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特開2024-65299損傷検知機能付き繊維強化樹脂ケーブルおよび電線
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065299
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】損傷検知機能付き繊維強化樹脂ケーブルおよび電線
(51)【国際特許分類】
   D07B 1/16 20060101AFI20240508BHJP
   H01B 7/32 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
D07B1/16
H01B7/32 Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174091
(22)【出願日】2022-10-31
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003528
【氏名又は名称】東京製綱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001830
【氏名又は名称】弁理士法人東京UIT国際特許
(72)【発明者】
【氏名】大原 直輝
【テーマコード(参考)】
3B153
5G315
【Fターム(参考)】
3B153AA44
3B153BB01
3B153CC21
3B153CC22
3B153CC25
3B153CC26
3B153CC43
3B153CC59
3B153FF35
5G315BA14
(57)【要約】
【課題】架空送電線の補強材として用いられる繊維強化樹脂ケーブルの状態,典型的には損傷の状態を,簡単に検知できるようにする。
【解決手段】電線1は,電線コア10と,電線コア10の周囲を包囲する導電層20,30とから構成されている。電線コア10は,中心に位置する1本の長尺の被覆CFRPケーブル11(心線)と,その周囲に撚り合わされた6本の長尺の被覆CFRPケーブル11(側線)の,合計7本の被覆CFRPケーブル11によって構成されている。CFRPケーブル12は,1本の長尺のタングステン・ワイヤ16と,タングステン・ワイヤ16の周囲を囲むようにして断面円形に束ねられた多数本の長尺の炭素繊維と,炭素繊維に含浸されたエポキシ樹脂から構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に連続する複数本の繊維を束ねた繊維束と上記繊維束に含浸される樹脂とから構成される繊維強化樹脂ケーブル,ならびに
上記繊維強化樹脂ケーブル内に配置され,かつ周囲が上記繊維束および硬化した上記樹脂によって包囲された状態で上記繊維強化樹脂ケーブルの長手方向にのびる,重金属製ワイヤを備えている,
損傷検知機能付き繊維強化樹脂ケーブル。
【請求項2】
上記繊維強化樹脂ケーブルが,
それぞれが,樹脂が含浸された複数本の繊維を有し,これらがそれぞれ束にまとめられた複数本の樹脂含浸繊維束を備え,
上記樹脂含浸繊維束のそれぞれに上記重金属製ワイヤが埋め込まれている,
請求項1に記載の損傷検知機能付き繊維強化樹脂ケーブル。
【請求項3】
上記複数本の樹脂含浸繊維束が,
中心に配置された心線と,
上記心線の周囲に撚り合わされた複数本の側線と,を含む,
請求項2に記載の損傷検知機能付き繊維強化樹脂ケーブル。
【請求項4】
長手方向に連続する複数本の繊維を束ねた繊維束と上記繊維束に含浸される樹脂とから構成される繊維強化樹脂ケーブル,
上記繊維強化樹脂ケーブル内に配置され,かつ周囲が上記繊維束および硬化した上記樹脂によって包囲された状態で上記繊維強化樹脂ケーブルの長手方向にのびる重金属製ワイヤ,ならびに
上記繊維強化樹脂ケーブルの周囲に撚り合わされる複数本の軽金属製導電線を備えている,
損傷検知機能付き電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は損傷検知機能付き繊維強化樹脂ケーブルおよび電線に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄塔と鉄塔との間に長距離にわたって張られる架空送電線には,軽量であること,引張強度が大きいこと,大電流を流すことができること等が求められる。亜鉛メッキ鋼線の単線または撚り線(鋼線コア)が中心に配置され,その周囲に複数本のアルミ線が撚り合わされた鋼心アルミより線(ACSR)(Aluminum Conductor Steel Reinforced )が架空送電線として主流であるが,近年では,さらなる軽量化や引張強度の増強を図るために,鋼線に代えて繊維強化複合部材を中心に配置した繊維心アルミより線(ACFR)(Aluminum Conductor Fiber Reinforced)も架空送電線として用いられている。
【0003】
繊維強化複合部材の周囲にアルミ線が撚り合わされると,繊維強化複合部材が損傷を受けているかどうかが外から分かりにくくなる。そのため,目視による確認以外の方法で繊維強化複合部材の状態を検出する方法が必要とされている。特許文献1は繊維強化複合部材に光ファイバを配置したものを開示する。たとえば光ファイバを通る後方散乱光信号を観察することによってアルミ線に覆われた繊維強化複合部材の状態が検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許公開US2022/0146563 A1
【0005】
特許文献1において光ファイバを通る光信号を観察するには,電線の端部においてアルミ線を取り除いて繊維強化複合部材を露出させ,さらに繊維強化複合部材を取り除くことによって光ファイバを露出させて,露出した光ファイバの端部に光源,測定器等を接続しなければならない。架空送電線として実際に用いられている場合には特に,上述したような電線の端部の加工は簡単ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は,たとえば架空送電線として用いられている場合であっても,架空送電線の補強材として用いられる繊維強化樹脂ケーブルの状態,典型的には損傷の状態を,簡単に検知できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明による損傷検知機能付き繊維強化樹脂ケーブルは,長手方向に連続する複数本の繊維を束ねた繊維束と上記繊維束に含浸される樹脂とから構成される繊維強化樹脂ケーブル,ならびに上記繊維強化樹脂ケーブル内に配置され,かつ周囲が上記繊維束および硬化した上記樹脂によって包囲された状態で上記繊維強化樹脂ケーブルの長手方向にのびる重金属製ワイヤを備えている。
【0008】
損傷検知機能付き繊維強化樹脂ケーブルを構成する繊維は,炭素繊維,ガラス繊維,ボロン繊維,アラミド繊維,ポリエチレン繊維,PBO(poly p-phenylenebenzobisoxazole)繊維,その他の繊維を含む。これらの繊維は非常に細く,複数本の繊維を束ねることで樹脂を含浸させることができる。
【0009】
損傷検知機能付き繊維強化樹脂ケーブルを構成する樹脂は,熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂のいずれであってもよい。エポキシ,飽和ポリエステル,ビニルエステル,フェノール,ポリアミド,ポリカーボネート等を用いることができる。
【0010】
損傷検知機能付き繊維強化樹脂ケーブルに,たとえば曲げが加えられることで損傷が加わると,繊維束を構成する繊維に断線が発生したり,繊維束に含浸された樹脂に亀裂が発生したりする。断線および亀裂が発生した箇所では重金属製ワイヤの包囲(拘束)が弱まる(たとえば隙間が生じる)ので重金属製ワイヤに変形(塑性変形)が生じる。
【0011】
重金属製ワイヤは繊維強化樹脂ケーブル内に配置されているので,外観上視認することはできないものの,X線透過画像であれば重金属製ワイヤの形状を確認することができる。重金属は密度が高く,X線の遮蔽率が大きい(すなわちX線透過画像にはっきりと写り込む)からである。すなわち,この発明による損傷検知機能付き繊維強化樹脂ケーブルは,X線透過画像においてはっきりと形状を認識することができる重金属製ワイヤを内部に備えている。X線透過画像において重金属製ワイヤの変形が確認されれば,その変形箇所の周囲では繊維の断線および樹脂の亀裂が生じている可能性が高く,X線透過画像に断線状態の繊維および亀裂状態の樹脂が全く現れないとしても(逆に現れない方が重金属製ワイヤの形状をはっきりと視認しやすい),その損傷検知機能付き繊維強化樹脂ケーブルは損傷しているまたはその可能性があることが分かる。繊維の断線や樹脂の亀裂が存在することで引張強度の低下したケーブルを誤って使用してしまうことを未然に防ぐことができる。
【0012】
一実施態様では,上記繊維強化樹脂ケーブルが,それぞれが,樹脂が含浸された複数本の繊維を有し,これらがそれぞれ束にまとめられた複数本の樹脂含浸繊維束を備え,上記樹脂含浸繊維束のそれぞれに上記重金属製ワイヤが埋め込まれている。繊維強化樹脂ケーブルを,複数本の樹脂含浸繊維束を束ねたものとすることによって,繊維強化樹脂ケーブルに柔軟性を付与することができる。
【0013】
好ましくは,上記複数本の樹脂含浸繊維束が,中心に配置された心線と,上記心線の周囲に撚り合わされた複数本の側線と,を含む。柔軟性に加えて,高い引張強度や優れた耐疲労性を,繊維強化樹脂ケーブルに付与することができる。
【0014】
この発明は,長手方向に連続する複数本の繊維を束ねた繊維束と上記繊維束に含浸される樹脂とから構成される繊維強化樹脂ケーブル,上記繊維強化樹脂ケーブル内に配置され,かつ周囲が上記繊維束および硬化した上記樹脂によって包囲された状態で上記繊維強化樹脂ケーブルの長手方向にのびる重金属製ワイヤ,ならびに上記繊維強化樹脂ケーブルの周囲に撚り合わされる複数本の軽金属製導電線を備える電線も提供する。軽金属(たとえばアルミニウム)に比べて重金属(たとえばタングステン)は密度が高いので,X線透過画像において重金属製ワイヤの変形をはっきりと確認することができ,外観からは分からない電線の損傷を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】電線の斜視図である。
図2】1本の被覆CFRPケーブルの断面図である。
図3】X線検査装置の概略図である。
図4】正常な被覆CFRPケーブルの縦断面模式図である。
図5】曲げが加えられた被覆CFRPケーブルの縦断面模式図である。
図6】曲げをもとに戻した被覆CFRPケーブルの縦断面模式図である。
図7】損傷が加わった被覆CFRPケーブルを含む電線コアのX線CT画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は電線1を,電線1の中心に位置する電線コア10および電線コア10の周囲の導電層20のそれぞれの一部を露出させて示すものである。図2は,図1に示す電線コア10を構成する,被覆CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)(炭素繊維強化プラスチック)ケーブル11の断面図である。図示の便宜上,図1図2とでは縮尺を異ならせている。
【0017】
図1を参照して,電線1は,電線コア10と,電線コア10の周囲を包囲する導電層20,30とから構成される。電線コア10は電線1の補強材として用いられる。電流は電線コア10の周囲の導電層20,30を流れる。
【0018】
電線コア10は,中心に位置する1本の長尺の被覆CFRPケーブル11(心線)と,その周囲に撚り合わされた6本の長尺の被覆CFRPケーブル11(側線)の,合計7本の被覆CFRPケーブル11によって構成されている。
【0019】
図2を参照して,被覆CFRPケーブル11のそれぞれは,中心にタングステン・ワイヤ16を有するCFRPケーブル12と,CFRPケーブル12の表面に被覆された保護層15,たとえばポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂層から構成されている。CFRPケーブル12は,1本の長尺のタングステン・ワイヤ16と,タングステン・ワイヤ16の周囲を囲むようにして断面円形に束ねられた多数本の長尺の炭素繊維13と,炭素繊維13に含浸されたエポキシ樹脂14から構成される。炭素繊維13に含浸されたエポキシ樹脂14は硬化しており,タングステン・ワイヤ16と,炭素繊維13と,エポキシ樹脂14とによってタングステン・ワイヤ16入りCFRPケーブル12が構成される。上述のようにCFRPケーブル12の表面に保護層15が被覆されることによって被覆CFRPケーブル11が構成される。
【0020】
CFRPケーブル12には数万本から数十万本の長尺の炭素繊維13が含まれており,電線コア10の全体には数十万本から数百万本の炭素繊維13を含ませることができる。炭素繊維13の本数または被覆CFRPケーブル11の本数によって,電線コア10の直径は任意に調整することができる。心線としての被覆CFRPケーブル11と,その周囲に撚り合わされる複数本の側線としての被覆CFRPケーブル11とを用いて電線コア10を形成することによって,高い破断強度と優れた柔軟性をもち,耐疲労性にも優れた電線コア10とすることができる。もっとも,心線と側線とに区別することなく複数本の被覆CFRPケーブル11を一緒に束ねたまたは撚り合わせたものを電線コア10としてもよい。さらに,特に電線1の直径が細ければ,単線の被覆CFRPケーブル11をそのまま電線コア10として用いてもよい。
【0021】
導電層20,30は,上述した電線コア10の周囲に配列される複数本のアルミ線21,31によって形成される。図1に示す電線1は,電線コア10を包囲する断面台形の6本のアルミ線21によって構成される導電層20と,導電層20を包囲する断面台形の10本のアルミ線31によって構成される導電層30の2層構造を持つ。アルミ線21,31は,いずれも電線1の長手方向に伸びかつ緩やかに捩じられており,電線コア10の周囲にらせん状に巻き付けられている。電線コア10を包囲する導電層の層数,ならびに導電層20,30の各層を構成するアルミ線21,31の本数および形状は,適宜変更することができる。たとえばアルミ線21,31の断面形状は円形であってもよい。
【0022】
図3はX線検査装置を概略的に示している。
【0023】
X線検査装置40は架線されている電線1の一部を筐体41によって包囲するようにして電線1に取り付けられて用いられるもので,筐体41の内部に複数のX線発生源(図示略)および複数のX線検出パネル(図示略)を内蔵する。たとえば電線1を周方向に3分割した範囲(概略60度ずつの角度範囲)からのX線画像データが撮像される。X線検査装置40はモータ(図示略)を備えており,電線1に沿って移動可能である。電線1に沿ってX線検査装置40を移動させながら複数のX線画像データを撮像することによって,電線1の所望の範囲にわたるX線画像データを撮像することができる。
【0024】
図4から図6は被覆CFRPケーブル11の縦断面を模式的に示すもので,図4は損傷を受けていない正常な被覆CFRPケーブル11を,図5は損傷を受けている(曲げが発生している)被覆CFRPケーブル11を,図6は損傷を受けた後にまっすぐにのばされた被覆CFRPケーブル11を,それぞれ示している。図4から図6では保護層15がかなり強調して描かれている。また,図4から図6では炭素繊維13に含浸されたエポキシ樹脂14の図示は省略されている。また,分かりやすくするために,少ない本数の炭素繊維13のみが描かれている。さらに,タングステン・ワイヤ16が太線によって強調して描かれている。
【0025】
図4を参照して,電線1が損傷を受けていなければ,電線1を構成する電線コア10に損傷はなく,電線コア10を構成する被覆CFRPケーブル11にも損傷はない。被覆CFRPケーブル11に含まれるタングステン・ワイヤ16は被覆CFRPケーブル11の長手方向に沿ってのびる。もちろん,被覆CFRPケーブル11が撚られていれば(図1参照),タングステン・ワイヤ16も被覆CFRPケーブル11に沿ってらせん状にのびるものとなる。
【0026】
図5を参照して,電線1が,たとえば作業員の足で踏まれる等によって強く曲げられると,電線1を構成する電線コア10および導電層20,30も曲げられる。電線コア10を構成する被覆CFRPケーブル11にも曲げが加わる。
【0027】
上述したように,被覆CFRPケーブル11を構成する多数本の炭素繊維13にはエポキシ樹脂14が含浸されておりかつ硬化している。電線1が強く曲げられることによって被覆CFRPケーブル11が強く曲げられると,曲げられた箇所のエポキシ樹脂14に亀裂が生じやすい。また,炭素繊維13は引張強度に比べて圧縮強度が低く,圧縮方向の力が加わると断線が発生しやすい。図5図6には,被覆CFRPケーブル11を構成するエポキシ樹脂14に発生した亀裂および炭素繊維13に発生した断線(損傷)が符号Cによって模式的に示されている。
【0028】
タングステン・ワイヤ16の周囲には上述のようにエポキシ樹脂14が含浸された炭素繊維13が存在しており,タングステン・ワイヤ16は,いわば炭素繊維13およびエポキシ樹脂14によってその周囲が拘束されている状態である。上述のようにエポキシ樹脂14に亀裂が生じかつ炭素繊維13に断線が発生すると,その亀裂断線Cの箇所に隙間(小さい空間)が発生する。他方,タングステン・ワイヤ16には応力が加わり,亀裂断線Cの箇所に向かう塑性変形がタングステン・ワイヤ16に生じる(図5)。図5では塑性変形が発生したタングステン・ワイヤ16の部分が符号16Aによって示されている。
【0029】
図6を参照して,一度曲げられた電線1がその後に再び真っすぐにのばされると,被覆CFRPケーブル11を構成する保護層15は伸縮性に富むので元の形状に戻る。アルミ線21,31も同様である。外観上,電線1および被覆CFRPケーブル11のいずれについても,強い曲げが加えられたものかどうかは分からない。他方,被覆CFRPケーブル11の内部において発生した,上述したエポキシ樹脂14および炭素繊維13の亀裂断線C,ならびにタングステン・ワイヤ16の塑性変形16Aは,電線1(被覆CFRPケーブル11)を再び真っすぐにのばしたとしても,元に戻ることはない。
【0030】
図7は損傷を受けた電線1のX線CT(Computed Tomograph)画像を示している。図7に示すX線CT画像は,電線コア10のX線画像データをコンピュータ処理することによって作成したものである。次に説明するように,X線CT画像ではタングステン・ワイヤ16のみが分かりやすく強調される。分かりやすくするために,図7では塑性変形16Aが発生しているタングステン・ワイヤ16の部分を丸で囲んで示す。
【0031】
上述したように,電線1を構成する電線コア10は7本の被覆CFRPケーブル11を備え,被覆CFRPケーブル11のそれぞれに1本のタングステン・ワイヤ16が含まれている。タングステン・ワイヤ16の密度(約19.1g/cm)は,電線1を構成する他の物体の密度(アルミニウム:2.7g/cm,炭素繊維13:1.8g/cm)に比べて格段に高く,X線遮蔽率が大きい。すなわちタングステン・ワイヤ16はX線を透過させにくく,X線画像においてタングステン・ワイヤ16のみを鮮明に画像化することができる。図7に示すように,電線1のX線CT画像においては7本のタングステン・ワイヤ16の形状をはっきりと見ることができる。
【0032】
タングステン・ワイヤ16に塑性変形16Aが生じていることが分かれば,それは塑性変形16Aが発生しているタングステン・ワイヤ16の部分の周囲の炭素繊維13およびエポキシ樹脂14に,上述した亀裂,断線といった損傷が生じていることを意味する。すなわち,X線画像(X線CT画像)を用いてタングステン・ワイヤ16の形状(塑性変形16Aの有無)を観察することによって,電線コア10(被覆CFRPケーブル11)の損傷の有無および程度を知ることができる。
【0033】
上述した実施例では,タングステン・ワイヤ16入り被覆CFRPケーブル11を電線1に用いた例を説明したが,タングステン・ワイヤ16入り被覆CFRPケーブル11(またはタングステン・ワイヤ16入りCFRPケーブル12)は,たとえばプレストレスト・コンクリートの緊張材など,土木用途に用いることもできる。
【0034】
また,上述した実施例では,炭素繊維13を用いた被覆CFRPケーブル11を説明したが,炭素繊維に代えてガラス繊維,ケブラー繊維,その他の繊維(合成繊維)を用いてもよい。炭素繊維に含浸する樹脂としては,上述したエポキシに代えて,飽和ポリエステル,ビニルエステル,フェノール,ポリアミド,ポリカーボネート等を用いてもよい。いずれにしても,これらの繊維および樹脂の密度はタングステンの密度よりも低い。
【0035】
タングステンと比べるとやや密度が低いものの,タングステン・ワイヤ16に代えて,鉄(鋼)製ワイヤ(鉄の密度は7.86g/cm),モリブデン製ワイヤ(モリブデンの密度は10.2g/cm),その他の重金属製ワイヤを用いてもよい。重金属は,アルミニウムおよび炭素繊維13(アルミニウムは軽金属に,炭素繊維13は非金属にそれぞれ分類される)に比べて密度が高いので,X線画像(X線CT画像)においてその形状(塑性変形16Aの有無)を観察することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 電線
10 電線コア
11 被覆CFRPケーブル
12 CFRPケーブル
13 炭素繊維
14 エポキシ樹脂
15 保護層
16 タングステン・ワイヤ
20,30 導電層
21,31 アルミ線
40 X線検査装置
C 亀裂断線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2023-02-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に連続する複数本の繊維を束ねた繊維束と上記繊維束に含浸される樹脂とから構成される繊維強化樹脂ケーブル,ならびに
上記繊維強化樹脂ケーブル内に配置され,かつ周囲が上記繊維束および硬化した上記樹脂によって包囲された状態で上記繊維強化樹脂ケーブルの長手方向にのびる,上記繊維よりも密度の高いタングステン製またはモリブデン製ワイヤを備えている,
損傷検知機能付き繊維強化樹脂ケーブル。
【請求項2】
上記繊維強化樹脂ケーブルが,
それぞれが,樹脂が含浸された複数本の繊維を有し,これらがそれぞれ束にまとめられた複数本の樹脂含浸繊維束を備え,
上記樹脂含浸繊維束のそれぞれに上記タングステン製またはモリブデン製ワイヤが埋め込まれている,
請求項1に記載の損傷検知機能付き繊維強化樹脂ケーブル。
【請求項3】
上記複数本の樹脂含浸繊維束が,
中心に配置された心線と,
上記心線の周囲に撚り合わされた複数本の側線と,を含む,
請求項2に記載の損傷検知機能付き繊維強化樹脂ケーブル。
【請求項4】
長手方向に連続する複数本の繊維を束ねた繊維束と上記繊維束に含浸される樹脂とから構成される繊維強化樹脂ケーブル,
上記繊維強化樹脂ケーブル内に配置され,かつ周囲が上記繊維束および硬化した上記樹脂によって包囲された状態で上記繊維強化樹脂ケーブルの長手方向にのびる,上記繊維よりも密度の高いタングステン製またはモリブデン製ワイヤ,ならびに
上記繊維強化樹脂ケーブルの周囲に撚り合わされる複数本の軽金属製導電線を備えている,
損傷検知機能付き電線。