(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065453
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
F16J 15/52 20060101AFI20240508BHJP
F16J 15/16 20060101ALI20240508BHJP
F16J 15/3224 20160101ALI20240508BHJP
F16J 15/3204 20160101ALI20240508BHJP
F16J 3/02 20060101ALI20240508BHJP
B62D 1/20 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
F16J15/52 Z
F16J15/16 B
F16J15/3224
F16J15/3204 201
F16J3/02 B
B62D1/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174315
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(74)【代理人】
【識別番号】100125335
【弁理士】
【氏名又は名称】矢代 仁
(72)【発明者】
【氏名】井上 大樹
【テーマコード(参考)】
3D030
3J006
3J043
3J045
【Fターム(参考)】
3D030DC33
3J006AE07
3J006AE15
3J006AE40
3J006AE51
3J006CA01
3J006CA04
3J006CA05
3J043AA16
3J043BA06
3J043CA02
3J043CA08
3J043CA11
3J043CA12
3J043CB13
3J043CB14
3J043CB20
3J043DA05
3J043FB10
3J043HA01
3J045AA06
3J045AA20
3J045BA02
3J045BA03
3J045CB07
3J045EA10
(57)【要約】
【課題】高い遮音性を有し、かつ回転軸に与えるトルクが小さい密封装置を提供する。
【解決手段】密封装置は、外側支持部材と、外側支持部材に設けられた孔内に配置された回転軸との間の隙間を封止する。密封装置は、外側支持部材に取り付けられる取付部と、取付部の内側に配置された円筒部と、円筒部の内側に配置され、回転軸の外周面に摺動可能に接触する摺動部と、取付部と円筒部との間に介在するエラストマー製のベロー部を有する。ベロー部は、円錐台形状を有する外側傾斜部と、外側傾斜部と逆方向に傾斜した円錐台形状を有する内側傾斜部と、外側傾斜部と内側傾斜部を接続する屈曲部を有する。外側傾斜部は、屈曲部よりも厚い外側厚肉部を有する。内側傾斜部は、屈曲部よりも厚い内側厚肉部とを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側支持部材と、前記外側支持部材に設けられた孔内に配置された回転軸との間の隙間を封止する密封装置であって、
前記外側支持部材の前記孔に取り付けられる環状の取付部と、
前記取付部の径方向内側に配置された円筒部と、
前記円筒部の径方向内側に配置され、前記回転軸の外周面に摺動可能に接触する摺動部と、
前記取付部と前記円筒部との間に介在するエラストマー製のベロー部とを有し、
前記ベロー部は、円錐台形状を有する外側傾斜部と、前記外側傾斜部と逆方向に傾斜した円錐台形状を有する内側傾斜部と、屈曲した断面形状を有し前記外側傾斜部と前記内側傾斜部とを接続する屈曲部とを有し、
前記外側傾斜部は、前記屈曲部の厚さよりも大きい厚さを有する外側厚肉部を有し、
前記内側傾斜部は、前記屈曲部の厚さよりも大きい厚さを有する内側厚肉部を有する
密封装置。
【請求項2】
前記円筒部と前記ベロー部の前記内側傾斜部とを接続する内側接続部をさらに有し、
前記内側接続部は、前記外側厚肉部の厚さおよび前記内側厚肉部の厚さより小さい厚さを有する
請求項1に記載の密封装置。
【請求項3】
前記取付部と前記ベロー部の前記外側傾斜部とを接続する外側接続部をさらに有し、
前記外側接続部は、前記外側厚肉部の厚さおよび前記内側厚肉部の厚さより小さい厚さを有する
請求項1または2に記載の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングダストシールとして用いられるのに適した密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ステアリングダストシールは、自動車のフロントダッシュパネルに配置され、その内部にステアリングシャフトが回転自在に挿入されている(特許文献1)。ステアリングダストシールは、ステアリングシャフトの回転時にステアリングシャフトが摺動する部分を有する。
【0003】
ステアリングダストシールは、エンジンルームから乗員室内への異物(ダスト、泥水など)の侵入を抑制するとともに、エンジンルームから乗員室内への音の伝達を抑制する機能を有する。ステアリングシャフトの角度をドライバーによって調整可能とするため、ステアリングダストシールには弾性材料から形成されたベロー部が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、乗員室を静粛にする要望がますます高まっている。また、ステアリングシャフトの回転時に、ステアリングダストシールがステアリングシャフトに与える抵抗すなわちトルクが小さいことが望ましい。
【0006】
そこで、本発明は、高い遮音性を有し、かつ回転軸に与えるトルクが小さい密封装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るある態様は、外側支持部材と、前記外側支持部材に設けられた孔内に配置された回転軸との間の隙間を封止する密封装置を提供する。この密封装置は、前記外側支持部材の前記孔に取り付けられる環状の取付部と、前記取付部の径方向内側に配置された円筒部と、前記円筒部の径方向内側に配置され、前記回転軸の外周面に摺動可能に接触する摺動部と、前記取付部と前記円筒部との間に介在するエラストマー製のベロー部とを有する。前記ベロー部は、円錐台形状を有する外側傾斜部と、前記外側傾斜部と逆方向に傾斜した円錐台形状を有する内側傾斜部と、屈曲した断面形状を有し前記外側傾斜部と前記内側傾斜部とを接続する屈曲部とを有する。前記外側傾斜部は、前記屈曲部の厚さよりも大きい厚さを有する外側厚肉部とを有する。前記内側傾斜部は、前記屈曲部の厚さよりも大きい厚さを有する内側厚肉部とを有する。
【0008】
この態様においては、ベロー部の外側傾斜部および内側傾斜部には、外側厚肉部および内側厚肉部が設けられており、これらの厚肉部がエンジンルームからの騒音を乗員室に伝達するのを効果的に抑制する。一方、ベロー部の屈曲部は、厚さが小さく変形しやすいため、密封装置が回転軸に与える抵抗すなわちトルクを低減することができる。特に低温環境においてベロー部を形成するエラストマーが硬くなっても、薄い屈曲部は変形しやすい。回転軸に与えられる抵抗が小さいため、回転軸と摺動部の摺動に伴って発生する騒音も低減される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は本発明の実施形態に係る密封装置を示す一部破断斜視図である。
【
図3】
図3は使用状態での上記密封装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付の図面を参照しながら本発明に係る様々な実施形態を説明する。図面の縮尺は必ずしも正確ではなく、一部の特徴は誇張または省略されることもある。
【0011】
図1~
図3に示すように、本発明の実施形態に係る密封装置1は、2つのシール部10,50(第1のシール部10および第2のシール部50)を持つ複合構造を有する。シール部10,50の各々は、中心軸線Axを中心とする円環状の部品である。
図1~
図3に表された断面は、中心軸線Axを含む平面である。
【0012】
図3に示すように、実施形態に係る密封装置1は、外側支持部材2と、外側支持部材2に設けられた孔2A内に配置された回転軸(ステアリングシャフト)4との間の隙間を封止するステアリングダストシールである。回転軸4は軸線Bxを中心に回転させられる。
図3において、符号Eはエンジンルーム側の空間を示し、Pは乗員室側の空間を示す。
【0013】
外側支持部材2は、自動車のフロントダッシュパネルであってもよい。あるいは、外側支持部材2は、フロントダッシュパネルに固定された円筒部材(フロントダッシュパネルに密封装置1を取り付けるためのアタッチメント部材)であってもよい。
【0014】
エンジンルームには、内燃機関(図示せず)が配置されていてもよいし、電動モーター(図示せず)が配置されていてもよい。
【0015】
孔2Aは、乗員室側の空間Pで開口する大径孔部2Bと、大径孔部2Bに隣接し大径孔部2Bよりもエンジンルーム側に配置された小径孔部2Cとを有する。大径孔部2Bおよび小径孔部2Cは丸穴である。密封装置1が孔2Aに同心に取り付けられた理想的な場合、密封装置1の中心軸線Axは孔2Aの中心軸線でもある。
【0016】
密封装置1はシール部10,50を有するが、シール部10,50の各々を密封装置(ステアリングダストシール)とみなすことができる。
【0017】
第1のシール部(第1の密封装置)10は、基本的に、エラストマーから形成された高弾性部品である。シール部10は、外側支持部材2の孔2Aに取り付けられる環状の取付部11と、取付部11の径方向内側に配置された円筒部12と、取付部11と円筒部12との間に介在して両者を接続する曲折したベロー部13とを有する。さらに、シール部10は、円筒部12の径方向内側に配置され、回転軸4の外周面に摺動可能に接触する摺動部14を有する。
【0018】
取付部11は、エラストマーから形成された弾性環15と、弾性環15の周囲に固着された剛性材料、例えば金属から形成された剛性環16を有する。
【0019】
剛性環16は、ほぼL字形の断面形状を有する。すなわち、剛性環16は円筒状のスリーブ16aと、スリーブ16aの一端から径方向外側に広がるフランジ16bとを有する。スリーブ16aは、外側支持部材2の孔2Aの大径孔部2Bに嵌め込まれている(圧入されている)。
【0020】
弾性環15の大部分は、剛性環16の径方向内側に配置されている。但し、弾性環15の一部は、フランジ16bの乗員室側の面、フランジ16bの外周面、およびフランジ16bのエンジンルーム側の面の外周部分に固着されている。シール部10が孔2Aに装着された状態では、フランジ16bのエンジンルーム側の面の外周部分に固着された弾性環15の部分15aは、外側支持部材2の端面と剛性環16のスリーブ16aとの間で中心軸線Axに沿って圧縮される。したがって、部分15aは、剛性環16と外側支持部材2との間の間隙を封止し、乗員室側の空間Pからエンジンルーム側の空間Eへの異物の侵入を低減し、剛性環16および/または外側支持部材2の腐食を防止する。
【0021】
スリーブ16aのフランジ16bとは反対の端部16cは、スリーブ16aの他の部分よりも小さい直径を有する。端部16cは弾性環15の部分15bで包囲されている。部分15bは、ラジアルリップ15cとアキシャルリップ15dとを有する。シール部10が孔2Aに装着された状態では、ラジアルリップ15cは、孔2Aの大径孔部2Bの内周面に押されて径方向内側に変形し、端部16cと外側支持部材2との間の間隙を封止する。また、この状態では、アキシャルリップ15dは、孔2Aの大径孔部2Bと小径孔部2Cとの間の段差部に押されて圧縮され、端部16cと外側支持部材2との間の間隙を封止する。したがって、ラジアルリップ15cとアキシャルリップ15dは、エンジンルーム側の空間Eから乗員室側の空間Pへの異物の侵入を低減する。
【0022】
円筒部12およびベロー部13は、取付部11の弾性環15と同じエラストマーから形成されている。好ましくは、弾性環15、円筒部12およびベロー部13は、一体に形成されている。
【0023】
円筒部12の内側に配置された摺動部14は、エラストマーより硬く摩擦係数が小さい樹脂材料から形成されている。好ましい樹脂材料は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)である。
【0024】
摺動部14は円筒部12に接着剤で固定されていてもよい。あるいは、摺動部14は突起を有してもよく、突起が円筒部12に形成された溝に嵌め込まれることによって、摺動部14が円筒部12に固定されていてもよい。
【0025】
回転軸4が回転する時、回転軸4の外周面が摺動部14の内周面に対して摺動する。摺動部14は低摩擦係数の樹脂から形成されているため、回転軸4が回転しても、回転軸4の外周面と摺動部14の内周面との摩擦によって異音が発生することが低減される。
【0026】
絶対必要というわけではないが、摺動部14の内周面と回転軸4の外周面との間にグリースを設けてもよい。グリースによって、回転軸4の外周面と摺動部14の内周面との摩擦がさらに低減させられる。摺動部14の内周面にグリースを保持するための多数の溝を形成してもよい。
【0027】
円筒部12の乗員室側の端部にはラジアルリップ12aが形成されている。ラジアルリップ12aは、乗員室側かつ径方向内側に延びている。ラジアルリップ12aは摺動部14を拘束し、摺動部14に緊縛力を与える。ラジアルリップ12aの先端が回転軸4の外周面に摺動可能に接触してもよい。
【0028】
回転軸4は、自動車のチルトステアリング機構に設けられたステアリングシャフトである。このため、回転軸4はドライバーによって傾けられる。すなわち、外側支持部材2の孔2Aに対する回転軸4の角度は調整可能である。また、回転軸4は孔2Aに対して偏心させられうる。ベロー部13は、エラストマー製であり、屈曲形状を有するため、弾性変形しやすい。ベロー部13の弾性変形によって回転軸4の移動、すなわち傾斜および偏心が許容され、なおかつ摺動部14が回転軸4の外周面に接触することが可能である。
図3は、回転軸4が孔2Aに対して傾斜および偏心している状態を示す。
【0029】
ベロー部13は、傾斜部20、屈曲部21、傾斜部22、屈曲部23、傾斜部24、屈曲部25および傾斜部26を有する。傾斜部20,22,24,26は円錐台形状を有する。但し、傾斜部20,24の傾斜方向は、傾斜部22,26の傾斜方向と逆である。
【0030】
傾斜部20は、摺動部14の乗員室側の端縁に接続されており、乗員室側に向けて延びている。傾斜部20の乗員室側の端縁で包囲された円形領域の面積は、摺動部14に接続された傾斜部20のエンジンルーム側の端縁で包囲された円形領域の面積より広い。
【0031】
屈曲部21は、屈曲した断面形状を有し、傾斜部20の乗員室側の端縁と傾斜部22の乗員室側の端縁とを接続する。
【0032】
傾斜部22は、屈曲部21からエンジンルーム側に向けて延びている。傾斜部22のエンジンルーム側の端縁で包囲された円形領域の面積は、屈曲部21に接続された傾斜部22の乗員室側の端縁で包囲された円形領域の面積より広い。
【0033】
屈曲部23は、屈曲した(円弧状の)断面形状を有し、傾斜部22のエンジンルーム側の端縁と傾斜部24のエンジンルーム側の端縁とを接続する。
【0034】
傾斜部24は、屈曲部23から乗員室側に向けて延びている。傾斜部22の乗員室側の端縁で包囲された円形領域の面積は、屈曲部23に接続された傾斜部22のエンジンルーム側の端縁で包囲された円形領域の面積より広い。
【0035】
屈曲部25は、屈曲した(円弧状の)断面形状を有し、傾斜部24の乗員室側の端縁と傾斜部26の乗員室側の端縁とを接続する。
【0036】
傾斜部26は、屈曲部25からエンジンルーム側に向けて延びており、取付部11の弾性環15に接続されている。弾性環15に接続された傾斜部26のエンジンルーム側の端縁で包囲された円形領域の面積は、屈曲部25に接続された傾斜部26の乗員室側の端縁で包囲された円形領域の面積より広い。
【0037】
このように、傾斜部22は傾斜部20の径方向外側に配置され、傾斜部24は傾斜部22の径方向外側に配置され、傾斜部26は傾斜部24の径方向外側に配置されている。したがって、傾斜部22は傾斜部20にとって外側傾斜部であり、傾斜部24は傾斜部22にとって外側傾斜部であり、傾斜部26は傾斜部24にとって外側傾斜部である。
【0038】
以下の説明において、シール部10の複数の部分の厚さは、密封装置1が使用されていない時、すなわちシール部10が弾性変形させられていない時の厚さを意味する。
【0039】
図2に示すように、傾斜部20は一様な厚さt1を有し、傾斜部26も一様な厚さt2を有する。
【0040】
傾斜部22,24とそれらに隣接する屈曲部21,23,25に着目する。傾斜部24は傾斜部22にとって外側傾斜部であり、傾斜部22は傾斜部24にとって内側傾斜部である。
【0041】
図2に示すように、屈曲部23は、円弧状の断面形状を有し、一様な厚さt3を有する。屈曲部25も、円弧状の断面形状を有し、一様な厚さt4を有する。屈曲部21の厚さは一様ではなく、傾斜部22に隣接する位置に屈曲部21は最小厚さt5を有する。厚さt2,t3,t4および最小厚さt5は、ほぼ等しい。
【0042】
外側傾斜部24は、外側薄肉部30、外側厚さ変化部31、外側厚肉部32、外側厚さ変化部33および外側薄肉部34を有する。外側薄肉部30は屈曲部23に接続されており、屈曲部23と同じ一様な厚さt3を有する。外側厚肉部32は、屈曲部23および外側薄肉部30の厚さt3より大きい一様な厚さt6を有する。外側厚さ変化部31は、外側薄肉部30と外側厚肉部32とを接続し、外側薄肉部30から外側厚肉部32に向けて徐々にかつ線形に大きくなる厚さを有する。
【0043】
外側厚さ変化部33は、外側厚肉部32から外側厚さ変化部31の反対に向けて延びる。外側薄肉部34は外側厚さ変化部33と屈曲部25とを接続する。外側薄肉部34は、屈曲部25から外側厚さ変化部33に向けて徐々にかつ線形に大きくなる厚さを有する。したがって、外側薄肉部34の屈曲部25側の端部は、局所的に屈曲部25と同じ厚さt4を有する。外側厚さ変化部33は、外側薄肉部34から外側厚肉部32に向けて急激にかつ線形に大きくなる厚さを有する。外側厚肉部32の厚さt6は屈曲部25の厚さt4よりも大きい。
【0044】
外側傾斜部24の一面(エンジンルーム側の面)は、平滑な円錐台形状である。しかし、外側傾斜部24の他面(乗員室側の面)は、傾斜部24の厚さの変化のために、突出した部分を有する。
【0045】
内側傾斜部22は、内側薄肉部35、内側厚さ変化部36、内側厚肉部37および内側厚さ変化部38を有する。内側薄肉部35は屈曲部23に接続されており、屈曲部23と同じ一様な厚さt3を有する。内側厚肉部37は、屈曲部23および内側薄肉部35の厚さt3より大きい一様な厚さt7を有する。内側厚さ変化部36は、内側薄肉部35と内側厚肉部37とを接続し、内側薄肉部35から内側厚肉部37に向けて徐々にかつ線形に大きくなる厚さを有する。
【0046】
内側厚さ変化部38は、内側厚肉部37から内側厚さ変化部36の反対に向けて延び、内側厚肉部37と屈曲部21とを接続する。内側厚さ変化部38は、屈曲部21から内側厚肉部37に向けて急激にかつ線形に大きくなる厚さを有する。したがって、内側厚さ変化部38の屈曲部21側の端部は、局所的に屈曲部21の最小厚さt5と同じ厚さを有する。内側厚肉部37の厚さt7は屈曲部21のあらゆる箇所の厚さよりも大きい。
【0047】
内側傾斜部22の一面(エンジンルーム側の面)は、平滑な円錐台形状である。しかし、内側傾斜部22の他面(乗員室側の面)は、傾斜部22の厚さの変化のために、突出した部分を有する。
【0048】
第1のシール部10においては、ベロー部13の外側傾斜部24および内側傾斜部22には、外側厚肉部32および内側厚肉部37が設けられており、これらの厚肉部32,37がエンジンルームからの騒音を乗員室に伝達するのを効果的に抑制する。一方、ベロー部13の屈曲部23、外側薄肉部30,34および内側薄肉部35は、厚さが小さく変形しやすいため、シール部10が回転軸4に与える抵抗すなわちトルクを低減することができる。特に低温環境においてベロー部13を形成するエラストマーが硬くなっても、これらの薄い部分は変形しやすい。回転軸4に与えられる抵抗が小さいため、回転軸4と摺動部14の摺動に伴って発生する騒音も低減される。
【0049】
また、内側傾斜部22にとって、屈曲部21は円筒部12と内側傾斜部22とを接続する内側接続部である。屈曲部(内側接続部)21は、外側厚肉部32の厚さt6および内側厚肉部37の厚さt7より小さい厚さを有する。したがって、シール部10が回転軸4に与える抵抗すなわちトルクをさらに低減することができる。
【0050】
さらに、外側傾斜部24にとって、屈曲部25および傾斜部26は、取付部11と外側傾斜部24とを接続する外側接続部である。屈曲部(外側接続部)25の厚さt4および傾斜部(外側接続部)26の厚さt2は、外側厚肉部32の厚さt6および内側厚肉部37の厚さt7より小さい。したがって、シール部10が回転軸4に与える抵抗すなわちトルクをさらに低減することができる。
【0051】
第2のシール部(第2の密封装置)50も、基本的に、エラストマーから形成された高弾性部品である。シール部50は、外側支持部材2の孔2Aに取り付けられる環状の取付部51と、取付部51の径方向内側に配置された円筒部52と、取付部51と円筒部52との間に介在して両者を接続する曲折したベロー部53とを有する。さらに、シール部50は、円筒部52の径方向内側に配置され、回転軸4の外周面に摺動可能に接触する摺動部54を有する。
【0052】
取付部51は、エラストマーから形成された弾性環55と、弾性環55の周囲に固着された剛性材料、例えば金属から形成された剛性環56を有する。
【0053】
剛性環56は、ほぼL字形の断面形状を有する。すなわち、剛性環56は円筒状のスリーブ56aと、スリーブ56aの一端から径方向内側に広がる内側フランジ56bとを有する。スリーブ56aは、外側支持部材2の孔2Aに直接、嵌め込まれて(圧入されて)いてもよいが、この実施形態では、第1のシール部10の取付部11の端部に嵌め込まれて(圧入されて)、孔2Aに取り付けられている。より具体的には、スリーブ56aが嵌め込まれた取付部11の端部は、剛性環16の端部16cで包囲されて補強された弾性環15の端部である。したがって、第2のシール部50にとって、第1のシール部10の取付部11が外側支持部材であると考えることができる。
【0054】
弾性環55は、剛性環56のスリーブ56aの径方向内側に配置されている。
【0055】
変形しにくい剛性環56は、変形しやすい弾性環15の端部の内周面に密着し、エンジンルーム側の空間Eから乗員室側の空間Pへの異物の侵入を低減する。
【0056】
円筒部52およびベロー部53は、取付部51の弾性環55と同じエラストマーから形成されている。好ましくは、弾性環55、円筒部52およびベロー部53は、一体に形成されている。
【0057】
円筒部52の内側に配置された摺動部54は、シール部10の摺動部14と同じく、エラストマーより硬く摩擦係数が小さい樹脂材料から形成されている。
【0058】
摺動部54は円筒部52に接着剤で固定されていてもよい。あるいは、摺動部54は突起を有してもよく、突起が円筒部52に形成された溝に嵌め込まれることによって、摺動部54が円筒部52に固定されていてもよい。
【0059】
回転軸4が回転する時、回転軸4の外周面が摺動部54の内周面に対して摺動する。摺動部54は低摩擦係数の樹脂から形成されているため、回転軸4が回転しても、回転軸4の外周面と摺動部54の内周面との摩擦によって異音が発生することが低減される。
【0060】
絶対必要というわけではないが、摺動部54の内周面と回転軸4の外周面との間にグリースを設けてもよい。グリースによって、回転軸4の外周面と摺動部54の内周面との摩擦がさらに低減させられる。摺動部54の内周面にグリースを保持するための多数の溝を形成してもよい。
【0061】
円筒部52のエンジンルーム側の端部にはラジアルリップ52aが形成されている。ラジアルリップ52aは、エンジンルーム側かつ径方向内側に向けて延びている。ラジアルリップ52aは摺動部54を拘束し、摺動部54に緊縛力を与える。ラジアルリップ52aの先端が回転軸4の外周面に摺動可能に接触してもよい。
【0062】
絶対必要というわけではないが、円筒部52の乗員室側の端部にもラジアルリップ52bが形成されている。ラジアルリップ52bは、乗員室側かつ径方向内側に向けて延びている。ラジアルリップ52bの先端は回転軸4の外周面に摺動可能に接触する。
【0063】
絶対必要というわけではないが、円筒部52には、補強環52cが埋設されている。補強環52cは、剛性材料、例えば金属から形成されており、円筒部52の変形を抑制し、摺動部54およびラジアルリップ52bが安定した姿勢で回転軸4に接触することができるようにする。
【0064】
ベロー部53は、エラストマー製であり、屈曲形状を有するため、弾性変形しやすい。ベロー部53の弾性変形によって回転軸4の移動、すなわち傾斜および偏心が許容され、なおかつ摺動部54が回転軸4の外周面に接触することが可能である。上記の通り、
図3は、回転軸4が孔2Aに対して傾斜および偏心している状態を示す。
【0065】
ベロー部53は、屈曲部61、傾斜部62、屈曲部63、傾斜部64、および屈曲部65を有する。傾斜部62,64は円錐台形状を有する。但し、傾斜部64の傾斜方向は、傾斜部62の傾斜方向と逆である。
【0066】
屈曲部61は、屈曲した断面形状を有し、摺動部54の乗員室側の端縁と傾斜部62の乗員室側の端縁とを接続する。
【0067】
傾斜部62は、屈曲部61からエンジンルーム側に向けて延びている。傾斜部62のエンジンルーム側の端縁で包囲された円形領域の面積は、屈曲部61に接続された傾斜部62の乗員室側の端縁で包囲された円形領域の面積より広い。
【0068】
屈曲部63は、屈曲した(円弧状の)断面形状を有し、傾斜部62のエンジンルーム側の端縁と傾斜部64のエンジンルーム側の端縁とを接続する。
【0069】
傾斜部64は、屈曲部63から乗員室側に向けて延びている。傾斜部62の乗員室側の端縁で包囲された円形領域の面積は、屈曲部63に接続された傾斜部62のエンジンルーム側の端縁で包囲された円形領域の面積より広い。
【0070】
屈曲部65は、屈曲した断面形状を有し、傾斜部64の乗員室側の端縁と取付部51の弾性環55とを接続する。取付部51の剛性環56の内側フランジ56bは屈曲部65に埋設されている。
【0071】
このように、傾斜部64は傾斜部62の径方向外側に配置されている。したがって、傾斜部64は傾斜部62にとって外側傾斜部であり、傾斜部62は傾斜部64にとって内側傾斜部である。
【0072】
密封装置1が使用されていない時、すなわちシール部10,50が弾性変形させられていない時、第2のシール部50の屈曲部61は第1のシール部10の屈曲部21に軸線方向に重なり、傾斜部62は傾斜部22に軸線方向に重なる。また、この時、屈曲部63は屈曲部23に軸線方向に重なり、傾斜部64は外側薄肉部34に軸線方向に重なる。第2のシール部50において、傾斜部62、屈曲部63および傾斜部64で構成される部分は、エンジンルーム側に向けて凸となっており、同様に、第1のシール部10において、傾斜部22、屈曲部23および傾斜部24で構成される部分も、エンジンルーム側に向けて凸となっている。
【0073】
以下の説明において、シール部50の複数の部分の厚さは、密封装置1が使用されていない時、すなわちシール部50が弾性変形させられていない時の厚さを意味する。
【0074】
図2に示すように、屈曲部63は、円弧状の断面形状を有し、一様な厚さt8を有する。屈曲部65の厚さは一様ではなく、傾斜部64に隣接する位置に屈曲部65は最小厚さt9を有する。屈曲部61の厚さも一様ではなく、傾斜部62に隣接する位置に屈曲部61は最小厚さt10を有する。
【0075】
外側傾斜部64は、外側薄肉部70、外側厚さ変化部71、外側厚肉部72、および外側厚さ変化部73を有する。外側薄肉部70は屈曲部63に接続されており、屈曲部63と同じ一様な厚さt8を有する。外側厚肉部72は、屈曲部63および外側薄肉部70の厚さt8より大きい一様な厚さt11を有する。外側厚さ変化部71は、外側薄肉部70と外側厚肉部72とを接続し、外側薄肉部70から外側厚肉部72に向けて急激にかつ線形に大きくなる厚さを有する。
【0076】
外側厚さ変化部73は、外側厚肉部72から外側厚さ変化部71の反対に向けて延びて、外側厚肉部72と屈曲部65とを接続する。外側厚さ変化部73は、屈曲部65から外側厚さ変化部73に向けて徐々にかつ線形に大きくなる厚さを有する。したがって、外側厚さ変化部73の屈曲部65側の端部は、局所的に屈曲部65の最小厚さt9と同じ厚さを有する。外側厚肉部72の厚さt11は屈曲部65の最小厚さt9よりも大きい。
【0077】
外側傾斜部64の一面(乗員室側の面)は、平滑な円錐台形状である。しかし、外側傾斜部64の他面(エンジンルーム側の面)は、傾斜部64の厚さの変化のために、突出した部分を有する。
【0078】
内側傾斜部62は、内側薄肉部75、内側厚さ変化部76、内側厚肉部77および内側厚さ変化部78を有する。内側薄肉部75は屈曲部63に接続されており、屈曲部63と同じ一様な厚さt8を有する。内側厚肉部77は、屈曲部63および内側薄肉部75の厚さt8より大きい一様な厚さt12を有する。内側厚さ変化部76は、内側薄肉部75と内側厚肉部77とを接続し、内側薄肉部75から内側厚肉部77に向けて急激にかつ線形に大きくなる厚さを有する。
【0079】
内側厚さ変化部78は、内側厚肉部77から内側厚さ変化部76の反対に向けて延び、内側厚肉部77と屈曲部61とを接続する。内側厚さ変化部78は、屈曲部61から内側厚肉部77に向けて急激にかつ線形に大きくなる厚さを有する。したがって、内側厚さ変化部78の屈曲部61側の端部は、局所的に屈曲部61の最小厚さt10と同じ厚さを有する。
【0080】
内側傾斜部62の一面(乗員室側の面)は、平滑な円錐台形状である。しかし、内側傾斜部62の他面(エンジンルーム側の面)は、傾斜部62の厚さの変化のために、突出した部分を有する。
【0081】
第2のシール部50においては、ベロー部53の外側傾斜部64および内側傾斜部62には、外側厚肉部72および内側厚肉部77が設けられており、これらの厚肉部72,77がエンジンルームからの騒音を乗員室に伝達するのを効果的に抑制する。一方、ベロー部53の屈曲部63、外側薄肉部70および内側薄肉部75は、厚さが小さく変形しやすいため、シール部50が回転軸4に与える抵抗すなわちトルクを低減することができる。特に低温環境においてベロー部53を形成するエラストマーが硬くなっても、これらの薄い部分は変形しやすい。回転軸4に与えられる抵抗が小さいため、回転軸4と摺動部54の摺動に伴って発生する騒音も低減される。
【0082】
また、外側傾斜部64にとって、屈曲部65は、取付部51と外側傾斜部64とを接続する外側接続部である。屈曲部(外側接続部)65の最小厚さt9は、外側厚肉部72の厚さt11および内側厚肉部77の厚さt12より小さい。したがって、シール部50が回転軸4に与える抵抗すなわちトルクをさらに低減することができる。
【0083】
以上のように、この実施形態に係る密封装置1は、互いに類似する構造を有する2つのシール部10,50を有する。シール部10,50を有する二重構造によって、エンジンルーム側の空間Eから乗員室側の空間Pへの音の伝達を抑制する機能がさらに改善し、エンジンルーム側の空間Eから乗員室側の空間Pへの異物の侵入の抑制機能をさらに改善することができる。
【0084】
以上、本発明の好ましい実施形態を参照しながら本発明を図示して説明したが、当業者にとって特許請求の範囲に記載された発明の範囲から逸脱することなく、形式および詳細の変更が可能であることが理解されるであろう。このような変更、改変および修正は本発明の範囲に包含されるはずである。
【0085】
例えば、回転軸4の周囲に特開2016-20721号公報または特開2019-7552号公報に開示された公知の遮音環を設けてもよい。
【0086】
上記の実施形態では、密封装置1はステアリングダストシールであるが、本発明はステアリングダストシールに限らず、大きく偏心しうる回転軸の周囲を封止するとともに、騒音を減衰させる密封装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0087】
E エンジンルーム側の空間
P 乗員室側の空間
1 密封装置(ステアリングダストシール)
2 外側支持部材
2A 孔
4 回転軸(ステアリングシャフト)
10 第1のシール部(第1の密封装置)
50 第2のシール部(第2の密封装置)
11,51 取付部
12,52 円筒部
13,53 ベロー部
14,54 摺動部
20 傾斜部
21,61 屈曲部(内側接続部)
22,62 傾斜部(内側傾斜部)
23,63 屈曲部
24,64 傾斜部(外側傾斜部)
25,65 屈曲部(外側接続部)
26 傾斜部(外側接続部)
30,70 外側薄肉部
32,72 外側厚肉部
35,75 内側薄肉部
37,77 内側厚肉部