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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065142
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】溶接トーチ用ノズル
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/29 20060101AFI20240508BHJP
【FI】
B23K9/29 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173879
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武井 優子
【テーマコード(参考)】
4E001
【Fターム(参考)】
4E001LB06
4E001LH06
4E001MB02
4E001NA01
(57)【要約】
【課題】シールド範囲を拡大させることが可能な溶接トーチ用ノズルを提供する。
【解決手段】溶接トーチ本体の先端に取り付けられ、コンタクトチップを取り囲むように設けられ、両端が開口する円筒形状の溶接トーチ用ノズル13であって、先端部134と、溶接トーチ本体に装着される装着部131と、先端部134と装着部131とを連結する本体部132,133と、を含み、先端部134の先端には、全周にわたって均等のピッチで配置され、本体部132,133側に向かって延びる複数の凹部溝134bが設けられている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接トーチ本体の先端に取り付けられ、コンタクトチップを取り囲むように設けられ、両端が開口する円筒形状の溶接トーチ用ノズルであって、
先端部と、
溶接トーチ本体に装着される装着部と、
前記先端部と前記装着部とを連結する本体部と、
を含み、
前記先端部の先端には、全周にわたって均等のピッチで配置され、前記本体部側に向かって延びる複数の凹部溝が設けられている、
溶接トーチ用ノズル。
【請求項2】
前記コンタクトチップの先端は、前記溶接トーチ用ノズルの前記先端部の開口端よりも先端側に露出している、
請求項1に記載の溶接トーチ用ノズル。
【請求項3】
前記本体部は、先端側に向かうしたがって窄む形態を有し、
前記先端部も、先端側に向かうしたがって窄む形態を有している、
請求項1に記載の溶接トーチ用ノズル。
【請求項4】
前記凹部溝の前記装着部側に向かう溝深さは、
前記先端部の開口部における前記凹部溝の開口幅よりも大きく設けられている、
請求項1に記載の溶接トーチ用ノズル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接トーチ用ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
母材同士を液相状態(溶融)状態で接合する溶接を「融接」といい、融接には、「アーク溶接」、「電子ビーム溶接」、「レーザー溶接」、「プラズマアーク溶接」などの種類が挙げられる。
【0003】
たとえば、「アーク溶接」に用いられる溶接トーチにおいては、先端部に設けられた溶接トーチ用ノズルが、コンタクトチップとオリフィスとを取り囲み、オリフィスに設けられたシールドガス噴出口から噴出されたシールドガスが、アーク、溶融池およびその周辺を大気から遮断して、溶接が行なわれる。このような、アーク溶接用の溶接トーチ用ノズルが、たとえば、特開2004-90013号公報(特許文献1)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-90013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アーク溶接では、シールドガスによる大気の遮断が不十分であると、アークや溶融池に大気が巻き込まれ、ブローホールやピットと呼ばれる欠陥が凝固部に生じることが知られている。そこで、溶接トーチ用ノズルの先端の口径を拡大して、シールドガスによるシールド範囲を拡げることで、大気の巻き込みを防ぐ方法がある。
【0006】
他方、ワークへのアプローチ性の観点に立てば、シールド範囲を拡大させるために溶接トーチ用ノズルの先端の口径を大きくすると、溶接対象によって(隅肉、重ね、開先等)適切なトーチ角度、チップ-母材間距離を保つことができなくなる。その結果、十分なガスシーリングが叶わず、溶接欠陥が生じるおそれがある。
【0007】
したがって、近年は、シールド範囲を拡大するような溶接トーチ用ノズルの開発が望まれている。さらに、アプローチ性能および操作性能を向上させる、溶接トーチ用ノズルの開発も望まれている。
【0008】
この発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、第1の目的は、シールド範囲を拡大させることが可能な溶接トーチ用ノズルを提供することにある。第2の目的は、第1の目的に加え、アプローチ性および操作性を向上さることが可能な溶接トーチ用ノズルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]本開示の溶接トーチ用ノズルにおいては、溶接トーチ本体の先端に取り付けられ、コンタクトチップを取り囲むように設けられ、両端が開口する円筒形状の溶接トーチ用ノズルであって、先端部と、溶接トーチ本体に装着される装着部と、上記先端部と上記装着部とを連結する本体部と、を含み、上記先端部の先端には、全周にわたって均等のピッチで配置され、上記本体部側に向かって延びる複数の凹部溝が設けられている。
【0010】
[2]:[1]に記載の溶接トーチ用ノズルにおいて、上記コンタクトチップの先端は、上記溶接トーチ用ノズルの上記先端部の開口端よりも先端側に露出している。
【0011】
[3]:[1]または[2]に記載の溶接トーチ用ノズルにおいて、上記本体部は、先端側に向かうにしたがって窄む形態を有し、上記先端部も、先端側に向かうにしたがって窄む形態を有している。
【0012】
[4]:[1]から[3]のいずれかに記載の溶接トーチ用ノズルにおいて、上記凹部溝の上記装着部側に向かう溝深さは、上記先端部の開口部における上記凹部溝の開口幅よりも大きく設けられている。
【発明の効果】
【0013】
本開示の溶接トーチ用ノズルによれば、シールド範囲を拡大させることが可能な溶接トー用チノズルの提供を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施の形態1の溶接トーチ用ノズルを装着した溶接トーチの斜視図である。
図2図1中のII-II線矢視断面図である。
図3】実施の形態1の溶接トーチ用ノズルの全体図である。
図4】実施の形態1の溶接トーチ用ノズルの断面図である。
図5】実施の形態1の他の形態の溶接トーチ用ノズルの全体図である。
図6】実施の形態1の他の形態の溶接トーチの斜視図である。
図7】実施の形態2の溶接トーチ用ノズルを装着した溶接トーチの斜視図である。
図8】実施の形態2の溶接トーチ用ノズルの全体図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、各実施の形態の溶接トーチ用ノズルについて、以下、図面を参照しながら説明する。以下に説明する実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。同一の部品、相当部品に対しては、同一の参照番号を付し、重複する説明は繰り返さない場合がある。実施の形態における構成を適宜組み合わせて用いることは当初から予定されていることである。
【0016】
(実施の形態1:溶接トーチ1/溶接トーチ用ノズル13)
図1から図3を参照して、溶接トーチ1の概略構成について説明する。図1は、本実施の形態の溶接トーチ用ノズル13を装着した溶接トーチ1の斜視図、図2は、図1中のII-II線矢視断面図、図3は、溶接トーチ用ノズル13の全体図である。
【0017】
図1および図2を参照して、この溶接トーチ1は、「アーク溶接」に用いられる溶接トーチを一例として図示している。この溶接トーチ1は、トーチ本体11と、トーチ本体11の先端に設けられる溶接トーチ用ノズル13を含む。溶接トーチ用ノズル13の内部には、コンタクトチップ12が設けられている。コンタクトチップ12は、所定の間隙を隔てて、溶接トーチ用ノズル13に取り囲まれている。溶接トーチ1の内部構造、機構については、従来の溶接トーチと同等であることから、ここでの詳細な説明は省略する。たとえば、特開2004-90013号公報(特許文献1)に開示される溶接トーチと同等である。
【0018】
図3および図4を参照して、本実施の形態の溶接トーチ用ノズル13の構成について以下詳細に説明する。図3は、本実施の形態の溶接トーチ用ノズル13の全体図、図4は、溶接トーチ用ノズル13の断面図である。
【0019】
本実施の形態の溶接トーチ用ノズル13は、両端が開口する略円筒形状の全体形状を有している。溶接トーチ用ノズル13は、先端部134と、トーチ本体11に装着される装着部131と、先端部134と装着部131とを連結する第1本体部132および第2本体部133とを含む。
【0020】
この溶接トーチ用ノズル13は、装着部131が最も大径に設けられ、装着部131がトーチ本体11の先端部分に装着される。装着部131の外径は、約25mm~30mm程度、内径は、約21mm~26mm程度である。装着部131の軸方向長さは、約10mm程度である。
【0021】
装着部131には、第1本体部132が連結している。第1本体部132は、内径および外径が同一の円筒形状である。第1本体部132の外径は、約22mm~25mm程度、内径は、約18mm~21mm程度である。第1本体部132の軸方向長さは、約25mm程度である。
【0022】
第2本体部133には第2本体部133が連結している。第2本体部133は、内径および外径が先端側に向かうほど徐々に窄む形態を有している。第2本体部133の第1本体部132側の外径は、約22mm~25mm程度、内径は、約18mm~21mm程度である。第2本体部133の先端部134側の外径は、約18mm~20mm程度、内径は、約14mm~16mm程度である。第2本体部133の軸方向長さは、約35mm程度である。
【0023】
第2本体部133には先端部134が連結している。先端部134は、内径および外径が先端側に向かうほど徐々に窄む形態を有している。先端部134の第2本体部133側の外径は、約18mm~20mm程度、内径は、約14mm~16mm程度である。先端部134の先端側の外径は、約14mm~18mm程度、内径は、約10mm~14mm程度である。先端部134の軸方向長さは、約10mm程度である。
【0024】
さらに、先端部134の先端には、全周にわたって均等のピッチで配置され、第2本体部133側に向かって延びる複数の凹部溝134bが設けられている。本実施の形態では、8か所の凹部溝134bが均等のピッチで配置されている。凹部溝134bの第2本体部133側に向かう溝深さDは、約3mm~7mm程度である。先端部134の開口端134hにおける凹部溝134bの開口幅S1は、約1.5mm~3.5mm程度である。
【0025】
この先端部134の場合には、凹部溝134bの装着部131側に向かう溝深さDの方が、先端部134の開口端134hにおける凹部溝134bの開口幅S1よりも大きく設けられている。個々の凹部溝134bの形態は、凹部溝134bの開口幅は、第2本体部133に向かうほど狭くなり、凹部溝134bの底部は、半円形形状を有している。たとえば、凹部溝134bは、切削加工で用いるテーパボールエンドミルを用いることで成形することができる。
【0026】
図1を再び参照して、本実施の形態の溶接トーチ用ノズル13は、先端部134の開口端134hからコンタクトチップ12の先端12pが露出している。露出長さhは、約1mm~5mm程度である。
【0027】
図4を参照して、上記構成を備える溶接トーチ用ノズル13を用いた溶接トーチ1における溶接トーチ用ノズル13の内部のシールドガスGの流れについて説明する。図4は、溶接トーチ用ノズル13の断面図である。
【0028】
この溶接トーチ用ノズル13によれば、先端部134に到達したシールドガスGは、凹部溝134bにおいて、外部に向かって拡大噴出(図中矢印G2)する。その結果、溶接トーチ用ノズル13の先端部分でのガスシールド範囲を拡大させることができる。
【0029】
さらに、先端部134に向かうにしたがって、内部のガス流路が窄められていることから、シールドガスGの流れは、先端に向かうほど加速される。その結果、シールドガスGによる外気との遮断能力を高めることができる。
【0030】
さらに、先端部134の開口端134hからコンタクトチップ12の先端12pが露出しており、この部分は、ガスシールドにより外気と遮断されていることから、ワークへのアプローチ性能および操作性能を高めることができる。その結果、溶接対象(隅肉、重ね、開先等)に対して適切なトーチ角度、チップ-母材間距離を保つことが可能となり、十分なガスシールドの下で、ブローホールやピットを発生させることなく、適切な溶接を実現させることを可能とする。
【0031】
さらに、内部のガス流路を窄める形態を採用することで、シールドガスGの流れを、先端に向かうほど加速させることができるために、全長の短い溶接トーチ用ノズルを実現させることも可能となる。全長の短い溶接トーチ用ノズルを用いることで、溶接対象物へのアプローチ性を向上させることができる。
【0032】
(他の形態の溶接トーチ用ノズル13B)
図5に、本実施の形態の他の形態の溶接トーチ用ノズル13Bの全体図を示す。この溶接トーチ用ノズル13Bは、最も大径の装着部131を除き、本体部135の内径および外径が同一の円筒形状で形成されている。本体部135の外径および内径は、第1本体部132の外径および内径と同一である。
【0033】
本体部135の先端側の開口端134hには、上記溶接トーチ用ノズル13と同様の形状の凹部溝134bが設けられている。このように、溶接トーチ用ノズルの先端側の開口端に凹部溝134bを設けておくことのみでも、先端側に到達したシールドガスGは、凹部溝134bにおいて、外部に向かって拡大噴出させることができる。その結果、溶接トーチ用ノズル13の先端部分でのガスシールド範囲を拡大させることができる。
【0034】
(他の形態の溶接トーチ1A)
図6に、他の形態の溶接トーチ1Aを図示する。上記実施の形態で示した溶接トーチ1は、溶接トーチ用ノズル13の先端部134の開口端134hからコンタクトチップ12の先端12pが露出していたが、この溶接トーチ1Aは、開口端134hからコンタクトチップ12の先端12pは露出していない。この構成であっても、先端側に到達したシールドガスGは、凹部溝134bにおいて、外部に向かって拡大噴出することから、溶接トーチ用ノズル13の先端部分でのガスシールド範囲を拡大させることができる。
【0035】
(実施の形態2:溶接トーチ1B/溶接トーチ用ノズル13B)
図7および図8を参照して、本実施の形態における溶接トーチ1Bおよび溶接トーチ用ノズル13Bについて説明する。図7は、溶接トーチ用ノズル13Bを装着した溶接トーチ1Bの斜視図、図8は、溶接トーチ用ノズル13Bの全体図である。
【0036】
基本的な構成は、上記実施の形態1における溶接トーチ1および溶接トーチ用ノズル13と同じである。相違点は、溶接トーチ用ノズル13Bの先端部134の開口端134hに設けられる凹部溝134bの形態にある。上記実施の形態1における凹部溝134bの形態は、略U字形状であった。他方、本実施の形態における溶接トーチ用ノズル13Bに設けられる凹部溝134bの形態は、略三角形状である。凹部溝134bの形態として、凹部溝134bの第2本体部133側に向かう溝深さDは、約2mm~6mm程度である。先端部134の開口端134hにおける凹部溝134bの開口幅S1は、約2mm~4mm程度である。
【0037】
このような凹部溝134bの形態であっても、上記実施の形態1の溶接トーチ用ノズル13と同様に、シールドガスGは、凹部溝134bにおいて、外部に向かって拡大噴出する。その結果、溶接トーチ用ノズル13Bの先端部分でのガスシールド範囲を拡大させることができる。
【0038】
ここで、凹部溝134bの形態がU字形状の場合には、三角形状のものよりもスパッタが溜まりづらい。さらに、U字形状の場合には、三角形状よりも先端に向かう角度が緩やかなため、ノズル先端の乱流強度が三角のものより低い(ガスが乱れにくい)といえる。
【0039】
他方、凹部溝134bの形態が三角形状の場合にはU字よりも先端に向かう角度が急のため、シールド範囲拡大の効果が得やすい。しかし、ノズル先端の乱流強度は、U字形状のものより高い(ガスが乱れやすい)といえる。
【0040】
上記各実施の形態では、アーク溶接の場合を一例として説明したが、「アーク溶接」に限られず、「電子ビーム溶接」、「レーザー溶接」、「プラズマアーク溶接」などの溶接に対しても本発明を適用することができる。
【0041】
以上、本開示の溶接トーチ用ノズルについて説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0042】
1,1A,1B 溶接トーチ、11 トーチ本体、12 コンタクトチップ、12p 先端、13,13B 溶接トーチ用ノズル、131 装着部、132 第1本体部、133 第2本体部、134 先端部、134b 凹部溝、134h 開口端、135 本体部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8