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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065472
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】航行制御システムおよび船舶
(51)【国際特許分類】
   G08G 3/02 20060101AFI20240508BHJP
   B63H 25/04 20060101ALI20240508BHJP
   B63B 43/18 20060101ALI20240508BHJP
   B63B 49/00 20060101ALI20240508BHJP
   G01C 21/22 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
G08G3/02 A
B63H25/04 C
B63B43/18
B63B49/00 Z
G01C21/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174350
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】濱田 曉
(72)【発明者】
【氏名】尾上 昭博
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】末森 勝
(72)【発明者】
【氏名】門林 義幸
(72)【発明者】
【氏名】小山 真奈未
【テーマコード(参考)】
2F129
5H181
【Fターム(参考)】
2F129AA14
2F129BB03
2F129BB27
2F129DD15
2F129DD53
2F129DD63
2F129DD65
2F129EE02
2F129EE55
2F129EE79
2F129EE83
2F129EE95
2F129GG04
2F129GG06
2F129GG11
2F129GG17
5H181AA25
5H181CC02
5H181CC03
5H181CC04
5H181FF04
5H181FF22
5H181LL01
5H181LL09
(57)【要約】
【課題】横荷重による不快感を軽減することが可能な航行制御システムおよび船舶を提供する。
【解決手段】航行制御システム102は、船体101に設けられ、船体101から水面上の障害物Sまでの距離、および、障害物Sの位置を検出する障害物検出部3と、船体101に設けられ、推進力を発生させる推進部1と、推進部1を船体101の左右に転舵させる転舵機構と、障害物検出部3により障害物Sを検出した場合に、転舵時に船体101に作用する水平方向の横加速度の指標を少なくとも含む航路関数に基づいて、障害物Sの回避航路Aを決定する制御を行う制御部5と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体に設けられ、前記船体から水面上の障害物までの距離、および、前記障害物の位置を検出する障害物検出部と、
前記船体に設けられ、推進力を発生させる推進部と、
前記推進部を前記船体の左右に転舵させる転舵機構と、
前記障害物検出部により前記障害物を検出した場合に、転舵時に前記船体に作用する水平方向の横加速度の指標を少なくとも含む航路関数に基づいて、前記障害物の回避航路を決定する制御を行う制御部と、を備える、航行制御システム。
【請求項2】
前記制御部は、転舵時に前記船体に作用すると予測される前記横加速度の大きさを示す予測指標を前記横加速度の指標として、前記横加速度の大きさを示す前記予測指標を少なくとも含む前記航路関数に基づいて、前記障害物の前記回避航路を決定する制御を行うように構成されている、請求項1に記載の航行制御システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記横加速度の指標に加えて、前記障害物と前記船体との距離が小さい程大きくなる指標である障害物接近値を含む前記航路関数に基づいて、前記障害物の前記回避航路を決定する制御を行うように構成されている、請求項1に記載の航行制御システム。
【請求項4】
前記制御部は、
設定された目的地に向けて自動で航行する制御を行うとともに、
前記横加速度の指標に加えて、前記目的地までの航行時間を示す指標を含む前記航路関数に基づいて、前記障害物の前記回避航路を決定する制御を行うように構成されている、請求項1に記載の航行制御システム。
【請求項5】
前記制御部は、前記横加速度の大きさを示す前記予測指標である転舵時の前記横加速度の積分値を少なくとも含む前記航路関数に基づいて、前記障害物の前記回避航路を決定する制御を行うように構成されている、請求項2に記載の航行制御システム。
【請求項6】
前記制御部は、前記横加速度の大きさを示す前記予測指標である転舵時の前記横加速度の最大値を少なくとも含む前記航路関数に基づいて、前記障害物の前記回避航路を決定する制御を行うように構成されている、請求項2に記載の航行制御システム。
【請求項7】
前記制御部は、前記障害物と前記船体との距離が所定の離間距離以上である場合には、前記障害物接近値を所定の最小接近値に設定するとともに、前記航路関数に基づいて、前記所定の離間距離以上が確保されて前記所定の最小接近値が維持されるように、前記障害物の前記回避航路を決定する制御を行うように構成されている、請求項3に記載の航行制御システム。
【請求項8】
前記制御部は、前記船体から前記障害物までの距離が、前記障害物検出部の前記障害物を検出可能な最大検出距離よりも小さな所定の近接距離となる位置まで、前記船体が前記障害物に近づいた場合に、前記横加速度の指標を少なくとも含む前記航路関数に基づいて、前記障害物の前記回避航路を決定する制御を開始するように構成されている、請求項1に記載の航行制御システム。
【請求項9】
転舵角の大きさと、推進力の大きさと、旋回半径との関係を示すマップまたはテーブルを記憶する記憶部をさらに備え、
前記制御部は、前記横加速度の指標を少なくとも含む前記航路関数と、前記マップまたは前記テーブルとに基づいて、前記障害物の前記回避航路を決定する制御を行うように構成されている、請求項1に記載の航行制御システム。
【請求項10】
前記制御部は、前記障害物の前記回避航路を決定する際に、右回りおよび左回りの一方の旋回、右回りおよび左回りの他方の旋回を順に行った後、前記船体を直進させる制御を行うように構成されている、請求項1に記載の航行制御システム。
【請求項11】
前記障害物検出部は、ステレオカメラ、または、光により前記障害物を検出することにより前記障害物までの距離を取得する光検出装置である、請求項1に記載の航行制御システム。
【請求項12】
前記制御部は、前記横加速度の指標を少なくとも含む前記航路関数を最小化するように、前記障害物の前記回避航路を決定する制御を行うように構成されている、請求項1に記載の航行制御システム。
【請求項13】
船体と、
前記船体に設けられた航行制御システムと、を備え、
前記航行制御システムは、
前記船体に設けられ、前記船体から水面上の障害物までの距離、および、前記障害物の位置を検出する障害物検出部と、
前記船体に設けられ、推進力を発生させる推進部と、
前記推進部を前記船体の左右に転舵させる転舵機構と、
前記障害物検出部により前記障害物を検出した場合に、転舵時に前記船体に作用する水平方向の横加速度の指標を少なくとも有する航路関数に基づいて、前記障害物の回避航路を決定する制御を行う制御部と、を含む、船舶。
【請求項14】
前記制御部は、転舵時に前記船体に作用すると予測される前記横加速度の大きさを示す予測指標を前記横加速度の指標として、前記横加速度の大きさを示す前記予測指標を少なくとも含む前記航路関数に基づいて、前記障害物の前記回避航路を決定する制御を行うように構成されている、請求項13に記載の船舶。
【請求項15】
前記制御部は、前記横加速度の指標に加えて、前記障害物と前記船体との距離が小さい程大きくなる指標である障害物接近値を含む前記航路関数に基づいて、前記障害物の前記回避航路を決定する制御を行うように構成されている、請求項13に記載の船舶。
【請求項16】
前記制御部は、
設定された目的地に向けて自動で航行する制御を行うとともに、
前記横加速度の指標に加えて、前記目的地までの航行時間を示す指標を含む前記航路関数に基づいて、前記障害物の前記回避航路を決定する制御を行うように構成されている、請求項13に記載の船舶。
【請求項17】
前記制御部は、前記横加速度の大きさを示す前記予測指標である転舵時の前記横加速度の積分値を少なくとも含む前記航路関数に基づいて、前記障害物の前記回避航路を決定する制御を行うように構成されている、請求項14に記載の船舶。
【請求項18】
前記制御部は、前記横加速度の大きさを示す前記予測指標である転舵時の前記横加速度の最大値を少なくとも含む前記航路関数に基づいて、前記障害物の前記回避航路を決定する制御を行うように構成されている、請求項14に記載の船舶。
【請求項19】
前記制御部は、前記障害物と前記船体との距離が所定の離間距離以上である場合には、前記障害物接近値を所定の最小接近値に設定するとともに、前記航路関数に基づいて、前記所定の離間距離以上が確保されて前記所定の最小接近値が維持されるように、前記障害物の前記回避航路を決定する制御を行うように構成されている、請求項15に記載の船舶。
【請求項20】
前記制御部は、前記船体から前記障害物までの距離が、前記障害物検出部の前記障害物を検出可能な最大検出距離よりも小さな所定の近接距離となる位置まで、前記船体が前記障害物に近づいた場合に、前記横加速度の指標を少なくとも含む前記航路関数に基づいて、前記障害物の前記回避航路を決定する制御を開始するように構成されている、請求項13に記載の船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、航行制御システムおよび船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、障害物の回避航路を生成する制御部を備える航行制御システムおよび船舶が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、障害物を検出する障害物検出部と、障害物検出部により検出した障害物を回避する回避航路を生成する制御部を備え、船体に設けられた航行ルート生成装置が開示されている。船舶は、生成された回避航路に沿って転舵することにより障害物を回避するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-80432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上記特許文献1には明記されていないが、船舶が転舵する場合、船体には横加速度が作用する。この場合、船舶の搭乗者も横加速度を受けて船体の左右に揺れることになるため、横荷重による不快感を感じることになる。上記特許文献1の航行ルート生成装置において、このような横加速度について考慮した場合、障害物の回避を優先して、船体に比較的大きな横加速度が作用しているものと考えられる。このように、従来より横荷重による不快感を軽減することが求められている。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、横荷重による不快感を軽減することが可能な航行制御システムおよび船舶を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、この発明の第1の局面による航行制御システムは、船体に設けられ、船体から水面上の障害物までの距離、および、障害物の位置を検出する障害物検出部と、船体に設けられ、推進力を発生させる推進部と、推進部を船体の左右に転舵させる転舵機構と、障害物検出部により障害物を検出した場合に、転舵時に船体に作用する水平方向の横加速度の指標を少なくとも含む航路関数に基づいて、障害物の回避航路を決定する制御を行う制御部と、を備える。
【0008】
この第1の局面による航行制御システムでは、上記のように、障害物検出部により障害物を検出した場合に、転舵時に船体に作用する水平方向の横加速度の指標を少なくとも含む航路関数に基づいて、障害物の回避航路を決定する制御を行う制御部を設ける。これによって、回避航路を決定するための基礎となる航路関数が、転舵時に船体に作用する水平方向の横加速度の指標を含むので、従来のように単に障害物の回避だけを考慮するのではなく、船体に作用する水平方向の横加速度も考慮することができる。その結果、船体の横加速度を考慮して船体の横加速度を抑制する回避航路を決定することができるので、横荷重による不快感を軽減することができる。
【0009】
上記第1の局面による航行制御システムにおいて、好ましくは、制御部は、転舵時に船体に作用すると予測される横加速度の大きさを示す予測指標を横加速度の指標として、横加速度の大きさを示す予測指標を少なくとも含む航路関数に基づいて、障害物の回避航路を決定する制御を行うように構成されている。このように構成すれば、回避航路を決定する場合に、転舵時に船体に作用すると予測される横加速度の大きさを示す予測指標を横加速度の指標として考慮することができるので、精度よく船体に作用する横加速度を取得して、船体の横加速度を抑制する回避航路を決定することができる。その結果、横荷重による不快感を効果的に軽減することができる。
【0010】
上記第1の局面による航行制御システムにおいて、好ましくは、制御部は、横加速度の指標に加えて、障害物と船体との距離が小さい程大きくなる指標である障害物接近値を含む航路関数に基づいて、障害物の回避航路を決定する制御を行うように構成されている。このように構成すれば、横加速度の指標に加えて、障害物と船体との距離が小さい程大きくなる指標である障害物接近値を考慮することができる。このため、障害物と船体との距離を互いに近接することがない距離に保つことができるとともに、横荷重による不快感を軽減することができる。
【0011】
上記第1の局面による航行制御システムにおいて、好ましくは、制御部は、設定された目的地に向けて自動で航行する制御を行うとともに、横加速度の指標に加えて、目的地までの航行時間を示す指標を含む航路関数に基づいて、障害物の回避航路を決定する制御を行うように構成されている。このように構成すれば、横加速度の指標に加えて、目的地までの航行時間を示す指標を考慮することができる。このため、障害物を回避するために目的地までの航行時間が長くなることを抑制することができるとともに、横荷重による不快感を軽減することができる。
【0012】
上記制御部が横加速度の大きさを示す予測指標を少なくとも含む航路関数に基づいて障害物の回避航路を決定する制御を行う構成において、好ましくは、制御部は、横加速度の大きさを示す予測指標である転舵時の横加速度の積分値を少なくとも含む航路関数に基づいて、障害物の回避航路を決定する制御を行うように構成されている。このように構成すれば、回避航路を決定する場合に、予測指標として転舵時の横加速度の積分値を考慮することができるので、横加速度が継続される継続時間を考慮して船体の横加速度を抑制する回避航路を決定することができる。その結果、横荷重による不快感をより効果的に軽減することができる。
【0013】
上記制御部が横加速度の大きさを示す予測指標を少なくとも含む航路関数に基づいて障害物の回避航路を決定する制御を行う構成において、好ましくは、制御部は、横加速度の大きさを示す予測指標である転舵時の横加速度の最大値を少なくとも含む航路関数に基づいて、障害物の回避航路を決定する制御を行うように構成されている。このように構成すれば、予測指標として転舵時の横加速度の最大値を考慮することができるので、船舶の搭乗者が受ける左右への最大の揺れを抑制することができる。その結果、横荷重による不快感を軽減することができる。
【0014】
上記制御部が障害物接近値を含む航路関数に基づいて、障害物の回避航路を決定する制御を行う構成において、好ましくは、制御部は、障害物と船体との距離が所定の離間距離以上である場合には、障害物接近値を所定の最小接近値に設定するとともに、航路関数に基づいて、所定の離間距離以上が確保されて所定の最小接近値が維持されるように、障害物の回避航路を決定する制御を行うように構成されている。このように構成すれば、障害物接近値を所定の離間距離以上が確保される所定の最小接近値に維持することができる。その結果、障害物と船体との距離を互いに近接することがない距離に容易に保つことができる。
【0015】
上記第1の局面による航行制御システムにおいて、好ましくは、制御部は、船体から障害物までの距離が、障害物検出部の障害物を検出可能な最大検出距離よりも小さな所定の近接距離となる位置まで、船体が障害物に近づいた場合に、横加速度の指標を少なくとも含む航路関数に基づいて、障害物の回避航路を決定する制御を開始するように構成されている。このように構成すれば、障害物検出部により障害物をはじめて検出できるようになる距離(障害物を検出可能なギリギリの距離)ではなく、最大検出距離よりも小さな所定の近接距離に障害物に対して近づいた状態で、障害物の回避航路を決定する制御を開始することができるので、障害物の回避航路を決定する制御を開始する際の障害物までの距離を障害物検出部によって精度よく検出することができる。
【0016】
上記第1の局面による航行制御システムにおいて、好ましくは、転舵角の大きさと、推進力の大きさと、旋回半径との関係を示すマップまたはテーブルを記憶する記憶部をさらに備え、制御部は、横加速度の指標を少なくとも含む航路関数と、マップまたはテーブルとに基づいて、障害物の回避航路を決定する制御を行うように構成されている。このように構成すれば、記憶部に記憶されたマップまたはテーブルにより、転舵角の大きさと、推進力の大きさと、旋回半径との関係を、制御部が容易に取得することができる。
【0017】
上記第1の局面による航行制御システムにおいて、好ましくは、制御部は、障害物の回避航路を決定する際に、右回りおよび左回りの一方の旋回、右回りおよび左回りの他方の旋回を順に行った後、船体を直進させる制御を行うように構成されている。このように構成すれば、右回りおよび左回りの旋回を交互に繰り返すことができるので、船体が回避航路に沿って移動した場合に、船首を再び目的地に向けることができる。
【0018】
上記第1の局面による航行制御システムにおいて、好ましくは、障害物検出部は、ステレオカメラ、または、光により障害物を検出することにより障害物までの距離を取得する光検出装置である。このように構成すれば、ステレオカメラおよび光検出装置により、精度よくかつ容易に障害物までの距離を検出することができる。
【0019】
上記第1の局面による航行制御システムにおいて、好ましくは、制御部は、横加速度の指標を少なくとも含む航路関数を最小化するように、障害物の回避航路を決定する制御を行うように構成されている。このように構成すれば、航路関数を最小化することができるので、横加速度の指標などの航路関数に含まれる各指標のバランスを考慮した最適な障害物の回避航路を決定することができる。
【0020】
この発明の第2の局面による船舶は、船体と、船体に設けられた航行制御システムと、を備え、航行制御システムは、船体に設けられ、船体から水面上の障害物までの距離、および、障害物の位置を検出する障害物検出部と、船体に設けられ、推進力を発生させる推進部と、推進部を船体の左右に転舵させる転舵機構と、障害物検出部により障害物を検出した場合に、転舵時に船体に作用する水平方向の横加速度の指標を少なくとも有する航路関数に基づいて、障害物の回避航路を決定する制御を行う制御部と、を含む。
【0021】
この第2の局面による船舶では、上記のように、障害物検出部により障害物を検出した場合に、転舵時に船体に作用する水平方向の横加速度の指標を少なくとも含む航路関数に基づいて、障害物の回避航路を決定する制御を行う制御部を設ける。これによって、回避航路を決定するための基礎となる航路関数が、転舵時に船体に作用する水平方向の横加速度の指標を含むので、従来のように単に障害物の回避だけを考慮するのではなく、船体に作用する水平方向の横加速度も考慮することができる。その結果、船体の横加速度を考慮して船体の横加速度を抑制する回避航路を決定することができるので、横荷重による不快感を軽減することができる。
【0022】
上記第2の局面による船舶において、好ましくは、制御部は、転舵時に船体に作用すると予測される横加速度の大きさを示す予測指標を横加速度の指標として、横加速度の大きさを示す予測指標を少なくとも含む航路関数に基づいて、障害物の回避航路を決定する制御を行うように構成されている。このように構成すれば、回避航路を決定する場合に、さらに転舵時に船体に作用すると予測される横加速度の大きさを示す予測指標を横加速度の指標として考慮することができるので、精度よく船体に作用する横加速度を取得して、船体の横加速度を抑制する回避航路を決定することができる。その結果、横荷重による不快感を効果的に軽減することができる。
【0023】
上記第2の局面による船舶において、好ましくは、制御部は、横加速度の指標に加えて、障害物と船体との距離が小さい程大きくなる指標である障害物接近値を含む航路関数に基づいて、障害物の回避航路を決定する制御を行うように構成されている。このように構成すれば、横加速度の指標に加えて、障害物と船体との距離が小さい程大きくなる指標である障害物接近値を考慮することができる。このため、障害物と船体との距離を互いに近接することがない距離に保つことができるとともに、横荷重による不快感を軽減することができる。
【0024】
上記第2の局面による船舶において、好ましくは、制御部は、設定された目的地に向けて自動で航行する制御を行うとともに、横加速度の指標に加えて、目的地までの航行時間を示す指標を含む航路関数に基づいて、障害物の回避航路を決定する制御を行うように構成されている。このように構成すれば、横加速度の指標に加えて、目的地までの航行時間を示す指標を考慮することができる。このため、障害物を回避するために目的地までの航行時間が長くなることを抑制することができるとともに、横荷重による不快感を軽減することができる。
【0025】
上記制御部が横加速度の大きさを示す予測指標を少なくとも含む航路関数に基づいて障害物の回避航路を決定する制御を行う構成において、好ましくは、制御部は、横加速度の大きさを示す予測指標である転舵時の横加速度の積分値を少なくとも含む航路関数に基づいて、障害物の回避航路を決定する制御を行うように構成されている。このように構成すれば、回避航路を決定する場合に、予測指標として転舵時の横加速度の積分値を考慮することができるので、横加速度が継続される継続時間を考慮して船体の横加速度を抑制する回避航路を決定することができる。その結果、障害物を回避する際に横荷重による不快感をより効果的に軽減することができる。
【0026】
上記制御部が横加速度の大きさを示す予測指標を少なくとも含む航路関数に基づいて障害物の回避航路を決定する制御を行う構成において、好ましくは、制御部は、横加速度の大きさを示す予測指標である転舵時の横加速度の最大値を少なくとも含む航路関数に基づいて、障害物の回避航路を決定する制御を行うように構成されている。このように構成すれば、予測指標として転舵時の横加速度の最大値を考慮することができるので、船舶の搭乗者が受ける左右への最大の揺れを抑制することができる。その結果、横荷重による不快感を軽減することができる。
【0027】
上記制御部が障害物接近値を含む航路関数に基づいて、障害物の回避航路を決定する制御を行う構成において、好ましくは、制御部は、障害物と船体との距離が所定の離間距離以上である場合には、障害物接近値を所定の最小接近値に設定するとともに、航路関数に基づいて、所定の離間距離以上が確保されて所定の最小接近値が維持されるように、障害物の回避航路を決定する制御を行うように構成されている。このように構成すれば、障害物接近値を所定の離間距離以上が確保される所定の最小接近値に維持することができる。その結果、障害物と船体との距離を互いに近接することがない距離に容易に保つことができる。
【0028】
上記第2の局面による船舶において、好ましくは、制御部は、船体から障害物までの距離が、障害物検出部の障害物を検出可能な最大検出距離よりも小さな所定の近接距離となる位置まで、船体が障害物に近づいた場合に、横加速度の指標を少なくとも含む航路関数に基づいて、障害物の回避航路を決定する制御を開始するように構成されている。このように構成すれば、障害物検出部により障害物をはじめて検出できるようになる距離(障害物を検出可能なギリギリの距離)ではなく、最大検出距離よりも小さな所定の近接距離に障害物に対して近づいた状態で、障害物の回避航路を決定する制御を開始することができるので、障害物の回避航路を決定する制御を開始する際の障害物までの距離を障害物検出部によって精度よく検出することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、上記のように、横荷重による不快感を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】実施形態による航行制御システムが設けられた船舶を示した斜視図である。
図2】実施形態による航行制御システムが設けられた船舶を示した側面図である。
図3】実施形態による推進部の推進力と転舵角と旋回半径との関係について説明するための図である。
図4】実施形態による障害物と船体との距離と、障害物接近値との関係について説明するための図である。
図5】実施形態による制御部により決定される障害物の回避航路の例について説明するための図であり、船舶と障害物との距離が最大検出距離である場合の状態を示した図である。
図6】実施形態による制御部により決定される障害物の回避航路の例について説明するための図であり、図5の状態に続く状態を示した図である。
図7】実施形態による制御部により決定される障害物の回避航路の例について説明するための図であり、図6の状態に続く状態であり、船舶が右回りに旋回する状態を示した図である。
図8】実施形態による制御部により決定される障害物の回避航路の例について説明するための図であり、図7の状態に続く状態であり、船舶が左回りに旋回する状態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0032】
[実施形態]
(船舶の構成)
図1図8を参照して、実施形態による航行制御システム102を備える船舶100の構成について説明する。
【0033】
なお、図中のFWDは船舶100の前進方向を示している。図中のBWDは船舶100の後進方向を示している。図中のRは船舶100の右舷(スターボード)方向を示している。図中のLは船舶100の左舷(ポートサイド)方向を示している。
【0034】
船舶100は、船体101と、船体101に設けられた航行制御システム102とを備えている。
【0035】
本実施形態の船舶100は、AIS(Automatic Identification System)を備えていないような比較的小型の船舶である。AISとは、同じ近隣の水上航行する船舶同士が、航行情報を相互に交換するためのシステムである。すなわち、本実施形態の船舶100は、AISを用いて障害物Sを早い段階から把握して、回避を行うことができない船舶である。
【0036】
図1および図2に示す船舶100(航行制御システム102の制御部5)は、水面上に障害物Sがある場合、障害物S(図5図8参照)の回避航路A(図7図8参照)を決定する制御を行うように構成されている。そして、船舶100(航行制御システム102の制御部5)は、決定した障害物Sの回避航路Aに沿って自動で操船(障害物回避制御)を行うように構成されている。なお、船舶(航行制御システムの制御部)は、自動で操船を行うのではなく、単に、決定した障害物の回避航路に沿って操船を行うことをユーザに対して促すように構成されていてもよい。制御部5が実行する障害物回避制御の詳細については後述する。
【0037】
また、船舶100は、位置情報取得部(図示せず)を備えている。一例ではあるが、位置情報取得部は、GPS(Global Positioning System)機能を有している。船舶100は、位置情報取得部により、現在の船体101の位置および船速などを取得するように構成されている。
【0038】
航行制御システム102は、推進部1と、転舵機構2と、障害物検出部3と、上記の回避航路Aを決定する際に用いられる情報が記憶された記憶部4と、上記の回避航路Aを決定する制御部5とを備えている。
【0039】
一例ではあるが、制御部5は、Central Processing Unit(CPU)およびメモリを含む制御回路であり、各種の自動操船の制御を行ういわゆるボートコントロールユニットにより構成されている。各種の自動操船の制御とは、自動で船体101の位置を保持する制御、自動で船体101の方位を維持しながら航行する制御、および、ユーザにより設定された目的地Dに向けて自動で航行する制御などである。
【0040】
本実施形態では、制御部5は、自動操船の制御の1つとして、障害物Sの回避航路Aを決定して、決定した障害物Sの回避航路Aに沿って自動で操船する制御(障害物回避制御)を行うように構成されている。航行制御システム102は、所定の操作部に対する操作によって、障害物回避制御のオンオフを切り替え可能に構成されている。
【0041】
(推進部の構成)
推進部1は、船体101のトランサムに取り付けられる船外機により構成されている。推進部1は、船体101に1機のみ設けられている。推進部1は、エンジン10と、エンジン10の駆動力により回転するプロペラ11とを備えている。推進部1は、エンジン10を駆動させてトルクを発生させることにより、ドライブシャフト12を回転させるように構成されている。そして、推進部1は、ギヤユニット13を介して、ドライブシャフト12からプロペラシャフト14にトルクを伝達して、プロペラシャフト14とともにプロペラ11を回転させるように構成されている。
【0042】
推進部1には、エンジンコントロールユニット(ECU)15が設けられており、エンジンコントロールユニット15による制御の下、駆動が制御される。エンジンコントロールユニット15は、CPUおよびメモリを含む制御回路である。なお、ボートコントロールユニットにより構成される制御部5により実行される自動操船モードがオンの場合には、エンジンコントロールユニット15は、制御部5からの駆動信号に基づいて推進部1の駆動を制御する。その結果、推進力の大きさなどが調整される。
【0043】
(転舵機構の構成)
転舵機構2は、推進部1を船体101の左右の中心線に対して転舵させるように構成されている。転舵機構2には、ステアリングコントロールユニット(SCU)20が設けられており、ステアリングコントロールユニット20による制御の下、駆動が制御される。ステアリングコントロールユニット20は、CPUおよびメモリを含む制御回路である。なお、自動操船モードがオンの場合には、ステアリングコントロールユニット20は、制御部5からの駆動信号に基づいて推進部1の転舵を制御する。一例ではあるが、転舵機構2は、転舵軸と、油圧により伸縮して転舵軸を回動させる油圧シリンダなどにより構成されている。
【0044】
(障害物検出部の構成)
障害物検出部3は、船体101から水面上の障害物Sまでの距離、および、障害物Sの位置を検出するように構成されている。障害物検出部3は、船体101に設けられている。障害物検出部3は、少なくとも船体101の前方側の障害物Sを検出可能に構成されている。
【0045】
障害物検出部3は、いわゆるLider(Light Detection and Ranging)により構成されている。Liderとは、近赤外光や可視光、紫外線を対象物に光を照射して、反射光を光センサにより検出することによって対象物までの距離を取得する対象物の検出方式である。Liderは、対象物の位置および形状も取得することが可能である。一例ではあるが、障害物検出部3の障害物Sを検出可能な最大検出距離は、約300mである。
【0046】
(記憶部の構成)
記憶部4には、転舵角の大きさと、推進力の大きさと、旋回半径との関係を示すテーブル4aが記憶されている。記憶部4に記憶されたテーブル4a(図3参照)は、制御部5が実行する障害物回避制御に用いられる。
【0047】
転舵角の大きさは、転舵機構2によって調整される。転舵角とは、平面視における船体101の左右の中心線に対する推進部1の傾斜角度である。推進力の大きさは、推進部1のエンジン10によって調整される。
【0048】
一例ではあるが、図3に転舵角を-10度、-5度、0度、5度、10度と、推進力4000N、6000N、8000Nと、旋回半径との関係について示す。転舵角が大きい程、旋回半径は小さくなり、転舵角が小さい程、旋回半径は大きくなる。推進力が大きい程、旋回半径は大きくなり、推進力が小さい程、旋回半径は小さくなる。なお、旋回半径の具体的な値は、船体101の形状などを考慮して事前に設定される。
【0049】
(制御部の構成)
図1および図2に示す制御部5は、ユーザにより設定された目的地Dに向けて自動で航行する制御を行うように構成されている。なお、船舶100は、概ね、目的地Dに船首を向けた状態で、目的地Dに向けて直線状に移動する。障害物回避制御は、目的地Dに向けて自動で航行する際に、制御部5が実行する制御である。以下、障害物回避制御について説明する。なお、障害物回避制御は、3つの指標に基づいて規定される航路関数を考慮して実行される。以下では、3つの指標について順に説明した後、航路関数について説明する。
【0050】
はじめに、第1の指標について説明する。制御部5は、障害物検出部3により障害物Sを検出した場合に、転舵時に船体101に作用する水平方向の横加速度の指標(第1の指標)を少なくとも含む航路関数に基づいて、障害物Sの回避航路Aを決定する制御を行うように構成されている。
【0051】
横加速度とは、船舶が旋回(転舵)する際に、平面視で船舶の前後方向に直交する左右方向において船舶に作用する加速度である。船舶100の旋回時には、必ず横加速度が生じる。船舶100の直進時には、横加速度はゼロとなる。横加速度が生じた場合、ユーザが船体101の左右方向に揺れる状態になるため、横加速度は、所定値以下に抑制されることが好ましい。すなわち、横加速度の指標(第1の指標)は、回避航路Aを設定する際に、ユーザが受ける横加速度を所定値以下に抑制するために考慮される指標である。一例ではあるが、横加速度の指標(第1の指標)は、ユーザが受ける横加速度が少なくとも0.5G以下となるように設定される。
【0052】
詳細には、制御部5は、転舵時に船体101に作用すると予測される横加速度の大きさを示す予測指標を横加速度の指標として、横加速度の大きさを示す予測指標を少なくとも含む航路関数に基づいて、障害物Sの回避航路Aを決定する制御を行うように構成されている。
【0053】
より詳細には、制御部5は、横加速度の大きさを示す予測指標である転舵時の横加速度の積分値を少なくとも含む航路関数に基づいて、障害物Sの回避航路Aを決定する制御を行うように構成されている。
【0054】
なお、制御部5は、横加速度の指標を少なくとも含む航路関数と、上記のテーブル4aとに基づいて、障害物Sの回避航路Aを決定する制御を行うように構成されている。すなわち、制御部5は、テーブル4aに基づいて、転舵機構2の駆動を制御して転舵角を調整するとともに、エンジン10の駆動を制御して推進力の大きさを調整することによって、横加速度が小さくなるように、旋回半径を比較的大きくする制御を行う。なお、制御部5は、転舵機構2およびエンジン10の一方の駆動のみを制御してもよい。
【0055】
次に、図4を参照して、第2の指標について説明する。制御部5は、上記の横加速度の指標に加えて、障害物Sと船体101との距離が小さい程大きくなる指標である障害物接近値(第2の指標)を含む航路関数に基づいて、障害物Sの回避航路Aを決定する制御を行うように構成されている。障害物接近値は、障害物Sと船体101との接近度合いの大きさを示す指標である。障害物接近値は、1以上の値であり、障害物Sと船体101との接近度合いが大きいほど、大きな値になる。障害物接近値(第2の指標)は、障害物Sと船体101との距離を確保して互いに近接することを防ぐために考慮される指標である。
【0056】
また、制御部5は、障害物Sと船体101との距離が所定の離間距離以上である場合には、障害物接近値を所定の最小接近値に設定するとともに、航路関数に基づいて、所定の離間距離以上が確保されて所定の最小接近値が維持されるように、障害物Sの回避航路Aを決定する制御を行うように構成されている。
【0057】
一例ではあるが、障害物接近値は、障害物Sと船体101との距離が20m以上である場合には常に1になる。この20mが上記の所定の離間距離である。また、1となる障害物接近値が上記の最小接近値である。したがって、船舶100は、障害物Sと船体101との距離を少なくとも20m以上確保して回避航路Aを航行する。また、障害物接近値は、障害物Sと船体101との距離が20m未満である場合において距離が小さくなる程、大きな値になる。そして、障害物接近値は、障害物Sと船体101との距離が5m付近で、極めて大きな値を取るように発散する。
【0058】
制御部5は、船体101から障害物Sまでの距離が、障害物検出部3の障害物Sを検出可能な最大検出距離よりも小さな所定の近接距離となる位置まで、船体101が障害物Sに近づいた場合に、横加速度の指標を少なくとも含む航路関数に基づいて、障害物Sの回避航路Aを決定する制御を開始するように構成されている。
【0059】
近接距離は、少なくとも、障害物接近値が1になる場合の障害物Sと船体101との所定の距離である。すなわち、本実施形態では、近接距離は、20m以上の所定の距離である。一例ではあるが、最大検出距離は上記の通り300mであり、この場合の近接距離は200mである。
【0060】
次に、第3の指標について説明する。制御部5は、横加速度の指標に加えて、目的地Dまでの航行時間を示す指標(第3の指標)を含む航路関数に基づいて、障害物Sの回避航路Aを決定する制御を行うように構成されている。目的地Dまでの航行時間を示す指標(第3の指標)は、決定された回避航路Aに沿って船舶100が航行した場合に、回避航路Aが設定される前の目的地Dまでの元々の航路と比較して、目的地Dまでの航行時間が長くなりすぎることを抑制するための指標である。
【0061】
一例ではあるが、目的地Dまでの航行時間を示す指標は、回避航路Aを航行した場合に船舶100が現在地から目的地Dに到達するのに要する航行時間そのものである。なお、回避航路Aは、船体101と障害物Sとの距離を大きく確保する程、障害物Sに対する接近度合いを小さくできるが、この場合には、目的地Dまでの航行時間が必要以上に長くなってしまう。そこで、一例ではあるが、制御部5は、障害物Sに最も近づいた状態で、障害物Sとの距離が所定の離間距離(たとえば20m)だけ確保されるような回避航路Aを決定する制御を行うように構成されている。
【0062】
上記説明した3つの指標(第1の指標、第2の指標、第3の指標)を含む航路関数は以下の式のようになる。
【0063】
航路関数=(横加速度の指標)×(障害物接近値)×(目的地Dまでの航行時間を示す指標)
【0064】
具体的には、航路関数は以下の式のようになる。
【0065】
航路関数=(「横加速度の大きさを示す予測指標である転舵時の横加速度の積分値」の絶対値+1)×(障害物接近値)×(目的地Dまでの航行時間)
【0066】
なお、航路関数では、上記3つの指標の重みづけ(重要度、優先度)を調整するために、所定の係数を上記3つの指標の少なくとも1つに乗じてもよい。
【0067】
制御部5は、横加速度の指標を少なくとも含む航路関数を最小化するように、障害物Sの回避航路Aを決定する制御を行うように構成されている。詳細には、上記の航路関数の式のように、制御部5は、横加速度の指標、障害物接近値および目的地Dまでの航行時間を示す指標の3つの指標を含む航路関数を最小化するように、障害物Sの回避航路Aを決定する制御を行うように構成されている。また、制御部5は、上記3つの指標の各々について超えてはならない所定の上限値を設定して、回避航路Aを決定するように構成されている。
【0068】
制御部5は、障害物Sの回避航路Aを決定する際に、右回りおよび左回りの一方の旋回(転舵)、右回りおよび左回りの他方の旋回を順に行った後、船体101を直進させる制御を行うように構成されている。なお、船舶には、右側航行というルールがある。このため、制御部5は、原則、障害物Sの回避航路Aを決定する際に、右回りの旋回、左回りの旋回を順に行った後(船体101の右側への旋回を行った後)、目的地Dに向けて船体101を直進させる。
【0069】
(制御部により決定される障害物の回避航路の例)
次に、図5図8を参照して、制御部5により決定される障害物Sの回避航路Aの例について説明する。
【0070】
以下では、船舶100が、陸地である障害物Sに向けて航行している場合について説明する。
【0071】
図5に示すように、船舶100と障害物Sとの距離が300mまで近づくと、障害物検出部3により障害物Sが検出される。その結果、制御部5は、障害物Sを認識する。
【0072】
そして、図6に示すように、制御部5は、船体101から障害物Sまでの距離が、近接距離(たとえば200m)となる位置まで、船体101が障害物Sに近づいた場合に、障害物Sの回避航路Aを決定する制御を開始する。この回避航路Aを決定する際の障害物接近値は1である。また、制御部5は、テーブル4aを考慮して、推進力および転舵角を調整して、横加速度の積分値が小さくなるように(大きくなりすぎないように)旋回半径を比較的大きな値に設定する。
【0073】
具体的な一例として、図7に示すように、順に行う右回りおよび左回りの旋回半径をともに100mに設定する。なお、右回りの旋回と、左回りの旋回との間に、直線状の移動が介在してもよい。
【0074】
また、制御部5は、目的地Dまでの航行時間が長くなりすぎないように、障害物接近値が1で維持される範囲で最短の回避航路Aを決定する。
【0075】
具体手な一例として、図8に示すように、障害物Sに最も近づいた状態で、制御部5は、障害物Sとの距離が所定の離間距離(たとえば20m)だけ確保されるような回避航路Aを決定する。すなわち、制御部5は、右回りの旋回および左回りの旋回が完了した場合、平面視で旋回前の船首方位に直交する方向において、障害物Sとの距離が所定の離間距離(たとえば20m)になるような回避航路Aを決定する。また、制御部5は、右回りの旋回および左回りの旋回が完了した場合、目的地Dを向く船首方位となるような回避航路Aを決定する。
【0076】
そして、回避航路Aの決定後に即座に、制御部5は、決定した障害物Sの回避航路Aに沿った自動操船を開始する。制御部5は、回避航路Aの決定後においても、回避航路Aを決定する演算を所定の時間間隔(たとえば0.1秒間隔)で繰り返し行うように構成されている。これにより、制御部5は、回避航路Aが障害物Sを回避する最適な航路に近づくように、回避航路Aを修正している。図7および図8では、障害物Sである陸地の形状を考慮して、旋回前の船体101の右側に旋回して航行するような回避航路Aを決定した例を示している。なお、障害物である陸地の形状を考慮して、旋回前の船体の左側に旋回して障害物を回避することが可能であるならば、旋回前の船体の左側に旋回して航行するような回避航路を決定してもよい。
【0077】
(本実施形態の効果)
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0078】
本実施形態では、上記のように、障害物検出部3により障害物Sを検出した場合に、転舵時に船体101に作用する水平方向の横加速度の指標を少なくとも含む航路関数に基づいて、障害物Sの回避航路Aを決定する制御を行う制御部5を設ける。これによって、回避航路Aを決定するための基礎となる航路関数が、転舵時に船体101に作用する水平方向の横加速度の指標を含むので、従来のように単に障害物Sの回避だけを考慮するのではなく、船体101に作用する水平方向の横加速度も考慮することができる。その結果、船体101の横加速度を考慮して船体101の横加速度を抑制する回避航路Aを決定することができるので、横荷重による不快感を軽減することができる。
【0079】
本実施形態では、上記のように、制御部5は、転舵時に船体101に作用すると予測される横加速度の大きさを示す予測指標を横加速度の指標として、横加速度の大きさを示す予測指標を少なくとも含む航路関数に基づいて、障害物Sの回避航路Aを決定する制御を行うように構成されている。これによって、回避航路Aを決定する場合に、転舵時に船体101に作用すると予測される横加速度の大きさを示す予測指標を横加速度の指標として考慮することができるので、精度よく船体101に作用する横加速度を取得して、船体101の横加速度を抑制する回避航路Aを決定することができる。その結果、横荷重による不快感を効果的に軽減することができる。
【0080】
本実施形態では、上記のように、制御部5は、横加速度の指標に加えて、障害物Sと船体101との距離が小さい程大きくなる指標である障害物接近値を含む航路関数に基づいて、障害物Sの回避航路Aを決定する制御を行うように構成されている。これによって、横加速度の指標に加えて、障害物Sと船体101との距離が小さい程大きくなる指標である障害物接近値を考慮することができる。このため、障害物Sと船体101との距離を互いに近接することがない距離に保つことができるとともに、横荷重による不快感を軽減することができる。
【0081】
本実施形態では、上記のように、制御部5は、設定された目的地Dに向けて自動で航行する制御を行うとともに、横加速度の指標に加えて、目的地Dまでの航行時間を示す指標を含む航路関数に基づいて、障害物Sの回避航路Aを決定する制御を行うように構成されている。これによって、横加速度の指標に加えて、目的地Dまでの航行時間を示す指標を考慮することができる。このため、障害物Sを回避するために目的地Dまでの航行時間が長くなることを抑制することができるとともに、横荷重による不快感を軽減することができる。
【0082】
本実施形態では、上記のように、制御部5は、横加速度の大きさを示す予測指標である転舵時の横加速度の積分値を少なくとも含む航路関数に基づいて、障害物Sの回避航路Aを決定する制御を行うように構成されている。これによって、回避航路Aを決定する場合に、予測指標として転舵時の横加速度の積分値を考慮することができるので、横加速度が継続される継続時間を考慮して船体101の横加速度を抑制する回避航路Aを決定することができる。その結果、横荷重による不快感をより効果的に軽減することができる。
【0083】
本実施形態では、上記のように、制御部5は、横加速度の大きさを示す予測指標である転舵時の横加速度の最大値を少なくとも含む航路関数に基づいて、障害物Sの回避航路Aを決定する制御を行うように構成されている。これによって、予測指標として転舵時の横加速度の最大値を考慮することができるので、船舶100の搭乗者が受ける左右への最大の揺れを抑制することができる。その結果、横荷重による不快感を軽減することができる。
【0084】
本実施形態では、上記のように、制御部5は、障害物Sと船体101との距離が所定の離間距離以上である場合には、障害物接近値を所定の最小接近値に設定するとともに、航路関数に基づいて、所定の離間距離以上が確保されて所定の最小接近値が維持されるように、障害物Sの回避航路Aを決定する制御を行うように構成されている。これによって、障害物接近値を所定の離間距離以上が確保される所定の最小接近値に維持することができる。その結果、障害物Sと船体101との距離を互いに近接することがない距離に容易に保つことができる。
【0085】
本実施形態では、上記のように、制御部5は、船体101から障害物Sまでの距離が、障害物検出部3の障害物Sを検出可能な最大検出距離よりも小さな所定の近接距離となる位置まで、船体101が障害物Sに近づいた場合に、横加速度の指標を少なくとも含む航路関数に基づいて、障害物Sの回避航路Aを決定する制御を開始するように構成されている。これによって、障害物検出部3により障害物Sをはじめて検出できるようになる距離(障害物Sを検出可能なギリギリの距離)ではなく、最大検出距離よりも小さな所定の近接距離に障害物Sに対して近づいた状態で、障害物Sの回避航路Aを決定する制御を開始することができるので、障害物Sの回避航路Aを決定する制御を開始する際の障害物Sまでの距離を障害物検出部3によって精度よく検出することができる。
【0086】
本実施形態では、上記のように、転舵角の大きさと、推進力の大きさと、旋回半径との関係を示すテーブル4aを記憶する記憶部4をさらに備え、制御部5は、横加速度の指標を少なくとも含む航路関数と、テーブル4aとに基づいて、障害物Sの回避航路Aを決定する制御を行うように構成されている。これによって、記憶部4に記憶されたテーブル4aにより、転舵角の大きさと、推進力の大きさと、旋回半径との関係を、制御部5が容易に取得することができる。
【0087】
本実施形態では、上記のように、制御部5は、障害物Sの回避航路Aを決定する際に、右回りおよび左回りの一方の旋回、右回りおよび左回りの他方の旋回を順に行った後、船体101を直進させる制御を行うように構成されている。これによって、右回りおよび左回りの旋回を交互に繰り返すことができるので、船体101が回避航路Aに沿って移動した場合に、船首を再び目的地Dに向けることができる。
【0088】
本実施形態では、上記のように、障害物検出部3は、光により障害物Sを検出することにより障害物Sまでの距離を取得する光検出装置(Lider)である。これによって、光検出装置(Lider)により、精度よくかつ容易に障害物Sまでの距離を検出することができる。
【0089】
本実施形態では、上記のように、制御部5は、横加速度の指標を少なくとも含む航路関数を最小化するように、障害物Sの回避航路Aを決定する制御を行うように構成されている。これによって、航路関数を最小化することができるので、横加速度の指標などの航路関数に含まれる各指標のバランスを考慮した最適な障害物Sの回避航路Aを決定することができる。
【0090】
(変形例)
今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0091】
たとえば、上記実施形態では、障害物検出部をLiderにより構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、障害物検出部をステレオカメラなどにより構成してもよい。
【0092】
また、上記実施形態では、推進部を船外機により構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、推進部を船内機や船内外機などにより構成してもよい。
【0093】
また、上記実施形態では、船舶が推進部を1つのみ備える例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、船舶が推進部を複数備えていてもよい。
【0094】
また、上記実施形態では、船舶がエンジン駆動式の推進部を備える例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、船舶が電気駆動式またはハイブリッド式の推進部を備えていてもよい。
【0095】
また、上記実施形態では、記憶部に、転舵角の大きさと、推進力の大きさと、旋回半径との関係を示すテーブルが記憶される例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、記憶部に、転舵角の大きさと、推進力の大きさと、旋回半径との関係を示すマップが記憶されていてもよい。
【0096】
また、上記実施形態では、制御部を、横加速度の大きさを示す予測指標である転舵時の横加速度の積分値を少なくとも含む航路関数に基づいて、障害物の回避航路を決定する制御を行うように構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、制御部を、横加速度の大きさを示す予測指標である転舵時の横加速度の積分値を含むのではなく、横加速度の大きさを示す予測指標である転舵時の横加速度の最大値を少なくとも含む航路関数に基づいて、障害物の回避航路を決定する制御を行うように構成してもよい。
【0097】
また、上記実施形態では、目的地が設定された状態で回避航路を決定する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、目的地が設定されていない状態で回避航路を決定してもよい。この場合、一例ではあるが、航路関数は以下の式のようになる。
航路関数=(転舵時の横加速度の最大値)×(障害物接近値)×(「現在の針路角度-制御開始時の針路角度」の絶対値)
【0098】
また、上記実施形態では、障害物を陸地とした例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、障害物を所定の構造物や岩、相手船などとしてもよい。
【符号の説明】
【0099】
1 推進部
2 転舵機構
3 障害物検出部
4 記憶部
4a テーブル
5 制御部
100 船舶
101 船体
102 航行制御システム
A 回避航路
D 目的地
S 障害物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8