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特開2024-65377車両用前照灯の制御装置、車両用前照灯の制御方法、車両用前照灯システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065377
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】車両用前照灯の制御装置、車両用前照灯の制御方法、車両用前照灯システム
(51)【国際特許分類】
   B60Q 1/14 20060101AFI20240508BHJP
【FI】
B60Q1/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174214
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】貝住 泰昭
(72)【発明者】
【氏名】西村 将太
(72)【発明者】
【氏名】東海林 秀康
【テーマコード(参考)】
3K339
【Fターム(参考)】
3K339AA02
3K339BA01
3K339BA02
3K339BA21
3K339BA22
3K339CA01
3K339DA01
3K339DA05
3K339GB01
3K339HA01
3K339JA21
3K339KA06
3K339KA29
3K339LA06
3K339LA33
3K339LA34
3K339MA01
3K339MA07
3K339MC35
3K339MC36
3K339MC77
3K339MC90
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ADB制御時の眩惑を抑えつつロービームによる照明効果の向上を図ること。
【解決手段】車両用前照灯の動作を制御するための制御装置であって、車両の前方に対象物が存在する場合にはハイビームHBの照射範囲内に前記当該対象物の位置に応じた減光範囲NBを設定する可変配光オンモードを有し、ロービームLBの照射範囲内の一部範囲SGであって前記車両の車幅方向に平行な第1仮想基準線からその下方の所定位置までの一部分かつ前記ロービームLBの前記車幅方向の一部分である当該一部範囲SGの光度を、前記可変配光オンモードが設定された場合に第1光度に設定し、前記可変配光オンモードが設定されていない場合には前記第1光度よりも高い第2光度に設定し、前記減光範囲NBの設定結果及び前記特定範囲の前記光度の設定結果に基づいて前記車両用灯具を動作させるための制御信号を生成して前記車両用前照灯へ出力する、車両用前照灯の制御装置。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されてロービーム及び可変配光パターンのハイビームを照射可能な車両用前照灯の動作を制御するための制御装置であって、
前記車両の前方における対象物の検知結果に基づいて、当該対象物が存在する場合には前記ハイビームの照射範囲内に前記当該対象物の位置に応じた減光範囲を設定する可変配光オンモードを有しており、
前記ロービームの照射範囲内の一部範囲であって前記車両の車幅方向に平行な第1仮想基準線からその下方の所定位置までの一部分かつ前記ロービームの前記車幅方向の一部分である当該一部範囲の光度を、前記可変配光オンモードが設定された場合に第1光度に設定し、前記可変配光オンモードが設定されていない場合には前記第1光度よりも高い第2光度に設定し、
前記減光範囲の設定結果及び前記特定範囲の前記光度の設定結果に基づいて前記車両用灯具を動作させるための制御信号を生成して前記車両用前照灯へ出力する、
車両用前照灯の制御装置。
【請求項2】
前記一部範囲は、車高方向に平行であって前記車両の前方に想定される第2仮想基準線を挟んで隣接する2つの領域のうちの何れか一方の領域に設定される、
請求項1に記載の車両用前照灯の制御装置
【請求項3】
前記一部範囲は、前記車両の位置を基準とした角度で前記第1仮想基準線からその下方へ3°以内に設定される、
請求項1に記載の車両用前照灯の制御装置。
【請求項4】
前記一部範囲は、前記車両の位置を基準とした角度で前記第1仮想基準線からその下方へ2°以内に設定される、
請求項3に記載の車両用前照灯の制御装置。
【請求項5】
前記減光範囲が設定された場合に、前記一部範囲の上方であって前記車両の位置を基準とした角度で前記第1仮想基準線からその上方へ0.5°以内の所定位置における前記ロービームに起因する光の光度が1000カンデラ以下である、
請求項1に記載の車両用前照灯の制御装置。
【請求項6】
前記減光範囲が設定されていない場合に、前記一部範囲の上方であって前記車両の位置を基準とした角度で前記第1仮想基準線からその上方へ0.5°以内の所定位置における前記ロービームに起因する光の光度が1000カンデラより大きい、
請求項5に記載の車両用前照灯の制御装置。
【請求項7】
車両に搭載されてロービーム及び可変配光パターンのハイビームを照射可能な車両用前照灯の動作を制御するための制御方法であって、
コントローラが、対象物の検知結果に基づいて、当該対象物が存在する場合には前記ハイビームの照射範囲内に前記当該対象物の位置に応じた減光範囲を設定する可変配光オンモードを有しており、
前記コントローラが、前記ロービームの照射範囲内の一部範囲であって前記車両の車幅方向に平行な第1仮想基準線からその下方の所定位置までの一部分かつ前記ロービームの前記車幅方向の一部分である当該一部範囲の光度を、前記可変配光オンモードが設定された場合に第1光度に設定し、前記可変配光オンモードが設定されていない場合には前記第1光度よりも高い第2光度に設定すること、
前記コントローラが、前記減光範囲の設定結果及び前記特定範囲の前記光度の設定結果に基づいて前記車両用灯具を動作させるための制御信号を生成して前記車両用前照灯へ出力すること、
を含む、車両用前照灯の制御方法。
【請求項8】
請求項1に記載の制御装置と、
当該制御装置によって制御される前照灯と、
前記対象物を検知するセンサと、
を含む、車両用前照灯システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両用前照灯の制御装置、車両用前照灯の制御方法、車両用前照灯システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用前照灯の制御技術として、先行車や対向車、あるいは歩行者に対する眩惑を防止するためにこれらの対象物の存在する範囲においてハイビームを選択的に減光(ないし消灯)する可変配光制御が知られている。このような可変配光制御は、ADB(Adaptive Driving Beam)制御とも称される。特開2022-70295号公報(特許文献1)には、照射する光の配光パターンとその照射光軸を変化させることが可能なランプユニットを備えるヘッドランプと、カメラによって検出した対象物の位置情報に基づいてランプユニットを制御する制御手段を含み、制御手段は、対象物に対してランプユニットで光照射したときに生じるダークゾーンを検出する対象物検出部と、検出したダークゾーンに基づいてランプユニットの配光パターンと照射光軸を選択的に又は合一的に制御するランプ制御部を備える車両用ランプの制御装置が記載されている。
【0003】
ところで、上記した先行技術は、自車と先行車との車間距離が長くなりロービームのカットオフラインよりも上側に先行車が位置した際に、先行車の直後の領域にダークゾーンが生じることを防ぐことを目的としている。しかし、一般にロービームの明るさはカットオフラインの上方にて直ちにゼロとなるものではないので、例えばロービームによる照明効果をより高めようとするとカットオフラインより下方だけでなくカットオフラインより上方のある程度の範囲においても光度が高まってしまい、むしろ先行車に対するADB制御時において眩惑を生じる原因となる可能性もある。他方、このような眩惑の可能性を回避するためにロービーム全体の光度を下げることも好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-70295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示に係る具体的態様は、ADB制御時の眩惑を抑えつつロービームによる照明効果の向上を図ることを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]本開示に係る一態様の車両用前照灯の制御装置は、(a)車両に搭載されてロービーム及び可変配光パターンのハイビームを照射可能な車両用前照灯の動作を制御するための制御装置であって、(b)前記車両の前方における対象物の検知結果に基づいて、当該対象物が存在する場合には前記ハイビームの照射範囲内に前記当該対象物の位置に応じた減光範囲を設定する可変配光オンモードを有しており、(c)前記ロービームの照射範囲内の一部範囲であって前記車両の車幅方向に平行な第1仮想基準線からその下方の所定位置までの一部分かつ前記ロービームの前記車幅方向の一部分である当該一部範囲の光度を、前記可変配光オンモードが設定された場合に第1光度に設定し、前記可変配光オンモードが設定されていない場合には前記第1光度よりも高い第2光度に設定し、(d)前記減光範囲の設定結果及び前記特定範囲の前記光度の設定結果に基づいて前記車両用灯具を動作させるための制御信号を生成して前記車両用前照灯へ出力する、車両用前照灯の制御装置である。
[2]本開示に係る一態様の車両用前照灯の制御方法は、(a)車両に搭載されてロービーム及び可変配光パターンのハイビームを照射可能な車両用前照灯の動作を制御するための制御方法であって、(b)コントローラが、対象物の検知結果に基づいて、当該対象物が存在する場合には前記ハイビームの照射範囲内に前記当該対象物の位置に応じた減光範囲を設定する可変配光オンモードを有しており、(c)前記コントローラが、前記ロービームの照射範囲内の一部範囲であって前記車両の車幅方向に平行な第1仮想基準線からその下方の所定位置までの一部分かつ前記ロービームの前記車幅方向の一部分である当該一部範囲の光度を、前記可変配光オンモードが設定された場合に第1光度に設定し、前記可変配光オンモードが設定されていない場合には前記第1光度よりも高い第2光度に設定すること、(d)前記コントローラが、前記減光範囲の設定結果及び前記特定範囲の前記光度の設定結果に基づいて前記車両用灯具を動作させるための制御信号を生成して前記車両用前照灯へ出力すること、を含む、車両用前照灯の制御方法である。
[3]一態様の車両用前照灯システムは、前記[1]の制御装置と、当該制御装置によって制御される前照灯と、前記対象物を検知するセンサと、を含む、車両用前照灯システムである。
【0007】
上記構成によれば、ADB制御時の眩惑の可能性を抑えつつロービームによる照明効果の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1(A)は、一実施形態の車両用前照灯システムの構成を示すブロック図である。図1(B)は、前照灯の模式的な正面図である。
図2図2は、コンピュータシステムの構成例を示す図である。
図3図3(A)は、ロービーム、ハイビーム、ロービームの一部範囲を説明するための図である。図3(B)は、図3(A)からロービーム、ロービームの一部範囲を抜き出して示した図であり、図3(C)は、図3(A)からハイビームを抜き出して示した図である。
図4図4(A)は、ロービームの一部範囲に対する光照射の制御方法について説明するための図である。図4(B)は、変形実施例のロービームの一部範囲に対する光照射の制御方法について説明するための図である。
図5図5(A)は、図3(B)に示すa-a線方向における照射光の断面光度分布を示す図である。また、図5(B)は、図5(A)に示す鉛直方向角度0°付近(図中点線枠で示す)の拡大図である。
図6図6は、比較例の照射光の断面光度分布を示す図である。
図7図7は、比較例の照射光の断面光度分布を示す図である。
図8図8は、車両用前照灯システムにおけるコントローラの動作手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1(A)は、一実施形態の車両用前照灯システムの構成を示すブロック図である。本実施形態の車両用前照灯システムは、コントローラ1、対象物検知センサ2、一対の前照灯3L、3Rを含んで構成されている。本実施形態では、コントローラ1が「制御装置」に対応し、このコントローラ1によって各前照灯3L、3Rを制御する方法が「制御方法」に対応する。
【0010】
コントローラ1は、対象物検知センサ2、各前照灯3L、3Rと接続されており、車両検知センサ2による対象物の検知結果などに応じて各前照灯3L、3Rによる光照射を制御するものである。このコントローラ1は、例えばプロセッサ(CPU:Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の記憶デバイス、入出力インターフェースなどを備えたコンピュータシステム(後述の図2参照)を用いて構成することができる。本実施形態のコントローラ1は、予め記憶デバイス(あるいはROM)に記憶されたプログラムがプロセッサによって読み出されて実行されることにより、所定の機能を発揮できる状態となる。
【0011】
対象物検知センサ2は、先行車ないし対向車、歩行者、自転車などの対象物を検知してその位置、大きさ、種別などの情報をコントローラ1へ供給する。対象物検知センサ2としては、例えば車両前方をカメラにより撮影してその画像データに対して画像解析をすることによって対象物を検知するセンサを用いることができる。あるいは、近赤外光などの光を対象物に照射してその反射光を光センサで検出することにより対象物を検知するLiDAR(Light Detection And Ranging)などを用いてもよいし、数十GHz~数百GHzの周波数の電波を対象物に照射してその反射波を検出することにより対象物を検出するミリ波レーダーを用いてもよい。
【0012】
前照灯3L、3Rは、車両前部の左右の所定位置に設置されており、コントローラ1から与えられる制御信号に基づいて動作して車両前方へ光を照射する。各前照灯3L、3Rは、それぞれ、第1ユニット31、第2ユニット32を備える。図1(B)に前照灯3Lの模式的な正面図を例示するように、第1ユニット31と第2ユニット32は別体に設けられており、筐体内に設置されている。前照灯3Rは前照灯3Lと左右対称であるので図示を省略する。なお、第1ユニット31と第2ユニット32は一体に構成されていてもよい。
【0013】
第1ユニット31は、主に車両から相対的に近い前方領域へ照射するための光であるロービームと、主に車両から相対的に遠い前方領域へ照射するための光であるハイビームを形成する。本実施形態では、ハイビームの照射については上記した可変配光制御(ADB制御)が行われる。具体的には、例えばハイビームの全照射可能範囲内において、先行車や対向車が存在する範囲については減光する範囲とし、それ以外の範囲については光を照射する範囲としてハイビームの照射が実行される。なお、本実施形態における「減光」の概念には、通常のハイビームよりも相対的に光度を低く設定する場合のほか、光度を0にすることも含まれるものとする。なお、このADB制御はスイッチのオン、オフ等により、ADB制御が行われる可変配光オンモードとADB制御が行われない可変配光オフモードの選択が可能とされている。
【0014】
上記のような可変配光パターンによるハイビームを照射可能な第1ユニット31としては、例えば二方向に配列された複数の発光ダイオード(Light Emitting Diode)を有し、各発光ダイオードの点消灯を個別に制御可能なユニットを用いることができる。また、第1ユニット31としては、光源バルブと反射鏡や遮蔽板を組み合わせた構成のユニットを用いてもよいし、各画素の光透過状態を個別に制御可能な液晶素子と光源を組み合わせた構成のユニットを用いてもよいし、レーザダイオードなどの半導体レーザの点消灯のタイミングと走査素子による走査タイミングを制御可能なユニットを用いてもよい。さらに、各々が異なる固定配光を照射可能な複数の灯具を組み合わせた構成のユニットを用いてもよい。
【0015】
第2ユニット32は、第1ユニット31によって照射されるロービームの照射範囲内に設定される一部範囲に重ねて照射するための光を出射する。一部範囲の具体的な位置については後述する。第2ユニット32としては、例えば、個別に点消灯を制御可能ないくつかの発光ダイオードを有するユニットを用いることができる。
【0016】
上記したコントローラ1がプログラムを実行することによって実現される機能を機能ブロックにより説明する。コントローラ1は、配光パターン設定部11、減光設定部12、制御信号生成部13を含んで構成されている。
【0017】
配光パターン設定部11は、対象物検知センサ2による対象物の検知結果に基づいてハイビームの全照射可能範囲内における配光パターンを可変に設定し、当該設定内容を制御信号生成部13へ出力する。配光パターンには光照射範囲と減光範囲が含まれる。上記のように、例えば先行車や対向車の位置を含む所定範囲が減光範囲として設定され、それ以外の範囲が光照射範囲として設定される。
【0018】
減光設定部12は、配光パターン設定部11により設定される配光パターンに含まれる減光範囲に応じて、上記したロービームの照射範囲内の一部範囲(第2ユニット32により光が照射される領域)についての減光の要否並びにその範囲を設定する。具体的には、減光設定部12は、配光パターンにおける減光範囲と上記したロービームの一部範囲がそれぞれの幅方向において部分的に一致する場合に、一部範囲について減光をする旨を設定するとともに、幅方向において減光範囲と略一致する範囲を減光すべき範囲として設定する。なお、「略一致」としているのは完全な一致が難しいためであり、例えば減光範囲に対して±10%の誤差範囲で一致する場合には「略一致」とみなすことができる。
【0019】
制御信号生成部13は、配光パターン設定部11によって設定される照射パターンを実現するための制御信号を生成し、当該制御信号を第1ユニット31へ出力する。また、制御信号生成部13は、減光設定部12によって設定される減光の要否並びにその範囲に応じた制御信号を生成し、当該制御信号を第2ユニット32へ出力する。
【0020】
図2は、コンピュータシステムの構成例を示す図である。上記したコントローラ10は、例えば図示のようなコンピュータシステムを用いて構成することが可能である。CPU(中央演算ユニット)201は、記憶デバイス204に格納されたプログラム207を読み出してこれを実行することにより情報処理を行う。ROM(読み出し専用メモリ)202は、CPU201の動作に必要な基本制御プログラムなどを格納する。RAM(一時記憶メモリ)203は、CPU201の情報処理に必要なデータを一時記憶する。記憶デバイス204は、データを記憶するための大容量記憶装置であり、ハードディスクドライブやソリッドステートドライブなどで構成される。通信デバイス205は、外部の他装置との間でのデータ通信に係る処理を行う。入出力部206は、外部装置との接続を図るインターフェースである。CPU201等の相互間はバスにより相互に通信可能に接続されている。
【0021】
図3(A)は、ロービーム、ハイビーム、ロービームの一部範囲を説明するための図である。図3(B)は、図3(A)からロービーム、ロービームの一部範囲を抜き出して示した図であり、図3(C)は、図3(A)からハイビームを抜き出して示した図である。各図では、車両前方の所定位置(例えば25mの位置)において鉛直方向に想定される仮想スクリーン上でのロービーム等の主な照射範囲が示されている。図中、横方向に延びる直線で示されたH線は水平方向の基準線(すなわち車幅方向の第1仮想基準線)を示し、縦方向に延びる直線で示されたV線は鉛直方向の基準線(すなわち車高方向の第2仮想基準線)を示す。なお、本実施形態では交通法規がいわゆる「右側通行」に規定されている場合のロービーム等の照射範囲を想定しているが、交通法規がいわゆる「左側通行」に規定されている場合には左右反転した照射範囲となる。
【0022】
ロービームLBは、V線より図中右側の一部の上端がほぼH線と接しており、V線より図中左側の上端がH線よりも下側においてほぼ直線状に位置しており、上端右側と上端左側との間はV線と斜めに交差しており、全体としてH線よりも下方において幅広に形成される。なお、図示されるロービームLBの範囲は、ロービームの主たる照射範囲である。実際には、ロービームLBは、図示される範囲の外側にかけて徐々に光度が低下しながら照射されている。
【0023】
ロービームLB内の一部範囲SGは、V線を挟んで隣接する図中左右の各領域のうち、少なくとも図中の右側領域においてV線に近い位置から遠い位置にかけての所定幅の一部分として設けられている。また、一部範囲SGは、H線からそれよりも下方に所定高さdの一部分として設けられている。高さdは、例えば車両を基準とした角度でH線からその下方へ3°以内の範囲とすることが好ましく、1°~2°以内の範囲で設けることがさらに好ましい。なお、V線を挟んだ左側領域にも同様にして一部範囲SGを設けてもよい。
【0024】
ハイビームHBは、概ね、H線の上方においてV線の左右に渡る範囲に幅広に形成される。詳細には、ハイビームHBは、その下端がH線よりわずかに下方まで渡るように形成されており、当該下端側が部分的にロービームLBの上端側と重なるように形成される。また、ハイビームHBは、図示の点線で示す全照射可能範囲内で、少なくとも幅方向(H線と平行な方向)において減光範囲を可変に設定することができる。なお、幅方向に加えて上下方向(V線と平行な方向)においても減光範囲を可変に設定できるように構成されていてもよい。
【0025】
図4(A)は、ロービームの一部範囲に対する光照射の制御方法について説明するための図である。本実施形態では、先行車などの位置に応じて配光パターン設定部11により減光範囲が設定された配光パターンによってハイビームHBが照射される。それにより、図示のようにハイビームHBの照射可能範囲内において減光範囲NBが設けられる。上記の通り、この減光範囲NBは、それ以外のハイビームHBの照射範囲よりも減光された範囲である。このとき、減光設定部12は、一部範囲SGがその幅方向において少なくとも一部で減光範囲HBと重複している場合には、第2ユニット32による一部範囲SGへの照射光を減光するように設定する。
【0026】
なお、図4(B)に例示するように、減光範囲NBの幅に応じて、一部範囲SGの幅を可変に設定することも好ましい。他方で、一部範囲SGの幅や位置については固定とし、一部範囲SGがその幅方向において少なくとも一部で減光範囲NBと重複する場合には、固定的に設定された一部範囲SGの全体を減光してもよい。
【0027】
本実施形態のロービームLBは、第1ユニット31による照射光と第2ユニット32による一部範囲SGへの照射光を合わせた全体として光度が設定されているので、一部範囲SGへの照射光が減光された場合にはその範囲での光度が低下する。すなわち、減光範囲NBのうちH線から少し上方の位置PにおいてロービームLBに起因して生じる光による光度は、一部範囲SGへの照射光の光度に応じて増減することになる。本実施形態における位置Pとしては、車両を基準とした角度でH線の上方に0.5°以内の位置(例えば0.15°の位置)であり、V線の片側(本例では右側)の位置が想定されている。
【0028】
減光範囲NBに応じて一部範囲SGへの照射光を減光することで、位置PにおけるロービームLBによる光度が低下するので、減光範囲NBにおける眩惑の可能性を低減することができる。他方で、減光範囲NBが一部範囲SGと重複しない場合においては一部範囲SGへの光照射が行われることでロービームとして必要十分な光照射がなされるので、前方視認性の低下を防ぐことができる。
【0029】
図5(A)は、図3(B)に示すa-a線方向における照射光の断面光度分布を示す図である。また、図5(B)は、図5(A)に示す鉛直方向角度0°付近(図中点線枠で示す)の拡大図である。なお、a-a線は図4(A)に示した位置Pを通るものである。
【0030】
各図に示す光度分布曲線b1は、一部範囲SGへの光照射が行われている場合のロービームLBによる光度分布を示している。図示のように、鉛直方向角度0.7°付近で最大光度として約45000[cd]を示している。また、拡大図に示すように、鉛直方向角度0°よりも少し大きい位置においても比較的高い光度が得られている。すなわち、一部範囲SGと減光範囲NBとが上下方向で重複しない場合においては前方視認性を確保するに必要な光量が得られている。
【0031】
光度分布曲線b2は、一部範囲SGへの光照射が行われていない場合のロービームLBによる光度分布を示している。図示のように、鉛直方向角度0.7°付近での最大光度は約27500[cd]になるが、拡大図に示すように、鉛直方向角度0°よりも少し大きい位置における光度を大幅に低下させることができている。すなわち、一部範囲SGと減光範囲NBとが上下方向で重複する場合においては、鉛直方向角度0°より大きい範囲、すなわちH線より上方の位置における光度を低下させて眩惑を防ぐことができる。この場合、減光範囲NBが設定された場合にはADB制御での減光制御として求められる明るさに抑えることが可能である。
【0032】
図5(B)の拡大図に示すように、例えば位置PをH線から上方に0.15°の位置とした場合に、一部範囲SGへの光照射が行われない場合の位置Pでの光度が1000[cd]以下となり、一部範囲SGへの光照射が行われる場合の位置Pでの光度が1000[cd]よりも大きいものとなるように一部範囲SGへの照射光とロービームLBのそれぞれの光度分布が設定されることが好ましい。それにより、一部範囲SGと重複する減光範囲NBを設定した場合の眩惑防止と、減光範囲NBを設定しない場合の前方視認性とをより良好に両立させることができる。
【0033】
これに対して、図6に示す比較例のように従前のロービームにおいて前方視認性の確保を重視した光度分布とした場合には、その光度分布が固定的であるので減光範囲NBを設定した際の眩惑を生じる可能性がある。他方で、図7に示す比較例のように従前のロービームにおいて眩惑の抑制を重視した光度分布とした場合には、その光度分布が固定的であるので、ロービームのみでの配光としては前方視認性の低下を招く可能性がある。
【0034】
図8は、車両用前照灯システムにおけるコントローラの動作手順を示すフローチャートである。なお、情報処理の結果に矛盾や不整合を生じない限りにおいて、処理順序を入れ替えることや、他の処理を追加することも可能であり、そのような態様も排除されない。
【0035】
コントローラ1の配光パターン設定部11は、車両に備わったランプスイッチ(図示省略)が操作されてヘッドランプの点灯が指示され(ステップS11;YES)、さらに、ADB制御を実施するモードをオンにする操作がされて可変配光オンモードとなっている場合には(ステップS12;YES)、対象物検知センサ2によって検出される前方車両(先行車、対向車)の位置に応じた配光パターンを設定する(ステップS13)。
【0036】
また、減光設定部12は、配光パターン設定部11によって設定された配光パターンに含まれる減光範囲NBが一部範囲SGと重複する場合には(ステップS14;YES)、一部範囲SGを第1光度(減光に対応する光度)に設定する(ステップS15)。
【0037】
他方、減光範囲NBが一部範囲SGと重複しない場合には(ステップS14;NO)、減光設定部は、一部範囲SGを第2光度(非減光の通常光度)に設定する(ステップS16)。
【0038】
制御信号生成部13は、配光パターン設定部11及び減光設定部12の各設定結果に応じた制御信号を生成し、各前照灯3L、3Rへ出力する(ステップS17)。制御信号を受けて動作した各前照灯3L、3Rによって、ロービームLB及びハイビームHBが形成されて車両前方へ照射される。また、一部範囲SGの明るさが増減する。その後、ステップS11へ戻る。
【0039】
なお、ランプスイッチが操作されておらずヘッドランプの点灯が指示されていない場合には(ステップS11;NO)、ステップS11の判断が繰り返される。ランプスイッチが操作されてヘッドランプの点灯が指示された後、消灯が指示された場合も同様である。また、ADB制御を実施するモードがオフとされた可変配光オフモードである場合には(ステップS12;NO)、ADB制御は実施されずにステップS11へ戻る。この場合には、単にハイビームとロービームが各前照灯3L、3Rによって形成されて車両前方へ照射される。
【0040】
以上のような実施形態によれば、ADB制御時の眩惑の可能性を抑えつつロービームによる照明効果の向上を図ることが可能となる。
【0041】
なお、本開示は上記した実施形態の内容に限定されるものではなく、本開示の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。例えば、上記実施形態では、減光設定部12により減光範囲NBが一部範囲SGの少なくとも一部と重複する場合に一部範囲SGを第1光度に設定するものとしたが、これに代えて、ADB制御をオン、オフするスイッチ等が操作されて可変配光オンモードとなっている場合には、減光範囲NBと一部範囲SGとの位置関係によらずに減光設定部12により一部範囲SGを第1光度(減光)とし、可変配光オンモードになっていない場合には減光設定部12により一部範囲SGを第2光度とするように制御することもできる。このような実施形態によれば、減光範囲NBと一部範囲SGとを関係付ける制御なしに、上記と同様な効果を奏するものとなる。
【0042】
本開示は、以下に付記する特徴を有する。
(付記1)
車両に搭載されてロービーム及び可変配光パターンのハイビームを照射可能な車両用前照灯の動作を制御するための制御装置であって、
前記車両の前方における対象物の検知結果に基づいて、当該対象物が存在する場合には前記ハイビームの照射範囲内に前記当該対象物の位置に応じた減光範囲を設定する可変配光オンモードを有しており、
前記ロービームの照射範囲内の一部範囲であって前記車両の車幅方向に平行な第1仮想基準線からその下方の所定位置までの一部分かつ前記ロービームの前記車幅方向の一部分である当該一部範囲の光度を、前記可変配光オンモードが設定された場合に第1光度に設定し、前記可変配光オンモードが設定されていない場合には前記第1光度よりも高い第2光度に設定し、
前記減光範囲の設定結果及び前記特定範囲の前記光度の設定結果に基づいて前記車両用灯具を動作させるための制御信号を生成して前記車両用前照灯へ出力する、
車両用前照灯の制御装置。
(付記2)
前記一部範囲は、車高方向に平行であって前記車両の前方に想定される第2仮想基準線を挟んで隣接する2つの領域のうちの何れか一方の領域に設定される、
付記1に記載の車両用前照灯の制御装置
(付記3)
前記一部範囲は、前記車両の位置を基準とした角度で前記第1仮想基準線からその下方へ3°以内に設定される、
付記1又は2に記載の車両用前照灯の制御装置。
(付記4)
前記一部範囲は、前記車両の位置を基準とした角度で前記第1仮想基準線からその下方へ2°以内に設定される、
付記1~3の何れか1項に記載の車両用前照灯の制御装置。
(付記5)
前記減光範囲が設定された場合に、前記一部範囲の上方であって前記車両の位置を基準とした角度で前記第1仮想基準線からその上方へ0.5°以内の所定位置における前記ロービームに起因する光の光度が1000カンデラ以下である、
付記1~4の何れか1項に記載の車両用前照灯の制御装置。
(付記6)
前記減光範囲が設定されていない場合に、前記一部範囲の上方であって前記車両の位置を基準とした角度で前記第1仮想基準線からその上方へ0.5°以内の所定位置における前記ロービームに起因する光の光度が1000カンデラより大きい、
付記5に記載の車両用前照灯の制御装置。
(付記7)
前記一部範囲の位置は、固定的に設定されており、
前記一部範囲の光度は、前記減光範囲が設定され、かつ当該減光範囲と前記一部範囲の各々の前記第1仮想基準線に沿った方向での位置が重複する場合に、前記第1光度に設定される、
付記1~6の何れか1項に記載の車両用前照灯の制御装置。
(付記8)
車両に搭載されてロービーム及び可変配光パターンのハイビームを照射可能な車両用前照灯の動作を制御するための制御方法であって、
コントローラが、対象物の検知結果に基づいて、当該対象物が存在する場合には前記ハイビームの照射範囲内に前記当該対象物の位置に応じた減光範囲を設定する可変配光オンモードを有し、
前記コントローラが、前記ロービームの照射範囲内の一部範囲であって前記車両の車幅方向に平行な第1仮想基準線からその下方の所定位置までの一部分かつ前記ロービームの前記車幅方向の一部分である当該一部範囲の光度を、前記可変配光オンモードが設定された場合に第1光度に設定し、前記可変配光オンモードが設定されていない場合には前記第1光度よりも高い第2光度に設定すること、
前記コントローラが、前記減光範囲の設定結果及び前記特定範囲の前記光度の設定結果に基づいて前記車両用灯具を動作させるための制御信号を生成して前記車両用前照灯へ出力すること、
を含む、車両用前照灯の制御方法。
(付記9)
付記1~7の何れか1項に記載の制御装置と、
当該制御装置によって制御される前照灯と、
前記対象物を検知するセンサと、
を含む、車両用前照灯システム。
【符号の説明】
【0043】
1:コントローラ、2:対象物検知センサ、3L、3R:前照灯、11:配光パターン設定部、12:減光設定部、13:制御信号生成部、31:第1ユニット、32:第2ユニット
図1
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