(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065150
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】浮体式風車のヨー運動低減装置
(51)【国際特許分類】
F03D 13/25 20160101AFI20240508BHJP
F03D 7/04 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
F03D13/25
F03D7/04 K
F03D7/04 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173892
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】518022743
【氏名又は名称】三菱造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】太田 真
(72)【発明者】
【氏名】石井 秀和
(72)【発明者】
【氏名】岩切 水樹
(72)【発明者】
【氏名】廣田 一博
(72)【発明者】
【氏名】小松 正夫
(72)【発明者】
【氏名】大城 貴昭
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 宜行
【テーマコード(参考)】
3H178
【Fターム(参考)】
3H178AA03
3H178AA26
3H178AA43
3H178BB35
3H178CC22
3H178DD32X
3H178DD41X
3H178DD52X
3H178DD54X
3H178EE07
3H178EE15
3H178EE27
(57)【要約】
【課題】浮体式風車に発生する長周期のヨー運動を低下して浮体式風車を構成する構造物の疲労寿命が低下するのを抑制する。
【解決手段】本開示に係る浮体式風車のヨー運動低減装置の一態様は、水面に浮かぶ浮体と、浮体に設置された風力発電装置と、浮体を係留する係留索と、を備えた浮体式風車のヨー運動低減装置であって、浮体のヨー角の基準位置に対するヨー方向の変位を検出するヨー角検出部と、浮体にヨー方向の旋回力を加えることが可能なヨー角抑制機構と、ヨー角検出部で検出されるヨー方向の変位のうちの長周期変位を低減する方向の旋回力を浮体に加えるように、ヨー角抑制機構を制御するように構成されたヨー角制御部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水面に浮かぶ浮体と、該浮体に設置された風力発電装置と、該浮体を係留する係留索と、を備えた浮体式風車のヨー運動低減装置であって、
前記浮体のヨー角の基準位置に対するヨー方向の変位を検出するヨー角検出部と、
前記浮体にヨー方向の旋回力を加えることが可能なヨー角抑制機構と、
前記ヨー角検出部で検出される前記ヨー方向の変位のうちの長周期変位を低減する方向の前記旋回力を前記浮体に加えるように、前記ヨー角抑制機構を制御するように構成されたヨー角制御部と、
を備える浮体式風車のヨー運動低減装置。
【請求項2】
前記ヨー角制御部は、
前記ヨー角検出部で検出される前記ヨー方向の変位の時系列変化で表される波形パターンのうち、所定周期以上の長周期波成分を取り出すように構成されたフィルタ部と、
前記フィルタ部によって取り出された前記長周期波成分に対応する前記長周期変位を算出する長周期変位算出部と、
を含む請求項1に記載の浮体式風車のヨー運動低減装置。
【請求項3】
前記ヨー角制御部は、前記長周期変位が目標変位に近づくように前記ヨー角抑制機構を作動させるフィードバック制御を行うように構成された請求項1に記載の浮体式風車のヨー運動低減装置。
【請求項4】
前記係留索は、
前記浮体に対して正方向の前記ヨー方向の変位に抗する係留力を付加可能な第1係留索と、
前記浮体に対して前記正方向と逆方向の負方向の前記ヨー方向の変位に抗する係留力を付加可能な第2係留索と、
を含み、
前記ヨー角抑制機構は、
前記第1係留索又は前記第1係留索と前記浮体との接続部に設けられた第1油圧シリンダと、
前記第2係留索又は前記第2係留索と前記浮体との接続部に設けられた第2油圧シリンダと、
を含む請求項1乃至3のいずれか1項に記載の浮体式風車のヨー運動低減装置。
【請求項5】
前記ヨー角抑制機構は、水流噴射口が水面より上方の前記浮体に設けられ、前記長周期変位を低減する方向に水流を噴射可能な少なくとも1つのウォータジェット推進器を含む請求項1乃至3のいずれか1項に記載の浮体式風車のヨー運動低減装置。
【請求項6】
前記ヨー角抑制機構は、
水面より上方の前記浮体に設けられ、翼形状の断面を有する少なくとも1つのフィンと、
前記フィンを軸中心に回動させるフィン駆動部と、
を含む請求項1乃至3のいずれか1項に記載の浮体式風車のヨー運動低減装置。
【請求項7】
前記ヨー角抑制機構は、
前記水面より上方の前記浮体に軸中心に回転可能に立設された少なくとも1つのロータセイルと、
前記ロータセイルを軸中心に回転させるロータセイル駆動部と、
を含む請求項1乃至3のいずれか1項に記載の浮体式風車のヨー運動低減装置。
【請求項8】
前記風力発電装置は、ピッチ角度が変更可能な少なくとも1つのブレードを含み、
前記ヨー角抑制機構は、前記ブレードのピッチ角度を変更可能なピッチ駆動部を含み、
前記ヨー角制御部は、風を受けた前記ブレードが前記浮体に前記旋回力を加えることが可能なように前記ブレードのピッチ角度を調整するピッチ調整部を含む請求項1乃至3のいずれか1項に記載の浮体式風車のヨー運動低減装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、浮体式風車のヨー運動低減装置に関する。
【背景技術】
【0002】
洋上に設置される浮体式風車は、水面に浮かぶように浮力を発生させる浮体と、この浮体に設置された風力発電装置と、浮体を係留するための係留索等を備えている。浮体構造の一例として、本発明者等は、風力発電装置が設置される1本の第1コラムと、2本の第3コラムと、第1コラム部と2本の第2コラム部間を夫々接続する2つの中空のロワーハルと、を備え、2つのロワーハルが梁部材によって接続された構成を有し、潮流や海流から受ける力に対して浮体に発生する抗力を抑制可能な浮体を提案している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
最近の浮体式風力発電装置は、浮体式風車の超大型化に伴い、浮体式風車に発生するヨー運動(浮体の重心を中心とした垂直線回りの回転運動)のうち、長周期のヨー運動が過大となる傾向にある。発電時に長周期のヨー運動が発生すると、幾何学的にロータの向きを風向きに対して最適化できなくなるため、発電量が低下すると共に、ロータのヨー角度を調整するヨー駆動装置やタワーに加わる負荷が増大し、さらには、暴風時などにおいて浮体式風車を係留する係留索に加わる最大係留力が増大するという問題がある。そのため、浮体式風車を構成する構造物の疲労寿命を低下させるという問題がある。
【0005】
本開示は、上述する事情に鑑み、浮体式風車に発生するヨー方向の長周期変位を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示に係る浮体式風車のヨー運動低減装置は、水面に浮かぶ浮体と、該浮体に設置された風力発電装置と、該浮体を係留する係留索と、を備えた浮体式風車のヨー運動低減装置であって、前記浮体のヨー角の基準位置に対するヨー方向の変位を検出するヨー角検出部と、前記浮体にヨー方向の旋回力を加えることが可能なヨー角抑制機構と、前記ヨー角検出部で検出される前記ヨー方向の変位のうちの長周期変位を低減する方向の前記旋回力を前記浮体に加えるように、前記ヨー角抑制機構を制御するように構成されたヨー角制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係る浮体式風車のヨー運動低減装置の一態様によれば、浮体式風車に発生するヨー方向の長周期変位を低減できるため、風向きに対するロータの角度を発電効率上最適に維持でき、これによって、発電量の低下を抑制できると共に、浮体式風車を構成する構造物の疲労寿命が低下するのを抑制でき、かつ暴風時などで係留索に加わる最大係留力の増加を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】一実施形態に係るヨー運動低減装置を備える浮体式風車の斜視図である。
【
図2】一実施形態に係るヨー角抑制機構を備える浮体の平面図である。
【
図3】一実施形態に係るヨー角制御部のブロック線図である。
【
図4】一実施形態に係るヨー角制御部の制御ステップを示すフロー図である。
【
図5】一実施形態に係るヨー角制御部のブロック線図である。
【
図6】一実施形態に係るヨー角抑制機構を備える浮体の平面図である。
【
図7A】一実施形態に係るヨー角抑制機構を備える浮体の平面図である。
【
図7B】
図7Aに図示されたヨー角抑制機構の一部を拡大した斜視図である。
【
図8A】一実施形態に係るヨー角抑制機構を備える浮体の平面図である。
【
図8B】
図8Aに図示されたヨー角抑制機構の一部を拡大した斜視図である。
【
図9】一実施形態に係るヨー運動低減装置のブロック線図である。
【
図10】浮体に発生するヨー方向の変位の解析値を時系列で示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、これらの実施形態に記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状及びその相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的にヨー角変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一つの構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0010】
(浮体式風車の構成)
図1は、浮体式風車の一構成例を示す斜視図である。浮体式風車1は、浮力を有して水面Swに浮かぶ浮体10と、浮体10に設置され、浮体10によって水面上に支持される風力発電装置40と、浮体10を係留するための係留索20と、を備えている。
【0011】
風力発電装置40は、タワー44の頂部に設けられるナセル42と、ナセル42を下方から支持するタワー44と、ナセル42に回転可能に取り付けられたロータ46と、を備えている。ナセル42は、タワー44に軸受を介してヨー方向に旋回可能に取り付けられ、風向きに応じてロータ46の向きを調整することで、発電効率を向上できる。ロータ46は、少なくとも1つのブレード46aを有し、ブレード46aは風Wを受けて回転し、ロータ46の回転エネルギは発電機(不図示)によって電力に変換される。
【0012】
(浮体の構成)
図1に示されている浮体10は、1本の第1コラム12と、2本の第2コラム14a、14bと、第1コラム12と第2コラム14a、14bの各々とを接続する2本のロワーハル16a及び16bと、2本のロワーハル16a及び16b間に接続される梁部材18と、を備えている。このような浮体10は平面視でほぼA字状を有する。ロワーハル16a及び16b及び梁部材18は水面Swに沿って延在する。第1コラム12及び第2コラム14a、14bには夫々複数の係留索20の各々の一端が接続され、各係留索20の他端は海底に固定されたアンカに連結されている。ロワーハル16a及び16bは、内部に空洞部22が形成されており、空洞部22にバラスト水が注入されることにより潜水可能に構成されている。そして、空洞部22にバラスト水が注入された状態でロワーハル16a及び16bは完全に水没し、その上面は喫水線より下方に位置することができる。
【0013】
図1に例示されている実施形態では、第1コラム12及び第2コラム14a、14bは、平面視において、仮想三角形の各頂点を形成している。そして、第2コラム14a及び14bは、軸線方向長さがほぼ同一であり、第1コラム12は、第2コラム14a及び14bが形成する仮想二等辺三角形の頂部に位置している。第2コラム14a及び14bが形成する頂角は、浮体10の安定性を考慮した角度範囲で設定されており、例えば、90度に設定される。
【0014】
浮体10の別な実施形態では、例えば、第2コラム14a及び14bが2本ではなく、3本で構成され、3本の第2コラム間の角度は、平面視で等角度をなすように構成される。そして、これら3本の第2コラムと第1コラムとは夫々3本のロワーハルで接続され、3本のロワーハルの接続部に第1コラムが設けられる。
【0015】
(ヨー運動低減装置)
図1に示されているように、一実施形態に係るヨー運動低減装置50は、浮体10のヨー角の基準位置に対するヨー方向の変位を検出するヨー角検出部52を備えている。ここで言う基準位置とは、ヨー方向の変位が発生していないと想定されるヨー方向の位置として設定されるものである。後述する
図10においては、基準位置は0度とされたヨー方向の位置である。
【0016】
ヨー運動低減装置50は、さらに、浮体10にヨー方向の旋回力を加えることが可能なヨー角抑制機構54と、ヨー角抑制機構54を制御するためのヨー角制御部56と、を備えている。ヨー角制御部56は、ヨー角検出部52で検出されるヨー方向の変位のうちの長周期変位を低減する方向の旋回力を浮体10に加えるように、ヨー角抑制機構54を制御するように構成されている。
【0017】
ヨー角制御部56は、例えば、タワー44内部の電気室内などに設けられ、中央演算部CPU(Central Processing Unit)及びROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等のメモリを備えている。ROMに格納された情報をCPUが読み出して実行することによって、ソフトウェアとハードウェアとが協働して各処理を実行する。また、RAMは、CPUがプログラムを実行する際のワークエリアとして用いられる。
【0018】
図2は、一実施形態に係るヨー角抑制機構を備える浮体の平面図である。
図2において、点Gは浮体10の重心(浮心)である。浮体10の重心Gの位置は、浮体の構造によって異なる。ヨー方向の旋回力とは、矢印Tで示すように、重心Gを中心にヨー方向の正負(+-)のどちらかの方向へ浮体10を旋回させる旋回力である。
【0019】
図10は、浮体に発生するヨー方向の変位の解析値を時系列で示すグラフであり、具体的には、浮体に加わるヨー方向の粘性減衰力(ψ)を0%、20%及び40%と系統的に変化させて、浮体のヨー方向の変位を求めた計算結果を時系列的に示したグラフである。横軸は時間(秒)を示し、縦軸はヨー方向の変位角を示している。
【0020】
図10に示されるヨー方向の変位は、周期xが約60秒程度の波形を示す長周期成分と、周期yが約10秒程度の波形を示す短周期成分とを含む波形パターンで表されている。浮体式風車の発電量の低下や疲労寿命の低下を招き、かつ最大係留力を増加させるのは長周期成分である。一般に、疲労寿命は構造物に加わる変動荷重の振幅の3乗に反比例するため、変動荷重の振幅が約2割程度低減すれば疲労寿命は約2倍に延び、変動荷重の振幅が約3割程度低減すれば疲労寿命は約3倍に延びることになる。
【0021】
ヨー角検出部52で検出されるヨー方向の変位のうちの長周期変位とは、
図10に示されている波形パターンのうち、所定周期以上の波周期成分に対応する変位である。
【0022】
ヨー運動低減装置50によれば、ヨー角制御部56がヨー角抑制機構54の作動を制御して、ヨー角検出部52で検出された浮体10のヨー方向の変位のうち、所定周期以上の波周期成分に対応する長周期変位を低減する方向の旋回力Tを浮体10に加えることができる。これによって、風向きに対してロータ46が発電効率上最適角を維持できるため、浮体式風車1の発電量の低下を抑制できると共に、浮体式風車1を構成する構造物の疲労寿命が低下するのを抑制でき、かつ暴風時などに係留索20に加わる最大係留力の増加を抑制できる。
【0023】
(ヨー角検出部の一実施形態)
図1に例示されているヨー角検出部52は、第1コラム12の頂部に設けられた方位センサ58及び処理部62を含む。処理部62は例えば方位センサ58に内蔵される。方位センサ58は複数のアンテナを内蔵し、これら複数のアンテナは夫々GPS衛星60から送られてくる搬送波をキャッチする。処理部62は、各アンテナ間の該搬送波の行路差と、各アンテナの位置を結ぶように設定される基線ベクトルとから、浮体10のヨー角方向の変位を求めるように構成されている。処理部62で得られた浮体10のヨー角方向の変位などのデータは表示器(不図示)を経由し、外部機器に出力される。
【0024】
図3は、一実施形態に係るヨー角制御部56のブロック線図である。ヨー角検出部52で検出されるヨー方向の変位は、
図10のように時系列変化で表される場合、短周期波成分と、所定周期以上の長周期波成分とが含まれる波形パターンとなる。
図3に示されているヨー角制御部56は、上記波形パターンに含まれる波周期成分のうち、所定周期以上の長周期波成分Ldを取り出すように構成されたフィルタ部66と、フィルタ部66によって取り出された長周期波成分Ldに対応する長周期変位Ld
0を算出する長周期変位算出部68と、を備えている。
【0025】
ヨー角検出部52で検出されたヨー方向の変位Djは、長周期変位算出部68に入力される前に、フィルタ部66で予め所定周期以上の長周期波成分Ldが取り出され、長周期変位算出部68では、フィルタ部66で取り出された長周期波成分Ldに対応する長周期変位Ld0を算出する。長周期変位算出部68で算出された長周期変位Ld0に基づいて、浮体10に発生した長周期変位を低減するために浮体10に加えられるべき旋回力が設定される。フィルタ部66及び長周期変位算出部68を備えることで、浮体10に発生した長周期変位を低減するための旋回力の設定を精度良く行うことができる。
【0026】
フィルタ部66では、長周期波成分Ldとして、例えば、周期が30秒以上のものを取り出す。ただし、長周期波成分Ldを精度良く取り出したいときは、周期が45~75秒の波周期成分を取り出す。なお、短周期波成分を極力排除して長周期波成分Ldのみをさらに精度良く取り出したいときは、周期が55~65秒の波周期成分を取り出すようにする。
【0027】
一実施形態では、フィルタ部66では、ヨー角検出部52で検出されたヨー方向の変位Djに対して高速フーリェ変換を用いた処理を行う。この処理によって、ヨー角検出部52で検出されたヨー方向の変位Djは、長周期波成分と短周期波成分とが明確に識別されるようになるため、ヨー方向の変位Djからの長周期波成分Ldの取り出しが容易になる。
【0028】
一実施形態では、
図3に示されているように、ヨー角制御部56は、ヨー角検出部52で検出したヨー方向の変位Djから取り出された長周期変位が目標変位Dtに近づくようにヨー角抑制機構54を作動させるフィードバック制御を行うように構成されている。ヨー角制御部56によって、ヨー角検出部52で検出したヨー方向の変位Djから取り出された長周期変位が目標変位Dtに近づくようにフィードバック制御が行われるため、浮体10に発生した長周期変位を目標変位Dtへ迅速に収束させることができる。
【0029】
図3に例示されている実施形態では、長周期変位算出部68で算出された長周期変位Ld
0が比較器64に入力される。比較器64では、目標変位Dtと長周期変位Ld
0との差分Δが出力される。ヨー角制御部56は、差分Δがゼロに近づくようにヨー角抑制機構54の作動を制御する。
【0030】
図4は、
図3に示されているヨー角制御部56の制御ステップを示すフロー図である。
図4において、ヨー角検出部52が浮体10に発生したヨー方向の変位Djを検出すると(ステップS10)、フィルタ部66では、ヨー方向の変位Djから長周期波成分Ldを取り出すフィルタリングが行われる(ステップS12)。次に、長周期変位算出部68では、後述するステップS16で目標変位Dtと比較するための長周期変位として、長周期波成分Ldに対応する長周期変位Ld
0を算出する(ステップS14)。算出された長周期変位Ld
0は比較器64に入力され、目標変位Dtと比較される(ステップS16)。そして、比較器64から、目標変位Dtと長周期変位Ld
0との差分Δが出力され、ヨー角制御部56は、差分Δがゼロとなるように、ヨー角抑制機構54が浮体10に発生した長周期変位が低減する旋回力Tを浮体10に加えるように、ヨー角抑制機構54の作動を制御する。
【0031】
ヨー角制御部56による制御方法の一例として、例えば、
図10において、目標変位Dtを±3度と設定したときを例に取ると、長周期変位算出部68で算出した長周期変位Ld
0が+5度であるとき、ヨー角制御部56は、長周期変位Ld
0が+3度に近づくように、ヨー角抑制機構54を制御する。長周期変位算出部68で算出した長周期変位Ld
0が-5度であるとき、ヨー角制御部56は、長周期変位Ld
0が-3度に近づくように、ヨー角抑制機構54を制御する。
【0032】
図3及び
図4に例示されている実施形態によれば、ヨー角制御部56は、ヨー角検出部52で検出したヨー方向の変位Djからフィルタ部66で長周期波成分Ldを取り出し、さらに、長周期変位算出部68で長周期波成分Ldに対応して算出された長周期変位Ld
0が目標変位Dtに近づくようにフィードバック制御を行うため、浮体10に発生するヨー方向の長周期変位を目標変位Dtに近づける制御を迅速に行うことができる。
【0033】
図5は、別な実施形態に係るヨー角制御部56のブロック線図であり、具体的には、ヨー角制御部56が、フィードバック制御としてPID制御を行う場合の実施形態である。
図5において、P制御(比例制御)は、目標変位Dtと長周期変位Ld
0との差分Δに比例ゲインKpを乗算したものを加算器70に出力する。I制御(積分制御)は、差分Δを時間で積分することで、P制御では埋めることができない目標変位Dtと長周期変位Ld
0との偏差を埋めるために、差分Δを積分ゲインKiで処理した出力値を加算器70に出力する。D制御(微分制御)は、オーバシュートが発生しないように、差分Δを微分ゲインKdで処理した負成分の出力値を加算器70に出力する。これらの処理によって、ヨー角制御部56は、浮体10に発生した長周期変位を迅速にかつ安定して目標変位Dtに近づけることができる。
【0034】
(第1の実施形態に係るヨー角抑制機構)
図2に図示されている実施形態では、浮体10に対して夫々異なる方向に係留力Fmを発揮する6本の係留索20(20a~20f)が設けられている。係留索20a、20c及び20fは、夫々浮体10に対して浮体10の重心Gを中心とする負(-)方向の旋回力Tに抗する係留力Fmを加えることができ、係留索20b、20d及び20eは、夫々浮体10に対して浮体10の重心Gを中心とする負方向とは反対方向の正(+)方向の旋回力Tに抗する係留力Fmを加えることができる。
【0035】
一実施形態に係るヨー角抑制機構54aは、係留索20a(第2係留索)と浮体10との接続部に設けられた油圧シリンダ72a(第2油圧シリンダ)と、係留索20b(第1係留索)と浮体10との接続部に設けられた油圧シリンダ72b(第1油圧シリンダ)と、を備えている。油圧シリンダ72a及び72bは、該接続部において夫々浮体10に対して係留力Fmが加わる方向にピストンが摺動可能に配置されている。即ち、油圧シリンダ72a及び72bは、夫々係留力Fmが加わる方向に沿って伸縮可能に配置されている。ヨー角抑制機構54aは、油圧シリンダ72a及び72bの各々の2つの油室に給排する作動油給排部74を備えている。ヨー角制御部56は、浮体10に発生するヨー方向の変位に合わせて、作動油給排部74が油圧シリンダ72a及び72bの2つの油室に作動油を給排するタイミングを制御するように構成されている。
【0036】
なお、油圧シリンダ72a及び72bは、浮体10と係留索20a又は20bとの接続部において、浮体10の水中又は水上に位置する部位の内部に収納されるように配置されてもよい。別な実施形態では、油圧シリンダ72a及び72bは、浮体10と係留索20との接続部ではなく、係留索20の長手方向の所定の位置に設けられてもよい。
また、作動油給排部74は第2コラム14a及び14bの内部に設けることができる。
【0037】
本実施形態では、ヨー角制御部56によって、浮体10に発生するヨー方向の変位に合わせて油圧シリンダ72a及び72bの動作を制御することで、浮体10のヨー方向の変位を低減できる。例えば、浮体10に正方向のヨー方向の変位が発生した時に、該変位が発生するタイミングに合わせて油圧シリンダ72bを伸長させることで、係留索20bに加わる係留力Fmの増大を抑制しつつ、正方向のヨー方向の変位を抑制することができる。逆に、浮体10に負方向のヨー方向の変位が発生した時に、該変位が発生するタイミングに合わせて油圧シリンダ72aを伸長させることで、係留索20aに加わる係留力Fmの増大を抑制しつつ、負方向のヨー方向の変位を抑制することができる。
【0038】
このように、本実施形態によれば、油圧シリンダ72a及び72bを備えるだけの簡素な構成で、浮体10に正負両方向のヨー方向の変位を低減可能な旋回力を付加できる。
【0039】
なお、
図2において、係留索20a及び20bではなく、係留索20c及び20d又は係留索20e及び20fに油圧シリンダを設けるようにしてもよい。ただし、浮体10に加わる旋回力Tの大きさは、油圧シリンダ72a及び72bを例に取る場合、平面視で、重心Gを通る中心線O上において、係留索20aから油圧シリンダ72aを介して又は係留索20bから油圧シリンダ72bを介して浮体10に加わる係留力Fmの方向に沿う直線L
1と重心Gとの距離Dと係留力Fmとの積で決まるため、距離Dを大きく取ることができる係留索20a及び20bに油圧シリンダを設けることが好ましい。
【0040】
さらに、別な実施形態では、係留索20a~20fのすべてに油圧シリンダを設けるようにしてもよい。これによって、浮体10に加える正負両方向の旋回力を最大にでき、かつ各油圧シリンダの作動を夫々独自に調整することで、浮体10に発生するヨー方向の変位を精度良く低減できる旋回力Tを発生できる。
【0041】
(第2の実施形態に係るヨー角抑制機構)
図6は、ヨー角抑制機構54の別な実施形態を備える浮体10の平面図である。なお、
図6及び後述する
図7A及び
図8Aでは、係留索20の図示は省略されている。
この実施形態では、ヨー角抑制機構54bは、水流噴射口が水面より上方の浮体10に設けられ、浮体10に発生する長周期変位を低減する方向に水流を噴射可能な少なくとも1つのウォータジェット推進器76を備えている。ヨー角制御部56は、浮体10にヨー方向の長周期変位が発生するタイミングに合わせて、ウォータジェット推進器76の水流噴射口から噴射される水流の噴射量及び噴射方向を制御する。
【0042】
本実施形態によれば、ヨー角抑制機構54bは、少なくとも1つのウォータジェット推進器76を備えるだけの簡素な構成が可能になる。即ち、1個のウォータジェット推進器76の水流噴射口の向きを正負両方向の旋回力が可能なように可変とすることにより、1個のウォータジェット推進器76により、浮体10に正負両方向のヨー方向の変位を低減可能な旋回力を付加できる。
【0043】
図6に例示されている実施形態では、水流噴射口が水面より上方に位置するようにロワーハル16aの先端部にウォータジェット推進器76aが設けられ、かつ水流噴射口が水面より上方に位置するようにロワーハル16bの先端部にウォータジェット推進器76bが設けられている。図中、矢印a及び矢印bは、ウォータジェット推進器76a又は76bの水流噴射口から噴射される水流の噴射方向を示している。ウォータジェット推進器76aの水流噴射口から噴射される水流の噴射方向aと、ウォータジェット推進器76bの水流噴射口から噴射される水流の噴射方向bとは、平面視で互いに正負の方向となるように構成されている。水流の噴射方向が互いに正負の方向である2個のウォータジェット推進器76a及び76bを備えているため、浮体10に発生する正負両方向のヨー角変位を低減可能な旋回力を付加できる。
【0044】
なお、
図6において、ウォータジェット推進器76a又は76bの水流噴射口の水流噴射方向は、重心Gとウォータジェット推進器76a又は76bが設置された位置とを結ぶ直線L
2に対して直交する方向にすることで、旋回力を増大できる。
【0045】
図6に例示されている実施形態では、一対のウォータジェット推進器76a及び76bを設けているが、別な実施形態では、水流噴射口の方向をa方向及びb方向を含む方向に変更可能な1個のウォータジェット推進器を設けるようにしてもよい。
【0046】
(第3の実施形態に係るヨー角抑制機構)
図7Aは、ヨー角抑制機構54のさらに別な実施形態を備える浮体10の平面図である。
図7Bは、
図7Aに図示されたヨー角抑制機構の一部を拡大した斜視図であり、浮体10の第2コラム14b付近の斜視図である。
【0047】
この実施形態に係るヨー角抑制機構54cは、水面Swより上方の浮体10に設けられ、翼形状の横断面を有する少なくとも1つのフィン78と、垂直方向に沿って配置され、フィン78を回動可能に支持する回動軸80と、フィン78を回動軸80を中心に回動させるフィン駆動部82と、を有する。フィン78は横断面(回動軸80と直交する方向の断面)が翼形状の断面を有するため、風Wがフィン78に当たると、翼弦(フィン78の前縁と後縁とを結ぶ線分)に対して直交し、背面方向へ向かう揚力Cが発生する。ヨー角制御部56は、フィン駆動部82の作動を制御してフィン78の向きを調整し、揚力Cが浮体10に発生したヨー方向の長周期変位を低減する方向へ発生するように構成されている。このようにヨー角制御部56がフィン駆動部82の作動を制御することによって、浮体10に発生したヨー方向の長周期変位を低減する旋回力Tを浮体10に加えることができる。
【0048】
本実施形態によれば、ヨー角抑制機構54cは、少なくとも1つのフィン78及びフィン78の向きを調整可能なフィン駆動部82を備えるだけの簡素な構成が可能になる。また、風Wの向きに対応してフィン78の向きを変えるだけで、フィン78に発生する揚力Cの向きを変えることができるため、1個のフィン78で浮体10に発生するヨー方向の正負両方向の長周期変位を低減可能な旋回力Tを浮体10に付加できる。
【0049】
図7Aに例示されている実施形態では、フィン78aは第2コラム14aの頂面に設けられ、フィン78bは第2コラム14bの頂面に設けられている。これによって、前述のように定義した距離Dを大きく取れるので、浮体10に加えるヨー方向の旋回力を大きくすることができる。また、フィン78a及び78bの各々の向きを独立して変えることができるように構成すれば、浮体10に発生する長周期変位をさらに効率良く低減できる。
【0050】
また、
図7Aに例示されている実施形態では、2個のフィン78a及び78bが設けられているが、1個のフィンをフィン駆動部82によって360度任意の角度に回転可能となるように構成すれば、1個のフィンで浮体10に正負両方向の旋回力Tを加えることができる揚力Cを発生できる。
【0051】
(第4の実施形態に係るヨー角抑制機構)
図8Aは、ヨー角抑制機構54のさらに別な実施形態を備える浮体10の平面図である。
図8Bは、
図8Aに図示されたヨー角抑制機構の一部を拡大した斜視図であり、浮体10の第2コラム14b付近の斜視図である。
この実施形態に係るヨー角抑制機構54dは、水面Swより上方の浮体10に立設された少なくとも1つのロータセイル84と、ロータセイル84の中心に垂直方向に沿って配置され、ロータセイル84を回転可能に支持する回転軸86と、ロータセイル84を回転軸86を中心に回転させるロータセイル駆動部88と、を有する。
【0052】
ヨー角抑制機構54dは、マグナス効果を利用するもので、風Wの中に置かれたロータセイル84が回転軸86を中心として回転することで、ロータセイル84の横断面上において両側領域に風速が異なる領域が発生し、風速が大きい領域は風速が小さい領域より低圧となるため、高圧域から低圧域に向かって揚力Cが発生する。揚力Cはロータセイル84の回転速度が大きいほど増加する。ヨー角制御部56は、ロータセイル84の回転方向及び回転速度を制御することで、発生する揚力Cの向き及び大きさを制御し、揚力Cによって浮体10に発生した長周期変位を低減する旋回力Tが発生するように構成されている。そのため、ヨー角制御部56dによってロータセイル84の回転方向及び回転速度を制御することで、浮体10の長周期変位を低減する方向に揚力Cを発生させることができる。
【0053】
本実施形態によれば、ヨー角抑制機構54dは、1個のロータセイル84を備えるだけの簡素な構成が可能となり、1個のロータセイル84によって、浮体10に発生するヨー方向の正負両方向の長周期変位を低減可能な旋回力を付与できる。
【0054】
図8Bに例示されているロータセイル84bは、横断面が円形の柱状体で構成されている。そのため、この柱状体に当たる風Wに対する抵抗を少なく抑えることができるため、この柱状体の両側領域の圧力差を大きくすることができる。これによって、発生する揚力Cを増加できる。
なお、ロータセイル84の横断面は円形以外の形状、例えば、楕円形をしていてもよい。
【0055】
図8Aに例示されている実施形態では、ロータセイル84aは第2コラム14aの頂面に設けられ、ロータセイル84bは第2コラム14bの頂面に設けられている。これによって、前述のように定義した距離Dを大きく取れるので、浮体10に加えるヨー方向の旋回力を大きくすることができる。
【0056】
(第5の実施形態に係るヨー角抑制機構)
図9は、ヨー運動低減装置50の別な実施形態を示すブロック線図である。
図1に示されているように、風力発電装置40は、ピッチ角度Apを変更可能な少なくとも1つのブレード46aを備えている。
図9に示されているように、本実施形態に係るヨー角抑制機構54eは、ロータ46の内部にブレード46aのピッチ角度Apを可変とするための、モータや油圧シリンダ等のアクチュエータを備えるピッチ駆動部94を備えている。
【0057】
ヨー角制御部56は、ピッチ駆動部94の作動を制御してブレード46aのピッチ角度Apを調整可能なピッチ調整部92を備えている。即ち、ピッチ調整部92は、浮体10にヨー方向の変位が発生したとき、風Wを受けたブレード46aがヨー方向の変位のうちの長周期変位を低減する方向の旋回力Tを浮体10に加えることが可能なように、ピッチ駆動部94の作動を制御して、ブレード46aのピッチ角度Apを調整する。ヨー角制御部56がこのような制御を行うことで、浮体10に発生する長周期変位を低減する旋回力Tを加えることができる。
【0058】
本実施形態は、風力発電装置40が発電運転中で、ブレード46aのピッチ角度Apが発電可能なピッチ角度Apになっているとき、又はブレード46aが発電を停止したピッチ角度になっているときでも、実行可能である。
【0059】
本実施形態によれば、ピッチ調整部92によって、ブレード46aのピッチ角度Apを調整するだけで、浮体10に発生した長周期変位を低減する方向の旋回力Tを浮体10に加えることができるため、ヨー角抑制機構54eとして動力を必要とする新たな装置を設ける必要がない。従って、ヨー角抑制機構54eを低コスト化できる。
なお、ロータ46が複数のブレード46aを備えている場合、各ブレード46aの回転方向及び回転速度を夫々独立して制御可能と構成することで、浮体10に発生した長周期変位を低減する方向の十分な旋回力Tを精度良く発生させることができる。
【0060】
図9に例示されている実施形態では、ヨー角制御部56には、ヨー角検出部52で検出された長周期成分の検出値と、発生した長周期成分を低減できる旋回力Tとの相関関係について、浮体式風車1の過去の実測データに基づいて取得した相関マップ90が記憶されている。ヨー角検出部52から浮体10に発生したヨー方向の変位の検出値がヨー角制御部56に入力されたとき、ピッチ調整部92は、相関マップ90に基づいてピッチ駆動部94を制御する。これによって、浮体10に発生した長周期変位を自動的に精度良く低減できる。
【0061】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0062】
1)一態様に係る浮体式風車のヨー運動低減装置(50)は、水面(Sw)に浮かぶ浮体(10)と、該浮体(10)に設置された風力発電装置(40)と、該浮体(10)を係留する係留索(20)と、を備えた浮体式風車のヨー運動低減装置であって、前記浮体(10)のヨー角の基準位置に対するヨー方向の変位(Dj)を検出するヨー角検出部(52)と、前記浮体(10)にヨー方向の旋回力(T)を加えることが可能なヨー角抑制機構(54)と、前記ヨー角検出部(52)で検出される前記ヨー方向の変位(Dj)のうちの長周期変位を低減する方向の前記旋回力(T)を前記浮体(10)に加えるように、前記ヨー角抑制機構(54)を制御するように構成されたヨー角制御部(56)と、を備える。
【0063】
上記構成によれば、ヨー角制御部(56)は、ヨー角検出部(52)で検出した浮体(10)のヨー方向の変位のうちの長周期変位を低減する方向の旋回力(T)を浮体(10)に加えるように、ヨー角抑制機構(54)の作動を制御することで、浮体(10)に加わるヨー方向の長周期変位を低減できる。これによって、ロータ(46)の向きを発電効率上風向きに対して最適な角度に維持できるため、発電量の低下を抑制できると共に、浮体式風車(1)を構成する構造物の疲労寿命が低下するのを抑制でき、かつ暴風時などで係留索(20)に加わる最大係留力の増加を抑制できる。
【0064】
2)別な一態様に係る浮体式風車のヨー運動低減装置(50)は、1)に記載の浮体式風車のヨー運動低減装置であって、前記ヨー角制御部(56)は、前記ヨー角検出部(52)で検出される前記ヨー方向の変位(Dj)の時系列変化で表される波形パターンのうち、所定周期以上の長周期波成分(Ld)を取り出すように構成されたフィルタ部(66)と、前記フィルタ部(66)によって取り出された前記長周期波成分(Ld)に対応する前記長周期変位(Ld0)を算出する長周期変位算出部(68)と、を含む。
【0065】
ヨー角検出部(52)で検出されたヨー方向の変位(Dj)が上記長周期変位算出部(68)に入力される前に、上記フィルタ部(66)で予め所定周期以上の長周期波成分(Ld0)を取り出して長周期変位算出部(68)に入力する。長周期変位算出部(68)では、フィルタ部(66)が取り出した長周期波成分(Ld)に対応して長周期変位(Ld0)を算出する。こうして算出された長周期変位(Ld0)に基づいて、浮体(10)に発生した長周期変位を低減するために浮体(10)に加えられるべき旋回力(T)が設定される。上記構成によれば、フィルタ部(66)及び長周期変位算出部(68)を備えるため、浮体(10)に発生した長周期変位を低減するための旋回力(T)の設定を精度良く行うことができる。
【0066】
3)さらに別な態様に係る浮体式風車のヨー運動低減装置は、1)又は2)に記載の浮体式風車のヨー運動低減装置であって、前記ヨー角制御部(56)は、前記長周期変位が目標変位(Dt)に近づくように前記ヨー角抑制機構(54)を作動させるフィードバック制御を行うように構成されている。
【0067】
このような構成によれば、ヨー角制御部(56)は、ヨー角検出部(52)で検出したヨー方向の変位(Dj)に含まれる長周期変位が目標変位(Dt)に近づくようにフィードバック制御を行うため、浮体(10)に発生した長周期変位(Ld0)を目標変位(Dt)へ迅速に収束させることができる。
【0068】
4)さらに別な態様に係る浮体式風車のヨー運動低減装置(50)は、1)乃至3)のいずれかに記載の浮体式風車のヨー運動低減装置であって、前記係留索(20)は、前記浮体(10)に対して正方向の前記ヨー方向の変位(Dj)に抗する係留力(Fm)を付加可能な第1係留索(20b)と、前記浮体(10)に対して前記正方向と逆方向の負方向の前記ヨー方向の変位(Dj)に抗する係留力(Fm)を付加可能な第2係留索(20a)と、を含み、前記ヨー角抑制機構(54a)は、前記第1係留索(20b)又は前記第1係留索(20b)と前記浮体(10)との接続部に設けられた第1油圧シリンダ(72b)と、前記第2係留索(20a)又は前記第2係留索(20a)と前記浮体(10)との接続部に設けられた第2油圧シリンダ(72a)と、を含む。
【0069】
このような構成によれば、ヨー角抑制機構(54a)は、第1油圧シリンダ(72b)及び第2油圧シリンダ(72a)を備えるだけの簡素な構成が可能となる。これら油圧シリンダを作動させることで、浮体(10)に発生する正負両方向のヨー方向変位を低減可能な旋回力(T)を付加できる。
【0070】
5)さらに別な態様に係る浮体式風車のヨー運動低減装置(50)は、1)乃至3)のいずれかに記載の浮体式風車のヨー運動低減装置であって、前記ヨー角抑制機構(54b)は、水流噴射口が水面(Sw)より上方の前記浮体(10)に設けられ、前記長周期変位を低減する方向に水流を噴射可能な少なくとも1つのウォータジェット推進器(76)を含む。
【0071】
このような構成によれば、ヨー角抑制機構(54b)は、少なくとも1つのウォータジェット推進器(76)を備えるだけの簡素な構成が可能になる。即ち、1つのウォータジェット推進器(76)の水流噴射口の向きを正負両方向に可変とすることにより、1つのウォータジェット推進器(76)により、浮体(10)に正負両方向のヨー方向変位を低減可能な旋回力(T)を付加できる。
【0072】
6)さらに別な態様に係る浮体式風車のヨー運動低減装置(50)は、1)乃至3)のいずれかに記載の浮体式風車のヨー運動低減装置であって、前記ヨー角抑制機構(54c)は、水面(Sw)より上方の前記浮体(10)に設けられ、翼形状の横断面を有する少なくとも1つのフィン(78)と、前記フィン(78)を軸中心に回動させるフィン駆動部(82)と、を含む。
【0073】
風(W)が翼形状の横断面を有するフィン(78)を通過すると、フィン(78)の背面側と腹面側とで圧力差が発生し、フィン(78)の翼弦に対して直交し、低圧となる背面側に向かう揚力(C)が発生する。
上記構成によれば、ヨー角抑制機構(54c)は、少なくとも1つの上記フィン(78)を備えるだけの簡素な構成が可能になる。即ち、上記フィン駆動部(82)によって1つのフィン(78)の向きを変えるだけで、フィン(78)に発生する揚力(C)の向きを変えることができる。これによって、浮体(10)に発生するヨー方向の正負両方向の長周期変位を低減可能な旋回力(T)を付加できる。
【0074】
7)さらに別な態様に係る浮体式風車のヨー運動低減装置(50)は、1)乃至3)のいずれかに記載の浮体式風車のヨー運動低減装置であって、前記ヨー角抑制機構(54d)は、前記水面(Sw)より上方の前記浮体(10)に軸中心に回転可能に立設された少なくとも1つのロータセイル(84)と、前記ロータセイル(84)を軸中心に回転させるロータセイル駆動部(88)と、を含む。
【0075】
上記ロータセイル(84)を軸中心に回転させることで、ロータセイル(84)の横断面上においてロータセイル(84)の一方側領域と他方側領域とで圧力差が生じ、ロータセイル(84)に対して低圧力側へ向かう揚力(C)が発生する。
上記構成によれば、ヨー角抑制機構(54d)は、少なくとも1つのロータセイル(84)を備えるだけの簡素な構成が可能になる。即ち、上記ロータセイル駆動部(88)によって1つのロータセイル(84)の回転速度及び回転方向を変えるだけで、ロータセイル(84)に発生する揚力(C)の向きを変えることができる。これによって、浮体(10)に発生するヨー方向の正負両方向の長周期変位を低減可能な旋回力を付加できる。
【0076】
8)さらに別な態様に係る浮体式風車のヨー運動低減装置(50)は、1)乃至3)のいずれかに記載の浮体式風車のヨー運動低減装置であって、前記風力発電装置(40)は、ピッチ角度(Ap)が変更可能な少なくとも1つのブレード(46a)を含み、前記ヨー角抑制機構(54e)は、前記ブレード(46a)のピッチ角度(Ap)を変更可能なピッチ駆動部(94)を含み、前記ヨー角制御部(56)は、風(W)を受けた前記ブレード(46a)が前記浮体(10)に前記旋回力(T)を加えることが可能なように前記ブレード(46a)のピッチ角度(Ap)を調整するピッチ調整部(92)を含む。
【0077】
このような構成によれば、上記ピッチ調整部(92)によって、ブレード(46a)のピッチ角度(Ap)を調整するだけで、浮体(10)に発生した長周期変位を低減する方向の旋回力(T)を浮体(10)に加えることができる。そのため、ヨー運動低減装置(50)として動力を必要とする新たな装置を設ける必要がなく、ヨー運動低減装置(50)を低コスト化できる。
【符号の説明】
【0078】
1 浮体式風車
10 浮体
12 第1コラム
14a、14b 第2コラム
16a、16b ロワーハル
18 梁部材
20(20a、20b、20c、20d、20e、20f) 係留索
22 空洞部
40 風力発電装置
42 ナセル
44 タワー
46 ロータ
46a ブレード
50 ヨー運動低減装置
52 ヨー角検出部
54(54a、54b、54c、54d、54e) ヨー角抑制機構
56 ヨー角制御部
58 方位センサ
60 GPS衛星
62 処理部
64 比較器
66 フィルタ部
68 長周期変位算出部
70 加算器
72a 油圧シリンダ(第2油圧シリンダ)
72b 油圧シリンダ(第1油圧シリンダ)
74 作動油給排部
76(76a、76b) ウォータジェット推進器
78(78a、78b) フィン
80 回動軸
82 フィン駆動部
84(84a、84b) ロータセイル
86 回転軸
88 ロータセイル駆動部
90 相関マップ
92 ピッチ調整部
94 ピッチ駆動部
Ap ピッチ角度
C 揚力
D 距離
Dj ヨー方向の変位
Dt 目標変位
Fm 係留力
Kd 比例ゲイン
Ki 積分ゲイン
Kp 微分ゲイン
L1、L2 直線
Ld 長周期波成分
Ld0 長周期変位
Sw 水面
T 旋回力
W 風