(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065351
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】造粒体および造粒体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/38 20060101AFI20240508BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240508BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240508BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240508BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
H01M4/13
H01M4/36 E
H01M4/139
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174174
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南 和希
(72)【発明者】
【氏名】緒方 章弘
(72)【発明者】
【氏名】宮本 寛幸
(72)【発明者】
【氏名】多湖 雄一郎
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050AA08
5H050AA12
5H050AA19
5H050BA16
5H050CB11
5H050DA11
5H050EA23
5H050EA24
5H050FA17
5H050GA06
5H050GA10
5H050HA01
5H050HA05
5H050HA07
(57)【要約】
【課題】リチウムイオン二次電池用の負極活物質として用いた際に、高い体積容量密度と高いサイクル特性を両立することができる材料、およびそのような材料の製造方法を提供する。
【解決手段】Siを含有する粒子として構成される活物質粒子と、高分子化合物より構成されるバインダと、を含み、バインダの含有量が、0.1質量%以上15質量%以下であり、BET比表面積が、20m
2/g以下である、造粒体とする。また、Siを含有する粒子として構成される活物質粒子を準備する工程と、活物質粒子と、高分子化合物より構成されるバインダと、を分散媒に分散させてスラリーを準備する工程と、ディスクの回転を用いたスプレードライ法により、スラリーから造粒体を形成する工程と、を有し、スプレードライ法におけるディスクの回転数を、200rpm以上40000rpm以下とする、造粒体の製造方法とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Siを含有する粒子として構成される活物質粒子と、
高分子化合物より構成されるバインダと、を含み、
前記バインダの含有量が、0.1質量%以上15質量%以下であり、
BET比表面積が、20m2/g以下である、造粒体。
【請求項2】
前記活物質粒子の平均粒子径が、150nm以上20μm以下である、請求項1に記載の造粒体。
【請求項3】
前記バインダは、水溶性ポリアクリル酸塩、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリフッ化ビニリデンより選択される少なくとも1種を含有する、請求項1または請求項2に記載の造粒体。
【請求項4】
前記活物質粒子は、
Siと、
Si化合物、Sn化合物、Al化合物より選択される少なくとも1種と、
を含有する、請求項1または請求項2に記載の造粒体。
【請求項5】
前記活物質粒子は、
Siと、
Siと金属Aとの化合物として構成されたSi化合物と、
Snと金属Bとの化合物として構成されたSn化合物と、を含有する、請求項1または請求項2に記載の造粒体。
ここで、金属Aは、Fe、Ni、Co、Mn、Zr、Tiより選択される少なくとも1種であり、
金属Bは、Cu、Fe、Ni、Cr、Co、Mn、Zr、Tiより選択される少なくとも1種である。
【請求項6】
前記造粒体の平均粒子径が、1μm以上200μm以下である、請求項1または請求項2に記載の造粒体。
【請求項7】
さらに導電助剤を含む、請求項1または請求項2に記載の造粒体。
【請求項8】
Siを含有する粒子として構成される活物質粒子を準備する工程と、
前記活物質粒子と、高分子化合物より構成されるバインダと、を分散媒に分散させてスラリーを準備する工程と、
ディスクの回転を用いたスプレードライ法により、前記スラリーから造粒体を形成する工程と、を有し、
前記スプレードライ法における前記ディスクの回転数を、200rpm以上40000rpm以下とする、造粒体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造粒体および造粒体の製造方法に関し、さらに詳しくは、Siを含有する活物質を含み、リチウムイオン二次電池用の負極活物質として用いることができる造粒体、およびそのような造粒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)等の電動自動車や、スマートフォンやノートパソコン等のモバイル機器には、リチウムイオン二次電池が搭載されることが多く、電動自動車の普及やモバイル機器の高性能化に伴い、リチウムイオン二次電池の高容量化が求められている。リチウムイオン二次電池の負極活物質としては、従来一般にはグラファイトが用いられてきた。しかし、グラファイトは理論容量が低いため、グラファイトを負極活物質の主成分として用いて、高容量化を達成するのには限界がある。そこで、グラファイトよりも高い理論容量を示す材料の1つとして、Siが負極活物質に用いられるようになっている。
【0003】
リチウムイオン二次電池において、負極は、充電時にリチウムイオンを吸蔵し、放電時にそのリチウムイオンを放出する。Siを負極活物質として用いると、上記のように高容量化を図れる反面、リチウムイオンの吸蔵・放出時に、著しい膨張と収縮を伴うため、充電・放電のサイクルを繰り返すに従って、活物質の破壊が進行しやすくなる。活物質の破壊が起こると、負極において導電経路が徐々に失われ、リチウムイオン二次電池の特性が悪化する。
【0004】
リチウムイオン二次電池の負極活物質において、充電・放電のサイクルの繰り返しを経た際の電池特性(サイクル特性)を向上させる方法として、黒鉛等、他の物質とSiとの複合化、またSi粒子の微細化など、複数の手段が試みられている。例えば、特許文献1に、SiまたはSi合金と、炭素質物または炭素質物と黒鉛とを含んで複合化したリチウムイオン2次電池用負極活物質が開示されている。ここでは、炭素質物や黒鉛薄層で活物質表面が覆われた状態が形成されている。黒鉛が、活物質粒子の導電性を高めるとともに、活物質の強度を高めることでサイクル特性を向上させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
リチウムイオン二次電池用の負極活物質において、特許文献1に記載されるように、SiまたはSi合金の粒子を黒鉛と複合化することで、強度向上の効果により、サイクル特性の向上を図ることができる。しかし、黒鉛はSiよりも理論容量が低いため、SiやSi合金の粒子の表面を黒鉛で被覆すると、負極活物質全体として、体積容量密度が小さくなりやすい。負極活物質に対しては、リチウムイオン二次電池を構成した際に、高い体積容量密度と高いサイクル特性を両立することが望まれる。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、リチウムイオン二次電池用の負極活物質として用いた際に、高い体積容量密度と高いサイクル特性を両立することができる材料、およびそのような材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、下記の造粒体および造粒体の製造方法に関する。
[1]本発明にかかる造粒体は、Siを含有する粒子として構成される活物質粒子と、高分子化合物より構成されるバインダと、を含み、前記バインダの含有量が、0.1質量%以上15質量%以下であり、BET比表面積が、20m2/g以下である。
【0009】
[2]上記[1]の態様において、前記活物質粒子の平均粒子径が、150nm以上20μm以下であるとよい。
【0010】
[3]上記[1]または[2]の態様において、前記バインダは、水溶性ポリアクリル酸塩、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリフッ化ビニリデンより選択される少なくとも1種を含有するとよい。
【0011】
[4]上記[1]から[3]のいずれか1つの態様において、前記活物質粒子は、Siと、Si化合物、Sn化合物、Al化合物より選択される少なくとも1種と、を含有するとよい。
【0012】
[5]上記[1]から[4]のいずれか1つの態様において、前記活物質粒子は、Siと、Siと金属Aとの化合物として構成されたSi化合物と、Snと金属Bとの化合物として構成されたSn化合物と、を含有するとよい。ここで、金属Aは、Fe、Ni、Co、Mn、Zr、Tiより選択される少なくとも1種であり、金属Bは、Cu、Fe、Ni、Cr、Co、Mn、Zr、Tiより選択される少なくとも1種である。
【0013】
[6]上記[1]から[5]のいずれか1つの態様において、前記造粒体の平均粒子径が、1μm以上200μm以下であるとよい。
【0014】
[7]上記[1]から[6]のいずれか1つの態様において、前記造粒体は、さらに導電助剤を含むとよい。
【0015】
[8]本発明にかかる造粒体の製造方法は、Siを含有する粒子として構成される活物質粒子を準備する工程と、前記活物質粒子と、高分子化合物より構成されるバインダと、を分散媒に分散させてスラリーを準備する工程と、ディスクの回転を用いたスプレードライ法により、前記スラリーから造粒体を形成する工程と、を有し、前記スプレードライ法における前記ディスクの回転数を、200rpm以上40000rpm以下とする。
【発明の効果】
【0016】
上記[1]の構成を有する本発明にかかる造粒体においては、Siを含有する材料が粒子の状態で活物質を構成していることにより、活物質の破壊が起こりにくくなっている。そして、その活物質粒子がバインダとともに造粒体を構成していることにより、活物質粒子が高密度に集積され、活物質粒子間に導電経路が確保されやすくなっており、膨張・収縮を繰り返しても、その導電経路が維持されやすい。そのため、活物質が、リチウムイオン二次電池の負極として用いた際に、高いサイクル特性を示すものとなっている。
【0017】
さらに、造粒体におけるバインダの含有量が0.1質量%以上であることで、造粒体が安定に形成されやすい。一方で、その含有量が15質量%以下であることで、リチウムイオン二次電池において、高容量等、活物質粒子によって発揮される電池特性が高く得られる。また、造粒体のBET比表面積が20m2/g以下に抑えられており、このことは、造粒体中に空隙が少なく、活物質粒子が高密度で含有されていることの指標となる。活物質粒子が高密度で集積されることで、造粒体が、リチウムイオン二次電池の負極活物質として、高い体積容量密度を与えるものとなるうえ、活物質粒子間の導電経路が確保されやすいため、サイクル特性の向上にも寄与する。このように、本願発明にかかる造粒体をリチウムイオン二次電池の負極活物質として用いた場合には、高サイクル特性と高体積容量密度を両立することができる。
【0018】
上記[2]の態様においては、活物質粒子の平均粒子径が150nm以上となっていることで、活物質粒子が酸化を起こしにくいため、高容量等、優れた電池特性が得られやすくなる。一方で、活物質粒子の平均粒子径が20μm以下となっていることで、活物質粒子において、膨張・収縮の影響が生じにくいため、優れたサイクル特性が得られやすくなる。
【0019】
上記[3]の態様においては、バインダが、上で列挙した群より選択される高分子化合物を含有している。それらの高分子化合物は、活物質粒子を分散させて相互に接合し、安定した造粒体を形成するのに適している。
【0020】
上記[4]の態様においては、活物質粒子が、Siと、Si化合物、Sn化合物、Al化合物より選択される少なくとも1種と、を含有する。この活物質の組成においては、Si化合物、Sn化合物、Al化合物が、Siの相に対して導電性のマトリックスとして作用し、Siの相の間に導電経路が確保されることで、リチウムイオン二次電池において、高い電池特性が得られる。
【0021】
上記[5]の態様においては、活物質粒子が、Siと、金属Aを含むSi化合物と、金属Bを含むSn化合物と、を含有している。上記[4]の態様と同様に、Si化合物およびSn化合物の高導電性により、リチウムイオン二次電池において、高い電池特性が得られる。このような組成を有する活物質粒子は、Si、Sn、金属A、金属Bを含むアトマイズ粉等の合金粉末を粉砕することで、簡便に製造することができる。
【0022】
上記[6]の態様においては、造粒体全体としての平均粒子径が、1μm以上200μm以下となっていることにより、造粒体の造粒構造が安定に形成され、保持されやすい。
【0023】
上記[7]の態様においては、造粒体がさらに導電助剤を含んでいる。本発明にかかる造粒体においては、上記のとおり、Siを含有する活物質粒子が集合されて造粒体を構成していることで、導電助剤を用いなくても高い導電性を確保することができるが、造粒体が導電助剤を含んでいれば、さらに造粒体における導電性を高めることができる。
【0024】
上記[8]の構成を有する本発明にかかる造粒体の製造方法においては、活物質粒子とバインダとを含むスラリーを原料として、スプレードライ法によって造粒体を形成する。この方法をとることで、活物質粒子がバインダを介して造粒された造粒体を簡便に製造することができる。製造される造粒体は、上記[1]~[7]のような、高い体積容量密度と高いサイクル特性を両立するものとなる。ここで、スプレードライ法におけるディスクの回転数を200rpm以上とすることで、高密度での造粒が行いやすく、その回転数を40000rpm以下とすることで、ある程度の大きさを有する造粒体の形成を安定に進めやすい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる造粒体の構造を示す模式図である。合わせて、破線で囲んで拡大図を表示している。
【
図2】(a)実施例3および(b)比較例5にかかる造粒体を観察した走査電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態にかかる造粒体、および造粒体の製造方法について、詳細に説明する。
【0027】
[造粒体]
(1)造粒体の全体構成
本開示の一実施形態にかかる造粒体1は、構造を模式的に
図1に示すように、活物質粒子2と、バインダ3とを含んでいる。活物質粒子およびバインダの詳細については後に詳しく説明するが、活物質粒子2はSiを含有する粒子として構成されており、バインダ3は高分子化合物より構成されている。造粒体1においては、活物質粒子2が造粒された状態にある。つまり、多数の活物質粒子2が集合し、破線で囲んだ拡大図に示すように、バインダ3を介して相互に接合(結着)されることで、集合体全体として、粒状体を形成している。
【0028】
本実施形態にかかる造粒体においては、バインダの含有量が、造粒体全体の質量を基準として、0.1質量%以上、また15質量%以下となっている。さらに、造粒体のBET比表面積が、20m2/g以下となっている。
【0029】
Siを含有する粒子として構成された活物質粒子は、リチウムイオンの吸蔵と放出を可逆的に繰り返すことができ、本実施形態にかかる造粒体は、リチウムイオン二次電池用の負極活物質として機能する。単体Siをはじめとして、Siを含有する負極活物質は、リチウムイオンの吸蔵・放出時に、大きな膨張・収縮を伴う場合が多い。しかし、本実施形態にかかる造粒体においては、活物質が、小径の活物質粒子を一次粒子として、二次粒子である造粒体を形成していることで、造粒体全体と同程度の粒径を有する、活物質が単独で連続した粒子を用いる場合と比較して、粒径の小ささの効果により、リチウムイオンの吸蔵・放出に伴う膨張・収縮が小さく抑えられる。そのため、リチウムイオン二次電池において、充電と放電のサイクルを繰り返しても、膨張・収縮による粒子の破壊が起こりにくい。さらに、造粒体においては、活物質粒子が高密度に集積され、活物質粒子間に導電経路が安定に形成されている。それらの結果として、充放電を繰り返しても、負極活物質において、導電経路の喪失が起こりにくく、負極活物質が、サイクル特性、つまり充電・放電のサイクルの繰り返しを経た際の電池特性(電池容量等)の高いものとなる。
【0030】
また、本実施形態にかかる造粒体においては、バインダの含有量が0.1質量%以上となっており、造粒性が高くなっている。つまり造粒体を安定して形成することができる。そのため、活物質粒子が集積して造粒体となることによる効果、つまり活物質粒子間の導電経路の確保、およびそれによるサイクル特性の向上等の効果が、高く得られる。それらの効果をさらに高める観点から、バインダの含有量は、0.5質量%以上であると、さらに好ましい。
【0031】
一方、バインダの含有量が15質量%以下に抑えられていることで、造粒体において、活物質粒子の含有量を多く確保することができる。そのため、リチウムイオン二次電池において、造粒体によって発揮される電池容量等の電池特性が、高く得られることになる。その効果をさらに高める観点から、バインダの含有量は、10質量%以下であると、さらに好ましい。
【0032】
さらに、本実施形態にかかる造粒体においては、BET比表面積が、20m2/g以下となっている。造粒体においては、活物質粒子の密度が小さく、造粒体内の空隙が多い場合ほど、BET比表面積が大きくなる。しかし、本実施形態においては、活物質粒子が高密度に集積され、造粒体内の空隙が少なくなっていることで、造粒体のBET比表面積が20m2/g以下に抑えられている。負極活物質において活物質粒子が高密度に集積される結果、リチウムイオン二次電池の負極を構成した際に、高い体積容量密度が得られる。また、高密度化により、活物質粒子間の導電経路が確保されやすくなることで、サイクル特性の向上にも高い効果が得られる。それらの効果をさらに高める観点から、造粒体のBET比表面積は、16m2/g以下、さらに12m2/g以下であると、より好ましい。BET比表面積の下限は特に定められるものではないが、この種の造粒体において、BET比表面積は、通常は0.001m2/g以上であり、その程度の比表面積があれば、負極において十分な電池特性を発揮するものとなる。BET比表面積は、より好ましくは、0.1m2/g以上である。造粒体のBET比表面積は、バインダの含有量、製造条件(後述するディスク回転数など)等によって制御することができる。上記の0.1質量%以上15質量%以下のとのバインダの含有量は、20m2/g以下のBET比表面積を与えるのに好適な範囲にある。
【0033】
以上のように、本実施形態にかかる造粒体は、Siを含有する活物質が、所定量のバインダによって集合された造粒体として構成されていること、またBET比表面積が所定の上限以下に抑えられていることにより、リチウムイオン二次電池の負極を構成した際に、高いサイクル特性と高い体積容量密度を両立するものとなる。造粒体の粒子径は特に限定されるものではないが、平均粒子径(d50径;以下でも同じ)で、1μm以上200μm以下の範囲にあることが好ましい。すると、安定した造粒体の形状を保持しやすくなる。より好ましくは、平均粒子径が、5μm以上200μm以下であるとよい。
以下に、造粒体を構成する各物質の詳細について説明する。
【0034】
(2)活物質粒子
上記のとおり、造粒体を構成する活物質粒子は、Siを含有する粒子として構成されている。ここで、Siを含有する物質としては、不可避的不純物を除いてSiのみよりなる単体Siであっても、Siと他の元素を含むSi化合物であっても、またSiと他の元素を含む複合体であってもよい。Si化合物としては、Siと他の金属元素との化合物であるSi合金、および酸化物をはじめとする、Siと非金属元素との化合物を挙げることができる。Siと他の元素を含む複合体としては、ケイ素-炭素複合材料(Si/C)等を例示することができる。Siを含有する多くの物質は、リチウムイオン二次電池の負極活物質として機能しうる。
【0035】
活物質粒子は、全体が均一な成分組成を有していても、粒子間または粒子内で成分組成の異なる複数の相を含んでいてもよい。後者の場合に、活物質粒子を構成する全ての相が、Siを含有する物質より構成されていても、一部の相として、Si以外の金属の単体や化合物等、Siを含有しない物質を含んでいてもよい。また、Siを含有する相として、相互に成分組成の異なる複数の相を含んでいてもよい。さらに、活物質粒子を構成する相のうち一部であれば、負極活物質としての機能を示さない物質が含まれていてもよい。
【0036】
活物質粒子は、全体の組成として、Si化合物、特にSi合金より構成されていることが好ましい。特に好ましい例として、活物質が、Si(単体Si;以下において同じ)の相と、金属化合物の相とを含むものであるとよい。すると、金属化合物の相、特に合金の相を介して、Si相が占める領域の間に導電経路が形成されることにより、活物質が高いサイクル特性を示すものとなる。この場合には、金属化合物の相が、Siの相に対して、導電性のマトリックスとして機能することになる。金属化合物としては、Sn化合物およびAl化合物より選択される少なくとも1種を含有する形態が好適である。特にSn化合物を含有することが好ましい。
【0037】
活物質粒子の好適な成分組成の具体例として、活物質粒子が、Siと、Si化合物と、Sn化合物とを含む形態を挙げることができる。ここで、Si化合物は、Siと金属Aとの化合物であり、Sn化合物は、Snと金属Bとの化合物である。金属Aは、Fe、Ni、Co、Mn、Zr、Tiより選択される少なくとも1種であり、金属Bは、Cu、Fe、Ni、Cr、Co、Mn、Zr、Tiより選択される少なくとも1種である。好ましくは、金属AがFeを含み、金属BがCuを含むとよい。Siと、Si化合物と、Sn化合物は、それぞれ独立して粒子を構成し、それら3種の粒子の混合物として、活物質粒子の群が構成されていることが好ましい。また、各相の構成割合としては、質量%で、Siが20%以上90%以下、Si化合物が1%以上70%以下、Sn化合物が0.1%以上30%以下を占めていることが好ましい。このような割合で各相を与える成分組成としては、活物質粒子全体で、以下の割合で各構成元素を含んでいるとよい。単位は質量%である。
・Si:40%以上90%以下、好ましくは、65%以上80%以下
・Sn:0.1%以上20%以下、好ましくは、1.5%以上9.0%以下
・金属A:1.0%以上38%以下、好ましくは、5.0%以上20%以下
・金属B:0.1%以上15%以下、好ましくは、1.5%以上8.0%以下
なお、このようにSiと、Si化合物と、Sn化合物とを含む負極活物質は、本件出願人の出願による特開2012-94490号公報および特開2013-84549号公報にも掲載されている。
【0038】
造粒体を構成する活物質粒子の粒径は、特に限定されるものではない。しかし、平均粒子径で、150nm以上であるとよい。すると、活物質粒子の酸化による電池特性の低下が起こりにくくなる。一方で、活物質粒子の平均粒子径は、20μm以下であるとよい。すると、リチウムイオンの吸蔵・放出に伴う膨張・収縮の影響を抑えて、高いサイクル特性が得られやすくなる。活物質粒子の平均粒子径が、10μm以下、さらには5μm以下であると、より好ましい。
【0039】
(3)バインダ
バインダは、活物質粒子を分散させて接合し、造粒体を形成できる高分子化合物であれば、特に種類を限定されるものではない。好ましくは、バインダは、水溶性ポリアクリル酸塩、ポリアクリル酸(PAA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)より選択される少なくとも1種を含有するとよい。これらの高分子化合物は、造粒体において、活物質粒子を均一性高く分散させて相互に接合するバインダとして、好適に使用できる。特に、バインダが、水溶性ポリアクリル酸塩およびポリビニルブチラールの少なくとも一方、特に水溶性ポリアクリル酸塩を含むことが好適である。水溶性ポリアクリル酸塩としては、ポリアクリル酸のアンモニウム塩(PAA-NH3)やナトリウム塩(PAA-Na)を例示することができる。その他に、使用可能な高分子化合物の例として、ポリイミド(PI)、ポリアミド、ポリエチレン(PE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリプロピレン(PP)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エポキシ樹脂、カルボキシメチルセルロース、ニトロセルロース、キサンタンガム、デンプン、ショ糖などを用いることができる。なお、バインダは、造粒の工程や、造粒体を負極に成形する工程で、変性や分解を起こす場合もある。ただし、上記で列挙した高分子化合物をバインダとして用いて、後に説明するスプレードライ法によって造粒を行う場合には、バインダの変性や分解はわずかしか起こらない。
【0040】
リチウムイオン二次電池の負極において、結着作用のある高分子化合物が、粒子状の活物質を所定の形状に成形する目的で使用される場合もある。しかし、その種の高分子化合物は、粒子状になっている活物質の粒子間の結着を行うものであるのに対し、本実施形態において造粒体を構成しているバインダは、造粒体の粒子内で、微小な活物質粒子を相互に接合し、大径の造粒体粒子の形を保持する作用を果たしている点で、両者は明確に区別される。
【0041】
(4)その他の成分
本実施形態にかかる造粒体は、活物質粒子とバインダのみより構成されてもよいが、その他の成分をさらに含んでいてもよい。造粒体に含まれうる他の成分としては、黒鉛を例示することができる。
【0042】
本実施形態にかかる造粒体においては、上記のとおり、活物質粒子が集積して造粒体を構成していることにより、活物質粒子の粒子間に導電経路が形成され、高い導電性が得られる。なかでも、活物質粒子が、Si化合物やSn化合物等の金属化合物よりなる相を含む場合には、特に導電性が高くなる。よって、導電性の確保のために黒鉛等の炭素材料を添加する必要はない。しかし、造粒体に黒鉛を添加すれば、導電性をさらに効果的に高めることができ、サイクル特性向上の効果が高くなる。黒鉛を添加する場合に、その添加量は特に限定されないが、添加による効果を十分に高める観点から、造粒体全体に対して0.1質量%以上とするとよい。一方で、Siを含有する活物質粒子を用いることによる体積密度向上の効果を、損なわないようにする観点から、黒鉛の添加量は、50質量%以下に抑えておくとよい。黒鉛を添加する場合に、活物質粒子の表面を黒鉛が被覆する形態等、活物質と黒鉛の複合体の形をとってもよいが、黒鉛を活物質粒子およびバインダと単に混合して、造粒体を構成する形態が好ましい。上記のように、活物質粒子のみで高い導電性が確保できるため、黒鉛をそのように単純に混合し、導電助剤のように用いるだけで、導電性向上効果が十分に得られる。
【0043】
黒鉛の他に、造粒体に添加しうる物質としては、黒鉛以外の各種の導電助剤を挙げることができる。上記のとおり、本実施形態にかかる造粒体においては、活物質粒子の粒子間に導電経路が形成され、高い導電性が得られるため、導電性の確保のために導電助剤を添加する必要はない。しかし、造粒体に導電助剤を添加すれば、さらに導電性を高めることができる。黒鉛以外の導電助剤としては、例えばアセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)、カーボンナノチューブ(CNT)などの各種炭素材料、金属粒子等を例示することができる。
【0044】
[造粒体の製造方法]
次に、本発明の実施形態にかかる造粒体の製造方法について説明する。本実施形態にかかる造粒体の製造方法は、活物質粒子準備工程、スラリー準備工程、造粒工程をこの順に実施するものであり、上記で説明した本発明の実施形態にかかる造粒体を好適に製造することができる。
【0045】
(1)活物質粒子準備工程
活物質粒子準備工程においては、Siを含有する粒子として構成される活物質粒子を準備する。準備すべき活物質粒子の詳細は、上記で造粒体について説明したとおりである。活物質粒子が、全体の組成としてSi合金よりなる場合に、活物質粒子を作製する方法として、アトマイズ法等、合金溶湯の急冷による方法を挙げることができる。上記で好適な活物質粒子の成分組成について説明したように、SiとSn、金属A、金属Bを含有する活物質粒子を製造する場合には、それらの各金属を所定の成分組成で含有する合金溶湯を用いて得たアトマイズ粉を、粉砕処理により微細化する方法を好適に採用することができる。この場合には、アトマイズ粉中にSi相、Si合金相、Sn合金相が晶出し、微細化の工程において、それら3種の相が別々の粒子に分離される。その結果、3種の成分組成を有する粒子の混合体として、活物質粒子が得られる。
【0046】
(2)スラリー準備工程
スラリー準備工程においては、造粒体の原料となるスラリーを調製する。この際、上記で準備した活物質粒子と、バインダとなる高分子化合物、また必要に応じて添加される黒鉛や他の導電助剤等の成分を、分散媒に分散させる。この際、各成分を所定の濃度で配合し、分散媒中で攪拌すればよい。分散媒は、各成分を溶解させることなく、均一性高く分散させられるものであれば特に限定されないが、エタノール、水、イソプロピルアルコール等を例示することができる。
【0047】
(3)造粒工程
造粒工程においては、上記で準備したスラリーを用いて、造粒体を形成する。造粒体の形成には、スプレードライ法(噴霧乾燥法)を用いる。スプレードライ法においては、スラリーを微細な液滴状にし、温風で瞬時に乾燥させて分散媒を除去することで、造粒体がバインダによって粒状に接合された造粒体を形成する。本実施形態においては、スプレードライ法として、ディスク方式を用いる。つまり、高速で回転しているディスクにスラリーを接触させることで、微細液滴を形成する。
【0048】
本実施形態において、ディスク方式のスプレードライ法を実施する際のディスクの回転数は、200rpm以上40000rpm以下とする。回転数が小さすぎると、液滴の乾燥が進行しにくいことにより、造粒性が低くなり、高密度の造粒体を形成することができないが、200rpm以上としておけば、高密度に活物質粒子が集積された造粒体を安定に形成し、高いサイクル特性を示す造粒体を得ることができる。それらの効果を高める観点から、ディスク回転数が3000rpm以上であるとさらに好ましい。一方で、ディスク回転数が大きすぎると、造粒体の粒径が小さくなりすぎ、極端な場合には、造粒体を形成することができないが、40000rpm以下としておけば、ある程度の大きさを有する造粒体を安定に形成し、高いサイクル特性を示す造粒体とすることができる。ディスク回転数は、20000rpm以下であると、さらに好ましい。200rpm以上40000rpm以下のディスク回転数を採用することで、活物質粒子の高密度での集積と造粒体の小径化の抑制の両方の効果により、緻密で空隙の少ない造粒体が形成され、20m2/g以下のBET比表面積を有する造粒体が得られやすくなる。
【0049】
なお、上記で説明した本発明の実施形態にかかる造粒体は、ここに説明した本発明の実施形態にかかる造粒体の製造方法によって好適に製造することができるが、製造方法をそれに限られるものではない。例えば、スプレードライ法にて造粒を行うに際し、ディスク方式の替わりに、ノズル方式の装置を用いてもよい。
【実施例0050】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明する。ここでは、種々の構成で、活物質粒子とバインダを含む造粒体を形成し、負極活物質としての特性を比較した。
【0051】
[試料の作製]
試料として、以下の各工程により、負極活物質となる造粒体を作製した。
【0052】
(1)活物質粒子準備工程
Siを含有する活物質粒子として、以下の3種の粒子材料を準備した。
・Si合金:質量%で、60%Si-18%Sn-10%Fe-12%Cuの成分組成を有する合金溶湯を原料として、アルゴンガスを用いたガスアトマイズ法により、アトマイズ紛を作製した。得られたアトマイズ粉を機械的粉砕法によって粉砕した。粉砕の条件を制御することで、活物質粒子の粒径を調整した。
・Si酸化物(SiOx):Si蒸気と酸素ガスの混合物を冷却し、基板上に塊状のSiOxを析出させた。得られた塊を機械的粉砕法によって粉砕した。粉砕の条件を制御することで、活物質の粒径を調整した。
・ケイ素-炭素複合材料(Si/C):純Siと炭素前駆体を混合し、不活性雰囲気中で焼成することにより、粉末を作製した。
【0053】
(2)スラリー準備工程
上記で準備した活物質およびバインダ、一部の試料ではさらに黒鉛粒子を、分散媒中で攪拌して分散させ、スラリーを調製した。バインダとしては、PAA-NH3、PAA-Na、PAA、PVA、PVB、PVDFを用いた。分散媒としてはエタノールと水の混合物を用いた。
【0054】
(3)造粒工程
上記で準備したスラリーを原料として、ディスク方式のスプレードライ装置を用い、スプレードライ法による造粒を行った。ディスクの回転数は表1に示すとおりとした。
【0055】
[評価方法]
・造粒体の状態
作製した造粒体を走査電子顕微鏡(SEM)で観察し、造粒体の形状を確認するとともに、平均粒子径(二次粒径)を計測した。また、造粒体を構成する活物質粒子の粒径(一次粒径)を、粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製、MT3300)の反射モードにて評価した。
【0056】
さらに、各造粒体について、BET比表面積を計測した。計測には、比表面積/細孔分布測定装置を用い、窒素ガスを用いたガス吸着法により吸着等温線を得て、多点BETプロットより、比表面積を求めた。
【0057】
・負極活物質としての特性
(1)充放電試験用コイン型電池の作製
初めに、各造粒体100質量部と、導電助剤としてのアセチレンブラック6質量部と、結着剤としてのポリイミドバインダ19質量部とを配合し、これを溶剤としてのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)と混合し、各造粒体を含むペーストを作製した。
【0058】
以下の通り、各コイン型半電池を作製した。ここでは、簡易的な評価とするため、造粒体を負極活物質として用いて作製した電極を試験極とし、Li箔を対極とした。まず、負極集電体となる銅箔(厚み18μm)表面に、ドクターブレード法を用いて、厚さ50μmになるように各ペーストを塗布し、乾燥させ、各負極活物質層を形成した。形成後、ロールプレスにより負極活物質層を圧密化した。これにより、実施例および比較例にかかる試験極を作製した。次いで、実施例および比較例にかかる試験極を、直径11mmの円板状に打ち抜き、各試験極とした。
【0059】
次いで、Li箔(厚み500μm)を上記試験極と略同形に打ち抜き、各対極を作製した。また、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との等量混合溶媒に、LiPF6を1mol/lの濃度で溶解させ、非水電解液を調製した。
【0060】
次いで、各試験極を各正極缶に収容するとともに(各試験極はリチウム二次電池では負極となるべきものであるが、対極をLi箔としたときにはLi箔が負極となり、試験極が正極となる)、対極を各負極缶に収容し、各試験極と各対極との間に、ポリオレフィン系微多孔膜のセパレータを配置した。次いで、各缶内に上記非水電解液を注入し、各負極缶と各正極缶とをそれぞれ加締め固定した。
【0061】
(2)充放電試験
各コイン型半電池を用い、電流値0.2mAの定電流充放電を1サイクル分実施し、この放電容量を初期容量C0とした。2サイクル目以降は、1/5Cレートで充放電試験を実施した(Cレート:電極を(充)放電するのに要する電気量C0を1時間で(充)放電する電流値を1Cとする。5Cならば12分で、1/5Cならば5時間で(充)放電することとなる。)。この放電時に使用した容量(mAh)を活物質量(g)で割った値を放電容量(mAh/g)とした。ここで、活物質量は、造粒体を構成する活物質粒子のみの質量を指す。
【0062】
上記の充放電試験によって得られた初期容量の値により、体積容量密度を評価した。活物質量で規格化した初期容量が1600mAh/g以上であれば「A」、1400mAh/g以上1600mAh/g未満であれば「B」、1200mAh/g以上1400mAh/g未満であれば「C」と評価した。一方、その値が1200mAh/g未満であれば、「D」と評価した。A,B,Cのいずれかの評価が得られた場合には、リチウムイオン二次電池に用いる場合の体積容量密度として、十分であるとみなすことができる。
【0063】
さらに、上記充放電サイクルを50回行うことにより、サイクル特性の評価を行った。ここでは、得られた各放電容量から容量維持率(50サイクル後の放電容量/初期放電容量(1サイクル目の放電容量)×100)を求めた。そして、容量維持率が60%以上であれば「A」、50%以上60%未満であれば「B」、40%以上50%未満であれば「C」と評価した。一方、容量維持率が40%未満であれば、「D」と評価した。A,B,Cのいずれかの評価が得られた場合には、リチウムイオン二次電池に用いる場合のサイクル特性として、十分であるとみなすことができる。
【0064】
[試験結果]
下の表1に、実施例1~33および比較例1~6について、造粒体の構成と各評価結果をまとめる。また、
図2に、代表的な試料について、SEM観察像を示す。(a)が実施例3、(b)が比較例5の観察像である。
【0065】
【0066】
表1によると、実施例1~33においてはいずれも、造粒体におけるバインダの含有量が造粒体全体に対して0.1質量%以上15質量%以下の範囲にあり、造粒体のBET比表面積が20m2/g以下となっている。また、造粒時のディスク回転数が、200rpm以上40000rpm以下の範囲に収まっている。そして、体積容量密度およびサイクル特性の両方について、A,B,Cのいずれかの評価が得られている。各実施例において、活物質粒子およびバインダの種類が異なっていても、十分に高い体積容量密度とサイクル特性が得られている。
【0067】
代表として
図2(a)に示した実施例3のSEM像で確認されるように、造粒体は、平滑な球状に近い粒子として構成されており、活物質粒子が高密度に充填されていることが分かる。このことは、BET比表面積が20m
2/g以下に抑えられていることと合致している。そして、そのように高密度に活物質粒子が集合して造粒体を構成していることが、高い体積容量密度とサイクル特性を与える要因となっていると考えられる。
【0068】
次に各比較例について検討する。比較例1,5ではバインダの含有量が0.1質量%よりも少なくなっており、安定に造粒を行えないことにより、BET比表面積が20m
2/gを超えている。そのことに対応して、サイクル特性がD評価となっている。
図2(b)に示した比較例5のSEM像によると、
図2(a)の場合と比較して顕著に小さく、形状もいびつで空隙の多い造粒体しか得られていない。これは、安定に造粒が行えていないことを示しており、BET比表面積が大きいこととも対応している。一方、比較例2,6では、バインダの含有量が15質量%を超えている。この場合には、活物質の量の不足により、十分な電池特性が得られず、体積容量密度がD評価となっている。
【0069】
比較例3では、スプレードライ時のディスク回転数が200rpmを下回っている。そして、BET比表面積が20m2/gを超えている。BET比表面積が大きいことは、造粒体の粒径の小ささおよび空隙の多さを示す指標となっている。そして、高密度で活物質粒子が集積された造粒体が得られていないことと対応して、サイクル特性がD評価となっている。一方、比較例4では、ディスク回転数が45000rpmとなっている。この場合には、スプレードライ時に形成される液滴が小さくなりすぎ、造粒を安定に進めることができない。そのことと対応して、BET比表面積が20m2/gを超えている。体積容量密度もD評価となっている。
【0070】
最後に、実施例を相互に比較する。実施例32では、他の実施例よりも活物質粒子の粒子径(一次粒径)が小さくなっており、それに対応して、BET比表面積が実施例の中で最も大きくなっている。この場合に、体積容量密度がC評価とやや低くなっている。これは、活物質粒子の酸化が起こりやすいためであると考えられる。一方、実施例33では、他の実施例よりも活物質粒子の粒子径が大きくなっており、この場合に、サイクル特性がC評価とやや低くなっている。これは、膨張・収縮の影響が大きいためであると考えられる。実施例2~7では、上記実施例32,33ほど極端ではないが、活物質粒子の粒子径を変化させている。これらを比較すると、粒子径が大きくなるほどBET比表面積が小さくなっており、体積容量密度は向上するものの、サイクル特性が低下する傾向が見て取れる。
【0071】
実施例4,10~13では、ディスク回転数が相互に異なっている。ここで、ディスク回転数を大きくするほど、BET比表面積が大きくなる傾向がある。最もディスク回転数が小さい実施例13で、サイクル特性がやや低くなっている。
【0072】
実施例14~18,20,21では、バインダの含有量が相互に異なっている。ここでは、バインダ含有量を増やすほど、BET比表面積が小さくなる傾向が見ある。また、比較例1,2も合わせると、バインダ含有量を増やすほど、体積容量密度が低くなる一方で、サイクル特性が高くなる傾向が見て取れる。
【0073】
以上、本発明の実施形態について説明した。本発明は、これらの実施形態に特に限定されることなく、種々の改変を行うことが可能である。