(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065516
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】断熱シート、組電池
(51)【国際特許分類】
D21H 13/36 20060101AFI20240508BHJP
H01M 50/204 20210101ALI20240508BHJP
H01M 50/211 20210101ALI20240508BHJP
H01M 10/658 20140101ALI20240508BHJP
【FI】
D21H13/36 Z
H01M50/204 401Z
H01M50/211
H01M10/658
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174426
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【弁理士】
【氏名又は名称】柳井 則子
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(72)【発明者】
【氏名】川北 真裕
(72)【発明者】
【氏名】石澤 仁志
(72)【発明者】
【氏名】名古屋 美紗
【テーマコード(参考)】
4L055
5H031
5H040
【Fターム(参考)】
4L055AF01
4L055AF04
4L055AF21
4L055AF33
4L055AF47
4L055AG08
4L055AG25
4L055AG72
4L055AH01
4L055AH09
4L055AH18
4L055EA04
4L055EA07
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4L055EA16
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4L055FA19
4L055FA21
4L055FA22
4L055GA38
5H031EE03
5H031HH00
5H031HH03
5H031HH08
5H031HH09
5H040AA03
5H040AA37
5H040AS07
5H040AS12
5H040AS19
5H040AT04
5H040LL04
5H040NN00
5H040NN01
(57)【要約】
【課題】本発明は断熱性および巻き取り加工性に優れる断熱シート;および前記断熱シートを備えた組電池を提供する。
【解決手段】本発明の断熱シートは、ウォラストナイトとセピオライトと無機繊維とバインダーとを含む。断熱シート中の無機繊維の含有量は、断熱シート100質量%に対して10質量%以上である。ウォラストナイトおよびセピオライトの合計含有量は、前記断熱シート100質量%に対して48質量%以上である。断熱シート中のウォラストナイトに対するセピオライトの質量比は、0.1以上5.0以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
断熱シートであって、
ウォラストナイトと、セピオライトと、無機繊維と、を含み、
前記無機繊維の含有量が、前記断熱シート100質量%に対して10質量%以上であり、
前記ウォラストナイトおよび前記セピオライトの合計含有量が、前記断熱シート100質量%に対して48質量%以上であり、
前記ウォラストナイトに対する前記セピオライトの質量比が、0.1以上5.0以下である、断熱シート。
【請求項2】
前記ウォラストナイトの平均長さが5~100μmであり、前記ウォラストナイトの平均径が1~30μmであり、前記ウォラストナイトのアスペクト比が3~100である、請求項1に記載の断熱シート。
【請求項3】
前記断熱シート中の有機成分の含有量が、前記断熱シートの全質量に対して8質量%以下である、請求項1に記載の断熱シート。
【請求項4】
前記断熱シートの坪量が、20~500g/m2である、請求項1に記載の断熱シート。
【請求項5】
前記断熱シートの厚みが、0.1~3mmである、請求項1に記載の断熱シート。
【請求項6】
前記断熱シートの通気度が、50cc/cm2/sec以下である、請求項1に記載の断熱シート。
【請求項7】
積層された複数の単電池と、
前記複数の単電池の間に挿入された断熱シートと、
を備え、
前記断熱シートの少なくとも一つが、請求項1~6のいずれか一項に記載の断熱シートである、組電池。
【請求項8】
前記複数の単電池のうち最外層に積層された単電池の外側にも断熱シートが配置されている、請求項7に記載の組電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱シート、組電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池等の高出力、高容量の充電池がモバイル機器、工具、自動車、鉄道、航空機等に広く用いられている。高出力、高容量の充電池では、損傷、内部の不純物によって短絡が生じると、内部エネルギーが熱として瞬間的に放出される。結果、電池の劣化が加速し、また、発火することもある。
例えば、自動車等の高容量の蓄電量を搭載する用途には、高電圧、高出力が求められる。そのため、多数の単電池が積層されるように隣接した単電池がパッキングされた組電池(バッテリーパックまたは集合体と呼ばれることもある。)が使用されることが多い。かかる組電池においては、1つの単電池の不具合が隣接する単電池に及ぶことが懸念される。
そこで、1つの単電池の不具合が隣接する単電池に及ぶことを防止するために、単電池間に不燃性の断熱シートを配置することが提案されている(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2020/129274号
【特許文献2】特開2006-310274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
断熱シートには優れた断熱性に加えて、搬送時の便宜や生産性を考慮し、できるだけ小さい径で丸めて巻き取れること(巻き取り加工性)も求められる。
本発明は、断熱性および巻き取り加工性に優れる断熱シート;および前記断熱シートを備えた組電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、断熱性および巻き取り加工性に優れ、また、単電池の発火や発熱による形状変化に追従できる形状追従性にも優れる難燃性の断熱シートを得るために、無機繊維、バインダー、ウォラストナイトおよびβ型セピオライトを含むスラリーを抄紙することを試みた。
ところが、これらを含むスラリーを抄紙した湿式ウェブから得られた断熱シートにあっては、シートの表面から粉が落ちることがあり、その表面強度が不充分であり、また、引張強度も不充分であった。シートから落ちた粉は、搬送時の作業性の低下の原因となり、また、生産設備に付着することで故障や不具合の原因となり得る。
そこで、本発明者らは無機繊維、バインダー、ウォラストナイトおよびβ型セピオライトの配合比を鋭意検討することで、これらの不具合を解決した上で、断熱性および巻き取り加工性に優れる断熱シートが得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
本発明は、下記の態様を有する。
[1]断熱シートであって;ウォラストナイトと、セピオライトと、無機繊維と、を含み;前記無機繊維の含有量が、前記断熱シート100質量%に対して10質量%以上であり;前記ウォラストナイトおよび前記セピオライトの合計含有量が、前記断熱シート100質量%に対して48質量%以上であり;前記ウォラストナイトに対する前記セピオライトの質量比が、0.1以上5.0以下である、断熱シート。
[2]前記ウォラストナイトの平均長さが5~100μmであり、前記ウォラストナイトの平均径が1~30μmであり、前記ウォラストナイトのアスペクト比が3~100である、[1]に記載の断熱シート。
[3]前記断熱シート中の有機成分の含有量が、前記断熱シートの全質量に対して8質量%以下である、[1]または[2]に記載の断熱シート。
[4]前記断熱シートの坪量が、20~500g/m2である、[1]~[3]のいずれかに記載の断熱シート。
[5]前記断熱シートの厚みが、0.1~3mmである、[1]~[4]のいずれかに記載の断熱シート。
[6]前記断熱シートの通気度が、50cc/cm2/sec以下である、[1]~[5]のいずれかに記載の断熱シート。
[7]積層された複数の単電池と;前記複数の単電池の間に挿入された断熱シートと;を備え;前記断熱シートの少なくとも一つが、[1]~[6]のいずれかに記載の断熱シートである、組電池。
[8]前記複数の単電池のうち最外層に積層された単電池の外側にも断熱シートが配置されている、[7]に記載の組電池。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、断熱性および巻き取り加工性に優れる断熱シート;および前記断熱シートを備えた組電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
本明細書に開示の数値範囲の下限値および上限値は任意に組み合わせて新たな数値範囲とすることができる。
【0010】
<断熱シート>
本発明の断熱シートは、ウォラストナイトとセピオライトと無機繊維とバインダーとを含む。
本発明の断熱シートは、発明の効果を損なわない範囲内であれば、無機繊維、ウォラストナイト、セピオライトおよびバインダー以外の他の成分を任意成分としてさらに含んでもよい。
【0011】
(無機繊維)
無機繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、グラスウール、ロックウール、バサルト繊維等の溶融岩石繊維、アルミナ繊維等のセラミック繊維、炭化ケイ素繊維が挙げられる。なかでも、ガラス繊維、セラミック繊維が好ましい。安価であること、導電性を持たないこと、シートをカットするときのカット刃の損耗が少ないことからガラス繊維がさらに好ましい。
無機繊維は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0012】
ガラス繊維としては、一般的なEガラスに加えて、例えば、高強度のSガラス、耐酸性に優れるCガラスが挙げられる。コストの観点からは、安価なEガラスが好ましい。ガラス繊維の断面形状は特に限定されない。例えば、円形、扁平形が挙げられる。
無機繊維としてガラス繊維を使用する場合、ガラス繊維は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0013】
無機繊維の繊維径は、3~13μmが好ましく、4~12μmがより好ましく、5~10μmがさらに好ましい。
無機繊維の繊維径が前記数値範囲内の下限値以上であると、繊維間の空隙を維持する力を確保しやすい。そのため、シートが吸湿、吸水することにより、吸着水の毛細管力で繊維間の空隙がつぶれてしまうことを回避しやすい。また、単電池間の圧縮力によって、断熱シート全体の厚さが低下してしまうことも回避しやすい。したがって、シート厚さ低下による断熱性の低下を抑制できる。また、繊維間の接触点が増えて熱伝導率が上昇してしまうことを回避しやすい。
【0014】
加えて、世界保健機関(WHO)によれば、「WHO吸入性繊維」とは、呼吸により体内に吸入され、肺まで到達する繊維状物質をいい、長さ5μm超、直径3μm未満、アスペクト比3超のものである。WHO吸入性繊維を使用すると、健康への影響が懸念され、使用上の制限もある。そのため、無機繊維の繊維径は3μm以上が望ましい。
【0015】
無機繊維の繊維径が前記数値範囲内の上限値以下であると、無機繊維間の空隙が狭くなるため、空隙内の対流、気体の通過が起きにくくなり、断熱効果を得やすい。無機繊維同士の接触点、交絡点を確保しやすいため、断熱シート全体の引っ張り強度が高まる。それによりハンドリング性が向上し、また切断加工の際には毛羽立ち、粉落ちを抑制しやすい。これは同時に、皮膚刺激性が強くなることの防止にもつながる。また、繊維間の空隙が過度に大きくならないため、加熱された空気の通過や、空隙内の対流の発生も避けやすい。無機繊維の繊維長は100本の繊維の繊維長を顕微鏡観察により測定し、100本の平均値として算出される値である。
【0016】
無機繊維として、繊維径が3~13μmの無機繊維と、繊維径が13μm超の無機繊維を併用してもよい。
繊維径の異なる無機繊維を組み合わせて使用することにより、無機繊維間の空隙を狭くすることによる断熱効果向上効果および表面平滑化効果と、無機繊維同士の接触点、交絡点の確保による引っ張り強度向上効果を得ながら、断熱シートの厚さを確保し、繊維間の空隙を維持できる場合があり得る。
【0017】
無機繊維の繊維長は1~25mmが好ましく、3~20mmがより好ましく、5~15mmがさらに好ましい。
無機繊維の繊維長が前記数値範囲内の下限値以上であると、シート製造工程中の機械的強度を確保しやすい。無機繊維の繊維長が前記数値範囲内の上限値以下であると、繊維の捩れによる結束の発生がなく、良好な地合い(厚さおよび繊維密度の均一性)を維持しやすい。無機繊維の繊維径は、100本の平均値として算出される値である。
【0018】
断熱シートは、必要に応じて、有機繊維を含有してもよい。有機繊維としては、例えば、ポリオレフィン繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、アクリル繊維、ポリエステル繊維、ポリウレタン繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ポリアミドイミド繊維、ポリイミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリエーテルイミド繊維、ビニロン繊維、ポリカーボネート繊維、エチレン-ビニルアセテート繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、アラミド繊維のような化学繊維等が挙げられる。
珪酸カルシウム水和物と含水珪酸マグネシウムを含む填料を断熱シートに担持させることにより、熱遮蔽性、ハンドリング性、強靭性、柔軟性が向上し得る。
【0019】
珪酸カルシウム水和物の結晶は板状や針状の微細構造を持ち、結晶内部に多くの空隙が形成される。これらの空隙により熱の伝導を抑制し、保温性、断熱性が得られる。また加熱時に結晶性水和物が蒸発することで気化熱により温度上昇を遅らせる効果もある。
【0020】
珪酸カルシウム板は代表的な不燃建材のひとつである。珪酸カルシウム板は珪酸質原料と石灰質原料を、繊維分などの補強材と共に水を加えて混練し、オートクレーブ内で珪酸カルシウム水和物を水熱合成することにより、5mm~15mm程度の厚さのものが製造される。水熱合成工程を前に平板形状に成形されるが、その一般的な工程は、抄造によりシートとして得られたものを断裁するか、あるいは流動状態で型に流し込んで成形するかである。オートクレーブ処理後は、ある程度の柔軟性を付与された製品もあるものの、基本的に剛直な板状となる。したがって生産はバッチ式とならざるを得ず、連続操業生産は難しい。
【0021】
微細な粒子状の結晶質珪酸カルシウム水和物を不織布の製造工程において担持することで、より柔軟で巻取可能な珪酸カルシウム耐熱材を得ることができ、生産性の向上に寄与することができる。
【0022】
結晶質珪酸カルシウム水和物としては例えば、フォシャジャイト、ジャイロライト、ヒレブランダイト、トバモライト、トラスコタイト、ウォラストナイト、ゾノライト等、またはこれらの混合物が挙げられる。
【0023】
なかでもウォラストナイトが好ましい。ウォラストナイトは主に天然鉱物として生産され、結晶がアスペクト比の高い針状または長柱状等の形状をとるため、担持された紙匹内で繊維等と結着した際の補強効果と柔軟性を両立し得る。ウォラストナイトは国内外の産地を問わず、種々の産地のものが使用され得る。また、ウォラストナイトは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
ウォラストナイトの平均長さは5~100μmが好ましく、7~90μmがより好ましく、10~80μmがさらに好ましい。ウォラストナイトの平均長さが前記数値範囲内の下限値以上であると、繊維と結着した際に十分な補強効果を生み出し得る。ウォラストナイトの平均長さが前記数値範囲内の上限値以下であると、十分な柔軟性を生み出し得る。ウォラストナイトの平均長さは、電子顕微鏡を用いて撮影した倍率200倍の平面写真において、100個のウォラストナイトについてその長さを平均した値である。測定に供するウォラストナイトとしては、電子顕微鏡像の観察範囲の対角線上に位置するウォラストナイトを用いる。
【0025】
ウォラストナイトの平均径は1~30μmが好ましく、2~28μmがより好ましく、3~25μmがさらに好ましい。ウォラストナイトの平均径が前記数値範囲内の下限値以上であると、繊維およびウォラストナイト同士の間に十分な数の接点が生じ、強度を得やすい。ウォラストナイトの平均径が前記数値範囲内の上限値以下であると、柔軟性と強度のバランスを取りやすい。ウォラストナイトの平均径は、電子顕微鏡を用いて撮影した倍率200倍の平面写真において、100個のウォラストナイトについて幅を直径とみなし、平均した値である。測定に供するウォラストナイトとしては、電子顕微鏡像の観察範囲の対角線上に位置するウォラストナイトを用いる。
【0026】
ウォラストナイトのアスペクト比(平均長さ/平均径)は3~100が好ましく、4~90がより好ましく、5~80がさらに好ましい。ウォラストナイトのアスペクト比が前記数値範囲内の下限値以上であると、交絡による強度を得やすい。ウォラストナイトのアスペクト比が前記数値範囲内の上限値以下であると、柔軟性と強度のバランスを取りやすい。
【0027】
ウォラストナイトに加えて含水珪酸マグネシウムを所定の比率で填料に含むことにより、必要な熱遮蔽性、ハンドリング性、強靭性、柔軟性を達成できる。含水珪酸マグネシウムは微細な針状の粒子同士の結着力がウォラストナイトよりも強力であるため、担持された紙匹内を高密度に充填する。その結果、シート状耐熱材は、気体に対する高い遮蔽性を発揮すると同時に力学的強度を増大させることができる。これにより気体伝熱の寄与を下げて遮熱性能を向上させるとともに、ハンドリング性も向上、また可撓性が向上するため抄造時の巻取性が向上を実現できる。
【0028】
断熱シート状耐熱材を単電池同士の間に配置して組電池を構成するような場合は、単電池間の圧縮力を受けてシート状耐熱材全体としての厚さが減少し、断熱性の低下へと向かうが、填料を添加することにより厚さ減少を抑制して熱伝導率の上昇を回避する効果が高まる。このような効果は含水珪酸マグネシウムの力学的強度増強効果によってより強くなる。
ただし、填料の担持量が増大すると填料自体の固体伝熱による熱伝導率上昇の効果が無視できなくなる上に、含水珪酸マグネシウムの熱伝導率はウォラストナイトより少々高い。そのため、添加率によっては遮熱性能を落とす結果となる。
【0029】
含水珪酸マグネシウムとしては、例えば、セピオライト、アタバルジャイト、カオリナイト、スメクタイト、モンモリロナイト、セリサイト、イライト、グローコナイト、クロライト、タルク等、またはこれらの混合物が挙げられる。
なかでも、含水珪酸マグネシウムは、セピオライトおよびアタバルジャイトからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。かかる含水珪酸マグネシウムは、結着力が特に高く、機械的強度を得易い。
【0030】
セピオライトは、天然に産出する粘土鉱物の一種である。セピオライトは独特の鎖状粒子構造を有する含水ケイ酸マグネシウムである。セピオライトは国内外の産地を問わず、種々の産地のものが使用され得る。また、セピオライトは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
セピオライトにはその成因の違いにより、α型セピオライトとβ型セピオライトがある。α型セピオライトは、高温高圧下における熱水作用を成因とする。α型セピオライトはその結晶化度が相対的に高く、長繊維で明瞭な繊維状形態を示す。α型セピオライトは山皮と呼ばれることもある。β型セピオライトは、浅海底や湖底での堆積作用を成因とする。β型セピオライトはその結晶化度が相対的に低い。
【0032】
ウォラストナイトおよびβ型セピオライトは、人体に対する安全上好ましくない石英等の結晶性シリカの含有量(不純物含有量)が比較的少ないことから好ましい。
中でも、結晶性シリカの含有量が少ない産地のものを選択して用いることが望ましい。また結晶性シリカは、シート(シート状耐熱材)の切断時に刃物の損耗を早めるという点からも、結晶性シリカの含有量は少ない方が好ましい。
【0033】
結晶性シリカの含有量は、X線粉末回折法で、結晶性シリカのピーク強度を標準サンプルのピーク強度と比較することで定量できる。
断熱シートにおける結晶性シリカの含有量は1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましく、0.2質量%以下がさらに好ましい。
【0034】
填料は、さらに、有機化合物を含んでもよい。具体的に、填料は、例えば、耐水性付与を目的としてフッ素系樹脂、シリコーン系樹脂や、シランカップリング剤を含むことが好ましい。中でも、シランカップリング剤は、含水珪酸マグネシウムの粒子同士を連結することができ、よって、被膜の機械的強度(膜強度)をより高めることができる。その結果、シート状耐熱材を切断する際の粉落ちを抑制しやすい。また、含水珪酸マグネシウムの粒子同士がシランカップリング剤を介して連結されることで、被膜の耐水性が高まる効果も期待できる。
シランカップリング剤は、シートの最表面にのみ存在してもよく、シートの内部にも存在してもよい。シランカップリング剤として、例えば、官能基としてビニル基、エポキシ基、メタクリロキシ基、アミノ基を有するシラン化合物等を使用することができる。これらのシランカップリング剤は、高い疎水性を有する。このためシートの耐水性をより向上させることができ、シートが吸湿または吸水して、無機繊維同士の間の空隙が閉塞されるのを回避しやすい。
【0035】
(バインダー)
無機繊維あるいは有機繊維の間を結着することにより、抄紙工程を容易にし、また製造された紙匹の機械的強度を高めるために、バインダーを含んでよい。バインダーとしては、結着性があり、耐熱性があり、電池、電極、配線に対する腐食性が少ないものが好適である。バインダーは無機バインダー(ただし、セピオライトおよびウォラストナイトを除く。)でも有機バインダーでもよい。
無機バインダーとしては、各種無機セメント類、各種ガラス類等の他、含水珪酸マグネシウム、コロイダルシリカ、シリカゾル、アルミナゾル等が挙げられる。
一方、有機バインダーとしては、各種熱硬化性樹脂、各種熱可塑性樹脂等が挙げられる。有機バインダーの形態としては、例えば、パウダー、粒子、繊維、エマルション、溶液、ワニス等が挙げられる。
有機バインダーの具体例としては、ポリエチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、(メタ)アクリル酸エステル樹脂、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン-ビニルアルコール共重合体、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂等が挙げられる。
無機バインダー、有機バインダーは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
なかでも、添加量対比で結着性に優れ、発熱量が少ない点から、ポリビニルアルコール繊維(PVA繊維)が好適に用いられる。耐水性の観点からアクリル樹脂エマルション等も好適である。外側が低融点樹脂、内側が高融点樹脂である芯鞘タイプのバインダー繊維も好適である。芯鞘タイプのバインダー繊維の場合、バインダーの含有量は、芯部の樹脂と鞘部の樹脂の合計量として計算する。
また、溶融接着性はないが、微細にフィブリル化して交絡する能力が高いパラアラミド繊維、アラミドパルプ、結晶性ポリエステル、液晶性ポリエステル、木材由来パルプ、草由来パルプ等も有機バインダーとして使用され得る。
【0037】
有機バインダーの添加量を多くする程、シート(シート状耐熱材)の機械的強度が向上する。しかしながら、有機バインダーを多量に含むと、シートの熱収縮率が増大して、耐熱性が低下し易い。また、シート状耐熱材が加熱された場合、有機バインダーが酸化により発熱したり、分解ガスを発生したりするおそれがある。
したがって、シート中の有機バインダーの含有量は、できる限り少ない方がよい。
【0038】
不織布を製造するための原料スラリーに添加する有機バインダー成分以外に、前工程で得られた填料を担持した不織布に対し、前記のような有機バインダー成分を含む液をスプレー塗布、カーテン塗布、含浸塗布、バー塗布、ロール塗布、ブレード塗布等の方法で付着(外添塗布)させてもよい。外添塗布の対象である不織布は、乾燥後の乾燥不織布でも、乾燥前の湿潤ウェブであってもよい。有機バインダーの外添塗布を行うことにより、シートの柔軟性を高めて巻取性をより改善できる。また、シート表面からの填料や繊維の脱落をより防ぐことができる。しかしながら、原料スラリーに添加した有機バインダーと同様に、シート状耐熱材が加熱された場合、有機バインダーが酸化により発熱したり、分解ガスを発生したりするおそれがある。
【0039】
(任意成分)
断熱シートは、必要に応じて、架橋剤、シランカップリング剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、増粘剤、造核剤、中和剤、滑剤、ブロッキング防止剤、分散剤、流動性改良剤、離型剤、難燃剤、発泡剤、着色剤、濡れ剤、粘剤、歩留向上剤、紙力向上剤、濾水剤、pH調整剤、消泡剤、防腐剤、ピッチコントロール剤のような助剤、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、シリカエアロゾル、ヒュームドシリカ、カオリナイト、スメクタイト、モンモリロナイト、セリサイト、イライト、グローコナイト、クロライト、タルク、プラスチックピグメント、中空ガラスビーズ、シラスバルーンのような充填剤等を含有してもよい。
【0040】
β型セピオライト以外の粘土鉱物としては、例えば、カオリナイト、スメクタイト、モンモリロナイト、セリサイト、イライト、グローコナイト、クロライト、α型セピオライト、タルクが挙げられる。
填料としては、例えば、珪酸カルシウム、炭酸カルシウムが挙げられる。
【0041】
(断熱シートの組成)
無機繊維の割合は、断熱シートの全質量に対して10質量%以上であり、10~52質量%が好ましく、13~51質量%がより好ましく、15~50質量%がさらに好ましい。無機繊維の割合が前記数値範囲内の下限値以上であると、抄紙時に湿式ウェブを形成しやすい。無機繊維の割合が前記数値範囲内の上限値以下であると、表面強度、引張強度および断熱性に遮熱性に優れる断熱シートが得られやすい。
【0042】
ウォラストナイトおよびβ型セピオライトの合計含有量は、断熱シートの全質量に対して48質量%以上であり、48~90質量%が好ましく、49~87質量%がより好ましく、50~85質量%がさらに好ましい。ウォラストナイトの割合が前記数値範囲内の下限値以上であると、断熱性および巻き取り加工性に優れる断熱シートが得られやすい。ウォラストナイトの割合が前記数値範囲内の上限値以下であると、固体伝熱上昇による遮熱性の低下を回避しやすい。
【0043】
断熱シート中のβ型セピオライトに対するウォラストナイトの質量比は0.1以上5.0以下であり、0.15以上4.5以下が好ましく、0.2以上4.0以下がより好ましく、0.25以上3.5以下がさらに好ましい。前記質量比が前記数値範囲内の下限値以上であると、引張強度に優れる断熱シートが得られやすい。前記質量比が前記数値範囲内の上限値以下であると、遮熱性に優れる断熱シートが得られやすい。
【0044】
総量(T)は、断熱シートの全質量に対して80~100質量%が好ましく、90~100質量%がより好ましく、95~100質量%がさらに好ましく、100質量%が最も好ましい。総量(T)が前記数値範囲内の下限値以上であると、断熱性および巻き取り加工性に優れる断熱シートが得られやすい。総量(T)が前記数値範囲内の上限値以下であると、断熱シートが他の成分を含む場合に他の成分による特性が発現しやすい。
【0045】
(断熱シートの性状)
断熱シート中の有機成分の含有量は断熱シートの全質量に対して8質量%以下が好ましく、7質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。有機成分の含有量が前記数値範囲内の上限値以下であると、断熱シートが耐熱性に優れ、単電池の発火による煙の発生量が少なく、また、熱劣化による形状や性質の変化が少なくなる。
有機成分の含有量は耐熱性の観点からは低いほどよく、その下限値は特に限定されないが、無機繊維を結着して断熱シートを得ることを考慮すると、例えば、0.1質量%程度であると考えられる。
【0046】
断熱シートの坪量は20~500g/m2が好ましく、30~400g/m2がより好ましく、40~350g/m2がさらに好ましい。断熱シートの坪量が前記数値範囲内の下限値以上であると、断熱シートの断熱性が向上しやすい。断熱シートの坪量が前記数値範囲内の上限値以下であると、断熱シートの巻き取り加工性が向上しやすい。
断熱シートの坪量は、後述の実施例に記載の方法によって求められる。
【0047】
断熱シートの厚さは0.1~3mmが好ましく、0.15~2.5mmがより好ましく、0.2~2mmがさらに好ましい。断熱シートの厚さが前記数値範囲内の下限値以上であると、断熱シートの断熱性が向上しやすい。断熱シートの厚さが前記数値範囲内の上限値以下であると、断熱シート適用した組電池の薄型化を実現しやすい。
断熱シートの厚さは、後述の実施例に記載の方法によって求められる。
【0048】
断熱シートの通気度は50cc/cm2/sec以下が好ましく、30cc/cm2/sec以下がより好ましく、20cc/cm2/sec以下がさらに好ましい。断熱シートの通気度が前記上限値以下であると、断熱シートの遮熱性が向上しやすい。断熱シートの通気度は遮熱性の観点からは低いほどよく、その下限値は特に限定されないが、素材の形状に由来する物理限界と実用的な厚さを考慮すると、例えば、0.01cc/cm2/sec程度であると考えられる。
断熱シートの通気度は、後述の実施例に記載の方法によって求められる値である。
【0049】
断熱シートの引張強度は12N/15mm以上が好ましく、14N/15mm以上がより好ましく、15N/15mm以上がさらに好ましい。断熱シートの灰分が前記下限値以上であると、断熱シートが優れた強度を具備していると言える。断熱シートの引張強度は高いほどよく、その上限値は特に限定されないが、素材に由来する物理限界と実用的な厚さを考慮すると、例えば、100N/15mm程度であると考えられる。
断熱シートの引張強度は、後述の実施例に記載の方法によって求められる値である。
【0050】
(製法)
断熱シートは、例えば、無機繊維とウォラストナイトとβ型セピオライトとバインダーとを少なくとも含むスラリーを抄紙して湿式ウェブを形成し、次いで湿式ウェブを乾燥することで製造できる。このように湿式法によって得られた断熱シートにおいては、ウォラストナイトおよびβ型セピオライトを断熱シートに内添して含有せしめることができる。そのため、ウォラストナイトおよびβ型セピオライトを無機繊維間の空隙や繊維表面に均一に分散させることができる。結果として、組電池に適用した際に発火や熱膨張による形状変化に断熱シートが追従でき、形状追従性にも優れる断熱シートが得られる。
【0051】
スラリーは必要に応じて任意成分をさらに含んでもよい。スラリーの任意成分としては、例えば、分散剤、保液剤、粘度調整剤、pH調整剤、充填剤が挙げられる。
スラリーが熱溶融タイプのバインダーを含む場合、サーマルボンド法により湿式ウェブにおける無機繊維を結合できる。スラリーが熱溶融タイプのバインダーを含まない場合、フィブリル化繊維の添加、微細繊維の添加、ニードルパンチ、ウォータジェットによる水流交絡などで、繊維間を交絡させることにより、湿式ウェブを形成できる。
【0052】
スラリーを湿式抄紙する際には、種々の抄紙機を使用できる。抄紙機としては、例えば、円網抄紙機、傾斜型抄紙機、長網抄紙機、短網抄紙機が挙げられる。これら抄紙機の同種または異種を組み合わせて多層抄紙を行ってもよい。
【0053】
(作用機序)
以上説明した本発明の断熱シートにおいては、無機繊維の含有量が断熱シートに対して10質量%以上であり、ウォラストナイトおよびβ型セピオライトの合計含有量が断熱シートに対して48質量%以上であり、かつ、断熱シート中のウォラストナイトに対するβ型セピオライトの質量比が0.1以上5.0以下である。そのため、断熱シートは断熱性および巻き取り加工性に優れ、また、表面強度、引張強度も良好となる。
【0054】
<組電池>
本発明の断熱シートは、物体間の断熱が求められる種々の産業上の用途に適用され得る。例えば、本発明の断熱シートは組電池に好適に適用でき、組電池用の断熱シートとして好適に使用され得る。
組電池は、積層された複数の単電池と、複数の単電池の間に挿入された断熱シートとを備える。断熱シートの少なくとも一つが、上述した本発明の断熱シートである。
【0055】
図1は一実施形態に係る組電池50の構成図である。
図1に示すように組電池50においては、複数のラミネート形単電池20の各々の間に断熱シート10が挿入されている。また、最下層と最上層のラミネート形単電池20(最外層に積層されたラミネート形単電池20)の外側にも、断熱シート10が配置されている。組電池50は、金属の外装体等に収容され、バッテリーパックが形成される。
【0056】
ラミネート形単電池20は、ラミネートフィルム内に電極群と電解液が収容されたものであればよく、種々のラミネート形単電池を採用できる。
図1に示すように、正極タブ21と負極タブ22とがラミネートフィルム外に設けられている。
断熱シート10は、各ラミネート形単電池20の間を、面方向全体にわたって遮断するように挿入されているが、正極タブ21と負極タブ22とは、断熱シート10の外側まで導出されている。
【0057】
組電池50においては、各ラミネート形単電池20の間に断熱シート10が挿入されている。そのため、1つのラミネート形単電池20に発熱等の不具合が生じても、その不具合が隣接するラミネート形単電池20に悪影響を及ぼすことを防止または遅延させることができる。
また、最下層または最上層のラミネート形単電池20に発熱等の不具合が生じても、その不具合が他のバッテリーパックに悪影響を及ぼすことを防止または遅延させることができる。
【0058】
組電池50においては説明の便宜上、単電池がラミネート形単電池20である態様としたが、単電池はラミネート形単電池に限定されない。単電池は、例えば金属ケースに電極群と電解液が収容されている単電池であってもよい。ただし、ラミネート形単電池は、熱の影響を受けやすい。そのため、本発明の効果をより活かす観点では、ラミネート形単電池が好ましい。
【0059】
組電池50においては説明の便宜上、複数の断熱シートのすべてが本発明の断熱シートであるが、組電池の態様は
図1に例示したものに限定されない。すなわち、組電池50のように複数の断熱シートのすべてが本発明の断熱シートであってもよく、複数の断熱シートの一部が本発明の断熱シート以外の他の断熱シートであってもよい。
ただし、本発明の断熱シートを用いた方が、柔軟性を持つため圧力破壊に対する耐性が高く、電池破損時に断熱性を保ちやすいという利点がある。
【0060】
各ラミネート形単電池20間には、複数枚重ねた断熱シートを挿入してもよい。複数枚を重ねる場合、本発明の断熱シートのみを重ねてもよいし、他の断熱シートのみを重ねてもよいし、本発明の断熱シートと他の断熱シートを重ねてもよい。
組電池50全体の厚さを抑制する観点からは、1枚の断熱シートのみを挿入することが好ましく、複数枚重ねる場合は、2枚の断熱シートを重ねることが好ましい。
【実施例0061】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載に限定されない。
【0062】
<原料>
各例で使用した原料を以下に示す。
(無機繊維)
・ガラス繊維:繊維径6μm、繊維長6mmのEガラス繊維
【0063】
(有機繊維)
・PET繊維:繊維径12μm、繊維長5mmのPET繊維
【0064】
(バインダー)
・芯鞘PET繊維:繊維径14μm、繊維長5mmの芯鞘熱融着ポリエステル繊維(帝人ファイバー製、芯部の融点260℃、鞘部の接着温度110℃)
・PVAバインダー繊維:繊維径11μm、繊維長3mmのポリビニルアルコールバインダー(クラレ製、水中溶解温度60℃)
【0065】
<実施例1>
表1に示す組成比で、ガラス繊維、芯鞘PET繊維、PVAバインダー繊維とを混合して混合物を得た。次いで、混合物を水に分散して、最終的に0.4質量%濃度の繊維スラリーを得た。
別途、表1に示す組成比でウォラストナイトおよびβ型セピオライトとを混合して混合物を得た。次いで混合物水に分散して、填料スラリーを得た。この填料スラリーに対固形分3部の硫酸バンドと、対固形分比で0.5質量部の両イオン性ポリアクリルアミド樹脂系歩留まり向上剤(荒川化学工業製)と、対固形分比で0.2質量部のアニオン性ポリアクリルアミド樹脂系高分子凝集剤(MTアクアポリマー製)を順次添加攪拌して、填料のフロックを形成した。なお濃度は最終的に0.4質量%となるよう調整した。
上記の繊維スラリーを、フロックを形成した填料スラリーを質量比(繊維スラリー:填料スラリー=41.6:58.4)で混合することにより、0.4質量%濃度の原料スラリーを得た。
この原料スラリーを手抄きシートマシンを用いて湿式抄造を行い、Eガラス繊維がランダムに配列し、質量比で繊維41.6(うちEガラス繊維40)に対しウォラストナイト49.4、β型セピオライト9からなる填料が紙質に内添された状態の湿式ウェブを得た。この湿式ウェブを吸引脱水した後、180℃の熱風乾燥機で乾燥して、坪量186.3g/m2、厚さ52m3の断熱シート(25cm×25cm)を得た。
【0066】
<実施例2~7、比較例1~3>
ガラス繊維、PET繊維、芯鞘PET繊維、PVA繊維の比率、またウォラストナイトとβ型セピオライトの比率を表1に示す通りに各々変更し、実施例1と同様の手法にて表1に示す坪量、厚さ、密度を持つ各例の断熱シートを製造した。
【0067】
<測定法、評価法>
(坪量)
各例の断熱シートについて坪量をJIS P 8124:2011に規定の方法に従って測定した。
【0068】
(厚さ)
各例の断熱シートについて厚さをJIS P 8118:1998に準拠し、加圧面同士の間の圧力を50kPaに設定して測定した。
【0069】
(密度)
各例の断熱シートについて前項にて得た坪量を厚さで除した値とて密度を得た。
【0070】
(引張強度)
各例の断熱シートについて引張強度を以下の通り測定した。シートから長さ240mm、幅15mmのサンプルを切り出し、これをJIS P8113に準じた方法で、23°C50%RH環境下で引張試験機(機種名:RTC-1210A、株式会社オリエンテック製)に試験長さ180mmとなるようセットし、引張強度を測定した。得られた引張強度を以下の基準で評価した。
【0071】
A:引張強度が15N/15mm以上である。
B:引張強度が12N/15mm以上15N/15mm未満である。
C:引張強度が12N/15mm未満である。
【0072】
(表面強度)
各例の断熱シートについて表面強度を以下の通り評価した。15mm幅のセロハンテープを50mm長切り出し、粘着面をシート表面に向けて乗せる。示指中指の二本を揃えて力を入れずにセロハンテープ上を3往復摩擦し、密着させる。セロハンテープをシートから剥がして黒画用紙に貼り、セロハンテープに接着した粉や繊維の状況を目視にて確認した。
【0073】
表面強度を以下の基準で評価した。
A:粉または繊維セロハンテープへの接着が殆ど認められない。
B:粉または繊維セロハンテープへの接着が少量認められるが許容範囲である。
C:粉または繊維セロハンテープへの接着が多量に認められる。
【0074】
(巻き取り加工性)
巻き取り加工性は、巻付可能径に基づいて評価した。各例の断熱シートについて巻付可能径を以下の通り測定した。シートから、長さ200mm、幅30mmのサンプルを切り出し、これを直径の異なる筒に大直径から順に巻き付け、シート表面に割れ、折、しわを生じずに巻き付けできる最小の直径を巻付可能径とした。
【0075】
巻付可能径を以下の基準で評価した。
A:巻付可能径が60mm未満である。
B:巻付可能径が60mm以上80mm未満である。
C:巻付可能径が80mm以上である。
【0076】
(通気度)
各例の断熱シートについて通気度をJIS L 1096:2010に規定のA法(フラジール形法)に従って測定し、以下の基準で評価した。
A:通気度が20cc/cm2/sec以下である。
B:通気度が20cc/cm2/sec超50cc/cm2/sec以下である。
C:通気度が50cc/cm2/sec超である。
【0077】
(遮熱性)
各例の断熱シートについて遮熱性を以下の手順にて評価した。シートから80mm×100mmのサンプルを切り出し、厚さを前項同様に計測してから200℃、2MPaにて15分間圧縮したのち、圧縮を保持したまま冷却する。同様に切り出したサンプルを2枚重ねおよび3枚重ねにしたものについて、同様に厚さを計測後、加熱圧縮した。
上記1枚圧縮サンプルを500℃のホットプレートに乗せ、1kPaの圧力をかけつつ10分間保持した後、サンプル上面の温度、すなわちサンプルがホットプレートと接触している面と反対側の面の温度を接触温度計にて計測した。
同様の手順で2枚圧縮、3枚圧縮のサンプルに対してもそれぞれ測定し、加熱圧縮前の厚さと500℃10分間加熱後の加熱反対面の到達温度との回帰曲線を得た。この回帰曲線を用いて加熱圧縮前厚さ500μm、1000μm、1500μmに相当する500℃10分加熱後の加熱反対面の到達温度を得た。これらの値を以下の評価基準に従って評価した。
【0078】
加熱圧縮前厚さ500μm相当500℃10分加熱後の加熱反対面の到達温度T1
A:T1が400℃未満である。
B:T1が400℃以上405℃未満である。
C:T1が405℃以上である。
【0079】
加熱圧縮前厚さ1000μm相当500℃10分加熱後の加熱反対面の到達温度T2
A:T2が365℃未満である。
B:T2が365℃以上370℃未満である。
C:T2が370℃以上である。
【0080】
加熱圧縮前厚さ1500μm相当500℃10分加熱後の加熱反対面の到達温度T3
A:T3が345℃未満である。
B:T3が345℃以上350℃未満である。
C:T3が350℃以上である。
【0081】
<結果>
各例の測定結果、評価結果を表1に示す。
【0082】
【0083】
実施例1~7では、断熱性および巻き取り加工性に優れる断熱シートが得られ、断熱シートの表面強度、引張強度も良好であった。対して、比較例1では引張強度が不充分であった。比較例2では表面強度、引張強度および断熱性のいずれもが不十分であった。比較例3では、引張強度、巻き取り加工性および断熱性のいずれもが不十分であった。