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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065394
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】複合繊維の製造方法および複合繊維
(51)【国際特許分類】
   D01D 5/08 20060101AFI20240508BHJP
   D04H 1/728 20120101ALI20240508BHJP
   D01F 6/62 20060101ALI20240508BHJP
   D01F 8/14 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
D01D5/08 D
D04H1/728
D01F6/62 305A
D01F8/14 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174240
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100174388
【弁理士】
【氏名又は名称】龍竹 史朗
(72)【発明者】
【氏名】ホ ゾンズ
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼▲崎▼ 緑
(72)【発明者】
【氏名】鞠谷 雄士
(72)【発明者】
【氏名】宝田 亘
【テーマコード(参考)】
4L035
4L041
4L045
4L047
【Fターム(参考)】
4L035AA05
4L035CC13
4L035DD13
4L035FF05
4L041AA07
4L041BA16
4L041BC04
4L041BD11
4L041CA05
4L041DD14
4L045AA05
4L045AA08
4L045BA03
4L045BA17
4L045BA20
4L045CA01
4L045DB01
4L045DC01
4L045DC08
4L045DC09
4L047AA21
4L047AA27
4L047AB08
4L047CC14
4L047EA22
(57)【要約】
【課題】耐熱性、耐加水分解性が高められた複合繊維の製造方法および複合繊維を提供する。
【解決手段】複合繊維の製造方法では、PDLAから形成された複数の第1繊維と、PLLAから形成され且つ複数の第1繊維が内側に埋設された第2繊維と、を含む原料繊維F10を、ノズル122の筒軸方向における一端側から挿通してノズル122の他端側に突出させ、ノズル122の他端側に突出した原料繊維F10を加熱溶融しつつ、ノズル122に電気的に結合した電極13とノズル122に対向して配置されたボビン16との間に、ボビン16の電位に比べてノズル122の電位が高くなるように電圧を印加することにより、ボビン16に複合繊維F11を捕集させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(L-乳酸)およびポリ(D-乳酸)のうちのいずれか一方から形成された複数の第1繊維と、他方から形成され且つ複数の前記第1繊維が内側に埋設された第2繊維と、を含む原料繊維を、導電性材料から形成された筒状のノズルの筒軸方向における一端側から挿通して前記ノズルの他端側に突出させ、前記ノズルの他端側に突出した前記原料繊維を加熱溶融しつつ、前記ノズルと前記ノズルに対向して配置されたターゲットとの間に、前記ターゲットの電位に比べて前記ノズルの電位が高くなるように電圧を印加することにより、前記ターゲットに前記原料繊維から生成される複合繊維を捕集させる、
複合繊維の製造方法。
【請求項2】
前記ターゲットに捕集させた前記複合繊維を、110℃以上の予め設定された熱処理時温度に加熱する熱処理を更に行う、
請求項1に記載の複合繊維の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理時温度は、190℃以上である、
請求項2に記載の複合繊維の製造方法。
【請求項4】
前記原料繊維は、前記第2繊維の延在方向に沿って複数の前記第1繊維が前記第2繊維に埋設された構造を有し、
前記第1繊維は、ポリ(D-乳酸)から形成され、
前記第2繊維は、ポリ(L-乳酸)から形成されている、
請求項1から3のいずれか1項に記載の複合繊維の製造方法。
【請求項5】
前記原料繊維に含まれる前記第2繊維に対する前記第1繊維の比率は、0.9以上1.1以下である、
請求項1から3のいずれか1項に記載の複合繊維の製造方法。
【請求項6】
前記加熱溶融は、前記ノズルの他端側に突出した前記原料繊維に、炭酸ガスレーザ装置から照射される赤外波長領域のレーザ光を照射することにより行われ、
前記原料繊維における前記レーザ光の照射部分の、前記原料繊維の延在方向における照射エネルギ密度分布の半値全幅は、0.01mm以上且つ2.00mm以下に設定されている、
請求項1から3のいずれか1項に記載の複合繊維の製造方法。
【請求項7】
前記ターゲットは、回転することにより前記複合繊維を巻き取るボビンを有し、
前記ボビンの巻き取り速度は、前記原料繊維の前記ノズルからの送り出し速度に対する比率である延伸率が1000以上となるように設定される、
請求項1から3のいずれか1項に記載の複合繊維の製造方法。
【請求項8】
ポリ(L-乳酸)とポリ(D-乳酸)とから形成されるステレオコンプレックス型のポリ乳酸を含み、
繊維径の平均値は、14μm以下である、
複合繊維。
【請求項9】
繊維径の平均値は、4μm以下であり、
複屈折値は、5.0×10-3以上である、
請求項8に記載の複合繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合繊維の製造方法および複合繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
少なくとも2成分のポリマーを含み、繊維断面から見ていわゆる海島型または芯鞘型の形状を有する原料複合繊維を、供給側電極と捕集側電極との間の領域で加熱溶融して、エレクトロスピニングにより伸長させて得られる極細複合繊維を集積する繊維集合物の製造方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2010/027063号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載されているような極細の繊維は、繊維径が小さく、例えばこれを用いた熱接着不織布は、衣料用材料、自動車用部材等として好適に使用される。このため、このような極細の繊維について耐熱性、耐加水分解性の向上が求められている。また、このような極細の繊維の原材料の候補として、ポリ乳酸が挙げられる。ポリ乳酸のエナンチオマとして、ポリ(L-乳酸)(以下、「PLLA」と称する。)と、ポリ(D-乳酸)(以下、「PDLA」と称する。)と、が存在し、これらを混合することにより、ステレオコンプレックス型のポリ乳酸(以下、「SC-PLA」と称する。)を形成する。このSC-PLAは、PLLAよりも融点が高く、生分解性が低い性質を有することから、このSC-PLAを含む極細繊維の実現が要請されている。
【0005】
本発明は、上記事由に鑑みてなされたものであり、耐熱性、耐加水分解性が高められた複合繊維の製造方法および複合繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る複合繊維の製造方法は、
ポリ(L-乳酸)およびポリ(D-乳酸)のうちのいずれか一方から形成された複数の第1繊維と、他方から形成され且つ複数の前記第1繊維が内側に埋設された第2繊維と、を含む原料繊維を、導電性材料から形成された筒状のノズルの筒軸方向における一端側から挿通して前記ノズルの他端側に突出させ、前記ノズルの他端側に突出した前記原料繊維を加熱溶融しつつ、前記ノズルと前記ノズルに対向して配置されたターゲットとの間に、前記ターゲットの電位に比べて前記ノズルの電位が高くなるように電圧を印加することにより、前記ターゲットに前記原料繊維から生成される複合繊維を捕集させる。
【0007】
本発明に係る複合繊維は、
ポリ(L-乳酸)とポリ(D-乳酸)とから形成されるステレオコンプレックス型のポリ乳酸を含み、
繊維径の平均値は、14μm以下である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ステレオコンプレックス型ポリ乳酸を含むことにより、ポリ(L-乳酸)から形成された繊維に比べて、耐熱性、耐加水分解性が高められた複合繊維を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態に係る複合繊維の製造装置の概略図である。
図2】本実施の形態に係る原料繊維の断面図である。
図3】比較例に係る原料繊維の断面図である。
図4】(A-1)は比較例1に係る複合繊維のSEM画像であり、(A-2)は比較例2に係る複合繊維のSEM画像であり、(A-3)は比較例3に係る複合繊維のSEM画像であり、(B-1)は比較例8に係る複合繊維のSEM画像であり、(B-2)は実施例1に係る複合繊維のSEM画像であり、(B-3)は実施例2に係る複合繊維のSEM画像である。
図5】(A-1)は比較例4に係る複合繊維のSEM画像であり、(A-2)は比較例5に係る複合繊維のSEM画像であり、(A-3)は比較例6に係る複合繊維のSEM画像であり、(A-4)は比較例7に係る複合繊維のSEM画像であり、(B-1)は比較例9に係る複合繊維のSEM画像であり、(B-2)は実施例3に係る複合繊維のSEM画像であり、(B-3)は実施例4に係る複合繊維のSEM画像であり、(B-4)は実施例5に係る複合繊維のSEM画像である。
図6】(A-1)は比較例1に係る複合繊維の繊維径の分布を示す図であり、(A-2)は比較例2に係る複合繊維の繊維径の分布を示す図であり、(A-3)は比較例3に係る複合繊維の繊維径の分布を示す図であり、(B-1)は比較例8に係る複合繊維の繊維径の分布を示す図であり、(B-2)は実施例1に係る複合繊維の繊維径の分布を示す図であり、(B-3)は実施例2に係る複合繊維の繊維径の分布を示す図である。
図7】(A-1)は比較例4に係る複合繊維の繊維径の分布を示す図であり、(A-2)は比較例5に係る複合繊維の繊維径の分布を示す図であり、(A-3)は比較例6に係る複合繊維の繊維径の分布を示す図であり、(A-4)は比較例7に係る複合繊維の繊維径の分布を示す図であり、(B-1)は比較例9に係る複合繊維の繊維径の分布を示す図であり、(B-2)は実施例3に係る複合繊維の繊維径の分布を示す図であり、(B-3)は実施例4に係る複合繊維の繊維径の分布を示す図であり、(B-4)は実施例5に係る複合繊維の繊維径の分布を示す図である。
図8】(A)は芯鞘型の原料繊維並びに芯鞘型の原料繊維から作製された複合繊維のDSCサーモグラムであり、(B)は海島型の原料繊維並びに海島型の原料繊維から作製された複合繊維のDSCサーモグラムである。
図9】(A)は芯鞘型の原料繊維から作製された複合繊維の120℃での熱処理後におけるDSCサーモグラムであり、(B)は海島型の原料繊維から作製された複合繊維の120℃での熱処理後におけるDSCサーモグラムである。
図10】(A)は芯鞘型の原料繊維並びに比較例1乃至3に係る複合繊維の複屈折値の繊維径依存性を示す図であり、(B)は芯鞘型の原料繊維並びに比較例5乃至7に係る複合繊維の複屈折値の繊維径依存性を示す図である。
図11】(A)は海島型の原料繊維並びに比較例8および実施例1、2に係る複合繊維の複屈折値の繊維径依存性を示す図であり、(B)は海島型の原料繊維並びに実施例3乃至5に係る複合繊維の複屈折値の繊維径依存性を示す図である。
図12】(A)は芯鞘型の原料繊維から作製された複合繊維の複屈折値のノズルと戊辰の周壁部分との間に印加する電圧の依存性を示す図であり、(B)は海島型の原料繊維から作製された複合繊維の複屈折値のノズルと戊辰の周壁部分との間に印加する電圧の依存性を示す図である。
図13】(A)は芯鞘型の原料繊維から作製された複合繊維の複屈折値のボビンによる巻き取り速度依存性を示す図であり、(B)は海島型の原料繊維から作製された複合繊維の複屈折値のボビンによる巻き取り速度依存性を示す図である。
図14】(A)は芯鞘型の原料繊維のX線回折プロファイルを示す図であり、(B)は海島型の原料繊維のX線回折プロファイルを示す図である。
図15】(A-1)は比較例1に係る複合繊維のX線回折プロファイルを示す図であり、(A-2)は比較例2に係る複合繊維のX線回折プロファイルを示す図であり、(A-3)は比較例3に係る複合繊維のX線回折プロファイルを示す図であり、(B-1)は比較例8に係る複合繊維のX線回折プロファイルを示す図であり、(B-2)は実施例1に係る複合繊維のX線回折プロファイルを示す図であり、(B-3)は実施例2に係る複合繊維のX線回折プロファイルを示す図である。
図16】(A-1)は比較例5に係る複合繊維のX線回折プロファイルを示す図であり、(A-2)は比較例6に係る複合繊維のX線回折プロファイルを示す図であり、(A-3)は比較例7に係る複合繊維のX線回折プロファイルを示す図であり、(B-1)は実施例3に係る複合繊維のX線回折プロファイルを示す図であり、(B-2)は実施例4に係る複合繊維のX線回折プロファイルを示す図であり、(B-3)は実施例5に係る複合繊維のX線回折プロファイルを示す図である。
図17】(A)は比較例1に係る複合繊維の120℃での熱処理後におけるX線回折プロファイルを示す図であり、(B)は比較例2に係る複合繊維の120℃での熱処理後におけるX線回折プロファイルを示す図であり、(C)は比較例3に係る複合繊維の120℃での熱処理後におけるX線回折プロファイルを示す図である。
図18】(A)は比較例5に係る複合繊維の120℃での熱処理後におけるX線回折プロファイルを示す図であり、(B)は比較例6に係る複合繊維の120℃での熱処理後におけるX線回折プロファイルを示す図であり、(C)は比較例7に係る複合繊維の120℃での熱処理後におけるX線回折プロファイルを示す図である。
図19】(A)は比較例8に係る複合繊維の120℃での熱処理後におけるX線回折プロファイルを示す図であり、(B)は実施例1に係る複合繊維の120℃での熱処理後におけるX線回折プロファイルを示す図であり、(C)は実施例2に係る複合繊維の120℃での熱処理後におけるX線回折プロファイルを示す図である。
図20】(A)は実施例3に係る複合繊維の120℃での熱処理後におけるX線回折プロファイルを示す図であり、(B)は実施例4に係る複合繊維の120℃での熱処理後におけるX線回折プロファイルを示す図であり、(C)は実施例5に係る複合繊維の120℃での熱処理後におけるX線回折プロファイルを示す図である。
図21】(A)は比較例7に係る複合繊維の190℃での熱処理後におけるSEM画像であり、(B)は実施例5に係る複合繊維の190℃での熱処理後におけるSEM画像であり、(C)は実施例5に係る複合繊維の200℃での熱処理後におけるSEM画像である。
図22】実施例3乃至5に係る複合繊維の熱処理後におけるDSCサーモグラムである。
図23】(A)は実施例3に係る複合繊維の190℃での熱処理後におけるX線回折プロファイルを示す図であり、(B)は実施例4に係る複合繊維の190℃での熱処理後におけるX線回折プロファイルを示す図である。
図24】(A)は実施例5に係る複合繊維の190℃での熱処理後におけるX線回折プロファイルを示す図であり、(B)は実施例5に係る複合繊維の200℃での熱処理後におけるX線回折プロファイルを示す図である。
図25】(A)は実施例3に係る複合繊維の110℃での熱処理後におけるX線回折プロファイルを示す図であり、(B)は実施例4に係る複合繊維の110℃での熱処理後におけるX線回折プロファイルを示す図である。
図26】実施例5に係る複合繊維の110℃での熱処理後におけるX線回折プロファイルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態に係る複合繊維の製造方法および複合繊維について図面を参照しながら説明する。本実施の形態に係る複合繊維の製造方法では、例えば図1に示すような複合繊維製造装置1を使用することができる。この複合繊維製造装置1では、原料繊維F10が、レーザ光LA1が照射されて溶融した状態で、ノズル122とボビン16との間に生じる電場によりボビン16側に向かって伸長され、それにより形成される複合繊維F11がボビン16に巻き取られる。複合繊維製造装置1は、原料繊維F10が巻回されたリール17と、ノズルユニット12と、ノズルユニット12に固定された電極13と、リール17から導出された原料繊維F10をノズルユニット12側へ搬送するフィーダ11と、生成された複合繊維F11を巻き取るボビン16と、を備える。また、複合繊維製造装置1は、レーザ光LA1を放射するレーザ源14と、レーザ源14から放射されるレーザ光LA1を、原料繊維F10を加熱溶融する場所に向かう方向へ反射するミラー151と、レーザ光LA1のビームプロファイルを整形するためのアパーチャ152と、を備える。更に、複合繊維製造装置1は、ノズルユニット12に固定された電極13とボビン16との間に電圧を印加する電圧印加部18を備える。
【0011】
原料繊維F10は、図2に示すように、PDLAから形成された複数の第1繊維F101と、PLLAから形成され且つ複数の第1繊維F101が内側に埋設された第2繊維F102と、を含むいわゆる海島型の複合繊維である。ここで、複数の第1繊維F101が原料繊維F10におけるいわゆる島成分に対応し、第2繊維F102が、原料繊維F10におけるいわゆる海成分に対応する。より詳細には、原料繊維F10は、第2繊維F102の延在方向に沿って複数の第1繊維F101が第2繊維F102に埋設された構造を有する。この原料繊維F10は、例えば溶融紡糸法により作製される。
【0012】
ノズルユニット12は、板状であり厚さ方向に貫通する貫通孔121aを有する本体部121と、長尺の筒状であり本体部121の厚さ方向における一面側における貫通孔121aの外周部に連続し本体部121の一面側へ延在するノズル122と、を有する。ここで、貫通孔121aおよびノズル122の内径は、原料繊維F10の外径よりも大きくなるように設定されている。このノズルユニット12は、金属のような導電性材料から形成されている。電極13は、板状であり厚さ方向に貫通する貫通孔13aを有し、ノズル122が貫通孔13aに挿通された状態でノズルユニット12に固定されている。ここで、電極13は、ノズルユニット12の本体部121の一面側に面接触しており、ノズルユニット12に電気的に接続された状態となっている。そして、リール17から導出された原料繊維F10は、ノズル122の筒軸方向におけるリール17側の一端側から挿通してノズル122の他端側に突出させた状態で維持される。
【0013】
フィーダ11は、2つのローラ111aと2つのローラ111a間に懸架された摩擦ベルト111bとを有するサブユニット111と、2つのローラ112aと2つのローラ112a間に懸架された摩擦ベルト112bとを有するサブユニット112を有する。また、サブユニット111、112は、それぞれ、ローラ111a、112aを回転駆動するローラ駆動部(図示せず)を有する。2つのサブユニット111、112は、それぞれの摩擦ベルト111b、112bで原料繊維F10が挟持されるように配置されている。そして、ローラ駆動部は、サブユニット111、112のローラ111a、112aを同期して回転させることにより、リール17から導出された原料繊維F10を矢印AR1に示すようにノズルユニット12側へ搬送する。ここで、フィーダ11による原料繊維F10の搬送速度は、例えば40mm/minに設定される。また、原料繊維F10のノズル122からの送り出し速度は、フィーダ11による搬送速度と等しく、搬送速度が40mm/minの場合、送り出し速度も40mm/minとなる。
【0014】
レーザ源14は、例えば炭酸ガスレーザ装置であり、赤外光の波長帯域のレーザ光LA1を放射する。ミラー151の配置および姿勢並びにアパーチャ152の配置は、レーザ源14から放射されたレーザ光LA1が、ノズル122の他端側に突出した原料繊維F10に照射されるように設定されている。これにより、ノズル122の他端側に突出した原料繊維F10が、レーザ光LA1により加熱溶融される。アパーチャ152はスリット、集光レンズ等で構成され、レーザ光LA1の照射幅、即ち、原料繊維F10におけるレーザ光LA1の照射部分の原料繊維F10の延在方向における照射エネルギ密度分布の半値全幅を制御することができる。そのレーザ照射幅は、0.01mm以上且つ2.00mm以下であることが好ましい。
【0015】
ボビン16は、円筒状であり、少なくとも複合繊維F11を巻き取る周壁部分が金属のような導電性材料から形成されており、ノズル122に対向して配置されたターゲットである。ボビン16は、ボビン16の回転中心C16を通り、ボビン16の筒軸方向に沿って延在するシャフト(図示せず)により軸支されており、シャフトは、シャフトを中心軸周りに回転駆動させるボビン駆動部(図示せず)に連結されている。ボビン駆動部は、シャフトおよびシャフトに軸支されたボビン16を纏めて回転させることにより、複合繊維F11を予め設定された速度で巻き取る。ここで、ボビン16の巻き取り速度は、原料繊維F10のノズル122からの送り出し速度に対する比率である延伸率が1000以上となるように設定される。例えば原料繊維F10のノズル122からの送り出し速度が40mm/minに設定されている場合、巻き取り速度は、40m/min以上に設定される。
【0016】
電圧印加部18は、電極13および電極13と電気的に接続されたノズル122とボビン16の周壁部分との間に、ボビン16の周壁部分の電位に比べてノズル122の電位が高くなるように電圧を印加する。ここで、ボビン16の周壁部分は、接地電位で維持されている。
【0017】
本実施の形態に係る複合繊維の製造方法では、前述の原料繊維F10を、ノズル122の筒軸方向における一端側から挿通してノズル122の他端側に突出させ、ノズル122の他端側に突出した原料繊維F10にレーザ光LA1を照射することにより原料繊維F10を加熱溶融する。そして、原料繊維F10を加熱溶融しつつ、ノズル122とボビン16の周壁部分との間に、ボビン16の周壁部分の電位に比べてノズル122の電位が高くなるように電圧を印加することにより、ボビン16に原料繊維F10から生成される複合繊維F11を捕集させる。
【0018】
また、本実施の形態に係る複合繊維の製造方法では、更に、ボビン16に捕集させた複合繊維を、120℃以上の予め設定された熱処理時温度に加熱する熱処理を行う。なお、熱処理では、複合繊維F11を190℃以上の温度に加熱することが好ましい。
【0019】
本実施の形態に係る複合繊維F11は、ポリ(L-乳酸)とポリ(D-乳酸)とから形成されるステレオコンプレックス型のポリ乳酸を含む。そして、複合繊維の繊維径の平均値は、14μm以下である。更に、後述する複合繊維の示差走査熱量測定により得られるDSC(Differential Scanning Calorimetry)サーモグラムから求められる複合繊維に含まれるステレオコンプレックス型ポリ乳酸の結晶化度は、28%以上である。また、複合繊維F11の繊維径の平均値が4.0μm以下である場合、その複屈折値は、5.0×10-3以上である。
【0020】
以上説明したように、本実施の形態に係る複合繊維の製造方法によれば、ステレオコンプレックス型ポリ乳酸を含むことにより、PLLAから形成された繊維に比べて、耐熱性、耐加水分解性が高められた複合繊維F11を作製することができる。
【0021】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は前述の実施の形態の構成に限定されるものではない。例えば複合繊維の製造方法が、円筒状の第1サブノズルと、円筒状であり第1サブノズルに比べて開口径の小さく第1サブノズルの内側に配置された複数の第2サブノズルと、を有する二重構造ノズルを用いて、第1サブノズルから溶融したPLLAを押出すとともに、第2サブノズルから溶融したPDLAを押出ながら、ノズルの周囲からノズルから押し出された複合繊維に高温の気体を当てて引き延ばしながらボビン16で巻き取る方法、即ち、メルトブローン法とエレクトロスピニング法とを組み合わせた方法であってもよい。或いは、複合繊維の製造方法が、前述の二重構造ノズルを用いて、第1サブノズルから溶融したPLLAを押出すとともに、第2サブノズルから溶融したPDLAを押出ながらボビン16で巻き取る方法、即ち、溶融押出法とエレクトロスピニング法とを組み合わせた方法であってもよい。
【0022】
実施の形態並びに前述の変形例では、一本の複合繊維(いわゆるモノフィラメント)を製造する例について説明したが、モノフィラメントを製造する例に限定されるものではない。例えば実施の形態において、ノズルユニット12が、複数のノズル122を有し、各ノズル122から原料繊維F10が送り出される構成であってもよい。そして、複数のノズル122それぞれから送り出された原料繊維F10から生成される複合繊維F11をボビン16で纏めて巻き取ることにより、複数本の複合繊維からなるいわゆるマルチフィラメントを製造するものであってもよい。或いは、前述の二重構造ノズルを複数用いて、複数の二重構造ノズルそれぞれから溶融したPLLAおよび溶融したPDLAを押し出しながら、押し出されたPLLA、PDLAそれぞれから生成された複合繊維をボビン16で纏めて巻き取ることにより、複数本の複合繊維からなるいわゆるマルチフィラメントを製造するものであってもよい。
【実施例0023】
本発明に係る複合繊維の製造方法並びに複合繊維について、実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、後述する実施例に限定されるものではない。
【0024】
比較例1乃至7に係る複合繊維の製造方法では、図3に示すような、PDLAから形成された繊維F201を、PLLAから形成された繊維F202で囲繞してなるいわゆる芯鞘型の原料繊維F20を採用した。ここで、繊維F201が、原料繊維F20におけるいわゆる芯成分に対応し、繊維F202が、原料繊維F20におけるいわゆる鞘成分に対応する。比較例8並びに実施例1乃至6に係る複合繊維の製造方法では、実施の形態で説明したいわゆる海島型の原料繊維F10を採用した。ここで、比較例8、9並びに実施例1乃至5に係る原料繊維F10としては、いずれも、第2繊維F102中に、第1繊維F101が1519本埋設されたものを採用した。また、比較例1乃至7に係る原料繊維F20、および、比較例8、9並びに実施例1乃至5に係る原料繊維F10は、それぞれ、芯鞘型、海島型の構造に対応する口金を用いた溶融紡糸法により作製された。この溶融紡糸法には、分子量が120000g/molであるPDLAを含み純度が95%以上のPDLAペレットと、分子量が130000g/molであるPLLAを含み純度が95%以上であるPLLAペレットと、を、それぞれ、60℃の温度環境下に24時間放置することにより乾燥させた後、120℃の温度環境下に24時間放置することにより結晶化させたものを使用した。
【0025】
比較例1乃至9並びに実施例1乃至5に係る複合繊維の製造方法では、いずれも、実施の形態で説明した複合繊維製造装置1を使用した。これらの複合繊維の製造方法では、いずれもノズル122の先端部からレーザ光LA1により加熱溶融される場所までの距離(図1の距離L1)を0.8mmに設定した。また、ノズル122の先端部からボビン16の回転中心(図1のC16)までの距離(図1の距離L2)を5cmに設定した。フィーダ11による原料繊維F10の搬送速度は、40mm/minに設定した。比較例1乃至9並びに実施例1乃至5におけるボビン16による巻き取り速度、原料繊維F10、F20に照射するレーザ光LA1のパワー、ノズル122とボビン16との間に印加する電圧は、下記表1に示す通りである。
【0026】
【表1】
【0027】
次に、比較例1乃至9並びに実施例1乃至5に係る複合繊維の製造方法により作製された複合繊維のモフォロジの観察並びに繊維径の分布の解析を行った結果について説明する。ここで、複合繊維のモフォロジは、走査型電子顕微鏡(TM3000、日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて、加速電圧15kVに設定したSEM(scanning electron microscopy)画像を撮像することにより行った。また、繊維径の分布の解析は、撮像したSEM画像について画像処理ソフトウェア(Image J version 1.8.0:米国国立衛生研究所製)を用いた画像処理により行った。ボビン16を回転させて複合繊維を巻き取る比較例1乃至3、比較例5乃至7、比較例9並びに実施例1乃至5に係る製造方法により作製された複合繊維は、それぞれ、図4(A-1)乃至(Bー3)並びに図5(A-2)乃至(A-4)および図5(B-2)乃至(B-4)に示すSEM画像のように、表面が比較的滑らかであり且つ互いに離間した状態で略一方向に配向している様子が観察された。一方、ボビン16を回転させずに複合繊維を捕集する比較例4、8に係る製造方法により作製された複合繊維は、それぞれ、図5(A-1)および(B-1)に示すように、ランダムに配向しており数箇所で互いに融着している様子が観察された。このことから、ボビン16を回転させる複合繊維を巻き取ることにより、ノズル122とボビン16との間に発生させる電界による原料繊維の伸長効果に加えて、ボビン16で巻き取る力による原料繊維の伸長効果が生じることが判った。
【0028】
また、比較例1乃至9並びに実施例1乃至5に係る複合繊維の製造方法により作製された複合繊維の繊維径は、それぞれ、図6(A-1)乃至(B-3)並びに図7(A-1)乃至(B-4)に示すような分布を示した。比較例1乃至9並びに実施例1乃至5に係る複合繊維の製造方法により作製された複合繊維の繊維径の平均値および変動係数については、下記表2に示す結果が得られた。
【0029】
【表2】
【0030】
表2に示す比較例1乃至3並びに比較例8、実施例1および実施例2の平均繊維径から、ノズル122とボビン16の周壁部分との間に印加する印加電圧を変化させても平均繊維径が大きく変化しないことが判った。一方、比較例4乃至7、比較例9および実施例3乃至5の平均繊維径から、複合繊維をボビン16により巻き取る場合、ボビン16を回転させずに複合繊維をウェブ状で捕集する場合に比べて、複合繊維の平均繊維径が小さくなることが判った。またボビン16による複合繊維の巻き取り速度が大きいほど複合繊維の平均繊維径が小さくなることが判った。これらのことから、ボビン16による複合繊維の巻き取り速度が、複合繊維の繊維径を決定する要因として支配的であることが判る。
【0031】
次に、比較例1乃至3、比較例5乃至8並びに実施例1乃至5に係る複合繊維の製造方法により作製された複合繊維の示差走査熱量測定を行った結果について説明する。示差走査熱量測定には、示差走査熱量計(DSC60A-Plus:島津製作所製)を使用した。この測定では、まず、芯鞘型の原料繊維、海島型の原料繊維それぞれを10mg、比較例1乃至3、比較例4乃至8並びに実施例1乃至5に係る複合繊維それぞれを1mg秤量した。そして、窒素雰囲気下において、10℃/minの昇温速度で25℃から250℃まで昇温させながらDSCサーモグラムを測定した。また、比較例1乃至3、比較例4乃至8並びに実施例1乃至5に係る複合繊維に対して熱処理を行った後の複合繊維について示差走査熱量測定を行った結果についても説明する。
【0032】
図8(A)および(B)に示すように、芯鞘型の原料繊維、海島型の原料繊維、比較例1乃至3、比較例5乃至8および実施例1乃至5に係る複合繊維それぞれについて、ガラス転移温度である60℃で僅かな変化が観測された。また、芯鞘型の原料繊維、海島型の原料繊維、比較例1乃至3、比較例5乃至8および実施例1乃至5に係る複合繊維それぞれについて、75℃乃至101℃の範囲で結晶化に伴う発熱ピークが観測された。このことから、芯鞘型の原料繊維、海島型の原料繊維、比較例1乃至3、比較例5乃至8および実施例1乃至5に係る複合繊維それぞれにおいて、結晶化プロセスが不完全であることが判る。また、比較例1乃至3、比較例5乃至8および実施例1乃至5に係る複合繊維それぞれの結晶化に伴うピークは、芯鞘型の原料繊維、海島型の原料繊維における結晶化に伴うピークに比べて低温側に現れている。また、比較例1乃至3、8および実施例1および2に係る複合繊維に対応する結晶化に伴うピークは、ノズル122とボビン16の周壁部分との間に印加する電圧が高いほど低温側に現れることが判る。更に、比較例5乃至7および実施例3乃至5に係る複合繊維に対応する結晶化に伴うピークは、ボビン16による巻き取り速度が大きい、即ち、複合繊維の巻き取り速度の原料繊維のノズル122からの送り出し速度に対する比率である延伸率が高いほど低温側に現れることが判る。これは、延伸率が高いほど、原料繊維の伸長に起因し分子配向が増大することに対応すると考えられる。
【0033】
また、芯鞘型の原料繊維、海島型の原料繊維、比較例1乃至3、比較例5乃至8および実施例1乃至5に係る複合繊維それぞれについて、173℃付近に結晶の融解に伴う吸熱ピークが観測された。また、海島型の原料繊維、比較例1乃至3、比較例5乃至8および実施例1乃至5に係る複合繊維それぞれについては、222℃付近にも結晶の融解に伴う吸熱ピークが観測された。ここで、173℃付近の吸熱ピークは、ポリ乳酸のα晶の融解に対応するものであり、222℃付近の吸熱ピークは、ステレオコンプレックス型のポリ乳酸の結晶の融解に対応するものである。更に、芯鞘型の原料繊維、海島型の原料繊維、比較例1乃至3、比較例5乃至8および実施例1乃至5に係る複合繊維それぞれについて、173℃付近の吸熱ピークの低温側に隣接して弱い発熱ピークが観測された。これは、ポリ乳酸のα’晶からα晶への転移に起因したものと考えられる。
【0034】
また、比較例1乃至3、比較例5乃至7に係る芯鞘型の原料繊維から作製された複合繊維では、いずれも、ポリ乳酸のα晶の融解に対応する吸熱ピークが、ステレオコンプレックス型のポリ乳酸の結晶の融解に対応する吸熱ピークに比べて高く観測された。これに対して、比較例8および実施例1乃至5に係る海島型の原料繊維から作製された複合繊維では、いずれも、ステレオコンプレックス型のポリ乳酸の結晶の融解に対応する吸熱ピークが、ポリ乳酸のα晶の融解に対応する吸熱ピークに比べて高く観測された。特に、実施例3乃至5に係る複合繊維では、実施例1および2に係る複合繊維に比べて、吸熱ピークの高さの差異がより顕著に現れた。これらの結果から、海島型の原料繊維は、芯鞘型の原料繊維に比べてPLLAから形成された繊維とPLDAから形成された繊維との接触面積が大きくこれらの繊維間でのPLLAとPDLAとの相互作用によるステレオコンプレックス型ポリ乳酸の形成が促進されることが判った。
【0035】
図8(A)および(B)に示すDSCサーモグラムから、芯鞘型の原料繊維、海島型の原料繊維、比較例1乃至3、5乃至8および実施例1乃至5に係る複合繊維それぞれのガラス転移に伴う熱流量変化点、結晶化に伴う発熱ピーク、融解に伴う吸熱ピーク、結晶化度について下記表3に示す結果が得られた。表3において、Tは、ガラス転移に伴う熱流量変化点、Tは、結晶化に伴う発熱ピークの頂点に相当する温度、Tm1は、ポリ乳酸のα晶の融解に伴う吸熱ピークの頂点に相当する温度、Tm2は、ステレオコンプレックス型のポリ乳酸の結晶の融解に伴う吸熱ピークの頂点に相当する温度である。Xは、結晶化度であり、下記式(1)乃至式(4)で表される関係式を用いて算出した。
【0036】
【数1】
・・・式(1)
【0037】
【数2】
・・・式(2)
【0038】
【数3】
・・・式(3)
【0039】
【数4】
・・・式(4)
【0040】
ここで、ΔHm1は、DSCサーモグラムの173℃付近に現れる吸熱ピークの面積から算出されるポリ乳酸のα晶の融解エンタルピを示し、ΔHm2は、DSCサーモグラムの222℃付近に現れる吸熱ピークの面積から算出されるステレオコンプレックス型のポリ乳酸の結晶の融解エンタルピを示す。また、ΔHm10は、ポリ乳酸のα晶の融解エンタルピの理論値を示し、ΔHm2は、ステレオコンプレックス型のポリ乳酸の結晶の融解エンタルピの理論値を示し、ΔH (blend)は、α晶のポリ乳酸の結晶とステレオコンプレックス型のポリ乳酸の結晶とをX:Xの比率で含む完全な結晶の融解エンタルピの理論値を示す。ΔHは、DSCサーモグラムの発熱ピークから算出されるエンタルピである。
【0041】
また、X(SC)は、ステレオコンプレックス型のポリ乳酸の結晶化度であり、下記式(5)で表される関係式を用いて算出した。
【0042】
【数5】
・・・式(5)
【0043】
【表3】
【0044】
表3に示すように、原料繊維並びに比較例1乃至3、5乃至7に係る複合繊維では、ステレオコンプレックス型のポリ乳酸の結晶化度が14%未満であった。これに対して、比較例8および実施例1乃至5に係る複合繊維では、ステレオコンプレックス型のポリ乳酸の結晶化度が25%以上であった。このことから、海島型の原料繊維から作製された複合繊維は、芯鞘型の原料繊維から形成された複合繊維に比べて、それに含まれるステレオコンプレックス型のポリ乳酸の結晶化度を2倍近くまで増加させることができるので、その分、耐熱性、耐加水分解性を大幅に高めることができることが判った。
【0045】
また、比較例1乃至3、比較例4乃至8および実施例1乃至5に係る複合繊維に対して前述の熱処理を行った後の複合繊維では、図9(A)および(B)に示すように、60℃近傍のガラス転移に伴う変化、並びに、75℃乃至101℃の範囲に現れる結晶化に伴う発熱ピークは、観測されなかった。これは、前述の熱処理により複合繊維に含まれるポリ乳酸の結晶化が進んだことを反映していると考えられる。また、比較例1乃至3、比較例5乃至7に係る熱処理後の複合繊維では、図9(A)に示すように、いずれも、ポリ乳酸のα晶の融解に対応する吸熱ピークが、ステレオコンプレックス型のポリ乳酸の結晶の融解に対応する吸熱ピークに比べて高く観測された。これに対して、比較例8および実施例1乃至5に係る熱処理後の複合繊維では、図9(B)に示すように、いずれも、ステレオコンプレックス型のポリ乳酸の結晶の融解に対応する吸熱ピークが、ポリ乳酸のα晶の融解に対応する吸熱ピークに比べて高く観測された。また、特に、実施例3乃至5に係る複合繊維では、実施例1および2に係る複合繊維に比べて、吸熱ピークの高さの差異がより顕著に現れた。このように、ポリ乳酸のα晶の融解に対応する吸熱ピークと、ステレオコンプレックス型のポリ乳酸の結晶の融解に対応する吸熱ピークと、の大小関係の傾向は、熱処理前後で同じであった。
【0046】
また、図9(A)および(B)に示すDSCサーモグラムから、比較例1乃至3、5乃至8および実施例1乃至5に係る熱処理後の複合繊維それぞれの融解に伴う吸熱ピーク、結晶化度について下記表4に示す結果が得られた。ここで、熱処理は、複合繊維を120℃に加熱した状態で1時間維持することにより行った。表4における、Tm1、Tm2、X、X(SC)は、いずれも表3の場合と同じ意味を示す。
【0047】
【表4】
【0048】
表4に示すように、比較例1乃至3、5乃至7に係る複合繊維では、ステレオコンプレックス型のポリ乳酸の結晶化度が5%乃至15%の範囲内であった。これに対して、実施例1乃至5に係る複合繊維では、ステレオコンプレックス型のポリ乳酸の結晶化度が25%以上であった。即ち、熱処理の前後において、各種の複合繊維に含まれるステレオコンプレックス型のポリ乳酸の結晶化度は大きくは変化しないことが判った。このことから、複合繊維に含まれるポリ乳酸の結晶化度に対して、原料繊維の構造による影響が大きいことが判った。
【0049】
次に、比較例1乃至3、比較例4乃至8および実施例1乃至5に係る複合繊維の製造方法により作製された複合繊維の光学的特性について評価した結果について説明する。光学的特性の評価には、システム偏光顕微鏡(BX53-P:オリンパス社製)を使用した。このシステム偏光顕微鏡では、光軸上に2枚の直線偏光板をクロスニコル配置し、それらの間にベレックコンペンセータを介挿した状態で対象物を観測できる。そして、このシステム偏光顕微鏡を使用して得られる顕微鏡画像に基づいて、複合繊維を透過する正常光と異常光との光学位相差を算出し、算出した光学位相差から複屈折値を算出した。複屈折値は、下記式(6)の関係式を用いて算出した。
【0050】
【数6】
・・・(6)
【0051】
ここで、Δnは、複屈折値であり、Rは、システム偏光顕微鏡を使用して得られる顕微鏡画像に基づいて算出された複合繊維を透過する正常光と異常光との光学位相差を示し、dは、複合繊維の繊維径を示す。
【0052】
原料繊維は、芯鞘型および海島型のいずれも、図10(A)および(B)並びに図11(A)および(B)に示すように、1.9×10-4程度の比較的低い複屈折値が得られた。そして、比較例1乃至3、比較例4乃至8および実施例1乃至5に係る複合繊維は、いずれも、原料繊維に比べて高い複屈折値が得られた。特に、実施例3乃至5に係る複合繊維の複屈折値は、5.0×10-3以上となった。また、芯鞘型の原料繊維から作製された複合繊維並びに海島型の原料繊維から作製された複合繊維の両方において、繊維径が小さくなるほど複屈折値が増加する傾向が観測された。特に、比較例5乃至7並びに実施例3乃至5に係る複合繊維の測定結果から、前述の延伸率が1000以上になると、繊維径が小さくなるほど、測定される複屈性値のバラツキが大きくなる傾向が顕著になることが判った。
【0053】
また、図12(A)および(B)に示すように、芯鞘型の原料繊維から作製された複合繊維並びに海島型の原料繊維から作製された複合繊維の両方において、ノズル122とボビン16の周壁部分との間に印加する電圧が20kVになると、複屈折値が増加する傾向が観測された。このことから、ノズル122とボビン16の周壁部分との間に印加する電圧を20kVまで増加させることにより、複合繊維に含まれるポリ乳酸の分子配向率が増加することが判る。更に、図13(A)および(B)に示すように、芯鞘型の原料繊維から作製された複合繊維並びに海島型の原料繊維から作製された複合繊維の両方において、ボビン16の巻き取り速度の増加、即ち、延伸率の増加に伴い複屈折値が上昇する傾向が観測された。このことから、DSCサーモグラムにおける延伸率の増加に伴うポリ乳酸の結晶化に対応する発熱ピークの頂点に対応する温度の減少は、延伸率の増加に伴う分子配向率の増加に起因したものと考えられる。
【0054】
次に、比較例1乃至3、比較例4乃至8並びに実施例1乃至5に係る複合繊維の製造方法により作製された複合繊維に含まれるポリ乳酸結晶の結晶構造について評価した結果について説明する。結晶構造の評価は、CuKα線(波長:0.154956nm)を使用するX線回折測定装置(Miniflex600:リガク社製)を使用して、印加電圧40kV、印加電流15mAの条件で測定を行った。また、X線の照射方向は、複合繊維の繊維軸方向(0度)と、繊維軸と直交する方向(90度)と、の2種類に設定した。また、検出器の走査は、ブラッグ角(2θ)で10度から30度の範囲内で、走査速度0.2度/min、走査ステップ0.01度の条件で行った。
【0055】
図14(A)および(B)に示すように、芯鞘型の原料繊維および海島型の原料繊維のいずれについても、X線照射方向が0度の場合のプロファイルと90度の場合のプロファイルとが略一致した。即ち、非晶質構造に特有のハローパターンを反映したプロファイルが観測された。このことと、前述の原料繊維が比較的低い複屈性値を示したことから、原料繊維の分子配向性が低いことが判った。一方、図15(A-1)乃至(B-3)並びに図16(A-1)乃至(B-3)に示すように、X線照射方向が0度の場合のプロファイルと90度の場合のプロファイルとに比較的大きな差異が生じた。このことから、複合繊維に含まれるポリ乳酸の分子に配向性があることが判った。これらの結果から、複合繊維に含まれるポリ乳酸の結晶は、原料繊維を溶融紡糸法により作製する過程ではなく、前述の複合繊維製造装置1を用いて原料繊維から複合繊維を作製する過程で生成されることが判る。
【0056】
また、図17(A)乃至(C)並びに図18(A)乃至(C)に示すように、比較例1乃至3、比較例5乃至7に係る複合繊維に対して120℃に加熱した状態で1時間維持することにより熱処理を行うことにより得られた複合繊維については、ポリ乳酸のα晶に対応するピーク(19.1度、22.4度、24.8度、29.0度に現れたピーク)が観測された。なお、図17(A)乃至(C)並びに図18(A)乃至(C)において、右側のプロファイルは左側のプロファイルについて縦軸のダイナミックレンジを縮小したものに相当する。一方、図19(A)乃至(C)並びに図20(A)乃至(C)に示すように、比較例8並びに実施例1乃至5に係る複合繊維に対して前述の熱処理を行うことにより得られた複合繊維については、前述のポリ乳酸のα晶に起因するピークに加えて、ステレオコンプレックス側のポリ乳酸の結晶に対応するピーク(12.0度に現れたピーク、図19(A)乃至(C)並びに図20(A)乃至(C)における破線で囲んだ部分)が観測された。なお、図19(A)乃至(C)において、右側のプロファイルは左側のプロファイルについて縦軸のダイナミックレンジを縮小したものに相当する。特に、実施例3乃至5に係る複合繊維では、ステレオコンプレックス側のポリ乳酸の結晶に対応する明確なピーク(12.0度、20.8度、24.0度のピーク)が観測された。これらの結果から、熱処理によりステレオコンプレックス型のポリ乳酸の結晶の生成が促進されることが判る。
【0057】
次に、比較例7および実施例5に係る複合繊維に対して190℃以上に加熱した状態で1時間維持することにより熱処理を行った後の複合繊維のモフォロジの観察を行った結果について説明する。モフォロジの観察は、前述と同様にSEM画像を撮像することにより行った。比較例7に係る複合繊維に対して190℃に加熱した状態で1時間維持する熱処理を行った後の複合繊維については、図21(A)に示すように、複合繊維同士が融着している様子が観察された。一方、実施例5に係る複合繊維に対して190℃に加熱した状態で1時間維持する熱処理を行った後の複合繊維については、図21(B)に示すように、複合繊維同士が離間した状態が維持されている様子が観察され、複合繊維同士の融着は確認されなかった。また、実施例5に係る複合繊維に対して200℃に加熱した状態で1時間維持する熱処理を行った後の複合繊維についても、図21(C)に示すように、複合繊維同士が離間した状態が維持されている様子が観察され、複合繊維同士の融着は確認されなかった。このことから、複合繊維に対して190℃以上の温度で熱処理を行う場合、複合繊維同士の融着を回避する観点から、海島型の原料繊維から形成された複合繊維を採用することが好ましいことが判った。
【0058】
次に、実施例3乃至5に係る複合繊維に対して190℃以上に加熱した状態で1時間維持することにより熱処理を行った後の複合繊維について示差走査熱量測定を行った結果についても説明する。示差走査熱量測定の方法および条件は、前述と同様である。また、実施例3乃至5に係る複合繊維に対して190℃に加熱した状態で1時間維持する熱処理を行った後の複合繊維、および、実施例5に係る複合繊維に対して200℃に加熱した状態で1時間維持する熱処理を行った後の複合繊維では、図22に示すように、いずれも、60℃近傍のガラス転移に伴う変化、並びに、75℃乃至101℃の範囲に現れる結晶化に伴う発熱ピークは、観測されなかった。そして、熱処理後の実施例3乃至5に係る複合繊維のいずれにおいてもステレオコンプレックス型のポリ乳酸の結晶の融解に対応する吸熱ピークが観測され、ポリ乳酸のα晶の融解に対応する吸熱ピークを明確に観測することができなかった。
【0059】
また、図22に示すDSCサーモグラムから、実施例3乃至5に係る前述の熱処理後の複合繊維それぞれの融解に伴う吸熱ピーク、結晶化度について下記表5に示す結果が得られた。表5における、Tm1、Tm2、X、X(SC)は、いずれも表4の場合と同じ意味を示す。
【0060】
【表5】
【0061】
表5に示すように、実施例3乃至5に係る複合繊維のステレオコンプレックス型のポリ乳酸の結晶化度は、いずれも、表4に示す熱処理時の温度が120℃の場合のステレオコンプレックス型のポリ乳酸の結晶化度に比べて大きくなった。また、実施例5に係る複合繊維では、熱処理時の温度を190℃から200℃に上昇させることによりステレオコンプレックス型のポリ乳酸の結晶化度が1%程度大きくなることが判った。
【0062】
次に、実施例3乃至5に係る複合繊維に対して190℃以上に加熱した状態で1時間維持することにより熱処理を行った後の複合繊維に含まれるポリ乳酸結晶の結晶構造について評価した結果について説明する。結晶構造の評価方法は、前述のようにX線回折測定により得られるX線回折プロファイルに基づいて行った。X線回折測定の測定条件は、前述と同様である。
【0063】
図23(A)および(B)、図24(A)および(B)に示すように、前述の熱処理後の実施例3乃至5に係る複合繊維の全てについて、X線照射方向が0度の場合のプロファイルと90度の場合のプロファイルとに比較的大きな差異が生じた。そして、前述の熱処理後の実施例3乃至5に係る複合繊維の全てについて、X線照射方向が0度の場合のプロファイルに、ステレオコンプレックス側のポリ乳酸の結晶に対応するピーク(22.5度のピーク)が観測され、X線照射方向が90度の場合のプロファイルに、ステレオコンプレックス側のポリ乳酸の結晶に対応する明確なピーク(12.0度、20.8度、24.0度のピーク)が観測された。特に、X線照射方向が0度の場合のプロファイルには、図19(A)乃至(C)並びに図20(A)乃至(C)に示す熱処理時の温度が120℃の場合のプロファイルと比べて、ステレオコンプレックス側のポリ乳酸の結晶に対応するピーク(22.5度のピーク)がより顕著に表れた。また、図24(A)および(B)に示すように、熱処理時の温度が190℃から200℃に上昇すると、それに伴い、X線照射方向が0度の場合のプロファイルに、ステレオコンプレックス側のポリ乳酸の結晶に対応するピークの面積が大きくなることが判った。これらの結果から、熱処理時における温度を上昇させることによりステレオコンプレックス型のポリ乳酸の結晶の生成がより促進されることが判る。
【0064】
次に、実施例3乃至5に係る複合繊維に対して110℃に加熱した状態で1時間維持することにより熱処理を行った後の複合繊維に含まれるポリ乳酸結晶の結晶構造について評価した結果について説明する。結晶構造の評価方法は、前述のようにX線回折測定により得られるX線回折プロファイルに基づいて行った。X線回折測定の測定条件は、前述と同様である。
【0065】
図25(A)および(B)、図26に示すように、前述の熱処理後の実施例3乃至5に係る複合繊維の全てについて、X線照射方向が0度の場合のプロファイルと90度の場合のプロファイルとに比較的大きな差異が生じた。そして、前述の熱処理後の実施例3乃至5に係る複合繊維の全てについて、X線照射方向が0度の場合のプロファイルに、ステレオコンプレックス側のポリ乳酸の結晶に対応するピーク(21.8乃至22.5度のピーク)が観測され、X線照射方向が90度の場合のプロファイルに、ステレオコンプレックス側のポリ乳酸の結晶に対応する明確なピーク(12.0度、20.8度、24.0度のピーク)が観測された。これらの結果から、熱処理時における温度が110℃であってもステレオコンプレックス型のポリ乳酸の結晶が生成されていることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、食品包装材料、圧電材料、光学材料等の分野への応用可能な極細繊維の製造方法として好適である。
【符号の説明】
【0067】
1:複合繊維製造装置、11:フィーダ、12:ノズルユニット、13:電極、13a,121a:貫通孔、14:レーザ源、16:ボビン、17:リール、18:電圧印加部、111,112:サブユニット、111a,112a:ローラ、111b,112b:摩擦ベルト、121:本体部、122:ノズル、151:ミラー、152:アパーチャ、F10:原料繊維、F11:複合繊維、F101:第1繊維、F102:第2繊維、LA1:レーザ光
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
図9
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