IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社トクヤマデンタルの特許一覧

特開2024-65389ポリウレタン系複合材料の製造方法、該製造方法によって得られるポリウレタン系複合材料、および歯科切削加工用材料の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065389
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】ポリウレタン系複合材料の製造方法、該製造方法によって得られるポリウレタン系複合材料、および歯科切削加工用材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/893 20200101AFI20240508BHJP
   C08G 18/08 20060101ALI20240508BHJP
   C08G 18/67 20060101ALI20240508BHJP
   C08G 18/81 20060101ALI20240508BHJP
   C08G 18/83 20060101ALI20240508BHJP
   C08F 290/00 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
A61K6/893
C08G18/08 042
C08G18/08 038
C08G18/67 050
C08G18/67
C08G18/81
C08G18/83
C08F290/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174229
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(72)【発明者】
【氏名】海老原 拓弥
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 拓也
(72)【発明者】
【氏名】山口 剛正
【テーマコード(参考)】
4C089
4J034
4J127
【Fターム(参考)】
4C089AA02
4C089AA06
4C089BA05
4C089BA06
4C089BA13
4C089BD20
4C089BE10
4C089CA04
4C089CA08
4J034BA06
4J034FA02
4J034FA04
4J034FB01
4J034FC01
4J034FC03
4J034FD01
4J034FE02
4J034HA01
4J034HA04
4J034HA07
4J034HA14
4J034HA18
4J034HB12
4J034HB17
4J034HC03
4J034HC09
4J034HC12
4J034HC17
4J034HC22
4J034HC45
4J034HC46
4J034HC52
4J034HC54
4J034HC61
4J034HC64
4J034HC67
4J034HC68
4J034HC71
4J034HC73
4J034JA01
4J034JA24
4J034JA25
4J034KA04
4J034KB04
4J034KD06
4J034KE02
4J034LA04
4J034LA22
4J034LA33
4J034LB01
4J034LB05
4J034MA04
4J034QA03
4J034QA05
4J034QB12
4J034QB16
4J034QC03
4J034QD06
4J034RA02
4J127AA06
4J127AA07
4J127BA111
4J127BB041
4J127BB121
4J127BB221
4J127BC021
4J127BC151
4J127BD441
4J127BD451
4J127BE241
4J127BE24Y
4J127BE281
4J127BE28Y
4J127BF621
4J127BF62Y
4J127BF631
4J127BF63Y
4J127BG051
4J127BG05Y
4J127BG171
4J127BG17Y
4J127BG281
4J127BG28Y
4J127CB281
4J127CC131
4J127DA12
4J127DA66
4J127FA01
4J127FA43
4J127FA45
(57)【要約】
【課題】 架橋構造を有し、樹脂中のポリウレタン含有率が80質量%を超える樹脂マトリックス中に充填材が分散した、高強度且つ高耐水性のポリウレタン系複合材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 ラジカル重合性ジオール:A1及び非重付加性ラジカル重合性単量体:C、及び充填材:Dを含む第1原料組成物にジイソシアネート:B1を混合して前記A1とB1の重付加を行いラジカル重合性ポリウレタン成分:PUを形成して、PU、C、D及び充填材を含み、PUとCの合計量に対するPUの量の割合が実質的に80~95質量%である第2原料組成物を調製しこれをラジカル重合させるに際し、前記付加重合を特定量のラジカル重合性基モノオール:A2又はラジカル重合性基モノイソシアネート:B2の共存下に行って前記PUの数平均分子量を1000~2000とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合性基を有するジオール化合物からなるラジカル重合性ジオール(A1);ジイソシアネート化合物からなるジイソシアネート(B1);分子内にラジカル重合性基を有する非重付加反応性重合性単量体からなる非重付加性モノマー(C);無機充填材からなるフィラー(D);及び熱ラジカル重合開始剤からなる開始剤(E);並びにラジカル重合性基を有するモノオール化合物からなるラジカル重合性モノオール(A2)、又はラジカル重合性基を有するモノイソシアネート化合物からなるラジカル重合性モノイソシアネート(B2);を原料として用いて、架橋構造を有するポリウレタン系樹脂からなるマトリックス中に充填材が分散したポリウレタン系複合材料を製造する方法であって、
前記ラジカル重合性ジオール(A1)、前記非重付加性モノマー(C)、前記フィラー(D)を含む第1原料組成物を調製する第1原料組成物調製工程、
前記第1原料組成物と前記ジイソシアネート(B1)とを混合して重付加反応させることにより、ラジカル重合性基を有するポリウレタン成分からなるラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)を形成させて、該ラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)、前記非重付加性モノマー(C)、前記フィラー(D)及び前記開始剤(E)を含む第2原料組成物を調製する第2原料組成物調製工程、
前記第2原料組成物を加熱してラジカル重合を行うことにより前記ラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)を架橋して前記ポリウレタン系複合材料を得る重合・硬化工程、を含み、
前記第2原料組成物調製工程では、
前記重付加反応を、
(1)前記ラジカル重合性ジオール(A1)1モルに対して0.2~0.7モルの前記ラジカル重合性モノオール(A2)の共存下に、前記ラジカル重合性モノオール(A2)と前記ラジカル重合性ジオール(A1)が有する水酸基の総モル数:TOHに対する前記ジイソシアネート(B1)が有するイソシアネート基の総モル数:TNCOの比:TNCO/TOHが0.9~1.1となるようにして行うか、又は
(2)前記ジイソシアネート(B1)1モルに対して0.2~0.7モルの前記ラジカル重合性モノイソシアネート(B2)の共存下に、前記ラジカル重合性ジオール(A1)が有する水酸基の総モル数をTOHに対する前記ラジカル重合性モノイソシアネート(B2)と前記ジイソシアネート(B1)が有するイソシアネート基の総モル数:TNCOの比:TNCO/TOHが0.9~1.1となるようにして行う、
ことによって、数平均分子量が1000~2000である前記ラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)を形成し、
前記第1原料組成物調製工程及び前記第2原料組成物調製工程では、前記第2原料組成物に含まれる前記非重付加性モノマー(C)の含有量が、前記重付加反応に用いた原料ベースの量で表される前記原料(A1)、(B1)、(C)及び(A2)又は(B2)の総質量の5質量%以上20質量%未満となるように、前記第1原料組成物及び前記第2原料組成物の調製を行う、
ことを特徴とする、前記ポリウレタン系複合材料の製造方法。
【請求項2】
前記第1原料組成物調製工程において、前記ラジカル重合性モノオール(A2)を更に含む、第1原料組成物を調製し、前記第2原料組成物調製工程における前記重付加反応を、当該ラジカル重合性モノオール(A2)の共存下に行う、請求項1に記載のポリウレタン系複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記第1原料組成物調製工程において、前記ラジカル重合性モノオール(A2)を含まない第1原料組成物を調製し、前記ジイソシアネート(B1)と共に前記ラジカル重合性モノイソシアネート(B2)を前記第1原料組成物と混合することによって、前記第2原料組成物調製工程における前記重付加反応を、前記ラジカル重合性モノイソシアネート(B2)の共存下に行う、を特徴とする、請求項1に記載のポリウレタン系複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記ラジカル重合性ジオール化合物(A1)が、分子内に含まれる2つのヒドロキシル基間に介在する2価の有機残基における主鎖を構成する原子の数が2~4であるジオール化合物であることを特徴とする、請求項1に記載のポリウレタン系複合材料の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載のポリウレタン系複合材料の製造方法によって得られる、架橋構造を有するポリウレタン系樹脂からなるマトリックス中に充填材が分散したポリウレタン系複合材料。
【請求項6】
架橋構造を有するポリウレタン系樹脂からなるマトリックス中に充填材が分散したポリウレタン系複合材料の成形体からなる歯科切削加工用材料を製造する方法であって、
請求項1に記載のポリウレタン系複合材料の製造方法を含み、前記重合・硬化工程を成形型内で行うことを特徴とする前記歯科切削加工用材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン系複合材料の製造方法、該製造方法によって得られるポリウレタン系複合材料および歯科切削加工用材料、及び歯科切削加工用材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療において、インレー、アンレー、クラウン、ブリッジ、インプラント上部構造などの歯科用補綴物を作製する一手法として、歯科用CAD/CAMシステムを用いて切削加工する方法がある。歯科用CAD/CAMシステムとは、コンピュータを利用して三次元座標データに基づいて歯科用補綴物の設計を行い、切削加工機などを用いて歯冠修復物を作成するシステムである。切削加工用材料としては、ガラスセラミックス、ジルコニア、チタン、レジンなど様々な材料が用いられる。歯科切削加工用レジン系材料としては、シリカ等の無機充填材、メタクリレートなどの重合性単量体、重合開始剤等を含有する硬化性組成物を用い、これをブロック形状、ディスク形状に硬化させた硬化物が使用されている。切削加工用材料は、コンピュータシステムを活用することにより、従来の歯科用補綴物の作製方法よりも、工程数が短いことに起因する作業性の高さや、硬化体の審美性、ないし強度の観点から関心が高まっている。
【0003】
このような切削加工用材料は、主に歯冠部で適用されており、大臼歯冠やブリッジとして使用される場合、より高強度が求められる。ポリウレタン樹脂は、一般的に高強度を有することが知られており、歯科材料として用いることが検討されている。例えば、特許文献1には、切削加工用材料に好適に使用できるポリウレタン系複合材料として、ポリウレタン樹脂の内部にラジカル重合性基の重合により形成される架橋構造を導入することにより、ポリウレタン樹脂の高強度であるという特徴を生かしつつ、その欠点である耐水性の低さを改善したポリウレタン系複合材料が記載されている。
【0004】
すなわち、特許文献1には、原料として、1つ以上のラジカル重合性基を有するジオール化合物(A2);ジイソシアネート化合物(A1);分子内に1つ以上のラジカル重合性基を有し、前記ジオール化合物(A2)および前記ジイソシアネート化合物(A1)の何れとも重付加反応を起こさない重合性単量体(以下、「非重付加性ラジカル重合性単量体」ともいう。)(B);ラジカル重合開始剤(C);及び充填材(D)を含む原料組成物を用い、前記A2とA1を重付加させて1500~5000の分子量のポリウレタン成分(A)を形成した後に該(A)に含まれるラジカル重合性基と前記(B)とを反応させて架橋構造を導入することによって製造されるポリウレタン系複合材料は、全体が均一で強度及び耐水性に優れ、歯科用切削加工用材料に適したものであることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2021/153446号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された前記ポリウレタン系複合材料は、上記したような特徴を有する優れたものであるが、その均一性を良好に保つために、樹脂成分中に占めるポリウレタン成分の割合を、80質量%を超えて高くすることができない。具体的には、前記原料組成物中のモノマー成分の合計質量{A2、A1及びBの合計質量}に占めるBの質量の割合(質量%)で定義される「重合性単量体配合比率Rr」を20~80質量%とする必要がある(ポリウレタン成分の割合を表す「100-Rr」は80~20質量%となる)。
【0007】
このため、ポリウレタン成分の含有率が80質量%を超える領域について架橋構造導入ポリウレタン系複合材料がどのような特性を有するか、あるいは、特許文献1に記載された前記ポリウレタン系複合材料と同様に全体が均一で強度及び耐水性に優れるという特長を有するのか否かは不明であった。架橋構造導入ポリウレタン系複合材料中のポリウレタン成分の含有率が増加することにより、(ポリウレタン構造に由来する)高強度化が期待できるばかりでなく、仮にポリウレタン成分の含有率が80質量%を超える架橋構造導入ポリウレタン系複合材料が製造できるようになり、均一性や耐水性が良好に保たれるものが確認されれば、特許文献1に記載された前記ポリウレタン系複合材料と同様の特性を有する新たな架橋構造導入ポリウレタン系複合材料が利用可能となる。
【0008】
そこで、本発明は、ポリウレタン成分の含有率が80質量%を超える架橋構造導入ポリウレタン系複合材料を製造することができる方法を提供し、延いてはポリウレタン成分の含有率が80質量%を超える架橋構造導入ポリウレタン系複合材料であって、均一で強度及び耐水性に優れる架橋構造導入ポリウレタン系複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するものであり、本発明の第一の形態は、ラジカル重合性基を有するジオール化合物からなるラジカル重合性ジオール(A1);ジイソシアネート化合物からなるジイソシアネート(B1);分子内にラジカル重合性基を有する非重付加反応性重合性単量体からなる非重付加性モノマー(C);無機充填材からなるフィラー(D);及び熱ラジカル重合開始剤からなる開始剤(E);並びにラジカル重合性基を有するモノオール化合物からなるラジカル重合性モノオール(A2)、又はラジカル重合性基を有するモノイソシアネート化合物からなるラジカル重合性モノイソシアネート(B2);を原料として用いて、架橋構造を有するポリウレタン系樹脂からなるマトリックス中に充填材が分散したポリウレタン系複合材料を製造する方法であって、
前記ラジカル重合性ジオール(A1)、前記非重付加性モノマー(C)、前記フィラー(D)を含む第1原料組成物を調製する第1原料組成物調製工程、
前記第1原料組成物と前記ジイソシアネート(B1)とを混合して重付加反応させることにより、ラジカル重合性基を有するポリウレタン成分からなるラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)を形成させて、該ラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)、前記非重付加性モノマー(C)、前記フィラー(D)及び前記開始剤(E)を含む第2原料組成物を調製する第2原料組成物調製工程、
前記第2原料組成物を加熱してラジカル重合を行うことにより前記ラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)を架橋して前記ポリウレタン系複合材料を得る重合・硬化工程、を含み、
前記第2原料組成物調製工程では、
前記重付加反応を、
(1)前記ラジカル重合性ジオール(A1)1モルに対して0.2~0.7モルの前記ラジカル重合性モノオール(A2)の共存下に、前記ラジカル重合性モノオール(A2)と前記ラジカル重合性ジオール(A1)が有する水酸基の総モル数:TOHに対する前記ジイソシアネート(B1)が有するイソシアネート基の総モル数:TNCOの比:TNCO/TOHが0.9~1.1となるようにして行うか、又は
(2)前記ジイソシアネート(B1)1モルに対して0.2~0.7モルの前記ラジカル重合性モノイソシアネート(B2)の共存下に、前記ラジカル重合性ジオール(A1)が有する水酸基の総モル数をTOHに対する前記ラジカル重合性モノイソシアネート(B2)と前記ジイソシアネート(B1)が有するイソシアネート基の総モル数:TNCOの比:TNCO/TOHが0.9~1.1となるようにして行う、
ことによって、数平均分子量が1000~2000である前記ラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)を形成し、
前記第1原料組成物調製工程及び前記第2原料組成物調製工程では、前記第2原料組成物に含まれる前記非重付加性モノマー(C)の含有量が、前記重付加反応に用いた原料ベースの量で表される前記原料(A1)、(B1)、(C)及び(A2)又は(B2)の総質量の5質量%以上20質量%未満となるように、前記第1原料組成物及び前記第2原料組成物の調製を行う、
ことを特徴とする、前記ポリウレタン系複合材料の製造方法である。
【0010】
上記形態の製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう。)においては、(1)前記第1原料組成物調製工程において、前記ラジカル重合性モノオール(A2)を更に含む、第1原料組成物を調製し、前記第2原料組成物調製工程における前記重付加反応を、当該ラジカル重合性モノオール(A2)の共存下に行うか、又は(2)前記第1原料組成物調製工程において、前記ラジカル重合性モノオール(A2)を含まない第1原料組成物を調製し、前記ジイソシアネート(B1)と共に前記ラジカル重合性モノイソシアネート(B2)を前記第1原料組成物と混合することによって、前記第2原料組成物調製工程における前記重付加反応を、前記ラジカル重合性モノイソシアネート(B2)の共存下に行う、ことが好ましい。
【0011】
また、前記ラジカル重合性ジオール化合物(A1)が、分子内に含まれる2つのヒドロキシル基間に介在する2価の有機残基における主鎖を構成する原子の数が2~4であるジオール化合物であることが好ましい。
【0012】
本発明の第二の形態は、本発明の製造方法によって得られる、架橋構造を有するポリウレタン系樹脂からなるマトリックス中に充填材が分散したポリウレタン系複合材料(以下、「本発明のポリウレタン系複合材料」ともいう。)である。
【0013】
本発明の第三の形態は、架橋構造を有するポリウレタン系樹脂からなるマトリックス中に充填材が分散したポリウレタン系複合材料の成形体からなる歯科切削加工用材料を製造する方法であって、本発明の製造方法を含み、前記重合・硬化工程を成形型内で行うことを特徴とする前記歯科切削加工用材料の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、均一で、強度、耐水性に優れた、歯科切削加工用材料として好適に使用することができるポリウレタン系複合材料を得ることができる。また、本発明の製造方法によれば、上記のような特徴を有する本発明のポリウレタン系複合材料を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者等は、前記課題を解決すべく検討を行った結果、架橋構造導入ポリウレタン系複合材料の製造方法を改良し、具体的には下記製造方法(以下「既提案製法」ともいう。)を採用することで、ポリウレタン成分の含有率が80質量%を超えるポリウレタン樹脂マトリックス中に充填材が分散したポリウレタン系複合材料であって、均一で強度及び耐水性に優れる新規な架橋構造導入ポリウレタン系複合材料(以下、「既提案複合材料」ともいう。)を得ることに成功し、その製造方法(以下、「既提案製法」ともいう。)と共に既に報告している(特願2021-191505)。
【0016】
すなわち、
「ポリウレタン系樹脂からなるマトリックス中に充填材が分散したポリウレタン系複合材料であって、前記ポリウレタン系樹脂は、数平均分子量が1500~5000であり、且つ、ラジカル重合性基を有するポリウレタン成分の前記ラジカル重合性基とラジカル重合性単量体とがラジカル重合することにより形成された架橋構造を有し、前記ポリウレタン系樹脂に占める前記ポリウレタン成分の割合が80質量%を超え95質量%以下である、ことを特徴とする前記ポリウレタン系複合材料」(既提案複合材料)及び
当該ポリウレタン系複合材料からなる成形体を製造する方法であって、「1つ以上のラジカル重合性基を有するジオール化合物;分子内に1つ以上のラジカル重合性基を有し、前記ジオール化合物およびジイソシアネート化合物の何れとも重付加反応を起こさない重合性単量体;10時間半減期温度:T10が60℃以上である熱ラジカル重合開始剤;及び充填材を含む第1原料組成物を調製する第1原料組成物調製工程;前記第1原料組成物とジイソシアネート化合物とを混合して前記ジオール化合物と該ジイソシアネート化合物とを重付加反応させることにより、数平均分子量が1500~5000であり、かつ、ラジカル重合性基を有するポリウレタン成分を形成させて、該ポリウレタン成分、前記重合性単量体;熱ラジカル重合開始剤;及び充填材を含み、未反応の前記ジオール化合物及び/又は未反応の前記ジイソシアネート化合物を含んでいてもよい第2原料組成物を調製する第2原料組成物調製工程;前記第2原料組成物の温度を40℃以上で且つ前記熱ラジカル重合開始剤のT10よりも15℃低い温度以下の温度に保持した状態で、モールド内に充填した後に、前記熱ラジカル重合開始剤のT10よりも10℃低い温度~T10よりも25℃高い温度に加熱してラジカル重合を行うことによりポリウレタン系複合材料成形体を得る成型工程;を含み、前記第2原料組成物に含まれる前記各成分の含有量(質量部)を、夫々、前記ポリウレタン成分の含有量:Ar、前記重合性単量体の含有量:Br、前記ジオール化合物の含有量:a1r及び前記ジイソシアネート化合物の含有量:a2rとしたときに、
式:Rr=100×Br/〔a1r+a2r+Ar+Br〕
で定義される重合性単量体配合比率Rrを5質量%以上20質量%未満とする、ことを特徴とする、ポリウレタン系複合材料成形体の製造方法」(既提案製法)
を提案している。
【0017】
なお、上記既提案製法の成型工程で第2原料組成物を40℃以上に加熱するのは、均一な流動性ペースト状としてモールド内に充填し易くするためであり、加熱中に予期せぬラジカル重合の進行を防ぐためにT10が60℃以上の熱重合開始剤を使用することが必要となっている。生産効率の観点および熱重合開始剤に関する制約をなくすという観点からは、このような加熱工程は含まない方が好ましいが、上記ポリウレタン成分の分子量が2000を越えるような場合には、常温での第2原料組成物の流動性が低く、モールド内への充填が非常に困難である。
【0018】
本発明者らは、前記ラジカル重合性ポリウレタン成分を調製する際に前記ジイソシアネート化合物を減量することにより、得られるポリウレタン成分を低分子量化して第2原料組成物の流動性を高めれば、ポリウレタン成分の割合が80質量%を超える場合でも常温でモールド充填が容易に行えるのではないかと考え、試みたところ、流動性に関しては所期の効果を得ることができた。しかし、重合硬化後に得られた成形体の耐水性が大きく低下することが判明した。本発明の製造方法は、このような課題を解決するものである。また、該製造方法によって得られる本発明のポリウレタン系複合材料は、既提案複合材料と同様にマトリックスとなるポリウレタン系樹脂に占めるポリウレタン成分の割合が80質量%を超え均一で強度及び耐水性に優れるという特徴を有する(既提案複合材料とは異なる構造の)新規な架橋構造導入ポリウレタン系複合材料である。
【0019】
なお、本発明のポリウレタン系複合材料の構造(特に架橋の状態)を分析等によって特定することは極めて困難であり、分析が可能であったとしても長時間を要する。このような理由から、本発明のポリウレタン系複合材料については製造方法(使用する原料、組成、反応等)で特定を行っている。
【0020】
以下に本発明の製造方法について詳しく説明する。なお、本願明細書においては特に断らない限り、数値x及びyを用いた「x~y」という表記は「x以上y以下」を意味するものとする。かかる表記において数値yのみに単位を付した場合には、当該単位が数値xにも適用されるものとする。また、本願明細書において、「(メタ)アクリル」との用語は「アクリル」及び「メタクリル」の両者を意味する。
【0021】
1.本発明の製造方法
本発明の製造方法では、以下に示す化合物及び材料を原料として使用して、架橋構造を有するポリウレタン系樹脂からなるマトリックス中に充填材が分散したポリウレタン系複合材料を製造する。なお、本発明では表現の簡素化のため、各化合物等をその略称(下記の化合物等の記載において、「:」の右側に記された表記)又は略号(略称後の括弧内の標記)で表すようにしている。
・ラジカル重合性基を有するジオール化合物:ラジカル重合性ジオール(A1)、
・ジイソシアネート化合物:ジイソシアネート(B1)、
・分子内にラジカル重合性基を有する非重付加反応性重合性単量体:非重付加性モノマー(C)、
・無機充填材:フィラー(D)、
・熱ラジカル重合開始剤:開始剤(E)、並びに
・ラジカル重合性基を有するモノオール化合物:ラジカル重合性モノオール(A2)、又は
・ラジカル重合性基を有するモノイソシアネート化合物:ラジカル重合性モノイソシアネート(B2)
そして、本発明の製造方法は、下記「第1原料組成物調製工程」、「第2原料組成物調製工程」及び「重合・硬化工程」を含む。
【0022】
<第1原料組成物調製工程>
ラジカル重合性ジオール(A1)、非重付加性モノマー(C)、フィラー(D)を含む第1原料組成物を調製する工程。
【0023】
<第2原料組成物調製工程>
前記第1原料組成物と前記ジイソシアネート(B1)とを混合して重付加反応させることにより、ラジカル重合性基を有するポリウレタン成分であるラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)を形成させて、該ラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)、前記非重付加性モノマー(C)、前記フィラー(D)及び前記開始剤(E)を含む第2原料組成物を調製する工程。
【0024】
<重合・硬化工程>
前記第2原料組成物を加熱してラジカル重合を行うことによりラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)を架橋して前記ポリウレタン系複合材料を得る工程。
【0025】
そして、本発明の製造方法では、前記第2原料組成物調製工程における前記重付加反応を、下記(1)又は(2)の条件を満足するようにして行うことによって、数平均分子量が1000~2000である前記ラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)を形成する。
(1) 前記ラジカル重合性ジオール(A1)1モルに対して0.2~0.7モルの前記ラジカル重合性モノオール(A2)の共存下に、前記ラジカル重合性モノオール(A2)と前記ラジカル重合性ジオール(A1)が有する水酸基の総モル数:TOHに対する前記ジイソシアネート(B1)が有するイソシアネート基の総モル数:TNCOの比:TNCO/TOHが0.9~1.1となるようにする。
(2)前記ジイソシアネート(B1)に対して0.2~0.7モルの前記ラジカル重合性モノイソシアネート(B2)の共存下に、前記ラジカル重合性ジオール(A1)が有する水酸基の総モル数をTOHに対する前記ラジカル重合性モノイソシアネート(B2)と前記ジイソシアネート(B1)が有するイソシアネート基の総モル数:TNCOの比:TNCO/TOHが0.9~1.1となるようにする。
【0026】
さらに、本発明の製造方法では、前記第1原料組成物調製工程及び前記第1原料組成物調製工程において、前記第2原料組成物に含まれる前記非重付加性モノマー(C)の含有量が、前記重付加反応に用いた原料ベースの量で表される前記原料(A1)、(B1)、(C)及び(A2)又は(B2)の総質量の5質量%以上20質量%未満となるように、前記第1原料組成物及び前記第2原料組成物の調製を行う。
【0027】
こうすることにより、前記第2原料組成物を常温で容易にモールド充填できるような流動性を有するようにすることが可能となり、均一で強度及び耐水性に優れる本発明のポリウレタン系複合材料を効率的に製造することが可能となる。
【0028】
以下に、本発明の製造方法について、使用する上記した化合物及び材料について説明した上で、各工程について詳しく説明する。
【0029】
1-1.原料化合物等について
<ラジカル重合性基を有するジオール化合物:ラジカル重合性ジオール(A1)>
ラジカル重合性基を有するジオール化合物:ラジカル重合性ジオール(A1)は、ラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)を形成するための原料となる化合物である。そして、ラジカル重合性ジオール(A1)が有する2つのヒドロキシル基(-OH基)と、ジイソシアネート(B1)の2つのイソシアネート基と、が重付加反応を起こすことにより、ラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)の主鎖部分が形成される。
【0030】
ラジカル重合性ジオール(A1)としては、分子内に少なくとも1つのラジカル重合性基を有し、かつ、2個のヒドロキシル基を有する化合物が使用できる。ここで、ラジカル重合性基とは、ラジカルを発生させる開始剤により反応し、重合する官能基を意味し、具体的には、ビニル基、(メタ)アクリレート基、及び、スチリル基等のラジカル重合性炭素-炭素二重結合を有する基を意味する。ラジカル重合性基としては、(メタ)アクリレート基が特に好ましい。ラジカル重合性ジオール(A1)において、2個のヒドロキシル基とラジカル重合性基とが結合する有機残基は、炭化水素基であることが好ましい。
【0031】
ラジカル重合性ジオール(A1)がラジカル重合性基を有することによって重付加反応により形成されるポリウレタン分子の主鎖にラジカル重合性基が導入される。また、成形工程におけるラジカル重合の際にラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)の分子内のラジカル重合性基同士、あるいは、ラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)の分子内のラジカル重合性基と非重付加性モノマー(C)のラジカル重合性基と、が反応して結合を形成することにより架橋が形成される。これにより、硬化体であるポリウレタン系材料の耐水性が向上する。
【0032】
生成物であるポリウレタン系材料の強度及び耐水性の観点から、ラジカル重合性ジオール(A1)の分子内に含まれるラジカル重合性基の数は、1~4であることが好ましく、特に1~2であることが好ましい。ラジカル重合性基の数を4以下とした場合には、ラジカル重合反応時に形成される硬化体の収縮を抑制することがより容易となる。
【0033】
また、ラジカル重合性ジオール(A1)の分子内に含まれる2つのヒドロキシル基間に介在する2価の有機残基における主鎖を構成する原子の数(以下、「OH間距離」と称す場合がある)は、2~4であることが好ましい。ラジカル重合性ジオール(A1)のOH間距離を上記範囲内とすることにより、重付加反応により得られるラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)の分子中にラジカル重合性基及びウレタン結合を高密度に導入することができ、ポリウレタン系複合材料の強度を高めることができる。
【0034】
なお、2種類以上のラジカル重合性ジオール(A1)を用いる場合、OH間距離は、2種類以上のラジカル重合性ジオール(A1)の平均値として計算された値を意味する。ここで、OH間距離の平均値は、2以上の整数であるn種類のラジカル重合性ジオール(A1)を用いる場合には、各ラジカル重合性ジオールのOH間距離:Dxに、ラジカル重合性ジオールの総モル数に占める各ラジカル重合性ジオールのモル数として定義される各ラジカル重合性ジオールのモル分率(モル/モル):Mxを乗じた積の総和として計算される値を意味する。
【0035】
また、重付加時の反応性の観点から、ラジカル重合性ジオール(A1)は1~2級のヒドロキシ基を有する。特に、1級と2級のヒドロキシ基の両方を有することが好ましい。前記条件を満たすラジカル重合性ジオール(A1)を用いることで、ラジカル重合性モノオール(A2)を添加した際に、ラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)の数平均分子量を1000~2000に調整しやすく、かつ、得られる成形体の高い曲げ強さ及び耐水性を維持しやすくなる。
【0036】
ラジカル重合性ジオール(A1)として好適に使用される化合物としては、たとえば、トリメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、エリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリトールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジグリシジルエーテルの酸((メタ)アクリル酸やビニル安息香酸)開環物等を挙げることができる。これらは、単独で、又は異なる種類のものを混合して使用することができる。
【0037】
<ジイソシアネート化合物:ジイソシアネート(B1)>
ジイソシアネート(B1)は、ラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)を形成するためのポリウレタン前駆体成分であり、1分子中に2個のイソシアネート基(-N=C=O基)を有する化合物が特に限定されず使用できる。なお、2個のイソシアネート基が結合する(2価の)有機残基は、ラジカル重合性基を有している必要はない。当該有機残基としては、炭化水素基における少なくとも1つの水素原子が、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子からなる群より選ばれる少なくとも1種のヘテロ原子で置換されてもよい2価の炭化水素基であることが好ましく、少なくとも1つの水素原子が上記ヘテロ原子で置換されていてもよい(置換)アルキル基を置換基として有していてもよい脂環式構造または芳香族環を有する2価の炭化水素基であることが好ましい。
【0038】
ジイソシアネート(B1)として好適に使用される化合物としては、たとえば、1,3-ビス(2-イソシアナト-2-プロピル)ベンゼン、2,2-ビス(4-イソシアナトフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、4,4‘-ジイソシアン酸メチレンジフェニル、3,3’-ジクロロ-4,4‘-ジイソシアナトビフェニル、4,4’-ジイソシアナト-3,3‘-ジメチルビフェニル、ジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアナート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアナート、ノルボルナンジイソシアネート、ジイソシアン酸イソホロン、1,5-ジイソシアナトナフタレン、ジイソシアン酸1,3-フェニレン、トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート、トリレン-2,4-ジイソシアナート、トリレン-2,6-ジイソシアナート、m-キシリレンジイソシアナートなどを挙げることができる。
【0039】
これらの中でも、ジイソシアネート(B1)としては、得られる第2原料組成物の流動性と得られるポリウレタン系複合材料の強度との観点から分子内にフェニル基を有することが好ましい。
【0040】
<ラジカル重合性基を有するモノオール化合物:ラジカル重合性モノオール(A2)>
ラジカル重合性モノオール(A2)は、ラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)を形成するための原料となる化合物であり、前記重付加の際に共存することによりラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)の末端部を形成する。ラジカル重合性モノオール(A2)としては、分子内に少なくとも1つのラジカル重合性基を有し、かつ、1個のヒドロキシル基を有する化合物が特に制限なく使用できる。ラジカル重合性モノオール(A2)のラジカル重合性基は、ラジカル重合性ジオール(A1)が有するラジカル重合性基と同様の基が利用できる。ラジカル重合性モノオール(A2)において、1個のヒドロキシル基とラジカル重合性基とが結合する有機残基は炭化水素基であることが好ましい。
生成物であるポリウレタン系材料の強度及び耐水性の観点から、ラジカル重合性モノオール(A2)の分子内に含まれるラジカル重合性基の数は、1~4であることが好ましく、特に1~2であることが好ましい。重付加時の反応性、及び、分子量低減効果の観点から、ラジカル重合性モノオール化合物(A2)は、イソシアネート基との反応性が高い1~2級のヒドロキシ基を有する。特に、より分子量低減効果に優れる1級のヒドロキシ基を有することが好ましい。ラジカル重合性モノオール(A2)として好適に使用される化合物としては、たとえば、エチレングリコール(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、2-アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチル-フタル酸などを挙げることができる。ラジカル重合性モノオール(A2)は単独で用いても、2種以上を混合して使用してもよい。
【0041】
<ラジカル重合性基を有するモノイソシアネート化合物:ラジカル重合性モノイソシアネート(B2)>
ラジカル重合性モノイソシアネート(B2)もラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)を形成するための原料となる化合物であり、前記重付加の際に共存することによりラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)の末端部を形成する。ラジカル重合性モノイソシアネート(B2)としては、分子内に少なくとも1つのラジカル重合性基を有し、かつ、1個のイソシアネート基を有する化合物が特に制限なく使用できる。ラジカル重合性基については、(A2)及び(A1)における場合と同様である。ラジカル重合性モノイソシアネート(B2)において、1個のイソシアネート基とラジカル重合性基とが結合する有機残基は炭化水素基であることが好ましい。生成物であるポリウレタン系材料の強度及び耐水性の観点から、分子内に含まれるラジカル重合性基の数は、1~4であることが好ましく、特に1~2であることが好ましい。ラジカル重合性基の数を4以下とした場合には、ラジカル重合反応時に形成される硬化体の収縮を抑制することがより容易となる。ラジカル重合性モノイソシアネート(B2)として好適に使用される化合物としては、たとえば、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、2-(2-(メタ)アクリロイルオキシエチルオキシ)エチルイソシアナート、1,1-(ビス(メタ)アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネートなどを挙げることができる。ラジカル重合性モノイソシアネート(B2)は単独で用いても、2種以上を混合して使用してもよい。
【0042】
<分子内にラジカル重合性基を有する非重付加反応性重合性単量体:非重付加性モノマー(C)>
非重付加性モノマー(C)は、分子内に、少なくとも1つのラジカル重合性基を有し、かつ、ラジカル重合性ジオール(A1)及びジイソシアネート(B1)の何れとも重付加反応を起こさない化合物である。すなわち、ラジカル重合性ジオール(A1)と重付加反応を起こす基及びジイソシアネート(B1)と重付加反応を起こす基の双方、具体的にはヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシ基、イソシアネート基及びメルカプト基の何れの基も分子内には含まれない。したがって、非重付加性モノマー(C)は、ラジカル重合性モノオール(A2)及びラジカル重合性モノイソシアネート(B2)の何れとも重付加反応を起こさない。
【0043】
ラジカル重合性基の種類については、(A2)、(A1)、(B2)の場合と同様である。ラジカル重合性基の数は、架橋の形成し易さの観点から、2~6個であることが好ましく、2~4個であることがより好ましい。ラジカル重合性基の数を2個以上とすることにより、架橋密度をより大きくできるため、十分な強度を有する硬化体を得ることがより容易になる。また、ラジカル重合性基の数を6個以下とすることにより、硬化時の収縮を抑制することがより容易になる。また、非重付加性ラジカル重合性単量体(B)は室温(すなわち25℃)で液体であることが好ましい。
【0044】
非重付加性モノマー(C)としては、好適に使用できる化合物を例示すれば、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパンアクリレート、トリメチロールプロパンメタクリレート、ペンタエリスリトールアクリレート、ペンタエリスリトールメタクリレート、ジトリメチロールプロパンアクリレート、ジトリメチロールプロパンメタアクリレート、ジペンタエリスリトールアクリレート、ジペンタエリスリトールメタクリレート等を挙げることができる。これらの中でも、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、が特に好ましい。
【0045】
<無機充填材:フィラー(D)>
フィラー(D)は、ポリウレタン系樹脂マトリックス中に分散して、ポリウレタン系樹脂マトリックスと複合化することにより、ポリウレタン系複合材料の機械的強度、耐摩耗性及び耐水性等の物性を向上させる機能を有する。
【0046】
フィラー(D)としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、あるいは、それらの複合酸化物、ガラス等の無機物質の粉体からなる無機充填材を用いることが好ましい。このような、無機充填材を具体的に例示すれば、非晶質シリカ、シリカ-ジルコニア、シリカ-チタニア、シリカ-チタニア-ジルコニア、石英、アルミナなどの球形状粒子あるいは不定形状粒子を挙げることができる。なお、本発明の製造方法により製造されたポリウレタン系複合材料を歯科材料として利用する場合、フィラー(D)としては、シリカ、チタニア、ジルコニア、あるいは、それらの複合酸化物を用いることが好ましく、シリカ、あるいは、その複合酸化物であることが特に好ましい。これらの無機充填材は、口腔内環境において溶解のおそれがなく、ポリウレタン樹脂系マトリックスとの屈折率差が調整しやすく、透明性や審美性を制御しやすいためである。
【0047】
フィラー(D)を構成する粒子の形状は、特に限定されず、目的のポリウレタン系複合材料の用途に応じて適宜選択することができるが、たとえば、耐摩耗性、表面滑沢性、光沢持続性に特に優れたポリウレタン系複合材料が得られる観点からは、(略)球形状であることが好適である。
【0048】
フィラー(D)を構成する粉体の平均粒子径は、耐摩耗性、表面滑沢性、光沢持続性の観点から0.001μm~100μmであることが好ましく、0.01μm~10μmであることがより好ましい。また、ポリウレタン系複合材料中におけるフィラー(D)の含有率を向上させやすいという点から、複数の粒径を有するフィラー(D)を用いることが好ましい。具体的には、0.001μm~0.1μmの粒径と0.1μm~100μmの粒径を組み合わせることが好ましく、0.01μm~0.1μmの粒径と0.1μm~10μmの粒径を組み合わせることがより好ましい。
【0049】
無機フィラーの上記平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)像による画像解析により決定される平均粒子径を意味し、粉体試料をSEMで、全体の形状が確認できる球状粒子が視野内に100個以上含まれるように5000~100000倍の倍率で観察したときに得られる画像(又は写真)に基づき、任意に選択した30個以上の各粒子の最大径(nm)を測定し、その総和を個数:n(≧30の自然数)で除した値を意味する。すなわち、各粒子の最大径をx(iは1~nの自然数である。)で表し、平均粒子径をxAVで表した場合、xAV=(Σx)/n で定義される値を意味する。
【0050】
フィラー(D)として無機フィラーを用いる場合には、ポリウレタン系樹脂マトリックスとのなじみをよくし、ポリウレタン系複合材料の機械的強度や耐水性を向上させるために、表面処理を行ったものを使用することが好ましい。
【0051】
<熱ラジカル重合開始剤:開始剤(E)>
熱ラジカル重合開始剤:開始剤(E)は、重合・硬化工程におけるラジカル重合反応を開始する機能を有し、ラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)のラジカル重合性基とラジカル重合性モノマー(C)のラジカル重合性基とを反応させて結合させることにより、第2原料組成物を重合硬化させると共にマトリックスとなるポリウレタン系樹脂に架橋点を形成させる。熱ラジカル重合開始剤を使用することにより、重合・硬化工程においてモールド(成形型)内に充填された第2原料組成物を加熱して重合させることが可能となる。重付加時の加熱温度、及び、第2原料組成物をモールドに充填する温度の観点から10時間半減期温度T10が40~120℃の範囲であるものを使用することが好ましい。ここで、10時間半減期温度:T10とは、熱重合開始剤の存在量が、初期から10時間経過後に初期の半分に減ずる温度のことであり、熱重合開始剤の反応性を表す指標として用いられる。好適に使用できる熱ラジカル重合開始剤:開始剤(E)を具体的に例示すると、ベンゾイルパーオキサイドやtert-ブチルパーオキシラウレートなどのような過酸化物開始剤、アゾビスブチロニトリルなどのようなアゾ系の開始剤などを挙げることができる。これら熱重合開始剤は、単独で用いても、2種以上を混合して使用してもよい。
【0052】
<その他の添加剤>
第1原料組成物あるいは第2原料組成物には以上に説明した必須成分の他に、その他の各種の添加剤を配合しても良い。各種添加剤としては、重合禁止剤、蛍光剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、顔料、抗菌材、X線造影剤など挙げることができ、その添加量は所望の目的に応じて適宜決定すればよい。
【0053】
1-2.各工程について
以下に、本発明の製造方法における各工程について説明する。
【0054】
<第1原料組成物調製工程>
第1原料組成物調製工程では、ラジカル重合性ジオール(A1)、非重付加性モノマー(C)、フィラー(D)を含む第1原料組成物を調製する。開始剤(E)は、第1原料組成物調製工程、第2原料組成物調製工程の何れで配合してもよいが、第1原料組成物調製工程で配合しておくことが好ましい。また、後述する第2原料組成物調製工程における重付加反応をラジカル重合性モノオール(A2)の共存下に行う場合には、第1原料組成物に、ラジカル重合性モノオール(A2)を配合することが好ましい。こうすることにより、第1原料組成物中にラジカル重合性モノオール(A2)が分散し、重付加反応時に調製されるラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)の数平均分子量を1000~2000の範囲に調整し易くなる。但し、第1原料組成物中で重付加反応が起こらないようにするために、ジイソシアネート(B1)を配合しないようにする必要がある。
【0055】
なお、各成分の配合量は次のようにして決定される。すなわち、第1原料組成物の組成は、得ようとする第2原料組成物の組成をベースとして決定される。具体的には、ラジカル重合性ジオール(A1)及びジイソシアネート(B1)、並びにラジカル重合性モノオール(A2)又はラジカル重合性モノイソシアネート(B2)と、が定量的に重付加反応してラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)を生成することを前提に、ラジカル重合性モノオール(A2)とラジカル重合性ジオール化合物(A1)が有する水酸基の総モル数:TOHに対するラジカル重合性モノイソシアネート(B2)とジイソシアネート(B1)が有するイソシアネート基の総モル数:TNCOの比:TNCO/TOHが0.9~1.1となるようにして決定される。なお、得られるポリウレタン系複合材料の強度が低下し難く、第2原料組成物の成形がよりし易くなるという理由から、TNCO/TOHは、1.0~1.05であることがより好ましい。
【0056】
ここで、後述する第2原料組成物調製工程における重付加反応をラジカル重合性モノオール(A2)の共存下に行う場合には、前記ラジカル重合性モノオール(A2)と前記ラジカル重合性ジオール化合物(A1)が有する水酸基の総モル数がTOHにとなり、ラジカル重合性モノイソシアネート(B2)は使用しないため上記:TNCOは、ジイソシアネート(B1)が有するイソシアネート基の総モル数となる。また、この場合には、ラジカル重合性モノオール(A2)は、ラジカル重合性ジオール(A1)1モルに対して0.2~0.7モル使用する必要がある。0.2を下回る範囲では分子量低減の効果が小さいため、均一な硬化体を得ることが難しく、0.7を上回る範囲では得られる硬化体の曲げ強さ、及び、耐水性が低下する。
【0057】
他方、上記重付加反応をラジカル重合性モノイソシアネート(B2)の共存下に行う場合には、ラジカル重合性モノオール(A2)は使用しないため上記:TOHは、ラジカル重合性ジオール化合物(A1)が有する水酸基の総モル数となり、前記ラジカル重合性モノイソシアネート(B2)と前記ジイソシアネート(B1)が有するイソシアネート基の総モル数がTNCOとなる。また、この場合には、ラジカル重合性イソシアネート(B2)は、ジイソシアネート(B1)1モルに対して0.2~0.7モル使用する必要がある。0.2を下回る範囲では分子量低減の効果が小さいため、均一な硬化体を得ることが難しく、0.7を上回る範囲では得られる硬化体の曲げ強さ、及び、耐水性が低下する。
【0058】
第1原料組成物調製工程及び第2原料組成物調製工程で使用される(A2)、(A1)、(B2)及び(B1)の量比は、このような条件を満たすことを前提に、ラジカル重合性ジオール化合物(A1)の量を基準に決めればよい。なお、これら成分は、第2原料組成物調製工程で実質的に定量的に重付加反応を起こし、ラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)となるので、量比によって若干の未反応物が残るものの、これら成分の合計質量は第2原料組成物中含まれるラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)の質量と実質的に同一であるとみなすことができる。
【0059】
非重付加性モノマー(C)の配合量は、前記第2原料組成物に含まれる前記非重付加性モノマー(C)の含有量を、前記重付加反応に用いた原料ベースの量で表して原料(A2)、(A1)、(B2)、(B1)及び(C)の総質量の5質量%以上20質量%未満とする必要がある。したがって、第1原料組成物調製工程で使用するラジカル重合性ジオール(A1)及び(必要に応じて使用される)ラジカル重合性モノオール(A2)の使用量に応じて、これら量から前記条件を満たすようにして決定されるジイソシアネート(B1)及び(必要に応じて使用される)ラジカル重合性イソシアネート(B2)をもとに、(A1)、(B1)、(C)及び(A2)又は(B2)の総質量の5質量%以上20質量%未満となるように決定すればよい。なお、(A1)、(B1)及び(A2)又は(B2)については、少量ではあるが一部が未反応で残存することもあり、また、使用しない(A2)又は(B2)は当然含まれない(含有量はゼロ質量部となる)ので、前記第2原料組成物に含まれる前記各成分の含有量(質量部)を、夫々、
ラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)の含有量:[PU]、
非重付加性モノマー(C)の含有量:[C]、
ラジカル重合性ジオール(A1)の含有量:[A1]、
ジイソシアネート(B1)の含有量:[B1]
ラジカル重合性モノオール(A2)の含有量:[A2]、
ラジカル重合性モノイソシアネート(B2)の含有量:[B2]、
で表した場合、これらの総質量は、上記原料ベースの量で表した、原料(A2)、(A1)、(B2)、(B1)及び(C)の総質量と一致する。したがって、これらの総質量:
[PU]+[C]+[A1]+[A2]+[B1]+[B2]=[SUM]とした場合、非重付加性モノマー(C)の配合量は、式:Rr=([C]/[SUM])×100で定義される「重合性単量体配合比率:Rr」が5質量%以上20質量%未満となるようにして決定される。Rrが5質量%未満である場合には、均一な架橋構造導入ポリウレタン系複合材料を得ることが非常に困難となる。なお、未反応の(A1)、(B1)及び(A2)又は(B2)も重合・硬化工程でそのほとんどは架橋体(架橋ポリウレタン系樹脂)に組み込まれるので、(100-Rr)(質量%)は、(実質的な)架橋ポリウレタン系樹脂中のポリウレタン含有率ということになり、本発明の製造方法では当該含有率が80質量%以上95質量%未満の架橋ポリウレタン系樹脂をマトリックスとするポリウレタン系複合材料が得られることになる。
【0060】
フィラー(D)の使用量は、目的とするポリウレタン系複合材料の強度等の物性に応じて適宜決定すればよいが、前記第2原料組成物に含まれるフィラー(D)の含有量(質量部)を[D]とした場合、式:充填率={[D]/([D]+[SUM])}×100で定義される充填率(質量%)が60質量%~85質量%となる量とすることが好ましく、65質量%~80質量%となる量とすることがより好ましい。また、本実施形態のポリウレタン系複合材料の製造方法により製造されたポリウレタン系複合材料を歯科切削加工用材料として使用する場合には、充填率は65質量%~80質量%であることがより好ましく、70質量%~80質量%がさらに好ましい。
【0061】
また、開始剤(E)の配合量は、前記[SUM]100質量部に対して0.005~2.0質量部の範囲内であればよいが、0.01~1.0質量部の範囲とすることが好ましい。
【0062】
第1原料組成物の調製は、第1原料組成物を構成する全ての成分を一度に混合して調製してもよく、第1原料組成物を構成する一部の成分を混合した混合物を調製した後に、第1原料組成物を構成する残りの成分を添加・混合して調製してもよい。この際、各成分を混合する際の混合方法は特に限定されず、マグネチックスターラー、ライカイ機、プラネタリーミキサー、トリミックス、遠心混合機等を用いた方法が適宜使用される。また、フィラー(D)を均一に分散させやすいという理由から、ラジカル重合性ジオール(A1)、必要に応じて使用されるラジカル重合性モノオール(A2)及び非重付加性モノマー(C)を先に混合することで混合組成物を調製した後、この混合組成物にフィラー(D)を添加して混合することにより第1原料組成物を調製することが好ましい。さらに、副反応を抑制しやすく、分散が容易である点から、その他の添加剤も第1原料組成物に添加することが好ましい。また、各成分を混合する際に、真空条件下で行うと、ラジカル重合の進行により、操作性が悪化し、各成分が均一に分散しづらくなり、最終的に均一な硬化体を得ることが難しくなるため、混合は常圧条件あるいは加圧条件で行うことが好ましい。このようにして調製された第1原料組成物は、脱泡処理を施し、内部に含まれる気泡を無くしておくことが好ましい。脱泡の方法としては常圧条件あるいは加圧条件で行う公知の方法が用いられ、加圧脱泡、遠心脱泡等の方法を任意に用いることができる。
【0063】
なお、第1原料組成物には、その他の添加剤として、必要であれば重付加反応を促進する触媒がさらに含まれていてもよい。なお、重付加反応を促進する触媒としては、たとえば、オクチル酸錫や二酢酸ジブチル錫などを例示できる。
【0064】
<第2原料組成物調製工程>
第2原料組成物調製工程では、前記第1原料組成物とジイソシアネート(B1)とを混合して重付加反応させることにより、ラジカル重合性基を有するポリウレタン成分であるラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)を形成させて、該ラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)、非重付加性モノマー(C)、フィラー(D)及び開始剤(E)を含む第2原料組成物を調製する。なお、第1原料組成物が開始剤(E)を含まない場合は、第2原料組成物調製工程で開始剤(E)を配合する。
【0065】
第2原料組成物調製工程における重付加反応は、ラジカル重合性ジオール化合物(A1)1モルに対して0.2~0.7モルのラジカル重合性モノオール(A2)の共存下に行うか、又はジイソシアネート化合物(B1)に対して0.2~0.7モルのラジカル重合性モノイソシアネート(B2)の共存下に行う必要がある。
【0066】
このため、第1原料組成物が所定量のラジカル重合性モノオール(A2)を含まない場合には、(B2)を配合する必要がある。(B2)を配合する場合には、予め夫々所定量の(B2)と(B1)の混合物を調製しておき、これを第1原料組成物と混合することが好ましい。また、(A2)を混合する場合には、(A2)が(B1)と直接接触しない形で、(B1)の混合前、或いは(B1)の混合と同時に(A2)の使用量が所定量となるように(A2)を第1原料組成物と混合することが好ましい。なお、第1原料組成物が所定量のラジカル重合性モノオール(A2)を含む場合には、(B1)のみが第1原料組成物と混合される。(B1)及び(A2)又は(B2)の使用量は、前記した条件を満足するように決定すればよい。
【0067】
第2原料組成物調製工程では、上記重付加反応により、数平均分子量が1000~2000であるラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)を形成する。ここで、ラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)の数平均分子量は、GPC(ゲル・パーミエイション・クロマトグラフィ)測定で決定されるポリスチレン換算の数平均分子量を意味する。第2原料組成物中のラジカル重合性ポリウレタン成分(A)の数平均分子量は、ラジカル原重合性原料組成物に必要に応じてTHF(テトラヒドロフラン)やジメチルスルホキシド(DMSO)等の溶媒を加え、充填材(D)などの不溶成分を濾過、遠心分離などの操作で除去し、得られた溶液(すなわち、マトリックス原料組成物、あるいは、マトリックス原料組成物と必要に応じて加えた溶媒との混合物からなる溶液)についてGPC測定を行うことにより、求めることができる。(A1)、(B1)及び(A2)又は(B2)の使用量を前記した条件を満足するようにすることで、ラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)の数平均分子量を1000~2000の範囲に制御することができる。
【0068】
ラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)は、後述する重合・硬化工程において該ラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)が有するラジカル重合性基同士或いは該ラジカル重合性基とラジカル重合性モノマー(C)が有するラジカル重合性基とが重合することにより架橋が形成されて、最終的に得られるポリウレタン系複合材料のマトリックスを構成する「架橋構造を有するポリウレタン系樹脂」となるものである。ラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)の数平均分子量が2000を超える場合には、均一な成形体を得るために第2原料組成物を40℃以上に加熱して成形する必要が生じる。また、数平均分子量1000を下回る場合には、得られるポリウレタン系複合材料の強度及び、耐水性が低下する。
【0069】
重付加反応は、第1原料組成物と、ジイソシアネート(B1)又はジイソシアネート(B1)及びラジカル重合性モノイソシアネート(B2)との混合と同時に、あるいは、混合後に必要に応じて加熱することにより開始され、ラジカル重合性ジオール(A1)及びジイソシアネート(B1)の少なくとも一方が重付加反応により実質的に消費し尽くされるまで行われる。このとき、使用する熱ラジカル重合開始剤:開始剤(E)のT10よりも低い反応温度で重付加反応を行う必要がある。なお、本発明の製造方法においては、不可避的に僅かながら生じるラジカル重合反応は許容される。
【0070】
反応時間は反応温度により異なり、例えば反応温度が30℃以上50℃未満であれば60時間以上が好ましく、72時間以上がより好ましい。加熱温度が50℃以上80℃未満であれば24時間以上が好ましく、36時間以上がより好ましい。加熱温度が80℃以上であれば15時間以上が好ましく、24時間以上がより好ましい。これら何れのケースにおいても、加熱時間の上限値は特に限定されるものではないが、生産性などの実用上の観点からは120時間以下とすることが好ましい。第2原料組成物の調製に際して、各成分を混合する際の混合方法は特に限定されず、マグネチックスターラー、ライカイ機、プラネタリーミキサー、トリミックス、遠心混合機等を用いた方法が適宜使用される。また、各成分を混合する際に、真空条件下で長時間行うと、意図しないラジカル重合の進行が生じる場合があり、好ましくないため、混合は常圧条件あるいは加圧条件で行うことが好ましい。
【0071】
前記したように、ラジカル重合性ジオール(A1)とジイソシアネート(B1)のみを用いて重付加を行う既提案製法において、ジイソシアネート(B1)の使用量を減らすと、得られるラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)の分子量は低下し、第2原料組成物の流動性を高めることができる。しかし、重合・硬化工程を経て得られるポリウレタン系複合材料は、耐水性が低いものとなってしまう。これは、下記反応式に示されるように、ラジカル重合性ジオール(A1)とジイソシアネート(B1)のみを用いて重付加を行って得られるラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)は、分子の両末端に親水性の高いヒドロキシル基(-OH基)又はイソシアネート基(-N=C=O)が存在するため、分子量の低下によって(これらの基の数が相対的に増え)分子の親水性が高まったことが原因であると考えられる。なお、下記式は、得られるラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)の末端構造を説明するために簡略化したものであり、(A1)中の基:-R-は、ラジカル重合性基を有し、ヒドロキシル基及びイソシアネート基を有しない2価の有機基を表し、(B1)中の基:-R-は、ヒドロキシル基及びイソシアネート基を有しない2価の有機基を表している。
【0072】
【化1】
【0073】
これに対し、本発明の製造方法では、重付加反応に際してラジカル重合性モノオール(A2)又はラジカル重合性モノイソシアネート(B2)を共存させるため、下記反応式に示されるように、ラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)分子の少なくとも一方の末端はヒドロキシル基、イソシアネート基の何れの基でもなくなるため、これら成分の配合割合に応じてラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)の親水性が低下して、分子量が低下しても得られるポリウレタン系複合材料の耐水性低化が抑制されたものと考えられる。なお下記式も得られるラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)の末端構造を説明するために簡略化したものである。また、下記式中の基:-R-及び基:-R-は上記した通りであり、基:-Xはラジカル重合性基を表し、基:-R-及び基:-R-は、ラジカル重合性基、ヒドロキシル基及びイソシアネート基を有しない2価の有機基を表している。
【0074】
【化2】
【0075】
<重合・硬化工程>
重合・硬化工程では、前記第2原料組成物を加熱してラジカル重合を行うことによりラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)を架橋して前記ポリウレタン系複合材料を得る。重合・硬化工程では、所望の形状のポリウレタン系複合材料成形体を得ることができるという理由から、前記第2原料組成物を成形型(モールド)内に充填してから上記ラジカル重合を行うことが好ましい。本発明の製造方法では、前記工程で得られる第2原料組成物に含まれるラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)が上記したようなものであることから、第2原料組成物は、例えば40℃未満といった比較的低い温度でも均一な流動性ペースト状となるため、容易にモールド内に充填することができる。なお、モールド内への第2原料組成物の充填方法は特に限定されず、たとえば加圧注型、あるいは、真空注型により好適に行うことができる。
【0076】
ラジカル重合時には反応熱により発熱するため、加熱温度(硬化温度)を制御することが好ましい。この場合、加熱温度は150℃を超えないように制御することが好ましく、熱ラジカル重合開始剤の10時間半減期温度:T10(℃)の-10℃~+25℃、すなわちT10より10℃低い温度(下限温度L)~T10より25℃高い温度(上限温度H)の範囲で行うことが特に好ましい。加熱温度を下限温度L以上に設定することにより、ラジカル重合速度を十分に大きくすることができる上に、硬化体の意図せぬ着色の発生も抑制することが容易となる。また、加熱温度を上限温度H以下に設定することにより、反応系中に存在するラジカル重合性基の過度な消費を防ぐと共に、急激なラジカル重合の進行も抑制することができる。上述した温度範囲内に加熱温度を制御することにより、工業的に許容できる反応速度で重合硬化を進行させ、急激な反応進行により硬化体中に歪やクラックが発生することも抑制でき、さらに非重付加性モノマー(C)の劣化が生じるのも抑制することが極めて容易になる。また、加熱によりラジカル重合させる際には、気泡に起因するボイドが硬化体中に形成されるのを抑制するために、ラジカル重合中の第2原料組成物を加圧しても良い。加圧の方法に制限はなく、機械的に加圧しても良いし、窒素等の気体による加圧を行っても良い。このようにしてラジカル重合工程を行うことにより、ポリウレタン系樹脂マトリックス中にフィラー(D)が分散した本発明のポリウレタン系複合材料からなる成形体を効率よく得ることができる。
【0077】
2.本発明のポリウレタン系複合材料
本発明のポリウレタン系複合材料は、本発明の製造方法によって得られるものであり、ラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)のラジカル重合性基同士及び/又は該ラジカル重合性基とラジカル重合性単量体とがラジカル重合することにより形成された架橋構造を有し、且つ前記ポリウレタン系樹脂に占める前記ポリウレタン成分の割合が80質量%を超え95質量%以下であるという特長を有する新規なポリウレタン系樹脂からなるマトリックス中に充填材が分散したものである。そして、口腔内のような親水環境下においても高い強度を維持しつつ耐水性も有する。このように高い耐水性を有するために、本発明の製造方法は、特に歯科用CAD/CAMシステムを用いて歯科切削加工用材料を切削加工することにより歯科用補綴物を作製する場合において、当該歯科切削加工用材料の製造方法として好適に使用することができる。
【0078】
3.歯科切削加工用材料の製造方法
本発明の第三の形態である歯科切削加工用材料の製造方法は、架橋構造を有するポリウレタン系樹脂からなるマトリックス中に充填材が分散したポリウレタン系複合材料の成形体からなる歯科切削加工用材料を製造する方法であって、本発明の製造方法を含み、前記重合・硬化工程を成形型内で行うことを特徴としている。
【0079】
すなわち、本発明の製造方法における重合・硬化工程で、前記第2原料組成物をモールド内に充填してから加熱してラジカル重合を行うことによりラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)を架橋して得られた本発明のポリウレタン系複合材料の成形体が歯科切削加工用材料となる。上記製造方法で得られた歯科切削加工用材料は、歯科用CAD/CAMシステムを用いて歯科切削加工用材料を切削加工することにより歯科用補綴物を作製するために使用する、所謂、歯科用ミルブランクの被切削加工部として好適に使用することができる。
【0080】
なお、このような歯科用ミルブランクを製造する場合には、被切削加工部の形状に対応したモールドを使用し、必要に応じて例えば40℃以下の温度に加熱した第2原料組成物を、加圧注型法あるいは真空注型法を採用して前記モールド内に注入・充填して硬化を行い、得られた硬化体をモールドから取り出し、必要に応じて、残留応力を緩和させるための熱処理、切削による形状の修正、研磨などの後処理・後加工を行い、更にCAD/CAM装置に保持するためのピン等の固定具を接合することで、歯科切削加工用材料を得ることができる。
【実施例0081】
以下、本発明を、実施例および比較例を挙げて説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0082】
1.原材料
各実施例および比較例において用いた各成分とその略称を以下に示す。
【0083】
(1)ラジカル重合性ジオール(A1)
GLM:グリセロールモノメタクリレート(OH間距離:2)
(2)ジイソシアネート(B1)
XDI:m-キシリレンジイソシアナート
(3)ラジカル重合性モノオール(A2)
HEMA:エチレングリコールモノメタクリレート
GDMA:グリセリンジメタクリレート
(4)ラジカル重合性モノイソシアネート(B2)
MOI:イソシアナトエチルメタクリレート
(5)非重付加性モノマー(C)
TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート
(6)フィラー(D)
F1:シリカ-ジルコニア(平均粒径:0.4μm、メタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル表面処理物)
F2:シリカ-チタニア(平均粒径:0.08μm、メタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル表面処理物)
(7)開始剤(E)
PBC:t-ブチルクミルパーオキサイド(10時間半減期温度120℃)。
【0084】
2.ポリウレタン系材料の製造方法
以下に本発明の製造方法の実施例を、比較例と共に示す。
【0085】
実施例1
(1)第1原料組成物調製工程
先ず、ラジカル重合性ジオール(A1)であるGLM(7.9質量部)、ラジカル重合性モノオール(A2)であるHEMA(2.2質量部)、非重付加性モノマー(C)であるTEGDMA(4.3質量部)、及び開始剤(E)であるPBC(0.1質量部)を混合した混合組成物を調製した。次に、この混合物組成物に対して、フィラー(D)であるF1(52.5質量部)及びF2(22.5質量部)を添加して混練することにより、第1原料組成物を調製した。なお、上記操作は、常温(25℃)環境下において実施した。
【0086】
(2)第2原料組成物調製工程
常温(25℃)環境下において、得られた第1原料組成物(9.0g)を含む自転公転ミキサー内にジイソシアネート(B1)であるXDI(1.24g)を加えて混練した後、37℃で72時間インキュベーター内に静置して重付加反応を行い、ラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)を形成して第2原料組成物を調製した。
第1原料組成物調製工程及び第2原料組成物調製工程で使用した各原料(略号)と使用量(括弧内の数字:単位は質量部)及び組成に関するパラメーターを表1にまとめる。なお、表1においては、「ラジカル重合性」を「重合性」と略記している。また、表1における「TNCO/TOH」は、(A1)と(A2)が有する水酸基の総モル数:TOHに対する(B1)が有するイソシアネート基の総モル数:TNCOの比を意味し、「A2/A1モル比」は、(A1)1モルに対する(A2)のモル比を表し、「C配合比率Rr」は、前記したRr=([C]/[SUM])×100で定義される「重合性単量体配合比率:Rr」を意味し、「D充填率」は前記したフィラー(D)の「充填率」を意味している。また表中の「↑」は「同上」を意味している。
【0087】
(3)第2原料組成物の評価
(3-1)ラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)の数平均分子量の評価
得られた第2原料組成物に関して、ラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)の数平均分子量を次のようにして評価した。すなわち、得られた第2原料組成物1gをスクリュー管瓶に測り取り、DMSOを3.5ml加え撹拌して得られたDMSO溶液を遠心分離機(アズワン株式会社製)にて、10000rpmで10分間遠心分離を行った。次に遠心分離により得られた上澄み液をメンブレンフィルター(PORE SIZE 20μm,株式会社ADVANTEC製)で濾過することにより濾液を得た。そしてこの濾液について、下記に示すGPC測定条件にてGPC測定を行うことにより、重付加反応により得られたラジカル重合性ポリウレタン成分(PU)のポリスチレン換算の数平均分子量を求めた。その結果、数平均分子量は1400であった。
【0088】
[GPC測定条件]
測定装置:Advanced Polymer Chromatography(日本ウォーターズ社製)
・カラム:ACQUITY APCTMXT45 1.7μm
ACQUITY APCTMXT125 2.5μm
・カラム温度:40℃
・展開溶媒:THF(流量:0.5ml/分)
・検出器:フォトダイオードアレイ検出器 254nm(PDA検出器)
(3-2)流動性の評価
第2原料組成物のモールド充填時の保持温度となる37℃における流動性を、以下の手順で測定することにより評価した。すなわち、第2原料組成物を口径9mm、深さ5mmの孔を有する試料台の孔内に充填して、表面を平らにならし、遮光した。次いで、37℃で2分間静置してから、サンレオメーター(株式会社サン科学)を用いて第2原料組成物が充填された孔に口径5mmの感圧棒を120mm/分の速度で第2原料組成物中に深さ2mmまで圧縮進入させた。そしてこの時の最大荷重(Kg)を測定することにより評価した。その結果、37℃における最大荷重は3.2(kg)であった。
【0089】
(4)重合・硬化工程
得られた第2原料組成物を37℃において、真空脱泡した後、型枠(縦12mm×横18mm×厚 さ14mm)に注入し、120℃で18時間、窒素加圧下(0.3MPa)にてラジカル重合することにより、ポリウレタン系樹脂マトリックス中に充填材が分散したポリウレタン系複合材料を得た。
【0090】
(5)ポリウレタン系複合材料(硬化体)の評価
得られたポリウレタン系複合材料について、曲げ強さ、水中曲げ強さ、維持率(耐水性)を評価した。評価方法と結果を以下に示す。
【0091】
[曲げ強さBS
型枠(縦12mm×横18mm×厚さ14mm)を使用して得られたポリウレタン系複合材料(硬化体)を低速のダイヤモンドカッター(Buehler社製)で切り出した後、#2000の耐水研磨紙を用いて研磨することにより、5本の角柱状の試験片(厚さ:約1.2mm×幅:約4.0mm×長さ:14.0mm)を作製した。次に、各試験片についてオートグラフ(島津製作所製)を用いて3点曲げ試験を行い、最大点の曲げ荷重を測定した。曲げ強さ(MPa):BSは、最大点の曲げ荷重(N):P、支点間距離:S、試験片の幅(実測値、mm):W、試験片の厚さ(実測値、mm):Bから、下式:
BS=3PS/2WB
に基づき曲げ強さBSを求めた。最大点の曲げ荷重は、支点間距離は12.0mm、クロスヘッドスピードは1.0mm/分に設定して測定した。その結果、5本の試験片の曲げ強さBSの平均値(曲げ強さBS)は、314MPaであった。
【0092】
[水中曲げ強さBS
[曲げ強さ]の欄にて説明した場合と同様にして試験片5本を作製し、全ての試験片をイオン交換水中にて、37℃で1週間保管した。その後、イオン交換水から取り出した試験片について、表面に付着した水分を除去した後、[曲げ強さ]の欄にて説明した場合と同様の試験条件にて3点曲げ試験を行い、水中保管後の試験片の最大点の曲げ荷重を測定した。その後、個々の水中保管後の試験片について上記式に基づき曲げ強さBSを求めた。その結果、5本の水中保管後の試験片の曲げ強さBSの平均値(水中曲げ強さBS)は、291MPaであった。
【0093】
[維持率(耐水性)]
硬化体の耐水性を示す指標となる維持率は、下式:
維持率(%)=100×BS/BS
に基づいて計算した。本実施例では、維持率は93%であり、高い耐水性を有することが確認された。
【0094】
実施例2~3、比較例1~3
各原料及びその使用量を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、ポリウレタン系複合材料を製造し、第2原料組成物及びポリウレタン系複合材料の評価を行った。その結果を表3に示す。
【0095】
実施例4~5、比較例4~5
ラジカル重合性モノオール(A2)を配合せず、(A1)及び(C)の配合量を表2に示すように変更した他は実施例1と同様にして第1原料組成物を調製した。次に、第2原料組成物調製工程において表2に示す種類と量の(B1)及び(B2)を予め混合してから第1原料組成物に添加した他は実施例1と同様にして第2原料組成物の調製を行い、得られ第2原料組成物の評価を行った。
なお、表2においても「ラジカル重合性」を「重合性」と表記している。また、表2における「TNCO/TOH」は、(A1)が有する水酸基の総モル数:TOHに対する(B1)及び(B2)が有するイソシアネート基の総モル数:TNCOの比を意味し、「B2/B1モル比」は、(B1)1モルに対する(B2)のモル比を表している。
その後、実施例1と同様にして重合・硬化を行い、得られた硬化体(ポリウレタン系複合材料)の評価を行った。第2原料組成物及びポリウレタン系複合材料の評価結果を表3に示す。
【0096】
【表1】
【0097】
【表2】
【0098】
【表3】