(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065513
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】断熱シート、組電池
(51)【国際特許分類】
D21H 13/36 20060101AFI20240508BHJP
H01M 50/293 20210101ALI20240508BHJP
H01M 50/204 20210101ALI20240508BHJP
D21H 17/68 20060101ALI20240508BHJP
H01M 50/211 20210101ALN20240508BHJP
【FI】
D21H13/36 Z
H01M50/293
H01M50/204 401Z
D21H17/68
H01M50/211
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174422
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【弁理士】
【氏名又は名称】柳井 則子
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(72)【発明者】
【氏名】名古屋 美紗
(72)【発明者】
【氏名】石澤 仁志
(72)【発明者】
【氏名】川北 真裕
【テーマコード(参考)】
4L055
5H040
【Fターム(参考)】
4L055AF04
4L055AF05
4L055AF21
4L055AF33
4L055AF47
4L055AG08
4L055AG25
4L055AG27
4L055AG72
4L055AH10
4L055AH18
4L055BE11
4L055EA08
4L055EA12
4L055EA16
4L055EA32
4L055FA19
4L055FA21
4L055FA22
4L055GA38
5H040AA03
5H040AA27
5H040AS04
5H040AS07
5H040AS12
5H040AS19
5H040AT04
5H040LL04
5H040NN00
5H040NN01
(57)【要約】
【課題】本発明は断熱性および巻き取り加工性に優れる断熱シート;および前記断熱シートを備えた組電池を提供する。
【解決手段】本発明の断熱シートは、無機繊維と、珪藻土と、セピオライトとを含む。珪藻土の含有量は無機繊維、珪藻土およびセピオライトの総量に対して30質量%以上である。珪藻土およびセピオライトの合計含有量は無機繊維、珪藻土およびセピオライトの総量に対して50~90質量%である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機繊維と、珪藻土と、セピオライトとを含み、
前記珪藻土の含有量が、前記無機繊維、前記珪藻土および前記セピオライトの総量に対して30質量%以上であり、
前記珪藻土および前記セピオライトの合計含有量が、前記無機繊維、前記珪藻土および前記セピオライトの総量に対して50~90質量%である、断熱シート。
【請求項2】
前記セピオライトに対する前記珪藻土の質量比が、50/50以上である、請求項1に記載の断熱シート。
【請求項3】
前記無機繊維の繊維径が、3~13μmである、請求項1に記載の断熱シート。
【請求項4】
前記断熱シートを450℃で2時間加熱したときの熱質量減少率が、20質量%以下である、請求項1に記載の断熱シート。
【請求項5】
前記断熱シートの坪量が、20~500g/m2であり、かつ、前記断熱シートの厚さが、0.05~3mmである、請求項1に記載の断熱シート。
【請求項6】
前記断熱シートの通気度が、50cc/cm2/sec以下である、請求項1に記載の断熱シート。
【請求項7】
積層された複数の単電池と、
前記複数の単電池の間に挿入された断熱シートと、
を備え、
前記断熱シートの少なくとも一つが、請求項1~6のいずれか一項に記載の断熱シートである、組電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱シート、組電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池等の高出力、高容量の充電池がモバイル機器、工具、自動車、鉄道、航空機等に広く用いられている。高出力、高容量の充電池では、損傷、内部の不純物によって短絡が生じると、内部エネルギーが熱として瞬間的に放出される。結果、電池の劣化が加速し、また、発火することもある。
例えば、自動車等の高容量の蓄電量を搭載する用途には、高電圧、高出力が求められる。そのため、多数の単電池が積層されるように隣接した単電池がパッキングされた組電池(バッテリーパックまたは集合体と呼ばれることもある。)が使用されることが多い。かかる組電池においては、1つの単電池の不具合が隣接する単電池に及ぶことが懸念される。
そこで、1つの単電池の不具合が隣接する単電池に及ぶことを防止するために、単電池間に不燃性の断熱シートを配置することが提案されている(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2020/129274号
【特許文献2】特開2006-310274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
断熱シートには優れた断熱性に加えて、搬送時の便宜や生産性を考慮し、できるだけ小さい径で丸めて巻き取れること(巻き取り加工性)も求められる。
本発明は、断熱性および巻き取り加工性に優れる断熱シート;および前記断熱シートを備えた組電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、断熱性および巻き取り加工性に優れ、また、単電池の発火や発熱による形状変化に追従できる形状追従性にも優れる難燃性の断熱シートを得るために、無機繊維、珪藻土およびセピオライトを含むスラリーを抄紙することを試みた。
ところが、これらを含むスラリーは塗膜形成能が高く、抄紙時には繊維間から水が抜けず、湿式ウェブの形成が困難となることがあった。また、該スラリーを抄紙した湿式ウェブから得られた断熱シートにあっては、シートの表面から粉が落ちることがあり、その表面強度が不充分であり、また、引張強度も不充分であった。シートから落ちた粉は、搬送時の作業性の低下の原因となり、また、生産設備に付着することで故障や不具合の原因となり得る。
そこで、本発明者らは無機繊維、珪藻土およびセピオライトの配合比を鋭意検討することで、これらの不具合を解決した上で、断熱性および巻き取り加工性に優れる断熱シートが得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
本発明は、下記の態様を有する。
[1]無機繊維と、珪藻土と、セピオライトとを含み;前記珪藻土の含有量が、前記無機繊維、前記珪藻土および前記セピオライトの総量に対して30質量%以上であり;前記珪藻土および前記セピオライトの合計含有量が、前記無機繊維、前記珪藻土および前記セピオライトの総量に対して50~90質量%である、断熱シート。
[2]前記セピオライトに対する前記珪藻土の質量比が、50/50以上である、[1]に記載の断熱シート。
[3]前記無機繊維の繊維径が、3~13μmである、[1]または[2]に記載の断熱シート。
[4]前記断熱シートを450℃で2時間加熱したときの熱質量減少率が、20質量%以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の断熱シート。
[5]前記断熱シートの坪量が、20~500g/m2であり、かつ、前記断熱シートの厚さが、0.05~3mmである、[1]~[4]のいずれかに記載の断熱シート。
[6]前記断熱シートの通気度が、50cc/cm2/sec以下である、[1]~[5]のいずれかに記載の断熱シート。
[7]積層された複数の単電池と;前記複数の単電池の間に挿入された断熱シートと;を備え;前記断熱シートの少なくとも一つが、[1]~[6]のいずれかに記載の断熱シートである、組電池。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、断熱性および巻き取り加工性に優れる断熱シート;および前記断熱シートを備えた組電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
本明細書に開示の数値範囲の下限値および上限値は任意に組み合わせて新たな数値範囲とすることができる。
【0010】
<断熱シート>
本発明の断熱シートは、無機繊維と珪藻土とセピオライトとを含む。
本発明の断熱シートは、発明の効果を損なわない範囲内であれば、無機繊維、珪藻土およびセピオライト以外の他の成分を任意成分としてさらに含んでもよい。
【0011】
(無機繊維)
無機繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、グラスウール、ロックウール、バサルト繊維等の溶融岩石繊維、アルミナ繊維等のセラミック繊維、炭化ケイ素繊維が挙げられる。なかでも、ガラス繊維、セラミック繊維が好ましい。安価であること、導電性を持たないこと、シートをカットするときのカット刃の損耗が少ないことからガラス繊維がさらに好ましい。
無機繊維は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0012】
ガラス繊維としては、一般的なEガラスに加えて、例えば、高強度のSガラス、耐酸性に優れるCガラスが挙げられる。コストの観点からは、安価なEガラスが好ましい。ガラス繊維の断面形状は特に限定されない。例えば、円形、扁平形が挙げられる。
無機繊維としてガラス繊維を使用する場合、ガラス繊維は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0013】
無機繊維の繊維径は3~13μmが好ましく、4~10μmがより好ましく、5~8μmがさらに好ましい。
無機繊維の繊維径が前記数値範囲内の下限値以上であると、繊維間の空隙を維持する力を確保しやすい。そのため、吸湿、吸水により、吸着水の毛細管力で繊維間の空隙がつぶれてしまうことを回避しやすい。また、単電池間の圧縮力によって、断熱シート全体の厚さが低下してしまうことも回避しやすい。したがって、厚さ低下による断熱性の低下を抑制できる。また、繊維間の接触点が増えて熱伝達率が上昇してしまうことを回避しやすい。繊維径は、100本の繊維の繊維長を顕微鏡観察により測定し、100本の平均値として算出される値である。
【0014】
加えて、世界保健機関(WHO)によれば、「WHO吸入性繊維」とは、呼吸により体内に吸入され、肺まで到達する繊維状物質をいい、長さ5μm超、直径3μm未満、アスペクト比3超のものである。WHO吸入性繊維を使用すると、健康への影響が懸念され、使用上の制限もある。そのため、無機繊維の繊維径は3μm以上が望ましい。
【0015】
無機繊維の繊維径が前記数値範囲内の上限値以下であると、無機繊維間の空隙が狭くなるため、空隙内の対流、気体の通過が起きにくくなり、断熱効果を得やすい。また無機繊維同士の接触点、交絡点を確保しやすいため、断熱シート全体の引っ張り強度が高まり、ハンドリングしやすくなる。また、皮膚刺激性が強くなりすぎず、また切断加工の際には毛羽立ち、粉落ちを抑制しやすい。また、繊維間の空隙が過度に大きくならないため、加熱された空気の通過や、空隙内の対流の発生も避けやすい。
【0016】
無機繊維として、繊維径が3~13μmの無機繊維と、繊維径が13μm超の無機繊維を併用してもよい。
繊維径の異なる無機繊維を組み合わせて使用することにより、無機繊維間の空隙を狭くすることによる断熱効果向上効果および表面平滑化効果と、無機繊維同士の接触点、交絡点の確保による引っ張り強度向上効果を得ながら、断熱シートの厚さを確保し、繊維間の空隙を維持できる場合があり得る。
【0017】
無機繊維の繊維長は1~25mmが好ましく、3~20mmがより好ましく、5~15mmがさらに好ましい。
無機繊維の繊維長が前記数値範囲内の下限値以上であると、シート製造工程中の強度を確保しやすい。無機繊維の繊維長が前記数値範囲内の上限値以下であると、繊維の捩れによる結束の発生がなく、良好な地合い(厚さおよび繊維密度の均一性)を維持しやすい。
繊維長は、100本の繊維の繊維長を顕微鏡観察により測定し、100本の平均値として算出される値である。
【0018】
(珪藻土、セピオライト)
珪藻土は、ケイ藻が堆積したシリカを主成分とする多孔質性の天然物質である。珪藻土は国内外の産地を問わず、種々の産地のものが使用され得る。また、珪藻土は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
セピオライトは、天然に産出する粘土鉱物の一種である。セピオライトは独特の鎖状粒子構造を有する含水ケイ酸マグネシウムである。セピオライトは国内外の産地を問わず、種々の産地のものが使用され得る。また、セピオライトは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
セピオライトのなかでも、β型セピオライトを選択して用いることが望ましい。セピオライトにはその成因の違いにより、α型セピオライトとβ型セピオライトがある。α型セピオライトは、高温高圧下における熱水作用を成因とする。α型セピオライトはその結晶化度が相対的に高く、長繊維で明瞭な繊維状形態を示す。α型セピオライトは山皮と呼ばれることもある。β型セピオライトは、浅海底や湖底での堆積作用を成因とする。β型セピオライトはその結晶化度が相対的に低い。β型セピオライトは、例えば、短繊維状、塊状または粘土状のいずれかの形態をとり得る。人体に対する安全上好ましくない結晶性シリカの含有量(不純物含有量)が比較的少ないことから、β型セピオライトがより好ましい。
【0021】
β型のセピオライトのなかでも、結晶性シリカの含有量が少ない産地のセピオライトを選択して用いることが望ましい。結晶性シリカはシートの切断時に刃物の損耗を早めるため、結晶性シリカの含有量は少ない方が好ましい。
【0022】
結晶性シリカの含有量は、X線粉末回折法で、結晶性シリカのピーク強度を標準サンプルのピーク強度と比較することで定量できる。
断熱シートにおける結晶性シリカの含有量は1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましく、0.2質量%以下がさらに好ましい。
【0023】
(任意成分)
任意成分としてバインダーをさらに含む断熱シートも有用である。バインダーは無機繊維間を結着するためのものである。バインダーとしては、結着性があり、耐熱性があり、電池、電極、配線に対する腐食性が少ないものが好適である。バインダーは無機バインダー(ただし、セピオライトおよび珪藻土を除く。)でも有機バインダーでもよい。
無機バインダーとしては、例えば、各種の無機セメント、各種のガラスが挙げられる。有機バインダーとしては、例えば、熱融着性樹脂パウダー、熱融着性樹脂繊維、樹脂エマルション、樹脂溶液、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂が挙げられる。
無機バインダー、有機バインダーは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
なかでも、添加量対比で結着性に優れ、発熱量が少ない点から、ポリビニルアルコール繊維(PVA繊維)が好適に用いられる。耐水性の観点からアクリル樹脂エマルション等も好適である。外側が低融点樹脂、内側が高融点樹脂である芯鞘タイプのバインダー繊維も好適である。芯鞘タイプのバインダー繊維の場合、バインダーの含有量は、芯部の樹脂と鞘部の樹脂の合計量として計算する。
また、溶融接着性はないが、微細にフィブリル化して交絡する能力が高いパラアラミド繊維、アラミドパルプ、結晶性ポリエステル、液晶性ポリエステル、木材由来パルプ、草由来パルプ等も有機バインダーとして使用され得る。
【0025】
他の任意成分としては、例えば、セピオライト以外の粘土鉱物、珪藻土以外の填料(ただし、粘土鉱物を除く。)、分散剤、増粘剤、凝集剤、紙力向上剤、歩留まり向上剤が挙げられる。
他の成分は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
セピオライト以外の粘土鉱物としては、例えば、カオリナイト、スメクタイト、モンモリロナイト、セリサイト、イライト、グローコナイト、クロライト、α型セピオライト、タルクが挙げられる。
珪藻土以外の填料としては、例えば、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、シリカエアロゾル、ヒュームドシリカ、タルク、プラスチックピグメント、中空ガラスビーズ、シラスバルーンが挙げられる。
【0027】
(配合比)
珪藻土の含有量は、無機繊維、珪藻土およびセピオライトの総量(以下、「総量(T)」と記す。)に対して30質量%以上であり、30~85質量%が好ましく、35~80質量%がより好ましく、40~70質量%がさらに好ましい。珪藻土の含有量が前記数値範囲内の下限値以上であると、断熱性および巻き取り加工性に優れる断熱シートが得られやすい。珪藻土の含有量が前記数値範囲内の上限値以下であると、表面強度および引張強度に優れる断熱シートが得られやすい。
【0028】
珪藻土およびセピオライトの合計含有量は総量(T)に対して50~90質量%であり、60~90質量%が好ましく、65~90質量%がより好ましく、70~85質量%がさらに好ましい。珪藻土およびセピオライトの合計含有量が前記数値範囲内の下限値以上であると、断熱性に優れる断熱シートが得られやすい。珪藻土およびセピオライトの合計含有量が前記数値範囲内の上限値以下であると、抄紙時に湿式ウェブを形成しやすい。
【0029】
セピオライトに対する珪藻土の質量比は50/50以上であり、50/50~90/10が好ましく、55/45~90/10がより好ましく、70/30~80/20がさらに好ましい。前記質量比が前記数値範囲内の下限値以上であると、断熱性、巻取り加工性に優れる断熱シートが得られやすい。前記質量比が前記数値範囲内の上限値以下であると、表面強度、引張強度に優れる断熱シートが得られやすい。
【0030】
(断熱シートの組成)
無機繊維の割合は、断熱シートの全質量に対して5~50質量%が好ましく、10~40質量%がより好ましく、10~35質量%がさらに好ましい。無機繊維の割合が前記数値範囲内の下限値以上であると、抄紙時に湿式ウェブを形成しやすい。無機繊維の割合が前記数値範囲内の上限値以下であると、断熱性および巻取り加工性に優れる断熱シートが得られやすい。
【0031】
珪藻土の割合は、断熱シートの全質量に対して35~85質量%が好ましく、40~80質量%がより好ましく、45~75質量%がさらに好ましい。珪藻土の割合が前記数値範囲内の下限値以上であると、断熱性および巻き取り加工性に優れる断熱シートが得られやすい。珪藻土の割合が前記数値範囲内の上限値以下であると、表面強度および引張強度に優れる断熱シートが得られやすい。
【0032】
セピオライトの割合は、断熱シートの全質量に対して5~45質量%が好ましく、10~35質量%がより好ましく、15~25質量%がさらに好ましい。セピオライトの割合が前記数値範囲内の下限値以上であると、断熱性、表面強度および引張強度に優れる断熱シートが得られやすい。セピオライトの割合が前記数値範囲内の上限値以下であると、巻取り加工性に優れる断熱シートが得られやすく、抄紙時に湿式ウェブを形成しやすい。
【0033】
総量(T)は、断熱シートの全質量に対して90~100質量%が好ましく、93~100質量%がより好ましく、95~100質量%がさらに好ましい。総量(T)が前記数値範囲内の下限値以上であると、断熱性、耐熱性に優れる断熱シートが得られやすい。総量(T)が前記数値範囲内の上限値以下であると、断熱シートが他の成分を含む場合に他の成分による特性が発現しやすい。
【0034】
(断熱シートの性状)
断熱シートを450℃で2時間加熱したときの熱質量減少率は20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。該熱質量減少率が前記数値範囲内の上限値以下であると、断熱シートが耐熱性に優れ、単電池の発火による煙の発生量が少なく、また、熱劣化による形状や性質の変化が少なくなる。
熱質量減少量は耐熱性の観点から低いほどよく、その下限値は特に限定されないが、無機繊維を結着して断熱シートを得ることを考慮すると、例えば、0.1質量%程度であると考えられる。
断熱シートの熱質量減少率は、後述の実施例に記載の方法によって求められる値である。
【0035】
断熱シートの坪量は20~500g/m2が好ましく、50~400g/m2がより好ましく、80~350g/m2がさらに好ましい。断熱シートの坪量が前記数値範囲内の下限値以上であると、断熱シートの断熱性が向上しやすい。断熱シートの坪量が前記数値範囲内の上限値以下であると、断熱シートの巻き取り加工性が向上しやすい。
断熱シートの坪量は、後述の実施例に記載の方法によって求められる。
【0036】
断熱シートの厚さは0.05~3.00mmが好ましく、0.07~2.50mmがより好ましく、0.10~2.00mmがさらに好ましい。断熱シートの厚さが前記数値範囲内の下限値以上であると、断熱シートの断熱性が向上しやすい。断熱シートの厚さが前記数値範囲内の上限値以下であると、断熱シート適用した組電池の薄型化を実現しやすい。
断熱シートの厚さは、後述の実施例に記載の方法によって求められる。
【0037】
断熱シートの通気度は50cc/cm2/sec以下が好ましく、40cc/cm2/sec以下がより好ましく、20cc/cm2/sec以下がさらに好ましい。断熱シートの通気度が前記上限値以下であると、断熱シートの遮熱性が向上しやすい。断熱シートの通気度は遮熱性の観点からは低いほどよい。その下限値は特に限定されないが、素材の形状に由来する物理限界と実用的な厚さを考慮すると、例えば、0.01cc/cm2/sec程度であると考えられる。
断熱シートの通気度は、後述の実施例に記載の方法によって求められる値である。
【0038】
断熱シートの断熱温度Tは400℃以下が好ましく、395℃以下がより好ましい。断熱シートの断熱温度Tが前記数値範囲内の上限値以下であると、断熱シートが優れた断熱性を具備していると言える。断熱シートの断熱温度Tは低いほどよい。
断熱シートの断熱温度Tは、後述の実施例に記載の方法によって求められる値(T1,T2)である。
【0039】
断熱シートの引張強度は10N/30mm以上が好ましく、15N/30mm以上がより好ましく、20N/30mm以上がさらに好ましい。断熱シートの灰分が前記下限値以上であると、断熱シートが優れた強度を具備していると言える。断熱シートの引張強度は高いほどよい。その上限値は特に限定されないが、素材に由来する物理限界と実用的な厚さを考慮すると、例えば、200N/30mm程度であると考えられる。
断熱シートの引張強度は、後述の実施例に記載の方法によって求められる値である。
【0040】
(製法)
断熱シートは、例えば、無機繊維と珪藻土とセピオライトを少なくとも含むスラリーを抄紙して湿式ウェブを形成し、次いで湿式ウェブを乾燥することで製造できる。このように湿式法によって得られた断熱シートにおいては、珪藻土およびセピオライトを断熱シートに内添して含有させることができる。そのため、珪藻土およびセピオライトを無機繊維間の空隙や繊維表面に均一に分散させることができる。結果として、組電池に適用した際に発火や熱膨張による形状変化に断熱シートが追従でき、形状追従性にも優れる断熱シートが得られる。
【0041】
スラリーは必要に応じて任意成分をさらに含んでもよい。スラリーの任意成分としては、例えば、分散剤、保液剤、粘度調整剤、pH調整剤、充填剤が挙げられる。
スラリーが熱溶融タイプのバインダーを含む場合、サーマルボンド法により湿式ウェブにおける無機繊維を結合できる。スラリーが熱溶融タイプのバインダーを含まない場合、フィブリル化繊維の添加、微細繊維の添加、ニードルパンチ、ウォータジェットによる水流交絡などで、繊維間を交絡させることにより、湿式ウェブを形成できる。
【0042】
スラリーを湿式抄紙する際には、種々の抄紙機を使用できる。抄紙機としては、例えば、円網抄紙機、傾斜型抄紙機、長網抄紙機、短網抄紙機が挙げられる。これら抄紙機の同種または異種を組み合わせて多層抄紙を行ってもよい。
【0043】
(作用機序)
以上説明した本発明の断熱シートにおいては、珪藻土の含有量が総量(T)に対して30質量%以上である。そのため、断熱シートの巻き取り加工性が良くなる。
本発明の断熱シートにおいては、珪藻土の含有量が総量(T)に対して30質量%以上であり、かつ、珪藻土およびセピオライトの合計含有量が総量(T)に対して50質量%以上である。そのため、断熱シートの断熱性が良くなる。
本発明の断熱シートは、セピオライトを含む。そのため、断熱シートの表面強度、引張強度が良好となる。
【0044】
<組電池>
本発明の断熱シートは、物体間の断熱が求められる種々の産業上の用途に適用され得る。例えば、本発明の断熱シートは組電池に好適に適用でき、組電池用の断熱シートとして好適に使用され得る。
組電池は、積層された複数の単電池と、複数の単電池の間に挿入された断熱シートとを備える。断熱シートの少なくとも一つが、上述した本発明の断熱シートである。
【0045】
図1は一実施形態に係る組電池50の構成図である。
図1に示すように組電池50においては、複数のラミネート形単電池20の各々の間に断熱シート10が挿入されている。また、最下層と最上層のラミネート形単電池20(最外層に積層されたラミネート形単電池20)の外側にも、断熱シート10が配置されている。組電池50は、金属の外装体等に収容され、バッテリーパックが形成される。
【0046】
ラミネート形単電池20は、ラミネートフィルム内に電極群と電解液が収容されたものであればよく、種々のラミネート形単電池を採用できる。
図1に示すように、正極タブ21と負極タブ22とがラミネートフィルム外に設けられている。
断熱シート10は、各ラミネート形単電池20の間を、面方向全体にわたって遮断するように挿入されているが、正極タブ21と負極タブ22とは、断熱シート10の外側まで導出されている。
【0047】
組電池50においては、各ラミネート形単電池20の間に断熱シート10が挿入されている。そのため、1つのラミネート形単電池20に発熱等の不具合が生じても、その不具合が隣接するラミネート形単電池20に悪影響を及ぼすことを防止または遅延させることができる。
また、最下層または最上層のラミネート形単電池20に発熱等の不具合が生じても、その不具合が他のバッテリーパックに悪影響を及ぼすことを防止または遅延させることができる。
【0048】
組電池50においては説明の便宜上、単電池がラミネート形単電池20である態様としたが、単電池はラミネート形単電池に限定されない。単電池は、例えば金属ケースに電極群と電解液が収容されている単電池であってもよい。ただし、ラミネート形単電池は、熱の影響を受けやすい。そのため、本発明の効果をより活かす観点では、ラミネート形単電池が好ましい。
【0049】
組電池50においては説明の便宜上、複数の断熱シートのすべてが本発明の断熱シートであるが、組電池の態様は
図1に例示したものに限定されない。すなわち、組電池50のように複数の断熱シートのすべてが本発明の断熱シートであってもよく、複数の断熱シートの一部が本発明の断熱シート以外の他の断熱シートであってもよい。
ただし、本発明の断熱シートを用いた方が、比較的安価で作業性、断熱性に優れるという利点がある。
【0050】
各ラミネート形単電池20間には、複数枚重ねた断熱シートを挿入してもよい。複数枚を重ねる場合、本発明の断熱シートのみを重ねてもよいし、他の断熱シートのみを重ねてもよいし、本発明の断熱シートと他の断熱シートを重ねてもよい。
組電池50全体の厚さを抑制する観点からは、1枚の断熱シートのみを挿入することが好ましく、複数枚重ねる場合は、2枚の断熱シートを重ねることが好ましい。
【実施例0051】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載に限定されない。
【0052】
<原料>
各例で使用した原料を以下に示す。
(無機繊維)
・ガラス繊維:繊維径6μm、繊維長6mmのEガラス繊維
・セラミック繊維:繊維径3μm、繊維長6mmのセラミック繊維
【0053】
(バインダー)
・芯鞘PET繊維:繊維径14μm、繊維長5mmの芯鞘熱融着ポリエステル繊維(帝人ファイバー社製、芯部の融点260℃、鞘部の接着温度110℃)
・PVA繊維:繊維径11μm、繊維長3mmのポリビニルアルコール繊維(クラレ社製、接着温度60℃)
【0054】
<実施例1>
表1に示す組成で厚みが500μmになるように坪量を調整し、サンプルを作製した。まず、Eガラス繊維、芯鞘PET繊維、PVA繊維を混合し、水に分散し、最終的に0.4質量%の繊維スラリーを得た。
別途、珪藻土、セピオライト混合物を水に分散し、対固形分比で1.8質量部の硫酸バンド、両イオン性ポリアクリルアミド樹脂系歩留まり向上剤(荒川化学工業社製)、対固形分比で0.6質量部のアアニオン性ポリアクリルアミド樹脂系高分子凝集剤(MTアクアポリマー社製)を順次添加攪拌し、最終的に0.4質量%の填料スラリーを得た。
上記の繊維スラリーと填料スラリーを混合撹拌した原料スラリーを手抄きシートマシンに投入し、湿式抄紙を行い、湿式ウェブを得た。その後湿式ウェブを吸引脱水した後、180℃の熱風乾燥機で湿式ウェブを乾燥し、断熱シート(25cm×25cm)を得た。
【0055】
<実施例2~7、比較例1~3>
スラリー組成、無機繊維の種類を表1、表2に示す通りに変更した以外は、実施例1と同じ手法、同条件によって各例の断熱シートを製造した。ただし、実施例3ではガラス繊維の代わりにセラミック繊維を使用した。また、比較例3のスラリー組成では、断熱シートが得られなかった。
【0056】
<比較例4>
市販品のエアロゲル含侵ガラスペーパー(パナソニック社製、厚さ1000μm)を用意した。
【0057】
<測定法、評価法>
(坪量)
各例の断熱シートについて坪量をJIS P 8124:2011に規定の方法にしたがって測定した。
【0058】
(厚さ、密度)
各例の断熱シートについて厚さをJIS P 8118:1998に準拠し、加圧面同士の間の圧力を50kPaに設定して測定した。また、密度は、坪量を厚さで除した値とした。
【0059】
(通気度)
各例の断熱シートについて通気度をJIS L 1096:2010に規定のA法(フラジール形法)にしたがって測定した。
【0060】
(巻き取り加工性)
巻き取り加工性は、巻付可能径に基づいて評価した。各例の断熱シートについて巻付可能径を以下の通り測定した。シートから、長さ200mm、幅30mmのサンプルを切り出し、これを直径の異なる筒に大直径から順に巻き付け、シート表面に割れ、折れ、しわが生じないように巻き取ることができる最小の巻取径を巻付可能径とした。巻付可能径を以下の基準で評価した。
A:巻付可能径が65mm未満である。
B:巻付可能径が65mm以上110mm以下である。
C:巻付可能径が110mm超である。
【0061】
(表面強度)
表面強度は、粉落量に基づいて評価した。各例の断熱シートについて粉落量を以下の通り測定した。15mm幅のセロハンテープを50mm長切り出し、粘着面をシート表面に向けて乗せる。示指中指の二本を揃えて力を入れずにセロハンテープ上を3往復摩擦し、密着させる。セロハンテープをシートから剥がして黒画用紙に貼り、セロハンテープに接着した粉や繊維の状況を目視にて確認した。
【0062】
表面強度を以下の基準で評価した。
A:粉または繊維セロハンテープへの接着が殆ど認められない。
B:粉または繊維セロハンテープへの接着が少量認められるが許容範囲である。
C:粉または繊維セロハンテープへの接着が多量に認められる。
【0063】
(引張強度)
各例の断熱シートについて引張強度を以下の通り測定した。シートから長さ240mm、幅15mmのサンプルを切り出し、これをJIS P8113に準じた方法で、23℃、50%RH環境下で引張試験機(機種名:RTC-1210A、オリエンテック社製)に試験長さ180mmとなるようセットし、引張強度を測定した。
【0064】
引張強度を以下の基準で評価した。
A:引張強度が15N/30mm以上である。
B:引張強度が10N/30mm以上15N/30mm未満である。
C:引張強度が10N/30mm未満である。
【0065】
(熱質量減少率)
各例の断熱シートについて熱質量減少率を以下の通り測定した。サンプルを105℃で2時間乾燥し、デシケーター内で冷却後、絶乾重量を測定した。同じサンプルを450℃で2時間加熱し、デシケーター内で冷却後、加熱後重量を測定した。加熱後重量と絶乾重量の差から熱質量減少量を測定した。
【0066】
(熱圧縮後500℃10分後温度T1、500μm厚、1000μm厚)
断熱性は、熱圧縮後500℃10分後温度Tに基づいて評価した。各例の断熱シートについて、熱圧縮後500℃10分後温度Tを以下の通り測定した。シートから80mm×100mmのサンプルを切り出し、1枚、2枚重ね、3枚重ねのサンプルを得た。厚さを計測後、200℃ 2MPaにて15分間圧縮したのち、圧縮を保持したまま冷却した。圧縮したサンプルを500℃のホットプレートに乗せ、1kPaの圧力をかけつつ10分間保持した後、ホットプレートと触れていない面の温度を接触温度計にて計測した。1枚圧縮、2枚圧縮、3枚圧縮のサンプルに対しそれぞれ測定し、加熱圧縮前の厚さと10分後到達温度との回帰曲線を得た。この回帰曲線を用いて加熱圧縮前厚さ500μmに相当する500℃10分加熱後温度T1、1000μmに相当する500℃10分加熱後温度T2を得た。
【0067】
500μm相当のT1を以下の基準で評価した。
A:T1が395℃未満である。
B:T1が395℃以上400℃未満である。
C:T1が400℃超である。
【0068】
1000μm相当のT2を以下の基準で評価した。
A:T2が372℃未満である。
B:T2が372℃以上377℃未満である。
C:T2が377℃超である。
【0069】
<結果>
各例の測定結果、評価結果を表1、2に示す。評価結果は各欄の括弧内にA,B,Cのいずれかで測定結果と併記して示した。
【0070】
【0071】
【0072】
実施例1~7では、断熱性および巻き取り加工性に優れる断熱シートが得られた。対して、比較例1では巻き取り加工性が不充分であった。比較例2では巻き取り加工性、表面強度、引張強度および断熱性のいずれもが不十分であった。比較例3では、抄紙時における繊維間の結着が強く、水が湿式ウェブから抜けず、断熱シートが得られなかった。