(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065497
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】ストレス性認知機能障害改善組成物およびこれを含む医薬・飲食品、飼料
(51)【国際特許分類】
A61K 36/07 20060101AFI20240508BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20240508BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20240508BHJP
A23L 2/38 20210101ALI20240508BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240508BHJP
A23K 10/16 20160101ALI20240508BHJP
【FI】
A61K36/07
A23L33/105
A23L2/00 F
A23L2/38 H
A61P25/28
A23K10/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174395
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】500091117
【氏名又は名称】東栄新薬株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】510037385
【氏名又は名称】学校法人至学館
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(72)【発明者】
【氏名】多田 敬典
(72)【発明者】
【氏名】元井 章智
【テーマコード(参考)】
2B150
4B018
4B117
4C088
【Fターム(参考)】
2B150AA01
2B150AA06
2B150AB03
2B150AB20
2B150AC23
2B150AD02
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4B117LC04
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4B117LP01
4C088AA07
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4C088CA11
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4C088NA14
4C088ZA15
(57)【要約】
【課題】ストレス性の認知機能低下を予防または改善するための新しい認知機能改善組成物およびこれを含む医薬、飲食品および飼料を提供すること。
【解決手段】認知機能改善組成物は、アガリクス子実体の処理物を含有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストレス性の認知機能低下を予防または改善するための認知機能改善組成物であって、
アガリクス子実体の処理物を含有する
ことを特徴とする認知機能改善組成物。
【請求項2】
前記アガリクスが、King・Agaricus 21株(受託番号:FERM P-17695)である
ことを特徴とする請求項1の認知機能改善組成物。
【請求項3】
前記処理物が乾燥処理物である
ことを特徴とする請求項1の認知機能改善組成物。
【請求項4】
請求項1の認知機能改善組成物を含有する
ことを特徴とする医薬。
【請求項5】
請求項1の認知機能改善組成物を含有する
ことを特徴とする飲食品。
【請求項6】
請求項1の認知機能改善組成物を含有する
ことを特徴とする飼料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストレス性認知機能障害改善用組成物およびこれを含む医薬・飲食品、飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
認知症は、脳血管障害、アルツハイマー病などの変性疾患などの原因により認知機能が低下している状態をいい、認知症を予防・改善するための治療薬などについての様々な研究が進められている。
【0003】
一方で、上記の原因以外にも、精神的なストレスによって、認知機能(記憶、判断、計算、理解、学習、思考、言語など機能)が低下することが知られている。
【0004】
具体的には、例えば、孤独ストレスは、高齢者認知症の発症リスクを上昇させること(非特許文献1)、社会的孤立は、認知症のリスク要因であること(非特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Wilson et al., Arch. Gen. Psychiatry, 2007
【非特許文献2】Livingston et al., The Lancet Commissions, 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したようなストレス性の認知機能低下については、その機序については必ずしも明らかでないが、ストレス要因の解消によって認知機能が回復する場合があるなど、老化に伴う脳の器質的障害によって生じる老齢性認知症とは、異なる病態であると考えられる。
【0007】
したがって、ストレス性の認知機能低下(障害)に対しては、老齢性認知症とは別の予防・改善手段を検討する必要があると考えられた。
【0008】
本発明は、ストレス性の認知機能低下を予防または改善するための新しい認知機能改善組成物およびこれを含む医薬、飲食品、飼料を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、以下の認知機能改善組成物、および、医薬、飲食品、飼料が提供される。
[1]ストレス性の認知機能低下を予防または改善するための認知機能改善組成物であって、
アガリクス子実体の処理物を含有する
ことを特徴とする認知機能改善組成物。
[2]前記アガリクスが、King・Agaricus 21株(受託番号:FERM P-17695)であることを特徴とする前記[1]の認知機能改善組成物。
[3]前記処理物が乾燥処理物である
ことを特徴とする前記[1]または[2]の認知機能改善組成物。
[4]前記[1]から[3]のいずれかの認知機能改善組成物を含有する
ことを特徴とする医薬。
[5]前記[1]から[3]のいずれかの認知機能改善組成物を含有する
ことを特徴とする飲食品。
[6]前記[1]から[3]のいずれかの認知機能改善組成物を含有する
ことを特徴とする飼料。
【発明の効果】
【0010】
本発明の認知機能改善組成物およびこれを含む医薬、飲食品および飼料によれば、これを投与または摂取することで、ストレス性の認知機能低下を予防または改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】通常食群(コントロール群)、隔離+通常食群、隔離+アガリクス投与群の概要を示した図である。
【
図2】通常食群(コントロール群)、隔離+通常食群、隔離+アガリクス投与群の体重変化を示した図である。
【
図3】通常食群(コントロール群)、隔離+通常食群、隔離+アガリクス投与群の移動距離の変化を示した図である。2way-ANOVA, Tukey's multiple comparisons testで統計解析を行なった。
【
図4】通常食群(コントロール群)、隔離+通常食群、隔離+アガリクス投与群について、空間認知機能を示した図である。2way-ANOVA, Tukey's multiple comparisons testで統計解析を行なった。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者は、アガリクス(好ましくはAgaricus brasiliensis)子実体に、ストレス性の認知機能低下の改善効果があるという新規な知見を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
以下、本発明の認知機能改善組成物の一実施形態について説明する。本発明の認知機能改善組成物は、ストレス性の認知機能低下(障害)の改善用の組成物(ストレス性認知機能障害改善用組成物)である。
【0014】
本発明において、「ストレス性の認知機能低下」とは、例えば、孤独、社会的孤立、ネグレクトなどによる精神的なストレスによって誘導される認知機能(記憶、判断、計算、理解、学習、思考、言語など機能)の低下をいう。
【0015】
本発明の認知機能改善組成物は、アガリクス子実体の処理物を含有する。
【0016】
アガリクス子実体(Agaricus blazei Murill、Agaricus brasiliensis、Agaricus subrufescensなどの子実体)は、例えば、野生の子実体、栽培により得られる子実体を例示することができる。
【0017】
なかでも、アガリクスが、独立行政法人製品評価技術基盤機構に寄託された受託番号FERM P-17695(寄託日:平成12年1月13日、再寄託日:2016年7月1日)の株King Agaricus 21であることが好ましい。本発明の認知機能改善組成物が、King Agaricus 21(FERM P-17695)の処理物を含む場合、他の菌株のアガリクスと比べて優れた認知機能改善効果が実現される。
【0018】
また、アガリクス子実体の処理物は、子実体をそのままあるいは物理・化学的または生物的に処理して得られる各種処理物であってよい。
【0019】
具体的には、物理・化学的処理物としては、例えば、天日乾燥、風乾、凍結乾燥等による乾燥処理物や凍結乾燥処理物、ブレンダー、ホモジュナイザー、ボールミル等による粉砕処理物などを例示することができる。また、生物的処理方法としては、発酵方法等を例示することができる。なかでも、子実体は、乾燥処理物、凍結乾燥処理物の形態であることが好ましい。
【0020】
また、アガリクス子実体の処理物には、その有効成分を含有する限りにおいて、子実体より種々の抽出方法により得られる抽出物が含まれる。抽出方法としては、例えば、各種溶媒抽出、超臨界流体抽出等があげられる。抽出物は、沈降分離、ケーキ濾過、清澄濾過、遠心濾過、遠心沈降、圧搾分離、フィルタープレスなどの各種固液分離方法、各種濃縮方法、各種乾燥方法、造粒もしくは粉末化等の製剤化方法、各種精製方法等で処理してもよい。
【0021】
さらに、アガリクス子実体の処理物を水などの溶媒に添加して、液状の認知機能改善組成物としてもよい。
【0022】
本発明の認知機能改善組成物の製造方法は、アガリクス子実体の処理物を配合する工程を含み、その他に従来知られた各種の工程を含むことができる。
【0023】
本発明の認知機能改善組成物は、医薬や飲食品、あるいは飼料(または飼料添加物)の形態とすることができ、哺乳動物に投与または摂取させることができる。すなわち、本発明の医薬、飲食品、飼料は、上述した認知機能改善組成物を含有する。
【0024】
(医薬)
本発明の医薬は、ストレス性の認知機能低下の予防または改善のための医薬であり、上述した本発明の認知機能改善組成物を含む。
【0025】
本発明の医薬は、有効成分としての本発明の認知機能改善組成物をそのまま用いてもよいし、薬学的に許容できる成分を加えて製剤化してもよい。
【0026】
本発明の医薬は、経口的に使用される剤型であってもよく、非経口的に使用される剤型であってもよい。経口的に使用される剤型としては、例えば粉末剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤等が挙げられる。非経口的に使用される剤型としては、例えば注射剤、点滴剤、軟膏剤、吸入剤、坐剤等が挙げられる。
【0027】
本発明の医薬は、薬学的に許容される担体を含むことができる。このような担体としては、例えば、公知の賦形剤、崩壊剤、結合剤、潤滑剤、界面活性剤、緩衝剤、溶解補助剤、安定化剤、等張化剤、懸濁化剤、乳化剤、溶剤、増粘剤、粘液溶解剤、湿潤剤、防腐剤などを例示することができる。
【0028】
本発明の医薬は、添加剤を更に含んでいてもよい。添加剤としては、ステアリン酸マグネシウム等の潤滑剤;ショ糖、乳糖、サッカリン等の甘味剤;ペパーミント、アカモノ油等の香味剤;ベンジルアルコール、フェノールの安定剤;リン酸塩、酢酸ナトリウム等の緩衝剤;安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等の溶解補助剤;酸化防止剤;防腐剤などを例示することができる。
【0029】
本発明の医薬は、上述した担体や添加剤などを適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することができる。
【0030】
本発明の医薬の投与量は、患者の体重や年齢、患者の症状、投与方法等により変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。本発明の認知機能改善組成物をヒトに投与する場合の投与量は、症状、患者の年齢、性別、体重、感受性差、投与方法、投与間隔、有効成分の種類、製剤の種類によって異なり、特に限定されないが、例えば、経口的に投与又は摂取する場合には、1日当たり、0.1mg/kg~100g/kgより選択される量を1回または複数回(例えば、2~5回、好ましくは2~3回)に分けて投与または摂取することができる。
【0031】
また、本発明の医薬の投与または摂取期間も限定されないが、例えば、本発明の医薬を、上記用法用量に従って、1週間以上、2週間以上、1か月以上、2か月以上、6ヶ月以上、1年以上、又はそれ以上の期間にわたって継続して投与又は摂取することができる。
【0032】
(飲食品)
本発明の飲食品(食品および飲料)は、ストレス性の認知機能低下の予防または改善のための飲食品であり、上述した本発明の認知機能改善組成物を含む。
【0033】
飲食品としては、例えば、錠菓、錠剤、チュアブル錠、錠剤、粉剤、散剤、カプセル剤、顆粒剤、ドリンク剤等の形態を有する健康飲食品(サプリメント、栄養補助食品、健康補助食品、栄養調整食品等)、清涼飲料、茶飲料、ゼリー飲料、スポーツ飲料、コーヒー飲料、炭酸飲料、野菜飲料、果汁飲料、醗酵野菜飲料、醗酵果汁飲料、発酵乳飲料(ヨーグルト等)、乳酸菌飲料、乳飲料、粉末飲料、ココア飲料、アルコール飲料、菓子、ゼリー等の形態を例示することができる。特に、飲食品は、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品)や、健康食品の形態であることが好ましい。
【0034】
さらに、本発明の「飲食品」は、食品工学の分野において通常用いられる成分を含んでいてよい。具体的には、例えば、各種油脂(例えば、大豆油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油等の植物油、牛脂、イワシ油等の動物油脂)、生薬(例えばロイヤルゼリー、人参等)、アミノ酸(例えばグルタミン、システイン、ロイシン、アルギニン等)、多価アルコール(例えばエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、糖アルコール、例としてソルビトール、エリスリトール、キシリトール、マルチトール、マンニトール等)、天然高分子(例えばアラビアガム、寒天、水溶性コーンファイバー、ゼラチン、キサンタンガム、カゼイン、グルテン又はグルテン加水分解物、レシチン、澱粉、デキストリン等)、ビタミン(例えばビタミンC、ビタミンB群等)、ミネラル(例えばカルシウム、マグネシウム、亜鉛、鉄等)、食物繊維(例えばマンナン、ペクチン、ヘミセルロース等)、界面活性剤(例えばグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等)、精製水、希釈剤、安定化剤、等張化剤、pH調製剤、緩衝剤、湿潤剤、溶解補助剤、懸濁化剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤、香料、酸化防止剤、甘味料、呈味成分、酸味料などを例示することができる。
【0035】
飲食品の摂取量は、患者の体重や年齢、患者の症状、投与方法等により変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。具体的には、本発明の医薬と同様の摂取量、摂取期間であってよい。
【0036】
(飼料)
本発明の認知機能改善組成物は、ヒト用の飲食品だけでなく、家畜、競走馬、ペット(例えばイヌ、ネコなど)等の飼料(または飼料添加物)の形態とすることもできる。
【0037】
本発明の医薬および飲食品の投与量または摂取量は、対象の年齢及び体重、投与経路、投与・摂取回数などを考慮して、適宜、投与量または摂取量を調整することができる。
【0038】
本発明の認知機能改善組成物、医薬および飲食品は、以上の実施形態に限定されるものではない。なお、本発明の認知機能改善組成物、医薬、飲食品および飼料は、アガリクス子実体の処理物を含有するため、従来知られている薬効として、肝臓や心臓、胃腸などの強化改善、血圧や血糖値の安定、腰痛や肩こりの回復、抜け毛・白髪の改善、老化防止、免疫性の向上、抗腫瘍作用、抗がん剤の副作用軽減効果、創傷の治癒効果なども実現され得る。
【実施例0039】
以下、本発明の認知機能改善組成物について、実施例とともに詳しく説明するが、本発明の認知機能改善組成物は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0040】
<1>アガリクス子実体
アガリクス乾燥子実体として、ブラジルにて露地栽培されたAgaricus brasiliensis KA21株を使用した。このアガリクスは、独立行政法人製品評価技術基盤機構に寄託されている(受託番号FERM P-17695 King・Agaricus 21)。
【0041】
<2>マウスへの飼料投与
4週齢マウスを通常食群(コントロール群)、隔離+通常食群、隔離+アガリクス投与群に分けた(
図1)。
【0042】
具体的には、通常食群(コントロール群)では、隔離などのストレスを与えず、通常食を8週間投与した。隔離+通常食群では、集団飼育しているマウスを隔離飼育(社会的隔離)してストレスを与えた状態で、通常食を8週間投与した。隔離+アガリクス投与群では、社会的隔離してストレスを与えた状態で、通常食に加えてアガリクス子実体(King・Agaricus 21)の乾燥粉末(通常食に対して5質量%)を8週間投与した。
【0043】
<3>体重および移動距離の測定
通常食群(コントロール群)、隔離+通常食群、隔離+アガリクス投与群について、体重および移動距離を測定した。通常食群(コントロール群)、隔離+通常食群、隔離+アガリクス投与群のいずれも体重に有意差は見られなかった(
図2)。また、通常食群(コントロール群)、隔離+通常食群、隔離+アガリクス投与群のいずれも、移動距離に有意差は見られなかった(
図3)。
【0044】
<4>認知機能評価試験
各群のマウスの空間認知機能を評価するため、Y-maze testを実施した(
図4)。Y-maze testは、探索行動でマウスが自発的に異なるアームに入る性質を利用した交替反応を空間作業記憶の指標として評価することができる(例えば、Saito et al., Nat. Neurosci, 2014などを参照)。
【0045】
その結果、隔離+通常食群では、隔離に伴うストレス付与によって、認知機能が低下していることが確認された。これに対し、隔離+アガリクス投与群では、隔離に伴うストレスによる認知機能の低下は確認されなかった。すなわち、アガリクスの投与によって、ストレス性の認知機能低下を予防または改善できることが確認された。