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特開2024-6553電気化学的水素透過試験方法及び電気化学的水素透過試験装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006553
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】電気化学的水素透過試験方法及び電気化学的水素透過試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20240110BHJP
   G01N 27/28 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
G01N27/416 311H
G01N27/28 301Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022107564
(22)【出願日】2022-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】赤星 真琴
(72)【発明者】
【氏名】高橋 武寛
(57)【要約】
【課題】電解質溶液にチオシアン酸塩が添加された場合であっても、より簡便な手段で、電解質溶液のpH変化を抑制すること。
【解決手段】本発明は、金属材の水素透過性を評価するための電気化学的水素透過試験方法に関するものであり、第1の電解質溶液が収容された第1の電解容器と、第2の電解質溶液が収容された第2の電解容器とを有する電解槽を用い、前記第1の電解容器と前記第2の電解容器との間に、それぞれの前記電解質溶液に接触可能なように前記金属材を配置して、前記第1の電解容器の側で水素を発生させるものであり、前記第1の電解質溶液は、チオシアン酸塩を5.0mmol/L以上含有し、pHが3.0~13.0の範囲内であり、前記第1の電解容器における陽極として、酸化イリジウム電極を用いる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材の水素透過性を評価するための電気化学的水素透過試験方法であって、
第1の電解質溶液が収容された第1の電解容器と、第2の電解質溶液が収容された第2の電解容器とを有する電解槽を用い、前記第1の電解容器と前記第2の電解容器との間に、それぞれの前記電解質溶液に接触可能なように前記金属材を配置して、前記第1の電解容器の側で水素を発生させるものであり、
前記第1の電解質溶液は、チオシアン酸塩を5.0mmol/L以上の濃度で含有し、pHが3.0~13.0の範囲内であり、
前記第1の電解容器における陽極として、酸化イリジウム電極を用いる、電気化学的水素透過試験方法。
【請求項2】
前記第1の電解容器における前記陽極の表面に、陽イオン交換機能を有する陽イオン交換樹脂層コーティングを設ける、請求項1に記載の電気化学的水素透過試験方法。
【請求項3】
金属材の水素透過性を評価するための電気化学的水素透過試験方法であって、
第1の電解質溶液が収容された第1の電解容器と、第2の電解質溶液が収容された第2の電解容器とを有する電解槽を用い、前記第1の電解容器と前記第2の電解容器との間に、それぞれの前記電解質溶液に接触可能なように前記金属材を配置して、前記第1の電解容器の側で水素を発生させるものであり、
前記第1の電解容器における陽極と前記金属材との間に、陽イオン交換機能を有する陽イオン交換部材を設け、
前記陽イオン交換部材と、前記金属材と、の間に収容される前記第1の電解質溶液は、チオシアン酸塩を5.0mmol/L以上の濃度で含有し、pHが3.0~13.0の範囲内であり、
前記陽極と、前記陽イオン交換部材と、の間に収容される電解質溶液は、前記チオシアン酸塩の濃度が0.1mmol/L以下であるか、又は、
前記陽極と、前記陽イオン交換部材と、の間に収容される電解質溶液における前記チオシアン酸塩の濃度が0.1mmol/L超であり、かつ、前記陽極として、酸化イリジウム電極を用いる、電気化学的水素透過試験方法。
【請求項4】
前記陽極の電位を、銀-塩化銀電極に対して0.47V以下とする、請求項1に記載の電気化学的水素透過試験方法。
【請求項5】
前記陽極の電位を、銀-塩化銀電極に対して0.47V以下とする、請求項3に記載の電気化学的水素透過試験方法
【請求項6】
前記第1の電解容器に収容される電解質溶液に加えられるチオシアン酸塩は、チオシアン酸アンモニウム、チオシアン酸ナトリウム、又は、チオシアン酸カリウムの少なくとも何れかである、請求項1~5の何れか1項に記載の電気化学的水素透過試験方法。
【請求項7】
金属材の水素透過性を評価するための電気化学的水素透過試験装置であって、
第1の電解質溶液が収容された第1の電解容器と、第2の電解質溶液が収容された第2の電解容器とを有する電解槽を有し、
前記電解槽は、それぞれの前記電解質溶液が前記金属材の表面と接触するように、前記金属材を、前記第1の電解容器と前記第2の電解容器との間に配置可能であり、
前記第1の電解質溶液は、チオシアン酸塩を5.0mmol/L以上の濃度で含有し、pHが3.0~13.0の範囲内であり、
前記第1の電解容器における陽極は、酸化イリジウム電極である、電気化学的水素透過試験装置。
【請求項8】
前記第1の電解容器における前記陽極の表面に、陽イオン交換機能を有する陽イオン交換樹脂層コーティングを設ける、請求項7に記載の電気化学的水素透過試験装置。
【請求項9】
金属材の水素透過性を評価するための電気化学的水素透過試験装置であって、
第1の電解質溶液が収容された第1の電解容器と、第2の電解質溶液が収容された第2の電解容器とを有する電解槽を有し、
前記電解槽は、それぞれの前記電解質溶液が前記金属材の表面と接触するように、前記金属材を、前記第1の電解容器と前記第2の電解容器との間に配置可能であり、
前記第1の電解容器における陽極と前記金属材との間に、陽イオン交換機能を有する陽イオン交換部材を設け、
前記陽イオン交換部材と、前記金属材と、の間に収容される前記第1の電解質溶液は、チオシアン酸塩を5.0mmol/L以上の濃度で含有し、pHが3.0~13.0の範囲内であり、
前記陽極と、前記陽イオン交換部材と、の間に収容される電解質溶液における前記チオシアン酸塩の濃度が0.1mmol/L以下であるか、又は、
前記陽極と、前記陽イオン交換部材と、の間に収容される電解質溶液における前記チオシアン酸塩の濃度が0.1mmol/L超であり、かつ、前記陽極が、酸化イリジウム電極である、電気化学的水素透過試験装置。
【請求項10】
前記第1の電解容器に収容される電解質溶液に加えられるチオシアン酸塩は、チオシアン酸アンモニウム、チオシアン酸ナトリウム、又は、チオシアン酸カリウムの少なくとも何れかである、請求項7~9の何れか1項に記載の電気化学的水素透過試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学的水素透過試験方法及び電気化学的水素透過試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の鋼材をはじめとする金属材は、水素を含むと靭性が失われ、強度が著しく低下する。かかる現象は、水素脆化と呼ばれている。水素脆化の発生には、金属材中に侵入した水素が関与していることから、かかる水素の侵入について検証を行うために、電気化学的水素透過試験(以下、「水素透過試験」と略記することがある。)が広く用いられている。
【0003】
上記の水素透過試験において、測定における電位の印加によって電解質溶液の分極等が短時間で発生し、電解液のpHが変化してしまうことがある。電解質溶液のpHが低下するということは、水素透過試験の試験環境が変化することを意味することから、水素透過試験の測定精度の低下を招いてしまう。
【0004】
そこで、以下の特許文献1では、多量の電解質溶液を準備した上で、かかる電解質溶液を循環させることで、電解質溶液のpH変化を抑制する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-153897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1で提案されている技術では、pH変化を抑制できる程度まで多量の電解質溶液を準備しなければならないため、試験装置の大型化が問題となる。また、多量の電解質溶液を循環させるにしても、pH変化を完全に抑制することはできず、測定精度の向上に際して、検討の余地がある。
【0007】
また、試験対象となる金属材によっては、試験に要する時間の長期化が見込まれる場合があることから、金属材への水素侵入効率を向上させて試験時間の短縮化を図るために、水素を発生させる側の電解質溶液に、チオシアン酸塩が添加される。
【0008】
ここで、本発明者らが検証した結果、電解質溶液にチオシアン酸塩が添加されると、測定に伴ってチオシアン酸イオンが酸化分解して硫酸が生じ、電解液のpHが低下してしまうことが判明した。電解質溶液のpHが低下するということは、水素透過試験の試験環境が変化することを意味し、加えて、添加したチオシアン酸塩も酸化分解に伴って減少することから、水素侵入効率も低下することを意味する。そのため、電解質溶液のpH変化は、水素透過試験の測定精度の低下を招いてしまう。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、電解質溶液にチオシアン酸塩が添加された場合において、より簡便な手段で、電解質溶液のpH変化を抑制することが可能な、電気化学的水素透過試験方法及び電気化学的水素透過試験装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、水素を発生させる側の電解容器の陽極として特定の電極を用いるか、又は、水素を発生させる側の電解容器の陽極と、チオシアン酸塩との間で電子の授受が生じないようにすることで、電解質のpH変化を抑制可能であることに想到し、本発明を完成させるに至った。
かかる知見に基づき完成された本発明の要旨は、以下の通りである。
【0011】
(1)金属材の水素透過性を評価するための電気化学的水素透過試験方法であって、第1の電解質溶液が収容された第1の電解容器と、第2の電解質溶液が収容された第2の電解容器とを有する電解槽を用い、前記第1の電解容器と前記第2の電解容器との間に、それぞれの前記電解質溶液に接触可能なように前記金属材を配置して、前記第1の電解容器の側で水素を発生させるものであり、前記第1の電解質溶液は、チオシアン酸塩を5.0mmol/L以上の濃度で含有し、pHが3.0~13.0の範囲内であり、前記第1の電解容器における陽極として、酸化イリジウム電極を用いる、電気化学的水素透過試験方法。
(2)前記第1の電解容器における前記陽極の表面に、陽イオン交換機能を有する陽イオン交換樹脂層コーティングを設ける、(1)に記載の電気化学的水素透過試験方法。
(3)金属材の水素透過性を評価するための電気化学的水素透過試験方法であって、第1の電解質溶液が収容された第1の電解容器と、第2の電解質溶液が収容された第2の電解容器とを有する電解槽を用い、前記第1の電解容器と前記第2の電解容器との間に、それぞれの前記電解質溶液に接触可能なように前記金属材を配置して、前記第1の電解容器の側で水素を発生させるものであり、前記第1の電解容器における陽極と前記金属材との間に、陽イオン交換機能を有する陽イオン交換部材を設け、前記陽イオン交換部材と、前記金属材と、の間に収容される前記第1の電解質溶液は、チオシアン酸塩を5.0mmol/L以上の濃度で含有し、pHが3.0~13.0の範囲内であり、前記陽極と、前記陽イオン交換部材と、の間に収容される電解質溶液は、前記チオシアン酸塩の濃度が0.1mmol/L以下であるか、又は、前記陽極と、前記陽イオン交換部材と、の間に収容される電解質溶液における前記チオシアン酸塩の濃度が0.1mmol/L超であり、かつ、前記陽極として、酸化イリジウム電極を用いる、電気化学的水素透過試験方法。
(4)前記陽極の電位を、銀-塩化銀電極に対して0.47V以下とする、(1)に記載の電気化学的水素透過試験方法。
(5)前記陽極の電位を、銀-塩化銀電極に対して0.47V以下とする、(3)に記載の電気化学的水素透過試験方法
(6)前記第1の電解容器に収容される電解質溶液に加えられるチオシアン酸塩は、チオシアン酸アンモニウム、チオシアン酸ナトリウム、又は、チオシアン酸カリウムの少なくとも何れかである、(1)~(5)の何れか1つに記載の電気化学的水素透過試験方法。
(7)金属材の水素透過性を評価するための電気化学的水素透過試験装置であって、第1の電解質溶液が収容された第1の電解容器と、第2の電解質溶液が収容された第2の電解容器とを有する電解槽を有し、前記電解槽は、それぞれの前記電解質溶液が前記金属材の表面と接触するように、前記金属材を、前記第1の電解容器と前記第2の電解容器との間に配置可能であり、前記第1の電解質溶液は、チオシアン酸塩を5.0mmol/L以上の濃度で含有し、pHが3.0~13.0の範囲内であり、前記第1の電解容器における陽極は、酸化イリジウム電極である、電気化学的水素透過試験装置。
(8)前記第1の電解容器における前記陽極の表面に、陽イオン交換機能を有する陽イオン交換樹脂層コーティングを設ける、(7)に記載の電気化学的水素透過試験装置。
(9)金属材の水素透過性を評価するための電気化学的水素透過試験装置であって、第1の電解質溶液が収容された第1の電解容器と、第2の電解質溶液が収容された第2の電解容器とを有する電解槽を有し、前記電解槽は、それぞれの前記電解質溶液が前記金属材の表面と接触するように、前記金属材を、前記第1の電解容器と前記第2の電解容器との間に配置可能であり、前記第1の電解容器における陽極と前記金属材との間に、陽イオン交換機能を有する陽イオン交換部材を設け、前記陽イオン交換部材と、前記金属材と、の間に収容される前記第1の電解質溶液は、チオシアン酸塩を5.0mmol/L以上の濃度で含有し、pHが3.0~13.0の範囲内であり、前記陽極と、前記陽イオン交換部材と、の間に収容される電解質溶液における前記チオシアン酸塩の濃度が0.1mmol/L以下であるか、又は、前記陽極と、前記陽イオン交換部材と、の間に収容される電解質溶液における前記チオシアン酸塩の濃度が0.1mmol/L超であり、かつ、前記陽極が、酸化イリジウム電極である、電気化学的水素透過試験装置。
(10)前記第1の電解容器に収容される電解質溶液に加えられるチオシアン酸塩は、チオシアン酸アンモニウム、チオシアン酸ナトリウム、又は、チオシアン酸カリウムの少なくとも何れかである、(7)~(9)の何れか1つに記載の電気化学的水素透過試験装置。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように本発明によれば、電解質溶液にチオシアン酸塩が添加された場合であっても、より簡便な手段で、電解質溶液のpH変化を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1の実施形態に係る電気化学的水素透過試験装置の構成の一例を模式的に示した説明図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る電気化学的水素透過試験装置における陽極について説明するための説明図である。
図3】本発明の第2の実施形態に係る電気化学的水素透過試験装置の構成の一例を模式的に示した説明図である。
図4】本発明の第2の実施形態に係る電気化学的水素透過試験装置における陽極について説明するための説明図である。
図5】本発明の第1の実施形態に係る電気化学的水素透過試験装置の他の構成の一例を模式的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0015】
(第1の実施形態)
以下では、本発明の第1の実施形態に係る電気化学的水素透過試験装置と、かかる装置を用いた電気化学的水素透過試験方法について、詳細に説明する。
【0016】
<電気化学的水素透過試験装置について>
まず、図1を参照しながら、本発明の第1の実施形態に係る電気化学的水素透過試験装置(以下、「水素透過試験装置」と略記することがある。)について、詳細に説明する。図1は、本発明の第1の実施形態に係る電気化学的水素透過試験装置の構成の一例を模式的に示した説明図である。
【0017】
本発明の第1の実施形態に係る電気化学的水素透過試験装置は、着目する金属材の水素透過性を評価するために用いられる試験装置である。
【0018】
[金属材について]
ここで、評価対象となる金属材については、特に限定されるものではなく、各種の鋼材(各種のめっき鋼材も含む。)、アルミニウム材、亜鉛材等のような、様々な金属材を評価対象とすることができる。また、このような金属材の表面には、各種のめっき膜や蒸着膜等のように、母材となる金属材を保護するような各種の金属層が設けられていてもよい。
【0019】
本実施形態に係る電気化学的水素透過試験装置では、以下で詳述するように、水素を発生させる側の電解容器の陽極として特定の電極を用いることで、電解質溶液に添加されるチオシアン酸塩の酸化分解を防止し、電解質溶液のpH変化を抑制している。チオシアン酸塩の酸化分解を防止できることから、チオシアン酸塩による水素侵入効率の向上効果を保持することができ、評価対象となる金属材の表面に各種の金属層が設けられている場合であっても、試験に要する時間の更なる長期化を防ぎながら、安定した測定を実施することができる。
【0020】
なお、評価対象とする金属材の厚みについては、特に限定するものではないが、例えば、0.1~2.0mm程度とすることが好ましい。
【0021】
[電気化学的水素透過試験装置の構成について]
図1に模式的に示したように、本実施形態に係る電気化学的水素透過試験装置1は、電解槽10と、陽極20と、対極30と、を有している。また、電気化学的水素透過試験装置1は、更に、参照電極40と、ガルバノスタット50と、ポテンショスタット60と、電流計70と、を有していることが好ましい。
【0022】
≪電解槽10について≫
電解槽10は、図1に示したように、2つの電解容器11、13を有しており、電解容器11と電解容器13との間に存在する間隙に、評価対象となる金属材Sが配設される。
【0023】
第1の電解容器の一例としての電解容器11は、所定の素材により底面及び壁面が形成されており、金属材Sが位置する側の壁面には、開口面積が既知の開口部101が形成されている。電解容器11に収容される第1の電解質溶液103は、この開口部101を介して、配設された金属材Sの表面と接触可能なようになっている。
【0024】
同様に、第2の電解容器の一例としての電解溶液13は、所定の素材により底面及び壁面が形成されており、金属材Sが位置する側の壁面には、開口面積が既知の開口部105が形成されている。電解容器13に収容される第2の電解質溶液107は、この開口部105を介して、配設された金属材Sの表面と接触可能なようになっている。
【0025】
この際、電解容器11に設けられた開口部101の開口面積と、電解容器13に設けられた加工部105の開口面積と、が互いに等しくなるように、各電解容器に対して開口部を設けることが好ましい。
【0026】
本実施形態に係る電解槽10において、電解容器11の側に位置した金属材Sの表面で水素を発生させて、金属材Sの内部に発生した水素を侵入させ、電解容器13の側に位置した金属材Sの表面から、水素を引き抜くようにする。すなわち、本実施形態に係る電解槽10において、電解容器11は、水素侵入側(換言すれば、評価環境側)の電解容器と解することができ、いわゆるカソード槽として機能する容器であるともいえる。また、本実施形態に係る電解槽10において、電解容器13は、水素引抜側の電解容器と解することができ、いわゆるアノード槽として機能する容器であるともいえる。
【0027】
なお、図1に示した金属材Sにおいて、電解容器11から電解容器13に向かう方向の金属材Sの厚みが、着目する金属材Sの厚みに対応している。このような2つの電解容器11、13から構成される電解槽10を用いることで、金属材Sにおける電解容器11側の表面から、電解容器13側の表面へと透過する水素の量に関する知見を得ることができる。得られた知見を用いることで、着目する金属材Sの水素透過性を評価することができる。
【0028】
ここで、電解容器11、13の底面及び壁面を構成する素材については、特に限定されるものではなく、各電解容器に収容される電解質溶液を安定して保持可能な素材であれば、公知の各種の素材を用いることが可能である。また、電解容器11、13の大きさについても、特に限定されるものではなく、着目する金属材Sの大きさ等に応じて、適宜設定することが可能である。
【0029】
なお、図1に例示した電解槽10の形状は、あくまでも一例に過ぎず、任意の形状を適宜採用することが可能である。また、各電解容器11、13の配置についても、あくまでも一例に過ぎず、電解容器11と電解容器13の配置を左右逆にしてもよいし、電解容器11と電解容器13とを上下に配置してもよい。
【0030】
◇電解質溶液について
電解容器11の内部空間には、第1の電解質溶液103が収容されている。ここで、第1の電解質溶液103には、5.0mmol/L以上の濃度で、チオシアン酸塩が含有されている。チオシアン酸塩の濃度が5.0mmol/L未満となる場合には、チオシアン酸塩による水素侵入効率の向上効果を発現させることができない。チオシアン酸塩の濃度が5.0mmol/L以上となることで、チオシアン酸塩による水素侵入効率の向上効果を発現させることができる。チオシアン酸塩の濃度は、好ましくは10.0mmol/L以上であり、より好ましくは40.0mmol/L以上である。一方、チオシアン酸塩の濃度の上限は、特に規定するものではなく、着目する電解質溶液の液温における飽和量であってもよい。
【0031】
第1の電解質溶液103に含有されるチオシアン酸塩として、例えば、チオシアン酸アンモニウム、チオシアン酸ナトリウム、又は、チオシアン酸カリウムの少なくとも何れかを用いることが好ましい。チオシアン酸アンモニウム、チオシアン酸ナトリウム、又は、チオシアン酸カリウムの少なくとも何れかを用いることで、より高い水素侵入効率を得ることができるため、好ましい。
【0032】
また、第1の電解質溶液103は、pHが3.0~13.0の範囲内である電解質溶液である。第1の電解質溶液103のpHが3.0未満である場合には、電解質溶液の液性が酸性に偏りすぎ、金属材Sによっては金属材Sの表面が溶解してしまうことから、水素侵入面の評価を行うことができない。第1の電解質溶液103のpHを3.0以上とすることで、金属材Sの種別によらず、着目する金属材Sについて、表面の溶解を懸念することなく水素侵入面の評価を行うことが可能となる。第1の電解質溶液103のpHは、好ましくは4.0以上であり、より好ましくは6.0以上である。一方、第1の電解質溶液103のpHが13.0を超える場合には、金属材Sによっては金属材Sの表面が溶解してしまい、水素侵入面の評価を行うことができない。第1の電解質溶液103のpHを13.0以下とすることで、金属材Sの種別によらず、着目する金属材Sについて、表面の溶解を懸念することなく水素侵入面の評価を行うことが可能となる。第1の電解質溶液103のpHは、好ましくは12.4以下である。
【0033】
上記のような電解質溶液として、例えば、硫酸ナトリウム水溶液、塩化ナトリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液等を挙げることができる。また、電解質溶液における電解質の濃度については、例えば0.1M(mol/dm)以上であればよく、着目する電解質溶液の液温における飽和量であってもよい。
【0034】
電解容器13の内部空間には、第2の電解質溶液107が収容されている。第2の電解質溶液107としては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液を用いることが可能である。また、第2の電解質溶液107における電解質の濃度は、例えば、0.05~3.00Mの範囲内とすることが好ましい。
【0035】
≪陽極20について≫
上記のような電解槽10における電解容器11には、陽極20が配置される。
【0036】
先だって言及したように、本発明者らは、電解質溶液にチオシアン酸イオンが添加されると、測定に伴ってチオシアン酸イオンが酸化分解して硫酸となり、電解液のpHが低下してしまうことが判明した。また、このようなチオシアン酸イオンの酸化分解は、水素透過試験における一般的な陽極であるPt電極を用いた場合に、特に顕著であることが判明した。
【0037】
陽極として一般的な電極であるPt電極を用いた場合、陽極-金属材間に印加される電流密度によらず、電極であるPtの分解反応は生じない。ここで、陽極-金属材間に対し、チオシアン酸イオンの酸化領域に属する程度の電極電位となると、陽極であるPt電極の表面でチオシアン酸イオンの酸化反応が進行し、結果として、チオシアン酸イオンが分解して、硫酸塩となってしまう。これが、本発明者らが見出した、チオシアン酸イオンの酸化分解によるpH低下の反応機構である。
【0038】
かかる知見に基づき本発明者らが検討を行った結果、チオシアン酸イオンの酸化電位(酸化反応が進行する電位)となる前に、電極からの酸素発生が生じやすいような電極(すなわち、チオシアン酸イオンの酸化電位よりも低電位な酸素発生電位を有する電極)を、陽極20として用いることができれば、チオシアン酸イオンの酸化分解が抑制可能であるとの着想を得ることができた。そこで、かかる着想に基づき本発明者らが更なる検討を行った結果、電解容器11に設けられる陽極20として、酸化イリジウム(IrO)電極を用いることに想到した。
【0039】
陽極20として、酸化イリジウム(IrO)電極を用いることで、チオシアン酸イオンの酸化分解反応よりも先に、電極での酸素発生反応が進行するようになる。その結果、チオシアン酸イオンの酸化分解反応の進行を抑制して、pHの低下を防止することができる。これにより、電解質溶液にチオシアン酸イオンが添加された場合であっても、より簡便な手段で、電解質のpH変化を抑制することが可能となり、水素透過試験における測定精度の低下を防止することができる。
【0040】
ここで、陽極20の電極面積については、特に規定するものではなく、所望のアノード電位が得られるような電極面積とすればよい。測定時に印加する電流密度で、陽極20が所望のアノード電位を取るための電極面積の確認方法としては、例えば事前に陽極20のアノード分極測定を実施することで、陽極20の電流密度と電極電位の関係を確認する手法が挙げられる。陽極20の電極面積は、例えば電解槽の大きさ等といった試験環境等に応じて、試験環境に許容される範囲内で適宜設定すればよい。
【0041】
≪対極30について≫
上記のような電解槽10における電解容器13には、対極30が配置される。
ここで、かかる対極30については特に限定されるものではなく、意図しない電解反応が生じないものであれば、任意の電極を用いることが可能である。対極30として使用可能な電極としては、例えば、Pt電極等を挙げることができる
【0042】
また、対極30の電極面積についても、特に規定するものではなく、所望の電流密度が得られるような電極面積とすればよい。対極30の電極面積は、例えば電解槽の大きさ等といった試験環境等に応じて、試験環境に許容される範囲内で適宜設定すればよい。
【0043】
かかる対極30と、金属材Sとの間には、金属材Sの電解容器13側の表面に水素を引き抜くことが可能な電位差が印加される。これにより、金属材Sの内部から水素原子が水素イオンとして引き抜かれる結果、金属材Sと、対極30と、第2の電解質溶液107と、で構成される電気的回路には、引き抜かれた水素イオンの量に応じた電流が流れることとなる。
【0044】
≪参照電極40について≫
上記のような電解槽10における電解容器13には、参照電極40が配置されることが好ましい。電解容器13に、上記の対極30に加えて更に参照電極40を配置することで、金属材Sの電位を、より正確に制御することが可能となる。その結果、水素透過試験の測定精度を、より向上させることが可能となる。
【0045】
このような参照電極40としては、特に限定されるものではなく、公知の各種の標準電極を用いることが可能である。このような標準電極として、例えば、水素電極(Pt-Pt|H|HCl、「SHE」と略記される。)飽和カロメル電極(Hg|HgCl|飽和KCl、「SCE」と略記される。)、銀-塩化銀電極(Ag|AgCl|飽和KCl、「Ag|AgCl」と略記される。)、水銀-酸化水銀電極(Hg|HgO|1M NaOH)等を挙げることができる。その中でも、参照電極40として、アルカリ用参照電極である水銀-酸化水銀電極(Hg|HgO|1M NaOH)を用いることが好ましい。
【0046】
≪金属材Sの測定前処理について≫
金属材Sの電解容器13側の表面には、高い測定精度を得るために、Niめっき又はPdめっきを施すことが好ましい。水素透過試験では、検出された水素を酸化することで定量するため、より微量な水素量まで測定するには、水素の酸化電流以外の残余電流ができるだけ小さいことが好ましい。一方、金属材Sが鉄鋼材料等である場合には、電解容器13でのアノード分極によって、金属材Sの表面が不動態被膜で覆われるため、交換電流密度が小さくなり、残余電流が大きくなる。かかる観点から、金属材Sの電解容器13側の表面にNiめっき又はPdめっきを施すことで、残余電流が小さくなり、より微小な水素を検出することができる。Niめっき又はPdめっきは、一般的な電気めっき法により実施すればよく、その浴組成や電析条件は特に規定されるものではない。また、Niめっき又はPdめっきの厚みは、10~100nmとすることが好ましい。
【0047】
≪ガルバノスタット50について≫
陽極20、第1の電解質溶液103、金属材Sで構成される電気的回路には、図1に示したように、ガルバノスタット50が設けられることが好ましい。ガルバノスタット50を設けることで、電気的回路に流れる電流を正確に制御することが可能となる。これにより、上記の電気的回路を流れる電流量を一定に保ちながら、陽極20や金属材Sにおける電流密度が所望の状態となるように精密に制御して、金属材Sの表面における水素発生量を精密に制御することが可能となり、測定精度の更なる向上を図ることが可能となる。
【0048】
かかるガルバノスタット50については、特に限定されるものではなく、市販の各種のガルバノスタットを適宜用いることが可能である。
【0049】
≪ポテンショスタット60、電流計70について≫
対極30、第2の電解質溶液107、金属材Sで構成される電気的回路には、図1に示したように、ポテンショスタット60及び電流計70が設けられることが好ましい。
【0050】
ポテンショスタット60を設けることで、対極30と金属材Sとの間に印加される電位差を正確に制御することが可能となる。これにより、対極30と金属材Sとの間に印加される電位差を一定に保ちながら、金属材Sの表面における水素引抜量を精密に制御することが可能となり、測定精度の更なる向上を図ることが可能となる。
【0051】
かかるポテンショスタット60については、特に限定されるものではなく、市販の各種のポテンショスタットを適宜用いることが可能である。
【0052】
また、電流計70を設けることで、引き抜かれた水素イオンの量に応じて変化する、電気的回路中を流れる電流量を、測定することが可能となる。かかる電流量に着目することで、試験対象である金属材Sの水素透過性を評価することが可能となる。
【0053】
かかる電流計70による電流量の測定結果は、例えば未図示のコンピュータ等に出力されることが好ましい。これにより、電流量の測定結果の出力先であるコンピュータ等において、水素透過性の評価処理の自動化を図ることが可能となる。
【0054】
かかる電流計70についても、特に限定されるものではなく、市販の各種の電流計を適宜用いることが可能である。
【0055】
以上、図1を参照しながら、本実施形態に係る電気化学的水素透過試験装置1について、詳細に説明した。
【0056】
<電気化学的水素透過試験方法について>
続いて、上記のような水素透過試験装置1を用いた、電気化学的水素透過試験方法について説明する。
【0057】
かかる水素透過試験方法では、上記のような水素透過試験装置1を用い、電解容器11と電解容器13との間に、電解質溶液に接触可能なように金属材Sを配置した上で、電解容器11の側で水素を発生させる。
【0058】
この際、電解容器11の内部空間に収容されている第1の電解質溶液103には、先だって説明したように、チオシアン酸塩が5.0mmol/L以上の濃度で含有されており、pHが3.0~13.0の範囲内となっている。また、電解容器11に設けられる陽極20として、酸化イリジウム電極が用いられる。
【0059】
ここで、陽極20と、第1の電解質溶液103と、金属材Sとで構成される電気的回路において、所定の電流密度となるように分極することで、第1の電解質溶液103の側の金属材Sの表面において水素が発生する。発生した水素は、金属材S中に侵入していくこととなる。
【0060】
金属材Sにおける電流密度は、例えば、10.0~1000.0μA/cm程度とすることが好ましい。このような電流密度とすることで、金属材Sの表面近傍において、十分な量の水素を発生させることが可能となり、より安定した状態で水素透過試験を実施することが可能となる。
【0061】
なお、陽極20の電位は、Ag/AgCl電極に対して0.47V以下とすることが好ましい。このような陽極20の電位では、チオシアン酸イオンの酸化分解反応が開始する電位よりも卑となり、チオシアン酸イオンの酸化分解反応の進行を、防止することが可能となる。その結果、電解質溶液のpH変化を、より一層抑制することが可能となる。
【0062】
その上で、金属材Sと、対極30と、第2の電解質溶液107とで構成される電気的回路において、金属材Sの電解容器13側の表面に水素を引き抜くことが可能な電位を印加する。これにより、金属材Sの内部から水素原子が水素イオンとして引き抜かれる結果、かかる電気的回路において、引き抜かれた水素イオンの量に応じた電流が流れることとなる。かかる電流の大きさを計測することで、試験対象である金属材Sの水素透過性を評価することが可能となる。
【0063】
ここで、計測した電流の大きさから、試験対象である金属材Sの水素透過性を評価する方法については、特に限定されるものではなく、予め特定した閾値等を基準として、電流値そのものに基づいて、金属材Sの水素透過性を評価してもよい。また、計測した電流の大きさに基づき、公知の各種の二次的な情報(例えば水素拡散係数等の二次的な情報)を更に算出して、金属材Sの水素透過性を評価してもよい。
【0064】
また、例えば水素拡散係数等の二次的な情報の算出方法については、特に限定されるものではなく、各種の文献(例えば、原卓也、樽井敏三、「アルカリ環境での鋼中への水素侵入挙動」、材料と環境、59、173~178ページ、2010年や、水流徹、「電気化学法による鉄鋼への水素侵入・透過の計測」、材料と環境、63、3~9ページ、2014年等)に開示されている方法を適宜利用することが可能である。
【0065】
なお、陽極20と、第1の電解質溶液103と、金属材Sとで構成される電気的回路への通電時間については、評価対象とする金属材Sに応じて適宜決定すればよいが、例えば、0秒超720時間の範囲内とすればよい。
【0066】
<電気化学的水素透過試験装置の変形例について>
続いて、図2を参照しながら、本実施形態に係る電気化学的水素透過試験装置1の変形例について、簡単に説明する。
【0067】
図2は、本発明の第1の実施形態に係る電気化学的水素透過試験装置の他の構成の一例を模式的に示した説明図である。
図2に模式的に示したように、電解質溶液に曝される陽極20の表面を覆うように、陽イオン交換樹脂コーティング80を設けてもよい。ここで、陽イオン交換樹脂コーティング80とは、陽イオン交換機能(すなわち、陽イオンのみを透過させて、例えばチオシアン酸塩に由来するチオシアン酸イオン等の陰イオンは透過させない機能)を有する樹脂コーティング層である。
【0068】
電解質溶液に曝される陽極20の表面を、陽イオン交換樹脂コーティング80で覆うことで、陽イオン交換樹脂コーティング80を超えたチオシアン酸イオンの移動が抑制される。これにより、陽極20におけるチオシアン酸イオンの酸化分解反応の発生をより一層抑制することが可能となり、酸化イリジウム電極を用いる効果に加えて、測定精度の更なる向上を図ることが可能となる。
【0069】
以上、図2を参照しながら、本実施形態に係る電気化学的水素透過試験装置1の変形例について、簡単に説明した。
【0070】
(第2の実施形態)
続いて、本発明の第2の実施形態に係る電気化学的水素透過試験装置と、かかる装置を用いた電気化学的水素透過試験方法について、詳細に説明する。
【0071】
ここで、本実施形態に係る電気化学的水素透過試験装置及び電気化学的水素透過試験方法で着目する金属材については、第1の実施形態において着目した金属材と同様である。そのため、以下では、着目する金属材についての説明は省略する。また、金属材に対する測定前処理についても、第1の実施形態と同様である。
【0072】
なお、本実施形態に係る電気化学的水素透過試験装置では、以下で詳述するように、水素を発生させる側の電解容器の陽極と、チオシアン酸イオンとの間で電子の授受が生じないようにすることで、電解質溶液に添加されるチオシアン酸イオンの酸化分解を防止し、電解質溶液のpH変化を抑制している。チオシアン酸イオンの酸化分解を防止できることから、チオシアン酸イオンによる水素侵入効率の向上効果を保持することができ、評価対象となる金属材の表面に各種の金属層が設けられている場合であっても、試験に要する時間の更なる長期化を防ぎながら、安定した測定を実施することができる。
【0073】
<電気化学的水素透過試験装置について>
以下では、図3及び図4を参照しながら、本発明の第2の実施形態に係る電気化学的水素透過試験装置(以下、「水素透過試験装置」と略記することがある。)について、詳細に説明する。図3及び図4は、本発明の第2の実施形態に係る電気化学的水素透過試験装置の構成の一例を模式的に示した説明図である。
【0074】
本発明の第2の実施形態に係る電気化学的水素透過試験装置についても、着目する金属材の水素透過性を評価するために用いられる試験装置である。
【0075】
図3に模式的に示したように、本実施形態に係る電気化学的水素透過試験装置1Aは、電解槽10と、陽極25と、対極30と、陽イオン交換部材90と、を有している。また、電気化学的水素透過試験装置1Aは、更に、参照電極40と、ガルバノスタット50と、ポテンショスタット60と、電流計70と、を有していることが好ましい。
【0076】
ここで、本実施形態に係る電気化学的水素透過試験装置1Aにおける、対極30、参照電極40、ガルバノスタット50、ポテンショスタット60、及び、電流計70については、第1の実施形態と同様の構成を有し、同様の機能を有するものであるため、以下では詳細な説明は省略する。
以下では、本実施形態に係る電気化学的水素透過試験装置1Aにおける電解槽10及び陽極25について、相違点を中心に説明する。
【0077】
本実施形態に係る電気化学的水素透過試験装置1Aにおける電解槽10は、陽イオン交換部材90によって、電解容器11の内部空間が2つの領域に区分されており、かつ、この2つの領域に収容される電解質溶液に相違がある以外は、第1の実施形態に係る電気化学的水素透過試験装置1における電解槽10と同様の構成を有し、同様の効果を奏するものである。従って、以下では、第1の実施形態に係る電解槽10との相違点を中心に説明を行うものとする。
【0078】
図3に示したように、電解容器11の内部空間は、陽イオン交換部材90によって、2つの領域に区分されている。かかる陽イオン交換部材90は、陽イオン交換機能(すなわち、陽イオンのみを透過させて、例えばチオシアン酸塩に由来するチオシアン酸イオン等の陰イオンは透過させない機能)を有する部材である。
【0079】
ここで、電解容器11における金属材Sから陽イオン交換部材90までの領域には、第1の実施形態における第1の電解質溶液103と同様の、第1の電解質溶液103Aが収容されている。すなわち、かかる第1の電解質溶液103Aは、チオシアン酸塩を5.0mmol/L以上の濃度で含有し、かつ、pHが3.0~13.0の範囲内である電解質溶液である。電解容器11における金属材Sから陽イオン交換部材90までの領域に、第1の電解質溶液103Aが収容されていることにより、金属材Sに対して、チオシアン酸塩による水素侵入効率の向上効果を発現させることが可能となる。
【0080】
本実施形態に係る電解槽10では、陽イオン交換部材90によって、電解容器11の内部空間が2つに区分されていることで、金属材S側の領域に保持されている第1の電解質溶液103Aに含まれるチオシアン酸塩(より詳細には、チオシアン酸イオン)が、陽極25が存在する側の領域へと移動してくることを、防止できる。これにより、金属材Sの近傍でのチオシアン酸イオンの濃度変化を、より一層抑制することが可能となり、測定精度の更なる向上を図ることが可能となる。
【0081】
一方、陽イオン交換部材90によって区分された2つの領域のうち、陽極25が存在する側の領域には、第1の電解質溶液103Bが収容されている。この第1の電解質溶液103Bは、電解質を含有するものであれば、特に限定されるものではなく、各種の電解質溶液を用いることが可能である。
【0082】
上記のような電解質溶液として、例えば、硫酸ナトリウム水溶液、塩化ナトリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液等を挙げることができる。また、電解質溶液における電解質の濃度については、例えば0.1M以上であればよく、着目する電解質溶液の液温における飽和量であってもよい。
【0083】
また、第1の電解質溶液103Bは、先だって第1の実施形態で説明したような、チオシアン酸イオンの酸化分解反応を進行させないために、チオシアン酸塩を含有していないことが好ましい。ここで、「チオシアン酸塩を含有しない」とは、着目する電解質溶液におけるチオシアン酸塩の濃度が、濃度を測定する機器における濃度検出限界未満であることを意味する。
【0084】
ここで、第1の電解質溶液103Bとして、チオシアン酸塩を含有しない電解質溶液が用いられ、かつ、陽イオン交換部材90が存在することによって、第1の電解質溶液103A中に含まれるチオシアン酸塩(より詳細には、チオシアン酸イオン)が第1の電解質溶液103B中に移動してくることは無い。そのため、陽極25におけるチオシアン酸イオンの酸化分解反応は発生せず、電解質溶液のpHの低下を防止することができ、水素透過試験における測定精度の低下を防止することができる。
【0085】
上記の場合には、陽極25として、電気化学的水素透過試験に用いられる一般的な電極を適宜利用することができる。このような電極として、例えば、Pt電極等を挙げることができる。
【0086】
なお、何らかの要因で、第1の電解質溶液103B中に、チオシアン酸塩が混入してしまう可能性も考えられる。この際であっても、第1の電解質溶液103B中のチオシアン酸塩の濃度が0.1mmol/L以下であれば、測定精度に影響を与えるほどのpH低下を招く硫酸は発生しないと考えられる。そのため、陽極25として、第1の実施形態で説明したような酸化イリジウム(IrO)電極ではなく、Pt電極等が用いられていたとしても、水素透過試験を適切な測定精度で実施することが可能である。換言すれば、第1の電解質溶液103Bにおけるチオシアン酸塩の濃度は、0.1mmol/Lまでは許容されうる。
【0087】
一方、第1の電解質溶液103Bとして、0.1mmol/Lを超える濃度のチオシアン酸塩を含有する電解質溶液が用いられている場合には、第1の実施形態で説明したようなチオシアン酸イオンの酸化分解反応が生じる可能性がある。従って、第1の電解質溶液103Bとして、0.1mmol/Lを超える濃度のチオシアン酸塩を含有する電解質溶液が用いられている場合には、陽極25として、酸化イリジウム電極が用いられる。
【0088】
ただし、電解質溶液103Bとして、0.1mmol/Lを超える濃度のチオシアン酸塩を含有する電解質溶液を用いた場合、陽イオン交換部材90を超えたチオシアン酸イオンの移動が抑制されるため、電解質溶液103B中のチオシアン酸塩が有する水素侵入促進剤としての機能を、金属材Sに対して効果的に発現させることが困難となる。かかる観点からも、電解質溶液103Bは、チオシアン酸塩の濃度が0.1mmol/L以下である電解質溶液であることが好ましく、チオシアン酸塩を含有しない電解質溶液であることが、より好ましい。
【0089】
また、図3では、電解容器11の内部空間における陽極25と金属材Sとの間の任意の位置に、陽イオン交換部材90が設けられる場合について図示しているが、図4に模式的に示したように、電解質溶液に曝される陽極25の表面を覆うように、陽イオン交換樹脂層コーティング80を設けることがより好ましい。これにより、陽極25がチオシアン酸イオンに曝されることが、より一層抑制されるため、陽極25におけるチオシアン酸イオンの酸化分解反応をより効果的に防止することが可能となる。これにより、電解質溶液のpHの低下を防止することができ、水素透過試験における測定精度の低下を、より一層防止することができる。
【0090】
なお、図4に示したように、陽極25を覆うように陽イオン交換樹脂層コーティング80を設けた場合であっても、図3に示したような、仕切り板のように設けられた陽イオン交換部材90を設けることが好ましい。これにより、陽極25におけるチオシアン酸塩の酸化分解反応を確実に抑制することが可能となる。
【0091】
以上、図3及び図4を参照しながら、本実施形態に係る電気化学的水素透過試験装置1Aについて、詳細に説明した。
【0092】
<電気化学的水素透過試験方法について>
本実施形態に係る電気化学的水素透過試験方法については、水素透過試験装置として、図3図4に示した水素透過試験装置1Aを用いる以外は、第1の実施形態に係る電気化学的水素透過試験方法と同様であるため、以下では詳細な説明は省略する。
【0093】
(第1の実施形態の変形例について)
以下では、図5を参照しながら、第1の実施形態に係る水素透過試験装置1の変形例について、簡単に説明する。図5は、本発明の第1の実施形態に係る電気化学的水素透過試験装置の他の構成の一例を模式的に示した説明図である。
【0094】
図5に模式的に示したように、第1の実施形態に係る水素透過試験装置1に対して、第2の実施形態で示したような陽イオン交換部材90を設けることも可能である。この場合、図5に示した水素透過試験装置1において、電解容器11は、陽イオン交換部材90によって、2つの領域に区分されることとなる。
【0095】
かかる場合には、第2の実施形態と同様に、電解容器11における金属材Sから陽イオン交換部材90までの領域には、第1の電解質溶液103Aが収容され、陽イオン交換部材90から陽極20までの領域には、第1の電解質溶液103Bが収容される。
【実施例0096】
以下では、実施例及び比較例を示しながら、本発明に係る電気化学的水素透過試験方法及び電気化学的水素透過試験装置について、具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明に係る電気化学的水素透過試験方法及び電気化学的水素透過試験装置の一例に過ぎず、本発明に係る電気化学的水素透過試験方法及び電気化学的水素透過試験装置が、下記の例に限定されるものではない。
【0097】
以下では、図1又は図3に示した電解槽10を有する電気学的水素透過試験装置を用いて、かかる試験装置及び試験方法について、検証を行った。
【0098】
本試験例で着目する金属材Sとして、板厚0.8mmのIF鋼の表面に、片面当たり5.0μmの電気亜鉛めっきが施された、実験室で試作した電気亜鉛めっき材を用いた。鋼板の表面に電気亜鉛めっきが施された電気亜鉛めっき材は、従来の水素透過試験装置では、水素透過性の評価に長時間を要する金属材であり、試験装置及び試験方法を評価するに際して、適切な金属材であると言える。また、かかる電気亜鉛めっき材について、適切な試験が実施可能であれば、他の金属材についても、適切に試験が可能であると考えられる。
【0099】
図1又は図3に示した電解槽10を準備し、電解容器13に収容される第2の電解質溶液107として、1.0mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液(室温)を準備した。
【0100】
一方、電解容器11に収容される第1の電解質溶液として、塩化ナトリウム水溶液を準備した上で、チオシアン酸アンモニウムの濃度及びpHを変えながら、検証を行った。なお、高pHとする電解質溶液のpHは、水酸化ナトリウム(NaOH)により調整した。低pHとする電解質溶液のpHは、塩酸(HCl)により調整した。また、陽極20、25として、以下の表1、表2に示した電極を用い、電流密度が10.0~1000.0μA/cm程度となるように制御した。
【0101】
一部の水準については、陽極として、IrO電極の表面に陽イオン交換樹脂層コーティング80が施されたもの(日新化成株式会社製アノデック100SE)を用いた。また、陽イオン交換部材90を用いた水準においては、陽イオン交換部材90として、株式会社アストム製CSEを用いた。
【0102】
なお、以下の表1は、図1に示した電解槽10を用いた水準であり、以下の表2は、図3に示した電解槽10を用いた水準である。なお、以下の表2に示した水準では、第1の電解質溶液103Aとして、以下の表2の「電解質溶液103A」の欄に示した電解質溶液を用い、第1の電解質溶液103Bとして、塩化ナトリウム水溶液を用いた。この際、第1の電解質溶液103Bにおけるチオシアン酸塩の濃度を、表2の「電解質溶液103B」の欄に示したように調整した。
【0103】
電解容器13に設けられる対極30として、Pt電極を用い、参照電極40として、水銀-酸化水銀(Hg|HgO)電極を用いた。
【0104】
水素侵入側の陽極20、25の電位は、電極面積を調整することで0.45~0.50Vの範囲内とし、24時間の通電を行うとともに、電解容器13では、金属材の電位を、ポテンショスタット(北斗電工株式会社製HA-151A)を用いて0VvsHg|HgOに保持して、金属材からの水素の引き抜きを行った。かかる水素の引き抜きに応じて発生する電流値を、電流計(北斗電工株式会社製HA-151A)により計測し、定常状態となった検出電流の大きさを評価した。
【0105】
また、24時間の通電の前後での、第1の電解質溶液におけるpHの変化を評価するために、24時間通電後の第1の電解質溶液のpHを、pHメータ(HORIBA製)により測定した。更に、24時間の通電の前後での、金属材の表面の溶解の有無を、目視により確認し、めっきの欠損による地鉄の露出や荒れを確認した場合を「溶解あり」と判定した。
【0106】
以下では、金属材の表面の溶解がなく、定常状態となった検出電流が10μA以上であり、かつ、通電前後でのpH変化が±0.3以内であったものを、評点「AA」を付与し、金属材の表面の溶解がなく、定常状態となった検出電流が10μA以上であり、かつ、通電前後でのpH変化が±0.5以内であったものを、評点「A」を付与した。評点「AA」又は評点「A」が付与されたものを、合格とした。また、金属材の表面の溶解が生じたもの、検出電流が10μA未満であったもの、又は、通電前後でのpH変化が±0.5超であったものは、不合格として、評点「B」を付与した。
【0107】
なお、検出電流に関して、電流値が10μA以上であれば、検出された電流値そのもの、又は、かかる電流値に基づき算出された各種の特性値に基づき、水素透過性の評価が可能であると考えられる。
【0108】
得られた結果を、以下の表1、表2にまとめて示した。
【0109】
【表1】
【0110】
【表2】
【0111】
上記表1、表2から明らかなように、本発明の実施例に対応する水準では、金属材の表面の溶解がなく、検出電流が10μA以上、かつ、pH変化が±0.5以内となり、水素透過試験の試験環境を好ましい状態に保持できた。一方で、本発明の比較例に対応する水準では、金属材の表面の溶解が生じたり、検出電流が10μA未満となったり、pH変化が±0.5超となったりして、水素透過試験の試験環境を好ましい状態に保持できなかった。
【0112】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0113】
今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではない。上記の実施形態は、添付の特許請求の範囲及びその主旨、並びに、後述するような構成及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。例えば、上記実施形態の構成要件は、その効果を損なわない範囲内で、任意に組み合わせることが可能である。また、当該任意の組み合せからは、組み合わせにかかるそれぞれの構成要件についての作用及び効果が当然に得られるとともに、本明細書の記載から当業者には明らかな他の作用及び他の効果が得られる。
【0114】
また、本明細書に記載された効果は、あくまで説明的又は例示的なものであって、限定的ではない。つまり、本発明に係る技術は、上記の効果とともに、又は、上記の効果に代えて、本明細書の記載から当業者には明らかな他の効果を奏しうる。
【0115】
なお、以下のような構成も、本発明の技術的範囲に属する。
(1)金属材の水素透過性を評価するための電気化学的水素透過試験方法であって、
第1の電解質溶液が収容された第1の電解容器と、第2の電解質溶液が収容された第2の電解容器とを有する電解槽を用い、前記第1の電解容器と前記第2の電解容器との間に、それぞれの前記電解質溶液に接触可能なように前記金属材を配置して、前記第1の電解容器の側で水素を発生させるものであり、
前記第1の電解質溶液は、チオシアン酸塩を5.0mmol/L以上の濃度で含有し、pHが3.0~13.0の範囲内であり、
前記第1の電解容器における陽極として、酸化イリジウム電極を用いる、電気化学的水素透過試験方法。
(2)前記第1の電解容器における前記陽極の表面に、陽イオン交換機能を有する陽イオン交換樹脂層コーティングを設ける、(1)に記載の電気化学的水素透過試験方法。
(3)金属材の水素透過性を評価するための電気化学的水素透過試験方法であって、
第1の電解質溶液が収容された第1の電解容器と、第2の電解質溶液が収容された第2の電解容器とを有する電解槽を用い、前記第1の電解容器と前記第2の電解容器との間に、それぞれの前記電解質溶液に接触可能なように前記金属材を配置して、前記第1の電解容器の側で水素を発生させるものであり、
前記第1の電解容器における陽極と前記金属材との間に、陽イオン交換機能を有する陽イオン交換部材を設け、
前記陽イオン交換部材と、前記金属材と、の間に収容される前記第1の電解質溶液は、チオシアン酸塩を5.0mmol/L以上の濃度で含有し、pHが3.0~13.0の範囲内であり、
前記陽極と、前記陽イオン交換部材と、の間に収容される電解質溶液における前記チオシアン酸塩の濃度が0.1mmol/L以下であるか、又は、
前記陽極と、前記陽イオン交換部材と、の間に収容される電解質溶液における前記チオシアン酸塩の濃度が0.1mmol/L超であり、かつ、前記陽極として、酸化イリジウム電極を用いる、電気化学的水素透過試験方法。
(4)前記陽極の電位を、銀-塩化銀電極に対して0.47V以下とする、(1)又は(3)請求項1に記載の電気化学的水素透過試験方法。
(5)前記第1の電解容器に収容される電解質溶液に加えられるチオシアン酸塩は、チオシアン酸アンモニウム、チオシアン酸ナトリウム、又は、チオシアン酸カリウムの少なくとも何れかである、(1)~(4)の何れか1つに記載の電気化学的水素透過試験方法。
(6)金属材の水素透過性を評価するための電気化学的水素透過試験装置であって、
第1の電解質溶液が収容された第1の電解容器と、第2の電解質溶液が収容された第2の電解容器とを有する電解槽を有し、
前記電解槽は、それぞれの前記電解質溶液が前記金属材の表面と接触するように、前記金属材を、前記第1の電解容器と前記第2の電解容器との間に配置可能であり、
前記第1の電解質溶液は、チオシアン酸塩を5.0mmol/L以上の濃度で含有し、pHが3.0~13.0の範囲内であり、
前記第1の電解容器における陽極は、酸化イリジウム電極である、電気化学的水素透過試験装置。
(7)前記第1の電解容器における前記陽極の表面に、陽イオン交換機能を有する陽イオン交換樹脂層コーティングを設ける、(6)に記載の電気化学的水素透過試験装置。
(8)金属材の水素透過性を評価するための電気化学的水素透過試験装置であって、
第1の電解質溶液が収容された第1の電解容器と、第2の電解質溶液が収容された第2の電解容器とを有する電解槽を有し、
前記電解槽は、それぞれの前記電解質溶液が前記金属材の表面と接触するように、前記金属材を、前記第1の電解容器と前記第2の電解容器との間に配置可能であり、
前記第1の電解容器における陽極と前記金属材との間に、陽イオン交換機能を有する陽イオン交換部材を設け、
前記陽イオン交換部材と、前記金属材と、の間に収容される前記第1の電解質溶液は、チオシアン酸塩を5.0mmol/L以上の濃度で含有し、pHが3.0~13.0の範囲内であり、
前記陽極と、前記陽イオン交換部材と、の間に収容される電解質溶液における前記チオシアン酸塩の濃度が0.1mmol/L以下であるか、又は、
前記陽極と、前記陽イオン交換部材と、の間に収容される電解質溶液における前記チオシアン酸塩の濃度が0.1mmol/L超であり、かつ、前記陽極が、酸化イリジウム電極である、電気化学的水素透過試験装置。
(9)前記第1の電解容器に収容される電解質溶液に加えられるチオシアン酸塩は、チオシアン酸アンモニウム、チオシアン酸ナトリウム、又は、チオシアン酸カリウムの少なくとも何れかである、(6)~(8)の何れか1つに記載の電気化学的水素透過試験装置。
【符号の説明】
【0116】
1、1A 電気化学的水素透過試験装置
10 電解槽
11 電解容器(第1の電解容器)
13 電解容器(第2の電解容器)
20、25 陽極
30 対極
40 参照電極
50 ガルバノスタット
60 ポテンショスタット
70 電流計
80 陽イオン交換樹脂層コーティング
90 陽イオン交換部材
101、105 開口部
103、103A 第1の電解質溶液
107 第2の電解質溶液
S 金属材
図1
図2
図3
図4
図5