(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065557
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】ステータ
(51)【国際特許分類】
H02K 3/34 20060101AFI20240508BHJP
H02K 9/19 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
H02K3/34 Z
H02K9/19 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174482
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大輔
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 唱
(72)【発明者】
【氏名】山田 識由
【テーマコード(参考)】
5H604
5H609
【Fターム(参考)】
5H604AA03
5H604CC01
5H604PB01
5H609PP06
5H609PP09
5H609QQ05
(57)【要約】
【課題】絶縁被膜を厚膜化することなく、平角電線間の絶縁性を高める。
【解決手段】ステータは、ステータコアと、ステータコアに巻回された平角電線と、を備えてもよい。平角電線は、平角導体と、平角導体を被覆する絶縁被膜とを有してもよく、絶縁被膜のうち、隣接する平角電線に対向する範囲の少なくとも一部には、絶縁皮膜の厚さの1/2以上4/5以下の深さを有する複数の溝が、平角電線の長手方向に沿って設けられてもよい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を熱媒体が循環するモータに用いられるステータであって、
ステータコアと、
前記ステータコアに巻回された平角電線と、
を備え、
前記平角電線は、平角導体と、前記平角導体を被覆する絶縁被膜とを有し、
前記絶縁被膜のうち、隣接する平角電線に対向する範囲の少なくとも一部には、前記絶縁皮膜の厚さの1/2以上4/5以下の深さを有する複数の溝が、前記平角電線の長手方向に沿って設けられている、
ステータ。
【請求項2】
前記平角電線の前記溝を含む周囲長さは、前記平角電線の外形寸法から計算されるみかけ上の周囲長さよりも1.2倍以上大きい、請求項1に記載のステータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、ステータに関し、特に、内部を熱媒体が循環するモータに用いられるステータに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、内部を冷却用の熱媒体が循環するモータが記載されている。このモータのステータは、ステータコアと、それに巻回された複数相の巻線とを備える。各相の巻線は、平角電線で構成されている。平角電線は、矩形断面を有する平角導体の外周が、絶縁被膜で覆われた構造を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したステータでは、一つのスロット内で他相同士の平角電線が互いに隣接しており、隣り合う二つの平角電線の間において、部分放電が発生し得る。部分放電が発生し続けると、平角電線の絶縁被膜が絶縁破壊されるおそれがある。上記問題を鑑みて、例えば、絶縁被膜を厚膜化することにより、平角電線間の絶縁性を高めることが考えられる。しかしながら、絶縁被膜の厚膜化によると、平角電線を巻回するときの平角電線間の隙間の管理や曲げ加工等が困難となり得る。本明細書は、絶縁被膜を厚膜化することなく、このような問題を回避又は抑制し得る技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する技術は、内部を熱媒体が循環するモータに用いられるステータに具現化される。第1の態様では、ステータは、ステータコアと、ステータコアに巻回された平角電線と、を備えてもよい。平角電線は、平角導体と、平角導体を被覆する絶縁被膜とを有してもよく、絶縁被膜のうち、隣接する平角電線に対向する範囲の少なくとも一部には、絶縁皮膜の厚さの1/2以上4/5以下の深さを有する複数の溝が、平角電線の長手方向に沿って設けられてもよい。
【0006】
上記した構成では、平角電線の絶縁被膜に複数の溝が設けられており、その複数の溝は、隣接する平角電線に対向する対向面に位置している。このような構成によると、当該対向面における熱媒体の表面張力が高められ、互いに隣接する二つの平角電線間の微小な隙間に、比較的に多くの熱媒体が保持することが可能となる。これにより、平角電線間の絶縁性が高められる。特に、絶縁被膜の溝は、絶縁被膜の厚さの1/2以上4/5以下の深さを有する。このような構成によると、平角導体が絶縁被膜から露出することや、溝内での部分放電開始電圧の低下を招くことなく、平角電線に対する熱媒体の付着力を高めることができる。
【0007】
第2の態様では、上記した第1の態様において、平角電線の溝を含む周囲長さは、平角電線の外形寸法から計算されるみかけ上の周囲長さよりも1.2倍以上大きくてもよい。このような溝を設けることにより、平角電線における熱媒体と接触する表面積が1.2倍拡大され、平角電線に対する熱媒体の付着力を効果的に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】
図2(a)は、ステータの構成を部分的に示す模式図である。
図2(b)は、
図2(a)で示す各距離A、Bにおける部分放電開始電圧を示すグラフである。
【
図3】
図3(a)は、隣接する平角電線間における冷却オイルの保持状態を模式的に示す図である。
図3(b)は、平角電線に複数の溝が設けられていない場合の
図3(a)中の破線で囲まれた要部を拡大した図である。
図3(c)は、平角電線に複数の溝が設けられている場合の
図3(a)中の破線で囲まれた要部を拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図面を参照して、実施例のステータについて説明する。ステータは、例えば車両に搭載されるモータの一部を構成している。ステータは、モータ内部を冷却オイルが循環するモータに用いられる。ステータは、ステータコアと、ステータコイルとを備える。ステータコイルは、平角電線がステータコアに巻回されて構成されている。なお、冷却オイルは、本明細書が開示する技術における「熱媒体」の一例である。
【0010】
ステータの平角電線10には、いわゆる絶縁電線を用いることができる。
図1に示すように、平角電線10は、平角導体12と、絶縁被膜14とを有する。平角導体12は、例えば銅、アルミニウム等の金属といった導体を用いて構成されている。絶縁被膜14は、平角導体12を絶縁材料で被覆する。絶縁被膜14は、熱硬化性樹脂といった絶縁性を有する樹脂材料を用いて構成されている。平角電線10は、一対の幅広面10aと、一対の幅狭面10bとを有しており、その断面は概して長方形状といった矩形状を有する。同様に、平角導体12も長方形状といった矩形状を有する。これにより、ステータのスロット内における平角導体12の占積率を高くすることができる。但し、平角導体12の断面形状は、長方形状に限定されず、正方形状であってもよい。
【0011】
平角電線10の一対の幅広面10aの各々には、複数の溝10gが設けられている。複数の溝10gの各々は、平角電線10の長手方向に沿って連続的に延びている。即ち、平角電線10の幅広面10aは、複数の溝10gによって形成された微小な凹凸構造を有する。但し、複数の溝10gの各々は、連続的に限定されず、長手方向に断続的に延びていてもよい。その場合、平角電線10の凹凸構造は、溝に限定されず、凹部又は穴によって形成されていてもよい。各溝10gの断面は、例えば矩形状を有する。各溝10gは、絶縁被膜14の厚さの約1/2以上4/5以下の深さを有する。平角電線10の溝10gを含む周囲長さは、平角電線10の外形寸法から計算されるみかけ上の周囲長さよりも約1.2倍以上大きい。
【0012】
図2(a)には、本実施例の平角電線10が巻回されたステータ20が示されている。ステータ20のステータコア22には、複数のスロット22sが形成されている。ステータ20の平角電線10は、ステータコア22の複数のスロット22s内を通過する。一例ではあるが、ステータ20は、いわゆる分布巻き構造を有しており、ステータ20の一つのスロット22s内には、他相同士の平角電線10が、積層配列されている。配列された平角電線10は、各々の幅広面10aが互いに対向しており、複数の溝10gは、各幅広面10a全体に配置されている。但し、複数の溝10gが形成される位置は、特に限定されない。複数の溝10gは、隣接する平角電線10に対向する範囲の少なくとも一部に設けられていればよい。
【0013】
本実施例におけるステータ20では、一つのスロット22s内で例えばU相、V相といった他相同士の平角電線10が互いに隣接しており、隣り合う二つの平角電線10の間において、部分放電が発生し得る。部分放電が発生し続けると、平角電線10の絶縁被膜14が絶縁破壊されるおそれがある。上記問題を鑑みて、例えば、絶縁被膜14を厚膜化することにより、平角電線10間の絶縁性を高めることが考えられる。しかしながら、絶縁被膜14の厚膜化によると、平角電線10を巻回するときの平角電線10間の隙間の管理や曲げ加工等が困難となり得る。従って、本実施例におけるステータ20は、絶縁被膜14を厚膜化することなく、平角電線10間の絶縁性を向上させるための工夫がなされている。
【0014】
本実施例のステータ20では、平角電線10の絶縁被膜14に複数の溝10gが設けられており、その複数の溝10gは、隣接する平角電線10に対向する幅広面10aに位置している。このような構成によると、幅広面10aにおける冷却オイルの表面張力が高められ、互いに隣接する二つの平角電線10間の微小な隙間に、比較的に多くの冷却オイルが保持することが可能となる。これにより、平角電線10間の絶縁性が高められる。特に、絶縁被膜14の溝10gは、絶縁被膜14の厚さの1/2以上4/5以下の深さを有する。このような構成によると、平角導体12が絶縁被膜14から露出することや、溝10g内での部分放電開始電圧の低下を招くことなく、平角電線10に対する冷却オイルの付着力を高めることができる。
【0015】
ここで、
図2(b)では、
図2(a)で示されるステータ20のスロット22s内において他相同士の平角電線10が接触する箇所における各距離A、Bの部分放電開始電圧を示す。距離Aは、絶縁被膜14に溝10gが形成されている範囲の平角電線10間のギャップ距離であり、距離Bは、絶縁被膜14に溝10gが形成されていない範囲の平角電線10間のギャップ距離である。ここでの平角電線10の溝10gは、その深さが絶縁被膜14の厚さの3/5となるように形成されている。また、図示されていないが、平角電線10間の隙間には冷却オイルが介在している。このとき、距離Aにおける部分放電開始電圧は、距離Bにおける部分開始電圧とほぼ差がみられなかった。この結果は、距離Aは、距離Bと比較して、溝10gが形成された絶縁被膜14の厚さは薄くなるが、その分だけ平角電線10間のギャップ距離が長くなるため部分放電開始電圧が低下しなかったものと推測される。
【0016】
図3(a)には、隣接する二つの平角電線10間に、冷却オイルが付着した状態が示されている。
図3(b)、(c)は、
図3(a)中の破線で囲まれた要部を拡大して示す。なお、
図3(b)は、平角電線10に複数の溝10gが設けられていない場合を示し、
図3(c)は、平角電線10に複数の溝10gが設けられている場合を示す。
図3(b)、(c)を比較して理解されるように、平角電線10に複数の溝10gが設けられることによって、二つの平角電線10が互いに対向する面(即ち、幅広面10a)における冷却オイルの付着力が向上する。従って、他相同士の平角電線10が近接する箇所に保持される冷却オイルの量が増加する。これにより、部分放電が発生する平角電線10間を絶縁材である冷却オイルで埋めることができ、絶縁性が向上する。
【0017】
また、本実施例における平角電線10の溝10gを含む周囲長さは、平角電線10の外形寸法から計算されるみかけ上の周囲長さよりも約1.2倍以上大きい。このような溝10gを設けることにより、平角電線10における冷却オイルと接触する表面積が1.2倍拡大され、平角電線10に対する冷却オイルの付着力を効果的に高めることができる。
【0018】
以上、本実施例におけるステータ20の具体的な構成について述べたが、ステータ20に用いられる平角電線10は、上述した実施例の構成に限定されない。以下に、平角電線10の他の実施形態について説明する。
【0019】
平角電線10の平角導体12における四つの角部12cの曲率半径は、ステータ20のスロット22s内での導体占積率を高める観点においては、曲率半径は小さい方がよい。一方、四つの角部12cへの電界集中による部分放電現象を抑制するという観点においては、曲率半径は大きい方がよい。以上から、平角導体12の四つの角部12cの曲率半径は、好ましくは、0.6mm以下であるとよく、より好ましくは、0.2mm以上0.4mm以下であるとよい。但し、本明細書が開示する技術の効果が得られる範囲はこの限りではない。また、平角導体12は、複数の導体を撚り合わせ、あるいは、組み合わせて、矩形状に形成されていてもよい。
【0020】
平角導体12の断面の寸法は、特に限定されず、用途に応じて適宜調整される。平角導体12の幅は、例えば約1.0mm以上5.0mm以下であるとよく、好ましくは約1.4mm以上4.0mm以下であるとよい。また、平角導体12の厚さは、例えば約0.4mm以上3.0mm以下であるとよく、好ましくは約0.5mm以上2.5mm以下であるとよい。
【0021】
特に限定されないが、平角導体12を構成する材料には、銅を用いるとよい。平角導体12に用いられる銅は、具体的には、酸素含有量が30ppm以下の低酸素銅であるとよく、好ましくは、20ppm以下の低酸素銅又は無酸素銅であるとよい。銅の酸素含有量が30ppm以下であれば、導体を溶接するために熱で溶融させた場合、溶接部分に含有酸素に起因するボイドの発生が抑制される。その結果、溶接部分の電気抵抗が悪化することを防止するとともに溶接部分の強度を保持することができる。あるいは、銅に代えて、平角導体12にアルミニウムを採用する場合、必要機械強度を考慮したうえで、用途に応じて様々なアルミニウム合金を用いることができる。例えば回転電機のような用途に対しては、高い電流値を得られる純度99.00%以上の純アルミニウムを用いることが好ましい。
【0022】
絶縁被膜14の平均の厚さは、20μm以上250μm以上であるとよく、好ましくは、30μm以上190μm以下であるとよく、より好ましくは、50μm以上190μm以下であるとよい。
【0023】
絶縁被膜14を構成する材料は、特に限定されず、一般に絶縁電線で使用される熱硬化性樹脂であればよい。具体的には、絶縁被膜14を構成する熱硬化性樹脂は、例えば、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエステルイミド(PEsI)、ポリウレタン、ポリエステル(PEst)、ポリベンゾイミダゾール、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等を用いることができる。好ましくは、絶縁被膜14を構成する熱硬化性樹脂は、例えばポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエステルイミド(PEsI)、ポリウレタン、ポリエステル(PEst)等であるとよい。より好ましくは、絶縁被膜14を構成する熱硬化性樹脂は、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエステルイミド(PEsI)等といった、イミド結合を有する熱硬化性樹脂であるとよい。さらに好ましくは、絶縁被膜14を構成する熱硬化性樹脂は、ポリアミドイミド(PAI)及びポリイミド(PI)から選択される樹脂であるとよい。
【0024】
なお、絶縁被膜14は、熱硬化性樹脂による単層に限定されず、熱硬化性樹脂層上に熱可塑性樹脂層が形成された積層構造を有してもよい。この場合、絶縁被膜14を構成する熱可塑性樹脂は、ポリアミド(PA)(ナイロン)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンエーテル(変性ポリフェニレンエーテルを含む)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、超高分子量ポリエチレン等の汎用エンジニアリングプラスチックの他、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリアリレート(Uポリマー(登録商標))、ポリアミドイミド、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)(変性ポリエーテルエーテルケトン(変性PEEK)を含む)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、熱可塑性ポリイミド樹脂(TPI)、ポリアミドイミド(PAI)、液晶ポリエステル等のスーパーエンジニアリングプラスチック、さらに、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)をベース樹脂とするポリマーアロイ、ABS/ポリカーボネート、ナイロン6,6、芳香族ポリアミド樹脂(芳香族PA)、ポリフェニレンエーテル/ナイロン6,6、ポリフェニレンエーテル/ポリスチレン、ポリブチレンテレフタレート/ポリカーボネート等の前記エンジニアリングプラスチックを含むポリマーアロイであるとよい。
【0025】
本実施例における凹凸構造(複数の溝10g)を有する平角電線10は、平角導体12上に所望の膜厚の絶縁被膜14を形成した後に、絶縁被膜14の表面に溝加工を施すことによって製造することができる。但し、平角電線10の製造方法は、上記した方法に限定されない。平角電線10は、例えば押し出し成型可能な熱可塑性樹脂で絶縁被膜14が形成される場合には、所望する凹凸構造を有する型を用いた押し出し成形によって製造されてもよい。
【符号の説明】
【0026】
10:平角電線、 10a:幅広面、 10b:幅狭面、 10g:溝 12:平角導体、 14:絶縁被膜、 20:ステータ、 22:ステータコア、 22s:スロット