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特開2024-65515ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体とその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065515
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 39/225 20060101AFI20240508BHJP
   C07C 43/20 20060101ALI20240508BHJP
   C07C 41/18 20060101ALI20240508BHJP
   C07C 37/50 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
C07C39/225
C07C43/20 D
C07C41/18
C07C37/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174425
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】597065329
【氏名又は名称】学校法人 龍谷大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】岩澤 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】赤阪 龍平
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA02
4H006AC42
4H006FC54
4H006FE13
4H006GP03
(57)【要約】
【課題】3位と14位のみに同一の置換基を有するジベンゾ[g,p]クリセン誘導体とその製造方法を提供する。
【解決手段】3位と14位のみに同一の置換基を有するジベンゾ[g,p]クリセン誘導体に関する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3位と14位のみに同一の置換基を有するジベンゾ[g,p]クリセン誘導体。
【請求項2】
置換基が、ハロゲノ基、水酸基、アルキルエーテル基、ポリオキシアルキレン基、アミド基、および、アミノ基からなる群から選択される置換基である請求項1に記載のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体。
【請求項3】
下記式
【化1】

、または、
【化2】

で表される請求項1または2に記載のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体。
【請求項4】
(a)2、7位に、アルキル基、アリル基、アリール基、アルケニル基およびアルキニル基から選択される同一の第1置換基を有するフルオレノン誘導体と、2、7位に、ハロゲノ基、水酸基、アルキルエーテル基、ポリオキシアルキレン基、アミド基およびアミノ基から選択される第2置換基を有するフルオレノン誘導体を二量化し、スピロケトン誘導体を作製する工程、
(b)得られたスピロケトン誘導体のカルボニル基を還元し、水酸基を有するスピロアルコール誘導体を作製する工程、
(c)得られたスピロアルコール誘導体を脱水し、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体を得る工程、および、
(d)得られたジベンゾ[g,p]クリセン誘導体の第1置換基を除去する工程
を含む3位と14位のみに同一の置換基を有するジベンゾ[g,p]クリセン誘導体の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スピロケトン誘導体から合成されるジベンゾ[g,p]クリセンは、高機能性材料として有望な有機化合物である。ジベンゾ[g,p]クリセン構造の最大の特徴は、非平面性の高いパイ共役系構造にあり、多くの研究者の興味をひいてきた。ここで、非平面性とは、π共役系芳香族基がらせん状にねじれていることを意味し、このねじれ構造が薄膜トランジスターの正孔輸送物質や有機発光ダイオードの発光素子として効果を示すと期待されている。ジベンゾ[g,p]クリセンは、光量子物性(量子収率・励起寿命)、電子的特性、耐熱性において潜在的価値が高く、高分子材料などへ組み込むことが試みられている。また、ジベンゾ[g,p]クリセンは屈折率が高く、プラスチックレンズなどの光学材料としても期待されている。
【0003】
ジベンゾ[g,p]クリセンは、反応性置換基を有しておらず、機能性材料として使用するためには反応性置換基を導入する必要がある。たとえば、ハロゲン、窒素、酸素、硫黄等のヘテロ原子を導入し、該ヘテロ原子を他の置換基に変換後、末端に三員環エーテル、メタクリレート基、末端アルケン等の重合可能な置換基を導入して、重合させたり高分子の側鎖や末端に反応させたりして機能性材料を作製する必要がある。しかしながら、多環芳香族炭化水素は有機溶媒に溶けにくいという問題を抱えているために、液相合成が難しく、反応性置換基を取り付けることは簡単ではない。
【0004】
非特許文献1には、ジベンゾ[g,p]クリセンの10位と15位に水酸基を、2位と7位にn-ブチル基を有し、有機溶媒に対する溶解性が改善された化合物が開示されている。また、非特許文献2には、ジベンゾ[g,p]クリセンの7位と10位にブロモ基を、2位と15位にtert-ブチル基を、それぞれ有する化合物が開示されている。非特許文献3には、3位と11位に2つのメトキシ基を有するジベンゾ[g,p]クリセン誘導体、および、3位、6位,11位と14位に4つのメトキシ基を有するジベンゾ[g,p]クリセン誘導体が開示されている。しかしながら、いずれの非特許文献にも、3位と14位のみに置換基を有する化合物は開示されていない。
【0005】
ところで、ポリイミド樹脂は、非常に高い耐熱性と高強度を有している。芳香族ポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを重合させてポリアミド酸とした後に環化によるイミド化反応を行って合成する。ポリイミド樹脂の性能を改善する最も簡便な化学的な方法は、芳香族ジアミンの芳香族基を改善することである。透明性と成形性を高めようとして単に芳香環に脂肪族置換基を導入するだけでは耐熱性が低下してしまう。つまり、耐熱性と高強度性能を保ちながら、成形性と透明性を高めるような材料を検討することが大切なポイントになる。そのためには、有機溶媒への溶解性と構造上の剛直性が高く、なおかつ、生産性の高い単量体を創製創出することが求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Tetrahedron Lett.,2020,61,152406.
【非特許文献2】Thin Solid Films,2017,636,8-14.
【非特許文献3】J.Org.Chem.,2007,72,9203.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、3位と14位のみに同一の置換基を有するジベンゾ[g,p]クリセン誘導体とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体合成の前駆体であるスピロケトン誘導体の合成方法について検討を進めたところ、フルオレノン化合物を二量化して前駆体であるスピロケトン誘導体を合成する工程において、特定のフルオレノン化合物同士では効率よく交差二量化反応が進行し、中心のナフタレン環に対して左右非対称の置換基を有するジベンゾ[g,p]クリセン誘導体を合成でき、さらに、脱アルキル化反応によって6位および11位のアルキル基等を水素原子に置換し、3位と14位のみに同一の置換基を有するジベンゾ[g,p]クリセン誘導体を合成できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、3位と14位のみに同一の置換基を有するジベンゾ[g,p]クリセン誘導体に関する。
【0010】
置換基は、ハロゲノ基、水酸基、アルキルエーテル基、ポリオキシアルキレン基、アミド基、および、アミノ基からなる群から選択される置換基であることが好ましい。
【0011】
下記式
【化1】
【化2】

で表されることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、(a)2、7位に、アルキル基、アリル基、アリール基、アルケニル基およびアルキニル基から選択される同一の第1置換基を有するフルオレノン誘導体と、2、7位に、ハロゲノ基、水酸基、アルキルエーテル基、ポリオキシアルキレン基、アミド基およびアミノ基から選択される第2置換基を有するフルオレノン誘導体を二量化し、スピロケトン誘導体を作製する工程、
(b)得られたスピロケトン誘導体のカルボニル基を還元し、水酸基を有するスピロアルコール誘導体を作製する工程、
(c)得られたスピロアルコール誘導体を脱水し、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体を得る工程、および、
(d)得られたジベンゾ[g,p]クリセン誘導体の第1置換基を除去する工程
を含む3位と14位のみに同一の置換基を有するジベンゾ[g,p]クリセン誘導体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体は、3位と14位のみに同一の置換基を有し、中心のナフタレン環に対して左右非対称の置換基を有する。よって、これまで不可能であった様々な種類の置換基を有するジベンゾ[g,p]クリセン誘導体を創出・創製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体は、3位と14位のみに同一の置換基を有することを特徴とする。異なる2種類のフルオレノン化合物を交差二量化してスピロケトン誘導体を誘導し、このスピロケトン誘導体を前駆体としてジベンゾ[g,p]クリセン誘導体を合成すると、得られるジベンゾ[g,p]クリセン誘導体は、中心のナフタレン環に対して左右対称の位置に異なる置換基を有するジベンゾ[g,p]クリセン誘導体となる。その後、6位と11位の置換基を水素原子に置換すれば、本発明のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体を合成することができる。ここで、3位と14位のみに同一の置換基を有し、非対称になる化学構造は、極めて特異な化学構造である。
【0015】
ジベンゾ[g,p]クリセンは、下記化学式
【化3】
で表される化合物である。各炭素の置換位置を図中に示す。
【0016】
置換基は、ハロゲノ基、水酸基、アルキルエーテル基、ポリオキシアルキレン基、アミド基、および、アミノ基からなる群から選択される置換基であることが好ましい。これらの置換基を有することで、有機溶媒に対する溶解性が向上する。有機溶媒としては、-78℃から150℃の温度範囲における溶解度の点で、トルエン、塩化メチレン、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの溶媒を利用することが好ましい。
【0017】
ハロゲノ基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基が挙げられ、ブロモ基が好ましい。
【0018】
アルキルエーテル基としては、置換基を有していてもよい直鎖状又は分枝状のアルキルエーテル基が挙げられる。アルキルエーテル基の炭素数は1~12が好ましく、1~8がより好ましい。例えば、メチルエーテル基、エチルエーテル基、ノルマルプロピルエーテル基、イソプロピルエーテル基、n-ブチルエーテル基、2―メチルプロピルエーテル基、n-ペンチルエーテル基、2,2-ジメチルプロピルエーテル基、n-ヘキシルエーテル基、n-ヘプチルエーテル基、n-オクチルエーテル基、n-ノニルエーテル基、n-デシルエーテル基、n-ウンデシルエーテル基、n-ドデシルエーテル基等が挙げられ、メチルエーテル基、エチルエーテル基、ノルマルプロピルエーテル基、n-ブチルエーテル基、2―メチルプロピルエーテル基、n-ペンチルエーテル基、2,2-ジメチルプロピルエーテル基、n-ヘキシルエーテル基が好ましい。アルケニルエーテル基は、前記アルキルエーテル基の内部または末端に二重結合を有する基であり、アルキニルエーテル基は、前記アルキルエーテル基の内部または末端に三重結合を有する基である。
【0019】
ポリオキシアルキレン基としては、アルキレンジオールの単独重合体または共重合体の末端の水素を取った置換基である。このような置換基を導入することで、水または水溶性有機溶媒に溶解しやすくなる。ポリオキシアルキレンとしては、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレン等が挙げられる。重合度は、ポリエチレングリコールの場合には4~450が好ましく、ポリエチレンオキシドの場合には450~10000が好ましい。
【0020】
アミド基は、-NHCORで表される官能基である。Rとしては、アルキル基、アリール基、アルコキシ基などが挙げられる。アミノ基としては、第1級アミン(-NH)だけでなく、第2級アミン(-NHR)や第3級アミン(-NR)が挙げられる。第2級アミンのR基や第3級アミンのR基およびR基としては、アルキル基、アリール基などが挙げられる。アミド基および第2級アミン、第3級アミンにおけるアルキル基の炭素数は1~12が好ましく、アリール基の炭素数は6~14が好ましい。より具体的には、アルキル基としては、iso-プロピル、iso-ブチル、tert-ブチル、2,2-ジメチルプロピル、iso-ヘキシル、iso-ヘプチル、iso-オクチル、iso-ノニル、iso-デシル、iso-ウンデシル、iso-ドデシルなどが挙げられ、アリール基としてはフェニル基、ナフチル基、アントリル(anthryl)基などが挙げられる。
【0021】
前記ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体の中でも、下記式
【化4】
【化5】
【0022】
本発明の3位と14位のみに同一の置換基を有するジベンゾ[g,p]クリセン誘導体の製造方法は、
(a)2、7位に、アルキル基、アリル基、アリール基、アルケニル基およびアルキニル基から選択される同一の第1置換基を有するフルオレノン誘導体と、2、7位に、ハロゲノ基、水酸基、アルキルエーテル基、ポリオキシアルキレン基、アミド基およびアミノ基から選択される第2置換基を有するフルオレノン誘導体を二量化し、スピロケトン誘導体を作製する工程、
(b)得られたスピロケトン誘導体のカルボニル基を還元し、水酸基を有するスピロアルコール誘導体を作製する工程、
(c)得られたスピロアルコール誘導体を脱水し、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体を得る工程、および、
(d)得られたジベンゾ[g,p]クリセン誘導体の第1置換基を除去する工程
を含むことを特徴とする。
【0023】
2、7位にアルキル基、アリル基、アリール基、アルケニル基およびアルキニル基から選択される同一の第1置換基を有するフルオレノン誘導体と、2、7位に、ハロゲノ基、水酸基、アルキルエーテル基、ポリオキシアルキレン基、アミド基およびアミノ基から選択される第2置換基を有するフルオレノン誘導体であれば、同種の誘導体同士で二量化する割合が下がり、異なるフルオレノン同士での交差二量化反応が優先して進行する。
【0024】
第1置換基は、アルキル基、アリル基、アリール基、アルケニル基およびアルキニル基から選択されることが好ましい。第2置換基は、ハロゲノ基、水酸基、アルキルエーテル基、ポリオキシアルキレン基、アミド基、および、アミノ基からなる群から選択されることが好ましい。
【0025】
アルキル基、アルケニル基、アルキニル基の炭素数は3~12が好ましく、3~8がより好ましい。例えば、iso-プロピル、iso-ブチル、tert-ブチル、2,2-ジメチルプロピル、iso-ヘキシル、iso-ヘプチル、iso-オクチル、iso-ノニル、iso-デシル、iso-ウンデシル、iso-ドデシル等、分岐構造を有するものが好ましい。なかでも、iso-プロピル、iso-ブチル、tert-ブチルが好ましい。アルケニル基は、前記アルキル基の内部または末端に二重結合を有する基であり、アルキニル基は、前記アルキル基の内部または末端に三重結合を有する基である。アリール基の炭素数は6~14が好ましい。例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル(anthryl)基などが挙げられる。
【0026】
ハロゲノ基、アルキルエーテル基、ポリオキシアルキレン基、アミド基、および、アミノ基については、前述した通りである。
【0027】
工程(a)
フルオレノン誘導体の二量化方法は特に限定されず、亜リン酸トリアルキルなどの酸素親和性の高いルイス塩基試薬の存在下で行う方法が挙げられる。亜リン酸トリアルキルなどの活性化試薬は2当量以上が好ましい。反応温度は特に限定されず、90~200℃が好ましい。
【0028】
工程(b)
工程(a)で得たスピロケトン誘導体の還元法は特に限定されず、水素化ホウ素ナトリウム、水素化アルミニウムリチウムなどの還元剤や、水素(ガス)を用いた接触還元法などが挙げられる。
【0029】
工程(c)
工程(b)で得た水酸基を有するスピロアルコール誘導体の脱水法は特に限定されず、二塩化エチルアルミニウム、三塩化アルミニウム、三塩化鉄、(ゼロ価の)鉄、濃塩酸、塩酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、希硫酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸などが挙げられる。
【0030】
得られたジベンゾ[g,p]クリセン誘導体に、ハロゲノ基を有する場合には、ナトリウムアルコキシドとヨウ化銅や臭素化銅や塩化銅などによって、ハロゲノ基をアルコキシ基に変換することもできる。
【0031】
工程(d)
工程(c)で得たジベンゾ[g,p]クリセン誘導体の第1置換基を除去する方法は特に限定されず、三塩化アルミニウム、二塩化アルキルアルミニウム、三臭化ホウ素、三塩化ホウ素などのルイス酸と反応させることにより、第1置換基を除去することができる。
【0032】
本発明のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体の製造方法によって、3位と14位のみに同一の置換基を有するジベンゾ[g,p]クリセン誘導体を合成することができる。3位と14位のみにアルキルエーテル基を有する場合には、三臭化ホウ素、三塩化ホウ素、三塩化アルミニウム、二塩化アルキルアルミニウムなどのルイス酸と反応させることにより、脱アルキル化することができる。
【0033】
本発明のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体、および、スピロケトン誘導体は、高分子材料、高耐熱性樹脂、光機能性材料、有機エレクトロニクス材料、化学センサー材料の分野に適用される。具体的には、低伝送損失基板材料、低誘電・光接着ポリイミド樹脂用原料、リソグラフィー用材料、レジスト材料、有機EL用材料、接着剤等の樹脂用材料、スーパーエンジニアリングプラスチック用材料、有機半導体用材料、有機太陽電池用材料、フレキシブルプリント基板等が挙げられる。特に、薄膜トランジスターの正孔輸送物質や有機発光ダイオードの発光素子や、その前駆体の化合物として応用可能である。また、屈折率が高く、プラスチックレンズなどの光学材料として応用可能である。
【実施例0034】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0035】
実施例において、禁水反応はアルゴンまたは窒素雰囲気下で行なっており、特に断りのない限り実験は禁水条件で実施した。購入した無水溶媒・試薬は、改めて精製して純度を向上させることなく使用した。薄層クロマトグラフィーとしてMerck silica 60F254を使用し、カラムクロマトグラフィーとしてシリカゲル60(関東化学(株)製)を用いた。高分解能質量測定(HRMS)として飛行時間型質量分析法(MALDI-TOFまたはLCMS-IT-TOF)または直接質量分析法(DART-MS)のいずれかを用いた。
【0036】
H-NMR、13C-NMRスペクトルについては、5mmのQNPプローブを用い、それぞれ400MHz、100MHzで測定した。化学シフト値はδ(ppm)で示しており、それぞれの溶媒中での基準値はH-NMR:CHCl(7.26),CHCl(5.32)、DMSO(2.50);13C-NMR:CDCl(77.0)、DMSO(39.5)としている。分裂のパターンは、s:単一線、d:二重線、t:三重線、q:四重線、m:多重線、br:幅広線で示す。
【0037】
【化6】
【0038】
製造例1
3,14-ジブロモ-6,11-ジ-tert-ブチルスピロケトン(化合物1)の合成
アルゴン雰囲気下、20mLのシュレンク管に、2,7-ジブロモフルオレノン(510mg,1.5mmol)と2,7-ジ-tert-ブチルフルオレノン(440mg,1.5mmol)と亜リン酸トリイソプロピル(1.0mL,4.5mmol)を加え、室温のオイルバスに浸し、110℃へとオイルバス温度を昇温した。2時間撹拌後、60℃に自然降温させた。蒸留水(1.0mL,55mmol)を添加後、再び80℃に昇温した。2時間撹拌後、室温に自然降温した。水層をトルエンで抽出し、合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄し、芒硝乾燥、除媒濃縮、真空乾燥を行い、粘性物質を得た。シリカゲルを用いた濾過カラム精製(展開溶媒は塩化メチレンのみ)を行い、790mgの固体を得た。シリカゲルを用いたカラム精製を行い、600mg(65%)の固体を得た。化学構造は、X線結晶構造解析により決定した。
【0039】
化合物1の分析データ:
Rf value 0.45(Hexane/EtOAc=9/1);
M.p.259-260℃;
HNMR(400MHz,CDCl)8.07(d,J=2.2Hz,1H),8.02(d,J=8.6Hz,1H),7.90(d,J=8.5Hz,1H),7.89(dd,J=8.6,2.2Hz,1H),7.67(d,J=8.0Hz,2H),7.50(dd,J=8.5,2.0Hz,1H),7.43(dd,J=8.0,1.6Hz,2H),6.99(d,J=1.6Hz,2H),6.78(d,J=2.0Hz,1H),1.20(s,18H)ppm;
13CNMR(100MHz,CDCl)195.8(C=O),151.4,145.8,142.2,139.2,137.9,136.6,131.8,131.6(two peaks are overlapped),131.4,129.3,126.2,125.9,125.2,124.0,123.1,121.8,120.4,69.1,35.2,31.7ppm;
MS(DART-TOFMS)m/z:615[MH]
IR(neat):2956,1686(C=O),1459,1399,1249,1225,810,742cm-1
HRMS(DART-TOFMS)calcd for C3431BrO:615.0721[MH],found:615.0707;
Anal.Calcd for C3430BrO:C,66.46;H,4.92.Found:C,66.31;H,4.87.
【0040】
製造例2
3,14-ジブロモ-6,11-ジ-tert-ブチルスピロフルオレンフェナンスレノール(化合物2)の合成
大気圧下、50mLの一口フラスコに1(2.8g,4.6mmol)とトルエン(14mL)、メタノール(2.8mL)を加え、45℃に昇温した。15分攪拌後、水素化ホウ素ナトリウム(70mg,1.8mmol)を30分かけて添加後、30分攪拌した。アセトンを加え、攪拌後、室温に自然降温した。有機層を水洗、飽和食塩水で洗浄、芒硝乾燥、除媒濃縮、真空乾燥を行い、化合物2の粗生成物を得た。シリカゲルを用いたカラム精製を行い、2.6g(91%)の白橙色固体を得た。
【0041】
化合物2の分析データ:
Rf value 0.56(Hexane/CHCl=1/1);
M.p.136-139℃;
HNMR(400MHz,CDCl)7.77(d,J=8.0Hz,1H),7.74(d,J=8.0Hz,1H),7.68(d,J=8.0Hz,1H),7.66-7.63(m,2H),7.62(d,J=8.0Hz,1H),7.48(dd,J=8.0,2.1Hz,1H),7.47(dd,J=8.0,1.8Hz,1H),7.34(dd,J=8.0,1.8Hz,1H),7.23(brs,1H),6.85(d,J=2.0Hz,1H),6.69(brs,1H),5.26(d,J=6.2Hz,1H),1.58(d,J=6.2Hz,1H),1.30(s,9H),1.08(s,9H)ppm;
13CNMR(100MHz,CDCl)151.5,150.5,146.4,144.3,141.7,139.9,139.7,138.5,132.63,132.57,131.9,131.6,131.0,130.1,126.1,126.0,125.9,125.4,123.0,122.9,122.8,121.8,119.9,119.8,74.6,61.2,35.4,35.0,31.8,31.5ppm;
MS(DART-TOFMS)m/z:617[MH]
IR(neat):3528(OH),2956,1593,1462,1362,1254,1085,1004,809,747,731cm-1
HRMS(DART-TOFMS)calcd for C3433BrO:616.0799[MH],found:616.0810.
【0042】
製造例3
3,14-ジブロモ-6,11-ジ-tert-ブチルジベンゾ[g,p]クリセン(化合物3)の合成
大気圧下、200mLの一口フラスコに2(2.6g,4.2mmol)とトルエン(50mL)を加え、還流条件下15分攪拌させた。その後、メタンスルホン酸(0.010mL,0.15mmol)を加え、1時間攪拌後、室温に自然降温した。反応溶液を飽和食塩水で洗浄、芒硝乾燥、除媒濃縮、真空乾燥を行い、化合物3の粗生成物を得た。シリカゲルを用いた濾過カラム精製を行い、2.4g(97%)の化合物3を白黄色固体として得た。
【0043】
化合物3の分析データ:
Rf value 0.67(Hexane/CHCl=2/1);
M.p.303-305℃;
HNMR(400MHz,CDCl)8.89(d,J=1.8Hz,2H),8.63(d,J=1.9Hz,2H),8.61(d,J=8.9Hz,2H),8.51(d,J=8.8Hz,2H),7.77(dd,J=8.9,1.9Hz,2H),7.76(dd,J=8.8,1.8Hz,2H),1.48(s,18H)ppm;
13CNMR(100MHz,CDCl)149.7,131.8,131.2,129.8,129.13,129.09,128.4,127.9,125.44,125.39,125.3,123.6,121.2,35.4,31.7ppm;
MS(DART-TOFMS)m/z:598[M]
IR(neat):2963,1588,1469,1358,1089,910,883,808,792cm-1
HRMS(DART-TOFMS)calcd for C3430Br:598.0694[M],found:598.0679;
Anal.Calcd for C3430Br:C,68.24;H,5.05.Found:C,68.15;H,5.00.
【0044】
【化7】
【0045】
製造例4
3,14-ジメトキシ-6,11-ジ-tert-ブチルジベンゾ[g,p]クリセン(化合物4)の合成
アルゴン雰囲気下、化合物3(4.8g,8.0mmol)をジメチルホルムアミド(80mL)に懸濁させ、ヨウ化銅(9.1g,48mmol)とナトリウムメトキシド(80mL,400mmol,28%メタノール溶液)を加えた。反応溶液を120℃で2時間撹拌し、室温まで自然降温後、セライトとシリカゲルを詰めたグラスフィルターで濾過を行った。500mLの分液漏斗に移し、飽和食塩水で洗浄、芒硝乾燥、真空乾燥後、化合物4の粗生成物を得た。シリカゲルを用いた濾過カラム精製を行い、3.3g(82%)の化合物4を白黄色固体として得た。
【0046】
化合物4の分析データ:
Rf value 0.40(Hexane/CHCl=2/1);
M.p.239-240℃;
HNMR(400MHz,CDCl)8.77(d,J=1.8Hz,2H),8.60(d,J=8.6Hz,2H),8.52(d,J=9.0Hz,2H),8.14(d,J=2.5Hz,2H),7.74(dd,J=8.6,1.8Hz,2H),7.29(dd,J=9.0,2.5Hz,2H),3.93(s,6H),1.46(s,18H)ppm;
13CNMR(100MHz,CDCl)157.9,149.2,130.1,129.3,128.84,128.83,125.5,125.02,124.99,124.8,123.6,116.9,110.3,55.7,35.4,31.9ppm;
MS(DART-TOFMS)m/z:501[MH]
IR(neat):2952,1610,1483,1459,1272,1228,1049,806,786cm-1
HRMS(DART-TOFMS)calcd for C3637:501.2794[MH],found:501.2781;
Anal.Calcd for C3636:C,86.36;H,7.25.Found:C,86.36;H,7.24.
【0047】
【化8】
【0048】
実施例1
3,14-ジメトキシジベンゾ[g,p]クリセン(化合物5)の合成
アルゴン雰囲気下、化合物4(3.50g,6.99mmol)のベンゼン懸濁液に、室温下、三塩化アルミニウム(3.73g,28.0mmol)を加えた。反応溶液を室温で30分攪拌後、0℃下で蒸留水をゆっくり加え、反応停止操作を行った。有機層を分離し、水層に対してトルエンで抽出操作を行った。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄、芒硝乾燥、除媒濃縮、真空乾燥を行い、白黄色固体の粗生成物3.48gを得た。シリカゲルを用いた濾過カラム精製を行い、化合物5を2.52g(93%)の白黄色固体として得た。
【0049】
化合物5の分析データ:
M.p.172-174℃;
HNMR(400MHz,CDCl)8.79(dd,J=8.0,1.2Hz,2H),8.70(dd,J=8.2,1.4Hz,2H),8.52(d,J=9.0Hz,2H),8.15(d,J=2.6Hz,2H),7.68(ddd,J=8.0,7.5,1.4Hz,2H),7.62(ddd,J=8.2,7.5,1.2Hz,2H),7.29(dd,J=9.0,2.6Hz,2H),3.94(s,6H)ppm;
13CNMR(100MHz,CDCl)157.9,131.1,129.9,129.8,128.5,128.3,126.9,126.8,125.5,124.9,124.0,116.0,111.4,55.9ppm;
MS(DART-TOF)m/z:389[MH]
IR(neat)3062,2932,2831,1610,1480,1265,1229,1170,1042,801,754,526cm-1
HRMS(DART-TOF)calcd.for C2821:389.1542[MH],found;389.1534.
【0050】
実施例2
3,14-ジヒドロキシ[g,p]クリセン(化合物6)の合成
アルゴン雰囲気下、化合物5(2.30g,6.00mmol)の無水塩化メチレン溶液に、三臭化ホウ素(18.0mL,18.0mmol,1.0M塩化メチレン溶液)を0℃下で5分かけて滴下した。反応溶液を15分間撹拌後、室温に自然昇温させ、さらに30分間攪拌した。0℃下、蒸留水で反応停止操作を行った後、有機層を分離し、水層に対して酢酸エチルで抽出操作を行った。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄、芒硝乾燥、除媒濃縮、真空乾燥を行い、黄白色固体の粗生成物2.14gを得た。シリカゲルを用いた濾過カラム精製を行い、化合物6を2.09 g(97%)の緑白色固体として得た。
【0051】
化合物6の分析データ:
M.p.320-323℃;
HNMR(400MHz,CDCN)8.764(dd,J=8.0,1.5Hz,2H),8.757(dd,J=8.0,1.5Hz,2H),8.51(d,J=8.9Hz,2H),8.06(d,J=2.5Hz,2H),7.72(ddd,J=8.0,7.0,1.5Hz,2H),7.67(ddd,J=8.0,7.0,1.5Hz,2H),7.25(brs,2H),7.21(dd,J=8.9,2.5Hz,2H)ppm;
13CNMR(100 MHz,DMSO-d)155.4,130.0,128.7,128.6,127.9,127.0,126.91,126.87,124.8,123.9,123.7,116.9,112.4ppm;
MS(DART-TOF)m/z:361[MH]
IR(neat)3646,3062(br,OH),1613,1578,1429,1234,1182,890,800,750,716,524cm-1
HRMS(DART-TOF)calcd.for C2617:361.1229[MH],found;361.1230.
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体は、薄膜トランジスターの正孔輸送物質や有機発光ダイオードの発光素子に適用可能である。また、カイロオプティカル(Chiroptical)特性を有する材料開発に対して、本発明のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体は適用可能である。
【0053】
本発明の最も重要な要素は、tert-ブチル基等と酸素官能基それぞれ二つずつ持つジベンゾ[g,p]クリセンにおいて、tert-ブチル基等を円滑に除去する方法を見出したこと、およびその生成物(酸素官能基を二つ有するジベンゾ[g,p]クリセン)を高い収率で得たことである。その主たる効果は以下の通りである。
(1)フィヨルド領域の立体障害を除去できるため、ショール(Scholl)反応による環化反応を実施しやすくなると考えられ、バッキーボウル合成への貢献が期待される。
(2)嵩高いtert-ブチル基等を除去できたことから、π-π相互作用を強めた材料合成を期待できる。融点や耐熱性を高める効果を期待できる。