IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ニッペコの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065387
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】グリース組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/02 20060101AFI20240508BHJP
   C10M 101/02 20060101ALN20240508BHJP
   C10M 107/02 20060101ALN20240508BHJP
   C10M 101/04 20060101ALN20240508BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20240508BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20240508BHJP
   C10N 30/02 20060101ALN20240508BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20240508BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20240508BHJP
【FI】
C10M169/02 ZAB
C10M101/02
C10M107/02
C10M101/04
C10N50:10
C10N30:00 Z
C10N30:02
C10N40:02
C10N40:04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174227
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】390022275
【氏名又は名称】株式会社ニッペコ
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100121049
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 正義
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 広夢
(72)【発明者】
【氏名】原 規公
(72)【発明者】
【氏名】雑賀 光哉
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA07A
4H104DA02A
4H104DA06A
4H104LA01
4H104LA20
4H104PA01
4H104PA02
4H104QA18
(57)【要約】
【課題】バイオマス由来の原料を用いて、消音性と低温作動性の双方を向上させたグリース組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のグリース組成物は、基油と増ちょう剤と、を含有するグリース組成物であって、さらに、バイオマス由来ポリマーを含む、ことを特徴とする。本発明では、前記バイオマス由来ポリマーは、前記グリース組成物中、0.2質量%以上3.0質量%以下含むことが好ましい。本発明では、前記基油は、バイオマス基油、鉱油、或いはPAOのうち、少なくともいずれか1種が選択されることが好ましい。本発明では、前記基油は、前記バイオマス基油からなることがより好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と増ちょう剤と、を含有するグリース組成物であって、
さらに、バイオマス由来ポリマーを含む、ことを特徴とするグリース組成物。
【請求項2】
前記バイオマス由来ポリマーは、前記グリース組成物中、0.2質量%以上3.0質量%以下含む、ことを特徴とする請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項3】
前記基油は、バイオマス基油、鉱油、或いはPAOのうち、少なくともいずれか1種が選択される、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のグリース組成物。
【請求項4】
前記基油は、前記バイオマス基油からなる、ことを特徴とする請求項3に記載のグリース組成物。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車部品や精密機械部品等に使用されるグリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車部品や精密機械部品等には、これらの摩擦・摩耗等を防ぐためにグリースが使用されている。また、高品質化の高まりなどにより、部品の消音化もグリースの性能として要望されている。例えば、特許文献1には、消音用グリース組成物に関する発明が開示されている。特許文献1では、消音性とともに低温作動性に優れるグリース組成物を提供できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5534386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、地球温暖化防止や枯渇資源である石油使用量低減の意識の高まりにより、従来の化石燃料由来の原料からカーボンニュートラルな植物由来等の原料への置き換えが望まれており、バイオマスの利用が注目されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の発明では、バイオマス由来の原料を用いて、消音性と低温作動性の双方を向上させたグリース組成物は開示されておらず示唆もされていない。
【0006】
本発明は、上記の現状を鑑みてなされたもので、バイオマス由来の原料を用いて、消音性と低温作動性の双方を向上させたグリース組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、基油と増ちょう剤と、を含有するグリース組成物であって、さらに、バイオマス由来ポリマーを含む、ことを特徴とする。
本発明では、前記バイオマス由来ポリマーは、前記グリース組成物中、0.2質量%以上3.0質量%以下含むことが好ましい。
【0008】
本発明では、前記基油は、バイオマス基油、鉱油、或いはPAOのうち、少なくともいずれか1種が選択されることが好ましい。
本発明では、前記基油は、前記バイオマス基油からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、バイオマス由来の原料を用いて、消音性と低温作動性の双方を向上させたグリース組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本実施の形態におけるグリース組成物について詳しく説明する。まずは、本実施の形態のグリース組成物に至るまでの経緯について説明する。
【0011】
<本実施の形態のグリース組成物に至るまでの経緯>
グリース組成物は、少なくとも基油及び増ちょう剤(基油を固めることのできる成分)を含み、例えば、ドアロック機構やウインドレギュレータ等の自動車部品に使用される。
【0012】
ところで、近年、地球温暖化防止や枯渇資源である石油使用量低減の意識の高まりにより、従来の化石燃料由来の原料からカーボンニュートラルな植物由来等の原料への置き換えが望まれている。例えば、植物由来等の生分解性基油を用いたグリース組成物が、国際公開第2019/172275号に開示されているが、生分解性は、エコフレンドリーであるものの、必ずしもカーボンニュートラルな材質ではない。すなわち、国際公開第2019/172275号は、カーボンニュートラルな材質を用いることを必須としていない。
【0013】
グリース組成物は、上記した自動車部品に対する高品質化として、消音性が求められており、また寒冷地などの使用にも適するように、-40℃程度の低温にも耐えうる低温作動性が求められる。しかしながら、国際公開第2019/172275号には、消音性及び低温作動性に優れる生分解性グリース及びカーボンニュートラルな材質を用いたグリースは開示されていない。
【0014】
また、特許文献1に記載の発明には、消音性と低温作動性に優れたグリース組成物が開示されているが、カーボンニュートラルな原料を用いて、消音性と低温作動性の双方を向上させてはいない。なお、特許文献1では、低温作動性実験として、-30℃の低温トルクを測定しているが、-40℃の低温環境下にて、特許文献1に記載された実施例1に相当するサンプルを用いて低温トルクを測定したところ、起動トルクが約700mN・m、回転トルクが約580mN・mであった。この数値は、後述する実験の実施例に比べて、低温作動性が非常に悪かった。
【0015】
<本実施の形態のグリース組成物の概要>
そこで、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、バイオマス由来の原料を用いて、消音性と低温作動性の双方を向上させたグリース組成物を提供するに至った。
【0016】
すなわち、本実施の形態のグリース組成物は、基油と増ちょう剤と、を含有するグリース組成物であって、さらに、バイオマス由来ポリマーを含む、ことを特徴とする。
【0017】
(基油)
本実施の形態における基油は、特に限定されるものではないが、バイオマス基油、鉱油、或いはPAOのうち、少なくともいずれか1種が選択されることが好ましい。バイオマス基油は、バイオマスを原料として、フィッシャー・トロプシュ(FT)反応を適用させて得ることができる。バイオマス原料としては、バイオマス由来の植物油、動物油等のバイオ燃料や、遊離脂肪酸等を提示できる。
【0018】
PAOは、合成油のポリ-α-オレフィン油を示す。また、鉱油は、限定されるものではないが、米国石油協会(American Petroleum Institute)分類におけるグループIII基油のパラフィン系鉱油あるいはナフテン系鉱油が好ましく使用される。
【0019】
基油の動粘度を限定するものでないが、動粘度は、10~150mm/s(40℃)程度であることが好ましく、10~120mm/s(40℃)であることがより好ましく、10~100mm/s(40℃)であることがさらに好ましく、10~50mm/s(40℃)であることが最も好ましい。なお、動粘度を低くすることで、低温トルクを低くできて好ましい。
【0020】
本実施の形態では、基油として、バイオマス基油を選択することがより好ましい。本実施の形態では、基油に2種類以上を添加でき、このとき少なくとも一方はバイオマス基油であり、該バイオマス基油は、グリース組成物中、50質量%以上を占めることが好ましい。なお、基油には、バイオマス基油のみ用いることができる。これにより、基油及びポリマーの双方にバイオマス由来の原料を用いることができ、より効果的に、炭素排出量の削減に貢献可能なグリース組成物を提供できる。
【0021】
(増ちょう剤)
本実施の形態のグリース組成物の増ちょう剤は、限定されるものでなく、例えば、用途などに応じて、当該技術分野で既知のものから、適宜選択することができる。例えば、金属石けんとして、リチウム石けん、リチウム複合石けん、カルシウム石けん、カルシウム複合石けん、アルミニウム石けん、及び、アルミニウム複合石けんからなる群から1種又は2種以上を選択することができる。また、非石けんとして、ウレア化合物、有機化ベントナイト、シリカゲル、及び、ポリテトラフルオロエチレンからなる群から1種又は2種以上を選択することができる。金属石けんと非石けんは、上記以外のものであってもよい。また、金属石けんと非石けんとを混合して使用することもできる。
【0022】
(バイオマス由来ポリマー)
本実施の形態のグリース組成物は、基油と増ちょう剤のほかに、バイオマス由来ポリマーを含むことが好ましい。
【0023】
バイオマス由来ポリマーは、バイオマス由来の原料からなるポリマー(樹脂)であり、限定されるものではないが、例えば、水添スチレン-ファルネセン共重合体から構成される。後述する実験では、バイオマス由来ポリマーに、水添スチレン-ファルネセン共重合体を用いている。
【0024】
バイオマス由来ポリマーは、グリース組成物中、0.2質量%以上3.0質量%以下含むことが好ましい。これにより、混和ちょう度が小さくなりすぎず、グリースとして適切に使用できるとともに、バイオマス由来ポリマーを含まないグリース組成物に比べて消音性を効果的に向上させることができる。また、バイオマス由来ポリマーは、グリース組成物中、0.3質量%以上3.0質量%以下含むことがより好ましく、0.4質量%以上3.0質量%以下含むことがさらに好ましく、0.45質量%以上3.0質量%以下含むことが最も好ましい。
【0025】
また、基油は、グリース組成物中、85質量%以上95質量%以下含まれることが好ましく、87質量%以上93質量%以下であることがより好ましい。また、増ちょう剤は、グリース組成物中、2質量%以上14.6質量%以下含まれることが好ましく、5質量%以上12質量%以下含まれることがより好ましい。グリース組成物は、基油、増ちょう剤及びバイオマス由来ポリマーの各含有量を合計し、或いは、基油、増ちょう剤、バイオマス由来ポリマー及び次に説明するその他の添加剤の各含有量を合計して100質量%となるように調製される。
【0026】
(その他)
本実施の形態のグリース組成物は、用途に応じて適宜、添加剤を含むことができる。添加剤としては、当該技術分野で既知の各種添加剤、例えば、酸化防止剤、腐食防止剤、防錆剤、極圧剤、固体潤滑剤、耐摩耗剤、増粘剤、油性剤、摩耗防止剤、構造安定剤、着色剤、洗浄分散剤、色相安定剤、金属不活性剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、或いは、界面活性剤、又は、その他の添加剤を含むことができる。これら添加剤を1種又は2種以上含むことができる。特に、高温環境での安定性を考慮し、酸化防止剤を使用する事が望ましい。なお、添加剤の添加量は多くて数質量%である。
【0027】
<カーボンニュートラル性>
本実施の形態におけるグリース組成物は、バイオマス由来ポリマーを含み、炭素排出量の削減に貢献できる。特に、基油にもバイオマス基油を用いることで、より効果的に、炭素排出量の削減に貢献できる。
【0028】
本実施の形態のグリース組成物は、生分解性に限らず、非生分解性であってもよいが、生分解性グリースであることが好ましい。
【0029】
<消音性>
本実施の形態のグリース組成物を用いることで、優れた消音性を得ることができるが、具体的には、以下のように評価される。
【0030】
すなわち、消音性を評価するため、鋼球落下試験、すなわち鋼板の表面にグリース組成物を塗布し、既定の高さから鋼球を落下させたときの音圧レベルを測定した。グリース塗布厚を、1.0mmとし、鋼板サイズを、80×60×1.2mmとし、鋼球の直径を、12.7mmとし、鋼球落下高さを、鋼板の表面から50mmとした。音圧レベルの測定機には、小野測器製 SOUND LEVEL METER LA-3560を使用し、このとき、マイクロフォンの高さを、鋼板の表面から50mmの位置に設定した。後述する実験によれば、本実施の形態のバイオマス由来ポリマーの代わりに、石油由来ポリマーを添加した比較例との対比において、1~2.5dB程度の消音効果を得ることができ、また、バイオマス由来ポリマーの含有量が多いほど優れた消音性を得ることができた。これは、バイオマス油来ポリマーが組成物中でクッションの役割を果たすためと推測でき、グリース粘度をそのまま変えずに消音性を効果的に高めることができる。
【0031】
<低温作動性>
本実施の形態のグリース組成物を用いることで、優れた低温作動性を得ることができるが、具体的には、以下のように評価される。
【0032】
すなわち、JIS K 2220 18に定められた低温トルク試験に基づいて、-40℃における起動トルク及び回転トルクを求めた。
【0033】
後述する実験によれば、本実施の形態のバイオマス由来ポリマーの代わりに、石油由来ポリマーを添加した比較例との対比において、同等以上の優れた低温作動性を得ることができるとわかった。また、本実施の形態のグリース組成物は、特許文献1に記載のグリース組成物に比べて、良好な低温作動性を得ることができる。
【0034】
<離油度>
本実施の形態のグリース組成物を用いることで、離油度を低い値に維持できるが、具体的には、以下のように評価される。
【0035】
すなわち、JIS K 2220 11に定められた離油度試験に基づいて、離油度を求めた。
【0036】
後述する実験によれば、グリース組成物中に、バイオマス由来ポリマーを添加することで、低い離油度に維持でき、特に、本実施の形態のバイオマス由来ポリマーの代わりに、石油由来ポリマーを添加した比較例との対比において、同じ含有量で比較すると、比較例とほぼ同等の低い離油度に保つことができた。また、バイオマス由来ポリマーの含有量を増やすことで、より効果的に、離油度を低くすることができた。このように、本実施の形態のグリース組成物の離油度を低くできることで、油を保持する能力が高く、グリース組成物からの滲み出しを適切に抑制することができる。
【0037】
<用途>
本実施の形態におけるグリース組成物は、炭素排出量の削減に貢献するとともに、低温環境下で使用される用途及び、部品の消音化用途に好ましく適用される。例えば、各種産業機械、自動車、家電製品、及び精密部品等に好ましく適用できる。この中でも特に、低温作動性を要求される自動車部品、精密機械部品等の摺動箇所に広く利用することができる。例えば、ドアロック機構、ウインドレギュレータ、シートレール、シートリフター、ラウンドリクライナー、ステアリング機構、ホイールハブ、等速ジョイントその他の自動車部品に利用されることが好ましい。自動車や精密機器では、例えば、-40℃という過酷な低温環境下においても、所望の低温作動性が求められる。
【0038】
本実施の形態のグリース組成物では、バイオマス由来ポリマーを含有することで、炭素排出量の削減に貢献し、消音性及び低温作動性を向上させることができる。このとき、基油もバイオマス基油とすることで、より一層、炭素排出量の削減を図ることができる。
【実施例0039】
以下、本発明を実施例により、更に詳しく説明する。ただし、本発明は、これらに何ら限定されるものではない。
【0040】
実施例及び比較例の配合を、以下の表1に示す。なお、表1に示す配合割合の数値の単位は、グリース組成物(100質量%)中に占める質量%である。
【0041】
また、バイオマス基油の動粘度は、19mm/s(40℃)、PAOの動粘度は、19mm/s(40℃)あるいは、112mm/s(40℃)、鉱油の動粘度は、19mm/s(40℃)であった。また、バイオマス基油には、バイオマス原料をFT反応させて得られる潤滑油を用いた。バイオマス基油の生分解率は、70%以上であった。また、バイオマス由来ポリマーには、セプトン(登録商標)BIOシリーズ SF902(株式会社クラレ製)を用いた。また、石油由来ポリマーには、セプトン(登録商標)1000シリーズ 1020(株式会社クラレ製)を用いた。Li石けんには、12-ヒドロキシステアリン酸リチウムを用いた。
【0042】
【表1】
【0043】
[実施例1]
グリース組成物中に含まれるバイオマス基油、Li石けん、バイオマス由来ポリマー及び、酸化防止剤が、表1に示す含有量となるように、各原料を加熱しながら混合・撹拌して、実施例1のグリース組成物を得た。
実施例1では、グリース組成物中に占める、バイオマス由来ポリマーの含有量は、0.45質量%であった。
【0044】
[実施例2]
グリース組成物中に含まれるバイオマス基油、Li石けん、バイオマス由来ポリマー及び、酸化防止剤が、表1に示す含有量となるように、各原料を加熱しながら混合・撹拌して、実施例2のグリース組成物を得た。
実施例2では、グリース組成物中に占める、バイオマス由来ポリマーの含有量は、1.05質量%であった。
【0045】
[実施例3]
グリース組成物中に含まれるバイオマス基油、Li石けん、バイオマス由来ポリマー及び、酸化防止剤が、表1に示す含有量となるように、各原料を加熱しながら混合・撹拌して、実施例3のグリース組成物を得た。
実施例3では、グリース組成物中に占める、バイオマス由来ポリマーの含有量は、3.00質量%であった。
【0046】
[実施例4]
グリース組成物中に含まれる鉱油(動粘度:19mm/s(40℃))、Li石けん、バイオマス由来ポリマー及び、酸化防止剤が、表1に示す含有量となるように、各原料を加熱しながら混合・撹拌して、実施例4のグリース組成物を得た。鉱油には、API分類によるGrIII鉱油を使用した。
実施例4では、グリース組成物中に占める、バイオマス由来ポリマーの含有量は、1.05質量%であった。
【0047】
[実施例5]
グリース組成物中に含まれるPAO(動粘度:19mm/s(40℃))、Li石けん、バイオマス由来ポリマー及び、酸化防止剤が、表1に示す含有量となるように、各原料を加熱しながら混合・撹拌して、実施例5のグリース組成物を得た。
実施例5では、グリース組成物中に占める、バイオマス由来ポリマーの含有量は、1.05質量%であった。
【0048】
[実施例6]
グリース組成物中に含まれるPAO(動粘度:112mm/s(40℃))、Li石けん、バイオマス由来ポリマー及び、酸化防止剤が、表1に示す含有量となるように、各原料を加熱しながら混合・撹拌して、実施例6のグリース組成物を得た。
実施例6では、グリース組成物中に占める、バイオマス由来ポリマーの含有量は、1.05質量%であった。
【0049】
[実施例7]
グリース組成物中に含まれるPAO(動粘度:19mm/s(40℃))、ウレア、バイオマス由来ポリマー及び、酸化防止剤が、表1に示す含有量となるように、各原料を加熱しながら混合・撹拌して、実施例7のグリース組成物を得た。ウレアには、シクロヘキシルアミンと4,4’-ジフェニルメタンジイソシアナートを反応させることで得られるジウレア化合物を用いた。
実施例7では、グリース組成物中に占める、バイオマス由来ポリマーの含有量は、1.05質量%であった。
[比較例1]
グリース組成物中に含まれるバイオマス基油、Li石けん、及び、酸化防止剤が、表1に示す含有量となるように、各原料を加熱しながら混合・撹拌して、比較例1のグリース組成物を得た。
比較例1のグリース組成物には、バイオマス由来ポリマー及び石油由来ポリマーは含有されていない。
【0050】
[比較例2]
グリース組成物中に含まれるバイオマス基油、Li石けん、石油由来ポリマー及び、酸化防止剤が、表1に示す含有量となるように、各原料を加熱しながら混合・撹拌して、比較例2のグリース組成物を得た。
比較例2では、グリース組成物中に占める、石油由来ポリマーの含有量は、0.45質量%であった。
【0051】
[比較例3]
グリース組成物中に含まれるバイオマス基油、Li石けん、石油由来ポリマー及び、酸化防止剤が、表1に示す含有量となるように、各原料を加熱しながら混合・撹拌して、比較例3のグリース組成物を得た。
比較例3では、グリース組成物中に占める、石油由来ポリマーの含有量は、1.05質量%であった。
【0052】
[比較例4]
グリース組成物中に含まれるバイオマス基油、Li石けん、石油由来ポリマー及び、酸化防止剤が、表1に示す含有量となるように、各原料を加熱しながら混合・撹拌して、比較例4のグリース組成物を得た。
比較例4では、グリース組成物中に占める、石油由来ポリマーの含有量は、3.00質量%であった。
【0053】
実施例1~7及び比較例1~4について、グリース組成物としての性能を評価するための試験を実施した。試験項目及び試験方法は、以下のとおりである。
【0054】
[混和ちょう度]
JIS K 2220 7に定められたちょう度試験方法に基づいて、混和ちょう度を測定した。
【0055】
[消音性]
消音性を評価するため、鋼球落下試験、つまり鋼板にグリースを塗布し、規定の高さから鋼球を落下させた時の音圧レベルを測定した。試験条件は以下のとおりである。
試験条件
グリース塗布厚:1.0mm
鋼板サイズ:80×60×1.2mm
鋼球直径:12.7mm
鋼球落下高さ:鋼板より50mm
マイクロフォン高さ:鋼板より50mm
測定機:小野測器製 SOUND LEVEL METER LA-3560
【0056】
[低温トルク]
JIS K 2220 18に定められた低温トルク試験方法に基づいて、-40℃における起動トルク及び回転トルクを測定した。
【0057】
[離油度]
JIS K 2220 11に定められた離油度試験方法に基づいて、離油度を測定した。
【0058】
表1の測定結果に示すように、バイオマス由来ポリマーを含有した実施例1~7は、80.6dB以下の消音性を得ることができ、また、低温トルクも低く抑えることができるとわかった。
【0059】
消音性について考察すると、基油の種類を変え、バイオマス由来ポリマーの含有量を同じにした実施例2、4~6では、ほぼ同じ消音性を得ることができた。
【0060】
また、基油の種類を同じにしてバイオマス由来ポリマーの含有量を変化させた実施例1~3では、基油の種類は同じだがバイオマス由来ポリマーを含まない比較例1に比べて、いずれも優れた消音性を得ることができた。また、バイオマス由来ポリマーの含有量を増やすことで、優れた消音性を得ることができるとわかった。このことから、バイオマス由来ポリマーは、グリース組成物中でクッション性を有し消音性向上に役立つことがわかった。
【0061】
また、実施例1~3と、実施例1~3と同じ基油及びポリマー含有量にした比較例2~4とを対比すると、実施例1~3では、比較例2~4と同等以上の消音性を得ることができるとわかった。
【0062】
次に、低温トルクについて考察すると、バイオマス由来ポリマーの含有量及び増ちょう剤は同じで基油の種類を変えた実施例2、4~6では、起動トルクを約220mN・m以下にでき、かつ回転トルクを約70mN・m以下にできることがわかった。この実験から基油としては、バイオマス基油あるいはPAOを選択することが好ましいとわかった。また、実施例5と実施例6では、PAOの動粘度が異なり、低温トルクについて考察すると、PAOの動粘度が低い実施例5のほうがPAOの動粘度が高い実施例6よりも優れていた。なお、実施例6の低温トルクにおいても特許文献1のグリース組成物より優れた低温作動性を得ることができる。このことから、基油にPAOを使用する場合、動粘度の範囲は、実施例5、6の双方を含む10~150mm/s(40℃)程度であることが好ましく、実施例5、6の双方を含む10~120mm/s(40℃)であることがより好ましく、実施例5を含む10~100mm/s(40℃)であることがさらに好ましく、実施例5を含む10~50mm/s(40℃)であることが最も好ましいとした。
【0063】
また、実施例7は、Li石けんに代えてウレアを使用したグリース組成物であるが、このグリース組成物においても消音性が優れるとともに、特許文献1に記載のグリース組成物より優れた低温作動性を得ることができた。ただし、実施例7とバイオマス由来ポリマーの含有量及び基油が同じ実施例5とを対比すると、消音性はほぼ同じであるが、低温トルクは実施例7のほうが高くなっているため、ウレアよりLi石けんを用いることが好ましいとわかった。
【0064】
また、基油の種類を同じにしてバイオマス由来ポリマーの含有量を変化させた実施例1~3では、ポリマー量を増やしても良好な低温作動性を保てることがわかった。
【0065】
また、実施例1~3と、実施例1~3と同じ基油及びポリマー含有量にした比較例2~4とを対比すると、実施例1~3では、比較例2~4と同等以上の低温作動性を得ることができるとわかった。
【0066】
離油度について考察すると、基油の種類を同じにしてバイオマス由来ポリマーの含有量を変化させた実施例1~3では、ポリマー含有量を増やすことで、離油度を低下させることができ良好な結果が得られることがわかった。このことから、バイオマス由来ポリマーは、バイオマス由来離油防止ポリマーと称することもできる。
【0067】
また、基油の種類及びポリマー含有量を同じとした実施例1~3と比較例2~4とを対比すると、ほぼ同等の結果が得られた。
【0068】
以上から、本実施例のグリース組成物では、消音性、低温作動性及び離油度の各特性が、比較例と対比して、いずれも同等あるいは優れた結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明に関わるグリース組成物は、低温環境下で使用される各種産業機械、自動車、家電製品、精密部品等、特に低温作動性を要求される自動車部品、精密機械部品等の摺動箇所に広く利用することが可能である。