン酸水素2ナトリウム(pH5.1)に終濃度が0.01%になるようにH
2O
2を加え、さらにOPD錠(和光純薬)を1錠加える。
2N硫酸を100μL/well加えて反応を停止し、プレートリーダー(SUNRISE-BASIC TECAN:TECAN社)にてそれぞれ492nmの吸光度(副波長650nm)を測定する。
ELISA法を用いたIgG抗体反応性の確認の結果、クローンDのみが、IgG型でもAOL非結合性Her2よりもAOL結合性Her2に対する反応性が高い抗体であることが判明した。(
図6)
【0040】
[実施例6]
(抗体クローンDのアミノ酸配列・CDR(相補性決定領域)同定)
実施例3で記載したscFv-cp3融合タンパクを用いた塩基配列解析の結果をもとに、抗体クローンDのH鎖、L鎖のアミノ酸配列及びそのCDR(相補性決定領域)をKabatらの方法(Kabat et al.,‘‘Sequences of Proteins of Immunological Interest’’,NIH Publication,91-3242 (1991).)で同定した。
表1に、抗体クローンDのH鎖およびL鎖CDRのアミノ酸配列を示す。また、可変領域のVHの全長アミノ酸配列を配列番号1、可変領域のVLの全長アミノ酸配列を配列番号5に示す。
【0041】
【0042】
[実施例7]
(FACSによる細胞への結合特性確認)
取得した抗Her2抗体(クローンD)の数種類のHer2タイプの乳癌細胞及びiPS由来心筋細胞に対する結合性をフローサイトメトリー(FACS)によって検証した。いずれの細胞も、トリプシン(0.5g/L トリプシン/0.53mmol/L EDTA溶液、ナカライテスク、32778-34)で細胞を培養ディッシュから剥離し、細胞数をカウントし(Bio-Rad、TC20全自動セルカウンター)、2×10
5個の細胞をFACS解析に用いた。細胞を200μLの0.1%(w/v)のBSAと0.1%(w/v)のアジ化ナトリウムを含むPBS(FACSバッファー)で2回洗浄後、終濃度10μg/mLになるように1%(w/v)のBSAを含むPBS(1% BSA-PBS)中に懸濁したtrastuzumab、抗Her2抗体(クローンD)、正常ヒトIgGの溶液を各々100μLずつ細胞に添加し、氷上で約30分間インキュベートした。その後、細胞を200μLのFACSバッファーで2回洗浄後、終濃度2.5μg/mLになるように1% BSA-PBS中に懸濁したAlexa Fluor 488標識ロバ抗ヒトIgG抗体(Jackson ImmunoResearch,709-545-149)溶液を100μLずつ細胞に添加し、氷上で約30分間インキュベートした。その後、細胞を200μLのFACSバッファーで2回洗浄後、終濃度1μg/mLになるようにFACSバッファー中に懸濁したDAPI(Roche,10236276001)溶液を100μLずつ細胞に添加し、ナイロンメッシュ(N-No.355T)を通して200μLのFACSバッファーに注入し、その細胞懸濁液をフローサイトメーター(BD FACSCelesta)にて測定した。測定結果はFlowJo(BD)にて解析した。
解析の結果、trastuzumabと抗Her2抗体(クローンD)の両方がHer2タイプの乳癌細胞には結合することが明らかとなった(
図7)。一方で、iPS細胞から分化誘導した心筋細胞に対する結合性は、trastuzumabが全ての心筋細胞に結合するのに対し、抗Her2抗体(クローンD)は結合しないことが明らかとなった(
図8)。つまり、抗Her2抗体(クローンD)はHer2タイプの乳癌細胞に発現するHer2には結合するが、心筋細胞上に発現するHer2には結合しないことが明らかとなった。
【0043】
[実施例8]
(抗体薬物コンジュゲート(ADC)によるヒト乳がん細胞殺傷活性)
Her2タイプの乳癌細胞を1×10
5個/mLの濃度に調整し、100μL/ウェルでコラーゲンIコート96ウェルプレート(IWAKI、4860-010)に播種し、37℃(5%CO
2)で一晩(約16時間)培養した。trastuzumab、抗Her2抗体(クローンD)、正常ヒトIgG(富士フイルム和光純薬、143-09501)を、終濃度が100nM、20nM、4nM、800μM、160μM、32μM、6.4μMになるように2μLずつウェルに添加し、コントロールとしては抗体無しの培養液を2μLずつウェルに添加し、室温で5分以上インキュベートした。Fab fragment of an anti-human IgG Fc specific antibody conjugated to monomethyl auristatin F(MMAF) with cleavable linker(Moradec社、AH-202-AF)を終濃度が20nMになるように2μLずつウェルに添加し、37℃(5%CO
2)で3日(約72時間)培養した。培養後の細胞生存率をCellTiter96 Non-Radioactive Cell Proliferation Assay(MTT)(Promega、G4100)で製造業者のプロトコールに従って測定した。この際、コントロールとして抗体無しの培養液を添加したウェルの吸光度を細胞生存率100%とし、各条件における細胞生存率を算出した。吸光度はSynergy LX Multi-Mode Reader(BioTek社製)にて測定した。
その結果、
図9に示すように、本発明の抗Her2抗体は、trastuzumabに匹敵する乳癌細胞に対する増殖抑制効果を示した。