IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社安藤・間の特許一覧 ▶ ヤクモ株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社音装エンジニアリングの特許一覧

<>
  • 特開-防水遮音構造 図1
  • 特開-防水遮音構造 図2
  • 特開-防水遮音構造 図3
  • 特開-防水遮音構造 図4
  • 特開-防水遮音構造 図5
  • 特開-防水遮音構造 図6
  • 特開-防水遮音構造 図7
  • 特開-防水遮音構造 図8
  • 特開-防水遮音構造 図9
  • 特開-防水遮音構造 図10
  • 特開-防水遮音構造 図11
  • 特開-防水遮音構造 図12
  • 特開-防水遮音構造 図13
  • 特開-防水遮音構造 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065328
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】防水遮音構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 5/43 20060101AFI20240508BHJP
   E03C 1/20 20060101ALI20240508BHJP
   E04B 1/82 20060101ALI20240508BHJP
   E04B 1/98 20060101ALI20240508BHJP
   E04B 1/66 20060101ALI20240508BHJP
   E04F 15/00 20060101ALI20240508BHJP
   E04F 15/18 20060101ALI20240508BHJP
   E04F 15/20 20060101ALI20240508BHJP
   E04D 5/00 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
E04B5/43 H
E03C1/20 B
E04B1/82 H
E04B1/98 S
E04B1/66 A
E04F15/00 F
E04F15/18 601B
E04F15/18 601Z
E04F15/20
E04D5/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174140
(22)【出願日】2022-10-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・「ホテルリソルトリニティ那覇」 竣工・引渡(令和3年11月30日) ・日本建築学会2022年度大会(北海道)学術講演梗概集DVD 販売開始(令和4年7月20日) ・日本建築学会2022年度大会(北海道)環境工学 発表(令和4年9月7日)
(71)【出願人】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(71)【出願人】
【識別番号】591167898
【氏名又は名称】ヤクモ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】522425873
【氏名又は名称】株式会社音装エンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】進藤 龍
(72)【発明者】
【氏名】上田 泰孝
(72)【発明者】
【氏名】反町 純夫
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 勝夫
(72)【発明者】
【氏名】早津 雅史
(72)【発明者】
【氏名】石神 伸行
【テーマコード(参考)】
2D061
2E001
2E220
【Fターム(参考)】
2D061CA02
2D061CB01
2D061CB06
2D061CB10
2E001DA01
2E001DF01
2E001EA01
2E001FA11
2E001FA42
2E001GA12
2E001HA04
2E001HD01
2E001HE01
2E001HE03
2E001HF01
2E001MA01
2E220AA07
2E220AA19
2E220AB03
2E220GA03Z
2E220GA24Z
2E220GA25X
2E220GA25Y
2E220GA26X
2E220GA26Z
2E220GB22Y
2E220GB26X
2E220GB33Z
2E220GB39Z
2E220GB40Z
(57)【要約】
【課題】 本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、配管が貫通する部分が従来に比して複雑でない構造であって、防水性能と遮音性能を併せ持つ防水遮音構造を提供することである。
【解決手段】本願発明の防水遮音構造は、水が利用される部屋に設けられ、下階に伝わる音を抑制する構造であって、防振スラブと防水スラブ、防振側壁を備えたものである。防振スラブは利水室の床スラブの上に配置され、防水スラブは防振スラブの上方であって空間が形成されるように離隔をもって配置される。防振スラブは面状の床防振材と押えコンクリートを含んで構成され、防水スラブは基礎スラブと上段防水材、押えコンクリートを含んで構成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水が利用される利水室に設けられる構造であって、該利水室の下階に伝わる音を抑制する構造であって、
前記利水室の床スラブの上に配置される防振スラブと、
前記防振スラブの上方であって、空間が形成されるように離隔をもって配置される防水スラブと、
前記防振スラブの上面で立ち上がり、前記防振スラブを支持する防振側壁と、を備え、
前記防振スラブは、面状の床防振材と、該床防振材の上側に敷設される押えコンクリートと、を含んで構成され、
前記防水スラブは、基礎スラブと、該基礎スラブの上面に敷設される上段防水材と、該上段防水材の上側に敷設される押えコンクリートと、を含んで構成された、
ことを特徴とする防水遮音構造。
【請求項2】
前記防振スラブが、前記防振側壁の下方投影面に敷設される鉛直荷重受け材を含み、
前記鉛直荷重受け材は、防振性能を有する弾性材で形成され、
前記床防振材は、前記鉛直荷重受け材が配置されていない部分に敷設される、
ことを特徴とする請求項1記載の防水遮音構造。
【請求項3】
前記鉛直荷重受け材が、帯状の部材である、
ことを特徴とする請求項2記載の防水遮音構造。
【請求項4】
前記防振側壁が、前記利水室の竪壁と対向する壁面であって、前記防水スラブの側方投影面に敷設される水平荷重受け材を含み、
前記水平荷重受け材は、防振性能を有する弾性材で形成される、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の防水遮音構造。
【請求項5】
前記防振スラブが、前記水平荷重受け材を含み、
前記水平荷重受け材は、前記利水室の竪壁と対向する前記防振スラブの端面に敷設される、
ことを特徴とする請求項4記載の防水遮音構造。
【請求項6】
前記防振側壁が、面状の壁防振材を含み、
前記壁防振材は、前記水平荷重受け材が配置されていない部分に敷設される、
ことを特徴とする請求項4記載の防水遮音構造。
【請求項7】
前記防振スラブが、防水層を含み、
前記防水層は、下段防水材と、該下段防水材の上側に敷設される押えコンクリートと、を含んで構成される、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の防水遮音構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、浴室や機器の洗浄室など水を利用する部屋の遮音技術に関するものであり、より具体的には、防水層と防振層を上段スラブと下段スラブに分離した防水遮音構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホテルや旅館といった宿泊施設を選ぶ際、宿泊客は値段や料理のほか、その施設特有の設備にも着目することがある。特に浴室は、宿泊施設を選ぶときに重要視されつつあり、比較的上階にあるいわゆる展望風呂などが好まれる傾向にある。そのため近年では、展望風呂のある宿泊施設が増加している。
【0003】
展望風呂などの浴室では、当然ながら床面や壁面で防水対策がなされる。また、展望風呂の階下には客室が配置されることもあり、この場合は防水対策に加えて騒音対策も必要となる。通常、浴室の床面には、給湯のための給湯管や排水のための排水管が床面を貫通して敷設されるため、このようなケースでは防水対策と騒音対策、そして給湯管や排水管などが複雑に入り組んだ構造になることが避けられない。そこで、このような複雑な構造をできるだけ簡素化すべく、これまで種々の技術が提案されている。
【0004】
例えば特許文献1では、基本的にユニットバスは浮床で支持するものの、配管近傍では浮床欠落部を形成したうえで複数の支持脚によってニットバスを支持する技術について提案している。また特許文献2では、コンクリートスラブに凹部を形成し、この凹部の上面に空間保持部材を配置するとともに空間保持部材に板状部材を載置することによって空間を形成し、その空間内に配管を収める技術について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-24373号公報
【特許文献2】特開2021-88819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1や特許文献2で開示される技術は、いずれも防水性能に加えて遮音(防音)性能を併せ持つ構造であるが、ユニットバスなど比較的小さい規模の浴室を対象としているためその遮音性能は、例えば音楽ホールなどに求められるような高い遮音性能を期待することはできない。
【0007】
音楽ホールやカラオケボックス、空港近くで対策が講じられる住宅など、高度な静謐性が求められる場合、浮き遮音構造が採用されることがある。この浮き遮音構造は、防振材と、この防振材で支持される浮き遮音層によって構成され、音や振動を減衰させ、伝搬音を遮音するなどの特長を備えた構造である。
【0008】
展望風呂など階下に客室がある場合、相当程度の遮音性能が求められることから、上記した浮き遮音構造を採用することも考えられる。また、給湯管や排水管などの配置空間を確保するため、 図13に示すように床部分を2重のスラブ構造とすることも考えられる。 図13は、浮き遮音構造を採用するとともに、床部分を2重のスラブで構成した防水性能と遮音性能を有する構造を模式的に示す断面図(鉛直面で切断した断面図)である。この図では、窓から景色を見ることができる展望風呂を示しており、浴槽と洗場、機械室が設けられている。
【0009】
図13の床部分は、上段スラブSUと下段スラブSLによって形成されており、上段スラブSUと下段スラブSLの間には空間が設けられ、この空間を利用して給湯管PSと排水管PDが収められている。また上段スラブSUには、上段に遮音層LP、下段に防水層LVがそれぞれ配置されている。そしてこの遮音層LPは、図13(b)に示すように面状の防振材と押えコンクリートからなる浮き遮音構造である。
【0010】
図13に示す構造とすることで、給湯管PSと排水管PDを収めることができるとともに、遮音層LPを浮き遮音構造とすることによってシャワーヘッドや風呂桶の落下音といった騒音を抑えることができる。しかしながら、上段スラブSUに遮音層LPと防水層LVが配置されているため、給湯管PSや排水管PDが遮音層LPと防水層LVを同じ位置で貫通することとなる。この貫通部分の納まりは著しく複雑な構成となり、その施工にあたっては極めて煩雑であって相当な手間と時間が強いられる。また、防水層LVでは水を通さないように密閉することが望ましいが、これに対して遮音層LPでは建物躯体と縁を切ることが望ましく、いわば矛盾が生じた構造となっている。
【0011】
ところで、一般的に竪壁の下方では合成樹脂材(例えばゴム材)からなる荷重受け材が設置されるが、従来では 図14に示すように矩形状の荷重受け材(いわゆる角ゴム)が用いられていた。 図14は従来の荷重受け材RSを示す図であり、(a)は多数の荷重受け材RSが配置された状況を示す上方から見た平面図、(b)は荷重受け材RSが嵌め込まれたパネル状の防振材PVを示す上方から見た平面図である。角ゴムを用いた荷重受け材RSは、 図14(a)に示すように竪壁の下方で並ぶように数多く設置する必要があり、相当な作業手間と時間を要していた。また、 図14(b)に示す防振材PVを製作するにあたっては、まずパネル状の防振材PVを切り欠き、その切り欠き部分に角ゴムの荷重受け材RSを嵌め込み、さらに荷重受け材RSの周囲に養生テープを貼り付けるといった手順が必要であり、やはり相当な作業手間と時間を要していた。
【0012】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、配管が貫通する部分が従来に比して複雑でない構造であって、防水性能と遮音性能を併せ持つ防水遮音構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明は、防振スラブと防水スラブからなる2層スラブ構造とし、防振スラブには遮音層を設け、防水スラブには防水層を設ける、という点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われた発明である。
【0014】
本願発明の防水遮音構造は、水が利用される部屋(以下、「利水室」という。)に設けられ、利水室の下階に伝わる音を抑制する構造であって、防振スラブと防水スラブ、防振側壁を備えたものである。防振スラブは利水室の床スラブの上に配置され、防水スラブは防振スラブの上方であって空間が形成されるように離隔をもって配置される。また防振側壁は、防振スラブの上面で立ち上がり、防振スラブを支持する。なお防振スラブは、面状の床防振材と、床防振材の上側に敷設される押えコンクリートを含んで構成され、防水スラブは、基礎スラブと、基礎スラブの上面に敷設される上段防水材と、上段防水材の上側に敷設される押えコンクリートを含んで構成される。
【0015】
本願発明の防水遮音構造は、防振スラブが鉛直荷重受け材を含んだものとすることもできる。この鉛直荷重受け材は、防振側壁の下方投影面に敷設され、防振性能を有する弾性材によって形成されるものである。なお鉛直荷重受け材は、帯状のものとし、防振側壁の下方で一連のものとして敷設するとよい。
【0016】
本願発明の防水遮音構造は、防振側壁が水平荷重受け材を含んだものとすることもできる。この水平荷重受け材は、利水室の竪壁と対向する壁面であって防水スラブの側方投影面に敷設され、防振性能を有する弾性材によって形成されるものである。
【0017】
本願発明の防水遮音構造は、防振スラブが水平荷重受け材を含んだものとすることもできる。この場合、水平荷重受け材は、利水室の竪壁と対向する防振スラブの端面に敷設される。
【0018】
本願発明の防水遮音構造は、防振側壁が面状の壁防振材を含んだものとすることもできる。この場合、水平荷重受け材が配置されていない部分に、壁防振材が敷設される。また本願発明の防水遮音構造は、防振側壁が防水層を含んだものとすることもできる。
【0019】
本願発明の防水遮音構造は、防振スラブが防水層を含んだものとすることもできる。この防水層は、下段防水材と、下段防水材の上側に敷設される押えコンクリートを含んで構成されるものである。
【発明の効果】
【0020】
本願発明の防水遮音構造には、次のような効果がある。
(1)配管が貫通する部分や外壁部分のおさまりが従来に比して簡易な構造とされる。その結果、当該部分を容易に施工することができる。
(2)防水スラブでは水を通さないように密閉され、しかも遮音スラブでは利水室の床スラブとの縁が切られており、高い防水性能と高い遮音性能を合わせて実現することができる。
(3)帯状の荷重受け材を利用することによって、 図14に示すような従来手法に比して容易に荷重受け材を設置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本願発明の防水遮音構造を利用した展望浴室を模式的に示す断面図。
図2】(a)は防振スラブと防水スラブ、両端の防振側壁を模式的に示す断面図、(b)は防振スラブと防水スラブ、両端及び中間の防振側壁を模式的に示す断面図。
図3】(a)は床スラブの上面に床防振材が敷設された防振スラブを模式的に示す断面図、(b)は床スラブと床防振材との間に防水層が配置された防振スラブを模式的に示す断面図。
図4】鉛直荷重受け材を含む防振スラブを模式的に示す断面図。
図5】両面に溝や凹凸を設けられた鉛直荷重受け材の上面に樹脂パネルが敷設された状態を模式的に示す断面図。
図6】上部は帯状の直荷重受け材が配置された展望浴室を、下部は防振側壁が配置された展望浴室を上方から見た平面図。
図7】防水スラブを模式的に示した断面図。
図8】防水スラブの端部が結合された防振側壁を模式的に示す部分断面図。
図9】水平荷重受け材を含む防振スラブを模式的に示す部分断面図。
図10】展望風呂の浴槽の水張り前にある音源を測定した結果を示す周波数特性図。
図11】PC版の上に風呂桶が落下したときの音を階下で測定した結果を示す周波数特性図。
図12】PC版の上にシャワーヘッドが落下したときの音を階下で測定した結果を示す周波数特性図。
図13】(a)は浮き遮音構造を採用するとともに床部分を2重のスラブで構成した構造を模式的に示す断面図、(b)は洗場の床部分を模式的に示す部分断面図。
図14】(a)は従来の荷重受け材が数多く配置された状況を示す平面図、(b)は荷重受け材が嵌め込まれたパネル状の防振材を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本願発明の防水遮音構造の例を図に基づいて説明する。本願発明の防水遮音構造は、展望大浴場や集合住宅の浴室、あるいはプールなど水を貯める施設のほか、厨房、製品や機械の洗浄施設室など水を取り扱う種々の部屋(つまり、「利水室」)で利用することができ、特に階下に人が滞在する空間(例えば、客室など)が設けられる利水室で利用すると効果的である。なお便宜上ここでは、利水室をホテルや旅館などの展望浴室とした例で、本願発明の防水遮音構造について説明することとする。
【0023】
図1は、本願発明の防水遮音構造100を利用した展望浴室(利水室)を模式的に示す図であり、鉛直面で切断した断面図である。この図に示すように防水遮音構造100は、展望浴室の床スラブ210の上に配置される水平スラブ(以下、特に「防振スラブ110」という。)と、防振スラブ110の上方に配置される水平スラブ(以下、特に「防水スラブ120」という。)、防振スラブの上面で立ち上がる竪壁(以下、特に「防振側壁130」という。)を含んで構成される。ただし防水スラブ120は、防振スラブ110と防水スラブ120との間に空間SPが形成されるように、防振スラブ110に対して離隔をもって配置される。なお、防振スラブ110と防水スラブ120、防振側壁130は、それぞれコンクリート製とするなどセメント系材料で構築することができ、あるいは鋼材や樹脂系の材料で構築することもできる。
【0024】
防振スラブ110は、面状の防振材(以下、特に「床防振材111」という。)や荷重受け材(以下、特に「鉛直荷重受け材112」という。)を含んで構成される。また防水スラブ120は、面状の防水材(以下、特に「上段防水材121」という。)を含んで構成され、防振側壁130は、面状の防振材(以下、特に「壁防振材131」という。)や荷重受け材(以下、特に「水平荷重受け材132」という。)を含んで構成される。なお、防振側壁130の壁防振材131は、防振側壁130のうち展望浴室の竪壁220に対向する部分に敷設するとよい。
【0025】
図2は、防振スラブ110と防水スラブ120、防振側壁130のみを模式的に示した断面図であり、(a)は両端に防振側壁130が配置された例を示し、(b)は両端と中間に防振側壁130が配置された例を示している。図2(a)の例では、両端の防振側壁130に挟まれるように、上下2段の防振スラブ110と防水スラブ120が配置されており、防水スラブ120はその端部で防振側壁130に結合され、防振側壁130はその下端で防振スラブ110に結合されている。つまり、防水スラブ120がその端部で防振側壁130に支持され、防振側壁130がその下端で防振スラブ110に支持された構造とされる。一方、図2(b)では、 図13と同様、両端の防振側壁130の間に中間の防振側壁130が配置され、右側の防振側壁130と中間の防振側壁130との間に防水スラブ120が配置されるとともに、左側の防振側壁130と中間の防振側壁130との間にも防水スラブ120が配置されている。図2(b)の例でも、やはり防水スラブ120がその端部で防振側壁130に支持され、防振側壁130がその下端で防振スラブ110に支持された構造とされる。なお、防振スラブ110と防水スラブ120、防振側壁130の組み合わせは、図2の例に限らず、中間に2以上の防振側壁130を配置するなど、種々の組み合わせとすることができる。
【0026】
以下、本願発明の防水遮音構造100を構成する主な要素ごとにさらに詳しく説明する。
【0027】
(防振スラブ)
図3は、防振スラブ110を模式的に示した断面図であり、(a)は床スラブ210の上面に床防振材111を敷設した例を示し、(b)は床スラブ210と床防振材111との間に防水層を配置した例を示している。
【0028】
図3(a)に示すように防振スラブ110は、展望浴室の床スラブ210の上面に敷設される面状の床防振材111と、その床防振材111の上側に敷設される押えコンクリート(以下、特に「防振用押えコンクリート113」という。)を含んで構成される。あるいは図3(b)に示すように、床防振材111と防振用押えコンクリート113に加え、防水層を含んで構成することもできる。この防水層は、展望浴室の床スラブ210の上面に敷設される面状の防水材(以下、特に「下段防水材114」という。)と、その下段防水材114の上側に敷設される押えコンクリート(以下、特に「下段防水用押えコンクリート115」という。)を含んで構成することができる。防振スラブ110が防水層を含む場合、防水層(下段防水材114と下段防水用押えコンクリート115)は、展望浴室の床スラブ210と床防振材111との間に配置され、これにより階下に対する防水機能がさらに向上して好適となる。なお下段防水材114としては、アスファルト製の防水材を利用したものとすることもできるし、これに限らず従来用いられている種々の材料によって形成することができる。
【0029】
防振スラブ110の床防振材111は、ポリオレフィン樹脂を原材料とした独立気泡の発泡プラスチック(ビーズ法架橋ポリエチレンフォーム)で成形される平板を利用することができ、あるいは他の合成樹脂(ゴムなど)を材料とする面状材を利用するなど、従来用いられている種々の防振材によって形成することができる。この床防振材111は、当然ながら振動を抑制する性能を有する部材であって、特に上下の部材間で水平力を伝達しない(あるいは、極一部のみ伝達する)いわば「縁を切る」性能を有する部材である。例えば、図3(a)の場合は床防振材111によって床スラブ210と防振用押えコンクリート113との縁が切られ、図3(b)の場合は床防振材111によって下段防水用押えコンクリート115と防振用押えコンクリート113との縁が切られている。
【0030】
防振スラブ110は、図4に示すように鉛直荷重受け材112を含んで構成することもできる。防振側壁130が配置されるところでは、特に大きな鉛直荷重が作用することから、当該箇所には鉛直荷重受け材112を配置するとよい。防振側壁130の鉛直荷重を効率的に受けるためには、鉛直荷重受け材112を防振側壁130の下方に、より詳しくは防振側壁130の下端面を投影した面(下方投影面)に敷設するとよい。鉛直荷重受け材112は、防振側壁130の鉛直荷重を受けるとともに、振動を抑制する性能を有する部材であり、ゴム製の長尺平板やブロック状に加工されたゴム材とするなど、従来用いられている種々の材料によって形成することができる。また鉛直荷重受け材112は、図5に示すように両面に溝や凹凸を設けた形状とすることもでき、この場合、鉛直荷重受け材112の上面には樹脂パネル116を敷設することもできる。
【0031】
防振スラブ110が鉛直荷重受け材112を含む場合、床防振材111は鉛直荷重受け材112が配置されていない部分、つまり防振側壁130の下方投影面を除く領域に敷設される。なお、床防振材111の肉厚を10mm、鉛直荷重受け材112の肉厚を25mmとするなど、図4に示すように鉛直荷重受け材112の方が大きな肉厚とすることもできるし、もちろん同等の肉厚の床防振材111と鉛直荷重受け材112を利用することもできる。
【0032】
鉛直荷重受け材112は、長尺平板やブロック状に加工されたものを利用することができると説明したが、その敷設作業を考えると長尺平板など帯状のものの方が望ましい。ブロック状の鉛直荷重受け材112を用いると、 図14を参照しながら既述したとおり、パネル状の防振材PVを切り欠き、その切り欠き部分に鉛直荷重受け材112を嵌め込み、さらに鉛直荷重受け材112の周囲に養生テープを貼り付けるといった手順が必要であり、相当な作業手間と時間を要することとなるからである。これに対して、図6に示すように帯状の鉛直荷重受け材112を利用すると、切り欠きや嵌め込み作業が不要となって好適である。図6は、展望浴室を上方から見た平面図であり、図の上半分は鉛直荷重受け材112の配置面(つまり、防振側壁130の下側)を示し、図の下半分は防振側壁130の天端面を示している。この図に示すように帯状の鉛直荷重受け材112は、防振側壁130の下方で一連のものとして敷設することができ、容易に作業することができるわけである。
【0033】
(防水スラブ)
図7は、防水スラブ120を模式的に示した断面図である。この図に示すように防水スラブ120は、水平スラブ(以下、特に「基礎スラブ122」という。)と、この基礎スラブ122の上面に敷設される上段防水材121、さらに上段防水材121の上面に敷設される押えコンクリート(以下、特に「上段防水用押えコンクリート123」という。)を含んで構成される。また、上段防水用押えコンクリート123の上面には、モルタル層124とタイル層125を設けることもできる。
【0034】
上段防水材121は、展望浴室の浴槽や洗場、機械室などから生じた水が下方(特に階下)に流れないよう遮水するもので、例えばアスファルト製の防水材を利用したものとすることができる。もちろん上段防水材121は、アスファルト防水に限らず従来用いられている種々の防水材によって形成することができる。なお、床防振材111は上下の部材間の縁を切る性能を有すると説明したが、上段防水材121は上下の部材間の縁を切るものではなく、上下の部材(つまり、基礎スラブ122と上段防水用押えコンクリート123)が一体化された状態で上段防水材121は敷設される。
【0035】
(防振側壁)
図8は、防振側壁130を模式的に示した図であり、防水スラブ120の端部が結合された部分を示す部分断面図である。この図に示すように防振側壁130は、壁体(以下、特に「基礎壁体133」という。)を含んで構成され、さらに壁防振材131や水平荷重受け材132、防水層を含んで構成することもできる。
【0036】
防振側壁130の壁防振材131は、防振スラブ110の床防振材111と同様、面状であって、ポリオレフィン樹脂を原材料とした独立気泡の発泡プラスチックで成形される平板を利用することができる。あるいは他の合成樹脂(ゴムなど)を材料とする面状材を利用するなど、従来用いられている種々の防振材によって壁防振材131を形成することもできる。なお図8では、壁防振材131と竪壁220との間に防水層を設けた構成としているが、これに限らず展望浴室の竪壁220の前面に接するように壁防振材131を敷設することもできる。また壁防振材131は、防振側壁130の背後にある竪壁220への荷重伝達を低減するものであることから、防振側壁130のうち竪壁220に対向する部分に敷設するとよい。
【0037】
図8に示すように防水スラブ120の端部が結合されたところでは、地震時において防水スラブ120による水平荷重が作用し、その地震時水平荷重が展望浴室の竪壁220に作用することから、当該箇所には水平荷重受け材132を配置するとよい。防水スラブ120による地震時水平荷重を効率的に受けるためには、水平荷重受け材132を防水スラブ120の側方に、より詳しくは水平荷重受け材132の端面(図では左側の端面)を投影した面(側方投影面)に敷設するとよい。ただし、水平荷重受け材132が竪壁220に対する影響を軽減するものであることを考えれば、防振側壁130のうち竪壁220と対向する部分に竪壁220を設けるとよい。すなわち、図2に示す両側の防振側壁130が竪壁220に対向する場合は水平荷重受け材132を敷設するが、図2(b)に示す中間の防振側壁130には必ずしも水平荷重受け材132を敷設する必要はない。
【0038】
水平荷重受け材132は、防水スラブ120による地震時水平荷重を受けるとともに、振動を抑制する性能を有する部材であり、ゴム製の長尺平板やブロック状に加工されたゴム材とするなど、従来用いられている種々の材料によって形成することができる。ただし、その敷設作業を考えると、鉛直荷重受け材112と同様、水平荷重受け材132も長尺平板など帯状のものを利用するとよい。また水平荷重受け材132は、図5に示すように両面に溝や凹凸を設けた形状とすることもでき、この場合、水平荷重受け材132の前面には樹脂パネル116を敷設することもできる。
【0039】
防振側壁130が水平荷重受け材132を含む場合、壁防振材131は水平荷重受け材132が配置されていない部分、つまり防水スラブ120の側方投影面を除く領域に敷設される。なお、壁防振材131を10mm、水平荷重受け材132の肉厚を25mmとするなど、図8に示すように水平荷重受け材132の方が大きな肉厚とすることもできるし、もちろん同等の肉厚の壁防振材131と水平荷重受け材132を利用することもできる。
【0040】
また防振側壁130は、図8に示すように上段防水材121を含むものとすることもできる。この場合、防水スラブ120の上段防水材121が連続するように防振側壁130に配置し、つまり一連の上段防水材121を防水スラブ120と防振側壁130に配置するとよい。これにより、展望浴室の浴槽や洗場、機械室などからの水が側方(特に隣接する客室)に流れないように防ぐことができる。
【0041】
ところで、水平荷重受け材132は防振側壁130のうち竪壁220と対向する部分に設けるとよいと説明したが、図9に示すように防振スラブ110の端面(図では右側の端面)が展望浴室の竪壁220に当接する箇所にも水平荷重受け材132を設けるとよい。地震時において防振スラブ110による水平荷重が竪壁220に作用することから、水平荷重受け材132によってその地震時水平荷重を受けるわけである。防振スラブ110による地震時水平荷重を効率的に受けるためには、水平荷重受け材132を防振スラブ110の側方に、より詳しくは防振スラブ110のうち竪壁220に対向する端面に敷設するとよい。
【0042】
(試験結果)
発明者らは、本願発明の防水遮音構造100に関する有効性を確認するため試験を行っている。図10図12はその試験結果を示す周波数特性図である。
【0043】
このうち図10は、実際の建物に設けられた展望風呂の浴槽の水張り前にある音源を測定した結果を示している。なお、この測定試験はJISA1418-1に準拠して実施しており、音源はタッピングマシンを用いている。図10に示すように、防振対策を行っていない客室間では軽量床衝撃音レベルでLr-50を示しているが、本願発明の防水遮音構造100を採用した大浴場部分では最大でLr-35が確保されている。また洗場部分でもLr-45が確保されており、遮音性能には問題はないことが認められた。さらに当該施設に試泊し、展望風呂稼働時に直下の客室で聴感確認と騒音測定を実施したところ、聴感確認では利用している気配を感じない静けさを確認することができ、また空調機器稼働時の室中央では27dBA程度であった。
【0044】
図11図12は、図10と同様、JISA1418-1に準拠して測定した結果を示している。ただし、図11ではPC版の上に風呂桶が落下したときの音を階下で測定し、図12ではPC版の上にシャワーヘッドが落下したときの音を階下で測定している。なお図11図12それぞれにおいて、左側の周波数特性図は2枚のPC版(75mm+150mm)を設置した上に風呂桶等を落下させた結果であり、一方、右側の周波数特性図は1枚のPC版(75mm)を設置した上に風呂桶等を落下させた結果である。図11図12に示すように、防振対策を行っていないコンクリート素面では軽量床衝撃音レベルでLr-65程度を示しているが、本願発明の防水遮音構造100を採用したケースではコンクリート素面よりも低い軽量床衝撃音レベル(Lr-45程度)を示している。このように本願発明の防水遮音構造100は、上階からの騒音抑制にとって有効であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本願発明の防水遮音構造は、ホテルなどの展望大浴場や集合住宅の浴室、あるいはプールなど水を貯める施設のほか、厨房、製品や機械などの洗浄施設室など水を取り扱う種々の施設で利用することができる。
【符号の説明】
【0046】
100 本願発明の防水遮音構造
110 (防水遮音構造の)防振スラブ
111 (防振スラブの)床防振材
112 (防振スラブの)鉛直荷重受け材
113 (防振スラブの)防振用押えコンクリート
114 (防振スラブの)下段防水材
115 (防振スラブの)下段防水用押えコンクリート
116 (防振スラブの)樹脂パネル
120 (防水遮音構造の)防水スラブ
121 (防水スラブの)上段防水材
122 (防水スラブの)基礎スラブ
123 (防水スラブの)上段防水用押えコンクリート
124 (防水スラブの)モルタル層
125 (防水スラブの)タイル層
130 (防水遮音構造の)防振側壁
131 (防振側壁の)壁防振材
132 (防振側壁の)水平荷重受け材
133 (防振側壁の)基礎壁体
210 (展望浴室の)床スラブ
220 (展望浴室の)竪壁
LP 遮音層
LV 防水層
PD 排水管
PS 給湯管
PV パネル状の防振材
RS 荷重受け材
SL 下段スラブ
SP 空間
SU 上段スラブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14