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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065250
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】磁気引力式磁気冷凍装置
(51)【国際特許分類】
   F25B 21/00 20060101AFI20240508BHJP
【FI】
F25B21/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173998
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】今中 康貴
(57)【要約】
【課題】より高い磁場やより早いサイクルの実現ができる磁気冷凍装置を提供する。
【解決手段】熱伝導率の高い材料にて構成されると共に、高温部82、磁気冷凍作業室84、低温部86の3室に仕切られた空間を有する容器80と、磁気冷凍作業室84の中心軸方向に移動可能に収容された磁気冷凍材料88と、高温部82と磁気冷凍作業室84の間に設けられた上部仕切り板83近傍を磁場中心とする強磁場発生用の電磁石10であって、容器80の周縁側に位置する電磁石10と、供給電流を所定のパターンで時間変化させながら電磁石10に供給できる電源装置30と、を備える磁気冷凍装置であって、磁気冷凍材料88に対する磁場の断熱的な励磁消磁による磁気冷凍効果を生ずる磁気冷凍サイクルにより、低温部86から高温部82への熱移送を行うものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導率の高い材料にて構成されると共に、高温部、磁気冷凍作業室、低温部の3室に仕切られた空間を有する容器と、
前記磁気冷凍作業室の中心軸方向に移動可能に収容された磁気冷凍材料と、
前記高温部と前記磁気冷凍作業室の間に設けられた上部仕切り板の近傍を磁場中心とする強磁場発生用の電磁石であって、前記容器の周縁側に位置する前記電磁石と、
供給電流を所定のパターンで時間変化させながら前記電磁石に供給できる電源装置と、
を備える磁気冷凍装置であって、
前記磁気冷凍材料に対する磁場の断熱的な励磁消磁による磁気冷凍効果を生ずる磁気冷凍サイクルにより、前記低温部から前記高温部への熱移送を行う磁気冷凍装置。
【請求項2】
前記磁気冷凍装置は前記容器の低温部と磁気冷凍作業室の間に設けられた下部仕切り板を有し、
前記磁気冷凍サイクルは、
前記電源装置から前記電磁石への給電をオンして、前記容器に印加する磁場をオンする断熱励磁過程と、
前記断熱励磁過程で、前記磁気冷凍材料は前記下部仕切り板側から上部仕切り板付近に引き寄せられながら前記磁気冷凍材料の温度が上昇し、
前記磁気冷凍材料は温度が上がった状態で、前記上部仕切り板と接触し、前記高温部へ熱を渡す、高温接触過程と、
一定の時間経過後、前記電源装置から前記電磁石への給電をオフして、前記容器に印加する磁場を消磁する断熱消磁過程と、
前記断熱消磁過程で、前記磁気冷凍材料は前記上部仕切り板との接触が切り離されると共に、温度が下がり、
磁気冷凍材料は前記容器内部を前記下部仕切り板側に移動して、前記下部仕切り板と熱接触することで、前記低温部の熱を吸収する、低温接触過程と、
を1サイクルとして、前記低温部から前記高温部への熱輸送を行う請求項1に記載の磁気冷凍装置。
【請求項3】
前記断熱消磁過程で、前記磁気冷凍材料と前記上部仕切り板との接触が切り離されるのは、重力又は前記磁気冷凍作業室に収容されている作動流体より駆動される請求項2に記載の磁気冷凍装置。
【請求項4】
前記断熱励磁過程又は断熱消磁過程における前記磁場のオンオフには、前記電源装置から前記電磁石への給電のオンオフに対する磁場発生応答時間に相当する、遅延時間が含まれる請求項2又は3に記載の磁気冷凍装置。
【請求項5】
さらに、前記容器の高温部と熱接触される高温側熱輸送媒体と、
前記容器の低温部と熱接触される低温側熱輸送媒体と、
を有する請求項1乃至4の何れか1項に記載の磁気冷凍装置。
【請求項6】
前記熱伝導率の高い材料は、熱伝導率が80W/m・K以上である請求項1乃至5の何れか1項に記載の磁気冷凍装置。
【請求項7】
熱伝導率の高い材料にて構成されると共に、高温部、熱スイッチ移動空間、磁気冷凍材料室、低温部の4室に仕切られた空間を有する容器と、
前記低温部側に一端が固定され、他端が熱スイッチ移動空間側に位置する磁気冷凍材料と、
前記磁気冷凍材料の中央近傍を磁場中心とする強磁場発生用の電磁石であって、前記容器の周縁側に位置する前記電磁石と、
前記熱スイッチ移動空間内に位置すると共に、磁性体を含んで構成される熱スイッチと、
供給電流を所定のパターンで時間変化させながら前記電磁石に供給できる電源装置と、
を備える磁気冷凍装置であって、
前記磁気冷凍材料に対する磁場の断熱的な励磁消磁による磁気冷凍効果を生ずる磁気冷凍サイクルにより、前記熱スイッチを前記磁気冷凍材料と接触する状態と、前記高温部と接触する状態と切り替えて、前記低温部から前記高温部への熱移送を行う磁気冷凍装置。
【請求項8】
さらに、重力方向に対して前記高温部は上側に設置され、前記低温部は前記高温部に対して下側に設置されると共に、
前記熱スイッチを前記高温部に接触する状態を維持する復元力を与えるバネを備え、
前記バネの復元力は前記電磁石の励磁による前記熱スイッチに対する磁気的吸引力よりも弱く構成された、
請求項7に記載の磁気冷凍装置。
【請求項9】
さらに、重力方向に対して前記高温部は下側に設置され、前記低温部は前記高温部に対して上側に設置されると共に、
前記熱スイッチの重量は前記電磁石の励磁による前記熱スイッチに対する磁気的吸引力よりも軽く構成された、
請求項7に記載の磁気冷凍装置。
【請求項10】
前記磁気冷凍サイクルは、
前記電源装置から前記電磁石への給電をオフして、前記磁気冷凍材料に印加する磁場をオフすると共に、前記熱スイッチは前記高温部と接触している初期状態と、
前記電源装置から前記電磁石への給電をオンして、前記磁気冷凍材料に印加する磁場をオンすると共に、前記熱スイッチは熱スイッチ移動空間内を前記高温部側から前記低温部に移動する断熱励磁過程と、
前記磁気冷凍材料は温度が上がった状態で、前記熱スイッチと接触し、前記熱スイッチへ熱を渡す、高温接触過程と、
一定の時間経過後、前記電源装置から前記電磁石への給電をオフして、前記磁気冷凍材料に印加する磁場を消磁する断熱消磁過程と、
前記断熱消磁過程で、前記熱スイッチは前記磁気冷凍材料との接触が切り離されると共に、前記熱スイッチは前記高温部に移動し、
前記熱スイッチは前記熱スイッチ移動空間内を前記低温部側から前記高温部に移動して、前記高温部と熱接触する、吸熱過程と、
を1サイクルとして、前記低温部から前記高温部への熱輸送を行う請求項7に記載の磁気冷凍装置。
【請求項11】
前記熱伝導率の高い材料は、熱伝導率が80W/m・K以上である請求項7乃至10の何れか1項に記載の磁気冷凍装置。
【請求項12】
前記電源装置は、
蓄電池または大容量コンデンサの少なくとも一方を有する蓄電部と、
前記蓄電部に対する充電用電力を供給する給電部と、
前記電磁石に供給する電流波形を設定する電流波形設定部と、
前記電流波形設定部からの波形制御信号に対応して前記蓄電部から前記電磁石を駆動する電流を供給する電流制御部と、
を有する請求項1乃至11の何れか1項に記載の磁気冷凍装置。
【請求項13】
前記大容量コンデンサは電気二重層型コンデンサ、油入式充放電用コンデンサ、又はケミカルコンデンサである請求項12に記載の磁気冷凍装置。
【請求項14】
前記電流制御部によって前記電磁石に供給される電流は、300アンペア以上30000アンペア以下であって、印加電圧は15ボルト以上400ボルト以下である請求項12又は13に記載の磁気冷凍装置。
【請求項15】
前記電源装置は、さらに充電用商用電源に接続されている請求項12乃至14の何れか1項に記載の磁気冷凍装置。
【請求項16】
前記電流波形設定部は階段状の波形を指示する波形制御信号を生成する請求項12乃至15の何れか1項に記載の磁気冷凍装置。
【請求項17】
前記電磁石はビッター型電磁石又は巻き線型電磁石である請求項12乃至16の何れか1項に記載の磁気冷凍装置。
【請求項18】
前記強磁場は、1テスラ以上70テスラ以下である請求項12乃至17の何れか1項に記載の磁気冷凍装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば液体水素製造に用いて好適な磁気冷凍装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気冷凍の基本的な原理としては、断熱励磁、高温接触、断熱消磁、低温接触の4過程を繰り返し行い、熱を低温部から高温部へ移動させるいわゆるカルノーサイクルがある(例えば、特許文献2参照)。
現在これを実現する上で様々な手法が開発されているが、大まかに分類すると、次の2類型が存在する。
(i)永久磁石を利用し、磁気冷凍材料に対して磁石を近づけたり離したりする手法(例えば、特許文献1参照)
(ii)超伝導磁石を利用し、磁気冷凍材料を磁石に入れたり引き抜いたりする手法(例えば、特許文献2参照)
【0003】
特許文献1では磁力に上限(~1テスラ程度)があること、特許文献2は特許文献1よりも発生磁場としては大きくすることが可能であるが、それに伴って磁気冷凍材料にかかる磁気力が大きくなるため、それを引き抜く外部からの仕事が非常に大きくなり、10テスラを超える数十テスラの強磁場を印加することができないなどのデメリットが存在する。
またもう一つの問題として、磁場の印加時の発熱過程や消磁時の吸熱過程に合わせて熱の移動を行うための熱スイッチとの同期が必要になることもあり、基本的に複雑なシステムになってしまうデメリットもある。
【0004】
「断熱励磁」「断熱消磁」過程では、磁場発生を瞬時にオンオフする方法もあり得るが、永久磁石は不可能であること、超伝導磁石でも超伝導線材の特性から「瞬時(断熱的)」には不可能であるという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-147136号公報
【特許文献2】米国特許第4332125号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】斎藤明子、『フロンレスを実現する磁気冷凍技術』、東芝レビューVol.62 p.76-77(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
背景技術の欠点としては、以下の点が挙げられる。
(i)磁場発生のオンオフが瞬時にできないため、結果、磁気冷凍材料を磁石から大きな磁気力に抗して相対的に離すまたは引き抜く必要があること、
(ii)熱を移動させるために、磁石内または磁石外にて、磁気冷凍材料を高温部または低温部に物理的に接触、または流体等を移動させる必要があり、特許文献1の磁場発生と同期させるなど複雑な仕組みが必要になること。
そして、(i)より磁場の上限が、(ii)より時間効率の上限が決まり、原理的には磁気冷凍サイクルを実現できても、より高い磁場やより早いサイクルの実現が現状ではできないという根本的問題がある。
【0008】
そこで、上記(i)の問題の解決のために、高速で磁場発生のオンオフを行なうことが出来れば、理想的な「断熱励磁」「断熱消磁」過程を実現できると考え、
次に、上記(ii)の問題については、磁場印加時に磁気冷凍材料または熱スイッチが磁場中心に向かって引き寄せられる磁気力と磁場が無い状態での磁気冷凍材料または熱スイッチにかかる重力を利用して、複雑な仕組みがなくとも高温部や低温部との熱接触が磁場発生と同期する熱スイッチを実現できると考え、
さらに、(i)と(ii)の解決手段を組み合わせ、磁場発生の時間波形を制御することで新たな磁気冷凍システムを実現できるのではないかと考え、本発明を想到するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]本発明の磁気冷凍装置は、例えば図1に示すように、熱伝導率の高い材料にて構成されると共に、高温部82、磁気冷凍作業室84、低温部86の3室に仕切られた空間を有する容器80と、磁気冷凍作業室84の中心軸方向に移動可能に収容された磁気冷凍材料88と、高温部82と磁気冷凍作業室84の間に設けられた上部仕切り板83近傍を磁場中心とする強磁場発生用の電磁石10であって、容器80の周縁側に位置する電磁石10と、供給電流を所定のパターンで時間変化させながら電磁石10に供給できる電源装置30と、を備える磁気冷凍装置であって、
磁気冷凍材料88に対する磁場の断熱的な励磁消磁による磁気冷凍効果を生ずる磁気冷凍サイクルにより、低温部86から高温部82への熱移送を行うものである。
【0010】
[2]本発明の磁気冷凍装置[1]において、例えば図2に示すように、好ましくは、前記磁気冷凍装置は低温部86と磁気冷凍作業室84の間に設けられた下部仕切り板85を有し、磁気冷凍サイクルは、電源装置30から電磁石10への給電をオンして、容器80に印加する磁場をオンする断熱励磁過程(S200)と、前記断熱励磁過程で、磁気冷凍材料88は下部仕切り板85側から上部仕切り板83付近に引き寄せられながら磁気冷凍材料88の温度が上昇し(S205)、磁気冷凍材料88は温度が上がった状態で、上部仕切り板83と接触し、高温部82へ熱を渡す、高温接触過程と(S210)、一定の時間経過後、電源装置30から電磁石10への給電をオフして、容器80に印加する磁場を消磁する断熱消磁過程と(S220)、前記断熱消磁過程で、磁気冷凍材料88は上部仕切り板83との接触が切り離されると共に、温度が下がり(S225)、磁気冷凍材料88は容器80内部を下部仕切り板85側に移動して、下部仕切り板85と熱接触することで、低温部86の熱を吸収する、低温接触過程(S230)、とを1サイクルとして、低温部86から高温部82への熱移送を行うものである。
[3]本発明の磁気冷凍装置[2]において、例えば図1に示すように、好ましくは、断熱消磁過程で、磁気冷凍材料88と上部仕切り板83との接触が切り離されるのは、重力又は前記磁気冷凍作業室84に収容されている作動流体より駆動されるとよい。
[4]本発明の磁気冷凍装置[2]又は[3]において、断熱励磁過程又は断熱消磁過程における、前記磁場のオンオフには、前記電源装置から前記電磁石への給電のオンオフに対する磁場発生応答時間に相当する、遅延時間が含まれるとよい。
[5]本発明の磁気冷凍装置[1]乃至[4]において、さらに、高温部82と熱接触される高温側熱輸送媒体と、低温部86と熱接触される低温側熱輸送媒体とを有するとよい。
[6]本発明の磁気冷凍装置[1]乃至[5]において、前記熱伝導率の高い材料は、熱伝導率が80W/m・K以上であるとよい。
【0011】
[7]本発明の磁気冷凍装置は、例えば図13、15に示すように、熱伝導率の高い材料にて構成されると共に、高温部(91、102)、熱スイッチ移動空間(94、104)、磁気冷凍材料室(98、108)、低温部(96、106)の4室に仕切られた空間を有する容器(90、100)と、
前記低温部側に一端が固定され、他端が前記熱スイッチ移動空間側に位置する磁気冷凍材料(98、108)と、
前記磁気冷凍材料の中央近傍を磁場中心とする強磁場発生用の電磁石であって、前記容器の周縁側に位置する前記電磁石と、
前記熱スイッチ移動空間内に位置すると共に、磁性体を含んで構成される熱スイッチ(93、103)と、
供給電流を所定のパターンで時間変化させながら前記電磁石に供給できる電源装置と、を備える磁気冷凍装置であって、
前記磁気冷凍材料に対する磁場の断熱的な励磁消磁による磁気冷凍効果を生ずる磁気冷凍サイクルにより、前記熱スイッチを前記磁気冷凍材料と接触する状態と、前記高温部と接触する状態と切り替えて、前記低温部から前記高温部への熱移送を行うものである。
[8]本発明の磁気冷凍装置[7]において、例えば図13に示すように、好ましくは、さらに、重力方向に対して高温部91は上側に設置され、低温部96は高温部91に対して下側に設置されると共に、熱スイッチ93を高温部91に接触する状態を維持する復元力を与えるバネ92を備え、バネ92の復元力は前記電磁石の励磁による熱スイッチ93に対する磁気的吸引力よりも弱く構成されるとよい。
[9]本発明の磁気冷凍装置[7]において、例えば図15に示すように、好ましくは、さらに、重力方向に対して高温部102は下側に設置され、低温部106は高温部102に対して上側に設置されると共に、熱スイッチ108の重量は前記電磁石の励磁による熱スイッチ103に対する磁気的吸引力よりも軽く構成されるとよい。
[10]本発明の磁気冷凍装置[7]において、例えば図14、16に示すように、好ましくは、前記磁気冷凍サイクルは、前記電源装置から前記電磁石への給電をオフして、前記磁気冷凍材料に印加する磁場をオフする(S1400、S1600)と共に、前記熱スイッチは前記高温部と接触している(S1405、S1605)初期状態と、
前記電源装置から前記電磁石への給電をオンして、前記磁気冷凍材料に印加する磁場をオンすると共に、前記熱スイッチは熱スイッチ移動空間内を前記高温部側から前記低温部に移動する断熱励磁過程(S1410、S1610)と、
前記磁気冷凍材料は温度が上がった状態で、前記熱スイッチと接触し、前記熱スイッチへ熱を渡す、高温接触過程(S1415、S1615)と、
一定の時間経過後、前記電源装置から前記電磁石への給電をオフして、前記磁気冷凍材料に印加する磁場を消磁する断熱消磁過程(S1420、S1620)と、
前記断熱消磁過程で、前記熱スイッチは前記磁気冷凍材料との接触が切り離されると共に、前記熱スイッチは前記高温部に移動し(S1425、S1625)、
前記熱スイッチは前記熱スイッチ移動空間内を前記低温部側から前記高温部に移動して、前記高温部と熱接触する、吸熱過程(S1430、S1630)と、
を1サイクルとして、前記低温部から前記高温部への熱輸送を行うとよい。
[11]本発明の磁気冷凍装置[7]乃至[10]において、前記熱伝導率の高い材料は、熱伝導率が80W/m・K以上であるとよい。
【0012】
[12]本発明の磁気冷凍装置[1]乃至[11]において、好ましくは、電源装置30は、蓄電池または大容量コンデンサの少なくとも一方を有する蓄電部32と、電磁石10に供給する電流波形を設定する電流波形設定部70と、電流波形設定部70からの波形制御信号に対応して蓄電部32から電磁石10を駆動する電流を供給する電流制御部60と、を備えるものであるとよい。
[13]本発明の磁気冷凍装置[12]において、好ましくは、大容量コンデンサは電気二重層型コンデンサ、油入式充放電用コンデンサ、又はケミカルコンデンサであるとよい。
[14]本発明の磁気冷凍装置[12]又は[13]において、好ましくは、電流制御部60によって電磁石10に供給される電流は、300アンペア以上30000アンペア以下であって、印加電圧は15ボルト以上400ボルト以下であるとよい。
[15]本発明の磁気冷凍装置[12]乃至[14]において、好ましくは、電源装置30は、さらに充電用商用電源31に接続されているとよい。
[16]本発明の磁気冷凍装置[12]乃至[15]において、好ましくは、電流波形設定部70は階段状の波形を指示する波形制御信号を生成するとよい。
[17]本発明の磁気冷凍装置[12]乃至[16]において、好ましくは、電磁石10はビッター型電磁石又は巻き線型電磁石であるとよい。
[18]本発明の磁気冷凍装置[12]乃至[17]において、好ましくは、前記強磁場は、1テスラ以上70テスラ以下であるとよい。好ましくは、前記強磁場は、20テスラを超え70テスラ以下であって、超伝導磁石単体で発生できる磁場よりも高い値であるとよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の磁気冷凍装置によれば、磁場をオンオフするため、磁場発生時に磁気冷凍材料を磁石の外に引き抜いたり、ゼロ磁場時に磁石に戻したりする往復運動の必要がなくなり、システム構成が極めてシンプルになる。また1秒程度の高速にオンオフできるため、磁気冷凍サイクルの効率化が期待される。さらには、「波形可変磁場発生装置」の改良で、電源次第で5テスラを超える磁場によるシステム開発も可能となる。
本発明の磁気冷凍装置によれば、磁場発生時と磁場終了時に磁気力および重力を利用することで高温部と低温部に対する熱接触が起きるため、複雑な仕組みは一切必要が無く、磁場発生の時間波形の調整により最適な磁気冷凍サイクルが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に用いられる磁気冷凍装置を説明する概略構成図で、磁気冷凍サイクルを用いて動作を説明している。
図2図1に示す装置のカルノーサイクルの動作を説明するフローチャートである。
図3】本発明の磁気冷凍装置の運転による温度変化を示す図である。
図4】本発明の一実施例を示す蓄電池を用いた電源装置と、当該電源装置を制御する制御用システムを説明する機能ブロック図である。
図5図4に示す装置の出力電流の波形図である。
図6】本発明の一実施例を示す、ビッター磁石の構成図である。
図7図6に示すビッター磁石の構成要素である円形金属板の構成図である。
図8】本発明の一実施例を示す様々な発生磁場波形を示す波形図である。
図9】本発明の一実施例を示す最高電流値を変えた場合の階段状磁場の波形図である。
図10】本発明の一実施例を示す5回繰り返しを行った階段状磁場発生を説明する波形図である。
図11】本発明の第2の実施例を示す磁気冷凍装置の概略的構成図である。
図12図11に示す磁気冷凍装置に用いられる容器内部の概略的構成図である。
図13】本発明の第3の実施例を示す磁気冷凍装置を説明する概略構成図で、磁気冷凍サイクルを用いて動作を説明している。
図14図13に示す装置のカルノーサイクルの動作を説明するフローチャートである。
図15】本発明の第4の実施例を示す磁気冷凍装置を説明する概略構成図で、磁気冷凍サイクルを用いて動作を説明している。
図16図15に示す装置のカルノーサイクルの動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明における一実施例を図面を参照して以下説明する。
図1は、本発明に用いられる磁気冷凍装置を説明する概略構成図で、磁気冷凍サイクルを用いて動作を説明しており、(A)は初期過程(低温接触過程)、(B)は断熱励磁過程、(C)は高温接触過程、(D)は断熱消磁過程を示している。本発明に用いられる磁気冷凍サイクルは、断熱励磁、高温接触、断熱消磁、低温接触の4過程を1サイクルとするカルノーサイクルである。
【0016】
本発明に用いられる磁気冷凍装置は、電磁石10、電源装置30、容器80、高温部82、磁気冷凍作業室84、低温部86、磁気冷凍材料88、上部仕切り板83、下部仕切り板85を備えている。
容器80は、熱伝導率の高い材料にて構成された高温部82、磁気冷凍作業室84、低温部86の3室に仕切られた空間を有する容器80であって、電磁石10と同軸上に収容された磁気冷凍動作部として設けられている円筒状の容器である。
上部仕切り板83は、高温部82と磁気冷凍作業室84の間に設けられている。下部仕切り板85は、低温部86と磁気冷凍作業室84の間に設けられている。高温部82には、高温部82と熱接触される高温側熱輸送媒体が流れており、例えば高温側熱交換器と熱交換をする。低温部86には、低温部86と熱接触される低温側熱輸送媒体が流れており、例えば低温側熱交換器と熱交換をする。磁気冷凍材料88は、磁気冷凍作業室84の中心軸方向に移動可能に収容されたもので、高温部82又は/及び低温部86と熱接触し得る。磁気冷凍材料88には、例えばガドリニウムを含有する磁気冷凍材料が用いられる。
熱伝導率の高い材料は、磁気冷凍材料88と高温部82又は/及び低温部86と熱接触する時間が短くても熱交換できるような値を有する材料が良く、例えば熱伝導率が80W/m・K以上がよく、更に好ましくは、例えば、銅の400W/m・K以上、最適な材料としては、例えば、ダイヤモンドやカーボンナノチューブの1000~5500W/m・K以上がよい。熱伝導率が80W/m・K以上の金属材料としては、銀、銅、金、アルミニウム、マグネシウム、金属シリコン、亜鉛、ニッケル、鉄等があり、これらの合金、例えばアルミニウム合金、黄銅等も含まれる。熱伝導率が80W/m・K以上のセラミック材料としては、窒化アルミニウム、炭化ケイ素がある。
【0017】
電磁石10は、容器80の高温部82と磁気冷凍作業室84の間に設けられた上部仕切り板83近傍を磁場中心とする強磁場発生用の電磁石10である。電源装置30は、供給電流を所定のパターンで時間変化させながら電磁石10に供給できるものである。
電磁石10と電源装置30の詳細は、後で説明する。
【0018】
次に、このように構成された装置の動作を説明する。図2図1に示す磁気冷凍装置のカルノーサイクルの動作を説明するフローチャートである。
図において、断熱励磁過程では、電源装置30から電磁石10への給電をオンして、容器80に印加する磁場を瞬間的に開始すると(S200)、磁気冷凍材料88は上部仕切り板83付近に引き寄せられながら温度が上昇する(S205)。
高温接触過程では、磁気冷凍材料88は温度が上がった状態で、上部仕切り板83と接触し、高温部へ熱を渡す(S210)。
断熱消磁過程では、一定の時間経過後、電源装置30から電磁石10への給電をオフして、容器80に印加する磁場を消磁すると(S220)、磁気冷凍材料88は重力により上部仕切り板83との接触が切り離されると共に、温度が下がる(S225)。
高温接触過程では、磁気冷凍材料は容器80内部を落下して、下部仕切り板85と接触することで、下部仕切り板85を通して、低温部との接触をして低温部の熱を吸収する(S230)。
【0019】
上記各工程の動作を適当な磁場発生時間の調整を含め繰り返し行うことで、低温部から高温部への熱の排出、前記磁気冷凍サイクル(断熱励磁、高温接触、断熱消磁、低温接触の4過程)を生成し、磁場の断熱的な励磁消磁による磁気冷凍効果により熱移送を行うとよい。好ましくは、高温部82の熱容量を、冷却対象物の熱容量に応じて適宜に設計することで、例えば液体水素の製造量に応じた磁気冷凍装置が実現できる。
図3は、本発明の磁気冷凍装置の運転による温度変化の一例を示す図である。本発明の磁気冷凍装置を用いて、実際に磁場のオンオフを繰り返した場合の実験データである。室温を基準として、上部仕切り板と下部仕切り板付近で、概ね60秒経過後に温度の開きとして約±0.2℃が生じており、磁気冷凍効果が発現している。
【0020】
図4は本発明の一実施例を示す、磁気冷凍装置に用いられる、蓄電池を用いた電源装置の機能ブロック図である。本発明の磁気冷凍装置においては、強磁場発生のための大電流に対応できる電磁石10として、例えばビッター型電磁石や巻き線型電磁石を用いる。ここで、強磁場とは、1テスラ以上70テスラ以下であるとよく、好ましくは、20テスラを超え70テスラ以下であって、超伝導磁石単体で発生できる磁場よりも高い値であるとよい。大電流は、例えば最大30000アンペアであり、下限値は強磁場発生に必要な最小の電流であって、例えば3000アンペアでもよく、更に好ましくは300アンペアでもよい。印加電圧は最大400ボルトであるとよく、下限値は強磁場発生に必要な最小の電圧であって、例えば40ボルトであるとよく、更に好ましくは15ボルトでもよい。
【0021】
電源装置30としては、供給電流を所定のパターンで時間変化させながら電磁石10に供給できるとよい。そのために、電源装置30には蓄電池または小型大容量のコンデンサを使い、電流波形設定部としての信号発生器70の外からの波形入力に対応して、蓄電部分から、例えば印加電流として最大30000アンペアであって、印加電圧は最大400ボルトである電流量を高速に制御・調節できるとよい。
蓄電池とは、電気エネルギーを化学エネルギーに変換して貯蔵し、必要に応じて電気を取り出すことができる装置で、充電によって繰り返し使用することができる。バッテリー、二次電池ともいわれ、鉛蓄電池、ニッケル水素電池、NAS(ナトリウム硫黄)電池、リチウムイオン電池など様々な種類がある。
【0022】
大容量コンデンサは電気二重層型コンデンサ、油入式充放電用コンデンサ、又はケミカルコンデンサであるとよい。電気二重層型コンデンサは、電気二重層を誘電体とした、対面電極のコンデンサ構造をしており、静電容量は、例えば数十F(ファラッド)である。ここで、電気二重層とは、固体と液体との間で自発的に生じ、充電によって、電子またはホールが互いに引き合って整列している状態を言う。油入式充放電用コンデンサは、誘電体に木材パルプを加工した紙に、絶縁油を含浸させたものを使っている。油入式充放電用コンデンサは、単純な構造ゆえ、静電容量は増やすためには形状が大きくなる難点があるが、耐電圧に優れている。ケミカルコンデンサは、アルミ電解コンデンサとも呼ばれ、誘電体としては、アルミニウム電極(通常はアルミ箔)表面に形成した酸化被膜(酸化アルミニウム)を用いる。ケミカルコンデンサは、誘電体層が非常に薄いため、大きな容量を得ることが出来る。
そして、電磁石10と電源装置30を組み合わせ、任意の磁場発生時間、任意の磁場波形の発生を可能とする磁場発生システムが実現できる。
【0023】
図4は本発明の一実施例を示す蓄電池を用いた電源装置の機能ブロック図で、当該電源装置を制御する制御用システムも併せて記載してある。図において、本発明の電源装置30は、充電用商用電源31、蓄電池32、大電流化対応制御ブロック40、電流出力回路50、帰還制御ブロック60を備えている。充電用商用電源31は、蓄電池32を充電するための電源系統で、例えば商用低圧電源のような供給電力量が数kW程度の比較的小規模の電力供給契約でも足りるが、液体ヘリウムや大電力が必要となる通常の定常磁場発生装置に用いられる高電圧電源系統を用いてもよい。高電圧電源系統は、供給電圧が例えば6.6kVであり、供給電力量が数MW程度にも対応できる。
電源装置30は、蓄電池32に加えて、平滑コンデンサ33、制御回路電源34、操作・監視回路36を有している。蓄電池32は直流電力を供給するもので、例えば16V~400Vの定格電圧を有し、定格電流は例えば1~30kAとする。平滑コンデンサ33は、蓄電池32の供給する電流・電圧を平滑化するもので、蓄電池32の正負端子に大電流化対応制御ブロック40と並列に接続されている。制御回路電源34は、商用電源から操作・監視回路36用の電力を与える。操作・監視回路36は、蓄電池32の端子間電圧と供給電流を監視しており、PWM回路66に入力電圧の情報を与える。操作・監視回路36は、補助電源として作用することもでき、蓄電池32に蓄電用電力を供給するようにしてもよい。
蓄電池32を設けると、例えば商用低圧電源のような供給電力量が数kW程度の比較的小規模の電力供給契約の充電用商用電源31で充電しても、蓄電池32から一時的な大電流の供給が可能となり、工場や大規模商業施設のように供給電力契約を数MW程度としなくてもすみ、契約アンペア数を低減できることから、電力料金が少なくてすむ。
【0024】
大電流化対応制御ブロック40は、電界効果トランジスタ(FET)42、駆動回路44、平滑コンデンサ46、ダイオード47、インダクタLf48を有している。電界効果トランジスタ42は、パルス幅変調回路66からのPWM制御信号をゲート端子に入力して、ドレイン端子-ソース端子間のドレイン電流のオンオフ制御をしている。平滑コンデンサ46とダイオード47は、電界効果トランジスタ42を挟んで、蓄電池32の正負端子と接続されている。インダクタLf48は、電界効果トランジスタ42と電流出力回路50との間に挿入されている。
電流出力回路50は、コンデンサCf52、コモンモードコイルCMを有しており、出力端子P、Nの間にビッター型磁石10の励磁用出力電流を出力している。
【0025】
帰還制御ブロック60は、出力電流検出トランス54、バッファアンプ58、誤差アンプ62、使用率制限回路64、パルス幅変調回路(PWM:pulse width modulation)66を有している。バッファアンプ58は、出力電流検出トランス54の検出信号を入力しているもので、例えば出力電流の監視用に用いられる。誤差アンプ62は、出力電流検出トランス54と使用率制限回路64のパターン信号とを比較して、パルス幅変調回路66に送っている。使用率制限回路64は時間当たりの電流変化量(dI/dt)を制限すると共に、誤差アンプ62の誤差信号が大きい場合にも、パルス幅変調回路66のデューティー比の上限値を制限して、ビッター型磁石10が過大な電流により損壊することを防止する。
信号発生器70は、使用率制限回路64に対して、ビッター型磁石10に供給する駆動電流波形を指示するパターン信号を出力している。パソコン72は、信号発生器70に指示する駆動電流波形のパターンを指示しやすくするソフトウェアを搭載しているもので、汎用のコンピュータ装置が用いられる。
【0026】
この様に構成された装置においては、パソコン72から信号発生器70を制御し、発生させたい磁場の波形と同じ電圧プロファイルを使用率制限回路64に送る。図5は、図4に示す装置の出力電流の波形図である。電気二重層型コンデンサや電磁石の場合は、単位時間当たりの電流増分が許容される範囲に制限があるので、この範囲の制限内で、出力電流の波形図を指示する。
【0027】
使用率制限回路64では、信号発生器70から送られたパターン信号に応じて、蓄電池32からの直流電流が制御され、電流出力回路50の出力端子P、Nとつながっているビッターコイルの円形金属板12に電流が流れ、磁場が発生する。
またパルス磁場発生では、高容量コンデンサシステムに充電した電気エネルギーを使って、1ミリ秒30テスラ以上の磁場発生が可能となっている。よって、このビッターコイルをそのまま使うことで30テスラ程度の強磁場発生まで十分耐えることができる。コイルの発熱は小型循環冷却器により純水を磁石内に循環させ速やかに冷却を行う。
【0028】
図6は本発明の一実施例を示す、ビッター型電磁石の構成図である。図7は、図6に示すビッター磁石の構成要素である円形金属板の構成斜視図である。図において、ビッター型磁石10は、円形金属板12、絶縁板14、フランジ16、締め付け棒18を有している。ビッター型磁石は、コイル状の線材ではなく、円形の導電性金属板と絶縁性のスペーサーをらせん状に重ねた構造になっている。電流は円形金属板の間をらせん状に流れる。銅銀合金を利用した積層円形金属板の目的は、円形金属板内の移動電荷に作用する磁場によるローレンツ力が、磁場強度の2乗に比例して増加することで生じる外側への巨大な機械的圧力に耐えることである。また、円形金属板に流れる大電流による抵抗加熱で円形金属板に発生する膨大な熱を逃がすために、円形金属板の穴から水が冷却剤として循環している。放熱量は、磁場の強さの2乗に比例して増加する。
【0029】
円形金属板12は、銅又は強度の強い銅合金を打ち抜いて作成された大略円形の板で、スリット122、締め付け棒用切り欠き穴124、冷却水用穴126、中央穴128が形成されている。円形金属板12は、高強度高伝導材料である銅銀合金を利用した、強磁場発生用ビッターコイルを用いている。このビッターコイルは、本出願人において定常強磁場発生とパルス磁場発生の両方に利用しており、定常強磁場発生には15メガワット電力を供給することで、最大30テスラ程度の磁場発生の実績がある。スリット122は隣接する層間で、楔形切り欠き部142の切り欠き角度に相当する角度だけ回転しており、例えば45度の場合は8枚で一回転し、30度の場合は12枚で一回転する。
絶縁板14は、例えばポリイミド樹脂製の板で、楔形切り欠き部142、締め付け棒用切り欠き穴144、冷却水用穴146、中央穴148が形成されている。楔形切り欠き部142は、円周面の一部が所定の角度、例えば30度~45度程度、軸方向から円周部に切り欠いてある。積層される円形金属板12は、重ねコイルとして絶縁板14の切り欠き部146で隣接する円形金属板12との導通を図ると共に、切り欠き部146を除く絶縁板14では隣接する円形金属板12との絶縁を図ることで、コイルの1ターン分を形成している。
【0030】
フランジ16はビッター型磁石10の軸方向の両端に設けられるもので、例えばFRP製の円板よりなり、締め付け棒18による締結力を支持するための剛性を有している。締め付け棒18は、円形金属板12と絶縁板14の重ねコイル積層体を締め付けるもので、例えば軸方向に8本等間隔で設けられている。締め付け棒18は、各層の対応する締め付け棒用切り欠き穴124、144に装着されるもので、円形金属板12の周面に沿って装着されるため、締結リング182をフランジ16側に近い部位に設けて締め付け保持されている。
【0031】
高磁場導入路20は、円形金属板12の中央穴128と絶縁板14の中央穴148に連通するもので、ビッター型磁石10で生成される高磁場空間に観察対象物を送致するための導入路である。電極22は、両端のフランジ16表面に電線の接続端子が設けられているもので、積層される円形金属板12の両側端部と接続される。
冷却水供給管24は、各層の対応する円形金属板12の冷却水用穴126と絶縁板14の冷却水用穴146に冷却水を供給する管路で、両端のフランジ16表面に冷却水接続口が設けてある。冷却水には、例えば電気抵抗率の高い(10Ω・cm)脱イオン化された蒸留水を用いるとよい。冷却水供給管24から供給される冷却水により、ビッター型磁石10で高磁場発生に伴って生成される熱と熱交換している。
【0032】
図8は、本発明の一実施例を示す様々な発生磁場波形を示す波形図である。図8(A)は三角関数的な波形の入力により実際に発生した磁場で、図8(B)は階段状の磁場となっている。階段状の磁場は発生時間全体で約2秒程度、階段状の一定部分が0.2秒程度となっている。
【0033】
図9は電流を変化させて階段状の磁場を発生させた波形図である。最大電流に応じた磁場発生となっていることが分かる。
【0034】
図10は階段状磁場発生を繰り返し行った測定結果であり、今回は5回の繰り返しを行った。原理的には蓄電池のエネルギーがなくなるまで、繰り返しを行うことができる。こうした繰り返しの磁場は、磁場のオンオフを行っていることと同じであり、磁気冷凍などへの応用が考えられる。
【0035】
なお、上記の実施の形態においては、強磁場発生用の電磁石としてビッター型電磁石の場合を示したが、巻き線型電磁石でもよい。また、上記の実施の形態においては、蓄電部として蓄電池の場合を示したが、大容量コンデンサでもよい。
また、上記の実施の形態においては、磁場発生時と磁場終了時に磁気力および重力を利用することで高温部と低温部に対する熱接触が起きる構造を示しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、磁気冷凍作業室に収容されている作動流体より磁気冷凍材料の往復駆動をする構成と組み合わせても良い。
【0036】
図11は、本発明の第2の実施例を示す磁気冷凍装置の概略的構成図である。なお、図11において、前出の図1と同一作用をする構成要素には同一符号を付して、説明を省略する。
本実施例では、磁気冷凍作業室84内での磁気冷凍材料88の往復運動のために、高温側ベローズ82bと高温側駆動ロッド82c、並びに低温側ベローズ86bと低温側駆動ロッド86cが設けられている。高温側熱交換器82aと低温側熱交換器86aは、高温部82と低温部86の熱交換の為に設けられている。ギヤ付きモータ94は、駆動ホイール92を介して、高温側ベローズ82bに他端が接続された駆動ロッド90の上下の往復運動を駆動している。
【0037】
図12は、図11に示す磁気冷凍装置に用いられる容器内部の概略的構成図である。磁気冷凍材料88は、層構造88aをしており、薄肉コンテナ88bで外周壁が囲われている。高温側駆動ロッド82cと低温側駆動ロッド86cは、支持具89aを用いて磁気冷凍材料88に取り付けられている。網目89bは、各層構造88aの境界をなすと共に、流体が拡散するのを可能にして、磁気冷凍材料88内部の温度分布が均一になるのを助けている。
【0038】
図13は、本発明の第3の実施例を示す磁気冷凍装置を説明する概略構成図で、磁気冷凍サイクルを用いて動作を説明しており、(A)は初期過程(吸熱過程)、(B)は断熱励磁過程、(C)は高温接触過程、(D)は断熱消磁・吸熱過程を示している。本発明に用いられる磁気冷凍サイクルは、断熱励磁、高温接触、断熱消磁、吸熱過程の4過程を1サイクルとするカルノーサイクルである。
【0039】
第3の実施例に用いられる磁気冷凍装置は、容器90、高温部91、バネ92、熱スイッチ93、熱スイッチ移動空間94、低温部96、磁気冷凍材料98を備えており、電磁石と電源装置については図示を省略してある。
容器90は、熱伝導率の高い材料にて構成された高温部91、熱スイッチ移動空間94、磁気冷凍材料室99、低温部96の4室に仕切られた空間を有する容器90であって、円筒状の容器である。高温部91には、高温部91と熱接触される高温側熱輸送媒体が流れており、例えば高温側熱交換器と熱交換をする。低温部96には、低温部96と熱接触される低温側熱輸送媒体が流れており、例えば低温側熱交換器と熱交換をする。
【0040】
磁気冷凍材料室99は、磁気冷凍材料98を収容する室又は空間である。磁気冷凍材料98は、低温部96側に一端が固定され、他端が熱スイッチ移動空間94側に位置する。磁気冷凍材料98には、例えばガドリニウムを含有する磁気冷凍材料が用いられる。
熱スイッチ93は磁性体を含んで構成されるもので、バネ92により高温部91に接触する状態と、磁気吸引力により磁気冷凍材料98に熱接触する状態を有する。熱スイッチ93は、磁性体が脆い場合の補強のために、磁性体の周囲を金属板や無機セラミック繊維で被覆してあっても良い。バネ92は、熱スイッチ93を高温部91に接触する状態を維持する復元力を与える。バネ92の復元力は電磁石の励磁による熱スイッチ93に対する磁気的吸引力よりも弱く構成される。
【0041】
図14は、図13に示す装置のカルノーサイクルの動作を説明するフローチャートである。
初期状態では、電源装置から電磁石への給電をオフして、磁気冷凍材料98に印加する磁場をオフする(S1400)と共に、熱スイッチ93はバネ92により高温部91と接触している(S1405)。
断熱励磁過程では、電源装置から電磁石への給電をオンして、磁気冷凍材料98に印加する磁場をオンすると共に、熱スイッチ93は熱スイッチ移動空間94内を高温部91側から低温部96に移動する(S1410)。
高温接触過程では、磁気冷凍材料98は温度が上がった状態で、熱スイッチ93と接触し、熱スイッチ93へ熱を渡す(S1415)。
断熱消磁過程では、一定の時間経過後、電源装置から電磁石への給電をオフして、磁気冷凍材料98に印加する磁場を消磁する(S1420)と共に、バネ92の復元力により熱スイッチ93は磁気冷凍材料98との接触が切り離されると共に、高温部91方向に移動する(S1425)。
吸熱過程では、熱スイッチ93は熱スイッチ93移動空間内を低温部96側から高温部91に移動して、高温部91と熱接触する(S1430)。
図13に示す装置のカルノーサイクルの動作では、上記の初期過程(吸熱過程)、断熱励磁過程、高温接触過程、断熱消磁・吸熱過程を1サイクルとして、低温部96から高温部91への熱輸送を行う。
【0042】
図15は、本発明の第4の実施例を示す磁気冷凍装置を説明する概略構成図で、磁気冷凍サイクルを用いて動作を説明しており、(A)は初期過程(吸熱過程)、(B)は断熱励磁過程、(C)は高温接触過程、(D)は断熱消磁・吸熱過程を示している。本発明に用いられる磁気冷凍サイクルは、断熱励磁、高温接触、断熱消磁、吸熱過程の4過程を1サイクルとするカルノーサイクルである。
【0043】
第4の実施例に用いられる磁気冷凍装置は、容器100、高温部102、熱スイッチ103、磁気冷凍作業室104、低温部106、磁気冷凍材料108を備えており、電磁石と電源装置については図示を省略してある。
容器100は、熱伝導率の高い材料にて構成された高温部102、熱スイッチ移動空間104、磁気冷凍材料室109、低温部106の4室に仕切られた空間を有する容器100であって、電磁石10と同軸上に収容された磁気冷凍動作部として設けられている円筒状の容器である。
高温部102には、高温部102と熱接触される高温側熱輸送媒体が流れており、例えば高温側熱交換器と熱交換をする。低温部106には、低温部106と熱接触される低温側熱輸送媒体が流れており、例えば低温側熱交換器と熱交換をする。
【0044】
磁気冷凍材料室109は、磁気冷凍材料108を収容する室又は空間である。磁気冷凍材料108は、低温部106側に一端が固定され、他端が熱スイッチ移動空間104側に位置する。磁気冷凍材料108には、例えばガドリニウムを含有する磁気冷凍材料が用いられる。
熱スイッチ103は磁性体を含んで構成されるもので、重力により高温部101に接触する状態と、磁気吸引力により磁気冷凍材料108に熱接触する状態を有する。熱スイッチ103の重量は電磁石の励磁による熱スイッチ103に対する磁気的吸引力よりも軽く構成される。熱スイッチ103は、磁性体が脆い場合の補強のために、磁性体の周囲を金属板や無機セラミック繊維で被覆してあっても良い。
【0045】
図16は、図15に示す装置のカルノーサイクルの動作を説明するフローチャートである。
初期状態では、電源装置から電磁石への給電をオフして、磁気冷凍材料108に印加する磁場をオフする(S1600)と共に、熱スイッチ103は重力により高温部102と接触している(S1605)。
断熱励磁過程では、電源装置から電磁石への給電をオンして、磁気冷凍材料108に印加する磁場をオンすると共に、熱スイッチ103は熱スイッチ移動空間内を高温部102側から低温部106に移動する(S1610)。
高温接触過程では、磁気冷凍材料108は温度が上がった状態で、熱スイッチ103と接触し、熱スイッチ103へ熱を渡す(S1615)。
断熱消磁過程では、一定の時間経過後、電源装置から電磁石への給電をオフして、磁気冷凍材料108に印加する磁場を消磁する(S1620)と共に、重力により熱スイッチ103は磁気冷凍材料108との接触が切り離されると共に、高温部102方向に移動する(S1625)。
吸熱過程では、熱スイッチ103は熱スイッチ103移動空間内を低温部106側から高温部102に移動して、高温部102と熱接触する(S1630)。
図15に示す装置のカルノーサイクルの動作では、上記の初期過程(吸熱過程)、断熱励磁過程、高温接触過程、断熱消磁・吸熱過程を1サイクルとして、低温部106から高温部102への熱輸送を行うとよい。
【0046】
なお、上記の実施形態は本発明の実施例を示すものであり、特許請求の範囲を制限的に解釈してはならず、当業者に自明な範囲で、各種の置換が行われていても特許請求の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の磁気冷凍装置によれば、高い繰り返し周波数で磁場のオンオフ制御が可能となるため、従来装置と比較してより高い磁場やより早いサイクルの実現ができる磁気冷凍装置を提供できる。
【符号の説明】
【0048】
10:ビッター型電磁石
12:円形金属板
122:スリット
124:締め付け棒用切り欠き穴
126:冷却水用穴
128:中央穴
14:絶縁板
142:楔形切り欠き部
144:締め付け棒用切り欠き穴
146:冷却水用穴
148:中央穴
16:フランジ
18:締め付け棒
182:締結リング
20:高磁場導入路
22:電極
24:冷却水供給管
30:電源装置
31:充電用商用電源
32:蓄電池
40:大電流化対応制御ブロック
50:電流出力回路
60:帰還制御ブロック
70:信号発生器(信号波形設定部)
72:パソコン(PC)
80、90、100:容器
82、91、102:高温部
83:上部仕切り板
84:磁気冷凍作業室
85:下部仕切り板
86、96、106:低温部
88、98、108:磁気冷凍材料
92:バネ
93、103:熱スイッチ(磁性体内包)
94、104:熱スイッチ移動空間
99、109:磁気冷凍材料室

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16