(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065272
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】使用済み吸収性物品用処理剤
(51)【国際特許分類】
B09B 3/70 20220101AFI20240508BHJP
A61F 13/551 20060101ALI20240508BHJP
A61F 13/84 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
B09B3/70
A61F13/551
A61F13/84
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174039
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水越 雄太郎
(72)【発明者】
【氏名】仲野 幸弘
【テーマコード(参考)】
3B200
4D004
【Fターム(参考)】
3B200BB17
3B200BB21
4D004AA06
4D004AB01
4D004CA34
4D004CA47
4D004CA50
4D004CC05
4D004CC11
(57)【要約】
【課題】本発明は、使用済み吸収性物品の吸水性樹脂を効率よく脱水することが可能な技術に関する。
【解決手段】本発明の一形態に係る使用済み吸収性物品用処理剤は、吸水性樹脂を含む使用済み吸収性物品用の処理剤であって、多価金属塩と、ノニオン性界面活性剤又はアニオン性界面活性剤の少なくとも一種からなる界面活性剤と、を含有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸水性樹脂を含む使用済み吸収性物品用の処理剤であって、
多価金属塩と、
ノニオン性界面活性剤又はアニオン性界面活性剤の少なくとも一種からなる界面活性剤と、
を含有する使用済み吸収性物品用処理剤。
【請求項2】
前記界面活性剤が、ノニオン性界面活性剤を含む
請求項1に記載の使用済み吸収性物品用処理剤。
【請求項3】
前記ノニオン性界面活性剤のHLB値が、8.0以上である
請求項2に記載の使用済み吸収性物品用処理剤。
【請求項4】
前記ノニオン性界面活性剤のHLB値が、9.0以上15.0以下である
請求項3に記載の使用済み吸収性物品用処理剤。
【請求項5】
前記ノニオン性界面活性剤の少なくとも一種が、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルである
請求項2から4のいずれか一項に記載の使用済み吸収性物品用処理剤。
【請求項6】
前記界面活性剤の含有量は、1質量部の前記多価金属塩に対して0.01質量部以上である
請求項1から5のいずれか一項に記載の使用済み吸収性物品用処理剤。
【請求項7】
使用済み吸収性物品に含まれる吸水性樹脂を脱水する使用済み吸収性物品の処理方法であって、
多価金属塩と、ノニオン性界面活性剤又はアニオン性界面活性剤の少なくとも一種からなる界面活性剤と、を含有する処理液に、前記使用済み吸収性物品を浸漬する工程を含む
使用済み吸収性物品の処理方法。
【請求項8】
前記界面活性剤が、ノニオン性界面活性剤を含む
請求項7に記載の使用済み吸収性物品の処理方法。
【請求項9】
前記処理液における前記界面活性剤の濃度が、30ppm以上である
請求項7又は8に記載の使用済み吸収性物品の処理方法。
【請求項10】
前記使用済み吸収性物品は、
吸水性樹脂を含む吸収体と、
前記吸収体を被覆する被覆材と、を有し、
前記被覆材が、不織布で構成された防漏性シートを含む
請求項7から9のいずれか一項に記載の使用済み吸収性物品の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸水性樹脂を含む使用済み吸収性物品を処理する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
紙おむつ等の吸収性物品は、吸収性を高めるため、吸水性樹脂を含むことがある。吸水性樹脂は、多量の水分を吸収し膨潤する性質を有する。このため、吸水性樹脂を含む吸収性物品は、使用後に吸収された水分によって重くなり、廃棄の負担を増大させ得る。さらに、多量の水分を含んだ使用済み吸収性物品は、焼却処理の妨げとなり、環境負荷を高めるという問題もある。
【0003】
そこで、吸水性樹脂を含む使用済み吸収性物品を脱水処理する技術が知られている。例えば、特許文献1には、塩化カルシウム等の2価の金属イオンを含む処理液を用いて、使用済み紙おむつから水分を離水させる技術が開示されている。また、特許文献2には、多価金属イオンを含む水溶液中で使用済み衛生用品に物理的な力を作用させ、高吸水性ポリマーを脱水する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-112725号公報
【特許文献2】特開2017-193819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の使用済み吸収性物品の脱水処理は、使用済み吸収性物品の水分量が十分に減少するまでに長時間を要する。このため、使用済み吸収性物品をより効率よく脱水する技術が求められている。
【0006】
本発明は、使用済み吸収性物品の吸水性樹脂を効率よく脱水することが可能な技術に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態に係る使用済み吸収性物品用処理剤は、吸水性樹脂を含む使用済み吸収性物品用の処理剤であって、
多価金属塩と、
ノニオン性界面活性剤又はアニオン性界面活性剤の少なくとも一種からなる界面活性剤と、
を含有する。
【0008】
本発明の他の形態に係る使用済み吸収性物品の処理方法は、使用済み吸収性物品に含まれる吸水性樹脂を脱水する使用済み吸収性物品の処理方法であって、
多価金属塩と、ノニオン性界面活性剤又はアニオン性界面活性剤の少なくとも一種からなる界面活性剤と、を含有する処理液に、前記使用済み吸収性物品を浸漬する工程を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、使用済み吸収性物品の吸水性樹脂を効率よく脱水することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る使用済み吸収性物品の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本発明の概要]
本発明は、使用済み吸収性物品の吸水性樹脂を効率よく脱水することが可能な使用済み吸収性物品用処理剤及び使用済み吸収性物品の処理方法に関する。本明細書において、吸収性物品用処理剤を「処理剤」、使用済み吸収性物品の処理方法を「処理方法」とも称する。
吸収性物品に用いられる吸水性樹脂は、多量の水分を吸収及び保持することができる反面、水分を放出しにくいという性質を有する。本発明の技術によれば、吸水した状態の吸水性樹脂からの水分の放出を促進し、吸水性樹脂を効率よく脱水することができる。
また、本技術によって吸水性樹脂を脱水することで、使用済み吸収性物品を減量化でき、廃棄の負担を軽減することができる。また、使用済み吸収性物品の水分量を減少させることで、焼却処理を促進させ、環境負荷を軽減させることができる。さらに、吸水性樹脂を脱水することで、吸水性樹脂を使用済み吸収性物品の他の部材から分離することが容易になり、使用済み吸収性物品の各部材のリサイクルを促進させることも可能となる。
【0012】
本発明において、吸収性物品とは、吸水性樹脂を有し、水分を吸収可能な物品を意味する。吸収性物品としては、例えば、使い捨ておむつ、生理用ナプキン、尿取りパッド、パンティライナー、ペット用トイレシート、ドリップシート、吸湿剤、消臭剤等が挙げられる。なお、「ドリップシート」は、肉や魚等の食材の余分な水分(体液等)を吸収する吸水シートを意味する。
本発明において、使用済み吸収性物品とは、使用後の水分を吸収した状態の吸収性物品を意味する。
さらに、本発明において、吸収性物品は、尿や経血などの体液を吸収する吸収性の衛生用品であることが好ましい。吸収性の衛生用品としては、例えば、使い捨ておむつ、生理用ナプキン、尿取りパッド、パンティライナー等が挙げられる。
【0013】
本発明の吸収性物品は、具体的な構成として、例えば、吸水性樹脂を含む吸収体と、吸収体を被覆する被覆材と、を有することが好ましい。さらに、吸収体に吸収された水分の外部への漏れを抑制するため、被覆材が、防漏性シートを含むことがより好ましい。このような吸収性物品の具体的な構成例については、後述する。
吸水性樹脂(吸収体)が被覆材等に覆われている構成の吸収性物品に対して、吸水性樹脂の脱水を行う場合には、吸収性物品内部への処理液の浸透性が重要となる。本発明の技術によれば、詳細を後述するように、吸収性物品に対する処理液の浸透性を高めることができるため、脱水効率を高めることができる。
【0014】
吸水性樹脂は、一般に、親水性基を有する主鎖が架橋された3次元網目構造を有する。吸水性樹脂は、主鎖と架橋鎖によって構成された網目部分に水分を保持することができる。
具体的に、吸水性樹脂は、例えば、カルボキシル基又はその塩を有する高分子化合物の部分架橋体、又は多糖類の部分架橋体等から選択される少なくとも一種を含む。カルボキシル基又はその塩を有する高分子化合物の部分架橋体としては、例えば、ポリアクリル酸塩架橋体、ポリ(ビニルアルコール/アクリル酸塩)共重合体(架橋体)、澱粉-アクリル酸塩グラフト共重合体(架橋体)及びポリビニルアルコール-ポリ無水マレイン酸塩グラフト共重合体(架橋体)等が挙げられる。多糖類の部分架橋体としては、例えば、カルボキシメチルセルロース塩架橋体等が挙げられる。
また、上記吸水性樹脂を構成する「塩」としては、例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩等)、アンモニウム塩(第四級アンモニウム塩、第四級アルキルアンモニウム塩等)等が挙げられる。
【0015】
[使用済み吸収性物品用処理剤]
本発明の一実施形態に係る処理剤は、多価金属塩と、ノニオン性界面活性剤又はアニオン性界面活性剤の少なくとも一種からなる界面活性剤と、を含有する。本実施形態に係る処理剤では、多価金属塩が吸水性樹脂の脱水作用を有することに加え、ノニオン性界面活性剤又はアニオン性界面活性剤が、多価金属塩の吸収性物品の内部への浸透性を高めると考えられる。したがって、上記処理剤により、吸水性樹脂の脱水効率を高めることができる。
【0016】
本実施形態に係る処理剤は、使用済み吸収性物品を浸漬させて脱水処理する処理液を調製するための剤である。処理剤は、処理液そのものでもよいが、流通や保管を容易にする観点から、水に混合することで処理液を調製可能な剤であることが好ましい。後者の場合、処理剤は、固形状でも液状でもよい。処理剤が固形状の場合は、水への溶解性又は分散性を高めるため、処理剤が粉状又は粒状であることが好ましい。
【0017】
(多価金属塩)
本実施形態に係る多価金属塩は、吸水性樹脂の親水性基に作用することで、当該親水性基と水分子との水素結合を阻害し、水分子を放出させると考えられる。また、多価金属塩は、吸水性樹脂の複数の親水性基と結合することで、新たな架橋を形成し得る。これにより、吸水性樹脂の3次元網目構造が収縮し、網目部分に保持されていた水分子が放出されると考えられる。
【0018】
本実施形態において、多価金属塩は、上記作用を有するものであればよいが、2価又は3価の金属塩であることが好ましい。例えば、本実施形態の多価金属塩は、アルカリ土類金属塩、遷移金属塩、又はアルミニウム塩から選択された少なくとも一種であることが好ましい。
アルカリ土類金属塩としては、例えば、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムの塩が挙げられる。具体的に、アルカリ土類金属塩としては、例えば、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム等が挙げられる。
遷移金属塩としては、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、銅等が挙げられる。遷移金属塩としては、例えば、遷移金属の無機酸塩、有機酸塩、錯体等が挙げられる。無機酸塩としては、例えば、塩化鉄、硫酸鉄、燐酸鉄、硝酸鉄等の鉄塩、塩化コバルト、硫酸コバルト、燐酸コバルト、硝酸コバルト等のコバルト塩、塩化ニッケル、硫酸ニッケル等のニッケル塩、塩化銅、硫酸銅等の銅塩等が挙げられる。有機酸塩類としては、例えば、乳酸鉄、酢酸コバルト、ステアリン酸コバルト、酢酸ニッケル、酢酸銅等が挙げられる。アルミニウム塩としては、例えば、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム等が挙げられる。
これらのうち、本実施形態の多価金属塩は、安全性やコスト等の観点から、塩化カルシウムを含むことが好ましい。
【0019】
(界面活性剤)
本実施形態に係る処理剤は、ノニオン性界面活性剤又はアニオン性界面活性剤の少なくとも一種からなる界面活性剤を含む。本実施形態における界面活性剤は、多価金属塩を含む処理液と使用済み吸収性物品との親和性を高めることで、処理液の使用済み吸収性物品への浸透性を高める作用を有すると考えられる。
【0020】
特に、本実施形態に係る界面活性剤は、ノニオン性界面活性剤の少なくとも一種を含んでいることが好ましい。ノニオン性界面活性剤は、使用済み吸収性物品が防漏性のシート材等の疎水性部材を含んでいる場合にも、当該疎水性部材を介した処理液の浸透性を高めることができると考えられる。
【0021】
ノニオン性界面活性剤の具体例としては、例えば、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルケニルエーテル、ポリエーテル変性シリコン、アルキルグルコシド、アルキルアルカノールアミド、アルキルグリセリルエーテル、高級脂肪酸ショ糖エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、及びアルキルサッカライド等が挙げられる。このうち、処理液の使用済み吸収性物品への浸透性をより高める観点から、ノニオン性界面活性剤がポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを含むことが好ましい。ノニオン性界面活性剤は、単独で用いられてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0022】
ノニオン性界面活性剤のHLB(親水性-親油性のバランス;Hydrophilic-Lypophilic Balance)値は、処理液の使用済み吸収性物品への浸透性を高める観点から、好ましくは8.0以上であり、より好ましくは9.0以上15.0以下である。ノニオン性界面活性剤が上記の好適な範囲のHLB値を有することで、水性の処理液に対する親和性と、疎水性部材等を含む使用済み吸収性物品に対する親和性とのバランスを最適化できるものと考えられる。
上記HLB値は、界面活性剤の水及び油への親和性を示す値であり、グリフィン法により次式から求めることができる。
HLB=20×[(界面活性剤中に含まれる親水性基の分子量)/(界面活性剤の分子量)]
なお、ノニオン性界面活性剤を2種以上用いる場合は、HLB値が上記範囲にある成分を2種以上用いることが好ましい。
【0023】
本実施形態において、処理剤は、アニオン性界面活性剤を含んでいてもよい。アニオン性界面活性剤は、アニオン性基を有する界面活性剤であって、pHを調整することでアニオン性を呈するものを含む。処理剤がアニオン性界面活性剤を含むことで、吸水性樹脂がカチオンを含む場合でも、処理剤の吸水性樹脂に対する親和性を高めることができると考えられる。
【0024】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル又はアルケニルエーテル硫酸塩、アルキル又はアルケニル硫酸塩、オレフィンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、飽和又は不飽和脂肪酸塩、アルキル又はアルケニルエーテルカルボン酸塩、α-スルホ脂肪酸塩、N-アシルアミノ酸塩、リン酸モノ又はジエステル、スルホコハク酸エステル等が挙げられる。アニオン性界面活性剤は、単独で用いられてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いられてもよい。また、アニオン性界面活性剤は、上記ノニオン性界面活性剤と組み合わせて用いられてもよい。
【0025】
本実施形態の処理剤において、界面活性剤の含有量は、使用済み吸収性物品に対する浸透性向上作用を十分に発揮させる観点から、1質量部の多価金属塩に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.015質量部以上であり、好ましくは0.72質量部以下、より好ましくは0.20質量部以下である。
なお、界面活性剤が複数種のノニオン性界面活性剤及び/又はアニオン性界面活性剤を含む場合の界面活性剤の含有量は、当該複数種の界面活性剤の合計の含有量とする。また、処理剤が複数種の多価金属塩を含む場合の多価金属塩の含有量は、当該複数の多価金属塩の合計の含有量とする。
【0026】
[使用済み吸収性物品の処理方法]
本発明の一実施形態に係る処理方法は、使用済み吸収性物品に含まれる吸水性樹脂を脱水する方法である。本実施形態に係る処理方法は、多価金属塩と、ノニオン性界面活性剤又はアニオン性界面活性剤の少なくとも一種からなる界面活性剤と、を含有する処理液に、使用済み吸収性物品を浸漬する浸漬工程を少なくとも含む。浸漬工程では、ノニオン性界面活性剤又はアニオン性界面活性剤の少なくとも一種により、処理液の使用済み吸収性物品への浸透性が向上し、多価金属塩により、使用済み吸収性物品の脱水が促進されると考えられる。なお、浸漬工程では、使用済み吸収性物品の吸水性樹脂から放出された水分が処理液に移行する。
【0027】
本実施形態に係る処理液は、水に、多価金属塩と、ノニオン性界面活性剤又はアニオン性界面活性剤の少なくとも一種と、を混合することで調製されてもよい。あるいは、処理液は、上述の処理剤を用いて調製されてもよく、例えば、処理剤そのものを処理液として用いてもよい。あるいは、処理剤を水に混合することで、処理液が調製されてもよい。処理液は、上記含有成分が水に溶解又は均一に分散されるように、十分に混合されることが好ましい。
【0028】
本実施形態に係る浸漬工程は、例えば、十分な容積を有する処理槽に、処理液及び使用済み吸収性物品を収容することで行われる。浸漬工程では、処理液と使用済み吸収性物品とを十分に反応させる観点から、使用済み吸収性物品を浸漬させた処理液を攪拌することが好ましい。これにより、使用済み吸収性物品に対する処理液の浸透性を高めることができ、吸水性樹脂を効率よく脱水することができる。処理液は、撹拌機などを用いて攪拌されてもよいし、処理槽を駆動することで攪拌されてもよい。本実施形態に係る浸漬工程では、一例として、洗濯機が用いられてもよい。この場合、例えば、洗濯機の洗濯槽に使用済み吸収性物品と処理剤とを投入し、洗濯機を起動する。これにより、洗濯槽に水が注入されるとともに洗濯槽が回転し、攪拌を伴う浸漬処理が自動的に行われる。さらに、洗濯機を用いることで、浸漬工程の他、後述する分離工程、洗浄工程又は水分除去工程の少なくとも一部を、同一の装置で行うことができる。
【0029】
本実施形態に係る浸漬工程では、使用済み吸収性物品の少なくとも一部が、処理液に浸漬されていればよい。このような観点から、処理液の添加量は、使用済み吸収性物品の量や処理槽の形状等に応じて適宜設定されればよい。例えば、処理液の添加量は、1質量部の使用済み吸収性物品に対して、好ましくは2質量部以上、より好ましくは3質量部以上であり、好ましくは220質量部以下、より好ましくは150質量部以下である。
【0030】
浸漬工程における浸漬時間は、吸水性樹脂を十分に脱水できれば特に限定されないが、好ましくは3分以上、より好ましくは5分以上であり、好ましくは30分以下、より好ましくは20分以下である。本実施形態に係る処理方法では、吸水性樹脂の脱水効率を高めることができるため、使用済み吸収性物品を短時間で処理することが可能となる。
【0031】
処理液における多価金属塩の濃度は、コストを抑えつつ脱水効率を高める観点から、好ましくは400ppm以上、より好ましくは700ppm以上であり、好ましくは3500ppm以下、より好ましくは3000ppm以下である。なお、処理液が複数種の多価金属塩を含む場合の多価金属塩の濃度は、当該複数の多価金属塩の合計の濃度とする。
【0032】
処理液における界面活性剤の濃度は、脱水効率を高める観点から、好ましくは30ppm以上、より好ましくは50ppm以上である。また、処理液における界面活性剤の濃度は、コストを抑える観点から、好ましくは2000ppm以下、より好ましくは700ppm以下である。なお、界面活性剤が複数種のノニオン性界面活性剤及び/又はアニオン性界面活性剤を含む場合の界面活性剤の濃度は、当該複数種の界面活性剤の合計の濃度とする。
特に、処理液におけるノニオン性界面活性剤の濃度を50ppm以上とすることで、より確実に脱水効率を高めることができる。
【0033】
[変形例]
本実施形態に係る処理方法は、浸漬工程の他、以下のような工程を含んでいてもよい。
例えば、本実施形態に係る処理方法は、浸漬工程の後、処理液から使用済み吸収性物品を分離する分離工程を含むことが好ましい。分離工程により、使用済み吸収性物品から放出された水分が処理液とともに除去される。分離工程の具体的態様は特に限定されず、例えば、浸漬工程で用いられた処理槽から処理液を排水してもよい。排水には、ポンプ、又は処理槽に接続された排水管等を用いることができる。あるいは、処理液を収容する処理槽から使用済み吸収性物品を取り出してもよい。
【0034】
また、本実施形態に係る処理方法は、分離工程の後、処理液から分離された使用済み吸収性物品を洗浄する洗浄工程をさらに含んでいてもよい。使用済み吸収性物品の洗浄は、例えば、使用済み吸収性物品を水によってすすぐことで行うことができる。これにより、浸漬工程において十分に除去できなかった、使用済み吸収性物品に付着する排泄物などを除去することができる。
【0035】
さらに、本実施形態に係る処理方法は、分離工程の後、好ましくは洗浄工程の後、使用済み吸収性物品に残った水分を除去する水分除去工程を含んでいてもよい。これにより、使用済み吸収性物品をより軽量化することができ、廃棄の負担や焼却処理時の環境負荷をより軽減させることができる。
水分除去工程では、使用済み吸収性物品に物理的な力を加えることで水分を除去してもよいし、使用済み吸収性物品を乾燥させてもよい。物理的な力を加える具体的な処理としては、特に限定されないが、例えば、遠心脱水機、プレス脱水機等による脱水処理、圧搾機などによる圧搾処理等が挙げられる。使用済み吸収性物品を乾燥させる具体的な処理としては、例えば、使用済み吸収性物品の加熱及び風乾等が挙げられる。
【0036】
[使用済み吸収性物品の構成例]
本発明の一実施形態で用いられる使用済み吸収性物品(以下、「吸収性物品」)1は、
図1の断面図に例示するように、吸水性樹脂41を含む吸収体4と、吸収体4を被覆する被覆材5と、を有する。
吸収体4は、水分を吸収して保持する機能を有する。吸収体4は、吸水性樹脂41の他、パルプ繊維等の親水性材料を含んでいてもよい。
【0037】
被覆材5は、
図1に示す例において、吸収体4を挟んで相互に対向する第1シート2及び第2シート3を有する。第1シート2及び第2シート3は、例えば、接着剤及び/又はヒートシール等によって接合されることが好ましい。吸収性物品1が使用済み衛生用品として構成される場合、第1シート2は、例えば、液透過性を有し、着用者の肌側に配置されたトップシートとして構成され得る。これにより、第1シート2が着用者から排泄された体液を透過させ、吸収体4に当該体液を吸収させることができる。
【0038】
第2シート3は、本実施形態において、防漏性を有する防漏性シートとして構成される。防漏性シートは、吸収体4によって保持された水分の外部への漏れを防止する機能を有するシートであり、例えば、液難透過性及び/又は撥水性を有する。このような防漏性シートとしては、例えば、フィルム、フィルムと不織布との積層シート、防漏性を有する不織布等が挙げられる。フィルムは、例えば、微細な通気孔を有する透湿シートであってもよい。吸収性物品1が使用済み衛生用品として構成される場合、第2シート3は、例えば、着用者の非肌側に配置されたバックシートとして構成され得る。
【0039】
本実施形態において、第2シート3は、防漏性を有する不織布として構成されることが好ましい。第2シート3が不織布として構成されることで、繊維間の隙間から吸収体4側へ処理液が透過しやすくなり、脱水効率をより高めることができる。防漏性シートとして用いられる不織布は、例えば、メルトブロー法、スパンボンド法、エアスルー法、エアレイド法、スパンレース法、ニードルパンチ法、エレクトロスピニング法、ケミカルボンド法及びサーマルボンド法等の、公知の製法で形成された不織布層を含む。この不織布は、1層で構成されてもよいし、複数層を有していてもよい。複数層を有する不織布としては、例えば、スパンボンド層とメルトブロー層とを含む複合不織布が挙げられる。
【0040】
防漏性を有する不織布は、例えば、ポリオレフィン樹脂とトリグリセリドとを含有する繊維を含む不織布であることが好ましい(例えば特許7058378号参照)。ポリオレフィン樹脂としては、例えばエチレンやプロピレンなどの低級オレフィンの単独重合体や共重合体を用いることができる。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン及びエチレン-αオレフィン共重合体などが挙げられる。ポリオレフィン樹脂のうち、繊維形成能の高さや、得られる不織布の液体に対するバリア性の高さの観点から、ポリプロピレン、及びプロピレンを共重合成分として含むポリオレフィンを用いることが好ましい。
【0041】
上記不織布において、トリグリセリドは、不織布を構成する繊維の表面張力を低下させて、液体に対する不織布のバリア性を高めるために用いられる。トリグリセリドは、繊維の表面に付着した状態で存在していてもよく、あるいは繊維を構成する樹脂中に練り込まれて存在していてもよい。
トリグリセリドとしては、以下の(a)又は(b)を用いることが好ましい。
(a)炭素原子数16の脂肪酸に由来する基を一分子内に少なくとも含むトリグリセリドと、炭素原子数18の脂肪酸に由来する基を一分子内に少なくとも含むトリグリセリドとの混合物を含むトリグリセリド。
(b)炭素原子数16の脂肪酸に由来する基及び炭素原子数18の脂肪酸に由来する基を一分子内に少なくとも含むトリグリセリドを含むトリグリセリド。
このようなトリグリセリドとしては、飽和脂肪酸由来のトリグリセリド、不飽和脂肪酸由来のトリグリセリド、飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸由来のトリグリセリドなどを用いることができる。いずれの場合であっても、脂肪酸の炭素原子数は例えば12以上24以下とすることができる。液体に対する不織布のバリア性を一層高める観点から、脂肪酸の炭素原子数は14以上22以下であることが好ましく、更に好ましくは16以上20以下である。トリグリセリドは、1種のみを用いてもよく、あるいは複数種のトリグリセリドの混合物として用いてもよい。なお、上記不織布に好適に使用されるトリグリセリドの一例としては、パーム極度硬化油が挙げられる。
【0042】
[他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0043】
本発明に係る処理剤及び/又は処理液は、上記成分の他、本発明の作用効果を奏する範囲内で、任意の成分を含んでいてもよい。
【0044】
上述の実施形態では、使用済み吸収性物品1の被覆材5が第2シート(防漏性シート)3の他、液透過性の第1シート2を有する例について説明したが、使用済み吸収性物品の構成はこれに限定されない。
【実施例0045】
本発明の処理方法の実施例及び比較例について説明する。本発明の実施例及び比較例として、実際の使用済み吸収性物品を想定したおむつのサンプルを用意した。各実施例及び比較例のおむつサンプルを所定の処理液に浸漬させて脱水試験を行い、各実施例及び比較例のサンプルの脱水処理後の保水量を算出した。
実施例1~10では、多価金属塩である塩化カルシウムと、ノニオン性界面活性剤又はアニオン性界面活性剤と、を含有する処理液を用いた。比較例1~3では、ノニオン性界面活性剤又はアニオン性界面活性剤のいずれも含まない処理液を用いた。
【0046】
[実施例1及び比較例1のサンプルの準備]
実施例1及び比較例1のサンプルとして、大人用おむつ(リリーフパワフル尿取りパッドワイド夜用5番、花王株式会社製)を準備した。このおむつは、吸水性樹脂を含む吸収体と、吸収体上に配置された液透過性シート(トップシート)と、吸収体を挟んで液透過性シートと対向して配置された防漏性シート(バックシート)と、を有していた。吸水性樹脂は、ポリアクリル酸ナトリウム塩重合体(SDPグローバル株式会社製、IM997)を用いた。防漏性シートは、微細な通気孔を有する透湿フィルムであった。
【0047】
[実施例2~12及び比較例2~3のサンプルの準備]
実施例2~12及び比較例2~3のサンプルとして、実施例1と同一の市販の大人用おむつに対し、防漏性シートを不織布シートに変更したサンプルを準備した。この不織布シートは、スパンボンド層とメルトブロー層からなる複合不織布シートとした。不織布シートの目付は21.5g/m2であり、そのうちメルトブロー層の目付は6.5g/m2であった。スパンボンド層は、ホモポリプロピレン及び滑剤を含む繊維で構成されたものとした。スパンボンド層の繊維径は、16.5μmであった。メルトブロー層は、67%のホモポリプロピレン、23%のランダムプロピレンコポリマー、及び10%のパーム極度硬化油を含む繊維で構成されたものとした。メルトブロー層の繊維径は、2.1μmであった。
【0048】
[疑似使用済みおむつの調製]
まず、各おむつサンプルの試験前の質量を測定した。そして、500gの生理食塩水(大塚製薬株式会社製)を各おむつサンプルに注入し、10分間静置することで、疑似使用済みおむつを調製した。
【0049】
[処理液の調製]
二槽式洗濯機(NA-W50B1、パナソニック株式会社製)に30Lの水道水を投入した。この水道水に84g(0.28質量%)の塩化カルシウムと、表1~3に示す界面活性剤を処理剤として溶解させ、各実施例及び比較例の処理液を調製した。実施例1~8及び比較例3において、界面活性剤の添加量はそれぞれ15g、処理液における界面活性剤の濃度はそれぞれ0.05質量%(500ppm)とした。実施例9において、界面活性剤の添加量は0.9g、処理液における界面活性剤の濃度は0.003質量%(30ppm)とした。実施例10において、界面活性剤の添加量は1.5g、処理液における界面活性剤の濃度は0.005質量%(50ppm)とした。実施例11において、界面活性剤の添加量は3g、処理液における界面活性剤の濃度は0.01質量%(100ppm)とした。実施例12において、界面活性剤の添加量は60g、処理液における界面活性剤の濃度は0.2質量%(2000ppm)とした。なお、比較例1及び2では、界面活性剤を添加しなかった。
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
表1~3に示す界面活性剤のうち、レオドールTW-L106、レオドールTW-L120は、ノニオン性界面活性剤であり、花王株式会社製であった。エマルゲン103,エマルゲン106,エマルゲン109Pは、ノニオン性界面活性剤であり、花王株式会社製であった。KF-640は、ノニオン性界面活性剤であり、信越化学工業株式会社製であった。エマール270Jは、アニオン性界面活性剤であり、花王株式会社製であった。サニゾールB-50は、カチオン性界面活性剤であり、花王株式会社製であった。各ノニオン性界面活性剤のHLB値は、表1~3に示す通りであった。
【0054】
[脱水試験]
各実施例及び比較例のおむつサンプル及び処理液を用いて、以下のような脱水試験を行った。まず、処理液を収容する洗濯槽に、疑似使用済みおむつを4枚投入し、標準コースで5分間攪拌した。浸漬処理後、洗濯槽から処理液を排水した後、この洗濯槽に水道水30Lを注入し、標準コースで3分間攪拌し、おむつをすすぐことで余分な成分を洗い流した。洗浄処理後、おむつを脱水槽へ移し、5分間遠心脱水した。遠心脱水後の各おむつの質量を測定し、以下の式より各おむつの保水量を求めた。
保水量[g]=脱水後おむつ質量[g]-使用前おむつ質量[g]
各実施例及び比較例における4枚のおむつの保水量の平均値を算出し、この値を各実施例及び比較例における保水量とした。その結果を、表1~3に示す。
【0055】
[実施例1及び比較例1の結果]
透湿性フィルムを有するおむつサンプルを用いた実施例1及び比較例1の結果について説明する。表1に示すように、ノニオン性界面活性剤としてポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを含む処理剤を用いた実施例1のサンプルでは、界面活性剤を含まない処理剤を用いた比較例1のサンプルよりも、脱水後の保水量が大幅に少なかった。この結果から、多価金属塩に加えてノニオン性界面活性剤を含む処理剤を用いることで、脱水効率が高まることがわかった。
【0056】
[実施例2~8及び比較例2~3の結果]
防漏性の不織布シートを有するおむつサンプルを用いた実施例2~8及び比較例2~3の結果について説明する。表2に示すように、ノニオン性界面活性剤又はアニオン性界面活性剤を用いた実施例2~8のサンプルでは、界面活性剤を用いない比較例2、及びカチオン性界面活性剤を用いた比較例3のサンプルよりも、脱水後の保水量が少なかった。これにより、多価金属塩とノニオン性界面活性剤又はアニオン性界面活性剤とを含む処理剤を用いることで、脱水効率が高まることがわかった。さらに、ノニオン性界面活性剤を用いた実施例2~7のサンプルの保水量の平均値は92.7gであるのに対し、アニオン性界面活性剤を用いた実施例8のサンプルの保水量は96gであった。この結果から、多価金属塩とノニオン性界面活性剤とを含む処理剤を用いることで、脱水効率をより高めやすくなることがわかった。
【0057】
次に、同一種の界面活性剤を用いた実施例2~4のサンプルの保水量を比較する。10.5及び13.6のHLB値を有するポリオキシエチレンアルキルエーテルを用いた実施例3,4のサンプルでは、8.1のHLB値を有するポリオキシエチレンアルキルエーテルを用いた実施例2のサンプルよりも、脱水後の保水量が少なかった。この結果から、HLB値が9.0以上のノニオン性界面活性剤を用いることで、脱水効率がより一層高まることがわかった。
【0058】
また、同一種の界面活性剤を用いた実施例6,7のサンプルの保水量を比較する。13.3のHLB値を有するポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを用いた実施例6のサンプルでは、16.7のHLB値を有するポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを用いた実施例7のサンプルよりも、脱水後の保水量が少なかった。これにより、HLB値が15.0以下のノニオン性界面活性剤を用いることで、脱水効率がより一層高まることがわかった。
【0059】
さらに、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを用いた実施例6のサンプルは、同一の濃度のノニオン性界面活性剤を用いた実施例2~7のサンプルのうち、最も保水量が少なかった。これにより、ノニオン性界面活性剤としてポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを用いることで、脱水効率がより一層高まることがわかった。
【0060】
[実施例6,9~12の結果]
処理液における界面活性剤の濃度が異なる実施例6,9~12の結果について説明する。実施例6,9~12の結果から、界面活性剤の濃度依存的に脱水効率が向上するという明確な傾向はみられなかったが、当該濃度が50ppmの実施例10、当該濃度が100ppmの実施例11でやや脱水効率が高まる傾向が見られた。これらの結果から、当該濃度を好ましくは30ppm以上、より好ましくは50ppm以上とし、好ましくは2000ppm以下、より好ましくは700ppm以下とすることで、界面活性剤の使用量を抑えつつ、十分な脱水効率を得られることがわかった。