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特開2024-65176加工プログラムの補正方法および情報処理プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065176
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】加工プログラムの補正方法および情報処理プログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/4093 20060101AFI20240508BHJP
   G05B 19/4097 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
G05B19/4093 H
G05B19/4097 C
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173918
(22)【出願日】2022-10-31
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】000146847
【氏名又は名称】DMG森精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002273
【氏名又は名称】弁理士法人インターブレイン
(72)【発明者】
【氏名】神藤 建太
【テーマコード(参考)】
3C269
【Fターム(参考)】
3C269AB05
3C269AB31
3C269BB03
3C269CC02
3C269CC07
3C269CC15
3C269EF02
3C269EF39
3C269EF71
3C269GG01
3C269JJ09
3C269JJ10
3C269JJ18
3C269JJ19
3C269JJ20
3C269MN08
3C269MN09
3C269MN14
3C269MN16
3C269MN42
3C269MN46
3C269QB02
3C269QB03
(57)【要約】
【課題】工作機械における上記に起因する加工品質の低下を抑制する。
【解決手段】加工プログラムの補正方法は、目標形状を示す目標形状情報を取得するステップと、ワークを加工する際の工具経路を含む加工情報を取得するステップと、目標形状情報と加工情報に基づいて加工プログラムを生成するステップと、加工プログラムを実行して加工された加工物の形状を計測し、加工物の計測形状を示す計測形状情報を取得するステップと、計測形状情報と目標形状情報との差分である形状誤差に基づき、加工プログラムを補正するステップと、を備える。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標形状を示す目標形状情報を取得するステップと、
ワークを加工する際の工具経路を含む加工情報を取得するステップと、
前記目標形状情報と前記加工情報に基づいて加工プログラムを生成するステップと、
前記加工プログラムを実行して加工された加工物の形状を計測し、前記加工物の計測形状を示す計測形状情報を取得するステップと、
前記計測形状情報と前記目標形状情報との差分である形状誤差に基づき、前記加工プログラムを補正するステップと、
を備える、加工プログラムの補正方法。
【請求項2】
前記工具経路は、工具が通過する複数の指令点からなり、
前記加工プログラムを生成するステップは、前記工具が切削点にて前記目標形状に接するように位置が設定された前記指令点に基づいて前記加工プログラムを生成し、
前記加工プログラムを補正するステップは、前記目標形状の基準点と前記計測形状の基準点とを前記工具経路の加工基準点に一致させた状態において、前記目標形状における切削点と前記計測形状における計測点との誤差を算出し、その誤差に基づいて前記指令点の位置を補正する、請求項1に記載の加工プログラムの補正方法。
【請求項3】
ワークを目標形状に加工するための加工プログラムを補正する情報処理プログラムであって、
目標形状を示す目標形状情報を取得する機能と、
ワークを加工する際の工具経路を含む加工情報を取得する機能と、
前記目標形状情報および前記加工情報に基づいて加工プログラムを生成する機能と、
前記加工プログラムを実行して加工された加工物の形状を計測し、前記加工物の計測形状を示す計測形状情報を取得する機能と、
前記計測形状情報と前記目標形状情報との差分である形状誤差に基づき、前記加工プログラムを補正する機能と、
を備える、情報処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械で用いられる加工プログラムを補正する情報処理に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械として、例えば直交する3つの直線軸(X軸,Y軸,Z軸)と2つの回転軸(B軸,C軸)を有する5軸加工機が知られている。B軸の回転が主軸を傾動させ、C軸の回転がワークを回転させる。このような工作機械は、数値制御装置が加工プログラム(NCプログラム)を実行することで5軸を制御し、工具の先端点位置および姿勢を変化させながらワークを所望形状に加工する。加工プログラムが実行されると、この先端点位置が制御指令として出力されるため、以下ではこの先端点を「指令点」ともいう。
【0003】
加工プログラムは、コンピュータ支援設計(CAD)およびコンピュータ支援製造(CAM)を経て得られる工具位置データ(Cutter Location Data:以下「CLデータ」という)に基づいて生成される。すなわち、CAD/CAM装置はCADデータに基づき、工具経路と工具姿勢を含むCLデータを生成する。指令点をつなぐ経路が「工具経路」となる。ポストプロセッサは、そのCLデータに基づいて加工プログラムを生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-70953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このように生成された加工プログラムを実行して加工を行っても、工具の摩耗など種々の要因により、CADで作成した目標形状と実際に加工された形状(「実形状」ともいう)との間に誤差が生じ、加工品質が低下する可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は加工プログラムの補正方法である。この補正方法は、目標形状を示す目標形状情報を取得するステップと、ワークを加工する際の工具経路を含む加工情報を取得するステップと、目標形状情報と加工情報に基づいて加工プログラムを生成するステップと、加工プログラムを実行して加工された加工物の形状を計測し、加工物の計測形状を示す計測形状情報を取得するステップと、計測形状情報と目標形状情報との差分である形状誤差に基づき、加工プログラムを補正するステップと、を備える。
【0007】
本発明の別の態様は、ワークを目標形状に加工するための加工プログラムを補正する情報処理プログラムである。この情報処理プログラムは、目標形状を示す目標形状情報を取得する機能と、ワークを加工する際の工具経路を含む加工情報を取得する機能と、目標形状情報と加工情報に基づいて加工プログラムを生成する機能と、加工プログラムを実行して加工された加工物の形状を計測し、加工物の計測形状を示す計測形状情報を取得する機能と、計測形状情報と目標形状情報との差分である形状誤差に基づき、加工プログラムを補正する機能と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、工作機械における上記に起因する加工品質の低下を抑制可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る工作機械の概略構成を表す模式図である。
図2】工作機械のハードウェア構成図である。
図3】情報処理装置の機能ブロック図である。
図4】加工プログラムの補正方法を模式的に表す図である。
図5】加工プログラムの補正方法を模式的に表す図である。
図6】加工プログラムの補正方法を模式的に表す図である。
図7】加工プログラムの補正方法を模式的に表す図である。
図8】加工プログラム生成処理を表すフローチャートである。
図9図8のS20の指令点補正処理を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態について説明する。
図1は、実施形態に係る工作機械の概略構成を表す模式図である。なおここでは、工作機械1を正面からみて左右方向,前後方向,上下方向を、それぞれX軸方向,Y軸方向,Z軸方向とする。
【0011】
工作機械1は、5軸制御マシニングセンタであり、直交する3つの直線軸(X軸,Y軸,Z軸)と、2つの回転軸(B軸,C軸)を有する加工装置2を備える。これら5軸が、後述の数値制御装置により同時制御されることにより工具を指令点に沿って移動させ、また工具姿勢を変化させながら各種加工が実行される。
【0012】
加工装置2は、主軸10を支持する主軸頭12と、ワークWを支持するテーブル14を備える。主軸頭12がB軸を有し、そのB軸を中心に主軸10を回動可能(傾動可能)に支持する。主軸10は、工具Tを同軸状に支持する。工具Tは、例えばエンドミル等である。主軸頭12には、主軸10を軸線周りに回転駆動するためのスピンドルモータと、B軸を中心に主軸10を回動させるためのサーボモータが設けられている。主軸の回動により工具TのZ軸方向に対する傾斜角度が変化する。
【0013】
主軸10の回動により、ワークWに対する工具Tの傾斜角度が変化する。主軸頭12は、また、複数のサーボモータによりそれぞれ3軸方向に駆動される。主軸10は、主軸頭12が駆動されることによりX軸、Y軸およびZ軸方向に移動自在である。
【0014】
テーブル14には、図示略の治具を介してワークWが固定される。テーブル14の軸線に沿ってC軸が設けられる。テーブル14は、図示しないサーボモータによりC軸を中心に回転駆動される。すなわち、以上の構成により、ワークWと工具Tとの相対位置を三次元的に調整できる。
【0015】
図2は、工作機械1のハードウェア構成図である。
工作機械1は、操作制御装置50、数値制御装置52、加工装置2、工具交換部54、工具格納部56および形状計測部58を含む。数値制御装置52は、手動又は自動で生成された加工プログラム(NCプログラム)にしたがって加工装置2に制御信号を送信する。加工装置2は、数値制御装置52からの指示にしたがって主軸10およびテーブル14を駆動してワークWを加工する。
【0016】
操作制御装置50は、オペレータにユーザインタフェース機能を提供する操作盤を含む。オペレータは操作制御装置50を介して数値制御装置52を制御する。工具格納部56は工具を格納する。工具交換部54は、いわゆるATC(Automatic Tool Changer)に対応する。工具交換部54は、数値制御装置52からの交換指示にしたがって、工具格納部56から工具を取り出し、主軸10にある工具と取り出した工具を交換する。
【0017】
数値制御装置52には情報処理装置100が接続される。情報処理装置100は、図示略のCAD/CAM装置から取得したCLデータに基づいて加工プログラムを生成し、数値制御装置52へ出力する。数値制御装置52は、その加工プログラムを実行して加工装置2を制御する。情報処理装置100は、操作制御装置50の一部として構成されてもよい。情報処理装置100は、一般的なラップトップPC(Personal Computer)あるいはタブレット・コンピュータであってもよい。
【0018】
形状計測部58は、加工装置2によるワークWの加工により得られた加工物の形状を計測する。形状計測部58は、カメラ等の撮像装置、レーザ変位計、タッチプローブ等によりワークWの外形状を検出可能な装置であるが、形状検出そのものは公知の技術を採用できるため、その詳細な説明については省略する。形状計測部58は、情報処理装置100の指令に基づいて加工物の形状を検出し、その検出情報を出力する。
【0019】
本実施形態では、情報処理装置100がポストプロセッサとして機能する。情報処理装置100は、CAD/CAM装置から取得したCLデータに基づいて加工プログラム(第1加工プログラム)を生成した後、その第1加工プログラムによるテスト加工を数値制御装置52に指示する。情報処理装置100は、そのテスト加工で得られた加工物の計測形状情報と、CADデータが示す目標形状情報との差分である形状誤差に基づいて第1加工プログラムを補正し、正規の加工プログラム(第2加工プログラム)として生成する。以下、その詳細について説明する。
【0020】
図3は、情報処理装置100の機能ブロック図である。
情報処理装置100の各構成要素は、CPU(Central Processing Unit)および各種コンピュータプロセッサなどの演算器、メモリやストレージといった記憶装置、それらを連結する有線または無線の通信線を含むハードウェアと、記憶装置に格納され、演算器に処理命令を供給するソフトウェアによって実現される。コンピュータプログラムは、デバイスドライバ、オペレーティングシステム、それらの上位層に位置する各種アプリケーションプログラム、また、これらのプログラムに共通機能を提供するライブラリによって構成されてもよい。以下に説明する各ブロックは、ハードウェア単位の構成ではなく、機能単位のブロックを示している。
【0021】
なお、操作制御装置50および数値制御装置52も、プロセッサなどの演算器、メモリやストレージといった記憶装置、それらを連結する有線または無線の通信線を含むハードウェアと、記憶装置に格納され演算器に処理命令を供給するソフトウェアにより実現されてもよい。
【0022】
情報処理装置100は、入出力インタフェース部110、データ処理部112およびデータ格納部114を含む。入出力インタフェース部110は、外部装置とのデータのやりとりを含む入出力インタフェースに関する処理を担当する。データ処理部112は、入出力インタフェース部110により取得されたデータおよびデータ格納部114に格納されているデータに基づいて各種処理を実行する。データ処理部112は、入出力インタフェース部110およびデータ格納部114のインタフェースとしても機能する。データ格納部114は、各種プログラムと設定データを格納する。
【0023】
入出力インタフェース部110は、入力部120および出力部122を含む。入力部120は、外部装置から出力された各種情報を取得する。出力部122は、外部装置に向けて各種情報や指令を出力する。
【0024】
入力部120は、目標形状情報取得部124、加工情報取得部126および計測形状情報取得部128を含む。入力部120は、CAD/CAM装置60からワークWの加工に関わる各種情報を取得する。なお、本実施形態では、CAD/CAM装置60がCAD装置とCAM装置の機能を兼ね備えるが、CAD装置とCAM装置とが別個に設けられてもよい。その場合、CAM装置がCAD装置で生成されたCADデータを取得するとともに、経路生成情報(座標系、工具形状,送り速度、主軸回転数等)を取得する。CAM装置は、これらCADデータと経路生成情報に基づいてCLデータを生成する。
【0025】
目標形状情報取得部124は、ワークを加工する際の目標形状を示す目標形状情報をCAD/CAM装置60から取得する。目標形状情報にはCADデータが含まれる。加工情報取得部126は、ワークを加工するための加工情報をCAD/CAM装置60から取得する。加工情報の工具経路はCLデータから取得できる。加工情報の工具情報はCLデータもしくは所定のデータフォーマットのデータから取得できる。加工情報には加工基準点、工具経路および工具情報が含まれる。工具経路は、ワークを加工する際に工具が通過する複数の指令点からなる。工具情報は、加工で使用される工具の形状関連情報(以下「工具形状関連情報」ともいう)を含む。工具形状関連情報は、例えば工具種、CAD図などの工具形状、工具形状を算出できる情報(刃具の全長と直径など)などである。
【0026】
計測形状情報取得部128は、形状計測部58により計測された加工物の形状情報(計測形状情報)を取得する。形状計測部58は、例えば加工物の水平断面(XY平面)に沿った外形のプロフィルを計測する。その計測面を鉛直方向(Z方向)に走査させることにより加工物の三次元形状を計測することができる。
【0027】
データ格納部114は、プログラム格納部130、目標形状記憶部132、加工情報記憶部134、指令点データ記憶部136および計測形状記憶部138を含む。データ格納部114は、データ処理部112が演算処理を行う場合のワーキングエリアとして機能するメモリを含む。
【0028】
プログラム格納部130は、加工プログラムを生成するための情報処理プログラムを格納する。目標形状記憶部132は、目標形状情報取得部124が取得した目標形状情報を記憶する。加工情報記憶部134は、加工情報取得部126が取得した加工情報を記憶する。加工情報における工具経路と工具形状関連情報とは工具番号により紐づけられている。指令点データ記憶部136は、データ処理部112にて算出又は補正される指令点データを一時記憶する(詳細後述)。計測形状記憶部138は、計測形状情報取得部128が取得した計測形状情報を記憶する。
【0029】
データ処理部112は加工プログラム生成部140、テスト加工指示部142、計測指示部144および加工プログラム補正部146を含む。加工プログラム生成部140は、CAD/CAM装置60から取得される情報(CLデータ)に基づいて加工プログラム(第1加工プログラム)を生成する。
【0030】
テスト加工指示部142は、生成された第1加工プログラムと、その第1加工プログラムの実行指示を数値制御装置52へ向けて出力する。つまり、第1加工プログラムの実行によるテスト加工を指示する。数値制御装置52は、その指示を受けて加工装置2によるテスト加工を実行する。計測指示部144は、テスト加工で得られた加工物の形状を計測するよう形状計測部58に指示する。形状計測部58は、その指示を受けて形状計測を実行し、その計測形状情報を情報処理装置100へ出力する。
【0031】
加工プログラム補正部146は、計測形状情報取得部128により取得された計測形状情報と目標形状情報との差分である形状誤差に基づいて第1加工プログラムを補正し、第2加工プログラムを得る。この補正方法の詳細については後述する。
【0032】
出力部122はプログラム出力部129を含む。プログラム出力部129は、生成された加工プログラムを数値制御装置52へ出力する。
【0033】
次に、加工プログラムの補正方法について説明する。
図4図7は、加工プログラムの補正方法を模式的に表す図である。
CAD/CAM装置60では、工具に摩耗等の不良要因がないことを前提にCADデータが示す目標形状に基づいて工具経路(指令点データ)が算出される。ポストプロセッサは、その指令点データを含むCLデータに基づいて加工プログラムを生成する。
【0034】
このため、仮に摩耗等により工具の長さや形状が変化した場合、目標形状と加工される形状(実形状)との間に誤差が生じることがある。そこで本実施形態では、CADデータに基づいて生成された加工プログラム(第1加工プログラム)を用いてテスト加工を行い、そのテスト加工で得られた実形状を計測する。このとき計測された形状を「計測形状」ともいう。この計測形状と目標形状との誤差が小さくなるよう指令点(第1加工プログラムの算出元となる指令点データ)を補正し、補正後の指令点データを含むCLデータに基づいて加工プログラム(第2加工プログラム)を生成する。
【0035】
この補正処理の前提として、目標形状情報取得部124が形状データを取得し、加工情報取得部126が上記加工情報として加工データおよび工具データを取得する。形状データはCADデータに基づくものであり、ワークの加工後の目標形状情報を含む。形状データは目標形状記憶部132に記憶される。指令点データ記憶部136は、目標形状データに基づいて算出され、第1加工プログラムの生成に用いられた指令点データを記憶する。一方、計測形状情報取得部128が、テスト加工で得られた加工物の計測形状データを取得する。この計測形状データは計測形状記憶部138に記憶される。
【0036】
図4に示すように、加工プログラム補正部146は、目標形状と計測形状とを比較し、その形状誤差が小さくなるように指令点を補正する。本実施形態では、目標形状と計測形状とを同一断面ごとに比較する。そのために、計測形状データを加工物の断面ごとの点群データとして取得する。形状計測部58からの計測形状情報がその点群データとして取得されてもよいし、形状計測部58から取得された計測形状情報を加工プログラム補正部146が点群データに変換してもよい。
【0037】
一方、加工プログラム補正部146は、目標形状データについて、計測形状データの点群データ(「計測点群データ」ともいう)に対応する点群データ(「目標点群データ」ともいう)を特定する。目標点群データは、目標形状の外形に沿う切削点の集まりを表すデータである。切削点は指令点に基づいて工具を配置したときにその工具がワークと接触する点に対応する。つまり、切削点と指令点とが対応づけられるため、指令点データから切削点データ(目標点群データに対応)を特定することができる。
【0038】
図5(A)は、ある断面について目標形状と計測形状とを比較した例を示す。図中の二点鎖線が目標形状を示し、その目標形状上の点(角点)が切削点を示す。実線が計測形状を示し、その計測形状上の点(丸点)が計測点を示す。図5(B)は図5(A)のA部拡大図である。この例では、切削点Pnの位置では目標形状と計測形状が一致している。一方、切削点Pn+1の位置では目標形状と計測形状とに正の誤差Δh1があり、加工不足(削り残し)となっている。切削点Pn-1の位置では目標形状と計測形状とに負の誤差Δh2があり、加工超過(削り過ぎ)となっている。
【0039】
このような目標形状と計測形状との比較に際しては、比較対象となる切削点と計測点とが対応すること、つまり目標形状と計測形状とが完全一致する理想状態において同一点となるよう位置合わせする必要がある。そこで本実施形態では、加工データに含まれる加工基準点を基準にこれらの位置合わせをする。
【0040】
図6に示すように、加工データは工具経路および加工基準点の情報を含む。工具経路を構成する各指令点の位置は、予め定める加工基準点(加工原点)を基準に設定されている。加工基準点は、目標形状と工具経路とを合わせるために必要なデータである。加工基準点は工具経路の基準となる点であり、目標形状との関係で予め設定されている。CAD/CAM装置60から出力されるCLデータには複数の工具経路が含まれるが、各工具経路について加工基準点が設けられている。
【0041】
加工プログラム生成部140は、第1加工プログラムの生成に際し、データ格納部114から上記形状データ、加工データおよび工具データを取得する。そして、これらの情報に基づき、まず三次元の仮想空間に目標形状を配置し、その目標形状上に加工基準点を配置する。続いて、その加工基準点をもとに工具経路を配置し、その工具経路上に工具(工具形状)を配置する。
【0042】
加工プログラム補正部146は、計測形状データについて、上記加工基準点に相当する基準点(「位置合わせ基準点」ともいう)を特定する。そして、その位置合わせ基準点を加工基準点に一致させた状態で計測形状と目標形状とを比較する。
【0043】
図7は、指令点データ(工具経路)の補正処理の具体例を示す。ここでは、工具としてエンドミルを用いる場合を示す。図7(A)は工具Tに摩耗がない場合を示し、図7(B)は工具Tが摩耗している場合を示す。図7(C)は指令点の補正方法の一例を示す。
【0044】
工具Tの摩耗がなく理想的な加工がなされる場合、工具Tの切削点Pcが目標形状に設定された加工面Fcと接するようにワークを加工し、目標形状と計測形状とが一致する(図7(A))。そのため、目標形状に沿った加工面品位の高い切削面が得られる。
【0045】
なお、本実施形態では、位置制御の対象となる指令点Ppを工具Tの刃先に設定し、先端中心を基準点Po(仮想基準点)としている。基準点Poから工具半径rの位置に工具Tの先端表面があり、その先端表面における工具Tの軸線L上に指令点Ppがある。工具半径rは、工具Tの横断面の半径である。「切削点Pc」とは、工具径路上の指令点Ppに基づいて工具Tが配置された場合に、工具Tと加工面Fcとが接する点である。図示の例では、基準点Poから加工面Fcに下ろした法線と加工面Fcとが交わる点が「切削点Pc」となっている。
【0046】
一方、工具Tに摩耗が生じたとしても、CAD/CAM装置60で生成されるCLデータには摩耗まで考慮されていない。このため、第1加工プログラムの実行により得られた加工物は、結果的に目標形状とは合わないものとなる。例えば摩耗により工具Tが短くなった分、プログラム上の切削点Pcと実際の切削点(計測点Pc')との間に誤差ΔPが生じることとなる(図7(B))。図示の例では、ワークの表面に削り残りが生じる。
【0047】
このことは、プログラム上の指令点Ppと見かけ上の指令点Pp'(計測点Pc'を切削点と仮定した場合の指令点)との間、およびプログラム上の基準点Poと見かけ上の基準点Po'(計測点Pc'を切削点と仮定した場合の基準点)との間に同様の誤差があることを意味する。そこで、切削点Pcと計測点Pc'との間に誤差ΔPに基づいてプログラム上の切削点Pcを補正する(図7(C))。
【0048】
すなわち、指令点Pp=(Ppx,Ppy,Ppz)、切削点Pc=(Pcx,Pcy,Pcz)、計測点Pc'=(Pcx',Pcy',Pcz')とすると、補正後の指令点Pp'は下記式(1)により得られる。
Pp'=Pp-(Pc'-Pc) ...(1)
【0049】
加工プログラム補正部146は、上記式(1)を用いて指令点Ppを補正する。なお、ここでは工具Tの摩耗により削り残りが生じる例を示したが、削り過ぎが発生する場合には、ベクトル(Pc'-Pc)の符号が逆転するので、上記式(1)をそのまま適用することができる。誤差がない場合には、Pp'=Ppのままとなる。
【0050】
以上のように各指令点Ppの補正が行われた後、加工プログラム補正部146は、補正後の各指令点Pp'を有する工具経路を含むようCLデータを修正し、そのCLデータに基づいて加工プログラム(第2加工プログラム)を生成する。
【0051】
次に、加工プログラム生成処理について具体的に説明する。
図8は、加工プログラム生成処理を表すフローチャートである。図9は、図8のS20の指令点補正処理を表すフローチャートである。以下の「S」は処理ステップを示す。
【0052】
図8に示すように、加工プログラム生成部140は、まず、目標形状記憶部132から目標形状情報を読み出し(S10)、加工情報記憶部134から加工情報を読み出す(S12)。上述のとおり、加工情報には工具経路情報(補正前の工具経路)と工具情報が含まれる。
【0053】
続いて、加工プログラム生成部140は、取得された目標形状上に加工基準点を配置し(S14)、その加工基準点に基づいて工具経路(補正前の各指令点)を配置する(S16)。また、位置合わせ基準点をその加工基準点に合わせるように計測形状(加工物の形状)を配置する(S18)。そして、各指令点を補正するための指令点補正処理を実行する(S20)。
【0054】
図9に示すように、加工プログラム補正部146は、指令点補正処理において、工具経路を構成する各指令点を順次補正する。なお、以下の「n」は補正処理の序数に対応する。加工プログラム補正部146は、nをゼロクリアして処理を開始する(S30)。
【0055】
加工プログラム補正部146は、序数nを更新するとともに(S32)、n番目の指令点Ppnを取得する(S34)。1番目のときには指令点Pp1の位置情報を読み出す。そして、指令点Ppnに対応づけられた切削点Pcnを特定するとともに(S36)、切削点Pcnに対応する計測点Pcn'を特定する(S38)。
【0056】
続いて、加工プログラム補正部146は、計測点Pcn'と切削点Pcnとに基づいて指令点Ppnの補正値を算出する。すなわち、計測点Pcn'と切削点Pcnとの誤差を算出する(S40)。この補正値は、補正のための誤差ベクトル(移動ベクトル)である。そして、その誤差ベクトルを用いて切削点Pcnを補正する(S42)。すなわち、上記式(1)に基づいて指令点Ppn'を設定する。
【0057】
指令点データ記憶部136は、補正後の指令点Ppn'を記憶する。以上の処理を最後の指令点の補正が終了するまで繰り返し実行する(S46のN)。最後の指令点の補正が終了すると(S46のY)、加工プログラム生成部140は、それまで記憶された各指令点Ppn'を補正後の指令点データとして更新する(S48)。
【0058】
図8に戻り、加工プログラム補正部146は、全ての工具経路について指令点データの補正が完了していれば(S22のY)、補正後の指令点データに基づいてCLデータを修正する(S24)。そのCLデータに基づいて加工プログラム(第2加工プログラム)を生成する(S26)。補正が完了していなければ(S22のN)、S12に戻る。
【0059】
以上、実施形態に基づいて情報処理装置100について説明した。
本実施形態によれば、加工プログラムをテスト加工後の加工物の形状と整合するように補正するため、その後の本加工でのワークの加工面品位を高く維持できる。すなわち、工具の摩耗などの種々の要因による目標形状と実形状との誤差を抑制でき、加工品質の低下を抑制できる。
【0060】
[変形例]
上記実施形態では、工具としてエンドミルを例示したが、他のフライス工具、タップ、バイトなど様々な工具についても上記補正方法を適用できることは言うまでもない。
【0061】
上記実施形態では、情報処理装置100がCAD/CAM装置60とは独立してポストプロセッサとして機能する例を示した。変形例においては、加工プログラム生成部140、テスト加工指示部142、計測指示部144および加工プログラム補正部146の各機能がCAD/CAM装置(CAM装置単体でもよい)の機能として組み込まれてもよい。あるいは、数値制御装置の機能として組み込まれてもよい。
【0062】
上記実施形態では、情報処理装置100から数値制御装置52に対してテスト加工を指示する構成を例示した。変形例においては、情報処理装置100からテスト加工の指令は行わず、オペレータの操作に基づいて数値制御装置52がテスト加工を実行し、形状計測部58が加工物の形状計測を実行してもよい。情報処理装置100は、形状計測部58から計測形状データを受信したときに加工プログラムの補正処理を実行してもよい。
【0063】
上記実施形態では述べなかったが、情報処理装置100は、上述した加工プログラムの補正処理を複数回実行してもよい。例えば、計測形状と目標形状との誤差が予め定める基準値以下となるまで補正処理を繰り返してもよい。誤差が基準値以下となったときの指令点データを用いて第2加工プログラムを生成してもよい。
【0064】
上記実施形態では、工作機械として5軸加工機を例示した。すなわち、直線軸がX軸、Y軸およびZ軸の3軸で構成され、回転軸がB軸およびC軸の2軸で構成される例を示した。変形例においては、回転軸がA軸とC軸で構成されてもよい。あるいは、A軸とB軸で構成されてもよい。また、4軸加工機とし、回転軸が1軸(例えばB軸のみ)で構成されてもよい。
【0065】
上記実施形態では、加工装置2として、2つの回転軸の一方(B軸)を中心に工具を回転させ、他方の回転軸(C軸)を中心にテーブルを回転させる構成を例示した。変形例においては、2つの回転軸が主軸側に設けられてもよい。あるいは、2つの回転軸がテーブル側に設けられてもよい。例えば、テーブルが第1部材によりC軸を中心に回転可能に支持され、第1部材が第2部材によりA軸又はB軸を中心に回転可能に支持される構成を採用してもよい。第2部材がA軸を有する場合、第2部材はY軸方向に移動可能に支持されてもよい。第2部材がB軸を有する場合、第2部材はX軸方向に移動可能に支持されてもよい。
【0066】
上記実施形態では述べなかったが、上述した情報処理プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録され、提供されてもよい。
【0067】
なお、本発明は上記実施形態や変形例に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。上記実施形態や変形例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成してもよい。また、上記実施形態や変形例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 工作機械、2 加工装置、10 主軸、52 数値制御装置、58 形状計測部、100 情報処理装置、110 入出力インタフェース部、112 データ処理部、114 データ格納部、120 入力部、122 出力部、124 目標形状情報取得部、126 加工情報取得部、128 計測形状情報取得部、130 プログラム格納部、132 目標形状記憶部、134 加工情報記憶部、136 指令点データ記憶部、138 計測形状記憶部、140 加工プログラム生成部、142 テスト加工指示部、144 計測指示部、146 加工プログラム補正部、Fc 加工面、T 工具、W ワーク。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2023-05-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標形状を示す目標形状情報を取得するステップと、
ワークを加工する際の工具経路および工具情報を含む加工情報を取得するステップと、
前記目標形状情報と前記加工情報に基づいて加工プログラムを生成するステップと、
前記加工プログラムを実行して加工された加工物の形状を計測し、前記加工物の計測形状を示す計測形状情報を取得するステップと、
前記計測形状情報と前記目標形状情報との差分である形状誤差に基づき、前記加工プログラムを補正するステップと、
を備え、
前記加工プログラムを補正するステップは、前記加工物の断面ごとに、前記計測形状情報としての計測点群データと、前記計測点群データと同一断面に対応する前記目標形状情報としての目標点群データとを比較し、前記工具経路および前記工具情報に基づき、前記計測点群データと前記目標点群データとの誤差が小さくなるよう前記加工プログラムを補正する、加工プログラムの補正方法。
【請求項2】
前記工具経路は、工具が通過する複数の指令点からなり、
前記加工プログラムを生成するステップは、前記工具が切削点にて前記目標形状に接するように位置が設定された前記指令点に基づいて前記加工プログラムを生成し、
前記加工プログラムを補正するステップは、前記目標形状の基準点と前記計測形状の基準点とを前記工具経路の加工基準点に一致させた状態において、前記目標形状について前記目標点群データを構成する切削点と前記計測形状について前記計測点群データを構成する計測点との誤差を算出し、その誤差に基づいて前記指令点の位置を補正する、請求項1に記載の加工プログラムの補正方法。
【請求項3】
ワークを目標形状に加工するための加工プログラムを補正する情報処理プログラムであって、
目標形状を示す目標形状情報を取得する機能と、
ワークを加工する際の工具経路および工具情報を含む加工情報を取得する機能と、
前記目標形状情報および前記加工情報に基づいて加工プログラムを生成する機能と、
前記加工プログラムを実行して加工された加工物の形状を計測し、前記加工物の計測形状を示す計測形状情報を取得する機能と、
前記計測形状情報と前記目標形状情報との差分である形状誤差に基づき、前記加工プログラムを補正する機能と、
を備え、
前記加工プログラムを補正する機能は、前記加工物の断面ごとに、前記計測形状情報としての計測点群データと、前記計測点群データと同一断面に対応する前記目標形状情報としての目標点群データとを比較し、前記工具経路および前記工具情報に基づき、前記計測点群データと前記目標点群データとの誤差が小さくなるよう前記加工プログラムを補正する、情報処理プログラム。