(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065359
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】感光性樹脂組成物及びその硬化物
(51)【国際特許分類】
G03F 7/004 20060101AFI20240508BHJP
G03F 7/038 20060101ALI20240508BHJP
H05K 3/00 20060101ALI20240508BHJP
C08G 59/68 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
G03F7/004 501
G03F7/038 503
G03F7/004 512
H05K3/00 F
C08G59/68
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174186
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田上 勝大
(72)【発明者】
【氏名】河本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】本田 那央
【テーマコード(参考)】
2H225
4J036
【Fターム(参考)】
2H225AE12P
2H225AE14P
2H225AE15P
2H225AF23P
2H225AF78P
2H225AN47P
2H225AN51P
2H225AN79P
2H225AN82P
2H225BA09P
2H225BA32P
2H225CA11
2H225CB06
2H225CC01
2H225CC12
2H225CD05
4J036AA02
4J036AB07
4J036AD04
4J036AD08
4J036AE05
4J036AF08
4J036AF19
4J036AJ18
4J036GA04
4J036GA23
4J036HA02
4J036JA09
(57)【要約】
【課題】解像性及び基板への密着性に優れ、急激な温度変化時にパッケージ内部で発生する結露が低減された感光性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】カチオン硬化性樹脂(A)、光カチオン重合開始剤(B)、及びクエンチャー(C)を含有する感光性樹脂組成物であって、カチオン硬化性樹脂(A)が、軟化点50℃以上の多官能エポキシ樹脂(a-1)及び/又は軟化点50℃以上の多官能エポキシ樹脂の酸変性物(a-2)を60質量%以上含有し、クエンチャー(C)が下記式(1)
(式中R
1乃至R
3は、それぞれ独立にアルキル基又はフェニル基を示す)で表される化合物を含有する感光性樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン硬化性樹脂(A)、光カチオン重合開始剤(B)、及びクエンチャー(C)を含有する感光性樹脂組成物であって、カチオン硬化性樹脂(A)が、軟化点50℃以上の多官能エポキシ樹脂(a-1)及び/又は軟化点50℃以上の多官能エポキシ樹脂の酸変性物(a-2)を60質量%以上含有し、クエンチャー(C)が下記式(1)
【化1】
(式中、R
1乃至R
3はそれぞれ独立にアルキル基又はフェニル基を示す)
で表される化合物を含有する感光性樹脂組成物。
【請求項2】
R1乃至R3がフェニル基である請求項1に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の感光性樹脂組成物からなるドライフィルムレジスト。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の感光性樹脂組成物の硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS(微小電子機械システム)部品、マイクロマシン部品、マイクロ流体部品、μ-TAS(微小全分析システム)部品、インクジェットプリンター部品、マイクロ反応器部品、導電性層、LIGA部品、微小射出成形及び熱エンボス向け型及びスタンプ、微細印刷用途向けスクリーン又はステンシル、MEMSパッケージ部品、半導体パッケージ部品、BioMEMS及びバイオフォトニックデバイス、並びにプリント配線板の製作において有用な解像度に優れた感光性樹脂組成物に関する。本発明は更に、基板への密着性に優れ、急激な温度変化時にパッケージ内部で発生する結露が低減された該感光性樹脂組成物の硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトリソグラフィー加工可能なレジストは、最近半導体やMEMS・マイクロマシンアプリケーションに広範に用いられている。このようなアプリケーションでは、フォトリソグラフィー加工は基板上でパターニング露光し、ついで、現像液で現像することで露光領域もしくは非露光領域を選択的に除去することで達成される。フォトリソグラフィー加工可能なレジスト(フォトレジスト)にはポジ又はネガタイプがあり、露光部が現像液に溶解するのがポジタイプであり、同じく不溶となるものがネガタイプである。先端のエレクトロパッケージアプリケーションやMEMSアプリケーションでは均一なスピンコーティング膜の形成能だけではなく、高アスペクト比、厚膜におけるストレートな側壁形状、基板への高密着性等が要求される。ここで、アスペクト比とは、レジスト膜厚/パターン線幅により算出され、フォトリソグラフィーの性能を示す重要な特性である。
【0003】
このようなフォトレジストとしては、多官能ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂(商品名 EPON SU-8レジン、レゾリューション・パフォーマンス・プロダクツ製)及びダウケミカル製 CYRACURE UVI-6974のような光カチオン重合開始剤(この光カチオン重合開始剤は芳香族スルホニウムヘキサフルオロアンチモネートのプロピレンカーボネート溶液からなる)を含むネガタイプの化学増幅型フォトレジスト組成物が知られている。該フォトレジスト組成物は350乃至450nmの波長域に非常に低い光吸収を持つことから、厚膜フォトリソグラフィー加工可能なフォトレジスト組成物として知られている。このフォトレジスト組成物を種々の基板上にスピンコートもしくはカーテンコート等の手法で塗布し、ついでベーキングにより溶剤を揮発させることで、100μmもしくはそれ以上の厚みの固体フォトレジスト層を形成することができる。さらにコンタクト露光、プロキシミティ露光又はプロジェクション露光等の各種露光方法により、フォトマスクを通してこの固体フォトレジスト層に近紫外光を照射することでフォトリソグラフィー加工を施すことができる。続いて、現像液中に浸漬し、非露光領域を溶解させることで、基板上に高解像なフォトマスクのネガイメージを形成することができる。
【0004】
一方、MEMS部品や、MEMS及び半導体パッケージ等の分野では、パッケージ材料の物性がデバイスの信頼性に影響することが知られている。MEMS素子及び半導体素子は、周囲の温度や湿度の変化あるいは微細なごみや埃の影響でその特性が劣化したり、また機械的振動や衝撃を受けることにより破損しやすい。これら外的要因から保護するために、MEMS素子及び半導体素子は、各種材料で封止された形態や、各種材料の外壁で囲われた中空構造(キャビティ)に内包された形態、即ち、パッケージの形態として使用されている。封止剤や外壁の材料に金属やセラミックスを用いる気密封止方式の場合、得られるパッケージは信頼性に優れるが、製造コストが高いことや寸法精度が悪いことなどの欠点を有する。これに対して、封止剤や外壁の材料に樹脂を用いる樹脂封止の場合、従来の樹脂では、製造コストは比較的低く、かつ寸法精度も高いが、耐湿性や耐熱性等に問題があった。例えば、樹脂材料が外部環境から吸収した水分によって封止剤が基板や素子から剥離したり、高温環境下に晒された際にパッケージから発生するアウトガスに起因する不良が問題となっている。また、近年では、樹脂材料を用いて設けられたキャビティを有するパッケージにおいて、ハンダリフロー等の高温加熱工程から急令した際に、樹脂中に内包されている、或いは樹脂の硬化反応等により生成する水分がキャビティ内に結露し、MEMS及び半導体素子の特性を低下させるといった問題が発生している。
【0005】
特許文献1には、オキセタン化合物およびエポキシ化合物から選ばれる化合物およびカチオン重合開始剤であるオニウム塩からなる組成物に、特定構造のホスフィンオキサイド誘導体を配合することで、該組成物の保管安定性が向上することが記載されている。しかし、この文献には、組成物の解像性や基板への密着性、急激な温度変化時の結露低減効果については何ら言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであって、解像性及び基板への密着性に優れ、急激な温度変化時にパッケージ内部で発生する結露が低減された感光性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意、検討を重ねた結果、特定のカチオン硬化性樹脂、光カチオン重合開始剤及び特定構造のクエンチャーを含有する感光性樹脂組成物が上記課題を解決できることを見出し、本発明の完成するに至った。
【0009】
本発明は以下の諸態様に関する。
[1]カチオン硬化性樹脂(A)、光カチオン重合開始剤(B)、及びクエンチャー(C)を含有する感光性樹脂組成物であって、カチオン硬化性樹脂(A)が、軟化点50℃以上の多官能エポキシ樹脂(a-1)及び/又は軟化点50℃以上の多官能エポキシ樹脂の酸変性物(a-2)を60質量%以上含有し、クエンチャー(C)が下記式(1)
【0010】
【0011】
(式中、R1乃至R3はそれぞれ独立にアルキル基又はフェニル基を示す)で表される化合物を含有する感光性樹脂組成物。
[2]R1乃至R3がフェニル基である前項[1]に記載の感光性樹脂組成物。
[3]前項[1]又は[2]に記載の感光性樹脂組成物からなるドライフィルムレジスト。
[4]前項[1]又は[2]に記載の感光性樹脂組成物の硬化物。
【発明の効果】
【0012】
本発明の感光性樹脂組成物は、解像性、基板への密着性に優れ、急激な温度変化時にパッケージ内部で発生する結露低減効果をも奏するため、MEMS部品、マイクロマシン部品及び半導体パッケージ部品等に好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明について説明する。
本発明の感光性樹脂組成物は、カチオン硬化性樹脂(A)、光カチオン重合開始剤(B)、及びクエンチャー(C)を含有する感光性樹脂組成物であって、カチオン硬化性樹脂(A)が、軟化点50℃以上の多官能エポキシ樹脂(a-1)及び/又は軟化点50℃以上の多官能エポキシ樹脂の酸変性物(a-2)を60質量%以上含有し、クエンチャー(C)が上記式(1)で表される化合物を含有する。
【0014】
本発明の感光性樹脂組成物に用いられるカチオン硬化性樹脂(A)(以下、単に「(A)成分」と記載する)は、軟化点50℃以上の多官能エポキシ樹脂(a-1)(以下、単に「(a-1)成分」と記載する)及び/又は軟化点50℃以上の多官能エポキシ樹脂の酸変性物(a-2)(以下、単に「(a-2)成分」と記載する)を60質量%以上含有する。カチオン硬化性樹脂(A)が軟化点50℃以上の(a-1)成分及び/又は(a-2)成分を60質量%以上含有することにより、リフロー試験時のパッケージ内の結露の発生や、感光性樹脂組成物を用いて得られる皮膜のベタツキを防ぐことができる。
(A)成分における(a-1)成分及び/又は(a-2)成分の含有量は70質量%以上がより好ましい。
【0015】
(a-1)成分は、軟化点が50℃以上で一分子中に二つ以上エポキシ基を有する化合物であれば特に限定されないが、例えばフェノール類(フェノール、アルキル置換フェノール、ナフトール、アルキル置換ナフトール、ジヒドロキシベンゼン、ジヒドロキシナフタレン等)とホルムアルデヒドとを酸性触媒下で反応して得られるノボラック類と、エピクロロヒドリン及びメチルエピクロロヒドリンのようなハロヒドリンとを反応させて得られる軟化点が50℃以上のノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。
(a-1)成分の具体例としては、KM-N-LCL、EOCN-102S、EOCN-103S、EOCN-104S、EOCN-1020、EOCN-4400H、EPPN-201、EPPN-501、EPPN-502、XD-1000、BREN-S、NC-3000H、NC-7000L、NC-6000H、GTR-1800(いずれも商品名、日本化薬株式会社製)等が挙げられる。
【0016】
(a-1)成分の軟化点は50乃至120℃が好ましく、60乃至110℃がより好ましい。尚、本明細書における軟化点とは、JIS K7234の環球法に準拠した方法で測定した値である。
(a-1)成分のエポキシ当量は100乃至500g/eq.が好ましく、200乃至-350g/eq.がより好ましい。尚、本明細書におけるエポキシ当量とは、JIS K7236に準拠した方法で測定した値である。
【0017】
(a-2)成分は、2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物(x)(以下、単に「(x)成分」と記載する)とアルコール性水酸基を有するモノカルボン酸化合物(y)(以下、単に「(y)成分」と記載する)との反応物(xy)の有するアルコール性水酸基に、多塩基酸無水物(z)(以下、単に「(z)成分」と記載する)を反応させて得られる化合物である。
【0018】
(a-2)成分の原料である(x)成分は、2つ以上のエポキシ基を有する化合物であれば特に限定されないが、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂及びビスフェノールS型エポキシ樹脂等の両末端にエポキシ基を有する二官能エポキシ樹脂が挙げられる。これら(x)成分のエポキシ当量は、通常300乃至1,300g/eq.であり、好ましくは500乃至1,200g/eq.であり、より好ましくは700乃至1,100g/eq.である。また、(x)成分の軟化点は、好ましくは50℃乃至120℃、より好ましくは60℃乃至110℃である。前記のエポキシ当量を有する(x)成分の具体的としては、jER1003及びjER1004(三菱化学株式会社製)等のビスフェノールA型エポキシ樹脂、jER4004P及びjER4005P(三菱化学株式会社製)等のビスフェノールF型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0019】
(a-2)成分の原料である(y)成分としては、例えばモノメチロールプロピオン酸、ジメチロールプロピオン酸、モノメチロールブタン酸、ジメチロールブタン酸等が挙げられるが、(x)成分と(y)成分との反応物に、(z)成分と反応し得るアルコール性水酸基を多量に導入できることから、ジメチロールプロピオン酸及びジメチロールブタン酸が好ましい。これらの(y)成分は、単独で用いてもよく、また2種以上を混合して用いてもよい。
【0020】
(x)成分と(y)成分との反応は、通常ヒドロキシ基を有さない溶媒中で行われる。該溶媒としては、例えばアセトン、エチルメチルケトン及びシクロヘキサノン等のケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレン及びテトラメチルベンゼン等の芳香族炭化水素類、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル及びジプロピレングリコールジエチルエーテル等のグリコールエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチル、ブチルセロソルブアセテート、カルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート及びγ-ブチロラクトン等のエステル類、メタノール、エタノール、セレソルブ及びメチルセレソルブ等のアルコール類、オクタン及びデカン等の脂肪族炭化水素、石油エーテル、石油ナフサ、水添石油ナフサ及びソルベントナフサ等の石油系溶剤等が挙げられる。
【0021】
(x)成分と(y)成分との反応には、付加反応を促進させるために触媒を使用することが好ましく、その具体例としては、トリエチルアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリメチルアンモニウムアイオダイド、トリフェニルホスフィン、トリフェニルスチビン、オクタン酸クロム、オクタン酸ジルコニウム等が挙げられる。触媒の使用量は、(x)成分と(y)成分の合計に対して、通常0.1乃至10質量%である。反応温度は通常60乃至150℃、反応時間は通常5乃至60時間である。
【0022】
(x)成分のエポキシ基に対する(y)成分のカルボキシ基の付加率は、(x)成分のエポキシ基の80%以上が好ましく、90当量%以上がより好ましく、100%が更に好ましい。(x)成分のエポキシ基に対する(y)成分の付加率を80%以上とすることにより、(x)成分と(y)成分の反応物に(y)成分由来のアルコール性水酸基が多量に導入され、結果的に(x)成分と(y)成分の反応物に付加する(z)成分の量が多くなることで、感光性樹脂組成物の現像性が向上する。
【0023】
(a-2)成分の原料である(z)成分としては、例えば無水コハク酸、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水マレイン酸、無水トリメリット酸及び無水ピロメリット酸等が挙げられ、無水コハク酸、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸又は無水マレイン酸が好ましく、テトラヒドロ無水フタル酸がより好ましい。これらの(z)成分は、単独で用いてもよく、また2種以上を混合して用いてもよい。
(x)成分と(y)成分の反応物と(z)成分との付加反応は、前記で得られた(x)成分と(y)成分の反応物を含む溶液に、必要量の(z)成分を添加して加熱するだけでよく、反応温度は通常60乃至150℃、反応時間は通常5乃至10時間である。
【0024】
(x)成分と(y)成分の反応物の有するアルコール性水酸基に対する(z)成分の酸無水物の付加率は、(x)成分と(y)成分の反応物の有するアルコール性水酸基の80%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、100%が更により好ましい。(x)成分と(y)成分の反応物の有するアルコール性水酸基に対する(z)成分の付加率を80%以上とすることにより、(z)成分の付加反応により多量のカルボキシ基が導入され、感光性樹脂組成物のアルカリ現像性が向上する。
前記の方法により得られた(a-2)成分の固形分酸価は、90乃至105mg・KOH/gであることが好ましい。尚、本明細書における固形分酸価は、JIS K0070に準拠した方法で測定した値である。
(a-2)成分の軟化点は50乃至120℃が好ましく、60乃至110℃がより好ましい。
(a-2)成分の重量平均分子量は500乃至15,000が好ましく、500乃至9,000がより好ましい。
【0025】
(A)成分は、(a-1)成分及び(a-2)成分以外のカチオン重合性樹脂(a-3)(以下、単に「(a-3)成分」と記載する)を40質量%未満含んでいてもよい。
(a-3)成分は、(a-1)成分及び(a-2)成分以外であって、かつカチオン硬化性の官能基を有する化合物(樹脂)であれば特に限定されないが、例えば常温で液状のグリシジルエーテル系エポキシ化合物(例えば、ビスフェノールA型グリシジルエーテル、ビスフェノールF型グリシジルエーテル等);脂環式グリシジルエーテル系エポキシ化合物(例えば、水添ビスフェノールA型グリシジルエーテル、水添ビスフェノールF型グリシジルエーテル等)、脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、エポキシ変性シロキサン化合物等が挙げられる。(a-3)成分は単独で用いても良く、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(a-3)成分の具体例としては、例えばJER-828、JER-806、YX-8000(三菱ケミカル、株式会社製)、セロキサイド2021P(ダイセル株式会社製)、デナコールEX-321、デナコールEX-145(ナガセケムテックス株式会社製)、TEPIC-VL(日産化学株式会社製)等が挙げられる。
【0026】
本発明の感光性樹脂組成物に用いられる(B)光カチオン重合開始剤(以下、単に「(B)成分」と記載する)は、紫外線、遠紫外線、KrFやArFなどのエキシマレーザー、X線および電子線などの放射線の照射を受けてカチオンを発生し、該カチオンがエポキシ樹脂等のカチオン硬化性樹脂(化合物)の重合反応を開始し得る化合物である。(B)成分は、従来公知の光カチオン重合開始剤であれば特に限定されないが、代表的なものとしては、例えば芳香族ヨードニウム錯塩や芳香族スルホニウム錯塩が挙げられる。
【0027】
芳香族ヨードニウム錯塩の具体例としては、ジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジ(4-ノニルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、トリルクミルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(ローディア社製、商品名 ロードシルPI2074)、ジ(4-ターシャリブチル)ヨードニウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メタニド(BASF社製、商品名 CGI BBI-C1)等が挙げられる。
【0028】
芳香族スルホニウム錯塩の具体例としては、4-チオフェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート(サンアプロ社製、商品名 CPI-101A)、チオフェニルジフェニルスルホニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート(サンアプロ社製、商品名 CPI-210S)、4-{4-(2-クロロベンゾイル)フェニルチオ}フェニルビス(4-フルオロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート(ADEKA社製、商品名 SP-172)、4-チオフェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネートを含有する芳香族スルホニウムヘキサフルオロアンチモネートの混合物(ACETO Corporate USA製、商品名 CPI-6976)及びトリフェニルスルホニウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メタニド(BASF社製、商品名 CGI TPS-C1)、トリス[4-(4-アセチルフェニル)スルホニルフェニル]スルホニウムトリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド(BASF社製、商品名 GSID 26-1)、トリス[4-(4-アセチルフェニル)スルホニルフェニル]スルホニウムテトラキス(2,3,4,5,6-ペンタフルオロフェニル)ボレート(BASF社製、商品名 イルガキュアPAG290)等が挙げられる。
【0029】
これらの(B)成分のうち、本発明では感光画像形成工程において、垂直矩形加工性が高く、熱安定性が高い、芳香族スルホニウム錯塩が好ましく、4-{4-(2-クロロベンゾイル)フェニルチオ}フェニルビス(4-フルオロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4-チオフェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネートを含有する芳香族スルホニウムヘキサフルオロアンチモネートの混合物、又はトリス[4-(4-アセチルフェニル)スルホニルフェニル]スルホニウムテトラキス(2,3,4,5,6-ペンタフルオロフェニル)ボレートがより好ましい。
(B)成分は、本発明の感光性樹脂組成物に単独で用いてもよく2種以上を併用しても用いてもよい。
【0030】
本発明の感光性樹脂組成物における(B)成分の含有量は、(A)成分に対して、通常0.1乃至10質量%、好ましくは0.5乃至5質量%である。また、別の態様において、本発明の感光性樹脂組成物における(B)成分の配合割合は、(A)成分に対して、0.1乃至5質量%、または0.5乃至10質量%であってよい。但し、(B)成分の、波長300乃至380nmにおけるモル吸光係数が高い場合は、感光性樹脂組成物を用いる際の膜厚に応じて適切な配合量に調整する必要がある。
【0031】
本発明の感光性樹脂組成物は、上記式(1)で表される(C)クエンチャー(以下、単に「(C)成分」と記載する)を含有する。式(1)中、R1乃至R3はそれぞれ独立に、アルキル基又はフェニル基を示す。
【0032】
本発明の感光性樹脂組成物は、前記式(1)で表される(C)クエンチャー(以下、単に「(C)成分」と記載する)を含有する。
式(1)のR1乃至R3が表すアルキル基は直鎖状又は分岐鎖状のいずれでもよく、その炭素数も特に限定されないが、炭素数1乃至10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が好ましい。
式(1)のR1乃至R3が表すアルキル基及びフェニル基は置換基を有していてもよい。ここでいう「置換基を有するアルキル基」とは、アルキル基の有する水素原子が置換基で置換されているアルキル基であり、アルキル基中の置換基の数は特に限定されない。アルキル基の有する置換基は特に限定されないが、例えば水酸基、ハロゲン原子及びアリール基等が挙げられる。
式(1)におけるR1乃至R3としては、それぞれ独立に炭素数1乃至10の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、又はフェニル基が好ましく、R1乃至R3が同一の炭素数1乃至10の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、又はフェニル基がより好ましい。
【0033】
(C)成分の具体例としては、トリブチルホスフィンオキサイド(TBPO)、トリフェニルホスフィンオキサイド(TPPO)、トリ(3-ヒドロキシプロプル)ホスフィンオキサイド、n-ブチル-ビス(3-ヒドロキシプロピル)ホスフィンオキサイドなどが挙げられる。
【0034】
本発明の感光性樹脂組成物における(C)成分の含有量は、(B)成分の含有量に対して通常0.1乃至50質量%、好ましくは1乃至30質量%である。(C)成分の含有量を前記の範囲とすることにより、本発明の感光性樹脂組成物の結露低減効果や優れた硬化性が発現する。
発明の効果を損なわない範囲であれば、(C)成分に上記式(1)で表される化合物以外の公知のクエンチャーを併用しても構わないが、式(1)で表される化合物以外のクエンチャーを併用した場合、酸の捕縛能力が高くなり過ぎることで必要以上に反応が阻害され感度が大幅に低下したり、逆に捕縛能力が低くなり過ぎて結露防止効果が低下したりする恐れがあることから、(C)成分には式(1)で表される化合物のみを用いるのが好ましい。
【0035】
本発明の感光性樹脂組成物には、組成物の粘度を下げ、感光性樹脂組成物の各種基板等への塗工性を向上させるために、溶剤を添加してもよい。溶剤としては、インキ、塗料等に通常用いられる有機溶剤であって、感光性樹脂組成物の各構成成分を溶解可能なものは特に制限なく用いることができる。溶剤の具体例としては、アセトン、エチルメチルケトン、シクロヘキサノン及びシクロペンタノン等のケトン類、トルエン、キシレン及びテトラメチルベンゼン等の芳香族炭化水素類、エチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル及びジプロピレングリコールジエチルエーテル等のグリコールエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチル、ブチルセロソルブアセテート、カルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチエーテルアセテート及びγ-ブチロラクトン等のエステル類、メタノール、エタノール、セロソルブ及びメチルセロソルブ等のアルコール類、オクタン及びデカン等の脂肪族炭化水素、石油エーテル、石油ナフサ、水添石油ナフサ及びソルベントナフサ等の石油系溶剤等が挙げられる。
本発明の感光性樹脂組成物における溶剤の含有量は、感光性樹脂組成物中に95質量%以下が好ましく、10乃至90質量%がより好ましい。
【0036】
本発明の感光性樹脂組成物には、基板に対する組成物の密着性を向上させる目的で、混和性のある密着性付与剤を使用してもよい。密着性付与剤としては、シランカップリング剤又はチタンカップリング剤などのカップリング剤を用いることができる。好ましくはシランカップリング剤が挙げられる。
【0037】
シランカップリング剤としては、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニル・トリス(2-メトキシエトキシ)シラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これら密着性付与剤は、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
過剰に添加された密着性付与剤は、感光性樹脂組成物が硬化した後も未反応のまま硬化物中に残存して硬化物の諸物性に悪影響を与えることがある。基材によっては、少量でも効果を発揮することから、物性低下を生じない範囲内での使用が適当である。密着性付与剤の使用割合は、感光性樹脂組成物中に15質量%以下が好ましく、より好ましくは5質量%以下である。
【0039】
本発明の感光性樹脂組成物には、さらに紫外線を吸収し、吸収した光エネルギーを光カチオン重合開始剤に供与するために増感剤を使用してもよい。増感剤としては、例えばチオキサントン類、9位と10位にアルコキシ基を有するアントラセン化合物(9,10-ジアルコキシアントラセン誘導体)が好ましい。前記アルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の炭素数1乃至4のアルコキシ基が挙げられる。9,10-ジアルコキシアントラセン誘導体は、さらに置換基を有していても良い。置換基としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1乃至4のアルキル基やスルホン酸アルキルエステル基、カルボン酸アルキルエステル基等が挙げられる。スルホン酸アルキルエステル基やカルボン酸アルキルエステルにおけるアルキルとしては、例えばメチル、エチル、プロピル等の炭素数1乃至4のアルキルが挙げられる。これらの置換基の置換位置は2位が好ましい。
【0040】
チオキサントン類の具体例としては、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン及び2-イソプロピルチオキサントン等が挙げられ、2,4-ジエチルチオキサントン(商品名 カヤキュアーDETX-S、日本化薬株式会社製)又は2-イソプロピルチオキサントンが好ましい。
【0041】
9,10-ジアルコキシアントラセン誘導体としては、例えば9,10-ジメトキシアントラセン、9,10-ジエトキシアントラセン、9,10-ジプロポキシアントラセン、9,10-ジブトキシアントラセン、9,10-ジメトキシ-2-エチルアントラセン、9,10-ジエトキシ-2-エチルアントラセン、9,10-ジプロポキシ-2-エチルアントラセン、9,10-ジメトキシ-2-クロロアントラセン、9,10-ジメトキシアントラセン-2-スルホン酸メチルエステル、9,10-ジエトキシアントラセン-2-スルホン酸メチルエステル、9,10-ジメトキシアントラセン-2-カルボン酸メチルエステル等を挙げることができる。
【0042】
これらの増感剤は、単独であるいは2種以上混合して用いることができる。2,4-ジエチルチオキサントン及び、9,10-ジメトキシ-2-エチルアントラセンの使用が最も好ましい。増感剤成分は、少量で効果を発揮する為、その使用割合は、(B)成分に対し30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
【0043】
本発明の感光性樹脂組成物には、(B)成分に由来するイオンによる悪影響を低減する必要がある場合には、トリスメトキシアルミニウム、トリスエトキシアルミニウム、トリスイソプロポキシアルミニウム、イソプロポキシジエトキシアルミニウム及びトリスブトキシアルミニウム等のアルコキシアルミニウム、トリスフェノキシアルミニウム及びトリスパラメチルフェノキシアルミニウム等のフェノキシアルミニウム、トリスアセトキシアルミニウム、トリスステアラトアルミニウム、トリスブチラトアルミニウム、トリスプロピオナトアルミニウム、トリスアセチルアセトナトアルミニウム、トリストリフルオロアセチルアセナトアルミニウム、トリスエチルアセトアセタトアルミニウム、ジアセチルアセトナトジピバロイルメタナトアルミニウム及びジイソプロポキシ(エチルアセトアセタト)アルミニウム等の有機アルミニウム化合物などのイオンキャッチャーを添加してもよい。これらのイオンキャッチャーは、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。その配合量は、本発明の感光性樹脂組成物の全固形分(溶剤を除く全ての成分)に対して10質量%以下であってよい。
【0044】
本発明の感光性樹脂組成物には、さらに表面張力を低下させ塗膜性を向上させる目的で、レベリング剤を使用しても良い。レベリング剤としては例えば、フッ素系レベリング剤(フタージェント100、300、251、222F、710FL、601AD:ネオス株式会社製)や、シリコーン系レベリング剤(ディスパロン711EF、1761、LS-001、LS-460:楠本化成株式会社)、アクリル系レベリング剤(ディスパロン1970、230、LF-1980:楠本化成株式会社)が挙げられる。
これらのレベリング剤は、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。その配合量は、本発明の感光性樹脂組成物の全固形分(溶剤を除く全ての成分)に対して0.01%乃至1%が好ましい。
【0045】
本発明の感光性樹脂組成物には、更に必要に応じて、熱可塑性樹脂、着色剤、増粘剤、消泡剤等の各種添加剤を添加することができる。熱可塑性樹脂としては、例えばポリエーテルスルホン、ポリスチレン、ポリカーボネート等が挙げられる。着色剤としては、例えばフタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アイオジン・グリーン、クリスタルバイオレット、酸化チタン、カーボンブラック、ナフタレンブラック等が挙げられる。増粘剤としては、例えばオルベン、ベントン、モンモリロナイト等が挙げられる。消泡剤としては、例えばシリコーン系、フッ素系および高分子系等の消泡剤が挙げられる。これらの添加剤等を使用する場合、その使用量は本発明の感光性樹脂組成物中に、例えば、それぞれ30質量%以下が一応の目安である。この量は、使用目的に応じ適宜増減し得る。
【0046】
本発明の感光性樹脂組成物には、例えば硫酸バリウム、チタン酸バリウム、酸化ケイ素、無定形シリカ、タルク、クレー、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、雲母粉等の無機充填剤を添加することができる。無機充填剤の添加量は、本発明の感光性組成物中に60質量%以下であってよい。
【0047】
本発明の感光性樹脂組成物は、必須成分である(A)成分、(B)成分及び(C)成分と、必要に応じて溶剤や各種の添加剤等を配合した後、通常の方法で混合、攪拌するだけで調製可能である。必要に応じディゾルバー、ホモジナイザー又は3本ロールミルなどの分散機を用いて分散、混合させてもよい。また、混合した後で、さらにメッシュ、メンブレンフィルターなどを用いてろ過を施してもよい。
【0048】
本発明の感光性樹脂組成物は、好ましくは溶剤を添加した溶液の状態で用いられる。溶剤に溶解した本発明の感光性樹脂組成物を使用するには、最初に、例えばシリコン、アルミニウム、銅等の金属基板、リチウムタンタレート、ガラス、シリコンオキサイド、シリコンナイトライド等のセラミック基板、ポリイミド、ポリエチレンテレフタラート等の基板上に、スピンコーターを用いて本発明の感光性樹脂組成物を0.1乃至1,000μmの厚みで塗布することができる。次いで、60乃至130℃で5乃至60分間程度の加熱条件で溶剤を除去して感光性樹脂組成物層を形成した後、プリベークを施してから、所定のパターンを有するマスクを載置して紫外線を照射することができる。次いで、50乃至130℃で1乃至50分間程度の条件で加熱処理(露光後ベーク)を行った後、未露光部分に対して現像液を用いて室温乃至50℃で1乃至180分間程度の条件で現像処理を行ってパターンを形成することができる。最後に130乃至230℃の条件で加熱処理(ハードベーク処理)をすることで、諸特性を満足する硬化物を得ることができる。これらの処理条件は、限定されるものではなく、典型的な一例である。現像液としては、例えばγ-ブチロラクトン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の有機溶剤、あるいは、前記有機溶剤と水の混合液等を用いることができる。現像にはパドル型、スプレー型、シャワー型等の現像装置を用いてもよい。必要に応じて超音波照射を行ってもよい。なお、本発明の感光性樹脂組成物を使用するにあたり好ましい金属基板としては、アルミニウムが挙げられる。
【0049】
本発明の感光性樹脂組成物は、ベースフィルム上にロールコーター、ダイコーター、ナイフコーター、バーコーター、グラビアコーター等を用いて該組成物を塗布した後、45乃至100℃に設定した乾燥炉で乾燥し、所定量の溶剤を除去することにより、また、必要に応じてカバーフィルム等を積層することによりドライフィルムレジストとすることができる。この際、ベースフィルム上のレジストの厚みは、2乃至100μmに調整することができる。ベースフィルム及びカバーフィルムとしては、例えばポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、TAC、ポリイミド等のフィルムが使用される。これらフィルムは必要に応じてシリコーン系離型処理剤や非シリコーン系離型処理剤等により離型処理されたフィルムを用いてもよい。このドライフィルムレジストを使用するには、例えばカバーフィルムをはがして、ハンドロール又はラミネーター等により、温度40乃至100℃、圧力0.05乃至2MPaで基板に転写し、前記溶剤に溶解した感光性樹脂組成物と同様に露光、露光後ベーク、現像、加熱処理をすればよい。
【0050】
前述のように感光性樹脂組成物をドライフィルムとして供給すれば、支持体上への塗布、および乾燥の工程を省略することが可能である。それによって、より簡便に本発明の感光性樹脂組成物を用いた硬化物パターンの形成が可能となる。
【0051】
MEMSパッケージ及び半導体パッケージとして用いる場合は、本発明の感光性樹脂組成物でMEMS又は半導体デバイスを被覆、又はMEMS又は半導体デバイスに対して中空構造を作製することにより使用できる。MEMS及び半導体パッケージの基板としては種々の形状のシリコンウエハ上に、スパッタリング又は蒸着によりアルミニウム、金、銅、クロム、チタン等の金属薄膜を10乃至5,000Åの膜厚で成膜し、エッチング法等によりその金属を微細加工した基板等が用いられる。場合によっては、さらに無機の保護膜としてシリコンオキサイドやシリコンナイトライドが10乃至10,000Åの膜厚で成膜されることもある。次いで基板上に、MEMS又は半導体デバイスを作製又は設置し、このデバイスを外気から遮断するために、被覆又は中空構造を作製する必要がある。本発明の感光性樹脂組成物で被覆する場合は、前記の方法で行なうことができる。また、中空構造を作製する場合は、基板上へ前記の方法で隔壁を形成させ、その上にさらに、前記の方法でドライフィルムをラミネート及び隔壁上の蓋となるようにパターニングを行なうことで、中空パッケージ構造を作製することができる。また、作製後、必要に応じて130乃至200℃で10乃至120分間、加熱処理をすることで諸特性を満足するMEMSパッケージ部品及び半導体パッケージ部品が得られる。
【0052】
なお、「パッケージ」とは、基板、配線、素子等の安定性を保つため、外気の気体、液体の浸入を遮断するために用いられる封止方法、あるいはその製造物である。本明細書において言及される「パッケージ」とは、MEMSのような駆動部があるものや、SAWデバイス等の振動子をパッケージするための中空パッケージや、半導体基板、プリント配線版、配線等の劣化を防ぐために行う表面保護や、樹脂封止等を表す。さらに、本明細書において言及される「ウエハーレベルパッケージ」とは、ウエハーの状態で保護膜、端子、配線加工、パッケージまで行い、その後チップへ切り出すパッケージ工法、あるいはその製造物のことを表す。
【0053】
本発明の感光性樹脂組成物は、高い弾性率を発現する。従って、この感光性樹脂組成物は、例えば、MEMS(微小電子機械システム)部品、マイクロマシン部品、マイクロ流体部品、μ-TAS(微小全分析システム)部品、インクジェットプリンター部品、マイクロ反応器部品、導電性層、LIGA部品、微小射出成形及び熱エンボス向け型及びスタンプ、微細印刷用途向けスクリーン又はステンシル、MEMSパッケージ部品、半導体パッケージ部品、BioMEMS及びバイオフォトニックデバイス、並びに、プリント配線板の製作等に利用される。中でも特に、MEMSパッケージ部品及び半導体パッケージ部品において有用である。
【実施例0054】
以下、本発明を実施例により説明する。これらの実施例は本発明を好適に説明するための例示に過ぎず、本発明の範囲は以下に示す例に限定されるものではない。
【0055】
合成例1((A)成分(多官能エポキシ樹脂の酸変性物(a-2))の合成)
5Lフラスコに、反応溶媒としてシクロペンタノン 429.5部及び(x)成分としてjER-4004P(三菱化学株式会社製、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量868g/eq.) 868.0部を仕込み、120℃に加熱して樹脂を溶解させた。この樹脂溶液に、(y)成分としてジメチロールプロピオン酸 134.1部及び反応触媒としてトリフェニルホスフィン 1.43部を加え、120℃で26時間反応させた。反応液の酸価が7mg・KOH/g以下になったことを確認した後、(z)成分としてテトラヒドロ無水フタル酸 304.3部及びシクロペンタノン 272.5部を加え、80℃で8時間反応させることにより、固形分酸価99.6mg・KOH/gの(a-2)成分(多官能エポキシ樹脂の酸変性物(A-8))のシクロペンタノン溶液を得た。
【0056】
実施例1乃至15及び比較例1乃至11(感光性樹脂組成物の調製)
表1乃至4に記載の配合量(単位は質量部)に従い、必須成分である(A)乃至(C)成分およびその他の任意成分を、攪拌機付きフラスコで60℃、2時間攪拌混合して本発明及び比較用の感光性樹脂組成物をそれぞれ得た。尚、合成例1で得られた(a-2)成分(多官能エポキシ樹脂の酸変性物(A-8))はシクロペンタンノン溶液であるが、組成に使用する際は、溶剤を揮発させた後、組成中の溶剤に再溶解させて使用した。表1に記載の配合量は固形分の質量を示している。
【0057】
表1乃至4における(A-1)乃至(F)はそれぞれ以下のとおりである。
(A-1):ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂(商品名:KM-N-LCL、日本化薬株式会社製、軟化点85℃、エポキシ当量:210g/eq.)
(A-2):ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂(商品名: NC-3000、日本化薬株式会社製、軟化点57℃、エポキシ当量276g/eq.)
(A-3):クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(商品名:EOCN-104S、日本化薬株式会社製、軟化点90℃、エポキシ当量220g/eq.)
(A-4):トリスフェノールメタン型エポキシ樹脂(商品名:EPPN-502、日本化薬株式会社製、軟化点65℃、エポキシ当量170g/eq.)
(A-5):三官能エポキシ樹脂(商品名:NC-6300H、日本化薬株式会社製、軟化点65℃、エポキシ当量210g/eq.)
(A-6):脂環式エポキシ樹脂(商品名:DE-102、ENEOS株式会社製、軟化点:86℃、ポキシ当量107g/eq.)
(A-7):ビスフェノールF型エポキシ樹脂(商品名:JER-4007P、日本化薬株式会社製、軟化点108℃、エポキシ当量:2500g/eq.)
(A-8):合成例1で得られた多官能エポキシ樹脂の酸変性物(A-8)(軟化点:70℃)
(A-9):液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名:RE-310S、日本化薬株式会社製、エポキシ当量180g/eq.)
(A-10):フェノールノボラック型エポキシ樹脂(商品名:RE-305S、日本化薬株式会社製、エポキシ当量173g/eq.)
(A-11):液状トリアジン型エポキシ樹脂(商品名:TEPIC-VL、日産化学株式会社製、エポキシ当量190g/eq.)
(A-12):液状脂肪族エポキシ樹脂(商品名:EX-321L、ナガセケムテックス株式会社製、エポキシ当量130g/eq.)
(A-13):液状オキセタン樹脂(商品名:OXT-221、東亜合成株式会社製、オキセタン当量105g/eq.)
(A-14):脂環式エポキシ樹脂(商品名:液状セロキサイド2021P、ダイセル株式会社製、エポキシ当量130g/eq.)
(A-15):液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂(商品名:YDF-8170C 日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、エポキシ当量170g/eq.)
(B-1):商品名:Irgcure290、BASF社製
(C-1):トリフェニルホスフィンオキサイド(商品名:TPPO、北興化学株式会社製)
(C-2):ヒンダートアミン系化合物(商品名:Tinuvin770 DF、BASF社製)
(C-3):弱酸発生型光カチオン重合開始剤(商品名:SP-152、株式会社ADEKA製)
(C-4):弱酸発生型光カチオン重合開始剤(商品名:CPI-300CS、サンアプロ株式会社製)
(D):カップリング剤(商品名:S-510、JNC株式会社製)
(E):レベリング剤(商品名:フタージェント222F、株式会社ネオス製)
(F):溶剤(商品名:2-ブタノン、純正化学株式会社製)
【0058】
(感光性樹脂層の塗布、乾燥、露光、現像)
実施例1乃至15及び比較例1乃至11で得られた各感光性樹脂組成物を、シリコンウエハ上にスピンコーターで塗布後、溶剤を乾燥し、20μmの感光性樹脂組成物層を得た。この感光性樹脂組成物層をホットプレートにより65℃で4分間プリベークした。その後、i線露光装置(マスクアライナー:ウシオ電機社製)を用いてパターン露光(ソフトコンタクト、i線)を行い、ホットプレートにより95℃で6分間の露光後ベークを行い、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを用いて浸漬法により23℃で5分間現像処理を行って、基板(シリコンウエハ)上に硬化した樹脂パターンを得た。
【0059】
(感光性樹脂組成物の解像性評価)
上記のシリコン(Si)ウエハ基板上でのパターン露光において、ラインアンドスペースが1:1で残渣なく解像されたレジストパターン中、基板へ密着している最も細いパターンの幅を顕微鏡で確認し、下記の評価基準で感光性樹脂組成物の解像性を評価した。結果を表1乃至4に示した。
評価基準
○(良好):最も細いパターン幅が10μm以下
×(不良):最も細いパターン幅が10μmを超えていた、又はパターンが形成されていなかった
【0060】
(感光性樹脂組成物のSiへの密着力評価)
ここでいう密着力とは、シェアツールを用いてパターン側面部から力を加え、基板からパターンが剥離した時点でのシェア強度(せん断強度)である。この値が高い方が基板と樹脂組成物との密着力が高く、好ましい。具体的には、シリコンウエハ基板上に、上記で確認した最適露光量で100μm×100μm(膜厚は20μm)のブロック状のレジストパターンを形成し、ボンディングテスター(レスカ社製)を使用し、100μmのシェアツールを用いて50μm/secの速さで基板からの高さ3μmの位置に横方向から負荷を与えた時の破壊荷重を計測し、下記の評価基準で密着力を評価した。結果を表1乃至4に示した。
評価基準
○:密着力が45gf以上
×:密着力が45gf未満
【0061】
(感光性樹脂組成物の結露試験)
6インチシリコンウエハを用いて、実施例1乃至15及び比較例1乃至11で得られた各感光性樹脂組成物について、上記と同様のパターニングを行なった。但し、このとき、幅1mmのラインでフレーム状に囲い、縦3mm、横3mmのスペースが作製できるよう格子状のフォトマスクを使用した。パターニング後、被着体として厚さ300μmの6インチテンパックスガラスウエハ(ショット日本株式会社製)基板をパターン上に加熱圧着(加熱圧着条件:150℃、10kN、3分間)により貼りあわせ、キャビティ部を有する結露試験評価用サンプルを得た。このサンプルを180℃で1時間対流式オーブンを用いて加熱硬化し、評価用サンプルを作製した。得られたサンプルに、260℃のホットプレート上で3分間加熱する工程と23℃の水冷クーリングプレート上で2分間冷却する工程とを1セットとするヒートサイクル試験を10セット繰り返した後、キャビティ内のガラス基板面に発生した結露の有無を顕微鏡で確認し、下記の評価基準で評価した。結果を表1乃至4に示した。
評価基準
○:結露が見られない
×:結露が見られた
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
表1乃至4の結果から、本発明の感光性樹脂組成物(実施例1乃至15)は比較例1乃至11の感光性樹脂組成物に比べてレジストの解像性、Si基板への密着力、結露防止効果の全てにおいて優れていることは明らかである。
本発明の感光性樹脂組成物は、基板に対して密着性の高いパターンが形成可能であり、かつ結露防止効果が高いことから、特にMEMS部品、MEMSパッケージ部品および半導体パッケージ等の分野で、リフロー試験等の耐久試験に強い樹脂成型物を提供できる。