IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キユーピー株式会社の特許一覧 ▶ キユーピータマゴ株式会社の特許一覧

特開2024-6545電子レンジ加熱による卵含有食品の凝固を抑制する方法並びにゲル又は粘性物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006545
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】電子レンジ加熱による卵含有食品の凝固を抑制する方法並びにゲル又は粘性物
(51)【国際特許分類】
   A23L 15/00 20160101AFI20240110BHJP
   A23L 29/281 20160101ALI20240110BHJP
   A23L 5/10 20160101ALI20240110BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20240110BHJP
【FI】
A23L15/00 Z
A23L29/281
A23L5/10 C
A23L5/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022107546
(22)【出願日】2022-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】501149411
【氏名又は名称】キユーピータマゴ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山下 翔
【テーマコード(参考)】
4B035
4B041
4B042
【Fターム(参考)】
4B035LC03
4B035LC16
4B035LE04
4B035LE06
4B035LG01
4B035LG06
4B035LG14
4B035LG15
4B035LG27
4B035LG43
4B035LK04
4B035LP16
4B041LC03
4B041LD01
4B041LE03
4B041LH16
4B041LK03
4B041LK07
4B041LK13
4B041LK17
4B041LK38
4B041LP02
4B042AC05
4B042AC10
4B042AD40
4B042AE08
4B042AE10
4B042AH09
4B042AH10
4B042AK01
4B042AK04
4B042AK10
4B042AP10
(57)【要約】
【課題】電子レンジ加熱による卵含有食品の凝固を抑制する方法並びにゲル又は粘性物を提供する。
【解決手段】卵含有食品をゲル又は粘性物で覆うことにより、電子レンジ加熱による卵含有食品の凝固を抑制する方法であって、
前記粘性物の粘度が400mPa・s以上であり、
前記ゲル又は粘性物のナトリウム濃度が0.2~5%であり、
電子レンジ加熱による卵含有食品の凝固を抑制する方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
卵含有食品をゲル又は粘性物で覆うことにより、電子レンジ加熱による卵含有食品の凝固を抑制する方法であって、
前記粘性物の粘度が400mPa・s以上であり、
前記ゲル又は粘性物のナトリウム濃度が0.2~5%である、
電子レンジ加熱による卵含有食品の凝固を抑制する方法。
【請求項2】
ゲル又は粘性物のナトリウム濃度が前記卵含有食品のナトリウム濃度よりも高いことを特徴とする、
請求項1記載の電子レンジ加熱による卵含有食品の凝固を抑制する方法。
【請求項3】
ゲルがゼラチンでゲル化したものである、請求項1又は2に記載の電子レンジ加熱による卵含有食品の凝固を抑制する方法。
【請求項4】
電子レンジ加熱による卵含有食品の凝固を防ぐために用いるゲル又は粘性物であって、
前記粘性物の粘度が400mPa・s以上であり、
前記ゲル又は粘性物のナトリウム濃度が0.2~5%である、
ゲル又は粘性物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子レンジ加熱による卵含有食品の凝固を抑制する方法並びにゲル又は粘性物に関する。
【背景技術】
【0002】
卵を使用した卵含有食品はコンビニやスーパーにおいて、お弁当やお惣菜など様々な商品に用いられている。これらの商品は、購入後、電子レンジで加熱し、喫食することが多い。しかしながら、商品に用いられている卵含有食品が生や半熟状の場合、電子レンジで加熱することで凝固してしまうという問題があった。そのため、卵含有食品の品質を損なうことなく、電子レンジで加熱する方法が求められていた。
【0003】
このような問題に対して、特許文献1には、乾燥処理した卵黄粉末を用いていることで、凍結・解凍してもゲル化せず、生卵・半熟卵特有のジューシー感・しっとり感を保持するとともに、電子レンジ等による加熱調理を施しても、生卵・半熟卵のようなソフトで風味に優れた食感を維持することのできる卵加工品を提供することができる卵加工品及びその製造方法、並びに卵加工品を用いた卵食品が提案されている。しかしながら、幅広い卵含有食品の凝固を抑制することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-344101
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、電子レンジ加熱による卵含有食品の凝固を抑制する方法並びにゲル又は粘性物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた。その結果、卵含有食品をナトリウム濃度が所定範囲のゲル又は粘性物で覆うことにより、電子レンジ加熱による卵含有食品の凝固を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)卵含有食品をゲル又は粘性物で覆うことにより、電子レンジ加熱による卵含有食品の凝固を抑制する方法であって、
前記粘性物の粘度が400mPa・s以上であり、
前記ゲル又は粘性物のナトリウム濃度が0.2~5%である、
電子レンジ加熱による卵含有食品の凝固を抑制する方法、
(2)ゲル又は粘性物のナトリウム濃度が前記卵含有食品のナトリウム濃度よりも高いことを特徴とする、(1)記載の電子レンジ加熱による卵含有食品の凝固を抑制する方法、
(3)ゲルがゼラチンでゲル化したものである、(1)又は(2)に記載の電子レンジ加熱による卵含有食品の凝固を抑制する方法、
(4)電子レンジ加熱による卵含有食品の凝固を防ぐために用いるゲル又は粘性物であって、
前記粘性物の粘度が400mPa・s以上であり、
前記ゲル又は粘性物のナトリウム濃度が0.2~5%である、
ゲル又は粘性物、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電子レンジ加熱による卵含有食品の凝固を抑制することができ、お弁当やお惣菜への卵含有食品のさらなる活用が期待できる
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明を詳細に説明する。
なお、本発明において「%」は「質量%」を意味する。
【0010】
<本発明の特徴>
本発明は、卵含有食品をナトリウム濃度が0.2~5%のゲル又は粘性物で覆うことにより、電子レンジ加熱による卵含有食品の凝固を抑制する方法であって、電子レンジ加熱しているにも関わらず、卵含有食品の凝固が抑制されることに特徴を有する。
【0011】
<卵含有食品>
本発明において卵含有食品とは、卵を含有する食品であれば特に限定しない。例えば、生全卵、生卵黄、生卵白、ゆで卵、目玉焼き、玉子焼き等の卵そのものや卵のみを用いて調理したものであってもよいし、出し巻き卵、オムレツ、卵黄ソースなどの卵と卵以外の原料を混合し、調理したものであってもよい。
特に、前記卵含有食品が生又は半熟状の場合、電子レンジによる凝固が生じやすいため、本発明の凝固を抑制する方法を好適に用いることができる。
【0012】
本発明の卵含有食品のナトリウム濃度は特に限定しないが、0.01~5%であることができ、0.05~1%であることができ、0.05~0.5%であることができる。
【0013】
<ゲル又は粘性物>
本発明のゲル又は粘性物は、ゲル化剤又は増粘剤等を水溶液に溶解し、ゲル化又は粘性を付与したものである。前記ゲル化剤としては、例えばゼラチン、寒天、ペクチン、アルギン酸等が挙げられ、前記増粘剤としては、キサンタンガム、グアガム、ジェランガム、タラガム、タマリンドシードガム、澱粉等が挙げられる。特に、電子レンジで加熱した際に、低粘度化し、卵含有食品の風味に影響しにくいことから、ゼラチンを用いることが好ましい。
また、前記ゲル化剤又は増粘剤を溶解する水溶液は特に限定されず、卵含有食品に応じて適宜選択すればよい。例えば水、牛乳、豆乳、醤油、スープ、だし汁などが挙げられる。
【0014】
本発明のゲル又は粘性物として、ゲルを用いる場合、ゲルの形状は特に限定しない。例えばゲルをシート状に成型したもの(ゲルシート)を用いてもよいし、ゲルを粉砕して用いてもよい。また、粘性物を用いる場合、粘性物の粘度は400mPa・s以上であることが好ましく、600mPa・s以上であることが好ましく、1000mPa・s以上であることがより好ましい。粘性物の粘度が前記範囲であることにより、卵含有食品に絡みやすくなり、効果的に卵含有食品の凝固を抑制することができる。粘性物の粘度の上限は特に限定しないが、10000mPa・s以下であることができ、100000mPa・s以下であることができ、1000000mPa・s以下であることができる。
なお、本発明の粘度は、BH形粘度計を使用し、粘度が200~1000mPa・sの場合はローターNo.2、粘度が1000~10000mPa・sの場合はローターNo.3、10000~20000mPa・sの場合はローターNo.4、20000~40000mPa・sの場合はローターNo.5、40000~100000mPa・sの場合はローターNo.6、100000~400000mPa・sの場合はローターNo.7を用い、回転数10rpm、20℃の条件にて測定された値である。
【0015】
<ゲル又は粘性物のナトリウム濃度>
本発明のゲル又は粘性物は、ナトリウム濃度が0.2~5%である。ナトリウム濃度が前記範囲のゲル又は粘性物で卵含有食品を覆うことにより、電子レンジからのマイクロ波が卵含有食品に届くのを妨げることができ、卵含有食品の凝固を抑制することができる。したがって、ゲル又は粘性物のナトリウム濃度が前記範囲未満である場合、卵含有食品の凝固を十分に抑制することができない。また、ナトリウム濃度が前記範囲を超える場合、塩味が卵含有食品の風味を損なう恐れがあり好ましくない。
また、卵含有食品の凝固を十分に抑制し、かつ風味に影響しにくいことからゲル又は粘性物のナトリウム濃度は0.5~4%であることが好ましい。
【0016】
さらに、前記ゲル又は粘性物のナトリウム濃度は、卵含有食品のナトリウム濃度よりも高いことが好ましい。これにより、卵含有食品の凝固をより抑制することができる。なお、本発明において、ナトリウム含量は公知の方法(例えば、原子吸光光度法)によって測定することができる。
【0017】
ナトリウム濃度を前記範囲に調整する方法としては、ナトリウムを含有する原料を溶解して調製することができる。ナトリウムを含有する原料としては、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム等のナトリウム塩や、食塩、醤油、味噌等のナトリウムを含有する食品素材を用いることができる。
【0018】
<ゲル又は粘性物に含まれるその他原料>
本発明のゲル又は粘性物には、上記原料の他、本発明の効果を損なわない範囲で適宜原料を選択し、配合することができる。具体的には、例えば、砂糖、食酢、アミノ酸、核酸系旨味調味料、柑橘果汁、ケチャップ等の各種調味料、牛乳、脱脂粉乳、全脂粉乳、乳清蛋白等の乳類、各種スパイスオイル、モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、リゾレシチン等の乳化剤、キサンタンガム、タマリンドシードガム、ジェランガム、グアガム、アラビアガム、サイリュームシードガム、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉、うるち米澱粉、小麦澱粉、タピオカ澱粉、ワキシコーンスターチ、もち米澱粉などの澱粉等の増粘剤、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸等の有機酸又はその塩、アスコルビン酸、ビタミンE等の酸化防止剤、各種ペプチド、香料、色素などが挙げられる。
【0019】
<卵含有食品をゲルで覆う方法>
卵含有食品をゲルで覆う方法は、電子レンジのマイクロ波を吸収できるように配置すれば特に限定しないが、卵含有食品の上面にゲル又は粘性物を載せる方法、卵含有食品の全面をゲルで固める方法などが挙げられる。また、卵含有食品の一部にゲル又は粘性物を載せることで、凝固を部分的に抑制することもできる。
【0020】
<卵含有食品の電子レンジ加熱条件>
本発明の卵含有食品の電子レンジ加熱条件は、卵含有食品が喫食に適した状態になれば特に限定しないが、例えば、出力500~2000w、加熱時間30秒~5分の範囲で適宜調整すればよい。
【0021】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【実施例0022】
[試験例1]ゲルによる凝固抑制効果(ナトリウム濃度による影響)
(1)ゲルの調製
ゲル化剤(ゼラチン)5%を水に溶解後、ナトリウム濃度が表1に記載の濃度になるように食塩を溶解した。次いで、溶解液5gを直径4.5cmの平らな容器に充填後、冷却し、シート状のゲル(ゲルシート)を調製した。
【0023】
(2)凝固抑制効果の評価
卵黄に食塩を溶解して調製したナトリウム濃度が異なる2種類の卵黄液及び(1)で調製したゲルシートを用い、凝固抑制効果を評価した。具体的には、直径10cmの耐熱性容器の中心に卵黄液を1g載せた。次いで、卵黄液がはみ出さないようにゲルシートを上から被せた。耐熱性容器にラップをかるく被せ、電子レンジ加熱(510W×30秒)し、卵含有食品の凝固の有無を目視で確認し、下記基準で評価した。
【0024】
[凝固の評価基準]
◎:まったく凝固しなかった。
〇:一部分が凝固した。
△:半分程度凝固した。
×:完全に凝固した。
【0025】
[表1]
【0026】
表1の結果から、ゲルのナトリウム濃度が0.2~5%であることにより卵含有食品の凝固を抑制できることがわかった。また、ゲルのナトリウム濃度が卵含有食品のナトリウム濃度よりも高いことにより、凝固抑制効果が高いことが分かった。
【0027】
[試験例2]ゲルによる凝固抑制効果(塩の種類による影響)
試験例1でゲルの調製に用いた食塩を表2に記載の塩に変更し、試験例1と同様の方法で凝固抑制効果の評価を行った。結果を表2に示した。
【0028】
[表2]
【0029】
表2の結果から、塩の種類を酢酸ナトリウム又はグルタミン酸ナトリウムに変更しても、卵黄(卵含有食品)の凝固を抑制できることが分かった。
【0030】
[試験例3]粘性物による凝固抑制効果
(1)粘性物の調製
キサンタンガム、食塩を清水に溶解し、ナトリウム濃度及び粘度が表3に記載の値である粘性物を調製した。
【0031】
(2)凝固抑制効果の評価
直径10cmの耐熱性容器の中心に卵黄を1g乗せた。次いで、卵黄がはみ出ないようにゾル状の粘性物を5g載せた。耐熱性容器にラップをかるく被せ、電子レンジ加熱(510W×30秒)した。凝固抑制の評価は、試験例1と同様に行った。結果を表3に示した。
【0032】
[表3]
【0033】
表3の結果から、粘性物のナトリウム濃度が0.2~5%であり、かつ粘度が400mPa・s以上であることにより、電子レンジ加熱による卵含有食品の凝固を抑制できることが分かった。
【0034】
[試験例4]ゲルによる凝固抑制効果(生全卵での評価)
(1)ゲルの調製
ゲル化剤(ゼラチン)5%を水に溶解後、ナトリウム濃度が0又は1%になるように食塩を溶解した。次いで、溶解液20gを直径8cmの平らな容器に充填後、冷却し、シート状のゲル(ゲルシート)を調製した。
(2)凝固抑制効果の評価
直径10cmの耐熱性容器に割卵した生全卵(卵含有食品)を1個入れた。卵がはみ出さないようにゲルシートを上から被せた。破裂した時のことを考慮してピロー袋を2重にして被せ、電子レンジ加熱(510W×90秒)した。
【0035】
その結果、ゲルシートを被せなかった生全卵及びナトリウム濃度0%のゲルシートを被せた生全卵は、加熱90秒では完全に凝固していた。一方、ナトリウム濃度1%のゲルシートを被せた生卵は、加熱90秒で卵白部分は凝固したが、卵黄部分は凝固せず半熟状態であった。
【0036】
試験例4の結果から、生全卵にナトリウム濃度が0.2~5%のゲルを載せることにより、電子レンジ加熱による生全卵の凝固を抑制できることがわかった。
【0037】
[試験例5]ゲルによる凝固抑制効果(加熱条件による影響)
試験例4の電子レンジ加熱条件を1500w×60秒に変更し、その他は試験例4と同様の方法で凝固抑制効果の評価を行った。
【0038】
その結果、ゲルシートを被せなかった生全卵及びナトリウム濃度0%のゲルシートを被せた生全卵は、加熱1500w×60秒では完全に凝固していた。一方、ナトリウム濃度1%のゲルシートを被せた生全卵は、加熱1500w×60秒で卵白部分は凝固したが、卵黄部分は凝固せず半熟状態であった。
【0039】
試験例5の結果から、電子レンジの加熱条件を変更した場合でも0.2~5%のゲルを載せることにより、電子レンジ加熱による生全卵の凝固を抑制できることがわかった。