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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065553
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】セメント質組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20240508BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20240508BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20240508BHJP
   C04B 14/48 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B22/08 Z
C04B18/14 Z
C04B14/48 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174478
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【弁理士】
【氏名又は名称】村地 俊弥
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 竜
(72)【発明者】
【氏名】石田 征男
(72)【発明者】
【氏名】石井 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】天野 幹久
(72)【発明者】
【氏名】茨木 泰介
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PA19
4G112PA28
4G112PB05
(57)【要約】
【課題】高速道路等のコンクリート床版に対する補修等の用途に使用可能なセメント質組成物であって、(a)補修等の作業を行うのに十分な長さの可使時間を有する、(b)優れた初期強度発現性を有する、及び、(c)優れた長期強度発現性を有する、の各物性を満たすセメント質組成物を提供する。
【解決手段】セメント(ただし、アルミナセメントを除く。)及び速硬材(例えば、アルミナセメントを含むもの)を含む粉体と、細骨材と、水と、セメント分散剤と、凝結遅延剤を含むセメント質組成物であって、ペースト細骨材空隙比が、1.30~200であり、水粉体比が、10~30%であり、セメント質組成物の単位体積当たりの速硬材の量が、60~350kg/mである、セメント質組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント(ただし、アルミナセメントを除く。)及び速硬材を含む粉体と、細骨材と、水と、セメント分散剤と、凝結遅延剤を含むセメント質組成物であって、
ペースト細骨材空隙比が、1.30~200であり、水粉体比が、10~30%であり、上記セメント質組成物の単位体積当たりの上記速硬材の量が、60~350kg/mであることを特徴とするセメント質組成物。
【請求項2】
上記セメント100質量部に対する上記凝結遅延剤の量が、0.1~1.2質量部である請求項1に記載のセメント質組成物。
【請求項3】
上記セメント質組成物は、「JIS R 5201:2015 セメントの物理試験方法」に記載されているフロー値の測定方法において15回の落下運動を行わない場合におけるフロー値が、100~350mmの範囲内となるものである請求項1又は2に記載のセメント質組成物。
【請求項4】
「JIS A 1147:2007 コンクリートの凝結時間試験方法」に記載されているモルタルの物性の測定方法による凝結の終結時間が、2時間以内である請求項1又は2に記載のセメント質組成物。
【請求項5】
上記粉体は、BET比表面積が5~25m/gのポゾラン質微粉末を含む請求項1又は2に記載のセメント質組成物。
【請求項6】
上記セメント質組成物が、繊維を含む請求項1又は2に記載のセメント質組成物。
【請求項7】
上記速硬材は、アルミナ系速硬材である請求項1又は2に記載のセメント質組成物。
【請求項8】
上記細骨材の量が、上記セメント100質量部に対して、230質量部以下である請求項1又は2に記載のセメント質組成物。
【請求項9】
請求項1又は2に記載のセメント質組成物を製造するための方法であって、
上記ペースト細骨材空隙比の値が1.30~200で、かつ、上記水粉体比が10~30%となるように、上記粉体、上記水、及び、上記細骨材の各量を定める材料組成決定工程、
を含むセメント質組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント質組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
供用開始からの長期間の経過や交通量の増大などによって劣化が進んだ道路床版に対して、補修を行うための路面補修材が、知られている。
例えば、特許文献1に、セメント100重量部、粗骨材120~210重量部、絶乾比重2.3以上の細骨材105~280重量部および繊維長18~30mmの有機繊維3.2~7.0重量部からなりかつ細骨材率が44.0~57.0%であることを特徴とする繊維補強コンクリート組成物が、記載されている。
また、特許文献2に、速硬性モルタル材と膨張性頁岩の焼成物からなる人工軽量粗骨材を含むコンクリート組成物であって、該速硬性モルタル材がポルトランドセメント、速硬材、細骨材、および凝結調整剤を含み、上記人工軽量粗骨材の含有量が該モルタル材に対して20~52質量%であることを特徴とする高耐久速硬性コンクリート組成物が、記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-166108号公報
【特許文献2】特開2018-203552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、作業時間の確保等の観点から、可使時間が長く、かつ、工期短縮等の観点から、優れた初期強度発現性を有し、さらには、優れた長期強度発現性を有するセメント質組成物(例えば、モルタル、コンクリート等)を調製することは、困難であり、このような可使時間が長くかつ優れた初期強度発現性と優れた長期強度発現性を両立させたセメント質組成物の実現が求められている。
上述の特許文献1~2に記載されたコンクリート組成物も、例えば、材齢28日の圧縮強度が最大でも70N/mm程度であり、用途によっては、さらなる圧縮強度の向上が望まれるという課題を有している。
本発明の目的は、道路床版の補修等の用途に使用可能なセメント質組成物であって、(a)補修等の作業を行うのに十分な長さの可使時間を有する、(b)優れた初期強度発現性を有する、及び、(c)優れた長期強度発現性を有する、の各物性を満たすセメント質組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、セメント(ただし、アルミナセメントを除く。)及び速硬材を含む粉体と、細骨材と、水と、セメント分散剤と、凝結遅延剤を含むセメント質組成物であって、ペースト細骨材空隙比が、1.30~200であり、水粉体比が、10~30%であり、上記セメント質組成物の単位体積当たりの上記速硬材の量が、60~350kg/mであるセメント質組成物によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
本発明は、以下の[1]~[9]を提供するものである。
【0006】
[1] セメント(ただし、アルミナセメントを除く。)及び速硬材を含む粉体と、細骨材と、水と、セメント分散剤と、凝結遅延剤を含むセメント質組成物であって、ペースト細骨材空隙比が、1.30~200であり、水粉体比が、10~30%であり、上記セメント質組成物の単位体積当たりの上記速硬材の量が、60~350kg/mであることを特徴とするセメント質組成物。
[2] 上記セメント100質量部に対する上記凝結遅延剤の量が、0.1~1.2質量部である、上記[1]に記載のセメント質組成物。
[3] 上記セメント質組成物は、「JIS R 5201:2015 セメントの物理試験方法」に記載されているフロー値の測定方法において15回の落下運動を行わない場合におけるフロー値が、100~350mmの範囲内となるものである、上記[1]又は[2]に記載のセメント質組成物。
[4] 「JIS A 1147:2007 コンクリートの凝結時間試験方法」に記載されているモルタルの物性の測定方法による凝結の終結時間が、2時間以内である、上記[1]~[3]のいずれかに記載のセメント質組成物。
[5] 上記粉体は、BET比表面積が5~25m/gのポゾラン質微粉末を含む、上記[1]~[4]のいずれかに記載のセメント質組成物。
[6] 上記セメント質組成物が、繊維を含む、上記[1]~[5]のいずれかに記載のセメント質組成物。
[7] 上記速硬材は、アルミナ系速硬材である、上記[1]~[6]のいずれかに記載のセメント質組成物。
[8] 上記細骨材の量が、上記セメント100質量部に対して、230質量部以下である、上記[1]~[7]のいずれかに記載のセメント質組成物。
[9] 上記[1]~[8]のいずれかに記載のセメント質組成物を製造するための方法であって、上記ペースト細骨材空隙比の値が1.30~200で、かつ、上記水粉体比が10~30%となるように、上記粉体、上記水、及び、上記細骨材の各量を定める材料組成決定工程、を含むセメント質組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のセメント質組成物は、道路床版(例えば、高速道路のコンクリート床版)に対する補修等の用途に使用可能なものであり、以下の優れた物性を有する。
本発明のセメント質組成物は、フレッシュ時(未硬化時)には、施工(例えば、現場打ちでの打設作業)に適する流動性(例えば、0打フロー値が大きいこと)を有するので、道路床版の補修等の作業を行うのに好適であり、また、道路床版の補修等の作業のときに、十分な長さの可使時間(優れた流動性を維持して作業することのできる、使用可能時間)を有する。
本発明のセメント質組成物は、優れた初期強度発現性(例えば、材齢3時間の圧縮強度が大きいこと)を有するので、例えば、道路床版に対する補修等の用途において、早期の交通開放を行うことができる。
本発明のセメント質組成物は、優れた長期強度発現性(例えば、材齢28日の圧縮強度が大きいこと)を有するので、例えば、道路床版に対する補修等の用途において、大型車等の通行量の多い高速道路等の道路床版に適用することもできる。
また、本発明のセメント質組成物は、以下の追加の優れた物性を有する実施形態を有することができる。
本発明のセメント質組成物は、道路床版に対する補修等の用途において、勾配を有する施工箇所に打設する場合であっても、流下による形状の変化がほとんど生じず、硬化後の寸法安定性(例えば、勾配を与えた時であっても、設計上の寸法との差が小さいこと)に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のセメント質組成物(以下、「組成物」と略すことがある。)は、セメント(ただし、アルミナセメントを除く。)及び速硬材を含む粉体と、細骨材と、水と、セメント分散剤と、凝結遅延剤を含むセメント質組成物であって、ペースト細骨材空隙比が、1.30~200であり、水粉体比が、10~30%であり、上記セメント質組成物の単位体積当たりの上記速硬材の量が、60~350kg/mのセメント質組成物である。
セメント(ただし、アルミナセメントを除く。)の例としては、特に限定されるものではなく、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメントや、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント等の混合セメントや、エコセメント等が挙げられる。
【0009】
速硬材としては、例えば、アルミナ系速硬材が挙げられる。
アルミナ系速硬材の例としては、アルミナセメント及び無水石膏を含む混合物や、アルミナ含有クリンカ粉砕物(特に、鉱物組成として、CaO・Al、12CaO・7Al及びCaO・2Alを含むもの)及び無水石膏を含む混合物等が挙げられる。
アルミナ系速硬材として、アルミナセメント及び無水石膏を含む混合物を用いる場合、該混合物を構成する各材料の好ましい割合は、以下のとおりである。
速硬材中のアルミナセメントの割合は、好ましくは20質量%以上、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上である。該割合が20質量%以上であると、組成物の早期強度発現性を、より向上させることができる。該割合の上限は、無水石膏(硫酸カルシウム)の量を十分に確保する等の観点から、好ましくは70質量%、より好ましくは60質量%、特に好ましくは50質量%である。
無水石膏の割合は、好ましくは20質量%以上、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上である。該割合が20質量%以上であると、組成物の可使時間を、より長くすることができる。該割合の上限は、アルミナセメントの量を十分に確保する等の観点から、好ましくは70質量%、より好ましくは60質量%、特に好ましくは50質量%である。
【0010】
速硬材は、アルミナセメント及び無水石膏以外の材料として、水酸化カルシウムを含むことができる。速硬材中の水酸化カルシウムの割合は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、特に好ましくは5質量%以上である。該割合が1質量%以上であると、初期におけるセメントの水和を促進することができる。該割合の上限は、可使時間の確保の観点から、好ましくは15質量%、より好ましくは12質量%、特に好ましくは10質量%である。
【0011】
本発明の組成物中の速硬材の量は、60~350kg/m(セメント100質量部に対して6~35質量部)、好ましくは90~290kg/m、より好ましくは120~240kg/mである。該量が60kg/m未満であると、目的とする早期強度発現性(例えば、材齢3時間で15N/mm以上)を得ることが困難となる。該量が350kg/mを超えると、目的とする長さ(例えば、40分以上)の可使時間を得ることが困難となる。
【0012】
本発明の組成物を構成する粉体中のセメント及び速硬材以外の粉体の例としては、BET比表面積が5~25m/gのポゾラン質微粉末(以下、「ポゾラン質微粉末」と略すことがある。)や、ブレーン比表面積が3,500~10,000cm/gの無機粉末(以下、「無機粉末」と略すことがある。)等が挙げられる。
ポゾラン質微粉末としては、シリカフューム、シリカダスト、フライアッシュ、スラグ粉末、火山灰、シリカゾル、沈降シリカ等が挙げられる。
中でも、シリカフューム及びシリカダストは、BET比表面積が5~25m/gであり、粉砕を行う必要がないので、本発明において好ましく用いられる。
【0013】
ポゾラン質微粉末のBET比表面積は、5~25m/g、好ましくは7~20m/g、より好ましくは8~16m/gである。該値が5m/g以上であると、組成物中のポゾラン質微粉末の充填性が向上し、組成物の硬化体の圧縮強度等が増大する。該値が25m/g以下であると、所望の流動性を得るための水量が少なくなり、組成物の硬化後の圧縮強度等が増大する。
ポゾラン質微粉末を配合する場合、ポゾラン質微粉末の量は、セメント100質量部に対して、好ましくは40質量部以下、より好ましくは35質量部以下、特に好ましくは30質量部以下である。該量が40質量部以下であると、組成物の流動性をより向上させることができる。
【0014】
ブレーン比表面積が3,500~10,000cm/gの無機粉末としては、石英粉末、石灰石粉末、アルミナ粉末等が挙げられる。
無機粉末のブレーン比表面積は、3,500~10,000cm/g、好ましくは5,000~9,500cm/g、6,500~8,500cm/gである。該値が3,500cm/g以上であると、セメントとのブレーン比表面積の差が大きくなり、組成物の流動性をより向上させることができる。該値が10,000cm/g以下であると、粉砕の手間をより軽減することができ、また、組成物の流動性をより向上させることができる。
無機粉末の量は、セメント100質量部に対して、好ましくは45質量部以下、より好ましくは35質量部以下、特に好ましくは25質量部以下である。該量が45質量部以下であると、組成物の可使時間が短くなるのを避けることができる。
【0015】
細骨材としては、珪砂、川砂、陸砂、海砂、砕砂等が挙げられる。
細骨材の粒度分布は、好ましくは、2.0mm以下の粒径を有する粒体を80質量%以上の割合で含むものであり、より好ましくは、1.5mm以下の粒径を有する粒体を80質量%以上の割合で含むものであり、さらに好ましくは、1.0mm以下の粒径を有する粒体を80質量%以上の割合で含むものであり、特に好ましくは、0.15~0.6mmの粒径を有する粒体を80質量%以上の割合で含むものである。
1.5mmを超える粒径を有する粒体の割合を小さくすることによって、組成物の流動性、硬化後の圧縮強度等を高めることができる。0.15mm以下(特に、75μm未満)の粒径を有する粒体の割合を小さくすることによって、組成物の流動性を向上させることができる。
細骨材の量は、セメントを含む粉体100質量部に対して、好ましくは230質量部以下、より好ましくは1~220質量部、さらに好ましくは30~210質量部、さらに好ましくは50~200質量部、特に好ましくは60~180質量部である。該量が230質量部以下であると、組成物の曲げ強度が、より大きくなる。
【0016】
本発明において、細骨材に加えて、粗骨材を配合することができる。
粗骨材としては、川砂利、陸砂利、砕石等が挙げられる。
粗骨材の量は、セメントを含む粉体100質量部に対して、好ましくは120質量部以下、より好ましくは100質量部以下、特に好ましくは80質量部以下である。該量が120質量部以下であると、組成物の圧縮強度等をより高めることができる。
【0017】
水の量は、水粉体比が10~30%となる量である。
水粉体比は、10~30%、好ましくは11~25%、より好ましくは12~21%、さらに好ましくは13~19%、特に好ましくは14~17%である。該比が10%未満であると、組成物の流動性が低下する。該比が30%を超えると、組成物の圧縮強度が小さくなる。
水粉体比は、以下の式によって算出される。
水粉体比(%)=[水の質量]×100÷[セメントを含む粉体の質量]
【0018】
セメント分散剤としては、リグニン系、ナフタレンスルホン酸系、メラミン系、ポリカルボン酸系等の、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、または高性能AE減水剤が挙げられる。
中でも、減水効果が大きい等の点で、高性能減水剤が好ましい。
特に、組成物の流動性及び圧縮強度等の向上の点で、ポリカルボン酸系の高性能減水剤が、より好ましい。
セメント分散剤の量は、セメントを含む粉体100質量部に対して、好ましくは0.3~3.5質量部、より好ましくは0.5~3.0質量部、さらに好ましくは0.7~2.5質量部、特に好ましくは0.9~2.1質量部である。該量が0.3質量部以上であると、減水効果がより高くなる。該量が3.5質量部以下であると、強度発現性がより向上する。
【0019】
凝結遅延剤としては、ホウ酸、クエン酸、クエン酸ナトリウム、グルコン酸、グルコン酸ナトリウム等が挙げられる。これらは、1種を単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
凝結遅延剤の量は、セメントを含む粉体100質量部に対して、好ましくは0.1~1.2質量部、より好ましくは0.1~1.0質量部、より好ましくは0.2~0.9質量部、特に好ましくは0.3~0.8質量部である。該量が0.1質量部以上であると、組成物の可使時間を、より長くすることができる。該量が1.0質量部以下であると、組成物の早期強度発現性を、より向上させることができる。
【0020】
繊維としては、金属繊維、有機繊維、炭素繊維等が挙げられる。
金属繊維としては、鋼繊維等が挙げられる。
有機繊維としては、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維等が挙げられる。
繊維の寸法は、組成物中における繊維の材料分離の防止等の観点から、好ましくは、直径が0.05~0.5mmでかつ長さが5~30mmであり、より好ましくは、直径が0.1~0.4mmでかつ長さが8~25mmであり、特に好ましくは、直径が0.1~0.3mmでかつ長さが12~20mmである。
繊維の量は、セメント質組成物中、好ましくは0.5~4体積%、より好ましくは1~3体積%、特に好ましくは1.5~2.5体積%である。該量が0.5体積%以上であると、繊維を配合することによる効果(曲げ強度の増大等)をより高めることができる。該量が4体積%以下であると、組成物の流動性をより良好にすることができる。
【0021】
本発明のセメント質組成物のペースト細骨材空隙比(Kp)は、1.30~200である。該値が1.30未満であると、セメント等の粉体と骨材とが一体化せず、均一な物性を有する組成物を調製することが困難となる。該値が200を超えると、収縮量が極めて大きくなり、ひび割れの発生リスクが増大するおそれがある。
本発明のセメント質組成物が、セメントを含む粉体100質量部に対して、30質量部以上の細骨材を含む場合、該組成物のペースト細骨材空隙比(Kp)は、好ましくは1.32~3.10、好ましくは1.34~3.05、より好ましくは1.38~3.00である。該値が3.10以下であると、組成物の可使時間が、より長くなり、組成物の打設作業を、より容易に行うことができる。
【0022】
ペースト細骨材空隙比(Kp)とは、細骨材の粒体間の空隙に対するペーストの体積比(ペースト/細骨材の粒体間の空隙)をいう。
具体的には、ペースト細骨材空隙比(Kp)は、以下の式で表される。
Kp=[組成物の単位体積当たりのペーストの体積(L/m)]÷[組成物の単位体積当たりの細骨材の粒体間の空隙の体積(L/m)]
上記式中、[組成物の単位体積当たりのペーストの体積(L/m)]は、以下の式によって算出することができる。
[組成物の単位体積当たりのペーストの体積(L/m)]={[単位水量(kg/m)]÷[水の密度(g/cm)]}+{[単位粉体量(kg/m)]÷[粉体の密度(g/cm)]}
ここで、単位水量及び単位粉体量は、配合設計にて設定する値である。
水の密度は、一般的に用いられている「温度と密度の換算表」から求まる値である。
粉体の密度は、「JIS R 5201」(セメントの物理試験方法)に準拠する方法、または、ガスを使用した乾式の密度測定機器等を用いて、実験にて求まる値である。
【0023】
また、上記式中、[組成物の単位体積当たりの細骨材の粒体間の空隙の体積(L/m)]は、以下の式によって算出することができる。
[組成物の単位体積当たりの細骨材の粒体間の空隙の体積(L/m)]=[粒体間の空隙を含む細骨材の体積(L/m)]-[単位細骨材体積(L/m)]
ここで、式中の[粒体間の空隙を含む細骨材の体積(L/m)]、及び、[単位細骨材体積(L/m)]は、各々、以下の式によって算出することができる。
[粒体間の空隙を含む細骨材の体積(L/m)]=[単位細骨材体積(L/m)]÷{[細骨材の実積率(%)]÷100}
[単位細骨材体積(L/m)]=[単位細骨材量(kg/m)]÷[細骨材の密度(g/cm)]
ここで、単位細骨材量は、配合設計にて設定する値である。
細骨材の密度は、「JIS A 1109」(細骨材の密度及び吸水率試験方法)に準拠する方法を用いて、実験にて求まる値である。
【0024】
本発明の組成物は、以下の物性を有する。
(a)硬化前(フレッシュ状態)の物性
(a-1)0打フロー
「JIS R 5201:2015 セメントの物理試験方法」に記載されているフロー値の測定方法において15回の落下運動を行わない場合におけるフロー値(本明細書中、「0打フロー」ともいう。)は、好ましくは90~350mmである。
該値が90mm以上であると、組成物の流動性がより良好になり、組成物の打設時の作業性がより良好になる。該値が350mm以下であると、材料分離が生じにくくなり、各種の強度、及び、良好な耐久性を維持し易くなる。
本発明のセメント質組成物が、セメントを含む粉体100質量部に対して、30質量部以上の細骨材を含む場合、0打フローは、好ましくは90~170mm、より好ましくは90~150mm、さらに好ましくは90~130mm、特に好ましくは100~120mmである。該値が170mm以下であると、勾配を有する傾斜面に組成物を打設した場合などにおける組成物の硬化物の形状の設計寸法に対する精度が、より高くなる。
【0025】
(a-2)15打フロー
「JIS R 5201:2015 セメントの物理試験方法」に記載されているフロー値の測定方法に準拠して測定されるフロー値(上記「0打フロー」と異なり、15回の落下運動を行うので、本明細書中、「15打フロー」ともいう。)は、120mm以上である。該値が120mm以上であると、組成物の流動性がより良好になり、組成物の施工時の作業性がより良好になる。
本発明のセメント質組成物が、セメントを含む粉体100質量部に対して、30質量部以上の細骨材を含む場合、15打フローは、好ましくは120~240mm、より好ましくは125~235mm、さらに好ましくは130~230mm、より好ましくは135~225mm、特に好ましくは140~220mmである。該値が240mm以下であると、勾配を有する傾斜面に組成物を打設したときなどにおいて、組成物の硬化物の形状の精度が、より高くなる。
【0026】
(a-3)可使時間
「JIS R 5201:2015 セメントの物理試験方法」に記載されているフロー値の測定方法に準拠して測定されるフロー値(15打フロー)の経時変化から、該15打フローの値が130mmとなる時間(可使時間)を算出した。
可使時間は、好ましくは30分以上、より好ましくは35分以上、さらに好ましくは40分以上、特に好ましくは45分以上である。可使時間が30分以上であると、組成物を現場打ちで打設する作業などを行う際に、十分な時間を確保することができる。
可使時間の上限値は、好ましくは1時間10分、より好ましくは1時間(60分)、特に好ましくは55分である。可使時間が1時間10分以下であれば、工期の短縮(例えば、道路床版の補修作業後における早期の交通開放)の観点から、好ましい。
【0027】
(b)硬化後の物性
(b-1)凝結時間
「JIS A 1147:2019」(コンクリートの凝結時間試験方法)に準拠して測定した凝結時間は、以下のとおりである。
始発時間は、好ましくは40分以上、より好ましくは45分以上、特に好ましくは50分以上である。始発時間が40分以上であると、組成物の可使時間を十分に確保することができる。
終結時間は、好ましくは2時間10分以下、より好ましくは2時間以下、特に好ましくは1時間50分以下である。終結時間が2時間10分以下であると、工期の短縮(例えば、道路床版の補修作業をより効率的に短時間で行いうること)の観点から、好ましい。
なお、凝結時間は、繊維を配合しないで測定するものとする。
【0028】
(b-2)圧縮強度
土木学会規準「JSCE-G 505-2010」(円柱供試体を用いたモルタルまたはセメントペーストの圧縮強度試験方法(案))に準拠して測定した圧縮強度は、好ましくは、以下のとおりである。
材齢3時間の値として、好ましくは15N/mm以上、より好ましくは18N/mm以上、特に好ましくは20N/mm以上である。
材齢28日の値として、好ましくは90N/mm以上、より好ましくは110N/mm以上、特に好ましくは130N/mm以上である。
【0029】
(b-3)勾配を与えた場合の寸法差
型枠(内寸:長さ40cm×幅10cm×高さ10cm)内に組成物を収容した後、長さ方向の一端を持ち上げて、11%(長さ100cm当たり高さ11cm)の勾配を与えた。以下、持ち上げた側の型枠の端部を、「上側」と称し、持ち上げた側とは反対側の型枠の端部を、「下側」と称する。
材齢1日で、組成物の硬化体を脱型して、この硬化体の長さ方向の両端の各高さ寸法を測定し、得られた寸法と、型枠の内寸(高さ10cm)との寸法差を算出した。
具体的には、以下の2つの値を算出した。
[硬化体の下側の端部における寸法差]=[脱型した硬化体の下側の端部の高さ寸法]-[100mm(型枠の内寸における高さ寸法)]
[硬化体の上側の端部における寸法差]=[脱型した硬化体の上側の端部の高さ寸法]-[100mm(型枠の内寸における高さ寸法)]
【0030】
次に、本発明の組成物の製造方法について説明する。
本発明の組成物の製造方法は、ペースト細骨材空隙比の値が1.30~200で、かつ、水粉体比が10~30%となるように、粉体(セメント及び他の粉末)、水、及び、細骨材の各量を定める材料組成決定工程、を含む。
本発明の組成物の製造方法は、材料組成決定工程に加えて、組成物を構成する各材料を混練して、組成物を得る組成物調製工程、を含むことができる。
混練の方法の一例としては、材料の一部(例えば、セメント、他の粉体、及び、細骨材)をミキサに投入して混合(空練り)した後、材料の残部の一部(例えば、水、凝結遅延剤、及び、セメント分散剤)を投入して混練し、最後に、材料の残部の残り(例えば、繊維)をミキサに投入して混練する方法が挙げられる。
【0031】
本発明の組成物は、例えば、高速道路等のコンクリート床版の補修用の材料として用いることができる。
本発明の組成物は、床版の補修すべき箇所に、組成物を打設して用いるものである。この際、床版の上面が傾斜していても、傾斜面において組成物が流下することなく、補修を行うことができる。
【実施例0032】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[使用材料]
(1)セメント:中庸熱ポルトランドセメント(ブレーン比表面積:3,180cm/g)
(2)ポゾラン質微粉末:シリカフューム(BET比表面積:11m/g)
(3)無機粉末:石英粉末(ブレーン比表面積:7,500cm/g)
(4)速硬材:アルミナ系速硬材(アルミナセメント50質量%、無水石膏45質量%、及び、水酸化カルシウム5質量%、の組成を有する粉体混合物)
(5)骨材:珪砂(0.15~0.6mmの粒径を有する粒体を95質量%以上の割合で含むもの)
(6)繊維:鋼繊維(直径:0.2mm、長さ:15mm)
(7)セメント分散剤:ポリカルボン酸系高性能減水剤(液状;固形分の含有率:27.4質量%)
(8)凝結遅延剤A:ホウ酸
(9)凝結遅延剤B:クエン酸
(10)水:上水道水
【0033】
[実施例1]
表1に示す各材料を用いて、セメント質組成物を調製した。
具体的には、セメント、他の粉体(ポゾラン質微粉末、石英粉末、アルミナ系速硬材)、及び、細骨材をパン型ミキサ(容量:55リットル)に投入して、30秒間、空練りした後、水、凝結遅延剤、及び、セメント分散剤を投入して、7分間、混練し、最後に、繊維をミキサに投入して、さらに2分間、混練し、組成物(体積:20リットル)を得た。
なお、アルミナ系速硬材の量(60kg/m)は、セメント100質量部当たりの量に換算すると、6質量部である。
得られた組成物について、表2に示す各試験を行った。なお、各試験の詳細は、上述のとおりである。
【0034】
[実施例2~16、比較例1~10]
表1に示す材料を用いた以外は実施例1と同様にして、実験を行った。
以上の結果を表2に示す。
なお、表1中、「Kp」はペースト細骨材空隙比である。「水粉体比(%)」は質量基準である。「微粉末」はポゾラン質微粉末である。「無機粉末」は石英粉末である。「遅延剤」は、凝結遅延剤である。「分散剤」は、セメント分散剤である。「部」は「質量部」である。「繊維(%)」は、組成物中の体積基準の割合(内割)である。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
表2から、実施例1~16では、フロー値(流動性)、可使時間、凝結時間、及び、圧縮強度のいずれについても、優れた結果を得ていることがわかる。
特に、実施例1~13では、勾配を与えた時の寸法差(例えば、勾配を有する舗装への適用性)についても、優れた結果を得ていることがわかる。
一方、比較例1~3では、速硬材の量が10~50kg/mであり、本発明で規定する量(60~350kg/m)よりも少ないため、材齢3時間の圧縮強度が小さいことがわかる。比較例4では、速硬材の量が380kg/mであり、本発明で規定する量(60~350kg/m)よりも多いため、可使時間が短いことがわかる。比較例5では、水粉体比が9%であり、本発明で規定する値(10~30%)よりも少ないため、可使時間が短いことがわかる。比較例6では、水粉体比が34%であり、本発明で規定する値(10~30%)よりも多いため、材齢28日の圧縮強度が小さく、長期強度発現性に劣ることがわかる。比較例7では、ペースト細骨材空隙比(Kp)が1.18であり、本発明で規定する値(1.30~3.10)よりも小さいため、セメントを含む粉体と、骨材とが一体化せず、施工のための組成物として不適当であることがわかる。比較例8~10では、速硬材の量が30kg/mであり、本発明で規定する量(60~350kg/m)よりも少ないため、材齢3時間の圧縮強度が、測定不能なほどに小さいことがわかる。