(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006556
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】捺染用インクセット及び捺染方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/326 20140101AFI20240110BHJP
C09B 33/153 20060101ALI20240110BHJP
D06P 5/30 20060101ALI20240110BHJP
C09B 67/20 20060101ALI20240110BHJP
C09D 11/54 20140101ALI20240110BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20240110BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C09D11/326
C09B33/153
D06P5/30
C09B67/20 K
C09D11/54
B41M5/00 132
B41M5/00 100
B41M5/00 114
B41J2/01 501
B41J2/01 123
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022107568
(22)【出願日】2022-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】中村 友
(72)【発明者】
【氏名】加賀田 尚義
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4H157
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056EA13
2C056FA10
2C056FA13
2C056FB03
2C056FC01
2C056HA42
2H186AB02
2H186AB05
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2H186BA08
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2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
4H157AA02
4H157BA15
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4H157CB13
4H157DA01
4H157GA06
4J039AE04
4J039BE01
4J039CA06
4J039EA36
4J039FA03
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】摩擦堅牢性と発色性をバランスよく向上させることができる捺染用インクセットを提供すること。
【解決手段】捺染インクジェットインク組成物と、処理液組成物と、を備え、上記捺染インクジェットインク組成物が、C.I.ピグメントイエロー155と、樹脂粒子と、水溶性有機溶剤と、水と、を含み、上記処理液組成物が、多価金属塩と、カチオンポリマーと、水と、を含む、捺染用インクセット。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
捺染インクジェットインク組成物と、処理液組成物と、を備え、
前記捺染インクジェットインク組成物が、C.I.ピグメントイエロー155と、樹脂粒子と、水溶性有機溶剤と、水と、を含み、
前記処理液組成物が、多価金属塩と、カチオンポリマーと、水と、を含む、
捺染用インクセット。
【請求項2】
前記水溶性有機溶剤が、化合物A、化合物B、及び化合物Cを含み、
前記化合物Aのn-オクタノール/水分配係数が、0未満であり、
前記化合物Bのn-オクタノール/水分配係数が、0以上0.5未満であり、
前記化合物Cのn-オクタノール/水分配係数が、0.5以上である、
請求項1に記載の捺染用インクセット。
【請求項3】
前記水溶性有機溶剤が、水酸基を有する化合物を含む、
請求項1に記載の捺染用インクセット。
【請求項4】
前記樹脂粒子が、ウレタン樹脂を含み、
前記ウレタン樹脂が、ポリカーボネート骨格を有する、
請求項1に記載の捺染用インクセット。
【請求項5】
前記樹脂粒子が、ウレタン樹脂を含み、
前記ウレタン樹脂が、ブロックイソシアネート基を有する、
請求項1に記載の捺染用インクセット。
【請求項6】
前記樹脂粒子の含有量が、前記捺染インクジェットインク組成物の総量に対して、3.0~10質量%である、
請求項1に記載の捺染用インクセット。
【請求項7】
前記多価金属塩の含有量が、前記処理液組成物の総量に対して、1.0~30質量%である、
請求項1に記載の捺染用インクセット。
【請求項8】
前記カチオンポリマーの含有量が、前記処理液組成物の総量に対して、1.0~30質量%である、
請求項1に記載の捺染用インクセット。
【請求項9】
前記カチオンポリマーが、架橋性基を有する、
請求項1に記載の捺染用インクセット。
【請求項10】
前記多価金属塩が、マグネシウム塩及びカルシウム塩のうち少なくともいずれかを含む、
請求項1に記載の捺染用インクセット。
【請求項11】
前記カチオンポリマーの含有量が、前記多価金属塩1.0質量部に対して、0.5~3.0質量部である、
請求項1に記載の捺染用インクセット。
【請求項12】
捺染インクジェットインク組成物と、処理液組成物と、を備える、請求項1~11のいずれか一項に記載の捺染用インクセットを用いた捺染方法であって、
前記処理液組成物を布帛に付着させる処理液付着工程と、
前記処理液組成物が付着した前記布帛に、前記捺染インクジェットインク組成物を付着させる捺染インク付着工程と、を含む、
捺染方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捺染用インクセット及び捺染方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、比較的単純な装置で、高精細な画像の記録が可能であり、各方面で急速な発展を遂げている。その中でも、布帛等に対する顔料捺染インクを用いた記録方法においては、布帛等を前処理液により処理し、その後に顔料捺染インクを付着させることにより、発色性や摩擦堅牢性等の特性を向上させるための種々の検討がなされてきた。例えば、特許文献1には、画像品質や画像定着性等に優れた高品位のインクジェット画像を得ること等を目的として、インクジェット記録用前処理液とインクジェットインクとで構成されるインクジェット記録液セットであって、該インクジェット記録用前処理液が、少なくとも、ポリオレフィン系樹脂がポリウレタン系樹脂に含有されてなる複合樹脂微粒子、凝集剤、及び水を含有し、かつ該インクジェットインクが、少なくとも、顔料、水、及び3-メトキシ-1-ブタノール又は3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールを含有する、ことを特徴とするインクジェット記録液セットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、処理液と顔料捺染インクを用いた捺染方法においては、処理液と顔料捺染インクが反応し、布帛の表面において顔料凝集物を形成するため発色性が向上しやすい反面、摩擦堅牢性が低下しやすいという問題がある。一方で、布帛の内部に処理液が浸透し、主に布帛の内部で処理液と顔料捺染インクが反応して凝集物を形成する場合は、摩擦堅牢性が向上しやすい反面、発色性が低下しやすいという問題がある。そのため、顔料捺染において、捺染物の摩擦堅牢性と発色性をバランスよく向上させることについて更なる改善が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の捺染用インクセットは、捺染インクジェットインク組成物と、処理液組成物と、を備え、上記捺染インクジェットインク組成物が、C.I.ピグメントイエロー155と、樹脂粒子と、水溶性有機溶剤と、水と、を含み、上記処理液組成物が、多価金属塩と、カチオンポリマーと、水と、を含む、捺染用インクセットである。
【0006】
本発明の捺染方法は、捺染インクジェットインク組成物と、処理液組成物と、を備える、捺染用インクセットを用いた捺染方法であって、上記処理液組成物を布帛に付着させる処理液付着工程と、上記処理液組成物が付着した上記布帛に、上記捺染インクジェットインク組成物を付着させる捺染インク付着工程と、を含む、捺染方法である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本実施形態で用いることのできる記録装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右などの位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0009】
1.捺染用インクセット
本実施形態に係る捺染用インクセットは、捺染インクジェットインク組成物(以下、単に「インク組成物」ともいう。)と、処理液組成物と、を備え、上記インク組成物が、C.I.ピグメントイエロー155と、樹脂粒子と、水溶性有機溶剤と、水と、を含み、上記処理液組成物が、多価金属塩と、カチオンポリマーと、水と、を含む、捺染用インクセットである。
【0010】
C.I.ピグメントイエロー155(以下、単に「ピグメントイエロー155」ともいう。)は、比較的親水性が高い顔料であり、アニオン性の官能基を多く有しているため、多価金属塩やカチオンポリマーとの反応性に優れる。
【0011】
また、カチオンポリマーは布帛の繊維との相互作用に優れ、密着しやすい傾向にある。そのため、ピグメントイエロー155を含む捺染インクジェットインク組成物と、カチオンポリマーを含む処理液組成物とを組み合わせて用いることにより、捺染物の摩擦堅牢性を向上させることができる。
【0012】
一方で、カチオンポリマーを用いるのみでは、布帛の繊維の内部に顔料が浸透しやすい傾向にある。布帛の繊維の内部に顔料が浸透しすぎると、発色性に劣りやすい。そこで、本実施形態においては、凝集剤としてカチオンポリマーに加えて多価金属塩を用いることにより、発色性も向上することができる。
【0013】
以下、インク組成物及び処理液組成物についてそれぞれ詳説する。
【0014】
1.1.捺染インクジェットインク組成物
本実施形態の捺染インクジェットインク組成物は、C.I.ピグメントイエロー155と、樹脂粒子と、水溶性有機溶剤と、水と、を含み、必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。以下、各成分について詳説する。
【0015】
1.1.1.ピグメントイエロー155
ピグメントイエロー155は、一般的に、酸やアルカリ等による表面処理によって親水性・疎水性を調節することができる。本実施形態におけるC.I.ピグメントイエロー155としては、このような表面処理がされたものであってもよく、例えば、表面処理によって少なくとも一部のエステル結合を加水分解して、親水性を向上してもよい。
【0016】
ピグメントイエロー155の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは0.5~10質量%であり、より好ましくは1.0~8.0質量%であり、さらに好ましくは1.5~6.0質量%であり、さらに好ましくは2.0~4.0質量%である。ピグメントイエロー155の含有量が0.5質量%以上であることにより捺染物の発色性に優れる傾向にあり、ピグメントイエロー155の含有量が10質量%以下であることにより、インク組成物の保存安定性及び捺染物の摩擦堅牢性に優れる傾向にある。
【0017】
1.1.2.樹脂粒子
樹脂粒子を構成する樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、(メタ)アクリル樹脂、スチレン樹脂、シリコーン樹脂、スチレンアクリル樹脂、フルオレン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ロジン変性樹脂、テルペン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、及びエチレン-酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。その中でも、捺染物の摩擦堅牢性を向上させる観点からは、ウレタン樹脂を含むことが好ましい。
【0018】
このなかでも、ウレタン樹脂又は(メタ)アクリル樹脂が好ましく、ウレタン樹脂がより好ましい。樹脂粒子がウレタン樹脂を含むことにより、後述の処理液組成物に含まれ得るカチオンポリマー等のカチオン性化合物と当該ウレタン樹脂とが反応しやすく、凝集・増粘効果がより促され、発色性、摩擦堅牢性等がより向上する傾向にある。
【0019】
ウレタン樹脂とは、分子内にウレタン結合を有する樹脂を意味する。ウレタン樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ウレタン結合以外に、主鎖にエーテル結合を含むポリエーテル型ウレタン樹脂、主鎖にエステル結合を含むポリエステル型ウレタン樹脂、主鎖にポリカーボネート骨格をポリカーボネート型ウレタン樹脂が挙げられる。その中でも、捺染物の摩擦堅牢性を向上させる観点からは、ポリカーボネット骨格を有するウレタン樹脂を含むことが好ましい。
【0020】
また、ウレタン樹脂は、捺染物の摩擦堅牢性を向上させる観点からは、架橋性基含有ウレタン樹脂を含むことが好ましい。架橋性基としては、特に限定されないが、例えば、ブロックイソシアネート基、シラノール基、及び保護基により保護されたこれらの基が挙げられる。シラノール基としては、特に限定されないが、例えば、トリエトキシシリル基、トリメトキシシリル基、及びトリス(2-メトキシエトキシ)シリル基が挙げられる。その中でも、ブロックイソシアネート基を有するウレタン樹脂を含むことが好ましい。
【0021】
(メタ)アクリル樹脂とは、(メタ)アクリル骨格を有する樹脂を意味する。(メタ)アクリル樹脂としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等の(メタ)アクリル系単量体の重合体、(メタ)アクリル系単量体と他の単量体との共重合体が挙げられる。他の単量体としては、スチレン等のビニル系単量体が挙げられる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」は、「メタクリル」及び「アクリル」の両方を含む概念であることを意味する。
【0022】
樹脂粒子の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは1.0~12質量%であり、より好ましくは3.0~10質量%であり、さらに好ましくは3.0~8.0質量%であり、さらに好ましくは3.0~6.0質量%である。樹脂粒子の含有量が、1.0質量%以上であることにより摩擦堅牢性に優れる傾向にあり、樹脂粒子の含有量が、12質量%以下であることによりインク組成物の保存安定性が優れる傾向にある。
【0023】
1.1.3.水溶性有機溶剤
本実施形態の水溶性有機溶剤は、好ましくは化合物A、化合物B、及び化合物Cを含み、上記化合物Aのn-オクタノール/水分配係数(以下、「LogKow」ともいう。)が0未満であり、上記化合物Bのn-オクタノール/水分配係数が0以上0.5未満であり、上記化合物Cのn-オクタノール/水分配係数が0.5以上である。それにより、インク組成物の保存安定性、及び捺染物の摩擦堅牢性が向上する傾向にある。
【0024】
化合物Aとしては、特に限定されないが、例えば、グリセリン(LogKow:-1.8)、プロピレングリコール(LogKow:-1.4)、プロピレングリコールモノプロピルエーテル(LogKow:-0.81)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(LogKow:-1.18)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(LogKow:-0.1)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(LogKow:-0.67)、γ-ブチロラクトン(LogKow:-0.64)、2-ピロリドン(LogKow:-0.85)、3-メトキシ-3-メチルブタノール(LogKow:-0.63)、ジプロピレングリコール(LogKow:-0.47)等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
化合物Aの含有量は、水溶性有機溶剤の総量に対して、好ましくは90~99質量%であり、より好ましくは92~99質量%であり、さらに好ましくは94~99質量%であり、よりさらに好ましくは96~99質量%である。化合物Aの含有量が上記範囲内であることにより、発色性や摩擦堅牢性がより向上する傾向にある。
【0026】
化合物Bとしては、特に限定されないが、例えば、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(LogKow:0.02、ジメチルエーテル(LogKow:0.1)、エチレングリコールジアセテート(LogKow:0.4)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(LogKow:0.3)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(LogKow:0.17)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(LogKow:0.39)、1-プロパノール(LogKow:0.34)、イソプロピルアルコール(LogKow:0.28)、1,5-ペンタンジオール(LogKow:0.27)、3-メチル-1,3-ブタンジオール(LogKow:0.16)、3-メトキシ-1-ブタノール(LogKow:0.07)等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
化合物Bの含有量は、水溶性有機溶剤の総量に対して、好ましくは0.2~2.0質量%であり、より好ましくは0.4~1.5質量%であり、さらに好ましくは0.6~1.0質量%であり、よりさらに好ましくは0.8~1.0質量%である。化合物Bの含有量が上記範囲内であることにより、発色性や摩擦堅牢性がより向上する傾向にある。
【0028】
化合物Cとしては、特に限定されないが、例えば、ジイソプロピルケトン(LogKow:1.7)、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(LogKow:1.79)、プロピレングリコールジプロピオネート(LogKow:1.76)、エチレングリコールモノへキシルエーテル(LogKow:1.7)、エチレングリコールモノ-n-ヘキシルエーテル(LogKow:1.57)、プロピレングリコールモノブチルエーテル(LogKow:1.19)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(LogKow:1.19)、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(LogKow:1.7)、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル(LogKow:1.13)、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル(LogKow:1.34)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(LogKow:1.02)、ジエチレングリコールジ-n-ブチルエーテル(LogKow:1.92)、トリプロピレングリコールジメチルエーテル(LogKow:1.46)、1-ペンタノール(LogKow:1.4)、2-ペンタノール(LogKow:1.19)、1,2-ヘプタンジオール(LogKow:1.5)、1,2-オクタンジオール(LogKow:1.3)、1,2ヘキサンジオール(LogKow:0.56)、プロピレングリコールジアセテート(LogKow:0.74)、プロピレングリコールモノブチレート(LogKow:0.84)、エチレングリコールモノブチルエーテル(LogKow:0.83)、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル(LogKow:0.68)、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル(LogKow:0.87)、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(LogKow:0.8)、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル(LogKow:0.69)、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド(LogKow:0.73)、1-ブタノール(LogKow:0.88)、2-ブタノール(LogKow:0.6)、1,4-ブタンジオール(LogKow:0.5)、2-メチルペンタン-2,4-ジオール(LogKow:0.88)等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
化合物Cの含有量は、水溶性有機溶剤の総量に対して、好ましくは0.6~2.0質量%であり、より好ましくは0.8~1.8質量%であり、さらに好ましくは1.0~1.6質量%であり、よりさらに好ましくは1.2~1.6質量%である。化合物Cの含有量が上記範囲内であることにより、発色性や摩擦堅牢性がより向上する傾向にある。
【0030】
ここで、n-オクタノール/水分配係数(LogKow)とは、「分配係数(1-オクタノール/水)の測定-フラスコ浸とう法」(日本工業規格Z7260-107)に準拠して測定されるLogKOWの値のことを意味する。LogKowについて以下、詳説する。
【0031】
n-オクタノール/水分配係数は、ある化合物のn-オクタノール(非極性有機溶媒)と水との間の分配係数の対数である。LogKow値は、親油性、親水性の尺度となるとともに、複数の物質の相溶性及び親和性の指標として用いられるものであり、下記式(1)にて表される式で定義される。
LogKow=Log10(C0/Cw) … (1)
(ここで、C0はn-オクタノール相中の化合物の濃度[mol/L]、Cwは水相中の化合物の濃度[mol/L]である。)
【0032】
また、水溶性有機溶剤は、好ましくは水酸基を有する化合物を含む。そのような水溶性有機溶剤としては、特に限定されないが、例えば、上述の化合物のうち、アルコール類、グリコール類、及びグリコールエーテル類等に属する化合物等が挙げられる。
【0033】
水溶性有機溶剤の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは7.5~32.5質量%であり、より好ましくは10~30質量%であり、さらに好ましくは12.5~27.5質量%であり、よりさらに好ましくは15~25質量%である。水溶性有機溶剤の含有量が上記範囲内であることにより、発色性や摩擦堅牢性がより向上する傾向にある。
【0034】
1.1.4.アルカリ
本実施形態のインク組成物は、有機アルカリ及び/又は無機アルカリをさらに含んでいてもよい。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
有機アルカリとしては、特に限定されないが、例えば、ピペリジン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、プロパノールアミン、モルホリン等のアミン類及びその変性物等が挙げられる。
【0036】
無機アルカリとしては、特に限定されないが、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等の金属水酸化物、水酸化アンモニウム、四級アンモニウム水酸化物等のアンモニウム塩、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム等の炭酸塩類及び燐酸塩類等が挙げられる。
【0037】
アルカリの含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは0.01~1.0質量%であり、より好ましくは0.03~0.6質量%であり、さらに好ましくは0.05~0.4質量%であり、よりさらに好ましくは0.07~0.2質量%である。
【0038】
1.1.5.界面活性剤
界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、シリコーン系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、及びフッ素系界面活性剤が挙げられる。これらの中でも、面活性が高く気泡性の少ないシリコーン系界面活性剤が好ましい。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0039】
シリコーン系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリシロキサン系化合物、ポリエーテル変性オルガノシロキサン等が挙げられる。
【0040】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール及び2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのアルキレンオキサイド付加物、並びに2,4-ジメチル-5-デシン-4-オール及び2,4-ジメチル-5-デシン-4-オールのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0041】
フッ素系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物等が挙げられる。
【0042】
界面活性剤の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは0.1~2.0質量%であり、より好ましくは0.15~1.6質量%であり、さらに好ましくは0.15~1.2質量%であり、よりさらに好ましくは0.2~0.8質量%である。
【0043】
1.1.6.水
本実施形態のインク組成物に含まれる水は、イオン性不純物を極力除去したものが好ましく、そのような水としては、特に限定されないが、例えば、イオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水、及び蒸留水等の純水、並びに超純水等が挙げられる。また、水の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは55~99質量%であり、より好ましくは60~90質量%であり、さらに好ましくは65~80質量%であり、よりさらに好ましくは70~75質量%である。
【0044】
1.1.7.その他の成分
本実施形態のインク組成物は、上記の各成分の他に、従来のインク組成物に用いられ得る公知の成分の1種又は2種以上を含んでもよい。そのような公知の成分としては、特に限定されないが、例えば、溶解助剤、粘度調整剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、腐食防止剤、及び分散に影響を与える所定の金属イオンを捕獲するためのキレート化剤その他の添加剤、及び上述の水溶性有機溶剤以外の有機溶剤等が挙げられる。これらはそれぞれ、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
1.1.8.捺染インクジェットインク組成物の製造方法
本実施形態の捺染インクジェットインク組成物は、特に限定されないが、例えば、上記の各成分を、任意な順序で混合し、必要に応じて濾過等をして不純物を除去することにより得られる。各成分の混合方法としては、特に限定されないが、例えば、メカニカルスターラー、マグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合する方法等が挙げられる。
【0046】
1.2.処理液組成物
本実施形態の処理液組成物は、多価金属塩と、カチオンポリマーと、水と、を含み、必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。以下、各成分について詳説する。
【0047】
1.2.1.多価金属塩
本実施形態の処理液組成物に含まれる多価金属塩は、2価以上の金属イオンとアニオンから構成される化合物を意味する。2価以上の金属イオンとしては、特に限定されないが、例えば、カルシウム、マグネシウム、銅、ニッケル、亜鉛、バリウム、アルミニウム、チタン、ストロンチウム、クロム、コバルト、鉄等のイオンが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、これらの多価金属塩を構成する金属イオンの中でも、好ましくはマグネシウムイオン、又はカルシウムイオンのいずれかである。それにより、ピグメントイエロー155を布帛表面で凝集させ、発色性に優れる傾向にある。
【0048】
多価金属塩を構成するアニオンとしては、無機イオン又は有機イオンがあり、無機イオンとしては、特に限定されないが、例えば、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、水酸化物イオン等が挙げられる。有機イオンとしては、特に限定されないが、例えば、蟻酸イオン、酢酸イオン、及び炭酸イオン等が挙げられる。
【0049】
また、多価金属塩の具体例としては、特に限定されないが、例えば、炭酸カルシウム、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、酢酸カルシウム、水酸化カルシウム、珪酸カルシウム、硫酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム、炭酸マグネシウム、珪酸マグネシウム、硫酸バリウム、塩化バリウム、炭酸亜鉛、塩化アルミニウム、硫化亜鉛、酢酸アルミニウム、珪酸アルミニウム、硝酸銅、等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上併用してもよい。なお、これらの金属塩は、水和物であってもよい。
【0050】
その中でも、ピグメントイエロー155を凝集させる観点からは、マグネシウム塩及びカルシウム塩のうち少なくともいずれかを含むことが好ましい。これにより、摩擦堅牢性と発色性がより向上する傾向にある。
【0051】
多価金属塩の含有量は、処理液組成物の総量に対して、好ましくは1.0~30質量%であり、より好ましくは1.0~20質量%であり、さらに好ましくは1.5~10質量%であり、よりさらに好ましくは2.0~5.0質量%である。それにより、捺染物の摩擦堅牢性と発色性が優れる傾向にある。
【0052】
1.2.2.カチオンポリマー
本実施形態の処理液組成物に含まれるカチオンポリマーとは、カチオン性を有するポリマーのことを意味する。カチオンポリマーは、布帛や、本実施形態のインク組成物中の色材などと相互作用し、捺染物の摩擦堅牢性を向上させることができる。
【0053】
カチオンポリマーは、好ましくは架橋性基を有するものであり、より好ましくは水酸基と反応する架橋性基を有するものである。それにより、例えば、布帛が綿である場合においては、カチオンポリマーと綿のセルロースの水酸基との間で架橋反応が起こり、布帛と処理液組成物等の密着性がより向上し、より良好な摩擦堅牢性を得ることができる。また、上記カチオンポリマーは、インク組成物に含まれる色材や樹脂粒子が有し得る水酸基と架橋反応を起こすこともでき、インク組成物がより増粘・凝集しやすく発色性をより向上できるとともに、樹脂が架橋されることにより、捺染物の摩擦堅牢性が向上する傾向にある。
【0054】
カチオンポリマーとしては、特に限定されないが、例えば、ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂、メラミン樹脂、カチオン性ブロックイソシアネート樹脂、ジアリルアミン塩酸塩共重合体、オキサゾリン基含有ポリマー、及びポリカルボジイミド等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。その中でも、摩擦堅牢性及び発色性に優れる観点からは、好ましくはポリアミドエピクロロヒドリン樹脂、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂、及びジアリルアミン塩酸塩共重合体のいずれかであり、より好ましくはポリアミンエピクロロヒドリン樹脂である。それにより、捺染物の摩擦堅牢性が優れる傾向にある。
【0055】
ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリアミドとエピクロロヒドリンとを付加反応させる方法や、アミンとカルボン酸とエピクロロヒドリンとを含むモノマーを重合する方法により作製したもの等が挙げられる。なお、ポリアミドポリアミン-エピクロロヒドリン共重合体は、ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂に含まれるものとする。
【0056】
ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリアミンとエピクロロヒドリンとを付加反応させる方法や、ジメチルアミン等のアミンとエピクロロヒドリンとを含むモノマーを重合する方法により作製したもの等が挙げられる。
【0057】
メラミン樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ブチル化メラミン樹脂やフルエーテル化メラミン樹脂等が挙げられる。
【0058】
カチオン性ブロックイソシアネート樹脂は、カチオン性基を有しており、かつブロック剤により架橋性基が保護されたイソシアネート基を有する樹脂である。カチオン性ブロックイソシアネート樹脂は、イソシアネート基を2以上有することが好ましく、少なくとも1つ以上のイソシアネート基はブロック剤により不活性化されるものである。カチオン性ブロックイソシアネート樹脂は、架橋反応開始温度以上の温度で加熱すると、水酸基と反応してウレタン結合を形成する。これは、カチオン性ブロックイソシアネート樹脂のイソシアネート基を保護していたブロック剤が、所定の温度に加熱されることで解離し、イソシアネート基が活性化して、架橋反応が進行するためである。
【0059】
カチオン性ブロックイソシアネート樹脂を構成するイソシアネートとしては、特に限定されないが、例えば、HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)、H6XDI(水添キシリレンジイソシアネート)、IPDI(イソホロンジイソシアネート)又はH12MDI(ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート)のTMP(トリメチロールプロパン)アダクト体、又はそれらの三量体(イソシアヌレート体)をブロック剤によりブロックしたもの等が挙げられる。
【0060】
なお、ブロック剤としては、特に限定されないが、例えば、ジメチルピラゾール、ジエチルマロネート、メチルエチルケトキシム、ε-カプロラクタム、1,2,4-トリアゾール等が挙げられる。
【0061】
ジアリルアミン塩酸塩共重合体としては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸塩やアクリルアミドといったアクリル系モノマーとジアリルアミンを共重合することにより作製したもの等が挙げられる。
【0062】
オキサゾリン基含有ポリマーとしては、特に限定されないが、例えば、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-2-オキサゾリン等のオキサゾリン基含有エチレン性不飽和単量体を単独重合、又は他の不飽和単量体と共重合することにより作製したもの等が挙げられる。
【0063】
ポリカルボジイミドとしては、特に限定されないが、例えば、ジイソシアネート化合物を脱炭酸縮合反応する方法によって作製したもの等が挙げられる。
【0064】
カチオンポリマーの含有量は、処理液組成物の総量に対して、好ましくは1.0~30質量%であり、より好ましくは1.0~20質量%であり、さらに好ましくは1.5~10質量%であり、よりさらに好ましくは2.0~5.0質量%である。それにより、捺染物が摩擦堅牢性に優れる傾向にある。
【0065】
また、カチオンポリマーの含有量は、多価金属塩1.0質量部に対して、好ましくは0.5~3.0質量部であり、より好ましくは0.6~2.0質量部であり、さらに好ましくは0.7~1.6質量部であり、よりさらに好ましくは0.8~1.2質量部である。それにより、捺染物の摩擦堅牢性や発色性が優れる傾向にある。
【0066】
1.2.3.界面活性剤
界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、シリコーン系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、及びフッ素系界面活性剤が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0067】
シリコーン系界面活性剤としては、ポリシロキサン系化合物、ポリエーテル変性オルガノシロキサン等が挙げられる。
【0068】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール及び2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのアルキレンオキサイド付加物、並びに2,4-ジメチル-5-デシン-4-オール及び2,4-ジメチル-5-デシン-4-オールのアルキレンオキサイド付加物から選択される一種以上が好ましい。
【0069】
フッ素系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物が挙げられる。
【0070】
界面活性剤の含有量は、処理液組成物の総量に対して、好ましくは0.1質量%~2.0質量%であり、より好ましくは0.15~1.6質量%であり、より好ましくは0.15~1.2質量%であり、さらに好ましくは0.2~0.8質量%である。
【0071】
1.2.4.水
本実施形態の処理液組成物に含まれる水は、好ましくはイオン性不純物を極力除去したものであり、そのような水としては、特に限定されないが、例えば、イオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水、及び蒸留水等が挙げられる。その中でも好ましくはイオン交換水である。また、水の含有量は、処理液組成物の総量に対して、好ましくは85~99質量%であり、より好ましくは88~98質量%であり、さらに好ましくは90~96質量%であり、よりさらに好ましくは92~94質量%である。
【0072】
1.2.5.その他の成分
本実施形態の処理液組成物は、上記の各成分の他に、従来の処理液組成物に用いられ得る公知の成分の1種又は2種以上を含んでもよい。そのような公知の成分としては、特に限定されないが、例えば、溶解助剤、粘度調整剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、腐食防止剤、及び分散に影響を与える所定の金属イオンを捕獲するためのキレート化剤その他の添加剤、及び有機溶剤等が挙げられる。これらはそれぞれ、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0073】
1.2.6.処理液組成物の製造方法
本実施形態の処理液組成物は、特に限定されないが、例えば、上記の各成分を、任意な順序で混合し、必要に応じて濾過等をして不純物を除去することにより得られる。各成分の混合方法としては、特に限定されないが、例えば、メカニカルスターラー、マグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合する方法等が挙げられる。
【0074】
2.捺染方法
本実施形態の捺染方法は、捺染インクジェットインク組成物と、処理液組成物と、を備える、捺染用インクセットを用いた捺染方法であって、上記処理液組成物を布帛に付着させる処理液付着工程と、上記処理液組成物が付着した上記布帛に、上記捺染インクジェットインク組成物を付着させる捺染インク付着工程と、を含む、捺染方法である。
【0075】
2.1.処理液付着工程
処理液付着工程は、布帛に対して処理液組成物を付着させる工程である。処理液組成物を布帛に付着させる方法としては、特に限定されないが、例えば、処理液組成物を含侵させた布帛をローラーで絞ること等により布帛中に処理液組成物をしみ込ませるパッド法、処理液組成物をスプレーにより布帛に対して噴射する方法、及びインクジェット法により布帛に対して付着させる方法等が挙げられる。
【0076】
2.2.捺染インク付着工程
捺染インク付着工程は、上記処理液組成物が付着した上記布帛に、捺染インクジェットインク組成物をインクジェットヘッドから吐出して布帛に付着させる工程である。具体的には、インクジェットヘッド内に設けられた圧力発生手段を駆動させて、インクジェットヘッドの圧力発生室内に充填された捺染インクジェットインク組成物をノズルから吐出させる。このような吐出方法をインクジェット法ともいう。なお、布帛の同一の領域に対して1種のインク組成物を付着させてもよく、2種以上のインク組成物を1回又は複数回に分けて付着させる工程を備えていてもよい。
【0077】
また、捺染インク付着工程は、処理液付着工程と同時に行ってもよい。すなわち、処理液組成物とインク組成物とを、同一の主走査により、布帛の同一の走査領域に対して付着させる形で行ってもよい。
【0078】
インク付着工程において用いるインクジェットヘッドとしては、ライン方式により記録を行うラインヘッドと、シリアル方式により記録を行うシリアルヘッドが挙げられる。
【0079】
ラインヘッドを用いたライン方式では、例えば、布帛の幅以上の幅を有するインクジェットヘッドを記録装置に固定する。そして、布帛を副走査方向(布帛の搬送方向)に沿って移動させ、この移動に連動してインクジェットヘッドのノズルからインク滴を吐出させることにより、布帛の上に画像を記録する。
【0080】
シリアルヘッドを用いたシリアル方式では、特に限定されないが、例えば、布帛の幅方向に移動可能なキャリッジにインクジェットヘッドを搭載する。そして、キャリッジを主走査方向(布帛の幅方向)に沿って移動させ、この移動に連動してインクジェットヘッドのノズルからインク滴を吐出させることにより、布帛の上に画像を記録する。
【0081】
2.3.乾燥工程
乾燥工程は、処理液付着工程及び捺染インク付着工程後に布帛を加熱することにより乾燥させる工程である。乾燥手段としては公知の乾燥手段を用いることができる。
【0082】
2.4.その他の工程
本実施形態の捺染方法は、上記の工程に加え、必要に応じてその他の工程を含んでいてもよい。その他の工程としては、特に限定されないが、例えば、上記処理液付着工程の後かつ捺染インク付着工程の前に布帛を加熱する前乾燥工程等が挙げられる。前乾燥工程の乾燥手段としては公知の乾燥手段を用いることができる。
【0083】
3.布帛
本実施形態に係る捺染方法は、布帛に対して行われる。布帛を構成する繊維としては、特に限定されないが、例えば、綿、麻、羊毛、絹等の天然繊維、ポリプロピレン、ポリエステル、アセテート、トリアセテート、ポリアミド、ポリウレタン等の合成繊維、ポリ乳酸等の生分解性繊維、等が挙げられ、これらの混紡繊維であってもよい。
【0084】
また、布帛は水酸基を有するものであることが好ましい。このような布帛としては、例えば、綿、麻などのセルロースを含む布帛、ポリウレタンを含む布帛等が挙げられる。布帛が水酸基を有するものである場合には、処理液組成物に含まれるカチオンポリマーと当該布帛の水酸基との間で相互作用することで、布帛とカチオンポリマーとの密着性が向上し、それにより、摩擦堅牢性が向上する傾向にある。
【0085】
布帛の形態としては、特に限定されないが、例えば、布地、衣類やその他の服飾品等が挙げられる。布地としては、特に限定されないが、例えば、織物、編物、不織布等が挙げられる。衣類やその他の服飾品としては、特に限定されないが、例えば、縫製後のTシャツ、ハンカチ、スカーフ、タオル、手提げ袋、布製のバッグ、カーテン、シーツ、ベッドカバー、壁紙等のファーニチャー類の他、縫製前の部品としての裁断前後の布地等が挙げられる。また、これらの形態としては、特に限定されないが、例えば、ロール状に巻かれた長尺のもの、所定の大きさに切断されたもの、製品形状のもの等が挙げられる。
【0086】
4.インクジェット記録装置
インクジェット装置の一例として、
図1に、シリアルプリンタの斜視図を示す。
図1に示すように、シリアルプリンタ20は、搬送部220と、記録部230とを備えている。搬送部220は、シリアルプリンタに給送された布帛Fを記録部230へと搬送し、記録後の布帛をシリアルプリンタの外に排出する。具体的には、搬送部220は、各送りローラを有し、送られた布帛Fを副走査方向T1へ搬送する。
【0087】
また、記録部230は、搬送部220から送られた布帛Fに対してインク組成物を吐出するノズルを有するインクジェットヘッド231を搭載するキャリッジ234と、キャリッジ234を布帛Fの主走査方向S1、S2に移動させるキャリッジ移動機構235を備える。なお、インクジェットヘッド231は処理液組成物を吐出するノズルを併せて有していてもよい。
【0088】
シリアルプリンタの場合には、インクジェットヘッド231として布帛の幅より小さい長さであるヘッドを備え、ヘッドが移動し、複数パス(マルチパス)で記録が行われる。また、シリアルプリンタでは、所定の方向に移動するキャリッジ234にヘッド231が搭載されており、キャリッジの移動に伴ってヘッドが移動することにより布帛F上にインク組成物を吐出する。また、必要に応じて処理液組成物を吐出してもよい。これにより、2パス以上(マルチパス)で記録が行われる。なお、パスを主走査ともいう。パスとパスの間には記録媒体を搬送する副走査を行う。つまり主走査と副走査を交互に行う。
【0089】
また、本実施形態のインクジェット装置は、上記シリアル方式のプリンタに限定されず、上述したライン方式のプリンタであってもよい。ライン方式のプリンタは、布帛の記録幅以上の長さを有するインクジェットヘッドであるラインヘッドを用いて、布帛に、1回の走査で記録を行うプリンタである。
【実施例0090】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0091】
1.捺染用インクセットの調製
表1~2に記載の組成となるように、混合物用タンクに各成分を入れ、混合攪拌し、さらにメンブランフィルターでろ過することにより各例の捺染インクジェットインク組成物、及び処理液組成物を得た。なお、表中の各例に示す各成分の数値は特段記載のない限り質量%を表す。また、表1~2における顔料、樹脂粒子、及びカチオンポリマーの質量%については、固形分濃度を表す。
【0092】
【0093】
【0094】
表1~2に示す材料は以下の通りである。
<顔料>
・C.I.ピグメントイエロー155
・C.I.ピグメントイエロー180
<樹脂粒子>
・タケラックWS5100:三井化学社製、架橋性ウレタン樹脂
・タケラックW6110:三井化学社製、非架橋性ウレタン樹脂
<水溶性有機溶剤>
・グリセリン
・プロピレングリコール
・1,2ヘキサンジオール
・ジメチルエーテル
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル
・ジイソプロピルケトン
<アルカリ>
・NaOH:水酸化ナトリウム
<界面活性剤>
・BYK348:ビックケミー・ジャパン社製、ポリエーテル変性シロキサン界面活性剤
・サーフィノール485:日信化学工業社製、アセチレングリコール系界面活性剤
<水>
・イオン交換水
<多価金属塩>
・硝酸カルシウム
・塩化アルミニウム
<カチオンポリマー>
・ユニセンスKHE104L:センカ社製、エピクロルヒドリン/ジメチルアミン重合物
・SumirezRResin650:田岡化学社製、ポリアミド/エポキシ樹脂
・ユニセンスZCA100L:センカ社製、アクリル酸塩-アクリルアミド-ジアリルアミン塩酸塩共重合物
<水>
・イオン交換水
【0095】
2.評価方法
まず、捺染に用いる布帛として白色の綿ブロードを用意した。そして、上記綿ブロードを表1~2に示す各例の処理液組成物にそれぞれ浸した後に、パッド法により絞り率70%でパディングした後、120℃、5分間乾燥し、前処理済み布帛を得た。
【0096】
次に、インクジェットプリンター(セイコーエプソン株式会社製、「SC-F2000」)を用いたインクジェット方式により、表1~2に示す各例の捺染インクジェットインク組成物を上記の前処理済み布帛に付着させ、画像を形成した。上記画像の形成工程において、解像度を、1440×720dpiとし、印刷範囲をA4サイズとし、捺染インクジェットインク組成物を20g/m2の塗布量のベタ印刷とすることにより画像を形成した。なお、ベタ印刷とは、記録解像度で規定される最小記録単位領域にある画素について、その全ての画素にインクの液滴(ドット)を着弾させることを意味する。
【0097】
その後、高温スチーマー(辻井染機工業株式会社製、「HT-3-550型」)を使用し、160℃で5分の条件で乾燥させることにより前処理済み布帛に画像が形成された捺染物を製造した。
【0098】
3.評価結果
3.1.捺染インクジェットインク組成物の保存安定性
表1~2に示す各例の捺染インクジェットインク組成物をそれぞれガラス製の50ccサンプル瓶に入れて密封し、これらのガラス瓶を50℃の恒温槽内に投入し、50℃の環境下で14日間放置した。放置終了後、十分に室温に戻してから、粘度を測定した。粘度はPysica社の粘弾性試験機MCR-300を用いて、捺染インクジェットインク組成物の温度を25℃に調整し、Shear Rateが200のときの粘度を読み取ることにより求めた。そして、初期の粘度に対する、14日後の粘度変化率を計算した。評価基準は以下のとおりである。その評価結果を表1~2に示す。
[評価基準]
A:粘度変化率の絶対値が5%未満である。
B:粘度変化率の絶対値が5%以上8%未満である。
C:粘度変化率の絶対値が8%以上10%未満である。
D:粘度変化率の絶対値が10%以上である。
【0099】
3.2.捺染物の摩擦堅牢性
上記により得られた各例の捺染物に対してISO-105 X12に規定の方法に従い、I型(クロックメーター)試験機を用いて摩擦に対する染色堅牢度試験を実施した。すなわち、湿摩擦をISO-105 X12に規定される乾燥試験と同様の手順に則って試験し、汚染グレースケールを用いて評価した。評価基準は以下のとおりである。その評価結果を表1~2に示す。
[評価基準]
A:汚染グレースケールが3-4級以上である。
B:汚染グレースケールが3級以上3-4級未満である。
C:汚染グレースケールが2-3級以上3級未満である。
【0100】
3.3.捺染物の発色性
上記により得られた捺染物に対して、測色機(グレタグ社製Spectrolino)を用いて、印刷画像の黒の光学濃度(OD値、 Status E)を測定し、下記基準により判定した。その評価結果を表1~2に示す。
[評価基準]
A:OD値が1.20以上である。
B:OD値が1.16以上1.20未満である。
C:OD値が1.12以上1.16未満である。
D:OD値が1.12未満である。
20…シリアルプリンタ、220…搬送部、230…記録部、231…インクジェットヘッド、234…キャリッジ、235…キャリッジ移動機構、F…布帛、S1,S2…主走査方向、T1…副走査方向