(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065292
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】両回転式スクロール型圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04C 18/02 20060101AFI20240508BHJP
【FI】
F04C18/02 311J
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174071
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001117
【氏名又は名称】弁理士法人ぱてな
(72)【発明者】
【氏名】武藤 圭史朗
(72)【発明者】
【氏名】本田 和也
(72)【発明者】
【氏名】小林 裕之
(72)【発明者】
【氏名】橋本 友次
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 洋介
(72)【発明者】
【氏名】管原 彬人
【テーマコード(参考)】
3H039
【Fターム(参考)】
3H039AA02
3H039AA13
3H039BB02
3H039CC04
3H039CC24
(57)【要約】
【課題】スクロール圧縮部からハウジングにかかるスラスト荷重を低減させて、騒音振動や動力増加を抑えることのできる両回転式スクロール型圧縮機を提供する。
【解決手段】この両回転式スクロール型圧縮機では、吸入室61Aにスクロール圧縮部80が収容されている。スクロール圧縮部80のスラスト方向の一方側には、吸入室内の吸入圧力、吐出室内の吐出圧力又は、吸入圧力から吐出圧力の間の中間圧力の流体が導入されることで、スクロール圧縮部に対してスラスト方向に作用するスラスト荷重を低減させる圧力調整室76が設けられている。圧力調整室76に導入される流体の吐出圧力は、スクロール圧縮部80に対してスラスト方向の他方側から作用する吐出圧力に対抗する。これにより、ハウジング60に対するスラスト方向一方側へのスクロール圧縮部80のスラスト荷重が低減される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から流体が吸入される吸入室と、流体を外部に吐出する吐出室とを有するハウジングと、
前記ハウジング内に設けられた第1スクロールと、
前記ハウジング内に設けられて前記第1スクロールと対向し、前記第1スクロールとの間に流体を圧縮する圧縮室を形成する第2スクロールとを備え、
前記第1スクロールは、第1端板と、前記第1端板と一体をなし、前記第2スクロールに向かって渦巻状に突出する第1渦巻体とを有し、
前記第2スクロールは、第2端板と、前記第2端板と一体をなし、前記第1スクロールに向かって渦巻状に突出する第2渦巻体とを有する両回転式スクロール型圧縮機であって、
前記第1スクロール及び前記第2スクロールによりスクロール圧縮部が構成され、
前記スクロール圧縮部のスラスト方向の一方側には、前記吸入室内の吸入圧力、前記吐出室内の吐出圧力又は、前記吸入圧力から前記吐出圧力の間の中間圧力の流体が導入されることで、前記スクロール圧縮部に対して前記スラスト方向に作用するスラスト荷重を低減させる圧力調整室が設けられていることを特徴とする両回転式スクロール型圧縮機。
【請求項2】
前記吸入室が前記スクロール圧縮部を収容するスクロール収容室であり、
前記スクロール圧縮部には前記スラスト方向の他方側から前記吐出圧力が作用し、
前記圧力調整室には前記吐出圧力又は前記中間圧力の流体が導入される請求項1記載の両回転式スクロール型圧縮機。
【請求項3】
前記第1スクロールは、前記第1端板から前記圧縮室とは反対側に延びる第1被軸支部と、前記第1端板に対して前記第2スクロールを挟みつつ前記スラスト方向に対向して前記第1端板と連結されるカバー体と、前記カバー体から前記圧縮室とは反対側に延びる第2被軸支部とを有し、
前記第2スクロールは、前記第2端板の前記圧縮室とは反対側に設けられる第3被軸支部を有し、
前記ハウジングは、
前記第1端板に対して前記スラスト方向に対向しつつ前記スクロール収容室を区画する第1区画壁と、前記第1区画壁に設けられた第1軸支部と、
前記カバー体に対して前記スラスト方向に対向しつつ前記スクロール収容室を区画する第2区画壁と、前記第2区画壁に設けられた第2軸支部と、を有し、
前記第2軸支部に偏心して配置された第3軸支部をさらに備え、
前記第1~3被軸支部は、それぞれ軸受けを介して、前記第1~3軸支部に支持されており、
前記圧力調整室は、前記第2端板と前記第3軸支部との間に形成されている請求項2記載の両回転式スクロール型圧縮機。
【請求項4】
前記圧力調整室は、前記第2端板と前記第2軸支部との間に形成されている請求項3記載の両回転式スクロール型圧縮機。
【請求項5】
前記圧力調整室は、前記カバー体と前記第2区画壁との間に形成されている請求項3記載の両回転式スクロール型圧縮機。
【請求項6】
前記第1スクロールは、前記第1端板から前記圧縮室とは反対側に延びる第1被軸支部と、前記第1端板に対して前記第2スクロールを挟みつつ前記スラスト方向に対向して前記第1端板と連結されるカバー体と、前記カバー体から前記圧縮室とは反対側に延びる第2被軸支部とを有し、
前記第2スクロールは、前記第2端板の前記圧縮室とは反対側に設けられる第3被軸支部を有し、
前記ハウジングは、
前記第1端板に対して前記スラスト方向に対向しつつ前記スクロール収容室を区画する第1区画壁と、前記第1区画壁に設けられた第1軸支部と、
前記カバー体に対して前記スラスト方向に対向しつつ前記スクロール収容室を区画する第2区画壁と、前記第2区画壁に設けられた第2軸支部と、を有し、
前記第2軸支部に偏心して配置された第3軸支部をさらに備え、
前記第1~3被軸支部は、それぞれ軸受けを介して、前記第1~3軸支部に支持されており、
前記圧力調整室は、前記第2端板と前記第2軸支部との間に形成されている請求項2記載の両回転式スクロール型圧縮機。
【請求項7】
前記第1スクロールは、前記第1端板から前記圧縮室とは反対側に延びる第1被軸支部と、前記第1端板に対して前記第2スクロールを挟みつつ前記スラスト方向に対向して前記第1端板と連結されるカバー体と、前記カバー体から前記圧縮室とは反対側に延びる第2被軸支部とを有し、
前記第2スクロールは、前記第2端板の前記圧縮室とは反対側に設けられる第3被軸支部を有し、
前記ハウジングは、
前記第1端板に対して前記スラスト方向に対向しつつ前記スクロール収容室を区画する第1区画壁と、前記第1区画壁に設けられた第1軸支部と、
前記カバー体に対して前記スラスト方向に対向しつつ前記スクロール収容室を区画する第2区画壁と、前記第2区画壁に設けられた第2軸支部と、を有し、
前記第2軸支部に偏心して配置された第3軸支部をさらに備え、
前記第1~3被軸支部は、それぞれ軸受けを介して、前記第1~3軸支部に支持されており、
前記圧力調整室は、前記カバー体と前記第2区画壁との間に形成されている請求項2記載の両回転式スクロール型圧縮機。
【請求項8】
前記吸入室が前記スクロール圧縮部を収容するスクロール収容室であり、
前記スクロール圧縮部の前記スラスト方向の前記一方側には、前記圧縮室から圧縮された流体が吐出される前記吐出室が配置されるとともに、前記吐出室における前記一方側の開口を閉塞する仕切壁が配置され、
前記吐出室と前記ハウジングの外部とが前記スラスト方向に対して交差する方向に延びる吐出通路により連通され、
前記圧力調整室は、前記仕切壁の前記吐出室とは反対側の端面と、前記端面に対向するハウジング対向面との間に形成され、
前記圧力調整室には前記吸入圧力の流体が導入される請求項1記載の両回転式スクロール型圧縮機。
【請求項9】
前記ハウジングと前記スクロール圧縮部との間にはスラスト軸受が設けられている請求項1乃至8のいずれか1項記載の両回転式スクロール型圧縮機。
【請求項10】
前記軸受のうち少なくとも1つは滑り軸受である請求項1乃至8のいずれか1項記載の両回転式スクロール型圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は両回転式スクロール型圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に従来の両回転式スクロール型圧縮機が開示されている。この両回転式スクロール型圧縮機は、駆動機構、駆動スクロール、従動機構、従動スクロール及びハウジングを備えている。
【0003】
ハウジングは、外部から流体が吸入される吸入室と、流体を外部に吐出する吐出室とを有している。
【0004】
駆動スクロールは、駆動機構によって駆動軸心周りで回転駆動される。従動スクロールは、駆動スクロールに対して偏心しつつ従動軸心周りで駆動スクロール及び従動機構によって回転従動される。
【0005】
駆動スクロールは、駆動端板及び駆動渦巻体を有している。駆動端板は、駆動軸心と交差して延びている。駆動渦巻体は、駆動端板から従動スクロールに向かって突出し、渦巻状をなしている。
【0006】
従動スクロールは、従動端板及び従動渦巻体を有している。従動端板は、従動軸心と交差して延びている。従動渦巻体は、従動端板から駆動スクロールに向かって突出し、渦巻状をなしている。
【0007】
駆動スクロール及び従動スクロールは、駆動渦巻体と従動渦巻体とが互いに対向して圧縮室を形成するとともに、回転駆動及び回転従動によって圧縮室の容積を変化させ、その容積変化に応じて吸入室から吸入した流体を圧縮して吐出室に吐出する。
【0008】
この両回転式スクロール型圧縮機では、駆動スクロール及び従動スクロールを間に挟んで一対の軸受を配置し、ハウジングに対して、駆動側軸受を介して駆動スクロールを回転可能に支持するとともに、従動側軸受を介して従動スクロールを回転可能に支持している。すなわち、この両回転式スクロール型圧縮機は、駆動スクロール及び従動スクロールの双方がハウジングに対して片持ち状態で支持された片持ち支持タイプである。
【0009】
また、特許文献2には、他の従来の両回転式スクロール型圧縮機であって、両持ち支持タイプのものが開示されている。この両回転式スクロール型圧縮機では、駆動スクロールがハウジングに対して両持ち状態で支持されるとともに、従動スクロールがハウジングに対して片持ち状態で支持されている。この駆動スクロールは、駆動端板に対して従動スクロールを挟みつつ駆動軸心方向に対向して駆動端板と連結されたカバー体を有している。そして、駆動端板に設けられた第1被軸支部が第1軸受を介してハウジングの第1軸支部に支持され、カバー体に設けられた第2被軸支部が第2軸受を介してハウジングの第2軸支部に支持されている。また、従動スクロールは、従動端板に設けられた第3被軸支部が第3軸受を介してハウジングの第3軸支部に支持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002-310073号公報
【特許文献2】特開平7-229480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、両回転式スクロール型圧縮機においては、片持ち支持タイプ及び両持ち支持タイプの何れでも、駆動スクロール及び従動スクロールの双方が軸受を介してハウジングに支持されているだけなので、駆動スクロール及び従動スクロールよりなるスクロール圧縮部の全体がハウジングに対してスラスト方向に移動し得る構成となっている。
【0012】
かかる構成においては、例えばスクロール圧縮部が吸入室に収容されている場合に、このスクロール圧縮部に対してスラスト方向の一方側から吐出圧力が作用すると、スクロール圧縮部はスラスト方向の他方側に押される。このため、この場合、スクロール圧縮部の他方側において、スクロール圧縮部からのスラスト荷重を受けるための構造が必要になる。このスラスト荷重を受けるための構造として、例えば、スラスト荷重も受けることのできるラジアル軸受けとして玉軸受を採用すると振動騒音の問題が懸念され、また、ラジアル軸受け及びスラスト軸受を併用すると動力増加の問題が懸念される。
【0013】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、スクロール圧縮部からハウジングにかかるスラスト荷重を低減させて、振動騒音や動力増加を抑えることのできる両回転式スクロール型圧縮機を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の両回転式スクロール型圧縮機は、外部から流体が吸入される吸入室と、流体を外部に吐出する吐出室とを有するハウジングと、
前記ハウジング内に設けられた第1スクロールと、
前記ハウジング内に設けられて前記第1スクロールと対向し、前記第1スクロールとの間に流体を圧縮する圧縮室を形成する第2スクロールとを備え、
前記第1スクロールは、第1端板と、前記第1端板と一体をなし、前記第2スクロールに向かって渦巻状に突出する第1渦巻体とを有し、
前記第2スクロールは、第2端板と、前記第2端板と一体をなし、前記第1スクロールに向かって渦巻状に突出する第2渦巻体とを有する両回転式スクロール型圧縮機であって、
前記第1スクロール及び前記第2スクロールによりスクロール圧縮部が構成され、
前記スクロール圧縮部のスラスト方向の一方側には、前記吸入室内の吸入圧力、前記吐出室内の吐出圧力又は、前記吸入圧力から前記吐出圧力の間の中間圧力の流体が導入されることで、前記スクロール圧縮部に対して前記スラスト方向に作用するスラスト荷重を低減させる圧力調整室が設けられていることを特徴とする。
【0015】
本発明の両回転式スクロール型圧縮機では、例えばスクロール圧縮部が吸入室に収容されている場合に、そのスクロール圧縮部に対してスラスト方向の他方側から吐出圧力が作用すると、そのスクロール圧縮部にはハウジングに対するスラスト方向一方側へのスラスト荷重が発生する。また例えば、吐出室に収容されたスクロール圧縮部に対してスラスト方向の他方側から吸入圧力が作用すると、そのスクロール圧縮部にはハウジングに対するスラスト方向他方側へのスラスト荷重が発生する。
【0016】
この点、本発明の両回転式スクロール型圧縮機では、スクロール圧縮部のスラスト方向の一方側に、所定の圧力の流体が導入される圧力調整室が配置されている。この圧力調整室に導入される流体の圧力は、スクロール圧縮部に対してスラスト方向に作用する流体圧力によってスクロール圧縮部に生じるスラスト荷重を低減させるように作用する。これにより、スクロール圧縮部からハウジングにかかるスラスト荷重が低減される。
【0017】
したがって、この両回転式スクロール型圧縮機によれば、スクロール圧縮部からハウジングにかかるスラスト荷重を低減させて、振動騒音や動力増加を抑えることができる。
【0018】
吸入室がスクロール圧縮部を収容するスクロール収容室である場合、スクロール圧縮部にはスラスト方向の他方側から吐出室の吐出圧力が作用し、圧力調整室には吐出圧力又は中間圧力の流体が導入されることが好ましい。
【0019】
スクロール圧縮部が吸入室に収容される場合、スクロール圧縮部に対してスラスト方向の他方側から吐出室の吐出圧力が作用するとき、圧力調整室に吐出圧力又は中間圧力の流体が導入されれば、スクロール圧縮部にスラスト方向の他方側から作用する吐出圧力に対して圧力調整室に導入された流体の吐出圧力又は中間圧力を対抗させることができる。これにより、スクロール圧縮部に対してスラスト方向の他方側から作用する吐出圧力によってスクロール圧縮部に生じるスラスト荷重を低減させることができる。その結果、スクロール圧縮部からハウジングにかかるスラスト方向一方側へのスラスト荷重を低減させることができる。
【0020】
第1スクロールは、第1端板から圧縮室とは反対側に延びる第1被軸支部と、第1端板に対して第2スクロールを挟みつつスラスト方向に対向して第1端板と連結されるカバー体と、カバー体から圧縮室とは反対側に延びる第2被軸支部とを有し得る。
【0021】
第2スクロールは、第2端板の圧縮室とは反対側に設けられる第3被軸支部を有し得る。
【0022】
ハウジングは、第1端板に対してスラスト方向に対向しつつスクロール収容室を区画する第1区画壁と、第1区画壁に設けられた第1軸支部と、カバー体に対してスラスト方向に対向しつつスクロール収容室を区画する第2区画壁と、第2区画壁に設けられた第2軸支部と、を有し、第2軸支部に偏心して配置された第3軸支部をさらに備え得る。これら第1~3被軸支部は、それぞれ軸受けを介して、第1~3軸支部に支持され得る。
【0023】
そして、圧力調整室は、第2端板と第3軸支部との間に形成されていることが好ましい。また、圧力調整室は、第2端板と第2軸支部との間に形成されていることが好ましい。さらに、圧力調整室は、カバー体と第2区画壁との間に形成されていることが好ましい。また、圧力調整室は、第2端板と第3軸支部との間に形成されるとともに、第2端板と第2軸支部との間にも形成されていることが好ましい。さらに、圧力調整室は、第2端板と第3軸支部との間に形成されるとともに、カバー体と第2区画壁との間にも形成されていることが好ましい。
【0024】
この場合、ハウジングに対して両持ち状態で支持された第1スクロール及び片持ち状態で支持された第2スクロールよりなるスクロール圧縮部の全体は、ハウジングの第1軸支部、第2軸支部及び第3軸支部に支持される。
【0025】
そして、第2端板と第3軸支部との間、第2端板と第2軸支部との間、又はカバー体と第2区画壁との間に圧力調整室が形成されている。あるいは、第2端板と第3軸支部との間及び第2端板と第2軸支部との間に圧力調整室が形成されたり、第2端板と第3軸支部との間及びカバー体と第2区画壁との間に圧力調整室が形成されたりしている。
【0026】
かかる構成において、スクロール圧縮部に対してスラスト方向の他方側から吐出室の吐出圧力が作用するとき、圧力調整室に吐出圧力又は中間圧力の流体が導入されれば、スクロール圧縮部にスラスト方向の他方側から作用する吐出圧力に対して圧力調整室に導入された流体の吐出圧力又は中間圧力を対抗させることができる。これにより、スクロール圧縮部に対してスラスト方向の他方側から作用する吐出圧力によってスクロール圧縮部に生じるスラスト荷重を低減させることができる。その結果、スクロール圧縮部からハウジングにかかるスラスト方向一方側へのスラスト荷重を低減させることができる。
【0027】
また、この場合、圧力調整室に導入された流体の吐出圧力又は中間圧力によって、第1スクロールに対して第2スクロールがスラスト方向の他方側に押し付けられる。これにより、第1渦巻体の先端と第2端板との間及び第2渦巻体の先端と第1端板との間におけるシール性が向上しうる。
【0028】
吸入室がスクロール圧縮部を収容するスクロール収容室である場合、スクロール圧縮部のスラスト方向の一方側には、圧縮室から流体が吐出される吐出室が配置されるとともに、吐出室における一方側の開口を閉塞する仕切壁が配置されることが好ましい。そして、この吐出室とハウジングの外部とがスラスト方向に対して交差する方向に延びる吐出通路により連通されていることが好ましい。また、圧力調整室は、仕切壁の吐出室とは反対側の端面と、この端面に対向するハウジング対向面との間に形成され、この圧力調整室には吸入圧力の流体が導入されることが好ましい。
【0029】
吸入室に収容されたスクロール圧縮部のスラスト方向の一方側に、圧縮室から流体が吐出される吐出室が配置されており、この吐出室がスラスト方向に開放されている場合、スクロール圧縮部には吐出室からの吐出圧力によってスラスト方向他方側へのスラスト荷重が発生する。この点、吐出室における一方側の開口を閉塞する仕切壁を介して圧力調整室が配置されており、この圧力調整室に吸入圧力の流体が導入されるとともに、吐出室とハウジングの外部とがスラスト方向に対して交差する方向に延びる吐出通路により連通されている。このため、吐出室からの吐出圧力によってスクロール圧縮部にスラスト荷重が生じることがない。このため、スクロール圧縮からハウジングにかかるスラスト荷重を低減させることができる。
【0030】
ハウジングとスクロール圧縮部との間にはスラスト軸受が設けられていることが好ましい。
【0031】
この場合、スクロール圧縮部からハウジングにかかるスラスト荷重をスラスト軸受により受けることができる。そして、圧力調整室が設けられていない場合と比較して、このスラスト軸受で受けるスラスト荷重が低減するので、スラスト軸受を設けることによる動力増加を抑えることができる。
【0032】
軸受のうち少なくとも1つは滑り軸受であることが好ましい。
【0033】
この場合、玉軸受によってスクロール圧縮部をハウジングに支持する場合と比較して、振動や騒音を抑えるのに有利となる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の両回転式スクロール型圧縮機によれば、スクロール圧縮部からハウジングにかかるスラスト荷重を低減させて、振動騒音や動力増加を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】
図1は、実施例1の両回転式スクロール型圧縮機の断面図である。
【
図2】
図2は、実施例1の両回転式スクロール型圧縮機に係り、要部を拡大して示す部分拡大断面図である。
【
図3】
図3は、実施例2の両回転式スクロール型圧縮機に係り、要部を拡大して示す部分拡大断面図である。
【
図4】
図4は、実施例3の両回転式スクロール型圧縮機に係り、要部を拡大して示す部分拡大断面図である。
【
図5】
図5は、実施例4の両回転式スクロール型圧縮機に係り、要部を拡大して示す部分拡大断面図である。
【
図6】
図6は、実施例5の両回転式スクロール型圧縮機に係り、要部を拡大して示す部分拡大断面図である。
【
図7】
図7は、実施例6の両回転式スクロール型圧縮機の断面図である。
【
図8】
図8は、参考例の両回転式スクロール型圧縮機の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明を具体化した実施例1~6を図面を参照しつつ説明する。
【0037】
(実施例1)
図1に示すように、実施例1の両回転式スクロール型圧縮機(以下、単に圧縮機という)は、ハウジング60、スクロール圧縮部80、電動モータ10、駆動スクロール30、従動スクロール40及び従動機構20を備えている。この圧縮機は、図示しない車両に搭載されており、車両用空調装置を構成している。
【0038】
本実施例では、
図1に示す実線矢印によって、圧縮機の前後方向を規定している。なお、前後方向は説明の便宜のための一例であり、圧縮機は搭載される車両に応じて、自己の姿勢を適宜変更可能である。
【0039】
本実施例では、駆動スクロール30、後述する駆動端板31、後述する駆動渦巻体33が、本発明における「第1スクロール」、「第1端板」、「第1渦巻体」にそれぞれ相当している。また、従動スクロール40、後述する従動端板41、後述する従動渦巻体43が、本発明における「第2スクロール」、「第2端板」、「第2渦巻体」にそれぞれ相当している。
【0040】
ハウジング60は、ハウジング本体61とカバー65と軸受ハウジング67とによって構成されている。ハウジング本体61は、第1外周壁62及び第1底壁63を有する有底筒状部材である。第1底壁63は、本発明における「第2区画壁」の一例である。第1外周壁62は、駆動軸心R1を中心とする円筒状をなしている。駆動軸心R1は前後方向と平行である。また、第1外周壁62は内周面62Bを有している。第1底壁63は、ハウジング本体61の後端に位置している。第1底壁63は、駆動軸心R1と直交して略円形平板状に延びている。
【0041】
第1底壁63の外周縁は、第1外周壁62の後端に接続している。第1底壁63の内面中央には、前方に向かって突出する円柱状の第2軸支部64が凸設されている。
【0042】
第2軸支部64の先端面641には、第2軸支部64に対して偏心して配置された円柱状の第3軸支部90が配置されている。第2軸支部64には偏心軸91が固定されている。偏心軸91は、第2軸支部64の先端面641から駆動軸心R1と平行に前方に延びている。偏心軸91は、駆動軸心R1に対して偏心している。第3軸支部90は、偏心軸91に対して回転可能に取り付けられている。この第3軸支部90と後述する凹部74との間には第3滑り軸受73が介在している。これらにより、第3軸支部90は、後述する凹部74及び偏心軸91に対して回転可能とされている。
【0043】
ハウジング本体61の第1外周壁62には、吸入連絡口61Bが形成されている。吸入連絡口61Bは、第1外周壁62における後端近くに位置し、駆動軸心R1と交差する方向において第1外周壁62を貫通している。吸入連絡口61Bは、後述する吸入室61Aと圧縮機の外部とを連通している。吸入連絡口61Bには、配管が接続されている。これにより、吸入室61Aには、配管を通じて蒸発器を経た低温低圧の冷媒ガスが吸入される。冷媒ガスは、本発明における「流体」の一例である。
【0044】
なお、ハウジング本体61の後方には、コネクタ部が設けられたインバータケースが結合されている。インバータケース内には、回路基板及びスイッチング素子等を有するインバータ回路が収容されている。インバータ回路は、コネクタを通じて車両のバッテリと電気的に接続されるとともに、第1底壁63に設けられた気密通路を通じて後述するステータ17と電気的に接続されている。これにより、インバータ回路は、バッテリから供給された直流電流を交流電流に変換しつつステータ17に給電を行う。なお、コネクタ部、インバータケース、インバータ回路及びバッテリの図示は省略する。
【0045】
軸受ハウジング67は、ハウジング本体61の前方に配置されている。軸受ハウジング67は、本発明における「第1区画壁」の一例である。軸受ハウジング67は、駆動軸心R1と直交して略円形平板状に延びている。軸受ハウジング67は、その外周縁がハウジング本体61の第1外周壁62の前端に当接する状態で、図示しないボルトによってカバー65と共に第1外周壁62に締結されている。これにより、軸受ハウジング67は、ハウジング本体61を前方から塞いでいる。こうして、ハウジング本体61内に吸入室61Aが形成されている。
【0046】
軸受ハウジング67の中央には、駆動軸心R1を中心とする円筒状の第1軸支部66が設けられている。第1軸支部66には、第1軸受としての第1滑り軸受71が内嵌している。第1滑り軸受71は、本発明における「軸受」の一例である。
【0047】
カバー65は、軸受ハウジング67の前方に配置されている。カバー65は、第2外周壁68及び第2底壁69を有する有底筒状部材である。第2外周壁68は、駆動軸心R1を中心とする円筒状をなしている。第2底壁69は、カバー65の前端に位置している。第2底壁69は、駆動軸心R1と直交して略円形平板状に延びている。第2底壁69の外周縁は、第2外周壁68の前端に接続している。
【0048】
カバー65は、第2外周壁68の後端を軸受ハウジング67の前面に当接させた状態で、図示しないボルトによって軸受ハウジング67と共に第1外周壁62に締結されている。これにより、カバー65は、軸受ハウジング67との間に第2吐出部65Aを形成している。第2吐出部65Aは、吸入室61Aの前方で吸入室61Aと隣接している。第2吐出部65Aは、軸受ハウジング67によって、吸入室61Aと区画されている。
【0049】
カバー65には、吐出連絡口65Bが形成されている。吐出連絡口65Bは、カバー65における外周縁近くに位置し、駆動軸心R1と平行な方向においてカバー65を貫通している。吐出連絡口65Bは、第2吐出部65Aと圧縮機の外部とを連通している。吐出連絡口65Bには、配管が接続されており、第2吐出部65Aに吐出された冷媒ガスを凝縮器に向けて流通させる。なお、配管、蒸発器及び凝縮器の図示は省略する。
【0050】
電動モータ10は吸入室61A内に収容されている。これにより、吸入室61Aは、電動モータ10を収容するモータ室を兼ねている。電動モータ10は、ステータ17及びロータ11によって構成されている。
【0051】
ステータ17は、駆動軸心R1を中心とする円筒状であり、巻き線18を有している。ステータ17は、ハウジング本体61の第1外周壁62の内周面62Bに嵌入することにより、ハウジング本体61、ひいてはハウジング60に固定されている。
【0052】
ロータ11は、駆動軸心R1周りで円筒状をなしており、ステータ17内に配置されている。詳細な図示を省略するものの、ロータ11は、ステータ17に対応する複数個の永久磁石と、各永久磁石を固定する積層鋼板とで構成されている。
【0053】
スクロール圧縮部80は、吸入室61A内に収容されている。これにより、吸入室61Aは、スクロール圧縮部80を収容するスクロール収容室を兼ねている。すなわち、吸入室61Aは、本発明における「スクロール収容室」の一例である。スクロール圧縮部80は、駆動スクロール30及び従動スクロール40によって構成されている。
【0054】
駆動スクロール30は、駆動端板31、駆動周壁32、駆動渦巻体33、軸受カバー体34及びカバー体35を有している。
【0055】
駆動端板31は、駆動軸心R1と直交して略円板状に延びている。駆動端板31は、前面311と、前面311の反対側に位置する後面312とを有している。
【0056】
駆動端板31の前面311には、吐出弁室36が形成されている。吐出弁室36は、前面311が後述する圧縮室55に向かって部分的に凹む凹部により形成されている。吐出弁室36は、後述する吐出弁機構56を収容可能なように吐出弁機構56の外形状にほぼ対応した内面形状を有している。また、駆動端板31の中央付近には、駆動端板31を前後方向に貫通する吐出口37が形成されている。吐出口37の一端が後述する圧縮室55に開口するとともに、吐出口37の他端が吐出弁室36の底面に開口しており、吐出口37は圧縮室55と吐出弁室36とを連通している。吐出口37は、駆動軸心R1の近傍に配置されている。
【0057】
吐出弁室36内には吐出弁機構56が配設されている。吐出弁機構56は、吐出リード弁57、リテーナ58及び固定ボルト59を有している。吐出リード弁57及びリテーナ58が固定ボルト59によって吐出弁室36の底面に固定されている。吐出リード弁57は、吐出口37を開閉可能となっている。また、リテーナ58は、吐出リード弁57の開度を調整可能となっている。吐出リード弁57において、吐出口37を開閉する先端弁部は固定ボルト59により固定される基端固定部よりも駆動軸心R1の近くに配置されている。
【0058】
駆動渦巻体33は、駆動端板31と一体に形成されており、駆動周壁32の内側に位置している。駆動渦巻体33は、駆動端板31の後面312から後方に向かって駆動軸心R1と平行に延びている。駆動渦巻体33は駆動軸心R1周りで渦巻状をなしている。より具体的には、前方から見て、駆動渦巻体33は、渦巻中心から駆動軸心R1周りで右巻きに形成されている。
【0059】
駆動周壁32は、駆動端板31の後面312の外周縁に配置されたロータ11と、ロータ11の後方に配置されたカバー体35の後述する筒状部51とにより構成されている。駆動周壁32は、駆動端板31の外周縁から後方、すなわち従動スクロール40に向かって駆動軸心R1と平行に延びている。駆動周壁32は、駆動軸心R1を中心とする略円筒状をなしている。
【0060】
カバー体35は、筒状部51及び底壁部52を有する有底筒状部材である。筒状部51は、駆動軸心R1を中心とする円筒状をなしている。底壁部52は、カバー体35の後端に位置している。底壁部52は、駆動軸心R1と直交して略円形平板状に延びている。
【0061】
底壁部52の外周縁は、筒状部51の後端に接続している。底壁部52の中央には、後方に向かって突出する第2ボス53が凸設されている。第2ボス53は、本発明における「第2被軸支部」の一例である。第2ボス53には、第2軸受としての第2滑り軸受72が内嵌している。第2滑り軸受72は、本発明における「軸受」の一例である。第2ボス53は、駆動軸心R1を中心として駆動軸心R1方向に円筒状に延びている。
【0062】
底壁部52の外周縁の近傍には、吸入口54が形成されている。吸入口54は、カバー体35の周方向に延びる略楕円形状に形成されている。吸入口54は、底壁部52を駆動軸心R1方向、すなわち前後方向に貫通している。なお、吸入口54の形状や個数は適宜設計可能である。
【0063】
軸受カバー体34は、カバー部38と、カバー部38に一体に形成された第1ボス39とを有している。
【0064】
カバー部38は、駆動軸心R1と直交して略円板状に延びている。カバー部38は、前面381と、前面381の反対側に位置する後面382とを有している。カバー部38の中央には貫通孔38Aが形成されている。
【0065】
第1ボス39は、カバー部38の内周縁、すなわちカバー部38の前面381の中央から前方に向かって突出している。第1ボス39は、本発明における「第1被軸支部」の一例である。第1ボス39は、駆動軸心R1を中心として駆動軸心R1方向に円筒状に延びている。第1ボス39の円柱状の内部空間は第1吐出部39Aを構成している。第1ボス39の円柱状の内部空間である第1吐出部39Aの内径及び第1ボス39の外径は、吐出弁機構56の最長部の長さよりも短くされている。なお、この圧縮機では、吐出弁室36、第1吐出部39A及び第2吐出部65Aにより吐出室が構成されている。
【0066】
カバー部38の後面382と駆動端板31の前面311との間には、図示しない円板状のガスケットが配置されている。ガスケットの中央には第1ボス39の内径と同じ大きさの口径を有する連通口が貫設されている。ガスケットは、駆動端板31の前面311と、カバー部38の後面382との間で挟持されて、両者間を封止している。
【0067】
軸受カバー体34のカバー部38、図示しないガスケット、駆動スクロール30の駆動端板31、ロータ11及びカバー体35の筒状部51は、駆動軸心R1と平行に延びる複数本のボルト50によって締結されている。ボルト50によるこれらの部材の結合は、カバー体35に対して従動機構20及び従動スクロール40をセットするとともに、駆動端板31に対して吐出弁機構56をセットした後に行われる。
【0068】
従動スクロール40は、従動端板41と従動渦巻体43とを有している。
【0069】
従動端板41は、従動軸心R2と直交して略円板状に延びている。従動軸心R2は、駆動軸心R1に対して偏心しつつ駆動軸心R1と平行に延びている。つまり、従動軸心R2も前後方向に平行である。駆動軸心R1及び従動軸心R2の方向、すなわち前後方向はスラスト方向に一致する。また、この実施例では、前方が本発明における「スラスト方向の他方」に相当し、後方が本発明における「スラスト方向の一方」に相当する。従動端板41は、前面411と、前面411の反対側に位置する後面412とを有している。
【0070】
図2に示すように、従動端板41の後面412には、従動端板41の中央から圧縮室55に向かって部分的に凹む有底円柱状の凹部74が形成されている。凹部74は、本発明における「第3被軸支部」の一例である。凹部74は、従動軸心R2を中心として従動軸心R2方向に円柱状に延びている。凹部74は、第3軸支部90の外形状に対応する内面形状を有している。
【0071】
凹部74の底面75と、第3軸支部90の先端面92との間に、底面75及び先端面92により区画される第1圧力調整室76が形成されている。第1圧力調整室76は、本発明における「圧力調整室」の一例である。
【0072】
凹部74の内周面には、第3軸受としての第3滑り軸受73が内嵌している。第3滑り軸受73は、本発明における「軸受」の一例である。
【0073】
また、第1圧力調整室76の後方において、凹部74の内周面と第3軸支部90の外周面との間に第1シールリング93が配置されている。第1シールリング93は、第3軸支部90の外周面に凹設された環状溝に挿入されて、凹部74の内周面と第3軸支部90の外周面との間を封止している。第1シールリング93は、第3滑り軸受73の前方に配置されている。
【0074】
従動端板41の中央付近には、従動端板41を前後方向に貫通する第1連通路77が形成されている。第1連通路77の一端が圧縮室55に開口するとともに、第1連通路77の他端が凹部74の底面75に開口しており、第1連通路77は圧縮室55と第1圧力調整室76とを連通している。第1連通路77は、従動軸心R2の近傍に配置されている。
【0075】
従動渦巻体43は、従動端板41と一体に形成されており、従動端板41の前面411から前方、すなわち、駆動スクロール30の駆動端板31に向かって従動軸心R2と平行に延びている。従動渦巻体43は従動軸心R2周りで渦巻状をなしている。より具体的には、前方から見て、従動渦巻体43は、渦巻中心から従動軸心R2周りで右巻きに形成されている。
【0076】
従動機構20は、4つの自転阻止ピン21と4つのリング22とで構成されている。なお、自転阻止ピン21及びリング22は、それぞれ3つ以上であればその個数は適宜設計可能である。また、
図1では、各自転阻止ピン21及び各リング22について、それぞれ2つを図示している。
【0077】
各自転阻止ピン21は、従動端板41の後面412にそれぞれ挿通されつつ固定されている。これにより、各自転阻止ピン21は、従動端板41よりも後方に突出した状態で従動端板41に固定されている。
【0078】
各リング22は、各自転阻止ピン21に対向するように駆動スクロール30のカバー体35の底壁部52の前面521に設けられている。各リング22はそれぞれ、底壁部52の前面521に凹設された円形有底穴に嵌着されている。
【0079】
この圧縮機では、駆動スクロール30及び従動スクロール40よりなるスクロール圧縮部80が吸入室61A内に配置されている。すなわち、吸入室61Aは、本発明における「スクロール収容室」に相当する。
【0080】
駆動スクロール30において、駆動周壁32にロータ11が一体化されている。また、駆動スクロール30では、軸受ハウジング67の第1軸支部66と軸受カバー体34の第1ボス39との間に第1滑り軸受71が介在するとともに、第1底壁63の第2軸支部64とカバー体35の第2ボス53との間に第2滑り軸受72が介在している。これにより、駆動スクロール30は、駆動軸心R1周りで回転可能にハウジング60に支持されている。ここで、この圧縮機では、駆動スクロール30は、所謂両持ちの状態でハウジング60に支持されている。
【0081】
一方、従動スクロール40は、駆動スクロール30内において、従動渦巻体43を駆動端板31側に向けた状態で、駆動端板31の後方に配置されている。これにより、駆動端板31の後面312と、従動端板41の前面411とが駆動軸心R1方向及び従動軸心R2方向で対向している。そして、駆動スクロール30と従動スクロール40とは、駆動周壁32の内側で駆動渦巻体33と従動渦巻体43とを噛合させるとともに、各自転阻止ピン21を各リング22内に進入させる。こうして、駆動端板31と従動端板41とが前後方向に対向した状態で、駆動スクロール30内に従動スクロール40が組み付けられている。また、駆動渦巻体33と従動渦巻体43とは、双方の間に圧縮室55を形成している。
【0082】
従動スクロール40では、第1底壁63の第2軸支部64に対して偏心配置された第3軸支部90と従動端板41の凹部74との間に第3滑り軸受73が介在している。これにより、従動スクロール40は、従動軸心R2周りで回転可能にハウジング60に支持されている。ここで、この圧縮機では、従動スクロール40は、所謂片持ちの状態でハウジング60に支持されている。
【0083】
以上のように構成されたこの圧縮機では、図示しないインバータ回路がステータ17に給電を行いつつ電動モータ10の作動制御を行うことにより、電動モータ10が作動する。これによりロータ11が回転することで、吸入室61A内において、駆動スクロール30が駆動軸心R1周りで回転駆動する。つまり、ロータ11を駆動周壁32に一体的に含む駆動スクロール30が回転駆動する。この際、従動機構20において、各自転阻止ピン21は各リング22の内周面に摺接しつつ各リング22を各自転阻止ピン21の中心周りで相対的に回転させる。こうして、従動機構20は、従動スクロール40に駆動スクロール30のトルクを伝達する。
【0084】
その結果、従動スクロール40は、従動軸心R2周りで駆動スクロール30及び従動機構20によって回転従動される。この際、従動機構20は、従動スクロール40が自転することを規制する。これにより、駆動スクロール30及び従動スクロール40は、その回転駆動及びその回転従動によって従動スクロール40が駆動スクロール30に対して駆動軸心R1周りで相対的に公転することで、圧縮室55の容積を変化させる。
【0085】
このため、吸入室61A内の冷媒ガスは、吸入口54によって圧縮室55に吸入され、圧縮室55で圧縮される。そして、圧縮室55で吐出圧力まで圧縮された冷媒ガスは、吐出口37から吐出弁室36に吐出され、第1吐出部39Aを通過して第2吐出部65Aに吐出され、さらに、吐出連絡口65Bから凝縮器に吐出される。こうして、車両用空調装置による空調が行われる。
【0086】
ここで、この圧縮機では、スクロール圧縮部80が吸入室61Aに収容されており、圧縮機の作動中、そのスクロール圧縮部80に対してスラスト方向の他方、すなわち前方から吐出室の吐出圧力が作用する。このため、スクロール圧縮部80にはハウジング60に対するスラスト方向の一方、すなわち後方へのスラスト荷重が発生する。
【0087】
この点、実施例1の圧縮機では、スクロール圧縮部80において圧縮室55に対して後方側に第1圧力調整室76が配置されている。この第1圧力調整室76には、圧縮室55の吐出圧力の冷媒ガスが第1連通路77を介して導入される。第1圧力調整室76に導入された冷媒ガスの吐出圧力は、スクロール圧縮部80に対して前方の吐出室から作用する吐出圧力に対抗する。すなわち、第1圧力調整室76に導入された冷媒ガスの吐出圧力は、ハウジング60の第3軸支部90に対するスクロール圧縮部80の後方へのスラスト荷重を低減させるように作用する。これにより、スクロール圧縮部80からハウジング60にかかるスラスト荷重が低減される。
【0088】
したがって、実施例1の両回転式スクロール型圧縮機によれば、スクロール圧縮部80からハウジング60にかかるスラスト荷重を低減させて、振動騒音や動力増加を抑えることができる。
【0089】
また、この圧縮機では、第1圧力調整室76に導入された冷媒ガスの吐出圧力によって、駆動スクロール30に対して従動スクロール40がスラスト方向の他方、すなわち前方に押し付けられる。これにより、駆動渦巻体33の先端と従動端板41の前面411との間及び従動渦巻体43の先端と駆動端板31の後面312との間におけるシール性が向上する。このため、圧縮効率の向上に寄与する。
【0090】
また、この圧縮機では、スクロール圧縮部80において圧縮室55に対して後方側で、スクロール圧縮部80からハウジング60にかかるスラスト荷重が低減されているので、スクロール圧縮部80の後方側において大きなスラスト荷重を受ける必要がない。このため、スクロール圧縮部80の後方側において、駆動スクロール30の第2ボス53を支持する第2軸受として第2滑り軸受72を採用するとともに、従動スクロール40の凹部74を支持する第3軸受として第3滑り軸受73を採用している。これにより、玉軸受を採用する場合よりも、振動や騒音を抑えるのに有利となる。
【0091】
さらに、この圧縮機では、駆動スクロール30において、吐出弁機構56を収容する吐出弁室36が凹設された駆動端板31の前面311に、吐出弁室36の一部及び吐出弁機構56の一部を覆うカバー部38を有する軸受カバー体34が結合されている。そして、軸受カバー体34の第1ボス39の内部空間である第1吐出部39Aを吐出弁室36と連通させている。
【0092】
かかる構成により、この圧縮機では、第1ボス39の内部空間である第1吐出部39A内に吐出弁機構56を収容しないため、第1吐出部39Aの内径を吐出弁機構56よりも大きくする必要がない。このため、この圧縮機では、第1吐出部39Aの内径及び第1ボス39の外径が吐出弁機構56の最長部の長さよりも短くされている。これにより、第1ボス39の外周面に装着される第1滑り軸受71の小型化を図ることができる。
【0093】
(実施例2)
図3に示すように、実施例2の圧縮機では、実施例1の圧縮機において、第1圧力調整室76に加えて第2圧力調整室79が形成されている。第2圧力調整室79は、本発明における「圧力調整室」の一例である。
【0094】
すなわち、従動端板41の後面412には、凹部74の外周に、後面412から圧縮室55に向かって環状に凹む第1環状凹部78が形成されている。凹部74の後端に第1環状凹部78の内周端が接続しており、凹部74と第1環状凹部78とは連続している。
【0095】
また、第1環状凹部78の外周において、従動端板41とカバー体35との間に第2シールリング94が配置されている。第2シールリング94は、従動端板41の後面412に凹設された環状溝に挿入されて、従動端板41の後面412とカバー体35の底壁部52の前面521との間を封止している。さらに、第2ボス53と第1底壁63との間に第4シールリング99が配置されている。第4シールリング99は、第2ボス53の先端面531に凹設された環状溝に挿入されて、第2ボス53の先端面531と第1底壁63の前面631との間を封止している。この圧縮機では、実施例1の圧縮機における第3滑り軸受73の前方の第1シールリング93は設けられていない。
【0096】
これにより、凹部74の底面75と第3軸支部90の先端面92との間に形成された第1圧力調整室76に加えて、第1環状凹部78の底面と第2軸支部64の先端面641及びカバー体35の底壁部52の前面521との間にも第2圧力調整室79が形成されている。
【0097】
実施例2の圧縮機では、スクロール圧縮部80において圧縮室55に対して後方側に第1圧力調整室76及び第2圧力調整室79が配置されている。第1圧力調整室76には、圧縮室55の吐出圧力の冷媒ガスが第1連通路77を介して導入される。また、第2圧力調整室79には、第1圧力調整室76に導入された吐出圧力の冷媒ガスが、第3軸支部90と凹部74との間及び第3滑り軸受73における隙間を介して導入される。
【0098】
これにより、第1圧力調整室76及び第2圧力調整室79に導入された冷媒ガスの吐出圧力が、スクロール圧縮部80に対して前方の吐出室から作用する吐出圧力に対抗する。すなわち、第1圧力調整室76及び第2圧力調整室79に導入された冷媒ガスの吐出圧力は、ハウジング60の第3軸支部90及び第2軸支部64に対するスクロール圧縮部80の後方へのスラスト荷重を低減させるように作用する。その結果、スクロール圧縮部80からハウジング60にかかるスラスト荷重が低減される。
【0099】
この圧縮機における他の構成及び作用は実施例1の圧縮機と同様であり、同一の構成については同一の符号を付して構成に関する詳細な説明を省略する。
【0100】
(実施例3)
図4に示すように、実施例3の圧縮機では、実施例1の圧縮機において、第1圧力調整室76の代わりに第2圧力調整室79が形成されている。
【0101】
すなわち、実施例2の圧縮機と同様、従動端板41の後面412に第1環状凹部78が形成されるとともに、第1環状凹部78の外周に第2シールリング94が配置され、かつ第2ボス53と第1底壁63との間に第4シールリング99が配置されている。この圧縮機では、実施例1の圧縮機と同様、第3滑り軸受73の前方に第1シールリング93が設けられている。
【0102】
また、この圧縮機では、実施例1の圧縮機における凹部74の底面75に開口する第1連通路77が設けられていない。その代わりに、従動端板41を前後方向に対して斜めの方向に貫通する第2連通路95が形成されている。第2連通路95の後方端は第1環状凹部78の底面に開口し、第2連通路95の前方端は圧縮室55に開口している。圧縮室55に対する第2連通路95の開口端は、駆動軸心R1の近傍に配置されている。
【0103】
これにより、第1環状凹部78の底面と第2軸支部64の先端面641及びカバー体35の底壁部52の前面521との間に第2圧力調整室79が形成されている。
【0104】
実施例3の圧縮機では、スクロール圧縮部80において圧縮室55に対して後方側に第2圧力調整室79が配置されている。第2圧力調整室79には、圧縮室55の吐出圧力の冷媒ガスが第2連通路95を介して導入される。
【0105】
これにより、第2圧力調整室79に導入された冷媒ガスの吐出圧力が、スクロール圧縮部80に対して前方の吐出室から作用する吐出圧力に対抗する。すなわち、第2圧力調整室79に導入された冷媒ガスの吐出圧力は、ハウジング60の第2軸支部64に対するスクロール圧縮部80の後方へのスラスト荷重を低減させるように作用する。その結果、スクロール圧縮部80からハウジング60にかかるスラスト荷重が低減される。
【0106】
この圧縮機における他の構成及び作用は実施例1の圧縮機と同様であり、同一の構成については同一の符号を付して構成に関する詳細な説明を省略する。
【0107】
(実施例4)
図5に示すように、実施例4の圧縮機では、実施例1の圧縮機において、第1圧力調整室76に加えて第3圧力調整室96が形成されている。第3圧力調整室96は、本発明における「圧力調整室」の一例である。
【0108】
すなわち、第2ボス53の先端面531の内周側には、先端面531から圧縮室55に向かって環状に凹む第2環状凹部97が形成されている。また、第2滑り軸受72の後方に第3シールリング98が配置されるとともに、第2環状凹部97の外周に第4シールリング99が配置されている。
【0109】
第3シールリング98は、第2滑り軸受72の後方において、第2軸支部64の外周面に凹設された環状溝に挿入されて、第2軸支部64の外周面と第2ボス53の内周面との間を封止している。第4シールリング99は、第2環状凹部97の外周において、第2ボス53の先端面531に凹設された環状溝に挿入されて、第2ボス53の先端面531と第1底壁63の前面631との間を封止している。この圧縮機では、実施例1の圧縮機と同様、第3滑り軸受73の前方に第1シールリング93が設けられている。
【0110】
さらに、偏心軸91には前後方向に貫通する第3連通路81が形成されるとともに、第2軸支部64には第4連通路82が形成されている。第4連通路82の一端は第3連通路81の後端に接続し、第4連通路82の他端は第2軸支部64の後端近傍の外周面に開口している。そして、第3連通路81及び第4連通路82によって、第1圧力調整室76と第3圧力調整室96とが連通している。
【0111】
これにより、凹部74の底面75と第3軸支部90の先端面92との間に形成された第1圧力調整室76に加えて、カバー体35の第2ボス53の先端面531と第1底壁63の前面631との間にも第3圧力調整室96が形成されている。第3圧力調整室96は、本発明における「圧力調整室」の一例である。
【0112】
実施例4の圧縮機では、スクロール圧縮部80において圧縮室55に対して後方側に第1圧力調整室76及び第3圧力調整室96が配置されている。第1圧力調整室76には、圧縮室55の吐出圧力の冷媒ガスが第1連通路77を介して導入される。また、第3圧力調整室96には、第1圧力調整室76に導入された冷媒ガスの吐出圧力が、第3連通路81及び第4連通路82を介して導入される。
【0113】
これにより、第1圧力調整室76及び第3圧力調整室96に導入された冷媒ガスの吐出圧力が、スクロール圧縮部80に対して前方の吐出室から作用する吐出圧力に対抗する。すなわち、第1圧力調整室76及び第3圧力調整室96に導入された冷媒ガスの吐出圧力は、ハウジング60の第3軸支部90及び第1底壁63に対するスクロール圧縮部80の後方へのスラスト荷重を低減させるように作用する。その結果、スクロール圧縮部80からハウジング60にかかるスラスト荷重が低減される。
【0114】
また、この圧縮機では、第3圧力調整室96に導入された冷媒ガスの吐出圧力によって、駆動スクロール30に対して従動スクロール40が前方に押し付けられることがない。このため、駆動渦巻体33の先端及び従動渦巻体43の先端の損傷を抑えることができる。
【0115】
この圧縮機における他の構成及び作用は実施例1の圧縮機と同様であり、同一の構成については同一の符号を付して構成に関する詳細な説明を省略する。
【0116】
(実施例5)
図6に示すように、実施例5の圧縮機では、実施例4の圧縮機において、ハウジング60とスクロール圧縮部80との間にスラスト軸受83が設けられている。
【0117】
すなわち、第2ボス53の先端面531と第1底壁63の前面631との間にスラスト軸受83が設けられている。スラスト軸受83は、第4シールリング99の外周に配置されている。
【0118】
これにより、スクロール圧縮部80から第1底壁63にかかるスラスト荷重をスラスト軸受83により受けることができる。この圧縮機では、第1圧力調整室76及び第3圧力調整室96の作用によりスラスト圧縮部80からハウジング60にかかるスラスト荷重が低減するので、スラスト軸受83で受け持つスラスト荷重を低減させることができ、スラスト軸受83を設けることによる動力増加を抑えることができる。
【0119】
この圧縮機における他の構成及び作用は実施例4の圧縮機と同様であり、同一の構成については同一の符号を付して構成に関する詳細な説明を省略する。
【0120】
(実施例6)
図7に示すように、実施例6の圧縮機では、実施例1の圧縮機において、第1ボス39の先端に図示しないボルトにより円板状の仕切壁84が固定され、第1吐出部39Aの前方の開口端が仕切壁84により閉塞されている。なお、この実施例では、実施例1の圧縮機における第2吐出部65Aが形成されておらず、吐出弁室36及び第1吐出部39Aにより吐出室が構成されており、また、前方が本発明における「スラスト方向の一方」に相当する。
【0121】
この圧縮機では、実施例1の圧縮機におけるカバー65及び軸受ハウジング67の代わりに、厚板カバー86を採用している。ハウジング60は、ハウジング本体61と厚板カバー86とによって構成されている。厚板カバー86は、本発明における「第1区画壁」の一例である。
【0122】
厚板カバー86は、厚板の略円板状部材である。厚板カバー86は、その外周縁がハウジング本体61の第1外周壁62の前端に当接する状態で、図示しないボルトによって第1外周壁62に締結されている。これにより、厚板カバー86は、ハウジング本体61を前方から塞いでいる。こうして、ハウジング本体61内に吸入室61Aが形成されている。この圧縮機では、第1区画壁としての厚板カバー86によって、吸入室61Aとハウジング60外部とが区画されている。
【0123】
厚板カバー86の外周縁には、吐出連絡口86Aが形成されている。吐出連絡口86Aは、駆動軸心R1と直交する方向に開口している。また、厚板カバー86には、駆動軸心R1と直交する方向に延びて、一端が吐出連絡口86Aに接続されるとともに、他端が後述する円柱状凹部87に接続された第6連通路86Bが形成されている。
【0124】
厚板カバー86の後面861の中央には、仕切版84に対応する領域に後面861から前方に向かって凹む円柱状凹部87が形成されている。円柱状凹部87の後端には円柱状凹部87の内径が拡径した拡径凹部87Aが形成されている。拡径凹部87Aは、本発明における「第1軸支部」の一例である。拡径凹部87Aには、第1軸受としての第1滑り軸受71が内嵌している。第1滑り軸受71は、本発明における「軸受」の一例である。
【0125】
そして、仕切壁84の前面841と、この前面841に前後方向に対向する円柱状凹部87の底面871との間に第4圧力調整室88が形成されている。第4圧力調整室88は、本発明における「圧力調整室」の一例である。仕切版84の前面841は、本発明における「仕切壁の吐出室とは反対側の端面」の一例である。円柱状凹部87の底面871は、本発明における「端面に対向するハウジング対向面」の一例である。
【0126】
第1ボス39の先端側の周壁には、周壁を駆動軸心R1と直交する方向に貫通する第5連通路85が形成されている。この第5連通路85は、厚板カバー86に設けられた第6連通路86Bと連通している。これにより、第1吐出部39Aとハウジング60の外部とが第5連通路85及び第6連通路86Bを介して連通している。第5連通路85及び第6連通路86Bは、本発明における「吐出通路」の一例である。
【0127】
また、厚板カバー86には、前後方向に対して斜めの方向に延びて、第4圧力調整室88と吸入室61Aとを連通する第7連通路89が形成されている。
【0128】
この圧縮機では、吸入室61Aに収容されたスクロール圧縮部80において、圧縮室55に対して前方側に、圧縮室55から冷媒ガスが吐出される吐出弁室36及び第1吐出部39Aが配置されている。このため、仮に第1吐出部39Aの前方側が開放されてその先が吐出圧力雰囲気である場合、そのスクロール圧縮部80には前方から作用する吐出圧力によって後方側へのスラスト荷重が発生する。
【0129】
この点、この圧縮機では、第1吐出部39Aにおける前方側の開口が仕切壁84により閉塞されているとともに、その仕切壁84の前方には第4圧力調整室88が配置されている。そして、この第4圧力調整室88に第7連通路89を介して吸入室61Aから吸入圧力の冷媒ガスが導入される。また、第1吐出部39Aに吐出された冷媒ガスはスラスト方向に対して交差する方向に延びる第5連通路85及び第6連通路86Bを介してハウジング60の外部に吐出される。これにより、スラスト方向である前後方向において、スクロール圧縮部80に対しては前方からも後方からも吸入圧力が作用することになる。
【0130】
このため、圧縮室55から前方にある吐出弁室36及び第1吐出部39Aに冷媒ガスが吐出されても、第1吐出部39Aからの吐出圧力によってスクロール圧縮部80にスラスト荷重が生じることがない。その結果、スクロール圧縮80からハウジング60にかかるスラスト荷重を低減させることができる。
【0131】
以上において、本発明を実施例1~6に即して説明したが、本発明は上記実施例1~6に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0132】
例えば、実施例1~6の圧縮機では、スクロール圧縮部80を吸入室61Aに収容して吸入室61Aをスクロール収容室としている。しかし、これに限らず、スクロール収容室としての吐出室に収容されたスクロール圧縮部に対して、スラスト方向の他方側から吸入圧力が作用するとともに、スラスト方向の一方側に配置された圧力調整室に吸入圧力の流体が導入される構成としてもよい。
【0133】
また、実施例1~6の圧縮機では、ハウジング60に対して駆動スクロール30を両持ちの状態で支持するとともに従動スクロール40を片持ちの状態で支持している。しかし、これに限らず、駆動スクロール30及び従動スクロール40の双方をハウジング60に対して片持ちの状態で支持してもよい。また、駆動スクロール30及び従動スクロール40の双方をハウジング60に対して片持ちの状態で支持する場合、駆動スクロール30ではなく従動スクロール40に吐出弁機構56を設けるとともに、駆動スクロール30とハウジング60との間に圧力調整室を設けてもよい。
【0134】
実施例1~5の圧縮機では、圧縮室55ら吐出圧力の流体を圧力調整室に導入するが、これに限らず、圧縮途中にあり吸入圧力から吐出圧力の間の中間圧力の流体を圧力調整室に導入するようにしてもよい。また、吐出圧力又は中間圧力の流体は、圧縮室55から吐出室を経てハウジング60の外部に吐出されてから、別途設けた配管等を介してハウジング60内に戻して、圧力調整室に導入するようにしてもよい。
【0135】
実施例1~5の圧縮機では、第1区画壁としての軸受ハウジング67が吸入室61Aと吐出室としての第2吐出部65Aとを区画するが、これに限られない。例えば、実施例1~5の圧縮機において、第2吐出部65Aの形成を省略するとともに第1吐出部39Aを直接吐出連絡口65Bに接続することで、第1区画壁によって吸入室61Aとハウジング60の外部とを区画するようにしてもよい。
【0136】
実施例2及び実施例3の圧縮機では、第1環状凹部78の底面と第2軸支部64の先端面641及びカバー体35の底壁部52の前面521との間に第2圧力調整室79を形成しているが、これに限らず、第1環状凹部78の底面と第2軸支部64の先端面641との間のみに第2圧力調整室79を形成するようにしてもよい。
【0137】
実施例1~6の圧縮機では、駆動スクロール30のカバー体35に吸入口54を形成している。しかし、これに限らず、駆動スクロールの駆動端板31に吸入口54を形成してもよい。駆動スクロール30及び従動スクロール40の双方が片持ちの状態でハウジング60に支持されている圧縮機においては、駆動端板31又は従動端板41のいずれに吸入口を形成してもよい。
【0138】
実施例1~6の圧縮機では、駆動スクロール30において、吐出弁機構56を収容する吐出弁室36が凹設された駆動端板31の前面311に、吐出弁室36の一部及び吐出弁機構56の一部を覆うカバー部38を有する軸受カバー体34が結合されている。そして、軸受カバー体34の第1ボス39の内部空間である第1吐出部39Aを吐出弁室36と連通させている。しかし、これに限らず、軸受カバー体を省略して、駆動端板又は従動端板に一体に突設されたボス内に吐出弁機構を収容するとともに、そのボスに軸受を装着してもよい。
【0139】
実施例1~6の圧縮機では、第1~第3軸受の全てを滑り軸受としているがこれに限らず、第1~第3軸受の少なくとも一つを転がり軸受としてもよい。
【0140】
実施例5の圧縮機では、第2ボス53の先端面531と第1底壁63の前面631との間にスラスト軸受83を設けているが、これに限らず、例えば、第3軸支部90の先端面92と凹部74の底面75との間や、駆動スクロール30の軸受カバー体34と第1軸支部66との間等、他のスラスト荷重がかかる箇所にスラスト軸受を配置してもよい。
【0141】
実施例1~6の圧縮機では、従動機構20が自転阻止ピン21及びリング22によって構成されている。しかし、これに限らず、従動機構20は、2本のピンが1つのフリーリングの内周面に摺接するピン・リング・ピン方式、2本のピンの外周面同士が摺接するピン・ピン方式、オルダム接手を用いる方式等によって構成されていても良い。
【0142】
実施例1~6の圧縮機では、駆動周壁32にロータ11を一体化することにより、駆動スクロール30とロータ11とを一体化させている。しかし、これに限らず、駆動スクロール30とロータ11とを駆動軸によって動力伝達可能に接続することにより、駆動スクロール30とロータ11とを駆動軸心R1方向に離隔して配置する構成としても良い。
【0143】
(参考例)
図8に参考例の圧縮機を示す。参考例の圧縮機では、実施例6の圧縮機における仕切壁84の前方の第4圧力調整室88を設けていない。またこれに伴い、実施例6の圧縮機における第7連通路89も設けていない。
【0144】
この圧縮機では、実施例6の圧縮機と同様、第1吐出部39Aにおける前方側の開口が仕切壁84により閉塞されているとともに、第1吐出部39Aとハウジング60の外部とが第5連通路85及び第6連通路86Bを介して連通されている。そして、仕切壁84の前面841は、円柱状凹部87の底面871に当接している。なお、仕切壁84を省略して第1吐出部39Aにおける前方側の開口を円柱状凹部87の底面871で閉塞するようにしてもよい。
【0145】
この圧縮機では、圧縮室55から吐出弁室36及び第1吐出部39Aに吐出された冷媒ガスは、第5連通路85及び第6連通路86Bを介してハウジング60の外部に吐出される。
【0146】
このため、第1吐出部39Aからの吐出圧力によってスクロール圧縮部80にスラスト荷重が生じることがない。その結果、スクロール圧縮80からハウジング60にかかるスラスト荷重を低減させることができる。
【0147】
(付記1)
外部から流体が吸入される吸入室と、流体を外部に吐出する吐出室とを有するハウジングと、
前記ハウジング内に設けられた第1スクロールと、
前記ハウジング内に設けられて前記第1スクロールと対向し、前記第1スクロールとの間に流体を圧縮する圧縮室を形成する第2スクロールとを備え、
前記第1スクロールは、第1端板と、前記第1端板と一体をなし、前記第2スクロールに向かって渦巻状に突出する第1渦巻体とを有し、
前記第2スクロールは、第2端板と、前記第2端板と一体をなし、前記第1スクロールに向かって渦巻状に突出する第2渦巻体とを有する両回転式スクロール型圧縮機であって、
前記第1スクロール及び前記第2スクロールによりスクロール圧縮部が構成され、
前記スクロール圧縮部のスラスト方向の一方側には、前記吸入室内の吸入圧力、前記吐出室内の吐出圧力又は、前記吸入圧力から前記吐出圧力の間の中間圧力の流体が導入されることで、前記スクロール圧縮部に対して前記スラスト方向に作用するスラスト荷重を低減させる圧力調整室が設けられていることを特徴とする両回転式スクロール型圧縮機。
【0148】
(付記2)
前記吸入室が前記スクロール圧縮部を収容するスクロール収容室であり、
前記スクロール圧縮部には前記スラスト方向の他方側から前記吐出圧力が作用し、
前記圧力調整室には前記吐出圧力又は前記中間圧力の流体が導入される付記1記載の両回転式スクロール型圧縮機。
【0149】
(付記3)
前記第1スクロールは、前記第1端板から前記圧縮室とは反対側に延びる第1被軸支部と、前記第1端板に対して前記第2スクロールを挟みつつ前記スラスト方向に対向して前記第1端板と連結されるカバー体と、前記カバー体から前記圧縮室とは反対側に延びる第2被軸支部とを有し、
前記第2スクロールは、前記第2端板の前記圧縮室とは反対側に設けられる第3被軸支部を有し、
前記ハウジングは、
前記第1端板に対して前記スラスト方向に対向しつつ前記スクロール収容室を区画する第1区画壁と、前記第1区画壁に設けられた第1軸支部と、
前記カバー体に対して前記スラスト方向に対向しつつ前記スクロール収容室を区画する第2区画壁と、前記第2区画壁に設けられた第2軸支部と、を有し、
前記第2軸支部に偏心して配置された第3軸支部をさらに備え、
前記第1~3被軸支部は、それぞれ軸受けを介して、前記第1~3軸支部に支持されており、
前記圧力調整室は、前記第2端板と前記第3軸支部との間に形成されている付記2記載の両回転式スクロール型圧縮機。
【0150】
(付記4)
前記第1スクロールは、前記第1端板から前記圧縮室とは反対側に延びる第1被軸支部と、前記第1端板に対して前記第2スクロールを挟みつつ前記スラスト方向に対向して前記第1端板と連結されるカバー体と、前記カバー体から前記圧縮室とは反対側に延びる第2被軸支部とを有し、
前記第2スクロールは、前記第2端板の前記圧縮室とは反対側に設けられる第3被軸支部を有し、
前記ハウジングは、
前記第1端板に対して前記スラスト方向に対向しつつ前記スクロール収容室を区画する第1区画壁と、前記第1区画壁に設けられた第1軸支部と、
前記カバー体に対して前記スラスト方向に対向しつつ前記スクロール収容室を区画する第2区画壁と、前記第2区画壁に設けられた第2軸支部と、を有し、
前記第2軸支部に偏心して配置された第3軸支部をさらに備え、
前記第1~3被軸支部は、それぞれ軸受けを介して、前記第1~3軸支部に支持されており、
前記圧力調整室は、前記第2端板と前記第2軸支部との間に形成されている付記2又は3記載の両回転式スクロール型圧縮機。
【0151】
(付記5)
前記第1スクロールは、前記第1端板から前記圧縮室とは反対側に延びる第1被軸支部と、前記第1端板に対して前記第2スクロールを挟みつつ前記スラスト方向に対向して前記第1端板と連結されるカバー体と、前記カバー体から前記圧縮室とは反対側に延びる第2被軸支部とを有し、
前記第2スクロールは、前記第2端板の前記圧縮室とは反対側に設けられる第3被軸支部を有し、
前記ハウジングは、
前記第1端板に対して前記スラスト方向に対向しつつ前記スクロール収容室を区画する第1区画壁と、前記第1区画壁に設けられた第1軸支部と、
前記カバー体に対して前記スラスト方向に対向しつつ前記スクロール収容室を区画する第2区画壁と、前記第2区画壁に設けられた第2軸支部と、を有し、
前記第2軸支部に偏心して配置された第3軸支部をさらに備え、
前記第1~3被軸支部は、それぞれ軸受けを介して、前記第1~3軸支部に支持されており、
前記圧力調整室は、前記カバー体と前記第2区画壁との間に形成されている付記2又は3記載の両回転式スクロール型圧縮機。
【0152】
(付記6)
前記吸入室が前記スクロール圧縮部を収容するスクロール収容室であり、
前記スクロール圧縮部の前記スラスト方向の前記一方側には、前記圧縮室から圧縮された流体が吐出される前記吐出室が配置されるとともに、前記吐出室における前記一方側の開口を閉塞する仕切壁が配置され、
前記吐出室と前記ハウジングの外部とが前記スラスト方向に対して交差する方向に延びる吐出通路により連通され、
前記圧力調整室は、前記仕切壁の前記吐出室とは反対側の端面と、前記端面に対向するハウジング対向面との間に形成され、
前記圧力調整室には前記吸入圧力の流体が導入される付記1記載の両回転式スクロール型圧縮機。
【0153】
(付記7)
前記ハウジングと前記スクロール圧縮部との間にはスラスト軸受が設けられている付記1乃至6のいずれか1項記載の両回転式スクロール型圧縮機。
【0154】
(付記8)
前記軸受のうち少なくとも1つは滑り軸受である付記1乃至7のいずれか1項記載の両回転式スクロール型圧縮機。
【産業上の利用可能性】
【0155】
本発明は車両の空調装置等に利用可能である。
【符号の説明】
【0156】
30…駆動スクロール(第1スクロール)
31…駆動端板(第1端板)
33…駆動渦巻体(第1渦巻体)
35…カバー体
36…吐出弁室(吐出室)
39…第1ボス(第1被軸支部)
39A…第1吐出部(吐出室)
40…従動スクロール(第2スクロール)
41…従動端板(第2端板)
43…従動渦巻体(第2渦巻体)
53…第2ボス(第2被軸支部)
55…圧縮室
60…ハウジング
61A…吸入室(スクロール収容室)
63…第1底壁(第2区画壁)
64…第2軸支部
66…第1軸支部
67…軸受ハウジング(第1区画壁)
71…第1滑り軸受(軸受、滑り軸受)
72…第2滑り軸受(軸受、滑り軸受)
73…第3滑り軸受(軸受、滑り軸受)
74…凹部(第3被軸支部)
76…第1圧力調整室(圧力調整室)
79…第2圧力調整室(圧力調整室)
80…スクロール圧縮部
83…スラスト軸受
84…仕切壁
841…前面(端面)
85…第5連通路(吐出通路)
86…厚板カバー(第1区画壁)
86B…第6連通路(吐出通路)
871…底面(ハウジング対向面)
87A…拡径凹部(第1軸支部)
88…第4圧力調整室(圧力調整室)
90…第3軸支部
96…第3圧力調整室(圧力調整室)