(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065535
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】DGPS補正方式における擬似距離補正値の補正方法及びその装置
(51)【国際特許分類】
G01S 19/07 20100101AFI20240508BHJP
G01S 19/41 20100101ALI20240508BHJP
【FI】
G01S19/07
G01S19/41
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174458
(22)【出願日】2022-10-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年11月9日、https://branch.jsass.or.jp/ukaren65/で公開された一般社団法人日本航空宇宙学会主催の第65回宇宙科学技術連合講演会講演集、JSASS-2021-4273により発表
(71)【出願人】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100081042
【弁理士】
【氏名又は名称】功力 妙子
(72)【発明者】
【氏名】北村 光教
【テーマコード(参考)】
5J062
【Fターム(参考)】
5J062AA01
5J062CC07
5J062EE01
5J062EE04
(57)【要約】
【課題】 DGPS補正方式におけるユーザ局が基準局から離れるにつれて補正誤差が増大する問題の要因の内、対流圏遅延による誤差を個別に補正することにより、DGPS補正方式における擬似距離補正値の補正方法及びその装置を提供する。
【解決手段】 対流圏遅延モデルを用いて基準局及びユーザ局における対流圏遅延量をそれぞれ衛星毎に計算し、その差を衛星毎に求め、この差をDGPS補正情報である擬似距離補正値に加算することにより、擬似距離補正値を衛星毎に補正する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既知点に設置された基準局において、GNSS衛星からの測位信号を受信し、この測位信号に含まれる誤差を一括して補正するためのDGPS補正情報を作成し、この作成したDGPS補正情報をユーザ局へ配信し、ユーザ局において、GNSS衛星からの測位信号を受信して測位を行うとともに、DGPS補正情報に基づいて補正を行うDGPS補正方式において、
前記DGPS補正情報を用いずに、単独測位によりユーザ局の位置を求め、
設置された座標が既知である基準局について、対流圏遅延モデルを用いて前記設置された座標が既知である基準局における対流圏遅延量を衛星毎に計算し、
前記対流圏遅延モデルを用いて前記単独測位により求めたユーザ局の位置における対流圏遅延量を衛星毎に計算し、
前記単独測位により求めたユーザ局の位置における対流圏遅延量と前記設置された座標が既知である基準局における対流圏遅延量との差を衛星毎に求め、
前記単独測位により求めたユーザ局の位置における対流圏遅延量と前記設置された座標が既知である基準局における対流圏遅延量との差を前記DGPS補正情報である擬似距離補正値に加算することにより、前記擬似距離補正値を衛星毎に補正すること
を特徴とするDGPS補正方式における擬似距離補正値の補正方法。
【請求項2】
既知点に設置された基準局において、GNSS衛星からの測位信号を受信し、この測位信号に含まれる誤差を一括して補正するためのDGPS補正情報を作成し、この作成したDGPS補正情報をユーザ局へ配信し、ユーザ局において、GNSS衛星からの測位信号を受信して測位を行うとともに、DGPS補正情報に基づいて補正を行うDGPS補正方式において、
前記ユーザ局の位置が単独測位の精度以上の精度で既知である場合、設置された座標が既知である基準局について、対流圏遅延モデルを用いて前記設置された座標が既知である基準局における対流圏遅延量を衛星毎に計算し、
前記対流圏遅延モデルを用いて前記単独測位の精度以上の精度で既知であるユーザ局の位置における対流圏遅延量を衛星毎に計算し、
前記単独測位の精度以上の精度で既知であるユーザ局の位置における対流圏遅延量と前記設置された座標が既知である基準局における対流圏遅延量との差を衛星毎に求め、
前記単独測位の精度以上の精度で既知であるユーザ局の位置における対流圏遅延量と前記設置された座標が既知である基準局における対流圏遅延量との差を前記DGPS補正情報である擬似距離補正値に加算することにより、前記擬似距離補正値を衛星毎に補正すること
を特徴とするDGPS補正方式における擬似距離補正値の補正方法。
【請求項3】
前記対流圏遅延モデルは、MOPSモデルであること
を特徴とする請求項1~請求項2の何れかに記載のDGPS補正方式における擬似距離補正値の補正方法。
【請求項4】
前記対流圏遅延モデルは、Saastamoinen Standard Total Delay Modelであること
を特徴とする請求項1~請求項2の何れかに記載のDGPS補正方式における擬似距離補正値の補正方法。
【請求項5】
前記対流圏遅延モデルは、Hopfield Two Quartic Modelであること
を特徴とする請求項1~請求項2の何れかに記載のDGPS補正方式における擬似距離補正値の補正方法。
【請求項6】
前記対流圏遅延モデルは、Black and Eisner(B&E)Modelであること
を特徴とする請求項1~請求項2の何れかに記載のDGPS補正方式における擬似距離補正値の補正方法。
【請求項7】
前記対流圏遅延モデルは、Altshuler and Kalaghan(A&K)Modelであること
を特徴とする請求項1~請求項2の何れかに記載のDGPS補正方式における擬似距離補正値の補正方法。
【請求項8】
前記対流圏遅延モデルは、Davis,Chao,and Marini Mapping Functionであること
を特徴とする請求項1~請求項2の何れかに記載のDGPS補正方式における擬似距離補正値の補正方法。
【請求項9】
既知点に設置された基準局において、GNSS衛星からの測位信号を受信し、この測位信号に含まれる誤差を一括して補正するためのDGPS補正情報を作成し、この作成したDGPS補正情報をユーザ局へ配信し、ユーザ局において、GNSS衛星からの測位信号を受信して測位を行うとともに、DGPS補正情報に基づいて補正を行うDGPS補正方式において、
前記DGPS補正情報を用いずに、単独測位によりユーザ局の位置を求める機能と、
設置された座標が既知である基準局について、対流圏遅延モデルを用いて前記設置された座標が既知である基準局における対流圏遅延量を衛星毎に計算する機能と、
前記対流圏遅延モデルを用いて前記単独測位により求めたユーザ局の位置における対流圏遅延量を衛星毎に計算する機能と、
前記単独測位により求めたユーザ局の位置における対流圏遅延量と前記設置された座標が既知である基準局における対流圏遅延量との差を衛星毎に求める機能と、
前記単独測位により求めたユーザ局の位置における対流圏遅延量と前記設置された座標が既知である基準局における対流圏遅延量との差を前記DGPS補正情報である擬似距離補正値に加算することにより、前記擬似距離補正値を衛星毎に補正する機能とを有するユーザ局からなること
を特徴とするDGPS補正方式における擬似距離補正値の補正装置。
【請求項10】
既知点に設置された基準局において、GNSS衛星からの測位信号を受信し、この測位信号に含まれる誤差を一括して補正するためのDGPS補正情報を作成し、この作成したDGPS補正情報をユーザ局へ配信し、ユーザ局において、GNSS衛星からの測位信号を受信して測位を行うとともに、DGPS補正情報に基づいて補正を行うDGPS補正方式において、
前記ユーザ局の位置が単独測位の精度以上の精度で既知である場合、設置された座標が既知である基準局について、対流圏遅延モデルを用いて前記設置された座標が既知である基準局における対流圏遅延量を衛星毎に計算する機能と、
前記対流圏遅延モデルを用いて前記単独測位の精度以上の精度で既知であるユーザ局の位置における対流圏遅延量を衛星毎に計算する機能と、
前記単独測位の精度以上の精度で既知であるユーザ局の位置における対流圏遅延量と前記設置された座標が既知である基準局における対流圏遅延量との差を衛星毎に求める機能と、
前記単独測位の精度以上の精度で既知であるユーザ局の位置における対流圏遅延量と前記設置された座標が既知である基準局における対流圏遅延量との差を前記DGPS補正情報である擬似距離補正値に加算することにより、前記擬似距離補正値を衛星毎に補正する機能とを有するユーザ局からなること
を特徴とするDGPS補正方式における擬似距離補正値の補正装置。
【請求項11】
前記対流圏遅延モデルは、MOPSモデルであること
を特徴とする請求項9~請求項10の何れかに記載のDGPS補正方式における擬似距離補正値の補正装置。
【請求項12】
前記対流圏遅延モデルは、Saastamoinen Standard Total Delay Modelであること
を特徴とする請求項9~請求項10の何れかに記載のDGPS補正方式における擬似距離補正値の補正装置。
【請求項13】
前記対流圏遅延モデルは、Hopfield Two Quartic Modelであること
を特徴とする請求項9~請求項10の何れかに記載のDGPS補正方式における擬似距離補正値の補正装置。
【請求項14】
前記対流圏遅延モデルは、Black and Eisner(B&E)Modelであること
を特徴とする請求項9~請求項10の何れかに記載のDGPS補正方式における擬似距離補正値の補正装置。
【請求項15】
前記対流圏遅延モデルは、Altshuler and Kalaghan(A&K)Modelであること
を特徴とする請求項9~請求項10の何れかに記載のDGPS補正方式における擬似距離補正値の補正装置。
【請求項16】
前記対流圏遅延モデルは、Davis,Chao,and Marini Mapping Functionであること
を特徴とする請求項9~請求項10の何れかに記載のDGPS補正方式における擬似距離補正値の補正装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、DGPS補正方式における擬似距離補正値の補正方法及びその装置に関し、特にユーザ局と基準局とでそれぞれ衛星毎に対流圏遅延モデルにより対流圏遅延量を計算し、このユーザ局の対流圏遅延量と基準局の対流圏遅延量との差をDGPS補正情報である擬似距離補正値に加算することにより擬似距離補正値の修正を行うDGPS補正方式における擬似距離補正値の補正方法及びその装置である。
【背景技術】
【0002】
衛星測位システムは、GPS(Global Positioning System:全地球測位システム)を始めとするGNSS(Global Navigation Satellite System:全世界的航法衛星システム)衛星とユーザ局受信機との距離を擬似距離として計測することにより、ユーザ局の位置を測位するものである。
【0003】
この擬似距離は、GNSS衛星からの信号伝搬経路上の対流圏による遅延である対流圏遅延(以下、単に対流圏遅延と記す。)誤差や、信号伝播経路上の電離層による遅延である電離層遅延誤差、GNSS衛星の軌道誤差、GNSS衛星のクロックの誤差である時計誤差等の多くの誤差要因を持っている。
【0004】
これらの測位誤差を低減する方式として、ディファレンシャル補正方式(Differential Global Positioning System:以下、DGPSと記す。)がある。DGPSは、既知の地点に存在する基準局において擬似距離誤差を推定し、ユーザ局近傍においても基準局と同様の誤差傾向が見られるものとして、この推定した擬似距離誤差を擬似距離補正値PRC(Pseudo Range Correction)としてユーザ局へ伝送するシステムである。このユーザ局に伝送される擬似距離補正値PRCは、上述の対流圏遅延、電離層遅延、衛星軌道、衛星クロックといった誤差要因を特に区別せず、一括して補正するための補正情報(以下、DGPS補正情報と記す。)であり、ユーザ局は、この擬似距離補正値PRCを元にユーザ局における擬似距離観測値を補正する。
【0005】
このDGPS補正方式を用いた補正方法として、特許文献1に記載のDGPS補正方法がある。特許文献1に記載のDGPS補正方法は、
図12に示すように、移動局101においてGPS衛星103(103a、103b・・・103m)からの情報に基づいて算出した移動局101自身の位置を複数のDGPS基準局105(105a、105b・・・105n)からの補正データ(上記DGPS補正情報に相当)に基づき補正するDGPS補正方法であって、移動局101において複数のDGPS基準局105(105a、105b・・・105n)からの複数の補正データを移動局101と各DGPS基準局105(105a、105b・・・105n)との間の距離に応じて加重平均して、真の補正量を算出し、この算出した真の補正量に基づき移動局101においてGPS衛星103(103a、103b・・・103m)からの情報に基づき算出された移動局101自身の位置を補正する。
【0006】
このDGPS補正方式を用いたDGPSシステムの実例としては、海上保安庁が運用している中波ビーコンDGPSがある。このDGPSシステムは、主に航行船舶を対象とした既存の中波ビーコンにDGPS補正情報を重畳して放送している。なお、この放送データは、RTCM SC104フォーマットであり、ITU-R M.823-1として規格化されている。
【0007】
また、DGPS補正方式による補正は世界的に広く利用されており、このDGPS補正方式を基本概念として、このDGPS補正方式を補強するシステムとして、航空航法におけるGBAS(Ground Based Augmentation System:地上型衛星航法補強システム)や、SBAS(Satellite Based Augmentation System:衛星型衛星航法補強システム)、準天頂衛星システムにおいてもSLAS(Sub-meter Level Augmentation Service:サブメータ級測位補強サービス)として運用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
DGPS補正方式では、ユーザ局が基準局の周辺にある場合には、ユーザ局、基準局の両局における測位誤差が近似的にほぼ等しくなるため良好な補正が期待できる。しかしながら、DGPS補正方式は、測位の際、誤差要因別に補正する方法ではないため、ユーザ局が基準局から離れるにつれて、徐々に擬似距離誤差の量が基準局と乖離するために、補正誤差が増大するという問題があった。
【0010】
特に、SLASのような広いサービスエリア(基準局から300-500km程度)が想定されるDGPSでは、この問題が特に顕著となり、サービスエリア端で大きな補正誤差が生じることが問題となっている。
【0011】
ユーザ局が基準局から離れるにつれて補正誤差が増大する問題の主たる要因は、電離層遅延や対流圏遅延による誤差を除去しきれないことに起因するものである。特許文献1に記載の発明は、この課題を解決するために考案されたものの、特許文献1に記載の発明で利用される複数の基準局の間ではクロックの同期がされておらず、これらの同期されていないクロックによる誤差により、課題を解決するのは困難である。特許文献1に記載の発明で利用される複数の基準局のそれぞれの基準局において、観測している衛星の組み合わせは同一とは限らず、それぞれの基準局において観測している衛星の組み合わせが変わると異なる時計誤差を持ってしまうので、基準がずれてくる。したがって、基準局毎のクロックが同期していないと平均したところで全く異なる基準で平均されてしまうので、衛星の組み合わせが変わると異なる時計誤差を持ってしまい、うまく整合しないという問題がある。
【0012】
また、上記したように、ユーザ局が基準局から離れるにつれて補正誤差が増大する問題の主たる要因は、電離層遅延や対流圏遅延による誤差を除去しきれないことに起因するものであるが、特許文献1に記載の発明も電離層遅延と対流圏遅延とを区別せずに一括で補正しようとなされたものであり、電離層遅延や対流圏遅延を個別に補正することで測位精度を上げようとする改良は行われていない。
【0013】
この発明は、このような課題を踏まえた上で、DGPS補正方式におけるユーザ局が基準局から離れるにつれて補正誤差が増大する問題の要因の内、対流圏遅延による誤差を個別に補正することにより、DGPS補正方式における擬似距離補正値の補正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に係る発明は、既知点に設置された基準局において、GNSS衛星からの測位信号を受信し、この測位信号に含まれる誤差を一括して補正するためのDGPS補正情報を作成し、この作成したDGPS補正情報をユーザ局へ配信し、ユーザ局において、GNSS衛星からの測位信号を受信して測位を行うとともに、DGPS補正情報に基づいて補正を行うDGPS補正方式において、DGPS補正情報を用いずに、単独測位によりユーザ局の位置を求め、設置された座標が既知である基準局について、対流圏遅延モデルを用いて設置された座標が既知である基準局における対流圏遅延量を衛星毎に計算し、対流圏遅延モデルを用いて単独測位により求めたユーザ局の位置における対流圏遅延量を衛星毎に計算し、単独測位により求めたユーザ局の位置における対流圏遅延量と設置された座標が既知である基準局における対流圏遅延量との差を衛星毎に求め、単独測位により求めたユーザ局の位置における対流圏遅延量と設置された座標が既知である基準局における対流圏遅延量との差をDGPS補正情報である擬似距離補正値に加算することにより、擬似距離補正値を衛星毎に補正することを特徴とするDGPS補正方式における擬似距離補正値の補正方法である。
【0015】
請求項2に係る発明は、既知点に設置された基準局において、GNSS衛星からの測位信号を受信し、この測位信号に含まれる誤差を一括して補正するためのDGPS補正情報を作成し、この作成したDGPS補正情報をユーザ局へ配信し、ユーザ局において、GNSS衛星からの測位信号を受信して測位を行うとともに、DGPS補正情報に基づいて補正を行うDGPS補正方式において、ユーザ局の位置が単独測位の精度以上の精度で既知である場合、設置された座標が既知である基準局について、対流圏遅延モデルを用いて設置された座標が既知である基準局における対流圏遅延量を衛星毎に計算し、対流圏遅延モデルを用いて単独測位の精度以上の精度で既知であるユーザ局の位置における対流圏遅延量を衛星毎に計算し、単独測位の精度以上の精度で既知であるユーザ局の位置における対流圏遅延量と設置された座標が既知である基準局における対流圏遅延量との差を衛星毎に求め、単独測位の精度以上の精度で既知であるユーザ局の位置における対流圏遅延量と設置された座標が既知である基準局における対流圏遅延量との差をDGPS補正情報である擬似距離補正値に加算することにより、擬似距離補正値を衛星毎に補正することを特徴とするDGPS補正方式における擬似距離補正値の補正方法である。
【0016】
請求項3に係る発明は、請求項1~請求項2の何れかに係る発明において、対流圏遅延モデルは、MOPSモデルである。
【0017】
請求項4に係る発明は、請求項1~請求項2の何れかに係る発明において、対流圏遅延モデルは、Saastamoinen Standard Total Delay Modelである。
【0018】
請求項5に係る発明は、請求項1~請求項2の何れかに係る発明において、対流圏遅延モデルは、Hopfield Two Quartic Modelである。
【0019】
請求項6に係る発明は、請求項1~請求項2の何れかに係る発明において、対流圏遅延モデルは、Black and Eisner(B&E)Modelである。
【0020】
請求項7に係る発明は、請求項1~請求項2の何れかに係る発明において、対流圏遅延モデルは、Altshuler and Kalaghan(A&K)Modelである。
【0021】
請求項8に係る発明は、請求項1~請求項2の何れかに係る発明において、対流圏遅延モデルは、Davis,Chao,and Marini Mapping Functionである。
【0022】
請求項9に係る発明は、既知点に設置された基準局において、GNSS衛星からの測位信号を受信し、この測位信号に含まれる誤差を一括して補正するためのDGPS補正情報を作成し、この作成したDGPS補正情報をユーザ局へ配信し、ユーザ局において、GNSS衛星からの測位信号を受信して測位を行うとともに、DGPS補正情報に基づいて補正を行うDGPS補正方式において、DGPS補正情報を用いずに、単独測位によりユーザ局の位置を求める機能と、設置された座標が既知である基準局について、対流圏遅延モデルを用いて設置された座標が既知である基準局における対流圏遅延量を衛星毎に計算する機能と、対流圏遅延モデルを用いて単独測位により求めたユーザ局の位置における対流圏遅延量を衛星毎に計算する機能と、単独測位により求めたユーザ局の位置における対流圏遅延量と設置された座標が既知である基準局における対流圏遅延量との差を衛星毎に求める機能と、単独測位により求めたユーザ局の位置における対流圏遅延量と設置された座標が既知である基準局における対流圏遅延量との差をDGPS補正情報である擬似距離補正値に加算することにより、擬似距離補正値を衛星毎に補正する機能とを有するユーザ局からなることを特徴とするDGPS補正方式における擬似距離補正値の補正装置である。
【0023】
請求項10に係る発明は、既知点に設置された基準局において、GNSS衛星からの測位信号を受信し、この測位信号に含まれる誤差を一括して補正するためのDGPS補正情報を作成し、この作成したDGPS補正情報をユーザ局へ配信し、ユーザ局において、GNSS衛星からの測位信号を受信して測位を行うとともに、DGPS補正情報に基づいて補正を行うDGPS補正方式において、ユーザ局の位置が単独測位の精度以上の精度で既知である場合、設置された座標が既知である基準局について、対流圏遅延モデルを用いて設置された座標が既知である基準局における対流圏遅延量を衛星毎に計算する機能と、対流圏遅延モデルを用いて単独測位の精度以上の精度で既知であるユーザ局の位置における対流圏遅延量を衛星毎に計算する機能と、単独測位の精度以上の精度で既知であるユーザ局の位置における対流圏遅延量と設置された座標が既知である基準局における対流圏遅延量との差を衛星毎に求める機能と、単独測位の精度以上の精度で既知であるユーザ局の位置における対流圏遅延量と設置された座標が既知である基準局における対流圏遅延量との差をDGPS補正情報である擬似距離補正値に加算することにより、擬似距離補正値を衛星毎に補正する機能とを有するユーザ局からなることを特徴とするDGPS補正方式における擬似距離補正値の補正装置である。
【0024】
請求項11に係る発明は、請求項9~請求項10の何れかに係る発明において、対流圏遅延モデルは、MOPSモデルである。
【0025】
請求項12に係る発明は、請求項9~請求項10の何れかに係る発明において、対流圏遅延モデルは、Saastamoinen Standard Total Delay Modelである。
【0026】
請求項13に係る発明は、請求項9~請求項10の何れかに係る発明において、対流圏遅延モデルは、Hopfield Two Quartic Modelである。
【0027】
請求項14に係る発明は、請求項9~請求項10の何れかに係る発明において、対流圏遅延モデルは、Black and Eisner(B&E)Modelである。
【0028】
請求項15に係る発明は、請求項9~請求項10の何れかに係る発明において、対流圏遅延モデルは、Altshuler and Kalaghan(A&K)Modelである。
【0029】
請求項16に係る発明は、請求項9~請求項10の何れかに係る発明において、対流圏遅延モデルは、Davis,Chao,and Marini Mapping Functionである。
【発明の効果】
【0030】
請求項1~請求項2及び請求項9~請求項10に係る発明は、上記のように構成したので、DGPS補正方式におけるユーザ局が基準局から離れるにつれて補正誤差が増大する問題を解決することが出来る。さらに、ユーザ局の受信機のファームウェアを更新する程度で本発明を適用可能であるので、ユーザ局の軽微な修正だけで課題を解決することが実現可能であり、現行のDGPS補正方式のサービスを提供するプロバイダ側のDGPS規格の変更等の大規模な修正が不要なので、現行のDGPSサービスへの影響が軽微である。
【0031】
請求項3~請求項8及び請求項11~請求項16に係る発明は、上記のように構成したので、請求項1~請求項2及び請求項9~請求項10に係る発明と同様の効果がある。さらに、対流圏遅延モデルは様々な対流圏遅延モデルが利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】この発明の第1の実施例を示すもので、DGPS補正方式において従来想定されていた対流圏遅延を示す模式図である。
【
図2】この発明の第1の実施例を示すもので、DGPS補正方式において、基準局よりユーザ局の方がGNSS衛星に近い場合の実際の対流圏遅延を示す模式図である。
【
図3】この発明の第1の実施例を示すもので、DGPS補正方式において、ユーザ局より基準局の方がGNSS衛星に近い場合の実際の対流圏遅延を示す模式図である。
【
図4】この発明の第1の実施例を示すもので、DGPS補正方式において、複数のGNSS衛星の場合の実際の対流圏遅延を示す模式図である。
【
図5】この発明の第1の実施例を示すもので、対流圏遅延モデルで求めた対流圏遅延量と衛星仰角との関係を示すグラフである。
【
図6】この発明の第2の実施例を示すもので、この発明のDGPS補正方式における擬似距離補正値の補正装置を示す模式図である。
【
図7】この発明の第2の実施例を示すもので、この発明のDGPS補正方式における擬似距離補正値の補正装置において、測位の際の擬似距離補正値の修正の処理を示すフローチャートである。
【
図8】この発明の第3の実施例を示すもので、発明者等が2019年1月1日に行った実験の際の効果を示す図で、SLASを用いて測位した際の水平方向の95%精度分布を示す水平95%精度分布図である。(a)図はこの発明のDGPS補正方式における擬似距離補正値の補正方法の適用前の水平95%精度分布図、(b)図はこの発明のDGPS補正方式における擬似距離補正値の補正方法の適用後の水平95%精度分布図である。
【
図9】この発明の第3の実施例を示すもので、発明者等が2019年1月1日に行った実験の際の効果を示す図で、SLASを用いて測位した際の水平方向の95%精度と基準局からの距離との関係を示す図である。(b)図は基準局からの距離が600km以内の部分についての拡大図である。
【
図10】この発明の第3の実施例を示すもので、発明者等が2019年4月10日に行った実験の際の効果を示す図で、SLASを用いて測位した際の水平方向の95%精度分布を示す水平95%精度分布図である。(a)図はこの発明のDGPS補正方式における擬似距離補正値の補正方法の適用前の水平95%精度分布図、(b)図はこの発明のDGPS補正方式における擬似距離補正値の補正方法の適用後の水平95%精度分布図である。
【
図11】この発明の第3の実施例を示すもので、発明者等が2019年4月10日に行った実験の際の効果を示す図で、SLASを用いて測位した際の水平方向の95%精度と基準局からの距離との関係を示す図である。(b)図は基準局からの距離が600km以内の部分についての拡大図である。
【
図12】従来例を示すもので、DGPS補正方法を実施するシステムの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
既知点に設置された基準局において、GNSS衛星からの測位信号を受信し、この測位信号に含まれる誤差を一括して補正するためのDGPS補正情報を作成し、この作成したDGPS補正情報をユーザ局へ配信し、ユーザ局において、GNSS衛星からの測位信号を受信して測位を行うとともに、DGPS補正情報に基づいて補正を行うDGPS補正方式において、DGPS補正情報を用いずに、単独測位によりユーザ局の概略位置を求め、設置された座標が既知である基準局について、対流圏遅延モデルを用いて設置された座標が既知である基準局における対流圏遅延量を衛星毎に計算し、対流圏遅延モデルを用いてユーザ局における対流圏遅延量を衛星毎に計算し、ユーザ局における対流圏遅延量と設置された座標が既知である基準局における対流圏遅延量との差を衛星毎に求め、ユーザ局における対流圏遅延量と設置された座標が既知である基準局における対流圏遅延量との差をDGPS補正情報である擬似距離補正値に加算することにより、擬似距離補正値を衛星毎に補正することを特徴とするDGPS補正方式における擬似距離補正値を補正する方法である。
対流圏遅延モデルは、少なくとも、MOPSモデル、Saastamoinen Standard Total Delay Model、Hopfield Two Quartic Model、Black and Eisner(B&E)Model、Altshuler and Kalaghan(A&K)Model、または、Davis,Chao,and Marini Mapping Functionの何れかである。
【実施例0034】
この発明の第1の実施例を、
図1~
図5に基づいて詳細に説明する。
図1~
図5は、この発明の第1の実施例を示すもので、
図1はDGPS補正方式において従来想定されていた対流圏遅延を示す模式図である。
図2~
図4はDGPS補正方式において、実際の対流圏遅延を示す模式図で、
図2は基準局よりユーザ局の方がGNSS衛星に近い場合、
図3はユーザ局より基準局の方がGNSS衛星に近い場合、
図4は複数のGNSS衛星の場合の実際の対流圏遅延を示す模式図である。
図5は、対流圏遅延モデルで求めた対流圏遅延量と衛星仰角との関係を示すグラフである。
【0035】
この発明の第1の実施例は、この発明の第1の実施例のDGPS補正方式における擬似距離補正値の補正方法の原理を説明する実施例である。
【0036】
図1~
図4において、詳しくは後述の実施例2にて説明するが、GNSS衛星2(2a、2b・・・)は、GPSをはじめとするGNSSで用いられる航法衛星であり、基準局3(3a、3b・・・)は、GNSS衛星2(2a、2b・・・)からの衛星信号による測位精度を向上させる目的で、位置が既知である複数個所の既知点にそれぞれ設置されている。これらの基準局3(3a、3b・・・)において受信したGNSS衛星2(2a、2b・・・)からの衛星信号によりDGPS補正情報が作成されている。ユーザ局14は、GNSS衛星2(2a、2b・・・)からの衛星信号及び配信されるDGPS補正情報を受信処理可能な受信機を有した移動体であり、ユーザ局14の受信機は、ユーザ局14の測位の際にDGPS補正情報を用いて補正を行う機能も有している。
【0037】
また、
図1~
図2、
図4において、EL
baseは基準局3(3a、3b・・・)におけるGNSS衛星2aの仰角であり、EL
userはユーザ局14におけるGNSS衛星2aの仰角、Trop
baseは基準局3(3a、3b・・・)とGNSS衛星2aとの間の信号経路上の対流圏に起因する対流圏遅延量を示したものであり、Trop
userはユーザ局14とGNSS衛星2aとの間の信号経路上の対流圏に起因する対流圏遅延量を示したものである。同様に、
図3~
図4において、EL’
baseは基準局3(3a、3b・・・)におけるGNSS衛星2bの仰角であり、EL’
userはユーザ局14におけるGNSS衛星2bの仰角、Trop’
baseは基準局3(3a、3b・・・)とGNSS衛星2bとの間の信号経路上の対流圏に起因する対流圏遅延量を示したものであり、Trop’
userはユーザ局14とGNSS衛星2bとの間の信号経路上の対流圏に起因する対流圏遅延量を示したものである。また、
図2~
図4において、矢印aは擬似距離補正値PRCに含まれるユーザ局14における対流圏遅延量と基準局3(3a、3b・・・)における対流圏遅延量との差によって生じるGNSS衛星2aの対流圏遅延による誤差を示したものであり、矢印bは同様にGNSS衛星2bの対流圏遅延による誤差を示したもの、矢印cは複数のGNSS衛星2(2a、2b・・・)、この実施例1の場合はGNSS衛星2a及びGNSS衛星2bの対流圏遅延による誤差を最小二乗法によって合成したものである。
【0038】
まず、上記したように、従来、DGPSは、既知の地点に存在する基準局において擬似距離誤差を推定し、ユーザ局14近傍においても基準局3(3a、3b・・・)と同様の誤差傾向が見られるものと想定されていたシステムである。そのため、
図1に示すように、基準局3(3a、3b・・・)におけるGNSS衛星2aの仰角EL
baseは、ユーザ局14におけるGNSS衛星2aの仰角EL
userと同じ値として扱われるとともに、基準局3(3a、3b・・・)とGNSS衛星2aとの間の信号経路上の対流圏に起因する対流圏遅延量Trop
baseは、ユーザ局14とGNSS衛星2aとの間の信号経路上の対流圏に起因する対流圏遅延量Trop
userと同じ値として扱われ、測位の際に処理されている。
【0039】
しかしながら、
図2~
図3に示すように、従来の想定とは異なり、実際の対流圏遅延は基準局3(3a、3b・・・)とユーザ局14とでは差が生じている。この差が擬似距離補正値PRCに含まれている対流圏遅延による誤差である。
【0040】
例えば、
図2に示すように、基準局3(3a、3b・・・)よりユーザ局14の方がGNSS衛星2aに近い場合、基準局3(3a、3b・・・)におけるGNSS衛星2aの仰角EL
baseと、ユーザ局14におけるGNSS衛星2aの仰角EL
userとの関係は、EL
base<EL
userとなる。対流圏遅延量とGNSS衛星2(2a、2b・・・)の衛星仰角との関係は
図5に示す通りであるので、基準局3(3a、3b・・・)における対流圏遅延量Trop
baseと、ユーザ局14における対流圏遅延量Trop
userとの関係は、Trop
base>Trop
userとなる。したがって、ユーザ局14が測位する際には、
図2において矢印aで示すように、ユーザ局14では対流圏遅延量について過剰な補正となり、この対流圏遅延量の差、即ち、Trop
user-Trop
baseの差の分だけユーザ局14はGNSS衛星2aの方向に引っ張られる誤差となる。
【0041】
反対に、
図3に示すように、ユーザ局14より基準局3(3a、3b・・・)の方がGNSS衛星2bに近い場合、基準局3(3a、3b・・・)におけるGNSS衛星2bの仰角EL’
baseと、ユーザ局14におけるGNSS衛星2bの仰角EL’
userとの関係は、EL’
base>EL’
userとなり、基準局3(3a、3b・・・)における対流圏遅延量Trop’
baseと、ユーザ局14における対流圏遅延量Trop’
userとの関係は、Trop’
base<Trop’
userとなる。したがって、ユーザ局14が測位する際には、
図3において矢印bで示すように、ユーザ局14では対流圏遅延量についての補正が不足となり、この対流圏遅延量の差、即ち、Trop’
user-Trop’
baseの差の分だけユーザ局14はGNSS衛星2bの方向からは押し下げられる誤差となる。
【0042】
擬似距離補正値PRCに含まれるユーザ局14における対流圏遅延量と基準局3(3a、3b・・・)における対流圏遅延量との差によって生じるこれらのGNSS衛星2(2a、2b・・・)の対流圏遅延による誤差は、全体として最小二乗法を介して測位誤差に反映されるため、
図4において矢印cで示すように、水平方向にバイアス的な誤差が生じることとなる。この発明のDGPS補正方式における擬似距離補正値の補正方法は、対流圏遅延モデルを用いて、
図4において矢印aや矢印bで示されているユーザ局14における対流圏遅延量と基準局3(3a、3b・・・)における対流圏遅延量との差を衛星毎に求めて、この差をそれぞれ擬似距離補正値PRCに衛星毎に加算することで擬似距離補正値PRCを補正し、
図4において矢印cで示すようなバイアス的な誤差を低減する。
この発明の第2の実施例は、この発明の第1の実施例のDGPS補正方式における擬似距離補正値の補正方法の原理を用いて、実際にDGPS補正方式における擬似距離補正値を補正する装置について説明する実施例である。
なお、第1の実施例と同じ部分については、同一名称、同一番号を用い、その説明を省略する。
GNSS衛星2(2a、2b・・・)は、GPSをはじめとするGNSSで用いられる航法衛星である。GNSS衛星2(2a、2b・・・)は、この実施例では3つの周波数(L1:1.57542GHz/L2:1.22760GHz/L5:1.117645GHz)で運用されているGPS衛星であり、それぞれのGPS衛星は自身の軌道情報を含めて測位に必要な信号を送信している。このGNSS衛星2(2a、2b・・・)から送信される信号が、衛星信号である。なお、GNSS衛星2(2a、2b・・・)は、L1帯、L2帯及びL5帯の3つの周波数帯の信号を送信しているアメリカのGPS衛星以外にも、L1帯、L2帯のみを送信し、L5帯の信号を送信していないGPS衛星や、ロシアのGLONASS衛星、日本の準天頂衛星、欧州のGalileo、中国の北斗、インドのGAGANなど、航法に利用可能な信号を送信している衛星が利用可能である。また、GNSS衛星2(2a、2b・・・)から送信される衛星信号だけでなく、位置が既知で発信位置が与えられている地上基準局等の地上の送信局から送信される電波信号も併せて利用可能である。
基準局3(3a、3b・・・)は、GNSS衛星2(2a、2b・・・)からの衛星信号による測位精度を向上させる目的で、位置が既知である複数個所の既知点にそれぞれ設置されている。これらの基準局3(3a、3b・・・)において受信したGNSS衛星2(2a、2b・・・)からの衛星信号によりDGPS補正情報が作成される。このDGPS補正情報は、上記したように、上述の対流圏遅延、電離層遅延、衛星軌道、衛星クロックといった誤差要因を特に区別せず、一括して補正するための補正情報である。DGPS補正情報は、DGPS地上配信局5(5a、5b・・・)やDGPS配信衛星6(6a、6b・・・)を介して、インターネット回線を含む有線や無線、オフライン(CD-R等の外部記憶媒体)により送信及びまたは配信(以下、単に送信と記す。)される。
受信機8は、アンテナ7で受信した衛星信号のRF信号を受信処理可能な受信機であり、この受信信号、即ち、受信した衛星信号の受信データの信号処理及び解析を行い、ユーザ局4の測位を行う機能を有しているとともに、DGPS地上配信局5(5a、5b・・・)やDGPS配信衛星6(6a、6b・・・)を介して送信されるDGPS補正情報を受信可能であり、このDGPS補正情報に含まれている対流圏遅延による誤差の補正を行う機能を有している。
また、DGPS地上配信局5(5a、5b・・・)やDGPS配信衛星6(6a、6b・・・)を介して配信されるDGPS補正情報も、ユーザ局4のアンテナ7で受信し、このアンテナ7で受信したDGPS補正情報の受信データは受信機8に入力される。このDGPS補正情報の受信データは、DGPS信号処理部で信号処理が行われ(ステップ51)、DGPS補正情報に含まれる各基準局3(3a、3b・・・)の座標や、それぞれの基準局3(3a、3b・・・)における衛星毎の擬似距離補正値PRCが取得される(ステップ52)。
この擬似距離補正値PRCは、この発明のDGPS補正方式における対流圏遅延の補正方法により、擬似距離補正値PRCの補正がなされ(ステップ53)、この補正された擬似距離補正値PRCにより、平滑化された擬似距離ρの修正が行われる(ステップ34)。この平滑化及び修正された擬似距離ρと、衛星軌道情報とを用いてユーザ局4の測位が行われ(ステップ35)、その測位解であるユーザ局4のアンテナ7の座標は表示部に表示される(ステップ36)。
DGPS補正方式では、上記したように、既知の地点に存在する基準局において擬似距離誤差を推定し、この推定した擬似距離誤差を擬似距離補正値PRCとしてユーザ局へ伝送している。そこで、まず、基準局3(3a、3b・・・)の座標が既知であるか否かがチェックされ(ステップ71)、既知の地点に存在する基準局3(3a、3b・・・)における衛星毎の擬似距離補正値PRCのみ修正される。また、擬似距離補正値PRCの修正の前に、ユーザ局4の位置、即ち、ユーザ局4のアンテナ7の座標が少なくとも単独測位級の精度で既知であるか否かががチェックされ(ステップ72)、既知でない場合は、単独測位が行われ(ステップ73)、単独測位級の精度のユーザ局4の位置が求められる。
次に、ステップ32において擬似距離ρや搬送波位相φの観測値が得られたGNSS衛星2(2a、2b・・・)について、有効な擬似距離補正値PRCが取得されているか否かのチェックが行われ(ステップ74)、有効な擬似距離補正値PRCが取得されていない場合、このGNSS衛星2(2a、2b・・・)は排除される(ステップ75)。有効な擬似距離補正値PRCが取得されている場合は、まず、対流圏遅延モデルを用いて基準局3(3a、3b・・・)における対流圏遅延量Tropbaseが計算して求められる(ステップ76)。次に、ステップ76で用いた対流圏遅延モデルと同じ対流圏遅延モデルを用いて、ステップ72においてチェックされた少なくとも単独測位級の精度で既知であるユーザ局4の位置、または、ステップ73において単独測位により求められた単独測位級の精度のユーザ局4の位置(以下、単に単独測位級の精度のユーザ局4の位置と記す。)における対流圏遅延量Tropuserも同様に計算して求められる(ステップ77)。この単独測位級の精度のユーザ局4の位置における対流圏遅延量Tropuserと基準局3(3a、3b・・・)における対流圏遅延量Tropbaseとの差を求め、この差を擬似距離補正値PRCに加算することにより擬似距離補正値PRCが補正される(ステップ78)。
このステップ74~ステップ78の一連の手順を、ステップ32において擬似距離ρや搬送波位相φの観測値が得られたGNSS衛星2(2a、2b・・・)について、衛星毎に行われる(ステップ79)。また、この擬似距離補正値PRCの補正がなされる際の補正の処理については、他の基準局3(3a、3b・・・)についても同様に行われる。
なお、この擬似距離補正値PRCの補正がなされる際の処理に使用する対流圏遅延モデルは、この実施例では、MOPSモデル(Minimum Operational Performance Standards for Global Positioning System)を使用しているが、これに限定されるものではない。他の対流圏遅延モデル、例えば、Saastamoinen Standard Total Delay Model、Hopfield Two Quartic Model、Black and Eisner(B&E)Model、Altshuler and Kalaghan(A&K)Model、Davis,Chao,and Marini Mapping Function等、どのような対流圏遅延モデルでも利用可能である。