(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065133
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】変速段切替装置
(51)【国際特許分類】
F16H 61/28 20060101AFI20240508BHJP
F16H 63/32 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
F16H61/28
F16H63/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021044651
(22)【出願日】2021-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】荻野 大蔵
(72)【発明者】
【氏名】竹内 均
(72)【発明者】
【氏名】大橋 周平
(72)【発明者】
【氏名】川口 峻征
(72)【発明者】
【氏名】山本 広大
【テーマコード(参考)】
3J067
【Fターム(参考)】
3J067AA21
3J067AB23
3J067AC05
3J067AC51
3J067BA02
3J067DB32
3J067EA35
3J067FB45
3J067FB85
3J067GA01
(57)【要約】
【課題】車両の変速段の切り替えを確実に行いつつ、変速段切替装置を構成する部材の摩耗を抑制する。
【解決手段】変速段切替装置10は、スリーブ16の内周ギヤ1604と第1ギヤ20Aまたは第2ギヤ20Bとの噛合指令時には、噛合指令側ギヤのストッパ2010Bにスリーブ16が当接する固定軸2208上の位置である噛合完了位置Pxより噛合指令側ギヤ側までシフトフォーク18を移動させた後、少なくとも噛合完了位置Pxまでシフトフォーク18を戻して待機させる。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の変速段を切り替える変速段切替装置であって、
駆動軸に設けられたクラッチハブと、
前記クラッチハブに噛合する内周スプラインを有するスリーブと、
前記スリーブを回転可能に支持するシフトフォークと、
前記クラッチハブの両側の前記駆動軸の箇所に回転可能に配置されそれぞれ前記内周スプラインに噛合可能な外周スプラインを有する第1ギヤおよび第2ギヤと、
前記第1ギヤおよび前記第2ギヤに設けられ前記スリーブに当接可能なストッパと、
電動モータを用いて前記シフトフォークを前記駆動軸の中心線に沿った固定軸上で移動させることにより前記内周スプラインを前記第1ギヤの前記外周スプラインと前記第2ギヤの前記外周スプラインとに選択的に噛合させる移動機構と、
前記固定軸上の前記シフトフォークの位置を検出するストロークセンサと、
前記ストロークセンサの検出値に基づいて前記シフトフォークの移動状態を制御する移動制御部と、を備え、
前記移動制御部は、前記内周スプラインと前記第1ギヤまたは前記第2ギヤとの噛合指令時には、噛合指令側ギヤの前記ストッパに前記スリーブが当接する前記固定軸上の位置である噛合完了位置より前記噛合指令側ギヤ側まで前記シフトフォークを移動させた後、少なくとも前記噛合完了位置まで前記シフトフォークを戻して待機させる、
ことを特徴とする変速段切替装置。
【請求項2】
前記スリーブは、前記内周スプラインが設けられた円筒状のスリーブ基部と、前記スリーブ基部の外周部に設けられ前記シフトフォークが係合可能な係合部とを有し、
前記係合部は、前記スリーブ基部の外周面と、前記外周面の周方向と直交する方向における両側部から起立する両側の凸条とを備え、
前記シフトフォークは、前記両側の凸条の間の前記外周面に回転可能に接触する接触面を有する保持部を有し、前記外周面の周方向と直交する方向における前記接触面の幅は、前記両側の凸条の間の寸法よりも小さく、
前記移動制御部は、前記両側の凸条の間の寸法から前記接触面の幅を差し引いた隙間距離を記憶し、前記噛合指令時には前記噛合完了位置より前記噛合指令側ギヤ側まで前記シフトフォークを移動させた後、前記噛合完了位置より前記噛合指令側ギヤと反対方向に前記隙間距離分離れた位置で前記シフトフォークを待機させる、
ことを特徴とする請求項1記載の変速段切替装置。
【請求項3】
前記移動制御部は、前記電動モータを定電圧で駆動して前記スリーブが前記ストッパに押圧されることにより前記シフトフォークの移動が規制される移動限界位置まで移動させ、前記シフトフォークが前記移動限界位置に達した際に前記電動モータに流れる電流に基づいて前記移動限界位置における前記シフトフォークのたわみ量を推定し、前記シフトフォークが前記移動限界位置に達した際における前記ストロークセンサの検出値から前記たわみ量を差し引いた位置を前記噛合完了位置として学習する、
ことを特徴とする請求項1または2記載の変速段切替装置。
【請求項4】
前記移動機構は、前記電動モータが出力する回転力を前記電動モータの出力軸に接続されたすべりねじにより直動方向の移動力に変換して前記シフトフォークを移動させる、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の変速段切替装置。
【請求項5】
前記移動制御部は、前記車両の使用開始後、所定期間ごとに前記噛合完了位置の学習を実行する、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の変速段切替装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の変速段を切り替える変速段切替装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、2段変速トランスアスクルで採用されている変速段切替装置は、スリーブを保持するシフトフォークを電動アクチュエータによって移動させ、スリーブの内周スプラインを任意の変速ギヤのギヤピーススプラインに係合させることによって変速を行う噛合いクラッチ機構を採用している。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、車両に搭載されるシフトレンジ切替装置において、シフトレンジを示す信号の基準値を検定する基準値検定(いわゆる「突き当て学習」)を精度よく行うための技術が開示されている。特許文献1におけるシフトレンジ切替装置の突き当て学習では、被駆動体およびストッパの一方または両方を撓ませるように被駆動体をストッパに突き当てて、直流モータを全相通電を保ちながら電流量を低減することで撓みを低減させ、撓みがなくなったことを検知したときのエンコーダからの位置信号の値を基準値とする。このため、撓みを解消した状態で基準値を決定するため、撓みの影響による基準値のばらつきが生じない。つまり、温度等の条件が変化した場合でも基準値がばらつかないため、シフトレンジの切替を高精度に行うことが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の変速段切替装置(噛合いクラッチ機構)では、スリーブが所望のギヤピースとの噛合完了後、確実に噛合いを保証するため、更にギヤ方向に所定の荷重でストッパに押付けた後に電動アクチュエータへの電流供給を遮断することでシフト入れを完了している。
また、従来の変速段切替装置の電動アクチュエータは、DCブラシレスモータにボールねじを挿入した構成が採用されている。ボールねじは逆転効率が高く、電動アクチュエータへの電流供給を遮断すると、スリーブの保持力を失うため、シフト入れ完了後のシフトフォークの位置を固定するサブロック機構(ディテント)が設けられており、サブロック機構(ディテント)の引き込み力により、シフトフォーク及びスリーブ位置は規定位置で固定される。
一方で、変速段切替装置の電動アクチュエータにすべりねじ等の逆転効率が低い機構を採用した場合、電動モータへの電流供給を遮断しても保持力が残存し、サブロック機構(ディテント)が無くても、シフトフォーク及びスリーブ位置は保持される。しかしながら、従来の切替装置と同様にスリーブが所望のギヤピースとの噛合完了後、ギヤ方向に所定の荷重でストッパに押付けた後に電動アクチュエータへの電流供給を遮断した場合、シフトフォークのたわみ等による押付力が残存してしまう。この押付力により、例えばシフトフォークのフォークパッドを溶損してしまうなどの問題が発生する可能性がある。
【0006】
また、上述した特許文献1では、被駆動体またはストッパのたわみ量を高精度に検出するセンサが必要となり、コストが上昇するという課題がある。また、上述した特許文献1では、モータ電流値を読み取りながら被駆動体を動作させており、動作が複雑であるという課題がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、その目的は、車両の変速段の切り替えを確実に行いつつ、変速段切替装置を構成する部材の摩耗を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するため、本発明の一実施形態は、車両の変速段を切り替える変速段切替装置であって、駆動軸に設けられた駆動ギヤと、前記駆動ギヤに噛合する内周スプラインを有するスリーブと、前記スリーブを回転可能に支持するシフトフォークと、前記駆動ギヤの両側の前記駆動軸の箇所に回転可能に配置されそれぞれ前記内周スプラインに噛合可能な外周スプラインを有する第1ギヤおよび第2ギヤと、前記第1ギヤおよび前記第2ギヤに設けられ前記スリーブに当接可能なストッパと、電動モータを用いて前記シフトフォークを前記駆動軸の中心線に沿った固定軸上で移動させることにより前記内周スプラインを前記第1ギヤの前記外周スプラインと前記第2ギヤの前記外周スプラインとに選択的に噛合させる移動機構と、前記固定軸上の前記シフトフォークの位置を検出するストロークセンサと、前記ストロークセンサの検出値に基づいて前記シフトフォークの移動状態を制御する移動制御部と、を備え、前記移動制御部は、前記内周スプラインと前記第1ギヤまたは前記第2ギヤとの噛合指令時には、噛合指令側ギヤの前記ストッパに前記スリーブが当接する前記固定軸上の位置である噛合完了位置より前記噛合指令側ギヤ側まで前記シフトフォークを移動させた後、少なくとも前記噛合完了位置まで前記シフトフォークを戻して待機させる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施の形態によれば、所定の変速段への変速切替指令時、切替側のギヤ(噛合指令側ギヤ)のストッパにスリーブが当接し、かつシフトフォークに変形が生じない固定軸上の位置である噛合完了位置より切替側ギヤ側にシフトフォークを移動させ、シフトフォークを変形させた状態でギヤ間の噛合を完了させた後、少なくとも噛合完了位置までシフトフォークを戻して待機させる。これにより、シフトフォークによるストッパへのスリーブの押し付けを解除し、シフトフォークのフォークパッドの摩耗やスリーブとストッパの接触面の摩耗を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態にかかる変速段切替装置の全体構成を示す断面斜視図である。
【
図2】シフトフォークの移動機構の構成を
図1の背面側から示す図である。
【
図3】変速段切替装置を構成する各ギヤの噛合関係を模式的に示す断面図である。
【
図4】変速段切替装置を構成する各ギヤの噛合関係を模式的に示す図である。
【
図5】電動アクチュエータの構成を模式的に示す断面図である。
【
図6】シフトフォークの動きを模式的に示す説明図であり、シフトフォークが基準位置にある場合を示す。
【
図7】シフトフォークの動きを模式的に示す説明図であり、シフトフォークが移動限界位置にありたわみが生じている場合を示す。
【
図8】シフトフォークの動きを模式的に示す説明図であり、シフトフォークが噛合完了位置にある場合を示す。
【
図9】シフトフォークの動きを模式的に示す説明図であり、シフトフォークが待機位置にある場合を示す。
【
図10】シフトフォークの位置(ストロークセンサの検出値)および電動モータの電流値の時間変化を示すタイミングチャートである。
【
図11】移動制御部による噛合完了位置の学習処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照して、本発明にかかる変速段切替装置および変速段切替装置の制御方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。
図1~
図6を参照して、実施の形態にかかる変速段切替装置10の構成について説明する。
変速段切替装置10は、オートマチックトランスミッションの車両の変速段をハイ(H)ギヤとロー(L)ギヤの2段で切り替えるものであり、駆動軸12、クラッチハブ14、スリーブ16、シフトフォーク18、第1ギヤ20A、第2ギヤ20B、移動機構22、ストロークセンサ24、移動制御部300(
図6参照)を備える。
【0012】
駆動軸12は、車両の駆動輪にエンジンの動力を伝達するアウトプットシャフトである。
【0013】
クラッチハブ14は、駆動軸12に設けられ、
図3に示すように外周部に外周スプライン1402を有する。クラッチハブ14と駆動軸12とはスプライン結合されており、これにより、クラッチハブ14は、駆動軸12と一体に回転する。
【0014】
スリーブ16は、クラッチハブ14の外周スプライン1402に噛合する内周スプライン1604を有する円筒状の部材である。より詳細には、スリーブ16は、
図3に示すように、内周スプライン1604が設けられた円筒状のスリーブ基部1602と、スリーブ基部1602の外周部に設けられ後述するシフトフォーク18が係合可能な係合部1606とを有する。係合部1606は、スリーブ基部1602の外周面1608と、外周面1608の周方向と直交する方向における両側部から起立する両側の凸条1610とを備える。
【0015】
シフトフォーク18は、スリーブ16を回転可能に支持する。シフトフォーク18は、後述する移動機構22により駆動軸12の延在方向に移動可能であり、シフトフォーク18が移動することでスリーブ16も駆動軸12の延在方向に移動する。
シフトフォーク18は、
図2に示すように、スリーブ16を保持する保持部1802と、後述する移動機構22の固定軸2208が挿通される筒状部1804と、保持部1802と筒状部1804とを接続する本体部1806とを備える。
保持部1802は、
図3に示すようにスリーブ16の外周部に設けられた両側の凸条1610の間の外周面1608に回転可能に接触する接触面1808を有する。また、
図2に示すように、保持部1802のうち凸条1610と対向する側壁1810には、シフトフォーク18がスリーブ16とが相対回転をもって接触した際の焼付を防止するためフォークパッド1812が取り付けられている。
図3に示すように、保持部1802のうち、スリーブ16の外周面1608の周方向と直交する方向における接触面1808の幅(フォークパッド1812の厚みを含む)W1は、両側の凸条1610の間の寸法W2よりも小さくなっている。すなわち、シフトフォーク18の保持部1802とスリーブ16の係合部1606との間には、距離W2-W1の隙間(ガタ)が設けられている。
【0016】
第1ギヤ20Aおよび第2ギヤ20Bは、
図1に示すようにクラッチハブ14の両側の駆動軸12の箇所に回転可能に配置されている。第1ギヤ20Aは、ハイギヤに対応し、後述する大径部2004Aの外周ギヤ2008Aが
図1に二点破線で示すカウンターシャフト32に固定された第3ギヤ34Aと噛合して回転する。第2ギヤ20Bは、ローギヤに対応し、後述する大径部2004の外周ギヤ2008Bがカウンターシャフト32に固定された第4ギヤ34Bと噛合して回転する。
第1ギヤ20Aおよび第2ギヤ20Bは、不図示のニードルローラベアリングを介して駆動軸12に接続されており、第1ギヤ20Aまたは第2ギヤ20Bのうち所望のシフトに対応する方のギヤと駆動軸12とを駆動ギヤ14を介してスリーブ16により接続することで、当該ギヤの回転が駆動軸12に伝達される。なお、第1ギヤ20Aおよび第2ギヤ20Bの軸方向の位置が変化しないように、図示しない位置規制部材が設けられている。
【0017】
図3に示すように、第1ギヤ20Aおよび第2ギヤ20Bはそれぞれ、クラッチハブ14と隣接して配置されたスプライン2002(2002A,2002B)と、駆動ギヤ14から離れた側に配置される大径部2004(2004A,2004B)とを備える。
第1ギヤ20Aおよび第2ギヤ20Bのスプライン2002は、それぞれスリーブ16の内周スプライン1604に噛合可能な外周ギヤ2006(2006A,2006B)を有する。
大径部2004は、スプライン2002より大きい半径を有し、その外周に設けられた外周ギヤ2008(2008A,2008B)は、カウンターシャフト32に固定された第3ギヤ34Aの外周ギヤ3400Aまたは第4ギヤ34Bの外周ギヤ3400Bとそれぞれ常時噛合している。
【0018】
移動機構22は、電動モータ2204Aを用いてシフトフォーク18を駆動軸12の中心線Oに沿って移動させることによりスリーブ16の内周スプライン1604を第1ギヤ20Aの外周スプライン2006Aと第2ギヤ20Bの外周スプライン2006Bとに選択的に噛合させる。
本実施の形態では、移動機構22は、
図2に示すように、電動アクチュエータ2204、移動軸2206、ガイド部2208、レバー2212を備える。ガイド部2208とシフトフォーク18とは、一体に設けられている。
電動アクチュエータ2204は、
図5に示すように、電動モータ(本実施の形態では、DCブラシモータ)2204Aにすべりねじ2204Bが挿入されており、電動モータ2204Aが出力する軸周りの回転を軸方向の直動に変換する直動機構として機能する。電動モータ2204Aがすべりねじ2204Bのめねじ側を回転させることにより、電動アクチュエータ2204は、上下方向(
図2の矢印A方向)に移動する。すなわち、移動機構22は、電動モータ2204Aが出力する回転力を電動モータ2204Aの出力軸に接続されたすべりねじ2204Bにより直動方向の移動力に変換してシフトフォーク18を移動させる。
移動軸2206は、電動アクチュエータ2204の出力軸2204Cの先端に取り付けられ、電動アクチュエータ2204の直動方向(
図2の矢印A方向)の動きに付随して移動する。
ガイド部2210は、上述のようにシフトフォーク18と一体となっており、本体部2210Aと、後述するレバー2212が挿通される挿通孔2210Bと、固定軸2208に挿通されたスプリング2210Cとを備える。
レバー2212は、略L字形状を呈し、一方の端部2212Aを移動軸2206に設けられた接続部2206Aに、他方の端部2212Bをガイド部2210の挿通孔2210Bに挿通されている。レバー2212は、車体に支持された支軸2212Cを中心に揺動可能である。
電動アクチュエータ2204が稼働し、移動軸2206が上下方向(矢印A方向)に移動すると、レバー2212が揺動し、シフトフォーク18とガイド部2208が往復直線運動(矢印B方向)する。
【0019】
ストロークセンサ24は、ガイド部2208の動きを読み取ることでシフトフォーク18の位置を検出する。本実施の形態では、ストロークセンサ24は、シフトフォーク18の保持部1802の軸方向の中心位置が駆動ギヤ14の軸方向の中心位置S0(
図3参照)に位置するときのシフトフォーク18の位置を基準位置P0とし、この基準位置P0からのシフトフォーク18の移動量を検出することによりシフトフォーク18の位置を検出する。
すなわち、ストロークセンサ24は、スリーブ16の内周スプライン1604が第1ギヤ20Aの外周スプライン2006Aおよび第2ギヤ20Bの外周スプライン2006Bに噛合しないシフトフォーク18の基準位置P0からのシフトフォーク18の移動距離を検出する。
【0020】
図3で示すように、スリーブ16が駆動ギヤ14の外周に位置する場合、第1ギヤ20Aおよび第2ギヤ20Bはいずれも駆動軸12とは接続しておらず、駆動軸12の周りをそれぞれ独立して回転している。この場合、車両の変速段はニュートラル(N)となる。
一方、
図4に示すように、シフトフォーク18によりスリーブ16が第1ギヤ20A方向に移動すると、スリーブ16の内周スプライン1604の一部と第1ギヤ20Aのスプライン2002Aの外周スプライン2006Aとが噛合する。スリーブ16の内周スプライン1604の残りの一部は駆動ギヤ14と噛合しており、これにより、第1ギヤ20A、スリーブ16、駆動ギヤ14が一体となり、駆動軸12の回転力をスリーブ16、第1ギア20A、第3ギア34Aを経由し、駆動軸32に伝達する。スリーブ16が第1ギヤ20Aと噛合している場合には、車両の変速段はハイとなる。
また、シフトフォーク18によりスリーブ16が第2ギヤ20B方向に移動すると、スリーブ16の内周ギヤ1604の一部と第2ギヤ20Bのスプライン2002Bの外周ギヤ2006Bとが噛合する。スリーブ16の内周ギヤ1604の残りの一部は駆動ギヤ14と噛合しており、これにより、第2ギヤ20B、スリーブ16、駆動ギア14が一体となり、駆動軸12の回転力をスリーブ16、第2ギア20B、第4ギア34Bを経由し、駆動軸32に伝達する。スリーブ16が第2ギヤ20Bと噛合している場合には、車両の変速段はローとなる。
【0021】
また、
図4に示すように、シフトフォーク18によりスリーブ16が軸方向第1ギヤ20A方向に移動すると、スリーブ16の軸方向の端面1612が大径部2004のクラッチハブ14側の側面に当接し、スリーブ16の軸方向の動きを規制する。
すなわち、本実施の形態では、この大径部2004の側面が、第1ギヤ20Aおよび第2ギヤ20Bに設けられスリーブ16に当接可能なストッパ2010(2010A、2010B)として機能する。
【0022】
つぎに、移動制御部300について説明する。
図6に示すように、移動制御部300は、車両のトランスミッションを制御するTCU(Transmission Control Unit)30の一機能として実現する。
TCU30は、CPU、制御プログラムなどを格納・記憶するROM、制御プログラムの作動領域としてのRAM、各種データを書き換え可能に保持するEEPROM、周辺回路等とのインターフェースをとるインターフェース部などを含んで構成され、上記CPUが制御プログラムを実行することにより、移動制御部300として機能する。
【0023】
移動制御部300は、ストロークセンサ24の検出値に基づいてシフトフォーク18の移動状態を制御する。移動制御部300は、例えば車両全体を制御するECUから変速段の切り替え指令があった場合(すなわちスリーブ16と第1ギヤ20Aまたは第2ギヤ20Bとの噛合指令時)に、電動アクチュエータ2204を作動させ、当該変速段に対応するギヤ20とスリーブ16とが噛合する位置にシフトフォーク18を移動させる。
【0024】
本実施の形態では、
図8に示すように、スリーブ16の端面1612がギヤ20の大径部2004の側面(ストッパ2010)と接し、かつシフトフォーク18に変形(たわみ)が生じない位置を噛合完了位置(ストッパ位置)Pxとする。
そして、変速段の切り替え指令(スリーブ16と所定のギヤ20との噛合指令)があった場合、まず噛合完了位置Pxより噛合指令側ギヤ側(たとえば後述する移動限界位置Pl(
図7参照))までシフトフォーク18を移動させてスリーブ16をギヤ20に押し付けることによりスリーブ16とギヤ20とを確実に噛合させた後、シフトフォーク18を少なくとも噛合完了位置Pxまで戻した上で次回の変速段の切り替え指令まで待機させる。
すなわち、移動制御部300は、スリーブ16の内周ギヤ1604と第1ギヤ20Aまたは第2ギヤ20Bとの噛合指令時には、噛合指令側ギヤのストッパ2010にスリーブ16が当接し、かつシフトフォーク18に変形が生じない固定軸2208上の位置である噛合完了位置Pxより噛合指令側ギヤ側までシフトフォーク18を移動させ、シフトフォークを変形させた後、少なくとも噛合完了位置Pxまでシフトフォーク18を戻して待機させる。
【0025】
噛合完了位置Pxは、予め指定されているのではなく、移動制御部300の学習により決定する。
実施の形態にかかる変速段切替装置10において、噛合完了位置Pxを設定する理由について説明する。
上述のように、従来の変速段切替装置の電動アクチュエータは、DCブラシレスモータにボールねじを挿入した構成が採用されている。ボールねじは逆転効率が高く、電動アクチュエータへの電流供給を遮断すると、スリーブの保持力を失うため、シフト入れ完了後のシフトフォークの位置を固定するサブロック機構(ディテント)が設けられており、サブロック機構(ディテント)の引き込み力により、シフトフォーク及びスリーブ位置は規定位置で固定される。
【0026】
一方で、実施の形態にかかる変速段切替装置10の電動アクチュエータ2204にすべりねじ2204B等の逆転効率が低い機構を採用した場合、電動モータ2204Aへの電流供給を遮断しても保持力が残存し、サブロック機構(ディテント)が無くても、シフトフォーク18及びスリーブ位置は保持される。
しかしながら、従来の切替装置と同様にスリーブが所望のギヤピースとの噛合完了後、ギヤ方向に所定の荷重でストッパに押付けた後に電動アクチュエータ2204への電流供給を遮断した場合、シフトフォーク18のたわみ等による押付力が残存してしまう。この押付力により、例えばシフトフォーク18のフォークパッド1812を溶損してしまうなどの問題が発生する可能性がある。
【0027】
このため、変速段切替装置10は、従来のようにギヤに対してスリーブを押し付けた状態でシフト入れを完了する(電動アクチュエータをオフする)のではなく、スリーブ16の端面1612がギヤ20の大径部2004の側面(ストッパ2010)と接する位置(噛合完了位置)を学習し、少なくとも噛合完了位置までシフトフォーク18を戻した上でシフト入れを完了させることとした。
【0028】
なお、駆動ギヤ14やスリーブ16、第1ギヤ20A、第2ギヤ20B等の寸法は一定であり、この寸法(設計値)に基づいて噛合完了位置を決定する方法も考えられるが、個々の部材寸法の機械的誤差やストロークセンサ24の特性バラつきなどが生じる可能性があり、一律の値では上記問題を解消するのに不十分であると考えられるため、個々の変速段切替装置10において学習を行うこととした。
【0029】
図6~
図10を参照しつつ、
図11のフローチャートを用いて移動制御部300による学習の詳細について説明する。
なお、
図6~
図9では、視認性の観点から駆動ギヤ14、ストロークセンサ24等の図示を省略している。
初期状態では、
図6に示すようにシフトフォーク18は基準位置P0にあるものとする。
移動制御部300は、移動量の学習指示を受けると(ステップS900:Yes)、電動アクチュエータ2204を一定速度で稼働させ、シフトフォーク18およびシフトフォーク18に保持されるスリーブ16を一方のギヤ方向(図では第1ギヤ20A方向)に一定速度で移動させる(ステップS902、
図10の時刻T0~T1に対応)。ストロークセンサ24は、シフトフォーク18の基準位置P0からの移動量(移動距離)を検出する。
【0030】
スリーブ16の内周スプライン1604が第1ギヤ20Aのスプライン2002の外周ギヤ2006と噛合し、スリーブ16の軸方向の端面1612が大径部2004の2010Aに当接する位置(ストッパ位置)に到達すると、シフトフォーク18の移動速度は低下する。シフトフォーク18の移動速度は、例えばストロークセンサ24の検出値の単位時間当たりの変化量から算出可能である。
移動制御部300は、シフトフォーク18の移動速度が低下すると(ステップS904:Yes、
図10の時刻T1~T2に対応)、すなわちスリーブ16がストッパ位置に到達したことを検知すると、一旦電動アクチュエータ2204への通電をカットする(ステップS906、
図10の時刻T2~T3に対応)。
【0031】
つぎに、移動制御部300は、電動アクチュエータ2204に一定電圧を印加し、シフトフォーク18およびシフトフォーク18に保持されるスリーブ16を第1ギヤ20A方向に更に移動させる(ステップS908、
図10の時刻T3~T4に対応)。すなわち、
図7に示すように、スリーブ16を大径部2004方向(ストッパ方向)に押し付けるようにシフトフォーク18を更に移動させる。この時、シフトフォーク18にはストッパ方向への押圧力によりたわみDが生じる。なお、
図7ではシフトフォーク18のたわみを模式的に示している。
【0032】
移動制御部300は、ストロークセンサ24の検出値(図中「ストローク」と表記)が安定するまでは(ステップS910:No)、一定電圧での押圧を継続する。移動制御部300は、ストロークセンサ24の検出値が安定すると(ステップS910:Yes)、その位置がシフトフォーク18の移動限界位置と判断し、その時点におけるストロークセンサ24の検出値および電動アクチュエータ2204に流れる電流の値を読み取る(ステップS912、
図10の時刻T4に対応)。
【0033】
つづいて、移動制御部300は、ステップS912で得られた電動アクチュエータ2204の電流値に基づいて、移動機構22からシフトフォーク18が受ける軸方向の荷重を推定する(ステップS914)。一般に電動アクチュエータ2204の電流値がシフトフォーク18から受ける荷重とは比例関係にあり、移動制御部300は、実測により予め作成しておいたマップから、電流値に対応する荷重の値を読み取る。
【0034】
さらに、移動制御部300は、ステップS914で得られた荷重に基づいて、シフトフォーク18に生じる軸方向のひずみ量(
図7の符号Dに対応)を推定する(ステップS916)。一般に、部材が受ける荷重と部材のひずみ量とは比例関係にあり、移動制御部300は、実測により予め作成しておいたマップから、荷重に対応するひずみ量の値を読み取る。
なお、予め作成しておくマップは、ステップS912で電流値から直接シフトフォーク18のひずみ量を得られるようにしてもよい。
【0035】
移動制御部300は、ステップS912で読み取ったストローク安定時のストロークセンサ24の検出値からステップS916で得られたひずみ値を差し引いた値を噛合完了位置Pxとして決定し(ステップS918)、本フローチャートによる処理を終了する。
この後、他方のギヤ方向(上記の例では第2ギヤ20B方向)についても同様に噛合完了位置Pxを学習する。
【0036】
すなわち、移動制御部300は、電動モータ2204Aを定電圧で駆動してスリーブ16がストッパ2010(ギヤ20の大径部2004の側面)に当接することによりシフトフォーク18の移動が規制される移動限界位置Plまで移動させ、シフトフォーク18が移動限界位置に達した際に電動モータ2204Aに流れる電流に基づいて移動限界位置Plにおけるシフトフォーク18のたわみ量Dを推定し、シフトフォーク18が移動限界位置Plに達した際におけるストロークセンサ24の検出値からたわみ量Dを差し引いた位置を噛合完了位置Pxとして学習する。
【0037】
移動制御部300による噛合完了位置の学習は、例えば車両の出荷前に少なくとも1回実行する。また、移動制御部300は、車両の使用開始後、所定期間ごとに噛合完了位置の学習を実行してもよい。これは、例えば経年使用によってフォークパッド1812の摩耗や移動機構22の各部材の運動特性の変化等が生じる可能性があるためである。
所定期間とは、例えば所定の時間間隔毎(3か月毎、1年毎など)、または所定の走行距離毎(走行距離1万km毎など)などに設定してもよい。
【0038】
上述のように、移動制御部300は、変速段の切り替え指令(スリーブ16と所定のギヤ20との噛合指令)があった場合、まずシフトフォーク18を移動限界位置Pl(
図7参照)程度まで移動させてスリーブ16をギヤ20に押し付けることによりスリーブ16とギヤ20とを確実に噛合させた後、シフトフォーク18を少なくとも噛合完了位置Pxまで戻した上で電動アクチュエータ2204への通電をカットし、次回の変速段の切り替え指令まで待機させる。これにより、スリーブ16にかかるギヤ20(ストッパ)方向への押付力をほぼゼロとでき、フォークパッド1812の摩耗やシフトフォーク18の劣化等を防止できる。
【0039】
一方で、シフトフォーク18が噛合完了位置Pxにある状態ではギヤ20側のフォークパッド1812がスリーブ16の凸条1610と接しており、移動量の誤差がわずかでもあるとスリーブ16に対して押付力がかかってしまう可能性がある。
よって、本実施の形態では、シフト入れ完了後のフォークパッド1812の待機位置を、
図9に示すように、フォークパッド1812がギヤ20と反対側のスリーブ16の凸条1610と接する位置(待機位置Py)としてもよい。
図9に示すように、保持部1802のうち、スリーブ16の外周面1608の周方向と直交する方向における接触面1808の幅(フォークパッド1812の厚みを含む)W1は、両側の凸条1610の間の寸法W2よりも小さくなっている。すなわち、シフトフォーク18の保持部1802とスリーブ16の係合部1606との間には、距離W2-W1の隙間(ガタ)が設けられている。
待機位置Pyは、噛合完了位置Pxから噛合中のギヤ20と反対側(駆動ギヤ14側)に隙間距離W2-W1分離れた距離となる。
すなわち、移動制御部300は、スリーブ16の両側の凸条1610の間の寸法W2からフォークパッド1812を含む接触面1808の幅を差し引いた隙間距離W2-W1を記憶し、噛合指令時にはシフトフォーク18を移動限界位置Plまで移動させた後、噛合完了位置Pxよりギヤ20と反対方向に隙間距離W2-W1分離れた位置(待機位置Py)でシフトフォーク18を待機させるようにしてもよい。
このようにすることで、ギヤ20とスリーブ16の噛合(シフト入れ)を確実に行いつつ、変速段切替装置10を構成する各部材の摩耗をより確実に防止できる。
【0040】
以上説明したように、実施の形態にかかる変速段切替装置10は、所定のシフトへのシフト切替指令時、切替側のギヤ20(噛合指令側ギヤ)のストッパ2010にスリーブ16が当接し、かつシフトフォーク18に変形が生じない固定軸2208上の位置である噛合完了位置Pxより切替側のギヤ20側にシフトフォーク18を移動させ、シフトフォーク18を変形させた状態でギヤ間の噛合を完了させた後、少なくとも噛合完了位置までシフトフォーク18を戻して待機させる。これにより、シフトフォーク18によるストッパ2010へのスリーブ16の押し付けを解除し、シフトフォーク18のフォークパッド1812の摩耗やスリーブ16とストッパ2010の接触面の摩耗を防止できる。また、噛合完了位置Pxより切替側のギヤ20側にシフトフォーク18を移動させることにより、スリーブ16の内周ギヤ1604と切替側のギヤ20とを噛合させ、シフト入れを確実に完了できる。
また、実施の形態にかかる変速段切替装置10において、次回のシフト切替時までの待機位置を噛合完了位置Pxよりギヤ20と反対方向に隙間距離W2-W1分離れた位置(待機位置Py)にすれば、変速段切替装置10を構成する各部材の摩耗をより確実に防止できる。
また、実施の形態にかかる変速段切替装置10において、シフトフォーク18を移動限界位置Plまで移動させ、シフトフォーク18が移動限界位置Plに達した際に電動モータ2204Aに流れる電流に基づいて移動限界位置Plにおけるシフトフォーク18のたわみ量Dを推定し、シフトフォーク18が移動限界位置Plに達した際におけるストロークセンサの検出値からたわみ量を差し引いた位置を噛合完了位置Pxとして学習すれば、シフトフォーク18のたわみ量を検出するセンサを設けることなくたわみ量を推定でき、変速段切替装置10のコストを低減できる。
また、実施の形態にかかる変速段切替装置10において、電動アクチュエータ2204の回転―直動変換機構にすべりねじ2204Bを採用すれば、ボールねじ等を使用した従来構成と比較して回転―直動変換機構の部品コストを低減できる。また、すべりねじの逆転効率が低いことを利用して、シフトフォークの位置を保持するためのサブロック機構を廃止することでき、更なるコスト低減を実現できる。
また、実施の形態にかかる変速段切替装置10において、車両の使用開始後、所定期間ごとに噛合完了位置の学習を実行すれば、経年使用による変速段切替装置10の各部の変化を反映した噛合完了位置を設定でき、変速段切替装置10を構成する各部材の摩耗をより確実に防止できる。
【符号の説明】
【0041】
10 変速段切替装置
12 駆動軸
14 クラッチハブ
16 スリーブ
1602 スリーブ基部
1604 内周スプライン
1606 係合部
1608 外周面
1610 凸条
1612 端面
18 シフトフォーク
20A 第1ギヤ
20B 第2ギヤ
2002(2002A、2002B) スプライン
2004(2004A、2004B) 大径部
2006(2006A、2006B) 外周スプライン
2008(2008A、2008B) 外周ギヤ
2010(2010A、2010B) ストッパ
22 移動機構
2204 電動アクチュエータ
2204A 電動モータ
2204B すべりねじ
2204C 出力軸
2206 移動軸
2208 ガイド部
2212 レバー
24 ストロークセンサ
300 移動制御部
P0 基準位置
Pl 移動限界位置
Px 噛合完了位置
Py 待機位置