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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065507
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】移植機
(51)【国際特許分類】
   A01C 11/02 20060101AFI20240508BHJP
【FI】
A01C11/02 302C
A01C11/02 303C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174408
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】510298403
【氏名又は名称】有限会社サット・システムズ
(71)【出願人】
【識別番号】513067727
【氏名又は名称】高知県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】猪野 真吾
(72)【発明者】
【氏名】藤田 行孝
(72)【発明者】
【氏名】溝渕 宣誠
(72)【発明者】
【氏名】王 碩玉
【テーマコード(参考)】
2B060
【Fターム(参考)】
2B060AA09
2B060AD07
2B060AE01
2B060CA01
2B060CB04
2B060CB17
2B060CB27
2B060CC05
(57)【要約】
【課題】本発明は、失敗を抑制しつつ苗を機械的に植付けることが可能な移植機を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る移植機は、複数の苗を保持しており水平に対して傾斜している苗保持台と、前記苗保持台の上面側に配置されており少なくとも1つの苗を収容可能な苗収容治具と、前記傾斜面に垂直な方向に移動可能であり、且つ移動により苗を前記苗収容治具内に収容させる押出部材と、前記苗収容治具から放出された苗を落下させる開口を備えた通路部と、を有しており、苗収容治具は、前記苗保持台の傾斜面に略垂直な方向に延在している苗収容筒と、前記苗保持台側の開口部と、前記開口部とは反対側に配置されている第1ストッパー部とを備えていることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の苗を保持しており水平に対して傾斜している苗保持台と、
前記苗保持台の上面側に配置されており少なくとも1つの苗を収容可能な苗収容治具と、
前記傾斜面に垂直な方向に移動可能であり、且つ移動により苗を前記苗収容治具内に収容させる押出部材と、
前記苗収容治具から放出された苗を落下させる開口を備えた通路部と、を有しており、
前記苗収容治具は、前記苗保持台の傾斜面に略垂直な方向に延在している苗収容筒と、前記苗保持台側の開口部と、前記開口部とは反対側に配置されている第1ストッパー部とを備えている移植機。
【請求項2】
前記苗収容治具は前記苗保持台の傾斜面に平行な方向であって傾斜の高低方向に移動可能である請求項1に記載の移植機。
【請求項3】
前記押出部材は前記苗保持台の傾斜面に平行な方向であって傾斜の高低方向に移動可能であり、前記苗収容治具の移動に同期して移動するものである請求項2に記載の移植機。
【請求項4】
前記苗収容治具は前記収容筒の延在方向が垂直方向に近づくように傾倒動作が可能であり、傾倒動作により苗が前記通路部内に落下する請求項1~3のいずれかに記載の移植機。
【請求項5】
前記押出部材と前記苗収容治具の動作を制御する制御部を更に有しており、該制御部は、下記(1)~(3)の動作が順次履行されるよう制御するものである請求項4に記載の移植機。
(1)前記押出部材と前記苗収容治具とを前記苗保持台の傾斜面に平行な方向であって傾斜の高低方向に移動させることにより、収容対象となる苗と前記押出部材と前記苗収容治具との位置合わせをする。
(2)前記押出部材を前記苗保持台の傾斜面に垂直な方向に移動させることにより、苗を前記苗収容治具内に収容させる。
(3)前記苗収容治具の前記収容筒の延在方向が垂直方向に近づくように傾倒動作させることにより、前記苗収容治具から苗を放出させる。
【請求項6】
土の高さを検知する検知手段を有しており、畝の延在方向に自走可能な請求項1に記載の移植機。
【請求項7】
前記苗収容治具は、前記第1ストッパー部よりも開口部側に第2ストッパー部を有している請求項1に記載の移植機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、失敗を抑制しつつ苗を機械的に植付けることが可能な移植機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
農業就業人口は年々減少し、高齢化も進んでいることから、重労働を肩代わりし、生産性の向上に重要な役割を担う農業機械の開発が求められている。しかし、現在市販されている野菜や花卉などの苗の定植の機械化は、米生産用の定植機械に対して遅れている。その理由としては、野菜や花卉などには様々な種類があること、たとえ同じ野菜などであっても多種多様な種類があること、地域などによって栽培形態が異なる場合があること、繊細な作業が多岐にわたること、その一方で、野菜や花卉などの栽培は米作に比べて小規模であったり、使用頻度を考慮すれば小型で安価な機械が求められること等が挙げられる。
【0003】
例えば非特許文献1,2に示すように、移植すべき苗の種類などに応じて様々な移植機が開発されている。しかし、非特許文献1に記載の移植機は、ハクサイ、キャベツ、レタス等の葉菜類を主な対象とし、非特許文献2には、ネギとニラで別々の移植機が示されているなど、対象範囲が狭いといえる。
【0004】
また、本発明者らが花卉農家からヒアリングを行ったところ、一農家が一台の移植機を保有するよりも、複数の農家間で共同所有することが現実的な利用形態であるため、ハウス間で移植機の移動を容易にすべく、できるだけ小型かつ軽量な移植機が求められていることが明らかにされた。
【0005】
例えば、非特許文献3には、比較的小型の半自動野菜移植機が開示されている。しかし、この移植機では、作業者が苗をトレイからカップへ手作業で入れなければならない。作業の軽減や効率化の観点からは、比較的小型なものであっても、トレイからの取り出しから植付けまで基本的に自動で行える移植機が望ましい。
【0006】
例えば特許文献1には、土付苗を苗箱から押出し、植付体へ自動的に送る機構が開示されている。また、特許文献2には、タマネギ苗をトレイからフィンガーへ抜出し、ガイドに沿って苗をフィンガーからホッパーへ落とす機構が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7-115811号公報
【特許文献2】特開2004-321043号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】新農業機械実用化促進株式会社,“野菜全自動移植機”,[online],[令和4年9月26日検索],インターネット<URL:https://www.naro.affrc.go.jp/org/brain/iam/kinpuro/pamph/img/yasai_isyokuki.pdf>
【非特許文献2】カントウ農機株式会社,“移植機”,[online],[令和4年9月26日検索],インターネット<URL:https://www.kantonoki.com/product_category/replant/>
【非特許文献3】みのる産業株式会社,“半自動野菜移植機VT-20”,[online],[令和4年9月26日検索],インターネット<URL:https://www.agri-style.com/product_guide/detail.php?id=372>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、苗の移植機において苗を苗箱から自動的に取り出す機構は開発されている。
しかし、特許文献1に示されている機構では、土付苗を苗箱から押出した後に挟持片により横から挟んで植付体へ運搬するものであり、土付苗を横から挟んだ際に土が崩れて苗が脱落するといった失敗が懸念される。また、重力に逆らって土付苗を押出す場合には、ある程度の押出し速度や押出し力が必要であるために、押出す際に土が崩れたり、苗が飛び出してしまうおそれもある。特許文献2の機構でも、苗はトレイからフィンガーと呼ばれる部材の上に載せられるのみであるため、やはり失敗の可能性がある。
そこで本発明は、失敗を抑制しつつ苗を機械的に植付けることが可能な移植機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、移植機において苗を苗保持台から植付部材へ移送するための治具を筒状にしてストッパー部を設けることにより、苗植付け時の失敗を格段に低減できることを見出して、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
【0011】
[1] 複数の苗を保持しており水平に対して傾斜している苗保持台と、
前記苗保持台の上面側に配置されており少なくとも1つの苗を収容可能な苗収容治具と、
前記傾斜面に垂直な方向に移動可能であり、且つ移動により苗を前記苗収容治具内に収容させる押出部材と、
前記苗収容治具から放出された苗を落下させる開口を備えた通路部と、を有しており、
前記苗収容治具は、前記苗保持台の傾斜面に略垂直な方向に延在している苗収容筒と、前記苗保持台側の開口部と、前記開口部とは反対側に配置されている第1ストッパー部とを備えている移植機。
[2] 前記苗収容治具は前記苗保持台の傾斜面に平行な方向であって傾斜の高低方向に移動可能である前記[1]に記載の移植機。
[3] 前記押出部材は前記苗保持台の傾斜面に平行な方向であって傾斜の高低方向に移動可能であり、前記苗収容治具の移動に同期して移動するものである前記[2]に記載の移植機。
[4] 前記苗収容治具は前記収容筒の延在方向が垂直方向に近づくように傾倒動作が可能であり、傾倒動作により苗が前記通路部内に落下する前記[1]~[3]のいずれかに記載の移植機。
[5] 前記押出部材と前記苗収容治具の動作を制御する制御部を更に有しており、該制御部は、下記(1)~(3)の動作が順次履行されるよう制御するものである前記[4]に記載の移植機。
(1)前記押出部材と前記苗収容治具とを前記苗保持台の傾斜面に平行な方向であって傾斜の高低方向に移動させることにより、収容対象となる苗と前記押出部材と前記苗収容治具との位置合わせをする。
(2)前記押出部材を前記苗保持台の傾斜面に垂直な方向に移動させることにより、苗を前記苗収容治具内に収容させる。
(3)前記苗収容治具の前記収容筒の延在方向が垂直方向に近づくように傾倒動作させることにより、前記苗収容治具から苗を放出させる。
[6] 土の高さを検知する検知手段を有しており、畝の延在方向に自走可能な前記[1]~[5]のいずれかに記載の移植機。
[7] 前記苗収容治具は、前記第1ストッパー部よりも開口部側に第2ストッパー部を有している前記[1]~[6]のいずれかに記載の移植機。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る移植機によれば、苗植付け時、押出部材によって苗を押し出した結果、苗が苗収容治具から飛び出してしまうような失敗を低減でき、装置の自動化や作業の軽減をより一層進めることが期待できる。よって本発明は、苗の植付けの際の負荷を軽減し、生産性を向上できるものとして、産業上非常に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明に係る移植機のスタンバイ状態を表す模式図である。
図2図2は、苗を苗保持台から苗収容治具へ移送した段階にある本発明に係る移植機の模式図である。
図3図3は、苗を内包する苗収容治具を下方へ移動させた段階にある本発明に係る移植機の模式図である。
図4図4は、苗を苗収容治具から通路部へ移送した段階にある本発明に係る移植機の模式図である。
図5図5は、本発明に係る移植機の実施形態の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図6図6は、本発明に係る移植機の苗収容治具の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る移植機は、少なくとも、苗保持台、苗収容治具、押出部材、及び通路部を備える。
【0015】
苗保持台は、植付けまで複数の苗を保持しておく部材である。苗保持台としては、複数のポット部を規則的に有し、各ポットの底部には押出部材により苗単独または土付苗を押出すための穴があり、各ポットは苗単独または土付苗を含む苗トレイ自体であってもよい。かかる苗トレイは、コンベア状に1ピッチ毎(1行のポット毎)に移動可能なものであってもよい。
【0016】
しかし、苗保持台が苗トレイ自体であると、苗トレイのポットへ苗単独または土付苗を手作業で移動させたり、移植機上の苗トレイで苗を育成しなければならない。また、苗トレイが移植機上でコンベア状に移動可能なものであると、エンドレスに回転させる等、トレイ自体を複雑に構成しなければならない。よって、苗保持台としては、苗トレイと、苗トレイ用固定部材との組み合わせが好ましい。かかる態様であれば、苗トレイのポットで苗を植付けに適する大きさまで育成してから、かかる苗トレイを固定部材で移植機に固定することができる。
【0017】
或いは、ピートモスなど土と同化できる素材からなり、根がその中まで成長できたり貫通可能な多孔質なものであって、そのまま植付けられる苗ポットを用いる場合には、苗保持台は、板状部材にかかる苗ポットを保持するための穴を形成したものであってもよい。
【0018】
苗保持部自体や、苗保持部に保持すべき苗ポットの底部には、押出部材による苗の押出しを可能にするために穴を開けておく。かかる穴の大きさや形状は、押出部材の断面の大きさや形状に合わせ、押出部材を十分に挿入することが可能であり且つ土の落下を抑制できる程度に調整すればよい。但し、そのまま植付け可能な素材からなる苗ポットの場合は、かかる穴は必要無い。
【0019】
苗保持部は、水平に対して傾斜している。例えば、水平方向に対する苗保持部の底面の角度を、45°以上、85°以下程度に調整することができる。当該角度が45°以上であれば、苗を苗保持部から苗収容治具へより容易に受け渡すことができ、85°以下であれば、苗保持時における苗の落下をより確実に抑制することができる。当該角度としては、50°以上が好ましく、55°以上がより好ましく、また、80°以下が好ましく、75°以下がより好ましい。
【0020】
苗収容治具は、苗保持台から通路部へ苗を受け渡す際に一時的に収容する部材である。苗収容治具は、苗を収容するための苗収容筒と、苗を受け入れるための開口部と、苗の落下を阻止するためのものであり、開口部とは反対側に配置されている第1ストッパー部とを備える(図6)。苗は、重力に逆らう方向へある程度の速度またはある程度の力で苗保持台から押出されるため、苗収容治具から飛び出してしまったり落下するおそれがある。しかし本発明の苗収容治具は、筒状のものであり且つ第1ストッパー部を有するため、かかる飛び出しや落下が抑制されている。
【0021】
苗収容治具の材質は特に制限されず、例えば、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂(ABS)、ポリプロピレン等の樹脂や、ステンレス等の金属を用いることができる。
【0022】
苗収容筒の形状は、円柱であってもよいし、円柱の上部を斜めに切断した形状であってもよい(図1~4)。円柱の上部を斜めに切断した形状の場合、苗収容治具は苗をより受け入れ易く、且つ苗を通路部へより放出し易くなる。円柱の上部を斜めに切断した形状の場合には、円柱の高さがより高い方が下方に向くように苗収容治具を設置する(図1~4)。
【0023】
苗収容筒の大きさは、植付ける苗の形状や大きさ等に応じて適宜調整すればよい。第1ストッパー部は、苗の飛び出しや落下を防げる程度に苗収容筒の開口部の反対側面を被覆できるものであればよく、苗収容筒の開口部の反対側面の下側を半円状に被覆するものであってもよいし、断面円の高さ方向の下から1/6以上、1/3以下程度閉塞するものであってもよいし、苗収容筒の開口部の反対側面の全体を被覆するものであってもよい。
【0024】
苗収容治具は、更に、苗収容筒の開口部側に苗の落下を抑制するための第2ストッパー部を有することが好ましい。第2ストッパー部は、苗保持時の苗の落下を抑制しつつ、苗の受け入れを阻害しない構造にする必要がある。例えば、第2ストッパー部は、苗収容筒の開口部側を、断面円の高さ方向の下から1/6以上、1/3以下程度閉塞する形状とすることができる。
【0025】
苗収容治具は、スタンバイ状態には、苗保持台の上面側で、収容すべき苗の長さ方向の延長方向で、その苗収容筒の長さ方向が苗保持台の傾斜面に略垂直な方向、即ち、苗保持台の苗の長さ方向に平行となるように配置される(図1)。ここで略垂直とは、垂直を含み、垂直±20°の範囲をいうものとする。
【0026】
苗収容治具は、苗保持台の傾斜面に平行な方向であって傾斜の高低方向に移動可能であることが好ましい。苗を苗保持台から苗収容治具へ押出すには、苗収容治具が収容すべき苗の真上に存在する必要がある。そのために、苗保持台をコンベア状に移動可能なものにすることが考えられるが、その場合には、エンドレスに回転させる等、苗保持台自体を複雑に構成しなければならない。一方、苗保持台を固定して苗収容治具を移動可能にすれば、苗保持台を移動可能にするよりも構造はより単純なものとすることができる。
【0027】
苗収容治具は、その収容筒の延在方向が垂直方向に近づくように傾倒動作が可能であり、傾倒動作により苗を通路部内に落下させるものであることが好ましい。これにより、苗収容治具は苗をより簡便に通路部まで移送することが可能になる。例えば、収容治具の上部の移動を阻害するストッパーを設けることにより、苗を収容した苗収容治具が通路部の真上まで移動した際に垂直となり、苗を通路部へ落下させることができる(図4)。
【0028】
押出部材は、傾斜面に垂直な方向に移動可能であり、且つ移動により苗を苗保持部から苗収容治具内に押出して収容させる部材である。
【0029】
押出部材としては、ソレノイドを利用することができる。ソレノイドを利用すれば、コイルの巻数、半径、長さ、電流などにより、苗を押出す速さや強さを容易に調整することが可能になる。
【0030】
押出部材は、苗保持台の傾斜面に平行な方向であって傾斜の高低方向に移動可能であり、苗収容治具の移動に同期して移動するものであることが好ましい。苗を苗保持台から苗収容治具へ押出すには、押出部材が収容すべき苗の真下に存在し、且つ苗収容治具が収容すべき苗の真上に存在する必要がある(図1)。そのために、押出部材と苗収容治具を固定し、苗保持台をコンベア状に移動可能なものにすることが考えられるが、その場合には、エンドレスに回転させる等、苗保持台自体を複雑に構成しなければならない。一方、苗保持台を固定して押出部材と苗収容治具を同期して移動可能にすれば、苗保持台を移動可能にするよりも構造はより単純なものとすることができる。
【0031】
通路部は、その内空中、土表面に苗を植付けるための穴を形成する植付部材まで苗を自然落下させるためのものである。通路部の材質は特に制限されず、例えば、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂(ABS)、ポリプロピレン等の樹脂や、ステンレス等の金属を用いることができる。
【0032】
通路部の大きさや形状は、植付ける苗などに応じて適宜調整すればよい。例えば通路部の形状は、落下中における苗の損傷を抑制するために、円筒または略円筒であることが好ましい。通路部の大きさは、苗が側面との摩擦により詰まったり、落下中に反転しない程度で調整すればよい。
【0033】
植付部材は、通路部の下側に配置されており、通路部の内空に連通している内空を有し、この内径が拡縮することにより、地面に苗を植付けるための穴を形成したり、形成された穴へ苗を移送するためのものである。
【0034】
植付部材としては、例えば、基端部側と先端部側を有する開閉部材を複数有しており、開閉部材の先端部同士の離間動作と接近動作によって植付部材の拡縮が行われるものが挙げられる。開閉部材の数は、例えば、一対、即ち2とすることができる。開閉部材は、例えば、それぞれ先端に向かって先細り、先端は地面に穴を開けられる程度に尖っており、一対を合わせた状態で円錐形を形成するようになっている。開閉部材を開閉するための開閉機構としては、例えば、通常はバネ等により開閉部材は全開状態であるのに対して、開閉機構により各開閉部材を外側から抑えて閉状態にできるものや、通常はバネ等により開閉部材は全閉状態であるのに対して、バネ等に抗して電磁石やワイヤ等により開閉部材を開状態にできるものが挙げられる。
【0035】
本発明の植付部材は、開閉部材を全開状態および全閉状態にできる他、全開状態と全閉状態の間の中間状態に広げられることを特徴とする。かかる中間状態は、植付部材による苗の保持を解除できるが、全開状態ではない状態をいう。中間状態とは、具体的には、開閉部材の全閉状態における開閉度を0%、全開状態における開閉度を100%とした場合、開閉度が30%以上、70%以下である状態をいうものとする。当該開閉度としては、35%以上が好ましく、40%以上がより好ましく、また、65%以下が好ましく、60%以下がより好ましい。
【0036】
制御部は、少なくとも押出部材と苗収容治具に接続され、これらを制御する。制御部は、移植機に取り付けられているマイクロコンピュータであってもよいし、移植機の外部に存在しており移植機と無線接続されているコンピュータであってもよい。具体的には、制御部は、少なくとも押出部材と苗収容治具の動きを同期させて制御し、押出部材を植付けるべき苗の直下に、苗収容治具の真上に移動させ、押出部材を作動させて苗を苗保持台から苗収容治具へ押出した後、苗を収容した苗収容治具を通路部の真上まで移動させる。
【0037】
具体的には、制御部は、下記(1)~(3)の機能を有する。
(1)押出部材と苗収容治具とを苗保持台の傾斜面に平行な方向であって傾斜の高低方向に移動させることにより、収容対象となる苗と押出部材と苗収容治具との位置合わせをする。
(2)押出部材を苗保持台の傾斜面に垂直な方向に移動させることにより、苗を苗収容治具内に収容させる。
(3)苗収容治具の収容筒の延在方向が垂直方向に近づくように傾倒動作させることにより、苗収容治具から通路部へ苗を放出させる。
【0038】
更に、制御部は、苗保持部と植付部材に接続されており、これらを制御することが好ましい。具体的には、制御部は、上記(1)~(3)の機能に加えて、下記(4)~(6)の機能を有することが好ましい。
【0039】
(4)植付部材を全閉状態から拡径状態に変化させる機能
制御部は、植付部材の開閉機構を制御し、植付部材を縮径状態から拡径状態に変化させる。具体的には、開閉部材が全閉状態の植付部材を、地面に刺さった状態で中間状態まで拡径することにより地面に穴を形成し、また苗を穴に移送する。また、土中で植付部材を中間状態から全開状態まで拡径することにより、穴を更に広げ、植付部材が地面から引き抜かれた際に土が側面から崩れ易くする。
【0040】
(5)植付部材を全開状態から全閉状態に変化させる機能
上記(4)の通り、植付部材が地面から引き抜かれた際には、開閉部材は全開状態にある。よって、制御部は、地面に次の穴を形成するために、また、穴を形成するまで苗を保持するために、植付部材を全開状態から全閉状態に変化させる機能を有する。
【0041】
(6)中間状態において苗の保持を解除させるように苗収容治具を制御する機能
制御部は、上記(4)において、特に中間状態において苗の苗収容治具から植付部材へ苗を移送するように苗収容治具を制御する。即ち、中間状態にある植付部材の一対の開閉部材の間隔は、全開状態よりも狭いので、中間状態にある植付部材へ苗を移送できるように苗収容治具を制御することにより、植付部材内における苗の傾きを抑制することができる。よって、中間状態の植付部材における一対の開閉部材の間隔は、植付ける苗の大きさや育ち度合などに応じて調整することが好ましい。
【0042】
制御部は、下記(7)~(9)の機能を更に有することが好ましい。
(7)中間状態に属する特定第1中間状態において、植付部材を全閉状態から拡径状態に変化させる動作を停止させる機能
(8)上記(7)の後で、苗収容治具から植付部材へ苗を移送するように苗収容治具を制御する機能
(9)上記(8)の後で、植付部材を縮径状態から拡径状態に変化させる動作を再開させる機能
即ち、植付部材の一対の開閉部材の間隔が、苗の大きさ等に応じて事前に定めた所定値となった段階で動作を停止させ、その後、苗収容治具から植付部材へ苗を移送することにより、傾きを抑制しつつ苗を植付部材内で安定化することがより確実に可能になる。即ち、特定第1中間状態は、苗を植付部材から土に形成された穴へ移送することが可能であり且つ苗を植付部材により支持している状態である。次いで、植付部材を中間状態から更に拡径することにより、穴を拡げる。
【0043】
制御部は、上記(7)~(9)の代わりに下記(10)~(12)の機能を更に有することが好ましい。
(10)中間状態に属する特定第2中間状態において、苗収容治具から植付部材へ苗を移送するように苗収容治具を制御する機能
(11)上記(10)の後であって苗が植付部材に到達する前に、植付部材を縮径状態から拡径状態に変化させる動作を停止させる機能
(12)上記(11)の後であって苗が植付部材に到達した後に、植付部材を縮径状態から拡径状態に変化させる動作を再開させる機能
即ち、苗収容治具から通路部へ移送する際には、植付部材はまだ全閉状態から特定第2中間状態に至る途中であり、植付部材が特定第2中間状態に至る際または至る直前に、苗が植付部材に到達するよう、制御部により苗収容治具が苗を放出するタイミングを調整する。その結果、植付部材が全閉状態から特定第2中間状態に至る時間と、苗が苗収容治具から植付部材へ移送される時間が重複するため、全体的な苗の植付け効率をより一層改善することが可能になる。なお、特定第2中間状態は、特定第1中間状態と同様に、苗を植付部材から土に形成された穴へ移送することが可能であり且つ苗を植付部材により支持している状態である。
【0044】
制御部は、上記(7)~(12)の代わりに下記(13)~(14)の機能を更に有することが好ましい。
(13)植付部材を全閉状態から拡径状態に変化させる動作を中間状態で停止しない機能
(14)中間状態に属する特定第3中間状態において、苗を放出するように苗収容治具を制御する機能
即ち、植付部材は、全閉状態から拡径状態に至る過程において特定第3中間状態で停止しないが、特定第3中間状態において苗収容治具から苗を開放するよう、制御部は植付部材と苗収容治具を制御する。その結果、苗をより一層効率的に植付けることが可能になる。なお、特定第3中間状態は、特定第1中間状態と同様に、苗を植付部材から土に形成された穴へ移送することが可能であり且つ苗を植付部材により支持している状態である。
【0045】
本発明に係る移植機は、植付部材の少なくとも一部を土表面よりも下方に侵入させる機能を更に有することが好ましい。植付部材の少なくとも一部を土表面よりも下方に侵入させたまま拡径することにより、苗を植付けるための穴を地面に形成することが可能になる。植付部材の地面への侵入深さは、植付ける苗の大きさや成長度合いなどに応じて適宜調整すればよい。
【0046】
植付部材の少なくとも一部を土表面よりも下方に侵入させるためには、移植機は、少なくとも苗収容治具および通路部および植付部材を上下に移動させる機構を有することが好ましい。以下、苗収容治具および通路部を含むユニットを、苗植付ユニットという場合がある。
【0047】
移植機は、土の高さを検知する検知手段を有しており、制御部は、かかる検知手段により植付部材の下方にある土表面の高低位置の情報を取得可能であり、当該情報に基づき植付部材の少なくとも一部を土表面より所定の深さに侵入させることが好ましい。
【0048】
本発明に係る移植機は、苗植付ユニット、及び苗植付ユニットを上下に移動させる機構の他、苗の植付けの補助や自動化などのためのその他の部材を有していてもよい。例えば、土の高さを検知する検知手段としてデプスセンサや、移植機を自走可能にする駆動輪が挙げられる。デプスセンサは、前述した通り植付部材とその下方の土表面との距離を測定し、その情報を制御部に送ることができる。また、デプスセンサにより取得した地面の画像から畝の形状や高さを認識し、畝の中心位置と移植機の中心位置とが一致するように駆動輪を駆動させて、移植機を畝の延在方向に進行させたり、その位置を修正したりできる。
【0049】
本発明に係る苗の植付け方法は、
前記苗保持台に保持されている苗を前記押出部材により前記苗収容治具へ押出す工程;
前記植付部材を地面に突き刺し、全閉状態から中間状態まで拡径することにより穴を形成する工程;
前記中間状態において、前記苗収容治具から前記通路部へ前記苗を放出し、前記通路部および前記植付部材を通じて前記苗を前記穴へ移送する工程;
前記植付部材を前記中間状態から全開状態まで拡径し、前記穴を拡げる工程;および、
前記植付部材を前記全開状態のまま地面から引き抜く工程を含む(図5参照)。以下、図面を参照しつつ、本発明方法を工程毎に説明するが、本発明は上記または以下の具体例に限定されるものではない。
【0050】
(1)押出工程
本工程では、苗保持台に保持されている苗を押出部材により苗収容治具へ押出す。具体的には、押出部材を植付けるべき苗の直下に、苗収容治具を植付けるべき苗の真上へ移動させ(図1)、植付けるべき苗の直下にある押出部材を作動させ、同苗の真上に移動させた苗収容治具へ同苗を押出す(図2)。この際、苗収容治具は苗収容筒と第1ストッパー部を有するため、苗の飛び出しや落下が抑制される。
【0051】
(2)穴形成工程
本工程では、移植機の植付部材を地面に突き刺し、全閉状態から中間状態まで拡径することにより穴を形成する。
【0052】
本発明に係る苗の植付け方法では、プロセスの最後に全開状態の植付部材を地面から引き抜く。よって、本発明方法の開始前における本発明に係る移植機のスタンバイ状態においては、植付部材の開閉部材は全開状態にある。
【0053】
次いで、移植機の準備段階においては、植付部材を地面に突き刺すために、開閉機構により開閉部材を全閉状態にする。
【0054】
次に、苗植付ユニットの位置を下げて、全閉状態にある植付部材の開閉部材の少なくとも先端を地面に突き刺す。この際、植付部材の地面中の深さは、苗の大きさや育ち度合などに応じて事前に定められており、制御部により制御されている。更に、開閉機構により開閉部材を土中において全閉状態から中間状態に拡径する。これにより、苗を植付けるための穴が地面に形成される。
【0055】
(3)苗の移送工程
本工程では、植付部材の中間状態において、苗収容治具から苗を開放し、通路部および植付部材を通じて苗を穴へ移送する(図3および図4)。この際、中間状態にある植付部材の開閉部材間の間隔は、苗の大きさや育ち度合などに応じて事前に定められているため、苗は植付部材の内空や穴の中における傾きが抑制されている。
【0056】
(4)植付部材の全開工程
本工程では、植付部材の開閉部材を閉機構により中間状態から全開状態まで拡径し、穴を拡げる。この際にも、苗の傾きは、植付部材の内空側面により抑制されている。
【0057】
(5)引き抜き工程
本工程では、植付部材を全開状態のまま地面から引き抜く。その結果、従来方法に比べてより多くの土が穴側面から崩れ、植付けた苗が安定化するため、苗の植付け後における土の追加や押し固めといった追加作業を軽減することが可能になる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6