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特開2024-65265無給水無放流循環式水洗トイレシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065265
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】無給水無放流循環式水洗トイレシステム
(51)【国際特許分類】
   C02F 9/00 20230101AFI20240508BHJP
   C02F 1/78 20230101ALI20240508BHJP
   C02F 3/04 20230101ALI20240508BHJP
   C02F 3/10 20230101ALI20240508BHJP
   C02F 1/28 20230101ALI20240508BHJP
   E03D 1/00 20060101ALI20240508BHJP
   E03D 5/016 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
C02F9/00
C02F1/78
C02F3/04
C02F3/10 A
C02F1/28 N
E03D1/00 A
E03D5/016
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174023
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】500450646
【氏名又は名称】高松 誠二
(71)【出願人】
【識別番号】521255417
【氏名又は名称】坂口 剛彦
(71)【出願人】
【識別番号】521255406
【氏名又は名称】陶山 貴祐
(74)【代理人】
【識別番号】100102761
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 元也
(72)【発明者】
【氏名】高松 誠二
(72)【発明者】
【氏名】陶山 貴祐
【テーマコード(参考)】
2D039
4D003
4D050
4D624
【Fターム(参考)】
2D039AA01
2D039AC09
2D039AC10
2D039DA01
4D003AA02
4D003AB01
4D003BA02
4D003CA03
4D003CA07
4D003CA08
4D003EA01
4D003EA14
4D003EA21
4D003EA38
4D003FA06
4D050AA17
4D050AB01
4D050AB03
4D050AB06
4D050BB02
4D050BB09
4D050BD06
4D050CA06
4D050CA17
4D624AA04
4D624AB06
4D624BB03
4D624BC01
4D624DB12
4D624DB14
4D624DB24
(57)【要約】
【課題】便器から排出される汚水の浄化に優れ、かかる汚水を完全に生分解して再利用可能な水を得るのに好適な、無給水無放流循環式水洗トイレシステムを提供する。
【解決手段】無給水無放流循環式水洗トイレシステムSにおいて、前処理部2にはヒドロキシラジカル槽202が設けられ、後処理部3には第1の反応槽301が設けられる。ヒドロキシラジカル槽202では、処理水中に含まれている油分をヒドロラジカルによって分解しているので、第1の反応槽301では、そのような油分が多孔質体である杉木材チップに溜まったり、杉木材チップの多孔質を構成する多孔に油分の膜が形成されることで微生物の働きを阻害したりすることは無く、好気性微生物および嫌気性微生物による生分解が促進される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水洗トイレ室の便器から排出される汚水を溜める原水槽と、
前記原水槽内で処理された前記汚水の処理水について前処理をする前処理部と、
前記前処理部で前処理された処理水について後処理をする後処理部と、
前記後処理部で後処理されたきれいな水を便器洗浄水として前記水洗トイレ室に供給する給水部と、を具備する無給水無放流循環式水洗トイレシステムであって、
前記原水槽は、
前記汚水を微生物による嫌気分解で処理する機能と、
前記汚水中の固形物を粉砕、撹拌する粉砕撹拌手段と、を有し、
前記前処理部は、
前記原水槽で処理された処理水をヒドロキシラジカルによる物理化学的分解で処理するヒドロキシラジカル槽と、
前記ヒドロキシラジカル槽で処理された処理水を微生物による生分解で処理する曝気槽と、
前記曝気槽で処理された処理水中の固形物を沈殿させる沈殿槽と、
前記沈殿槽内の処理水を所定の流量で前記後処理部へ送る流量調整槽と、を具備し、
前記後処理部は、
前記前処理部の流量調整槽から送られてきた処理水を微生物による生分解で処理する手段として、杉木材チップおよび微生物が充填された第1の反応槽と、
前記第1の反応槽で処理された処理水を脱色消臭する手段として、脱色消臭剤が充填された第2の反応槽と、を備え、
前記給水部は、前記脱色消臭後の処理水を便器洗浄水として前記水洗トイレ室に供給すること
を特徴とする無給水無放流循環式水洗トイレシステム。
【請求項2】
前記ヒドロキシラジカルを生成・供給する手段として、前記ヒドロキシラジカル槽はヒドロキシラジカル生成供給部を備えていること
を特徴とする請求項1に記載の無給水無放流循環式水洗トイレシステム。
【請求項3】
前記ヒドロキシラジカル生成供給部は、前記ヒドロキシラジカル槽から外に出て同ヒドロキシラジカル槽に戻る循環パイプと、前記循環パイプの途中に設けた循環ポンプと、前記循環ポンプから見て循環パイプの下流に設けたインジェクタと、前記インジェクタの両側に取付けた圧力計と、を備えるとともに、下記(1)から(3)の構成を採用してなることを
特徴とする請求項2に記載の無給水無放流循環式水洗トイレシステム。
(1)前記ヒドロキシラジカル槽内の処理水が前記循環パイプを通じて出入し循環する構成。
(2)前記インジェクタでオゾンを吸入し、吸入したオゾンが前記インジェクタを通過する過程で分解する際に、ヒドロラジカルが生成される構成。
(3)生成された前記ヒドロラジカルが前記循環パイプを通じて前記ヒドロキシラジカル槽に供給される構成。
【請求項4】
前記ヒドロキシラジカルは、前記物理化学的分解として、前記処理水中に含まれている油分を分解する手段として機能すること
を特徴とする請求項1に記載の無給水無放流循環式水洗トイレシステム。
【請求項5】
前記杉木材チップは、その大きさが5mmから10mm程度であること
を特徴とする請求項1に記載の無給水無放流循環式水洗トイレシステム。
【請求項6】
前記杉木材チップは、多孔質体であって、遠赤外線を放射する形式の加熱炉にて、多孔質表面積が10m/grになるよう加熱処理されたものであること
を特徴とする請求項1に記載の無給水無放流循環式水洗トイレシステム。
【請求項7】
前記加熱炉は、雲母鉱石が張り廻された100℃前後の加熱炉であり、
前記雲母鉱石が発する遠赤外線の波長は5μmから20μmであり、その放射率は93%であること
を特徴とする請求項6に記載の無給水無放流循環式水洗トイレシステム。
【請求項8】
前記第1の反応槽では、前記微生物による酸化反応と還元反応が同時に連続的に進行すること
を特徴とする請求項1に記載の無給水無放流循環式水洗トイレシステム。
【請求項9】
前記第1の反応槽の上部に、前記処理水中の油分を選択的に吸着するシートが置かれていること
を特徴とする請求項1に記載の無給水無放流循環式水洗トイレシステム。
【請求項10】
前記貯水タンクでは、同タンク内に少量のオゾンが定期的に送り込まれることで、オゾンによる脱色と消毒が行なわれること
を特徴とする請求項1に記載の無給水無放流循環式水洗トイレシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、便器から排出される汚水の浄化に優れ、かかる汚水を完全に生分解して再利用可能な水を得るのに好適な、無給水無放流循環式水洗トイレシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
生活水準が向上するに従い、トイレの水洗化が進んでいる。人々が一日にトイレを利用する回数は、平均8から10回と言われている。
【0003】
トイレの使用後に流す水の量は、以前は20Lぐらいであったが、最近は節約のため平均で10L程度と言われている。
【0004】
女性は通常2から3回流すと言われているが、平均1回とした場合、一人が一日にトイレで流す水の量は、平均で100Lにおよぶと言われている。
【0005】
日本の人口は1億2800万人と言われているので、単純にトイレ使用人口が1億人とした場合、1日にトイレで流す水の量は約1000万トンになり、そのほとんどは生活水である水道水である。
【0006】
世界的には、発展途上国も生活水準が向上し、トイレの水洗化が進んでいるので、世界的規模から見れば、トイレで流す水量は天文学数字になる。
【0007】
国連機構は、2025年には世界人口が80億人を超え、世界的規模で水不足の深刻な状況になると警告している。
【0008】
そこで、世界的水不足の解消に大きく寄与すべく、本発明者は、トイレで使用された汚水を微生物の力を借りて浄化し、最初に水を与えた水を繰り返し再利用できる無給水無放流循環式水洗トイレシステムとして、特許文献1に記載のトイレシステム(以下「従来システム」という)を開発した。
【0009】
前記従来システムは、好気槽(22)を有している。この好気槽(22)には、微生物とその栄養剤を固定してなる杉木材チップが充填されていること、および、充填された杉木材チップは、その組織の一部である水管のキャップが多く開かれ、良質な多孔質体として構成されていること等により、好気槽(22)では、微生物の繁殖が活発化し、微生物による生分解で汚水を処理するように構成してある。
【0010】
しかしながら、従来のシステムでは、汚水中に油分が含まれていること、および、その油分は、好気槽(22)の微生物による生分解では時間が掛かり過ぎ、好気槽(22)に蓄積され、多孔質体である杉木材チップに溜まり、杉木材チップの多孔質を構成する孔に油分の膜(油膜)が形成されることで、微生物の働きを阻害するおそれがあることから、好気槽(22)で微生物による生分解を十分に行うことができず、便器から排出される汚水の浄化に優れたものとはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第5116888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前記問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、便器から排出される汚水の浄化に優れ、かかる汚水を完全に生分解して再利用可能な水を得るのに好適な、無給水無放流循環式水洗トイレシステムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために、本発明は、水洗トイレ室の便器から排出される汚水を溜める原水槽と、前記原水槽内で処理された前記汚水の処理水について前処理をする前処理部と、前記前処理部で前処理された処理水について後処理をする後処理部と、前記後処理部で後処理されたきれいな水を便器洗浄水として前記水洗トイレ室に供給する給水部と、を具備する無給水無放流循環式水洗トイレシステムであって、前記原水槽は、前記汚水を微生物による嫌気分解で処理する機能と、前記汚水中の固形物を粉砕、撹拌する粉砕撹拌手段と、を有し、前記前処理部は、前記原水槽で処理された処理水をヒドロキシラジカルによる物理化学的分解で処理するヒドロキシラジカル槽と、前記ヒドロキシラジカル槽で処理された処理水を微生物による生分解で処理する曝気槽と、前記曝気槽で処理された処理水中の固形物を沈殿させる沈殿槽と、前記沈殿槽内の処理水を所定の流量で前記後処理部へ送る流量調整槽と、を具備し、前記後処理部は、前記前処理部の流量調整槽から送られてきた処理水を微生物による生分解で処理する手段として、杉木材チップおよび微生物が充填された第1の反応槽と、前記第1の反応槽で処理された処理水を脱色消臭する手段として、脱色消臭剤が充填された第2の反応槽と、を備え、前記給水部は、前記脱色消臭後の処理水を便器洗浄水として前記水洗トイレ室に供給することを特徴とする。
【0014】
前記本発明において、前記ヒドロキシラジカルを生成・供給する手段として、前記ヒドロキシラジカル槽は、ヒドロキシラジカル生成供給部を備えていることを特徴としてもよい。
【0015】
前記本発明において、前記ヒドロキシラジカル生成供給部は、前記ヒドロキシラジカル槽から外に出て同ヒドロキシラジカル槽に戻る循環パイプと、前記循環パイプの途中に設けた循環ポンプと、前記循環ポンプから見て循環パイプの下流に設けたインジェクタと、前記インジェクタの両側に取付けた圧力計と、を備えるとともに、下記(1)から(3)の構成を採用してなることを
特徴としてもよい。
(1)前記ヒドロキシラジカル槽内の処理水が前記循環パイプを通じて出入し循環する構成。
(2)前記インジェクタでオゾンを吸入し、吸入したオゾンが前記インジェクタを通過する過程で分解する際に、ヒドロラジカルが生成される構成。
(3)生成された前記ヒドロラジカルが前記循環パイプを通じて前記ヒドロキシラジカル槽に供給される構成。
【0016】
前記本発明において、前記ヒドロキシラジカルは、前記物理化学的分解として、前記処理水中に含まれている油分を分解する手段として機能することを特徴としてもよい。
【0017】
前記本発明において、前記杉木材チップは、その大きさが5mmから10mm程度であることを特徴としてもよい。
【0018】
前記本発明において、前記杉木材チップは、多孔質体であって、遠赤外線を放射する形式の加熱炉にて、多孔質表面積が10m/grになるよう加熱処理されたものであることを特徴としてもよい。
【0019】
前記本発明において、前記加熱炉は、雲母鉱石が張り廻された100℃前後の加熱炉であり、前記雲母鉱石が発する遠赤外線の波長は5μmから20μmであり、その放射率は93%であることを特徴としてもよい。
【0020】
前記本発明において、前記第1の反応槽では、前記微生物による酸化反応と還元反応が同時に連続的に進行することを特徴としてもよい。
【0021】
前記本発明において、前記第1の反応槽の上部に、前記処理水中の油分を選択的に吸着するシートが置かれていることを特徴としてもよい。
【0022】
前記本発明において、前記貯水タンクでは、同タンク内に少量のオゾンが定期的に送り込まれることで、オゾンによる消毒と脱色が行なわれることを特徴としてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、無給水無放流循環式水洗トイレシステムの具体的な構成として、前述の通り、前処理部にはヒドロキシラジカル槽が設けられ、後処理部には第1の反応槽が設けられる構成を採用した。このため、ヒドロキシラジカル槽では、処理水中に含まれている油分をヒドロラジカルによって分解しているので、第1の反応槽では、そのような油分が多孔質体である杉木材チップに溜まったり、杉木材チップの多孔質を構成する多孔に油分の膜が形成されることで微生物の働きを阻害したりすることは無く、好気性微生物および嫌気性微生物による生分解が促進される点で、便器から排出される汚水の浄化に優れ、微生物による生分解を十分に行うことが可能な、無給水無放流循環式水洗トイレシステムを提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明を適用した無給水無放流循環式水洗トイレシステムのフロー説明図。
図2】本発明におけるヒドロキシラジカル生成供給部の説明図。
図3】杉木材の水管セルの組織写真図(杉木材の切断によって水管のキャップが閉ざされた状態)。
図4図1のシステムで使用されている杉木材チップ(遠赤外線雰囲気における100℃前後の熱処理によって杉木材の水脈のキャップが多数開いた良好な状態)の電子顕微鏡写真図。
図5】木材チップの模型図。
図6】本発明を適用した移動式水洗トイレ(便器1個型)の平面図。
図7図6の移動式水洗トイレの側面図。
図8】本発明を適用した移動式水洗トイレ(便器2個型)の平面図。
図9図8の移動式水洗トイレの側面図。
図10】本発明を適用したコンテナ式水洗トイレ(便器1個型)の平面図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
《無給水無放流循環式水洗トイレシステムの概要》
図1は、本発明を適用した無給水無放流循環式水洗トイレシステムのフロー説明図であり、図2は、本発明におけるヒドロキシラジカル生成供給部の説明図である。
【0026】
図1に示された無給水無放流循環式水洗トイレシステムS(以下「本システムS」という)は、同図に示した通り、水洗トイレ室R1の便器から排出される汚水を溜める原水槽1と、原水槽1内で処理された前記汚水の処理水について前処理をする前処理部2と、前記前処理部2で前処理された処理水について後処理をする後処理部3と、前記後処理部3で後処理されたきれいな水を便器洗浄水として前記水洗トイレ室R1に供給する給水部4と、を具備する。
【0027】
《原水槽1の説明》
原水槽1は、汚水を微生物による嫌気分解で処理する機能と、汚水中の固形物を粉砕、撹拌する粉砕撹拌手段(図示省略)と、を有している。
【0028】
前記のような原水槽1における嫌気分解の機能を具体的に実現する手段として、本システムSでは、原水槽1内で嫌気性菌などの微生物が繁殖するように構成している。したがって、大便、小便、及びこれらを流した便器洗浄水など、水洗トイレ室R1の便器から排出された汚水は、最初に、原水槽1内において微生物による嫌気分解で処理される。
【0029】
粉砕撹拌手段の具体的な構成としては、例えば、直径5mm程度のエアー噴射穴を複数形成したPVCパイプが原水槽1に設置される構成を採用してもよい。この場合、かかるPVCパイプは、原水槽1の槽底部に溜まった汚水に対してエアー噴射穴から定期的にエアーを噴射することで、汚水中に含まれている大便その他の固形物を粉砕、撹拌する手段として機能する。定期的なエアーの噴射は、例えば一日に数回程度としてもよく、その回数は必要に応じて適宜変更することができる。
【0030】
また、原水槽1には、原水槽1から前処理部2へ処理水を圧送する手段として、例えばカッタポンプのようなポンプA1が設けられている。原水槽1内で固液分離した前記汚水の処理水は、原水槽1内に一定量溜まった時点で、ポンプA1により自動的に前処理部2へ移送される。この移送は移送パイプB1を通じて行われる。
【0031】
《前処理部2の説明》
前処理部2は、原水槽1で処理された処理水をヒドロキシラジカルによる物理化学的分解で処理するヒドロキシラジカル槽202と、ヒドロキシラジカル槽202で処理された処理水を微生物による生分解で処理する曝気槽203と、曝気槽203で処理された処理水中の固形物を沈殿させる沈殿槽204と、沈殿槽204内の処理水を所定の流量で前記後処理部3へ送る流量調整槽205と、を具備している。
【0032】
また、ヒドロキシラジカル槽202の前段には流量調整槽201が設けられている。この流量調整槽201は、ポンプA1で原水槽1から移送されてきた処理水を一時貯留する機能と、所定量の処理水をポンプA2でヒドロキシラジカル槽202に送る機能と、を有している。前記『所定量』とは、一日分の処理量に応じて決まる、毎分単位の処理水の容量であり、この容量の処理水が流量調整槽201からヒドロキシラジカル槽202に送られる。
【0033】
ヒドロキシラジカル槽202は、処理水中に含まれている高分子(例えば油分)のように微生物による生分解が困難な物質(難分解物質)を物理化学的分解で処理する手段として、その槽内にヒドロキシラジカルを有している。
【0034】
ヒドロキシラジカルを生成・供給する手段として、ヒドロキシラジカル槽202は、図5のヒドロキシラジカル生成供給部5を備えている。
【0035】
図5のヒドロキシラジカル生成供給部5は、(1)ヒドロキシラジカル槽202から外に出て同ヒドロキシラジカル槽202に戻る循環パイプ51と、循環パイプ51の途中に設けた循環ポンプ52と、循環ポンプ52から見て循環パイプ51の下流に設けたインジェクタ53と、インジェクタ53の両側に取付けた圧力計54、55とを備える構成、および(2)ヒドロキシラジカル槽202内の処理水が循環パイプ51を通じて出入・循環する構成、(3)インジェクタ53でオゾンを吸入し、吸入したオゾンがインジェクタ53を通過する過程で分解する際に、ヒドロラジカルが生成される構成(以下「本ヒドロキシラジカル発生法」という)、(4)生成されたヒドロラジカルが循環パイプ51を通じてヒドロキシラジカル槽202に供給される構成を採用している。
【0036】
ヒドロキシラジカルの良く知られている発生法は、フェントン(Fenton)反応である。しかし、この発生法は、費用が掛かりすぎるので、特殊な場合以外使用はしない状況である。本システムSでは、前述の本ヒドロキシラジカル発生法を採用したので、ファントン反応でヒドロキシラジカルを生成する場合の問題、すなわち、費用の高騰は生じない。
【0037】
ところで、先に説明した本ヒドロキシラジカル発生法は、前述のフェントン反応に比べると、ヒドロキシラジカルの発生量が少ない。
【0038】
そこで、本システムSでは、足りないヒドロキシラジカルを補う補足的手段として、循環パイプ51あるいはヒドロキシラジカル槽202のいずれか一方又は双方に過酸化水素を少しずつ添加し、添加した過酸化水素が循環パイプ51を通じて循環ポンプ52とヒドロキシラジカル槽202との間を何度も繰り返し循環する構成を採用している。
【0039】
これにより、本システムSでは、ヒドロキシラジカルの増量が図られ、ヒドロキシラジカルによる作用効果、すなわち油分等の難分解物質の物理化学的な分解能力を最大限に向上させている。なお、過酸化水素は、フェントン反応などによりヒドロキシラジカルへと変化するので、ヒドロキシラジカルの増量を図ることができる。
【0040】
ヒドロキシラジカルは、酸化力が最も強く、殆どの有機物の原子間結合を切断すると言われている。本システムSの前処理部2では、そのようなヒドロキシラジカルの特性を利用し、前述の難分解物質の原子間結合を切断することで、後処理部3において微生物が処理(生分解)し易い環境を作っている。
【0041】
ヒドロキシラジカル槽202内で処理された処理水は、ポンプA3によって、次の曝気槽203へ送られる。この時、毎分送られる処理水の容量は、前記『所定量』と同じであってよい。
【0042】
曝気槽203は、その槽内で微生物が繁殖し、ヒドロキシラジカル槽203で処理された処理水を同曝気槽203内の微生物による生分解で処理する手段として機能するように構成してある。
【0043】
曝気槽203で処理された処理水は、その槽内において所定量溜まることでオーバーフローの状態となって、次の沈殿槽204へ流入する。この流入量も前記『所定量』と同じであってよい。
【0044】
沈殿槽204は、曝気槽203で処理された処理水中の固形物を沈殿させる手段として機能する。この沈殿槽204内の処理水もまた、その槽内において所定量溜まることでオーバーフローの状態となって、次の流量調整槽205へ流入する。この流入量も前記『所定量』と同じであってよい。
【0045】
流量調整槽205は、沈殿槽204から流入した処理水を一時貯留し、所定量の処理水をポンプA4で後処理部3へ送る機能を有している。この時、毎分送られる処理水の容量は、前記『所定量』と同じであってよい。
【0046】
《後処理部3の説明》
後処理部3は、前処理部2から送られてきた処理水を微生物による生分解で処理する手段として、杉木材チップおよび微生物が充填された第1の反応槽301と、第1の反応槽301で処理された処理水を脱色消臭する手段として、脱色消臭剤が充填された第2の反応槽302と、を備えている。
【0047】
第1の反応槽301にはブロワーにより空気が送られる。これは杉木材チップで繁殖する好気菌等の微生物の生命を維持するためである。
【0048】
第1の反応槽301に充填した杉木材チップ、すなわち杉木材を砕いた木片は、表皮を除き、5mmから10mm程度の大きさが適当である。
【0049】
ところで、樹木は根から水分を吸収し、血管に相当する水脈を通して幹から葉に至るまで水分を供給している。この水脈には至る所にキャップがあり、そのキャップの開閉によって樹木は水分調整を行っている。
【0050】
ところが、樹木が切断され命が絶たれると、前述のキャップが閉ざされて水分を囲ってしまうので、建築資材等として利用するためには、木材を自然乾燥、加熱処理などで、水分を放出させる必要がある。
【0051】
特に、杉木材は、他の木材に比べて、キャップが開き難いので、水分除去に相当時間がかかる。
【0052】
図3は、杉木材の水管セルの組織写真図(杉木材の切断によって水管のキャップが閉ざされた状態)である。
図3に示された杉木材のキャップの数は165個/cmであった。これらのキャップを開くことができれば、杉木材は、良質の多孔質体として、その孔の数が飛躍的に増えたものとなる。
【0053】
本発明者は、杉木材のキャップを開くために様々な方法を試みた。その結果、雲母鉱石から発せられる波長5-20μmの雰囲気における100℃前後の加熱によって、杉木材は、多くのキャップが開き、多孔質体として最も良い状態になる、すなわち、多孔質体を構成する孔の数が最も増えた状態になることが、本発明者によって確認された。図3はその最も良い状態の電子顕微鏡写真である。
【0054】
以上のことから、より多くの孔を備えた多孔質体としての杉木材チップを得るため、本発明者は、雲母鉱石が張り廻された100℃前後の加熱炉内において、雲母鉱石からの遠赤外線による杉木材チップの加熱処理を行うことにより、第1の反応槽301に充填する杉木材チップを得た。
【0055】
多孔質体の表面は空気と接触できるので、その多孔質体の表面には好気性微生物が繁殖する。この一方、多孔質体の内部には、空気が行き届かないので、嫌気性微生物が繁殖する。(図4参照)
【0056】
第1の反応槽301には、その槽上部から槽底部に向けて、前処理部2の流量調整槽205から所定の流量で処理水が流入する。また、この第1の反応槽には、孔の数が多い良質な多孔質体としての杉木材チップおよび微生物が充填されているので、好気性微生物と嫌気性微生物が大量に存在する。
【0057】
特に、杉木材チップの外表面部は、空気と接するため、好気性微生物が繁殖した状態となり、杉木材チップの内部、すなわち多孔質体を構成する孔の中は、空気が行き届かないので、嫌気性微生物が繁殖した状態になる。また、杉木材チップの内外境界付近では、好気性微生物と嫌気性微生物がともに共存した状態になる。
【0058】
このため、第1の反応槽301の槽上部から流入した処理水は、その槽下部に向けて徐々に落下する過程で、好気性微生物による酸化反応と嫌気性微生物による還元反応とを繰り返し何度も連続的に受けることになる。その結果、処理水中の有機物質は、略完全に生分解される。
【0059】
有機物を構成する元素はC、H、O、N、S、Pである。有機物が完全に分解されるとCO、HO、N、SO、POになる。このうち、いわゆるスラッジとして残るものはPOだけであるが、残POの量は多くないので、POを無視すると、スラッジは殆ど無いに等しい。
【0060】
従来の”活性汚水泥法”は、水中にて空気を大量に送り込み、酸化反応を中心に行うものであった。これに対し、前記第1の反応槽は、少ない空気の量で、かつ、大量の水中ではなく、木材チップを通過させるだけで、酸化還元反応が同時に進行するという新しい概念の反応を行うものである。
【0061】
ところで、処理水中に含まれている難分解物質、例えば油分は、微生物による生分解では時間が掛かり過ぎ、未分解の難分解物質として処理水中に残り蓄積される。そして、蓄積された未分解の難分解物質(油分)は、多孔質体としての杉木材チップに溜まり、杉木材チップの多孔に膜を張ることで、微生物の働きを阻害するおそれがある。
【0062】
この点、本システムSでは、前述の通り、前処理部2においてヒドロキシラジカルによる物理化学的分解で油分その他の難分解物質を事前に除外していることから、そのような難分解物質が多孔質体としての杉木材チップに溜まったり、溜まった難分解物質の膜が杉木材チップの多孔に張られたりすることはなく、かかる膜によって第1の反応槽301での微生物による酸化還元反応が阻害されるおそれもない。
【0063】
また、本システムSでは、第1の反応槽302の上部に、油分を選択的に吸着するシート(図示省略)を置いている。このシートは、繊維で構成され、水は通すが、油分は吸着し通さないという性質を持っている。
【0064】
《給水部4の説明》
給水部4は、前記脱色・消臭済みの処理水を便器洗浄水として前記水洗トイレ室R1に供給するように構成してある。
【0065】
給水部4の具体的な構成として、本システムSでは、給水部4は、貯水タンク401を備える構成、貯水タンク401内に少量のオゾンが定期的に送り込まれることで、オゾンによる処理水の消毒と脱色が行なわれる構成、および、その消毒・脱色済みの処理水をポンプA8によって水洗トイレ室R1に供給する構成を採用している。
【0066】
以上説明したように、本システムSによると、その具体的な構成として、前処理部2にはヒドロキシラジカル槽202が設けられ、後処理部3には第1の反応槽301が設けられる構成を採用した。このため、ヒドロキシラジカル槽202では、処理水中に含まれている油分をヒドロラジカルによって分解しているので、第1の反応槽301では、そのような油分が多孔質体である杉木材チップに溜まったり、杉木材チップの多孔質を構成する多孔に油分の膜が形成されることで微生物の働きを阻害したりすることは無く、好気性微生物および嫌気性微生物による生分解が促進される点で、便器から排出される汚水の浄化に優れ、微生物による生分解を十分に行うことが可能である。
【0067】
図6は本発明を適用した移動式水洗トイレ(便器1個型)の平面図、図7は、その側面図であり、図8は本発明を適用した移動式水洗トイレ(便器2個型)の平面図、図9はその側面図である。
【0068】
以上説明した本システムSは、例えば図6から図9に示したように、移動式水洗トイレとして構成することができる。この場合、その移動式水洗トイレは、これらの図に示されている通り、水栓トイレ室R1の背面に隣接して機械室R2を設け、この機械室R2に本システムSを格納してもよい。
【0069】
図10は本発明を適用したコンテナ式水洗トイレ(便器1個型)の平面図である。
【0070】
以上説明した本システムSは、例えば図10に示したように、コンテナ式水洗トイレとして構成することができる。この場合、そのコンテナ式水洗トイレは、図10に示されている通り、一つのコンテナC内に複数の水栓トイレ室R1を設け、かつ、図示しない別のコンテナ内に本システムSが格納される構成を採用してもよい。
【0071】
本発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により多くの変形が可能である。
【符号の説明】
【0072】
1 原水槽
2 前処理部
201 流量調整槽
202 ヒドロキシラジカル槽
203 曝気槽
204 沈殿槽
205 流量調整槽
3 後処理部
301 第1の反応槽
302 第2の反応槽
4 給水部
401 貯水タンク
5 ヒドロキラジカル生成供給部
51 循環パイプ
52 循環ポンプ
53 インジェクタ
54、55 圧力計
A1からA8 ポンプ
B1 移送パイプ
C コンテナ
R1 水栓トイレ室
R2 機械室
S 本システム(無給水無放流循環式水洗トイレシステム)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10