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特開2024-65262モータ制御装置、空気調和機、及びモータ制御方法
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  • 特開-モータ制御装置、空気調和機、及びモータ制御方法 図1
  • 特開-モータ制御装置、空気調和機、及びモータ制御方法 図2
  • 特開-モータ制御装置、空気調和機、及びモータ制御方法 図3
  • 特開-モータ制御装置、空気調和機、及びモータ制御方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065262
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】モータ制御装置、空気調和機、及びモータ制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/24 20160101AFI20240508BHJP
【FI】
H02P21/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174018
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006611
【氏名又は名称】株式会社富士通ゼネラル
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石原 佑理
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA04
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE43
5H505EE49
5H505HB01
5H505JJ03
5H505LL22
5H505LL24
5H505LL39
(57)【要約】
【課題】設計の工数を増やさずに、モータ制御の演算量を少なくすることが可能なモータ制御装置、空気調和機、及びモータ制御方法を提供すること。
【解決手段】
本発明の一形態に係るモータ制御装置は、電流値検出部と、軸誤差算出部と、電圧制御部とを備える。前記電流値検出部は、モータに流れるモータ電流の電流値を検出する。前記軸誤差算出部は、前記モータ電流の電流値に基づいて、第1制御周期ごとに前記モータの軸誤差を算出する。前記電圧制御部は、前記軸誤差から電圧指令値を算出する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータに流れるモータ電流の電流値を検出する電流値検出部と、
前記モータ電流の電流値に基づいて、第1制御周期ごとに前記モータの軸誤差を算出する軸誤差算出部と、
前記軸誤差から電圧指令値を算出する電圧制御部と
を備えたモータ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ制御装置であって、
前記電圧制御部は、i番目の制御周期におけるモータ電圧の大きさをViとし、i番目の制御周期における前記軸誤差をΔθiとし、前記軸誤差Δθiを電圧に対応させる係数をαとして、i+1番目の制御周期におけるモータ電圧の大きさVi+1を以下に示す式に従って算出する
【数1】
モータ制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載のモータ制御装置であって、
前記電流値検出部は、所定のキャリア周期に基づいて設定された所定の検出周期で前記モータ電流の電流値を検出し、
前記第1制御周期は、前記所定の検出周期よりも長く設定される
モータ制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載のモータ制御装置であって、
前記第1制御周期は、前記モータの電気回転角度の1周期である
モータ制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載のモータ制御装置であって、さらに、
前記モータ電流の電流値から前記モータ電流の基本波成分である基本波電流を抽出する基本波電流抽出部を備える
モータ制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載のモータ制御装置であって、
前記基本波電流抽出部は、前記モータ電流の電流値から前記モータ電流の各相の基本波電流を含む多相基本波電流を抽出し、
さらに、前記多相基本波電流をd軸電流及びq軸電流に変換し、前記d軸電流の電流値及び前記q軸電流の電流値を出力する電流変換部を備え、
前記軸誤差算出部は、前記d軸電流の電流値及び前記q軸電流の電流値に基づいて前記軸誤差を算出する
モータ制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載のモータ制御装置であって、
前記電圧制御部は、前記q軸電流の電流値からd軸電圧の指令値を算出し、前記軸誤差から算出したモータ電圧の大きさ及び前記d軸電圧の指令値からq軸電圧の指令値を算出する
モータ制御装置。
【請求項8】
請求項6に記載のモータ制御装置であって、
前記多相基本波電流に含まれる各相の基本波電流の波形は、振幅が共通振幅Iで振動し、基準位相φを基準に互いに異なる位相が設定された波形であり、
前記基本波電流抽出部は、前記モータ電流の電流値に対する相関計算を実行して前記共通振幅I及び前記基準位相φを算出する
モータ制御装置。
【請求項9】
請求項8に記載のモータ制御装置であって、
前記モータ電流は、U相電流、V相電流、及びW相電流を含み、
前記基本波電流抽出部は、
前記U相電流の検出波形から前記U相電流の基本波電流の個別振幅IUを算出し、
前記V相電流の検出波形から前記V相電流の基本波電流の個別振幅IVを算出し、
前記W相電流の検出波形から前記W相電流の基本波電流の個別振幅IWを算出し、
前記共通振幅Iを以下に示す式に従って算出する
【数2】
モータ制御装置。
【請求項10】
請求項9に記載のモータ制御装置であって、
前記基本波電流抽出部は、前記U相電流、前記V相電流、及び前記W相電流のいずれか1つを基準相電流として、前記基準相電流の検出波形から前記基準相電流の基本波電流の個別位相を算出し、前記基準相電流の個別位相を前記基準位相φに設定する
モータ制御装置。
【請求項11】
請求項1から10のうちいずれか1項に記載のモータ制御装置であって、
前記モータは、空気調和機に搭載される羽根車を駆動するファンモータである
モータ制御装置。
【請求項12】
請求項11に記載のモータ制御装置と、羽根車とを搭載した空気調和機。
【請求項13】
請求項12に記載の空気調和機であって、さらに、
コンプレッサと、前記第1制御周期よりも短い第2制御周期で前記コンプレッサを制御するコンプレッサ制御装置とを搭載する
空気調和機。
【請求項14】
請求項13に記載の空気調和機であって、
前記モータ制御装置及び前記コンプレッサ制御装置は、一つの制御装置で構成される
空気調和機。
【請求項15】
モータに流れるモータ電流の電流値を検出し、
前記モータ電流の電流値に基づいて、第1制御周期ごとに前記モータの軸誤差を算出し、
前記軸誤差から電圧指令値を算出する
モータ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの駆動を制御するモータ制御装置、空気調和機、及びモータ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、モータの軸誤差から算出したモータの回転速度を用いて、モータに対する電圧指令値を算出する方法が記載されている。この方法では、PLL処理により軸誤差から電気角速度が算出され、電気角速度から機械角速度が算出される。また機械角速度とその指令値との偏差がゼロになるようにq軸電流指令値が算出され、その算出結果からd軸電流指令値が算出される。さらに、q軸及びd軸について、各電流指令値と実際の電流値との偏差がゼロになるようにq軸電圧指令値及びd軸電圧指令値が算出される。各偏差をゼロにする制御には、積分器や比例器が用いられる。これにより高精度なモータ制御が可能となる(特許文献1の明細書段落[0080]-[0095]図1等)
【0003】
また特許文献2には、軸誤差を算出することなくモータを制御する方法が記載されている。この方法では、3相分の電圧振幅値から電圧のベクトル位相が算出され、3相分の電流振幅値から電流のベクトル位相が算出される。また電圧のベクトル位相と電流のベクトル位相との位相差である力率が算出され、算出された力率を予め設けた目標値に近づけるフィードバック制御が実行される。力率を利用することで制御に要する演算量を減らすことが可能となっている(特許文献2の明細書段落[0076]-[0080]、図11等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-86843号公報
【特許文献1】特開2008-199706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のように、軸誤差から算出した回転速度を使ってモータを制御する方法では、複雑な計算を例えばキャリア周期で繰り返すことが求められるため、高い演算能力が必要となる場合がある。また、モータの種類や制御の内容によっては、演算量が不必要に増加することも考えられる。また、特許文献2のように、力率の目標値を定めて制御を行う方法では、目標値を設定する工程が必要であり、設計の工数が増えることになる。加えて、力率の目標値がずれると、モータの制御精度が低下する可能性がある。
このため、設計の工数を増やさずに、モータ制御の演算量を少なくすることが可能な技術が求められている。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、設計の工数を増やさずに、モータ制御の演算量を少なくすることが可能なモータ制御装置、空気調和機、及びモータ制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態に係るモータ制御装置は、電流値検出部と、軸誤差算出部と、電圧制御部とを備える。
前記電流値検出部は、モータに流れるモータ電流の電流値を検出する。
前記軸誤差算出部は、前記モータ電流の電流値に基づいて、第1制御周期ごとに前記モータの軸誤差を算出する。
前記電圧制御部は、前記軸誤差から電圧指令値を算出する。
【0008】
このモータ制御装置では、第1制御周期で算出された軸誤差から、電圧指令値が算出される。これにより、電圧指令値の算出工程を簡略化することが可能となる。また電圧指令値は軸誤差を参照して算出されるため、目標値等を設定する必要はない。これにより、設計の工数を増やさずに、モータ制御の演算量を少なくすることが可能となる。
【0009】
前記電圧制御部は、i番目の制御周期におけるモータ電圧の大きさをViとし、i番目の制御周期における前記軸誤差をΔθiとし、前記軸誤差Δθiを電圧に対応させる係数をαとして、i+1番目の制御周期におけるモータ電圧の大きさVi+1を以下に示す式に従って算出してもよい。
【数1】
【0010】
これにより、軸誤差に応じたモータ電圧の大きさを容易に算出することが可能となる。この結果、演算量が十分に少なく精度のよいモータ制御が可能となる。
【0011】
前記電流値検出部は、所定のキャリア周期に基づいて設定された所定の検出周期で前記モータ電流の電流値を検出してもよい。この場合、前記第1制御周期は、前記所定の検出周期よりも長く設定されてもよい。
【0012】
これにより、モータ電流の電流値の精度を落とさずに、第1制御周期を長くすることが可能となり、モータ制御の演算量を抑制することが可能となる。
【0013】
前記第1制御周期は、前記モータの電気回転角度の1周期であってもよい。
【0014】
これにより、軸誤差を算出する頻度が大幅に少なくなり、演算量を大幅に少なくすることが可能となる。
【0015】
前記モータ制御装置は、さらに、前記モータ電流の電流値から前記モータ電流の基本波成分である基本波電流を抽出する基本波電流抽出部を備えてもよい。
【0016】
基本波電流を用いることで、モータ電流を安定した波形で表して1周期後の制御に用いることができる。これによりモータ制御の安定化を図ることが可能となる。
【0017】
前記基本波電流抽出部は、前記モータ電流の電流値から前記モータ電流の各相の基本波電流を含む多相基本波電流を抽出してもよい。この場合、前記モータ制御装置は、さらに、前記多相基本波電流をd軸電流及びq軸電流に変換し、前記d軸電流の電流値及び前記q軸電流の電流値を出力する電流変換部を備えてもよい。また、前記軸誤差算出部は、前記d軸電流の電流値及び前記q軸電流の電流値に基づいて前記軸誤差を算出してもよい。
【0018】
このように、モータから直接検出できるモータ電流の基本波電流を用いることで、軸誤差を精度よく算出することが可能となり、モータ制御の安定性を向上することが可能となる。
【0019】
前記電圧制御部は、前記q軸電流の電流値からd軸電圧の指令値を算出し、前記軸誤差から算出したモータ電圧の大きさ及び前記d軸電圧の指令値からq軸電圧の指令値を算出してもよい。
【0020】
これにより、軸誤差に応じたd軸電圧及びq軸電圧の各指令値を容易に算出することが可能となる。この結果、モータ制御の演算量を大幅に少なくすることが可能となる。
【0021】
前記多相基本波電流に含まれる各相の基本波電流の波形は、振幅が共通振幅Iで振動し、基準位相φを基準に互いに異なる位相が設定された波形であってもよい。この場合、前記基本波電流抽出部は、前記モータ電流の電流値に対する相関計算を実行して前記共通振幅I及び前記基準位相φを算出してもよい。
【0022】
これにより、多相基本波電流を精度よく抽出することが可能となり、モータの制御精度を向上することが可能となる。
【0023】
前記モータ電流は、U相電流、V相電流、及びW相電流を含んでもよい。この場合、前記基本波電流抽出部は、前記U相電流の検出波形から前記U相電流の基本波電流の個別振幅IUを算出し、前記V相電流の検出波形から前記V相電流の基本波電流の個別振幅IVを算出し、前記W相電流の検出波形から前記W相電流の基本波電流の個別振幅IWを算出し、前記共通振幅Iを以下に示す式に従って算出してもよい。
【数2】
【0024】
これにより、基本波電流の共通振幅を適正に算出することが可能となり、安定したモータ制御が可能となる。
【0025】
前記基本波電流抽出部は、前記U相電流、前記V相電流、及び前記W相電流のいずれか1つを基準相電流として、前記基準相電流の検出波形から前記基準相電流の基本波電流の個別位相を算出し、前記基準相電流の個別位相を前記基準位相φに設定してもよい。
【0026】
これにより、基本波電流に設定する基準位相を適正に算出することが可能となり、安定したモータ制御が可能となる。
【0027】
前記モータは、空気調和機に搭載される羽根車を駆動するファンモータであってもよい。
【0028】
これによりファンモータを安定して精度よく制御することが可能となる。
【0029】
本発明の一形態に係る空気調和機は、前記モータ制御装置と、羽根車とを搭載する。
【0030】
前記空気調和機は、さらに、コンプレッサと、前記第1制御周期よりも短い第2制御周期で前記コンプレッサを制御するコンプレッサ制御装置とを搭載してもよい。
【0031】
これにより、羽根車が長い制御周期で制御され、コンプレッサが短い制御周期で制御される。このため、演算量を不必要に増大させずに空気調和機を動作させることが可能となる。
【0032】
前記モータ制御装置及び前記コンプレッサ制御装置は、一つの制御装置で構成されてもよい。
【0033】
これにより、制御装置を安価に構成することが可能となる。
【0034】
本発明の一形態に係るモータ制御方法は、モータに流れるモータ電流の電流値を検出することを含む。
前記モータ電流の電流値に基づいて、第1制御周期ごとに前記モータの軸誤差を算出する。
前記軸誤差から電圧指令値を算出する。
【0035】
本発明によれば、設計の工数を増やさずに、モータ制御の演算量を少なくすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明の一実施形態に係るモータ制御装置を搭載した空気調和機の構成例を示す模式図である。
図2】モータ制御装置の構成例を示すブロック図である。
図3】モータ制御装置の動作の一例を示すフローチャートである。
図4】モータ制御装置の動作の一例を示す模式的なタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0038】
[空気調和機]
図1は、本発明の一実施形態に係るモータ制御装置を搭載した空気調和機の構成例を示す模式図である。図1に示すように、空気調和機100は、室内機1と、室外機2とを有する。
室内機1は、建造物内の室内空間等に設置して用いられる。室内機1は、室内熱交換器10と、室内送風機11とを有する。
室外機2は、室内機1が設置された建造物の屋外等に設置して用いられ、冷媒を循環させる冷媒配管を介して室内機1と接続される。室外機2は、室外熱交換器20と、圧縮機21と、圧縮機制御装置22と、減圧器(膨張弁)23と、流路切替器(四方弁)24と、羽根車25と、モータ26と、モータ制御装置30とを有する。
【0039】
例えば、暖房運転時には、室外機2の圧縮機21から吐出された高温高圧の冷媒(ガス冷媒)が流路切替器24を介して室内機1の室内熱交換器10に流入する。室内熱交換器10(凝縮器)で空気と熱交換した高圧の冷媒は、凝縮して液化する。その後、高圧の液冷媒は、室外機2の減圧器23を通過することによって減圧され、低温低圧の気液二相冷媒となり室外熱交換器20へ流入する。室外熱交換器20(蒸発器)で外気と熱交換した冷媒は気化する。その後、低圧の冷媒は、流路切替器24を介して圧縮機21に吸入される。
【0040】
また例えば、冷房運転時には、室外機2の圧縮機21から吐出された高温高圧の冷媒が流路切替器24を介して室外熱交換器20に流入する。室外熱交換器20(凝縮器)で外気と熱交換した高圧のガス冷媒は凝縮して液化する。その後、高圧の液冷媒は、室外機2の減圧器23を通過することによって減圧され、低温低圧の気液二相冷媒となり、室内機1の室内熱交換器10へ流入する。室内熱交換器10(蒸発器)では空気と熱交換した冷媒は蒸発して気化する。その後、低圧のガス冷媒は、流路切替器24を介して圧縮機21に吸入される。
【0041】
圧縮機制御装置22は、圧縮機21の動作、すなわち圧縮機21を駆動するコンプレッサモータの回転動作を制御する装置である。例えば空気調和機100の運転モード、設定温度、外気温度等に応じて、コンプレッサモータの回転動作が制御される。本実施形態では、圧縮機21はコンプレッサに相当し、圧縮機制御装置22は、コンプレッサ制御装置に相当する。
【0042】
羽根車25は、モータ26の回転子に固定されて図示しない吹き出し口に向けて配置される。羽根車25としては、例えば自身が回転することで回転軸に沿った気流を生成するプロペラ型の羽根車が用いられる。この他、羽根車25の種類等は限定されない。
モータ26は、回転子に固定された羽根車25を駆動する。空気調和機100では、モータ26に羽根車25を取付けることで送風用のファンが構成される。従ってモータ26は、ファンモータとして機能する。なおモータ26は、上記したコンプレッサモータとは別の素子である。
【0043】
モータ26は、例えば回転子(ロータ)に永久磁石を使用し、固定子に巻線を配置した永久磁石同期モータ(PM同期モータ)である。なお、モータ26の具体的な構成は限定されず、任意の形式の永久磁石モータが用いられてよい。
モータ26の固定子には、駆動回路31から出力された三相の交流電圧がそれぞれ印加される三相の巻線(コイル)が設けられる。以下では、三相交流の各相をU相、V相、W相と記載する。
モータ26の回転子には、モータ26の回転軸と直交するように永久磁石が配置される。ここで、永久磁石のN極の磁束の方向(N極側が+方向)をd軸とし、d軸と直交する軸をq軸とする。
また、電気角で表した回転子の推定位置(U軸を基準とした推定角度)をθeと記載し、電気角で表した回転子の推定角速度をωeと記載する。
【0044】
モータ26が羽根車25を回転させることで、室外空気は室外熱交換器20を通過し冷媒と熱交換する。熱交換された冷気または暖気の気流は室外機2から吹き出される。室外熱交換器20を通過する気流の流量は、羽根車25の回転数、すなわちモータ26の回転数に応じて調整される。以下では、モータ制御装置30によりモータ26が制御される構成について説明する。
【0045】
モータ制御装置30は、電源3から供給される電力をもとにモータ26を回転させ、モータ26の回転動作を制御する装置である。
具体的には、モータ制御装置30は、モータ26のベクトル制御を行う。ベクトル制御では、モータ26の固定子に設けられた巻線に流す電流を、モータ26の回転子に磁束を発生させる電流成分(d軸電流)と、回転子にトルクを発生する電流成分(q軸電流)とに分けて、それぞれの電流成分が独立に制御される。なお、本実施形態では、モータ制御装置30がモータ26としてファンモータのベクトル制御を行う場合について説明するが、他のモータのベクトル制御に本技術を適用することも可能である。
図1に示すように、モータ制御装置30は、駆動回路31と、演算回路32と、電流検出回路33と、DC検出回路34とを有する。
【0046】
駆動回路31は、モータ26を駆動するインバータ駆動回路である。駆動回路31は、電源3から供給された直流電圧を3相の交流電圧として出力し、モータ26に設けられた各相の巻線に印加する。
駆動回路31は、ベクトル制御の制御指令値に基づいてモータ26を駆動する。ここで制御指令値とは、モータ26を制御するためパラメータの指令値である。例えば、モータ26のU相、V相、W相の各相に供給する電圧値についての指令値が制御指令値として駆動回路31に入力される。駆動回路31は、制御指令値が示す電圧を各相に印加する。この電圧に応じてモータ26の各相に電流が流れることでモータ26が駆動する。
また駆動回路31では、モータ26に印加する電圧は、パルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)信号を用いて制御される。また制御指令値は、PWM信号の幅(Duty)を指定するDuty指令値となる。
【0047】
演算回路32は、モータ26の制御に必要な演算処理を行う回路である。演算回路32は、CPU(Central Processing Unit)やメモリ等を搭載したコンピュータを用いて構成される。
演算回路32には、電流検出回路33及びDC検出回路34の検出値や、空気調和機100の室内機1から送信されたコマンドや設定値等が入力される。これらの入力に応じて、モータ26のベクトル制御を行うための制御指令値が算出される。ここでは、モータ26の各相に供給する電圧値を表すDuty指令値が算出される。
【0048】
電流検出回路33は、モータ26に流れるモータ電流の電流値を検出する。ここでモータ電流とは、モータ26を駆動する駆動電流であり、モータ26の巻線に流れる電流である。具体的には、U相、V相、及びW相の各相の巻線に流れるU相電流、V相電流、及びW相電流が、モータ電流として検出される。以下では、電流検出回路33により検出されるモータ電流の電流値を、U相電流iU、V相電流iV、及びW相電流iWと記載する。電流検出回路33の検出結果(iU,iV,iW)は、演算回路32に出力される。
【0049】
電流検出回路33によるモータ電流の検出は、所定のキャリア周期に基づいて設定された所定の検出周期で実行される。すなわち、電流検出回路33は、所定のキャリア周期に基づいて設定された所定の検出周期でモータ電流の電流値を検出する。
ここで所定のキャリア周期とは、PWM信号を生成するための搬送波(キャリア)の周期である。PWM信号のキャリア周期は、モータ26に供給する電圧を調整する最小の時間単位となる。ファンモータの場合、キャリア周波数は、例えば20kHz程度である。所定の検出周期は、例えば所定のキャリア周期に設定される。この場合、モータ電流の詳細な検出データが得られる。あるいは、所定のキャリア周期の2倍、3倍、4倍(上限は5倍)といった周期が所定の検出周期として設定されてもよい。これにより検出動作の頻度を減らすことが可能となる。
【0050】
本実施形態では、電流検出回路33は、単一のシャント抵抗35を用いてモータ電流を検出する回路(1シャント抵抗電流検出回路)として構成される。シャント抵抗35は、駆動回路31(より詳しくは、図2に示すIPM41)とGNDとの間に接続される。また電流検出回路33は、シャント抵抗35にかかる電圧を増幅する増幅回路や増幅回路の出力をAD変換するADコンバータ等を用いて構成される。電流検出回路33により増幅された電圧及びシャント抵抗35の抵抗値からシャント抵抗35に流れる電流が検出される。このシャント抵抗35に流れる電流がモータ電流となる。
なお電流検出回路33の具体的な構成は限定されず、例えばCT(Current Transformer)などの他の電流検出手段が用いられてもよい。本実施形態では、電流検出回路33は、電流値検出部に相当する。
【0051】
DC検出回路34は、電源3の電圧値を検出する回路である。すなわち、DC検出回路34は、モータ26に給電する直流電圧を検出する。DC検出回路34の検出結果は、演算回路32に出力される。
例えば、電源3に供給される外部電源の電圧や負荷の変動等により電源3の電圧値が変化する場合があり得る。このような場合、演算回路32ではDC検出回路34の検出結果を用いて制御指令値が調整される。これにより電源3の電圧が変化してもモータ26を安定して駆動することが可能である。
【0052】
[モータ制御装置]
図2は、モータ制御装置30の構成例を示すブロック図である。
図2に示すように、モータ制御装置30は、上記した駆動回路31、演算回路32、及び電流検出回路33を有する。なお図2では、DC検出回路34の図示が省略されている。
【0053】
駆動回路31は、固定座標系(UVW座標系)における電圧指令ベクトル(VU ,VV ,VW )、すなわちU相電圧指令値VU 、V相電圧指令値VV 、W相電圧指令値VW を演算回路32(2相-3相変換器47)から受け、モータ26を駆動するための直流電圧Vdcを電源3から受ける。本実施形態では、U相電圧指令値VU 、V相電圧指令値VV 、W相電圧指令値VW は、ベクトル制御の制御指令値である。
また駆動回路31は、U相電圧指令値VU 、V相電圧指令値VV 、W相電圧指令値VW 、及び直流電圧Vdcに応じて、3相の交流電圧をU相、V相、W相の各相の巻線を介してモータ26へ供給することにより、モータ26を駆動する。
具体的には、駆動回路31は、PWM変調器40及びインテリジェントパワーモジュール(IPM)41を有する。
【0054】
PWM変調器40は、演算回路32(2相-3相変換器47)から受けた制御指令値(U相電圧指令値VU 、V相電圧指令値VV 、W相電圧指令値VW )をそれぞれPWM信号に変換してIPM41へ供給する。例えば各指令値に応じたパルス幅が設定されたPWM信号が生成される。
【0055】
IPM41は、複数のスイッチング素子を有し、PWM信号をPWM変調器40から受け、PWM信号に従って複数のスイッチング素子を所定のタイミングでスイッチング動作させることで電力変換動作を行い、生成された3相の交流電圧をモータ26へ供給することにより、モータ26を駆動する。
【0056】
電流検出回路33は、単一のシャント抵抗35を用いて、U相、V相、及びW相の各相の巻線に流れるモータ電流の電流値(U相電流iU、V相電流iV、W相電流iW)を検出する。電流検出回路33は、各相の電流値をAD変換してデジタルコンピュータで制御可能な信号として演算回路32(基本波電流抽出部43)へ供給する。
【0057】
演算回路32は、機能ブロックとして、積分器42、基本波電流抽出部43、3相-2相変換器44、軸誤差算出部45、電圧制御部46、及び2相-3相変換器47を有する。演算回路32の各機能ブロックは、専用のIC等を用いて構成されてもよい。
【0058】
積分器42は、角速度指令値ωeを図示しない上位のコントローラから受け、角速度指令値ωeを積分することにより、固定座標系(UVW座標系)における回転子の推定位置として電気回転角度θeを算出し、基本波電流抽出部43及び2相-3相変換器47へそれぞれ出力する。
【0059】
基本波電流抽出部43は、モータ電流の電流値(U相電流iU、V相電流iV、W相電流iW)からモータ電流の基本波成分である基本波電流を抽出する。具体的には、基本波電流抽出部43は、電気回転角度θeを積分器から受け、モータ電流の電流値(U相電流iU、V相電流iV、W相電流iW)を電流検出回路33から受け、電気回転角度θe、U相電流iU、V相電流iV、及びW相電流iWに応じて、各相についての基本波電流を抽出する。
【0060】
モータ26に流れるモータ電流、すなわちU相電流iU、V相電流iV、及びW相電流iWは、基本波電流と高調波電流とを含む交流信号である。例えば交流信号に含まれる周波数成分のうち、基本周波数(典型的には最も低い周波数)で振動する成分が基本波電流である。従って、基本波電流は、基本周波数で振動する正弦波形状の交流電流となる。
また、基本波電流よりも高い周波数で振動する成分が高調波成分である。高調波成分は、例えばPWM信号を用いてモータ電流を生成する際に電流が歪むことで発生する。
【0061】
U相、V相、及びW相の基本波電流は、原理的には振幅が共通であり、位相が120度(2π/3)ずれた正弦波となる。後述するように、本実施形態では、U相電流iU、V相電流iV、及びW相電流iWから個別に抽出された基本波電流のパラメータ(振幅や位相)を用いて、共通振幅で振動する基本波電流が算出される。この算出結果が、後段の3相-2相変換器44に出力される。
【0062】
以下では、基本波電流抽出部43から出力されるU相、V相、及びW相の基本波電流を、U相基本波電流IU'、V相基本波電流IV'、及びW相基本波電流IW'と記載し、これらをまとめて、多相基本波電流と記載する。
このように、基本波電流抽出部43は、モータ電流の電流値(U相電流iU、V相電流iV、W相電流iW)からモータ電流の各相の基本波電流を含む多相基本波電流(U相基本波電流IU'、V相基本波電流IV'、W相基本波電流IW')を抽出する。
【0063】
3相-2相変換器44(UVW/dq)は、多相基本波電流(IU',IV',IW')をd軸電流及びq軸電流に変換し、d軸電流の電流値Id及びq軸電流の電流値Iqを出力する。具体的には、3相-2相変換器44は、U相基本波電流IU'、V相基本波電流IV'、及びW相基本波電流IW'を基本波電流抽出部43から受け、固定座標系(UVW座標系)における電流ベクトル(IU',IV',IW')を回転座標系(d-q座標系)における電流ベクトル(Id,Iq)へ変換する。本実施形態では、3相-2相変換器44は、電流変換部に相当する。
【0064】
3相-2相変換器44による変換処理では、回転子の推定位置を表す電気回転角度θeが、θe=0に設定される。これは、上記した多相基本波電流の基準となる位相が0となるタイミングで座標変換を行うことを意味する。従って、d軸電流及びq軸電流の電流値(Id,Iq)は、多相基本波電流(IU',IV',IW')をθe=0となるタイミングでd-q座標系に変換した場合の電流値となる。以下では、d軸電流の電流値Id及びq軸電流の電流値Iqを、単にd軸電流Id及びq軸電流Iqと記載する場合がある。
3相-2相変換器44は、多相基本波電流(IU',IV',IW')を変換した電流成分(d軸電流Id及びq軸電流Iq)を軸誤差算出部45へ出力する。
【0065】
軸誤差算出部45は、モータ電流の電流値に基づいて、第1制御周期ごとにモータ26の軸誤差Δθを算出する。ここで、軸誤差Δθは、モータ26の回転子の実際の位置と推定位置とのズレを表すパラメータであり、オブザーバ等の手段を用いて推定される。
【0066】
本実施形態では、軸誤差算出部45は、d軸電流Id及びq軸電流Iqに基づいて軸誤差Δθを算出する。具体的には、軸誤差算出部45は、d軸電流Id及びq軸電流Iqを3相-2相変換器44から受け、d軸電圧指令値Vd 及びq軸電圧指令値Vq を電圧制御部46から受け、d軸電流Id、q軸電流Iq、d軸電圧指令値Vd 、及びq軸電圧指令値Vq に応じて、第1制御周期ごとに軸誤差Δθを求め、電圧制御部46へ出力する。
【0067】
第1制御周期は、軸誤差Δθの更新周期である。上記したように、電流検出回路33では、所定のキャリア周期に基づいて設定された所定の検出周期にてモータ電流が検出される。これに対し、第1制御周期は、モータ電流を検出するための所定の検出周期よりも長く設定される。従って、軸誤差Δθを算出する処理は、モータ電流の検出周期やキャリア周期よりも十分に長い周期で実行される。
【0068】
本実施形態では、第1制御周期は、モータ26の電気回転角度の1周期に設定される。すなわち、電気回転角度θeが1回転する周期(θeが0から2πまで変化する周期)が第1制御周期に設定される。一般に電気回転角度の1周期は、キャリア周期に対して十分に長く、軸誤差Δθを算出する頻度を十分に小さくすることが可能となる。
【0069】
電圧制御部46は、軸誤差Δθから電圧指令値を算出する。具体的には、電圧制御部46は、軸誤差Δθを軸誤差算出部45から受け、角速度指令値ωeを図示しない上位のコントローラから受け、軸誤差Δθ及び角速度指令値ωeに応じて、モータ電圧の大きさVを算出する。なお、各制御周期で算出されるモータ電圧の大きさVは、次の制御周期で用いられる。
【0070】
さらに、電圧制御部46は、q軸電流Iqを3相-2相変換器44から受け、直前の制御周期で算出したモータ電圧の大きさVを読み込み、q軸電流Iq、モータ電圧の大きさV、及び角速度指令値ωeに応じて、d-q座標系における電圧指令値(d軸電圧指令値Vd 及びq軸電圧指令値Vq )を生成し、2相-3相変換器に出力する。
電圧制御部46の動作については、後に詳しく説明する。
【0071】
2相-3相変換器47(dq/UVW)は、d軸電圧指令値Vd 及びq軸電圧指令値Vq を電圧制御部46から受け、電気回転角度θeを積分器42から受け、電気回転角度θeに応じて、回転座標系(d-q座標系)における電圧指令ベクトル(Vd ,Vq )を固定座標系(UVW座標系)における電圧指令ベクトル(VU ,VV ,VW )へ変換し、それらをPWM変調器40に出力する。
【0072】
図3は、モータ制御装置30の動作の一例を示すフローチャートである。図3に示す処理は、例えば第1制御周期で繰り返し実行されるループ処理である。
【0073】
図3に示す処理のバックグラウンドでは、電流検出回路33により、所定の検出周期でモータ電流の電流値(iU,iV,iW)が検出され、各電流値のデータが適宜記憶される。
Uのデータは、例えばU相の電流値と、電流値を検出した際の電気回転角度θeとを対応付けて記憶したデータである。同様に、iV及びiWデータは、V相及びW相の電流値と、各電流値を検出した際の電気回転角度θeとを対応付けて記憶したデータである。
ここで、電気回転角度θeは、積分器42により、角速度指令値ωeから以下の式に従って算出される。
【0074】
【数3】
・・・(1)
【0075】
(1)式に示すように、電気回転角度θeは、角速度指令値ωeを時間tについて積分した値である。またθeは、その値が2πとなった時点で0にリセットされる。これは、第1制御周期ごとに、θeがリセットされることを意味する。
なお、(iU,iV,iW)のデータとして、各電流値の検出時刻が記憶されてもよい。この場合、検出時刻から(1)式に従って、電流値を検出した際の電気回転角度θeを算出することが可能である。
【0076】
図3に示す処理では、まず、基本波電流抽出部43により、モータ電流の電流値(iU,iV,iW)から多相基本波電流(IU',IV',IW')が抽出される(ステップ101)。ここでは、直前の制御周期(電気回転角度の1周期)の間に記憶された実電流のデータとして、電流値(iU,iV,iW)のデータが読み込まれ、各電流値に対して相関計算が実行される。相関計算では、第1制御周期で1周期分の電流値(iU,iV,iW)のデータと、sin(θe)及びcos(θe)との相関が計算される。
【0077】
モータ26に実際に流れる実電流であるiU、iV、iWに対して、sin波とcos波で相関をとると、各実電流の基本波電流を表すパラメータ(振幅や位相)が得られる。このパラメータを用いて多相基本波電流(IU',IV',IW')が算出される。このように、基本波電流を抽出することで、実電流を滑らかな波形で表すことが可能となる。この結果、例えばノイズ等により電流値が急変する場合でも安定した制御が可能となる。
【0078】
なお、基本波電流を抽出する際には、定常状態にある電流値を用いることが好ましい。例えば角速度指令値ωeが急激に変化するような状況では、電流値は定常状態とならず、基本波電流を抽出することが難しい。このような場合には、電流値が定常状態となってから、基本波電流の抽出処理が実行されてもよい。定常状態の判定には、角速度指令値ωeや、モータ電流の電流値(iU,iV,iW)の変化量や変化速度に対する閾値判定等が用いられる。
【0079】
次に、3相-2相変換器44により、多相基本波電流(IU',IV',IW')がd軸電流Id及びq軸電流Iqに変換される(ステップ102)。ここでは、ステップ101で算出された多相基本波電流(IU',IV',IW')が、所定の変換式(後述する(6)式)に従って、電気回転角度θe=0でのd軸電流Id及びq軸電流Iqに変換される。
【0080】
次に、電圧制御部46により、d-q座標系における電圧指令値(d軸電圧指令値Vd 及びq軸電圧指令値Vq )が生成される(ステップ103)。
ここで、i番目の制御周期におけるモータ電圧の大きさをViと記載する。Viは、直前の制御周期(i-1番目の制御周期)で算出され、所定のメモリ等に記憶される。
ステップ103では、ステップ102で算出されたq軸電流Iq、直前の制御周期で算出されたモータ電圧の大きさVi、及び角速度指令値ωeから、d軸電圧指令値Vd 及びq軸電圧指令値Vq が算出される。
【0081】
算出されたd軸電圧指令値Vd 及びq軸電圧指令値Vq は、2相-3相変換器47によりU相電圧指令値VU 、V相電圧指令値VV 、W相電圧指令値VW に変換され、PWM変調器40に出力される。これにより、モータ26のベクトル制御が実現される。
なお、Vd 及びVq は、θe=0での電圧指令値である。一方で、2相-3相変換器47から出力されるVU 、VV 、VW は、積分器42から出力されるθeに応じて変化する電圧指令値である。これにより、PWM変調器40に対して、必要なタイミングで三相分の電圧指令値を供給することが可能となる。
【0082】
次に、軸誤差算出部45により、軸誤差Δθが算出される(ステップ104)。ここでは、ステップ102で算出された電気回転角度θe=0でのd軸電流Id及びq軸電流Iqと、ステップ103で算出されたd軸電圧指令値Vd 及びq軸電圧指令値Vq 、角速度指令値ωeから、オブザーバ等の手段を用いて軸誤差Δθが算出される。
以下ではi番目の制御周期における軸誤差をΔθiと記載する。
【0083】
次に、電圧制御部46により、モータ電圧の大きさが更新される(ステップ105)。ここでは、ステップ104で算出された軸誤差Δθi、直前の制御周期で算出されたモータ電圧の大きさViから、次の制御周期(すなわち(i+1)番目の制御周期)におけるモータ電圧の大きさVi+1が算出される。
具体的には、電圧制御部46は、軸誤差Δθiを電圧に対応させる係数をαとして、i+1番目の制御周期におけるモータ電圧の大きさVi+1を以下に示す式に従って算出する。
【0084】
【数4】
・・・(2)
【0085】
(2)式に示すαは、例えばモータ26の特性に応じて設定される定数である。例えば軸誤差Δθが比較的小さい範囲では、軸誤差Δθをゼロにするような電圧の調整量と軸誤差Δθとの関係は、略線形な関係と見做すことが可能である。すなわち、電圧の調整量は、α×Δθとして表すことが可能である。この観点から、軸誤差Δθを電圧の調整量に対応付ける比例係数としてαが設定される。
【0086】
例えば、実際のモータ26に対して動作試験等を行ってαが設定される。動作試験では、軸誤差Δθをゼロにするようなモータ電圧の大きさVの調整量が求められ、軸誤差Δθと調整量との関係からαが算出される。また例えば、シミュレーション等を用いて、αの値が決定されてもよい。また経年変化等によりモータ26の特性が変化するような場合には、αが適宜更新されてもよい。またモータ26の動作モードごとに、各モードに対応したαが設定されてもよい。
【0087】
(2)式を用いることで、軸誤差Δθに応じたモータ電圧の大きさを容易に算出することが可能となる。この結果、演算量が大幅に少なく精度のよいモータ制御が可能となる。
算出されたVi+1は所定のメモリに記憶され、次の制御周期に適宜読み出される。
【0088】
このように、モータ制御装置30では、i-1番目の制御周期で記憶された実電流のデータ(iU,iV,iW)から基本波電流(IU',IV',IW')が抽出される。i番目の制御周期では、この基本波電流を用いて軸誤差算出部45により軸誤差Δθが算出される。さらに、Δθが0になるようにi+1番目の制御周期で用いるモータ電圧の大きさVi+1が算出される。すなわち、Δθが0になるようにモータ電圧の大きさVが1周期ごとに修正される。これにより、モータ26の回転がモータ電圧の大きさVに的確に追従するようにすることが可能となる。
【0089】
図4は、モータ制御装置30の動作の一例を示す模式的なタイムチャートである。図4には、モータ制御の制御周期Pi(i=0、1、2、3)と、各制御周期で算出されるパラメータとが模式的に図示されている。各パラメータのグラフにおいて、縦軸はパラメータの値であり、横軸は位相である。また、横軸の位相は、時間を表している。以下では、図4を参照して、図3に示すループ処理の内容について、具体的に説明する。
【0090】
まず、図4に示すパラメータについて、上から順番に説明する。
角速度指令値ωeは、上位のコントローラから出力される。ここでは、P0~P3において、ωeは一定であり、定常状態となっている。
電気回転角度θeは、ωeを積分して算出される。上記したようにθeの値は、2πとなった場合に、0にリセットされる。ここでは説明のため、数値上は2πでリセットされない電気回転角度θを導入する。上記した制御周期P0は、0≦θ<2πの区間であり、制御周期P1は、2π≦θ<4πの区間であり、制御周期P2は、4π≦θ<6πの区間であり、制御周期P3は、6π≦θ<8πの区間である。
モータ電流の電流値(iU,iV,iW)は、各制御周期Pi内で検出される。図4では、iUのデータが一例としてプロットされている。
【0091】
相関計算は、各制御周期Piにおいて基本波電流抽出部43により実行される。P0、P1、P2、P3で実行される相関計算から得られる多相基本波電流の共通振幅をI1、I2、I3、I4と記載し、多相基本波電流の基準位相をφ1、φ2、φ3、φ4と記載する。
多相基本波電流(IU',IV',IW')は、共通振幅及び基準位相を用いて算出される正弦波である。P1、P2、P3で算出される多相基本波電流を、(IU1',IV1',IW1')、(IU2',IV2',IW2')、(IU3',IV3',IW3')と記載する。図4では、IU1'、IU2'、IU3'の波形が一例としてプロットされている。
【0092】
d軸電流Id及びq軸電流Iqは、多相基本波電流(IU',IV',IW')を変換して算出される。P1、P2、P3で算出されるd軸電流Id及びq軸電流Iqを、(Id1,Iq1)、(Id2,Iq2)、(Id3,Iq3)と記載する。
モータ電圧の大きさViは、制御周期Piごとに修正される。P0~P3にて設定されるモータ電圧の大きさを、V0、V1、V2、V3と記載する。
d軸電圧指令値Vd 及びq軸電圧指令値Vq は、Viと同様に制御周期Piごとに修正される。P0~P3にて設定されるVd 及びVq を、(Vd0,Vq0)、(Vd1,Vq1)、(Vd2,Vq2)、(Vd3,Vq3)と記載する。
また、P1、P2、P3で算出される軸誤差Δθを、Δθ1、Δθ2、Δθ3と記載する。
【0093】
[制御周期P0:0≦θ<2π]
以下では、制御周期P0から図3に示すループ処理が開始されるとする。またθ=0のタイミングでは、モータ26は、モータ電圧の大きさV0、角速度指令値ωeでベクトル制御を行っているものとする。
【0094】
まず、制御周期P0では、モータ電流の電流値(iU,iV,iW)がデータとして記憶される。制御周期P0の間に記憶される1周期分の電流値を(iU0,iV0,iW0)と記載する。図4に示すように、例えばiU0のデータのグラフは、横軸がθで縦軸が電流値となる。これと同様に、iV0及びiW0のデータがそれぞれ記憶される。
【0095】
なお、制御周期P0では、多相基本波電流の抽出処理(ステップ101)や、多相基本波電流の変換処理(ステップ102)は実行されない。
【0096】
制御周期P0のステップ103では、電圧指令値が初期値に設定される。例えば電圧指令値Vd 及びVq が、モータ電圧の大きさV0に応じた初期値(Vd0,Vq0)に設定される。制御周期P0では、これらの初期値に従ってモータ26が駆動される。
なお、制御周期P0では、軸誤差Δθの算出処理(ステップ104)は実行されない。
制御周期P0のステップ105では、モータ電圧の大きさV0が、そのまま次の制御周期P1で用いるモータ電圧の大きさV1に設定される(V1=V0)。
【0097】
[制御周期P1:2π≦θ<4π]
上記したように、ステップ101では、基本波電流抽出部43により、直前の制御周期で記憶された電流値(iU,iV,iW)から、多相基本波電流(IU',IV',IW')が算出される。ここで、多相基本波電流に含まれる各相の基本波電流の波形、すなわち(IU',IV',IW')の波形は、振幅が共通振幅Iで振動し、基準位相φを基準に互いに異なる位相が設定された波形である。具体的には、(IU',IV',IW')は、同じ振幅(共通振幅I)を持ち、基準位相φを基準にして互いの位相が120度ずれた正弦波となる。
【0098】
基本波電流抽出部43は、モータ電流の電流値(iU,iV,iW)に対する相関計算を実行して共通振幅I及び基準位相φを算出する。共通振幅I及び基準位相φが得られると、多相基本波電流(IU',IV',IW')を生成することが可能となる。
以下では、共通振幅I及び基準位相φの算出処理について、具体的に説明する。
【0099】
制御周期P1のステップ101では、制御周期P0で記憶された電流値(iU0,iV0,iW0)から、多相基本波電流(IU1',IV1',IW1')が算出される。この処理では、まず相関計算が実行され、相関計算の結果から共通振幅I及び基準位相φが算出される。
【0100】
上記したように相関計算では、各電流値のデータと、sin(θe)及びcos(θe)との相関が計算される。ここで、電流値(iU0,iV0,iW0)の基本波電流のうちsin成分を(IU0sin,IV0sin,IW0sin)と記載し、基本波成分のうちcos成分を(IU0cos,IV0cos,IW0cos)と記載する。また、U相、V相、W相の各基本波電流の振幅を(IU0,IV0,IW0)と記載する。
なおIU0は、U相電流iUの基本波電流の個別振幅IUの一例である。またIV0は、V相電流iVの基本波電流の個別振幅IVの一例である。またIW0は、W相電流iWの基本波電流の個別振幅IWの一例である。
【0101】
U相の実電流iU0のsin成分IU0sin、cos成分IU0cos、及び個別振幅IU0は、以下の式に従って算出される。
【0102】
【数5】
・・・(3)
【0103】
(3)式において、IU0sin及びIU0cosを算出するための積分は、θeについて0から2πの範囲で実行される。なお、(3)式では、θeの'*'を省略している。
またIU0は、IU0sin及びIU0cosの2乗和の平方根として算出される。
【0104】
V相の実電流iV0のsin成分IV0sin、cos成分IV0cos、個別振幅IV0及び、W相の実電流iW0のsin成分IW0sin、cos成分IW0cos、個別振幅IW0も、(3)式と同様に算出される。
このように、基本波電流抽出部43では、U相電流iUの検出波形からU相電流iUの基本波電流の個別振幅IUが算出される。またV相電流iVの検出波形からV相電流iVの基本波電流の個別振幅IVが算出される。またW相電流iWの検出波形からW相電流iWの基本波電流の個別振幅IWが算出される。
【0105】
U相、V相、W相の各個別振幅が算出されると、多相基本波電流の共通振幅I及び基準位相φが算出される。
共通振幅Iは、3相分の個別振幅(IU,IV,IW)から算出される。
基準位相φは、基準相電流の基本波電流の個別位相として算出される。
【0106】
基本波電流抽出部43では、U相電流iU、V相電流iV、及びW相電流iWのいずれか1つを基準相電流として、基準相電流の検出波形から基準相電流の基本波電流の個別位相が算出され、基準相電流の個別位相が基準位相φに設定される。
ここでは、U相電流iUが、基準相電流に設定され、U相電流iUの個別位相が基準位相φに設定される。なお、V相電流iVやW相電流iWを基準相電流に設定し、V相電流iVやW相電流iWの個別位相を基準位相φに設定してもよい。この場合、後述する(5)式に示す各相電流間の位相差を適宜設定することで、多相基本波電流(IU',IV',IW')を適正に表すことが可能である。
【0107】
制御周期P1では、(3)式に従って算出された電流値(IU0,IV0,IW0)から、共通振幅I1が算出される。また、基準相電流であるU相電流iU0の基本波電流のsin成分IU0sin及びcos成分IU0cosから、基準位相φ1としてU相電流iU0の個別位相が算出される。以下では、基準位相φ1のことをφU1と記載する。
基本波電流抽出部43は、共通振幅I1及び基準位相φU1を以下に示す式に従って算出する。
【0108】
【数6】
・・・(4)
【0109】
(4)式に示すように、共通振幅I1は、3相の実電流の基本波電流の個別振幅(IU0,IV0,IW0)の平均値である。従って共通振幅I1は、各基本波電流の平均振幅であるともいえる。
多相基本波電流(IU1',IV1',IW1')は、(4)式に従って算出された共通振幅I1及び基準位相φU1を用いて以下のように表される。
【0110】
【数7】
・・・(5)
【0111】
(5)式に示すように、IU1'、IV1'、IW1'は、それぞれ共通振幅I1をもつ正弦波である。IU1'の位相は、基準位相φU1に設定され、IV1'の位相は、基準位相φU1から120度(2π/3)だけずれた位相に設定され、IW1'の位相は、基準位相φU1から240度(4π/3)だけずれた位相に設定される。
【0112】
図4には、制御周期P1に算出される基本波電流の一例として、U相の基本波電流IU1'を示すグラフが模式的に図示されている。U相の基本波電流IU1'は、制御周期P0でのU相の実電流iU0の基本波電流に対応する。図4に示すように、実電流iU0は、例えばノイズ成分や電流検出時の誤差等により、正弦波ではない歪んだ波形となる。これに対し、基本波電流IU1'は、(5)式に示すように、歪みのない正弦波として表すことが可能である。これにより、安定したモータ制御を実現することが可能となる。
【0113】
算出された多相基本波電流(IU1',IV1',IW1')は、3相-2相変換器44に出力される。なお、(5)式に示すように、共通振幅I1及び基準位相φU1を算出すれば、それらをパラメータとして多相基本波電流(IU1',IV1',IW1')を表すことが可能となる。従って、多相基本波電流(IU1',IV1',IW1')を算出することは、共通振幅I1及び基準位相φU1を算出することであるとも言える。このため、3相-2相変換器44には、共通振幅I1及び基準位相φU1が出力されてもよい。この場合、3相-2相変換器44において、(5)式で表される多相基本波電流(IU1',IV1',IW1')が構成される。
【0114】
制御周期P1のステップ102では、3相-2相変換器44により、多相基本波電流(IU1',IV1',IW1')が、以下に示す式に従ってd軸電流Id1及びq軸電流Iq1に変換される。
【0115】
【数8】
・・・(6)
【0116】
上記したように、3相-2相変換器44による変換処理は、電気回転角度θe=0として実行される。これにより、d軸電流Id1及びq軸電流Iq1は、例えば制御周期P1が開始されるタイミング(θ=2π)でのd軸電流及びq軸電流を表すことが可能となる。
図4には、制御周期P1におけるd軸電流Id1及びq軸電流Iq1が定数として模式的に図示されている。このように、本実施形態では、直前の制御周期P0でのモータ電流から抽出した基本波電流に基づいて、次の制御周期P1におけるd軸電流Id1及びq軸電流Iq1が算出される。
【0117】
制御周期P1のステップ103では、電圧制御部46により、d軸電流Id1及びq軸電流Iq1から、電圧指令値(Vd1,Vq1)が算出される。具体的には、以下の式に従って電圧指令値(Vd1,Vq1)がそれぞれ算出される。
【0118】
【数9】
・・・(7)
【0119】
(7)式において、Lqは、モータ26のq軸インダクタンスであり、所定のメモリに予め記憶される定数である。またV1は、直前の制御周期P0で設定されたモータ電圧の大きさである。ここでは、上記したようにV1=V0である。
図4には、制御周期P1におけるモータ電圧の大きさV1と、電圧指令値(Vd1,Vq1)とが定数として模式的に図示されている。
【0120】
このように、電圧制御部46は、q軸電流の電流値Iq1からd軸電圧の指令値Vd1を算出する。またモータ電圧の大きさV1及びd軸電圧の指令値Vd1からq軸電圧の指令値Vq1を算出する。この処理では、(7)式に示すように、d軸電流Id1やモータ電圧の大きさV1から直接電圧指令値(Vd1,Vq1)が算出される。従って、電圧指令値を算出するために積分器や比例器を用いた処理は不要であり、モータ制御の演算量を低減することが可能である。
【0121】
電圧指令値(Vd1,Vq1)が算出されると、2相-3相変換器により(Vd1,Vq1)が3相分の電圧指令値(VU ,VV ,VW )に変換される。そして(VU ,VV ,VW )がPWM変調器40に出力され、モータ26が制御される。この時点で、制御周期P1においてモータ26を制御するための処理は完了する。以降の処理は、次の制御周期P2に用いるモータ電圧の大きさを算出するための処理となる。
【0122】
制御周期P1のステップ104では、軸誤差算出部45により、d軸電流Id1及びq軸電流Iq1と、制御周期P0のステップ103で算出されたd軸電圧指令値Vd0及びq軸電圧指令値Vq0と、角速度指令値ωeに基づいて、軸誤差Δθ1が算出される。例えば、Id1、Iq1、Vd0、Vq0、及びωeから、オブザーバ等の手段を用いてモータ26における誘起電圧を逆算し、その位相から軸誤差Δθ1が算出される。
図4には、制御周期P1における軸誤差Δθ1が定数として模式的に図示されている。
【0123】
制御周期P1のステップ105では、電圧制御部46により、ステップ104で算出された軸誤差Δθ1を用いて、次の制御周期P2におけるモータ電圧の大きさV2が算出される。制御周期P2は、4π≦θ<6πとなる期間である。従って、V2を算出することは、θ=4πでモータ電圧の大きさを更新する処理であるともいえる。具体的には、上記した(2)式に従って、V1がV2に更新される。以下にV2の算出式を示す。
【0124】
【数10】
・・・(8)
【0125】
[制御周期P2:4π≦θ<6π]
制御周期P2のステップ101では、基本波電流抽出部43により、制御周期P1で記憶された電流値(iU1,iV1,iW1)から、多相基本波電流(IU2',IV2',IW2')が算出される。ここでは制御周期P1の場合と同様に、電流値(iU1,iV1,iW1)のデータと、sin(θe)及びcos(θe)との相関が計算される。
ここで、電流値(iU1,iV1,iW1)の基本波成分のうちsin成分を(IU1sin,IV1sin,IW1sin)と記載し、基本波成分のうちcos成分を(IU1cos,IV1cos,IW1cos)と記載する。また、U相、V相、W相の各基本波電流の振幅を(IU1,IV1,IW1)と記載する。
【0126】
U相の実電流iU1のsin成分IU1sin、cos成分IU1cos、及び個別振幅IU1は、以下の式に従って算出される。
【0127】
【数11】
・・・(9)
【0128】
V相の実電流iV1のsin成分IV1sin、cos成分IV1cos、個別振幅IV1及び、W相の実電流iW1のsin成分IW1sin、cos成分IW1cos、個別振幅IW1も、(9)式と同様に算出される。
【0129】
個別振幅(IU1,IV1,IW1)が算出されると、多相基本波電流(IU2',IV2',IW2')の共通振幅I2及び基準位相φU2が算出される。共通振幅I2及び基準位相φU2を以下に示す式に従って算出される。
【0130】
【数12】
・・・(10)
【0131】
次に、(10)式に従って算出された共通振幅I1及び基準位相φU1を用いて、多相基本波電流(IU2',IV2',IW2')が算出される。多相基本波電流(IU2',IV2',IW2')の算出に用いられる式は、上記した(5)式と同様である。
【0132】
制御周期P2のステップ102では、3相-2相変換器44により、多相基本波電流(IU2',IV2',IW2')が、電気回転角度θe=0としてd軸電流Id2及びq軸電流Iq2に変換される。この変換に用いられる式は、上記した(6)式と同様である。
【0133】
制御周期P2のステップ103では、電圧制御部46により、d軸電流Id2及びq軸電流Iq2から、電圧指令値(Vd2,Vq2)が算出される。具体的には、以下の式に従って電圧指令値(Vd2,Vq2)がそれぞれ算出される。
【0134】
【数13】
・・・(11)
【0135】
(11)式で用いられるモータ電圧の大きさV2は、制御周期P1のステップ105において(8)式に従って算出されたものである。従って、V2の値は、モータ26の軸誤差Δθ1に基づいて算出された値となる。
このように、電圧制御部46は、q軸電流の電流値Iq2からd軸電圧の指令値Vd2を算出する。また軸誤差Δθ1から算出したモータ電圧の大きさV2及びd軸電圧の指令値Vd2からq軸電圧の指令値Vq2を算出する。
【0136】
軸誤差Δθ1から算出したモータ電圧の大きさV2は、係数αと、直前の制御周期P1における軸誤差Δθ1とを用いて調整された電圧である。従って、(11)式では、電圧指令値(Vd2,Vq2)が、軸誤差Δθ1から直接算出されるともいえる。これにより、d軸及びq軸の各電圧指令値を算出するための演算量を大幅に減少させることが可能となり、モータ制御の演算量を大幅に少なくすることが可能となる。
【0137】
電圧指令値(Vd2,Vq2)が算出されると、2相-3相変換器により(Vd2,Vq2)が3相分の電圧指令値(VU ,VV ,VW )に変換される。そして(VU ,VV ,VW )がPWM変調器40に出力され、モータ26が制御される。
【0138】
制御周期P2のステップ104では、軸誤差算出部45により、d軸電流Id2及びq軸電流Iq2と、制御周期P1のステップ103で算出されたd軸電圧指令値Vd1及びq軸電圧指令値Vq1と、角速度指令値ωeに基づいて、軸誤差Δθ2が算出される。
【0139】
制御周期P2のステップ105では、電圧制御部46により、ステップ104で算出された軸誤差Δθ2を用いて、次の制御周期P3におけるモータ電圧の大きさV3が算出される。すなわち、θ=6πでモータ電圧の大きさが更新される。具体的には、上記した(2)式に従って、V2がV3に更新される。以下にV3の算出式を示す。
【0140】
【数14】
・・・(12)
【0141】
以降、上記した制御周期P2での処理と同様の処理が繰り返し実行される。これにより、モータ26の電気回転角度θeの1周期分の制御周期で、軸誤差Δθから電圧指令値を算出する処理が可能となる。
【0142】
図3及び図4を参照して説明した処理は、例えばキャリア周期やモータ電流の検出周期等と比較して十分に長い制御周期で実行される。このため、電圧指令値の算出頻度が少なくてすむ。またこの処理では、上記したように軸誤差Δθから直接電圧指令値が算出される。これにより、電圧指令値を非常に少ない演算量で算出することが可能となる。
【0143】
[モータ制御装置及び圧縮機制御装置の制御周期]
ここで、空気調和機100に設けられる圧縮機制御装置22について説明する。
図1に示す圧縮機制御装置22は、圧縮機21を構成するコンプレッサモータを制御する装置である。ここまでファンモータであるモータ26を例に説明したが、これをおおよそコンプレッサモータに適用することもできる。
しかし、一般にコンプレッサモータは、羽根車25を回転するモータ26等と比べて、負荷の慣性モーメントが小さい。このため、例えばシングルロータリーのコンプレッサモータでは、機械回転角度の1回転ごとに1回の圧縮脈動が発生する。このため、圧縮機21を精度よく動作させるためには、コンプレッサモータを比較的短い周期(例えばキャリア周期)で制御することが好ましい。言い換えれば、ロータの位置を推定しながらモータを制御する際、圧縮脈動の影響を受けるロータを脱調させずに回転を維持するためには、ロータの位置を短い周期で推定してモータを制御することが好ましい。
【0144】
そこで本実施形態では、圧縮機制御装置22は、ファンモータ(モータ26)を制御するモータ制御装置30に設定された第1制御周期よりも短い第2制御周期で圧縮機21を制御するように構成される。これにより、圧縮機21を精度よく動作させることが可能となり、結果として空気調和機100を精度よく動作させることが可能となる。
【0145】
また、空気調和機100では、モータ制御装置30及び圧縮機制御装置22が、一つの制御装置で構成されてもよい。例えば、モータ制御装置30及び圧縮機制御装置22の機能がマイコン等の一つの制御装置を用いて実現される。
【0146】
上記したように、本発明を適用することで、モータ制御装置30によるモータ制御の演算量を少なくすることが可能である。すなわち、モータ制御装置30の処理負荷を小さくすることが可能となる。これにより、一つの制御装置に、モータ制御装置30及び圧縮機制御装置22の機能を実装した場合であっても、演算量の増大を回避し、モータ26の制御及び圧縮機21の制御を適正に行うことが可能となる。
【0147】
また演算量を抑えることが可能であるため、処理能力の高い演算ユニット等を用いる必要がなくなり、装置コストを抑えることが可能である。別の観点では、処理能力が比較的低い演算ユニットであっても、モータ制御装置30及び圧縮機制御装置22の機能を共存させることが可能となる。
【0148】
このように、本発明を適用することで、ファンモータの制御装置(モータ制御装置30)を、コンプレッサモータの制御装置(圧縮機制御装置22)と共用のCPUに容易に移行することが可能となる。これにより、空気調和機100のコストダウンを図ることが可能となる。
【0149】
以上、本実施形態に係るモータ制御装置30では、第1制御周期で算出された軸誤差Δθから、電圧指令値(Vd ,Vq )が算出される。これにより、例えば軸誤差Δθの算出頻度を抑制することや、電圧指令値(Vd ,Vq )の算出工程を簡略化することが可能となる。また電圧指令値(Vd ,Vq )は軸誤差Δθを参照して算出されるため、目標値等を設定する必要はない。これにより、設計の工数を増やさずに、モータ制御の演算量を少なくすることが可能となる。
【0150】
例えばモータ電流を検出するたびに、軸誤差Δθや電圧指令値を算出する制御方法が考えられる。この場合、軸誤差Δθや電圧指令値を算出するための処理を、モータ電流の検出周期で行うことになり、演算量が非常に多くなることが考えられる。
【0151】
これに対し、本実施形態では、第1制御周期は、電気回転角度θeの1周期に設定される。これは、上記したように、キャリア周期や、キャリア周期に基づいて設定されるモータ電流の検出周期よりも、十分に長い周期である。このように、長い制御周期を設定することで、軸誤差Δθ及び電圧指令値を算出する頻度が下がり、モータ制御の演算量を少なくすることが可能となる。
【0152】
さらに、本実施形態では、上記した(2)式のから軸誤差Δθを使ってモータ電圧の大きさVを更新し、モータ電圧の大きさVを含む関係式(例えば(11)式)から電圧指令値が算出される。すなわち、電圧指令値が軸誤差Δθから直接算出される。これにより、例えば軸誤差Δθをゼロにするような速度制御(PI制御等)を行って電圧指令値を算出するような場合と比べて、電圧指令値の算出に要する演算量を大幅に少なくすることが可能となる。これにより、長い制御周期を設定する効果と合わせて、モータ制御の演算量を大幅に少なくすることが可能となる。
【0153】
一般に、モータの回転数が低い場合には、誘起電圧が小さくなり、検出される電流値も小さくなる。この場合、電流値を適正に検出できなくなる可能性や、電流波形の歪みが大きくなる可能性がある。また、電流波形の歪みによりモータ制御の誤動作が発生し、電圧指令値が発振するといったことも考えられ、モータ26の脱調や停止を引き起こす可能性がある。このため、低回転での運転が難しいという問題があった。
また瞬間的なノイズが発生した場合等には、電流値が急激に変化する。このようにノイズによって変化する電流値を用いてモータ制御を行った場合にも、電圧指令値の発振等が発生し、モータ制御が不安定になることが考えられる。
【0154】
これに対し、本実施形態では、実際のモータ電流(実電流)から基本波電流を抽出して、基本波電流を用いて軸誤差Δθが算出される。基本波電流を抽出することで、例えばモータの回転数が低く実電流の検出精度が低いような場合や、実電流に瞬間的なノイズが発生した場合でも、各相電流を滑らかな正弦波で表すことが可能となる。これにより、軸誤差Δθ及び電圧指令値を適正に算出することが可能となり、安定したモータ制御を実現することが可能となる。
【0155】
とくに、本実施形態では、モータ制御の制御周期(電圧指令値の更新間隔)が比較的長く設定される。このため、仮に電圧指令値が脈動するような場合には、モータ26の動作を安定させるまでに時間がかかる可能性がある。このような場合であっても、基本波電流を用いて軸誤差Δθを算出する構成により、モータ26の状態に応じた適正な電圧指令値を算出することが可能であるため、電圧指令値が脈動するといった事態を未然に回避することが可能となる。これにより、制御周期を長くしてモータ制御の演算量を少なくすることに加え、低回転時にも安定して動作するモータ制御や、ノイズに強いモータ制御を実現することが可能となる。
【0156】
また、本実施形態では、電圧指令値を算出する過程において、モータ26の特性に応じた目標値にパラメータを近づけるといったフィードバック制御が不要である。このため、例えばモータ制御装置30を設計するにあたり、目標値を設定するための作業等を追加する必要はない。これにより、設計の工数を増やさずに、モータ制御の演算量を少なくすることが可能となる。
【0157】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。
【0158】
上記の実施形態では、係数αを用いて、軸誤差Δθからモータ電圧の大きさを算出した。具体的には、(2)式に示すように、係数αと軸誤差Δθとの乗算値をi番目の制御周期のモータ電圧の大きさViに加算して、i+1番目の制御周期のモータ電圧の大きさVi+1を算出した。Vi+1を算出する方法は、これに限定されない。
【0159】
例えば、係数αに代えて、軸誤差Δθを電圧の調整量に対応させる関数f(Δθ)が用いられてもよい。f(Δθ)は、例えばモータ26についての動作試験やシミュレーションにより設定され、軸誤差Δθをゼロにするような電圧の調整量を示す関数である。f(Δθ)は、軸誤差Δθと電圧の調整量とを対応させたデータテーブルとして構成されてもよいし、軸誤差Δθ及び電圧の調整量の対応関係を近似した関数として構成されてもよい。
f(Δθ)を用いることで、モータ電圧の大きさVi+1を精度よく調整することが可能となる。また軸誤差Δθと電圧の調整量とが線形な関係からずれるような領域においても、モータ電圧の大きさVi+1を適正に算出することが可能となる。
【0160】
上記の実施形態では、軸誤差Δθを算出する第1制御周期が、電気回転角度θeの1周期に設定されたが、これに限定されない。
例えば上記では多相基本波電流(IU',IV',IW')から軸誤差Δθが算出された。多相基本波電流(IU',IV',IW')は、電気回転角度θeについて1周期分の実電流(iU,iV,iW)のデータがあれば算出可能である。なお、データ(電気回転角度θe)の位相範囲は任意の範囲でよい。つまり、電気回転角度θeで1周期分のデータを記憶しておけば、軸誤差Δθを算出する周期(第1制御周期)は任意に設定することが可能である。
【0161】
例えば第1制御周期は、電気回転角度θeの1周期より短く設定されてもよい。この場合、例えば電気回転角度θeの1周期の1/2、1/3、1/4といった制御周期が設定される。これにより、モータの制御回数が増えるため、モータ制御の精度を向上することが可能となる。
また例えば、第1制御周期は、電気回転角度θeの1周期より長く設定されてもよい。この場合、例えば電気回転角度θeの1周期の1.5倍、2倍、3倍といった制御周期が設定される。これにより、モータの制御回数が減るため、モータ制御の演算量を大幅に少なくすることが可能となる。
【0162】
また第1制御周期は、モータの動作状態等に応じて可変であってもよい。例えば制御精度が粗くてもよい場合には、第1制御周期が長く設定される。また、高い制御精度が必要な場合には、第1制御周期が短く設定される。この他、第1制御周期を設定する方法は限定されない。
【0163】
上記の実施形態では、実電流(iU,iV,iW)のデータから多相基本波電流(IU',IV',IW')を抽出し、多相基本波電流(IU',IV',IW')から軸誤差Δθや、電圧指令値を算出する構成について説明した。必ずしも、実電流の基本波電流を抽出する必要は無い。
【0164】
例えば、3相-2相変換器44により実電流(iU,iV,iW)をd軸電流Id及びq軸電流Iqに直接変換してもよい。この変換結果(Id及びIq)から、軸誤差Δθや電圧指令値が算出される。この方法では、基本波電流を抽出するための演算が不要であり、演算量を少なくすることが可能である。
また例えば、(iU,iV,iW)や(Id,Iq)についての近似線から、任意のタイミングでの電流の近似値を算出し、近似値を用いて軸誤差Δθや電圧指令値が算出されてもよい。近似値を用いることで、ノイズ等に伴う電流の変化がフィードバックされなくなり、安定したモータ制御を実現することが可能となる。
【0165】
以上説明した本発明に係る特徴部分のうち、少なくとも2つの特徴部分を組み合わせることも可能である。すなわち各実施形態で説明した種々の特徴部分は、各実施形態の区別なく、任意に組み合わされてもよい。また上記で記載した種々の効果は、あくまで例示であって限定されるものではなく、また他の効果が発揮されてもよい。
【符号の説明】
【0166】
3…電源
21…圧縮機
22…圧縮機制御装置
25…羽根車
26…モータ
30…モータ制御装置
33…電流検出回路
43…基本波電流抽出部
44…3相-2相変換器
45…軸誤差算出部
46…電圧制御部
47…2相-3相変換器
100…空気調和機
図1
図2
図3
図4