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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065298
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】回転電機および産業機械
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/34 20060101AFI20240508BHJP
【FI】
H02K3/34 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174088
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(71)【出願人】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 祐
(72)【発明者】
【氏名】床井 博洋
(72)【発明者】
【氏名】池田 賢二
(72)【発明者】
【氏名】榎本 裕治
(72)【発明者】
【氏名】三上 浩幸
【テーマコード(参考)】
5H604
【Fターム(参考)】
5H604AA08
5H604BB01
5H604BB10
5H604BB14
5H604CC01
5H604CC05
5H604CC13
5H604DA15
5H604DA16
5H604DA21
5H604DB01
5H604PB03
(57)【要約】
【課題】回転電機の制御性の低下を抑制できるとともに、ボビンの成形不良を抑制できる回転電機を提供する。
【解決手段】回転子3と、回転子3とバックヨーク21aとの間に複数のスロット21cを有する固定子鉄心21と、固定子鉄心21の径方向に沿って配列された複数のコイル挿入孔22aを有しスロット21c内に嵌め込まれた樹脂製のボビン22と、ボビン22の側壁のうちバックヨーク21aに最も近い側壁22cに設けられた第1空隙孔22caとを備える。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転子と、
前記回転子とバックヨークとの間に複数のスロットを有する固定子鉄心と、
前記固定子鉄心の径方向に沿って配列された複数のコイル挿入孔を有し、前記スロット内に嵌め込まれた樹脂製のボビンと、
前記ボビンの側壁のうち前記バックヨークに最も近い側壁であるバックヨーク側側壁に設けられた第1空隙孔とを備えることを特徴とする回転電機。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機であって、
前記第1空隙孔は、前記バックヨーク側側壁を前記固定子鉄心の軸方向に貫通する貫通孔であることを特徴とする回転電機。
【請求項3】
請求項1に記載の回転電機であって、
前記バックヨーク側側壁は、前記複数のコイル挿入孔のうち隣り合う2つのコイル挿入孔の間に位置する仕切壁よりも厚くなっていることを特徴とする回転電機。
【請求項4】
請求項3に記載の回転電機であって、
前記固定子鉄心の径方向における前記第1空隙孔の幅は、前記仕切壁の厚さより大きいことを特徴とする回転電機。
【請求項5】
請求項3に記載の回転電機であって、
前記第1空隙孔と、前記複数のコイル挿入孔のうち最も前記第1空隙孔に近接するコイル挿入孔との間の樹脂厚が、前記仕切壁の厚さと略同一であることを特徴とする回転電機。
【請求項6】
請求項3に記載の回転電機であって、
前記第1空隙孔の周囲の樹脂厚が、前記仕切壁の厚さと略同一であることを特徴とする回転電機。
【請求項7】
請求項1に記載の回転電機であって、
前記固定子鉄心の径方向における前記第1空隙孔の幅が、前記固定子鉄心の径方向における前記複数のコイル挿入孔の各々の幅より小さいことを特徴とする回転電機。
【請求項8】
請求項1に記載の回転電機であって、
前記スロットは、前記バックヨークから前記固定子鉄心の中心方向に突出する複数のティースのうち周方向に隣り合う2つのティースの間に形成され、
前記スロットを囲む前記2つのティースの各々の側面と前記バックヨークの内側面との接合部が曲面になっていることを特徴とする回転電機。
【請求項9】
請求項1に記載の回転電機であって、
前記第1空隙孔に樹脂が注入されていることを特徴とする回転電機。
【請求項10】
請求項1に記載の回転電機であって、
前記第1空隙孔と前記バックヨークとの間の樹脂壁に、前記固定子鉄心の軸方向に延伸するスリットが設けられていることを特徴とする回転電機。
【請求項11】
請求項1に記載の回転電機であって、
前記ボビンの側壁のうち前記スロットの開口に最も近い側壁に第2空隙孔が設けられていることを特徴とする回転電機。
【請求項12】
請求項11に記載の回転電機であって、
前記第2空隙孔の周囲の樹脂の厚さが、前記複数のコイル挿入孔のうち隣り合う2つのコイル挿入孔の間に位置する仕切壁の厚さと略同一であることを特徴とする回転電機。
【請求項13】
請求項11に記載の回転電機であって、
前記第2空隙孔に樹脂が注入されていることを特徴とする回転電機。
【請求項14】
請求項11に記載の回転電機であって、
前記第2空隙孔と前記スロットの開口との間の樹脂壁に、前記固定子鉄心の軸方向に延伸するスリット状の第2開口部が設けられていることを特徴とする回転電機。
【請求項15】
請求項1に記載の回転電機を備えることを特徴とする産業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機および産業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
導線に断面が扁平形状の平角線であるセグメントコイルを用いて固定子の巻線占積率を高め、高出力密度化し小型化した回転電機が開発されている。特許文献1の回転電機は、分割されたセグメントコイルを固定子のスロット内に備わるボビンに形成された複数のコイル挿入孔内で嵌合させ、さらなる小型化と、高生産性と低コスト化を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-126031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のような回転電機では、ボビン内のセグメントコイルと固定子のバックヨークとの距離が相対的に近いとインダクタンスが増加して回転電機の制御性が低下し、当該距離が相対的に遠いとインダクタンスが低減して制御性が向上する傾向がある。例えば、バックコアとセグメントコイルの間のボビンの側壁を局所的に厚くすれば、当該距離を確保できるので制御性の低下を抑制できる。
【0005】
しかし、ボビンの側壁を局所的に厚くすると、ボビンを樹脂成形する際に当該厚い側壁部分に樹脂が滞留し、その他の側壁が薄い部分、例えば、隣り合う2本のセグメントコイルを隔てるボビンの仕切壁部分に樹脂が行き渡り難くなり、クラックやウェルドライン等の成形不良がボビンに発生する可能性が高まる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、回転子と、前記回転子とバックヨークとの間に複数のスロットを有する固定子鉄心と、前記固定子鉄心の径方向に沿って配列された複数のコイル挿入孔を有し前記スロット内に嵌め込まれた樹脂製のボビンと、前記ボビンの側壁のうち前記バックヨークに最も近い側壁に設けられた第1空隙孔とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、回転電機の制御性の低下を抑制できるとともに、ボビンの成形不良を抑制できる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第1実施形態に係る回転電機の概略構造を示す断面斜視図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る回転電機の横断面図である。
図3】本発明の第1実施形態に係る回転電機の横断面の部分拡大図である。
図4】比較例に係るボビンに設けられた複数のコイル挿入孔に挿入された電機子巻線の周囲に発生する磁気回路を示す模式図である。
図5】比較例に係る回転電機の電機子巻線の周囲に発生する磁気回路を集中定数により表現した磁気回路図である。
図6】比較例に係る回転電機の他の電機子巻線の周囲に発生する磁気回路を集中定数により表現した磁気回路図である。
図7】本発明の第1実施形態に係るボビンに設けられた複数のコイル挿入孔に挿入された電機子巻線の周囲に発生する磁気回路を示す模式図である。
図8】本発明の第1実施形態に係る回転電機の電機子巻線の周囲に発生する磁気回路を集中定数により表現した磁気回路図である。
図9】本発明の第1実施形態に係る回転電機の他の電機子巻線の周囲に発生する磁気回路を集中定数により表現した磁気回路図である。
図10】本発明の第2実施形態に係る回転電機の横断面の部分拡大図である。
図11】本発明の第3実施形態に係る回転電機の横断面の部分拡大図である。
図12】本発明の第4実施形態に係る回転電機の横断面の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を用いて、本発明の第1実施形態~第4実施形態による回転電機の構成及び動作について説明する。なお、各図において、同一符号は同一部分を示す。
【0010】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る回転電機1の構造の概略を示す断面斜視図であり、図2は、本発明の第1実施形態に係る回転電機1の横断面図であり、図3は、本発明の第1実施形態に係る回転電機1の横断面の部分拡大図である。
【0011】
回転電機1は、例えば、分布巻インナー回転子型永久磁石同期モータであり、産業機械、例えば、圧縮機の動力源である電動機として用いることができる。
【0012】
図1に示すように、回転電機1には、固定子2と、回転子3と、シャフト4と、ハウジング5と、エンドブラケット6とが設けられている。
【0013】
固定子2は、電源から供給された電力により磁力を発生させ、ギャップを介して対向する回転子3を回転させる部品で、固定子鉄心21と複数のボビン22(図2,3参照)と複数の電機子巻線23とを有している。
【0014】
回転子3は、固定子2から発生する磁力により回転する部分である。回転子3には、複数の積層板から構成された回転子鉄心31と、回転子鉄心31に形成された複数の磁石挿入孔32と、複数の磁石挿入孔32に収納された複数の永久磁石33とが設けられている。
【0015】
回転子鉄心31の中心には貫通孔31aが設けられ、貫通孔31aにはシャフト4が圧入等により固定されている。また、永久磁石33は、例えば、フェライト磁石、ネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石を用いることができ、永久磁石33の形状は、例えば、角型やセグメント(C)型を用いることができる。また、磁石挿入孔32には、1つの磁石が挿入されることが好ましい。
【0016】
シャフト4は回転子3と共に回転する入出力軸で、エンドブラケット6に嵌め込まれた軸受4aにより回転自在に支持されている。また、ハウジング5は固定子鉄心21が嵌め込まれ、固定子2を覆い保護する円筒状部材である。
【0017】
エンドブラケット6はハウジング5の軸方向における両側に取り付けられ、ハウジング5の軸方向の両端を塞ぐ円板状部材である。エンドブラケット6には、シャフト4が中央から突出するとともにフランジが設けられた第1エンドブラケット6aと、シャフト4が突出せずフランジがない第2エンドブラケット6bとが備わる。ハウジング5の両端を、第1エンドブラケット6aと第2エンドブラケット6bとで塞ぐことにより、固定子2と回転子3は封止され保護される。
【0018】
このように構成された回転電機1は、固定子2に電力を供給することによりシャフト4を出力軸とする電動機となり、シャフト4を入力軸として回転動力を供給することにより発電機となる。
【0019】
次に、本実施形態による固定子鉄心21を詳細に説明する。図2に示すように、固定子鉄心21には、円環状のバックヨーク21aと、バックヨーク21aの内周側からバックヨーク21aの中心軸に向かって突出する複数(本実施形態では48個)のティース21bとが設けられている。固定子鉄心21において複数のティース21bは、バックヨーク21aと回転子3の間に位置しており、回転子3と対向している。固定子鉄心21は、バックヨーク21aと複数のティース21bとを備える鋼板を積層させることにより円筒状に形成されている。
【0020】
複数のティース21bのうち隣り合う2つのティース21bの間には、電機子巻線23を挿入するための鉄心溝(スロット)21cが形成されている。したがって、固定子2は、回転子3とバックヨーク21aの間に複数のスロット21cを有する。
【0021】
また、図3に示すように、スロット21cの断面形状が矩形となるように、ティース21bの断面形状は、固定子鉄心21の中心方向に向かって細くなる形状に形成されてもよい。そして、固定子鉄心21は、スロット21cを囲む2つのティース21bの各々の側面とバックヨーク21aの内側面との接合部21abが曲面になっていることが好ましい。
【0022】
ボビン22は絶縁体で、樹脂を成形することにより作製され、スロット21cに嵌め込まれ、固定子鉄心21の径方向に沿って配列された複数(本実施形態では4つ)のコイル挿入孔22aを有する。ボビン22によって、複数の電機子巻線23と、固定子鉄心21(バックヨーク21aとティース21b)とは絶縁される。
【0023】
図3に示すように、ボビン22には、複数のコイル挿入孔22aと、複数の側壁(複数の仕切壁22bと、バックヨーク側側壁22cと、スロット開口側側壁22dと、2つのティース側側壁22e)とが設けられている。
【0024】
複数(本実施形態では3つ)の仕切壁22bは、複数のコイル挿入孔22aのうち隣り合う2つのコイル挿入孔22aの間に位置し、複数のコイル挿入孔22aに挿入された電機子巻線23同士の短絡を抑制する絶縁壁である。
【0025】
図3に示すように、バックヨーク側側壁22cは、ボビン22の複数の側壁のうちバックヨーク21aに最も近い側壁で、バックヨーク21aと電機子巻線23の短絡を抑制する絶縁壁である。バックヨーク側側壁22cには、第1空隙孔22caが設けられている。
【0026】
なお、第1空隙孔22caは、固定子鉄心21の軸方向に貫通する貫通孔であることが好ましい。また、バックヨーク側側壁22cの厚さt22cは、仕切壁22bの厚さt22bよりも厚くなっていることが好ましい。さらに、第1空隙孔22caには、樹脂が注入されていることが好ましい。
【0027】
固定子鉄心21の径方向における第1空隙孔22caの幅w22caは、仕切壁22bの厚さt22bより大きいことが好ましい。また、第1空隙孔22caと、複数のコイル挿入孔22aのうち最も第1空隙孔22caに近接するコイル挿入孔22aaとの間の樹脂厚t1が、仕切壁の厚さt22bと略同一であることが好ましい。
【0028】
さらに、第1空隙孔22caの周囲の樹脂厚t1~t4が、仕切壁の厚さt22bと略同一であることが好ましい。加えて、固定子鉄心21の径方向における第1空隙孔22caの幅w22caが、固定子鉄心21の径方向における複数のコイル挿入孔22aの各々の幅t22aより小さいことが好ましい。
【0029】
なお、スロット21cに形成された接合部21abに対向するバックヨーク側側壁22cの角22cbには、接合部21abの曲面に沿ったR面取り加工がされていることが好ましい。
【0030】
スロット開口側側壁22dは、ボビン22の側壁のうちスロット21cの開口に最も近い側壁である。2つのティース側側壁22eは、複数のコイル挿入孔22aとティース21bの間に位置し、複数のコイル挿入孔22aの各々に挿入された電機子巻線23とティース21bとの短絡を抑制する絶縁壁である。
【0031】
ボビン22の材質には、例えば、液晶性樹脂、PPS樹脂、POE樹脂、アラミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、PE樹脂、PP樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂類が使用でき、2種類を組み合わせて使用しても良い。また、無機フィラ、有機フィラ、無機繊維、有機繊維などの充填剤を混ぜて使用しても良い。
【0032】
電機子巻線23は、例えば、断面形状が扁平形状の平角線で、複数のコイル挿入孔22aの各々に挿入され、複数のティース21bに、例えば、分布巻き方式によって巻回されている。
【0033】
(作用・効果)
図4は、比較例に係るボビン122に設けられた複数のコイル挿入孔22aに挿入された電機子巻線23の周囲に発生する磁気回路を示す模式図である。
【0034】
電機子巻線23aに電流が流れると電機子巻線23aの周囲には図4に示す磁路の磁束Φ23aが発生し、電機子巻線23bに電流が流れると電機子巻線23bの周囲には図4に示す磁路の磁束Φ23bが発生する。
【0035】
図5は、比較例に係る回転電機の電機子巻線23aの周囲に発生する磁気回路を集中定数により表現した磁気回路図である。図5に示すように、電機子巻線23aの周囲の磁気回路は、バックヨーク21a側の磁気抵抗R21aと、ティース21b側の磁気抵抗R21bと、仕切壁22b側の磁気抵抗R22bを有する。電機子巻線23aの起磁力をIとすると、磁束Φ23aは、
Φ23a=I/(R21a+R21b×2+R22b)
となる。
【0036】
図6は、比較例に係る回転電機の電機子巻線23bの周囲に発生する磁気回路を集中定数により表現した磁気回路図である。図6に示すように、電機子巻線23bの周囲の磁気回路は、ティース21b側の磁気抵抗R21bと、仕切壁22b側の磁気抵抗R22bを有する。電機子巻線23bの起磁力をIとすると、磁束Φ23bは、
Φ23b=I/((R21b+R22b)×2)
となる。
【0037】
ここで、磁気抵抗R21aと磁気抵抗R21bは、磁性体であるバックヨーク21aとティース21bが磁路となるため、略同等である。一方、磁気抵抗R22bは、非磁性体である仕切壁22bが磁路となるため、空気と略等価となる。そのため、磁気抵抗R22bは、磁気抵抗R21aと磁気抵抗R21bに対して、100倍から10000倍であり、磁束Φ23aは磁束Φ23bよりも大きくなる。しかし、磁束Φ23aのうちバックヨーク21aを通過する磁束は、回転子3に鎖交しないので、回転子3の回転トルクに寄与しない無効磁束である。
【0038】
一方、本実施形態に係る回転電機1を永久磁石同期モータとして同期駆動させると,回転子3の複数の永久磁石33と固定子2の複数のティース21bとの間の位置関係は連続的に変化するため、モータ内の磁気回路は変動する。磁気回路の変動の際に,ティースに磁気飽和がおこると,インダクタンスは非線形に変動し、電機子巻線を流れる電流は脈動する。電流の脈動が制御装置の制御範囲を超えると脈動が顕在化しモータの制御性が低下する。即ち、電機子巻線のインダクタンスが大きいと、磁気飽和による電流脈動の変動量が大きくなり、モータの制御性が低下してしまう。
【0039】
他方、インダクタンスを小さくすることができると、端子電圧と無負荷誘導起電力の位相差である負荷角を小さくすることができる。そのため、例えば、センサレス制御を行うときに有効な負荷範囲を広げることができるので、モータの制御性を向上させることができる。
【0040】
図7は、本実施形態に係るボビン22に設けられた複数のコイル挿入孔22aに挿入された電機子巻線23の周囲に発生する磁気回路を示す模式図である。電機子巻線23aに電流が流れると電機子巻線23aの周囲には、図7に示す磁路の磁束Φ23aが発生し、電機子巻線23bに電流が流れると電機子巻線23bの周囲には図7に示す磁路の磁束Φ23bが発生する。
【0041】
図8は、本実施形態に係る回転電機1の電機子巻線23aの周囲に発生する磁気回路を集中定数により表現した磁気回路図である。図8に示すように、電機子巻線23aの周囲の磁気回路は、ティース21b側の磁気抵抗R21bと、仕切壁22b側の磁気抵抗R22bを有する。
【0042】
電機子巻線23aの起磁力をIとすると、磁束Φ23aは、
Φ23a=I/((R21b+R22b)×2)
となる。
【0043】
図9は、本実施形態に係る回転電機1の電機子巻線23bの周囲に発生する磁気回路を集中定数により表現した磁気回路図である。図9に示すように、電機子巻線23bの周囲の磁気回路は、ティース21b側の磁気抵抗R21bと、仕切壁22b側の磁気抵抗R22bを有する。電機子巻線23bの起磁力をIとすると、磁束Φ23bは、
Φ23b=I/((R21b+R22b)×2)
となる。
【0044】
ここで、本実施形態に係る回転電機1の電機子巻線23aの周囲に発生する磁気回路にバックヨーク21a側の磁気抵抗R21aが含まれないので、磁束Φ23aは磁束Φ23bと略同等となる。
【0045】
一方、起磁力Iに対する磁束Φの大きさは、電機子巻線23のインダクタンスを示すため、本実施形態に係る回転電機1は、比較例に係る回転電機よりも、インダクタンスを小さくすることができる。
【0046】
ボビン22は、固定子鉄心21の径方向に沿って配列された複数のコイル挿入孔22aのうち最もバックヨーク21aに近接するコイル挿入孔22aaを第1空隙孔22caによりバックヨーク21aから遠ざけることができる。これにより、コイル挿入孔22aaに挿入された電機子巻線23aの周囲の磁気回路に、他のコイル挿入孔22aに挿入された電機子巻線23の周囲の磁気回路と同様に、バックヨーク21a側の磁気抵抗R21aが含まれないようにできる。そのため、磁束Φ1は低減させるので、インダクタンスは低減し,モータの制御性を向上させることができる。よって、電機子巻線23をバックヨーク21aから離すことにより、モータの制御性を向上させることができる。
【0047】
即ち、本実施形態の回転電機1は、回転子3と、回転子3とバックヨーク21aとの間に複数のスロット21cを有する固定子鉄心21と、固定子鉄心21の径方向に沿って配列された複数のコイル挿入孔22aを有しスロット21c内に嵌め込まれた樹脂製のボビン22と、ボビン22の側壁のうちバックヨーク21aに最も近い側壁であるバックヨーク側側壁22cに設けられた第1空隙孔22caと、を備える。
【0048】
バックヨーク21aに最も近いボビン22の側壁であるバックヨーク側側壁22cに第1空隙孔22caを設けると、電機子巻線23aとバックヨーク21aの距離を確保できる。そのため、インダクタンスの増加を抑制できるので、回転電機1の制御性を向上できる。
【0049】
さらに、第1空隙孔22caを設けることによってバックヨーク側側壁22cの樹脂厚t1~t4が他の部分の側壁の樹脂厚に比して極端に増大することが抑制される。これにより、ボビン22を樹脂成形する際に樹脂が局所的に滞留することを抑制できるので、ボビン22の成形不良の発生も抑制できる。即ち、本実施形態の回転電機1によれば、回転電機1の制御性の低下を抑制できるとともに、ボビン22の成形不良を抑制できる。
【0050】
また、本実施形態のボビン22では、バックヨーク側側壁22cに設けられた第1空隙孔22caが、バックヨーク側側壁22cを固定子鉄心21の軸方向に貫通する貫通孔であることが好ましい。これにより、第1空隙孔22caの成形が容易となるとともに、ボビン22を樹脂成形するときの樹脂圧の偏りを抑制でき、クラック等の成形不良の発生を抑制できる。
【0051】
また、本実施形態のボビン22では、バックヨーク側側壁22cが、複数のコイル挿入孔22aのうち隣り合う2つのコイル挿入孔22aの間に位置する仕切壁22bよりも厚くなっていることが好ましい。これにより、バックヨーク側側壁22cの厚さt22cが、仕切壁22bの厚さt22b以下の場合より、インダクタンスを小さくすることができるので、モータの制御性を向上できる。
【0052】
また、本実施形態の固定子鉄心21の径方向における第1空隙孔22caの幅w22caは、仕切壁22bの厚さt22bより大きいことが好ましい。これにより、固定子鉄心21の径方向におけるバックヨーク側側壁22cの厚さt22cは、仕切壁22bの厚さt22bより大きくなるとともに、第1空隙孔22caの周囲の樹脂厚t1~t4を薄くできる。そのため、インダクタンスを小さくして回転電機1の制御性の低下を抑制できるとともに、第1空隙孔22caの周囲の樹脂厚t1~t4を薄くしてボビン22の成形不良を抑制できる。
【0053】
また、本実施形態の第1空隙孔22caと複数のコイル挿入孔22aのうち最も前記第1空隙孔22caに近接するコイル挿入孔22aaとの間の樹脂厚t1が、仕切壁22bの厚さt22bと略同一であることが好ましい。これにより、ボビンを樹脂成形するときの樹脂圧の偏りを抑制でき、クラック等の成形不良の発生をさらに抑制できる。
【0054】
さらに、本実施形態の第1空隙孔22caの周囲の樹脂厚t1~t4が、仕切壁22bの厚さt22bと略同一であることが好ましい。これにより、ボビンを樹脂成形するときの樹脂圧の偏りをさらに抑制できるので、クラック等の成形不良の発生をさらに一層抑制できる。
【0055】
また、本実施形態の固定子鉄心21の径方向における第1空隙孔22caの幅w22caが、固定子鉄心21の径方向における複数のコイル挿入孔22aの各々の幅t22aより小さいであることが好ましい。これにより、バックヨーク側側壁22cの固定子鉄心21の径方向における幅t22cを小さくすることができるので、ティース21bに巻回される電機子巻線23の占積率の低下を抑制できる。
【0056】
また、本実施形態のスロット21cを囲む2つのティース21bの各々の側面とバックヨーク21aの内側面との接合部21abが曲面になっていることが好ましい。これにより、接合部21abにおいて磁束が流れやすくすることができ、鎖交磁束に対する磁気抵抗を低減することができるので、磁気損失を低減できる。
【0057】
また、本実施形態の第1空隙孔22caに樹脂を注入することが好ましく、これにより、ボビン22の強度を向上させることができる。
【0058】
(第2実施形態)
図10は、本発明の第2実施形態に係る回転電機の横断面の部分拡大図である。本実施形態が、第1実施形態と異なる点は、第1空隙孔22caとバックヨーク21aとの間の樹脂壁22ccに、固定子鉄心21の軸方向に延伸するスリットであるバックヨーク側開口部22ceが設けられている。
【0059】
これにより、ボビン222を樹脂成形するための金型において、第1空隙孔22caを形成するために金型に設けられた貫通孔成形用突起部は、バックヨーク側開口部22ceを形成させるための金型部分を介して金型の外側壁に結合される。そのため、ボビン222の射出成形において金型に注入される樹脂の圧力により、貫通孔成形用突起部に発生する撓みや振動が抑制されるので、成形不良を抑制することができる。
【0060】
なお、バックヨーク側開口部22ceは、樹脂壁22ccの強度の低下を防ぐために、固定子鉄心21の軸方向の一部にのみ設けられていることが好ましい。この場合、バックヨーク側開口部22ceを形成させるための金型部分は、金型の貫通孔成形用突起部に発生する撓みや振動を効率よく抑制するために、貫通孔成形用突起部の先端側に設けられていることが好ましい。そのため、バックヨーク側開口部22ceは、金型の貫通孔成形用突起部の先端側に形成されることが好ましい。
【0061】
(第3実施形態)
図11は、本発明の第3実施形態に係る回転電機の横断面の部分拡大図である。本実施形態が、第2実施形態と異なる点は、ボビン322の側壁のうちスロット21cの開口に最も近い側壁(スロット開口側側壁22d)に第2空隙孔22daが設けられている点である。
【0062】
これにより、スロット開口側側壁22dの第2空隙孔22daの周囲の樹脂厚t5~t8が薄くなるので、ボビン322を樹脂成形する際に樹脂がスロット開口側側壁22dに局所的に滞留することを抑制できる。したがって、ボビン22の成形不良の発生をさらに抑制できる。
【0063】
なお、第2空隙孔22daの周囲の樹脂の厚さt5~t8は、仕切壁22bの厚さt22bと略同一であることが好ましい。これにより、ボビン322を樹脂成形するときの樹脂圧の偏りをさらに抑制でき、クラック等の成形不良をさらに抑制できる。
【0064】
さらに、第2空隙孔22daには、樹脂が注入されてしていることが好ましい。これにより、ボビン322の強度を向上させることができる。
【0065】
(第4実施形態)
図12は、本発明の第4実施形態に係る回転電機の横断面の部分拡大図である。本実施形態が、第3実施形態と異なる点は、第2空隙孔22daとスロット21cの開口との間の樹脂壁22dcに、固定子鉄心21の軸方向に延伸するスリットであるスロット開口側開口部22deが設けられている点である。
【0066】
これにより、ボビン422を樹脂成形するための金型において、第2空隙孔22daを形成するために金型に設けられた貫通孔成形用突起部は、スロット開口側開口部22deを形成するための突起部を介して金型の外側壁に結合される。そのため、ボビン422の射出成形において金型に注入される樹脂の圧力により、貫通孔成形用突起部に発生する撓みや振動が抑制されるので、成形不良を抑制することができる。
【0067】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0068】
なお、本発明の実施形態は、以下の態様であってもよい。上記の回転電機1において、極数とスロット数が8極48スロットの場合を示したがこれに限定されず、極数とスロット数の組み合わせは任意であり、例えば、4極48スロットや2極24スロットの組み合わせを用いてもよい。
【0069】
また、上記において、永久磁石33に角型やセグメント(C)型のフェライト磁石、ネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石を用いることを示した。しかし、この形態に限定されず、他の磁石、他の形状であってもよい。また、磁石挿入孔32には、1つの磁石が挿入される場合だけでなく、固定子2の軸方向、周方向または径方向に複数の永久磁石33を挿入してもよい。
【0070】
また、上記において、スロット21cの断面形状が矩形となるように、ティース21bの断面形状は、固定子鉄心21の中心方向に向かって細くなる形状に形成されている実施形態を示した。しかし、これに限定されず、例えば、ティース21bの断面形状が矩形で、スロット21cの断面形状が固定子鉄心21の中心方向に向かって細くなる形状であってもよい。また、ティース21bの先端が固定子鉄心21の周方向に広がっており、ティース21bの断面形状がT字状になっていてもよい。
【0071】
また、上記の実施形態において、バックヨーク21aと複数のティース21bとを一体に設けた鋼板を積層する固定子鉄心21を示した。しかし、これに限定されず、複数のティース21bとバックヨーク21aとを異なる鋼板により作製し、積層されたバックヨーク21aに積層されたティース21bを複数組み付けて固定してもよい。
【0072】
また、電機子巻線23は、巻線占積率を高めるために、平角線を用いることが好ましいがこれに限定されず、例えば、丸線や撚り線でも良い。電機子巻線23に丸線や撚り線を用いた場合、コイル挿入孔22aの形状は、電機子巻線23の断面形状に従って変形させることが好ましい。また、電機子巻線23には、例えば、絶縁被膜(例えば、ワニスやエンジニアリング・プラスチック)をコーティングした銅を主成分とする電気導体が好ましい。
【符号の説明】
【0073】
1…回転電機、2…固定子、3…回転子、21…固定子鉄心、21a…バックヨーク、21aa…バックヨーク内側面、21ab…接合部、21b…ティース、21ba…ティース側面、21c…スロット、22,122,222,322,422…ボビン、22a…コイル挿入孔、22b…仕切壁、22c…バックヨーク側側壁、22ca…第1空隙孔、22cc…樹脂壁、22ce…バックヨーク側開口部、22d…スロット開口側側壁、22da…第2空隙孔、22dc…樹脂壁、22de…スロット開口側開口部、23…電機子巻線、31…回転子鉄心、31a…貫通孔、32…磁石挿入孔、33…永久磁石
図1
図2
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図10
図11
図12