IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイキン工業株式会社の特許一覧

特開2024-65514スクロール圧縮機、及びそれを備える冷凍装置
<>
  • 特開-スクロール圧縮機、及びそれを備える冷凍装置 図1
  • 特開-スクロール圧縮機、及びそれを備える冷凍装置 図2
  • 特開-スクロール圧縮機、及びそれを備える冷凍装置 図3
  • 特開-スクロール圧縮機、及びそれを備える冷凍装置 図4
  • 特開-スクロール圧縮機、及びそれを備える冷凍装置 図5
  • 特開-スクロール圧縮機、及びそれを備える冷凍装置 図6
  • 特開-スクロール圧縮機、及びそれを備える冷凍装置 図7
  • 特開-スクロール圧縮機、及びそれを備える冷凍装置 図8
  • 特開-スクロール圧縮機、及びそれを備える冷凍装置 図9
  • 特開-スクロール圧縮機、及びそれを備える冷凍装置 図10
  • 特開-スクロール圧縮機、及びそれを備える冷凍装置 図11
  • 特開-スクロール圧縮機、及びそれを備える冷凍装置 図12
  • 特開-スクロール圧縮機、及びそれを備える冷凍装置 図13
  • 特開-スクロール圧縮機、及びそれを備える冷凍装置 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065514
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】スクロール圧縮機、及びそれを備える冷凍装置
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/02 20060101AFI20240508BHJP
   F04C 29/02 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
F04C18/02 311W
F04C29/02 351B
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174423
(22)【出願日】2022-10-31
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-01-10
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】村上 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】水嶋 康夫
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 健
(72)【発明者】
【氏名】姫田 晃
(72)【発明者】
【氏名】福永 剛
【テーマコード(参考)】
3H039
3H129
【Fターム(参考)】
3H039AA03
3H039AA04
3H039AA06
3H039AA12
3H039BB11
3H039CC02
3H039CC03
3H039CC27
3H039CC41
3H129AA02
3H129AA14
3H129AA21
3H129AB03
3H129BB05
3H129CC42
(57)【要約】      (修正有)
【課題】意図しない潤滑油の排出を抑制するスクロール圧縮機に関する。
【解決手段】スクロール圧縮機は、仕切部材50と、圧縮要素と、第1流路51と、第2流路52と、を備える。仕切部材50は、ケーシングに固定されることによって、内部空間を第1空間及び第2空間に分割する。圧縮要素は、第1空間へ冷媒を吐出する。第1流路51は、仕切部材50に設けられる。第1流路51は、第1空間から第2空間へ冷媒を通過させる。第2流路52は、第1流路51から離間するように仕切部材50に設けられる。第2流路52は、潤滑油を第2空間へ案内するように構成される。第2流路52は、狭小部59を有する。狭小部59は、最も狭い流路面積を有する。ケーシングの軸方向aにおける狭小部59の長さLに対する狭小部59の水力直径Dの比率が0.01以上かつ0.07以下である。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油(LO)が存在する内部空間(S)を有する円筒形のケーシング(10)と、
前記ケーシングに固定されることによって、前記内部空間を第1空間(S1)及び第2空間(S2)に分割する仕切部材(50、41)と、
固定スクロール(41)及び前記固定スクロールに対して移動する可動スクロール(42)を有し、前記第1空間へ冷媒を吐出する圧縮要素(40)と、
前記仕切部材に設けられ、前記第1空間から第2空間へ前記冷媒を通過させる第1流路(51)と、
前記第1流路から離間するように前記仕切部材に設けられ、前記潤滑油を前記第2空間へ案内するように構成され、最も狭い流路面積を有する狭小部(59)を有し、前記ケーシングの軸方向における前記狭小部の長さ(L)に対する前記狭小部の水力直径(D)の比率(D/L)が0.01以上かつ0.07以下である、第2流路(52)と、
を備える、スクロール圧縮機(100)。
【請求項2】
前記狭小部の前記長さ(L)に対する前記狭小部の前記水力直径(D)の前記比率(D/L)が0.03以上かつ0.06以下である、
請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項3】
前記狭小部の前記長さ(L)は、5mm以上かつ80mm以下である、
請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項4】
前記仕切部材は、前記圧縮要素とは別体の部品(50)である、
請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項5】
前記仕切部材は、前記固定スクロール(41)である、
請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項6】
前記狭小部の断面の形状は、前記ケーシングの径方向(r)に延びる第1辺(61)と、前記第1辺の3倍以下の長さだけ前記ケーシングの周方向(c)に延びる第2辺(62)とを有する四角形である、
請求項1から5のいずれか1項に記載のスクロール圧縮機。
【請求項7】
前記狭小部の断面の形状は、前記ケーシングの径方向(r)に延びる高さ(63)と、前記高さの3倍以下の長さだけ前記ケーシングの周方向(c)に延びる底辺(64)とを有する三角形である、
請求項1から5のいずれか1項に記載のスクロール圧縮機。
【請求項8】
前記狭小部の断面の形状は、半円形又は半楕円形である、
請求項1から5のいずれか1項に記載のスクロール圧縮機。
【請求項9】
前記仕切部材は、前記第1空間から移動する前記潤滑油を受容する段差部(57)を有し、
前記第2流路は前記段差部と連通している、
請求項1から5のいずれか1項に記載のスクロール圧縮機。
【請求項10】
請求項1から5のいずれか1項に記載のスクロール圧縮機(100)、
を備える、冷凍装置(101)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はスクロール圧縮機に関し、特に、意図しない潤滑油の排出を発生しにくいスクロール圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特開2017-025762号公報)は、スクロール圧縮機を開示する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
スクロール圧縮機は、冷媒と潤滑油を収容する。圧縮工程を終えると冷媒はスクロール圧縮機から吐出される。一方、潤滑油はスクロール圧縮機の中に留まることが期待されている。しかしながら、潤滑油は冷媒に対して相溶性を示すため、潤滑油が冷媒とともにスクロール圧縮機の外へ排出される、いわゆる「油上がり」と呼ばれる現象が起こりうる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
第1観点に係るスクロール圧縮機は、ケーシングと、仕切部材と、圧縮要素と、第1流路と、第2流路と、を備える。ケーシングは、潤滑油が存在する内部空間を有する。ケーシングは、円筒形である。仕切部材は、ケーシングに固定されることによって、内部空間を第1空間及び第2空間に分割する。圧縮要素は、固定スクロール、及び可動スクロールを有する。可動スクロールは、固定スクロールに対して移動する。圧縮要素は、第1空間へ冷媒を吐出する。第1流路は、仕切部材に設けられる。第1流路は、第1空間から第2空間へ冷媒を通過させる。第2流路は、第1流路から離間するように仕切部材に設けられる。第2流路は、潤滑油を第2空間へ案内するように構成される。第2流路は、狭小部を有する。狭小部は、最も狭い流路面積を有する。ケーシングの軸方向における狭小部の長さに対する狭小部の水力直径の比率が0.01以上かつ0.07以下である。
【0005】
この構成によれば、冷媒用の第1流路とは別に、潤滑油専用の第2流路が仕切部材に設けられる。第2流路の狭小部は0.01≦D/L≦0.07で規定される形状を有するので、第2流路は液体である潤滑油を通過させるとともに、気体である冷媒に対しては抵抗を示す。したがって、冷媒と潤滑油が混合される機会が低減するので、油上がりが抑制される。
【0006】
第2観点に係るスクロール圧縮機は、第1観点に係るスクロール圧縮機であって、狭小部の長さに対する狭小部の水力直径の比率が0.03以上かつ0.06以下である。
【0007】
この構成によれば、第2流路の狭小部は0.03≦D/L≦0.06で規定される形状を有するので、第2流路は気体である冷媒に対してさらなる抵抗を示す。したがって、油上がりがより効果的に抑制される。
【0008】
第3観点に係るスクロール圧縮機は、第1観点又は第2観点に係るスクロール圧縮機であって、狭小部の長さは、5mm以上かつ80mm以下である。
【0009】
この構成によれば、第2流路の狭小部は、5mm以上かつ80mm以下の長さを有する。したがって、冷媒に対する抵抗を生み出す長さが確保されるので、油上がりが抑制される。
【0010】
第4観点に係るスクロール圧縮機は、第1観点から第3観点のいずれか1つに係るスクロール圧縮機であって、仕切部材は、圧縮要素とは別体の部品である。
【0011】
この構成によれば、第1空間と第2空間の隔離を担う部材は、冷媒の圧縮を行わない。したがって、狭小部の設計が圧縮要素の設計の制約を受けにくい。
【0012】
第5観点に係るスクロール圧縮機は、第1観点から第4観点のいずれか1つに係るスクロール圧縮機であって、仕切部材は、固定スクロールである。
【0013】
この構成によれば、固定スクロールが第1空間と第2空間の隔離をも担う。したがって、スクロール圧縮機の部品点数を減らすことができる。
【0014】
第6観点に係るスクロール圧縮機は、第1観点から第5観点のいずれか1つに係るスクロール圧縮機であって、狭小部の断面の形状は、ケーシングの径方向に延びる第1辺と、第1辺の3倍以下の長さだけケーシングの周方向に延びる第2辺とを有する四角形である。
【0015】
この構成によれば、第2辺の長さは第1辺の長さの3倍以下である。したがって、第2辺と第1辺の長さが近いので、狭小部は極端な扁平構造を有する必要がなく、製造のための加工が容易である。
【0016】
第7観点に係るスクロール圧縮機は、第1観点から第5観点のいずれか1つに係るスクロール圧縮機であって、狭小部の断面の形状は、ケーシングの径方向に延びる高さと、高さの3倍以下の長さだけケーシングの周方向に延びる底辺とを有する三角形である。
【0017】
この構成によれば、底辺の長さは高さの3倍以下である。したがって、底辺の長さと高さが近いので、狭小部は極端な扁平構造を有する必要がなく、製造のための加工が容易である。
【0018】
第8観点に係るスクロール圧縮機は、第1観点から第5観点のいずれか1つに係るスクロール圧縮機であって、狭小部の断面の形状は、半円形又は半楕円形である。
【0019】
この構成によれば、狭小部の形状は半円形又は半楕円形である。したがって、狭小部を形成するための加工が容易である。
【0020】
第9観点に係るスクロール圧縮機は、第1観点から第8観点のいずれか1つに係るスクロール圧縮機であって、仕切部材は、段差部を有する。段差部は、第1空間から移動する潤滑油を受容する。第2流路は前記段差部と連通している。
【0021】
この構成によれば、段差部は第1空間に臨んでいる。したがって、段差部は第1空間に存在する潤滑油を集め、その潤滑油を第2流路へ案内するので、冷媒と潤滑油が混合される機会がさらに低減する。
【0022】
第10観点に係る冷凍装置は、第1観点から第9観点のいずれか1つに係るスクロール圧縮機を備える。
【0023】
この構成によれば、冷凍装置のスクロール圧縮機は、冷媒用の第1流路とは別に、潤滑油専用の第2流路を有する。第2流路の狭小部は0.01≦D/L≦0.07で規定される形状を有するので、第2流路は液体である潤滑油を通過させるとともに、気体である冷媒に対しては抵抗を示す。したがって、冷媒と潤滑油が混合される機会が低減するので、油上がりが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】冷凍装置101の構成を示す冷媒回路図である。
図2】第1実施形態に係るスクロール圧縮機100を示す断面図である。
図3】第1実施形態に係るスクロール圧縮機100の要部の模式図である。
図4】第1実施形態に係る仕切部材50を示す斜視図である。
図5】第1実施形態に係る第2流路52の断面を示す模式図である。
図6】冷媒の移動を示す模式図である。
図7】潤滑油LOの移動を示す模式図である。
図8】油上がりの抑制効果を示すグラフである。
図9】第1実施形態の第1変形例1Aに係る第2流路52の断面を示す模式図である。
図10】第1実施形態の第2変形例1Bに係る第2流路52の断面を示す模式図である。
図11】第1実施形態の第3変形例1Cに係るスクロール圧縮機100の要部の模式図である。
図12】第2実施形態に係るスクロール圧縮機100の要部の模式図である。
図13】第2実施形態に係る仕切部材50を示す斜視図である。
図14】第2実施形態に係るスクロール圧縮機100の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<第1実施形態>
(1)冷凍装置101の構成
図1は第1実施形態に係る冷凍装置101の構成を示す。冷凍装置101は、熱源ユニット90、利用ユニット80、及び連絡配管群85を有する。
【0026】
熱源ユニット90は、冷媒に対する温熱源(heat source)又は冷熱源(cold source)として機能する。熱源ユニット90は、スクロール圧縮機100、四路切換弁92、熱源熱交換器93、熱源ファン94、膨張弁95、アキュムレータ96、液閉鎖弁97、及びガス閉鎖弁98を有する。
【0027】
利用ユニット80は、冷媒から受け取った温熱(heat)又は冷熱(cold)をユーザに提供する。利用ユニット80は、利用熱交換器81、及び利用ファン82を有する。
【0028】
連絡配管群85は、熱源ユニット90と利用ユニット80を接続する。連絡配管群85は、液管86、及びガス管87を有する。液管86は、液閉鎖弁97と利用熱交換器81を接続する。ガス管87は、ガス閉鎖弁98と利用熱交換器81を接続する。
【0029】
スクロール圧縮機100は、低圧ガス冷媒を圧縮することによって、高圧ガス冷媒を生成する。四路切換弁92が実線で示す接続を実現する場合、冷凍装置101は冷熱利用運転を行う。このとき、利用熱交換器81は蒸発器(evaporator)又は吸熱器(heat absorber)として機能し、冷熱をユーザに提供する。四路切換弁92が破線で示す接続を実現する場合、冷凍装置101は温熱利用運転を行う。このとき、利用熱交換器81は凝縮器(condenser)又は放熱器(heat radiator)として機能し、温熱をユーザに提供する。
【0030】
(2)スクロール圧縮機100の構成
図2はスクロール圧縮機100の構成を示す。スクロール圧縮機100は、ケーシング10、モータ20、クランク軸30、圧縮要素40を有する。
【0031】
(2-1)ケーシング10
ケーシング10は、互いに気密的に接合された胴部11、上部12、及び下部13を有する。
【0032】
ケーシング10の中には内部空間Sが存在する。内部空間Sには、スクロール圧縮機100の部品と、冷媒と、潤滑油LOとが存在する。
【0033】
上部12には、低圧ガス冷媒を吸入するための吸入管15が取り付けられている。胴部11には、高圧ガス冷媒を吐出するための吐出管16が取り付けられている。胴部11にはさらに、仕切部材50と、支持部材18が取り付けられている。仕切部材50は、内部空間Sを第1空間S1及び第2空間S2に分割する。また、仕切部材50は、圧縮要素40、及びクランク軸30の上部を支持する。支持部材18は、クランク軸30の下部を支持する。下部13の付近には、潤滑油LOを貯留するための油溜まり14が設けられている。
【0034】
(2-2)モータ20
モータ20は、スクロール圧縮機100の外部から供給される電力を利用して、圧縮要素40を駆動するための動力を生成する。モータ20は、ステータ21及びロータ22を有する。ステータ21は胴部11に固定されている。ロータ22は、ステータ21の中心部の空洞に配置され、回転可能に支持されている。
【0035】
(2-3)クランク軸30
クランク軸30は、モータ20が生成した動力を圧縮要素40へ伝達する。クランク軸30は、主軸部31と、主軸部31より偏心した偏心部32とを有する。主軸部31の一部はロータ22の中心部の空洞を通過しており、ロータ22と固定されている。
【0036】
クランク軸30の内部には、油溜まり14の潤滑油LOを吸い上げるための主通路35が設けられている。主通路35は、クランク軸30の径方向に延びる複数の分岐通路36と連通している。分岐通路36は、主軸部31又は偏心部32の側面に潤滑油LOを供給するためのものである。複数の分岐通路36は、第1軸受37、第2軸受38、及び第3軸受39に潤滑油LOを案内する。
【0037】
(2-4)圧縮要素40
圧縮要素40は、クランク軸30によって伝達された動力を利用して、低圧ガス冷媒を圧縮することによって高圧ガス冷媒を生成する。圧縮要素40は、固定スクロール41と可動スクロール42を有する。固定スクロール41は、仕切部材50に支持されている。可動スクロール42は、ボス46を有する。ボス46の凹部には、クランク軸30の偏心部32がはめ込まれている。クランク軸30の回転は、第1軸受37を介してボス46に伝達され、それによって可動スクロール42が固定スクロール41に対して公転する。
【0038】
固定スクロール41と可動スクロール42の間には、複数の圧縮室43が形成される。クランク軸30が可動スクロール42を公転させることによって、圧縮室43の容積は変動し、これによって冷媒が圧縮される。生成された高圧ガス冷媒は、固定スクロール41に設けられた吐出孔45から第1空間S1へ吐出される。
【0039】
(3)仕切部材50の構成
図3は、仕切部材50とその周辺の構造を示す。ケーシング10は、軸方向aに延びる円筒形状を有する。ケーシング10の胴部11の断面は、中心から径方向rに離間しており、径方向rと直交する周方向cに沿う円形である。本図には、ケーシング10の胴部11の内周Ciが示されている。
【0040】
本図においても、ケーシング10の内部空間Sが、仕切部材50によって第1空間S1及び第2空間S2に分割されていることが理解される。さらに、仕切部材50が圧縮要素40を支持していることも理解される。仕切部材50は、固定面55を有する。固定面55は、ケーシング10の胴部に固定される。仕切部材50の直径は、例えば140mm以上かつ250mmである。ケーシング10の胴部11の内周Ciは、例えば520mm以上かつ800mmである。仕切部材50は、圧縮要素40とは別体の部品である。
【0041】
図4は、仕切部材50の詳細な構造を示す。仕切部材50は、周縁54を有する。周縁54には、固定面55と、段差部57が存在する。固定面55は、ケーシング10の胴部11の径方向r、換言すれば、仕切部材50の径方向rに外方へ膨出した仕切部材50の部位に設けられている。
【0042】
固定面55には、1つの第1流路51と、1つの第2流路52が設けられる。第2流路52は、第1流路51から離間している。第1流路51は、第1空間S1から第2空間S2へ冷媒を通過させるためのものである。第2流路52は、潤滑油LOを第2空間S2へ案内するためのものである。
【0043】
第2流路52は、狭小部59を有している。狭小部59は、第2流路52において、最も狭い流路面積を有する部位である。本実施形態の仕切部材50においては、第2流路52は一定の流路面積を有するので、狭小部59は第2流路52の全体である。
【0044】
狭小部59は、長さL及び水力直径Dを有する。長さLは、ケーシング10の軸方向aにおける狭小部59の寸法である。水力直径Dは、断面積が円ではない狭小部59に関し、円形の断面積を有する流路に換算した場合における円形の断面積の直径である。水力半径の算出の仕方は当業者によく知られている。長さLは、例えば5mm以上かつ80mm以下である。長さLに対する水力直径Dの比率D/Lは、例えば0.01以上かつ0.07以下に設定される。好ましくは、比率D/Lは、例えば0.03以上かつ0.06以下に設定される。
【0045】
ケーシング10の胴部11の径方向r、換言すれば、仕切部材50の径方向rにおける第1流路51の寸法Erは、例えば2mm以上かつ20mm以下である。
【0046】
段差部57は、仕切部材50の周縁54における固定面55の上側に設けられる。段差部57は第1空間S1に臨んでいる。段差部57は、固定面55よりも径方向rの内側へ退避幅Wだけ退避している。退避幅Wは、3mm以下であり、好ましくは2mm以下である。第2流路52は段差部57と連通している。
【0047】
仕切部材50は、収容部56をさらに有する。収容部56は、可動スクロール42のボス46を収容する。収容部56は、圧縮要素40を潤滑し終えた潤滑油LOを集めるための一時貯留部としても機能する。
【0048】
図5は、狭小部59の断面形状を示す。狭小部59の断面は、ケーシング10の径方向rに延びる第1辺61と、周方向cに延びる第2辺62を有する四角形である。第2辺62の長さDcは、第1辺61の長さDrの3倍以下である。好ましくは、第2辺62の長さDcは、第1辺61の長さDrの1倍以上である。
【0049】
(4)冷媒と潤滑油の移動
図6は、冷媒の移動を示す。冷媒の移動は、太い実線の矢印で表されている。
【0050】
圧縮を受けて高圧状態になった冷媒は、吐出孔45から第1空間S1へ吐出される。冷媒は、第1空間S1を囲んでいるケーシング10の上部12に衝突し、又は上部12の内面に沿って移動する。その後、冷媒は第1流路51を通過して、第2空間S2へ移動する。なお、冷媒は、小さな寸法Dr及び寸法Dc、換言すれば、小さな水力直径Dによって生じる抵抗のため、あまり第2流路52を通過しない。
【0051】
通常、冷媒は相溶性を有している。したがって、第1空間S1に充満する冷媒の中には一定の潤滑油LOが含まれている。その潤滑油LOの一部は、上述した冷媒の移動に伴って、第1流路51を通過して、第2空間S2へ移動する。
【0052】
図7は、それ以外の潤滑油LOの移動を示す。潤滑油LOの移動は、太い破線の矢印で表されている。
【0053】
第1空間S1の冷媒がケーシング10の上部12に衝突する際、一定量の潤滑油LOは冷媒から分離され、上部12の内面に付着する油滴となる。油滴状態の潤滑油LOは、その後重力の作用を受けて、上部12の内面をつたって下方へ降りる。潤滑油LOの油滴はその後、段差部57に集まる。潤滑油LO、ケーシング10の胴部11の内周Ci及び段差部57に沿って移動する。その後、液体の状態にある潤滑油LOは、第1流路51又は第2流路52を重力の作用によって通過して、第2空間S2へ移動する。その後、潤滑油LOは油溜まり14へ落下する。
【0054】
(5)特徴
(5-1)
冷媒用の第1流路51とは別に、潤滑油LO専用の第2流路52が仕切部材50に設けられる。第2流路52の狭小部59は0.01≦D/L≦0.07、又は、0.03≦D/L≦0.06で規定される形状を有するので、第2流路52は液体である潤滑油LOを通過させるとともに、気体である冷媒に対しては抵抗を示す。したがって、冷媒と潤滑油LOが混合される機会が低減するので、油上がりが抑制される。
【0055】
図8は、第2流路52がもたらす油上がりの抑制効果を示すグラフである。横軸は、狭小部59の長さLに対する狭小部59の水力直径Dの比率D/Lを示す。縦軸は油上がり率R(%)を示し、縦軸の切片100%に対する百分率として表されている。油上がり率Rは、数値が大きいほどスクロール圧縮機100から排出される潤滑油LOの量が多いことを意味する。
【0056】
本図に示されるように、横軸の領域0.01≦D/L≦0.07においては、油上がり率Rは約90%以下にまで低減されている。さらに、横軸の領域0.03≦D/L≦0.06においては、油上がり率Rは約75%以下にまで低減されている。また、比率D/L=0.05に対しては、油上がり率Rは67%程度の極小値を示している。
【0057】
(5-2)
第2流路52の狭小部59は、5mm以上かつ80mm以下の長さLを有する。したがって、冷媒に対する抵抗を生み出す長さLが確保されるので、油上がりが抑制される。
【0058】
(5-3)
第1空間S1と第2空間S2の隔離を担う仕切部材50は、冷媒の圧縮を行わない。したがって、狭小部59の設計が圧縮要素40の設計の制約を受けにくい。
【0059】
(5-4)
第2辺62の長さDcは第1辺61の長さDrの3倍以下である。したがって、第2辺62と第1辺61の長さが近いので、狭小部59は極端な扁平構造を有する必要がなく、製造のための加工が容易である。
【0060】
(5-5)
段差部57は第1空間S1に臨んでいる。したがって、段差部57は第1空間S1に存在する潤滑油LOを集め、その潤滑油LOを第2流路52へ案内するので、冷媒と潤滑油LOが混合される機会がさらに低減する。
【0061】
(6)変形例
以下に、上述の第1実施形態の変形例について説明する。複数の変形例を組み合わせてもよい。
【0062】
(6-1)変形例1A
第1実施形態において、狭小部59の断面は四角形である。これに代えて、狭小部59の断面は三角形であってもよい。
【0063】
図9は、第1実施形態の第1の変形例1Aに係る狭小部59の断面を示す。断面の形状は、ケーシング10の径方向rに延びる高さ63と、ケーシング10の周方向cに延びる底辺64とを有する三角形である。底辺64の寸法Dsは、高さ63の寸法Dhの3倍以下である。好ましくは、底辺64の寸法Dsは、高さ63の寸法Dhの1倍以上である。
【0064】
この構成によれば、底辺64の寸法Dbは、高さ63の寸法Dhの3倍以下である。したがって、両寸法が近いので、狭小部59は極端な扁平構造を有する必要がなく、製造のための加工が容易である。
【0065】
(6-2)変形例1B
第1実施形態において、狭小部59の断面は四角形である。これに代えて、狭小部59の断面は半楕円形であってもよい。
【0066】
図10は、第1実施形態の第2の変形例1Bに係る狭小部59の断面を示す。断面の形状は、ケーシング10の径方向rに延びる第1軸半径65と、周方向cに延びる第2軸直径66を有する半楕円形である。第2軸直径66の寸法Dyは、第1軸半径65の寸法Dxの3倍以下である。好ましくは、第2軸直径66の寸法Dyは、第1軸半径65の寸法Dxの1倍以上である。
【0067】
あるいは、半楕円形に代えて、断面の形状は、第2軸直径66の寸法Dyが第1軸半径65の寸法Dxのちょうど2倍であるような半円形であってもよい。
【0068】
この構成によれば、狭小部59の形状は半円形又は半楕円形である。したがって、狭小部59を形成するための加工が容易である。
【0069】
(6-3)変形例1C
第1実施形態において、仕切部材50は、圧縮要素40とは別体の部品である。これに代えて、仕切部材50は圧縮要素40に属してもよい。
【0070】
図11は、第1実施形態の第3の変形例1Cに係るスクロール圧縮機100を示す。スクロール圧縮機100の圧縮要素40は、固定スクロール41を有する。固定スクロール41は、仕切部材50として機能もし、内部空間Sを第1空間S1及び第2空間S2に分割する。固定スクロール41は、固定面55を有する。固定面55は、ケーシング10の胴部に固定される。
【0071】
固定面55には、1つの第1流路51と、1つの第2流路52が設けられる。第2流路52は、第1流路51から離間している。第1流路51は、第1空間S1から第2空間S2へ冷媒を通過させるためのものである。第2流路52は、潤滑油LOを第2空間S2へ案内するためのものである。第2流路52の狭小部59の構造については、第1実施形態と同様である。
【0072】
この構成によれば、固定スクロール41が第1空間S1と第2空間S2の隔離をも担う。したがって、スクロール圧縮機100の部品点数を減らすことができる。
【0073】
(6-4)変形例1D
第1実施形態において、仕切部材50の固定面55には、1つの第1流路51と、1つの第2流路52が設けられる。これに代えて、複数の第1流路51、又は、複数の第2流路52が仕切部材50に設けられてもよい。とりわけ、複数の第2流路52を設けることは、潤滑油LOの第1空間S1から第2空間S2への移動を促進するので、油上がりを効果的に抑制する。
【0074】
<第2実施形態>
(1)構成
図12は、第2実施形態に係るスクロール圧縮機100の構成を示す。第2実施形態においては、第2流路52の構造が第1実施形態とは異なっている。
【0075】
スクロール圧縮機100は、仕切部材50を有する。図13に示すように、仕切部材50の周縁54には、第1実施形態と同様に、固定面55と、段差部57が存在する。固定面55には、第1流路51と、第2流路52が設けられている。第2流路52は、潤滑油LOを第2空間S2へ案内するためのものである。第2流路は、仕切部材50とケーシング10の溶接箇所を利用して設けられている。
【0076】
図14は、仕切部材50とケーシング10の溶接箇所を示す。仕切部材50には複数の収容孔71が設けられている。各収容孔71は、固定部材72を収容するためのものである。固定部材72は、収容孔71に圧入され、固定されている。固定部材72は、仕切部材50とは異なり、溶融金属が固定されやすい材質によって形成されている。スクロール圧縮機100の製造においては、ケーシング10の部位が加熱されることによって溶融すると、その溶融金属は固定部材72と接触する。その後、溶融金属は固化し、固定部材72と固定された溶接部73になる。
【0077】
(2)特徴
この構成によれば、第2流路52及びその一部である狭小部59は、溶接箇所を利用して形成されている。したがって、既存の構造を流用できるので、大がかりな設計変更を要しない。
【0078】
(3)変形例
上述の第1実施形態の変形例1A~1Dの少なくとも一部を、第2実施形態に適用してもよい。
【0079】
<むすび>
以上、本開示の実施形態を説明したが、特許請求の範囲に記載された本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【符号の説明】
【0080】
10 :ケーシング
11 :胴部
14 :油溜まり
18 :支持部材
20 :モータ
30 :クランク軸
40 :圧縮要素
41 :固定スクロール(仕切部材)
42 :可動スクロール
50 :仕切部材(圧縮要素とは別体の部品)
51 :第1流路
52 :第2流路
54 :周縁
55 :固定面
57 :段差部
59 :狭小部
61 :第1辺
62 :第2辺
63 :高さ
64 :底辺
65 :第1軸半径
66 :第2軸直径
71 :収容孔
72 :固定部材
73 :溶接部
80 :利用ユニット
90 :熱源ユニット
100 :スクロール圧縮機
101 :冷凍装置
D :狭小部の水力直径
D/L :長さに対する水力直径の比率
L :軸方向における狭小部の長さ
LO :潤滑油
S :内部空間
S1 :第1空間
S2 :第2空間
R :油上がり率
a :ケーシングの軸方向
c :ケーシングの周方向
r :ケーシングの径方向
【先行技術文献】
【特許文献】
【0081】
【特許文献1】特開2017-025762号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【手続補正書】
【提出日】2023-09-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油(LO)が存在する内部空間(S)を有する円筒形のケーシング(10)と、
前記ケーシングに固定されることによって、前記内部空間を第1空間(S1)及び第2空間(S2)に分割する仕切部材(50、41)と、
固定スクロール(41)及び前記固定スクロールに対して移動する可動スクロール(42)を有し、前記第1空間へ冷媒を吐出する圧縮要素(40)と、
前記仕切部材に設けられ、前記第1空間から前記第2空間へ前記冷媒を通過させる第1流路(51)と、
前記第1流路から離間するように前記仕切部材に設けられ、前記潤滑油を前記第2空間へ案内するように構成され、最も狭い流路面積を有する狭小部(59)を有し、前記ケーシングの軸方向における前記狭小部の長さ(L)に対する前記狭小部の水力直径(D)の比率(D/L)が0.01以上かつ0.07以下である、第2流路(52)と、
を備える、スクロール圧縮機(100)。
【請求項2】
潤滑油(LO)が存在する内部空間(S)を有する円筒形のケーシング(10)と、
前記ケーシングに固定されることによって、前記内部空間を第1空間(S1)及び第2空間(S2)に分割する仕切部材(50、41)と、
固定スクロール(41)前記固定スクロールに対して移動する可動スクロール(42)、及び前記第1空間に面する吐出孔(45)有する圧縮要素(40)と、
前記仕切部材に設けられ、前記第1空間と前記第2空間とを接続する第1流路(51)であって、前記仕切部材の径方向の寸法(Er)が2mm以上である第1流路(51)と、
前記第1流路から離間するように前記仕切部材に設けられ、前記第1空間と前記第2空間とを接続する第2流路(52)であって、最も狭い流路面積を有する狭小部(59)を有し、前記ケーシングの軸方向における前記狭小部の長さ(L)に対する前記狭小部の水力直径(D)の比率(D/L)が0.01以上かつ0.07以下である、第2流路(52)と、
を備える、スクロール圧縮機(100)。
【請求項3】
前記狭小部の前記長さ(L)に対する前記狭小部の前記水力直径(D)の前記比率(D/L)が0.03以上かつ0.06以下である、
請求項に記載のスクロール圧縮機。
【請求項4】
前記狭小部の前記長さ(L)は、5mm以上かつ80mm以下である、
請求項に記載のスクロール圧縮機。
【請求項5】
前記仕切部材は、前記圧縮要素とは別体の部品(50)である、
請求項に記載のスクロール圧縮機。
【請求項6】
前記仕切部材は、前記固定スクロール(41)である、
請求項に記載のスクロール圧縮機。
【請求項7】
前記狭小部の断面の形状は、前記ケーシングの径方向(r)に延びる第1辺(61)と、前記第1辺の3倍以下の長さだけ前記ケーシングの周方向(c)に延びる第2辺(62)とを有する四角形である、
請求項1からのいずれか1項に記載のスクロール圧縮機。
【請求項8】
前記狭小部の断面の形状は、前記ケーシングの径方向(r)に延びる高さ(63)と、前記高さの3倍以下の長さだけ前記ケーシングの周方向(c)に延びる底辺(64)とを有する三角形である、
請求項1からのいずれか1項に記載のスクロール圧縮機。
【請求項9】
前記狭小部の断面の形状は、半円形又は半楕円形である、
請求項1からのいずれか1項に記載のスクロール圧縮機。
【請求項10】
前記仕切部材は、前記第1空間から移動する前記潤滑油を受容する段差部(57)を有し、
前記第2流路は前記段差部と連通している、
請求項1からのいずれか1項に記載のスクロール圧縮機。
【請求項11】
請求項1からのいずれか1項に記載のスクロール圧縮機(100)、
を備える、冷凍装置(101)。