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特開2024-6519グルコシノレート含有組成物の製造方法
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  • 特開-グルコシノレート含有組成物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006519
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】グルコシノレート含有組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20240110BHJP
【FI】
A23L33/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022107505
(22)【出願日】2022-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】000104113
【氏名又は名称】カゴメ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】円子 美紗
(72)【発明者】
【氏名】彈塚 康平
【テーマコード(参考)】
4B018
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018MD18
4B018MD53
4B018ME06
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF04
(57)【要約】
【課題】グルコシノレート含有植物からのグルコシノレートの回収率を高めることである

【解決手段】グルコシノレート含有組成物の製造方法を構成するのは、少なくとも、第一
の抽出工程、分離工程及び第二の抽出工程である。第一の抽出工程では、人又は装置によ
って、グルコシノレート含有植物からグルコシノレートが水性溶媒で抽出される。分離工
程では、前記水性溶媒及び前記グルコシノレートは、前記グルコシノレートから分離され
る。第二の抽出は、前記分離後に行われる。第二の抽出では、人又は装置によって、前記
グルコシノレート含有植物からグルコシノレートが水性溶媒で抽出される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコシノレート含有組成物の製造方法であって、それを構成するのは、少なくとも、
以下の工程である:
第一の抽出:グルコシノレート含有植物からグルコシノレートを水性溶媒で抽出し、
分離:前記水性溶媒及び前記グルコシノレートを前記グルコシノレート含有植物から分
離し、
第二の抽出:前記分離後に、前記グルコシノレート含有植物からグルコシノレートを水
性溶媒で抽出する。
【請求項2】
請求項1の製造方法であって、前記第一の抽出における、[A1]水性溶媒の重量と、
[B]グルコシノレート含有植物の重量との関係は、
1/7≦[B]/[A1]≦2/3
である。
【請求項3】
請求項2の製造方法であって、前記第二の抽出におる[A2]水性溶媒の重量と、前記
[B]グルコシノレート含有植物の重量との関係は、
1/6≦[B]/[A2]≦2/3
である。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかの製造方法であって、前記第一の抽出における、[A1]水性
溶媒の重量、及び[B]グルコシノレート含有植物の重量、並びに、前記第二の抽出にお
ける[A2]水性溶媒の重量、及び前記[B]グルコシノレート含有植物の重量との関係
は、
[B]/[A1]≦[B]/[A2]
である。
【請求項5】
請求項1乃至3の何れかの製造方法であって、前記第一の抽出、又は第二の抽出におけ
る抽出時間は、30分以上、かつ、120分以下である。
【請求項6】
請求項1乃至3の何れかの製造方法であって、前記第一の抽出における水性溶媒の温度
は、80℃以上、かつ、100℃以下である。
【請求項7】
請求項1乃至3の何れかの製造方法であって、前記グルコシノレート含有植物は、アブ
ラナ科植物である。
【請求項8】
請求項1乃至3の何れかの製造方法であって、前記植物の形態は、種子である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明が関係するのは、グルコシノレート含有組成物の製造方法である。
【背景技術】
【0002】
アブラナ科植物に特有の成分として含まれるグルコシノレート類は、植物体やヒトの腸
内菌叢が持つミロシナーゼによってイソチオシアネート(化1)に変換された後、体内に
吸収されて多彩な生理作用を示す。特に、ブロッコリースプラウトやブロッコリー種子に
は、スルフォファラングルコシノレート(以下、「SGS」という)が多く含まれる。S
GSから変換されるスルフォラファンの生理作用として、解毒作用、肝機能改善効果、抗
酸化作用等が報告されている。
【0003】
【化1】
【0004】
グルコシノレートから変換されたイソチオシアネート(化1)は、機能性の面から有用
な成分である反面、揮発性のため不安定であり、経時的に消失する。そのため、摂取する
場合は、摂取する直前、又は体内においてイソチオシアネートに変換されることが好まし
い。つまり、飲食品や、その原料となる組成物中では安定性の高いグルコシノレートの状
態であることが好ましい。
【0005】
グルコシノレート類の生理作用に着目し、グルコシノレート類を含有する種々の飲食品
が開発されてきた。具体的には、以下のとおりである。
【0006】
特許文献1が開示するのは、アブラナ科植物由来の搾汁組成物であり、その目的は、グ
ルコシノレート量の増大した搾汁液の製造である。その方法は、特定の加熱条件でケール
を加熱し、搾汁することである。
【0007】
特許文献2が開示するのは、十字花科植物を含む食品の製造方法であり、その目的は、
相当量の第二相誘発ポテンシャルを含有し、インドールグルコシノレートとその分解産物
および甲状腺腫誘発性のヒドロキシブテニルグルコシノレートを無毒性の濃度で含む食品
を提供することである。その方法は、種子の選別、種子の発芽、発芽開始から双葉段階ま
での間に前記新芽を収穫して食品を作成することである。
【0008】
特許文献3が開示するのは、グルコシノレート含有抽出物を製造する方法であって、低
級アルコールもしくはケトン又は低級アルコールもしくはケトンの水性混合物を含む抽出
媒体で抽出することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許5726535号公報
【特許文献2】特開2000-502245号公報
【特許文献3】特表2012-500822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
グルコシノレート含有組成物の製造における課題は、グルコシノレート含有植物からの
グルコシノレートの回収率を高めることである。
【0011】
グルコシノレートを含有する組成物を製造するための一つの方法は、グルコシノレート
含有植物からのグルコシノレートの抽出である。
【0012】
グルコシノレートを抽出後において、グルコシノレート含有植物の中にグルコシノレー
トが残存している場合も多く見られた。特に、本検討を行う過程で、グルコシノレートを
種子から抽出を行う場合は、スプラウト等の発芽後の植物から抽出する場合と比較して、
グルコシノレートの回収率が低下することに発明者らは気付いた。そのため、グルコシノ
レートの抽出方法について、回収率を高めるための、更なる検討の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
当該課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討し発見したのは、(1)グルコシノ
レート含有植物から、グルコシノレートを水性溶媒で抽出を行うと、抽出後の残渣中にグ
ルコシノレートが残存すること、(2)特に、グルコシノレート含有植物の種子から、水
性溶媒で抽出を行うと、乾燥した種子が水分を吸うことで膨潤し、種子の体積が増加する
ため、液部の回収量が少なくなり、抽出後残渣中のグルコシノレート残存量が多くなって
しまうこと、(3)複数回の抽出を行うことで、グルコシノレートの回収率が高まること
、である。さらに、このような抽出において工業生産を行う場合、抽出タンクを用いてバ
ッチ生産を行うことが多いが、タンク容量が一定であるため、回収率のみならず、回収量
も高められることが望ましい。発明者らは(5)グルコシノレート回収量を高める抽出に
は、水性溶媒量とグルコシノレート含有植物量(特に、グルコシノレート含有植物種子量
)のより好ましい比率があることに気付いた。これにより、回収率を高めつつも、回収量
を高めることが可能になる。このような観点から、本発明を定義すると、次のとおりであ
る。
【0014】
グルコシノレート含有組成物の製造方法を構成するのは、少なくとも、第一の抽出工程
、分離工程及び第二の抽出工程である。第一の抽出工程では、人又は装置によって、グル
コシノレート含有植物からグルコシノレートが水性溶媒で抽出される。分離工程では、前
記水性溶媒及び前記グルコシノレートは、前記グルコシノレートから分離される。第二の
抽出は、前記分離後に行われる。第二の抽出では、人又は装置によって、前記グルコシノ
レート含有植物からグルコシノレートが水性溶媒で抽出される。
【0015】
また、本製造方法において、前記第一の抽出における、[A1]水性溶媒の重量に対す
る、[B]グルコシノレート含有植物の種子の重量比率は、1/7以上、かつ2/3以下
であることが好ましい。前記第二の抽出における[A2]水性溶媒の重量に対する、前記
[B]グルコシノレート含有植物の重量の比率、つまり、[B]/[A2]は、1/6以
上、かつ2/3以下であることが好ましい。また、前記第二の抽出における、水性溶媒の
重量に対する、グルコシノレート含有植物の重量の比率、つまり[B]/[A2]と、前
記第一の抽出における水性溶媒の重量に対する、グルコシノレート含有植物の重量の比率
、つまり[B]/[A1]は、等しいことが好ましい。または[B]/[A2]は、「B
」/「A1」よりも、大きいことが好ましい。そして、前記第一の抽出、又は第二の抽出
における、抽出時間は、30分以上、かつ、120分以下であることが好ましい。あわせ
て、前記第一の抽出における、水性溶媒の温度は、80℃以上、かつ、100℃以下であ
ることが好ましい。さらに、前記グルコシノレート含有植物は、アブラナ科植物であるこ
とが好ましく、前記植物の形態は、種子であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明が可能にするのは、グルコシノレート含有植物からの、グルコシノレートの回収
率を高めることである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】グルコシノレート含有組成物の製造方法の流れ図
【発明を実施するための形態】
【0018】
<グルコシノレート含有組成物>
本発明の実施に係るグルコシノレート含有組成物とは、(以下、「本組成物」という。
)組成物であって、グルコシノレートを含有することを特徴とするものである。例示する
と、グルコシノレートを含有する搾汁、グルコシノレートを含有する植物抽出物(エキス
)、グルコシノレートを含有する精製物、並びに、それらの濃縮物、乾燥物、及び粉末、
等である。
【0019】
<グルコシノレート>
グルコシノレート類とは、化2の構造式で示される、グルコースおよびアミノ酸の誘導
体であり、硫黄と窒素を含む有機化合物の一群である。本発明におけるグルコシノレート
は、特に限定されないが、例示すると、スルフォラファングルコシノレート(グルコラフ
ァニンとも呼ばれる)、シニグリン、グルコエルシン、グルコブラシシン、グルコラフェ
ニン、グルコラファサティン、フェネチルグルコシノレート等であり、本発明においては
、特にスルフォラファングルコシノレートであることが好ましい。これらのグルコシノレ
ートのうち1種、又は複数種用いてもよい。
【0020】
【化2】
【0021】
<グルコシノレート含有植物、及びアブラナ科植物>
本発明におけるグルコシノレート含有植物とは、植物であって、グルコシノレートを含
有するものをいう。特に、本発明におけるグルコシノレート含有植物は、アブラナ科植物
であることが好ましい。本発明におけるアブラナ科植物とは、植物であって、アブラナ科
に分類されるものをいう。例示すると、キャベツ、ブロッコリー、ケール、クレソン、コ
マツナ、チンゲンサイ、カイワレダイコン、カリフラワー、ハクサイ、ナバナ、タカナ、
コールラビ、等が含まれる。これらの植物のうち1種、又は複数種用いてもよい。また、
これら植物の部位(花、葉や茎)の全部、又は一部を用いてもよく、その形態は、スプラ
ウトや種子であっても良い。本発明において特に好ましい態様は、ブロッコリースプラウ
ト、又はブロッコリー種子である。種子を使用する場合は、当該種子を砕いてもよいが、
その工程の有無による煩雑さ回避のため、砕かない方が好ましい。
【0022】
植物の搾汁とは、植物を破砕して搾汁し或いは裏ごしして得られる搾汁、これを濃縮し
た濃縮汁、及び、濃縮汁を希釈還元したものを意味する。これらは、さらに他の成分(例
えば、少量の食塩や香辛料、食品添加物等)を含有していてもよい。
【0023】
植物の抽出物とは、植物から溶媒を用い植物に含まれる成分を抽出したもの、及びこれ
を濃縮したものである。
【0024】
<本グルコシノレート含有組成物の製造方法>
本組成物の製造方法(以下、「本製法」という。)を主に構成するのは、第一の抽出工
程、回収工程、第二の抽出工程、加熱工程、濃縮工程、殺菌工程、冷却工程、充填工程で
ある。
【0025】
<第一の抽出(S10)>
第一の抽出の目的は、グルコシノレート含有植物から、グルコシノレートを抽出するこ
とである。グルコシノレート含有植物は、好ましくは、グルコシノレート含有植物の種子
である。グルコシノレート含有植物が、抽出溶媒に浴することで、グルコシノレートが抽
出溶媒に溶け出す。当該抽出溶媒は、水性溶媒である。当該抽出における、[A1]水性
溶媒の重量に対する、[B]グルコシノレート含有植物の重量の比率、つまり[B]/[
A1]は、特に限定されない。抽出量向上の観点から、当該比率の上限値は、2/3であ
り、好ましくは、1/2、より好ましくは、1/3である。当該比率の下限値は、1/7
であり、好ましくは、1/6であり、より好ましくは、1/5である。抽出溶媒の温度を
高めることで、抽出時間を短縮できる。また、抽出溶媒の温度を高めることで、グルコシ
ノレート含有植物中のミロシナーゼを失活することができる。そのような観点から、当該
植物からグルコシノレートを抽出するときの温度は、60℃以上、かつ100℃以下であ
り、好ましくは、70℃以上、かつ100℃以下、さらに好ましくは、80℃以上、かつ
95℃以下である。
【0026】
<分離(S20)>
分離の目的は、前記第一の抽出により得られた、グルコシノレートを含有する水性溶媒
と、第一の抽出後のグルコシノレート含有植物それぞれを得ることである。分離されたグ
ルコシノレート含有抽出液(分離液)は、貯留、又は次工程にて処理される。当該分離に
より、前記抽出液と前記グルコシノレート含有植物が分離され、当該グルコシノレート含
有植物から、再度抽出を行うことが可能となる。
【0027】
<第二の抽出(S30)>
第二の抽出の目的は、前記第一の抽出後のグルコシノレート含有植物から、再度グルコ
シノレートを抽出することである。前記第一の抽出後のグルコシノレート含有植物中は、
依然としてグルコシノレートを相当量含有する。そのため、第二の抽出を行うことにより
、さらにグルコシノレートを抽出することが可能となり、グルコシノレートの回収率を高
めることが可能となる。当該抽出における[A2]水性溶媒の重量に対する、前記第一の
抽出前の[B]グルコシノレート含有植物の重量の比率、つまり[B]/[A2]は、特
に限定されない。当該比率の上限値は、抽出量向上の観点から、2/3であり、好ましく
は、1/2である。当該比率の下限値は、1/6であり、好ましくは、1/5であり、よ
り好ましくは、1/4である。特に、グルコシノレート含有植物の種子から抽出を行う場
合は、第二の抽出における当該比率は、第一の抽出における当該比率より、大きいことが
好ましい。その理由は、乾燥した種子は、第一の抽出により水性溶媒を吸収することで膨
潤し、体積が増加するからである。一方で、一度水性溶媒で膨潤した種子は、再度水性溶
媒に浸潤させてもさらには膨潤しない。抽出溶媒の温度を高めることで、抽出時間を短縮
できる。当該植物からグルコシノレートを抽出するときの温度は、60℃以上、かつ10
0℃以下であり、好ましくは、70℃以上、かつ100℃以下、さらに好ましくは、80
℃以上、かつ95℃以下である。
【0028】
<第二の分離(S40)>
第二の回収の目的は、前記第二の抽出により得られた、グルコシノレートを含有する抽
出液と、第二の抽出後のグルコシノレート含有植物それぞれを得ることである。分離され
たグルコシノレート含有抽出液は、次工程にて処理される。又は、前記、第一の抽出後に
分離されたグルコシノレート含有抽出液と混合された後、次工程にて処理されてもよい。
【0029】
<抽出溶媒>
本発明において、前記第一の抽出、及び第二の抽出時に使用する抽出溶媒は、水性溶媒
である。水性溶媒とは、少なくとも水を含有する溶媒である。好ましくは、水の含有割合
が、50重量%以上のものである。より好ましくは、水である。水性溶媒が水である場合
、その温度は任意であるが、好ましい温度帯は、70℃から100℃(熱水)である。
【0030】
<抽出時間>
前記抽出における抽出時間は、特に限定されない。抽出時間が長いほどグルコシノレー
トの回収率は高まる傾向にあるが、一定時間経過すると、抽出溶媒中のグルコシノレート
濃度と、グルコシノレート含有植物中のグルコシノレート濃度が平衡状態に達し、回収量
の上昇が収まる。当該観点から、抽出時間は、30分以上、かつ、120分以下であるこ
とが好ましい。より好ましくは、30分以上、かつ90分以下であり、さらに好ましくは
、30分以上、かつ、60分以下である。
【0031】
<加熱>
加熱の目的の一つは、グルコシノレート含有植物に含まれるミロシナーゼの失活である
。グルコシノレート含有植物は、グルコシノレートを分解するミロシナーゼを同時に含有
するものが多い。そのため、グルコシノレート抽出時、又は抽出後における、ミロシナー
ゼによるグルコシノレートの分解に留意する必要がある。当該加熱を行うことにより、ミ
ロシナーゼが失活し、グルコシノレートの分解が抑制される。加熱の目的のもう一つは、
殺菌である。当該加熱の時期は、特に限定されない。加熱の時期の一つの態様は、前記抽
出工程の前である。グルコシノレート含有植物を直接、又は間接的に加熱することによっ
て、植物に含まれるミロシナーゼを失活することができる。加熱の時期のもう一つの態様
は、前記抽出と同時である。また、加熱の時期のもう一つの態様は、後述する濃縮と同時
、又は濃縮の後である。加熱時の温度は、特に限定されない。ミロシナーゼの失活の観点
から、好ましくは、温度の下限は、60℃である。より好ましくは、70℃である。さら
に好ましくは、80℃である。また、好ましくは、温度の上限は、100℃である。
【0032】
<濃縮(S50)>
濃縮の目的は、本組成物のハンドリングの向上である。液体の組成物を濃縮することで
、液体の容積が減る。つまり、液体の保管コストが下がる。濃縮方法は、公知の方法で良
く、例えば、真空濃縮、膜濃縮、凍結濃縮等である。
【0033】
<殺菌、冷却(S60)、充填(S70)>
以上に加えて、本製法が適宜採用するのは、殺菌、冷却、及び充填である。殺菌方法は
、公知の方法で良く、例えば、プレート式殺菌、チューブラー式殺菌方法等がある。冷却
方法は、公知の方法で良い。充填方法は、公知の方法でよい。本飲食品が充填される(詰
められる)容器は、公知の物で良く、例示すると、缶、瓶、紙容器、ポリエチレン製容器
等である。殺菌、冷却、及び充填の順序は、適宜変更可能である。
【0034】
<グルコシノレート回収率>
本発明において、グルコシノレート回収率は、以下の計算式により算出される。なお、
グルコシノレートがスルフォラファングルコシノレート(SGS)の場合は、SGS回収
率と呼ぶ。
グルコシノレート回収率(%)=100×(抽出液中のグルコシノレート量)/(抽出
原料となるグルコシノレート含有植物中のグルコシノレート量)
【0035】
<グルコシノレート回収量>
本発明において、グルコシノレート回収量は、前記第一の抽出、並びに、前記第一の抽
出及び前記第二の抽出により回収されたグルコシノレートの量のことであって、以下の計
算式により算出される。なお、グルコシノレートがSGSの場合は、SGS回収量と呼ぶ

グルコシノレート回収量(mg)=(抽出により回収された抽出溶媒中のグルコシノレ
ート濃度)×(抽出により回収された抽出溶媒の量)
【0036】
<グルコシノレート含有飲食品>
本発明に係るグルコシノレート含有飲食品(以下、「本飲食品」という。)とは、グル
コシノレートを含有する飲料又は食品のことを示す。本飲食品は、原料として、本発明に
係るグルコシノレート含有組成物を含有するものであることが好ましい。飲料は、清涼飲
料、スムージー等、一般に飲料と認識されるものであれば、特に限定されない。本飲食品
は、スープ等、一部固形分が含まれるものも含む。
【0037】
<生理活性>
本グルコシノレート含有飲食品は、グルコシノレートの有する機能性が強化されている
。当該観点から、本飲食品は、肝機能改善効果、血糖値改善効果、糖尿病予防効果、ピロ
リ菌除菌効果、肺活量・呼吸機能改善効果、LDLコレステロール低下効果、大気汚染物質
の排泄促進効果、便通改善効果、記憶力や注意力改善効果、統合失調症緩和効果、肥満予
防・改善効果、脂肪肝予防・改善効果、認知症予防効果、認知機能改善効果、腸内菌叢改
善効果、うつ病予防効果、前立腺予防効果、からなる群より選択される少なくとも1つの
機能性を有するものであっても良い。
【実施例0038】
本発明に係る製造方法を具現化したのは、試験例8乃17である。ただし、これらの実
施例によって、本発明に係る特許請求の範囲が限定されるものではない。
【0039】
<SGS濃度の測定>
本測定で採用したSGSの測定方法は、HPLC法である。試料は適宜希釈し、フィル
ター濾過したものを検体とした。詳細な測定条件は、以下のとおりである。
【0040】
<HPLC測定条件>
装置:ACQUITY UPLC H-Classシステム(Waters社製)
カラム:ACQUITYCSH C18(Φ2.1×100mm,1.7μm)(Wa
ters社製)
カラム温度:30℃
サンプル注入量:10μL
移動相A:超純水:トリフルオロ酢酸=99.95:0.05(v:v)
移動相B:メタノール:トリフルオロ酢酸=99.95:0.05(v:v)
グラジエント:5分間 移動相B割合0%を維持
10分間で移動相B割合0→10%のリニアグラジエント
5分間で移動相B割合10→100%のリニアグラジエント
5分間 移動相B割合100%を維持
2分間で移動相B割合100→0%のリニアグラジエント
5分間 移動相B割合0%を維持
流速:0.1mL/min
検出波長:235nm
【0041】
[試験1:スプラウトからの抽出と、種子からの抽出の違い]
ブロッコリースプラウトと、ブロッコリーの種子からスルフォラファングルコシノレー
トを抽出するに際し、抽出原料であるブロッコリースプラウト、又はブロッコリーの種子
の重量と、抽出溶媒である水の重量との比率を1:4として、SGSの抽出を行った。当
該条件により、スプラウトと種子の違いによって、SGS回収率に違いがあるか検討を行
った。
【0042】
<比較例1>
市販のブロッコリー種子を発芽させ、3日目のスプラウトを準備した。これに4倍量の
熱水(90~100℃)を準備し、温度を保持したまま60分間、当該ブロッコリースプ
ラウトから抽出処理を行った。抽出後のブロッコリースプラウトを除去し、抽出液を回収
した後、抽出液におけるSGS濃度、及び、抽出液回収量を計測した。SGS濃度、及び
抽出液回収量から、ブロッコリースプラウトからのSGS回収率を算出した。
【0043】
<試験例1>
市販のブロッコリーの種子を準備した。これに4倍量の熱水(90~100℃)を準備
し、温度を保持したまま60分間、当該種子から抽出処理を行った。抽出後の種子を除去
し、抽出液を回収した後、抽出液におけるSGS濃度、及び、抽出液回収量を計測した。
SGS濃度、及び抽出液回収量から、ブロッコリー種子からのSGS回収率を算出した。
また、抽出時間、0分、30分、60分において、抽出液をサンプリングし、各時間にお
ける抽出液中のSGS濃度を測定した。ブロッコリー種子SGS濃度に対する抽出液SGS
濃度を算出することで、種子から抽出液へ、どの程度SGSが移行したかを確認した。
【0044】
<結果と考察>
スプラウト及び種子中のSGS濃度を考慮した抽出条件により、スプラウトからの抽出
よりも種子からの抽出の方が、SGSの回収率が低くなることがわかった(表1)。また
、抽出時間が30分を超えると、抽出液中のSGS濃度は、概ね平衡に達することがわか
った(表2)。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
[試験2:二段階抽出によるグルコシノレート回収量の検証]
種子からのSGS回収率を高めるため、抽出を二段階で行うことによる効果を検証した
【0048】
<試験例2>
市販のブロッコリーの種子を準備した。これに2倍量の熱水(90~100℃)を準備
し、温度を保持したまま30分間、当該種子から抽出処理を行った。抽出後の種子を除去
し、抽出液を回収した。第二の抽出として、第一の抽出後の種子を用いて、再度、当初の
種子量の2倍量の熱水(90~100℃)を準備し、温度を保持したまま30分間、当該
種子から抽出処理を行った。そして、第二の抽出に得られた抽出液を回収し、第一の抽出
により得られた抽出液と混合した。当該混合液におけるSGS濃度、及び、抽出液回収量
を計測した。あわせて、SGS濃度、及び抽出液回収量から、ブロッコリー種子からのS
GS回収率を算出した。
【0049】
<結果と考察>
試験例2におけるSGS回収率は、67%であり、一段階抽出である試験例1よりも1
2%程度高くなる結果となった。これは、試験例2で使用した水、及び抽出時間は、合計
で試験例1と同じであるにも関わらず、試験例2のように二段階で抽出を行った方が、一
段階で行う場合に比較して回収率が高いことから、二段階抽出の方が、一段階抽出よりも
回収率が高くなることがわかった。
【0050】
二段階抽出で回収率が高まった理由は、以下であると推察する。仮に種子のSGS濃
度が18mg/100gであるとする。第一の抽出では、種子と熱水が1:2で混合されて
いる。30分後種子は水を吸って2倍程度に膨らむ(そのため、抽出液の量もその分減少
する)が、その時SGS濃度は、抽出液中、及び種子において、それぞれ6mg/g程
度で平衡状態になる。ここで一度抽出液を回収し、新たに熱水を加え、二段階抽出を行う
ことで、新たに種子と抽出液において、SGS濃度が3mg/g付近(当初の種子SGS濃度の
16%程度の濃度)で平衡状態に達することが考えられる。
【0051】
試験例1ではスプラウトと水を1:4の重量比で抽出処理を60分行ったが、抽出時間
が30分以上では、抽出液へのSGS移行は進みにくいこと、そして、当初の種子SGS濃度の20
~25%程度のところで平衡が保たれている(表2)ことから、二段階抽出の方が回収率が上がった
ものと推察される。
【0052】
[試験3:種子からの抽出における回収量最大化条件の検証]
ブロッコリー種子から工業的にSGSを抽出する場合、一定量の抽出タンクを用いて、
バッチ処理を行うことが考えられる。この場合、回収率のみならず、1バッチの回収量を
高められた方が有用である。そのため、種子からのSGS抽出において、種子量と抽出水
量の比率を変えることで、SGS回収量が高くなる条件を検討した。
【0053】
<試験例3>
市販のブロッコリーの種子183.3gを準備した。これに366.6g(2倍量)の
熱水(90~100℃)を準備し、温度を保持したまま60分間、当該種子から抽出処理
を行った。抽出後の種子を除去し、抽出液を回収した後、抽出液におけるSGS濃度、及
び、抽出液回収量を計測した。あわせて、SGS濃度、及び抽出液回収量から、ブロッコ
リー種子からのSGS回収量を算出した。
【0054】
<試験例4>
市販のブロッコリーの種子110.0gを準備した。これに440.0g(4倍量)の
熱水(90~100℃)を準備し、温度を保持したまま60分間、当該種子から抽出処理
を行った。抽出後の種子を除去し、抽出液を回収した後、抽出液におけるSGS濃度、及
び、抽出液回収量を計測した。あわせて、SGS濃度、及び抽出液回収量から、ブロッコ
リー種子からのSGS回収量を算出した。
【0055】
<試験例5>
市販のブロッコリーの種子78.6gを準備した。これに471.6g(6倍量)の熱
水(90~100℃)を準備し、温度を保持したまま60分間、当該種子から抽出処理を
行った。抽出後の種子を除去し、抽出液を回収した後、抽出液におけるSGS濃度、及び
、抽出液回収量を計測した。あわせて、SGS濃度、及び抽出液回収量から、ブロッコリ
ー種子からのSGS回収量を算出した。
【0056】
<試験例6>
市販のブロッコリーの種子61.1gを準備した。これに488.8g(8倍量)の熱
水(90~100℃)を準備し、温度を保持したまま60分間、当該種子から抽出処理を
行った。抽出後の種子を除去し、抽出液を回収した後、抽出液におけるSGS濃度、及び
、抽出液回収量を計測した。あわせて、SGS濃度、及び抽出液回収量から、ブロッコリ
ー種子からのSGS回収量を算出した。
【0057】
<試験例7>
市販のブロッコリーの種子47.4gを準備した。これに502.4g(10.6倍量
)の熱水(90~100℃)を準備し、温度を保持したまま60分間、当該種子から抽出
処理を行った。抽出後の種子を除去し、抽出液を回収した後、抽出液におけるSGS濃度
、及び、抽出液回収量を計測した。あわせて、SGS濃度、及び抽出液回収量から、ブロ
ッコリー種子からのSGS回収量を算出した。
【0058】
<結果と考察>
SGS回収量について、各試験例における数値を、試験例4の数値を100としたときの
換算値、つまり比により示した。種子からのSGS抽出において、SGSの回収量は、抽出
液が多いほど高くなるというわけでもなく、抽出液が少ないほど高くなるというわけでもなかった(表3)。
SGS回収量は、抽出液量として、種子量の4倍量の水を用いたときにピークを迎える傾向が見ら
れた。そのため、抽出液の量は、種子量に対して、2倍~8倍であることが好ましいこと
がわかった。より好ましくは、2倍量~6倍量、さらに好ましくは、3倍量~5倍量であ
ることがわかった。
【0059】
【表3】
【0060】
種子から水を用いてSGS抽出するときの特徴として見られたのは、種子を水に浴する
ことで種子が膨張し、種子の体積が大きくなることである。種子は、水性溶媒を吸収する
ことで、1.8~2.0倍程度に膨潤することがわかった。これにより、回収する抽出液
の量が、投下した水の量より少なくなることが推察された。種子の量が多くなる程、抽出
液中のSGS濃度は高くなる一方、前記のように種子が水を吸うことによって、回収され
る抽出液の量が低下する。一方、回収率を高めるために抽出水の量を増やすと、一バッチ
で使用可能な種子の量が少なくなり、一バッチで回収できるSGSの量が少なくなる。そ
のため、SGS回収量の観点から、適切な種子量と水量の比率があることが推察された。
【0061】
[試験4:種子からの抽出における回収量最大化条件のシミュレーション]
上記試験結果を考慮して、回収率を高めるために二段階抽出を行い、かつ、回収量を高
めるために最適な種子量と抽出溶媒量との関係の想定値を算出した。ブロッコリー種子に
おけるSGS量は、20mg/100gとした。容器の容量は、400gとした。抽出時
間は一段階抽出のみの場合は、60分とした。二段階で抽出を行う場合は、一段階目で3
0分、二段階目で30分の合計60分とした。この場合において、抽出溶媒重量[A]に
対する種子の重量[B]を[B]/[A]として、[B]/[A]の値を種々振ってシミ
ュレーションを行った。一段階目の抽出溶媒重量を[A1]、種子の重量を[B]とした
。二段階目の抽出溶媒重量を[A2]とした。
【0062】
参考例1は、[B]/[A1]を1/4として、一段階で抽出を行った場合であり、種
子は水性溶媒を吸収することで、体積2倍に膨潤するとして、前記のとおりSGS回収率
は55%とした。参考例2は、[B]/[A1]を1/4として、一段階で抽出を行った
場合であり、種子は水性溶媒を吸収することで、体積1.8倍に膨潤するとして、前記の
とおりSGS回収率は65%とした。
【0063】
種子の膨潤割合を2倍と想定した場合、[B]/[A]を1/6~1/2で振ってシミ
ュレーションを行ったところ、SGSの回収量は、[B]/[A]が、一段階目及び二段
階目いずれも同じ場合は、[B]/[A]が1/6~1/2のときにおいて、参考例1よ
りもSGS回収量が高くなった。また、より回収量を高めるには、[B]/[A]を、一
段階目と二段階目で変える手法が好ましいことがわかった。具体的には、一段階目では、
[B]/[A1]を1/3~1/7とし、二段階目では、[B]/[A2]を1/2~1
/6とすることである。あわせて、二段階目における[B]/[A2]を一段階目におけ
る[B]/[A1]より高くすること([B]/[A1]<[B]/[A2])である。
こうすることで、SGS回収率も高めることが可能であることがわかった。詳細な結果は
、表4、及び表5に記載のとおりである。
【0064】
種子の膨潤割合を1.8倍と想定した場合、[B]/[A]を1/6~1/2で振って
シミュレーションを行ったところ、SGSの回収量は、[B]/[A]が、一段階目及び
二段階目いずれも同じ場合は、[B]/[A]が1/5~1/2のときにおいて、参考例
2よりもSGS回収量が高くなった。また、より回収量を高めるには、[B]/[A]を
、一段階目と二段階目で変える手法が好ましいことがわかった。具体的には、一段階目で
は、[B]/[A1]を1/3~1/6とし、二段階目では、[B]/[A2]を1/2
~1/5とすることである。あわせて、二段階目における[B]/[A2]を一段階目に
おける[B]/[A1]より高くすること([B]/[A1]<[B]/[A2])であ
る。こうすることで、SGS回収率も高めることが可能であることがわかった。詳細な結
果は、表6、及び表7に記載のとおりである。
【0065】
【表4】
【0066】
【表5】
【0067】
【表6】
【0068】
【表7】
【0069】
以上の試験結果から、グルコシノレート植物からグルコシノレートを抽出する際、二段
階で抽出を行うことで、回収効率が高まることがわかった。さらに、種子量の2倍量~7
倍量の水を用いることで、SGS回収率は高くなることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明が有用な分野は、グルコシノレート含有組成物の製造方法、グルコシノレート含
有植物からのグルコシノレートの回収率を高める方法である。
図1