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  • 特開-被膜構造及び被膜のコーティング方法 図1
  • 特開-被膜構造及び被膜のコーティング方法 図2
  • 特開-被膜構造及び被膜のコーティング方法 図3
  • 特開-被膜構造及び被膜のコーティング方法 図4
  • 特開-被膜構造及び被膜のコーティング方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006555
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】被膜構造及び被膜のコーティング方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/16 20060101AFI20240110BHJP
   C09D 1/00 20060101ALI20240110BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20240110BHJP
【FI】
C09D183/16
C09D1/00
C09D7/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022107567
(22)【出願日】2022-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】516218384
【氏名又は名称】ハドラスホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108442
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義孝
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】山本 英明
(72)【発明者】
【氏名】池田 正範
(72)【発明者】
【氏名】小田原 玄樹
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038DL171
4J038JA25
4J038KA06
4J038NA01
4J038NA03
4J038NA07
4J038PA18
4J038PC02
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】基材本来の外観・質感を変えることなく耐候性を向上させることができる被膜構造及び被膜のコーティング方法を提供する。
【解決手段】被覆対象となる基材1の表面2に、SiOを主成分とする平均厚さ2~50nmの薄膜のコーティング膜100が、基材1の表面形状に沿って被膜されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆対象となる基材の表面に、SiOを主成分とする平均厚さ2~50nmの薄膜のコーティング膜が、前記基材の表面形状に沿って被膜されていることを特徴とする被膜構造。
【請求項2】
前記コーティング膜の平均厚さは、前記基材の表面における算術平均粗さRaよりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の被膜構造。
【請求項3】
被覆対象となる基材の表面に対して無機ポリシラザンを主成分とするコーティング剤を直接塗布し、該コーティング剤の余剰分を拭き取ることで被覆する工程と、
前記コーティング剤の溶媒を揮発させ平均厚さ2~50nmの薄膜のコーティング膜を生成する工程と、を有することを特徴とする被膜のコーティング方法。
【請求項4】
前記コーティング剤は、95~99.9wt%の割合で揮発性溶媒を含むことを特徴とする請求項3に記載の被膜のコーティング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐候性を向上させるための被膜構造及び被膜のコーティング方法に関する。
【0002】
従来、例えば金属や樹脂等から構成される基材の表面にコーティング剤を塗布又は散布してコーティング膜を被膜することにより、屋外使用による錆の発生、変形、変色、劣化等の変質の発生を抑制し、耐候性を向上させることが行われている。
【0003】
耐候性を向上させるために基材の表面に塗布されるコーティング剤としては、樹脂を主成分とする樹脂コーティング剤(特許文献1参照)と、SiOを主成分とするガラスコーティング剤(特許文献2参照)が知られている。
【0004】
特許文献1の樹脂コーティング剤は、ポリウレタン樹脂を用いてシリコーンゴム成形表面に対する付着性を向上させた厚さ1~100μmの樹脂コーティング膜を生成することにより、耐候性や柔軟性等を向上させることができる。特許文献2のガラスコーティング剤は、触媒としてホウ素イオン及びハロゲンイオンと、アルコールに溶融した加水分解可能な有機金属化合物とを含み、金属基材の表面に塗布して200℃以下で乾燥させることができる厚さ5~20μmのガラスコーティング膜を生成することにより、耐候性や防汚性等を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-182904号公報(第7頁~第11頁)
【特許文献2】特開2012-180544号公報(第3頁~第4頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1,2において生成されるコーティング膜は、基材の表面に優れた耐候性を付与できるものの、特許文献1のような樹脂コーティング膜が被膜された基材の表面は、樹脂コーティング膜の表面が有する外観・質感となってしまい、基材表面の本来の外観・質感が失われてしまうという問題がある。また、特許文献2のようなガラスコーティング膜が被膜された基材の表面は、ガラスコーティング膜が無色透明であることから基材表面の本来の外観は保たれるものの、ガラスコーティング膜を透過する光の屈折による影響で反射特性が変化してしまい、基材表面の本来の質感が失われてしまうという問題がある。
【0007】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、基材本来の外観・質感を変えることなく耐候性を向上させることができる被膜構造及び被膜のコーティング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明の被膜構造は、
被覆対象となる基材の表面に、SiOを主成分とする平均厚さ2~50nmの薄膜のコーティング膜が、前記基材の表面形状に沿って被膜されていることを特徴としている。
この特徴によれば、極めて薄膜のガラスコーティング膜が基材本来の表面の凹凸形状に沿う被膜構造を生成することにより、ガラスコーティング膜を透過する光の屈折による影響が極めて小さくなり、基材本来の表面の凹凸形状に基づく反射特性から略変化しないため、基材本来の外観・質感を変えることなく、基材の表面にガラスコーティング膜による耐候性を付与することができる。被覆対象となる基材の表面とは、基材の表面全体に限られず、基材の表面の一部であってもよい。
【0009】
前記コーティング膜の平均厚さは、前記基材の表面における算術平均粗さRaよりも小さいことを特徴としている。
この特徴によれば、薄膜のガラスコーティング膜が基材本来の表面の凹凸形状に沿う被膜構造を生成しやすい。
【0010】
本発明の被膜のコーティング方法は、
被覆対象となる基材の表面に対して無機ポリシラザンを主成分とするコーティング剤を直接塗布し、該コーティング剤の余剰分を拭き取ることで被覆する工程と、
前記コーティング剤の溶媒を揮発させ平均厚さ2~50nmの薄膜のコーティング膜を生成する工程と、を有することを特徴としている。
この特徴によれば、コーティング剤を直接塗布し、拭き取ることによって基材の表面の凹凸形状に入り込んだ余分なコーティング剤を除去し、極めて薄膜のガラスコーティング膜が基材本来の表面の凹凸形状に沿う被膜構造を生成することにより、ガラスコーティング膜を透過する光の屈折による影響が極めて小さくなり、基材本来の表面の凹凸形状に基づく反射特性から略変化しないため、基材本来の外観・質感を変えることなく、基材の表面にガラスコーティング膜による耐候性を付与することができる。被覆対象となる基材の表面とは、基材の表面全体に限られず、基材の表面の一部であってもよい。
【0011】
前記コーティング剤は、95~99.9wt%の割合で揮発性溶媒を含むことを特徴としている。
この特徴によれば、溶媒の揮発後に生成されるガラスコーティング膜を極めて薄く形成し、基材本来の表面の凹凸形状に沿う被膜構造を生成しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(a)~(c)は、実施例における被膜のコーティング方法を示す断面図である。なお、(c)は、実施例における被膜構造を示す断面図である。
図2】(a)は、実施例における被膜構造を生成する前の基材表面における反射特性のイメージを示す図であり、(b)は、実施例における被膜構造を生成した後の基材表面における反射特性のイメージを示す図である。
図3】従来の厚膜のガラスコーティング膜が被膜された場合の基材表面における反射特性のイメージを示す図である。
図4】鏡面仕上げされた基材表面に対して実施例における被膜構造を生成した状態を示す図である。
図5】実施例における被膜構造の撥水性及び撥油性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る被膜構造及び被膜のコーティング方法を実施するための形態を図1図5を参照して以下に説明する。
【実施例0014】
(コーティング剤)
コーティング剤は、無機ポリシラザンを主成分としており、本実施例においては、少なくとも無機ポリシラザンが揮発性溶媒としての不活性溶剤によって希釈されている。
【0015】
詳しくは、コーティング剤は、無機ポリシラザンを0.1~5wt%、不活性溶剤を95~99.9wt%の割合で含有している。なお、コーティング剤は、無機ポリシラザンと不活性溶剤以外の添加物であって、例えば撥水性・撥油性をより向上させ、延いては耐候性を更に向上させる効能を有する添加物を0.1~4.9wt%の割合で含有していてもよい。
【0016】
より詳しくは、無機ポリシラザンは、ペルヒドロポリシラザン、すなわちSi-H結合とSi-N結合とN-H結合を有し、例えば下記一般式(1)で表される-(SiH-NH)-ユニットから構成される鎖状構造の無機のポリマーである。
【0017】
【化1】
【0018】
なお、無機ポリシラザンは、鎖状構造のものに限らず、環状構造を有するポリマーであってもよく、これらの構造を複合的に有するポリマーであってもよい。
【0019】
不活性溶剤は、無機ポリシラザンに対して不活性かつ揮発性を有する溶剤であり、好適にはジブチルエーテル、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、テレピン油、ベンゼン、トルエン等の中から選択される。なお、不活性溶剤は、コーティング剤の塗布前における無機ポリシラザンと水分(HO)との反応を防止するために、脱水処理されていることが好ましい。
【0020】
なお、コーティング剤における「主成分」とは、コーティング剤により形成されるガラスコーティング膜において、SiOを主成分とする無機構造を構成するための主成分であり、本実施例のコーティング剤においては、例えば上記した無機ポリシラザン(ペルヒドロポリシラザン)が相当する。
【0021】
また、コーティング剤により形成されるガラスコーティング膜は、シロキサン結合(Si-O―Si)による主鎖の一部に有機官能基が側鎖として結びついた無機有機複合構造を構成していてもよい。
【0022】
(被覆対象となる基材)
本実施例においては、被覆対象となる基材として屋外環境での使用が想定される金属材に対して、本発明に係る被膜構造を生成する場合を例に挙げて説明する。また、本発明の被膜構造を生成する被覆対象となる基材の表面とは、基材の表面全体に限られず、表面の一部であってもよい。なお、被覆対象となる基材としては、上記に限らず、例えば樹脂材や木材、ゴム材、皮革等の素材から構成される各種の物品が適用可能であり、屋内環境での使用が想定される物品に適用されてもよい。
【0023】
また、基材の表面における算術平均粗さRaは、0.012μm以上であることが好ましい。また、基材の表面における十点平均粗さRzは、0.05μm以上であることが好ましい。
【0024】
(被膜のコーティング手順)
まず、図1(a)に示されるように、コーティング剤10を被覆対象となる基材1の表面2に直接塗布又は散布する。これにより、コーティング剤10に含まれる無機ポリシラザンが、基材1の表面2に付着している水分又は表面2に終端として存在しているヒドロキシル基-OHと化学反応して、単層又は複数層のガラスコーティング膜100の形成が基材1の表面2において開始される(図1(b)参照)。
【0025】
次に、図1(b)に示されるように、基材1の表面2に塗布されたコーティング剤10の余剰分(上塗り分)をファイバークロス30等の拭き取り布によって拭き取る。これにより、基材1の表面2の凹凸形状に入り込んだ余分なコーティング剤10をファイバークロス30等で吸い取ることより除去し、基材1の表面2において形成が開始されたガラスコーティング膜100の表面102上の全面にコーティング剤10による液膜が残る。当該液膜を形成するコーティング剤10に含まれる無機ポリシラザンが、基材1の表面2に付着している水分又は液膜の表面に接する空気中の水分と化学反応して、ガラスコーティング膜100の形成が進行する。
【0026】
コーティング剤10に含まれる不活性溶媒は、常温で揮発することにより消失し、基材1の表面2には、上記化学反応により形成された極めて薄膜のガラスコーティング膜100が基材1本来の表面2の凹凸形状に沿った形で残る(図1(c)参照)。
【0027】
なお、ガラスコーティング膜100の形成よりも前に、前工程として、基材1の表面2に精製水等の水(HO)を不織布若しくは霧吹き等で積極的に付着させてもよいし、あるいは別の前工程として、基材1を所定時間単純に留置することで、その表面2に結露等による自然由来の水分を付着させてもよい。このようにすることで、基材1の表面2に付着させた水分とコーティング剤10に含まれる無機ポリシラザンとの化学反応を促進させ、基材1の表面2に迅速かつ強固にガラスコーティング膜100を形成することができる。
【0028】
(被膜構造)
本発明の被膜構造を構成するガラスコーティング膜100の平均厚さは、基材1の表面2における十点平均粗さRzよりも小さいことが好ましく、さらに基材1の表面2における算術平均粗さRaよりも小さいことがより好ましい。具体的には、ガラスコーティング膜100の平均厚さは約2~50nmであることが好ましい。これにより、ガラスコーティング膜100が基材1の表面2の凹凸形状を埋めることなく、基材1本来の表面2の凹凸形状に沿う被膜構造を生成することができる。
【0029】
なお、平均厚さ(平均膜厚)とは、JIS K 5600-1-7:2014において、試験領域の中の個々の乾燥膜の厚さ測定値の算術平均又は厚さの重量測定の結果の算術平均として定義されており、質量法、光学的方法、磁気法、放射線法及び音響法のいずれかの方法によって測定された値により得られる。
【0030】
図3に示されるように、従来の膜厚が大きいガラスコーティング膜200が基材1の表面2の凹凸形状を埋めるように形成される場合、平滑なガラスコーティング膜200の表面202に入射する光の一部が空気との境界部分においてフレネル反射を起こすとともに、ガラスコーティング膜200を透過する光の屈折による影響が大きくなることにより、基材1本来の表面2の凹凸形状に基づく反射特性(図2(a)参照)が大きく変化し、基材1の質感が変わってしまう。これに対し、図2(b)に示されるように、本発明の被膜構造は、平均厚さ約2~50nmのガラスコーティング膜100が基材1の表面2の凹凸形状に沿うように形成されることにより、ガラスコーティング膜100を透過する光の屈折による影響が極めて小さくなり、基材1本来の表面2の凹凸形状に基づく反射特性から略変化しないため、基材1本来の質感を変えることがない。
【0031】
詳しくは、図1図3に示される基材1のように、表面粗さが大きく艶消しの質感(マットな質感)を有する表面2にガラスコーティング膜100が形成された被膜構造においては、光沢が出ることなく艶消しの質感を保つことができる。また、図4に示される基材11のように、例えば鏡面仕上げが施されることで表面粗さが小さく光沢のある質感を有する表面12にガラスコーティング膜100が形成された被膜構造においては、光沢度を略変化させることなく光沢のある質感を保つことができる。
【0032】
また、本発明の被膜構造は、平均厚さ約2~50nmの極めて薄膜のガラスコーティング膜100が基材1の表面2の凹凸形状に沿うように形成されることにより、基材1,11の表面2,12を全方向からどの角度で観察した場合であっても、また基材1,11の表面2,12を触れた場合であっても、基材1,11本来の色合いや質感を変えることがない。
【0033】
また、ガラスコーティング膜100は、SiOを主成分とする平均厚さ約2~50nmの極めて薄膜であることにより、無色透明であるため、基材1,11本来の外観を変えることもない。
【0034】
なお、被膜構造を構成するガラスコーティング膜の平均厚さは、基材の表面における十点平均粗さRzよりも小さく、さらに基材の表面における算術平均粗さRaよりも小さいだけでは不十分であり、基材の質感が変わってしまうことが実験により確認されている。具体的には、算術平均粗さRaが0.1μm(100nm)となるように鏡面仕上げが施された金属材の表面に対して、平均厚さ30nm、40nm、50nm、60nm、70nmのガラスコーティング膜をそれぞれ形成した被膜構造を作製した結果、平均厚さ30nm、40nm、50nmのガラスコーティング膜をそれぞれ形成した被膜構造においては、基材本来の質感を変えることがなかったが、平均厚さ60nm、70nmのガラスコーティング膜をそれぞれ形成した被膜構造においては、基材の質感が変わってしまうことが確認された。これは、ガラスコーティング膜の平均厚さが基材の表面における算術平均粗さRaよりも小さくても、平均厚さが50nmよりも大きくなると、基材表面における反射特性に影響を与え始め、光沢度に変化が生じたためであると推測される。
【0035】
(耐候性の評価試験)
アクリルウレタン樹脂により形成される基材の表面に対して、無機ポリシラザンを主成分とするコーティング剤を被覆することにより、平均厚さ10nmのガラスコーティング膜を形成した被膜構造の試料を作製し、40℃の温水に所定時間浸漬した後、ガラスコーティング膜の表面における液滴(水)の接触角に基づく撥水性、及び液滴の転落角に基づく転落性の変化を調べるとともに、気温50℃かつ湿度95%の環境に所定時間静置した後、ガラスコーティング膜の表面における液滴(水)の接触角に基づく撥水性、及び液滴の転落角に基づく転落性の変化を調べることにより、被膜構造の耐候性の評価を行った。なお、比較例として、同じ基材の表面にシリコンポリマーと撥水剤を含むコーティング剤を被覆することにより、コーティング膜を形成した試料を作製し、同様の方法で耐候性の評価を行った。
【0036】
詳しくは、撥水性の評価方法として、液滴の接触角が100°以上の場合は○、90°~100°の場合は△、90°より小さい場合は×として評価した。また、転落性の評価方法として、液滴の転落角が50°以下の場合は○、50°~60°の場合は△、60°以上の場合は×として評価した。
【0037】
【表1】
【0038】
表1に示されるように、本実施例における被膜構造を有する試料は、40℃の温水に240時間浸漬した後であっても、優れた撥水性と転落性を発揮することが確認された。なお、本実施例における被膜構造を有する試料は、評価試験の前後において、基材本来の外観・質感を保つことも確認された。
【0039】
【表2】
【0040】
表2に示されるように、本実施例における被膜構造を有する試料は、気温50℃かつ湿度95%の環境に300時間静置した後であっても、優れた撥水性と転落性を発揮することが確認された。なお、本実施例における被膜構造を有する試料は、評価試験の前後において、基材本来の外観・質感を保つことも確認された。
【0041】
このように、本実施例における被膜構造は、基材本来の外観・質感を変えることなく耐候性を向上させることが確認された。
【0042】
また、図5に示されるように、本実施例における被膜構造を有する試料の表面に室温、大気圧条件下で水と油(ヘキサデカン)を滴下したところ、水滴接触角107°、油滴接触角36°であった。このように、本実施例における被膜構造は、撥水性だけでなく撥油性にも優れることが確認された。
【0043】
(本願発明の作用効果)
以上説明したように、本発明の被膜構造は、被覆対象となる基材の表面に、SiOを主成分とする平均厚さ約2~50nmの薄膜のコーティング膜が、基材の表面の凹凸形状に沿って被膜されていることにより、ガラスコーティング膜を透過する光の屈折による影響が極めて小さくなり、基材本来の表面の凹凸形状に基づく反射特性から略変化しないため、基材本来の外観・質感を変えることなく、基材の表面にガラスコーティング膜による耐候性を付与することができる。
【0044】
また、ガラスコーティング膜の平均厚さは、基材の表面における算術平均粗さRaよりも小さいことにより、薄膜のガラスコーティング膜が基材本来の表面の凹凸形状に沿う被膜構造を生成しやすい。
【0045】
また、本発明の被膜構造は、平均厚さ約2~50nmの極めて薄膜のガラスコーティング膜が基材の表面の凹凸形状に沿う被膜構造を生成することにより、基材に力が加わった際にガラスコーティング膜において応力が局所的に発生しにくくなるため、クラックの発生を防止することができる。さらに、熱膨張等による基材の変形に対する追従性が高いため、上述した耐候性の評価試験において確認されたように、基材本来の外観・質感を変えることなく、優れた耐候性を長期間維持することができる。
【0046】
また、本発明の被膜のコーティング方法は、被覆対象となる基材の表面に対して無機ポリシラザンを主成分とするコーティング剤を直接塗布し、該コーティング剤の余剰分を拭き取ることで被覆する工程と、コーティング剤の溶媒を揮発させ平均厚さ約2~50nmの薄膜のコーティング膜を生成する工程と、を有し、コーティング剤を直接塗布し、拭き取ることによって基材の表面の凹凸形状に入り込んだ余分なコーティング剤を除去し、極めて薄膜のガラスコーティング膜が基材本来の表面の凹凸形状に沿う被膜構造を生成することにより、ガラスコーティング膜を透過する光の屈折による影響が極めて小さくなり、基材本来の表面の凹凸形状に基づく反射特性から略変化しないため、基材本来の外観・質感を変えることなく、基材の表面にガラスコーティング膜による耐候性を付与することができる。
【0047】
また、本発明の被膜のコーティング方法において使用されるコーティング剤は、95~99.9wt%の割合で揮発性溶媒を含むことにより、溶媒の揮発後に生成されるガラスコーティング膜を極めて薄く形成し、基材本来の表面の凹凸形状に沿う被膜構造を生成しやすい。
【0048】
また、本発明の被膜のコーティング方法は、スパッタリングによるコーティング方法のように真空装置内で被覆施工を行う必要がなく、既設の常圧の屋内環境或いは屋外環境での被覆施工が可能であり、施工が簡便である。
【0049】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0050】
例えば、上記実施例では、アクリルウレタン樹脂により形成される基材の表面に平均厚さ10nmのガラスコーティング膜を形成した被膜構造に対して耐候性の評価試験を行ったが、これに限らず、アクリルウレタン樹脂以外の素材により形成される基材に、当該基材の表面における算術平均粗さRaよりも小さい平均厚さ約2~50nmの薄膜のコーティング膜を形成した場合であっても、基材本来の外観・質感を変えることなく耐候性を向上させることが可能であることは言うまでもない。
【0051】
また、上記実施例では、被膜のコーティング方法として、基材の表面に直接塗布又は散布されたコーティング剤をファイバークロス等によって拭き取り被覆する工程について説明したが、ファイバークロス等による拭き取りは必須ではなく、基材の表面に直接塗布又は散布されたコーティング剤に含まれる不活性溶媒が揮発することにより消失し、基材の表面に平均厚さ約2~50nmの極めて薄膜のガラスコーティング膜が基材本来の表面の凹凸形状に沿った形で残すことができるように、コーティング剤の組成や塗膜の厚み、基材表面の水分量、施工環境の湿度等を調整してもよい。
【符号の説明】
【0052】
1,11 基材
2,12 表面
10 コーティング剤
30 ファイバークロス
100 ガラスコーティング膜
図1
図2
図3
図4
図5